JP3745740B2 - 船外機の操舵装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は船外機の操舵装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、船外機の転舵軸であるスイベルシャフトを回動させる動力源は、スイベルシャフトに連結されたティラーハンドルを手動で操舵するティラーハンドルタイプや、スイベルシャフトに連結されたリンク機構をプッシュプルケーブルを介して手動で遠隔操作するリモートコントロールタイプなど、そのほとんどが人力によるものであった。
【0003】
ところが、上記した人力によるものは、操舵荷重が重いなどの理由により、操舵フィーリングが良くないといった不具合があった。そこで、近年、スイベルシャフトを油圧アクチュエータで駆動し、操舵荷重を低減させるようにした船外機の操舵装置が提案されている。
【0004】
このようなスイベルシャフトを油圧アクチュエータで駆動する船外機の操舵装置において、油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧回路は、例えば特許文献1に記載されるように、油圧ポンプと、それを駆動する電動モータと、作動油の流れ方向を切り換える切り換えバルブなどから構成される。
【0005】
【特許文献1】
特開平6−127475号公報(図1など)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、船外機を転舵させるべく、電動モータを動作させて油圧ポンプの駆動を開始しても、船外機に作用する慣性力によってその転舵は直ちには開始されない。このため、特に船外機を急転舵させた場合、油圧ポンプと油圧アクチュエータを接続する油圧回路内の圧力が急激に上昇し、油圧ポンプを駆動する電動モータに大きな反力が作用する。かかる反力は、衝撃となって油圧アクチュエータなどに伝達されるため、船外機を滑らかに転舵させることが困難となって操舵フィーリングを低下させるという不具合があった。
【0007】
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、船外機の転舵軸であるスイベルシャフトを油圧アクチュエータで駆動すると共に、船外機を急転舵させても油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧回路内の圧力が急激に上昇しないようにし、よって船外機を急転舵させるときも滑らかに転舵させて操舵フィーリングを向上させるようにした船外機の操舵装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を解決するために、この発明は請求項1項において、スイベルケースに回動自在に収容されたスイベルシャフトを介して船体に転舵自在に取り付けられる船外機の操舵装置において、前記スイベルシャフトを回動させて前記船外機を転舵させる、第1,第2の油室を有する復動型の油圧シリンダと、油圧ポンプと、前記油圧ポンプと前記油圧シリンダの第1の油室を接続する第1の油路と、前記油圧ポンプと前記油圧シリンダの第2の油室を接続する第2の油路と、および、正転させられるとき、前記第1の油室に前記第1の油路を介して前記作動油を供給するように前記油圧ポンプを駆動する一方、逆転させられるとき、前記第2の油室に前記第2の油路を介して前記作動油を供給するように前記油圧ポンプを駆動する電動モータとを備えると共に、前記第1,第2の油路のそれぞれに前記第1,第2の油路内の圧力が急激に上昇したとき、前記圧力を緩和させる圧力緩和機構を設けるように構成した。
【0009】
このように、船外機の転舵軸であるスイベルシャフトを回動させて前記船外機を転舵させる、第1,第2の油室を有する復動型の油圧シリンダと、油圧ポンプと、前記油圧ポンプと前記油圧シリンダの第1の油室を接続する第1の油路と、前記油圧ポンプと前記油圧シリンダの第2の油室を接続する第2の油路と、および、正転させられるとき、前記第1の油室に前記第1の油路を介して前記作動油を供給するように前記油圧ポンプを駆動する一方、逆転させられるとき、前記第2の油室に前記第2の油路を介して前記作動油を供給するように前記油圧ポンプを駆動する電動モータとを備えると共に、前記第1,第2の油路のそれぞれに前記第1,第2の油路内の圧力が急激に上昇したとき、その圧力を緩和させる(低減させる)圧力緩和機構を設けるように構成したので、船外機を急転舵させても油圧回路内の圧力が急激に上昇することがなく、よって衝撃を伴わない滑らかな転舵が可能となって操舵フィーリングを向上させることができる。尚、「圧力が急激に上昇する」とは、より具体的には、単位時間あたりの圧力の変化量が所定値を超えることを意味し、「所定値」とは、圧力緩和機構を含めた油圧回路に基づいて決定される所定の圧力変化量を意味する。
【0010】
また、請求項2項にあっては、前記圧力緩和機構が、可動式オリフィスと、前記可動式オリフィスに接続されたリリーフ通路からなるように構成した。
【0011】
このように、油圧回路内の圧力を緩和(低減)させる圧力緩和機構が、可動式オリフィスと、それに接続されたリリーフ通路からなるようにしたので、構成を簡素にすることができると共に、上記した所定値(即ち、圧力緩和を開始する油圧回路内の圧力上昇の程度)、および圧力上昇に対する圧力緩和の程度を、可動式オリフィスの孔の断面積を調整することによって任意の値に容易に設定することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に即してこの発明の一つの実施の形態に係る船外機の操舵装置を説明する。
【0013】
図1はその船外機の操舵装置を全体的に示す説明図であり、図2は図1の部分説明側面図である。
【0014】
図1および図2において、符合10は、内燃機関、プロペラシャフト、プロペラなどが一体化された船外機を示す。船外機10は、図2に示す如く、スイベルシャフトが回動自在に収容されるスイベルケース12と、スイベルケース12が接続されるスターンブラケット14を介し、船体(船舶)16の後尾に重力軸回りおよび水平軸回りに転舵自在に取り付けられる。
【0015】
船外機10は、その上部に内燃機関(以下「エンジン」という)18を備える。エンジン18は火花点火式の直列4気筒で2200ccの排気量を備えるガソリンエンジンからなる。エンジン18は水面上に位置し、エンジンカバー20で覆われて船外機10の内部に配置される。エンジンカバー20で被覆されたエンジン18の付近には、マイクロコンピュータからなる電子制御ユニット(以下「ECU」という)22が配置される。
【0016】
また、船外機10は、その下部にプロペラ24と、その付近に設けられたラダー26を備える。プロペラ24は、図示しないクランクシャフト、ドライブシャフト、ギヤ機構およびシフト機構を介してエンジン18の動力が伝達され、船体16を前進あるいは後進させる。
【0017】
図1に示す如く、船体16の操縦席付近にはステアリングホイール28が配置される。ステアリングホイール28の付近には舵角センサ30が配置される。舵角センサ30は、具体的にはロータリエンコーダからなり、操船者によって入力されたステアリングホイール28の操舵(操作)量に応じた信号を出力する。また、操縦席の右側にはスロットルレバー32およびシフトレバー34が配置され、それらの操作は図示しないプッシュプルケーブルを介してエンジン18のスロットルバルブおよびシフト機構(共に図示せず)に伝達される。
【0018】
さらに、操縦席付近には、船外機10のチルト角度を調整するためのパワーチルトスイッチ36と、トリム角度を調整するためのパワートリムスイッチ38が配置され、操船者によって入力されるチルトのアップ・ダウンおよびトリムのアップ・ダウンの指示に応じた信号を出力する。上記した舵角センサ30、パワーチルトスイッチ36およびパワートリムスイッチ38の出力は、信号線30L,36L,38Lを介してECU22に送られる。
【0019】
ECU22は、信号線30Lを通じて送られた舵角センサ30の出力に応じ、油圧ポンプおよびそれを駆動する電動モータ(共に図1および図2で図示せず)を介して操舵用の油圧シリンダ40(図2に示す。以下「操舵用油圧シリンダ」という)を伸縮させることにより、船外機10を転舵してプロペラ24およびラダー26を重力軸回りに揺動し、船体16を操舵する。尚、操舵用油圧シリンダ40は、具体的には復動シリンダからなる。
【0020】
ECU22は、さらに、信号線36L,38Lを通じて送られたパワーチルトスイッチ36およびパワートリムスイッチ38の出力に応じて公知のパワーチルトトリムユニット42を動作させ、船外機10のチルト角度およびトリム角度を調整する。
【0021】
図3は、図2に示すスイベルケース12付近を拡大した部分断面図である。
【0022】
図3に示すように、パワーチルトトリムユニット42は、1本のチルト角度調整用の油圧シリンダ42a(以下「チルト用油圧シリンダ」という)と、2本の(図では1本のみ表れる)トリム角度調整用の油圧シリンダ(以下「トリム用油圧シリンダ」という)42bを一体的に備える。
【0023】
チルト用油圧シリンダ42aのシリンダボトムは、図3に示すようにスターンブラケット14に固定されて船体16に固定されると共に、ピストンロッドのロッドヘッドはスイベルケース12に当接される。また、トリム用油圧シリンダ42bのシリンダボトムは、チルト用油圧シリンダ42aと同様にスターンブラケット14に固定されて船体16に固定されると共に、ピストンロッドのロッドヘッドはスイベルケース12に当接される。
【0024】
スイベルケース12は、チルティングシャフト46を介し、チルティングシャフト46を中心として相対角度変位自在にスターンブラケット14と接続される。また、スイベルケース12は、その内部にスイベルシャフト50が回動自在に収容される。スイベルシャフト50は、その上端がマウントフレーム52に固定されると共に、下端がロアマウントセンターハウジング(図示せず)に固定される。マウントフレーム52とロアマウントセンターハウジングは、それぞれエンジン18が載置されるフレームに固定される。
【0025】
図4は、図3のIV−IV線断面図である。
【0026】
図3および図4に示すように、スイベルケース12の上部は拡径され、その内部空間には、前記した操舵用油圧シリンダ40の他、操舵用油圧シリンダ40に作動油を供給する油圧ポンプ62を備えた油圧回路64(一部のみ示す)と、油圧ポンプ62を駆動する電動モータ66などが配置されて固定される。尚、電動モータ66は、ハーネス(図3および図4で図示せず)を介してECU22に接続される。
【0027】
また、図4に示すように、操舵用油圧シリンダ40は、その軸方向(長手方向)が電動モータ66の軸方向と平行となるように配置される。操舵用油圧シリンダ40のピストンロッドのロッドヘッド40aには、操舵用油圧シリンダ40の伸縮方向と直交する方向に側面(柱面)を有する円筒部材70が固定される。
【0028】
また、マウントフレーム52においてスイベルシャフト50の直上付近には、ステー72が設けられる。ステー72は、上下2枚の板状部材からなり、それぞれに長孔74が穿設される。長孔74には、前記した円筒部材70が移動自在に挿通され、よって操舵用油圧シリンダ40のロッドヘッド40aは、ステー72を介してマウントフレーム52に接続される。
【0029】
ここで、前述の如く、操船者がステアリングホイール28を操舵すると、その操舵角は舵角センサ30を介してECU22に入力される。ECU22は、入力された操舵角に応じた通電指令値を算出し、ハーネスを介して電動モータ66に送出し、油圧ポンプ62を駆動して操舵用油圧シリンダ40を伸縮させる。操舵用油圧シリンダ40の伸縮(直線)運動は、その駆動端40aに固定された円筒部材70が長孔74の内部を移動しつつステー72に伝達することにより、マウントフレーム52を介してスイベルシャフト50の回転運動に変換される。
【0030】
このように、操舵用油圧シリンダ40が伸縮することにより、スイベルシャフト50を転舵軸として船外機10の水平方向の転舵がパワーアシストされ、よってプロペラ24およびラダー26が揺動されて船体16が操舵される。具体的には、操舵用油圧シリンダ40が伸び方向に駆動されることによってスイベルシャフト50が船体16に対して右回り(上面視において右回り)に回動し、船外機10が右回りに転舵され、よって船体16が左回り(上面視において左回り)に操舵(左旋回)される。一方、操舵用油圧シリンダ40が縮み方向に駆動されることによってスイベルシャフト50が船体16に対して左回りに回動し、船外機10が左回りに転舵され、よって船体16が右回りに操舵(右旋回)される。
【0031】
次いで図5を参照し、油圧回路64について説明する。図5は、油圧回路64の拡大説明図である。
【0032】
同図に示すように、電動モータ66は油圧ポンプ62に接続される。油圧ポンプ62は、具体的にはギヤポンプからなり、電動モータ66から入力された回転出力によって駆動される。
【0033】
油圧ポンプ62の一端は、油路64aを介して第1のチェックバルブ80に接続されると共に、第1のリリーフバルブ82に接続される。第1のチェックバルブ80と第1のリリーフバルブ82は、それぞれ油路64bと油路64cを介し、作動油が貯留されるタンク84に接続される。
【0034】
さらに、油圧ポンプ62の一端は、油路64aから分岐された油路64dを介し、作動油の流れ方向を切り換える第1の切り換えバルブ86に接続される。第1の切り換えバルブ86は、具体的にはパイロットチェックバルブからなり、その1次側は油路64dに接続されると共に、2次側は油路64eを介して操舵用油圧シリンダ40の第1の油室40Aに接続される。
【0035】
また、油圧ポンプ62の他端は、油路64fを介して第2のチェックバルブ90に接続されると共に、第2のリリーフバルブ92に接続される。第2のチェックバルブ90と第2のリリーフバルブ92は、それぞれ油路64gと油路64hを介してタンク84に接続される。
【0036】
さらに、油圧ポンプ62の他端は、油路64fから分岐された油路64iを介し、第2の切り換えバルブ96に接続される。第2の切り換えバルブ96も、第1の切り換えバルブ86と同様にパイロットチェックバルブからなり、その1次側は油路64iに接続されると共に、2次側は油路64jを介して操舵用油圧シリンダ40の第2の油室40Bに接続される。尚、第2の切り換えバルブ96のパイロット側は、油路64kを介して第1の切り換えバルブ86のパイロット側に接続される。
【0037】
また、第1の切り換えバルブ86と第1の油室40Aを接続する油路64eの途中には、サーマルバルブ付き手動バルブ98と第1の可動式オリフィス100(圧力緩和機構)が設けられる。サーマルバルブ付き手動バルブ98と第1の可動式オリフィス100は、それぞれ油路64lと油路64m(リリーフ通路)を介してタンク84に接続される。また、第2の切り換えバルブ96と第2の油室40Bを接続する油路64jの途中には、第2の可動式オリフィス102(圧力緩和機構)が設けられ、第2の可動式オリフィス102は、油路64n(リリーフ通路)を介してタンク84に接続される。
【0038】
次いで、同図を参照して油圧回路64の動作について説明する。
【0039】
先ず、船外機10を右回りに転舵させて船体16を左旋回させるときは、油圧ポンプ62が油路64aの方向に作動油を吐出するように電動モータ66を作動させる。尚、電動モータ66は、ハーネス104を介してECU22(図5で図示せず)に接続され、操船者によるステアリングホイール28の操舵角に応じた通電指令値が供給される。
【0040】
油圧ポンプ62が油路64aの方向に作動油を吐出するように駆動されると、タンク84に貯留された作動油は、油路64g、第2のチェックバルブ90、油路64f、油圧ポンプ62、油路64a、油路64dを介して第1の切り換えバルブ86に供給される。このとき、第1の切り換えバルブ86は、油路64dと油路64eを連通させ、操舵用油圧シリンダ40の第1の油室40Aに作動油を流入させる。また、油路64kを介して第2の切り換えバルブ96のパイロット側に所定以上の油圧が加わると、第2の切り換えバルブ96は油路64jと油路64iを連通させ、第2の油室40B内の作動油を流出させる。これにより、操舵用油圧シリンダ40が伸び方向に駆動され、よってスイベルシャフト50を介して船外機10が右回りに転舵される。
【0041】
他方、船外機10を左回りに転舵させて船体16を右旋回させるときは、電動モータ66を逆転させ、油路64fの方向に作動油が吐出されるように油圧ポンプ62を駆動する。
【0042】
油圧ポンプ62が油路64fの方向に作動油を吐出するように駆動されると、タンク84に貯留された作動油は、油路64b、第1のチェックバルブ80、油路64a、油圧ポンプ62、油路64f、油路64iを介して第2の切り換えバルブ96に供給される。このとき、第2の切り換えバルブ96は、油路64iと油路64jを連通させ、操舵用油圧シリンダ40の第2の油室40Bに作動油を流入させる。また、油路64kを介して第1の切り換えバルブ86のパイロット側に所定以上の油圧が加わると、第1の切り換えバルブ86は油路64eと油路64dを連通させ、第1の油室40A内の作動油を流出させる。これにより、操舵用油圧シリンダ40が縮み方向に駆動され、よってスイベルシャフト50を介して船外機10が左回りに転舵される。
【0043】
また、第1の切り換えバルブ86および第2の切り換えバルブ96は、油圧の供給が終了されると、それぞれ油路64dと油路64e、および油路64iと油路64jを遮断して各油室に流入した作動油の流出を禁止し、操舵用油圧シリンダ40の伸縮位置を保持して船外機10の転舵角を保持する。また、油路64e内の作動油の温度が所定以上に上昇したときは、サーマルバルブ付き手動バルブ98が開弁され、油路64lを介して油路64eとタンク84が連通されることにより、油圧を所定の値まで低下させる。
【0044】
尚、エンジン18を停止しているときなどに船体16の操舵を行う場合は、サーマルバルブ付き手動バルブ98を手動で開弁することにより、船外機10の適宜位置に取り付けられたティラー(図示せず)を操作して船外機10を手動で転舵させることができる。
【0045】
ここで、課題で述べたように、船外機10を転舵させるべく、電動モータ66を動作させて油圧ポンプ62を駆動を開始しても、船外機10に作用する慣性力によってその転舵は直ちには開始されない。このため、特に船外機10を急転舵させた場合、油圧ポンプ62と操舵用油圧シリンダ40を接続する各油路の圧力が急激に上昇し、油圧ポンプ62を駆動する電動モータ66に大きな反力が作用する。かかる反力は、衝撃となって操舵用油圧シリンダ40などに伝達されるため、船外機10を滑らかに転舵させることが困難となって操舵フィーリングを低下させる恐れがある。
【0046】
そこで、この実施の形態にあっては、油圧ポンプ62と操舵用油圧シリンダ40を接続する油路に圧力緩和機構、具体的には、第1の可動式オリフィス100と第2の可動式オリフィス102、およびそれらとタンク84を接続する油路64mと油路64nを設け、急激に上昇した圧力を緩和(低減)させるようにした。
【0047】
図6から図8は、第1の可動式オリフィス100付近の拡大説明図である。
【0048】
以下、図6から図8を参照し、船外機10を右回りに急転舵させたときに生じる油圧回路64内の急激な圧力上昇の緩和について説明する。尚、図6から図8において、理解の便宜のため、作動油の流れ方向と流量の大きさを矢印の向きと大きさで模式的に示す。
【0049】
図6に示すように、第1の可動式オリフィス100は、油路64eに介挿された円筒状のケーシング100aと、前記ケーシング100aの内部において下流側(図5に示した操舵用油圧シリンダ40側)に配置されるスプリング100bと、前記スプリング100bによって上流側(図5に示した油圧ポンプ62側)に付勢されつつ、前記ケーシング100aの内周に隙間なく嵌め合いされた円筒状の可動部100cとからなる。
【0050】
ケーシング100aの上流側の端部付近には、油路64mが接続される。また、可動部100cの中心には、孔100c1が穿設される。孔100c1の断面積は、油路64eの断面積より小さい所定の値に設定される。
【0051】
従って、図6に示すように、油路64eにおいて第1の可動式オリフィス100より上流側の圧力P1と下流側の圧力P2が等しい(あるいは略等しい)とき(船外機10の転舵が行われていないとき、あるいはごく緩やかな転舵が行われているとき)は、スプリング100bによって可動部100cがケーシング100aの上流側端部に付勢される。
【0052】
これに対し、船外機10を右回りに急転舵させるべく、操舵用油圧シリンダ40の第1の油室40Aに対して多量の作動油が供給され始めると、油路64e内の圧力が急激に上昇し、絞りとしての役割を果たす第1の可動式オリフィス100の上流側の圧力P1が下流側の圧力P2を上回る。すると、図7に示す如く、可動部100cがスプリング100bの付勢力に抗して下流側に押動される。可動部100cが下流側に押動されると、油路64mとケーシング100aの接続部が開口して油路64eと油路64mが連通され、よって第1の可動式オリフィス100の上流側から供給される作動油が油路64mを介してタンク84に還流される。尚、「圧力が急激に上昇する」とは、より具体的には、単位時間あたりの圧力の変化量が所定値を超えることを意味し、「所定値」とは、孔100c1の断面積と油路64eの断面積の差分や孔100c1の長さ、スプリング100bの付勢力などに基づいて決定される、可動部100cの押動が開始される所定の圧力変化量を意味する。
【0053】
さらに、図8に示す如く、上流側の圧力P1と下流側の圧力P2の差分が大きくなるに従い、換言すれば、油路64eの圧力上昇が急激になるに従い、可動部100cの押動量が増加し、よって油路64mを介してタンク84に還流される作動油の量が増加する。
【0054】
即ち、油圧ポンプ62から第1の油室40Aに至るまでの油圧回路内の圧力上昇が急激であればあるほど、タンク84に還流される作動油の量が増加されて油圧回路内の圧力を大きく緩和(低減)させることができる。このため、船外機10を右回りに急転舵させても、油圧回路内の圧力が急激に上昇することがない。尚、油圧回路の圧力上昇の程度に対する作動油の還流量(即ち、圧力緩和の程度)は、孔100c1の断面積、あるいはスプリング100bの付勢力を調整することによって任意の値に容易に設定することができる。
【0055】
次いで、図9から図11を参照し、船外機10を左回りに急転舵させたときに生じる油圧回路64内の急激な圧力上昇の緩和(低減)について説明する。図9から図11は、第2の可動式オリフィス102付近の拡大説明図である。
【0056】
図9に示すように、第2の可動式オリフィス102は、油路64jに介挿された円筒状のケーシング102aと、その内部において下流側(図5に示した操舵用油圧シリンダ40側)に配置されるスプリング102bと、それによって上流側(図5に示した油圧ポンプ62側)に付勢されつつ、前記ケーシング102aの内周に隙間なく嵌め合いされた円筒状の可動部102cとからなる。
【0057】
ケーシング102aの上流側の端部付近には、油路64nが接続される。また、可動部102cの中心には、孔102c1が穿設される。孔102c1の断面積は、油路64jの断面積より小さい所定の値に設定される。
【0058】
従って、油路64jにおいて、第2の可動式オリフィス102より上流側の圧力P1と下流側の圧力P2が等しいときは、スプリング102bによって可動部102cがケーシング102aの上流側端部に付勢される。これに対し、船外機10を左回りに急転舵させるべく、第2の油室40Bに対して多量の作動油が供給され始めて上流側の圧力P1が下流側の圧力P2を上回ると、図10および図11に示すように、圧力P1と圧力P2の差分(即ち、油圧上昇の程度)に応じた量だけ、可動部102cがスプリング102bの付勢力に抗して下流側に押動される。可動部102cが下流側に押動されると、油路64nとケーシング102aの接続部が開口して油路64jと油路64nが連通され、よって第2の可動式オリフィス102の上流側から供給される作動油が油路64nを介してタンク84に還流される。
【0059】
即ち、油圧ポンプ62から第2の油室40Bに至るまでの油圧回路内の圧力上昇が急激であればあるほど、タンク84に還流される作動油の量が増加されて油圧回路内の圧力を大きく緩和(低減)させることができる。このため、船外機10を左回りに急転舵させても、油圧回路内の圧力が急激に上昇することがない。尚、油圧回路の圧力上昇の程度に対する作動油の還流量(即ち、圧力緩和の程度)は、孔102c1の断面積、あるいはスプリング102bの付勢力を調整することによって任意の値に容易に設定することができる。
【0060】
以上のように、この実施の形態に係る船外機の操舵装置にあっては、船外機10の転舵軸であるスイベルシャフト50を操舵用油圧シリンダ40で回動させると共に、前記操舵用油圧シリンダ40に作動油を供給する油圧回路64に圧力緩和機構(第1の可動式オリフィス100と第2の可動式オリフィス102、およびそれらをタンク84に接続する油路64mと油路64n)を設け、油圧回路64内の圧力が急激に上昇したとき、作動油をタンク84に還流して圧力を緩和(低減)させるようにしたので、船外機10を急転舵させても油圧回路64内の圧力が急激に上昇することがなく、よって衝撃を伴わない滑らかな転舵が可能となって操舵フィーリングを向上させることができる。
【0061】
また、圧力緩和機構が、第1および第2の可動式オリフィス100,102とそれらをタンク84に接続する油路64m,64nからなるようにしたので、構成を簡素にすることができる。さらに、第1の可動式オリフィス100と第2の可動式オリフィス102の孔100c1,102c1の断面積、あるいはスプリング100b,102bの付勢力を調整することにより、圧力緩和を開始する(可動部100c,102cの押動が開始される)油圧回路64内の圧力上昇の程度(即ち、上記した所定値)、および圧力上昇に対する圧力緩和の程度を任意の値に容易に設定することができる。
【0062】
上記の如く、この実施の形態においては、スイベルケース12に回動自在に収容されたスイベルシャフト50を介して船体16に転舵自在に取り付けられる船外機10の操舵装置において、前記スイベルシャフト50を回動させて前記船外機10を転舵させる油圧アクチュエータ(操舵用油圧シリンダ40)と、前記油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧回路64とを備えると共に、前記油圧回路64に、前記油圧回路64内の圧力が急激に上昇したとき前記圧力を緩和させる圧力緩和機構(第1の可動式オリフィス100、油路64m、第2の可動式オリフィス102、油路64n)を設けるように構成した。
【0063】
また、請求項2項にあっては、前記圧力緩和機構が、可動式オリフィス(第1の可動式オリフィス100、第2の可動式オリフィス102)と、前記可動式オリフィスに接続されたリリーフ通路(油路64m、油路64n)からなるように構成した。
【0064】
尚、上記において、油圧アクチュエータとして油圧シリンダを用いたが、それに限られるものではなく、油圧モータなど、作動油を供給されて動作するものであれば、他の形態のアクチュエータに対してもこの発明は妥当する。
【0065】
【発明の効果】
請求項1項にあっては、船外機の転舵軸であるスイベルシャフトを回動させて前記船外機を転舵させる、第1,第2の油室を有する復動型の油圧シリンダと、油圧ポンプと、前記油圧ポンプと前記油圧シリンダの第1の油室を接続する第1の油路と、前記油圧ポンプと前記油圧シリンダの第2の油室を接続する第2の油路と、および、正転させられるとき、前記第1の油室に前記第1の油路を介して前記作動油を供給するように前記油圧ポンプを駆動する一方、逆転させられるとき、前記第2の油室に前記第2の油路を介して前記作動油を供給するように前記油圧ポンプを駆動する電動モータとを備えると共に、前記第1,第2の油路のそれぞれに前記第1,第2の油路内の圧力が急激に上昇したとき、その圧力を緩和させる(低減させる)圧力緩和機構を設けるように構成したので、船外機を急転舵させても油圧回路内の圧力が急激に上昇することがなく、よって衝撃を伴わない滑らかな転舵が可能となって操舵フィーリングを向上させることができる。
【0066】
請求項2項にあっては、油圧回路内の圧力を緩和(低減)させる圧力緩和機構が、可動式オリフィスと、それに接続されたリリーフ通路からなるようにしたので、構成を簡素にすることができると共に、圧力緩和を開始する油圧回路内の圧力上昇の程度、および圧力上昇に対する圧力緩和の程度を可動式オリフィスの孔の断面積を調整することによって任意の値に容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一つの実施の形態に係る船外機の操舵装置を全体的に示す説明図である。
【図2】図1に示す操舵装置の部分説明側面図である。
【図3】図2に示すスイベルケース付近の拡大部分断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図4に示す油圧回路の拡大説明図である。
【図6】図5に示す第1の可動式オリフィスの拡大説明図である。
【図7】同様に、図5に示す第1の可動式オリフィスの拡大説明図である。
【図8】同様に、図5に示す第1の可動式オリフィスの拡大説明図である。
【図9】図5に示す第2の可動式オリフィスの拡大説明図である。
【図10】同様に、図5に示す第2の可動式オリフィスの拡大説明図である。
【図11】同様に、図5に示す第2の可動式オリフィスの拡大説明図である。
【符号の説明】
10 船外機
12 スイベルケース
16 船体
40 操舵用油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)
50 スイベルシャフト
64 油圧回路
64m 油路(リリーフ通路)
64n 油路(リリーフ通路)
100 第1の可動式オリフィス(圧力緩和機構)
102 第2の可動式オリフィス(圧力緩和機構)
Claims (2)
- スイベルケースに回動自在に収容されたスイベルシャフトを介して船体に転舵自在に取り付けられる船外機の操舵装置において、前記スイベルシャフトを回動させて前記船外機を転舵させる、第1,第2の油室を有する復動型の油圧シリンダと、油圧ポンプと、前記油圧ポンプと前記油圧シリンダの第1の油室を接続する第1の油路と、前記油圧ポンプと前記油圧シリンダの第2の油室を接続する第2の油路と、および、正転させられるとき、前記第1の油室に前記第1の油路を介して前記作動油を供給するように前記油圧ポンプを駆動する一方、逆転させられるとき、前記第2の油室に前記第2の油路を介して前記作動油を供給するように前記油圧ポンプを駆動する電動モータとを備えると共に、前記第1,第2の油路のそれぞれに前記第1,第2の油路内の圧力が急激に上昇したとき、前記圧力を緩和させる圧力緩和機構を設けるように構成したことを特徴とする船外機の操舵装置。
- 前記圧力緩和機構が、可動式オリフィスと、前記可動式オリフィスに接続されたリリーフ通路からなるように構成したことを特徴とする請求項1項記載の船外機の操舵装置。
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