JP4587432B2 - シンチレータパネル、放射線検出装置及びシステム - Google Patents

シンチレータパネル、放射線検出装置及びシステム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、シンチレータ、放射線検出装置及びシステムに関し、特に、医療用診断装置、非破壊検査装置などに用いられるシンチレータ、放射線検出装置及びシステムに関する。
【0002】
なお、本明細書においては、放射線の範疇に、X線、α線、β線、γ線などの電磁波も含むものとして説明する。
【0003】
【従来の技術】
近年、医療機業界のデジタル化が加速しており、レントゲン撮影の方式もコンベンショナルなフィルムスクリーン方式からX線デジタルラジオグラフィー方式へのパラダイムシフトが進んでいる。
【0004】
X線デジタルラジオグラフィー方式のレントゲン撮影用のX線検出装置には、アモルファスシリコンなどを用いたフォトセンサ及びTFTを有する光電変換素子部を備えたセンサパネルと、柱状の蛍光体よりなる蛍光体層及び蛍光体層で発光した可視光をセンサパネル側へ反射させる金属薄膜などの反射膜を備えたシンチレータとを、透明な接着剤よりなる接着層によって接着したものがある。
【0005】
このようなX線検出装置は、センサパネルの素子構成やシンチレータの蛍光体材料の制約を受けることなく、さまざまなものを用途に応じて組み合わせることが可能である。
【0006】
つぎに、X線検出装置の動作について説明する。まず、装置本体にX線が入射されると、このX線は、反射層を透過し、蛍光体層で吸収される。その後、蛍光体層は吸収したX線に応じた強度の可視光を発光する。可視光は光電変換素子部のフォトセンサで電気信号に変換され、TFTのオン/オフの切り替えに応じて外部に出力される。こうして、入射したX線情報を2次元のデジタル画像に変換している。
【0007】
ここで、シンチレータを構成する基材にアモルファスカーボンなどがよく用いられている。その理由は、
(1)アモルファスカーボン等がガラスやアルミニウムに比べ、X線の吸収が少ないため、より多くのX線を蛍光体層側へ送ることができるからである。例えば、各材料を実用的な厚み(日本電気硝子製OA−10ガラス板:0.7mm、Al板:0.5mm、アモルファスカーボン板:1mm)にした場合には、どの材料もフォトンエネルギー60keV以上ならば90%以上の透過率を確保できるが、OA−10ガラス板は60keV以下、Al板は35keV以下で、急激に透過率が低下する。一方、他の材料よりも厚いにもかかわらず、アモルファスカーボン板は20keVまで95%以上を確保するので、医療で使用されるX線のエネルギー領域では、ほぼフラットな透過率特性を示すことが可能である。
【0008】
(2)アモルファスカーボン等が耐薬品性に優れているからである。アモルファスカーボンは、フッ酸などの強酸や、溶剤に対しても侵食されることはない。
【0009】
(3)アモルファスカーボン等が耐熱性に優れているからである。アモルファスカーボンは、ガラスやアルミニウムよりも高い耐熱性を有する。
【0010】
(4)アモルファスカーボン等の導電性がよいからである。アモルファスカーボンは、導電率がσ=2.4×10-2Ω-1cm-1なので、電磁シールドとしても機能するし、製造時の静電気対策としても機能する。
【0011】
(5)アモルファスカーボン等の熱膨張係数がガラスと近いため、貼り合わせ後の膨張率の差による剥がれ等の心配が少ないからである。一般的に用いられるパネルガラスの熱膨張係数は、4.6×10-6だが、アモルファスカーボンはそれに近い2.0×10-6である。
【0012】
また、反射層を用いる理由は、アモルファスカーボン等の反射率が対空気層では約20%と低いため、金属薄膜からなる反射層を設けることによって、光の利用効率を向上させるためである。
【0013】
反射層としてアルミニウム等の金属膜を材料として用いる理由は、
(1)アルミニウム等が、可視光のほぼ全域に渡って高い反射率を示すからである。なお、詳細は、Journal of the optical society of America,vol45,no.11,p945,1955に詳しい。
【0014】
(2)アルミニウムが安価だからである。
【0015】
(3)蒸着した薄膜は鏡面が得られやすいので、乱反射による解像力の乱れを生じることが少ないからである。
【0016】
また、シンチレータは、具体的に以下のような手法により製造する。まず、表面を鏡面に研磨されたアモルファスカーボンなどの基材を洗浄し、スパッタ等でアルミニウム薄膜を成膜する。アルミニウム薄膜は厚すぎると表面の凹凸によって乱反射を起こし、薄すぎると光が透過してしまうので、通常、厚みは100nm〜500nmとしている。
【0017】
つぎに、蒸着によって柱状の蛍光体層をアルミニウム薄膜上に蒸着する。この時のプロセス温度は200℃を超える。つぎに、周りに保護層を形成し、シンチレータを完成する。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の技術では、アモルファスカーボンなどからなる導電性を有する基材に形成した反射層の上にアルカリハライド蛍光体、例えばCsIを形成すると、数日のうちに反射層に腐食が開始することが我々の検討から判明した。この原因としては、CsI中のハロゲン、つまりヨウ素が、反射層の材料であるアルミニウムを腐食させることが考えられる。
【0019】
従って、これを防止する一つの方法として、反射層の表面側に保護層を設けてみたが、反射層と基材との接触がある限り、本件のような短期間で発生する腐食は抑制できないこともわかった。
【0020】
また、このような問題は基材の材料としてガラスを用い、反射層の材料としてアルミニウムを用いた場合には発生が極端に抑制されることもわかった。従って、反射層が腐食するもう一つの原因として、アモルファスカーボンなどカーボンを成分に有するものやシリコンなどと、アルミニウムなどをはじめとする金属という異種の導電性材料とを積層したことによる電気化学的腐食が考えられる。
【0021】
ここで、特開昭53−122356号公報には、基板の全面にアルミニウム蒸着膜を介して沃化セシウムよりなる蛍光体を設ける旨の記載があるが、この公報に記載されている技術では、上記と同様の理由により電気化学的腐食を防止することができない。
【0022】
また、特開平10−160898号公報には、光反射層の蛍光体が設けられていない側に保護膜としてPET (ポリエチレンテレフタレート)を設ける旨が記載されているが、PETは200℃を超える蛍光体形成プロセスに耐えうる材料でないので、アモルファスカーボンやシリコン、アルミニウムという異種の導電性材料を積層したことによる電気化学的腐食を抑制するものではなく、また基材にPETもしくはガラスなどの絶縁体を用いた構成になっているのでそもそも電気化学的腐食はほとんど起こらない。
【0023】
そこで、本発明は、シンチレータパネルの電気化学的腐食を防止することを課題とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明の1つの側面は、放射線に基づく光を発生する蛍光体層と、前記蛍光体層を支持するためのアモルファスカーボンの導電性基材と、前記蛍光体層と前記導電性基材との間に配置されたアルミニウムの反射層と、を備えたシンチレータパネルにおいて、前記導電性基材と前記反射層との間に配置された絶縁層と、前記反射層と前記蛍光体層との間に配置された接続防止層とを有し、前記絶縁層は、前記導電性基材の側に配置されたSiCx層と、前記反射層の側に配置されたSiOx層とを含むことを特徴とする。
本発明の他の側面は、放射線に基づく光を発生する蛍光体層と、前記蛍光体層を支持するための導電性基材と、前記蛍光体層と前記導電性基材との間に配置された反射層と、を備えたシンチレータパネルにおいて、前記導電性基材と前記反射層との間に配置された絶縁層と、前記反射層と前記蛍光体層との間に配置された接続防止層とを有し、前記接続防止層は、前記反射層の側に配置されたSiO 層と、前記蛍光体層の側に配置されたポリイミド層とからなることを特徴とする。
【0026】
さらに、本発明の放射線検出装置は、上記シンチレータパネルを備えることを特徴とする。
【0027】
さらにまた、本発明の放射線検出システムは、上記放射線検出装置を具備することを特徴とする。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0029】
まず、本発明の実施形態の放射線検出装置の原理について簡単に説明する。本実施形態のシンチレータパネルは、導電性基材と反射層との間にこれらの電気的接続を絶つ絶縁層を備えている。また、蛍光体層と反射層との間にこれらの接続を防止する接続防止層を備えている。
【0030】
絶縁層及び接続防止層は、反射層や蛍光体などの形成プロセス時に高温状態となるような場合には耐熱性を有する必要がある。
【0031】
導電性を有する材料としては、カーボンを成分として有するものが用いられ、特にアモルファスカーボンが好適に利用される。
【0032】
絶縁層及び接続防止層は、例えば200℃以上の熱に耐えられるようにしておけば、反射層やアルカリハライドからなる柱状結晶蛍光体などの蛍光体層を形成する際にかかる熱に耐えられるようになる。
【0033】
また、絶縁層及び接続防止層は、単層でも多層でもよいが、少なくとも反射層との接触部での体積抵抗率が1×1010Ωcm以上であることが必要である。これは、体積抵抗率が、ほぼ1×108Ωcm以下までは半導体の領域であり、この領域であれば、状態の変化例えば、温度の上昇などによって、抵抗率が変化する可能性があり、完全な絶縁を得ることは難しいので、これにマージンを含んだ値としたものである。ちなみに、半導体のシリコン単体の体積抵抗率は3×105Ωcm、GaAsでは7×107Ωcmである。
【0034】
シリコンの化合物を形成すれば、光学バンドギャップが広くなり体積抵抗率が1×1010Ωcm以上の絶縁物となる。ちなみに、SiOX、SiNXなどは全てこれを満足する材料である。さらに、このようなシリコン化合物はカーボンと化学結合しやすく、SiCなどは非常に硬い材料であることが知られている。
【0035】
半導体分野では配線材料としてAl及びAl合金薄膜が一般的に用いられており、シリコン化合物との密着は半導体デバイスとして実績がある。一方、プラズマ重合より得られるテトラアルキルシラン(Si−OR、R=CH3、C25、C37)は、1×1010Ωcm以上の絶縁性があり、カーボンを主体とした有機材料と金属とのカップリング層として実用化されているものである。
【0036】
この材料はプラズマ重合により形成されるので、アルキル基の炭素数が1〜3程度であれば、200℃以上の耐熱性も有するものである。つまり、シリコンを含む材料は導電性基材と反射層との間、あるいは反射層と蛍光体層と間の絶縁耐熱層として機能するし、密着性もよい。
【0037】
金属酸化膜は、安定した絶縁物質なので、ほとんどは、1×1010Ωcm以上の体積抵抗率と200℃以上の耐熱性を有する。具体的には、SiOx、SiNx、SiON、Al23、SiO2、TiO2、MgO、BeO、CeO、HfO2、ThO2、UO2、ZrO2などを用いることができる。
【0038】
ちなみに、これらは、組成比が変化すると半導体転移を示すものもあるため、組成比が変化しないようにすることが必要である。
【0039】
また、ポリイミド、ジビニルシロキサンビスベンゾブテン系樹脂、メチルシルセスキオキサン系樹脂、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、芳香族ポリエステルなどは、全て体積抵抗率1×1010Ωcm以上で、200℃以上の耐熱性を有する絶縁材料である。これらの耐熱性樹脂を使用する場合は、シリコンを含む材料を用いる場合に比べ、厚さを厚くできるので、下地の粗れやゴミによる絶縁破壊を起こす可能性が減少する。
【0040】
ちなみに、シリコンを含む材料を用いる場合は自身の内部応力の影響から厚くしすぎることはできないため、一般的には数10nm〜数100nmにするのが適切であるが、耐熱性樹脂は数100nm〜数10000nmの範囲で制御が可能である。さらに、これらの樹脂はカーボンを含むため、カーボンとの密着性は良好であるが、下地を凹凸差が0.02μm以上に粗らしてアンカー効果をもたせることで、更に密着力を向上させることが可能である。
【0041】
その際、樹脂の表面は平坦化されるので、反射層の平坦性を確保し、鏡面を維持することが可能である。ただし、凹凸差が5μmを超えると、上記の平坦化効果が減少してしまうので、0.02μmから5μmに納まるようにするとよい。Alとの密着性に関しては、弱い組み合わせもあるが、Al成膜前に何らかの表面処理、例えば逆スパッタを行えば密着力が向上する。
【0042】
これらシリコンを含む材料、金属酸化膜、及び耐熱性樹脂はどちらも密着力のよいものであるが、更なる効果をもたせるために、これらから選ばれる複数の材料を積層してもかまわない。この場合は、少なくとも金属薄膜と接触する層に1×1010Ωcm以上の絶縁性を持たせればよく、その下の層の抵抗率を問うものではない。
【0043】
また、アルカリハライド蛍光体を蒸着した後に保護層を形成する場合は、温度の制約が緩和されるので、上記以外の材料として、シリコーン樹脂、ポリパラキシリレン樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース樹脂などの透光性樹脂を用いることも可能となる。
【0044】
また、アモルファスカーボンとの接触層はできる限りアモルファスカーボンとの密着性の高い材料を、Alとの接触層はできる限りAlとの密着性の高い材料を選ぶとよい。もしも、積層する層同士の密着性が悪くなる場合は、組成を漸進的に変化させるとよい。
【0045】
(実施形態1)
[構成の説明]
図1は、本発明の実施形態1の放射線検出装置の模式的な断面図である。図1において、100はシンチレータパネルで、アルカリハライドよりなる柱状結晶化した蛍光体層104と、蛍光体層104を支持するためのアモルファスカーボン等よりなる0.7mm〜1mm程度の厚さの基材101と、蛍光体層104で変換された光を後述するセンサパネル110側へ反射するアルミニウム薄膜よりなる反射層103と、基材101と反射層103との間に形成されこれらの電気的接続を絶つSiNXなどからなる絶縁層102と、蛍光体104等を外気から保護する有機樹脂よりなる保護層105と、反射層103と蛍光体層104との間に形成されこれらの接続を防止するポリイミドなどの接続防止層106とを備えている。
【0046】
また、図1において、110はセンサパネルであり、ガラス基板111と、アモルファスシリコンを用いたフォトセンサ及びTFTからなる光電変換素子部112と、光電変換素子部112で変換された電気信号を伝送する配線部113と、配線部113を伝送された電気信号を外部に取り出す電極取り出し部114と、窒化シリコン等よりなる第1保護層115と、ポリイミド等よりなる第2保護層116とを備えている。
【0047】
センサパネル110とシンチレータパネル100とは、接着剤121により貼り合わされ、その周囲を封止材122によって封止されている。なお、光電変換素子部112は、蛍光体層104からの可視光を検知できるものであればよく、センサとしてはアモルファスシリコンなどからなるMIS型のものやPIN型のもの、スイッチとしては、TFTやPIN型ダイオードスイッチのものでもよい。
【0048】
更には、CMOSセンサやCCD撮像素子を用いてもかまわない。この場合、基材111はクリスタルシリコンを用いることになる。なお、反射層103は、アルミニウム薄膜に限定されず、蛍光体層104が発光する波長によっては、アルミニウム合金、銀、銀合金、銅、金などの他の金属層を用いてもよい。
【0049】
[接続防止層106の厚さの説明]
ところで、接続防止層106を薄くしすぎると、製造段階で接続防止層106の下部又は上部にゴミが付着したときに、このゴミによって接続防止層106がピンホールやクラックなどのように部分的に破損したり、接続防止層106が形成されない領域が生じて、反射層103と蛍光体層104との絶縁性が保てない場合がある。接続防止層106に形成ムラができる場合も同様である。
【0050】
一方、接続防止層106を厚くしすぎると、解像力が低下したり、輝度が低下したり、基材101にソリが生じるなどの問題もある。特に、基材101にソリが生じると、シンチレータパネル100とセンサパネル110とを貼り合わせるときに、これらの間に気泡が入り込み、充分な接着ができない場合がある。
【0051】
このように、接続防止層106の厚さは、薄すぎても厚すぎても種々の問題が生じることになる。
【0052】
図7は、接続防止層106の最適な厚さを決定するための浸漬実験の様子を示す図である。図7には、絶縁層102,反射層103,接続防止層106を備えた基材101を、2NのCsI水溶液211を充填したビーカ222に浸漬した様子を示している。
【0053】
この実験は、CsI水溶液211によって、反射層103が腐食し始めるまでに要する時間を求めるというものである。この時間は、実体顕微鏡でサンプルの反射層103表面を観察し、一箇所でも反射層103に穴が確認されるまでの時間とする。
【0054】
接続防止層106の厚さは0μm〜5μmで変化させている。ちなみに接続防止層106の厚さは、接続防止層106に段差を設け、段差部をレーザー顕微鏡(キーエンスVK−8500)で観測することで確認を行った。サンプルは実際のシンチレータパネル100を形成する環境と同じクリーンルーム内で形成した。
【0055】
図8は、接続防止層106の厚さと反射層103の腐食開始時間との関係を示す図である。図8に示すように、接続防止層106の厚さが、1μmを超えて、大きく立ち上がり2μm以上で安定する。このことから、接続防止層106の厚さの下限は、2μmとすると好ましいことが判明した。
【0056】
つぎに、我々は、接続防止層106の厚さが解像度に与える影響を、CTF(contrast transfer function)という評価法を用いて調査した。
【0057】
図9は、接続防止層106の厚さと解像度との関係を示す図である。図9の横軸には接続防止層106の厚さを示し、縦軸には接続防止層106の厚さを0μmとしたときのCTF値を1とした相対的なCTF値を示している。
【0058】
図9に示すように、接続防止層106の厚さが0μm〜10μm程度のときにはCTFはほぼフラットで、それ以上の厚さになるとCTFは、徐々に低下してくる。このことから、接続防止層106をあまり厚くしすぎると、充分な解像度が得られないことが判明した。
【0059】
つづいて、接続防止層106の厚さが輝度に与える影響を、シミュレーションと実験とによって調査した。
【0060】
図10は、接続防止層106の厚さと輝度との関係についての実験結果を示す図である。図10の横軸には接続防止層106の厚さを示し、縦軸には接続防止層106の厚さを0μmとしたときの輝度値を1とした相対的な輝度値を示している。図10に示すように、接続防止層106が厚くなると、輝度は僅かに低下することが判明した。
【0061】
図11は、接続防止層106の厚さと輝度との関係についてのシミュレーション結果を示す図である。このシミュレーションは、蛍光体層104から接続防止層106に入射し、反射層103で反射され、再び蛍光体層104に戻る光の強度を反射率としてフレネル法で求めたものである。
【0062】
図11のX軸には光の波長、Y軸には接続防止層106の厚さ、Z軸には接続防止層反射率を示している。
【0063】
図11には、反射率80%近傍で波打ちながらのフラットになった領域がある。この領域では、接続防止層106の消衰係数kはほぼ0であり、反射率が多重反射の影響だけで接続防止層106の厚さにはほとんど依存しない。
【0064】
また、波長が500nmあたりになると、接続防止層106の厚さに拘わらず反射率は低下し始める。ただし、接続防止層106が厚いほど反射率の低下は著しい。このように反射率が低下する領域では、接続防止層106の消衰係数kは0でなく、反射率が接続防止層106の厚さに依存することを意味する。
【0065】
ちなみに、本実験では、CsIはTlドープしたものものを用いた。これの最大ピーク波長は590nmであり、図11からわかるように消衰係数kはほぼ0であるため、輝度に対してはほとんど影響がないものと考えられる。
【0066】
つまり、消衰係数k≠0の影響はほとんど無視できるのである。ただし、図10の実測値が接続防止層106の厚さと共に僅かに低下していくのは、発光スペクトルのこの波長領域の僅かな成分が、消衰係数k≠0の影響を僅かながら受けて吸収されるからと考えられる。
【0067】
また、接続防止層106が厚くなると、基材101にはソリが生じる。同様に、絶縁層102が厚くなっても基材101にはソリが生じる。基材101は0.7mm〜1mm程度の厚さのものを用いると、このソリも絶縁層102と接続防止層106との厚さの和が20μmを超えると目視で確認できる。
【0068】
基材101に目視で確認できるほどのソリが生じると、シンチレータパネル100とセンサパネル110との貼り合わせの際に、これらの間に気泡が入り込む。
【0069】
ちなみに、接続防止層106の厚さを15μmとしたときの解像度は、図9に示すように、この厚さを半分の7.5μmとしたときからほぼ2割低下する。よって、高精度な画像が求められる分野でなければ、この程度の解像度の低下は問題ないと考える。
【0070】
一方、輝度は、図10に示すように、接続防止層106の厚さを半分の7.5μmとしたときとほぼ同じであり、問題がないと考える。
【0071】
このことから、接続防止層106の厚さの上限は、基材101として0.7mm〜1mm程度の厚さのアモルファスカーボンを材料としたものを用いると、15μmとすると好ましいことが判明した。
【0072】
[製造方法の説明]
まず、基材101となるアモルファスカーボンなどの鏡面を研磨し、その後これを一度洗浄・乾燥し、スパッタ法、CVD法(化学気相成長法)等により、絶縁層102となるSiNX薄膜を約300nmの厚さで成膜する。
【0073】
つぎに、スパッタ法等で絶縁層102上に反射層103となるアルミニウム薄膜を約300nmの厚さで成膜する。反射層103の成膜にあたっては、絶縁層102であるSiNXとの密着性を更に強化するため、直前に逆スパッタ等の表面処理を施すとよい。反射層103の成膜方法は、真空蒸着法や電子ビーム(EB)法などによっても可能である。
【0074】
つづいて、反射層103上にスピンコート、スリットコートなどによって接続防止層106となるポリイミドなどを塗布し、キュアして硬化する。
【0075】
原料の粘度とコーティング条件によっては、接続防止層106の厚さが2μm未満になることもあるので、その場合は条件を見直すか、コーティングを複数回行えばよい。
【0076】
ただ、条件をみなして、精度を高めようとしても、歩留まり等の関係から、接続防止層106に微小なピンホール等が生じることがあるので、コーティングを複数回行うようにした方が、このピンホール等を2回目以降のコーティングで埋め込むことができるというメリットがある。
【0077】
この作業はゴミの付着を避けなければならないので、クリーンルーム内で行わなければならない。必要であれば、除電を行う必要がある。
【0078】
絶縁層102、反射層103の成膜は同じ成膜装置で連続的に行えば、それぞれの成膜ごとに成膜チャンバーから取り出すよりは、ゴミ等の影響による不良を防止することができるので望ましい。
【0079】
つぎに、蛍光体層104となるアルカリハライドの蛍光体を接続防止層106上に200℃以上の温度で柱状結晶させた後、全体を保護層105で被覆して図1のシンチレータパネル100ができる。
【0080】
保護層105は、特開2000−9845号公報にあるように、耐湿性の高いパリレン等のCVD膜を用いるのが望ましい。
【0081】
本実施形態では、絶縁層102としてSiNXの例を示したが、SiNX以外にもSiOXなどのシリコン化合物やテトラアルキルシラン(Si−OR、R=CH3、C25、C37)などのシリコンを主体とした絶縁層や、金属酸化膜、ジビニルシロキサンビスベンゾブテン系樹脂、メチルシルセスキオキサン系樹脂、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、芳香族ポリエステル等を用いてもかまわない。
【0082】
絶縁層102にシリコン化合物を用いた場合には、厚さをできる限り厚くする方がよいが、厚すぎると内部応力による剥がれを起こす場合があるので、好適には、数10nmから数100nmにするとよい。
【0083】
[動作の説明]
つぎに、図1に示す放射線検出装置の動作について説明する。
【0084】
図1の上部から放射線を入射すると、この放射線は基材101、絶縁層102、反射層103及び接続防止層106を透過し、蛍光体層104で吸収される。蛍光体層104は吸収した放射線量に応じた光量の可視光を発光する。
【0085】
この可視光は、光電変換素子部112で電気信号に変換され、TFTのオン/オフの切り替えに従って、配線113に出力される。各配線113に出力された電気信号は、電極取り出し部114を通して外部に読み出される。
【0086】
外部では図示しない処理装置で、表示部に表示等される2次元のデジタル画像を得るための処理がされる。こうして、放射線検出装置に入射された放射線情報を変換して、外部で2次元のデジタル画像を得ている。
【0087】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2の放射線検出装置に係るシンチレータパネル100の断面図である。本実施形態では、絶縁層102にポリイミドを用いており、基材101の表面を、絶縁層102との密着性を良好にするために粗らして、絶縁層102と基材101との間はアンカー効果による密着力が得られるようにしている。
【0088】
なお、図2において図1と同様の部分には同一符号を付している。また、センサパネルについては、図1と同様である。
【0089】
基材101上は平坦ではないが、絶縁層102の表面は、塗布した際、平坦化されるため、反射層103を平坦に形成することが可能となり、反射層103の表面を鏡面反射にすることができる。絶縁層102は、より平坦化させるために厚さを基材101表面の粗さよりも充分に厚く取る必要がある。好適な厚さとしては、1μm〜18μm程度である。絶縁層102は、スピンコート法、スリットを設けたノズルからの噴出し法や、スプレー法によって形成が可能である。
【0090】
さらに、絶縁層102と反射層103との間は、反射層103を成膜する前に、逆スパッタ等の処理を行っておけば、必要な密着力は確保できるものである。当然、ポリイミドは耐熱性絶縁膜なので、導電性を有する基材と反射層とを電気的に絶縁することができる。
【0091】
本実施形態のシンチレータパネル100は、図1に示すものに比べて、絶縁層102を厚く形成することができるので、異物等による絶縁破壊に対しては強い構造となるというメリットと、基材111を鏡面研磨する必要がない分、コストが安いというメリットがある。
【0092】
(実施形態3)
図3は、本発明の実施形態3の放射線検出装置に係るシンチレータパネル100の断面図である。本実施形態では、絶縁層102を、ジビニルシロキサンビスベンゾブテン系樹脂(以下、「BCB」と称する。)とSiNX、SiOXなどのシリコン系絶縁膜や、金属酸化膜等との2層構成としている。
【0093】
なお、図3において図1と同様の部分には同一符号を付している。また、センサパネルについては、図1と同様である。
【0094】
このシンチレータパネル100は、図2に示すものと同様に、基材101の表面を、絶縁層102との密着性を良好にするために粗らしており、絶縁層102の表面も平坦である。絶縁層102の厚さも図2と同様に決めればよく、好適な厚さは、1μm〜10μm程度である。製造方法は、実施形態2と同様である。絶縁層102のSiNX等は、CVD等によって成膜する。
【0095】
半導体分野ではSiNX等と、BCBとの間の密着度が高いとされているため、絶縁層102としてSiNX等を用いると、同じ絶縁層102の材料であるBCBとの接合を強固とすることができる。さらに、SiNXは、耐湿性の高い膜であるため、耐湿層としても機能する。BCBもSiNXも絶縁材料なので、導電性を有する基材と反射層との間の電気的絶縁も確保される。当然両材料とも200℃以上の耐熱性を有しているので、放射線検出装置の製造を困難とはしない。
【0096】
なお、絶縁層102の各層を、それぞれ接触する層との密着力の高い材料を用いるとよい。例えば、絶縁層102のうち基材側の層を、基材101の材料であるアモルファスカーボンとの結合では構造乱れを最小限にすることができるSi−C結合を有するSiCXとする。反射層103側の層を、反射層103との密着性のよいSiOXとする。ちなみに、SiOXとSiCXとは共にシリコン系材料なので密着力よい。
【0097】
さらに、SiOXとアルミニウムとは半導体分野では実績のある構成であるので、密着度に優れている。さらに、SiCXとSiOXの組成を漸進的に変化させれば、層間の界面を無くすことができ、密着力を一層向上させることができる。
【0098】
ただし、SiCの体積抵抗率は1×104Ωcmと低いが、SiO2に絶縁性を有するため、SiCとSiO2の2層を構成することで、絶縁層として機能するものである。
【0099】
なお、SiCX層は、CVD法等でSiH4+CH4のガスを流しながらプラズマで分解して基材101に形成し、SiOX層は、CVD法等でSiH4+H2Oのガスを流しながらSiCX層状に成膜すればよい。SiCX層とSiOX層との密着力を更に向上させるには、放電を続けながらガスの組成をSiH4+CH4からSiH4+H2Oへと漸進的に変更すればよい。
【0100】
(実施形態4)
図4は、本発明の実施形態4に係るシンチレータパネル100の断面図である。なお、図4において、図1に示した部分と同様の部分には同一符号を示している。また、センサパネルについては、図1と同様である。
【0101】
本実施形態では、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材101の接続防止層106側に鏡面加工を施することによって反射機能を備えている。
【0102】
接続防止層106には、BCB、メチルシルセスキオキサン系樹脂又はPIを用いている。BCBの最適硬化温度は300℃以上であるが、本実施形態では、接続防止層106を基材101上に直接形成しているので、硬化温度の制約が大幅に緩和されるものである。
【0103】
ちなみに、アルミニウムの膨張係数は、ガラスやアモルファスカーボンのそれに比べ樹脂に近いため、基材101の材料として用いると、基材101にソリが生じにくいというメリットがある。
【0104】
(実施形態5)
図5は、本発明の実施形態5に係るシンチレータパネル100の断面図である。図5には、接続防止層106を、0.03μmの厚さのSiO2よりなるシリコンを含む無機層と、5μmの厚さのポリイミド層とからなる2層構成としている。
【0105】
なお、図5において、図1に示した部分と同様の部分には同一符号を示しているが、基材101の材料をガラスとしている。また、センサパネルについては、図1と同様である。
【0106】
反射層103側には無機層を形成している。無機層は、有機層に比べ不純物に対するブロッキング性能に優れており、腐食防止効果が高い。
【0107】
一方、ポリイミド層は無機層に生じたピンホール、クラックなどを補修する役目も有することになる。
【0108】
なお、無機層は、スパッタ法等によって形成した反射層103上に、同じチャンバーで連続的にスパッタ法などの方法でSiO2を形成することによって形成する。なお、SiO2の品質をより向上させるなら、CVD法で形成してもよい。
【0109】
なお、接続防止層106の各層の材料や組み合わせは、上記例に限定されるものではなく、各層に割りあてる機能とプロセスの制約等で決めればよい。
【0110】
以上、各実施形態では、シンチレータパネル100とセンサパネル110とを貼り合わせて放射線検出装置を製造する場合を例に説明したが、センサパネル110に蛍光体層104を蒸着し、その上に反射層103,絶縁層102,保護層105を順次形成するようにしてもよい。
【0111】
(実施形態6)
図6は、本発明の実施形態6のX線診断システムへ模式的な構成を示すブロック図である。X線チューブ6050で発生したX線6060は患者あるいは被験者6061の胸部6062を透過し、実施形態1空のいずれかで説明した放射線検出装置6040に入射する。
【0112】
この入射したX線には患者6061の体内部の情報が含まれている。X線の入射に対応して蛍光体は発光し、これを光電変換して電気的情報を得る。この情報は、ディジタルに変換されイメージプロセッサ6070により画像処理され制御室のディスプレイ6080で観察できる。
【0113】
また、この情報は電話回線6090等の伝送手段により遠隔地へ転送でき、別の場所のドクタールームなどディスプレイ6081に表示もしくは光ディスク等の保存手段に保存することができ、遠隔地の医師が診断することも可能である。またフィルムプロセッサ6100によりフィルム6110に記録することもできる。
【0114】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、各絶縁層を形成したので、反射面の腐食を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1の放射線検出装置の模式的な断面図である。
【図2】本発明の実施形態2の放射線検出装置に係るシンチレータパネル100の断面図である。
【図3】本発明の実施形態3の放射線検出装置に係るシンチレータパネル100の断面図である。
【図4】本発明の実施形態4に係るシンチレータパネル100の断面図である。
【図5】本発明の実施形態5に係るシンチレータパネル100の断面図である。
【図6】本発明の実施形態6のX線診断システムへ模式的な構成を示すブロック図である。
【図7】接続防止層106の最適な厚さを決定するための浸漬実験の様子を示す図である。
【図8】接続防止層106の厚さと反射層103の腐食開始時間との関係を示す図である。
【図9】接続防止層106の厚さと解像度との関係を示す図である。
【図10】接続防止層106の厚さと輝度との関係についての実験結果を示す図である。
【図11】接続防止層106の厚さと輝度との関係についてのシミュレーション結果を示す図である。
【符合の説明】
100 シンチレータパネル
101 基材
102 絶縁層
103 反射層
104 蛍光体層
105 保護層
106 接続防止層
110 センサパネル
111 ガラス基板
112 光電変換素子部
113 配線部
114 電極取り出し部
115 第1保護層
116 第2保護層
121 接着剤
122 封止材

Claims (7)

  1. 放射線に基づく光を発生する蛍光体層と、前記蛍光体層を支持するためのアモルファスカーボンの導電性基材と、前記蛍光体層と前記導電性基材との間に配置されたアルミニウムの反射層と、を備えたシンチレータパネルにおいて、
    前記導電性基材と前記反射層との間に配置された絶縁層と、
    前記反射層と前記蛍光体層との間に配置された接続防止層とし、
    前記絶縁層は、前記導電性基材の側に配置されたSiCx層と、前記反射層の側に配置されたSiOx層とを含む、
    ことを特徴とするシンチレータパネル。
  2. 放射線に基づく光を発生する蛍光体層と、前記蛍光体層を支持するための導電性基材と、前記蛍光体層と前記導電性基材との間に配置された反射層と、を備えたシンチレータパネルにおいて、
    前記導電性基材と前記反射層との間に配置された絶縁層と、
    前記反射層と前記蛍光体層との間に配置された接続防止層とし、
    前記接続防止層は、前記反射層の側に配置されたSiO 層と、前記蛍光体層の側に配置されたポリイミド層とからなる、
    ことを特徴とするシンチレータパネル。
  3. 前記接続防止層は、2μm以上の厚さであって、更に前記絶縁層との厚さの和が20μm以下の厚さであることを特徴とする請求項1又は2記載のシンチレータパネル。
  4. 前記接続防止層は、前記蛍光体の最大ピーク波長での消衰係数が1×10−5以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のシンチレータパネル。
  5. 前記絶縁層と前記接続防止層との少なくとも一方は、前記反射層との接触面の体積抵抗率が1×1010Ωcm以上であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載のシンチレータパネル。
  6. 請求項1からのいずれか1項記載のシンチレータパネルを備えることを特徴とする放射線検出装置。
  7. 請求項記載の放射線検出装置を具備することを特徴とする放射線検出システム。
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