JP4585673B2 - 脱水反応の促進方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルコールとカルボン酸を反応させるエステル化反応やアミンと無水マレイン酸を反応させるマレイミド化反応など水が副成する反応であって、反応系外に水を留去することによって促進される反応をより効率的に行う方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、エステル化反応やマレイミド化反応などの脱水反応は、カルボン酸類とアルコール類やアミン類などを硫酸などの触媒存在下で反応させ、副成する水を溶剤もしくは反応基質と共に反応液中より留去させて反応を促進する方法が採用されている。これらの反応においては、副成する水を反応液中から留去する速度を速めると反応が促進されることが知られており、様々な工夫がなされている。
【0003】
例えば、特開昭55−127429号公報には特殊な撹拌羽根を用い、特開昭54−11996号公報には特殊な形状の反応容器を用いて反応液から速く水を留去する方法が記載されている。しかし、これらの方法は水と共沸する溶剤を使用せず反応溶液の粘度が高い場合に限定される方法であって、一般的には装置費が高くなり経済的に好ましくない。
【0004】
また、特開平8−143512号公報には、反応容器、蒸留塔、熱交換器および水分離器からなる装置において、蒸留塔の塔頂よりアルコールなどを環流させることにより効率的に副成する水を抽出する方法が記載されている。しかし、該方法が適用されるのは、炭素数が1〜8のアルコールを原料とする場合であって、反応条件下で実質的に蒸散しないアルコールを原料とする場合には適用することができない。また、蒸留塔も必要である。
【0005】
なお、特開平9−295958号公報には、反応容器、反応精留塔、熱交換器および水分離器から構成される装置において、(メタ)アクリル酸とアルコール類から(メタ)アクリル酸エステル類を製造するに際し、低沸物と共に反応容器から蒸散流出した(メタ)アクリル酸を精留塔の最下部に至るまでの間に補足剤と接触させることにより、反応精留塔に進入する(メタ)アクリル酸を低減せしめて反応精留塔における(メタ)アクリル酸の重合トラブルを防止できることが開示されている。しかし、上記方法においては、精留塔に進入する(メタ)アクリル酸の量を低減するのが目的であり、反応液からの水を効率的に留去する目的ではない。さらに、反応基質量が282重量部に対し補足剤の投入量が時間あたり350重量部と非常に多く、多大なユーティリティーを要するという問題がある。
【0006】
これら特開平8−143512号公報および特開平9−295958号公報に記載されている方法は、カルボン酸類と反応せしめる基質が反応条件下で蒸散する場合に有効な方法であって、これらの基質を有効利用するために反応装置には蒸留塔が設けられている。この蒸留塔を用いて、蒸発ガス中の水の濃度を高めて水分離器に送ることが可能であり、蒸散ガスが凝縮した液体混合物から水を分離する際に特別な工夫を必要とはしなかった。
【0007】
脱水反応においてカルボン酸類と反応せしめる基質が反応条件下で実質的に蒸散しない場合においては、蒸発ガス中に含まれる原料が実質的に無視量なので蒸留塔などによって蒸発ガス中の原料を回収する必要がなく、従って、特開平9−295958号公報に記載されている様な蒸留塔におけるトラブルを回避するためにも蒸留塔を用いないのが一般的である。その為、カルボン酸類と反応せしめる基質が反応条件下で実質的に蒸散しない場合においては、上記の公知文献に記載されている様に蒸留塔によって蒸発ガス中の副成水を濃縮する手段を持たず、副成する水を効率的に反応液より留去する経済的な方法は知られていなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の状況に着目してなされたものであり、本発明の目的は、カルボン酸類と反応条件下で実質的に蒸散しない基質とを原料として水が副成する反応を実施するに際し、反応系外へ水を効率的に留去せしめて反応を促進させる経済的な方法を提供することにある。
【0009】
本発明者らは、反応容器、熱交換器および水分離器を必須として備え、反応容器と熱交換器が配管で直接に結合されている装置において、カルボン酸類と反応条件下で実質的に蒸散しないアルコール類またはアミン類とを原料として水が副成する反応を実施するに際し、水と共沸混合物を構成する共沸溶剤を用いて副成する水を反応液中より留去しつつ反応せしめ、熱交換器で凝縮された液体から水分離器において水を分離した後の液体の10重量%以上を、反応容器から熱交換器に至るまでの間に反応容器から発生する蒸発ガスに接触させることによって脱水反応が促進されることを見いだし、本発明に到達した。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明が適用されるのは、カルボン酸類を原料とし水を副成する反応であって、具体的には、アルコール類との反応によるエステル化反応やアミン類との反応によるアミド化あるいはマレイミド化反応などを例示することができる。本発明の特徴が有効であるのは、これらカルボン酸類と反応せしめる基質が反応条件下で実質的に蒸散しない場合であって、反応液中より水を留去するためには、水と共沸混合物を形成する共沸溶剤の使用が必須となる場合である。
【0011】
本発明におけるカルボン酸類とは、分子内にカルボキシル基を含有する物質であれば特に制限されるものではないが、例示するならば、蟻酸・酢酸・プロピオン酸・オレイン酸・ステアリン酸などの飽和脂肪族カルボン酸類、アクリル酸・メタクリル酸・無水マレイン酸・マレイン酸・フマル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸類、安息香酸・フタル酸類・ピロメリット酸・ナフタレンジカルボン酸類などの芳香族カルボン酸類などを挙げることができる。
【0012】
また、これらカルボン酸類と反応せしめる反応条件下で実質的に蒸散しない基質とは、反応条件下で発生する蒸発ガス中に含まれる重量比率が5%以下、好ましくは2%以下であれば、特に制限されるものではない。具体的に例示するならば、常圧での沸点が130℃以上のアルコール類やアミン類などであって、エチレングリコール・プロピレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコール・ポリエチレングリコール・トリメチロールプロパン・グリセリンなどの多価アルコール類、ステアリルアルコールなどの炭素数が10個以上のモノアルコール類、アニリン・ベンジルアミン・キシリレンジアミンなどの芳香族アミン類、ジエチレンジアミン・トリエチレンジアミンなどのポリエチレンポリアミン類、イソホロンジアミン・シクロヘキシルアミンなどの脂肪族アミン類、ポリエチレンイミン類などを挙げることができる。なお、蒸発ガス中の重量比率が5重量%を越えると、有効利用するために蒸留塔などを用いて分離回収して再利用する必要が出てくるので好ましくなく、より好ましくは2重量%以下である。
【0013】
また、これらの基質は反応条件下で実質的に蒸散しないので、カルボン酸類に対して大過剰に用いる必要がなくカルボン酸類より少ないモル数で反応を実施することが可能であり、好ましい使用量はカルボン酸類に対し反応部位換算で70〜120モル%であり、より好ましくは80〜110モル%の範囲である。なお、ここで言う反応部位換算とは、カルボン酸類中のカルボキシル基の個数に対する、反応基質中の水酸基あるいはアミノ基の個数比率を意味するものである。
【0014】
なお、本発明で蒸留塔を用いないのは、上記の基質が反応条件下で実質的に蒸散しないので蒸留塔による分離回収が不要であり、特に不飽和カルボン酸などを原料に用いた場合に起こる蒸留塔内での重合等のトラブルを避けると共に、装置費および運転に要するユーティリティーを安価にして経済的に有利とするためである。
【0015】
本発明においては、脱水操作を円滑に行うために、水と共沸組成を形成する溶剤の使用が必須である。この共沸溶剤は、反応容器で水と共に蒸散し熱交換器で凝縮された後、水分離器にて水と分離され反応容器に戻すのが一般的な方法である。従って、水との分離効率を良くするために、水を溶解しない溶剤であることが好ましく、20℃での水の共沸溶剤への溶解度が0.5%以下、より好ましくは0.2%以下である。この様な共沸溶剤の具体例としては、ヘキサン・シクロヘキサン・オクタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン・トルエン・キシレン類・メシチレンなどの芳香族炭化水素類を挙げることができ、溶剤の沸点や経済性などの観点から芳香族炭化水素類の使用が好ましい。共沸溶剤の使用量は特に制限されるものではなく、反応溶液の粘度や沸点などを調整するために適当な使用量とすれば良いが、具体的に例示するならば、使用するカルボン酸類に対し0.5〜10重量倍、より好ましくは1〜8重量倍とすれば良い。
【0016】
本発明における脱水反応は、酸触媒を使用するのが一般的であり、これら酸触媒の例としては、硫酸・リン酸・塩酸・硝酸などの無機酸類、p−トルエンスルホン酸・メタンスルホン酸などの有機酸類、また、これら酸類とアミン類との中和塩などが好適に用いられ、これらをそのまま使用しても、シリカなどの坦体に坦持して用いても良い。また、触媒の使用量は特に制限されるものではなく、公知の範囲をそのまま使用することができる。
【0017】
本発明においては、反応容器から発生する蒸散ガスを直接、熱交換器にて凝縮した後、水分離器にて共沸溶剤を主成分とする有機成分と水とを分離することが必須であり、この際に用いられる水分離方法は特に制限されるものではないが、例示するならば、水分離槽を設けて層分離する方法やデカンターなどの遠心力による分離方法を用いることができる。この分離操作において、分離後の有機成分は反応容器に戻されるのが一般的であり、従って有機成分に含まれる水の含有量が少ない方が脱水反応が良好に進行するので好ましい。
【0018】
本発明の特徴は、該水分離工程において水と分離された液体を反応液から蒸散した蒸発ガスに反応容器から熱交換器に至るまでの間に接触させることにより、脱水反応を促進させることにある。この操作を行うことにより脱水反応が促進される理由は明確ではないが、ひとつは、水分離器から反応容器に戻される共沸溶剤を主成分とする液体中に含まれる水分が低下して反応液に戻る水が減少することによって反応が効率的に進むものと推測される。また、もうひとつは、水分離工程において水と分離された液体を反応液から蒸散した蒸発ガスに反応容器から熱交換器に至るまでの間に接触させることにより反応容器に戻る液体が加熱されて熱効率が向上し、外部から加える熱量が有効利用されて反応液から蒸散するガス量が上がって水を効率的に反応液中から留去できるとも推測される。
【0019】
脱水反応を効率的に進めるためには、反応液中から如何に効率的に水を留去するかが問題であり、一般的には蒸発ガス量を多大なものとして水を留去する方法が採られている。しかし、蒸発ガス量を多くするためには、外部より加える熱量を増やす必要があり経済的に不利である。本発明の方法によれば、蒸発ガス量が少ない場合でも効率的に反応を促進することが可能であり、時間当たりの蒸発ガス量が熱交換器において凝縮される液量として、反応容器内の液容量に対し20〜100%とすることが好ましく、より好ましくは30〜90%である。20%より少ないと水の留去が十分ではなく、100%より多くしても外部より加える熱量が多くなって経済的に不利となるだけである。
【0020】
また、水分離器において水と分離された液体を反応液から蒸散した蒸発ガスに反応容器から熱交換器に至るまでの間に接触させるに際して、蒸発ガスと接触させる液体の量は、好ましくは水分離器にて水と分離された液体に対し、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上の範囲である。10重量%より少ないと反応の促進効果が十分ではない。
【0021】
なお、水分離器において水と分離された液体を反応液から蒸散した蒸発ガスと接触させる方法は特に制限されるものではないが、該液体を霧状に噴霧して接触効率を良くすることが推奨される。接触させる部位も反応容器と熱交換器とを直結する配管内であれば特に制限されるものではないが、接触時間も長い方が好ましいので、反応容器よりの距離をできるだけ長くできる適切な部位にスプレーノズルなどを設置し噴霧することが推奨される。この際、接触効率を良くするために、該液体の噴霧方向は該蒸気の進行方向とは逆方向にすることが好ましい。
【0022】
また、本発明における反応温度は特に制限されるものではなく、従来公知の温度をそのまま適用すれば良いが、本発明においては蒸発ガス中に含まれる原料をできるだけ少なくする方が好ましく、反応容器から発生する蒸発ガスの組成における共沸溶剤の重量比率が好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上である。90%より少ない場合は必然的に原料の割合が多くなり、原料の有効利用のために蒸留分離して回収する装置が必要となる。反応温度は、原料の反応性と揮発性を考慮して、前記の蒸発ガス組成となる範囲で設定することが好ましく、具体的には50〜200℃の範囲、より好ましくは70〜180℃の範囲である。また、反応圧力も反応温度と同様に選択すれば良く、具体的には1〜150kPaの範囲である。
【0023】
【実施例】
実施例1 図1に示す様な付帯装置の付いた内容積10Lの反応容器に、エチレングリコール(1000g、16.1モル)、トルエン(3000g)、p−トルエンスルホン酸(試薬特級、100g)および酸化防止剤として酸化銅(2.8g)を仕込み、空気を吹き込みながらオイルバスにより撹拌下に90℃まで加温した。90℃に到達後、アクリル酸(2787g、38.7モル)を2時間かけて添加すると共に、さらに環流条件まで加温を続けた。アクリル酸添加終了後さらに3時間、環流条件下で反応を行った後、室温まで冷却した。反応溶液温度は時間の進行と共に上昇し、冷却開始直前で130℃であった。また、90℃に到達後30分より、還流量を1500g/hrとし、還流液から水を分離した後の液体の内1000g/hrを図1の(a)よりシャワリングして反応容器より上昇する蒸気と接触させ、残りは直接反応容器に戻す作業を冷却開始直前まで実施した。反応液をガスクロマトグラフィーで定量した所、反応溶液中のエチレングリコールジアクリレートは2463gであり、エチレングリコール基準の収率は90%であった。
【0024】
比較例1 還流液をシャワリングすることなく全量を反応容器に直接戻した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。ガスクロマトグラフィーで定量した所、反応溶液中のエチレングリコールジアクリレートは2244gであり、エチレングリコール基準の収率は82%であった。
【0025】
実施例2 図1に示す様な付帯装置の付いた内容積10Lの反応容器に、オルソキシレン(4000g)、ジブチルジチオカルバミン酸銅(0.25g)およびオルソリン酸(85%、200g)を供給した後、撹拌下にシクロヘキシルアミン(101g、1.02モル)を供給し環流条件下まで加温してオルソリン酸の一部をアミン塩とした触媒を調製した。次に、環流条件下にて無水マレイン酸(550g、5.61モル)およびシクロヘキシルアミン(533g、5.37モル)を1時間かけて添加すると共に、さらに環流条件まで加温を続けた。原料添加終了後さらに3時間、環流条件下で反応を行い、収率測定用のサンプルを採取後に室温まで冷却した。また、反応中の還流量を1500g/hrとし、還流液から水を分離した後の液体の内1000g/hrを図1の(a)よりシャワリングして反応容器より上昇する蒸気と接触させ、残りは直接反応容器に戻す作業を冷却開始直前まで実施した。高速液体クロマトグラフィーで定量した所、反応溶液中のN−シクロヘキシルマレイミドは915gであり、シクロヘキシルアミン基準の収率は95%であった。
【0026】
比較例2 還流液から水を分離した後の液体をシャワリングすることなく全量を反応容器に直接戻した以外は、実施例2と同様の操作を繰り返した。高速液体クロマトグラフィーで定量した所、反応溶液中のN−シクロヘキシルマレイミドは867gであり、シクロヘキシルアミン基準の収率は90%であった。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、反応容器、熱交換器および水分離器を必須として備えた装置において、共沸溶剤を用いて副成する水を反応液中より留去しつつ反応し、熱交換器で凝縮された液体から水分離器において水を分離した後の液体を反応容器から熱交換器に至るまでの間に反応容器から発生する蒸発ガスに接触させることによって脱水反応を効率的に進めることが可能であり、特に還流量が少ない場合において有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施態様を示す概略図である。
Claims (7)
- 反応容器、熱交換器および水分離器を必須として備え、反応容器と熱交換器が配管で直接に結合されている装置において、カルボン酸類と反応条件下で実質的に蒸散しないアルコール類またはアミン類とを原料として水が副成する反応を実施するに際し、水と共沸混合物を構成する共沸溶剤を用いて副成する水を反応液中より留去しつつ反応せしめ、熱交換器で凝縮された液体から水分離器において水を分離した後の液体の10重量%以上を、反応容器から熱交換器に至るまでの間に反応容器から発生する蒸発ガスに接触させることを特徴とする脱水反応の促進方法。
- 反応容器から発生する蒸発ガスの組成における、共沸溶剤の重量比率が90%以上であることを特徴とする請求項1記載の脱水反応の促進方法。
- 反応容器から発生する蒸発ガスの組成における、アルコール類またはアミン類の重量比率が5%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の脱水反応の促進方法。
- 共沸溶剤が実質的に水を溶解しない溶剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の脱水反応の促進方法。
- 共沸溶剤が芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の脱水反応の促進方法。
- カルボン酸類とアルコール類とからエステル類を製造する方法であって、請求項1に記載の脱水反応の促進方法を含む工程からなることを特徴とするエステル類の製造方法。
- 無水マレイン酸とアミン類とからマレイミド類を製造する方法であって、請求項1記載の脱水反応の促進方法を含む工程からなることを特徴とするマレイミド類の製造方法。
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