JP4581843B2 - 転がり軸受用軌道輪の製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、ハードディスクドライブ装置(HDD)の回転支持部或いは揺動支持部の如く、高精度の小型回転支持部に組み込む転がり軸受を構成する為の軌道輪の製造方法の改良に関する。
例えばHDDのハードディスクの回転支持部或はスイングアームの揺動支持部には、図14に示す様な複列転がり軸受ユニット1が組み込まれている。この複列転がり軸受ユニット1は、外輪2と、内輪ユニット3と、複数個の玉4、4とを備える。このうちの外輪2は、円筒状で、内周面に複列の外輪軌道5a、5bを、外周面にフランジ部6を、それぞれ有する。これら両外輪軌道5a、5bは、上記各玉4、4に背面組み合わせ型の接触角を付与する為の、アンギュラ型である。又、上記フランジ部6には、使用時にハードディスクの内周縁部を支持固定するか、スイングアームの基端部を支持固定する。従って、使用状態で上記外輪2は、上記ハードディスクと共に回転するか、上記スイングアームと共に揺動する。
又、上記内輪ユニット3は、1対の内輪7、8を組み合わせて成る。これら両内輪7、8のうちの一方の内輪7は、中心部にねじ孔9を形成した、円筒状のボス部10を有する。又、このボス部10の外周面の中間部一端寄り(図14の右寄り)部分に大径部11を、全周に亙って形成している。そして、この大径部11の外周面のうちの一端部(図14の右端部)に外向フランジ状の鍔部12を、同じく他端部にアンギュラ型の内輪軌道13aを、それぞれ形成している。又、他方の内輪8は、外周面に、この内輪軌道13aと逆向きの接触角を付与する、アンギュラ型の内輪軌道13bを形成しており、上記ボス部10の外周面の他端寄り(図14の左寄り)部分に、締り嵌めで外嵌固定している。
更に、上記各玉4、4は、上記両外輪軌道5a、5bと上記両内輪軌道13a、13bとの間で、背面組み合わせ型の接触角を付与すると共に、保持器14により保持された状態で、転動自在に設けられている。この状態で上記各玉4、4には、上記一方の内輪7に対する上記他方の内輪8の嵌合位置を規制する事により、所望の予圧を付与している。又、この状態で上記鍔部12の外周縁は、上記外輪2の一端部内周面に近接対向して、当該部分にラビリンスシールを構成する。これに対して、上記外輪2の他端部内周面に係止した円輪状の塞ぎ板15の内周縁を上記他方の内輪8の外周面に近接対向させて、当該部分にラビリンスシールを構成している。これら各ラビリンスシールは、上記各玉4、4を設置した部分に存在する潤滑剤が周囲に飛散する事を防止する。
上述の様に構成する複列転がり軸受ユニット1の使用時には、上記内輪7を、HDD等を収めるハウジングの内側に、前記ねじ孔9に螺合した止めねじにより固定する。この止めねじを緊締した状態で、上記鍔部12の軸方向片側面16(図14の右側面)は、上記ハウジング内に設けた基準面に密に当接する。又、前記フランジ部6の軸方向片側面16a(図14の右側面)に、被支持部材であるハードディスク或はスイングアームを支持固定する。この状態で、このハードディスクが上記ハウジングの内側に回転自在に支持されるか、上記スイングアームが揺動自在に支持される。
尚、上記HDDが、例えばノート型パソコンに内蔵するものである場合、上記複列転がり軸受ユニット1の寸法は、上記各玉4、4の直径が0.6mm以下、上記外輪2の軸方向に関する長さL2 が2.5mm以下、この外輪2の本体部分(フランジ部6を除いた部分)の外径D2 が4mm以下である。又、軸方向に関する寸法精度に関しては、上記ハードディスク或はスイングアームの取付面となる、上記フランジ部6の軸方向片側面16aの軸方向位置を、正確に規制する。具体的には、上記複列転がり軸受ユニット1の組立完了後の状態で、前記内輪ユニット3の取付基準面となる、上記鍔部12の片側面16と、上記フランジ部6の軸方向片側面16aとの軸方向寸法を、基準値(設計値)に対して±20μm以内に抑える。又、上記外輪2の基準面となる端面(図14の右端面)17と、上記フランジ部6の軸方向片側面16aとの軸方向寸法に関しても、基準値(設計値)に対して±20μm以内に抑える。
上述の様な、小型でしかも高精度の複列転がり軸受ユニット1を、工業的手法により大量生産する事は難しく、歩留が低くなり易い為、コストが嵩む。特許文献1、2には、円筒状の素材の先端寄り部分に順次旋削加工を施して転がり軸受用の軌道輪を造る方法が記載されているが、この様な方法では、精度確保とコスト低減とを十分に両立させる事が難しい。即ち、熱処理硬化後に旋削加工を施す為、この旋削加工の為の工具の耐久性確保が難しくなり、この面からコスト低減が難しい。又、軌道面の研摩等の仕上加工を、個々の軌道輪に分離した状態で行なう為、仕上加工時にチャッキングしにくい。この為、例えば上述の様な極小の複列転がり軸受ユニット1を構成する外輪2や内輪7の様に、極小でしかも複雑な形状を有する(外周面や内周面にフランジ部や鍔部、内輪軌道、外輪軌道、ねじ孔等が存在する)軌道輪を、低コストで精度良く造る事はできない。
特開平6−246547号公報 特開2004−167668号公報
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、極小でしかも複雑な形状を有する軌道輪を低コストで精度良く造る事ができる、転がり軸受用軌道輪の製造方法を実現すべく発明したものである。
本発明の転がり軸受用軌道輪の製造方法は、先ず、軸方向片側にチャッキング代を備えた、鋼製の素材を用意する。その後、この素材の軸方向他側部分に、少なくとも切削加工と研削加工と熱処理加工とを含む所定の加工を、少なくともこれら各加工のうちの切削加工と研削加工とを、上記チャッキング代を加工装置の把持部に把持した状態で施す。そして、上記軸方向他側部分の形状及び表面の性状を、造るべき転がり軸受用軌道輪と一致する形状及び性状とする。その後、上記軸方向他側部分を上記チャッキング代部分から切断する。尚、本明細書及び特許請求の範囲に記載した研削加工には、超仕上加工を含む。
上述の様に構成する本発明の転がり軸受用軌道輪の製造方法によれば、極小でしかも複雑な形状を有する軌道輪を低コストで精度良く造る事ができる。即ち、鋼製の素材の軸方向片側にチャッキング代を設けているので、加工装置の把持部に対する、この素材の組み付け姿勢を安定させられる。この為、この把持部に対してこの素材を、精度良く把持固定する作業を容易に行なえる様になって、精度確保とコスト低減とを図れる。
本発明を実施する場合に、例えば請求項2に記載した様に、軸受用軌道輪を、中心部にねじ孔を、外周面に内輪軌道を、それぞれ有する円筒状の内輪とする。この様な内輪を造る場合に、先ず、切削加工により、素材の軸方向他側部分の形状をこの内輪に見合う形状とする。その後、少なくともこの軸方向他側部分に、少なくとも上記内輪軌道部分を硬化させる為の熱処理を施す。次いで、少なくともこの内輪軌道部分に研削加工を施してから、この内輪軌道部分に超仕上加工を施す。その後、上記軸方向他側部分をチャッキング代部分から切断する。
この場合に、例えば請求項3に記載した様に、上記内輪の外周面で内輪軌道から軸方向に外れた部分に、この内輪を支持固定する部材の一部に軸方向片側面を突き当てる、外向フランジ状の鍔部を形成する。
この様な構成を採用すれば、前述の図14に示した様な複列転がり軸受ユニット1を構成する内輪7を、低コストで精度良く造れる。
或いは、請求項4に記載した様に、軸受用軌道輪を、内周面に外輪軌道を有する円筒状の外輪とする。この様な外輪を造る場合に、先ず、切削加工により素材の軸方向他側部分の形状を、この外輪に見合う形状とする。その後、少なくともこの軸方向他側部分に、少なくとも表面を硬化させる為の熱処理を施す。次いで、少なくとも上記外輪軌道部分に研削加工を施してから、この外輪軌道部分に超仕上加工を施す。その後、上記軸方向他側部分をチャッキング代部分から切断する。
この場合に、例えば請求項5に記載した様に、上記外輪の外周面に、軸方向側面に被支持部材を支持固定する為のフランジ部を形成する。
この様な構成を採用すれば、前述の図14に示した様な複列転がり軸受ユニット1を構成する外輪2を、低コストで精度良く造れる。
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項6に記載した様に、素材のチャッキング代を加工装置の把持部に把持した後、切削加工と、研削加工と、熱処理加工と、軸方向他側部分を上記チャッキング代部分から切断する切断加工とを含む所定の加工のうち、この切断加工の以前に行なう加工を、このチャッキング代を上記把持部から取り外す事なく行なう。
この場合に、更に好ましくは、請求項7に記載した様に、上記加工装置として、複数の主軸を有する多軸加工装置を使用する。
この様な構成を採用すれば、素材乃至は中間素材を上記加工装置の把持部同士の間で移し替える必要がなくなるので、移し替えに基づく誤差をなくし、得られる軌道輪の精度をより向上させられる。又、加工作業の一層の能率化によるコスト低減も図れる。
更に、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項8に記載した様に、素材の軸方向中間部で、この素材の軸方向他側部分で軸受用軌道輪とすべき部分とチャッキング代部分との間部分に、この素材の外周面とこの軸受用軌道輪とすべき部分の内径側部分とを連通する排出孔を設ける。そして、この排出孔を通じて、この軸受用軌道輪とすべき部分の内径側部分に入り込んだ流体を排出する。
本発明の転がり軸受用軌道輪の製造方法を実施する場合に、中間素材に関して洗浄処理を施す必要がある。この洗浄処理では、この中間素材の表面に付着した油脂を除去する為、脱脂用の洗浄液を使用する。この洗浄処理を効果的に行なう為には、この洗浄液を上記中間素材の内部に流通させる事が好ましいし、洗浄後は、次の工程に移る以前に排出する必要がある。上記請求項8に記載した発明の様に、上記間部分に排出孔を設ければ、上記洗浄処理を効果的に行なえるだけでなく、用済の洗浄液の排出を円滑に行なえる。
図1〜5は、請求項1〜3、8に対応する、本発明の実施例1を示している。本実施例の製造方法では、前述の図14に示した様な複列転がり軸受ユニット1を構成する内輪7を造る。この様な本実施例の場合、先ず、軸方向片側(図1、3〜5の左側、図2の下側)にチャッキング代を備えた、鋼製の素材を用意する。尚、この素材は、上記内輪7の(鍔部12の)外接円の直径以上の外径を有する、円柱状のものでも良いが、加工作業の能率を高める為に、予め鍛造、旋削等により、軸方向他半部(図1の右半部)を、上記内輪7(の完成後の形状)よりも少しだけ大きめの(所定の形状に加工する際に除去する余肉部分が少ない)形状としておく事が好ましい。
上述の様な素材を用意したならば、図1に示す様に、この素材の軸方向片側に設けたチャッキング代18を、旋盤等の加工装置を構成する主軸の先端部に設けた把持部(チャック)19に把持する。そして、この主軸を回転させつつ、上記加工装置の工具台にセットした工具(バイト)20の先端部(切り刃)を上記素材の表面に突き当てて、この素材を所望形状に加工する。具体的には、この素材の中心部にねじ孔9を、外周面に、鍔部12と、内輪軌道13aと、別の内輪8(図14)を外嵌固定すべき円筒面部21を形成して、第一中間素材22とする。尚、この第一中間素材22の軸方向中間部内側には、上記ねじ孔9と連続する中空部23を設けている。そして、この中空部23の内周面と、上記第一中間素材22の軸方向中間部外周面との間に、排出孔24を設けている。尚、上記中空部23及びこの排出孔24は、上記図1に示した状態で形成する事もできるが、特に精度を要求される部分ではないので、予め上記素材に粗加工しておく事が、上記内輪7の製造作業を能率良く行なう面からは好ましい。
本実施例の場合には、上述の様な第一中間素材22を旋削加工により造った後、図2に示す様に、この第一中間素材22を上記把持部19から取り外して、この第一中間素材22に洗浄処理及び熱処理を施す。即ち、この第一中間素材22の少なくとも軸方向他側(図1、3〜5の右側、図2の上側)部分の表面には、この表面部分に旋削加工を施す際に使用した切削油が付着している。この切削油をそのままにして熱処理を施すと、この切削油が蒸発して周囲環境を汚染するだけでなく、熱処理の結果にも悪影響を及ぼす。そこで、上記把持部19から上記第一中間素材22を取り外した後、この第一中間素材22に脱脂・洗浄液を注ぐ事により、この第一中間素材22の表面に付着した上記切削油を除去する。この場合に、上記ねじ孔9の内周面に付着した切削油は、このねじ孔9の開口部から注ぎ込んだ脱脂・洗浄液を、上記排出孔24から排出する事により除去する。
上述の様にして、上記第一中間素材22の表面に付着していた切削油を除去し、更に、上記ねじ孔9内に送り込んだ分を含めて、上記脱脂、洗浄液を排出したならば、上記第一中間素材22に、表面を硬化させる為の熱処理を施す。この熱処理の方法は、必要とされる硬度等に応じて適宜定める。本実施例の場合には、上記第一中間素材22を窒素等の不活性ガス中、或は真空炉中で加熱・急冷(焼き入れ)する事により、上記第一中間素材22の表面を硬化させて、第二中間素材25とする。
この第二中間素材25は、図3に示す様に、研削加工装置を構成する主軸の先端部に設けた把持部(チャック)19aに把持する。そして、この把持部19aを回転させつつ、上記第二中間素材25の軸方向他側部分に形成した、前記内輪7となるべき部分の表面のうちで、特に寸法精度及び表面粗さを向上させるべき部分に、研削加工を施す。本実施例の場合には、前記鍔部12の軸方向他側面(図3の右側面、前述の図14では左側面)を基準として、旋回砥石26を案内する事により、前記内輪軌道13aと前記円筒面部21との表面部分の寸法並びに表面粗さを仕上げて、第三中間素材27とする。尚、上記鍔部12の軸方向片側面16(図3の左側面、前述の図14では右側面)は、前述した様に、複列転がり軸受ユニット1の組立完了後の状態で、前記内輪ユニット3の取付基準面となる。この為、上記片側面16の位置精度及び形状精度(平坦度、直角度)を確保する為に、必要に応じて、この片側面16に関しても、別途回転砥石等により仕上加工を施す事もできる。
この様にして得られた、上記第三中間素材27は、一度上記把持部19aから取り外して、バレル加工を施す。このバレル加工は、上記研削加工により生じたバリを除去すると同時に、上記第三中間素材27の表面層部分に圧縮残留応力を生じさせて、得られた内輪7の耐久性を向上させると共に、この内輪7の表面に、潤滑油を保持する微小な凹凸を形成する為に行なう。
上記第三中間素材27は、上記バレル加工を施した後、図4に示す様に、超仕上加工装置を構成する主軸の先端部に設けた把持部(チャック)19bに把持する。そして、この把持部19bを回転させつつ、上記第三中間素材27の中間部外周面の内輪軌道13aに超仕上砥石28を、振動させつつ押し付ける、超仕上加工を施す。そして、この内輪軌道13aを良好な転がり接触面とした、第四中間素材29とする。
この様にして得られた第四中間素材29は、上記超仕上加工装置の把持部19bに把持したまま、或いは別途旋盤の把持部に移し替えた後、軸方向他側部分をチャッキング代18部分から切断する。即ち、図5に示す様に、上記第四中間素材29のチャッキング代18を把持部19cにより把持した状態でこの把持部19cを回転させつつ、上記第四中間素材29の中間部に突っ切りバイト等の切断用工具30の先端部(切り刃)を突き当てる。そして、上記軸方向他側部分を上記チャッキング代18部分から切り離して、この軸方向他側部分を上記内輪7とする。この様にして得られた内輪7は、この切り離し作業の際に付着した切削油等を除去する洗浄作業を施した後、外輪2、玉4、4等の他の構成部材と組み合わせて、前記複列転がり軸受ユニット1(図14参照)とする。
上述の様にして上記内輪7を造る場合、各工程で、素材乃至は第一〜第四各中間素材22、25、27、29を、軸方向片側に設けたチャッキング代18により確実に把持できる。従って、素材乃至は第一〜第四各中間素材22、25、27、29を削り取る各工程で、これら素材乃至は第一〜第四各中間素材22、25、27、29の姿勢を、容易に安定させられる。この為、上記内輪7の精度確保とコスト低減とを図れる。尚、各部の精度を向上させる仕上工程で、ローラバニシング等の、軽度の鍛造加工等の塑性加工を施す事も考えられる。本発明を実施する場合に、この様な塑性加工に関しても、上記チャッキング代18により中間素材を把持した状態で行なう事が、精度確保の面からは好ましい。
図6〜13は、請求項1、4〜8に対応する、本発明の実施例2を示している。本実施例の製造方法では、前述の図14に示した様な複列転がり軸受ユニット1を構成する外輪2(図13〜14参照)を造る。この様な本実施例の場合、先ず、特許請求の範囲に記載した軸方向片側である基端部(図6〜12の左半部)にチャッキング代31を備えた、鋼製の素材を用意する。尚、この素材に関しても、上述した実施例1の場合と同様に、上記外輪2の(フランジ部6の)外接円の直径以上の外径を有する、円柱状のものでも良いが、加工作業の能率を高める為に、予め鍛造、旋削等により、特許請求の範囲に記載した軸方向他側部分である軸方向先端部(図6〜12の右半部)を、上記外輪2(の完成後の形状)よりも少しだけ大きめの(所定の形状に加工する際に除去する余肉部分が少ない)形状としておく事が好ましい。
上述の様な素材を用意したならば、図6に示す様に、この素材の軸方向片側に設けたチャッキング代31を、多軸加工装置を構成する複数の主軸のうちの、何れかの主軸の先端部に設けた、把持部(チャック、図6〜12には省略、図1、3〜5参照)に把持する。多軸加工装置を使用する理由は、本実施例の場合には、上記外輪2の製造作業の(最終のバリ取り作業を除く)ほぼ総ての工程を、1本の主軸の先端部に設けた把持部に把持した状態のまま(取り外さずに)行なう為、加工装置の稼働を効率良く行なわせる為である。即ち、或る主軸の先端部に把持した素材乃至中間素材に或る加工をしている間に、他の主軸の先端部に把持した他の中間素材に別の加工を施す事により、上記加工装置の稼働率を向上させ、上記外輪2の製造コストの低減を図る為である。この点から、上記主軸の数は、工程の数だけ(本実施例の場合には、図6〜12に示した7工程に見合う、7本)設ける事が好ましい。但し、多少上記外輪2の製造作業の能率が低下しても良ければ、上記主軸の数が上記工程の数(7本)よりも少なくても(最低限1本でも)構わない。
上記図6に示す様に、上記素材を何れかの主軸の先端部に設けた把持部に把持したならば、この主軸を回転させつつ、上記加工装置の工具台にセットした工具(バイト)20の先端部(切り刃)を上記素材の表面に突き当てて、この素材を所望形状に加工する、切削加工を行なう。具体的には、この素材の内周面に複列の外輪軌道5a、5bを、外周面の軸方向中間部にフランジ部6を、同じく一端部(図6の右端部)に雄ねじ部32を、それぞれ形成して、第一中間素材33とする。尚、この第一中間素材33の軸方向中間部内側には、上記両外輪軌道5a、5bの内径側部分と連続する中空部34を設けている。そして、この中空部34の内周面と、上記第一中間素材33の軸方向中間部外周面との間に、排出孔35を設けている。尚、上記中空部34及びこの排出孔35は、上記図6に示した状態で形成する事もできるが、特に精度を要求される部分ではないので、予め上記素材に粗加工しておく事が、上記外輪2の製造作業を能率良く行なう面からは好ましい。
本実施例の場合には、上述の様な第一中間素材33を旋削加工により造った後、図7に示す様にして、上記切削加工時にこの第一中間素材33の表面に付着した切削油を除去する、洗浄作業を行なう。この切削油を除去する理由は、前述した実施例1の場合と同様である。特に、本実施例の場合には、上記洗浄作業を、上記第一中間素材33を上記主軸の先端部に設けた把持部に把持した状態のまま行なう。この為に本実施例の場合には、上記第一中間素材33の先端部で上記切削油を除去すべき部分の周囲を、洗浄用カバー36により覆う。即ち、円筒状に形成されたこの洗浄用カバー36の先端部(図7の左端部)内周面を、上記第一中間素材33の中間部外周面に形成した上記フランジ部6に、ほぼ液密に外嵌する。そして、この洗浄用カバー36を通じて、上記第一中間素材33の先端部に、脱脂・洗浄液を注ぐ事により、この第一中間素材33の表面に付着した上記切削油を除去する。切削油を洗い流した後の、上記脱脂・洗浄液は、前記排出孔35から排出する。この様にして行なう洗浄作業の際、必ずしも主軸を回転させる必要はないが、回転させる事は自由である。
上述の様にして、上記第一中間素材33の表面に付着していた切削油を除去し、更に、上記両外輪軌道5a、5bの径方向内側部分に送り込んだ分を含めて、上記脱脂、洗浄液を排出したならば、上記第一中間素材33に、上記外輪2となるべき部分のうちで、上記フランジ部6を除いた部分を硬化させる為の熱処理を施す。本実施例の場合には、この熱処理を、上記第一の中間素材33を上記主軸の先端部に把持した状態のまま、高周波熱処理により行なう。この為に、上記第一中間素材33の先端部周囲から上記洗浄用カバー36を取り外した後、図8に示す様に、この第一中間素材33の先端部周囲に、焼き入れ用カバー37と高周波加熱コイル38とを配置する。
このうちの焼き入れ用カバー37は、非磁性材製で円筒状に形成されたもので、焼き入れ作業時にはその先端縁を、上記フランジ部6の片側面16a(図8の右側面)に突き当てる。又、上記高周波加熱コイル38は、上記焼き入れ用カバー37の先端部(図8の左端部)に外嵌されており、この焼き入れ用カバー37の先端部を介して、上記第一中間素材33の先端部で上記両外輪軌道5a、5bを形成した部分の周囲に対向する。この第一中間素材33の先端部を高周波熱処理する際には、上記焼き入れ用カバー37内に、窒素等の不活性ガスを流通させつつ、上記高周波加熱コイル38に通電する事により、第一中間素材33の先端部を高周波発熱させた後急冷する。そして、この先端部を、外周面から内周面まで、径方向全体(図8の斜格子部分)に亙って焼き入れ硬化した、第二中間素材39とする。尚、第一中間素材33の先端部を焼き入れ硬化する為の熱処理は、高周波焼き入れに限らず、他の方法でも良い。例えば、上記第一中間素材33を回転させつつこの第一中間素材33の先端部をレーザ照射により発熱させてから急冷する、衝撃焼き入れを行なう事もできる。
何れにしても、上記第一中間素材33の先端部を焼き入れ硬化して成る、上記第二中間素材39には、図9に示す様に、上記両外輪軌道5a、5bの寸法精度及び表面粗さを向上させる為の研削加工を施す。本実施例の場合には、得るべき外輪2の内周面の形状に見合う、即ち、外周面の母線形状がこの外輪2の内周面の母線形状と一致する旋回砥石40を、上記第二中間素材39の先端部の内径側に挿入する。そして、これら旋回砥石40と第二中間素材39とを回転させつつ、この旋回砥石40の外周面をこの第二中間素材39の先端部内周面に押し付ける事により、上記両外輪軌道5a、5bの表面部分の寸法並びに表面粗さを仕上げて、第三中間素材41とする。尚、上記フランジ部6の軸方向片側面16a(図6〜12、14の右側面、図13の下面)は、前述した様に、複列転がり軸受ユニット1の組立完了後の状態で、ハードディスク或はスイングアームの取付基準面となる。この為、上記片側面16aの位置精度及び形状精度(平坦度、直角度)を確保する為に、必要に応じて、この片側面16aに関しても、別途回転砥石等により仕上加工を施す事もできる。
この様にして得られた、上記第三中間素材41の先端部の内径側には、上記旋回砥石40を抜き出してから旋回ブラシ42を挿入する。そして、これら旋回ブラシ42と第三中間素材41とを回転させつつ、この旋回ブラシ42によりこの第三中間素材41の軸方向先端部内周面を撫で付ける事により、上記研削加工により、上記第三中間素材41の先端部内周面に生じたバリを除去する。
上記第三中間素材41は、上記バリ取り加工を施した後、図11に示す様にして、超仕上加工を施す。即ち、主軸及び把持部を介して上記第三中間素材41を回転させつつ、この第三中間素材41の内周面の外輪軌道5a、5bに超仕上砥石43を、振動させつつ押し付ける、超仕上加工を施す。そして、これら両外輪軌道5a、5bを良好な転がり接触面とした、第四中間素材44とする。
この様にして得られた第四中間素材44は、図12に示す様に、前記外輪2となるべき、この第四中間素材44の軸方向先端部を、前記チャッキング代31部分から切断する。即ち、この第四中間素材44のチャッキング代31を把持部により把持した状態で、主軸と共にこの把持部を回転させつつ、上記第四中間素材44の中間部に突っ切りバイト等の切断用工具45の先端部(切り刃)を突き当てる。そして、上記第四中間素材44の軸方向先端部を、図12の鎖線部分で上記チャッキング代31部分から切り離して、この軸方向先端部を上記外輪2とする。
この様にして得られた外輪2は、図13に示す様に、この切り離し作業の際に付着した切削油等を除去する洗浄作業及び切り離し作業の際に生じたバリを除去する為のバリ取り処理を施す。図示の例では、前記フランジ部6の軸方向他側面(図13の上面)を旋回ブラシ42aで撫で付ける事により、このフランジ部6の内外両周縁部に生じたバリを除去すると同時に、この内外両周縁部の角を丸めている。この様にして得られた上記外輪2は、内輪ユニット3、玉4、4等の他の構成部材と組み合わせて、前記複列転がり軸受ユニット1(図14参照)とする。
上述の様にして上記外輪2を造る場合、各工程で、素材乃至は第一〜第四各中間素材33、39、41、44を、軸方向片側に設けたチャッキング代31により確実に把持できる。又、各工程で、このチャッキング代31を異なる把持部同士の間で移し替える事はない。従って、素材乃至は第一〜第四各中間素材33、39、41、44を削り取る各工程で、これら素材乃至は第一〜第四各中間素材33、39、41、44の姿勢を、同じ状態にできる。この為、上記外輪2の精度確保とコスト低減とを図れる。尚、仕上工程で、前述した様な軽度の鍛造加工等の塑性加工を施す場合には、中間素材を上記チャッキング代31により把持したまま行なう事が好ましい。
本発明の実施例1で、素材の軸方向他側部分に、内輪を形成する為の旋削加工を施す状態を示す断面図。 同じく、熱処理を施す状態を示す断面図。 同じく、研削加工を施す状態を示す断面図。 同じく、超仕上を行なう状態を示す断面図。 同じく、内輪をチャッキング代部分から切断する状態を示す断面図。 本発明の実施例2で、素材の軸方向先端部に、外輪を形成する為の旋削加工を施す状態を示す断面図。 同じく、脱脂洗浄を行なう状態を示す断面図。 同じく、熱処理を施す状態を示す断面図。 同じく、研削加工を施す状態を示す断面図。 同じく、バリ取りを行なう状態を示す断面図。 同じく、超仕上を行なう状態を示す断面図。 同じく、外輪をチャッキング代部分から切断する状態を示す断面図。 同じく、切断後に外輪のバリ取りを行なう状態を示す断面図。 本発明の製造方法の対象となる外輪及び内輪を組み込んだ複列転がり軸受ユニットの1例を示す断面図。
符号の説明
1 複列転がり軸受ユニット
2 外輪
3 内輪ユニット
4 玉
5a、5b 外輪軌道
6 フランジ部
7 内輪
8 内輪
9 ねじ孔
10 ボス部
11 大径部
12 鍔部
13a、13b 内輪軌道
14 保持器
15 塞ぎ板
16、16a 片側面
17 端面
18 チャッキング代
19、19a、19b、19c 把持部
20 工具
21 円筒面部
22 第一中間素材
23 中空部
24 排出孔
25 第二中間素材
26 旋回砥石
27 第三中間素材
28 超仕上砥石
29 第四中間素材
30 切断用工具
31 チャッキング代
32 雄ねじ部
33 第一中間素材
34 中空部
35 排出口
36 洗浄用カバー
37 焼き入れ用カバー
38 高周波加熱コイル
39 第二中間素材
40 旋回砥石
41 第三中間素材
42、42a 旋回ブラシ
43 超仕上砥石
44 第四中間素材
45 切断用工具

Claims (8)

  1. 軸方向片側にチャッキング代を備えた鋼製の素材を用意した後、この素材の軸方向他側部分に、少なくとも切削加工と研削加工と熱処理加工とを含む所定の加工を、少なくともこれら各加工のうちの切削加工と研削加工とを、上記チャッキング代を加工装置の把持部に把持した状態で施して、上記軸方向他側部分の形状及び表面の性状を、造るべき転がり軸受用軌道輪と一致する形状及び性状とした後、上記軸方向他側部分を上記チャッキング代部分から切断する転がり軸受用軌道輪の製造方法。
  2. 軸受用軌道輪が、中心部にねじ孔を、外周面に内輪軌道を、それぞれ有する円筒状の内輪であり、切削加工により素材の軸方向他側部分の形状をこの内輪に見合う形状とした後、少なくともこの軸方向他側部分に、少なくとも上記内輪軌道部分を硬化させる為の熱処理を施し、次いで、少なくともこの内輪軌道部分に研削加工を施してから、この内輪軌道部分に超仕上加工を施した後、上記軸方向他側部分をチャッキング代部分から切断する、請求項1に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
  3. 内輪の外周面で内輪軌道から軸方向に外れた部分に、この内輪を支持固定する部材の一部に軸方向片側面を突き当てる、外向フランジ状の鍔部を形成する、請求項2に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
  4. 軸受用軌道輪が、内周面に外輪軌道を有する円筒状の外輪であり、切削加工により素材の軸方向他側部分の形状をこの外輪に見合う形状とした後、少なくともこの軸方向他側部分に、少なくとも表面を硬化させる為の熱処理を施し、次いで、少なくとも上記外輪軌道部分に研削加工を施してから、この外輪軌道部分に超仕上加工を施した後、上記軸方向他側部分をチャッキング代部分から切断する、請求項1に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
  5. 外輪の外周面に、軸方向側面に被支持部材を支持固定する為のフランジ部を形成する、請求項4に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
  6. 素材のチャッキング代を加工装置の把持部に把持した後、切削加工と、研削加工と、熱処理加工と、軸方向他側部分を上記チャッキング代部分から切断する切断加工とを含む所定の加工のうち、この切断加工の以前に行なう加工を、このチャッキング代を上記把持部から取り外す事なく行なう、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
  7. 加工装置として、複数の主軸を有する多軸加工装置を使用する、請求項6に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
  8. 素材の軸方向中間部で、この素材の軸方向他側部分で軸受用軌道輪とすべき部分とチャッキング代部分との間部分に、この素材の外周面とこの軸受用軌道輪とすべき部分の内径側部分とを連通する排出孔を設け、この排出孔を通じて、この軸受用軌道輪とすべき部分の内径側部分に入り込んだ流体を排出する、請求項1〜7のうちの何れか1項に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
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