JP4581742B2 - 耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管及びその製造方法 - Google Patents
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Description
以上のような粉体塗料を用いた防食被覆に対して、液体塗料を用いた防食被覆も行われているが、この液体塗料による防食被覆は、粉体塗料を用いた防食被覆に比べて防食性能の持続性、耐陰極剥離性、温水二次密着性等が劣る欠点があり、高い防食性を得るためには粉体塗料を用いた防食被覆が好ましい。
したがって本発明の目的は、耐震性と防食性がともに優れた樹脂被覆鋼管及びその製造方法を提供することにある。
(1)軸方向の引張試験により得られる公称応力−公称歪み曲線の比例限から歪量5%までのいずれの歪量においても公称応力/公称歪みの勾配が正であり且つ一様伸びが5%以上、降伏比が80%以下の鋼管の表面に、防食被覆の少なくとも一部として、180〜220℃の温度範囲で完全硬化するまでの時間が3分以下である粉体塗料による樹脂被覆層を有することを特徴とする耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管。
(2)上記(1)の樹脂被覆鋼管において、粉体塗料がエポキシ粉体塗料であることを特徴とする耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管。
(3)上記(1)又は(2)の樹脂被覆鋼管において、防食被覆が、粉体塗料による樹脂被覆層と、その上層に形成される1層以上のポリオレフィン樹脂被覆層からなることを特徴とする耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管。
(5)上記(4)の製造方法において、粉体塗料がエポキシ粉体塗料であることを特徴とする耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管の製造方法。
(6)上記(4)又は(5)の製造方法において、防食被覆として、粉体塗料による樹脂被覆層を形成した後、その上層に1層以上のポリオレフィン樹脂被覆層を形成することを特徴とする耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管の製造方法。
また、母材鋼管としては、クロメート処理、燐酸塩処理等の下地処理やその他の前処理を施したものが含まれる。一般の樹脂被覆鋼管では、素管表面に対して塗装下地としてクロメート処理や燐酸塩処理が施される。
本発明の樹脂被覆鋼管は、鋼管(母材鋼管)の表面に、180〜220℃の温度範囲で完全硬化するまでの時間が3分以下である粉体塗料(x)による樹脂被覆層を有する。ここで、粉体塗料が「完全硬化」するとは、カナダ規格CSA−Z245.20−02に準拠して示差走査熱量測定(DSC)によって硬化した塗膜を測定した際に、発熱の反応ピークが検出されない状態であって、且つ1回目の走査と2回目の走査間でのガラス転移温度(Tg)の差が−2℃〜+3℃の範囲に入っている状態を指す。
粉体塗料(x)により樹脂被覆層を形成するには、鋼管を180〜220℃の温度範囲に予熱し、その表面に静電粉体塗装法や流動浸漬法により粉体塗料を付着させ、鋼管の予熱温度で粉体塗料を溶融・熱硬化(完全硬化)させる。
また、粉体塗料(x)による樹脂被覆層(プライマー層)とその上層のポリオレフィン樹脂層からなる複層樹脂被覆を形成する場合、通常、ポリオレフィン樹脂層は下層側の接着樹脂層と上層側の防食樹脂層からなり、さらに防食樹脂層はそれ自体が多層からなる場合もある。プライマー層の膜厚は200〜500μm程度、ポリオレフィン樹脂層の膜厚は2〜5mm程度とすることが好ましい。
本発明の製造方法では、公称応力−公称歪み曲線の勾配が正で且つ一様伸びが5%以上、降伏比が80%以下の鋼管の表面に、180〜220℃の温度範囲で完全硬化するまでの時間が3分以下である粉体塗料(x)を塗装して180〜220℃の温度で溶融・熱硬化させることにより、防食被覆層の少なくとも一部となる樹脂被覆層を形成する。通常、粉体塗料(x)を上記温度で溶融・熱硬化させるために、鋼管は180〜220℃の温度範囲に予熱され、この予熱された鋼管に対して粉体塗料(x)の塗装が行われる。
鋼管を加熱(予熱)する際の加熱手段に特別な制限はなく、誘導加熱やバーナーによる直火加熱等の任意の手段を用いることができるが、加熱の迅速性、温度制御性などの点で誘導加熱装置、特に高周波誘導加熱装置が好ましい。
粉体塗料の塗装は、一般に静電粉体塗装法や流動浸漬法により行われる。静電粉体塗装法では、予熱した鋼管の表面に静電塗装機を用いて粉体塗料を吹き付け、鋼管の予熱温度で粉体塗料を溶融・熱硬化させることにより樹脂被覆を形成する。また、流動浸漬法では、予熱した鋼管を粉体塗料が入れられた流動浸漬槽に浸漬して引き上げ、鋼管の予熱温度で粉体塗料を溶融・熱硬化させることにより樹脂被覆を形成する。
また、複層樹脂被覆の場合には、上記粉体塗料(x)の塗装によりプライマー層が形成され、引き続き、その上層にポリオレフィンなどの樹脂層が少なくとも1層被覆されることで、樹脂被覆鋼管が得られる。この上層の樹脂層は、プライマー塗装後の昇温状態にある鋼管に、溶融押出樹脂シートを被覆する等の方法により形成される。通常、この樹脂層の樹脂としてはポリオレフィン系樹脂が用いられ、一般にこのポリオレフィン系樹脂層は下層側の接着樹脂層と上層側の防食樹脂層からなり、さらに防食樹脂層はそれ自体が多層からなる場合もある。また、樹脂層の被覆方法は、Tダイ法、丸ダイ法が一般的であるが、これらに限定されるものではない。Tダイ法においては、下層側の接着樹脂層と上層側の防食樹脂層をそれぞれ単独で押出被覆してもよい。
なお、本発明は、防食被覆の少なくとも一部として、上記粉体塗料(x)による樹脂被覆層が形成される任意の樹脂被覆鋼管及びその製造方法に適用することができる。
パイプライン等の用途に用いられる鋼管(UOE鋼管、スパイラル鋼管、電縫鋼管、プレスベンド鋼管等)の多くは、熱延鋼板を素材とし、冷間成形と溶接による製管工程を経ることにより製造されるが、上述した耐震性鋼管を得るために、鋼管の素材となる熱延鋼板を以下のような化学成分及び製造条件で製造することが好ましい。
(A)化学成分
・C:0.03〜0.15mass%
Cは鋼材の強度を確保するとともに、ベイナイト相の生成を促進するために必要な元素である。Cが0.03mass%未満ではベイナイトの生成量が不足し、一方、0.15mass%を超えて添加すると溶接性を劣化させるので、0.03〜0.15mass%とする。
・Si:0.01〜1.0mass%
Siは強度を高めるため、また、製鋼工程における脱酸剤として添加する。Siが0.01mass%未満ではその効果が十分でなく、一方、1.0mass%を超えて添加すると溶接部の靭性が劣化するので、0.01〜1.0mass%とする。
・Mn:0.5〜2.0mass%
Mnは強度を高めるために添加する。Mnが0.5mass%未満では強度が不足し、一方、2.0mass%を超えて添加すると母材と溶接部の靭性及び溶接性が劣化するので、0.5〜2.0mass%とする。
Cu、Ni、Cr、Moは選択的添加元素であり、強度を高める場合にそれらの1種又は2種以上を添加する。これら各元素の添加量が0.05mass%未満では添加による効果が十分でなく、一方、0.5mass%を超えると溶接性が劣化するので、0.05mass%〜0.5mass%とする。
・Nb:0.005〜0.1mass%、V:0.005〜0.1mass%、Ti:0.005〜0.1mass%
Nb、V、Tiも選択的添加元素であり、靭性及び強度を高める場合にそれらの1種又は2種以上を添加する。これら各元素の添加量が0.005mass%未満では添加による効果が十分でなく、一方、0.1mass%を超えると溶接部の靭性を劣化させるので、0.005〜0.1mass%とする。
鋼の化学成分は、以上に規定された元素を含有していれば所望の効果が得られ、したがって、不純物元素としてのP,S、脱酸剤として添加されるAl、その他の微量元素を含んでいてもよい。
・スラブ加熱温度:1000〜1200℃
加熱温度が1000℃未満ではNb等の炭窒化物形成元素が十分固溶せず、圧延中に析出する炭窒化物が少なくなり、十分な強度が得られない。一方、加熱温度が1200℃を超えると組織が粗大化し、靭性が劣化するとともに、スケール疵が生じやすくなるため、スラブ加熱温度は1000〜1200℃とする。
・冷却開始温度:(Ar3+40)〜(Ar3−80)℃
冷却開始温度が(Ar3+40)℃より高い場合、冷却前のフェライトの析出量が少なく、ベイナイトの生成量が十分に確保できない。一方、冷却開始温度が(Ar3−80)℃より低くなるとパーライトが生成するようになり、ベイナイトが得られなくなる。このため冷却開始温度は(Ar3+40)〜(Ar3−80)℃とする。
平均冷却速度は、冷却前後での鋼板表面温度の低下量を△T(℃)、冷却時間を△t(sec)とした場合、△T/△t(℃/sec)で求めるが、上記冷却開始温度からの平均冷却速度が5℃/sec未満では、必要な金属組織(フェライト・ベイナイトの2相組織)と十分な強度を得られず、このため平均冷却速度を5℃/sec以上とする。
・冷却停止温度:250〜550℃
上記平均冷却速度での冷却の冷却停止温度は、ベイナイトの生成量を確保し、低降伏比と高n値を得るために550℃以下とする。しかし、冷却停止温度が250℃未満では、耐震性が低下するため、その下限を250℃とする。その後の冷却条件は特に限定する必要はなく、常法に従い冷却すればよい。
以上のようにして得られた熱延鋼板を冷間成形と溶接によって製管し、鋼管とする。成形方法は、UOEプロセス、スパイラルプロセス、プレスベンド等、冷管成形であればいかなる方法でもよい。
C:0.04mass%、Si:0.15mass%、Mn:1.5mass%、Cu:0.25mass%、Ni:0.2mass%、Mo:0.1mass%、Nb:0.01mass%、残部Fe及び不可避不純物からなる化学成分のスラブを1100℃に加熱して熱間圧延した後、720℃から380℃までを5℃/secの平均冷却速度で冷却し、その後、放冷し、板厚30mmの熱延鋼板(Ar3:754℃)を製造した。この熱延鋼板をOD24inch×30mmWTのUOE鋼管に製管した。
この鋼管の外面に対して、グリットブラストによる前処理(粗さRz:50〜70μm、清浄度Sa:2.5以上)を施した後、クロメート処理(乾燥温度:80℃)を施し、次いで、下記粉体塗料(A),(B)のいずれかを用いた塗装を施して鋼管表面に防食被覆を形成し、その後、水冷により鋼管を常温まで冷却し、樹脂被覆鋼管を得た。
・粉体塗料(A):220℃で完全硬化するまでの時間が約110秒のフェノール硬化系エポキシ粉体塗料(密度:1.40、粉体粒径:250μm以下、Tg:105±5℃)
・粉体塗料(B):220℃で完全硬化するまでの時間が約210秒のジシアンジアミド硬化系エポキシ粉体塗料(密度:1.44、粉体粒径:200μm以下、Tg:108±3℃)
(1)耐震性(公称応力−公称歪み曲線の勾配、降伏比、一様伸び)
鋼管の耐震性の指標である公称応力−公称歪み曲線の勾配、降伏比及び一様伸びを、樹脂被覆鋼管の管軸方向から採取した全厚引張試験片を用いて評価した。試験条件を以下に示す。なお、公称応力−公称歪み曲線の勾配は、比例限から歪量5%までのいずれの歪量においても公称応力/公称歪みの勾配が正となっているものを“正”とし、いずれかの歪量で負となっているものを“負”として示した。一様伸びが5%未満の場合には、一様伸び以下の歪量の範囲で勾配を評価した。
・引張り速度:5mm/min
ASTM G8に準拠して、以下に示す条件で行った陰極剥離試験により防食性を評価した。初期孔端からの剥離距離が10mm以下のものを“○”、10mm超のものを“×”とした。
・初期孔:6mmφ
・電圧:−1.5V
VS SCE
・電解質:3%食塩水
・温度:80℃
・期間:30日
実施例1と同様の鋼管(前処理、クロメート処理も同様)に、下記粉体塗料(A),(B)、液体塗料(C)のいずれかを用いた塗装を施して鋼管表面にプライマー層を形成した。
・粉体塗料(A):220℃で完全硬化するまでの時間が約110秒のフェノール硬化系エポキシ粉体塗料(密度:1.4、粉体粒径:250μm以下、Tg:105±5℃)
・粉体塗料(B):220℃で完全硬化するまでの時間が約210秒のジシアンジアミド硬化系エポキシ粉体塗料(密度:1.44、粉体粒径:200μm以下、Tg:108±3℃)
・液体塗料(C):160℃で完全硬化するまでの時間が約60秒のエポキシ液体塗料(ジャパンエポキシレジン(株)製、主剤:エピコート828+はじき止め処方剤、硬化剤:エポメートB002、主剤と硬化剤の配合比率2:1)
(i)変性ポリエチレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリエチレン、融点121℃、MFR1.0、膜厚0.2〜0.5mm)とポリエチレン樹脂層(高密度ポリエチレン、密度0.943、融点124℃、MFR0.24、膜厚3.0mm)からなる2層溶融押出樹脂シートを螺旋状に鋼管に巻き付けて防食被覆層を形成した。
(ii)変性ポリプロピレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリプロピレン、融点160℃、MFR0.9(230℃,2.16kg)、膜厚0.2〜0.5mm)とポリプロピレン樹脂層(ブロックタイプポリプロピレン、密度0.9、融点140℃、MFR10(230℃,2.16kg)、膜厚3.0mm)からなる2層溶融押出樹脂シートを螺旋状に鋼管に巻き付けて防食被覆層を形成した。
製造された樹脂被覆鋼管について、実施例1と同様の方法で、公称応力−公称歪み曲線の勾配、降伏比及び一様伸びの測定を行った。また、防食性は、ポリエチレン樹脂による防食被覆層(上記(i)の防食被覆層)を有する発明例1〜6及び比較例1〜5については、実施例1と同様の方法・基準で評価し、ポリプロピレン樹脂による防食被覆層(上記(ii)の防食被覆層)を有する発明例7については、下記の方法・基準で評価した。それらの結果を、樹脂被覆鋼管の製造条件とともに表2に示す。
ASTM G8に準拠して、以下に示す条件で行った陰極剥離試験により防食性を評価した。初期孔端からの剥離距離が7mm以下のものを“○”、7mm超のものを“×”とした。
・初期孔:6mmφ
・電圧:−1.5V
VS SCE
・電解質:3%食塩水
・温度:100℃
・期間:30日
C:0.05mass%、Si:0.15mass%、Mn:1.53mass%、Cu:0.01mass%、Ni:0.01mass%、Cr:0.03mass%、Mo:0.15mass%、Nb:0.029mass%、V:0.03mass%、Ti:0.010mass%、残部Fe及び不可避不純物からなる化学成分のスラブを1100℃に加熱して熱間圧延(未再結晶温度域での圧下率:65%)した後、700℃から350℃までを40℃/secの平均冷却速度で冷却し、その後、空冷により室温まで冷却し、板厚14.3mmの熱延鋼板を製造した。この熱延鋼板をUOEプロセスにより外径610mmの鋼管に製管した。
製造された樹脂被覆鋼管について、実施例1と同様の方法で、公称応力−公称歪み曲線の勾配、降伏比及び一様伸びの測定と防食性の評価を行い、さらに、軸圧縮試験による限界座屈歪の測定を行った。この軸圧縮試験では、長さ1800mmの供試鋼管の両端に耐圧版を取り付けた後、大型圧縮試験装置によって軸方向圧縮を加え、圧縮荷重が最大となる点を限界座屈歪とした。また、参考例として、樹脂被覆前の鋼管(素管)についても、公称応力−公称歪み曲線の勾配、降伏比、一様伸び及び限界座屈歪の測定を、上記と同様の方法で行った。以上の結果を、樹脂被覆鋼管の製造条件とともに表3に示す。
Claims (6)
- 軸方向の引張試験により得られる公称応力−公称歪み曲線の比例限から歪量5%までのいずれの歪量においても公称応力/公称歪みの勾配が正であり且つ一様伸びが5%以上、降伏比が80%以下の鋼管の表面に、防食被覆の少なくとも一部として、180〜220℃の温度範囲で完全硬化するまでの時間が3分以下である粉体塗料による樹脂被覆層を有することを特徴とする耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管。
- 粉体塗料がエポキシ粉体塗料であることを特徴とする請求項1に記載の耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管。
- 防食被覆が、粉体塗料による樹脂被覆層と、その上層に形成される1層以上のポリオレフィン樹脂被覆層からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管。
- 軸方向の引張試験により得られる公称応力−公称歪み曲線の比例限から歪量5%までのいずれの歪量においても公称応力/公称歪みの勾配が正であり且つ一様伸びが5%以上、降伏比が80%以下の鋼管の表面に、180〜220℃の温度範囲で完全硬化するまでの時間が3分以下である粉体塗料を塗装して180〜220℃の温度で熱硬化させることにより、防食被覆の少なくとも一部となる樹脂被覆層を形成することを特徴とする耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管の製造方法。
- 粉体塗料がエポキシ粉体塗料であることを特徴とする請求項4に記載の耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管の製造方法。
- 防食被覆として、粉体塗料による樹脂被覆層を形成した後、その上層に1層以上のポリオレフィン樹脂被覆層を形成することを特徴とする請求項4又は5に記載の耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管の製造方法。
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