JP4957185B2 - 塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管用熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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一般に、ラインパイプなどに用いられる電縫鋼管は、造管後、防食などの目的で重防食コーティング(塗装焼付け)が施されるが、長手方向に造管歪が残った状態で重防食コーティングが施され、その際に例えば250℃×10分程度で焼付けが行われると、鋼中に残存している固溶元素が固着されて歪時効が起こり、YRが増大してしまう。
一方で、ラインパイプは、海底や凍土地帯に敷設することが多く、溶接部を含む電縫鋼管全体に優れた靭性が要求される。
低YR化を狙いとする電縫鋼管用熱延鋼板としては、例えば、Mo+Crを特定の範囲で含有し、面積率1〜20%のマルテンサイトとフェライトからなる組織を有する鋼板が、特許文献1に提案されている。
したがって本発明の目的は、塗装焼付け後に低YRを示し、且つ高靭性を有する電縫鋼管を安定して得ることができる、電縫鋼管用熱延鋼板とその製造方法を提供することにある。
[1]質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.01%以下を含有し、さらに、CrおよびMoを、Cr:0.01%以上1.5%未満、Mo:0.05%以上0.3%未満であって、且つ下記(1)式を満足する条件で含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
パーライトの体積率が3%以下(但し、0%を含む)であり、残部が、フェライトと、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトの中から選ばれる1種以上の第二相からなり、該第二相の体積率が1.5%以上15%未満である複合組織を有し、アスペクト比1以上4未満のフェライト粒の個数が組織中の全結晶粒の50%超であることを特徴とする、塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管用熱延鋼板。
−1.11×(Cr)2+0.1<Mo<−0.13×(Cr)2+0.3 …(1)
但し Cr:Cr含有量(質量%)
Mo:Mo含有量(質量%)
[3]上記[1]又は[2]の鋼板において、さらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Sn:0.5%以下、Sb:0.5%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管用熱延鋼板。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの鋼板において、さらに、質量%で、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管用熱延鋼板。
[6]上記[1]〜[4]のいずれかの熱延鋼板を造管して得られたことを特徴とする、塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管。
C量が0.01%未満では、所望の強度が得られないことに加え、結晶粒の粗大化により靭性の劣化を招く。一方、0.1%を超えるとパーライトが生成しやすくなり、靭性が劣化する。このためC量は0.01〜0.1%とする。
Siは、二相分離を促進し、フェライトをポリゴナル状にすること、およびベイナイト変態の安定化に極めて有用である。しかし、Si量が1.0%を超えると電縫溶接時に酸化物が生成しやすくなり、溶接部靭性が劣化する。このためSi量は1.0%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下とする。なお、二相分離を効果的に促進するには、Si量は0.01%以上とすることが望ましい。
Pも強度確保に有効であり、且つ第二相の形成にも寄与する。しかし、Pは非常に粒界に偏析しやすい元素であり、このためP量が0.05%を超えるとYRが増加するとともに、靭性も劣化するので好ましくない。このためP量は0.05%以下、好ましくは0.03%以下とする。
Alは製鋼段階での脱酸剤として用いられ、0.01%以上含有するように添加する必要がある。しかし、Al量が0.10%を超えると、鋼中酸化物を増加させ、母材および溶接部の靭性を低下させるので好ましくない。このためAl量は0.01〜0.10%、好ましくは0.01〜0.05%とする。
N量が0.01%を超えると、粗大な窒化物形成による靭性の劣化に加え、固溶Nが塗装焼付け後に歪時効を起こし、YRを劣化させる。このためN量は0.01%以下とする。
−1.11×(Cr)2+0.1<Mo<−0.13×(Cr)2+0.3 …(1)
但し Cr:Cr含有量(質量%)
Mo:Mo含有量(質量%)
一方、Cr量が1.5%以上では溶接時に酸化物を生成し、靭性が劣化するので、Cr量は1.5%未満、より望ましくは1.0%以下、特に望ましくは0.8%以下とする。一方、所望の組織を得るという観点から、Crの下限は0.01%とすることが好ましい。また、Mo量が0.3%以上では、大幅なコスト増に繋がるだけでなく、熱延冷却過程において所望の組織を得ることができず、低YRを達成できないので、Mo量は0.3%未満とする。一方、所望の組織を得るという観点から、Mo量は0.05%以上、望ましくは0.10%以上、特に望ましくは0.15%以上とすることが好ましい。但し、コストの面からは、Mo量は0.20%程度を上限とすることが好ましい。
以上の理由から、Cr量は1.5%未満(望ましくは1.0%以下、特に望ましくは0.8%以下)、Mo量は0.3%未満(望ましくは0.05%以上、より望ましくは0.10%以上、特に望ましくは0.15%以上)とし、かつ上記(1)式を満足する範囲とする。
まず、Nb:0.5%以下、Ti:0.5%以下、V:0.5%以下、Zr:0.5%以下の中から選ばれる1種以上を添加することができる。これらの元素は、主に熱延冷却過程において炭化物を析出する元素であり、強度確保に有用であるばかりでなく、フェライト中の固溶Cを減少させるので、本発明が狙いとする塗装焼付け後の低YR化に寄与する。また、一部は熱延仕上圧延中に析出することでオーステナイト粒の微細化に寄与し、所望のポリゴナル状フェライト+第二相の組織形成に有効に作用する。しかし、いずれも0.5%を超えて添加すると、過剰な析出強化によりYRが高くなる。
さらに、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下の中から選ばれる1種以上を添加することができる。これらの元素を適量添加することで、硫化物の形態制御が可能となる。それにより靭性向上が期待できる。しかし、いずれも0.01%を超えて添加すると、鋼中に酸化物を多く残存させ、逆に靭性を劣化させる。
本発明の熱延鋼板は、第一相であるフェライトと、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトの中から選ばれる1種以上の第二相とを主体とする複合組織を有し、且つアスペクト比1以上4未満のフェライト粒の個数が組織中の全結晶粒の50%超を占めるものである。
ここで、アスペクト比1以上4未満のフェライト粒とは、いわゆるポリゴナル状フェライトのことであり、本発明者らは、塗装焼付け後の低YRと高靭性を確保するには、鋼板の組織を構成する全結晶粒のうち50%超をポリゴナル状のフェライトにすることが必要であることを見出した。
なお、本発明では、フェライト粒のアスペクト比は、各粒に内接する最大の楕円を求め、この楕円の長辺と短辺の比(=長辺/短辺)と定義する。
したがって、本発明の熱延鋼板の好ましい複合組織は、パーライトの体積率が3%以下(但し、0%を含む)であり、残部が、フェライト(但し、アスペクト比1以上4未満のフェライト粒の個数が組織中の全結晶粒の50%超)と、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトの中から選ばれる1種以上の第二相からなり、且つこの第二相の体積率が15%未満の複合組織である。
なお、本発明において、各組織の粒数や体積率は、鋼板の圧延方向断面のミクロ組織を走査型電子顕微鏡にて観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡で得られた倍率3000倍の断面組織写真を用い、画像解析により任意に設定した100mm四方の正方形領域内に存在する各組織の粒数を数える。また、第二相全体の体積率の測定は、上記の写真を用いて画像処理により第二相占有面積率を求め、それを第二相の体積率とする。また、フェライト粒のアスペクト比は、同写真を用いて各粒に内接する最大の楕円を求め、その楕円の長辺/短辺として求める。
本発明では、上述した成分組成を有する鋼(スラブ)を加熱して熱間圧延するが、この熱間圧延の仕上圧延では、Ar3変態点〜Ar3変態点+100℃の範囲で50%以上、好ましくは60%以上の圧下率を確保する必要がある。このような特定の温度域で高い圧下率を確保するのは、変態前のオーステナイト粒径を小さくし、その後の熱延冷却過程(ランナウト冷却)でのγ→α変態の変態核を増やすためである。また、第二相も細かく分散させることができ、靭性向上にも寄与する。なお、仕上圧延においてAr3変態点〜Ar3変態点+100℃以外の温度域での圧下率には特に制限はない。
圧延終了後の冷却速度は、例えば、ランナウト冷却において鋼板に注水する冷却水の水量密度を調整することなどにより容易に制御することができる。
上述したような造管工程を経た場合、管長手方向に引張歪若しくは圧縮歪が残留するのが一般的であるが、いずれの歪が残留しても、本発明の効果は損なわれない。
製造された熱延鋼板について、各組織の粒数および第二相の体積率を、次のようにして測定した。各鋼板の圧延方向断面のミクロ組織を走査型電子顕微鏡にて観察し、倍率3000倍の断面組織写真を得た。この断面組織写真を用いて、画像解析により任意に設定した100mm四方の正方形領域内に存在する各組織の粒数を数えた。また、同写真を用い画像処理により第二相占有面積率を求め、それを第二相の体積率とした。
各熱延鋼板を造管して電縫鋼管(外径20インチ)とし、その溶接シーム部靭性と塗装後YRを以下の方法で測定した。それらの結果を、熱延鋼板の製造条件、組織とともに表2に示す。
溶接シーム部靭性は、JIS Z 2202の4号試験片を、電縫鋼管の円周方向から、ノッチが電縫溶接部と平行で且つ中心にくるように採取し、この試験片を用い破面遷移温度vTrs(延性破面率が50%になる温度)で評価した。
(2)塗装後YR
電縫鋼管に重防食コーティング(250℃×10分)を施した後、鋼管長手方向のYR値で評価した。引張特性は小型の丸棒引張試験機を用いて測定した。ここで、YRは、0.5%引張時の応力/引張強さの比と定義される。
なお、本実施例では、目標をYR<90%、vTrs≦−30℃とした。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.01%以下を含有し、さらに、CrおよびMoを、Cr:0.01%以上1.5%未満、Mo:0.05%以上0.3%未満であって、且つ下記(1)式を満足する条件で含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
パーライトの体積率が3%以下(但し、0%を含む)であり、残部が、フェライトと、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトの中から選ばれる1種以上の第二相からなり、該第二相の体積率が1.5%以上15%未満である複合組織を有し、アスペクト比1以上4未満のフェライト粒の個数が組織中の全結晶粒の50%超であることを特徴とする、塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管用熱延鋼板。
−1.11×(Cr)2+0.1<Mo<−0.13×(Cr)2+0.3 …(1)
但し Cr:Cr含有量(質量%)
Mo:Mo含有量(質量%) - さらに、質量%で、Nb:0.5%以下、Ti:0.5%以下、V:0.5%以下、Zr:0.5%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管用熱延鋼板。
- さらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Sn:0.5%以下、Sb:0.5%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管用熱延鋼板。
- さらに、質量%で、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管用熱延鋼板。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の成分組成を有する鋼を加熱して熱間圧延し、該熱間圧延ではAr3変態点〜Ar3変態点+100℃の温度域での圧下率を50%以上とする仕上圧延を行い、圧延を終了して少なくとも0.5秒を経過してから冷媒を用いた冷却を開始するとともに、該冷却の開始から巻取りまでの平均冷却速度を3〜40℃/sとし、400〜600℃で巻取ることを特徴とする、塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管用熱延鋼板の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の熱延鋼板を造管して得られたことを特徴とする、塗装後降伏比の低い高靱性電縫鋼管。
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