JP4577892B2 - 筆記具 - Google Patents
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Description
当該ペン芯は、インキタンクの内圧が高くなってペン先からインキが漏出しようとしたとき、このインキを一時的にペン芯の櫛溝部などのインキ保溜部へ導き、またインキタンクの内圧が低くなりペン先からインキが後退しようとしたとき、この後退に代わってインキ保溜部に溜まったインキをインキタンクに後退させ、インキ供給を安定させる機能を果たす。該ペン芯には、櫛溝状のものの他、蛇腹状のものなど多種多様な形状のものが存在する。
そのため従来から、硫酸を主剤としたエッチング溶液にペン芯を浸し、その後水洗処理を行うことにより、ペン芯表面を酸化させるとともに粗面化してペン芯表面の表面張力を上昇させる改質方法を行ってきた。
しかしながら、上記方法において使用されるエッチング溶液は、硫酸を主剤として無水クロム酸及びリン酸などからなる混合溶液を使用しているので、毒性があり、皮膚、粘膜を刺激し、時には火傷を引き起こす可能性があり、取扱いが困難であるという問題があった。
特許文献2には、その具体的な例示として、−OH、=CO、−COOH、−NH3、−SO3H等の親水基を挙げ、それらを有する樹脂が開示されている。
特許文献3には、親水性溶液の主剤として、ポリビニルアルコールやアクリル酸エステルの開示がある。
該文献等には、それらの樹脂による表面改質効果により、インキの濡れ性等の改質が図られる旨の記載があるが、特許文献2においては、その例示された親水性コートによっては、ペン芯の改質効果としては不十分なものであり、特許文献3においては、その改質膜が膨潤被膜であるので、経時的にインキ中に溶け出すおそれがあり、問題のあるものであった。
しかしながら、硫酸処理を行うことから、安全性等の問題が残っている他、別の化学種のエマルジョンによる数度の処理を施す必要があることから、一回的な処理ができず、工程の繁雑さも解決できないものであった。また、その工程上、表面には最終処理で成膜することになる酢酸ビニル系の皮膜しか存在しないので、表面改質性も不十分であった。
すなわち、本発明は、
「1.ペン芯とインキタンクおよびそれに充填されたインキとを少なくとも有する筆記具であって、ペン芯がその表面を酢酸ビニルおよびアクリル酸エステルを含むコポリマーによって被覆したものであり、該被覆されたペン芯のインキに対する接触角がそれぞれ静的接触角40〜75°、動的接触角40〜70°であることを特徴とする筆記具。」に関する。
ペン芯の表面を上記コポリマーによって被覆することによりベースとなる樹脂材に対して密着性がよく、適度な親水性を有するペン芯を得ることができる。
しかしながら、AS樹脂などの合成樹脂材は、そのままでは表面の疎水性が大きく、インキの濡れ性に劣るものである。そこで、その表面改質を行う必要があるのである。
複合コポリマーでない従来の表面改質ポリマーが数次に分けて処理する必要があったのに対し、上記コポリマーは、酢酸ビニルとアクリル酸エステルなどを複合的に含むので、両者の相乗作用が期待でき、その結果ペン芯のベース樹脂材への密着とインキに対する濡れ性の制御が一回的に解決されるのである。
つまり、上記コポリマーが、疎水性のある酢酸ビニルを含むことでベース樹脂材に対して密着性に富み、かつ親水性のあるアクリル酸エステルを併せて含むために、使用する水性インキに対して良好な濡れ性を発揮することができるのである。
水に対する静的接触角は60〜80°が好適である。ペン芯として良好に機能するためには、ただ水に濡れればよいというわけではなく、適度な範囲に調整されることが必要であることは、インキに対する接触角における考え方と同様である。上記範囲内であれば、水性ベースのインキにおいて、良好な性能を得ることができる。
また、三以上の多元系のコポリマーも含み、好適な一例としては、酢ビ−アクリル酸アルキルエステル系の多元系コポリマーなどが挙げられ、酢ビ−アクリル酸アルキルエステル−クロトン酸コポリマーが良好に使用できる。
該コポリマーに限らず、多元系のコポリマーを使用する際には、コポリマー中のアクリル酸エステルと共に組成する化学種の分子量や炭素鎖長が過大でないことが必要である。過大であると、コポリマーの主要部となる共重合ユニットが適当であっても、静的接触角、動的接触角が良好にならない場合が出るからである。
アクリル酸エステルの含有量は直接改質被膜の親水性の度合いに影響するからである。上記範囲を下回ると、疎水性の傾向が強く出すぎて、濡れ性が失われてしまう結果、インキの吐出性が悪化する傾向がある。上記範囲を上回ると、親水性が過ぎることによりバランスが崩れ、濡れすぎる結果、インキのぼた落ちや垂れ下がりが生じたり、インキが出すぎるなどの筆記時に好ましくない症状が出やすい傾向がある。
エマルジョンによる処理方法については、上記コポリマーのエマルジョンを適宜希釈し、ペン芯に塗布することで目的の性能を得ることができる。その際の塗布方法には特に限定はないが、一例を挙げると、単純にエマルジョン中にペン芯材料を浸し、その後液切りをし、乾燥させることなどで容易に得ることができる。
また、濡れ性や密着性をさらに向上させるために事前にペン芯素材の表面を粗すなどの従前の手法による前処理などを行ってもよい。
AS樹脂をベース素材とする櫛溝状ペン芯を成形部材として用意し、該ペン芯を市販のアルカリ性洗剤を含む水溶液に浸漬し、その後、水洗・乾燥した(前処理1)。その後、該ペン芯をブラスト処理して表面を粗面化させた。
次に該ペン芯を、本発明に使用するコポリマーとして、酢ビ−アクリル酸アルキルエステル−クロトン酸コポリマー(アクリル酸エステル含有量3質量%)のエマルジョン(エマルジョン濃度1質量%)に5分間浸漬した後、取り出し、余剰の液を除去し、均一な薄膜を形成した後に、50 ℃で12時間乾燥し、表面に酢ビ−アクリル酸アルキルエステル−クロトン酸コポリマーの薄膜が構成されたペン芯を得た。
その後、万年筆用ペン先を装着し、インキを充填したインキカートリッジを配して筆記具を構成した。
実施例1で使用した酢ビ−アクリル酸アルキルエステル−クロトン酸コポリマーの薄膜のインキに対する静的接触角は黒色インキ46.7°、青インキ46.7°、動的接触角は黒色インキ44.2°、青インキ53.5°であった。
また、水に対する静的接触角は67.5°であった。
静的接触角(測定方法:液滴法)
ペン芯材料と同じ素材にて成形し、上記のようにコポリマーの薄膜を形成したプレート上にインキ(水)滴を形成させ、水滴上の3点を指定し、気/液界面とプレート表面がなす角度を測定することにより、接触角を求めた。測定は、5回繰り返し行い、その平均値を採って本発明における接触角とした。
使用するインキを所定容器に溜め、その中に長さ50mm×幅10mm×厚さ2mmのプレートを進入させたときにできるメニスカスの高さを静止画像測定により、接触角を求めた。
測定にあたっては、協和界面科学株式会社製、接触角計 CA−X型 メニスカス法システムオプション MS-11型(商品名)を使用し、有意差のあるドライの前進接触角(乾いたプレートをインキ中に沈めていく時の接触角)を測定し、本発明の動的接触角とした。
得られたペン芯を筆記具に組み込み筆記試験を行った。
筆記具は(株)パイロットコーポレーション社製、万年筆FKK1000Rを用いた。
インキとしては、(株)パイロットコーポレーション社製、万年筆用黒インキと青インキを用い、そのインキ物性は、それぞれ以下のとおりであった。
黒インキ:表面張力39mN/m、比重1.0、粘度1.3mPa・s
青インキ:表面張力44mN/m、比重1.0、粘度1.1mPa・s
・垂れ下がり性能
周囲を減圧下に置いたときのペン先からの滴落下の有無を観察した。
○・・・滴形成および滴落下が見られなかった。
△・・・滴形成が見られたが滴落下は見られなかった。
×・・・滴落下が見られた。
・筆記性能1
濾紙上に直線筆記をした際のインキ追従性を観察した。
○・・・連続した筆跡が得られた。
△・・・一部線切れが見られた。
×・・・インキの追従不良を生じ、筆記できなかった。
・筆記性能2
60度の角度で固定したペンの切割り上に濾紙をおき、一定速度で動かした際のインキ追従性を観察した。
○・・・連続した吸取り(インキ追従)が可能であった。
△・・・一部、途切れるところがあった。
×・・・インキの追従不良が生じ、吸取りができなかった。
実施例1で用いたコポリマーを表1に記載したものに換えた以外は実施例1と同様にして表面に当該コポリマーの薄膜が構成されたペン芯を得た。
それぞれのアクリル酸エステル含有量、エステル基炭素数、インキに対する接触角、水に対する接触角、評価等は表1に示した。
実施例1で用いたコポリマーを表1に記載した樹脂材料に換えた以外は実施例1と同様にして表面に当該ポリマーの薄膜が構成されたペン芯を得た。
それぞれのアクリル酸エステル含有量、エステル基炭素数、インキに対する接触角、水に対する接触角、評価等は表1に示した。
比較例4〜5(エステル基=エチルヘキシル)のようにアクリル酸エステル含有量等が適当であっても、静的接触角が最適範囲とはならない場合があり、その場合は好適なペン芯処理材料とはならない。
Claims (1)
- ペン芯とインキタンクおよびそれに充填されたインキとを少なくとも有する筆記具であって、ペン芯がその表面を酢酸ビニルおよびアクリル酸エステルを含むコポリマーによって被覆したものであり、該被覆されたペン芯のインキに対する接触角がそれぞれ静的接触角40〜75°、動的接触角40〜70°であることを特徴とする筆記具。
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JP2005131779A JP4577892B2 (ja) | 2005-04-28 | 2005-04-28 | 筆記具 |
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