JP4569742B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を有する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、化学蒸着形成した状態でα型の結晶構造を有し、かつ1〜15μmの平均層厚を有する蒸着α型酸化アルミニウム(以下、蒸着α−Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
(a)工具基体の表面に、通常の化学蒸着装置で、下部層として、通常の条件で、上記Ti化合物層を形成した後、同じく通常の条件で、蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造を有するAl2O3(以下、蒸着κ,θ−Al2O3で示す)層を形成し、
ついで、同じく化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:体積%で、TiCl4:0.2〜3%、CO2:0.2〜10%、Ar:5〜50%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜1100℃、
反応雰囲気圧力:4〜70kPa、
時間:15〜60分、
の条件で処理して、前記Al2O3層の表面に、
組成式:TiOX 、
で表わした場合、同じくオージェ分光分析装置で測定して、X値がTiに対する原子比で1.2〜1.9、を満足するTi酸化物薄層を0.15〜1μmの平均層厚で形成し、
この状態で、加熱変態処理、望ましくは圧力:7〜50kPaのAr雰囲気中、温度:1000〜1200℃に5〜80分保持の条件で加熱変態処理を施して、前記蒸着κ,θ−Al2O3層をα型結晶構造のAl2O3層に変態させると、前記変態前の蒸着κ,θ−Al2O3層の表面に形成したTi酸化物薄層の作用で前記κ型またはθ型の結晶構造からα型結晶構造への変態が全面同時的に開始し、かつ前記加熱変態の進行が著しく促進されることから、変態時に発生する割れ(クラック)が同時発生的に形成されるので、きわめて微細に、かつ一様に分散分布した状態となると共に、加熱変態処理時間の短縮化によって結晶粒の成長が著しく抑制されるようになり、この結果形成された加熱変態α型Al2O3層(以下、変態α−Al2O3層で示す)は、変態発生割れおよび結晶粒に関して、層全体に亘って微細にして均一化された組織を有するようになるので、機械的熱的衝撃に対してきわめて強固なものとなり、したがって、硬質被覆層の上部層が前記変態α−Al2O3層、下部層が上記Ti化合物層(このTi化合物層には上記の条件での加熱処理では何らの変化も起らない)で構成された被覆サーメット工具においては、特に激しい機械的熱的衝撃を伴なう高速断続切削加工でも前記変態α−Al2O3層が、高強度を有する前記Ti化合物層の共存と相俟って、すぐれた耐チッピング性を発揮することから、硬質被覆層におけるチッピング発生が著しく抑制され、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すようになること。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)に概略説明図で示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、所定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記従来の蒸着α−Al2O3層は、図3に例示される通り、(0001)面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、前記変態α−Al2O3層は、図2に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、このシャープな最高ピークは、Ti酸化物薄層の組成式:TiOX におけるX値を変化させることによりグラフ横軸の傾斜角区分に現れる位置が変わること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、蒸着κ,θ−Al2O3層の表面に、
組成式:TiOX 、
で表わした場合、オージェ分光分析装置で測定して、X値がTiに対する原子比で1.2〜1.9を満足するTi酸化物薄層を0.15〜1μmの平均層厚で化学蒸着形成した状態で、加熱変態処理を施して、前記蒸着κ,θ−Al2O3層の有する結晶構造をα型結晶構造に変態してなると共に、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、所定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、1.50〜10.00度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜86%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、かつ1〜15μmの平均層厚を有する変態α−Al2O3層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を有する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
(a)下部層(Ti化合物層)の平均層厚
Ti化合物層は、自体がすぐれた高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高い高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層である変態α―Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
Ti酸化物薄層は、上記の通り蒸着κ,θ−Al2O3層の変態α−Al2O3層への加熱変態を全面同時的に開始して、加熱変態時に発生する割れを微細化および均一化するほか、前記加熱変態を促進し、処理時間の短縮化によって結晶粒の成長を抑制する作用を有し、さらに、前記Ti酸化物薄層には、組成式:TiOX におけるX値を、上記の通りTiに対する原子比で1.2〜1.9とすると、試験結果によれば、これに対応して、傾斜角度数分布グラフにおける1.50〜10.00度の傾斜角区分範囲内に測定傾斜角の最高ピークが現れ、かつ0〜10度の傾斜角区分範囲内に存在する度数の合計割合が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上となる傾斜角度数分布グラフを示す作用があり、したがって、前記X値が1.2未満では、前記変態α−Al2O3層の傾斜角度数分布グラフの1.50〜10.00度の範囲内に現れるピーク高さが不十分、すなわち、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計割合が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%未満となってしまい、この場合上記の通り、前記変態α−Al2O3層に所望のすぐれた高温強度を確保することができず、この結果耐チッピング性に所望の向上効果が得られず、一方そのX値が1.9を越えると、最高ピークの現れる傾斜角区分が1.50〜10.00度の範囲から外れてしまい、この場合も前記変態α−Al2O層に所望のすぐれた高温強度を確保することができないことから、そのX値をTiに対する原子比で1.2〜1.9と定めた。
また、この場合上記Ti酸化物薄層の平均層厚が0.15μm未満では上記の作用を十分に発揮させることができず、一方前記作用は1μmの平均層厚で十分であり、これ以上の厚さは不必要であることから、その平均層厚を0.15〜1μmと定めた。
変態α−Al2O3層は、Al2O3自体のもつすぐれた高温硬さと耐熱性によって硬質被覆層の耐摩耗性を向上させると共に、上記の通り自身の具備するすぐれた耐機械的熱的衝撃性(耐チッピング性)によって、高速断続切削加工でも硬質被覆層にチッピングが発生するのを著しく抑制する作用を有するが、その平均層厚が1μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記の変態α−Al2O3層および蒸着α−Al2O3層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
なお、図2は、本発明被覆サーメット工具8の変態α−Al2O3層の傾斜角度数分布グラフ、図3は、従来被覆サーメット工具9の蒸着α−Al2O3層の傾斜角度数分布グラフをそれぞれ示すものである。
被削材:JIS・SCr420Hの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:380m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:10分、
の条件での合金鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は200m/min)、
被削材:JIS・S40Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:1.0mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:10分、
の条件での炭素鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は200m/min)、
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:10分、
の条件での鋳鉄の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は200m/min)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、化学蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層の表面に、
組成式:TiOX 、
で表わした場合、オージェ分光分析装置で測定して、X値がTiに対する原子比で1.2〜1.9を満足するTi酸化物薄層を0.15〜1μmの平均層厚で化学蒸着形成した状態で、加熱変態処理を施して、前記κ型またはθ型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層の結晶構造をα型結晶構造に変態してなると共に、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、所定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、1.50〜10.00度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜86%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、かつ1〜15μmの平均層厚を有する加熱変態α型酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を有する表面被覆サーメット製切削工具。
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