この種の潤滑装置において、始動時には、オイルパン内のオイルレベルが一旦大きく低下する。この始動時にオイルポンプにより吸入されて被潤滑部材に供給されたオイルは、しばらく時間が経過すると重力の作用でオイルパンに還流して来る。しかしながら、低温始動時(特に極低温始動時)においては、オイルの粘度が非常に高いため、オイルパンからオイルポンプ及び被潤滑部材を介してオイルパンに還流するオイルの還流速度は非常に遅い。そして、始動時に被潤滑部材に向けて送出されたオイルがオイルパンに還流して来る前に、オイルパン内からオイルが次々とオイルポンプによって吸い出される。よって、低温始動時においては、オイルパン内のオイルレベルが大きく下がった状態がある程度の時間継続することがある。
ここで、低温始動時におけるオイルパン内のオイルの貯留量が少ない場合、オイルポンプの吸入口よりもオイルレベルが下がって当該吸入口から空気が吸入され、オイルポンプから被潤滑部材へのオイル送出圧が低下し、被潤滑部材へのオイルの供給量が不足する事態が生じ得る。
特に、上述の特許文献1に記載の装置においては、オイルポンプから送出されたオイルの一部が、ピストン冷却のためのオイルノズルに供給されるため、低温始動時にオイルノズル以外に供給されるべきオイルの量が不足しやすかった。
さらに、この種の潤滑装置における暖機運転時間の短縮を図るための所謂2槽式オイルパンを備えた潤滑装置の場合、オイルパン内部が2つの区画に分割されている。よって、前記吸入口が配置された区画(第1室)のオイル貯留量は、通常の(1槽式)オイルパンのオイル貯留量よりも少ない。そして、当該潤滑装置においては、暖機運転中における両区画の間のオイルの交流が制限されている。したがって、従来の2槽式オイルパンを備えた潤滑装置においては、低温始動時(すなわち暖機運転開始時)における第1室のオイルレベルの低下が著しく、暖機運転中に第1室のオイルレベルがオイルポンプのオイル吸入口よりも低くなって被潤滑部材へのオイルの供給量が不足する事態が生じやすかった。
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ピストン等の特定の被潤滑部材を冷却するためのオイルノズルを備えた、エンジン等の潤滑装置において、良好な潤滑状態が実現され得る潤滑装置を提供することにある。
(1)本発明の対象となる潤滑装置は、被潤滑部材の潤滑のためのオイルを貯留するオイルパンと、そのオイルパン内に貯留されたオイルを吸入して前記被潤滑機構に向けて送出するオイルポンプと、そのオイルポンプにより送出されたオイルの一部を前記被潤滑部材の冷却のために当該被潤滑部材に向けて噴射するオイルノズルと、を備えている。そして、上述の目的を達成するため、本発明の特徴は、前記構成を有する潤滑装置が、さらに、前記オイルパン内のオイルレベルに応じた信号を出力するオイルレベルセンサと、そのオイルレベルセンサの出力に応じて前記オイルノズルのオイル噴射状態を変更するオイル噴射状態変更手段と、を備えたことにある。
かかる構成を備えた本発明の潤滑装置においては、例えば、オイルパン内のオイルレベルが低い場合、当該低いオイルレベルに対応するオイルレベルセンサの出力に応じて、オイル噴射状態変更手段により、オイルノズルにおけるオイル噴射が制限(停止ないし噴射量の減少)される。具体的には、オイルレベルが限界レベル以下となった場合に、オイルノズルにおけるオイル噴射が停止される。あるいは、オイルレベルが制限開始レベル以下となった場合に、オイルノズルにおけるオイル噴射量が制限され、当該制限量はオイルレベルが下がるに従って増加し、限界レベルに達した時点でオイル噴射が停止される。これにより、当該オイルノズルにおけるオイル噴射の制限に係るオイル量が、被潤滑部材における潤滑に供され得る。したがって、オイルパン内のオイルレベルに応じて、被潤滑部材における潤滑状態が良好に保持され得るようなオイルノズルのオイル噴射状態が設定され得る。
(2)本発明の他の特徴は、前記構成(1)の潤滑装置が、さらに以下の構成を備えたことにある。前記オイルパンは、オイルパンカバーとオイルパンセパレーターとを備えている。オイルパンカバーは、オイルを内側の空間内に貯留可能に構成されている。オイルパンセパレーターは、オイルを貯留可能なオイルパンカバーの内側の空間を、前記オイルポンプのオイル吸入口が配置された第1室と、その第1室に隣接する第2室とに分割するように、当該空間内に配置されている。前記オイルレベルセンサは、前記第1室内のオイルレベルに応じた信号を出力するように配置されている。
かかる構成を備えた本発明の潤滑装置においては、暖機運転中における第1室と第2室との間のオイルの交流が制限されている。例えば、オイルパンセパレーターには、前記第1室と前記第2室との間でオイルが交流可能なオイル連通路が設けられていて、前記オイル連通路は、前記被潤滑機構における暖機運転の状態に応じて前記第1室と前記第2室との間のオイルの交流状態が変化するように構成されている。
本発明の構成によれば、低温始動時に第1室内のオイルレベルが急激に低下してオイルポンプのオイル吸込口よりも低くなることが可及的に防止され得る。よって、当該構成によれば、2槽式オイルパンを備えた潤滑装置におけるオイルパン内のオイルレベルに応じて、被潤滑部材における潤滑状態が良好に保持され得るようなオイルノズルのオイル噴射状態が設定され得る。
(3)本発明の他の特徴は、前記構成(1)又は(2)の潤滑装置が、さらに、オイルの温度に応じた信号を出力する油温センサを備え、前記オイル噴射状態変更手段が前記オイルレベルセンサ及び油温センサの出力に応じて前記オイルノズルのオイル噴射状態を変更するように構成されたことにある。
具体的には、例えば、オイル噴射状態変更手段は、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)等を用いて、前記限界レベル,制限開始レベル,制限量等を、オイルの温度に応じて設定するように構成されている。
かかる構成を備えた本発明の潤滑装置においては、例えば、オイルの温度が非常に低温でオイルの粘度が非常に高い場合、オイルノズルのオイル噴射量を制限するオイルパン内(第1室内)のオイルレベルを高めに設定することで、低温始動時におけるオイルポンプのオイル吸込口からの空気の吸入が可及的に防止され得る。また、オイルの温度が高温で粘度が低い場合、オイルノズルのオイル噴射量を制限するオイルパン内(第1室内)のオイルレベルを低めに設定することで、オイルノズルによるオイル噴射により冷却すべき特定の被潤滑部材における充分な冷却効果が得られる。
(4)本発明の対象となるエンジンは、ピストンを往復運動可能に内蔵するシリンダが形成されたシリンダブロックを備え、前記ピストンを含む複数の被潤滑部材を内蔵するエンジンブロックと、前記シリンダブロックに接続され、当該エンジンブロック内の潤滑のためのオイルを貯留するオイルパンと、そのオイルパン内に貯留されたオイルを吸入して前記被潤滑部材に向けて送出するオイルポンプと、そのオイルポンプから送出されたオイルの一部を前記ピストンの下部に向けて噴射する第1噴射口を備えたオイルノズルと、を備えている。
そして、上述の目的を達成するため、本発明の特徴は、前記構成を有するエンジンが、さらに、前記オイルパン内のオイルレベルに応じた信号を出力するオイルレベルセンサと、そのオイルレベルセンサの出力に応じて前記オイルノズルのオイル噴射状態を変更するオイル噴射状態変更手段と、を備えたことにある。
かかる構成を備えた本発明のエンジンにおいては、例えば、オイルパン内のオイルレベルが低い場合、当該低いオイルレベルに対応するオイルレベルセンサの出力に応じて、オイル噴射状態変更手段により、オイルノズルにおけるピストン冷却のためのオイル噴射が制限(停止ないし噴射量の減少)される。具体的には、オイルレベルが限界レベル以下となった場合に、オイルノズルにおけるピストン冷却のためのオイル噴射が停止される。あるいは、オイルレベルが制限開始レベル以下となった場合に、オイルノズルにおけるピストン冷却のためのオイル噴射量が制限され、当該制限量はオイルレベルが下がるに従って増加し、限界レベルに達した時点で当該オイル噴射が停止される。これにより、当該オイルノズルにおけるオイル噴射の制限に係るオイル量が、ピストンの冷却以外のエンジン内の潤滑に供され得る。
(5)本発明の他の特徴は、前記構成(4)のエンジンが、さらに以下の構成を備えたことにある。前記オイルパンは、オイルパンカバーとオイルパンセパレーターとを備えている。オイルパンカバーは、オイルを内側の空間内に貯留可能に構成されている。オイルパンセパレーターは、オイルを貯留可能なオイルパンカバーの内側の空間を、前記オイルポンプのオイル吸入口が配置された第1室と、その第1室に隣接する第2室とに分割するように、当該空間内に配置されている。前記オイルレベルセンサは、前記第1室内のオイルレベルに応じた信号を出力するように配置されている。かかる構成のエンジンは、上述の構成(2)と同様に作用する。
(6)本発明の他の特徴は、前記構成(4)又は(5)のエンジンが、さらに、オイルの温度に応じた信号を出力する油温センサを備え、前記オイル噴射状態変更手段が前記オイルレベルセンサ及び油温センサの出力に応じて前記オイルノズルのオイル噴射状態を変更するように構成されたことにある。かかる構成のエンジンは、上述の構成(3)と同様に作用する。
(7)本発明の他の特徴は、前記構成(4)ないし(6)のエンジンが、さらに以下の構成を備えたことにある。前記オイルノズルは、前記オイルポンプにより送出されたオイルの一部を前記シリンダの内壁(以下、単に「シリンダ壁」と称する)に向けて噴射する第2噴射口をさらに備えている。前記オイル噴射状態変更手段は、前記第1及び第2噴射口のオイル噴射状態を変更するように構成されている。
かかる構成を備えた本発明のエンジンにおいては、例えば、オイルパン内(第1室内)のオイルレベルが低い場合、オイル噴射状態変更手段は、シリンダ壁に向けて(主としてシリンダ壁とピストンとの潤滑のために)噴射する第2噴射口からオイルを適量だけ噴射させつつ、ピストンの下部に向けて(主としてピストン冷却のために)噴射する第1噴射口におけるオイルの噴射を制限する。第2噴射口から噴射されたオイルは、ピストンの下部のピストンスカートによって掻き落とされ、オイルパン内(第1室内)に迅速に還流する。これにより、ピストンの潤滑を良好にしつつ、その他の被潤滑部材に対してオイルを供給するためのオイルパン内のオイル貯留量が可及的に確保され得る。
一方、オイルパン内(第1室内)のオイルレベルが高い場合、オイル噴射状態変更手段は、(第2噴射口におけるオイルの噴射を制限しつつ)第1噴射口の噴射の制限を解除する。これにより、ピストンが充分冷却されてエンジンの耐久性等が向上する。
本発明によれば、オイルパン内のオイルレベルに応じて、被潤滑部材における潤滑状態が良好に保持され得るようなオイルノズルのオイル噴射状態が設定され得る。したがって、本発明によれば、ピストン等の(冷却されることが性能上好ましい)特定の被潤滑部材の冷却が適宜行われつつ、(特に低温始動時における)良好な潤滑状態が実現され得るエンジン等の潤滑装置を提供することが可能になる。
以下、本発明の実施形態(本願の出願時点において取り敢えず出願人が最良と考えている実施形態)について図面を参照しつつ説明する。
<エンジンの概略構成>
図1は、本発明の実施形態である多気筒のエンジン10の概略構成を示している。このエンジン10は、シリンダヘッド及びシリンダブロックを含む被潤滑機構としての本体部(エンジンブロック)20と、そのエンジンブロック20の下端部に接続されたオイルパン30と、当該エンジン10の内部の潤滑のためのオイルを当該エンジン10内で循環させるための潤滑系統40とを備えている。
エンジンブロック20には、ピストン21、クランクシャフト22、カムシャフト23等の複数の被潤滑部材が配置されている。オイルパン30は、その内側の空間内に、エンジンブロック20内の潤滑のためのオイルを貯留可能に構成されている。
潤滑系統40は、オイルパン30の内側に貯留されているオイルが当該オイルパン30内から吸い出されて前記被潤滑部材へ供給され、当該被潤滑部材からオイルパン30内に還流し得るように、以下の通り構成されている。
オイルパン30の内側に貯留されているオイルを吸入する吸入口41aを底部に備えたオイルストレーナー41が、オイルパン30の前記内側の空間内に配置されている。このオイルストレーナー41は、エンジンブロック20内に設けられたオイルポンプ42に向けてオイルを送出するための金属製の管であるストレーナー流路43と接続されている。
オイルポンプ42は、周知のロータリーポンプから構成されており、そのローター42aは、クランクシャフト22と共に回転するように当該クランクシャフト22と機械的に結合されている。このオイルポンプ42は、エンジンブロック20の内部に形成されたオイル流路であるポンプ入口流路42bを介してストレーナー流路43と接続されている。また、オイルポンプ42は、エンジンブロック20の内部に形成されたオイル流路(エンジンブロック20を構成する金属塊の内部に形成されたトンネル状の穴:以下同様)であるポンプ出口流路42cと接続されている。すなわち、オイルストレーナー41、ストレーナー流路43、及びポンプ入口流路42bを介してオイルポンプ42に吸入されたオイルは、当該オイルポンプ42からポンプ出口流路42cへ送出されるようになっている。ポンプ出口流路42cは、エンジンブロック20の外部に設けられたオイルフィルタ44と接続されていて、オイルポンプ42から送出されたオイルがオイルフィルタ44に導入されるようになっている。
オイルフィルタ44は、エンジンブロック20の内部に形成されたオイル流路であるメインオイルホール45と接続されていて、オイルフィルタ44によって濾過されたオイルがメインオイルホール45に供給されるようになっている。メインオイルホール45から分岐するオイル流路であるサブオイルホール46は、エンジン10内の各部へオイルを供給するオイル供給路として形成されている。
エンジンブロック20の下部には、各気筒に対応してオイルノズル47が装着されている。このオイルノズル47は、各気筒においてピストン21の背面方向にオイルを噴射し得るように構成されている(詳細は後述する)。エンジンブロック20の内部には、オイル還流路48が形成されていて、当該オイル還流路48を通ってオイルが被潤滑部材からオイルパン30に重力の作用で還流するようになっている。
<第1実施形態の要部構成>
図2は、図1に示されている前記エンジン10の第1実施形態の概略構成図である。この図2においては、エンジン10の底部(オイルパン30の周辺)が断面図として表されているとともに、エンジン10の中腹部(ピストン21からオイルポンプ42まで)が概略図として表されている。
<<オイルパン>>
本実施形態におけるオイルパン30は、当該オイルパン30の外側カバーを構成するバスタブ状の部材であるオイルパンカバー31と、そのオイルパンカバー31の上方に重ねられるように配置されたバスタブ状の部材であるオイルパンセパレーター32とから構成されている。オイルパンカバー31は、鋼板をプレス加工することによって一体成形されている。オイルパンセパレーター32は、熱伝導性の低い合成樹脂を射出成形することにより一体成型されている。
オイルパンカバー31は、底板31aと、その底板31aの周囲に立設された側板31bと、その側板31bの上端縁から外側に向けて水平に伸びるように形成されたフランジ部31fとから構成されている。この底板31aと側板31bとで囲まれた空間(以下、単に「オイルパンカバー31の内側の空間」と称する)は、上方のエンジンブロック20に含まれるシリンダブロック20aに向けて開口した凹部として構成されていて、当該凹部の内側の空間内にオイルを貯留することができるようになっている。この凹部の底部を構成する底板31aにはドレインボルト孔31dが設けられている。このドレインボルト孔31dは、M12のボルトであるドレインボルト36が捩じ込まれ得る雌ねじ山が形成された貫通孔として形成されている。
オイルパンセパレーター32は、底板32aと、その底板32aの周囲に立設された側板32bと、その側板32bの上端縁から外側に向けて水平に伸びるように形成されたフランジ部32fとから構成されている。この底板32aと側板32bとで囲まれた空間は、上方のシリンダブロック20aと連通するように当該シリンダブロック20aに向けて開口した凹部として構成されている。この凹部の底部には、オイルストレーナー41が配置されている。このオイルストレーナー41は、その吸入口41aが、底板32aの内面(上面)から所定の狭い間隔(例えば10mm程度)を隔てるように配置されている。すなわち、当該凹部によって、オイルストレーナー41の吸入口41aが配置された第1室30aが形成されている。
オイルパンカバー31のフランジ部31fとオイルパンセパレーター32のフランジ部32fとが積み重ねられるように、オイルパンカバー31の上方(図中上方、すなわちシリンダブロック20aに向かう方向)にオイルパンセパレーター32が積み重ねられている。これにより、オイルパンセパレーター32における前記凹部が、オイルパンカバー31の内側の空間内に収容されるように配置されている。そして、前記積み重ねられたフランジ部31f及び32fがボルト33によってシリンダブロック20aの下端面20a1に固定されることで、オイルパンカバー31及びオイルパンセパレーター32がエンジンブロック20に対して装着されている。これにより、第1室30aは、上方のエンジンブロック20に配置された被潤滑部材(図1におけるピストン21やクランクシャフト22等)から還流して来る戻りオイルを受容し得るようになっている。
また、オイルパンカバー31の底板31aと、オイルパンセパレーター32の底板32aとの間には、所定の間隙が設定されている。これにより、第1室30aの下方及び側方に、オイルパンカバー31とオイルパンセパレーター32とで囲まれた空間が形成されている。すなわち、当該空間により、第1室30aの下方及び側方に隣接して配置された空間である第2室30bが形成されている。
オイルパンセパレーター32の側板32bの中腹部ないし上部(後述するオイルレベルFとオイルレベルLとの間の高さ)には、暖機運転中の低温で粘度の高いオイルであっても通過が困難でない程度の大きさ(例えば直径8〜10mm程度の円形又はこれに相当する面積の多角形若しくは楕円形)の上部連通孔32cが複数設けられている。この上部連通孔32cは、エンジン10(図1参照)が停止中の場合、及び暖機運転後において第1室30a内のオイルがオイルストレーナー41を介して吸い出された場合における、第1室30aと第2室30bとの油面の調整を行うために設けられている。
オイルパンセパレーター32の底板32aには、貫通孔としてのドレイン孔32dが形成されている。このドレイン孔32dは、オイル交換のために当該オイルパン30からオイルを抜く際に第1室30a内のオイルを外側の第2室30bへ流出させ得る一方、暖機運転において第2室30b内の低温で粘度の高いオイルが第1室30a内に流入してオイルストレーナー41の吸入口41aから吸い込まれることが困難な程度の大きさ(例えば直径2〜3mm程度の円形)に形成されている。
オイルパンセパレーター32の側板32bの底部には、サーモスタット弁装置34が、当該側板32bを貫通するように設けられている。このサーモスタット弁装置34は、自動車のエンジンの冷却水循環系に用いられている周知のサーモスタット弁と同様の構成を内部に備えていて、当該サーモスタット弁装置34の近傍における第1室30a内のオイルの温度に応じて、当該サーモスタット弁装置34の内部を介しての第1室30aと第2室30bとのオイルの交流状態が変更され得るように構成されている。すなわち、当該サーモスタット弁装置34は、前記温度が所定の開弁温度以上となった場合に、当該サーモスタット弁装置34の内部にオイル連通路が開通し、このオイル連通路を介して第1室30aと第2室30bとのオイルの交流が可能となるように構成されている。また、当該サーモスタット弁装置34は、前記温度が前記開弁温度よりも低い場合に、前記オイル連通路が遮断されるように構成されている。
<<オイルパンからのオイル供給系>>
ストレーナー流路43の上端がシリンダブロック20aの下端面20a1に固定されることで、当該ストレーナー流路43が、シリンダブロック20aの内部に形成されたオイル流路であるポンプ入口流路42bに接続されている。上述の通り、このポンプ入口流路42bの下流(オイル供給方向先:以下同じ)にはオイルポンプ42が配置されている。また、オイルポンプ42の下流にはオイルフィルタ44が配置されていて、両者はポンプ出口流路42cを介して接続されている。オイルフィルタ44とメインオイルホール45とは、シリンダブロック20aの内部に形成されたオイル流路であるフィルタ出口流路44aを介して接続されている。
オイルノズル47は、ピストン21の背面にオイルを噴射し得るように構成されたピストン用噴射管47aを備えていて、当該ピストン用噴射管47aからオイルをピストン21の背面に向けて噴射することでピストン21が冷却されるようになっている。メインオイルホール45とオイルノズル47とを接続するサブオイルホール46には、オイルノズル47のオイル噴射状態を変更するオイル噴射状態変更手段としてのオイルノズル制御弁49が設けられている。このオイルノズル制御弁49は、電磁弁から構成されていて、当該オイルノズル制御弁49の状態に応じてオイルノズル47のピストン用噴射管47aにおける噴射状態が変更されるようになっている。
<<オイルジェットにおけるオイル噴射制御系>>
オイルパン30の底部には、油温センサ62が装着されている。この油温センサ62は、その先端部に形成された検知部が第1室30a内に露出するように配置されていて、当該検知部により第1室30aの底部(オイルストレーナー41の近傍)のオイルの温度に応じた信号を出力するように構成されている。
シリンダブロック20aの内部であってシリンダ壁20a2の近傍には、エンジン10の冷却水の通路であるウオータージャケット20a3が形成されている。シリンダブロック20aには水温センサ63が装着されている。水温センサ63は、その先端部に形成された検知部がウオータージャケット20a3の内側の空間内に露出するように配置されていて、当該検知部によりエンジン10の冷却水温に応じた信号を出力するように構成されている。
オイルパン30の底部には、オイルレベルセンサ64が装着されている。このオイルレベルセンサ64は、検知部64aと、その検知部64aを支持する基部64bと、その基部64bに接続されたフランジ部64cとから構成されている。このオイルレベルセンサ64は、そのフランジ部64cがオイルパンカバー31の側板31bの外側面と当接しつつ、その基部64bが当該側板31bとオイルパンセパレーター32の側板32bとを貫通するように配置されている。そして、当該オイルレベルセンサ64は、その検知部64aが第1室30a内に配置されることで、第1室30a内のオイルレベルを検知し得るように構成されている。
検知部64aは、オイルよりも比重の小さなフロート64a1と、そのフロート64a1の平面視における略中心を貫通するように上下方向に沿って配置されたガイド軸64a2と、そのガイド軸64a2の下端に設けられたストッパー64a3とからなる。フロート64a1には、磁石が内蔵されている。ガイド軸64a2の内部には、リードスイッチ及びチップ抵抗が複数組備えられていて、当該リードスイッチ等は当該ガイド軸64a2の軸方向(長手方向)に適宜の間隔で配列されている。これにより、オイルレベルセンサ64は、第1室30a内のオイルレベルが所定の作動開始レベル(図中E1)以下となった場合に、フロート64a1が当該オイルレベルに応じてガイド軸64a2に沿って上下動し、ガイド軸64a2に内蔵されたリードスイッチ等によってフロート64a1の位置(ガイド軸64a2との相対位置)に応じた電気信号が出力され得るように構成されている(特開2001−183434号公報参照)。また、フロート64a1の下端がストッパー64a3に接触したときに第1室30a内のオイルレベルが所定の最低レベル(図中E2)以下になったことを検知し得るようになっている。
作動開始レベルE1は、オイルレベルゲージ(図示せず)によるオイルレベルの表示が「L(Low)」となる場合のオイルレベルLよりも充分低い位置(例えば、第1室30a内のオイルレベルが上述のオイルレベルLである場合の第1室30a内のオイル貯留量の略1/2〜1/4に相当する量のオイルが、第1室30a内に貯留されている場合のオイルレベルに相当する高さ)であって、且つオイルストレーナー41の吸入口41aの下端よりも高い位置に設定されている。すなわち、オイルレベルゲージによるオイルレベルの表示がL近辺の状態でエンジン10が始動されて、暖機運転中に第1室30a内から比較的多量のオイルが吸い出されても、オイルストレーナー41の吸入口41aから空気が吸い込まれて被潤滑機構としてのエンジンブロック20においてオイル不足が生じることが防止されるようになっている。また、作動開始レベルE1は、サーモスタット弁装置34の高さ方向における中心と略同じ高さに設定されている。最低レベルE2は、オイルストレーナー41の上端よりも低く、且つ吸入口41aよりも高い位置に設定されている。
なお、前記オイルレベルLは、第1室30a内にオイルが約1.6リットル貯留されている場合の当該第1室30aのオイルレベルを指すものである。また、図中に示されているオイルレベルFは、オイルレベルゲージによるオイルレベルの表示が「F(Full)」となる場合のオイルレベルを指すものである。このオイルレベルFは、オイルレベルがLである場合の第1室30a内のオイル貯留量よりも約1.2〜1.6リットル多い量のオイルが当該第1室30a内に貯留されている場合の、当該第1室30a内のオイルレベルを指すものである。すなわち、本オイルパン30においては、エンジン停止中の第1室30aのオイルレベルをFとLとの間に設定することで、エンジン運転中(特に低温始動時)に第1室30a内のオイルレベルがオイルストレーナー41の吸入口41aよりも低くなることが可及的に防止されるようになっている。
オイルノズル制御弁49、油温センサ62、水温センサ63、及びオイルレベルセンサ64は、電気制御装置70と電気的に接続されている。すなわち、油温センサ62、水温センサ63、及びオイルレベルセンサ64からの信号が電気制御装置70に入力され、電気制御装置70からの出力によってオイルノズル制御弁49の作動が制御されるようになっている。
電気制御装置70は、CPUと、ROMと、RAMと、バックアップRAMと、インターフェースとから構成されたマイクロコンピュータであり、これらは互いにバスにより接続されている。ROMには、CPUにより実行されるルーチン(プログラム)、当該ルーチンが実行される際に参照されるテーブル(ルックアッテーブル、マップ)やパラメータ等が、当該CPUによって読み出し可能に予め格納されている。RAMには、CPUにより必要に応じてデータが一時的に格納されるようになっている。バックアップRAMは、当該電気制御装置70の電源オン状態でデータが格納され得るとともに、この格納されたデータがエンジン10の停止中であって当該電気制御装置70の電源オフ中も保持されるようになっている。インターフェースは、前記各センサ62〜64と接続されていて、CPUに当該各センサ62〜64からの信号を供給するとともに、当該CPUの指示に応じて、オイルノズル制御弁49の作動を制御するための信号を当該オイルノズル制御弁49に供給し得るようになっている。
<実施形態の構成による作用・効果>
以下、上述の構成を備えたエンジン10の動作を、図1及び図2を用いて、実施例を交えて説明する。
エンジン10の暖機運転が終了して、サーモスタット弁装置34におけるオイル連通路が開通された状態でエンジン10が停止された後、エンジン10が所定時間継続して停止していると、当該オイル連通路やオイルパンセパレーター32の上部連通孔32cを介して、第1室30a内のオイルレベルと第2室30b内のオイルレベルとが平均化される。
エンジン10が再び始動されると、オイルポンプ42の作動に伴って第1室30a内のオイルストレーナー41の吸入口41aにて発生する負圧によって、第1室30a内のオイルが当該吸入口41aから吸入される。この吸入されたオイルは、ストレーナー流路43、ポンプ入口流路42bを介してオイルポンプ42に吸入され、オイルポンプ42からポンプ出口流路42cを介してオイルフィルタ44に送出される。オイルフィルタ44に送出されたオイルは、当該オイルフィルタ44にて濾過された後、フィルタ出口流路44aを介してメインオイルホール45に送出され、当該メインオイルホール45からサブオイルホール46を介してエンジンブロック20内の各部(ピストン21等の被潤滑部材及びオイルノズル47)に向けて送出される。オイルノズル制御弁49が開弁状態である場合であって、且つオイルノズル47に向けてオイルが所定の圧力で送出されている場合、当該オイルは、サブオイルホール46及びオイルノズル制御弁49を介してオイルノズル47に到達し、ピストン用噴射管47aからピストン21の背面に向けて噴射される。これにより、ピストン21が冷却される。
ここで、エンジン始動直後には、通常、暖機運転が行われる。暖機運転中は、第1室30a内のオイルの温度がサーモスタット弁装置34における前記所定の開弁温度よりも低いため、サーモスタット弁装置34におけるオイル連通路が遮断されている。よって、エンジン始動時に第1室30a内のオイルが大量に吸い出されても、エンジン始動時のオイルパン30内のオイル貯留量が充分多くて上部連通孔32cを介して第2室30bの上部のオイルが第1室30a内に流入し得る場合以外は、第1室30aに第2室30bからオイルが補充されることはない。また、エンジン始動時に第1室30aから吸い出されたオイルがエンジンブロック20から再び第1室30aに還流して来るまでには、かなりの時間を要する(低温始動時においてはオイルの粘度が高いため、なおさらである。)。したがって、特にエンジン始動時において第1室30a内のオイルレベルがL付近やL以下である場合、エンジン始動直後に第1室30a内のオイルレベルが大きく低下する。
ところで、オイルノズル47からのオイル噴射によるピストン21の冷却は、特に高出力時、高負荷時、高回転時におけるエンジン10の耐久性向上等のために有効なものであって、暖機運転中や定常運転中にピストン21の冷却が短時間中断されても、エンジン10の性能に大きな悪影響を与えることはない。
そこで、本実施形態においては、第1室30a内のオイルレベルが、オイルレベルセンサ64の作動領域(作動開始レベルE1以下)になった場合に、電気制御装置70によるオイルノズル制御弁49の開閉制御(開度の減少ないし閉鎖)が行われ、オイルノズル47におけるオイルの噴射が抑制される。これにより、オイルノズル47へのオイルの供給量の抑制分だけ第1室30aからのオイルの吸い出し必要量が減少するので、第1室30a内のオイルレベルの低下の度合いが緩和される。また、ピストン21の冷却用のオイルノズル47への供給が制限されたオイル量が、オイルノズル47以外の他の被潤滑部材における潤滑に供され得るため、当該被潤滑部材における良好な潤滑状態が確保され得る。
上述の電気制御装置70によるオイルノズル制御弁49の開閉制御は、オイルレベルセンサ64の出力に基づいて、例えば、以下の通り行われる。
第1室30a内のオイルレベルが作動開始レベルE1以下になった場合に、電気制御装置70がオイルノズル制御弁49の開度を減少させるように当該オイルノズル制御弁49の作動を制御することで、オイルノズル47へのオイル供給量が減少される。すなわち、第1室30a内のオイルレベルが作動開始レベルE1と最低レベルE2との間である場合、オイルレベルに応じて、電気制御装置70によりオイルノズル制御弁49の開度が調整される。この調整の度合いは、例えば、オイルレベルセンサ64の出力と、電気制御装置70に内蔵されているROMに記憶されたテーブルとに基づいて設定され得る。また、第1室30a内のオイルレベルが最低レベルE2以下になった場合に、電気制御装置70によりオイルノズル制御弁49が閉弁状態に制御される。
なお、上述のオイルノズル制御弁49の開度の減少は、当該オイルノズル制御弁49における流路断面積を減少させる方法以外にも、様々な方法が採り得る。例えば、オイルノズル制御弁49として所謂開閉弁(開度が100%又は0%に矩形波的に制御される弁)が用いられた場合、当該オイルノズル制御弁の開放時間のデューティ比を減少する方法が採り得る。また、油温センサ62の出力(すなわち第1室30a内のオイルの温度)に基づいて、前記テーブルが変更されるようにしてもよい。この場合、開度が0%とされるオイルレベルが最低レベルE2からオイル温度の低下に応じて上昇するように、前記テーブルが構成されていることが好適である。
<第2実施形態>
図3は、図1に示されている前記エンジン10の第2実施形態の概略構成図である。なお、上述の第1実施形態と共通する部分については説明を省略し、図面に現れている構成要素については同一の符号を付するものとする。
本実施形態においては、第1実施形態のオイルノズル47が、ピストン用噴射管47aに加えてシリンダ用噴射管47bを備えている。このシリンダ用噴射管47bは、シリンダ壁20a2に向けて、当該シリンダ壁20a2とピストン21との潤滑のためのオイルを噴射し得るように構成されている。また、メインオイルホール45とオイルノズル47とを連絡するサブオイルホール46は、ピストン冷却用オイル供給路46aと、シリンダ潤滑用オイル供給路46bとに分岐していて、この分岐部にオイルノズル制御弁49が設けられている。ピストン冷却用オイル供給路46aは、オイルノズル47のピストン用噴射管47aにオイルを供給するためのオイル流路として、シリンダブロック20aの内部に形成されている。シリンダ潤滑用オイル供給路46bは、オイルノズル47のシリンダ用噴射管47bにオイルを供給するためのオイル流路として、シリンダブロック20aの内部に形成されている。オイルノズル制御弁49は、電気制御装置70からの制御信号に応じて、ピストン冷却用オイル供給路46a及びシリンダ潤滑用オイル供給路46bへのオイルの供給状態を変更し得るように構成されている。
かかる構成を有する本実施形態においては、通常(第1室30a内のオイルレベルが充分高い場合)は、オイルノズル制御弁49により、ピストン冷却用オイル供給路46aとサブオイルホール46とが連通され、シリンダ潤滑用オイル供給路46bとサブオイルホール46との連通は遮断される。これにより、サブオイルホール46からオイルノズル制御弁49を介してオイルがピストン冷却用オイル供給路46aに送出され、オイルノズル47のピストン用噴射管47aからピストン21の背面に向けてオイルが噴射され、ピストン21の冷却が行われる。
一方、第1室30a内のオイルレベルが低い場合、オイルノズル制御弁49は、サブオイルホール46とピストン冷却用オイル供給路46aとの連通を抑制(遮断ないし流路断面積減少)しつつ、サブオイルホール46とシリンダ潤滑用オイル供給路46bとの連通の遮断を解除する。これにより、オイルノズル47のピストン用噴射管47aからのオイルの噴射が抑制される。また、オイルノズル47のシリンダ用噴射管47bからシリンダ壁20a2に向けてオイルが噴射されることで、ピストン21とシリンダ壁20a2との潤滑状態は良好に保持される。
ここで、本実施形態においても、上述の第1実施形態と同様に、オイルレベルに応じてサブオイルホール46とピストン冷却用オイル供給路46a及びシリンダ潤滑用オイル供給路46bとの連通状態が調整されることが好適である。また、当該連通状態の調整にあたって、油温センサ62の出力が考慮されることが好適である。
<変形例の示唆>
なお、上述の各実施形態及び各実施例は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の実施形態や実施例を単に例示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態や実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において種々の変形を施すことができることは当然である。以下、変形例について幾つか例示するが、変形例とて下記のものに限定されるものではないことはいうまでもない。
(i)本発明のオイルパンの構成は、前記実施形態のようなエンジンの他、例えば、自動変速機等、オイルパンを備えた潤滑装置が適用された各種の装置にも適用可能である。また、オイルレベルセンサ64の構造も、上述の実施形態のものに限定されない。
(ii)サーモスタット弁装置34に代えて、オイルの温度(粘度)によって通過率が変化し得る小径の貫通孔が用いられてもよい。また、電磁弁や油圧作動弁等、外部からの電気信号や流体圧力によって開度を制御可能な構造の弁装置が用いられてもよい。
(iii)オイルノズル47におけるオイルの噴射状態の制御にあたって、油温センサ62の出力に代えて水温センサ63の出力が考慮されてもよい。また、テーブルに代えて、所定の数式から演算するようにしてもよい。また、オイルノズル47はオイルパン30に装着されていてもよい。
(iv)第2実施形態において、ピストン用噴射管47aを備えたオイルノズルと、シリンダ用噴射管47bを備えたオイルノズルとが、別々に設けられていてもよい。また、ピストン冷却用オイル供給路46aとシリンダ潤滑用オイル供給路46bとが共通のサブオイルホール46から分岐されている上述の第2実施形態の構成に代えて、ピストン冷却用オイル供給路46a及びシリンダ潤滑用オイル供給路46bが別々のサブオイルホール46と接続されていて、ピストン冷却用オイル供給路46aの開閉のためのオイルノズル制御弁と、シリンダ潤滑用オイル供給路46bの開閉のためのオイルノズル制御弁とが別個に設けられていてもよい。
10…エンジン、20…エンジンブロック、20a…シリンダブロック、20a2…シリンダ壁、21…ピストン、22…クランクシャフト、23…カムシャフト、30…オイルパン、30a…第1室、30b…第2室、31…オイルパンカバー、32…オイルパンセパレーター、41…オイルストレーナー、41a…吸入口、42…オイルポンプ、45…メインオイルホール、46…サブオイルホール、46a…ピストン冷却用オイル供給路、46b…シリンダ潤滑用オイル供給路、47…オイルノズル、47a…ピストン用噴射管、47b…シリンダ用噴射管、49…オイルノズル制御弁、62…油温センサ、63…水温センサ、64…オイルレベルセンサ、70…電気制御装置(ECU)