JP4566020B2 - 異方性の小さい電気電子部品用銅合金板 - Google Patents
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なお、前記特許文献1,2では、引張強さの異方性が小さいCu−Ni−Si系合金が得られているが、接圧強度に関係する耐力の異方性については開示がなく、前記特許文献4では、耐力の異方性が小さいCu−Ni−Si系合金が得られているが、耐力の大きさそのものが低く、また、これらの特許文献では、曲げ加工性そのものは調査されているが、その異方性については全く考慮されていない。
また、溶体化焼鈍後の冷間圧延は50%以下の加工率で行う。時効焼鈍は350〜600℃に保持時間1〜20時間の条件で行うことが望ましい。
Ni,Siは、Ni2Siの析出物を生成して合金の強度を向上させる元素である。しかし、Niが1.5%未満又は/及びSiが0.3%未満では強度が不足し、一方、Niが4.5%を越え又は/及びSiが1%を越えると、鋳造時にNi又はSiが晶出又は析出し熱間加工性が劣化する。従って、Niの含有量は1.5〜4.5%、Siの含有量は0.3〜1.5%とする。なお、NiとSiの含有量比率(Ni/Si比)は4.0〜5.0、特に約4.5が望ましく、Ni/Si比がこの比率から大きく外れると、過剰となったNi又はSiがCuマトリックス中に固溶して導電率を低下させる。
SnはCuマトリックス中に固溶し、強度を向上させる。しかし、1.5%を越えると導電率、曲げ加工性を劣化させ、また熱間加工性を劣化させるため、含有量は1.5%以下とする。
Znは、銅合金板のSnめっき剥離性を向上させる。しかし、1.5%を越えると導電率を低下させるため、含有量は1.5%以下とする。
MgはCuマトリックス中に固溶し、強度を向上させる。しかし、0.5%を越えると導電率を低下させるため、含有量は0.5%以下とする。
Mn、Crは熱間圧延性を向上させる。しかし、Mnは0.5%、Crは0.2%を越えると導電率を低下させるため、含有量はそれぞれ0.5%以下、0.2%以下とする。
本発明の銅合金板は、鋳塊に対し熱間圧延及び冷間粗圧延を行い、冷間粗圧延後の銅合金板に対し連続溶体化焼鈍を施し、続いて仕上げ冷間圧延及び時効焼鈍を行うことにより製造する。
連続溶体化焼鈍前の熱間圧延及び冷間粗圧延は、従来と同様の条件で行うことができる。熱間圧延は、鋳塊を800〜1000℃×0.5〜4時間に均質化処理した後、800〜1000℃で行い、熱間圧延後は水冷又は放冷する。冷間粗圧延は仕上げ冷間圧延において50%以下の加工率で製品板厚が得られるように、加工率を選択する。冷間粗圧延の途中に適宜中間焼鈍を挟むことができる。
銅合金板を焼鈍温度に所定時間保持した後急冷し、導電率を測定すると、保持温度が高温であるほど溶体化が進行して(Ni2Siの固容量が増え)導電率が低下する。それ以上実質的に下がらなくなったときの導電率がXである。溶体化焼鈍後の銅合金板の導電率がY=Xであれば、本発明からみると溶体化が過剰になされた状態である。このとき、最終的な銅合金板製品には、LD方向及びTD方向の耐力に大きい異方性が発生する。一方、導電率がY>1.5Xであれば、本発明からみると溶体化が不十分な状態である。このとき、銅合金板製品には、耐力の異方性とともに、LD方向及びTD方向の曲げ加工性に大きい異方性が発生し、同時に、銅合金板製品の耐力自体が十分向上しない。従って、連続溶体化焼鈍は、溶体化焼鈍後の導電率がX<Y≦1.5Xを満たすように行う必要がある。好ましくは、X<Y≦1.2Xである。
また、溶体化焼鈍後の耐力を、LD方向、TD方向とも150MPa以上に保つのは、150MPaに満たない耐力のとき、仕上げ冷間圧延後の銅合金板製品のLD方向及びTD方向の耐力に大きい異方性が発生するためである。
一方、上記条件内において、Ni及びSi濃度が高いほど高い保持温度を選択するのが一般的に望ましい。最適な保持温度は昇温速度、保持時間及び冷却速度によっても変わってくるが、Ni及びSi濃度が比較的高い領域(Ni:2.2〜4.5%、Si:0.5〜1.0%)では概ね800℃超〜1000℃、望ましくは800℃超〜950℃、濃度が比較的低い領域(Ni:1.5〜2.5%、Si:0.3〜0.6%)では概ね700〜800℃以下が適正な範囲として挙げられ、その範囲内で調整すればよい。
時効焼鈍は従来同様、350〜600℃×1〜20時間で行うことが望ましい。保持温度が350℃未満であるとNi2Siの析出が不十分となり、600℃を越えると材料が軟化し、いずれも銅合金板製品に必要な耐力が得られない。保持温度は、より望ましくは保持温度は400〜500℃である。保持時間は1時間未満ではNi2Siの析出が不十分となり、20時間を越えると生産性が阻害される。
時効焼鈍後に、大きい異方性が発生せず、かつ曲げ加工性が劣化しない範囲でさらに冷間圧延を行うこともできる。時効焼鈍後の冷間圧延の加工率は、時効焼鈍前の冷間圧延の加工率と合わせて50%以下とする。
一方、各冷延材の一部を用い、連続溶体化焼鈍の保持時間を0秒に設定し、加熱速度と冷却速度を上記と同じに設定し、保持温度を25℃間隔で振って得られた各焼鈍材について導電率を測定し、導電率変化特性(導電率−溶体化焼鈍温度)のグラフを作成し、そのグラフから、温度に対して導電率がそれ以上下がらないときの導電率を読み取り、それを固溶量が最大のときの導電率Xとし、導電率Yと導電率Xの比Y/Xを求めた。
続いて、焼鈍材を表2に示す加工率で冷間圧延して厚さ0.25mmとした後、460℃×4時間の時効焼鈍を行い、各板材から試料を切り出し、LD、TD方向の耐力、導電率、及びLD、TD方向の曲げ加工性を測定した。以上の結果を表2に示す。
耐力;各板材から長手方向がLD、TD方向となるJIS5号引張り試験片を採取し、JIS−Z2241に準拠して引張り試験を実施して測定した。耐力は永久伸び0.2%に相当する引張り強さである。
導電率;JISH0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠して、ダブルブリッジを用いた四端子法で測定した。
曲げ加工性;各板材から長手方向がLD、TD方向となる幅10mm、長さ30mmの試験片を採取し、JISH3110に記載の方法に準じ、各曲げ半径を備えたWブロック曲げ治具(曲げ角度90°)で試験片を挟み、曲げ加工を行った。LD方向のものは曲げ軸が圧延方向に垂直であり、TD方向のものは曲げ軸が圧延方向に平行である。上記曲げ治具の各曲げ半径に対し、試験片の曲げ部に割れが発生していないかどうか実体顕微鏡で検鏡して判別し、割れのない最小曲げ半径Rを調査し、板厚t(=0.25mm)との比R/tを求めた。
一方、No.7は、溶体化焼鈍後の導電率Yが1.76Xであり、X<Y≦1.5Xを満たしていない。そのため、時効焼鈍後の銅合金板製品において耐力の異方性が大きく、曲げ加工性の異方性も大きく出た。また、同じ組成で仕上げ冷間圧延の加工率も同じNo.2に比べて耐力が低くなっている。
No.9は、溶体化焼鈍までは適正に処理されているが、溶体化焼鈍後の仕上げ冷間圧延の加工率が大きすぎるため、曲げ加工性が劣り、また曲げ加工性の異方性も大きく出ている。
No.10は、溶体化焼鈍後の導電率Yが最小導電率Xに等しく(Y=X)、同時に耐力が150MPa未満である。そのため、時効焼鈍後の銅合金板製品において耐力の異方性が大きく出ている。
No.14は、Ni及びSiの含有量が不足し、溶体化焼鈍後の耐力がTD方向で150MPa未満であり、時効焼鈍後の銅合金板製品において耐力が不足し、その異方性も大きく出ている。
Claims (8)
- Ni:1.5〜4.5%(質量%、以下同じ)、Si:0.3〜1%を含み、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成の銅合金鋳塊に対し、熱間圧延及び冷間粗圧延を行い、冷間粗圧延後の銅合金板に、固溶量が最大のときの導電率をXとしたとき溶体化焼鈍後の導電率YがX<Y≦1.5Xを満たし、かつ圧延平行方向及び圧延垂直方向の耐力がいずれも150MPa以上となるように、10℃/秒以上の昇温速度で実体温度700〜1000℃に加熱し、その温度で3秒未満保持した後、30℃/秒以上の冷却速度で急冷する連続溶体化焼鈍を行い、続いて50%以下の加工率で仕上げ冷間圧延を行った後、時効焼鈍を行うことを特徴とする異方性の小さい電気電子部品用銅合金板の製造方法。
- 銅合金が、Ni:2.2〜4.5%、Si:0.5〜1.0%を含むことを特徴とする請求項1に記載された異方性の小さい電気電子部品用銅合金板の製造方法。
- 銅合金の組成に、Sn:1.5%以下、Zn:1.5%以下、Mg:0.5%以下、Mn:0.5%以下、Cr:0.2%以下の1種又は2種以上が含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載された異方性の小さい電気電子部品用銅合金板の製造方法。
- 時効焼鈍を350〜600℃に保持時間1〜20時間の条件で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された異方性の小さい電気電子部品用銅合金板の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載された方法により製造された異方性の小さい電気電子部品用銅合金板。
- Ni:1.5〜4.5%、Si:0.3〜1%を含み、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有し、熱間圧延、冷間粗圧延及び溶体化焼鈍を施した銅合金の冷間粗圧延材であり、その導電率Yが、固溶量が最大のときの導電率をXとしたときX<Y≦1.5Xを満たし、かつ圧延平行方向及び圧延垂直方向の耐力がいずれも150MPa以上であることを特徴とする銅合金の冷間粗圧延材。
- 銅合金が、Ni:2.2〜4.5%、Si:0.5〜1.0%を含むことを特徴とする請求項6に記載された銅合金の冷間粗圧延材。
- 銅合金の組成に、Sn:1.5%以下、Zn:1.5%以下、Mg:0.5%以下、Mn:0.5%以下、Cr:0.2%以下の1種又は2種以上が含まれることを特徴とする請求項6又は7に記載された銅合金の冷間粗圧延材。
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