JP4560983B2 - 静電式インクジェットヘッド - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクノズルに連通したインク圧力室の一部に形成した振動板を静電力によって振動させることによりインクノズルからインク液滴の吐出を行う静電式のインクジェットヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
静電式インクジェットヘッドは、例えば、特開平2−219351号公報に開示されているように、インク流路を構成しているインク圧力室の底面に形成された共通電極としての振動板と、この振動板に対して僅な隙間を隔てて対峙している個別電極としての電極板とを有している。これらの対向電極間に駆動電圧を印加し静電力を作用させて振動板を撓ませることによりインク圧力室内の容積を変化させ、これにより生ずるインク圧力変動を利用して、インク圧力室に連通しているインクノズルからインク液滴を吐出させて記録を行うものである。
【0003】
このような静電式インクジェットヘッドにおいて、出力画像の高品質化を図るためには多数のインクノズルを高密度配置する必要がある。このためには、各インクノズルが連通しているインク流路、すなわち、各インク圧力室も高密度配置する必要があり、この結果、インク圧力室間を仕切っている隔離壁も薄くする必要がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、インク圧力室間を仕切っている隔離壁が薄くなると、インク圧力室の内圧変動によって当該隔離壁も撓む可能性がある。すなわち、図8(a)に示すように、インク液滴の吐出を行う駆動インクノズル21(3)が連通しているインク圧力室22(3)の振動板23(3)を個別電極25(3)に吸引した場合、当該インク圧力室22(3)の内圧変動によって隔離壁24(2)、24(3)が撓むおそれがある。
【0005】
同様に、図8(b)に示すように、インク吐出時においても、振動板23(3)を個別電極25(3)から離脱させた場合に、当該インク圧力室22(3)の内圧変動によって隔離壁24(2)、24(3)が撓むおそれがある。
【0006】
加えて、これら隣接するインク圧力室の壁面に形成された振動板23(2)、23(4)が隔離壁22(2)、22(4)の撓みによる圧力変動により、さらに撓むおそれがある。
【0007】
インク吐出時に隔離壁が撓んでしまうと、インク圧力室22(3)に圧力損失が発生し、駆動インクノズル21(3)から適切な量あるいは粒径のインク液滴が吐出されないおそれがある。
【0008】
また、駆動インクノズル21(3)に隣接している非駆動インクノズル21(2)、21(4)の側においては、隔離壁24(2)、24(3)が撓むことにより、当該非駆動インクノズル側のインク圧力室22(2)、22(4)に内圧変動が起き、場合によっては、僅かの量のインク液滴が不必要に吐出してしまうおそれもある。
【0009】
さらには、このように隔離壁24(2)、24(3)を介して圧力変動が隣接インク圧力室に漏れるために、換言すると、圧力のクロストークが発生するために、一つのインクノズルにおいて、隣接インクノズルが同時に駆動される場合と、駆動されない場合とでは、インク圧力室内に発生する圧力変動状態が異なってしまう。この結果、一つのインクノズルのインク吐出特性(インク吐出速度、インク吐出量)が、隣接インクノズルの駆動状態に応じて変動して、印刷品位の低下を招くおそれもある。
【0010】
これに対して、特開平5−69544号公報や同7−17039号公報では偶数ノズルと奇数ノズルの相互に隣接するノズルからのインク液滴の吐出時間を遅延回路により遅延させて吐出させることにより対応していた。しかしながら、これら従来の技術では、更に駆動装置が複雑化してしまうという課題や、印刷に要する時間が長くなってしまうという更なる課題を有していた。
【0011】
本発明の課題は、このような問題点に鑑みて、インク圧力室間の隔離壁を撓ませることなくインク吐出動作を行い得るようにし、以て、高密度化してもインク圧力室間での圧力のクロストークを防止し、インクジェットヘッドの駆動装置の複雑化を招かずに、高精細で緻密な印字品位を印刷速度の低下を招かず容易に確保できる静電式インクジェットヘッドを提案することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明は、隔離壁により仕切られている複数のインク圧力室と、各インク圧力室にそれぞれ連通しているインクノズルと、各インク圧力室の一部を規定している面外方向に弾性変位可能な振動板と、各振動板に対峙している個別電極とを有し、前記振動板と前記個別電極の間に駆動電圧を印加して前記振動板を前記個別電極に吸着させた後に、駆動電圧を解除して前記振動板を弾性変位させることにより前記インクノズルからインク液滴を吐出させる静電式インクジェットヘッドにおいて、
任意の一つの前記インクノズルのみからインク液滴を吐出させた時の前記振動板が前記個別電極に吸着された際の前記インク圧力室のコンプライアンスと、複数の全ての前記インクノズルからインク液滴を吐出させた時の前記振動板が前記個別電極に吸着された際の前記インク圧力室のコンプライアンスとの比が1.1以下となることを特徴としている。
【0013】
また、前述の静電式インクジェットヘッドにおいて、前記隔離壁のコンプライアンスと前記インク圧力室内のインクのコンプライアンスの比が0.6以下となることを特徴とする。
【0014】
更には、前述の静電式インクジェットヘッドにおいて、前記隔離壁のコンプライアンスと前記インク圧力室内のインクのコンプライアンスの比が0.34以下となることを特徴とする。
【0015】
本発明による静電式インクジェットヘッドにおいては、駆動側であるインクノズルからインク液滴が吐出されるときに、振動板が対向する個別電極に吸引されて吸着した際のインク圧力室のコンプライアンスが、隣接するインクノズルに連通するインク圧力室の振動板が駆動されて対向する個別電極に吸着されたときと、非駆動時であり該振動板が該個別電極に吸着されていないときのそれぞれのインク圧力室のコンプライアンスの比が小さく設定された構成となっているので、インク液滴の吐出時のインク圧力室の振動系に大きな差が生じない。
【0016】
また、インク圧力室では振動板を対向する個別電極に吸着したときに最も高い圧力が生ずる。よって、任意の単一のインクノズルのみが駆動されているときと、全てのインクノズルが駆動されているときのインク圧力室において、最も高い圧力が生ずる際に振動系に大きな差が生じない。この結果、任意の単一ノズルのみを駆動してインク液滴を吐出した際のインク液滴の吐出量、吐出速度と飛翔形態と、全てのノズルを駆動してインク液滴を吐出した際のインク液滴の吐出量、吐出速度と飛翔形態とに大きな差を生じない。
【0017】
加えて、本発明の静電式インクジェットヘッドは、前記複数のインクノズルの間隔が180npi以上のノズル密度となる様に設定されていることを特徴とする。
【0018】
ここで、インクノズルの間隔が小さくなり、その密度が高くなって、インク圧力室間の間隔が小さくなった場合においても、インク圧力室の幅と隔離壁の幅と高さの最適化がなされ、単一ノズル駆動時と全ノズル駆動時の振動板吸着時の振動系に大きな差が生ぜず、インクノズルの駆動形態、即ちどのインクノズルを選択して駆動するかによらず、インク液滴の吐出量、吐出速度と飛翔形態に大きな差が生ぜず、高密度なインクノズルによる高密度な印刷結果が得られる。
【0019】
これらの構成によれば、簡単な制御で高精細な印刷を高速に行うことを可能とするインクジェットプリンタに適用可能なインクジェットヘッドを提供することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した静電式インクジェットヘッドの駆動方法を説明する。
(全体構成)
まず、図1〜3を参照して、本発明の駆動方法を適用可能な静電式インクジェットヘッドの構成を説明する。ここで、図1は本例の静電式インクジェットヘッドの横断面図であり、図2はその平面図であり、図3は縦断面図である。図1は図2におけるI−I断面を示し、図3は図2におけるIII−III断面を示している。
【0021】
これらの図に示すように、本例の静電式インクジェットヘッド1は、シリコン基板2を挟み、上側に同じくシリコン製のノズルプレート3、下側にシリコンと熱膨張率が近いホウ珪酸ガラス基板4がそれぞれ積層された3層構造となっている。
【0022】
中央のシリコン基板2には、(110)面方位のその表面からKOH(水溶液による異方性のウエットエッチングを施すことにより、独立した5つの細長いインク圧力室5(1)〜5(5)と、1つの共通インク室6と、この共通インク室6を各インク圧力室5(1)〜5(5)に連通しているインク供給口7としてそれぞれ機能する溝が加工されている。これらの溝がノズルプレート3によって塞がれ、各部分5、6、7が区画形成されている。各インク圧力室5(1)〜5(5)は、それぞれ隔離壁8(1)〜8(4)によって仕切られている。
【0023】
また、インク供給口7に連通するように、共通インク室6の下面を規定する部分に、インク取入れ口12が形成されている。したがって、インクは、外部のインクタンク(不図示)から、インク取入れ口12を通って共通インク室6に供給され、さらにここから各インク供給口7を通って、独立した各インク圧力室5(1)〜5(5)に供給される。
【0024】
ノズルプレート3には、各インク圧力室5(1)〜5(5)の先端側の部分に対応する位置、すなわち、インク供給口7とは反対側となる位置に、インクノズル11(1)〜11(5)が形成されており、これらがそれぞれ対応する各圧力室5(1)〜5(5)に連通している。
【0025】
独立した各インク圧力室5(1)〜5(5)の底面は、薄肉で、面外方向、すなわち、図1において上下方向に弾性変位可能な振動板51(1)〜51(5)として機能するように設定されている(図においては振動板51(1)のみを示してある。)。
【0026】
次に、シリコン基板2の下側に位置しているガラス基板4において、シリコン基板2に接合されるその上面には、シリコン基板2の各圧力室5(1)〜5(5)の底面を規定している各振動板51(1)〜51(5)に対峙する位置に、浅くエッチングされた凹部9(1)〜9(5)がそれぞれ形成されている。各凹部9(1)〜9(5)の底面には振動板51(1)〜51(5)にそれぞれ対応する個別電極10(1)〜10(5)が形成されている。各個別電極10(1)〜10(5)は、それぞれ、ITOからなるセグメント電極10aと端子部10bを有している。
【0027】
ガラス基板4をシリコン基板2に接合することにより、各インク圧力室5の底面を規定している振動板51(1)〜51(5)と、対応する個別電極におけるセグメント電極10aとは、非常に狭い隙間Gを隔てて対向している。この隙間Gは、シリコン基板2とガラス基板4の間に配置された封止剤60によって封止され、密閉状態とされている。
【0028】
シリコン基板2には、ノズルプレート3側のその表面に白金等の貴金属薄膜を付着させて共通電極端子22が形成されており、ここと各個別電極10(1)〜10(5)との間に、電圧印加手段21によって、駆動電圧パルスが印加される。シリコン基板2は導電性があるので、各振動板51(1)〜51(5)は共通電極として機能する。
【0029】
振動板51(1)〜51(5)と個別電極10(1)〜10(5)の間に駆動電圧を印加することにより発生する静電力により、各振動板51(1)〜51(5)を個別電極側に吸引すると、振動板51(1)〜51(5)が弾性変位してセグメント電極10aの側に撓み、当該セグメント電極10aの表面に吸着する。この結果、インク圧力室5(1)〜5(5)の容積が拡大して、インク供給口7からインク圧力室5(1)〜5(5)にインクが供給される。
【0030】
静電吸引力が解除されると、振動板51(1)〜51(5)はその弾性力によってセグメント電極10aの表面から離れて初期状態に復帰し、インク圧力室5(1)〜5(5)の容積が急激に減少する。このときインク圧力室内に発生するインク圧力振動により、インク圧力室内のインクの一部が、このインク圧力室5(1)〜5(5)に連通しているインクノズル11からインク液滴として吐出される。
【0031】
本例では、基板3上面に設けたノズル孔からインク液滴を吐出させるフェイスイジェクトタイプであるが、インク液滴を基板の端部に設けたノズル孔から吐出させるエッジイジェクトタイプでもよい。
【0032】
(インク圧力室の構成)
図4を参照して、本例のインクジェットヘッド1のインク圧力室の構成の概要を説明する。図4は図2におけるII−II断面の略図を示している。いま、インク液滴が吐出されるインクノズル(「駆動ノズル」と呼ぶ)がインクノズル11(3)であるとする。また、この駆動ノズル11(3)の両側にインクノズル11(2)、11(4)が隣接している。駆動ノズル11(3)のみが駆動ノズルの場合は、両側に隣接しているインクノズル11(2)、11(4)はインク液滴の吐出が行われないインクノズル(「非駆動ノズル」と呼ぶ)となる。また、全ノズルの駆動が行われる場合は、両側に隣接しているインクノズル11(2)、11(4)も駆動ノズルとなる。
【0033】
図4において、インク圧力室5およびノズル11のピッチ寸法をpとし、インク圧力室5(2)〜(4)の幅寸法をb、インク圧力室5(2)〜(4)および隔離壁8(2)〜(4)の高さ寸法をh、同長さ寸法をl、隔離壁8(2)〜(4)の厚さ寸法をwとして各寸法諸元が設定されている。
【0034】
ここで、各隔離壁とインク圧力室内のインクのコンプライアンスをそれぞれ以下の通りとする。
【0035】
C0:振動板のコンプライアンス
C1:隔離壁のコンプライアンス
Cink:インク圧力室内のインクのコンプライアンス
コンプライアンスCとは規定の圧力変化ΔPに対して生じた排除体積ΔVによって定義される定数であり、物質や構造の柔らかさを示す。値が大きい程、構造が柔らかいことを示す。コンプライアンスCの定義は以下の通りである。
【数1】
Figure 0004560983
コンプライアンス算出の対象がインク圧力室5内のインクの場合、Cinkはインクの圧縮率κにインク圧力室5内の容積Wを乗じた値となる。即ち、
【0036】
【数2】
Figure 0004560983
本例においてインクの主成分が水であるため、インクの圧縮率κは理化年表から0.45/GPaである。本例においては、インク圧力室5内のインクのコンプライアンスCinkはこの圧縮率を用いて算出している。
【0037】
また、コンプライアンスの算出の対象が隔離壁8の場合、C1は、材料のヤング率をEとして、材料力学的な両端固定の梁の解析解を適用することにより算出され、以下の式で示される。
【0038】
【数3】
Figure 0004560983
ここで、コンプライアンスC1の算出に上述の式を用いたが、数式1の定義により、有限要素法を用いた計算により求めてもよい。
【0039】
本発明のインクジェットヘッドの構成は、図4に示された例において、以下の式に示すαの値が1.1以下となる様に上述の各寸法諸元を設定している。
【0040】
【数4】
Figure 0004560983
ここで示した値αは、インクノズル11(3)のみが駆動しているときのインク圧力室5(3)の振動板51(3)が対向する個別電極10(3)に吸着している際のコンプライアンスと、隣接するインクノズルを含めた全てのインクノズル(2)〜(4)が駆動しているときインク圧力室5(3)の各振動板51(2)〜(4)が対向する個別電極10(2)〜(4)にそれぞれ吸着している際のコンプライアンスとの比を示している。詳細な計算過程と、αの値を1.1以下となる様に各寸法緒元を設定したときの実施結果については後述する。
【0041】
更に、上述のαの値の設定に際して支配的な以下のβの値が0.6以下となる様に図4に示した例の各寸法諸元を設定している。
【0042】
【数5】
Figure 0004560983
ここで示した値βは隔離壁8(3)のコンプライアンスC1とインク圧力室5(3)内のインクのコンプライアンスCinkの比を示している。
【0043】
(インク圧力室の等価回路)
本例のインクジェットヘッドのインク圧力室の構成では、インク圧力室5(3)のコンプライアンスは、振動板の待機時、吸着時と吐出時といったタイミングでそれぞれ異なる。更に、これらは隣接ノズル11(2)、11(4)が駆動ノズルであるか、非駆動ノズルであるかといった駆動条件により変化する。これら各駆動のタイミングや駆動条件によって変化するインク圧力室5(3)のコンプライアンスについて、図5に示すインク圧力室の等価回路により以下に説明する。
【0044】
前述の、インク圧力室を構成する各壁のコンプライアンスC0およびC1とインク圧力室内のインクのコンプライアンスCinkを用いると、図4に示したインク圧力室の電気回路モデルは、それぞれの場合で、図5の(a)、(b)、(c)および(d)の様になる。図5(a)は、全ての振動板が、フリーな場合であり、待機状態をモデル化したものである。図5(b)は、インク圧力室5(3)の振動板51(5)を対向する個別電極10(3)へ吸着し、保持した状態をモデル化したものである。また、図5(c)は、全ての圧力室の振動板が個別電極へ吸着/保持された、状態をモデル化したものである。これは、全ノズルを同時に駆動した場合の吸引保持した状態に当たる。
【0045】
更に図5(d)は、圧力室が独立し、他の圧力室から干渉を受けない状態をモデル化したものである。これは、全ノズル駆動をしている場合のインク液滴吐出時のモデルに当たる。
【0046】
これらのそれぞれの場合について、中央のインク圧力室5(3)の流路のコンプライアンスを計算すると、以下の通りとなる。計算を簡単にするために、一部の計算過程ではCink、C1≪C0という近似を前提に用いた。本実施例においてはCink、C1が共に10の−20乗m5/Nのオーダであるのに対して、C0は10の−18〜−19乗オーダであり、十分この計算の前提が成り立っている。コンプライアンスCa、Cb、CcおよびCdはそれぞれ図5(a)、(b)、(c)および(d)に図示した等価回路におけるインク圧力室5(3)のコンプライアンスを示す。
【0047】
【数6】
Figure 0004560983
上記の各駆動条件による各コンプライアンスをステップごとに整理すると表1の様になる。ここで、各駆動条件とは、コンプライアンスの計算対象となる駆動ノズルのみを単一駆動した場合と、同駆動ノズルを含む全てのノズルを同時に駆動した場合の2条件を示す。
【0048】
【表1】
表1:各駆動条件による各コンプライアンスの計算結果
Figure 0004560983
【0049】
表1より数式4で示したαは振動板51の吸着保持された時のコンプライアンス比を示していることが分かる。
インクノズルとインク圧力室5とインク供給口とからなるインク流路の固有振動数f0は、インク流路のイナータンスをM、インク圧力室のコンプライアンスをCとして、以下の式で示される。
【0050】
【数7】
Figure 0004560983
インク流路のイナータンスは、流路の断面積によって決まるものの、振動板の個別電極への吸着動作によって殆ど変化しないので、ここでは、固有振動数は、コンプライアンスによってきまる。コンプライアンス比αが1に近いということは、駆動条件によってインク流路の固有振動数に変化がないことを示している。
【0051】
コンプライアンス比αを1に近い値に設定することにより、流路の振動系を安定化させ、クロストークの生じない流路を実現することが可能であることがわかる。
【0052】
(各設計例と実験結果)
本発明のインクジェットヘッドの設計例とその実施結果について以下に説明する。
【0053】
本発明のインクジェットヘッドの図4に示した構造における各寸法諸元の設計例と各コンプライアンスの計算結果を表2に示す。表2において、各寸法は設計して製作したサンプルの寸法の測定結果の代表値で示してある。また、表2に示された設計例のインク圧力室5および隔離壁8の長さlは全て約2.5mmとした。
【0054】
【表2】
表2:インクジェットヘッドの設計例
Figure 0004560983
※1 コンプライアンスの単位 ×10-20 [m5/N]
【0055】
また、表2に示した設計例のインクジェットヘッドのサンプルを製作し、実施した結果を表3に示す。表3において、実施結果として、全ノズル駆動時に対する単一ノズル駆動時の吐出インク液滴吐出速度の低下率としてのCT(クロストーク)量の測定結果と、最適な駆動電圧パルス幅Pwの差(ズレ)量の測定結果と、印刷装置にインクジェットヘッドを取りつけて各種パターンの印刷を行った結果を示す。ここで、製作したインクジェットヘッドのノズル数は64ノズルであり、全ノズル駆動とは64ノズル全てから同時にインク液滴を吐出させたことを示す。
表3には併せて前述した数式4で示したαおよび数式5で示したβの値の計算結果を示す。
【0056】
【表3】
表3:ヘッド特性比較調査結果
Figure 0004560983
※1 印刷結果 ○・・・良好 △・・・ドット抜けなし ×・・・ドット抜け有り
【0057】
ここで、表中のPwズレは単一ノズル駆動時と全ノズル駆動時で、それぞれインク液滴の量が最も多く吐出する駆動電圧パルス幅Pwを測定し、その差を調査した結果を示す。また、インク速度は設定した駆動電圧パルス幅Pwにて駆動した時に吐出したインク液滴の内のメインとなる液滴即ち、一回の駆動により吐出する複数のインク液滴の内、最も大きなインク液滴の射出速度の測定を単一ノズル駆動時と全ノズル駆動時でそれぞれ行った結果からCT量を比として算出した結果を示す。
【0058】
表3に示す実施結果において、隔離壁8のコンプライアンスとインク圧力室5内のインクのコンプライアンス比βを0.59とした設計例▲1▼の結果では、同比βが1.09とした比較対象において同一の駆動電圧パルス幅Pwではインク液滴が吐出不能で印刷結果においてドット抜が生ずる場合があったのに対して、同一の駆動電圧パルス幅Pwによる駆動でも印刷が可能である。同例▲2▼のコンプライアンス比β以下の流路緒元によれば、駆動するノズル本数によって、ドット抜け等の不具合を生ぜず、安定した印刷が可能となることを示している。
【0059】
また、コンプライアンス比βの値を0.34以下にした設計例▲2▼〜▲5▼においては、単ノズル駆動でも全ノズル駆動でも同一の最適駆動電圧パルス幅Pws(最適駆動電圧パルス幅)にて駆動が可能であり、略同一のインク液滴吐出特性、即ちインク液滴の速度を得ることができ、良好な印刷が可能である。コンプライアンス比βの値を0.34以下にした本発明の流路緒元によれば、駆動するノズル本数によらず、安定的に高品質な印刷が簡単な制御方法により可能である。
【0060】
更に、設計例▲3▼〜▲5▼の異なるノズルピッチp(解像度またはノズル密度)においても、コンプライアンス比αまたはβを本発明の構成にすることによって、安定的な吐出特性を得、良好な印刷結果が得られることが分かる。これにより、本発明により、解像度として180npi以上のノズル密度を有するインクノズル間隔にすることにより、高密度で高精細な印刷を複雑な制御を行わずに可能である。
(製造方法)
以下に、本発明の静電式インクジェットヘッドを製造方法を実施例を示して説明する。
【0061】
まず、220μm以下の均一な厚みの(110)結晶方位を有する単結晶シリコンウエハをポリシングして作成し準備する。このシリコンウエハ表面に形成されたSiO2膜を露光現像してエッチングすることにより、シリコン基板2のインク圧力室5となる平面を区画を形成し、更に、シリコンをKOH水溶液で異方性エッチングしてインク圧力室5となる溝と振動板51を形成する。
【0062】
このとき、インク圧力室5および隔離壁8の高さhは振動板51が薄いので、シリコンウエハの厚みとほぼ同一になる。このめ前述したシリコンウエハは厚みが高さhと略同一のものを作成している。シリコンウエハの厚みとしては、例えばノズルの解像度が180npiのインクジェットヘッドを得ようとする場合は、180μmが好ましく、同解像度が360npiのインクジェットヘッドを得ようとする場合には、140μmの厚みが好ましい。シリコンウエハの厚みは隔離壁のクロストークを防止する観点では薄いほうが好ましい。しかし、薄くなりすぎると、インク圧力室5の深さhの値が小さくなりインク圧力室5のイナータンスMが大きくなり、応答性が悪化してしまう。また、製造上の割れや取り扱いが難しくなる。このため、シリコンウエハの厚みは、薄くなりすぎないようにその厚みの下限を80μm程度を目安として設定する。
【0063】
次に振動板51、隔離壁8、インク圧力室5を含むシリコン基板2が区画形成され、共通電極端子22を形成したシリコンウエハと、ガラス基板4が区画形成されたガラスウエハとを陽極接合して接合し、ギャップ部を封止剤60により封止する。
【0064】
更に、ガラスウエハと接合されたシリコンウエハの反対側にノズルプレート3が区画形成されたノズルウエハを接着剤により接着接合してインク圧力室5を閉溝してインク流路を完成させる。
【0065】
最後に、これら接合されたウエハを切断又は割断してインクジェットヘッド1を得る。
【0066】
(インクジェットプリンタ)
次に、図6に本発明による印刷装置の実施例の外観斜視図を示す。印刷装置200には静電式インクジェットヘッド151を含む印刷機構部150が搭載されている。インクジェットヘッド151はラインインクジェットヘッドとして印刷機構部150に搭載されている。インクジェットヘッド151には70μmピッチ(360npi=ノズルパーインチ)にて1440のインクノズルが記録紙152に対向する面に、長手方向に一列に配列されている。
【0067】
図7において、印刷機構部150は、搬送機構155により、記録紙152を矢印A方向に搬送し、記録紙152の搬送速度に同期してインクジェットヘッド151からインク液滴を吐出し、これにより記録紙152に印刷を行う。
【0068】
上述の例では、インクジェットヘッド151は印刷機構部150に固定して記録紙152を搬送して印刷を行なうラインタイプのインクジェットプリンタについて説明した。しかしながら、本発明の印刷装置としては、インクジェットヘッドを記録紙上を副走査させてインク液滴を吐出し、記録紙を主走査方向に搬送しながら印刷を行なうシリアルタイプのインクジェットプリンタでもよい。
【0069】
本発明によれば、高密度のインクジェットヘッド151を印刷装置200に取り付けて、印刷を行なうので、高精細な印刷を高速に行なうことが可能である。
また、記録紙152上をインクジェットヘッド151が1回走査するのみで印刷が完了するので、インクジェットヘッド151の複雑な制御を必要としない。よって、簡単な制御で前述の高精細で高速な印刷が可能な印刷装置200を実現できる。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の静電式インクジェットヘッドにおいては、駆動ノズルにおいて、駆動ノズルのみからインク液滴を吐出させた時に振動板が個別電極に吸着された際のインク圧力室のコンプライアンスと、複数の全てのインクノズルからインク液滴を吐出させた時に振動板が前記個別電極に吸着された際のインク圧力室のコンプライアンスとの比が1.1以下となる
ようにしている。
【0071】
従って、駆動ノズルを駆動する際、隣接ノズルが非駆動であるときと同時に駆動する時での駆動ノズル側のインク圧力室のコンプライアンスの変化を小さくできるので、駆動ノズルのインク流路の振動系の各ノズルの駆動条件による変化を防止あるいは抑制できる。
【0072】
このとき、単ノズル駆動の時と、全ノズル駆動時では、インク圧力室を含むインク流路の固有振動数に大きな差が生じないので、吐出タイミング(駆動Pw特性)に差が生じない。また、振動系に大きな差を生じていないので、インク液滴吐出後、の液滴の切れ方も略同一であり、インク液滴の飛翔形態にも駆動条件による大きな差が生じない。よって、任意の単一ノズルであるインクノズルのみを駆動してインク液滴を吐出した際のインク液滴の吐出量、吐出速度と飛翔形態と、全てのノズルを駆動してインク液滴を吐出した際のインクノズルのインク液滴の吐出量、吐出速度と飛翔形態とに大きな差を生じない。駆動するノズルの本数といった駆動条件による吐出特性に差が生じないので、印刷するパターンによらず、安定した印刷品位を確保することができる。
【0073】
よって、隔離壁を介した圧力のクロストークを防止あるいは抑制できるので、当該クロストークに起因したインク吐出特性の劣化を防止あるいは抑制できる。
【0074】
この結果、本発明のインクジェットヘッドによれば、インクジェットヘッドの高密度化を、インク吐出特性の劣化を招くことなく実現できるので、高精細で緻密な印刷品位での印刷を達成できる。
【0075】
更に、より少ない部品点数でより簡単な製造方法によって、高密度で多ノズルのインクジェットを容易に製造することが可能である。
【0076】
加えて、インクジェットヘッドの高密度化を、駆動装置の複雑化と印刷速度の低下を招くことなく実現できるので、印刷速度が速く、高精細な印刷が可能な印刷装置を容易に実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用した静電式インクジェットヘッドの一例を示す概略縦断面図。
【図2】図1に示す静電式インクジェットヘッドの概略平面構成図。
【図3】図1に示す静電式インクジェットヘッドを直交する方向で切断した場合の概略横断面図。
【図4】図1の静電式インクジェットヘッドの構成を示すための説明図。
【図5】 図4の静電式インクジェットヘッドのモデルの説明図。
【図6】本発明のインクジェットヘッドを適用したインクジェットプリンタを表す図。
【図7】本発明のインクジェットヘッドを適用したラインタイプのインクジェットプリンタの印刷機構部を表す図。
【図8】従来のインクジェットヘッドの駆動方法における不具合を説明するための説明図。
【符号の説明】
1 静電式インクジェットヘッド
2 シリコン基板
3 ノズルプレート
4 ガラス基板
5(1)〜5(5) 圧力室
6 共通インク室
7 インク供給口8(1)〜8(5) 隔離壁9(1)〜9(5) 凹部
10(1)〜10(5) 個別電極
10a セグメント電極
10b 端子部
11(1)〜11(5) インクノズル
12 インク取出し口
21 電圧印加手段
22 共通電極端子
51(1)〜51(5) 振動板
60 封止剤
151 ラインインクジェットヘッド
200 印刷装置

Claims (4)

  1. 隔離壁により仕切られている複数のインク圧力室と、各インク圧力室にそれぞれ連通しているインクノズルと、各インク圧力室の一部を規定している面外方向に弾性変位可能な振動板と、各振動板に対峙している個別電極とを有し、前記振動板と前記個別電極の間に駆動電圧を印加して前記振動板を前記個別電極に吸着させた後に、駆動電圧を解除して前記振動板を弾性変位させることにより前記インクノズルからインク液滴を吐出させる静電式インクジェットヘッドにおいて、
    任意の一つの前記インクノズルのみからインク液滴を吐出させた時の前記振動板が前記個別電極に吸着された際の前記インク圧力室のコンプライアンスと、複数の全ての前記インクノズルからインク液滴を吐出させた時の前記振動板が前記個別電極に吸着された際の前記インク圧力室のコンプライアンスとの比、下記式のα1以上で且つ、1.093以下となることを特徴とする静電式インクジェットヘッド。
    Figure 0004560983
    C1:隔離壁のコンプライアンス
    Cink:インク圧力室内のインクのコンプライアンス
  2. 請求項1において、
    前記隔離壁のコンプライアンスと前記インク圧力室内のインクのコンプライアンスの比、下記式のβ0.592以下となることを特徴とする静電式インクジェットヘッド。
    Figure 0004560983
  3. 請求項2において、
    前記隔離壁のコンプライアンスと前記インク圧力室内のインクのコンプライアンスの比が0.331以下となることを特徴とする静電式インクジェットヘッド。
  4. 請求項1乃至3において、
    前記複数のインクノズルの間隔が180npi以上のノズル密度となる様に設定されていることを特徴とする静電式インクジェットヘッド。
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