JP4554546B2 - 角型食パン類の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は角型食パン類の製造方法に関し、さらに詳しくは、生地中に湯捏種及び酸化剤として臭素酸カリウムを添加して製パン性と品質を改善する角型食パン類の製造方法において、完成品である焼成食パン類中に臭素酸を残存させない方法に関する。
臭素酸カリウムは、1910年代にアメリカで製パン用改良剤として推奨されて以来、広く世界で用いられているが、わが国では、「臭素酸カリウムの使用はパンに限定され、その使用量は、小麦粉1Kgにつき臭素酸として0.03g(小麦粉に対して30ppm)以下でなければならず、且つ最終製品の完成前に分解または除去しなければならない」、すなわち、焼成後の製品に残存してはならないという使用基準がある。
そして、従来、パン中に臭素酸を残存させないための方法としては、パン生地の発酵時間や焼成時間を十分にとり臭素酸の化学反応を完全なものにするか、臭素酸カリウムの添加量を低減するかのいずれか、あるいはこれらを組み合わせた方法が行われてきた。
本発明者等はアスコルビン酸を添加することにより、臭素酸のパン中の残存量を減少させる方法を既に開発している(例えば、特許文献1)。
一方、わが国における使用基準の「臭素酸を分解または除去しなければならない」、すなわち、「残存してはならない」とは、その時々において、最も精密な測定方法により測定したときに検出されないこと、すなわち検出限界値未満の測定値であることを意味する。そこで、本発明者等は、先に、臭素酸カリウムを添加するパン類生地の作成工程において、硫酸第一鉄を添加することにより、本発明者等が開発した、焼成後のパン類中の臭素酸の検出限界値が3ppbという極めて精密なHPLC法(高速液体クロマトグラフィー測定法)によって測定しても検出されないようにすること、すなわち焼成後のパン類中の臭素酸の残存量が3ppb未満となるようにすることに成功した(例えば、特許文献2)。
しかしながら、本発明で、「臭素酸が残存しない」という表現は、本発明の出願時での技術水準における、さらに改良されたHPLC法により測定したときの「臭素酸の検出限界値」である0.5ppb以上存在しないことを意味する。
特開平8−116857号公報 特許第3131898号公報
しかし、上記従来の技術は、焼成後の角型食パン類、特に湯捏種を使用した角型食パン類における臭素酸の消失や、またはその残存量の著しい低減に対する有効性については確認されておらず、特に本発明の出願時における0.5ppb未満という基準を満たすものではなかった。また臭素酸カリウムを水溶液として添加することについても開示していない。さらに硫酸第一鉄の添加量もパン類生地を構成する全小麦粉量に対して50ppm〜370ppmであり、本発明の食パン類に使用する添加量としては、焼成後の食パン類の風味および味に影響を与えない範囲を著しく超えている。そして、上掲の特許文献1では、焼成後のパン中におけるアスコルビン酸による臭素酸の残存量の低減効果を確認するために、100ppm以上という非現実的な過剰な量の臭素酸カリウムを添加している。
また、従来、パン類生地を構成する全小麦粉量のうちの一部の小麦粉及び熱湯を混捏したり、或いは小麦粉及び水を混捏しながら加熱、加温したり等して湯捏種を作成し、必要に応じて、該混捏後の湯捏種のあら熱を除去し、又はさらに低温保存した後、該湯捏種と
少なくとも小麦粉、イースト、食塩、糖類及び水からなる原料を用いてパン類生地を作成して発酵及び焼成することにより、しっとりした柔らかさを有し、また小麦粉に由来する自然な甘味と香とを有するパン類を製造する方法が知られている。
従来、この種の方法としては、例えば、特開昭59−156236号公報、特開2000−262205号公報、特許第3080368号公報、特開2003−9758号公報、特開2004−123号公報等に掲載された技術が知られている。
そして湯捏種は小麦粉を熱湯、加熱等で熱処理していることから、小麦粉が一部α化していることから、保水力が向上して、このため湯捏種を使用して作成したパン類は上述した独特の特徴を有するものとなる。
ところで、本発明に関連する出願人の一連の研究開発により得られた知見によれば、酸化剤としての臭素酸カリウム、特に臭素酸のパン類生地中における化学反応(分解)は、これと反応する還元物質としてのグルテン(小麦蛋白質)のチオール基(−SH基)の存在に大きく依存するものであることが判ってきた(推測)。
すなわち、パン類生地は、そのグルテン(小麦蛋白質)のチオール基(−SH基)が臭素酸と反応して酸化されるのであるが、湯捏種は、上述した通りその小麦粉が加熱処理によって部分的に熱変性又は熱損傷を受けているため、チオール基が臭素酸と反応しにくく変化していることから、推測によると、湯捏種を使用して製造するパン類は、通常のパン類と比較して、焼成後のパン類中に臭素酸が残存し易くなるのではないかという懸念があった。
食パン類生地に臭素酸カリウムを配合するとともに湯捏種を使用して焼成後の角型食パンの品質を改善すると共に、配合した臭素酸が角型食パン中に全く残存しないか又は臭素酸の検出限界である0.5ppb未満の残存量に減少した湯捏種を使用した角型食パン類を製造できる角型食パン類の製造方法が望まれていた。
本発明者等は、湯捏種を添加する食パン類生地の作成工程において、臭素酸カリウムを添加するにあたり、これを水溶液として添加することにより、食パン類生地中において添加された臭素酸カリウムの臭素酸の酸化反応と化学的な分解を促進することにより、上記従来の技術の課題を解決し得るという知見を得た。
そこで、本発明は、湯捏種を添加する食パン類生地の作成工程において、臭素酸カリウムを添加するにあたり、食パン類生地中において添加された臭素酸カリウムの臭素酸の酸化反応と化学的な分解とを促進するために、臭素酸カリウムを水溶液として添加するという、以下の製造方法を提供するものである。即ち、予め食パン類生地を構成する全小麦粉量のうち一部の小麦粉を用いて湯捏種を調製し、この湯捏種を使用して直捏法により角型食パン類を製造するにあたり、食パン類生地の作成工程において、臭素酸カリウムを水溶液として添加するとともに、アスコルビン酸を添加して、または硫酸第一鉄およびアスコルビン酸を添加し、さらに、湯捏種を添加して食パン類生地を作成し、これを焼成型に蓋をして焼成することにより、焼成後の角型食パン類中に臭素酸を残存させないようにすることからなる角型食パン類の製造方法を提供するものである。また、予め食パン類生地を構成する全小麦粉量のうち一部の小麦粉を用いて湯捏種を調製し、この湯捏種を使用して中種法により角型食パン類を製造するにあたり、中種の作成工程において、臭素酸カリウムを水溶液として添加するとともに、アスコルビン酸を添加して、又は硫酸第一鉄とアス
コルビン酸とを添加し、さらに本捏工程において、湯捏種を添加して食パン類生地を作成し、これを焼成型に蓋をして焼成することにより、焼成後の角型食パン類中に臭素酸を残存させないようにすることからなる角型食パン類の製造方法を提供するものである。
また、湯捏種を使用する角型食パン類の製パン性と品質を改善する角型食パン類の製造方法を提供するものである。
さらに、硫酸第一鉄の添加量を著しく減少させるか、又は全く添加しないことにより、焼成後の湯捏種を使用した角型食パン類の風味および味に影響を与えないようにすることができる、角型食パン類の製造方法を提供するものである。
発明の実施の形態
そこで、本発明は、直捏法により角型食パン類を製造するにあたり、予め食パン類生地を構成する全小麦粉量のうち一部の小麦粉を用いて湯捏種を調製し、この湯捏種を使用する食パン類生地の作成工程において、臭素酸カリウムを水溶液として添加するとともに、アスコルビン酸を添加して、または硫酸第一鉄およびアスコルビン酸を添加して食パン類生地を作成し、これを焼成型に蓋をして焼成することにより、焼成後の角型食パン類中に臭素酸を残存させないようにすることからなる角型食パン類の製造方法である。また、本発明は、中種法により角型食パン類を製造するにあたり、予め食パン類生地を構成する全小麦粉量のうち一部の小麦粉を用いて湯捏種を調製し、中種の作成工程において、臭素酸カリウムを水溶液として添加するとともに、アスコルビン酸を添加し、又は硫酸第一鉄とアスコルビン酸とを添加し、さらに本捏工程で湯捏種を添加して食パン類生地を作成し、これを焼成型に蓋をして焼成することにより、焼成後の角型食パン類中に臭素酸を残存させないようにすることからなる角型食パン類の製造方法である。
本発明において、湯捏種とは、パン類生地を構成する全小麦粉量のうち一部の小麦粉が吸水して加熱または加温されて、その小麦澱粉が部分的にα化した生地であり、パン類の製造に用いることができるような性質のものである。その調製方法は問わない。
次に、湯捏種の調製方法について説明をする。
まず、一部の小麦粉と熱湯とを混捏して湯捏種を調製することができる(以下、熱湯法という。特開昭59−156236号公報、特開2000−262205号公報参照)。
また、本発明では、少なくとも全小麦粉量のうち一部の小麦粉と水又は温水とを加温しながら混捏して湯捏種を調製することもできる(以下、炊上法という。特開2003−9758号公報参照)。
さらに、本発明の湯捏種は、少なくとも一部の小麦粉と水とを加えて攪拌する過程でこれらの少なくとも小麦粉と水とからなる原料に水蒸気を吹き込んで加温して調製することができる(以下、蒸気攪拌法という)。また、少なくとも一部の小麦粉と水とを連続的に供給し、攪拌しながら移送する攪拌移送過程でこれらの少なくとも小麦粉と水とからなる原料に水蒸気を連続的に吹き込んで加温して調製することができる(以下、連続蒸気攪拌法という。特開2004−123号公報参照)。
本発明において加温とは、本発明の湯捏種の調製に適したすべての加熱方法を含む概念であり、上述した加熱方法に限定されるわけではない。また、上述した3通りの湯捏種調製方法は、具体的例示として挙げたものであり、本発明における湯捏種調製方法としては、上述した湯捏種を調製することができるのであれば、どのような方法でも採用することが可能である。
しかしながら、小麦澱粉のα化度が大きく、逆に小麦蛋白質の熱変性が小さい湯捏種を安定して、効率的に大量生産することができることから、少なくとも小麦粉と水とを連続的に供給して攪拌しながら移送する攪拌移送過程で、これらの原料に水蒸気を連続的に吹
き込んで加温して調製する方法(連続蒸気攪拌法)が最も望ましい
ここで、必要に応じ、湯捏種の調製に用いる小麦粉量を、全小麦粉量の内1質量%〜30質量%にすることができる。この場合、湯捏種を使用した食パンの特徴として、もっぱらクラストを柔らかくすることだけを求めるときには、湯捏種の小麦粉量は、1質量%〜5質量%で十分である。これに対し、湯捏種を使用した食パンの諸々の特徴(クラスト及びクラムのしっとりした柔らかさ、老化防止、小麦粉に由来する麦芽糖の自然な甘味及び香等)を強く求めるときには、湯捏種の小麦粉量は、10質量%以上であることが望ましく、15質量%以上であることが望ましい。しかし、湯捏種の小麦粉量が多過ぎるときには、具体的には、例えば、湯捏種の小麦粉量が20質量%を超えると、当該湯捏種を使用した食パンは、特に臭素酸カリウムを添加した食パンは、焼成工程におけるオーブンスプリングが大きいために、腰折れが生じる傾向が現われ、湯捏種の小麦粉量が25質量%を超えると、この傾向が増してくる。従って、これらの両者の要求を満たすためには、例えば、上記小麦粉量を、全小麦粉量の内10質量%〜25質量%にすることが有効であり、全小麦粉量の内12質量%〜20質量%にすることがより有効であり、全小麦粉量の内、15質量%〜18質量%にすることがより一層有効である。
湯捏種を調製するときに使用する熱湯、温水又は水の量は、このときに使用する小麦粉量に対し50質量%〜200質量%が望ましく、80質量%〜150質量%がより望ましく、更には80質量%〜120質量%がより一層望ましい。
湯捏種の製造条件等は、上掲の特許公開公報に詳細に記載されているので、これら公報の記載を本発明の説明の一部として参照されたい。
本発明では、直捏法により角型食パン類を製造するにあたり、食パン類生地の作成工程において、または中種法により角型食パン類を製造するにあたり、中種の作成工程において、臭素酸カリウム水溶液およびアスコルビン酸の二者を添加するか、または臭素酸カリウム水溶液、硫酸第一鉄およびアスコルビン酸の三者を添加する必要がある。特に、後述する通り、中種法により食パン類生地を作成することが望ましく、この場合には中種の作成工程において、臭素酸カリウム水溶液及びアスコルビン酸の二者を添加するか、又は臭素酸カリウム水溶液、硫酸第一鉄およびアスコルビン酸の三者を添加する必要がある。
生地改良剤である臭素酸カリウムは、優れた酸化作用を有する酸化剤として知られている。臭素酸カリウムは、アスコルビン酸などの他の酸化剤に比較して、酸化反応が終始安定しているためパン生地に配合した場合に、生地特性に急速な変化を起こすことがなく作業性に優れた酸化剤である。特に生地の締まりが遅いため、機械的量産における生地の加工が容易である。
一方、わが国では、臭素酸カリウムは、その使用量に制限があるとともに、焼成後のパンに臭素酸が残存してはならないという使用基準がある。
本発明は、優れた製パン性と品質を与える有効量の臭素酸カリウムを配合し、しかも焼成後の角型食パン類に臭素酸を残存させないことに成功した。すなわち、臭素酸カリウムを水溶液として配合し、アスコルビン酸、又はアスコルビン酸と硫酸第一鉄を配合することにより、臭素酸カリウムの化学的な分解を促進するだけでなく、その本来的な酸化作用を十分に発揮させることができるようになった。この結果、食パン類生地の製パン性が改善され、また、焼成時におけるオーブンスプリングの向上によって、焼成後の角型食パン類の食感、味、外観、内相の向上等の品質改良効果を十分に実現させることができた。
まず、臭素酸カリウムは、粉末状のものを水に溶解した水溶液として添加する。この臭素酸カリウム水溶液は、水と臭素酸カリウムとを単に攪拌するか、超音波を当てながら攪拌するか、その他の水溶液を作るための任意の方法を採用して作成することができる。
食パン類生地に添加する臭素酸カリウム水溶液は、臭素酸カリウムが水に完全に溶解している必要があるが、水に完全に溶解していれば、その濃度は任意に選択することができる。臭素酸カリウムは水への溶解性が比較的低く、また温度によって水への溶解性が変わり、温度が低くなると溶解性が低下してくる。0℃の水では3%が最大溶解量である。食パン類生地の作成時に添加する水の温度は、通常、0℃以上であり、3%以上の臭素酸カリウムを溶解することが可能であるが、食パン類生地の製造工程中に、臭素酸カリウムが析出することを防止するため、臭素酸カリウム水溶液の濃度は3%以下であることが望ましく、2%以下であることがより一層望ましい。
他方、臭素酸カリウム水溶液の濃度の下限値については、濃度が低ければ低いほど、臭素酸カリウムのパン生地中での溶解性、分散均一性及び計量の正確さ、容易さが向上するという点で望ましいと言えるが、濃度が低すぎると、大量の水溶液を添加する必要が生じ、作業性、製パン適性等に影響するようになる。従って、臭素酸カリウム水溶液の濃度は0.1%以上が望ましく、1%以上がより一層望ましい。そして、この両者の要求を満たすように調節すればよい。
臭素酸カリウム水溶液を添加する量は、中種法により角型食パン類を製造する場合には、アスコルビン酸のみを添加する(硫酸第一鉄を添加しない)ときには、パン類生地を構成する全小麦粉量に対して、通常、臭素酸カリウムの添加量として5ppm〜20ppmとなるように添加する。これに対し、硫酸第一鉄及びアスコルビン酸を添加するときには、通常、5ppm〜25ppmとなるように、望ましくは5ppm〜20ppmとなるように添加する。そして、いずれの場合にも、臭素酸カリウムの添加量は、さらに望ましくは8ppm〜15ppmとなるように、さらに一層望ましくは11ppm〜13ppmとなるように添加することである。また、直捏法により角型食パン類を製造する場合には、臭素酸カリウムを添加する量は、通常、5ppm〜15ppmであるが、より好ましくは8ppm〜15ppmとなるように、さらに一層好ましくは11ppm〜13ppmとなるように添加する。こうすることで、臭素酸カリウムの本来的な酸化作用を十分に発揮させることができるようになり、焼成後の食パン類の風味及び食感の向上、焼色等の外観の向上等の製パン改良効果を十分に実現させることができる。さらに、著しく少量のアスコルビン酸や硫酸第一鉄を添加するだけで、湯捏種を使用した角型食パンにおいて、焼成後のパン類中の臭素酸を残存させないようにすることができる。
臭素酸カリウムの添加量が例えば5ppm未満のように少な過ぎると、上記製パン改良効果が得られなくなるおそれがあり、これに対し、臭素酸カリウムの添加量が中種法で25ppmを超えるような多過ぎる量でも、やはり上記製パン改良効果を達成できないことがある。さらに、このように添加量が多過ぎる場合、中種醗酵の時間を長くして、および/またはアスコルビン酸や硫酸第一鉄の添加量も多くすることによって、焼成後の食パン類、特に角型食パン中の臭素酸を残存させないようにする必要がある。しかしながら、そのように中種醗酵の時間を長くし、または多量のアスコルビン酸や硫酸第一鉄を使用すると、焼成後のパン類の風味、味、及び焼色が影響を受けることになり、さらに、アスコルビン酸や硫酸第一鉄の添加量を多くしても焼成後のパン類中に臭素酸が依然として残存するおそれがある。
本発明は、直捏法により角型食パン類を製造するにあたり、食パン類生地の作成工程において、または中種法により角型食パン類を製造するにあたり、上記食パン類生地の中種の作成工程において、臭素酸カリウム水溶液を添加するとともに、アスコルビン酸、又はアスコルビン酸と硫酸第一鉄とを添加することからなる角型食パン類の製造方法である。ここでアスコルビン酸とはL−アスコルビン酸のことである。
このようにしてアスコルビン酸を添加することにより、パン生地(中種を含む)に添加されたアスコルビン酸は、パン生地との関係では、良好な改良剤として機能するが、臭素酸カリウムとの関係では、還元剤若しくはこれに類するものとして働き、臭素酸カリウムの化学反応を完全なものにする。本発明の一つの態様は基本的にはかかる知見に基づいて完成されたものである。
アスコルビン酸としては、被覆等されていない裸の状態のアスコルビン酸、又は油脂で被覆されたアスコルビン酸、又は、油脂およびモノグリセライド脂肪酸エステル等の乳化剤の混合物で被覆されたアスコルビン酸のいずれを用いてもよい。
アスコルビン酸を添加することにより、湯捏種を使用する角型食パンにおいて、焼成後の食パン類中の臭素酸をより一層残存させないようにするとともに、製パン性及び焼成後のパン類の品質をより一層向上させることができるようになる。
次に、製パン性および焼成後のパン類の品質を向上させる効果については、次のように説明できる。すなわち、臭素酸カリウムは、パン類生地中で十分に作用させるための、添加量及び醗酵、焼成のための温度および時間の適正範囲が非常に狭い。しかしながら、ア
スコルビン酸を添加することにより、この適正範囲を広げることができるので、パン類の製造条件を緩和できる。また、臭素酸カリウムを添加した食パン類や湯捏種を使用した食パン類、特に角型食パン類は、腰折れを起こし易いが、アスコルビン酸の添加によって、この現象が抑制できる。
本発明においてアスコルビン酸を添加する量は、焼成後の食パン類中に臭素酸を残存させないという観点からすれば、多いほうが望ましい。これに対し、パン類生地中における臭素酸カリウムの酸化剤としての本来的な作用を発揮させて、製パン性や焼成後の食パン類の品質を向上させるという観点からすると、少ないほうが望ましい。両方の要求を満足させるためには、アスコルビン酸の添加量は、これに限らないが、通常、3ppm〜20ppmであり、3ppm〜10ppmが望ましく、5ppm〜10ppmがより一層望ましい。
本発明で使用する硫酸第一鉄は、FeSO4の化学式で表され、結晶物(7水塩)及び
乾燥物(1〜1.5水塩)があり、それぞれを硫酸第一鉄(結晶)及び硫酸第一鉄(乾燥)と称する。硫酸第一鉄(結晶)は食品添加物として昭和32年指定され、昭和39年硫酸第一鉄(乾燥)も追加された。そして、この両者をまとめて硫酸第一鉄と称することとなった。
硫酸第一鉄は、鉄と希硫酸とを加えて以下のように製造する。
Fe+H2SO4+7H2O → FeSO4・7H2O(結晶物)+H2
乾燥物は、上記により得られた結晶物を40℃で乾燥し、粉末として製造する。本発明における硫酸第一鉄は、結晶物または乾燥物のいずれでも良いが、後に示す実施例においてはより純度が高い乾燥物(FeSO4・1〜1.5H2O)を使用した。
この硫酸第一鉄を添加することにより、パン生地(中種を含む)に添加された硫酸第一鉄は、臭素酸カリウムとの関係では、還元剤若しくはこれに類するものとして働き、臭素酸の化学反応を完全なものにする。本発明の一つの態様は基本的にはかかる知見に基づいて完成されたものである。
また、アスコルビン酸と硫酸第一鉄とを併用した場合には、焼成後の湯捏種を使用した角型食パン類中の臭素酸をより一層残存させないようにすることができる。このような臭素酸の残存量を低減する効果については、本発明の食パン類生地中には、添加した硫酸第一鉄が臭素酸を化学分解する過程で生じるFe3+が存在していると考えられる。しかしながら、このFe3+は臭素酸と化学反応し難いものである。そこで、アスコルビン酸を添加することにより、添加したアスコルビン酸がパン類生地中で還元剤として作用するため、直接に臭素酸と化学反応してこれを分解するだけではなく、当該パン類生地中に存在し、臭素酸と化学反応し難いFe3+を、臭素酸と化学反応し易いFe2+に変換させる結果として、臭素酸のより一層の化学分解に寄与すると推測される。
この硫酸第一鉄は、パン類生地を構成する全小麦粉量に対して0.1ppm〜20ppm添加することが望ましく、5ppm〜16ppm添加することがより望ましく、5ppm〜10ppm添加することがより一層望ましい。このような添加量であれば、臭素酸カリウムを水溶液として添加することを前提として、製パン性や焼成後の食パン類の品質に影響を与えることなく、湯捏種を使用する角型食パンでも、焼成後のパン類中の臭素酸を確実に残存させないようにすることができるようになる。ここで硫酸第一鉄を添加する量が16ppmを越えると、焼成後の食パンの内相がやや暗くなる傾向がある。その量が20ppmを越えると、食パン類の製造条件によっては、大なり小なり焼成後の食パン類の風味および味に影響するおそれがある。
上記硫酸第一鉄またはアスコルビン酸は、上記臭素酸カリウム水溶液とは別に、粉末として添加することが望ましく、硫酸第一鉄およびアスコルビン酸の両者を添加するときには、両者ともに、粉末として添加することがより一層望ましい。硫酸第一鉄を水溶液として使用すると、臭素酸と反応してこれを分解する硫酸第一鉄中の鉄イオン(Fe2+)が変質して臭素酸を分解する力を失うおそれがある。
また、アスコルビン酸を水溶液として添加すると、パン類生地中で、臭素酸カリウムが酸化剤としての本来的な作用を発揮する前から分解されてしまい、製パン性や焼成後の食パン類の品質を改良する効果に影響するおそれがある。
また、アスコルビン酸及び硫酸第一鉄は、それ自体単独で添加し、またイーストフード、酵素剤、乳化剤、その他の生地改良剤の1種または2種以上に混合、分散させて添加することでき、またそのような添加方法が好ましい。
そして、本発明では、中種法により食パン類生地を作成することが望ましく、この場合には、中種の作成工程において、臭素酸カリウム水溶液及びアスコルビン酸の二者を添加するか、又は臭素酸カリウム水溶液、硫酸第一鉄およびアスコルビン酸の三者を添加する必要がある。
中種法とは、食パン類生地の作成では、一般的に、少なくとも食パン類生地を構成する小麦粉量の一部の小麦粉と、イーストおよび水とを使用し、これに必要に応じてさらにイーストフード、酸化剤、酵素剤等々の生地改良剤、乳化剤、塩、糖類、その他の原料素材や添加剤のうち一種または二種以上を添加し、混捏して中種を作成し、これを一定条件で醗酵させる。次に、この醗酵後の中種に、少なくとも残りの小麦粉、塩および水を添加し、必要に応じてさらに糖類、油脂類、脱脂粉乳、追加のイースト、その他の原料素材や添加剤のうち一種または二種以上を添加して混捏(本捏)してパン生地を作成し、この本捏生地を一定条件で醗酵(フロアータイム)させるというパン生地の製造方法である。
そして、本発明における中種法では、まず、中種を構成する小麦粉の量は、例えば、食パン類生地を構成する全小麦粉量に対して50質量%〜80質量%の量、好ましくは同じく60質量%〜80質量%の量を添加する。中種を構成する小麦粉の量が多くなったり、または少なくなったりすると、この中種を使用して混捏したパン類生地は、中種法の特徴である醗酵安定性や機械耐性を欠くようになるおそれがある。
また、混捏後の中種の醗酵条件は、例えば、26℃〜29℃の温度下、好ましくは27℃〜28℃の温度下において、十分な発酵が得られる時間であれば良く、これに制限されないが、例えば3時間〜6時間、好ましくは4時間〜5時間とすることができる。しかし、中種の醗酵の温度が低かったり、または時間が短かったりすると、中種が未熟となり、この中種を使用して混捏したパン類生地は、中種法の特徴である醗酵安定性や機械耐性を欠き、また焼成後のパン類の品質にも影響するだけでなく、臭素酸カリウム、硫酸第一鉄およびアスコルビン酸の三者の化学反応が不十分となるおそれがある。これに対し、中種の醗酵の温度が高かったり、または時間が長かったりすると、中種が過醗酵・過熟成となり、この中種を使用して混捏したパン類生地は、同様に上記中種法の特徴を欠き、また焼成後のパン類の品質にも影響する。
これにより、本発明では、食パン類生地(ここでは中種を含む意味である)の混捏開始から焼成終了までの全製造工程の時間が長くなるため、中種の混捏工程において添加された臭素酸カリウム及びアスコルビン酸の二者の化学反応、又は臭素酸カリウム、硫酸第一鉄およびアスコルビン酸の三者の化学反応の時間もそれだけ長くなり、その結果として臭素酸の分解が十分に行なわれ、焼成後の湯捏種を使用した食パン類中に臭素酸がより一層
残存しないようになると考えられる。
これに対し、直捏法(ストレート法)とは、一般的に、食パン類生地を構成する全部の原料素材、添加剤等を一度に混捏してパン生地を作成し、このパン生地を一定条件で醗酵させるというパン生地の製造方法である。ここで、食パン類生地を構成する原料素材や添加剤は、上述した中種法による食パン類生地のそれと同様である。
また、混捏後のパン生地の醗酵条件は、具体的には、例えば、26℃〜29℃の温度下、好ましくは27℃〜28℃の温度下において、90分〜150分間、好ましくは110〜130分間である。そして、この醗酵時間の途中で、すなわち全醗酵時間の約2/3〜3/4が経過した後にパンチング等によりガス抜きを行なう。
このように、直捏法では、食パン類生地の混捏開始から焼成終了までの全製造工程の時間が中種法よりも短くなるため、食パン類生地の混捏工程で添加された臭素酸カリウム、アスコルビン酸および硫酸第一鉄の前二者または三者の化学反応の時間もそれだけ短くなり、その結果として中種法よりもは臭素酸の分解が控えめとなると予想される。しかし、それにもかかわらず、本発明によれば、湯捏種を使用しても、焼成後の角型食パン類中に臭素酸が残存しないようにその分解が十分に行なわれるようになる。
本発明は、上記食パン類生地の製造方法により製造された食パン類生地を焼成することからなる角型食パン類の製造方法である。
ここで角型食パン類とは、具体的には、例えば、正方形、長方形等の四角形の底面と、該底面の各々の4辺から垂直に立ち上がり、周囲四方を取り囲む側壁からなる直方体の焼成型にパン類生地を入れ、ホイロ後、蓋を上面に被せて、焼成して得られる、角型の食パンである。しかし、これに限られない。
本発明方法により食パン類を製造するならば、湯捏種を使用した角型食パンでも、焼成後の食パン類中に臭素酸を残存させないようにすることができる。
上記の説明のように、本発明の方法により製造される、湯捏種を使用した焼成後の角型食パン類中の臭素酸の残存量を改良されたHPLC法で測定したときに、臭素酸が残存しない、即ち、その検出限界値である0.5ppb未満まで減少させることが可能となる。
このHPLC法は、上述したとおり、本発明者等が開発したものであり、焼成後のパン類中の臭素酸の検出限界値が0.5ppbという極めて精密な高速液体クロマトグラフィー測定法である。この測定法の詳細については、(社)日本食品衛生学会発行「食品衛生学雑誌」第43巻、第4号(平成14年8月)第221頁〜第224頁、平成15年3月4日付、厚生労働省医薬局食品保健部基準課長通知(食基発第0304001号)「食品中の臭素酸カリウム分析法について」、及び平成15年3月12日付、厚生労働省食品保健部基準課事務連絡『「食品中の臭素酸カリウム分析法について」に係る正誤について』を参照されたい。当該食基発第0304001号通知により、その検出限界値が0.5ppbであると認められた。
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1] 湯捏種の調製
以下、湯捏種の調製の一例として、上記連続蒸気攪拌法による湯捏種の調製方法を説明する。この実施例1に係る湯捏種の調製方法は、連続攪拌装置として図1乃至図4に示す連続攪拌装置Sを使用して、下記の表1の条件により実施したものである。なお、本発明では、下記の湯捏種の調製方法に限定されるものではなく、他のどのような方法によって
調製される湯捏種も使用できることはもちろんである。
連続攪拌装置Sにおいて、1は基台、2は基台1に設けられ内部で小麦粉の原料が攪拌される筒状のドラムである。ドラム2には、その一端側に小麦粉が連続的に供給される小麦粉供給口3が設けられている。小麦粉供給口3には、小麦粉を充填するホッパ状の充填機4が取付けられている。また、ドラム2の他端側には湯捏種を排出する排出口5が設けられている。6は排出された湯捏種を受ける生地収容供給機である。
10はドラム2内に設けられ原料を排出口5へ送りながら攪拌する攪拌羽根である。攪拌羽根10は、ドラム2の軸心に回転可能に設けられた回転シャフト11と、回転シャフト11に放射状にかつ螺旋状に所定間隔で突設された多数のフィン12とから構成されている。13は基台1に設けられ攪拌羽根10の回転シャフト11を回転駆動する電動モーター14を含む駆動機構である。これによって攪拌羽根10はドラム2の軸心を中心として連続的に高速回転する。
ドラム2の小麦粉供給口3の近傍下流側には、水が連続的に供給される水供給口20が設けられている。水供給口20には、給水タンク21から定量ポンプ22を介して水が供給される。
また、ドラム2の小麦粉供給口3の近傍下流側には、液糖が連続的に供給される液糖供給口23が設けられている。液糖供給口23には、液糖タンク24から定量ポンプ25を介して液糖が供給される。26は給水タンク21及び液糖タンク24を加温するための温水を循環供給する温水タンクであり、水及び液糖の温度を所定温度に設定する。
更に、ドラム2の小麦粉供給口3の近傍下流側には、液状油脂が連続的に供給される油
脂供給口30が設けられている。油脂供給口30には、油脂タンク31から定量ポンプ32を介して液状油脂が供給される。
40はドラム2内に水蒸気を連続的に供給する水蒸気供給機構である。水蒸気供給機構40において、41はドラム2の小麦粉供給口3、水供給口20、液糖供給口23及び油脂供給口30よりも下流側でドラム2の略中間部に設けられた水蒸気の吹込口である。この吹込口41には、図示外の水蒸気発生装置からの水蒸気が供給される。水蒸気は、所定の温度及び圧力の条件で供給される。
そして、上記の連続攪拌装置Sにより上記の湯捏種の調製方法を実施するときは、以下のようになる。ドラム2では攪拌羽根10が常時高速回転している。攪拌羽根10は、ドラム2の軸心に回転可能に設けられた回転シャフト11と、回転シャフト11に放射状にかつ螺旋状に所定間隔で突設された多数のフィン12とから構成されている。このドラム2には、小麦粉供給口3から所要量の小麦粉が連続定量供給され、水供給口20から所定温度の温水が連続定量供給され、必要に応じて液糖供給口23から所要温度の液糖が連続定量供給され、必要に応じて油脂供給口30から液状油脂が連続定量供給される。これにより、高速回転する攪拌羽根10によって、ドラム2の上流側で小麦粉、温水、液糖及び液状油脂が高速回転攪拌されて順次下流側に送られる。この間に原料は細かい飛沫状態となって混合され水和する。原料が攪拌されながら略中間部に移送されてくると、略中間部に設けられた吹込口41からは水蒸気が連続的に吹き込んでいるので、原料の混合物は攪拌されながら飛沫状態でこの水蒸気に晒される。
この場合、水蒸気の吹き込みにより、小麦粉及び水等は加温され、この加温により、小麦澱粉のα化と低分子化が行われていく。
このようにして原料に水蒸気を吹き込むにあたり、水蒸気を飛沫状態における原料の混合物にあてることが必要である。従って、上記ドラムに水蒸気の吹込口を設ける位置は、そのように原料が飛沫状態で混合され水和した後に、水蒸気を当てることができるような位置、具体的には、例えば、ドラム2の一端側に設けた小麦粉供給口3、水供給口20の下流側でドラム2の略中間部に設けられることが望ましい。
そして、このように高速回転攪拌されて出来上がった湯捏種は排出口5から自動的に排出される。排出口5の下方には、必ずしも必要ではないが、生地収容供給機6を設けて、排出口5から排出されて落下してくる湯捏種を収容し、集めてから供給することができるようにしている。
このように上記連続攪拌装置Sを用いて湯捏種を調製することにより、小麦澱粉のα化と低分子化を急速に行わせることができるため、きわめて短時間で(本実施例では、5秒〜10秒間)連続的に湯捏種を調製することができた。
また本実施例で調整した湯捏種は、いずれも小麦澱粉のα化と低分子化が促進させられており、逆に小麦蛋白質の熱変性は小さく、また条件が同一であるときには、α化の均一化が図られている安定した良好な湯捏種であった。
[実施例2] 角型食パンの製造(中種法で、中種に臭素酸カリウム水溶液、硫酸第一鉄
及びアスコルビン酸の添加)
(単位:小麦粉全量を基準とする質量%,ppm,以下の実施例でも同様)
(原料配合)
中種 小麦粉(強力粉) 60%
イースト 1.7%
イーストフード、酵素等の生地改良剤 0.1%
(内被覆してない裸のL−アスコルビン酸として) 5ppm
乳化剤 0.3%
水 40%
臭素酸カリウム(濃度1.0%の水溶液として添加)
12ppm
硫酸第一鉄 5ppm

本捏 小麦粉(強力粉) 22.5%
砂糖 5.5%
油脂 5%
脱脂粉乳 2%
塩 2%
イースト 0.3%
水 28%
上記実施例1により調製した湯捏種
(湯捏種を構成する強力小麦粉量として) 17.5%

(製造工程)
中種 混捏 L3H3(分)
捏上温度 24℃
醗酵 4時間

本捏 混捏 L3H5↓(油脂添加)L3H4(分)
捏上温度 27℃
フロアータイム 20分間
分割 500g
丸め
ベンチタイム 20分間
ガス抜き(圧延)
整形 M型(該圧延生地をカーリングにより巻き込み、棒状とし、
M型にする)
型詰(3個のM型整形生地を3斤食パン類用焼成型に詰める)
ホイロ 38℃、60分間
焼成(蓋をかぶせる) 195℃、38分間
このようにして角型食パンを製造した。なお、硫酸第一鉄とアルコルビン酸は臭素酸カリウム水溶液とは別に、粉末で添加している(以下の実施例でも同様)。
(測定法)
上記「食品衛生学雑誌」および上記厚生労働省通知に記載の方法と同様の方法
(結果)
上記測定法(上述した通り、検出限界値0.5ppb)により焼成後の食パン中の臭素酸の残存量を測定したところ、ND(Non−Detected。検出されないこと。以下同様)であった。
これにより、本発明によれば、臭素酸カリウムを水溶液として添加することにより、臭素酸カリウムとして12ppmとなるように添加したときでも、上記従来の技術よりも著しく少量の硫酸第一鉄及びアスコルビン酸を添加するだけで、角型食パン中に臭素酸を残存させないようにすることができることがわかる。
また、この焼成後の角型食パンは、風味および味も硫酸第一鉄の影響を受けずに良好なものであった。
[実施例3] 角型食パンの製造(中種法で、中種に臭素酸カリウム水溶液及びアスコル
ビン酸の添加)
(原料配合)
中種 小麦粉(強力粉) 60%
イースト 1.7%
イーストフード、酵素等の生地改良剤 0.1%
(内被覆してない裸のL−アスコルビン酸として) 5ppm
乳化剤 0.3%
水 40%
臭素酸カリウム(濃度1.0%の水溶液として)
12ppm

本捏 小麦粉(強力粉) 22.5%
砂糖 5.5%
油脂 5%
脱脂粉乳 2%
塩 2%
イースト 0.3%
水 28%
上記実施例1により調製した湯捏種
(湯捏種を構成する強力小麦粉量として) 17.5%
(製造工程)
中種 混捏 L3H2(分)
捏上温度 24℃
醗酵 4時間

本捏 混捏 L2H3↓(油脂添加)L2H6(分)
捏上温度 27℃
フロアータイム 20分間
分割 500g
丸め
ベンチタイム 20分間
ガス抜き(圧延)
整形 M型(該圧延生地をカーリングにより巻き込み、棒状とし、
M型にする)
型詰(3個のM型整形生地を3斤食パン類用焼成型に詰める)
ホイロ 38℃、50分間
焼成(蓋をかぶせる) 195℃、38分間
このようにして角型食パンを製造した。
(結果)
上記測定法により焼成後の角型食パン中の臭素酸の残存量を測定したところ、NDであった。
[実施例4] 角型食パンの製造(中種法で、中種に臭素酸カリウム水溶液とアスコルビ
ン酸の添加、又は臭素酸カリウム水溶液とアスコルビン酸と硫酸第一鉄と
の添加)
臭素酸カリウム水溶液、アスコルビン酸、硫酸第一鉄を下記の表2通りの添加量として、実施例3に記載した条件により、中種法で角型食パンを製造した。
(結果)
上記測定法により焼成後の角型食パン中の臭素酸の残存量を測定したところ、いずれの試験番号においてもNDであった。
[実施例5] (直捏法で、パン生地の混捏時に臭素酸カリウム水溶液およびアスコル
ビン酸の添加)
(原料配合)
小麦粉(強力粉) 82.5%
イースト 2.0%
イーストフード、酵素等の生地改良剤 0.1%
(内 被覆していない裸のL−アスコルビン酸として) 5ppm
臭素酸カリウム(濃度1.0%の水溶液として添加) 12ppm
乳化剤 0.3%
砂糖 5.5%
油脂 5.0%
脱脂粉乳 2.0%
塩 2.0%
水 70.0%
上記実施例1により調製した湯捏種
(湯捏種を構成する強力小麦粉量として) 17.5%

(製造工程)
混捏 L4H3(分)↓(油脂添加)L3H6(分)
捏上温度 27℃
醗酵 25.5℃、80%
120分(90分間経過後にパンチ(ガス抜き)を
行い、さらに30分間醗酵させる)
分割 500g
丸め
ベンチタイム 20分間
ガス抜き(圧延)
整形 M型(該圧延生地をカーリングにより巻き込み、
棒状として、M型に整形する)
型詰(3個のM型整形生地を3斤食パン類用焼成型に詰める)
ホイロ 38℃、50分間
焼成(蓋を被せる)195℃、38分間
(結果)
上記測定法により焼成後の角型食パン中の臭素酸残存量を測定したところ、NDであった。
[実施例6] (直捏法で、パン生地の混捏時に臭素酸カリウム水溶液及びアスコルビ
ン酸の添加)
(原料配合)
上記実施例5において、臭素酸カリウム水溶液を臭素酸カリウムとして15ppmとなるように、及びアスコルビン酸を20ppmとなるように添加した。
(製造工程)
上記実施例5と同様。
(結果)
上記測定法により焼成後の角型食パン中の臭素酸残存量を測定したところ、NDであった。
[実施例7] (直捏法で、パン生地の混捏時に臭素酸カリウム水溶液及びアスコルビ
ン酸、硫酸第一鉄の添加)
(原料配合)
上記実施例5において、さらに硫酸第一鉄を10ppmとなるように添加した。
(製造工程)
上記実施例5と同様。
(結果)
上記測定法により焼成後の角型食パン中の臭素酸残存量を測定したところ、NDであった。
[実施例8] (直捏法で、パン生地の混捏時に臭素酸カリウム水溶液及びアスコルビ
ン酸、硫酸第一鉄の添加)
(原料配合)
上記実施例5において、臭素酸カリウム水溶液を臭素酸カリウムとして15ppmとなるように、及びアスコルビン酸を20ppmとなるように、さらに硫酸第一鉄を16ppmとなるように添加した。
(製造工程)
上記実施例5と同様。
(結果)
上記測定法により焼成後の角型食パン中の臭素酸残存量を測定したところ、NDであった。
[比較試験例1] 製パン性、外観及び老化試験
上記実施例3に記載した条件により、製パンに際して、生地改良剤として、イーストフードや酵素を使用することなく、酸化剤のみを配合し、臭素酸カリウム水溶液とアスコルビン酸との組合せ(実施例9)と、アスコルビン酸のみ(比較例1、2)を配合してパン生地及び角型食パンを製造し、製パン性、外観及び老化を比較試験した。
この比較試験例1では、酸化剤の種類、配合量(食パン類生地を構成する全小麦粉量に対する)を下記の通り設定した。
試験番号:
実施例9: 臭素酸カリウム 12ppm; アスコルビン酸 5ppm
比較例1: 臭素酸カリウム 0 ppm; アスコルビン酸 12ppm
比較例2: 臭素酸カリウム 0 ppm; アスコルビン酸 17ppm
(結果)
製パン試験結果を下記の表3に示す。
上記の比較試験におけるホワイトラインについては、添付の図5(写真)に示した。
ホワイトラインとは、角型食パンの角に出来る焼成が弱く白く焼き残った部分をいう。角型食パンの品質を評価する時、細い均一なホワイトラインを有する食パンが良好な製品と言える。
本発明(実施例9)の生地は、伸展性がよく、圧延ガス抜き後のカールした生地は、棒状の整形しやすい長さになり、美しいM形整形が出来る。しかし、比較例1、2の生地は、どちらも伸展性が悪く、圧延ガス抜き後のカールした生地は短く、また、両端は細くなり、美しいM形整形が出来ない。そして、このM型整形した生地のホイロ終了時の発酵状態を比較すると、本発明の生地は均一に安定して膨張しており凸凹が少ないが、比較例の生地は不均一に膨張するため凸凹が大きく、この差がホワイトラインの形状の差となって現れてくる。
さらに焼成食パンのクラム圧縮加重を下記の条件で測定し、その結果を図6に示す。
測定条件: 使用機器:(株)山電製「レオナーRE−33005」
検体の厚さ:20mm
プランジャー:直径30mm「円盤」
圧縮スピード:毎秒5mm
圧縮距離:10mm
圧縮加重は、検体(食パンクラム部分)をプランジャーで一定速度で圧縮するときに必要な力(gf)であり、数値が低い程柔らかく、高ければ硬いことを意味する。グラフは時間経過による食パンの固化(老化)を示すもので、実施例9に比べて比較例1、2の老化が進んでいることが判る。
(試験結果の所見)
実施例9ではフロアタイムにおける生地の安定性がよかった。(正確には、フロアタイム後の分割工程において生地が分割されるまでの待機時間の有無及び長短に対する生地の安定性という意味である。この待機時間はフロアタイムを延長したに等しいために、このように表現している。以下、同様。)また、得られた食パンは、上面のしわが少なく、ホワイトラインが同じ幅で細く均一であった。さらに、食感はしっとり柔らかく、口溶けもよく、内相は膜が薄く、伸びて白く良好であった。
一方、比較例1、2では、フロアタイムでの生地の安定性に欠け、分割工程の後半に生地が締まり、伸展性が悪くなった。その結果、焼成パンの外観については上面のしわが深く、ホワイトラインの幅が太く不均一であった。また、実施例9に比較して、柔らかさ、口溶け、内相ともに劣っていた。
[比較試験例2]製パン性及び官能試験
本比較試験例2では、酸化剤を含む生地改良剤を使用し、上記実施例3に記載の条件により中種法により角型食パンを製造した。なお、湯捏種は上記実施例1と同一の条件で製造した。
酸化剤としてアスコルビン酸(比較例3)、又は臭素酸カリウム水溶液とアスコルビン酸(上記実施例3)を用い、さらに各酸化剤の性能をよりよく引き出すための酵素及びイーストフードを配合した生地改良剤を使用し、中種法により角型食パンを製造し、製パン試験及び28名のパネラーによる官能試験を行った。
なお、実施例3では、酸化剤として、臭素酸カリウム水溶液(臭素酸カリウムとして12ppm)と5ppmのアスコルビン酸とを配合した。比較例3では、臭素酸カリウムを配合することなく、アスコルビン酸を8ppm配合した。また、比較例3では、湯捏種は湯捏種を構成する小麦粉量として20質量%となるように配合した(ここで、配合量はいずれも、食パン類生地を構成する全小麦粉量に対するものである)。
(結果)
製パン試験結果を表4に示す。
さらに、官能試験結果を表5に示す。
評価
嗜好 : 非常に嫌い(1)← 普通(4)→ 非常に好き(7)
歯切れ識別 : 非常に悪い(1)← 普通(4)→ 非常に良い(7)

(試験結果の所見)
湯捏種を配合した生地は、一般的に、生地のまとまりが遅く、特に油脂投入前のミキシング時間がかかる。これに対して、本発明(実施例3)では生地のまとまりが良く、ミキシング時間が短かった。また、湯捏種を配合したパン生地において、比較例3(アスコルビン酸のみ配合)はフロアタイムの安定性に欠け、分割工程の後半に生地が締まり、伸展性が悪くなる。その結果、生地が荒れ、内相膜が厚くなり、暗くなる。また、底溜まりも出やすくなる。形状も分割工程の後半になると、ホワイトラインが不均一になったり、ボリュームが出にくくなった。因みに、底溜まりとは、パン生地が傷んだり、荒れたりして、ホイロ・焼成工程で上方に伸びる力がないために、焼成後のパンの底部(下部)の内相が膜厚の、暗い、目の詰んだ状態となることであり、この部分は食感が重く、口溶けも悪い。
官能試験では、総合、味、クラム食感の各試験項目で本発明の食パンが好まれ、また、クラム及びクラストともに歯切れが良いと評価された。
なお、香りの嗜好では両者に差がなかったが、これは比較例のほうが、焼成後のパンの香りに大きく寄与する湯捏種の添加量が10質量部以上多いことによる影響であると推測される。換言すれば、同等の香り嗜好評価を得るためには、本発明では、比較例よりも少ない量の湯捏種の添加で足りることを意味する。
本発明は、食パン類生地又は中種の作成工程において、臭素酸カリウムを添加するにあたり、食パン類生地中において添加された臭素酸カリウムの臭素酸の化学的な分解を促進するために、臭素酸カリウムを水溶液として添加するとともに、アスコルビン酸を添加するか、又は硫酸第一鉄及びアスコルビン酸を添加することにより、焼成後の湯捏種を使用した角型食パン類中に臭素酸を残存させないようにすることからなる角型食パン類の製造方法を提供するものである。
本発明により、優れた酸化剤としての臭素酸カリウムを食パン類生地又は中種に配合することにより、食パン類生地の製パン性が改善されると共に、得られる焼成食パン類の嗜好、食感も改善された。
さらに、本発明により、臭素酸カリウムを水溶液として添加することにより、硫酸第一鉄を添加するときでも、その添加量を著しく減少させて、湯捏種を使用した焼成後の角型食パン類の風味および味に影響を与えないようにすることが可能となった。
実施例1の湯捏種の製造方法の実施に使用した連続撹拌装置を模式的に示す全体構成図である。 実施例1の湯捏種の製造方法の実施に使用した連続撹拌装置の側面図である。 図2に示す連続撹拌装置の拡大側面図である。 図2に示す連続撹拌装置の拡大平面図である。 比較試験例1で調製された食パンの外観を示す写真である。 比較試験例1で調製された食パンのクラム圧縮加重の測定結果を示すグラフである。

Claims (24)

  1. 直捏法により角型食パン類を製造するにあたり、予め食パン類生地を構成する全小麦粉量のうちの一部の小麦粉を用いて湯捏種を調製し;食パン類生地の作成工程において、臭素酸カリウムを水溶液として添加するとともに、アスコルビン酸を添加し、さらに前記の湯捏種を添加して食パン類生地を作成し;これを焼成型に蓋をして焼成することにより、焼成後の角型食パン類中に臭素酸を残存させないことを特徴とする角型食パン類の製造方法。
  2. 直捏法により角型食パン類を製造するにあたり、予め食パン類生地を構成する全小麦粉量のうちの一部の小麦粉を用いて湯捏種を調製し;食パン類生地の作成工程において、臭素酸カリウムを水溶液として添加するとともに、硫酸第一鉄およびアスコルビン酸を添加し、さらに前記の湯捏種を添加して食パン類生地を作成し;これを焼成型に蓋をして焼成することにより、焼成後の角型食パン類中に臭素酸を残存させないことを特徴とする角型食パン類の製造方法。
  3. 蒸気攪拌法または連続蒸気攪拌法によって湯捏種を調製する、請求項1または2に記載の方法。
  4. 食パン類生地を構成する全小麦粉量のうちの10質量%〜18質量%の小麦粉を用いて湯捏種を調製する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 湯捏種に使用する小麦粉量に対して50質量%〜200質量%の水を用いて湯捏種を調製する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 上記臭素酸カリウム、上記食パン類生地を構成する全小麦粉量に対して5ppm〜15ppmの量添加する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 上記硫酸第一鉄および/またはアスコルビン酸、上記臭素酸カリウム水溶液とは別に、粉末として添加する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 上記アスコルビン酸の全部または一部が、油脂で、または、油脂とモノグリセライド脂肪酸エステルとの混合物で被覆されている、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
  9. 上記硫酸第一鉄、上記食パン類生地を構成する全小麦粉量に対して0.1ppm〜20ppmの量添加する、請求項2〜8のいずれかに記載の方法。
  10. 上記アスコルビン酸、上記食パン類生地を構成する全小麦粉量に対して3ppm〜20ppmの量添加する、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
  11. 上記食パン類中の臭素酸の残存量を改良されたHPLC法で測定したときに、該食パン類中に臭素酸が残存していない(検出限界値0.5ppb未満である)、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
  12. 中種法により角型食パン類を製造するにあたり、予め食パン類生地を構成する全小麦粉量のうちの一部の小麦粉を用いて湯捏種を調製し;中種の作成工程において、臭素酸カリウムを水溶液として添加するとともに、アスコルビン酸を添加し;さらに本捏工程において、前記の湯捏種を添加して食パン類生地を作成し;これを焼成型に蓋をして焼成することにより、焼成後の角型食パン類中に臭素酸を残存させないことを特徴とする角型食パン類の製造方法。
  13. 中種法により角型食パン類を製造するにあたり、予め食パン類生地を構成する全小麦粉量のうちの一部の小麦粉を用いて湯捏種を調製し;中種の作成工程において、臭素酸カリウムを水溶液として添加するとともに、硫酸第一鉄及びアスコルビン酸を添加し;さらに
    本捏工程において、湯捏種を添加して食パン類生地を作成し;これを焼成型に蓋をして焼成することにより、焼成後の角型食パン類中に臭素酸を残存させないことを特徴とする角型食パン類の製造方法。
  14. 上記臭素酸カリウム、上記食パン類生地を構成する全小麦粉量に対して5ppm〜20ppmの量添加する、請求項12に記載の方法。
  15. 上記臭素酸カリウム、上記食パン類生地を構成する全小麦粉量に対して5ppm〜25ppmの量添加する、請求項13に記載の方法。
  16. 蒸気攪拌法または連続蒸気攪拌法によって湯捏種を調製する、請求項12〜15のいずれかに記載の方法。
  17. 食パン類生地を構成する全小麦粉量のうちの10質量%〜18質量%の小麦粉を用いて湯捏種を調製する、請求項12〜16のいずれかに記載の方法。
  18. 湯捏種に使用する小麦粉量に対して50質量%〜200質量%の水を用いて湯捏種を調製する、請求項12〜17のいずれかに記載の方法。
  19. 上記硫酸第一鉄および/またはアスコルビン酸、上記臭素酸カリウム水溶液とは別に、粉末として添加する、請求項12〜18のいずれかに記載の方法。
  20. 上記アスコルビン酸の全部または一部が、油脂で、または、油脂とモノグリセライド脂肪酸エステルとの混合物で被覆されている、請求項12〜19のいずれかに記載の方法。
  21. 上記硫酸第一鉄、上記食パン類生地を構成する全小麦粉量に対して0.1ppm〜20ppmの量添加する、請求項13および15〜20のいずれかに記載の方法。
  22. 上記アスコルビン酸、上記食パン類生地を構成する全小麦粉量に対して3ppm〜20ppmの量添加する、請求項12〜21のいずれかに記載の方法。
  23. 上記食パン類中の臭素酸の残存量を改良されたHPLC法で測定したときに、該食パン類中に臭素酸が残存していない(検出限界値0.5ppb未満である)、請求項12〜22のいずれかに記載の方法。
  24. 食パン類生地の作成にあたり、湯捏種、臭素酸カリウム水溶液及びアスコルビン酸、並びに、必要に応じて硫酸第一鉄、を添加して作成した食パン類生地を、焼成型に蓋をして焼成することにより、焼成後には臭素酸が残存していないことを特徴とする角型食パン。
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