JP4554110B2 - Dnaチップ用結合剤、dnaチップ、およびdnaチップの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、遺伝子の発現、遺伝子の変異、遺伝子の多型等の解析に特に有用なDNAチップに関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞や組織における遺伝子発現の様態の解析は、これまで種々の細胞や組織からRNAを調製し、そのRNAをメンブレン上に固定し、解析対象の遺伝子の特異的プローブを用いてハイブリダイゼーションを行うノーザンブロット(もしくは、ドットブロット)法や、解析対象の遺伝子に特異的なプライマを用いたRT−PCR法などによって行われてきた。
【0003】
一方、遺伝子の研究の進展により解析を必要とする遺伝子の数が急速に増加し、さらに、ゲノムプロジェクトの進展や、医療分野への応用などの進行に伴って、多数の遺伝子を一度に解析する必要性が高まっている。
【0004】
このような要望に対して、最近、マイクロアレイ法もしくはDNAチップ法が開発されつつある。これらの技術の特徴は、ガラス製の基板上に、互いに異なる数千種類のDNA断片を固定し(DNAチップまたはバイオチップという。)、この固定DNA断片と極少量の標識されたターゲットDNA断片とのハイブリダイゼーションを行い、高感度でターゲットDNA断片を検出することである。
【0005】
上記の方法を用いることによって、ヒト等のほ乳類や数千個の遺伝子を有する微生物の全遺伝子を数枚のDNAチップ等を用いて解析することができ、標識RNAによる全遺伝子を対象とした発現量の解析を行うこともできる。また、ゲノムDNAを標識することによって遺伝子欠損等の変異の解析も可能である。
【0006】
DNAチップ等の作製において、「オン・チップ」法(基板表面上に固定するDNA断片を、直接、基板表面上で合成する方法)によらない場合には、DNA断片は、予め調製したものを基板表面に点着し、次いで静電的相互作用あるいは共有結合によって基板表面に固定する。
【0007】
図2は、この従来の方法の原理を説明する図である。図2(a)に示すように、複数種類のプローブDNA1が入っているマイクロプレート2を用意する。一方、図2(b)に示すよう、プレート3としてガラス板を用意しておき、図2(c)で示すように、プレート3の表面にpoly-l-Lysine等のDNAとガラスの結合剤4をコーティングする。この後、マイクロプレート2に入っているプローブDNA1をピンに付着させ、表面にDNAとガラスの結合剤(poly-l-Lysine)4がコーテイングしてあるガラスプレート3の上に、ピンに付着させたプローブDNA1を接触させてスポットする。マイクロプレート2に入っている全てのプローブDNAをスポットし終わるまでこの作業を繰り返し、図2(d)に示すDNAチップを製造していた。このように、従来はプレートに予めDNAとガラスの結合剤を全面コーティングし、その上にDNAをプロットしてDNAチップを製造していた。
【0008】
DNAチップのハイブリダイゼーション工程は、プローブDNAが結合剤でガラスのプレートにスポットされているDNAチップと、蛍光物質で標識したサンプルDNAを、ともにハイブリダイゼーション溶液に入れてハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーション溶液は、ホルムアルデヒド、SSC(NaCl, trisodiumcitrate)、SDS(sodium dodecyl sulfate)、EDTA(ethylenediamidetetraacetic acid)、蒸留水などからなる混合液であり、混合比率は使用するDNAの性質により異なる。
【0009】
このとき、サンプルDNAとDNAチップ上のプローブDNAが相補鎖DNAであれば、両者は二重らせん構造をとり結合する。一方、両者が相補鎖でなければ結合することはなく、蛍光物質で標識したサンプルDNAは、そのままハイブリダイゼーション溶液に残留するか、そのごく一部はガラスのプレート上にコーティングされている結合剤と結合し、ガーベージとして残る場合もある。
【0010】
その後、ガラスのプレート上に残った蛍光物質で標識したサンプルDNAを水槽等の中に入れて洗い流すと、プローブDNAと結合していないサンプルDNAは排出される。その後、プローブDNAと結合しているサンプルDNAに標識している蛍光物質を、所定の光源からの光エネルギーで励起させ、蛍光物質が励起して発光する光をCCDなどの光センサーで検出することでハイブリダイゼーションの検出を行う。
【0011】
しかし、poly-l-Lysine等のDNAとガラスの結合剤は、DNAに対する結合力が十分でないため、上記水洗い工程の際、基板との結合が外れ、ハイブリダイズした資料まで洗い流されてしまう場合があった。このような、不十分な結合に由来するプローブDNAおよびサンプルDNAの損失は、多いときには70%以上にも達し、高価なプローブDNAや、貴重なサンプルDNAを徒に浪費しているのが現状であった。
【0012】
このような問題を解消すべく、結合材として種々の材料が検討されているが、未だ有効な材料が得られていない。
【0013】
さらに、プローブDNAと結合しなかったサンプルDNAが必要以外の部分、すなわち、プローブDNAがスポットされていない結合剤部分に張り付き、結合剤と結合しているサンプルDNAは水洗いによってもガラスのプレート上から除去されない。それが検出時ノイズとなって現われ、感度が低くなっていた。つまり、サンプルDNAの一部がプローブDNAとの特異結合ではなく単に結合剤に張り付いた状態でバイオチップ上にガーベージとして残り、そのサンプルDNAに標識されている蛍光物質も励起されて発光するため、ノイズとして検出され、S/Nが悪くなるという問題があった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、水洗い工程等においてプロ−ブDNA、サンプルDNAの損失が少なく、DNAサンプルを有効に活用でき、しかもS/Nを向上させることも可能なDNAチップ用結着剤、DNAチップ、およびDNAチップの製造方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
すなわち上記目的は、以下の本発明の構成により達成される。
(1) 下記構造式(I)で表されるDNAチップ用結合剤。
【0016】
【化4】
【0017】
〔上記式(I)において、R1 ,R2 は、−NH2 基、またはHを表し、少なくともR1 ,R2 のいずれかは−NH2 基である。〕
(2) 少なくとも基板上に下記式(II)で表される構造単位を有する高分子を含有するDNAチップ用結合剤含有層が形成されているDNAチップ。
【0018】
【化5】
【0019】
(3) 前記DNAチップ用結合剤にはプロ−ブDNAが結合している上記(2)または(3)のDNAチップ。
(4) 前記DNAチップ用結合剤含有層は、蒸着法により形成されている上記(2)〜(3)のいずれかのDNAチップ。
(5) 前記DNAチップ用結合剤含有層は、マスキングによりパターン形成されている上記(2)〜(4)のいずれかのDNAチップ。
(6) 下記構造式(I)で表される原料を蒸発させ、加熱してモノマーとした後、所定の真空度の蒸着室に導入して基板上に重合させ結合剤含有層を形成するDNAチップの製造方法。
【0020】
【化6】
【0021】
〔上記式(I)において、R1 ,R2 は、−NH2 基、またはHを表し、少なくともR1 ,R2 のいずれかは−NH2 基である。〕
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明のDNAチップ用結着剤は、下記構造式(I)で表されるものである。
【0023】
【化7】
【0024】
上記式(I)において、R1 ,R2 は、−NH2 基、またはHを表し、少なくともR1 ,R2 のいずれかは−NH2 基である。R1 ,R2 は双方とも−NH2 基であってもよい。
【0025】
このような本発明の化合物を結着剤として用いることにより、基板とプロ−ブDNAとをより確実に結合させることができ、水洗い工程等でもプローブDNA、サンプルDNAが基板から流れ落ちることなく、プローブDNA、サンプルDNAを有効に活用することができる。
【0026】
構造式(I)で表される本発明の化合物は、好ましくは蒸着法、特にCVD法により、蒸発、分解させて、これを基板上に重合・堆積させることで、ガラス等の基板と良好に接着すると共に、構造式中に存在するアミノ基(NH2 )がプローブとなるDNA断片のリン酸基(PO4 )と結合して、プローブDNAを基板上に良好に固定することができる。通常、DNA断片は5’末端が本発面化合物と結合する。
【0027】
本発明の化合物は、以下の方法により製造することができる。
【0028】
先ず、パラシクロファンを氷酢酸と加熱還流し、所定の温度まで冷却した後、発煙硝酸を滴下し、撹拌する。次いで、反応物を冷水、例えば氷水にあけ、析出した沈殿物を濾過し、アルカリ洗浄後、水洗する。
【0029】
得られた粗結晶を抽出溶媒、例えばイソプロピルエーテルで抽出後、抽出物からイソプロピルエーテルを留去し、残留物をメタノールで再結晶させて4−ニトロ−パラシクロファンを得る。
【0030】
次いで、得られた4−ニトロ−パラシクロファンを溶媒、例えばトルエンに溶解し、これに鉄粉、エタノール、および水を加え、加熱還流する。加熱還流しつつ、濃塩酸をエタノールで希釈した塩酸溶液を滴下し、さらに数時間加熱還流する。反応終了後、反応物を濾過し、濾液を塩酸で抽出し、この抽出液を苛性ソーダ等の中和剤で中和する。析出した沈殿物を濾過、乾燥し、得られた粗結晶を昇華し、昇華物をエタノールと加熱還流した後冷却し、得られた結晶を濾別、乾燥して構造式(I)の4−アミノ−パラシクロファンを得る。
【0031】
このようにして得られた構造式(I)の4−アミノ−パラシクロファンは、以下の化学蒸着法を用いて、基板上に結着剤含有層として成膜することができる。
【0032】
先ず、図1に示すように、蒸発部11、分解部12、蒸着部13とを有する蒸着装置を用意する。なお、図1において、蒸発部11には蒸発材料を導入する開口部シャッタ11aを有し、さらに蒸発部13にはトラップ14を介して真空ポンプ15が接続されている。
【0033】
図示例の蒸着装置において、先ず蒸発部11に固体状の蒸発材料4−アミノ−パラシクロファンを導入する。蒸発部11の温度を、4−アミノ−パラシクロファンが気化する温度、好ましくは80〜200℃、特に100〜180℃に加熱すると、蒸発材料が気化してダイマーガスとなり、原料ガスが生成する。
【0034】
次いで、原料のダイマーガスを分解部12に導入する。この分解部12では、導入された原料ガスをその分解温度、好ましくは600〜750℃、特に650〜700℃まで加熱し、原料ガスを熱分解してモノマーガスとする。
【0035】
次に、得られた原料モノマーガスを、蒸着室13内に導入する。蒸着室13内は、所定の真空度、好ましくは10〜50mTorr、特に20〜35mTorrに保持されている。そして、導入された原料ガスが基板に接触すると、その界面で重合し、高分子膜が形成される。
【0036】
このようにして得られた高分子は、下記構造式(II)で表されるものである。
【0037】
【化8】
【0038】
上記式(II)において、m、nは整数であり、nは0であってもよい。
【0039】
成膜された、高分子膜はその膜厚が1分子分でもよいが、通常0.3〜10μm 程度である。
【0040】
また、成膜時に所定パターンのマスクを用い、マスク蒸着を行ってもよい。このように、マスク蒸着を行うことにより、精度よく結合剤含有層パターンを形成することができ、不必要な部分にDNAが付着してガーベージとして残り、S/Nを悪化させることを防止することができる。
【0041】
本発明で得られたDNA結合剤含有層を有するDNAチップは、プローブDNAとの結合が良好であり、水洗い工程等においてもDNAが剥がれ落ちることもなく、原料を有効に活用することができる。
【0042】
基板の材質は、透明なガラス、シリコンまたはポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ビスフェノールA等のポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等のポリマーであることが好ましい。なかでもガラスもしくはシリコンであることが特に好ましい。これは、表面処理の容易さや蛍光スキャニング装置による解析の容易さによるものである。シリカ表面層を持つガラスも好ましく用いられる。基板の厚さとしては、100〜2000μmの範囲にあることが好ましい。
【0043】
プローブとなるDNA断片は、目的によって二通りに分けることができる。遺伝子の発現を調べるためには、cDNA、cDNAの一部、EST等のポリヌクレオチドを使用することが好ましい。これらのポリヌクレオチドは、その機能が未知であってもよいが、一般的にはデータベースに登録された配列を基にしてcDNAのライブラリー、ゲノムのライブラリーあるいは全ゲノムをテンプレートとしてPCR法によって増幅して調製する(以下「PCR産物」という。)。あるいは、PCR法によって増幅しないものも使用することができる。また、遺伝子の変異や多型を調べるには、標準となる既知の配列をもとにして、変異や多型に対応する種々のオリゴヌクレオチドを合成し、これを使用することが好ましい。さらに、塩基配列分析の場合には、4n(nは、塩基の長さ)種のオリゴヌクレオチドを合成すし、これを使用することが好ましい。DNA断片の塩基配列は、既知であることが好ましい。
【0044】
DNA断片の点着は、DNA断片を水性媒体に溶解あるいは分散した水性液を、96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注し、分注された水性液をスポッター装置を用いて基板上に滴下して行うことが好ましい。
【0045】
点着されるDNA断片は、基板表面に対して、102 〜105 種類/cm2 の範囲にあることが好ましい。DNA断片の量は、1〜10-15 モルの範囲にあり、重量としては数ng以下であることが好ましい。点着によって、DNA断片の水性液は、基板表面にドットの形状で固定されるが、そのドット間の距離は、0〜1.5mmの範囲にあることが好ましく、特に100〜300μmの範囲にあることが好ましい。1つのドットの大きさは、直径が50〜300μmの範囲にあることが好ましい。点着する量は、100pL〜1μLの範囲にあることが好ましく、特に1〜100nLの範囲にあることが好ましい。
【0046】
点着後は、必要に応じてインキュベーションを行うことが好ましい。インキュベート後、点着されなかったDNA断片を洗浄して除去することが好ましい。
【0047】
前記記載の基板表面上のドットの形状は、ほとんど円形である。形状に変動がないことは、遺伝子発現の定量的解析や一塩基変異を解析するために重要である。
【0048】
上記のようにして作製されたDNAチップの寿命は、cDNAが固定されたcDNAチップで数週間、オリゴDNAが固定されたオリゴDNAチップではさらに長期間である。これらのDNAチップは、遺伝子発現のモニタリング、塩基配列の決定、変異解析、多型解析等に利用される。検出原理は、標識した標的核酸とのハイブリダーゼーションである。
【0049】
サンプルである標的核酸としては、その配列や機能が未知であるDNA断片試料あるいはRNA断片試料を用いることが好ましい。
【0050】
標的核酸は、遺伝子発現を調べる目的では、真核生物の細胞や組織サンプルから単離することが好ましい。標的がゲノムならば、赤血球を除く任意の組織サンプルから単離することが好ましい。赤血球を除く任意の組織は、抹消血液リンパ球、皮膚、毛髪、精液等であることが好ましい。標的がmRNAならば、mRNAが発現される組織サンプルから抽出することが好ましい。mRNAは、逆転写反応により標識dNTP(「dNTP」は、塩基がアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)もしくはチミン(T)であるデオキシリボヌクレオチドを意味する。)を取り込ませて標識cDNAとすることが好ましい。dNTPとしては、化学的な安定性のため、dCTPを用いることが好ましい。1回のハイブリダイゼーションに必要なmRNA量は、液量や標識方法によって異なるが、数μg以下であることが好ましい。尚、DNAチップ上のDNA断片がオリゴDNAである場合には、標的核酸は低分子化しておくことが望ましい。原核生物の細胞では、mRNAの選択的な抽出が困難なため、全RNAを標識することが好ましい。
【0051】
標的核酸は、遺伝子の変異や多型を調べる目的では、標識プライマーもしくは標識dNTPを含む反応系で標的領域のPCRを行って得ることが好ましい。
【0052】
標識方法としては、RI法と非RI法とがあるが、非RI法を用いることが好ましい。非RI法としては、蛍光標識法、ビオチン標識法、化学発光法等が挙げられるが、蛍光標識法を用いることが好ましい。蛍光物質としては、核酸の塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、Cy DyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N−アセトキシ−N2 −アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)などを使用することが好ましい。
【0053】
ハイブリダイゼーションは、96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注しておいた、標識した標的核酸が溶解あるいは分散してなる水性液を、上記で作製したDNAチップ上に点着することによって実施することが好ましい。点着の量は、1〜100nLの範囲にあることが好ましい。ハイブリダイゼーションは、室温〜70℃の温度範囲で、そして6〜20時間の範囲で実施することが好ましい。ハイブリダイゼーション終了後、界面活性剤と緩衝液との混合溶液を用いて洗浄を行い、未反応の標的核酸を除去することが好ましい。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いることが好ましい。緩衝液としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等を用いることができるが、クエン酸緩衝液を用いることが好ましい。
【0054】
DNAチップを用いるハイブリダイゼーションの特徴は、標識した核酸の使用量が非常に少ないことである。そのため、基板に固定するDNA断片の鎖長や標識した標的核酸の種類により、ハイブリダーゼーションの最適条件を設定する必要がある。遺伝子発現の解析には、低発現の遺伝子も十分に検出できるように、低い厳密度で長時間のハイブリダイゼーションを行うことが好ましい。一塩基変異の検出には、高い厳密度で短時間のハイブリダイゼーションを行うことが好ましい。また、互いに異なる蛍光物質によって標識した標的核酸を二種類用意し、これらを同時にハイブリダイゼーションに用いることにより、同一のDNAチップ上で発現量の比較や定量ができる特徴もある。
【0055】
【実施例】
〔実施例1〕
<4−ニトロ−(2,2)−パラシクロファンの合成>
先ず、(2,2)−パラシクロファン20gを800gの氷酢酸と加熱還流した(一部不溶)。この溶液を、75℃まで冷却した後、発煙硝酸(d=1.50)を素早く滴下し、滴下終了後5分間撹拌した。この時液温は85℃まで上昇した。次いで、反応物を氷水にあけ、析出した沈殿物を濾過し、アルカリ洗浄後、水洗した(粗結晶収量:9.2g)。
【0056】
得られた粗結晶をイソプロピルエーテルで抽出後、抽出物からイソプロピルエーテルを留去し、残留物をメタノールで再結晶させて4−ニトロ−(2,2)−パラシクロファン5.3gを得た。
【0057】
<4−アミノ−(2,2)−パラシクロファンの合成>
次いで、得られた4−ニトロ−(2,2)−パラシクロファン5.0gをトルエン200gに溶解し、これに鉄粉6g、エタノール70ml、および水30mlを加え、加熱還流した。このとき、加熱還流しつつ、濃塩酸5mlを50%エタノール20mlで希釈した塩酸溶液を1時間で滴下し、さらに4時間加熱還流した。反応終了後、反応物を濾過し、濾液を塩酸で抽出し、この抽出液を苛性ソーダで中和する。析出した沈殿物を濾過、乾燥した(粗結晶収量:4.1g)。得られた粗結晶を昇華し、昇華物をエタノールと加熱還流した後冷却し、得られた結晶を濾別、乾燥して構造式(I)の4−アミノ−(2,2)−パラシクロファン3.7gを得た。構造は、ガスクロマトグラフ・質量分析にて確認した。
【0058】
<結着剤含有層の形成>
図1に示すように、蒸発部11、分解部12、蒸着部13とを有する蒸着装置を用意した。
【0059】
図示例の蒸着装置において、蒸発部11に、式(I)の構造を有する固体状の蒸着材料4−アミノ−(2,2)−パラシクロファンを導入した。蒸発部11の温度を、100〜150℃に加熱すると、蒸発材料が気化して下記構造のダイマーガスとなり、原料ガスが生成した。
【0060】
【化9】
【0061】
上記式(I)において、R1 ,R2 は、−NH2 基、またはHを表し、少なくともR1 ,R2 のいずれかは−NH2 基である。R1 ,R2 は、双方とも−NH2 基であってもよい。
【0062】
次いで、原料のダイマーガスを分解部12に導入した。この分解部12では、下記式に示すように、導入された原料ガスを、その分解温度700℃まで加熱し、原料ガスを熱分解してモノマーガスとした。
【0063】
【化10】
【0064】
次に、得られた原料モノマーガスを、蒸着室13内に導入した。蒸着室13内は、最大30.1mmTorrの真空度に保持されている。そして、導入された原料ガスがガラス基板界面で重合し、下記構造の高分子膜が形成された。得られた高分子膜の赤外吸収スペクトルを図3に示す。
【0065】
【化11】
【0066】
この後、マイクロプレート22に入っているプローブDNAをピンに付着させ、前記高分子膜が形成されたガラスプレート23の上に、ピンに付着させたプローブDNAを接触させてスポットした。マイクロプレート22に入っている全てのプローブDNAをスポットし終わるまでこの作業を繰り返し、図2(d)に示すようなDNAチップを製造した。
【0067】
DNAチップのハイブリダイゼーション工程は、プローブDNAが結合でガラスのプレートにスポットされているDNAチップと、蛍光物質で標識したサンプルDNAを、ともにハイブリダイゼーション溶液に入れてハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション溶液は、ホルムアルデヒド、SSC(NaCl, trisodiumcitrate)、SDS(sodium dodecyl sulfate)、EDTA(ethylenediamidetetraacetic acid)、蒸留水などからなる混合液であり、混合比率は使用するDNAの性質により異なる。
【0068】
その後、ガラスのプレート上に残った蛍光物質で標識したサンプルDNAを水槽等の中に入れて洗い流し、プローブDNAと結合していないサンプルDNAを排出した。
【0069】
このとき、基板上に結合しているプローブDNAはほとんど剥がれ落ちることなく残留し、水洗工程でDNAが剥がれ落ちないことが確認できた。
【0070】
その後、プローブDNAと結合しているサンプルDNAに標識している蛍光物質を、所定の光源からの光エネルギーで励起させ、蛍光物質が励起して発光する光をCCDなどの光センサーで検出することでハイブリダイゼーションの検出を行った。
【0071】
その結果、目的とするハイブリダイゼーションが的確に行われ、S/N比も良好であることが確認できた。
【0072】
〔実施例2〕
実施例1において、結合剤含有層を形成する際に、所定パターンのマスクを用い、スポットパターンと同様なパターンに結合剤含有層を形成した。
【0073】
その後、マイクロプレート22内のDNAプローブをスポットすることなく、塗布し、その後蒸留水で洗い流した後、乾燥してDNAチップを作製した。その他は実施例1と同様にしてDNAチップを作製した。
【0074】
得られた、DNAチップを実施例1と同様に評価したところ、ガーベージもなくS/Nが向上していることが解った。
【0075】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、水洗い工程等においてプロ−ブDNA、サンプルDNAの損失が少なく、DNAサンプルを有効に活用でき、しかもS/Nを向上させることも可能なDNAチップ用結着剤、DNAチップおよびDNAチップの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】DNAチップの製造工程を示す概略斜視図である。
【図2】DNAチップの製造装置を示すブロック図である。
【図3】実施例1で形成した高分子膜の赤外吸収スペクトルを示したグラフである。
【符号の説明】
11 蒸発部
12 分解部
13 蒸着部
14 トラップ
15 真空ポンプ
21 DNA
22 マイクロプレート
23 基板
24 結合剤含有層
Claims (6)
- 前記DNAチップ用結合剤にはプロ−ブDNAが結合している請求項2のDNAチップ。
- 前記DNAチップ用結合剤含有層は、蒸着法により形成されている請求項2〜3のいずれかのDNAチップ。
- 前記DNAチップ用結合剤含有層は、マスキングによりパターン形成されている請求項2〜4のいずれかのDNAチップ。
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