カメラのズーム鏡筒駆動機構では、駆動源として、以下の2種類のモーターが必要である。1つは、カム筒等を回転することによって複数の撮影レンズ群の一部または全体を光軸方向に移動させ変倍を行うズームモーター、もう1つは撮影レンズ群の中の少なくとも1つのレンズ群を移動させ合焦を行うAFモーターである。しかし、駆動源として2つのモーターを用いることは、機構全体の構成を複雑且つ巨大にし、コストアップにもつながる。
そのため、銀塩フィルムを用いるカメラでは、図16に示すステップズーム機構が考案されている。図16はステップズーム機構の概念図であり、カム筒などは円筒形状ではなく平板状態で図示している。
図16において、101は不図示の正のパワーを有するレンズ群を保持する前レンズ群、102は不図示の負のパワーを有するレンズ群を保持する後レンズ群である。前レンズ群101及び後レンズ群102からは、それぞれカムピン101−a、102−aが延びていて、直進筒103の直進溝103−a、103−bによって回転不能な状態で光軸106方向にガイドされている。そして、カムピン101−a、102−aはカム筒104のカム溝104−a、104−bとカム結合している。従って、カム筒104がモーター105によって回転(図中では矢印A方向に平行移動)すると、カム溝104−a、104−bの軌跡に沿って、前レンズ群101と後レンズ群102が光軸106方向に移動する。
この時、図16に示すカム溝104−a、104−bの形状から分かるように、前レンズ群101を直線的に被写体側(図中左下方向)に移動させ、後レンズ群102は前レンズ群101との間隔を縮めながら階段状に移動させるようにする。このように前・後レンズ群101,102の間隔が変化すると、焦点距離が変化する。
また、後レンズ群102は階段状に動くため、被写体が無限位置にある場合、結像面は光軸106に沿って往復運動する。同様に、被写体が任意の有限距離にある場合にも結像面は光軸106に沿って往復運動する。そこで、被写体が無限位置にある場合の結像面の往復範囲と、有限距離にある場合の結像面の往復範囲との少なくとも一部がオーバーラップするように後レンズ群102の移動軌跡を設定する。そして、そのオーバーラップ領域にフィルムを置くことにより、無限位置から有限距離(至近)までの被写体に対して、後レンズ群102の階段の一段分の移動範囲のどこかでフィルム面に像を結ぶことができ、写真を写すことができる。
また、上述したように、階段の一段分毎に両レンズ群の間隔が異なり、焦点距離を変えることができるので、変倍と合焦とを交互に繰り返す機構を一つのモーターで実現することができる。以上が、ステップズーム機構の概略である。
このようなステップズーム機構を用いた場合、「変倍」とは、前レンズ群101と後レンズ群102の間隔を変えることであり、「合焦」とは任意の距離にある被写体の結像面をフィルム面と一致させることである。ここで、実は「合焦」の際のレンズの動きは「変倍」時と同様で、前レンズ群101と後レンズ群102の間隔を変え、焦点距離を変えることによって結像面の位置を変えている。従って、フィルム面に例えばCCDなどの撮像素子を置いて合焦時の像を観察してみると、ボケた像がだんだんシャープになり合焦する時は、同時に焦点距離も変わっているので、像倍率も変わっていることが分かる。この合焦時の像倍率の変化は、無限位置に有る被写体を写す時に対して、被写体までの距離が近ければ近いほど大きくなる。このような合焦時の像倍率の変化は、CCDなどから取り込んだ像を液晶表示装置などでリアルタイムで見ることができるカメラでは観察できるが、フィルムに撮影する場合等はこの挙動を知ることはできない。
また、上記ステップズーム機構とは異なる構成で、1つのモータで変倍と合焦を行う機構が、例えば、特許文献1に開示されている。これは、ズーム機構によって3つのレンズ群(1群〜3群レンズ)を動かし、その中の1つの群(2群レンズ)を合焦機構で動かすもので、1つのモーターでズーム機構を動かし、次いで、合焦機構を動かす構成を成している。この構成では、合焦機構はズーム機構の中に組み込まれていて、合焦レンズ群(2群レンズ)はズーム動作で動くと同時に合焦動作でも動く。このレンズ群の動きは、上記のステップズームに用いられているレンズ構成と同様に、3つのレンズ間隔を変えることで「変倍」を行うと同時に、「合焦」動作でもレンズ間隔を変えて結像面をフィルム面と一致させる構成をとる。そのため、合焦動作時にも結果として像が変倍されてしまう。
このように、上記2つの従来技術ではレンズの移動方式は異なるが、レンズ構成としては、変倍するために移動させるレンズ群があり、合焦するためにその中の少なくとも一つのレンズ群を移動させる。そのため、いずれの場合も結果として、合焦動作が変倍動作を伴ってしまう。
一方、フィルムではなくCCD等の撮像素子を用いて撮影を行うデジタルカメラも近年多く製品化されている。その光学系の概念図を図17に示す。また、比較のために、図18に図16で説明したステップズーム機構に用いられる光学系の概念図を示す。
図17は、様々な角度(光軸と成す角度θ)で入射する入射光110が第1レンズ群111、第2レンズ群112、第3レンズ群113を通って射出光114として集光され、CCD115に到達した状態を示している。実際のデジタルカメラにおいては、CCD115に入る赤外光などの可視光以外の有害光などを除去したり、CCD115の分解能に合わせて画像の高周波成分をカットするために、数枚の平行平板のフィルター116がCCD115の前を覆っている。
図18は、様々な角度から入射する入射光120が第1レンズ群121,第2レンズ群122を通って射出光123として集光され、フィルム124に到達した状態を示している。なお、図17及び図18では、どちらの図においても、光線を示す線は主光線のみを示しており、入射光110,120、射出光114,123共に、上線、下線は省略している。
図17及び図18のどちらの光学系も、光学系全体がトータルとして正のパワーを有する点では同じである。しかし、図17,図18では、様々な角度で入射する入射光110、120に対し、射出光114、123の角度は異なっている。つまり、図17ではそれぞれの角度で入射する入射光110に対して、射出光114は対応する像高を有する角度がゼロの平行光となるようにCCD115上に集光される。これに対し、図18ではそれぞれの角度で入射する入射光120に対して、射出光123は像高が変化すると共に、入射角が大きいほど、射出光が光軸と成す角度も大きくなってフィルム124に集光される。これは、フィルター116の有無による光学的な要件の違いによって、レンズタイプが異なるからである。つまり、フィルター116に角度を持って光が入ると、そこで屈折が発生し像品質を劣化させてしまうため、図17に示す構成では、射出光114は光軸に対して平行な光(角度がゼロ)でなければならない。一方、図18に示す構成では、射出光123を単にフィルム124の結像面に集光させるだけなので、角度を持っていても問題ない。ただし、図17の構成において、実際には射出光114は厳密に光軸に平行な光である必要はなく、フィルター116内で発生する屈折が及ぼす像性能の劣化の許す範囲内ならば、各像高毎に多少の角度を持っていても問題はない。その際、変倍に際して焦点距離が変わっても、像高毎の角度が変化しないことが望ましい。したがって、図18に示すような大きな角度を有する射出光がフィルター116に入射した場合、確実に有害な屈折を発生させてしまう。
以上説明したように、フィルム124を用いる場合には、図18に示すように、レンズは単に集光する機能のみを有していれば良く、最低でも正と負のパワーを有するレンズ群の組み合わせがあれば良い。そして、それらのレンズ群の間隔、絶対位置を変える機構(例えば上述したステップズーム機構や特許文献1に開示された機構)によって、変倍と合焦(実際には変倍動作を伴う、結像位置を変える動作)を行う。
一方、図17の様にフィルター116を有するCCD115を用いる場合には、正と負のパワーを有するレンズ群の組み合わせ以外に、入射光を光軸と略平行な光としてCCD115に導くレンズ群(第3レンズ群113)が必要になる。このレンズの組み合わせでは、第1、2レンズ群111,112で主に変倍を行い、第3レンズ群113で主に合焦を行うことになる。従って、合焦時にCCD115の像を液晶表示装置などで見ると、第3レンズ群113が光軸方向に移動し、ボケた像がだんだんシャープになるが、第1、2レンズ111,112は動いていないので、像倍率が大きく変わることはない。そして、このような光学系では変倍レンズ群と合焦レンズ群の動きが独立して行われるので、それぞれのレンズ群を移動させる機構及び駆動源も独立して構成される。つまり、特許文献1のように、ズーム機構の内部に合焦機構が組み込まれている構成ではなく、例えば特許文献2に示されているような構成になる。
また、変倍レンズ群(第1、2レンズ群111,112)が移動する際に、合焦レンズ群(第3レンズ群113)が完全に不動であるレンズ構成以外にも、変倍に際して結像面の位置を維持する為に僅かな量だけ合焦レンズ群が移動するレンズ構成もある。しかし、変倍時に僅かに移動する合焦レンズ群は変倍には直接的に寄与しない光学系であり、変倍レンズ群との移動タイミングや移動量が異なるので、特許文献2では駆動機構を独立させた構成を開示している。
また、本来、デジタルカメラには図17に示すような光学系が必要となるが、特許文献3では、図18の光学系を用いたステップズームのデジタルカメラが開示されている。つまり、第1及び2のレンズ群を移動させ、変倍を行うと同時に、第2のレンズ群をCCDに対して階段状に移動させて合焦を行っている。このようなレンズ構成では、上述したように合焦時に像倍率が変化しながらピントが合う挙動を示し、CCDの前に有るフィルターによって、像高の高い部分の像は屈折が発生し、像品質が悪くなってしまう。従って、デジタルカメラには図17で示した様な光学系を用いるのが望ましい。
また、撮影自体に障害にはならないが、この様な構成のレンズ構成でステップズーム機構を用いて、ワイドとテレの間を連続して駆動した場合、レンズは変倍と合焦(変倍を伴う)を交互に繰り返すことになる。そのため、ピントがボケたりあったりする以外に、像倍率も階段状に変わるので、その像は「ガクガク」と変化してしまい、非常に見苦しいものになってしまう。
なお、図17に示すレンズ構成は、デジタルカメラだけではなく、交換レンズを用いた銀塩フィルムカメラにも多く用いられている。つまり、交換レンズには様々なレンズタイプがあるが、撮影像を受け取るのはカメラ本体であり、カメラ本体は、撮影像の所定の像高のところで測距及び測光を行っている。そのため、どの交換レンズであっても、交換レンズから出た射出光は(平行光でなくても良いが)像高毎に同じ状態でなければならない。そして、それはレンズタイプ、焦点距離によらず同じでなければならない。これは、ちょうど図17のレンズタイプが必要とする要件、すなわち、各像高毎に一定の小さな角度で結像面に集光させる点と似ている。
特開平第11−311819号公報
特開2000−206394号公報
特開2000−134526号公報
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態における鏡筒及びその駆動機構の構成を示す概念図であり、レンズの正確な構成や駆動機構の詳細な構成などは省略している。
第1光学系1と第2光学系2を通過した光束は結像面3で結像する。それぞれの光学系1,2は、1枚の単レンズであっても、複数枚から構成される1つの単レンズ群であっても、更に複数のレンズ群から構成されるものであってもよい。第1光学系1は第1駆動機構4によって、また第2光学系2は第2駆動機構5によって移動する。第1及び第2駆動機構4,5それぞれは、送りネジなどでレンズを移動させる機構であっても、カム筒などで複数のレンズ群を光学軌跡に沿って移動させるものであってもよい。そして、モーター6(動力源)からの動力がギアや連結軸などの動力伝達手段によって第1駆動機構4と第2駆動機構5に伝達される。その際、モーター6から出た動力が分岐7によって分かれて、各第1及び第2駆動機構4,5に伝えられる。その分岐7とは、例えば一つのギアに2つのギアが噛み合って動力が分かれるような状態である。ここで第1及び第2光学系1,2を実質的に移動させる第1及び第2駆動機構4,5と、モーター6からの動力が光学系を移動させるための動力の流れから考えて、第1及び第2駆動機構4,5に動力を伝達する伝達手段を含めて、第1駆動系8、第2駆動系9とする。モーター6の動力は分岐7で分けられて第1駆動系8及び第2駆動系9に常時伝達される構成になる。
以上の構成によれば、第1駆動系8と第2駆動系9とを一つのモーター6で駆動させることができる。従来は、光学系及びそれを移動させる駆動機構が独立して2つあった場合には、それぞれにモーターを取り付けていたが、本実施の形態によれば一つのモーターで済む。更に第1及び第2光学系1,2は独立した第1及び第2駆動機構4,5によって移動させることができるので、各駆動機構に必要とされる動力の大きさの配分を任意に設定することができ、モーター6の出力を有効に使うことができる。具体的には第1及び第2駆動機構4,5に至るまでのギアの減速比を適宜設定することによって、必要最小限の出力を第1及び第2駆動機構4,5に伝えることができる。
更に、第1及び第2駆動系8,9が互いに独立しているので、各駆動機構4,5の駆動メカニズムや大きさを自由に設定することができ、設計の自由度が向上する。
例えば、従来のように第1駆動機構4と第2駆動機構5とが独立しておらず、一体のカム筒であった場合、第1光学系1を移動させる為のカム筒の回転位相と、第2光学系2を移動させる為のカム筒の回転位相とを同じにしなければならない。その結果として、両光学系を満足するカム曲線が設定できない場合が生ずる恐れある。また、一方の駆動機構4又は5がカム筒を回転させて光学系1又は2を移動させるのに適した系であるのに対し、他方の駆動機構が送りネジで移動させるのに適した系であった場合は、両者の駆動機構4,5を一つにまとめるのは従来困難である。更に、第1光学系1と第2光学系2の大きさが著しく異なっていた場合、第1駆動機構4と第2駆動機構5も当然大きさに違いがあるため、一つの機構に一体化させることが設計的に難しい場合もあり得る。
しかし、モーター6の動力を、第1駆動系用と第2駆動系用に独立に分配するため、駆動機構駆動メカニズムや大きさを自由に設定することができるため、設計の自由度が向上する。
(第1の実施形態)
次に、図2〜図5を参照して、本発明の第1の実施形態における鏡筒及びその駆動機構の具体例を説明する。図2は、本第1の実施形態の概念を図17で示した従来の光学系に適用した鏡筒駆動機構である。
図2において、第1レンズ群20、第2レンズ群21は直進筒22と変倍カム筒23によって、光軸に沿って移動可能に保持されている。変倍カム筒23が回転することによって、第1レンズ群20、第2レンズ群21は図3に示す移動軌跡を移動し、ワイドからテレまでの変倍を行ことができる。
第3レンズ群24は図4に示すような凹凸形状をした山谷カム面25−aを有する合焦カム環25によって光軸方向の位置が規定されている。図4は概念図であり、第3レンズ群24の直進案内部品は図示の簡略化のため省略している。第3レンズ群24の周囲にある突起24−aが山谷カム面25−aに当接し、合焦カム環25がある一方向に回転することによって、第3レンズ群24は光軸に沿って図3に示すような往復移動する。そして、その往復移動の移動幅を図3に示すように、任意の焦点距離に対して第3レンズ群24が合焦の為に必要な無限から至近までの移動幅以上となるように設定しておく。
モーター28の動力は分岐29で分けられて、変倍カム筒23及び合焦カム環25に伝えられ、それぞれを回転させる。この構成では、各レンズ群の直接の駆動機構は、直進筒22、変倍カム筒23、合焦カム環25等である。そして、各駆動機構に動力を伝達しているギアなどから構成される動力伝達手段30、31を含め、直進筒22、変倍カム筒23、動力伝達手段30などを第1駆動系32とし、合焦カム環25、動力伝達手段31などを第2駆動系33とする。つまり、モーター28の動力は分岐29で分かれて、第1駆動系32及び第2駆動系33に常時伝達されることになる。
撮影像を取り込むCCD26の前には、数枚のフィルター27がCCD26を覆っている。
以上の構成で、モーター28を回転させ、各レンズ群を図3のように移動させた場合にCCD26にどのような像が写るかを説明する。図5は、図3のワイド付近の拡大図である。
先ず、本鏡筒駆動機構がワイド端にある場合は、第3レンズ群24は「X」の位置にある。この位置は、合焦レンズ群である第3レンズ群24が無限から至近にある被写体を撮影可能な範囲の外にあるので、CCD26にはボケた像が投影される。その状態から、変倍カム筒23を回転させ、それぞれの軌跡に沿って第1レンズ群20、第2レンズ群21を移動させる。また同時に合焦カム環25を回転させ、第3レンズ群24を被写体側へと移動させる。すると、第3レンズ群24が「Y」の位置に達する。この位置は、被写体が無限位置にあった場合にCCD26に被写体像が結像される位置である。もし、撮影すべき被写体が無限位置にあれば、ここで、CCD26の像を撮影画面として取り込む。また、もし、被写体が有限距離にある場合は、CCD26の像は、「X」の位置での像よりはシャープになっているが、未だボケた像である。そのため、更に各レンズ群の移動を続け、その被写体距離にピントが合う「Z」の位置まで移動させる。そこで、CCD26の像を取り込む。このように、無限から至近に至るまでの被写体像をCCD26に合焦させることができる。
以上の説明は、ワイド端における各レンズ群の動き及びCCD26に写る像の説明であるが、図3に示した6箇所の「AF」と記した範囲では全て同じ説明ができる。これによって、ワイドからテレまでの区間の変倍及び合焦を一つのモーター28で行うことができる。なお、AF範囲の内、◎印を付けた範囲では合焦レンズ群24の移動方向が◎印の無いAF範囲と逆になるので、上記説明とは逆で、至近に被写体が有る場合に先にピントが合い始める。
本第1の実施形態では、概念を説明する為に、変倍レンズ群を移動させるのは直進筒22と変倍カム筒23のみにしている。しかし、この構成のみを考えると、変倍カム筒23と合焦カム環25は容易に一体化できる。つまり、図3に示す様な3本のカム軌跡を持った1つのカム筒があれば、要件を満たすことができ、当然、駆動に必要なモーターも1つで済む。しかし、近年のデジタルカメラには、レンズ群を移動させるカム筒を複数本用いて多段型にし、沈胴状態をコンパクトにする差動型の鏡筒駆動機構が多く用いられている。つまり、図3のカム軌跡を持った一つのカム筒を用いた鏡筒駆動機構ではコンパクトにできなくなってしまう。そのため、図2に示すように、変倍用の駆動機構を独立して2つ設けることによって、差動型の鏡筒駆動機構を実現することができる。
以上説明した様に、本第1の実施形態によれば、1つのモーターの動力を分け、変倍レンズ群と合焦レンズ群を移動させる駆動系に常時伝達しているので、簡単な構成で変倍と合焦とが実現でき、従来は2つ必要であったモーターを1つに減らすことができる。また、差動型の鏡筒駆動機構にも応用可能である。
更に、従来例で説明した特許文献3では、ワイドとテレの間を連続してズームさせると、ピントが合ったりボケたりする以外に、像倍率が階段状に変化するため、その像は「ガクガク」変化してしまい、非常に見苦しいものになってしまう。これに対し、本第1の実施形態では、変倍レンズ群は図3に示す様に滑らかな軌跡を描けるので、像倍率も滑らかに変化し、見苦しいものにはならない。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
上記第1の実施形態における図2に示す構成では、連続ズーム中にピントが合ったりボケたりする点、また、撮影可能範囲(撮影する際の焦点距離)が図3に示すように分断された数点(図3に示す例では6箇所)である点の不具合が残る。更に、合焦動作中に合焦レンズ群が動くと同時に変倍レンズ群も動いてしまい、像倍率が変わってしまう点などの不具合も残る。
本第2の実施形態では上記不具合を解決するための機構について、図6〜図13を参照して説明する。
図6において、上記第1の実施形態で図2を参照して説明した構成と同様の構成には同じ参照番号を付し、説明を省略する。以下、本第2の実施形態に特有の構成について詳しく説明する。
40は、分岐29で分けられたモーター28の動力を変倍機構である変倍カム筒23に伝える動力伝達手段の途中に設けられた遅延機構である。遅延機構40の詳細な構造を図8に示す。図8(a)と図8(b)は遅延機構40を互いに逆の方向から見た場合の詳細図である。遅延機構40は、入力部40−aと同軸で回転する出力部40−bを有し、それぞれには入力軸40−c、出力軸40−dが延びていて、モーター28からの動力を伝達する。そして、図示のように、回転方向が変わると、入力部40−aと出力部40−bとが空回りする位相がある構成にする。このようにすることで、入力部40−aの回転方向が変わった場合に、その回転が出力部40−bに伝わり始め、出力部40−bが回転を開始するのに、タイムラグが生ずる。ただし、正逆回転が変わったときにその動きが遅延するような機構であればどのような機構であっても良く、本第2の実施形態は一例に過ぎない。
合焦レンズ群である第3レンズ群24は、図9に示すような単調に増加する単一カム面41−aを有する合焦カム環41に突起24−aが当接することによって、光軸方向の位置を規定されている。図9においても、第1の実施形態と同様に直進案内部品は省略している。合焦カム環41には突起41−bがあって、それがストッパー42、43に当接するので、無制限に回転することはできない。つまり、合焦カム環41がストッパー42によって回転規制されている図9のような状態では、第3レンズ群24はCCD26に最も近づく。そして、反時計方向に回転してストッパー43に当たることによって回転が規制される状態では、最も第3レンズ群24が被写体側に繰り出した状態である。合焦カム環41はこの間の位相を回転できるだけで、それ以上は回転できない。この実施形態では、モーター28の動力を受けて変倍カム筒23がテレ方向に回転する時に、合焦カム環41が反時計方向に回転し、第3レンズ群24が被写体側に繰りされるように動力伝達手段を設定する。
また、44は分岐29で分けられたモーター28の動力を、合焦機構である合焦カム環41に伝える動力伝達手段の途中に設けられたスリップメカである。スリップメカ44の詳細な構造を図10に示す。スリップメカ44は、入力部44−aと同軸で回転する出力部44−bを有し、それぞれには入力軸44−c、出力軸44−dが延びていて、モーター28からの動力を伝達する。ただし、入力部44−aと出力部44−bとは嵌合しているのみで、入力部44−aが回転しても出力部44−bは回転はしない。そのため、入力部44−aと出力部44−bの間にはフリクションバネ44−eが入っている。フリクションバネ44−eは略C字形になっていて、自由状態で直径Bとする。そして、出力部44−bの直径Bより小径の内径側44−fに弾性変形させて組み込まれている。また、入力部44−aにはフリクションバネ44−eを丁度逃げた形状の部分があって、全体が一つのユニットになっている。この構成で、入力部44−aが回転すると、その回転力がフリクションバネ44−eに伝わり、それが出力部44−dに伝わる。ただし、フリクションバネ44−eと出力部44−bとは内径側44−fで面摩擦で一体となっているのみなので、一定以上のトルクが出力部44−bに加わると、いくら入力部44−aが回転しても、それ以上は出力部44−bは回転しない。図10に示すスリップメカは一例であり、他のどのような形態のものでも構わない。
また、分岐29から別れ、スリップメカ44に至るまでの動力伝達手段の途中で、更に、動力が分岐され、無限位置調整機構45にその動力が伝達される。この機構の目的は、合焦カム環41の光軸方向の位置を移動させる為のものである。従来例で説明したように、合焦レンズ群である第3レンズ群24は、変倍レンズ群である第1レンズ群20,第2レンズ群21が動いて変倍している間は不動である場合もあるが、結像面の位置を維持する為に僅かな量だけ移動する場合もある。その為に、変倍中にこの無限位置調整機構45が回転して、微少に合焦カム環41の光軸方向の位置を移動させ、被写体が無限位置にある場合の結像面の位置をCCD26に合わせる。図6では送りネジ機構で図示されていて、回転に関して線形的に合焦カム環41を光軸方向に移動させている。しかし、光学タイプによっては、図7で示されてるように、無限位置軌跡を非線形に移動させなければならない場合もあるので、送りネジ機構以外にも、カム機構などを用いる構成もあり得る。ただし、本実施形態の図6は概念図であり、上記、要件(合焦カム環41を変倍に連動して光軸方向に移動させる)を満足できれば、どのような機構でも良い。
以上、説明した各種機構が動力伝達手段の途中に設けられているが、変倍機構(直進筒22,変倍カム筒23)と、動力伝達手段を含めた遅延機構40などが全体で第1駆動系46と考えられる。また、合焦機構(合焦カム環41)と、動力伝達手段を含めたスリップメカ44および無限位置調整機構45などが全体で第2駆動系47と考えられる。すなわち、モーター28の動力は分岐29で分かれて、第1駆動系46及び第2駆動系47に常時伝達されていることになる。
次に、分岐29と遅延機構40,又はスリップメカ44との位置関係について詳細に説明を行う。図6の構成から容易に想定できる具体的な配置としては、図11に示すような配置で、明確に分岐29に相当するギアがあり、遅延機構40、スリップメカ44に動力を伝える動力伝達手段としてのギア48、49がある。そして、モーター28の動力が第1駆動系46及び第2駆動系47に常時伝達される。これに多少の変更を加えたのが図12である。これには図11の動力伝達手段であるギア48などが無くなっているが、遅延機構40の入力軸40−cをギアと同等の動力伝達手段と見なせば、動力の流れから考えると、図11と図12とは等価な構造と言える。ここで、遅延機構40の入力部40−a、入力軸40−c、及び分岐29に使用されているギアが一体で回転していることを考慮すれば、図13の構成もまた図11と等価な構成であることが分かる。
つまり、図6では、遅延機構40やスリップメカ44は、第1駆動系46、第2駆動系47の中に完全に取り込まれていて、分岐29からは明確にギアや連結軸などの動力伝達手段50、51が配置されているように見える。しかしながら、実際の構成でギアや連結軸などがなくても、動力の流れから考えると、動力伝達手段50,51は構成上は必然的に配置されていることになる。従って、本発明で言うところの「常時」とは、遅延機構40などで逆回転によって動力の伝達が一瞬行われなくなる構成も「常時」と見なすことになる。これは、遅延機構40で動力の伝達が一瞬行われなくなるが、それは一瞬であり、最終的には必ず伝達される構成であるからである。これに対し、遊星ギア機構などは、選択的に動力の伝達先を切り替えており、選択先を意図的に切り替えなければ動力が伝達されない。従って、このような構成は「常時」とは言えない。
以上の構成で、モーター28を回転させ、各レンズ群を図7のように移動させた場合にCCD26にどのような像が写るかについて説明する。
先ず、モーター28を駆動してワイド端からテレ方向へと第1レンズ群20、第2レンズ群21を移動させる。その際、合焦カム環41は反時計方向に回転するように設定されているので、第3レンズ群24が被写体側に繰り出される。しかし、上記の通り合焦カム環41の回動は突起41−bがストッパー43に当接することによって規制されている。この状態で更にモーター28の駆動を続けてもスリップメカ44で空回りするので、合焦カム環41は壊れることなく、ストッパー43に突き当たった状態を維持する。以上の動作が矢印(1)に相当する。
そして、任意の焦点距離(例えば「C」の焦点距離)で変倍を止めたとする。そこで、モーター28の回転を逆転させる。その際、変倍カム筒23は遅延機構40によって逆方向には回転しないが、合焦カム環41は時計方向に回転する。そして合焦カム環41の突起41−bがストッパー42に当接し、回転が規制されたところでモーター28の回転を止める。遅延機構40の遅延時間は、合焦カム環41の突起41−bがストッパー43に当たっている状態から、ストッパー42に当たるまでの時間に設定しておく。
一方、合焦カム環41の上記回転前には第3レンズ群24はCCD26に近づいた位置にあるが、その位置を規定している合焦カム環41は無限位置調整機構45によって光軸方向に若干移動している。従って第3レンズ群24のCCD26に対する位置は、無限位置調整機構45による合焦カム環41自体の光軸方向の移動と、合焦カム環41の回転による移動との組み合わせで決まる。図7の矢印(2)は、合焦カム環41の突起41−bがストッパー43に当たっている状態からストッパー42に当たるまでの、第3レンズ群24の軌跡を示す。
突起41−bが回転後にストッパー42に当接している状態では、CCD26にピントが合っているのは、無限位置にある被写体であり、もし、取り込みたい画像が無限位置にあれば、そこで画像を取り込めばよい。被写体が有限距離にある場合には、合焦カム環41を反時計方向に回転させて、CCD26にピントが合うまで第3レンズ群24を被写体側に繰り出す。その際、合焦カム環41はモーター28を回転させて動力を得るが、変倍カム筒23は遅延機構40によって回転はしないので、変倍動作は行われない。矢印(3)はストッパー43に突起41−bが当たるまでの軌跡を示しているが、実際には、この途中のいずれかでピントが合って、画像の取り込みが行われる。
なお、この「C」の焦点距離の位置からワイド方向に変倍を行う場合は、矢印(2)、矢印(4)を経由する。また、そのままテレ方向に更に変倍を行う場合は矢印(5)を経由する。そして、任意の焦点距離(例えば「D」)で撮影を行う場合、上記と同じ動作をさせれば良い。従って、本第2の実施形態であれば、任意の焦点距離で撮影を行うことができる。
以上説明した様に、本第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を満足すると同時に、撮影焦点距離を任意に選択することができる。更に、合焦動作中に合焦レンズ群が動いても、変倍レンズ群が動くことがないので、像倍率が変わってしまうといった不具合を解決できる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
上記第2の実施形態では、第1の実施形態で用いた山谷カム面25−aを用いた場合のように連続ズーム中にピントが合ったりボケたりする、と言った不具合はない。しかしながら、第2の実施形態ではテレ方向駆動の場合は超至近の被写体に最初にピントが合い、ワイド方向駆動の場合は無限位置にある被写体に最初にピントが合うと言った、ズーム方向の違いで像の見え方が変わる不具合がある。本第3の実施形態では、この不具合を改良した鏡筒駆動機構について図14及び15を参照して説明する。
本第3の実施形態は、上記第2の実施形態の合焦カム環41を改良したものであり、第2の実施形態との変更箇所のみ説明する。なお、合焦カム環以外の全体構成は、第2の実施形態の図6と同様である。
図14に示す合焦カム環52にも単調に増加する単一カム面52−aが構成されており、第1及び第2レンズ群20及び21により任意の焦点距離で撮影を行う場合、その位置でモーター28を反時計方向に回転させる。そして合焦カム環52の突起52−bがストッパー43に当たって回転規制されることで、第3レンズ群24は最も被写体側に繰り出される。この状態で、無限位置調整機構45との組み合わせによって、第3レンズ群24を無限位置軌跡に合わせる。その際、時計方向の回転規制を、電磁石53によって行う。
そして、反時計方向回転時にストッパー43と当接し、時計方向回転時に電磁石53と当接する、突起52−bを磁力によって吸引される鉄などの材質にする。
以上の構成で、モーター28を回転させ、各レンズ群を図15のように移動させた場合にCCD26にどのような像が写るかについて説明する。前提としては、合焦カム環52は初期状態として、図14に示すように時計方向に回転し、電磁石53によって回転が規制されている状態とする。
先ず、モーター28を回転させ、テレ方向への変倍を行う。この時、モーター28を回転させると同時に電磁石53にも通電する。上記第2の実施形態では、テレ方向の駆動時に合焦カム環41が反時計回りに回転し、第3レンズ群24を被写体方向に繰り出していた。しかし、本第3の実施形態では、合焦カム環52を電磁石53によって吸着保持し、左右どちらにも回転できないようにする。従って、第3レンズ群24は無限位置の被写体にピントが合わせられたままである。この時の軌道を矢印(6)で示す。
そして、任意の焦点距離で撮影を行う場合、変倍を止めると共に、電磁石53の通電を止め、更に、モーター28を逆回転させる。この逆回転の駆動時間は第2の実施形態と同様で、遅延機構40によって変倍カム筒23のワイド方向への回転が始まってしまう前までの時間である。逆回転させている間は、電磁石53には通電されないので、合焦カム環52は反時計方向に回転可能ではあるが、そもそもテレ方向への駆動では時計方向に合焦カム環52が回転するように設定されているので、図14の状態のままである。
そして、被写体が無限位置にある時はこのままの状態で、また、有限距離にある時は、合焦カム環52を反時計方向に回転させて、CCD26にピントを合わせて像を取り込む。この動作が矢印(7)であり、この動きは第2の実施形態と同じである。像の取り込みが終了したら、モーター28を逆転させ、合焦カム環52を図14に示す状態に戻す。この時の軌跡が矢印(8)である。この、矢印(7)、(8)の一連の動きでは、合焦カム環52は反時計方向、時計方向と回転するが、変倍カム筒23は遅延機構40により回転しない。
次に、更に、変倍動作によってテレ方向に繰り出す時は、モーター28を回転させると同時に、電磁石53に通電し、合焦カム環52が回らないようにして、第3レンズ群24を無限位置で保持するようにする。なお、ワイド方向に繰り込む時は、電磁石53に通電しなくても、第3レンズ群24は無限位置軌跡のまま保持される。
以上説明した様に、本第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果を満足すると同時に、テレ方向、ワイド方向いずれの連続ズーム中でも、第3レンズ群24を常に無限位置に設定させておくことができる。そのため、ズーム中にCCD26から得られる像を液晶表示装置などで見ても、焦点状態が同じ像を見ることができる。これは、変倍機構と合焦機構にそれぞれに駆動モーターを用いていた従来のデジタルカメラと全く同じ構成を一つのモーターで実現していることになる。