JP4551972B1 - 周波数変換装置、及び周波数変換方法 - Google Patents

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Abstract

磁気抵抗素子を用いることでSi系MMICにもGaAs系MMICにも対応可能な周波数変換素子を提供する。本素子は、磁化自由層、中間層、および磁化固定層を備えた磁気抵抗素子からなる周波数変換素子と前記周波数変換素子に磁場を印加するための磁場印加機構と前記周波数変換素子に局部発振信号を印加するための局部発振器と前記周波数変換素子と電気的に接続され、かつ外部入力信号を入力するための入力端子とを備えている。
【選択図】図1

Description

本発明は、無線通信装置などで用いられる周波数変換を行うための周波数変換装置、及び周波数変換方法に関する。
従来の周波数変換素子には半導体ダイオードやFETなどの非線形素子が用いられている。周波数変換の目的は、ある周波数を持った信号を周波数変換素子に入力し、入力信号とは異なる周波数成分を持った信号を出力することにある。
非線形素子により周波数変換が行なわれる最も簡単な例として、非線形抵抗r(i)に電流を印加した場合を考える。非線形抵抗の電流-電圧特性が、動作点(i0,v0)のまわりでx = i - i0についてテイラー展開ができ
Figure 0004551972
とあらわすことができる。
このような非線形抵抗素子に周波数ωの正弦波であらわされる電流
Figure 0004551972
を流したとき、素子の両端に発生する電圧は
Figure 0004551972
となり、出力波形がゆがむことによって入力電流に比例するωの成分に加えて2ω、3ωなどの高調波成分を取り出すことができる。
次に、非線形素子に入力される信号が異なる二つの周波数信号ω1およびω2の和である場合を考える。入力電流が
Figure 0004551972
とすると非線形抵抗素子の両端に発生する電圧は
Figure 0004551972
となり、入力信号の周波数の和(ω12)と差(ω12)を取り出すことができる。特に、周波数の和をアップコンバータ、周波数の差をダウンコンバータと呼ぶ。
このように、入力信号と異なる周波数を持った信号を作り出すことを周波数変換という。式(I)のように、ある周波数信号の入力に対してその周波数の2倍、もしくは整数倍の周波数を取り出す周波数変換は、特に周波数逓倍(ていばい)と呼ばれるが、本発明の周波数変換は周波数逓倍を含むものとする。
周波数変換は非常に重要な技術である。例えば無線通信分野では送信機や受信機における周波数混合には、周波数変換素子が用いられる。さらに、ミリ波や準ミリ波信号の生成には、これらの周波数帯の信号を直接生成することができる手ごろな発振器がないために、マイクロ波発振器と周波数逓倍素子との組み合わせで行われている。
一般に、周波数変換に用いられる非線形素子は、ダイオードやFETなど、半導体素子が示す非線形性を利用するのが主流である。誘電体基板上に個別素子を実装することによって形成されるマイクロ波集積回路(MIC)に用いられる周波数変換素子には、ショットキーダイオードが用いられることが多い。また、周波数逓倍を目的とした周波数変換素子にはダイオードに逆バイアスをかけて非線形容量素子(バラクタ)として利用することが多い。
能動素子と受動素子、受動能動素子などを同一基板上に半導体プロセスを用いて一括的かつ一体的に作製して実現するモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)が知られている。このMMICでは増幅器や発振器などの能動素子にFETが多く用いられるため、製造プロセスの整合性の制約などから、周波数変換専用の設計を施したダイオードをMMIC中に組み込むのは難しい。そのため、MMIC中の周波数変換の場合にはFET自体の持つ非線形性を利用する事が多い。また、MMIC中に周波数変換素子を組み込む場合には、集積度の観点から回路面積に制約がある。そのため、周波数変換素子もスケールの小さなものが好まれる。
MMICは、大きく分けてSi系デバイスで構成されたものと化合物半導体デバイスで構成されたものとに分けられる。Si系デバイス、化合物半導体デバイス共に長所と短所を持ち合わせるが、モノリシックマイクロ波集積回路MMICではこれらを同一基板上に混載させることは難しい。これは、各デバイスの成膜過程でエピタキシャル成長が必要になることが多く、Si系MMICではシリコン基板が、化合物半導体ではGaAsなどの基板が用いられる。Si系デバイスと化合物半導体デバイスの製造プロセスの親和性は非常に悪い。
さらに、半導体を用いた周波数変換素子は、一般に周波数変換素子そのものに周波数選択性がない。そのため、ある特定の周波数に関してのみ周波数変換を行いたい場合には、フィルターなどを設ける必要がある。半導体を用いた周波数変換素子では、周波数変換そのものに、スイッチング機能を持たせる事ができない。
一方、磁気抵抗効果を発現する巨大磁気抵抗素子(GMR)やトンネル磁気抵抗素子(TMR)は、センサーやメモリ素子としての応用が進められている。これは、磁気抵抗素子の抵抗値が、磁気抵抗素子中の磁化自由層と磁化固定層の磁気モーメントの相対角度によって変化することを利用しており、外部磁界の変化を抵抗値の変化として検知できる(センサー効果)、磁気ヒステリシスが抵抗値のヒステリシス(メモリ効果)になるという特徴を利用したものである。さらに最近では、磁気抵抗効果に加えてスピン注入トルクを利用したデバイス応用が進められている。スピン注入トルクは非特許文献1などにあるように、強磁性体中にスピン偏極電流を流すことにより、伝導電子と局在電子の角運動量の交換が起こり、局在磁気モーメントに生じる磁気トルクのことである。これによって、外部磁界を利用しないで磁化反転が可能になるスピン注入磁化反転や、スピン注入トルクによって誘起される磁化の歳差運動が引き起こす非線形効果を利用したマイクロ波発振器、マイクロ波検波素子、マイクロ波増幅器などの応用が進められている。(特許文献2)
非特許文献3に示されたマイクロ波検波素子の動作原理はホモダイン検波方式であり、一つの入力交流信号に対して直流電圧を検出することができる。これは、磁気抵抗素子に印加された交流信号によって誘起されたスピントルクによって磁気モーメントが歳差運動を引き起こし、抵抗値が周期的に変化する非線形効果を利用したものである。抵抗値の変化の周波数は入力された交流信号の周波数に等しく、式(I)で示した効果が現れる。非特許文献3では、これを利用してホモダイン検波を行っているが、もうひとつ重要な技術を用いている。それは、スピン注入FMR効果を利用していることである。微小交流信号では、電流値が非常に小さいため、誘起される磁化の歳差運動も非常に小さく、出力直流電圧は非常に小さい。しかし、入力交流信号の周波数が強磁性共鳴周波数付近になると共鳴効果により磁化の歳差運動が増幅される。これによって、より大きな直流電圧を検波することが可能になる。この磁気抵抗素子を用いた検波機能をスピントルクダイオード効果という。このように、強磁性共鳴がスピン注入トルクによっても起こり、さらに強磁性共鳴を利用する事で磁気抵抗素子の非線形効果が十分に発揮されることからマイクロ波帯での応用が期待されている。
Slonczewski, J. C. Current-driven excitation of magnetic multilayers. J. Magn. Magn. Mater. 159, L1-L7 (1996). Tulapurkar, A. A. et al. Spin-torque diode effect in magnetic tunnel junctions. Nature 438, 339-342 (2005).
特開2006-295908号公報
半導体ダイオードやFETなどの半導体を用いた周波数変換素子では周波数帯域が広いため、周波数選択的に周波数変換を行うことができない。また、周波数変換機能そのものにスイッチング機能を持たせる事ができない。
従来の半導体素子を用いた周波数変換素子は、Si系MMICとGaAs系MMICで、製造プロセスの観点から用いる事のできる材料やデバイスに制約があったが、磁気抵抗素子を用いる事でSi系MMICにもGaAs系MMICにも対応可能な周波数変換素子を提供することができる。
本発明に従う周波数変換装置は、磁化自由層、中間層、および磁化固定層を備えた磁気抵抗素子からなる周波数変換素子と
周波数変換素子に磁場を印加するための磁場印加機構と
周波数変換素子に局部発振信号を印加するための局部発振器と
周波数変換素子と電気的に接続され、かつ外部入力信号を入力するための入力端子とを備えている。
磁場印加機構は永久磁石であり、更に
永久磁石による印加磁場の方向は、周波数変換素子の磁化固定層の容易軸方向に対して平行ではない。
磁場印加機構は、更に
電流磁界を発生するための電流磁界印加機構と
該機構に電流を印加することができる電源
を備え、電流磁界による印加磁場の方向は、周波数変換素子の磁化固定層の容易軸方向に対して平行ではない。
電流磁界印加機構に印加する電流を制御することによって周波数変換素子に印加される磁場を制御することができる制御部を備えている。
周波数変換素子の出力を検出し、所望の強磁性共鳴周波数になるように制御部にフィードバックを施すフィードバック回路を備えている。
制御部は、電流磁界印加機構に印加する電流をオンオフすることによって、周波数変換素子に印加される磁場をオンオフするものである。
本発明の他の側面に従う周波数変換方法は、磁化自由層、中間層、および磁化固定層を備えた磁気抵抗素子からなる周波数変換素子に、外部入力信号と局部発振信号を入力し、外部入力信号の周波数を変換する方法であって、
外部入力信号の周波数、もしくは局部発振信号の周波数のどちらか一方が、前記周波数変換素子の磁化自由層の強磁性共鳴周波数帯に含まれている。
周波数変換素子の磁化固定層の容易軸方向に対して平行ではない磁場を印加している。
複数の入力信号のうち、どれか一つの信号周波数が、磁気抵抗素子中の磁化自由層の持つ磁気共鳴周波数付近にあるとき、スピン注入トルクによって磁化の歳差運動が増幅され、これによって生じる素子抵抗の非線形性によって入力信号の周波数変換が行なわれる。磁気共鳴周波数の周波数帯域は狭いので、磁気抵抗素子に入力された複数の入力信号のうち、少なくとも一つの入力信号が磁気共鳴付近の周波数である場合にのみ周波数変換が行われ、入力信号の周波数が強磁性共鳴周波数帯から外れると周波数変換は行われない。このような効果を利用することにより周波数選択的に周波数変換を行うことができる。また、周波数変換素子に印加する磁場の大きさを変更する事で、周波数変換効果にスイッチングの機能を持たせることができる。
本発明によれば、スピン注入トルクによって励起される磁気共鳴周波数を利用した周波数変換素子であるため、特定の周波数を選択して周波数変換が可能になる。
本実施形態に係る周波数変換素子の断面模式図である。 周波数変換素子を備えた第1周波数変換装置の概略構成図である。 中間層の膜厚と接合抵抗の関係を説明するための図である。 周波数変換素子のインピーダンス整合による伝送特性評価を説明する図である。 周波数変換素子の強磁性共鳴周波数の外部磁界依存性を説明する図である。 周波数変換素子を備えた第2周波数変換装置の概略構成図である。 第2周波数変換装置を用いた周波数変換の結果を示す図である。 周波数変換素子を備えた第3周波数変換装置の概略構成図である。 周波数変換装置にスイッチング機能を持たせる方法を説明する図である。 周波数変換素子を備えた第4周波数変換装置の概略構成図である。 周波数変換素子を備えた第5周波数変換装置の概略構成図である。
図1に本発明の周波数変換装置の一例を示す。周波数変換装置100は磁気抵抗素子からなる周波数変換素子10と周波数変換素子10に磁場を印加する磁場印加機構15と局部発振器102と入力端子104と入力端子104および局部発振器102を周波数変換素子10に電気的に接続する配線103を備えていることを特徴とする。周波数変換装置100は、周波数変換素子10によって入力信号源101より入力された高周波信号f1と局部発振器102より印加された高周波信号f2との差信号を出力し、周波数変換を行う装置である。また、周波数変換装置100は、周波数変換素子の機能を制御するためにの磁場印加手段15が備わっているが、本実施例ではこの磁場印加手段(磁場印加機構)は永久磁石やコイルなどで構成される。しかし、周波数変換素子10に磁場の印加が可能な機構であればこれに限定されるものではない。
本発明中の周波数変換素子10は、磁化自由層(強磁性層)、中間層、及び磁化固定層(強磁性層)の三層構造を基本とする磁気抵抗素子を備えている。中間層としては、アルミナ、酸化マグネシウム、銅などが挙げられる。周波数変換効果を得るための非線形性は、磁気抵抗効果による素子抵抗変化に由来するため、大きな磁気抵抗比(MR比100%以上)を有する磁気抵抗素子を用いることが好ましい。
そこで、図2を参照して、中間層としてMgO障壁層を有するトンネル磁気抵抗素子を用いた、周波数変換素子の構造を説明する。ただし、本発明を実施するにあたり、用いる磁気抵抗素子は前記の磁気抵抗素子のみに限定されるものではない。
図2は本実施形態に係る周波数変換素子の断面模式図である。
図2を参照して各層の具体的構成を説明する。下部電極層2の上に反強磁性層3がPtMn(15nm)、磁化固定層4がCoFe(2.5nm)/Ru(0.85nm)/CoFeB(3nm)からなる積層フェリ固定層であり、4bのCoFeBが磁化固定層に相当する。トンネルバリア層(中間層)5がMgO(1.0nm)である。磁化自由層6がCoFeB(2nm)である。保護層7としては、Ta(5nm)/Ru(7nm)の積層構造を使用する。尚、( )内は膜厚を示す。
本実施例では磁化固定層と磁化自由層の膜厚はそれぞれ3nmと2nmとしたが、これに限られるものではない。同様に、上記膜厚は一例であり、これに限定されるものではない。ただし、磁化固定層の磁気モーメントが磁化自由層よりも大きい必要がある。これは、磁化固定層の方が磁気モーメントが大きい場合にはスピン注入トルクによって磁化固定層の方が歳差運動を起こしてしまうためである。
周波数変換素子の形成は、磁気抵抗薄膜を接合面積が1μm以下の柱状に加工することで行われる。有効的なスピン注入トルクを働かせるためには素子の接合面積を小さくするほうが良く、好ましくは0.04μm以下のサイズにするほうがよい。
周波数変換素子10に入力される信号は高周波信号であるために、配線103はインピーダンス整合をよく考慮したスロットラインやマイクロストリップライン、コープレナーウェーブガイドなどを用いる事が好ましい。また、入力信号源101から周波数変換装置100への配線103についてもインピーダンス整合について考慮することが好ましい。
周波数変換素子10自身もインピーダンス整合をとることが好ましい。図3は、中間層の膜厚と接合抵抗の関係を説明するための図である。周波数変換素子10のインピーダンスは、素子のサイズ、図2中の中間層5の厚さを変化させることで、コントロールが可能である。例えば中間層として酸化マグネシウム(MgO)を用いた場合、素子の規格化抵抗値(1μm×1μm面積での規格化)は、酸化マグネシウム層の厚さを変化させることで、図3のようにコントロールすることが可能である。そこで、酸化マグネシウムの膜厚を適切に選ぶことで、所望の接合面積で所望の抵抗値を得ることができる。
また、図3に示す中間層5の厚さを固定して素子の接合面積を変化させることで素子抵抗をコントロールし、インピーダンス整合をとることが可能である。
図4を参照して、周波数変換素子のインピーダンス整合による伝送特性評価を説明する。
実際に、MgOの膜厚と素子サイズを変化させて素子抵抗を40Ωにした試料と、300Ωにした試料を用意し、それぞれについてS11(反射率)測定を行い、伝送特性の評価を行った。結果を図4に示す。この結果が示すように、明らかにインピーダンス整合の良い方(図4の(A))が、伝送特性が良い事が分かる。素子抵抗が40Ωの試料では0〜20GHzまでの全周波数領域で伝送効率が0.8以上であるのに対して、素子抵抗が300Ωの試料では伝送効率が0.4を下回ってしまう。
次に、本発明である磁気抵抗素子による周波数変換素子の大きな特徴である、基板材料限定されず、基板上にも周波数変換素子を作成することが可能であることについて説明する。
例として、シリコン基板上に作製した周波数変換素子10と、GaAs基板上に作製した周波数変換素子の規格化抵抗値と磁気抵抗比の比較を行った。表1中に結果を示す。GaAs基板上に作製した周波数変換素子の規格化抵抗値と磁気抵抗比はシリコン基板上に作製した周波数変換素子と比べても遜色のない特性が得られている。また、同様に熱酸化シリコン付きシリコン基板、AlTiC基板(セラミック)、MgO基板、ガラス基板、サファイヤ基板、及び窒化シリコン付きシリコン基板上に周波数変換素子を作製し、規格化抵抗値と磁気抵抗比の比較を行った。その結果、規格化抵抗値はすべて3Ω前後となり、ばらつきは1Ω以内に収まっている。磁気抵抗比はすべての周波数変換素子で100%以上であった。このことから、本発明に係る周波数変換素子を用いれば、従来の半導体の周波数変換装置と異なり、基板材料の制約を受けないことが分かる。
Figure 0004551972
周波数変換素子10に入力される複数の信号のうち、どれか一つの信号の周波数が、周波数変換素子中の磁化自由層の持つ強磁性共鳴周波数帯に含まれるとき、スピン注入トルクによって磁化の歳差運動が増幅され、これによって生じる素子抵抗の非線形性によって入力信号の周波数変換が行なわれる。強磁性共鳴周波数の周波数帯域は狭いので、磁気抵抗素子に入力された複数の入力信号のうち、少なくとも一つの入力信号が強磁性共鳴周波数付近の周波数帯である場合にのみ周波数変換が行われ、全ての入力信号の周波数が強磁性共鳴周波数帯から外れると周波数変換は行われない。そのため、磁気抵抗素子を用いた周波数変換素子を用いて周波数変換を実現するには、入力信号の少なくとも一つが強磁性共鳴周波数帯に含まれる周波数である必要がある。この磁化自由層6の強磁性共鳴周波数帯は材料に依存したパラメータであるが、図2中の磁化自由層6に外部磁界を印加することで変化させることができる。一例として、今回作成した周波数変換素子の強磁性共鳴周波数の外部磁界依存性を図5に示す。強磁性共鳴周波数の測定にはスピントルクダイオード効果を用いた。この結果が示すように、外部磁界を印加することで、強磁性共鳴周波数を2GHz〜9GHz程度まで変化させることができる。本結果は一例であり、より大きな磁場を印加することで、さらに大きな共鳴周波数を得ることができる。
図6は、周波数変換素子を備えた第2周波数変換装置の概略構成図である。図6に示すように、周波数変換素子10に適当な外部磁界が印加される距離の場所に永久磁石15を配置し、強磁性共鳴周波数が4.72GHzになるように設定した。ただし、外部磁界の印加方向は磁化固定層4と磁化自由層6の磁化が平行を好む向きで、かつ磁化固定層4の容易軸方向から30°傾けた方向となっている。本実施例では外部磁界の印加方向は角度を30°としたが、0°もしくは180°以外であれば構わない。この理由は、印加磁界の方向が0°もしくは180°の方向であると、磁化固定層4の容易軸方向を回転軸にして磁化自由層6の磁化が歳差運動をすると、容易軸に対して回転対称の運動を行うため、磁化自由層6と磁化固定層4の磁気モーメントの相対角がほとんど変化せず、磁気抵抗素子の抵抗変化が起こらないためである。
なお、図6では周波数変換装置の片側に一つだけ永久磁石15を配置したが、永久磁石15を両側に配置しても構わない。
周波数変換装置100に入力信号源101より高周波信号f1=3GHz入力し、局部発振器102より高周波信号f2=4.72GHzを周波数変換素子10に入力した。図6に示すように、周波数変換素子10には永久磁石15より強磁性共鳴周波数が4.72GHzになるような磁場が印加されている。そのため、3GHzと4.72GHzの差信号が周波数変換素子10より出力される。これを観測するために周波数変換装置100の出力側には、スペクトラムアナライザー20が接続されている。
図7はスペクトラムアナライザー20によって観測した出力信号を示す。入力信号の3GHzと局部発振信号の4.72GHzの差信号にあたる1.72GHzの信号が観測されたことにより周波数変換が行なわれてたことがわかる。
図8は、周波数変換素子を備えた第3周波数変換装置の概略構成図である。上述した実施例では磁場印加機構15を永久磁石としたが、図8に示すようにコイル21を配置して周波数変換素子10に電流誘起磁場を印加しても構わない。その場合には、コイル21の配置位置だけでなく、コイル21に印加する電流の大きさ、コイル21の巻き数によって磁場の大きさをコントロールすることができる。そのため、コイル21に流れる電流をコントロールするための制御用電源(制御部)25を設けるのが好ましい。また、本例はコイル21としたが、電流誘起磁界は単純な電気配線を用いるなどの方法によりコイル以外でも実現できる。また図8には周波数変換素子10の片側にのみコイルを配置しているが、両側に配置しても構わない。
さらに、図8のように周波数変換素子に磁場を印加する手段としてコイル21を用いる場合には、コイル21に印加する電流の大きさを変化させることによって、誘起される磁場の大きさを変えることができる。これを利用して周波数変換素子10の強磁性共鳴周波数を変化させることができる。
次に、本発明に係る周波数変換装置にスイッチング機能を持たせる方法を説明する。図8を用いて上述したように、制御用電源(制御部)25を制御し、コイル21に印加する電流の大きさを変化させることによって、誘起される磁場の大きさを変え、周波数変換素子10の強磁性共鳴周波数を変化させることができる。また、コイル21に印加される電流をオンオフすることで、誘起される磁場をオンオフし、強磁性共鳴周波数変化させることができる。この特性を利用して、入力信号の周波数に対して、強磁性共鳴周波数帯をずらすことにより、周波数変換の有無を切り替えるスイッチング機能を作動させることができる。
これとは別に、以下の方法でもスイッチング機能を持たせることができる。
3GHzと4.72GHzの入力信号を周波数変換素子に入力したまま図6に示す永久磁石15を動かして外部磁界の向きを磁化固定層(ピン層)4の容易軸方向に平行にした(角度を0°にした)。すると、差信号周波数である1.72GHzのスペクトルが観測できなくなり、周波数変換効果が得られないことわかった(図9参照)。これは、前述したように、磁化の歳差運動の中心軸が、容易軸上にあるために抵抗変化が得られず、周波数変換効果が得られないためであると考えられる。
また、同じように磁場の印加方向を磁化固定層(ピン層)の容易軸方向に対して反平行にした(角度を180°にした)場合にも差信号周波数は消滅した。このようにして、印加磁化の方向を磁化自由層の容易軸に対して0°もしくは180°にすることで、周波数変換効果をオフにすることができる。このように本発明の周波数変換装置は、外部磁界を印加する永久磁石を可動させることで周波数変換素子に印加される外部磁場をコントロールすることにより周波数変換の有無を切り替えるスイッチング機能を持たせることができる。
周波数変換機能のスイッチングを行う方法には以下の2つの方法がある。
ひとつは、常に周波数変換素子に適当な外部磁界が印加され周波数変換効果が得られる状態(スイッチングオン)から、この外部磁界を変化させることによって周波数変換効果を得られない状態(スイッチングオフ)、もしくは強磁性共鳴周波数帯をずらして、周波数変換された信号の周波数を所望の周波数帯からずらす方法がある。この方法は、通常状態で周波数変換機能が働いている状態なのでノーマリーオンと定義する。
図10は、周波数変換素子を備えた第4周波数変換装置の概略構成図である。ノーマリーオンの周波数変換装置を実現するために、図10に示すように、周波数変換素子10の周りに2つの磁場を印加する機構を配置することが好ましい。本件では、周波数変換素子10の近傍に電磁石となるコイル21と、永久磁石15により磁界を印加した。
特に、スイッチングオフの状態にするためには外部磁場を変化させる必要があるため、2つの磁場印加機構のうち少なくとも一つはコイル21のような電流誘起磁界などのコントロール可能な磁場にする必要がある。
ノーマリーオンを実現するために必要な磁場を作り出すのは、永久磁石15を用いることで消費電力を低減することができる。これは、コイルなどを用いて電流誘起磁界を作るには電力が必要であるが、永久磁石15の場合には周波数変換素子10の傍に配置するだけでよいからである。
一方で、周波数変換素子10の強磁性共鳴周波数を変化させて、周波数変換の周波数を可変にする場合には、ノーマリーオンを実現するのに必要な磁場を作り出すにはコイルなどを用いた電流誘起磁界が必要である。
また、ノーマリーオンを実現するために、コイルなどによる電流誘起磁界を用いる場合には、スイッチングオフ状態を実現するために2つの磁場印加機構を用いることなく実現する方法もある。磁化自由層6に一軸磁気異方性を持たせ、磁化固定層4の磁気異方性の方向が、容易軸方向と同じになるような周波数変換素子10を用いることで実現できる。これは、スイッチングオン状態から、コイルなどに印加する電流を遮断すると、周波数変換素子10に磁場が印加されなくなる。そのため、磁化自由層中の磁気モーメントは容易軸方向に向き、磁化固定層と平行もしくは反平行状態になるため、スイッチングオフ状態を実現することができる。
スイッチングのもう一つの方法に、通常動作時にはスイッチングオフ状態で、周波数変換機能が必要な時にだけスイッチングオン状態にする方法がある。この方法は、通常動作時にスイッチングオフなので、ノーマリーオフと定義する。
ノーマリーオフを実現するには、コイルなどによる電流誘起磁界を利用する必要がある。通常動作時には周波数変換素子に磁場を印加せず、スイッチオンにする場合にコイルなどに通電して周波数変換素子に外部磁界を印加する。これによって周波数変換効果が得られる状態になる。周波数変換の周波数を可変にしたい場合には、コイルなどによって発生する電流誘起磁場をコントロール可能にしておく必要がある。
周波数変換素子10にコイル15を配置し、周波数変換効果にスイッチング動作させた実施例を示す。
周波数変換素子の強磁性共鳴周波数が4.72GHzになるように、電流誘起磁界を発生させるためのコイルに印加する電流値を設定した。コイル21の配置は、磁化自由層が平行を好む向きで、かつ磁化固定層の容易軸から30°傾けた方向となっている。この状態の(ノーマリーオン)周波数変換素子10に3GHzと4.72GHzの信号を入力したところ、図7と同様に1.72GHzの差信号周波数を観測することができた。
この状態から、コイル制御用電源25をオフにすることでコイル21に印加する電流を遮断したところ、入力信号の差信号である1.72GHzの信号が消失した。このように、コイル21に印加される電流値をコントロールすることでノーマーリーオンを実現できる。
さらに、コイル21に通電されていない状態(スイッチングオフ)から、コイル制御用電源25をオンにしてコイル21に通電をしたところ、差信号周波数である1.72GHzの信号が現れた。これはノーマリーオフの動作である。
このように、磁場印加手段を適当に選択することで、ノーマリーオンおよびノーマリーオフの両方に対応可能な周波数変換装置が実現することができる。
図11は、周波数変換素子を備えた第5周波数変換装置の概略構成図である。
図11に示すように、周波数変換素子10の近傍には、コイル21とコイル21に印加する電流を制御することができる制御用電源(制御部)25が配置されている。また、周波数変換素子10の出力側と電気的に接続され、かつコイル制御用電源25と電気的に接続されたフィードバック回路35が設けられている。
周波数変換素子10に設定したい強磁性共鳴周波数の局部発振信号を局部発振器102から入力し、外部信号源101より高周波信号を入力する。例えば強磁性共鳴周波数を4GHz、外部入力信号を3.8GHzに設定する。すると、周波数変換素子10で0.2GHzの信号が出力されるはずである。この出力信号をフィードバック回路35で検出する。差信号周波数が正しく出力されていない場合には、フィードバック回路25は、制御用電源(制御部)25にフィードバックをかけてコイル21で発生させる電流誘起磁界の大きさをコントロールし、所望の出力が得られるように設定することができる。このように、フィードバック回路を用いれば周波数変換素子に変換周波数の調整機能をもたせることができる。
ただし、3.8GHzに対して0.2GHzの差信号周波数を生成するのは4GHz以外にも3.6GHzの信号がある。そのため、上述の調整プロセスを一度行っただけでは、設定した強磁性共鳴周波数が4GHzなのか、3.6GHzなのか区別することはできない。そこで、上述の調整プロセスを外部入力信号の周波数を3.8GHz以外に設定してもう一度行う。例えば外部入力信号fを3.4GHzに設定する。仮に上述の調整プロセスで強磁性共鳴周波数が4GHzに設定されていれば、周波数変換素子10より0.6GHzの信号が出力される。ところが、上述の調整プロセスで設定された強磁性共鳴周波数が3.6GHzであった場合には0.2GHzの信号が出力される。その場合には調整プロセスをもう一度繰り返す必要がある。そのため、好ましくはフィードバック回路35もしくはコイル用制御電源25にメモリ装置を搭載させるのがよい。
本実施例では、強磁性共鳴周波数の信号を出力するのは局部発振器としたが、外部信号源の出力信号を強磁性共鳴周波数としてもよい。
2 下部電極層
3 反強磁性層(下部電極層)
4 磁化固定層
5 トンネルバリア層(中間層)
6 磁化自由層
7 保護層
10 周波数変換素子
15 磁場印加機構
25 制御用電源(制御部)
101 外部信号源
102 局部発振器
103 配線
104 入力端子

Claims (5)

  1. 第1の周波数を有する入力信号を受信する入力端子、
    該入力端子に接続され、該入力信号が印加される磁気抵抗素子であって、磁化自由層、中間層及び磁化固定層を含む磁気抵抗素子、
    第2の周波数の局部発振信号を生成し、該局部発振信号を該入力信号と共に該磁気抵抗素子に印加している局部発振器、
    該磁気抵抗素子に外部磁界を印加する磁界印加手段、及び
    該磁気抵抗素子の出力に接続された出力端子とからなり、
    該磁界印加手段は、該磁化固定層の容易軸方向と角度をなした方向の磁界であって該磁気抵抗素子が該第1又は第2の周波数に等しい強磁性共鳴周波数を有するような強度の磁界である第1の磁界と、該磁化固定層の容易軸と平行又は反平行である第2の磁界との間でコントロールする制御手段を含み、
    該第1の磁界印加時に該出力端子に該第1と第2の周波数の差信号又は該第1と第2の周波数の和信号を出力するスイッチングオン状態と、該第2の磁界印加時に該出力端子に該差信号又は該和信号を出力しないスイッチングオフ状態とを該制御手段により切り替えているスイッチング装置。
  2. 前記磁気抵抗素子の素子サイズが0.04μm2以下である請求項1に記載のスイッチング装置。
  3. 前記中間層は、酸化マグネシウムを有する請求項1に記載のスイッチング装置。
  4. 前記磁界印加手段は、永久磁石と磁界発生コイルとからなる請求項1に記載のスイッチング装置。
  5. 前記磁気抵抗素子の素子抵抗が40Ωである請求項1に記載のスイッチング装置。
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