JP4551590B2 - 建設機械の加振力推定方法、振動・騒音推定方法、装置、記録媒体、プログラム及び建設工事の騒音体感装置 - Google Patents

建設機械の加振力推定方法、振動・騒音推定方法、装置、記録媒体、プログラム及び建設工事の騒音体感装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は建設機械の加振力推定方法、振動・騒音推定方法、装置、記録媒体、プログラム及び建設工事の騒音体感装置に係り、特に、建設機械の加振力を推定するための建設機械の加振力推定方法、建設機械の使用に伴って発生する振動・騒音を前記加振力推定方法を利用して推定する振動・騒音推定方法、該推定方法が適用された振動・騒音推定方法装置、コンピュータを前記振動・騒音推定方法装置として機能させるためのプログラム、該プログラムが記録された記録媒体、及び、建設機械の使用に伴って発生する騒音を体感させるための建設工事の騒音体感装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、オフィスビル等の建築物のリニューアルに際し、建設工事の最中にも建築物をそのまま利用する形態が増えてきている。しかし、リニューアル工事等で建設機械を用いると、建築物の躯体に加えられた振動が固体(躯体)を伝播することで、建設工事を行っている階と別の階でも振動及び騒音が発生する。このため、建設工事の最中にも建築物をそのまま利用する形態の建設工事においては、建築物のうち工事期間に継続利用可能な区域を適正に定めたり、建設工事で使用可能な建設機械を適正に選定するために、建設機械の使用に伴って建築物の各箇所で発生する振動及び騒音の大きさを建設工事の施工前に予測したい、という要求がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
固体伝播によって発生する振動及び騒音の予測には、実験的に求められた予測式を用いることが一般的である。この種の予測式は、加振源による加振力、固体(躯体)内における振動減衰特性、内装材等の音響放射特性に基づいて予測するものであるが、建設機械の使用に伴って発生する振動及び騒音(固体伝播音)の予測にこの種の予測式を用いても、予測値が実測値と大きく相違するという問題があった。このため、建設機械を用いた建設工事において、建築物の各箇所に発生する振動及び騒音の大きさを精度良く予測することは困難であった。
【0004】
また、建築物の居室内に侵入する騒音を体感可能なシステムは従来より種々提案されている(一例として、特開平6−230711号公報、特開平10−68655号公報、特開平11−65414号公報、特開平11−102154号公報、特開平11−202754号公報、特開平11−202755号公報、特開2000−297488号公報、特開2000−305960号公報等)。
【0005】
しかしながら、建設工事における建設機械の使用に伴って建築物内に発生する騒音を体感するシステムは提案されていない。また、上記各公報に記載の技術を利用し、建設機械の使用に伴って建築物内に発生する騒音を体感するシステムを構築したとしても、前述のように、振動及び騒音の予測精度が不足していることから、建設機械の使用に伴って発生する騒音を精度良く体感することが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内に発生する振動及び騒音を精度良く推定可能な建設機械の加振力推定方法、振動・騒音推定方法、装置、プログラム及び記録媒体を得ることが第1の目的である。
【0007】
また本発明は、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内に発生する騒音を事前に精度良く体感できる建設工事の騒音体感装置を得ることが第2の目的である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
建設工事施工時の建設機械の加振力は直接測定することが困難であるため、建設機械の使用に伴い固体伝播によって発生する振動及び騒音の推定には、建設機械の加振力として推定値を用いらざるを得ない。本願発明者等は、固体伝播によって発生する振動及び騒音の推定における誤差は、建設機械の加振力についての推定精度が十分でないことが原因ではないかと推測し、建設機械の加振力を精度良く推定できる推定方法を確立するために、以下の実験を行った。
【0009】
すなわち、本願発明者等は、まず建設機械の使用に伴って発生する振動の加速度レベルと騒音の音圧レベルの実測を行った。実測対象の建設作業はワイヤソーによる柱切断、ウォールソーによる壁切断及びブレーカによる柱はつりの3種類で、柱切断及び壁切断には図1(A)に4階建ての建築物(Aビル)を用い、1階の床面から2400mmだけ隔てた位置で柱切断を行うと共に、壁切断も1階部分で行うことを前提に、図1(A)に示すように施工箇所近傍と各階の施工箇所直上の柱、壁及び床に振動ピックアップを設置し、各階の部屋中央に騒音計を設置した。そして、ワイヤソーによる柱切断及びウォールソーによる壁切断を順次行いながら、振動ピックアップによって振動の加速度レベルを実測すると共に、騒音計によって騒音の音圧レベルを実測した。
【0010】
また、柱はつりには図1(B)に示す地下1階、地上9階建ての建築物(Bビル)を用い、1階の床面から1000mmだけ隔てた位置で柱はつりを行うことを前提に、図1(B)に示すように、施工箇所近傍と各階の施工箇所直上の柱及び床に振動ピックアップを設置し、各階の部屋中央に騒音計を設置した。そして、ブレーカによる柱はつりを行いながら、振動ピックアップによって振動の加速度レベルを実測すると共に騒音計によって騒音の音圧レベルを実測した。図2には、実測結果に対して1/1オクターブバンド毎に周波数分析を行った結果を示す。なお、図2に示す振動の加速度レベルの実測結果は、複数箇所での振動の加速度レベルの実測結果を各階毎に平均化したものである。
【0011】
次に本願発明者等は、「建築構造体中の固体音伝播性状」日本音響学会誌 昭和54年11月号に記載されている、松田等による躯体内振動伝播特性の距離減衰式(次の(1)式)を用い、図1に示したAビル及びBビルの各階における振動の加速度レベルの推定演算を、各建設機械毎(ワイヤソー、ウォールソー、ブレーカ)かつ各オクターブバンド毎に行った。
Lr=P0−20Log10r−α√(f)・r …(1)
但し、Lrは加振点(施工箇所)から距離r(m)の位置における振動の加速度レベル(ここでは推定値)、P0は加振源(この場合は建設機械)の加振力(パワーレベル(dB))、αは定数、fは周波数(HZ)である。なお、この推定演算では、加振源のパワーレベルP0として、加振源近傍における振動の加速度レベルの実測値を用いた。
【0012】
また、振動の加速度レベルの推定値Lrに基づき、室内が拡散音場である(騒音等が室内に一様に拡散している)と仮定して室内の騒音の音圧レベルを推定する次の(2)式を用い、図1に示したAビル及びBビルの各階における騒音の音圧レベルの推定演算を、各建設機械毎かつ各オクターブバンド毎に行った。
Figure 0004551590
但し、SPLrは室内の騒音の音圧レベルの推定値、Sは放射面積(m2)、Aは吸音力(m2)、kは音響反射係数である。
【0013】
図3は、Aビルでのワイヤソーによる柱切断及びBビルでのブレーカによる柱はつりについての、2階及び4階での振動の加速度レベルの推定値と実測値を各々示したものである。図3からも明らかなように、振動の加速度レベルの推定値と実測値は大きく相違しており、図示は省略するが、この振動の加速度レベルの推定値に基づいて騒音の音圧レベルを推定した結果についても、当然ながら実測値と大きく相違する。従って、上記の手法では、建設機械の使用に伴って発生する振動及び騒音精度良く推定することが困難であることは明白である。
【0014】
本願発明者等は、上述した推定値と実測値との差異は、振動の加速度レベルの推定演算に用いた加振源のパワーレベルP0の推定精度に起因していると考え、加振源のパワーレベルP0に対して以下の補正を行った。
【0015】
すなわち、まず(1)式によって求めた各階の振動の加速度レベルの推定値Lrと各階の振動の加速度レベルの実測値Lsとのレベル差ΔLacc(=Ls−Lr)を、31.5HZ〜8kHZの周波数帯域内の1/1オクターブバンドを単位として、各建設機械毎かつ各階毎に演算する。次に、各階毎のレベル差ΔLaccのエネルギー平均値E(ΔLacc)を、1/1オクターブバンドを単位として各建設機械毎に各々演算する。なお、エネルギー平均値は、平均値演算対象の各データ(この場合は各階毎のレベル差ΔLacc)を真数へ一旦変換し、平均値を演算した後に、対数へ再変換することによって求めることができる。
【0016】
また、(2)式によって求めた各階の騒音の音圧レベルの推定値SPLrと各階の騒音の音圧レベルの実測値SPLsとのレベル差ΔSPL(=SPLs−SPLr)を、31.5HZ〜8kHZの周波数帯域内の1/1オクターブバンドを単位として、各建設機械毎かつ各階毎に演算し、演算した各階毎のレベル差ΔSPLのエネルギー平均値E(ΔSPL)を、1/1オクターブバンドを単位として各建設機械毎に各々演算する。
【0017】
そして、エネルギー平均値E(ΔLacc)とエネルギー平均値E(ΔSPL)のエネルギー平均値ΔLを1/1オクターブバンドを単位として各建設機械毎に各々求め、この平均値ΔLを加振源のパワーレベルP0に加算することで、各建設機械毎に加振源のパワーレベルP0の補正を行った。
【0018】
続いて本願発明者等は、加振源のパワーレベルP0に対する上記補正の精度を検証するために、図1に示したビルA及びビルBと別の建築物を対象として、建設機械の使用に伴って発生する振動の加速度レベルと騒音の音圧レベルを実測すると共に、補正後の加振源のパワーレベルP0を用い、振動の加速度レベルと騒音の音圧レベルの推定を行った。
【0019】
実測及び推定対象の建設作業は、図4(A)に示す地下1階、地上3階建てでRC造のCビルでのワイヤソーによる1階の柱切断と、図4(B)に示す地上4階建てでRC造のDビルでのブレーカによる地下1階の杭基礎のはつりで、施工箇所直上の柱、壁及び床に設置した振動ピックアップによって振動の加速度レベルを実測すると共に、各階の部屋中央に設置した騒音計によって騒音の音圧レベルを実測した。また、補正後の加振源のパワーレベルP0を用い、Cビル及びDビルでの振動の加速度レベルを(1)式によって推定すると共に、騒音の音圧レベルを(2)式によって推定した。なお、31.5HZ〜63HZの周波数帯域内の音圧レベルの推定値には、暗騒音に相当する音圧値を加算した。
【0020】
Cビル及びDビルの2,3階における振動の加速度レベルの実測値と推定値を比較した結果、及び騒音の音圧レベルを比較した結果を図5に示す。図5からも明らかなように、振動の加速度レベルの推定値は、各ビル共に低周波域及び高周波域で5〜10dB程度の実測値とのずれがあるものの、中周波域での実測値とのずれは約5dB以内に収まっている。また、騒音の音圧レベルの推定値についても、一部の周波数帯域では誤差があるものの、周波数特性、レベルとも実測値に近似している。
【0021】
このように、本願発明者等が実施した実験により、振動の加速度レベルの推定値と実測値との差、及び騒音の音圧レベルの推定値と実測値との差に基づいて加振源(建設機械)のパワーレベル(加振力)を補正することで、建設機械の加振力を高精度に推定することができ、この加振力の推定値を用いることで、前記建設機械の使用に伴って発生する振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを精度良く推定できることが明らかとなった。
【0022】
上記に基づき請求項1記載の発明に係る建設機械の加振力推定方法は、所定の建設機械を用いて既存の建築物に対する建設工事を実施したときの前記建築物内の特定箇所(例えば発生する騒音の殆どが固体伝播音であり所定の建設機械からの空気伝播音が無視できる程小さい箇所)での振動の加速度レベルを、所定の建設機械の加振力を仮定して推定し、前記特定箇所での騒音の音圧レベルを推定すると共に、所定の建設機械を用いて前記建築物に対して建設工事を実施したときの、前記特定箇所での振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを実測し、振動の加速度レベルの推定値と実測値との差、及び騒音の音圧レベルの推定値と実測値との差に基づいて、所定の建設機械の加振力の仮定値を補正するので、先にも述べたように、建設機械の加振力を高精度に推定することができる。そして、所定の建設機械の加振力の推定結果に基づいて、所定の建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内に発生する振動及び騒音を精度良く推定することが可能となる。
【0023】
なお、請求項1記載の発明において、振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを推定すると共に実測し、推定値と実測値との差に基づいて加振力の仮定値を補正することは、特定の周波数帯域(例えば人間が騒音等を最も顕著に感ずる周波数帯域)についてのみ行うようにしてもよいが、例えば請求項2に記載したように、所定の周波数幅(例えば1/1オクターブバンド)を単位とする複数の周波数帯域について各々行うことが好ましい。これにより、建設機械の加振力を広い周波数帯域に亘ってより高精度に推定することができ、この加振力の推定結果を用いることにより、建設機械の使用に伴って建築物内に発生する振動及び騒音を広い周波数帯域に亘ってより高精度に推定することが可能となる。
【0024】
また、請求項1記載の発明において、例えば請求項3に記載したように、振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを推定すると共に実測することを、加振点からの距離が互いに異なる複数箇所について各々行うと共に、前記複数箇所における振動の加速度レベルの推定値と実測値との差のエネルギー平均値、及び前記複数箇所における騒音の音圧レベルの推定値と実測値との差のエネルギー平均値を各々演算し、両者のエネルギー平均値を建設機械の加振力の仮定値に加算することで、加振力の仮定値の補正を行うことが好ましい。
【0025】
請求項3記載の発明では、振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルの推定・実測を、加振点(建設機械による施工箇所)からの距離が互いに異なる複数箇所について各々行い、推定値と実測値との差のエネルギー平均値を用いて加振力の仮定値を補正するので、建設機械の使用に伴って発生する振動及び騒音の推定に際し、振動及び騒音の推定対象箇所と加振点との距離に拘らず、発生する振動及び騒音を精度良く推定できるように、加振力の仮定値の補正(建設機械の加振力の推定)を行うことができる。
【0026】
なお、エネルギー平均値は、平均値演算対象の各データを真数へ一旦変換し、平均値を演算した後に、対数に戻すことによって求めることができる。また、工事期間に継続利用可能な建築物内の区域の設定に本発明を利用する等の場合、振動及び騒音の推定対象箇所は、建設機械からの空気伝播による騒音が無視できる程小さい箇所であることが殆どである。このため、加振源の加振力の推定結果を用いて振動及び騒音を推定する際の推定誤差を抑制するために、請求項3記載の発明に係る複数箇所は、所定の建設機械からの空気伝播による騒音が無視できない程大きい箇所(例えば建設機械による施工箇所(加振点)と同一階の箇所)の数が1つ以下であり、複数箇所の大部分は、発生する騒音の殆どが固体伝播音であり所定の建設機械からの空気伝播による騒音が無視できる程小さい箇所(例えば建設機械による施工箇所(加振点)と別の階の箇所)となるように定めることが好ましい。
【0027】
請求項4記載の発明に係る振動・騒音推定方法は、請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の建設機械の加振力推定方法を適用して所定の建設機械の加振力を推定し、施工対象の建築物に対し前記所定の建設機械を用いて建設工事を実施したときの前記施工対象の建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを、前記推定した所定の建設機械の加振力に基づいて推定し、前記特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて、前記特定箇所での騒音の音圧レベルを推定する。
【0028】
請求項4記載の発明では、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の加振力推定方法を適用して推定した所定の建設機械の加振力に基づいて、施工対象の建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを推定し、特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて特定箇所での騒音の音圧レベルを推定するので、先に説明した実験結果からも明らかなように、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内の特定箇所に発生する振動及び騒音を精度良く推定することができる。
【0029】
請求項5記載の発明に係る振動・騒音推定装置は、請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の建設機械の加振力推定方法を適用して推定された所定の建設機械の加振力を記憶する記憶手段と、施工対象の建築物に対し前記所定の建設機械を用いて建設工事を実施したときの前記施工対象の建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを、前記記憶手段に記憶されている所定の建設機械の加振力に基づいて推定し、前記特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて、前記特定箇所での騒音の音圧レベルを推定する推定手段と、を含んで構成されているので、請求項4記載の発明と同様に、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内の特定箇所に発生する振動及び騒音を精度良く推定することができる。
【0030】
請求項6記載の発明に係るプログラムは、請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の建設機械の加振力推定方法を適用して各々推定された複数種の建設機械の加振力を記憶する記憶手段が設けられたコンピュータに所定の処理を実行させるためのプログラムであって、前記所定の処理は、振動及び騒音の推定対象の建設機械の加振力を前記記憶手段から読み出す第1のステップ、施工対象の建築物に対し前記推定対象の建設機械を用いて建設工事を実施したときの前記施工対象の建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを、前記記憶手段から読み出した前記推定対象の建設機械の加振力に基づいて推定する第2のステップ、前記特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて、前記特定箇所での騒音の音圧レベルを推定する第3のステップを含むことを特徴としている。
【0031】
請求項6記載の発明に係るプログラムは、上記第1乃至第3のステップを含む所定の処理、すなわちコンピュータを、請求項5に記載の振動・騒音推定装置として機能させるためのプログラムであるので、コンピュータが該プログラムを実行することにより、請求項5記載の発明と同様に、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内の特定箇所に発生する振動及び騒音を精度良く推定することができる。
【0032】
請求項7記載の記録媒体は、請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の建設機械の加振力推定方法を適用して各々推定された複数種の建設機械の加振力を記憶する記憶手段が設けられたコンピュータに所定の処理を実行させるためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記所定の処理は、振動及び騒音の推定対象の建設機械の加振力を前記記憶手段から読み出す第1のステップ、施工対象の建築物に対し前記推定対象の建設機械を用いて建設工事を実施したときの前記施工対象の建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを、前記記憶手段から読み出した前記推定対象の建設機械の加振力に基づいて推定する第2のステップ、前記特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて、前記特定箇所での騒音の音圧レベルを推定する第3のステップを含むことを特徴としている。
【0033】
請求項7記載の発明に係る記録媒体には、上記第1乃至第3のステップを含む所定の処理、すなわちコンピュータを、請求項5に記載の振動・騒音推定装置として機能させるためのプログラムが記録されているので、コンピュータが前記記録媒体に記録されたプログラムを読み出して実行することにより、請求項5記載の発明と同様に、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内の特定箇所に発生する振動及び騒音を精度良く推定することができる。
【0034】
請求項8記載の発明に係る建設工事の騒音体感装置は、請求項5記載の振動・騒音推定装置と、所定の建設機械の使用時に発生する騒音を録音することで得られた騒音データを記憶する騒音データ記憶手段と、前記推定手段によって推定された前記特定箇所での騒音の音圧レベルに基づいて、前記騒音データ記憶手段に記憶されている騒音データを、前記特定箇所での騒音を表す騒音データに加工する加工手段と、前記加工手段による加工後の騒音データを実音として再生する再生手段と、を含んで構成されている。
【0035】
請求項8記載の発明は、請求項5記載の振動・騒音推定装置を備え、該振動・騒音推定装置の推定手段によって推定された特定箇所での騒音の音圧レベルに基づいて、所定の建設機械の使用時に発生する騒音を録音することで得られた騒音データを、特定箇所での騒音を表す騒音データに加工し、加工後の騒音データを実音として再生するので、再生する実音の音圧レベルを、特定箇所での騒音の音圧レベルに精度良く一致させることができ、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内に発生する騒音を事前に精度良く体感することができる。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図6には本発明が適用された騒音体感システム10が示されている。なお、騒音体感システム10は本発明に係る騒音体感装置に対応しており、本発明に係る振動・騒音推定装置としての機能も備えている。
【0037】
騒音体感システム10は複数台の振動ピックアップ12及び複数台の騒音計14を含んで構成されている。各振動ピックアップ12及び各騒音計14は、建設機械(建設機械の一例を図6に符号「16」付して示す)の加振力の推定(詳細は後述)を行う際に、建築物の任意の実測箇所に各々設置され、振動ピックアップ12は建設機械の使用に伴って測定個所に発生する振動を測定し、騒音計14は建設機械の使用に伴って発生する測定個所に発生する騒音を測定する。
【0038】
振動ピックアップ12及び騒音計14は、振動及び騒音の実測時にはデータレコーダ18に接続され、振動及び騒音の実測結果はデータレコーダ18へ出力され、振動データ・騒音データとしてデータレコーダ18に記録される。データレコーダ18は周波数分析器20に接続可能とされており、データレコーダ18に記録された振動データ及び騒音データは周波数分析器20へ出力される。
【0039】
周波数分析器20はデータレコーダ18から入力された振動データ及び騒音データに対して周波数分析を行い、振動データから、それぞれの振動の実測箇所について、発生した振動の加速度レベルを1/1オクターブバンド単位で表す加速度レベルデータを生成すると共に、騒音データから、それぞれの騒音の実測個所について、発生した騒音の音圧レベルを1/1オクターブバンド単位で表す音圧レベルデータを生成する。
【0040】
また、騒音体感システム10はパーソナル・コンピュータ(PC)22を含んで構成されている。PC22はCPU22A、ROM22B、RAM22C、入出力ポート22Dを備え、これらがアドレスバス、データバス、制御バス等のバス22Eを介して互いに接続されて構成されている。入出力ポート22Dには、各種の入出力機器として、ディスプレイ24、マウス26、キーボード28、HDD30、及びCD−ROMからの情報の読み出しを行うCD−ROMドライブ32が各々接続されている。
【0041】
周波数分析器20はPC22に接続可能とされており、前述の加速度レベルデータ及び音圧レベルデータは周波数分析器20からPC22に入力され、HDD30に記憶される。また、PC22の入出力ポート22Dには、オーディオ・インタフェース(I/F)34、イコライザ36、パワーアンプ38を介してスピーカ40が接続されている。なお、オーディオI/F34、イコライザ36、パワーアンプ38及びスピーカ40は請求項8に記載の再生手段に対応している。
【0042】
なお、PC22のHDD30には、後述する加振力推定処理を実行するための加振力推定プログラム及び後述する騒音体感処理を実行するための騒音体感プログラムが各々インストールされている。加振力推定プログラム及び騒音体感プログラムをPC22にインストール(移入)するには幾つかの方法があるが、例えば加振力推定プログラム及び騒音体感プログラムをセットアッププログラムと共にCD−ROM46に記録しておき、CD−ROM46をPC22のCD−ROMドライブ32にセットし、CPU22Aに対して前記セットアッププログラムの実行を指示すれば、CD−ROM46から加振力推定プログラム及び騒音体感プログラムが順に読み出され、読み出されたプログラムがHDD30に順に書き込まれることで、加振力推定プログラム及び騒音体感プログラムのインストールが行われる。なお、騒音体感プログラムは請求項6に記載のプログラムに対応していると共に、請求項7に記載の記録媒体に記録されているプログラムにも対応しており、上記の態様におけるCD−ROM46は請求項7の記録媒体に対応している。
【0043】
また、加振力推定プログラム及び騒音体感プログラムが、当初は公衆電話回線やコンピュータネットワーク(例えばLAN、インターネット、無線通信ネットワーク等)を介してPC22と接続される他の情報処理機器(例えばネットワークサーバ)の記憶装置に記憶されており、PC22が前記情報処理機器と通信することで、前記情報処理機器からPC22へ伝送され、HDD30にインストールされてPC22で実行される構成を採用してもよい。
【0044】
次に本実施形態の作用として、まず、建設機械の加振力の推定について説明する。特定の建設機械の加振力(パワーレベル)を推定するためには、該特定の建設機械を使用したときに発生する振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを実測する必要がある。
【0045】
振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルの実測に際しては、まず実測に用いる建設物内における建設機械の使用箇所(建設機械による施工箇所・加振点)を定め、施工箇所の位置に基づいて振動ピックアップ12及び騒音計14を設置する。例えば振動ピックアップ12は、施工箇所の近傍(施工箇所と同一階)及び施工箇所より上層の各階における、施工箇所の直上に相当する柱、床、壁に各々設置することができ、騒音計14は、施工箇所と同一階及び施工箇所より上層の各階における、施工箇所の直上に相当する部屋の中央部に各々設置することができる。
【0046】
また、振動ピックアップ12及び騒音計14による振動及び騒音の実測結果を記録するために、振動ピックアップ12及び騒音計14の設置箇所(振動及び騒音の実測箇所)の近傍にデータレコーダ18を設置(例えば各階毎に設置)し、それぞれの振動ピックアップ12及び騒音計14をデータレコーダ18と接続する。また、本実施形態では、施工箇所の直上の階の部屋の中央部に録音機器(例えば音声をDAT(Digital Audio Tape)にデジタル録音する録音機器)を設置し、建設機械の使用に伴って発生する騒音の録音も行う。そして、加振力推定対象の建設機械により施工箇所に対して施工(加振)を行う。
【0047】
これにより、建設機械によって発生した振動が固体(躯体)を伝播することで各実測箇所に振動及び騒音が発生し、各振動ピックアップ12で実測された振動が振動データとしてデータレコーダ18に記録されると共に、各騒音計14で実測された騒音が騒音データとしてデータレコーダ18に記録される。また、同時に録音機器による騒音の録音も行われる。
【0048】
振動及び騒音の実測終了後、データレコーダ18に記録された振動データ及び騒音データは、周波数分析器20による周波数分析を経て、加速度レベルデータ及び音圧レベルデータとしてPC22に入力され、HDD30に記憶される。また、録音機器による騒音の録音結果も音圧波形データ(例えばWAVE形式のデータ)としてPC22に入力され、HDD30に記憶される。
【0049】
次に、PC22のHDD30に加速度レベルデータ、音圧レベルデータ及び音圧波形データが記憶されている状態で、オペレータからの指示により、PC22のCPU22Aが加振力推定プログラムを実行することで実現される加振力推定処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。なお、この加振力推定処理は本発明に係る建設機械の加振力推定方法が適用された処理である。
【0050】
ステップ100では、例えば加振力推定対象の建設機械のIDの入力を要請するメッセージをディスプレイ24に表示させ、前記IDをオペレータに入力させる等により、加振力推定対象の建設機械のIDを認識する。ステップ102では個々の実測箇所(実測階)を識別するための変数Aに1を代入する。
【0051】
また、加振力推定処理が実行される際には、全ての実測箇所A(A=1〜AMAX)について、施工箇所との距離rA、実測箇所Aを含む部屋の放射面積SA、吸音力AA及び音響反射係数kAがHDD30に各々記憶されており、ステップ104では、実測箇所A(この場合はA=1)と施工箇所との距離rAをHDD30から取り込み、次のステップ106では実測箇所Aを含む部屋の放射面積SA、吸音力AA及び音響反射係数kAをHDD30から取り込む。なお、上記の各データを予めHDD30に記憶しておくことに代えて、オペレータに都度入力させるようにしてもよい。また、ステップ108では個々のオクターブバンドを識別するための変数Bに1を代入する。
【0052】
また、PC22のHDD30には、建設機械の加振力(パワーレベル)の仮定値P01が各オクターブバンドを単位として各々記憶されており、ステップ110では、加振力推定対象の建設機械のオクターブバンドB(この場合はB=1)での加振力の仮定値P01Bを取り込む。なお、加振力の仮定値は、建設機械の種類(例えばワイヤソー/ブレーカ/…)毎に設定・記憶しておいてもよいし、同一種の建設機械を更に能力等に応じて複数のカテゴリに分類し、各カテゴリ毎に設定・記憶しておいてもよい。
【0053】
次のステップ112では、ステップ110で取り込んだ加振力の仮定値P01B及びステップ104で取り込んだ施工箇所との距離rAに基づき、実測箇所AにおけるオクターブバンドBでの振動の加速度レベル推定値LrABを、次の(3)式に従って演算する。
LrAB=P01B−20Log10A−α√(f)・rA …(3)
ステップ114では、HDD30に記憶されている加速度レベルデータの中から、実測箇所Aの柱、床、壁の各箇所で振動ピックアップ12によって各々実測されたオクターブバンドBでの振動の加速度レベルを表すデータを取り込み、それらのデータが表す振動の加速度レベルの実測値のエネルギー平均値LsABを演算する。そしてステップ116では、実測箇所AにおけるオクターブバンドBでの振動の加速度レベルの実測値LsABと推定値LrABのレベル差ΔLaccAB(=LsAB−LrAB)を演算し、演算結果を記憶する。
【0054】
ステップ118では、先のステップ112で演算された振動の加速度レベル推定値LrAB、先のステップ106で取り込んだ実測箇所Aを含む部屋の放射面積SA、吸音力AA及び音響反射係数kAに基づき、実測箇所AにおけるオクターブバンドBでの騒音の音圧レベル推定値SPLrABを、次の(4)式に従って演算する。
Figure 0004551590
【0055】
ステップ120では、HDD30に記憶されている音圧レベルデータの中から、実測箇所AにおけるオクターブバンドBでの騒音の音圧レベル実測値SPLsABを取り込み、実測箇所AにおけるオクターブバンドBでの騒音の音圧レベル実測値SPLsABと推定値SPLrABのレベル差ΔLSPLAB(=SPLsAB−SPLrAB)を演算し、演算結果を記憶する。
【0056】
次のステップ122では変数Bが最大値BMAXに達したか否か判定する。判定が否定された場合にはステップ124へ移行し、変数Bを1だけインクリメントしてステップ110に戻る。これにより、ステップ122の判定が肯定される迄の間はステップ110〜ステップ124が繰り返されるので、実測箇所Aについて、振動の加速度レベルのレベル差ΔLaccAB及び騒音の音圧レベルのレベル差ΔLSPLABが、各オクターブバンド毎に各々演算・記憶されることになる。
【0057】
また、ステップ122の判定が肯定されるとステップ126へ移行し、変数Aが最大値AMAXに達したか否か判定する。判定が否定された場合にはステップ128へ移行し、変数Aを1だけインクリメントしてステップ104に戻る。これにより、ステップ126の判定が肯定される迄の間はステップ104〜ステップ128が繰り返されると共に、ステップ122の判定が肯定される毎にステップ108で変数Bが1に戻されるので、全ての実測箇所について、振動の加速度レベルのレベル差ΔLaccAB及び騒音の音圧レベルのレベル差ΔLSPLABが、各オクターブバンド毎に各々演算・記憶されることになる。
【0058】
ステップ126の判定が肯定されるとステップ130へ移行し、振動の加速度レベルのレベル差ΔLaccABの各オクターブバンド毎のエネルギー平均値E(ΔLacc)Bを演算すると共に、騒音の音圧レベルのレベル差ΔLSPLABの各オクターブバンド毎のエネルギー平均値E(ΔSPL)Bを演算する。また、ステップ132では、ステップ130で求めたエネルギー平均値E(ΔLacc)Bとエネルギー平均値E(ΔSPL)Bのエネルギー平均値ΔLBを各オクターブバンド毎に演算する。
【0059】
そしてステップ134では、各オクターブバンド毎に演算したエネルギー平均値ΔLに基づき、先のステップ152で読み出した建設機械の加振力仮定値P01をオクターブバンド毎に補正することで、建設機械の加振力推定値P0を求める(P0B=P01B+ΔLB)。これにより、加振力推定対象の建設機械の実際の加振力に精度良く一致する加振力推定値P0を得ることができる。
【0060】
ステップ136では、施工箇所の直上の階の部屋の中央部に設置された録音機器が騒音を録音することで生成された、施工箇所直上の階における騒音の音圧波形データをHDD30から取り込むと共に、施工箇所直上の階における騒音の音圧レベルを表す音圧レベル実測値SPLsをHDD30から取り込み、次のステップ138では、ステップ136で取り込んだ音圧波形データ及び音圧レベル実測値SPLsを、ステップ100で認識した建設機械ID、ステップ134で求めた加振力推定値P0と対応付けて、HDD30に記憶されている建設機械DBに登録し、加振力推定処理を終了する。
【0061】
上述した処理及び作業を建設機械の各機種毎に行うことにより、建設機械DBには、建設機械の各機種について、加振力推定値P0、施工箇所直上の階における騒音に対応する音圧波形データ及び音圧レベル実測値SPLsが各々記憶されることになる。このように、HDD30は請求項5に記載の記憶手段及び請求項8に記載の騒音データ記憶手段に各々対応している。
【0062】
次に、PC22のCPU22Aが実音体験プログラムを実行することで実現される実音体験処理について、図8のフローチャートを参照して説明する。なお、この実音体験処理は、特定の建設機械を使用して建築物内の特定の施工箇所で施工を行った場合に前記建築物内の所定箇所(予測対象室)に生ずる騒音のシミュレーションを行う(実際に施工を行う前に体験者に前記騒音を体感させる)際に、オペレータからの指示により実行される。
【0063】
ステップ150では、例えば使用を予定している建設機械(シミュレーション対象の建設機械)のIDの入力を要請するメッセージをディスプレイ24に表示させ、前記IDをオペレータに入力させる等により、シミュレーション対象の建設機械のIDを認識する。次のステップ152では、ステップ150で認識した建設機械のIDをキーにして建設機械DBを検索することで、シミュレーション対象の建設機械に対応する加振力推定値P0、音圧波形データ及び音圧レベル実測値SPLsを建設機械DBから読み出す。
【0064】
ステップ154では、例えば予測対象室と施工箇所(加振点)との距離rの入力を要請するメッセージをディスプレイ24に表示させ、距離rをオペレータに入力させる等により、予測対象室と施工箇所(加振点)との距離rを認識する。そしてステップ156では、ステップ152で読み出した加振力推定値P0及びステップ154で認識した距離rに基づき、予測対象室における振動の加速度レベル推定値Lrを(1)式に従い各オクターブバンド毎に推定演算する。
【0065】
またステップ158では、例えば予測対象室における放射面積S、吸音力A、音響放射係数kの入力を要請するメッセージをディスプレイ24に表示させ、各データをオペレータに入力させる等により、予測対象室における放射面積S、吸音力A、音響放射係数kを認識する。そしてステップ160では、ステップ156で各オクターブバンド毎に求めた振動の加速度レベル推定値Lr、ステップ158で認識した予測対象室における放射面積S、吸音力A、音響放射係数kに基づき、予測対象室における騒音の音圧レベル推定値SPLrを(2)式に従い各オクターブバンド毎に推定演算する。
【0066】
上述したように、本実施形態に係る実音体験処理では、本発明が適用された加振力推定処理によって求められた建設機械の加振力推定値P0を用いて予測対象室における振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを各オクターブバンド毎に推定しているので、特定の建設機械を使用して建築物内の特定の施工箇所の施工を行った場合に予測対象室に生ずる振動及び騒音を高精度に予測することができる。
【0067】
なお、上述したステップ150〜ステップ160は、請求項4に記載の振動・騒音推定方法のうち、加振力を推定するステップ以外のステップに対応していると共に、請求項5に記載の推定手段に対応しており、更に請求項6及び請求項7に記載の所定の処理にも対応している。
【0068】
次のステップ162では、ステップ160で求めた騒音の音圧レベル推定値SPLrと、先のステップ152で建設機械DBから読み出した施工箇所直上の階における音圧レベル実測値SPLsを比較し、両者の差分特性(各オクターブバンド毎の差分)に応じた差分フィルタを作成する。ステップ164では、ステップ152で取り込んだ音圧波形データと、ステップ162で作成した差分フィルタとの畳み込み演算を行い、畳み込み演算後の音圧波形データを記憶する。
【0069】
差分フィルタの作成に用いた音圧レベル実測値SPLsは、施工箇所直上の階における騒音の音圧レベル、すなわち音圧波形データが表す騒音の音圧レベルを表しているので、騒音の音圧レベル推定値SPLrと前記音圧レベル実測値SPLsの差分に応じて作成した差分フィルタを用いてステップ164の畳み込み演算を行うことにより、音圧波形データが表す騒音の音圧レベルが、騒音の音圧レベル推定値SPLrが表す音圧レベルに全オクターブバンドに亘って一致するように、音圧波形データが補正されることになる。なお、上述したステップ162,164は請求項8に記載の加工手段に対応している。
【0070】
次のステップ166では、ピンクノイズに相当する所定振幅の信号をオーディオI/F34へ出力することで、イコライザ36、パワーアンプ38を介してスピーカ40からピンクノイズを放射させる。次のステップ168では、オペレータによるイコライザの調整が完了したか否か判定し、判定が肯定される迄待機する。
【0071】
この間、オペレータはオクターブバンドを単位として騒音を計測する機能を備えた騒音計42(図6参照)を用い、スピーカ40が設置された部屋(施工時に発生する騒音を体験者に体感させるための部屋)内のスピーカ40から予め定められた一定距離隔てた位置において、スピーカ40から放射されたピンクノイズの音量を各オクターブバンド毎に計測する。そして、騒音計42によって計測された各オクターブバンド毎のピンクノイズが、各々所定の音量に一致するようにイコライザ36を調整する。これにより、前記部屋内の音場及びスピーカ40の周波数特性の補正及び絶対音圧レベルの校正が行われることになる。
【0072】
オペレータによるイコライザ36の調整が完了し、調整が完了したことを表す情報をキーボード28等を介してオペレータが入力すると、ステップ168の判定が肯定されてステップ170へ移行し、ステップ164の畳み込み演算を経た音圧波形データをオーディオI/F34へ出力することで、前記音圧波形データが表す騒音を、イコライザ36、パワーアンプ38を介してスピーカ40から放射させる。
【0073】
これにより、スピーカ40が設置された部屋に入室した体験者は、シミュレーション対象の建設機械を使用して建築物内の特定の施工箇所で施工を行った場合に前記建築物内の予測対象室に生ずる騒音を、事前に精度良く体感することができる。そして、例えば予測対象室が、建設工事期間中も継続利用を予定している区域に含まれる部屋であり、体感した騒音が想像していた以上に大きかった等の場合には、建設工事期間中も継続利用可能とする区域を変更・制限したり、建設工事で使用する建設機械を、より低騒音の建設機械に代える等の対策を講ずることができる。
【0074】
また、本実施形態に係る騒音体感システム10は、シミュレーション対象の建設機械のデータ(加振力推定値P0、音圧波形データ及び音圧レベル実測値SPLs)が建設機械DBに登録されていれば、距離r、放射面積S、吸音力A、音響放射係数kを入力・設定することで、前記シミュレーション対象の建設機械を使用したときに任意の建築物における任意の部屋に発生する騒音のシミュレーションを行うことができる。また、建設機械DBにデータが登録されていない建設機械についても、先に説明した加振力推定処理を行うことで建設機械DBにデータを登録させることができる。
【0075】
更に、本実施形態に係る騒音体感システム10は、騒音体感処理のステップ156で推定した振動の加速度レベル推定値Lrも、ディスプレイ24等に表示させる等によって出力している。特に医療機器やその他の精密機械が設置されている部屋については、建設機械の使用に伴って発生する振動が精密機械に悪影響を与える可能性があるが、上記のように振動の加速度レベルを出力することで、建設機械の使用に伴う精密機械への影響の有無を正確に判断することができる。
【0076】
なお、(1)式及び(3)式における定数αは建築物によって調整することが望ましい。例えば建築物の階高が2.7〜3m程度の場合には、一例として定数α≒0.03程度の値を用いることができるが、本発明を適用する建築物の階高が上記範囲から外れている場合には、前記建築物の階高に応じて定数αの値を増減させることが好ましい。これにより、(1)式及び(3)式に基づく騒音の加速度レベルの推定精度が更に向上する。
【0077】
また、上記では騒音体感処理において、建設機械の使用に伴って発生する騒音のみを体感させる場合を説明したが、これに限定されるものではなく、建設機械の使用に伴って発生する振動も体感させるようにしてもよい。
【0078】
更に、上記では本発明に係る記録媒体としてCD−ROM46を例に説明したが、これに限定されるものではなく、フロッピーディスクやMO、zip、DVD等の他の情報記憶媒体を本発明に係る記録媒体として用いても良いことは言うまでもない。
【0079】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1記載の発明は、所定の建設機械を用いたときの特定箇所での振動の加速度レベルを、所定の建設機械の加振力を仮定して推定し、特定箇所での騒音の音圧レベルを推定すると共に、所定の建設機械を用いたときの、特定箇所での振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを実測し、振動の加速度レベルの推定値と実測値との差、及び騒音の音圧レベルの推定値と実測値との差に基づいて、所定の建設機械の加振力の仮定値を補正するので、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内に発生する振動及び騒音を精度良く推定することが可能になる、という優れた効果を有する。
【0080】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを推定すると共に実測し、推定値と実測値との差に基づいて加振力の仮定値を補正することを、所定の周波数幅を単位とする複数の周波数帯域について各々行うので、上記効果に加え、建設機械の加振力を広い周波数帯域に亘ってより高精度に推定することができ、建設機械の使用に伴って建築物内に発生する振動及び騒音を広い周波数帯域に亘ってより高精度に推定することが可能となる、という効果を有する。
【0081】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを推定すると共に実測することを、加振点からの距離が互いに異なる複数箇所について各々行うと共に、複数箇所における振動の加速度レベルの推定値と実測値との差のエネルギー平均値、複数箇所における騒音の音圧レベルの推定値と実測値との差のエネルギー平均値を各々演算し、両者のエネルギー平均値により加振力の仮定値を補正するので、上記効果に加え、振動及び騒音の推定対象箇所と加振点との距離に拘らず、発生する振動及び騒音を精度良く推定できるように、建設機械の加振力を推定することができる、という効果を有する。
【0082】
請求項4及び請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の加振力推定方法を適用して所定の建設機械の加振力を推定し、施工対象の建築物に対し前記所定の建設機械を用いたときの建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを、推定した所定の建設機械の加振力に基づいて推定し、特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて特定箇所での騒音の音圧レベルを推定するので、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内の特定箇所に発生する振動及び騒音を精度良く推定することができる、という優れた効果を有する。
【0083】
請求項6及び請求項7記載の発明に係るプログラムは、振動及び騒音の推定対象の建設機械の加振力を記憶手段から読み出す第1のステップ、施工対象の建築物に対し推定対象の建設機械を用いたときの特定箇所での振動の加速度レベルを、読み出した推定対象の建設機械の加振力に基づいて推定する第2のステップ、特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて特定箇所での騒音の音圧レベルを推定する第3のステップを含む所定の処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであるので、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内の特定箇所に発生する振動及び騒音を精度良く推定することができる、という優れた効果を有する。
【0084】
請求項8記載の発明は、請求項5記載の振動・騒音推定装置の推定手段によって推定された特定箇所での騒音の音圧レベルに基づいて、所定の建設機械の使用時に発生する騒音を録音することで得られた騒音データを、特定箇所での騒音を表す騒音データに加工し、加工後の騒音データを実音として再生するので、建設機械の使用に伴い固体伝播によって建築物内に発生する騒音を事前に精度良く体感することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本願発明者等が実施した実験において、振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルの測定に用いた建築物及び測定個所を示すモデル図である。
【図2】 図1の建築物における振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルの実測結果を示す線図である。
【図3】 図1の建築物における振動の加速度レベルの予測値を実測値と対照させて示す線図である。
【図4】 本願発明者等が実施した実験において、加振力の推定精度の検証を目的として、振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルの測定に用いた建築物及び測定個所を示すモデル図である。
【図5】 図4の建築物における振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルの予測値を実測値と対照させて示す線図である。
【図6】 本実施形態に係る騒音体感システムの概略構成図である。
【図7】 加振力推定処理の内容を示すフローチャートである。
【図8】 騒音体感処理の内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
10 騒音体感システム
12 振動ピックアップ
14 騒音計
18 データレコーダ
20 周波数分析器
22 PC
30 HDD
32 CD−ROMドライブ
36 イコライザ
40 スピーカ
42 騒音計
46 CD−ROM

Claims (8)

  1. 所定の建設機械を用いて既存の建築物に対する建設工事を実施したときの前記建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを、前記所定の建設機械の加振力を仮定して推定し、前記特定箇所での騒音の音圧レベルを推定すると共に、
    前記所定の建設機械を用いて前記建築物に対して建設工事を実施したときの、前記特定箇所での振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを実測し、
    振動の加速度レベルの推定値と実測値との差、及び騒音の音圧レベルの推定値と実測値との差に基づいて、前記所定の建設機械の加振力の仮定値を補正する
    建設機械の加振力推定方法。
  2. 前記振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを推定すると共に実測し、前記推定値と実測値との差に基づいて加振力の仮定値を補正することを、所定の周波数幅を単位とする複数の周波数帯域について各々行うことを特徴とする請求項1記載の建設機械の加振力推定方法。
  3. 前記振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを推定すると共に実測することを、加振点からの距離が互いに異なる複数箇所について各々行うと共に、前記複数箇所における振動の加速度レベルの推定値と実測値との差のエネルギー平均値、及び前記複数箇所における騒音の音圧レベルの推定値と実測値との差のエネルギー平均値を各々演算し、両者のエネルギー平均値を前記建設機械の加振力の仮定値に加算することで、前記加振力の仮定値の補正を行うことを特徴とする請求項1記載の建設機械の加振力推定方法。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の建設機械の加振力推定方法を適用して所定の建設機械の加振力を推定し、施工対象の建築物に対し前記所定の建設機械を用いて建設工事を実施したときの前記施工対象の建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを、前記推定した所定の建設機械の加振力に基づいて推定し、前記特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて、前記特定箇所での騒音の音圧レベルを推定する振動・騒音推定方法。
  5. 請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の建設機械の加振力推定方法を適用して推定された所定の建設機械の加振力を記憶する記憶手段と、
    施工対象の建築物に対し前記所定の建設機械を用いて建設工事を実施したときの前記施工対象の建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを、前記記憶手段に記憶されている所定の建設機械の加振力に基づいて推定し、前記特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて、前記特定箇所での騒音の音圧レベルを推定する推定手段と、
    を含む振動・騒音推定装置。
  6. 請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の建設機械の加振力推定方法を適用して各々推定された複数種の建設機械の加振力を記憶する記憶手段が設けられたコンピュータに所定の処理を実行させるためのプログラムであって、
    前記所定の処理は、
    振動及び騒音の推定対象の建設機械の加振力を前記記憶手段から読み出す第1のステップ、
    施工対象の建築物に対し前記推定対象の建設機械を用いて建設工事を実施したときの前記施工対象の建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを、前記記憶手段から読み出した前記推定対象の建設機械の加振力に基づいて推定する第2のステップ、
    前記特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて、前記特定箇所での騒音の音圧レベルを推定する第3のステップ
    を含むことを特徴とするプログラム。
  7. 請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の建設機械の加振力推定方法を適用して各々推定された複数種の建設機械の加振力を記憶する記憶手段が設けられたコンピュータに所定の処理を実行させるためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、
    前記所定の処理は、
    振動及び騒音の推定対象の建設機械の加振力を前記記憶手段から読み出す第1のステップ、
    施工対象の建築物に対し前記推定対象の建設機械を用いて建設工事を実施したときの前記施工対象の建築物内の特定箇所での振動の加速度レベルを、前記記憶手段から読み出した前記推定対象の建設機械の加振力に基づいて推定する第2のステップ、
    前記特定箇所での振動の加速度レベルの推定結果に基づいて、前記特定箇所での騒音の音圧レベルを推定する第3のステップ
    を含むことを特徴とする記録媒体。
  8. 請求項5記載の振動・騒音推定装置と、
    所定の建設機械の使用時に発生する騒音を録音することで得られた騒音データを記憶する騒音データ記憶手段と、
    前記推定手段によって推定された前記特定箇所での騒音の音圧レベルに基づいて、前記騒音データ記憶手段に記憶されている騒音データを、前記特定箇所での騒音を表す騒音データに加工する加工手段と、
    前記加工手段による加工後の騒音データを実音として再生する再生手段と、
    を含む建設工事の騒音体感装置。
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