JP4546590B2 - 成形性に優れたプレス成形用テーラードブランク材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プレス成形用に用いられる2種以上の素板を組み合わせた異材質テーラードブランク材に関する。
【0002】
更に詳しくは,2種以上の板厚又は同じ板厚で,機械的特性の異なる冷延鋼板、熱延鋼板,表面処理鋼板,ステンレス鋼板,アルミニウム板,アルミニウム合金等を溶接接合した素板(テーラードブランク材又はTB材と呼ぶ)に関して,素材強度の異なる場合にはプレス成形時に低強度素板側で母材破断を生じることがあるが,2種以上の素板の加工硬化特性を最適組み合わせとすることで,破断に至るまでに高強度素板側に加わるひずみ量を増大させ,その結果としてプレス成形性を向上させた異材質テーラードブランク材に関する。
【0003】
【従来の技術】
自動車用プレス部品は,工程簡素化,金型数削減などのため,2種以上の部品を一体成形する技術が広く取り入れられている。しかし,一体成形部品を素板から生産する場合にはスクラップとなる部分が多くなることから,素板歩留まり向上のために同一・同材質の薄板類をレーザー溶接やマッシュシーム溶接,電子ビーム溶接,TIG溶接,アーク溶接などで連続溶接し,一体プレス成形を行う手法が開発された。さらに,最近では衝突安全性の観点から,部品の一部に必要な材料強度や板厚を変えた素板を連続溶接して用いる,異材質テーラードブランク材が多く用いられるようになっている。
【0004】
これら連続溶接により締結されたテーラードブランク材は,先に列記した経済的効果を有するが,連続溶接部分の材質劣化などにより,プレス成形時の成形不良が問題となっている。プレス成形時の破断としては,溶接ビード部と平行に素板が延ばされたとき,材質劣化した溶接ビード部が破断に至る「延性律速モード」と,溶接ビードを挟んで素板が引き延ばされたとき,低強度側の素板の母材破断に至る「応力律速モード」に分けられる。
【0005】
このような事態に対し、例えば特開平7−26346号等の公報にて,高密度エネルギービーム溶接後の成形性に優れた極低炭素鋼板として2.6≦f(C,Si,Mn,P,B)≦12.5を満足する鋼板が発明されている。しかし,このような極低炭素鋼板では昨今の高強度素板の適用では部材に必要な強度を満足できない場合があることと,溶接ビード部の特性向上により「延性律速モード」の破断に対しては効果が認められるが,「応力律速モード」の破断に対しては何ら対策が打てないことが判明した。
【0006】
この点について,応力律速モードの破断時のひずみ分布については従来知見(例えば,池本公一ら,塑性と加工,Vol.32,No.370(1991)1383〜1390)により素板の強度比で2種以上の素板に加わるひずみ比が初等解析で求まることが記されている。即ち,2種類の材料の応力−ひずみ関係式を添字1:高強度材,添字2:低高強度材とすると,σ1=K1ε1 n1,σ2=K2ε2 n2で表せられる。接合部では応力が釣り合っているために σ1t1=σ2t2が成り立つ。よってこれらの式を解くと,低強度材側が破断限界に達したときの高強度材側のひずみ(ε1max)は,TS1,TS2の値から求めると下記(1)で与えられる。
ε1max=n1{(t2/t1)(TS2/TS1)}1/n1・・・・(1)
ここで、σ:引張応力[MPa]
K:塑性係数[MPa]
ε:対数塑性ひずみ
n:加工硬化指数
TS:最大引張強度[MPa]
【0007】
しかし,高強度材側の最大ひずみは計算できても「応力律速モード」での破断を改善する方法については記されていなかった。従ってプレス現場では,異材質テーラードブランク材での「応力律速モード」が生じた場合には,素板強度比を下げるために板厚比を低減するか,強度比を下げざるをえなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来の異材質テーラードブランク材のプレス成形性の欠点を解決し,優れたプレス成形性能を有する異材質テーラードブランク材を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、異材質テーラードブランク材に関するプレス成形不良,とりわけ今まで有効な対策をたてることができなかった「応力律速モード」の破断に対して,素板の加工硬化特性を重視し,低強度材側との強度バランスを改善する事により成形限界の向上を図った。即ち、本発明の要旨とするところは、
(1)引張強さが異なる2種類以上の素板が連続溶接されたテーラードブランク材において,素板が鋼板または表面処理鋼板であり,低引張強さ側鋼板の引張強さが380MPa以上590MPa未満であり、高引張強さ(TS1)側材料の加工硬化特性値(n1)と低引張強さ(TS2)側材料の加工硬化特性値(n2)の比(n1/n2)を1.0以上3.8以下とし、板厚強度比(t1・TS1/t2・TS2)を1.25以上とすることを特徴とする応力律速モードの成形性に優れたプレス成形用テーラードブランク材。
(2)前記(1)に記載のテーラードブランク材の溶接方法が,レーザー溶接法,マッシュシーム溶接法,アーク溶接法,電子ビーム溶接法,TIG溶接法のいずれかであるプレス成形用テーラードブランク材の製造方法。
にある。
【0010】
尚、本発明において、n値は引張伸びλ5=5%からλ10=10%の間の加工硬化特性を表すものとし,5%及び10%伸び時点での引張荷重をP5(N)とP10(N)とすれば,
n(5%〜10%)=[log(P10/P5)+log[(1+λ10/100)/(1+λ5/100)]]/[log[log(1+λ10/100)/log(1+λ5/100)]]
=[log(P10/P5)+0.0202]/0.2908 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
により測定した値と定義する。
【0011】
また、本発明においてテーラードブランク材に用いる素板とは,冷延鋼板、亜鉛などのめっき鋼板,ステンレス鋼板等の薄板もその範囲に含むものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
図3は,低強度材と高強度材を接合した異材質TB材の破断時の荷重−ひずみ関係を示す。低強度材が最大荷重に達したとき,高強度材側は同じ荷重が掛かっているが,このとき高強度材側が低n値材の場合,到達するひずみは低い値になる。一方,高強度材側が高n値材の場合,到達するひずみは高い値になる。このように,高強度素板側のn値を高めることにより,低強度素板が破断するまでに高強度素板の変形が促進され,成形性向上に貢献することが可能である。
【0014】
(1)式を用いて,各強度比における高強度鋼板側のひずみ値を求めると,図1に示した値となる。図1からわかるように,鋼板などが取りうるn値0.15〜0.25では,素板強度・板厚比(t2・TS2/t1・TS1)が0.8(1:1.25)より小さいと高強度鋼板側の塑性ひずみは0.1程度以下となり,ほとんど成形に寄与しないことがわかる。
【0015】
また,高強度素板側に必要な最大塑性ひずみ値(ε1max)は部品により異なるため,高強度素板側に必要なn値(n1)を,素板強度・板厚組合せ毎に(1)式を逆算して求めると図2に示す値となる。
【0016】
図2中の横軸はln(t1・TS1/t2・TS2)で表せられる板厚強度比,縦軸は高強度素板側に必要とされるn値(n1)を低強度鋼板側のn値(n2=0.3と仮定)で割った比である。図2中の各曲線は,部品に必要な高強度素板側の最大塑性ひずみ(ε1max)が同一の場合を現す。例えば、図2より部品に必要とされる高強度素板側最大ひずみ(ε1max)が0.05で,2種類の板厚強度比(t1・TS1/t2・TS2)が2倍の場合(ln2=0.69),高強度素板側に必要なn値の比は(n1/n2)=1.16となる。
【0017】
なお,通常の鋼板製造では,高強度になるとn値は相対的に低下する傾向があるため,上記のように高強度鋼板側のn値比を1以上にするのは困難であるが,残留γ鋼もしくはステンレス鋼などでは高n値材の適用が可能なことから,図2に示すn値比を満たす組み合わせが可能である。
【0018】
また,必要なn値比(n1/n2)の範囲に関しては,板厚強度比(t1・TS1/t2・TS2)が1.2(ln1.2=0.18)以上の場合を想定すると,高強度鋼板側の塑性ひずみは0.2以上が望ましいので,図2より(n1/n2)≧1.1とすることが必要である。しかし,実用的なテーラードブランク材では,高強度材料側のn値が低くなる傾向が強いことから,高強度鋼板側の塑性ひずみを0.1以上確保できるよう加工法を配慮すれば,(n1/n2)≧0.75が望ましい値となる。一方,本発明に用いる素材における最大のn値はステンレス鋼板で0.5程度であり、n値の低い通常の熱延板はn値=0.13程度であるため,(n1/n2)≦0.5/0.13=3.8となる。
【0019】
低引張強さ側鋼板の引張強さが380MPa未満であることを特徴とするプレス成形用テーラードブランク材は上記の理由で0.75≦(n1/n2)≦3.8であるが,低引張強さ側鋼板の引張強さが380MPa以上590MPa未満であるプレス成形用テーラードブランク材の場合は,n2の値が0.15〜0.2程度と低いために,高引張強さ側鋼板の成形性を補うためにn値が2以上と高い複相鋼板や残留γ鋼を用いることが好ましく加工硬化特性値の比(n1/n2)は1.0(=2.0/2.0)以上が適切となる。
【0020】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【0021】
表1には,低強度素板として0.80mm厚の軟質冷延鋼板(A:SPCEN)と高強度鋼板(B:440MPa)を用い,高強度素板として0.80mm厚の各種590MPaハイテン材を示す(C〜F).各鋼種とも5kWCO2レーザーで溶接接合し,A材またはB材とC〜Fを組み合わせたテーラードブランク材を作成した。
【0022】
【表1】
【0023】
図4は成形性を比較するために用いた液圧バルジ試験法を示す。1はダイスで,2はシワ抑え板,3は供試材で4はダイス側から供給される液圧をかけるためのマシン油を示す。
【0024】
図5は液圧バルジ成形試験高さ測定結果で,左から冷延鋼板(A)及び440MPa高強度鋼板(B)一枚板でのバルジ成形高さ,その右からは(A+C),(A+D),(A+E),(A+F),(B+C),(B+D),(B+E),(B+F)の組み合わせによる異材質テーラードブランク材のバルジ成形高さである。これより,高強度鋼板側のn値が高くなるほどバルジ成型高さは高くなっており,低強度素板の引張強さが304MPaの場合、(n1/n2)が0.75を超えると張り出し高さは25mmを超えるようになり,低強度素板の引張強さが459MPaの場合、(n1/n2)が1.0を超えると張り出し高さは20mmを超え、成形性に及ぼす改善性が顕著になっていることがわかる。
【0025】
なお,破断形態は全て低強度素板側で破断する応力律速タイプの破断であった。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば,冷延鋼板、熱延鋼板,亜鉛などのめっき鋼板,ステンレス鋼板等の薄板を素材とする異材質テーラードブランク材に必要なn値比を付与することにより,従来の異材質テーラードブランク材の成形性向上対策では対処できなかった応力律速の破断形態に対しても,有効に作用する異材質テーラードブランク材を提供することが可能である。
【0027】
本発明によるプレス成形性に優れた異材質テーラードブランク材は,深絞りや張出しなどの成形に対してきわめて有効であり,工業的価値の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】異材質テーラードブランク材の高強度素板側に生じる最大塑性ひずみ値を,各素板強度・板厚の組み合わせごとに計算で求めたグラフである。
【図2】成形品に求められる高強度素板側の塑性ひずみ毎に,各板厚強度比の組み合わせの場合に必要な高強度素板と低強度素板のn値比(n1/n2)を示すグラフである。
【図3】高強度素板側のn値を変えた場合に高強度素板側に加わる最大塑性ひずみεmax1の違いを説明し,高n値材を組み合わせた場合の成形性向上機構を説明する図である。
【図4】成形試験に用いた液圧バルジ試験方法の概要説明図である。
【図5】異材質テーラードブランク材を液圧成形試験したときの成形高さの比較を示すグラフである。
【符号の説明】
1 ダイス
2 しわ押さえ板
3 供試材
4 マシン油
Claims (2)
- 引張強さが異なる2種類以上の素板が連続溶接されたテーラードブランク材において,素板が鋼板または表面処理鋼板であり,低引張強さ側鋼板の引張強さが380MPa以上590MPa未満であり、高引張強さ(TS1)側材料の加工硬化特性値(n1)と低引張強さ(TS2)側材料の加工硬化特性値(n2)の比(n1/n2)を1.0以上3.8以下とし、板厚強度比(t1・TS1/t2・TS2)を1.25以上とすることを特徴とする応力律速モードの成形性に優れたプレス成形用テーラードブランク材。
- 請求項1に記載のテーラードブランク材の溶接方法が,レーザー溶接法,マッシュシーム溶接法,アーク溶接法,電子ビーム溶接法,TIG溶接法のいずれかであるプレス成形用テーラードブランク材の製造方法。
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