JP4542239B2 - ガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤの送給性を安定化し、溶接精度、品質を向上しうるガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
例えばMIG溶接は、通常、リールに巻かれた溶接ワイヤを、細長い誘導チューブと、その先端に設けたコンタクタチップ内を通し自動的に送給し、ワイヤと溶接母材との間に発生するアーク熱によって溶融接合する方法であり、前記誘導チューブには、その内部に例えば内径2〜3mm程度の太さに密巻きされたガイド用のコイル線体を具え、またコンタクトチップは、溶接ワイヤの太さに対し0.5mm程度の遊びを与える内孔を有して溶接ワイヤを軽く、しかも常に接触して導電しつつワイヤを送り出す。
【0003】
他方、溶接材料として、特開昭55−147498号公報、特開昭4−41099号公報が提案した、溶接ワイヤの表面に銅メッキを施すことにより、通電性、アークスタート性を向上し、併せてワイヤ送給性を高めることによってブローホール、スパッタリングを抑制する溶接ワイヤが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしこれらの提案の溶接ワイヤは、表面の前記銅メッキ層が軟質であるため延展性には優れるが、前記コイル線体、コンタクトチップなどの金属部材と常に接触する場合には、銅が容易に摩耗・摩滅し、あるいはその一部が剥離片となってチューブ内に堆積して、目詰まりを起こす原因となっている。これは、例えば「金属の潤滑摩耗とその対策」(小川喜代一 著、昭和52年、(株)養賢堂、40頁)では、硬いものほど耐摩耗性に優れると記載されている所からも、軟質な銅では耐摩耗性が実質的に不足しているといえる。
【0005】
しかも、MIG溶接において、走行する溶接ワイヤの表面と、誘導チューブ、コンタクトチップなどとの接触は常に一定ではなく、ワイヤ送出し状態において変化するため、こうした接触状態の変動は、溶接ワイヤの送給性を不安定にするとともに、発生アーク不良となってスパッタリング、ブローホールなどの原因になる他、溶接ビードのバラツキ要因ともなっている。
【0006】
本発明は、ワイヤの送給性を高めることにより、発生アーク不良を減じ、さらにスパッタリングや溶接ビードのバラツキを減じうるガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤの提供を目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、ステンレス鋼からなる芯線の表面を、表面硬度がHv硬度300〜500かつ厚さが0.2〜4μmのニッケルめっきで覆うとともに、この被覆線の自由拡がり径を350〜800mmの範囲としたことを特徴とするガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤである。
【0008】
又芯線をCrを10〜20wt%を含むフェライト系またはマルテンサイト系のステンレス鋼とすることも、前記被覆線の表面に、鉱物性の表面潤滑剤を、単位面積(m2 )当たり1.5g以下で担持させることもできる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に係わるガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤ(単に溶接ワイヤともいう)1は、図1に示すようにステンレス鋼でなる芯線2の表面に所定の特性を持つニッケルめっきを施してメッキ層3を形成した被覆線4からなり、さらにその表面には表面潤滑剤5を付着させることもできる。
【0010】
前記芯線2のステンレス鋼としては、例えばY308、Y316などに代表されるオーステナイト系をはじめ、マルテンサイト系やフェライト系など種々のステンレス鋼が用いられるが、特に最近では、自動車用業界において高温領域部の部材溶接用として、Crを10〜20%含み熱疲労特性や耐酸化特性に優れたフェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼ワイヤが多用されるが、これら種類のステンレス鋼の溶接にも有効に使用できる。
【0011】
すなわち、前記フェライト系やマルテンサイト系などのステンレス鋼は、オーステナイト系に比して冷間加工における加工硬化が小さく、またすべり抵抗においても十分なものとは言えない。こうした問題を解決するものとして、本発明では加工硬化能と潤滑性にすぐれた特性を示す金属として、ニッケルを選定し、さらにその表面硬度とメッキ厚さとをそれぞれ所定範囲にすることで、溶接ワイヤにおける送給性を高めることを要件の一つとしている。
【0012】
またメッキ層3をなすニッケルは、ステンレス鋼における組織安定性、耐食性を高める基本組成となるものであり、しかもその厚さについても、溶接後の母材品質に影響を及ぼさない0.2〜4μmとしている。
【0013】
メッキ厚さを前記範囲に限定する理由として、その厚さが0.2μm未満と薄く形成した場合には、部分的に芯材1が露出して潤滑性が損なわれて送給不安定となり、摩擦抵抗も大きくなる危険性がある。一方、4μmを越える程厚くすることはコストアップとなるばかりでなく、めっき剥離などを招く原因ともなりやすい。こうした観点から、より好ましくは該被覆線4の線径(d)×(0.5〜2)/1000mmの厚さとするのがよい。
【0014】
また本発明では、メッキ金属としてニッケルを選定しているが、ニッケルめっきは、これまでにも例えばバネやねじなど種々成形品に加工する際の潤滑皮膜として使用されてきた潤滑性にすぐれた金属であり、しかもその表面硬さについても、実施するメッキの方式やその後の冷間加工の程度などによって、任意に調整することができるという利点がある。
【0015】
例えば、従来から広く行われてきたワット浴によるニッケルめっきでは、Hv120〜180程度のめっき硬さであるのに対し、種々添加剤を加えた硬質めっきではHv300以上となり、またスルファミンサン浴によるめっきではHv約250〜350となるなど、めっき方式によって得られる硬さは大きく異なってくる。
【0016】
さらに加えて、ニッケルはめっき後の冷間伸線加工によって大きな加工硬化特性を示すという特徴もあり、前記メッキ方式との組み合わせによってその表面硬度は種々調整することができる。したがって、本願発明の範囲であるHv300〜500の特性にすることについても十分達成可能なものであり、この点において、本発明は従来の銅メッキに比して有意であると言える。
【0017】
図2は、ニッケルと銅との加工硬化特性を説明する為に比較したものであり、加工率(横軸)とそれに伴う硬度(縦軸)との関係を示している。ニッケルの加工硬化特性は、銅をはるかに越える大きいものであり、例えば加工度が40%を越える領域での硬度上昇率は、ほとんど低下することなく同様の上昇率で変化している。
【0018】
このようにニッケルめっきは、すぐれた潤滑性とともに、加工方法等の設定によってより大きな表面硬度を持たせることができ、したがって、本発明を、前記したCrを10〜20wt%含むフェライト系やマルテンサイト系のステンレス鋼などのように加工硬化特性の低い芯線に対して適用しようとする場合にあっては、該メッキ層の硬度を芯線の硬度以上にすることも可能であり、その分、溶接ワイヤとしての送給安定性を高め、またスパッタリングやブローホールなどの発生を抑制できるという点で優れるものである。
【0019】
なお本発明において“表面硬さ”とは、めっき被覆された被覆線4の表面をその軸芯に向かって微小硬度計(荷重1g)で測定した時の硬さであり、この値を前記範囲(HV300〜500)にすることによって、メッキ層の摩滅や剥離などを防ぎ、送給抵抗を減じる作用を持たせている。
【0020】
すなわち、表面硬さがHv300未満の軟質メッキ層で形成した溶接ワイヤにあっては、従来の銅の場合と同様にワイヤ送給に伴う誘導チューブやチップなどとの接触による摩耗や目詰まりを起こしやすく、一方、Hv500を越える程大きくしたワイヤにあっては、めっき層剥離などの問題が起こりやすくなることに基づく。
【0021】
ところで溶接ワイヤは通常、巻回したリールから供給ロールによって一定速度で送り出されるが、この際の送り出しによって線自身が座屈したり、あるいは小曲がりなどの変形が起こらないよう十分な剛性を与える必要があり、その為に溶接ワイヤは前記めっき処理後、例えば加工率30%以上での冷間伸線によって必要となる機会的特性と所定の巻径になるよう巻き取られる。
【0022】
また本発明では、溶接に際しての摩耗抵抗をより減少させ、かつ十分な導電性を確保する為には、前記ニッケルめっきの選定とともに、さらに該被覆線の自由拡がり径を350〜800mmとしている。
【0023】
この自由拡がり径とは、スプールに巻かれた溶接ワイヤから一巻き分を切り出して、これを床面に放置した時のワイヤ拡がり直径を意味しており、ワイヤがスプールに巻かれている径は問わない。この値が350mmを下回るようなワイヤにあっては蛇行する前記チューブ内を走行する際の内壁面との接触抵抗が大きくなって送給抵抗が大きくなり、逆に800mmを越える程大きくしたものでは、その拡がり力によってリールセット時に線がバラケて以後の溶接作業を困難にする他、先端コンタクトチップ部での通電不良の原因となることによる。
【0024】
また本発明では、ニッケルめっきされた前記被覆線の表面にさらに潤滑剤を担持させることも好ましく、前記ニッケルとの相互潤滑効果を得ることができる。
【0025】
その為の潤滑剤としては、例えばステアリン酸カリウムなどの鉱物油やノニオライト(商品名)などの植物油(ヤシ油)などが好適する。なおこの場合、多量の潤滑剤を形成させると、前記説明したのと同様にチューブ内にその一部が残留しやすくなって目詰まりの原因となり、好ましくは多くとも1.5g/m2 以下とするのがよい。
以下本発明の実施例について説明する。
【0026】
【実施例】
(実施例品)
芯線として表1に示すフェライト系ステンレス鋼線にニッケルめっき処理し、冷間連続伸線によって0.9mmの被覆線とした、この線のニッケルめっき厚さは0.8μmであった。つぎに、この線を外径250mm、幅100mmの溶接リールに整列巻きし、自由拡がり径670mmを持つ実施ワイヤを得た。
【0027】
【表1】
【0028】
(比較例品)
表1に併記する比較例品1は実施品と同一材料のステンレス鋼を用いているがめっきを被覆していないもの、比較例品2は銅めっきを施したものである。
【0029】
(溶接試験の方法)
溶接試験は、前記各ワイヤについて表2に記載する溶接条件により、かつ溶接母材としては、板厚1.5mm×幅50mm長さ250mmのSUS430板を用いている。
【0030】
【表2】
【0031】
試験項目は、次の3項目とし、その結果を表3に示す。
▲1▼ スパッタ:溶接後の母材表面に付着した発生スパッタ数を目視で計数。
▲2▼ なじみ角度:溶接部断面における溶融なじみ角度(図3に示す盛り上がり部の接線角度α1、α2)を測定。
▲3▼ ビート状態:溶接長さ100mm当たりのビート寸法のバラツキ。
【0032】
【表3】
【0033】
【発明の効果】
このように、ガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤは、ステンレス鋼の芯線表面にニッケルをめっきすることにより、溶接ワイヤにおける供給性を高めることで、スパッタ発生を抑えるとともに、なじみ角度も小さくビードの均一したきれいな溶接部を得ることができる。
【0034】
又、Crを10〜20wt%とすることにより、ステンレス鋼成分に近づけなじみ性を高めるとともに、表面潤滑剤を用いることにより、さらに送給性を向上し、ビード品質を高めうる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤの一例を示す断面図である。
【図2】銅、ニッケルの加工硬化を例示する線図である。
【図3】なじみ角度を説明する断面図である。
【符号の説明】
1 ガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤ
2 芯線
3 メッキ層
4 被覆線
5 表面潤滑剤
Claims (3)
- ステンレス鋼からなる芯線の表面を、表面硬度がHv硬度300〜500かつ厚さが0.2〜4μmのニッケルめっきで覆うとともに、その被覆線の自由拡がり径を350〜800mmの範囲としたことを特徴とするガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤ。
- 前記芯線は、Crを10〜20wt%含むフェライト系またはマルテンサイト系のステンレス鋼である請求項1記載のガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤ。
- 前記被覆線の表面に、鉱物性の表面潤滑剤を、単位面積(m2 )当たり1.5g以下で担持させたことを特徴とする請求項1又は2記載のガス被包アーク溶接用のステンレス鋼ワイヤ。
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