JP4540133B2 - 抗AIDSウイルス活性を有する新規リン酸化β−グルカン及びそれを含むレトロウイルス感染症治療用薬剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はレトロウイルス等に起因する感染症(特に後天性免疫症候群)及び人免疫不全ウイルス(HIV)に起因する後天性免疫不全症候群(Acquired Immune deficiency Syndrome:AIDS)の新規治療薬剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、我々が直面している難病の一つであるAIDSはレトロウイルスに属しているヒト免疫不全ウイルス(HIV)に起因する事が解明されている。
【0003】
WHO(世界保健機構)によると、1992年末の時点においてHIV感染者は1000万人であり、AIDSウイルス感染患者は61万人である。また、我が国においても、1992年の時点でHIV感染者が2601人確認されており、その内発症にいたらないが、AIDSウイルスの感染者数は554人となっている。しかし、AIDSの治療法は全く不明であり、また、本症ウイルスとして現在HIV−1とHIV−2型の2例が発見されているが、このウイルスが極端に変異しやすいことによりワクチン開発,治療薬の開発の実現は非常に困難である。そこで抗HIV剤によるAIDSの効果的な治療および予防が要求されている状況である。
【0004】
抗HIV剤として実用化されている薬剤には、AZT(アジトチミジン)がある(Nature 326,430,1987)。これはHIVの逆転写酵素の阻害効果に基づく抗HIV剤であるが、この薬剤は治療に際し生体に強い副作用を示し、患者の造血機能を阻害し、多くの患者に極度の貧血作用を発症させることが知られている。
【0005】
また澱粉やデキストラン等のα−グリコシド結合を有する多糖体は生理活性能が分子量に依存するが、体内酵素によって分解される活性が低下する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は抗エイズウイルス活性を有し、体内酵素によって分解されにくい新規リン酸化グルカンを得ることである。
【0007】
本発明の別の目的は副作用が著しく減少しかつ体内酵素によって分解されにくい、レトロウイルス感染症用薬剤を得ることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討した結果、舞茸に含まれ、体内酵素によって分解されにくいβ−1,3グルカン及びβ−1,6グルカンのリン酸化物は強い抗エイズウイルス活性を有し、しかもその副作用は著しく少ないことを知見し、本願発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は担子菌属類の舞茸の菌糸体及び/又は子実体から抽出したβ−1,6結合の分岐鎖を有するβ−1,3グルカン及び/又はβ−1,3結合の分岐鎖を有するβ−1,6グルカンのリン酸化物、及びこれを含むレトロウイルス感染症用薬剤である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のグルカンリン酸化物は、舞茸から例えば熱水により抽出したグルカンをリン酸化することによって得ることができる。リン酸化する前に、グルカン抽出物を更に精製(例えば、遠心分離、沈殿化、酸処理、アルカリ処理、ゲル濾過、カラム吸着処理、透析等)することが好ましい。
【0011】
リン酸化は、リン酸塩を用いて行なうことができる。本発明のグルカンリン酸化物においては、舞茸から抽出したグルカンの水酸基のうち5%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは15%以上がリン酸化されている。
【0012】
本発明のグルカンリン酸化物はβ−1,6結合を主鎖として有し、更に高頻度のβ−1,3分枝鎖を有するグルカン及びβ−1,3結合を主鎖として有し、更に高頻度のβ−1,6分岐鎖を有するグルカンのリン酸化物である。このグルカンリン酸化物の分子量は16〜25万、好ましくは18〜23万、更に好ましくは20〜22万である。
【0013】
本発明のグルカンリン酸化物はせいぜい1重量%の蛋白質を含むこと又は蛋白質を全く含まないことが好ましい。舞茸の熱水抽出物中のグルカンには例えば20〜25%の蛋白質が含まれており、この蛋白質は、例えばゲル濾過、カラム吸着処理、透析等により除去することができる。
【0014】
本発明のグルカンリン酸化物は、ヒトT細胞由来株(MT−4)を用いた試験管内における抗HIV活性試験により、HIVの増殖を完全に抑制することが分かった。最小有効濃度は16μg/mlであり、従来最も有効であるといわれている硫酸デキストランの最小有効濃度と同等であると判断できる。リン酸化前の舞茸グルカンの最小有効濃度が125μg/mlであるから、リン酸化による活性の増大は格別顕著である。
【0015】
本発明のグルカンリン酸化物は、実施例に示すように、HIV−1に対して抗ウイルス活性を示すが、HIV−2に対しても同様の活性を有している。
【0016】
舞茸グルカンの非リン酸化物がヘルパーT細胞(T4細胞)の活性を賦活化することが分っていることから、本発明のグルカンリン酸化物はHIVによるT4細胞の変性を著しく軽減することにより、抗HIV作用を示すと考えられる。
【0017】
本発明のレトロウイルス感染症用薬剤は、上記のグルカンリン酸化物を活性物質として含む。本発明の薬剤は活性物質の他に、製薬上許容可能な希釈剤、賦形剤等の慣用的な添加剤を含み得る。添加剤としては水、溶剤、デンプン、乳糖、油脂類等があげられる。
【0018】
本発明の薬剤は経口、非経口、局所投与等の任意のルートで投与が可能であるが、静脈投与が好ましい。
【0019】
本発明の薬剤は溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、粉末、カプセル等の任意の形態とし得るが、液状形態が好ましい。
【0020】
本発明の薬剤は、活性物質量として、1日当り体積1kg当り25〜400mg、好ましくは50〜200mg投与するが、この値は患者の年齢、性別、症状等によって変化し得る。
【0021】
本発明の薬剤はレトロウイルス(特にHIVウイルス)に起因する感染症(特にAIDS)の治療及び発症の抑制に効果的に使用し得る。
【0022】
本発明の薬剤は製薬上問題となるような急性毒性は有していない。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
【0024】
舞茸グルカンの抽出及び精製
舞茸の子実体あるいは菌糸体を粉砕し200〜500gの乾燥粉末を得た後、これに2L〜5Lの蒸留水を加え、100℃で5〜7時間の煮沸熱水抽出、あるいは1.2気圧で1時間加熱処理し、冷却後遠心分離法、または濾過法によって得た澄液に等量のアルコールを加え、4℃、18〜24時間インキュベーションした後、9〜25gの沈殿物を得た。これを30%及び50%の酢酸で処理し、酸可溶物を除去し2〜5gの酸不溶物を得た。これに5〜7%のNaOHを加えアルカリ可溶物を収集し、これに4倍の純アルコールを加えて沈殿物を得た。
【0025】
この沈殿物にクロロホルム−アルコール混合液(2:1)を加え、蛋白質を除去した後アルコールを4倍量加え混和後、4℃で18〜24時間インキュベーションし、遠心分離法により約0.7g〜1.7gの沈殿物を得た。
【0026】
得られた物質は、冷水に難溶な淡褐色粉末でアンスロン反応は陽性であり、Lowry法により20〜25%の蛋白質が検出され、プロテオグルカンであることが確認された。この蛋白質をまず、Sepharose:CL−4B,2.5×45cmカラムを用いてゲル濾過し、分子量200×104 の高分子糖蛋白質を得た。つぎに、この物質をDEAE−Sepharose:CL−6B,2.0×4.5cmカラムに吸着させ、pH7.2の1/15Mリン酸緩衝液で溶出された物質を得、この物質をSepharose透析チューブを用いて4℃蒸留水に対して透析(18〜24時間)し、つぎにセファデックスG−25:3×37cmカラムで脱塩を実施した。これを蒸発乾固させ、淡褐色無定形粉末状の物質を得た。この物質は、0.5〜0.7%の蛋白質を含む多糖体であった。
【0027】
ついで、得られた多糖体の化学構造を明らかにした。
【0028】
即ち、前記物質1mgを計り、5%塩酸メタノール1mlに溶解し、100℃で5〜7時間封管分解する。その後、分解物にトルエン−エタノール(1:1)混合液を添加して減圧下で蒸発乾固する。これにトリメチル珪素化剤を添加して65〜75℃で5〜15分間インキュベーションし、ついでSE20(シリコンゴムGE)を充填剤とするガスクロマトグラフィー分析で分析したところ、グルコースのみが検出された。さらに、この物質をエクソ−β−1,3−グルカナーゼをpH5.0でマッキュルビン緩衝液の下でインキュベートしたところ、48時間後に構成グルコース残基の40〜50%が遊離した。これらの結果から、この物質はβ−1,3結合を有するグルカンであることが確認された。
【0029】
さらに、確認された物質を箱守法により完全メチル化した後、この完全メチル化物を5%塩酸メタノールによってメタノリシスした。これをネオペンチルグリコールサクシネートを充填剤とするガスクロマトグラフィーにて分析したところ、β−1,3結合に由来する2,4,6−トリ−0−メチル、β−1,6結合に由来する2,3,6−トリ−0−メチル、1,3,4結合に由来する2,4−ダイ−0−メチル及び非還元末端に由来する2,3,4,6−テトラ−0−メチルグルコース誘導体の存在が確認された。このことから、舞茸子実体を煮沸熱水抽出して得られた物質は、β−1,6結合を主鎖とし、これに高頻度のβ−1,3分枝鎖を有する化学的構成よりなる多糖蛋白質及びβ−1,6分枝鎖をもつβ−1,3多糖蛋白質から構成されるものと断定した。さらにリン酸化β−グルカンの分子量はManers法(Et Al. 1971)の改変法を用いて測定したところ約20万であった。
【0030】
リン酸化
β−グルカンのリン酸化はリン酸一ナトリウム・2H2 O 0.6gとリン酸二ナトリウム・12H2 O 0.8gを蒸留水1mlに溶解したものに凍結乾燥後のβ−グルカンを1gを加え、混和後60分間撹拌して行なった。ついで濾過後24時間減圧乾燥し粉砕し、155℃で2時間インキュベートした。その後MeOH/H2 O=1/1(Wt)で洗浄した。洗浄後濾過し24時間減圧乾燥した。得られたリン酸化グルカンは水酸基の20%がリン酸化されていた。
【0031】
リン酸化β−グルカンの抗血液凝固作用
リン酸化β−グルカンの抗血液凝固作用の有無を検討するために、血漿中活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の測定を行った。
【0032】
方法:使用動物は体重3.5〜3.9Kgの日本白色在来種の雄性兎であった。兎耳静脈をメスで切り、3.8%クエン酸ナトリウム溶液1容に対し血液9容となるように採血し、3000rpm で10分間遠心分離し、その上清の血漿を分離して測定まで氷中に保存した。血漿90μl、被検薬物(また対照薬物)10μl、及びActine100μlを加え37℃で2分間インキュベートした。インキュベート後、0.025M塩化カルシウム100μlを加え、同時に凝固時間の測定を開始した。
【0033】
薬物:被検薬物のβ−グルカン及びβ−グルカンリン酸化物は、0.3%DMSOに溶解し、硫酸デキストラン(DS 500)は蒸留水に溶解した。
【0034】
リン酸化β−グルカンはAPTTを延長させなかった。即ち、リン酸化β−グルカンは抗血液凝固作用は無いと判断できる。
【0035】
硫酸デキストランは濃度依存的にAPTTを延長させ、APTTを2倍延長させる濃度は、5.4μg/mlであった。即ち、硫酸デキストランは抗血液凝固作用があると判断できる。
【0036】
抗凝固作用を再度確認のため追試を実施した。追試には更に硫酸化β−グルカンを加えて試み、リン酸化β−グルカンの濃度を高濃度にして試験を実施した。
【0037】
リン酸化β−グルカンは高濃度においても抗血液凝固作用は見られなかった。
対照薬である硫酸化β−グルカンと硫酸デキストランは濃度依存的にAPTTを延長させ、APTTを2倍延長させる濃度は、それぞれ28.8μg/mlと6.4μg/mlであった。
【0038】
以上の結果より、現在HIV患者に有用であると言われている硫酸デキストランよりもリン酸化β−グルカンの方がHIV患者には有用であることが示唆された。
【0039】
抗HIV活性の測定(ウイルスによる細胞変性抑制活性の試験)
国立予防衛生研究所エイズセンターエイズウイルス室で実施されている方法を用いた。
【0040】
即ち、1次スクーリングとしてMT−4細胞のHIV感染による細胞障害性の抑制を指標にしたマイクロプレート法を用い、ここで活性が認められた試料に関しては更に他の方法により抗HIV活性の確認及び作用メカニズムの解析を行った。
【0041】
マイクロプレート法
HIV−1(HTLV−III BStrain)及びHIV−2(HIV「GH−1」)に対して高い感受性を持つMT−4細胞(CD4抗原陽性・HTLV−1陽性細胞)は感染後3〜5日間でCPEが出現し、ほとんどの細胞が死滅する。
【0042】
顕微鏡下でCPEを判定し、添加した試料によってこのCPEの発現を抑制するかどうかを調べ、1次スクリーニングとした。
【0043】
即ち、丸底96ウエルマイクロプレート(Nunc)の左端8ウェルに所定の希釈した試料溶液200mlを加えた。試料の希釈は10%Fcs添加RPMI1640培地で行った。残りのウエルには培地を100mlづつ入れておき、8連ピペットで左端のウェルから100mlを取り右隣のウェルに移しよく撹拌した。これを繰り返し試料の2倍段階希釈(100ml/ウェル12段階)とした。
【0044】
次に対数増殖期にあるMT−4細胞をプレート1枚あたり600万個遠心分離にて集め、極く少量の培地に懸濁した。
【0045】
この細胞浮遊液に遠心管内で100TCID 50/mlとなるようにHIVを加え37℃で1時間吸着させた。
【0046】
HIVは持続感染Molt−4/HIV細胞の培養上清を22μmのミリポアフイルターで濾過し−80℃で保存したもので、予めMT−4細胞にたいする感染価を決定していたものを用いた。
【0047】
37℃で1時間吸着後プレート1枚あたり10mlの培地を加え100μl/ウェルを試料希釈液に添加した。この時の細胞濃度は30万個/mlに設定した。
【0048】
非感染細胞と試料無添加感染細胞を対照としておき、5%CO2 存在下、37℃で培養した。
【0049】
HIV感染後3日目に検鏡で試料による細胞毒性を調べると共に感染時と同じ試料の2倍段階希釈のプレートを用意し、3日間培養したプレートから1/3〜1/5の細胞を取り出し移し替えた。感染後6日目に判定を行った。
【0050】
判定は検鏡によりHIV感染によるCPEの発現の有無を観察した。試料が細胞毒性を示さない濃度でHIV感染によるCPEの発現を抑制した場合に効果が認められるものとした。
【0051】
【0052】
【表1】
【0053】
【発明の効果】
舞茸由来リン酸化β−プロテオグルカン(リン酸化β−glucanともいう)は強い抗HIV活性を示した。培養後ウイルスによる細胞毒性の有無を確認した結果、対照群ではウイルスによる細胞変性が認められたが、リン酸化β−グルカン31〜63μg/mlという少量を添加した場合においてもウイルスによる細胞変性が認められなかった。
【0054】
本発明のグルカンリン酸化物はウイルスによる細胞変性の抑制活性即ち抗HIV活性が著しく高い。
Claims (3)
- 担子菌属類の舞茸の菌糸体及び/又は子実体から抽出したβ−1,6結合の分岐鎖を有するβ−1,3グルカン及びβ−1,3結合の分岐鎖を有するβ−1,6グルカンのリン酸化物を含むレトロウイルス感染症用薬剤。
- グルカンの水酸基の5%以上がリン酸化されている請求項1に記載の薬剤。
- グルカンが蛋白質を1%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の薬剤。
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JP13536196A JP4540133B2 (ja) | 1996-05-29 | 1996-05-29 | 抗AIDSウイルス活性を有する新規リン酸化β−グルカン及びそれを含むレトロウイルス感染症治療用薬剤 |
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JP13536196A JP4540133B2 (ja) | 1996-05-29 | 1996-05-29 | 抗AIDSウイルス活性を有する新規リン酸化β−グルカン及びそれを含むレトロウイルス感染症治療用薬剤 |
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