JP4538645B2 - トリプトファン含有ダイズ、およびその利用 - Google Patents

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Description

本発明は、トリプトファン含有ダイズ、およびその利用に関するものであり、特にイネ改変型アントラニル酸合成酵素遺伝子を導入したダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織、およびそれらの利用に関するものである。
トリプトファンはタンパク質を構成する必須アミノ酸の1つであり、生物が生きていくうえで不可欠なものである。動物はトリプトファンを体内で合成できないため、食物から摂取しなければならない。
例えば、トリプトファンを家畜に適量与えることによって、家畜の体重増加を向上させる効果があることが知られている。加えて、アミノ酸バランスの改善により飼料の給与総量を減らし、家畜排泄物を削減させる効果も知られている。
しかし、ダイズなどの穀物はトリプトファンの含有量が少ないため、通常穀物飼料には工業的に製造されたトリプトファンを添加する必要がある。なお、ダイズはそれ自体だけでなく、脱脂ダイズ粉(油を絞った残渣)としても家畜飼料となっている。
また、トリプトファンは人への鎮静やストレス緩和のためのサプリメントとしても市販されている。
トリプトファンの生合成経路は、図11に示すように、コリスミン酸からアントラニル酸が生合成される。アントラニル酸の生成は、アントラニル酸合成酵素(AS)の触媒作用が関与しており、これによってアントラニル酸が生成し、さらにアントラニル酸から6段階の酵素反応によりインドールを経てトリプトファンが生成する。そして、最終産物であるトリプトファンが増加すると、フィードバック制御によりトリプトファン代謝の鍵酵素であるアントラニル酸合成酵素の酵素活性が阻害され、トリプトファンの合成量が制御される(例えば、非特許文献1参照)。
発明者らは、既にイネアントラニル酸合成酵素αサブユニット遺伝子としてOASA1およびOASA2が存在することを見出し、これらを単離した(例えば、特許文献1参照)。そして、イネアントラニル酸合成酵素遺伝子の改変に関しては、例えばイネアントラニル酸合成酵素第1アイソザイムαサブユニットであるOASA1タンパク質の323番目のアスパラギン酸残基をアスパラギン残基に置換(D323N)することで得られたトリプトファンフィードバック阻害抵抗性変異体OASA1Dを形質転換すると、野生型よりもカルスで180倍、組換体イネで35倍、遊離のトリプトファン量が増加することが、発明者らにより報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
また、アグロバクテリウムなどに由来するフィードバック低感受性アントラニル酸合成酵素遺伝子をダイズに導入したことが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
国際公開第WO99/11800号(1999年3月11日公開) 生化学実験講座、第11巻、東京化学同人、1976年、652頁〜653頁 Tozawa Y, Hasegawa H, Terakawa T and Wakasa K (2001) Characterization of rice anthranilate synthase alfa subunit genes OSASA1 and OSASA2: tryptophan accumulation in transgenic rice expressing a feedback-insensitive mutant of OASA1. Plant Physiology 126: 1493-1506 Vaduva G, Oulmassov T, Lewis Y, Kan S, Weaver L, Back S, Brown W, Chen R, Jeong S, Slater S, Mitsky T, Rapp W, Liang J, Gruys K, Chloroplast-targeted variants of Anthranilate Synthase lead to accumulation of tryptophan in soybean. Plant Genetics 2003 Mechanisms of Genetic Variation. Abstract 131 October 22-26, 2003 Snowbird Resort & Conference Center, Snowbird, Utah
上述のように、穀物飼料には工業的に製造されたトリプトファンを添加しているが、トリプトファンは他のアミノ酸に比べて高価である。そのため、トリプトファン含有量の高い穀物の作出が期待されている。特に、トリプトファン含有量の多いダイズは、ダイズが本来有する高い栄養価に上記トリプトファンの効果が加わるため良質の家畜飼料となり、また、ダイズから油を絞った脱脂ダイズ粉は家畜の飼料や養殖魚の餌として大量に使用されているため、作出が望まれている。
また、OASA1D遺伝子を導入したイネにおいて、稔性が低下する傾向があることが報告されている(文献、Tetsuya Yamada, Yuzuru Tozawa, Hisakazu Hasegawa, Teruhiko Terakawa, Yasunobu Ohkawa, Kyo Wakasa Usee of a feedback-insensitive a subunit of anthranilate synthase as a selectable marker for transformation of rice and potato. Molecular Breeding Prepublication Date: 05/06/2004)。そのため、遺伝子導入による利用部以外の器官への影響が少なくなるようにする必要がある。
また、これまでに、イネ改変型アントラニル酸合成酵素遺伝子が導入されたダイズは作出が報告されていない。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、高濃度のトリプトファンを含有し、良質の家畜飼料、水産飼料あるいは食品となるダイズを実現することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ダイズ種子特異的なプロモータと共に、イネ改変型ASαサブユニット遺伝子OASA1D(OASA1D遺伝子)をダイズに導入することにより、高トリプトファン含有ダイズを創出することに成功し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係るトリプトファン含有ダイズは、ダイズで発現可能なプロモータと共に、イネ改変型アントラニル酸合成酵素遺伝子が発現可能に導入されていることを特徴としている。
上記イネ改変型アントラニル酸合成酵素遺伝子は、細胞内のトリプトファン濃度が上昇してもトリプトファンを合成することができるポリペプチドを発現するそのため、イネ改変型アントラニル酸合成酵素遺伝子が導入されたダイズ細胞、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織は、高濃度のトリプトファンを含有する栄養価の高いものとして有用となる。
上記プロモータは、ダイズで発現可能であるので、利用部でのトリプトファンの蓄積を制御することに優れており、他の器官への影響を少なくすることができる。つまり、例えば、ダイズの種子特異的なプロモータを用いれば、種子以外の器官への影響を軽減することができる。ダイズは、主に種子を利用するため、上記プロモータは、種子特異的であることが好ましい。また、上記プロモータは、配列番号13に記載の塩基配列を有していてもかまわない。
また、本発明に係るトリプトファン含有ダイズは、トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチドであり、下記の(a)または(b)のいずれかのポリペプチド:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、をコードしているポリヌクレオチドが導入されていることを特徴としている。
また、本発明に係るトリプトファン含有ダイズは、下記の(a)または(b)のいずれかのポリヌクレオチド:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、が導入されていることを特徴としている。
上記ポリヌクレオチドは、トリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチドを発現するため、ダイズ細胞、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織は、高濃度のトリプトファンを含有する栄養価の高いものとして有用となる。
また、本発明に係るトリプトファン含有ダイズには、細胞、植物個体、その子孫、あるいはこれら由来の組織が含まれることを特徴としている。
上記のポリペプチドを生産するためのポリペプチドの生産方法は、上記トリプトファン含有ダイズを用いることを特徴とする。
上記方法によると、トリプトファン生成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチドを低コストで容易に提供することができる。
本発明に係るトリプトファンの生産方法は、上記トリプトファン含有ダイズを用いることを特徴としている。
上記方法によると、ダイズ細胞、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織、の内でトリプトファンを生成することができるので、低コストかつ環境に低負荷な生産プロセスでトリプトファンを生産することができる。
本発明に係る家畜飼料、水産飼料、食品、または栄養補助剤は、上記トリプトファン含有ダイズを含むことを特徴とする。
また、本発明に係る家畜飼料、水産飼料、食品、または栄養補助剤は、上記トリプトファンの生産方法により得られたトリプトファンを含むことを特徴としている。
本発明に係るトリプトファン生産装置は、上記生産方法によりトリプトファンを生産することを特徴としている。
本発明に係るトリプトファン含有ダイズは、トリプトファン含量が高く栄養価に優れた家畜飼料、食品、栄養補助剤、または工業製品として利用することができる。さらに、トリプトファン含量の高い飼料用ダイズを作出することにより、トリプトファンを添加する必要がないため家畜用飼料ならびに養殖魚用飼料のコストを低下するこができる。
また、本発明に係るダイズ細胞、または、含有ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織を用いれば、低コストかつ環境に対して低負荷な生産プロセスでトリプトファンの生産をすることが可能になる。
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本発明は、これに限定されるものではない。
(1)本発明に用いられるポリヌクレオチド
本発明に用いられる(導入される)ポリヌクレオチドは、イネ改変型アントラニル酸合成酵素遺伝子であればよい。例えば、次のポリヌペプチドをコードするポリペプヌクレオチドであればよい。
すなわち、トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチドであり、下記の(a)または(b)のいずれかのポリペプチド:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
上記「1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により欠失、置換、もしくは付加ができる程度の数(例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、もしくは付加されることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
なお、上記ポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合してなるポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含むものであってもよい。ここでいうポリペプチド以外の構造としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
本発明に用いられるポリヌクレオチドは、上記ポリペプチドのいずれかをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドであればよく、具体的な塩基配列は特に限定されるものではないが、例えば、下記の(c)または(d)のいずれかのポリヌクレオチドが挙げられる。
(c)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド
上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、60℃で2×SSC 洗浄条件下で結合することを意味する。上記ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning (Third Edition)」 (J. Sambrook & D. W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001) に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる。
また、本発明に用いられるポリヌクレオチドには、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列が含まれていてもよい。
ここで、植物体中のトリプトファンの生合成経路においては、コリスミン酸からアントラニル酸が生成し、さらにアントラニル酸から5段階の酵素反応によりインドールを経てトリプトファンが生成する(非特許文献1参照)。アントラニル酸合成酵素は、上記経路中、コリスミン酸からアントラニル酸の生成を触媒する。また、アントラニル酸合成酵素は最終生成物であるトリプトファンによりフィードバック阻害を受け、細胞中のトリプトファン濃度が上昇するに伴い、酵素活性が低下する。したがって、トリプトファンがある一定量細胞に蓄積すると、それ以上トリプトファンが合成されなくなる。本発明に導入されるポリヌクレオチドは、上述のようにトリプトファンによるフィードバック阻害に対して抵抗性を有するポリペプチドをコードしているため、このポリペプチドが発現すると、細胞中のトリプトファン濃度が上昇してもトリプトファンを合成することができ、トリプトファン含量の高いダイズを作出することが可能となる。
本発明に用いられるポリヌクレオチドの取得方法(生産方法)は特に限定されるものではないが、例えば、非特許文献2に記載された方法を用いることができる。
(2)形質転換ダイズ
本発明に係るトリプトファン含有ダイズ(形質転換ダイズ)は、上記(1)に記載したポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む組換えベクターが導入されており、かつ、トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチドが発現していれば、特に限定されるものではない。
ここで「形質転換ダイズ」とは、細胞・組織・器官、生物個体を含む意味である。つまり、本発明において形質転換の対象となるダイズは、ダイズ全体、ダイズ器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、ダイズ組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)またはダイズ培養細胞、あるいは種々の形態のダイズ細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。
本発明に係るトリプトファン含有ダイズは、トリプトファンの含有量が高く、栄養価の高い食品原料や飼料として高い利用価値を有する。
本発明に係るトリプトファン含有ダイズは、上記(1)に記載したポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該遺伝子が発現し得るようにダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織中に導入することにより得ることができる。
本発明に係るダイズの形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、ダイズ内で上記(1)に記載したポリヌクレオチドを発現させることが可能であり、ダイズで発現可能なプロモータを有するベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモータ(例えば、配列番号13に記載の塩基配列を有するダイズ11Sグロブリン(gy2)プロモータ)を有するベクター、が挙げられる。
また、上記(1)記載のポリヌクレオチドがダイズ細胞に導入されたか否か、さらにはダイズ中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。例えば、ハイグロマイシンのような抗生物質に抵抗性を与える薬剤耐性遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと上記(1)記載のポリヌクレオチドとを含むプラスミド等を発現ベクターとしてダイズに導入してもよい。これによってマーカー遺伝子の発現から上記(1)記載のポリヌクレオチドの導入を確認することができる。
ダイズへの遺伝子の導入には、遺伝子を直接ダイズ細胞またはダイズ組織に導入するのが好ましく、当業者に公知の形質転換方法、例えば、パーティクルガン(遺伝子銃)、エレクトロポレーション法などが用いられる。
遺伝子銃を用いる場合は、ダイズ体、ダイズ器官、ダイズ組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS−1000/He(商品名、バイオ・ラッド社製)など)を用いて処理することができる。処理条件は試料によって異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。
遺伝子が導入されたダイズ細胞または組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。
ダイズ培養細胞を宿主として用いる場合は、形質転換は、組換えベクターを遺伝子銃、エレクトロポレーション法などで培養細胞に導入する。形質転換の結果得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養または器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
遺伝子がダイズに導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換ダイズからDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
なお、具体的に記載した個々のベクター種および導入方法は単なる例示であり、上記以外のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法を用いて取得した形質転換ダイズまたは細胞も本発明の技術的範囲に属する。
本発明に係るダイズがいったん得られれば、当該ダイズの有性生殖または無性生殖によって、上記(1)記載のポリペヌクレオチドが導入された子孫を得ることができる。また、当該ダイズまたはその子孫、あるいはこれらのクローンから、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該ダイズ、つまり、高トリプトファン含量ダイズを量産することができる。
したがって、本発明には、上記(1)記載のポリヌクレオチドを導入されたダイズ、もしくは、当該ダイズと同一の性質を有する当該ダイズの子孫、またはこれら由来の組織も含まれる。
本発明に係るダイズを作製する一実施形態を以下に記載する。
初めに、ダイズを室温、自然日長下で栽培する。登熟中の莢表面を滅菌し、その莢から未熟子葉を取り出し、種皮と胚軸を取り除く。そして処理された未熟子葉を、不定胚誘導培地に置床し培養して不定胚を生じさせる。次に、誘導された不定胚をフラスコ中に不定胚増殖培地に移し、振とう培養することで、次々と不定胚を発生させ、増殖、維持させる。なお、不定胚は1週間毎に新しい不定胚増殖培地に継代培養し、不定胚の量が増えたときは2本のフラスコに分ける。このようにすることで、不定胚は再分化能を保ったまま、数ヶ月間の継続培養が可能である。そして、増殖した不定胚を遺伝子導入培地に広げ、表面を乾燥させる。この不定胚にパーティクルガン法を用いて、ダイズ内で上記(1)に記載したポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターを導入する。本実施形態ではベクターに抗生物質耐性遺伝子として、ハイグロマイシン耐性遺伝子が組み込まれているものを用いる。
そして、ベクターを導入した不定胚は不定胚増殖培地で培養した後、抗生物質を添加した選抜培地で8週間培養する。この間、培地は毎週交換する。抗生物質(ハイグロマイシン)添加培地において8週間培養することにより、ほとんどの不定胚は白化するので、緑色を維持している遺伝子組換えダイズを容易に識別することができる。
なお、上記ベクター例えば、GFP発現遺伝子を組み込んでおき、ハイグロマイシンで遺伝子組換えダイズを選抜するのに加え、実体蛍光顕微鏡等によって、GFPの発現により、ベクターの導入を確認して遺伝子組換えダイズを選抜してもよい。
次に、緑色の不定胚塊を選抜培地で十分に増殖させ、過剰液体を除去して、増殖した不定胚を胚成熟培地に移し、3〜5週間振とう培養する。このことにより、子葉状の胚へと成熟する。この間、培地は交換しない。
次に、成熟した胚は、過度の乾燥を防ぐため、発芽培地片の入ったシャーレで3〜7日間乾燥させる。乾燥させた成熟胚は、その後、発芽培地で発芽させる。そして、発芽した個体は発根培地で十分に生長させ、順化させた後に、培養土を充填したポットに移植し、高湿度で順応させ、閉鎖系温室内で栽培する。次第に周囲の湿度に順応するようにする。
以上の方法により、不定胚の誘導から約6ヶ月間で遺伝子組換えダイズが育成できる。
この遺伝子組換えダイズの各細胞、各組織、各器官、を用いてトリプトファンの含有量やタンパク質組成を調べることができる。
トリプトファンの含有量は、例えば種子や葉等を用いて測定することができる。トリプトファン含有量の測定方法の一例を以下に記す。
種子あるいは乾燥させた葉を粉砕し粉砕物を得る。この粉砕物に16%TCA(トリクロロ酢酸)溶液を加え、混合する。次に、リン酸カリウムバッファーを加え振とうする。遠心後、上清を0.2μmのフィルターで濾過し、遊離アミノ酸を含む抽出物を得る。高速アミノ酸分析計でこの抽出物のアミノ酸含量(トリプトファンを含む)を測定する。また、この抽出物のトリプトファン含量は一般的な紫外分光光度計を装備した高速液体クロマト装置(HPLC)で測定してもよい。
さらに、以下の方法による測定も可能である。
ホモジナイザーを用いて種子あるいは乾燥葉をエタノール中で破砕する。これを遠心後、上清をデカントし、ペレットは再度エタノール中で破砕する。ペレットの破砕後、上清を混合し、混合試料を遠心して新しい上清を得る。新しい上清を蒸留水で5倍に希釈して遠心し、0.2μmの使い捨てフィルター(例えば、ワットマン製)を用いて濾過する。濾過した抽出物をアミノ酸分析システム(例えば、Pico Tag;ウォーターズ、ミルフォード製)で分析する。
上記トリプトファン含有量の測定方法や記載された数値等は単なる例示であり、限定されることはない。
タンパク質組成の分析は、例えば、電気泳動のバンド染色にクーマシー・ブリリアント・ブルー(CBB,Coomassie Brilliant Blue)を用いて、非組み換え体と各バンド比較することによって行うことができる。
また、サザンブロット法を用いて上記(1)記載のポリペプチドが発現しているか否かを確認することができる。これらタンパク質組成の分析も記載されたものに、限定はされない。
(3)ポリペプチドの生産方法
本発明は、本発明に係るトリプトファン含有ダイズを用いて上記(1)のポリペプチドを生産する方法を提供する
本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、組換え発現系を用いる。上記(1)に記載のポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能にダイズに導入し、細胞内で翻訳されて得られる上記ポリペプチドを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、ダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターをダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織に導入する工程を包含する。
このようにダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するようにダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織内で機能するプロモータを組み込んであることが好ましい。
本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るトリプトファン含有ダイズの抽出液から当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。ポリペプチドを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
上記方法によると、ダイズ細胞、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織、の内で上記(1)のポリペプチドを生成することができるので、低コストかつ環境に低負荷な生産プロセスで上記(1)のポリペプチドを生産することができる。
(4)トリプトファンの生産方法
本発明は、本発明に係るトリプトファン含有ダイズを用いてトリプトファンを生産する方法を提供する。
本実施形態に係るトリプトファンの生産方法は、組換え発現系を用いる。上記(1)のポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能にダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織に導入する。そして、細胞内で翻訳されて得られる上記ポリペプチドは、トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するため、細胞内でトリプトファンのが増幅して生成される。この遊離トリプトファンを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、ダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターをダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織に導入する工程を包含する。
このようにダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するようにダイズ細胞、または、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織内で機能するプロモータを組み込んであることが好ましい。
本実施形態に係るトリプトファンの生産方法は、本発明に係るトリプトファン含有ダイズの抽出液から遊離トリプトファンを精製する工程をさらに包含することが好ましい。トリプトファンを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
よって、これらトリプトファンの生産方法によりトリプトファンを生産するための装置も本発明に含まれる。
上記方法によると、ダイズ細胞、ダイズ、もしくはその子孫、あるいはこれら由来の組織、の内でトリプトファンを生成することができるので、低コストかつ環境に低負荷な生産プロセスでトリプトファンを生産することができる。
(5)家畜飼料、水産飼料、食品、および栄養補助剤
本発明は、本発明に係るトリプトファン含有ダイズを用いて製造される家畜飼料、水産飼料、食品、栄養補助剤、および工業製品を提供する。また、上述のトリプトファンの生産方法により得られたトリプトファンを用いて製造される家畜飼料、水産飼料、食品、および栄養補助剤を提供する。
本項で記載する家畜飼料、水産飼料、食品、栄養補助剤は、上述したダイズの種子、果実、葉、塊茎、および/または塊根であっても、上述したダイズから抽出されたトリプトファンを用いて製造された家畜飼料、水産飼料、食品、栄養補助剤、であってもよい。
上記家畜飼料、水産飼料あるいは食品は、高濃度のトリプトファンが含有されているため栄養価が高い良質のものとなる。
また、本発明に係るトリプトファン含有ダイズを用いて製造される家畜飼料は、ダイズが本来有する高い栄養価に、トリプトファンが家畜に与える効果が加わるため良質の穀物飼料となる。また、ダイズから油を絞った脱脂ダイズ粉も家畜あるいは養殖魚の飼料に使用することができる。この脱脂ダイズ粉にも高濃度のトリプトファンが含有されているため栄養価が高い良質の家畜飼料となる。
本発明に係るトリプトファン含有ダイズを用いて製造される家畜飼料、水産飼料、食品、あるいは、上述のトリプトファンの生産方法により得られたトリプトファンを用いて製造される家畜飼料、水産飼料、食品の具体的な構成は特に限定されるものではなく、用途や目的に応じて様々に加工されてもよい。
また、本発明に係るトリプトファン含有ダイズを用いて製造される栄養補助剤、あるいは、上述のトリプトファンの生産方法により得られたトリプトファンを用いて製造される栄養補助剤の具体的な構成は特に限定されるものではなく、用途や目的に応じて、種々の添加剤や緩衝液を加えればよい。この栄養補助剤は、人の鎮静やストレス緩和のために用いることができる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本実施例では、具体的にイネ改変型アントラニル酸合成酵素遺伝子としてイネ改変型ASαサブユニット遺伝子OASA1D(OASA1D遺伝子)をダイズに導入した。
〔実施例1:ダイズにOASA1D遺伝子を導入するためのベクターの作成〕
非特許文献1に記載された方法により取得したOASA1D遺伝子を、図1(a),(b)に示すように、恒常的プロモータであるカリフラワーモザイクウィルス35Sプロモータ、あるいは子葉特異的プロモータであるダイズ11Sグロブリン(gy2)プロモータと接続し、ノパリン合成酵素のターミネーター配列と接続させた。
パーティクルガン法のように物理的な遺伝子導入法では、導入遺伝子の断片化や多コピー化によって導入遺伝子が発現しなくなる現象、いわゆるジーンサイレンシングが発生することが報告されている。そこで、同図に示すように抗生物質耐性遺伝子であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(hpt)とレポーター遺伝子である改変型緑色蛍光タンパク質遺伝子(sGFP(S654T))との間に、OASA1D遺伝子発現カセットを挿入した。
以上のように、2種類のプラスミド(pUHG:35SproOASA1Dあるいは、pUHG:gy2proOASA1D)を構築した。
なお、11Sグロブリン(gy2)プロモータについては、ダイズA2B1aプログリシニン遺伝子(gy2遺伝子)(GenBank accession no.X53404)の、5'非翻訳配列(転写開始サイトに相対的な−1026から−4のヌクレオチド)を、以下のプライマー1、プライマー2を用いたPCRにより品種ボンミノリのゲノムDNAから単離した(参考文献1:Kitamura Y., Arahira M., Itoh Y. and Fukazawa C. 1990. The complete nucleotide sequence of soybean glycinin A2B1a gene spanning to another glycinin gene A1aB1b. Nucleic Acids Res. 18: 4245)。
また、GFPについては、隣接したCaMV35SproとNosT配列を有する形質転換されたクラゲのGFP翻訳領域[sGFP(S65T),0.8kb]を、以下のプライマー3、プライマー4をを用いたPCRによりpTH−2から増幅した(参考文献2:Chiu, W., Y. Niwa, W. Zeng, T. Hirano, H. Kobayashi and J. Sheen (1996) Engineered GFP as a vital reporters in plants. Curr. Biol 3: 325-330)。
ここで用いたプライマーは、
プライマー1:5'-GCGAAGCTTAGAATCCGTTGCATTCACTA-3'(配列番号3)
プライマー2:5'-CGCTCTAGAGTGATGAGTGTTCAAAGACA-3'(配列番号4)
プライマー3::5'-AAGGTACCGGATCCCCCCTCAGAA-3'(配列番号5)
プライマー4:5'-AAGAGCTCCGATCTAGTAACATAGATGACACC-3'(配列番号6)
である。
〔実施例2:ダイズの形質転換〕
<不定胚の誘導と増殖>
ダイズの形質転換および再生システムについては、次の参考文献3〜6を利用した。
参考文献3:Finer J.J. and Nagasawa A. 1988. Development of an embryogenic suspension culture of soybean [Glycine max (L.) Merrill]. Plant Cell Tiss. Org. Cult. 15: 125-136.
参考文献4:Sato S., Newell C., Kolacz K., Tredo L., Finer J. and Hinchee M. 1993. Stable transformation via particle bombardment in two different soybean regeneration systems. Plant Cell Rep. 12: 408-413.
参考文献5:Parrott W.A., All J.N., Adang M.J., Bailey M.A., Boerma H.R. and Stewart C.N.J. 1994. Recovery and evaluation of soybean plants transgenic for a Bacillus thuringiensis var. Kurstaki insecticidal gene. In Vitro Cell. Dev. Biol. 30: 144-149.
参考文献6:Hadi M.Z., McMullen M.D. and Finer J.J. 1996. Transformation of 12 different plasmids into soybean via particle bombardment. Plant Cell Rep. 15: 500-505
不定胚形成能に優れたダイズ品種JackあるいはJQ系統を温室内で栽培した。栽培は室温25℃、自然日長下で行った。登熟中の莢表面を70%エタノールで2分間滅菌し、滅菌水で3回洗浄した後、未熟子葉(3〜5mm)を取り出し、種皮と胚軸を取り除いた。そして処理された未熟子葉を、向軸側を上にして不定胚誘導培地(MSD40)に置床し、温度25℃、日長23時間、寒白色蛍光灯を用いて光強度5〜10μmolm-1-2で培養した。すると、図2(a),(b)に示すように、3〜4週間で不定胚を生じた。
なお、不定胚誘導培地は、MS塩(参考文献7:Murashige T. and Skoog F. 1962. A revised medium for rapid growth and bioassays with tobacco tissue culture. Physiologia Plantarum 15: 473-497.)とビタミンB5(参考文献8:Gamborg O., Miller R. and Ojima K. 1968. Nutrient requirements of suspension cultures of soybean root cells. Exp. Cell Res. 50: 151-158.)とから形成し、3%ショ糖と2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D,40mgml-1)とを補充し、pH7.0に調整し、0.2%Gelrite(商品名、和光製)で凝固させた。また、90×20mmの使い捨てプラスチックシャーレを用いた。
誘導された不定胚を不定胚増殖培地(FN Lite、25ml/100ml三角フラスコ)に移し、回転数90〜95rpm/分で振とう培養することで、図2(c)に示すように、次々と不定胚を発生させ、増殖、維持することができた。不定胚増殖培地は、FN Liteマクロ塩、MSミクロ塩、およびビタミンB5から形成し、アスパラギン(1gL-1)と2,4−D(5mgml-1)と3%ショ糖とを補充し、pH5.8に調整した。
不定胚は1週間毎に新しい不定胚増殖培地に継代培養し、不定胚の量が増えたときは2本のフラスコに分けた。不定胚は再分化能を保ったまま、数ヶ月間の継続培養が可能であった。
<パーティクルガンによる遺伝子の導入>
増殖した不定胚(約0.8g)を遺伝子導入培地(MSD20、プラスチックシャーレの大きさ90×20mm)の中央、直径約25mmにまんべんなく広げ、表面を乾燥させた。なお、遺伝子導入培地(MSD20)は、MS塩とビタミンB5とから形成し、3%ショ糖とアスパラギン(1gL-1)と2,4−D,20mgml-1とを補充し、pH5.8に調整し、0.2%Gelriteで凝固した。
実施例1で作成した導入遺伝子を含むプラスミドDNAはPlasmid Midi Kit(商品名、キアゲン製)を用いて、pUHG:35SproOASA1D(以下、35S:OASA1D)あるいは、pUHG:gy2proOASA1D(以下、gy2:OASA1D)を大腸菌DH5αから単離して、滅菌水に1μg/μlの濃度で溶かした。パーティクルガン(PDS−1000/He;商品名、日本バイオ・ラッド社製)による遺伝子の導入は、機器に添付のプロトコルに従った。
3mgの直径1μm金粒子(マイクロキャリア)と5μgの実施例1で作成したプラスミドDNAとをよく混合し、塩化カルシウム/スペルミジン法(参考文献9:Klein T.M., Gradziel T., Fromm M.E. and Sanford J.C. 1988. Factors influencing gene delivery into Zea mays cells by high-velocity microprojectiles. Bio/technology 6: 559-563.)で、金粒子表面にDNAをコーティングした。3mgの金粒子で6枚のマクロキャリアを調整、すなわち6回の撃ち込みを行うことができる。
パーティクルガンによって、マイクロキャリアをヘリウムガス圧1350psi、6cmの距離で培地上の不定胚へ撃ち込んだ。金粒子の分布を均一にするため、プレートの向きを換え、2回撃ち込んだ。
<遺伝子組換え体の選抜>
遺伝子を導入した不定胚は不定胚増殖培地で1週間培養した後、15ml/Lハイグロマイシンを添加した選抜培地で2週間、30mg/Lハイグロマイシンを添加した選抜培地で4週間、45ml/Lハイグロマイシンを含む選抜培地で2週間培養した。この間、培地は毎週交換した。ハイグロマイシン添加培地において8週間培養することにより、ほとんどの不定胚は白化し、図2(d)に示すように、緑色を維持している遺伝子組換え体を容易に識別することができた。
<植物体の再分化>
参考文献10(Samoylov VM, Tucker DM, Parrott WA (1998) Liquid medium-based protocol for rapid regeneration from embryogenic soybean cultures. Plant Cell Rep 18:49-54)に記載された方法により、不定胚魂を回復させた。
緑色の不定胚塊を15mg/Lハイグロマイシンを添加した選抜培地で十分に増殖させた。無菌のろ紙を用いて過剰液体を除去して、増殖した不定胚の一部(約20mg)を胚成熟培地(FNL0S3S3、25ml/100ml三角フラスコ)に移し、回転数100rpmで3〜5週間振とう培養した。このことにより、図2(e)に示すように子葉状の胚が発達した。この間、培地は交換しなかった。ここで、胚成熟培地は、FN Liteマクロ塩、MSミクロ塩、およびビタミンB5から形成し、アスパラギン(1gL-1)と3%ショ糖とソルビートとを補充し、pH5.8に調整した。
成熟した胚は、過度の乾燥を防ぐため、約1cm3の発芽培地(MS0)片の入ったシャーレで3〜7日間乾燥させた。乾燥させた成熟胚は、図2(f)に示される。その後、淡い黄色になった胚を、図2(g)に示すように発芽培地で発芽させる。発芽培地は、0.5×B5塩、0.5×ビタミンB5、2%ショ糖、および0.05%MES緩衝液から形成し、pH5.8に調整し、0.2%Gelriteで凝固させた。
発芽した個体は発根培地(1/2B5)で十分に生長させ、順化させた後に、図2(h)に示すように培養土を充填したポットに移植し、高湿度で順応させ、図2(i)に示すように閉鎖系温室(ガラス温室)内で栽培した。次第に周囲の湿度に順応するようにした。
以上の方法により、不定胚の誘導から約6ヶ月間で遺伝子組換え体が育成できた。
〔実施例3:GFPの発現を確認による遺伝子導入胚の選抜〕
遺伝子組換え不定胚は実施例2にようにハイグロマイシンで選抜するのに加え、実体蛍光顕微鏡(MZ FLIII;商品名、ライカ製)等によって、GFPの発現を確認することでさらに選抜した。図3(A−w),(A−b),(B−w),(B−b)に遺伝子が導入された不定胚と、図3(C−w),(C−b)に成熟胚とが示される。青色光を照射することで、図3(A−b),(B−b),(C−b)に示すように、遺伝子が導入された箇所(細胞)が分かった。
〔実施例4:RT−PCRによる導入遺伝子の発現の確認〕
成熟胚の段階で導入遺伝子の発現とトリプトファン含量の増加とを調査した。以下に導入遺伝子の発現をRT−PCRによって確認する方法を記す。
成熟胚(100mg)を液体窒素中で、乳鉢と乳棒を用いてすりつぶし、1mLトリゾール試薬(商品名、インビトロジェン製)を加えて、すりつぶした試料を強力に振とうした。この試料を室温で5分間インキュベートし、200μlクロロホルムを添加して15000×gで10分間遠心した。
イソプロパノールを用いて上清から総RNAを沈殿させ、100μlのRNaseフリーの水で懸濁した。RNA(500ng)の一部を、37℃で30分、RNaseフリーのDNase(RQ1;商品名、プロメガ製)を3U用いて、40mMのTris−HCl(pH8.0)と10mMのMg2SO4と1mMのCaCl2とを含む30μlの溶液中で、インキュベートした。この反応を、3μl、20mMのEGTA(pH8.0)を添加することにより停止させ、RNAをフェノール−クロロホルム抽出し、エタノール沈殿させた。
単離したRNAをRAaseフリー水に再懸濁し、RT−PCRシステム(インビトロジェン製)とオリゴ(dT)20プライマーを用いた第1鎖cDNA合成に利用した。RNAを初めに、50pmolのプライマーとそれぞれ20nmolのdNTPとを含む12μlの溶液で、5分間、65℃でインキュベートした。その後、8μlのcDNA合成ミックス(4μlの5×cDNA合成緩衝液、0.1nmolのジチオスレイトール、40UのRNaseアウト、および15Uのサーモスクリプト逆転写酵素を含む)を添加して60分間、50℃でインキュベートした。
産物cDNAをAmpliTaqDNAポリメラーゼ(商品名、アプライドバイオシステム製)を用いて94℃で1分、55〜60℃で1分、および72℃で1分、の30サイクルでPCRを行い増幅させた。ダイズアクチン1遺伝子(GenBank accession no.J01298)をRT−PCRの内部コントロールとして用いた。増幅した生成物は、pCR2.1ベクター(インビトロジェン製)に複製し、生成物の確認のために電気泳動によりシークエンシングを行った。その結果、図4に示すように、複数の成熟胚にOASA1D遺伝子が導入されていることわかった。なお、図4における2−1、48−1,51−2といった、数字は、異なる遺伝子導入から得られた由来の異なる遺伝子組換え成熟胚を識別するための数字である。以下で説明する図6〜9についても同様である。
なお、上記PCRにおいて、アクチン1遺伝子に対しては、下記のプライマー5、プライマー6のペア、hpt遺伝子に対しては、プライマー7、プライマー8のペア、OASA1D遺伝子に対してはプライマー9、プライマー10のペアを用いた。
用いたプライマーは、
プライマー5:5'-GACGCTGAGGATATTCAACC-3'(配列番号7)
プライマー6:5'-AGAAATCTGTGAGGTCACGA-3'(配列番号8)
プライマー7:5'-CTGAACTCACCGCGACGTCT-3'(配列番号9)
プライマー8:5'-AGTCCTCGGCCCAAAGCATC-3'(配列番号10)
プライマー9:5'-ACCGCTGCCTCGTCAGGGAGGACG-3'(配列番号11)
プライマー10:5'-CTCAAAACGCTGGCTTAAGAC-3'(配列番号12)
である。
〔実施例5:トリプトファンが増加した種子の栽培と固定系統の育成〕
上記実施例3を繰り返し行った。つまり、35S:OASA1Dプラスミドを用いた遺伝子導入は56回、gy2:OASA1Dプラスミドを用いた遺伝子導入は48回行った。
その結果が、図5である。各々、2個と14個のトリプトファンが増加したT0個体を得た。そして、トリプトファンが増加した種子を閉鎖系温室内で栽培し、固定系統を育成した。
〔実施例6:非組み換え体と組み換え体(OASA1D遺伝子導入個体)との比較〕
<種子のトリプトファン含量>
非組み換え体(コントロール)、35S:OASA1D遺伝子導入個体、gy2:OASA1D遺伝子導入個体において、種子のトリプトファン含量を調べた。
初めに、個体毎に3粒のダイズ種子をコーヒーミルで粉砕し種子粉砕物を得た。次に、種子粉砕物150mgに16%のTCA600μlを加え混合し、その後、50mMリン酸カリウムバッファー(pH5.6)600μlを加え1時間振とうした。そして、1500rpmで10分間遠心後、上清を0.2μmのフィルターで濾過し、遊離アミノ酸を含む抽出物を得た。この抽出物のアミノ酸含量(トリプトファンを含む)を、高速アミノ酸分析計(L-8500やL-8800等、日立製)等で測定し、分析を行った。その分析結果を図6に示す。
図6に示すように、非組換え体(コントロール)の種子の遊離トリプトファン含量は0.07mg/gDWであるのに対し、35S:OASA1D遺伝子導個体の遊離トリプトファン含量は1.9〜3.3mg/gDW、gy2:OASA1D遺伝子導入個体の遊離トリプトファン含量は3.0〜6.4mg/gDWであった。
組み換え体の遊離トリプトファン含量は、非組換え体の遊離トリプトファンに比べ、約100〜260倍程度にまで増加した。また、組換え体の遊離トリプトファンは、最大で種子乾物重当たり約0.6%に達していた。このように必須アミノ酸であるトリプトファンを高濃度で含むダイズ種子は飼料あるいは食糧としての有用性が高いものなる。
また、図7に示すように、遺伝子導入された種子では遊離トリプトファンが際だって増加していた。遺伝子導入された種子でアスパラギン(Asn)がやや減少していたが、他のアミノ酸はあまり変動しなかった。
<タンパク質組成>
非組み換え体(コントロール)、35S:OASA1D遺伝子導個体、gy2:OASA1D遺伝子導入個体における、種子のタンパク質組成を比較した。
図8に示すように、クーマシー・ブリリアント・ブルー(CBB)染色を行ったところ、各種子のタンパク質組成に大きな変化は認められなかった。
また、抗OASA1D抗体を用いてウエスタンプロット法を行うと、35S:OASA1D遺伝子導個体、gy2:OASA1D遺伝子導入個体、にOASA1Dの発現が観測された。
<葉のトリプトファン含量>
非組み換え体(コントロール)、35S:OASA1D遺伝子導入個体、gy2:OASA1D遺伝子導入個体において、葉のトリプトファン含量を調べた。個体毎に1gの葉を凍結乾燥させ、乾燥葉をコーヒーミルで粉砕し乾燥葉粉砕物を得た。この乾燥葉粉砕物からの遊離アミノ酸の抽出と分析は、上記<種子のトリプトファン含量>に記載した方法と同様に行った。その分析結果を図9に示す。
図9に示すように、特に35S:OASA1D遺伝子導入個体で、トリプトファン含量が増加しているものがあった。非組換え体が0.165mg/gDWであるのに対し、35S:OASA1D遺伝子導入個体の一つは、4.092mg/gDWであることから、ダイズの茎葉を家畜飼料として使用する場合も栄養価は高いと考えられる。一方、子葉特異的プロモータであるgy2では葉のトリプトファン含量を上昇させることはなかった。
〔実施例7:品種JQへの遺伝子導入〕
高遊離アミノ酸系統であるJQへのOASA1D遺伝子導入を、実施例3と同様に行った。ここでは、実施例1のgy2:OASA1Dプラスミドを用いた。
本実施例でも、OASA1D遺伝子が導入された組換え体を得ることができた。図10に示すように、JQの場合もOASA1D遺伝子の導入により種子における遊離トリプトファン含量が増加していた。
本発明により、高トリプトファン含有ダイズの作出が可能となる。したがって、本発明は広く農業に利用することができ、また高トリプトファンダイズは家畜飼料、養殖魚用の餌や食品に適しているため、本発明は畜産業、水産業や食品産業にも利用することができる。
OASA1D遺伝子を有する導入遺伝子の構造を表す図であり、(a)はpUHG:35SproOASA1D、(b)はpUHG:gy2OASA1Dプラスミドの構造を表す図である、。 (a)〜(c)は培養されたダイズの不定胚、(d)はOASA1D遺伝子を導入された不定胚、(e)はOASA1D遺伝子を導入された不定胚あるいは体細胞胚、(f)および(g)はOASA1D遺伝子を導入された成熟胚、(h)は発芽したダイズ個体、(i)は成長したダイズ個体を表す画像である。 緑色蛍光タンパク質(sGFP(S65T))による形質転換体の選抜の過程を示す図であり、(A−w)および(B−w)は白色光を照射された不定胚、(C−w)は白色光を照射された成熟胚、(A−b)および(B−b)は青色光を照射された不定胚、(C−b)は青色光を照射された成熟胚を示す画像である。 形質転換成熟胚における導入遺伝子の発現を解析した結果を示す画像である。 OASA1D遺伝子を導入されたダイズの胚、再生個体、成長個体、の数を示す表である。 OASA1D遺伝子を導入したダイズ(T3世代)の種子における遊離トリプトファンの量を表すグラフである。 OASA1D遺伝子を導入したダイズ(T3世代)の種子における遊離アミノ酸組成を表すグラフである。 (a)はOASA1D遺伝子を導入したダイズ(T3世代)の種子における貯蔵タンパク質組成を解析した結果を示す画像であり、(b)はOASA1D遺伝子を導入したダイズ(T3世代)の種子におけるOASA1Dの検出結果を示す画像である。 OASA1D遺伝子を導入したダイズ(T3世代)の植物体(葉)における遊離トリプトファンの量を表すグラフである。 OASA1D遺伝子を導入したJQ系統におけるダイズ(T1世代)の種子における遊離アミノ酸組成を表すグラフである。 トリプトファンの生合成経路を表す図である。

Claims (7)

  1. ダイズで発現可能なプロモータと共に、イネ改変型アントラニル酸合成酵素遺伝子が発現可能に導入されているトリプトファン含有ダイズであって、
    前記プロモータは、種子特異的であって、配列番号13に記載の塩基配列を有し、
    前記イネ改変型アントラニル酸合成酵素遺伝子は、
    トリプトファン生合成経路においてトリプトファンによるフィードバック阻害に対する抵抗性を有するポリペプチドであり、下記の(a)または(b)のいずれかのポリペプチド:
    (a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
    (b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
    をコードしているポリヌクレオチドからなることを特徴とするトリプトファン含有ダイズ。
  2. 上記ポリヌクレオチドは、下記の(a)または(b)のいずれかのポリヌクレオチド:
    (a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
    (b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
    (i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
    (ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、
    であることを特徴とする請求項1に記載のトリプトファン含有ダイズ。
  3. 上記トリプトファン含有ダイズには、細胞、植物個体、その子孫、あるいはこれら由来の組織が含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のトリプトファン含有ダイズ。
  4. 請求項1に記載のポリペプチドの生産に、請求項1〜3の何れかに記載のトリプトファン含有ダイズを用いることを特徴とするポリペプチドの生産方法
  5. 請求項1〜3の何れか1項に記載のトリプトファン含有ダイズを用いることを特徴とするトリプトファンの生産方法
  6. 請求項1〜の何れか1項に記載のトリプトファン含有ダイズを含むことを特徴とする家畜飼料、水産飼料、食品、または栄養補助剤
  7. 請求項に記載の生産方法よりトリプトファンを生産することを特徴とするトリプトファン生産装置
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