本発明は、所定の通信対象から送信される信号を受信するための複数の受信アンテナ素子を備えた無線受信装置の改良に関する。
所定の情報が記憶された小型の無線タグ(応答器)から所定の無線タグ通信装置(質問器)により非接触にて情報の読み出しを行うRFID(Radio Frequency Identification)システムが知られている。このRFIDシステムは、無線タグが汚れている場合や見えない位置に配置されている場合であっても無線タグ通信装置との通信によりその無線タグに記憶された情報を読み出すことが可能であることから、商品管理や検査工程等の様々な分野において実用が期待されている。
斯かる無線タグ通信装置の一態様として、通信対象である無線タグから送信される信号を受信するための複数の受信アンテナ素子を備え、その無線タグの方向に合わせて通信を行うために指向性制御を行うものが知られている。例えば、特許文献1に記載された無線装置がそれである。この無線装置によれば、複数のアンテナ素子を含むアレイアンテナと、それら複数のアンテナ素子により受信される受信信号それぞれにウェイトを乗算するアダプティブ処理部とを、備えていることから、上記アレイアンテナの指向性を好適に定めることができ、通信対象である無線タグとの間で好適な通信を行うことができる。
しかし、前記従来の技術のように、一般的なAAA(Adaptive Array Antenna)処理による指向性制御では、複数のアンテナ素子それぞれに与えるウェイトを所定のアダプティブ処理アルゴリズムによって計算する必要があるため、計算量が多くなり処理に時間がかかるという弊害があった。すなわち、可及的速やかに指向性制御を行い得る無線受信装置の開発が求められていた。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、可及的速やかに指向性制御を行い得る無線受信装置を提供することにある。
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、所定の通信対象から送信される信号を受信するための複数の受信アンテナ素子を備えた無線受信装置であって、前記複数の受信アンテナ素子により受信される受信信号の指向性をフェイズドアレイ処理により制御するフェイズドアレイ制御部と、前記複数の受信アンテナ素子により受信される受信信号の指向性をアダプティブアレイ処理により制御するアダプティブアレイ制御部と、前記複数の受信アンテナ素子により受信される受信信号が所定の品質を有するか否かを判定する受信品質判定部と、前記フェイズドアレイ制御部により前記受信信号の指向性を制御し、前記受信品質判定部の判定が否定される場合には、前記アダプティブアレイ制御部により前記受信信号の指向性を制御するように切り換える指向性制御切換部とを、含むことを特徴とするものである。
このようにすれば、前記複数の受信アンテナ素子により受信される受信信号の指向性をフェイズドアレイ処理により制御するフェイズドアレイ制御部と、前記複数の受信アンテナ素子により受信される受信信号の指向性をアダプティブアレイ処理により制御するアダプティブアレイ制御部と、前記複数の受信アンテナ素子により受信される受信信号が所定の品質を有するか否かを判定する受信品質判定部と、先ず、前記フェイズドアレイ制御部により前記受信信号の指向性を制御し、前記受信品質判定部の判定が否定される場合には、前記アダプティブアレイ制御部により前記受信信号の指向性を制御するように切り換える指向性制御切換部とを、含むことから、必要な場合にのみアダプティブアレイ処理を行うことにより不要な計算を行わずに済み、前記受信信号の処理時間を短縮することができる。すなわち、可及的速やかに指向性制御を行い得る無線受信装置を提供することができる。
ここで、好適には、前記アダプティブアレイ制御部は、前記フェイズドアレイ制御部による制御結果に基づいて前記複数の受信アンテナ素子により受信される受信信号それぞれに与えるウェイトの初期値を定めるものである。このようにすれば、アダプティブアレイ処理に要する時間を更に短縮することができる。
また、好適には、前記フェイズドアレイ制御部による前記受信信号の指向性制御に際して、その受信信号の信号強度が最大であるか否かを判定する受信信号強度判定部を備え、前記アダプティブアレイ制御部は、その受信信号強度判定部により前記受信信号の信号強度が最大であると判定された指向性に対応するウェイトを、前記複数の受信アンテナ素子により受信される受信信号それぞれに与えるウェイトの初期値として定めるものである。このようにすれば、前記受信信号の処理時間を実用的な態様で更に短縮することができる。
また、好適には、前記受信品質判定部は、前記受信信号に妨害波が含まれるか否かを判定する妨害波判定部であり、その妨害波判定部の判定が肯定される場合には、前記受信品質判定部の判定を否定するものである。このようにすれば、実用的な態様で前記受信信号の品質を判定することができる。
また、好適には、前記受信信号を復号する復号部を含み、前記受信品質判定部は、前記復号部による前記受信信号の復号品質が所定範囲内であるか否かを判定するエラー判定部であり、そのエラー判定部の判定が否定される場合には、前記受信品質判定部の判定を否定するものである。このようにすれば、実用的な態様で前記受信信号の品質を判定することができる。
また、好適には、前記通信対象は、所定の送信信号に応じて前記信号を返信し得る無線タグである。このようにすれば、前記無線タグとの間で情報の通信を行う無線タグ通信装置に関して、可及的速やかに指向性制御を行い得る無線受信装置を提供することができる。
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の無線受信装置が好適に用いられる通信システム10を説明する図である。この通信システム10は、本発明の一実施例である無線受信装置62が組み込まれた無線タグ通信装置12と、その無線タグ通信装置12の通信対象である単数乃至は複数(図1では単数)の無線タグ14とから構成される所謂RFID(Radio Frequency Identification)システムであり、上記無線タグ通信装置12はそのRFIDシステムの質問器として、上記無線タグ14は応答器としてそれぞれ機能する。すなわち、上記無線タグ通信装置12から質問波Fc(送信信号)が上記無線タグ14に向けて送信されると、その質問波Fcを受信した上記無線タグ14において所定の情報信号(データ)によりその質問波Fcが変調され、応答波Fr(返信信号)として上記無線タグ通信装置12に向けて返信されることで、その無線タグ通信装置12と無線タグ14との間で情報の通信が行われる。
図2は、上記無線タグ通信装置12の構成を説明する図である。この図2に示すように、上記無線タグ通信装置12は、上記無線タグ14に対する情報の読み書きや、その無線タグ14の方向検知等を実行するためにその無線タグ14との間で情報の通信を行うものであり、送信信号をディジタル信号として出力したり、上記無線タグ14からの返信信号を復調する等のディジタル信号処理を実行するDSP(Digital Signal Processor)16と、そのDSP16により出力された送信信号をアナログ信号に変換する送信信号D/A変換部18と、所定の周波数変換信号を出力する周波数変換信号出力部20と、上記送信信号D/A変換部18によりアナログ信号に変換された送信信号の周波数をその周波数変換信号出力部20から出力される周波数変換信号の周波数だけ高くするアップコンバータ22と、そのアップコンバータ22によりアップコンバートされた送信信号を質問波Fcとして上記無線タグ14に向けて送信するための送信アンテナ素子24と、その質問波Fcに応じて無線タグ14から返信される応答波Frを受信するための複数(図2では3つ)の受信アンテナ素子26a、26b、26c(以下、特に区別しない場合には単に受信アンテナ素子26と称する)と、それら受信アンテナ素子26により受信される受信信号それぞれの周波数を上記周波数変換信号出力部20から出力される周波数変換信号の周波数だけ低い周波数に変換する複数(図2では3つ)のダウンコンバータ28a、28b、28c(以下、特に区別しない場合には単にダウンコンバータ28と称する)と、それらダウンコンバータ28からそれぞれ出力されるダウンコンバートされた受信信号をディジタル信号に変換する複数(図2では3つ)の受信信号A/D変換部30a、30b、30c(以下、特に区別しない場合には単に受信信号A/D変換部30と称する)と、それら受信信号A/D変換部30によりディジタル信号に変換された受信信号を記憶すると共に、上記DSP16からの指令に応じてそのDSP16にそれら受信信号を出力させる記憶装置であるメモリ部32とを、備えて構成されている。
上記DSP16は、CPU、ROM、及びRAM等から成り、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う所謂マイクロコンピュータシステムであり、前記無線タグ14への送信信号に対応するコマンドビット列を生成する送信ビット列生成部34と、その送信ビット列生成部34から出力されたディジタル信号をFSK方式で符号化するFSK符号化部36と、そのFSK符号化部36により符号化された信号をAM方式で変調して上記送信信号D/A変換部18に供給するAM変調部38と、ウェイト制御部52により算出されるPAAウェイト又はAAAウェイトを前記複数の受信アンテナ素子26により受信された受信信号それぞれに乗算する複数(図2では3つ)のウェイト乗算部40a、40b、40c(以下、特に区別しない場合には単にウェイト乗算部40と称する)と、それらウェイト乗算部40によりそれぞれウェイトが乗算された受信信号を合成(加算)する受信信号合成部42と、その受信信号合成部42により合成された合成信号をAM方式で復調してAM復調波を検出するAM復調部44と、そのAM復調部44により復調されたAM復調波をFSK方式で復号するFSK復号部46と、そのFSK復号部46により復号された復号信号を解釈して前記無線タグ14の変調に関する情報信号を読み出す返答ビット列解釈部48と、上記AM復調部44から出力されるAM復調波に基づいて受信信号強度を検出する受信信号強度判定部50と、上記複数のウェイト乗算部40それぞれにおいて受信信号に乗算されるウェイトを制御するウェイト制御部52と、そのウェイト制御部52に含まれてPAA(Phased Array Antenna)ウェイトを制御するPAAウェイト制御部54と、上記ウェイト制御部52に含まれてAAA(Adaptive Array Antenna)ウェイトを制御するAAAウェイト制御部56と、そのAAAウェイト制御部56に参照信号を供給する参照信号発生部58と、上記PAAウェイト制御部54及びAAAウェイト制御部56のうち何れか一方により上記複数のウェイト乗算部40に供給されるウェイトが制御されるように切り換える指向性制御切換部60とを、機能的に備えている。斯かる無線タグ通信装置12において、前記受信アンテナ素子26、ダウンコンバータ28、受信信号A/D変換部30、メモリ部32、ウェイト乗算部40、受信信号合成部42、AM復調部44、FSK復号部46、返答ビット列解釈部48、受信信号強度判定部50、ウェイト制御部52、PAAウェイト制御部54、AAAウェイト制御部56、参照信号生成部58、及び指向性制御切換部60が無線受信装置62を構成している。
図3は、前記無線タグ14の構成を説明する図である。この図3に示すように、前記無線タグ14は、前記無線タグ通信装置12との間で信号の送受信を行うためのアンテナ部64と、そのアンテナ部64により受信された信号を処理するためのIC回路部66とを、備えて構成されている。そのIC回路部66は、上記アンテナ部64により受信された前記無線タグ通信装置12からの質問波Fcを整流する整流部68と、その整流部68により整流された質問波Fcのエネルギを蓄積するための電源部70と、上記アンテナ部64により受信された搬送波からクロック信号を抽出して制御部78に供給するクロック抽出部72と、所定の情報信号を記憶し得る情報記憶部として機能するメモリ部74と、上記アンテナ部64に接続されて信号の変調及び復調を行う変復調部76と、上記整流部68、クロック抽出部72、及び変復調部76等を介して上記無線タグ14の作動を制御するための制御部78とを、機能的に含んでいる。この制御部78は、前記無線タグ通信装置12と通信を行うことにより上記メモリ部74に上記所定の情報を記憶する制御や、上記アンテナ部64により受信された質問波Fcを上記変復調部76において上記メモリ部74に記憶された情報信号に基づいて変調したうえで応答波Frとして上記アンテナ部64から反射返信する制御等の基本的な制御を実行する。
図2に戻って、前記PAAウェイト制御部54は、前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号の指向性をフェイズドアレイ処理により制御するフェイズドアレイ制御部として機能する。また、前記AAAウェイト制御部56は、前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号の指向性をアダプティブアレイ処理により制御するアダプティブアレイ制御部として機能する。また、前記受信信号強度判定部50は、前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号が所定の品質を有するか、すなわち受信信号の品質が十分であるか否かを判定する受信品質判定部として機能する。
前記指向性制御切換部60は、先ず、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御するようにして、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御しても前記受信信号強度判定部50の判定が否定される場合には、前記AAAウェイト制御部56により前記受信信号の指向性を制御するように切り換える。換言すれば、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御するようにして、それで受信信号を正しく復号できないと判定される場合には、前記AAAウェイト制御部56により前記受信信号の指向性を制御するように切り換える。
前記AAAウェイト制御部56は、好適には、前記PAAウェイト制御部54による制御結果に基づいて前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号それぞれに与えるウェイトの初期値を定める。例えば、前記PAAウェイト制御部54によるフェイズドアレイ制御において前記受信信号強度判定部50により検出される受信信号強度が最も大きかった角度に対応するウェイトを、アダプティブアレイ制御における前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号それぞれに与えるウェイトの初期値として定める。
図4は、前記無線タグ通信装置12のDSP16による前記無線タグ14との間の情報通信制御について説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)SA1において、前記無線タグ14への送信信号に対応するコマンドビット列が生成されてFSK方式で符号化され、AM方式で変調された後、前記送信信号D/A変換部18及びアップコンバータ22を介して前記送信アンテナ素子24から質問波Fcとして前記無線タグ14に向けて送信される。次に、SA2において、SA1にて送信された質問波Fcに応じて前記無線タグ14から返信される応答波Frが前記複数の受信アンテナ素子26により受信され、前記ダウンコンバータ28及び受信信号A/D変換部30を介して前記メモリ部32に記憶される。次に、図5に示すPAA制御が実行された後、SA3において、通信対象である無線タグ14が検知されたか否かが判断される。このSA3の判断が否定される場合には、通信対象である無線タグ14は存在しないとして本ルーチンがエラー終了させられるが、SA3の判断が肯定される場合には、図6に示すAAA制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。
図5は、図4のRFID通信制御の一部であるPAA(Phased Array Antenna)制御を説明するフローチャートである。この制御では、先ず、SB1において、PAAウェイトの設定値θPAAが初期値である−60[°]に設定される。次に、SB2において、図4のSA2にて記憶された前記複数の受信アンテナ素子26にそれぞれ対応する受信信号が前記メモリ部32から読み出される。次に、SB3において、SB2にて読み出された複数の受信信号にPAAウェイトが掛け合わされ、前記受信信号合成部42からの合成出力Yが算出される。次に、SB4において、前記受信信号合成部42からの合成出力Yが前記AM復調部44により復調される。次に、SB5において、SB3にて算出された合成出力Yに含まれる前記無線タグ14からの応答波(反射波)成分が最大であるか否かが判断される。このSB5の判断が肯定される場合には、SB6において、前記無線タグ14の方向を示す角度θREF_MAXがθPAAとされた後、SB7以下の処理が実行されるが、SB5の判断が否定される場合には、SB7において、PAAウェイトの設定値θPAAに30[°]が加算された後、SB8において、前記AM復調部44から出力される復調信号が前記FSK復号部46により復号される。次に、SB9において、SB8における復号が正常に行われたか否かが返答ビット列解釈部48において判断される。このSB9の判断が肯定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、SB9の判断が否定される場合には、SB10において、PAAウェイトの設定値θPAAが60[°]より大きいか否かが判断される。このSB10の判断が否定される場合には、SB2以下の処理が再び実行されるが、SB10の判断が肯定される場合には、図4に示す制御に復帰させられる。以上の制御において、SB5及びSB6が前記受信信号強度判定部50の動作に、SB9が前記指向性制御切換部60の動作に、SB1、SB7、及びSB10が前記PAAウェイト制御部54の動作にそれぞれ対応する。
図6は、図4のRFID通信制御の一部であるAAA(Adaptive Array Antenna)制御を説明するフローチャートである。この制御では、先ず、SC1において、AAAウェイトの設定値が図5のSB6にて定められた角度θREF_MAXに対応する値に設定される。次に、SC2において、図4のSA2にて記憶された前記複数の受信アンテナ素子26にそれぞれ対応する受信信号が前記メモリ部32から読み出される。次に、SC3において、SC2にて読み出された複数の受信信号にAAAウェイトが掛け合わされ、前記受信信号合成部42からの合成出力Yが算出される。次に、SC4において、前記受信信号合成部42からの合成出力Yが前記AM復調部44により復調される。次に、SC5において、前記参照信号生成部58から出力される参照信号とSC3にて算出された前記受信信号合成部42からの合成出力Yとの差である誤差信号が求められる。次に、SC6において、SC5にて算出された誤差信号がウェイト更新のための所定(例えば、RLSアルゴリズム)の漸化式に代入され、前記ウェイト乗算部40において掛け合わされるウェイトの値W0、W1、W−1が更新される。次に、SC7において、SC6にて算出されるウェイトが収束したか否かが判断される。このSC7の判断が否定される場合には、SC2以下の処理が再び実行されるが、SC7の判断が肯定される場合には、SC8において、前記AM復調部44から出力される復調信号が前記FSK復号部46により復号された後、図4に示す制御に復帰させられる。以上の制御において、SC1及びSC5乃至SC7が前記AAAウェイト制御部56の動作に対応する。
このように、本実施例によれば、前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号の指向性をフェイズドアレイ処理により制御するPAAウェイト制御部54(SB1、SB7、及びSB10)と、前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号の指向性をアダプティブアレイ処理により制御するAAAウェイト制御部56(SC1、及びSC5乃至SC7)と、前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号が所定の品質を有するか否かを判定する受信品質判定部として機能する受信信号強度判定部50(SB5及びSB6)と、先ず、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御し、前記受信品質判定部の判定が否定される場合には、前記AAAウェイト制御部56により前記受信信号の指向性を制御するように切り換える指向性制御切換部60(SB9)とを、含むことから、必要な場合にのみアダプティブアレイ処理を行うことにより不要な計算を行わずに済み、前記受信信号の処理時間を短縮することができる。すなわち、可及的速やかに指向性制御を行い得る無線受信装置62を提供することができる。
また、前記AAAウェイト制御部56は、前記PAAウェイト制御部54による制御結果に基づいて前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号それぞれに与えるウェイトの初期値を定めるものであるため、アダプティブアレイ処理に要する時間を更に短縮することができる。
また、前記受信品質判定部は、前記受信信号の信号強度が所定値以上であるか否かを判定する受信信号強度判定部50であり、その受信信号強度判定部50の判定が否定される場合には、前記判定を否定するものであるため、実用的な態様で前記受信信号の品質を判定することができる。
また、前記通信対象は、所定の送信信号に応じて前記信号を返信し得る無線タグ14であるため、その無線タグ14との間で情報の通信を行う無線タグ通信装置12に関して、可及的速やかに指向性制御を行い得る無線受信装置62を提供することができる。
続いて、本発明の他の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明に用いる図面に関して、前述した実施例と共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
図7は、本発明の他の実施例である無線受信装置82が組み込まれた無線タグ通信装置80の構成を説明する図である。この図7に示すように、上記無線タグ通信装置80のDSP16には、前記受信信号合成部42から出力される合成信号に妨害波成分が含まれるか否かを判定する妨害波判定部であるFFT(Fast Fourier Transform)部84が機能的に備えられており、前記指向性制御切換部60は、このFFT部84の判定に基づいて前記PAAウェイト制御部54及びAAAウェイト制御部56のうち何れか一方により前記複数のウェイト乗算部40に供給されるウェイトが制御されるように切り換える。すなわち、上記FFT部84は、前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号の品質が十分であるか否かを判定する受信品質判定部として機能する。
図8は、発明者がシミュレーションにより得た実験データであり、上記FFT部84の判定が否定される場合、すなわち前記受信信号合成部42から出力される合成信号に妨害波成分が含まれない場合の周波数と信号強度との関係を示している。この図8に示すように、前記合成信号に妨害波成分が含まれない場合には、前記質問波Fcの搬送波及び無線タグ14からの応答波(反射波)Frに相当する周波数成分にのみピークが現れる。一方、図9は、上記FFT部84の判定が肯定される場合、すなわち前記受信信号合成部42から出力される合成信号に妨害波成分が含まれる場合の周波数と信号強度との関係を示している。この図9に示すように、前記合成信号に妨害波成分が含まれる場合には、前記質問波Fcの搬送波及び無線タグ14からの応答波Frに無関係な周波数成分にもピークが現れる。
前記指向性制御切換部60は、先ず、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御するようにして、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御しても前記FFT部84の判定が肯定される場合には、前記AAAウェイト制御部56により前記受信信号の指向性を制御するように切り換える。換言すれば、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御するようにして、それで受信信号を正しく復号できないと判定される場合には、前記AAAウェイト制御部56により前記受信信号の指向性を制御するように切り換える。
図10は、前記無線タグ通信装置80のDSP16による前記無線タグ14との情報通信制御におけるPAA制御を説明するフローチャートであり、前述した図5の制御に相当するものである。なお、前記無線タグ通信装置80のDSP16による前記無線タグ14との情報通信制御及びAAA制御は、前述した図4及び図6のフローチャートに従って実行されるものであるため、本実施例においてはその説明を省略する。また、図10に示すPAA制御において、前述した図5の制御と共通するステップについては同一の符号を付してその説明を省略する。
図10の制御では、前述したSB3の処理に続いて、SB11において、前記受信信号合成部42から出力される合成出力YがFFT処理される。次に、SB12において、SB11のFFT処理において妨害波成分が検出されたか否かが判断される。このSB12の判断が否定される場合には、前述したSB4以下の処理が実行されるが、SB12の判断が肯定される場合には、図4に示す制御に復帰させられ、前述したSA3以下の処理が実行される。以上の制御において、SB11及びSB12が前記FFT部84の動作に、SB12が前記指向性制御切換部60の動作にそれぞれ対応する。
このように、本実施例によれば、前記受信品質判定部は、前記受信信号に妨害波が含まれるか否かを判定するFFT部84(SB11及びSB12)であり、そのFFT部84の判定が肯定される場合には、前記判定を否定するものであるため、実用的な態様で前記受信信号の品質を判定することができる。
図11は、本発明の更に別の実施例である無線受信装置88が組み込まれた無線タグ通信装置86の構成を説明する図である。この図11に示すように、上記無線タグ通信装置86には、前記AM変調部38により変調された送信信号を記憶すると共に、前記DSP16からの指令に応じてそのDSP16にその送信信号を出力させる記憶装置であるメモリ部90と、そのDSP16から供給される指向性制御された送信信号をアナログ信号に変換する複数(図11では3つ)の送信信号D/A変換部18a、18b、18c(以下、特に区別しない場合には単に送信信号D/A変換部18と称する)と、それら送信信号D/A変換部18によりアナログ信号に変換された送信信号それぞれの周波数を前記周波数変換信号出力部20から出力される周波数変換信号の周波数だけ高くする複数(図11では3つ)のアップコンバータ22a、22b、22c(以下、特に区別しない場合には単にアップコンバータ22と称する)と、それらアップコンバータ22によりそれぞれアップコンバートされた送信信号を質問波Fcとして前記無線タグ14に向けて送信するための複数(図11では3つ)の送信アンテナ素子24a、24b、24c(以下、特に区別しない場合には単に送信アンテナ素子24と称する)とを、備えて構成されている。また、上記無線タグ通信装置86のDSP16には、前記ウェイト制御部52により算出されるPAAウェイト又はAAAウェイトを送信信号に乗算する複数(図11では3つ)の送信側ウェイト乗算部94a、94b、94c(以下、特に区別しない場合には単に送信側ウェイト乗算部94と称する)とを、機能的に含んでいる。すなわち、本実施例の無線タグ通信装置86は、送受信共に指向性制御を行い得る構成を備えている。
図12は、上記無線タグ通信装置86のDSP16による前記無線タグ14との間の情報通信制御について説明するフローチャートであり、前述した図4の制御に相当するものである。この図12に示すRFID通信制御において、前述した図4の制御と共通するステップについては同一の符号を付してその説明を省略する。
図12の制御では、前述した図5に示すPAA制御に続いて、SA4において、通信対象である無線タグ14が検知されたか否かが判断される。このSA4の判断が否定される場合には、図13に示す第2のPAA制御が実行されるが、SA4の判断が肯定される場合には、前述した図6に示すAAA制御が実行された後、SA5において、前記返答ビット列解釈部48により正常な復号が行われたか否かが判断される。このSA5の判断が肯定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、SA5の判断が否定される場合には、図13に示す第2のPAA制御が実行された後、SA6において、通信対象である無線タグ14が検知されたか否かが判断される。このSA6の判断が否定される場合には、通信対象である無線タグ14は存在しないとして本ルーチンがエラー終了させられるが、SA6の判断が肯定される場合には、前述した図6に示すAAA制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。
図13は、図12のRFID通信制御の一部である第2のPAA制御を説明するフローチャートである。この図13に示す第2のPAA制御において、前述した図5の制御と共通するステップについては同一の符号を付してその説明を省略する。
図13の制御では、前述したSB1の処理に続いて、SB11において、前記メモリ部90から読み出された送信信号に前記ウェイト制御部52により算出されるPAAウェイトが乗算され、前記複数の送信信号D/A変換部18及びアップコンバータ20を介して前記複数の送信アンテナ素子20から質問波Fcとして前記無線タグ14に向けて送信される。次に、SB12において、SB11にて送信された質問波Fcに応じて前記無線タグ14から返信される応答波Frが前記複数の受信アンテナ素子26により受信され、前記複数のダウンコンバータ28及び受信信号A/D変換部30を介して前記メモリ部32に記憶された後、前述したSB2以下の処理が実行される。
このように、前記無線タグ通信装置86は、先ず、前記複数の送信アンテナ素子により送信される送信信号の指向性を初期設定のままとして、受信信号についてのみPAA処理及びAAA処理を行い、前記無線タグ14から返信される返信信号が適切に復号されない場合には、前記PAAウェイト制御部54により前記送信指向性及び受信指向性を制御し、更に前記受信品質判定部の判定が否定される場合には、前記AAAウェイト制御部56により前記送信指向性及び受信指向性を制御するように切り換えるものであるため、前記無線タグ14との間で好適な情報通信を行うことができる。
図14は、本発明の更に別の実施例である無線受信装置98が組み込まれた無線タグ通信装置96の構成を説明する図である。この図14に示すように、上記無線タグ通信装置96のDSP16には、前記返答ビット列解釈部48による前記受信信号の復号結果がエラーであるか否かを判定するエラー判定部100が機能的に備えられており、前記指向性制御切換部60は、このエラー判定部100の判定に基づいて前記PAAウェイト制御部54及びAAAウェイト制御部56のうち何れか一方により前記複数のウェイト乗算部40に供給されるウェイトが制御されるように切り換える。すなわち、上記エラー判定部100は、前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号の品質が十分であるか否かを判定する受信品質判定部として機能する。上記エラー判定部100は、換言すれば、前記返答ビット列解釈部48による前記受信信号の復号品質が所定範囲内であるか否かを判定するものであり、その復号品質が所定範囲外である場合には、前記受信信号の復号結果がエラーであると判定する。
前記指向性制御切換部60は、先ず、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御するようにして、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御しても前記エラー判定部100の判定が肯定される場合には、前記AAAウェイト制御部56により前記受信信号の指向性を制御するように切り換える。換言すれば、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御するようにして受信信号を正しく復号できないと判定される場合には、前記AAAウェイト制御部56により前記受信信号の指向性を制御するように切り換える。
このように、本実施例によれば、前記受信信号を復号するFSK復号部46を含み、前記受信品質判定部は、前記返答ビット列解釈部48による前記受信信号の復号結果がエラーであるか否かを判定するエラー判定部100であり、そのエラー判定部100の判定が肯定される場合には、前記判定を否定するものであるため、実用的な態様で前記受信信号の品質を判定することができる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
例えば、前述の実施例において、PAA制御を行う前に、先ず前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号の指向性を初期設定(例えば無指向性の状態)のままとしPAAウェイト制御部54及びAAAウェイト制御部56のどちらも動作しないようにして、前記受信品質判定部において判定を行い、否定される場合には、前記PAAウェイト制御部54により前記受信信号の指向性を制御するように切り換えるようにしてもよい。そうすれば、無線タグが比較的近くにある可能性が高い場合などに更に処理時間を短縮することができる。
また、前述の実施例において、前記複数の受信アンテナ素子26により受信される受信信号の品質が十分であるか否かを判定する受信品質判定部は、前記受信信号強度判定部50、FFT部84、及びエラー判定部100のうち何れかであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、それらのうち何れか2つ乃至は全てを前記受信品質判定部として含み、複数の受信品質判定部の判定結果に応じて指向性制御を切り換えるものであってもよい。また、前述の実施例とは異なる態様により受信信号の品質が十分であるか否かを判定するものであってもよく、例えば、前記AM復調部44による復調結果がエラーであるか否かを判定することで前記判定を行うものであっても構わない。
また、前述の実施例において、前記受信信号強度判定部50、ウェイト制御部52、PAAウェイト制御部54、AAAウェイト制御部56、及び指向性制御切換部60等は、前記DSP16に機能的に備えられたものであったが、これらはそれぞれ個別の制御装置として設けられるものであってもよい。また、それらの制御は、ディジタル信号処理によるものであるとアナログ信号処理によるものであるとを問わない。
また、前述の実施例において、前記無線タグ通信装置12等は、前記送信信号を送信するための送信アンテナ素子24及び前記返信信号を受信するための受信アンテナ素子26をそれぞれ個別に備えたものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記送信信号を送信すると共に前記返信信号を受信するための送受信共用のアンテナ素子を備えたものであっても構わない。このようにすれば、前記無線タグ通信装置12等の構成を可及的に簡単なものとすることができる。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
本発明の無線受信装置が好適に用いられる通信システムを説明する図である。
本発明の一実施例である無線受信装置が組み込まれた無線タグ通信装置の構成を説明する図である。
図2の無線タグ通信装置の通信対象である無線タグの構成を説明する図である。
図2の無線タグ通信装置のDSPによる図3の無線タグとの間の情報通信制御について説明するフローチャートである。
図4のRFID通信制御の一部であるPAA制御を説明するフローチャートである。
図4のRFID通信制御の一部であるAAA制御を説明するフローチャートである。
本発明の他の実施例である無線受信装置が組み込まれた無線タグ通信装置の構成を説明する図である。
図7の無線タグ通信装置において受信信号合成部から出力される合成信号に妨害波成分が含まれない場合の周波数と信号強度との関係を示す図である。
図7の無線タグ通信装置において受信信号合成部から出力される合成信号に妨害波成分が含まれる場合の周波数と信号強度との関係を示す図である。
図7の無線タグ通信装置のDSPによる図3の無線タグとの情報通信制御におけるPAA制御を説明するフローチャートである。
本発明の更に別の実施例である無線受信装置が組み込まれた無線タグ通信装置の構成を説明する図である。
図11の無線タグ通信装置のDSPによる図3の無線タグとの間の情報通信制御について説明するフローチャートである。
図12のRFID通信制御の一部である第2のPAA制御を説明するフローチャートである。
本発明の更に別の実施例である無線受信装置が組み込まれた無線タグ通信装置の構成を説明する図である。
符号の説明
14:無線タグ(通信対象)
26:受信アンテナ素子
46:FSK復号部
50:受信信号強度判定部(受信品質判定部)
54:PAAウェイト制御部(フェイズドアレイ制御部)
56:AAAウェイト制御部(アダプティブアレイ制御部)
60:指向性制御切換部
62、82、88、98:無線受信装置
84:FFT部(妨害波判定部、受信品質判定部)
100:エラー判定部(受信品質判定部)