JP4529191B2 - 重金属の安定化処理方法、重金属の安定化剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、重金属の安定化剤、重金属の安定化処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ごみ焼却施設の集塵設備で捕集されたばいじんには、鉛等の重金属が含むため、この重金属が溶出しないように安定化してから埋め立て等の最終処分を行う方法が採用されている。
わが国では法律上、上記のような重金属の安定化方法として4種類の方法が定められている。しかし、厳しい溶出基準値をクリアし、且つ実用上適用可能な方法としては、結局のところ、薬剤混練法が多用されてきた。ところが、国の重金属規制基準値が厳しくなったため、これまで使用されてきた薬剤混練法では、多量の薬剤を使用しなければならなくなり、その結果、コストが異常に高くなり、実用的に実施するのが極めて困難な状況にある。
【0003】
すなわち、従来から用いられている有機キレート剤は、ポリアルキルアミンのジチオカルバミン酸ソーダや、メルカプト基を有する有機化合物を用いて重金属をキレートする方法である。
また、無機化合物による安定化剤としては、例えば特開平7−39847号公報、特開平7−185499号公報に開示された技術がある。これらの方法は、無機物質で重金属を封じ込めて固定化する方法である。
【0004】
さらに、別の安定化方法として、酸その他の溶媒による安定化方法がある。この方法は、▲1▼ばいじんと水を混合して混合槽でスラリー状にした後、▲2▼第1反応槽で塩酸溶液を加えて重金属などを酸抽出し、▲3▼第2反応槽で苛性ソーダ等を加えて重金属水酸化物のスラリーとして、▲4▼安定化処理槽に一旦、貯留する。その後、▲5▼水酸化物スラリーは脱水機に送られて固液分離し、分離ケーキは▲6▼セメント等で固化処理されたあと埋め立て処分される。また、▲7▼水酸化物脱水廃液は汚水貯槽に送られ、▲8▼排水処理設備においてpH調整等を行い、国が定める排水基準値を確認したあと処分される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来、鉛等の重金属の安定化剤として広く使用されてきた有機キレート剤は、高価であってコストが高くつく欠点がある。pH調整用に使用する硫酸バンドやキレート剤とばいじんが意図せぬ反応を起こし、安定化処理過程で硫化水素・二硫化炭素・チウラム等の新たな有害物質を生成してしまうことが報告されている。高濃度重金属を含有する溶融飛灰に対しては、有機キレート剤を20〜30%添加したとしても前記基準値内まで安定化させることは難しい。埋め立て処理後に、土壌の微生物によって有機部分の分解が予想されるため、長期の安定化性能については危惧されている。一般に窒素を含む有機化合物は、土壌菌であるニトロモナスやニトロバクター等により分解され、最終的には窒素ガスになることが周知であり、そうなると、有害な重金属だけが残ることになる。
【0006】
前記無機化合物による安定化剤は、例えば、特開平7−39847号によれば、ばいじんに対し40部を添加して混練した結果が実施例に記載されているが、効率が悪く現在の法律基準には適応しない。また、特開平7−185499号に記載された実施例は安定化処理7日後の溶出試験例であり、処理後に余分な養生工程を必要とし実用性が期待できない。また、単に無機物で重金属を封じ込めて安定化しているに過ぎず、また1ケ月後の測定値も記載されていない。
【0007】
前記した酸その他の溶媒による安定化方法は、処理工程が大変に複雑であり、設備機器の材質選定にも制限が多いという欠点がある。具体的には、ばいじんは「細かい、飛散する、吸湿する、塩類等の腐食性物質を含有する」などの特性を有し、これらの特性にもとづき「機器内で沈降する、凝集する、詰まる、機器を磨耗させる、腐食させる、閉塞させる」などの問題を起こす。強アルカリのばいじんから重金属を酸抽出するには、多量の塩酸が必要になる。分離ケーキはセメント等で固化処理しなければ処分できない。以上の結果、コストが高くつくだけでなく、処理工程が複雑で安全性にも問題が多い。
【0008】
上記説明は、重金属として鉛を主な対象にして説明したが、安定化を必要とする重金属には、鉛以外にも水銀その他の有害な重金属がある。
本発明は、前記した従来における重金属の安定化方法の問題点を解消し、鉛等の各種重金属を含有するばいじんや焼却灰に使用可能であり、特にばいじんからの鉛の溶出量を法定基準値である0.3ppm以下にすることが可能であって、pH調整の際の安全性を維持し、処理工程を簡易にし、さらに安全かつ効率的に処理でき、従来の重金属安定化処理のコスト高を解消することが可能な重金属の安定化処理方法および安定化剤を提供することである。
【0009】
本発明は、前記のような状況に鑑みてなされたものであって、基本的には薬剤混練法でありながら、従来の薬剤混練法では到底達し得なかった重金属の安定化を達成したものである。
本発明は、有機キレート剤と比較して、取扱いが煩雑で、且つその安定化の効率も良くなく実用上は殆ど用いられなかった無機系の安定化剤に対して、従来では考えられなかった工夫を施すことにより、有機キレート剤と比較して飛躍的に安定化率の向上した安定化方法、安定化剤を提供するものである。
【0010】
すなわち、廃棄物中の重金属を、含有された状態で硫化物化するという全く新しい安定化剤、安定化方法を提供するものであって、その中心的な剤としてチオ基含有化合物を用いるという新規な技術的思想に基づくものである。従来の安定化剤の考え方は、廃棄物中の重金属をキレートするか、無機物で封じ込めて安定化するかであるが、本発明は廃棄物中の重金属を、含有された状態でもともと自然界に長期間安定的に存在していた化合物の形に戻すことにより、有害な重金属の安定化を図るものであって、従来の考え方とは異なるものである。
【0011】
本発明者は、緩衝作用によるpH調整を行う成分(リン酸、第1リン酸塩等)とチオ尿素からなる安定化剤により、法律基準値をクリアすることを見い出したが、チオ尿素が重金属の安定化に寄与する作用は、重金属を吸着・捕捉するというよりはむしろ、重金属を硫化物化する働きであると思われる。
すなわち、水酸化物、塩化物の重金属を、チオ尿素により硫化物化すると考えられる。
【0012】
本発明は廃棄物に対して緩衝作用によるpH調整を行う第1成分を併用することにより上記チオ尿素の働きを有効にした安定化処理方法、安定化剤を提供する。第1成分としては、リン酸、第1リン酸塩を用いる。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる重金属の安定化処理方法は、重金属含有物質に安定化剤を混合して、少なくともpH調整を行いつつ前記重金属成分との反応により不溶性重金属化合物を生成する第1成分と、前記不溶性重金属化合物を硫化物化するチオ基含有化合物とを用い、必要に応じて、残存する前記重金属成分を吸着・捕捉して安定化させる第2成分とをも用いる方法である。
第1成分としては使用時にリン酸イオンを生じる化合物が好ましい。具体的には、リン酸、第1リン酸塩、第2リン酸塩、トリポリリン酸塩およびヘキサメタリン酸塩のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。そのうち、第1リン酸塩が好ましい材料である。
また、本発明にかかる重金属の安定化剤は少なくともpH調整を行いつつ前記重金属成分との反応により不溶性重金属化合物を生成する第1成分と、前記不溶性重金属化合物を硫化物化するチオ基含有化合物とを成分として用いるものである。
【0014】
第2成分としては、ケイ酸塩、アルミン酸塩、アルギン酸塩、酸性白土、活性白土、ベントナイト、ケイソウ土、石膏、人工ゼオライト、フライアッシュ、シリカヒューム、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ砂、ホワイトカーボンおよびシリカゲルのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。そのうち、活性白土が好ましい材料である。
【0015】
本発明は、第1成分の作用により、重金属成分を不溶性の化合物に変えることで溶出を防ぐとともに、その際に、第1成分が有する緩衝作用によってpHを、重金属成分の不溶化反応が効率的に行われる範囲、例えばpH10程度に調整する。さらに、第2成分の作用で、重金属化合物や重金属イオンを吸着・捕捉することでも、重金属成分の溶出が防止される。不溶性重金属化合物の生成と、重金属成分の吸着・捕捉という2種類の異なる作用が相乗的に発揮されることで、重金属の安定化が効果的に果たされる。
【0016】
第1成分だけでもある程度の安定化は可能であるが、第1成分だけで十分な安定化作用を果たさせるには第1成分を大量に使用しなければならない。第1成分は比較的高価な材料であるためコストが高くつく。しかも、第1成分を単に大量に使用しただけでは重金属の安定化作用の効率が悪い。そこで、第1成分とは重金属に対する安定化の機構が異なる第2成分を加えておくことで、第1成分だけでは安定化できない重金属成分についても安定化することが可能になる。第2成分には比較的安価な材料が使用できるので、第2成分を比較的多量に使用してもコストが増大することはない。
【0017】
第1成分および第2成分はそれぞれ、独立した単独の薬剤として添加される場合もあるし、複数の薬剤が使用時に反応あるいは相互作用を生じて、第1成分あるいは第2成分としての作用を発揮する場合もある。ひとつの薬剤が、第1成分および第2成分の両方の作用に関与する場合もある。
本発明の安定化剤の具体例を挙げる。
【0018】
第1成分としてリン酸と第1リン酸塩とを用い、第2成分としてケイ酸塩を用いることができる。第1成分としてリン酸と第1リン酸塩とを用い、第2成分としてケイ酸塩とアルミン酸塩とを用いることができる。第1成分としてリン酸、第1リン酸塩及びトリポリリン酸塩を組み合わせ、第2成分としてケイ酸塩を用いることができる。第1成分としてリン酸と第1リン酸塩を用い、第2成分としてケイ酸塩、アルミン酸塩及びアルギン酸塩を組み合わせることができる。第1成分としてリン酸を用い、第2成分としてケイ酸塩とケイソウ土を用いることができる。第1成分として第2リン酸塩とトリポリリン酸塩とを用い、第2成分としてケイ酸塩を用いることができる。
【0019】
第2成分として、緻密な固化物を形成してその中に鉛化合物や鉛イオンを閉じ込め捕捉する酸性白土、ベントナイト、石膏、フライアッシュ、ケイ砂、ホワイトカーボン、シリカゲル、あるいは、水酸化カルシウムと反応してケイ酸カルシウムを生成してその結晶粒子間に鉛化合物や鉛イオンを閉じ込め捕捉するシリカヒューム等の酸化ケイ素を主成分とする微粉末を用いることもできる。但し、これらの材料は、前記したケイ酸塩やケイソウ土などに補完的に加えておくのが好ましい。
【0020】
なお、本発明において安定化させることのできる重金属としては、鉛以外にも両性水酸化物をつくる亜鉛、アルミニウム、スズ、砒素、さらに水銀、カドミウム、6価クロム等も対象となる。
前記第1成分としてのリン酸は、リン酸水溶液のままで用いるほか、ケイソウ土などの吸着作用を有する粉体すなわち吸着性粉体にリン酸水溶液を吸収させて担持させた状態の粉粒状リン酸を用いることができる。粉粒状リン酸は、輸送保管等の取扱いが容易であり、安定化剤の製造および重金属含有物質への混合操作なども容易になる。吸収性粉体として、ケイソウ土など前記した第2成分に相当する材料を用いれば、粉粒状リン酸が、第1成分としての機能に加えて、第2成分としての機能をも発揮することになる。但し、第2成分の機能は、粉粒状リン酸だけでは十分に達成できない場合が多いので、安定化剤には粉粒状リン酸とは別個に第2成分となる材料を添加しておくことが好ましい。
【0021】
本発明のうち、さらに別の発明にかかる重金属の安定化処理方法は、鉛を含む重金属を含有するばいじんや焼却灰に、重金属の安定化剤を添加し混練して、前記ばいじんや焼却灰中の重金属を安定化するに当り、前記安定化剤として、リン酸、第1リン酸塩のうちの少なくとも1種と、チオ尿素とを用い、更に活性白土を加えた粉体状の安定化剤を用いて、ばいじんや焼却灰中に含有された状態で少なくとも鉛を硫化物化する、重金属の安定化処理方法である。
また、本発明にかかる重金属の安定化剤は、鉛を含む重金属を含有するばいじんや焼却灰に、添加し混練して、前記ばいじんや焼却灰中の重金属を安定化する安定化剤であって、リン酸、第1リン酸塩のうちの少なくとも1種と、チオ尿素とを用い、更に活性白土を加えた粉体状の重金属の安定化剤である。
【0022】
前記第2成分に替えてチオ基含有化合物を用いることができる。また、第1成分および第2成分に加えてチオ基含有化合物をさらに含有させておくことができる。
チオ基含有化合物は、重金属と反応して不溶性の硫化物を生成する。この硫化物による安定化は、前記した第1成分や第2成分による安定化よりもさらに安定な状態が得られる。特に、チオ基含有化合物による安定化作用は、第1成分および第2成分による安定化が完了した重金属含有物質を埋め立て等で放置しておいた状態でも徐々に進行して、前記した安定な硫化物を作る。第1成分により生成した不溶化物がチオ基含有化合物と反応して、より安定な硫化物となる。したがって、経時的な安定化維持に有効である。従来の高分子キレート剤で生成される有機金属錯化合物は長い年月の間には分解することが懸念されている。また、チオ基含有化合物は、溶出する硫化物を原因とする臭気や硫化水素発生の問題を解消することができる。
【0023】
チオ尿素は、溶液にして用いることもできるが、粉体状のチオ尿素を用いれば、取扱いが容易になる。特に、粉体状の第1成分あるいは第2成分と組み合わせて使用するのに好都合である。
第1成分および第2成分に加えて、硫酸バンドをさらに含有させておくことができる。
【0024】
硫酸バンドは、第1成分におけるpH調整機能を補完する。したがって、従来のpH調整剤としての硫酸バンドの使用量に比べて少ない量で十分である。硫酸バンドとして粉体状のものを用いれば、取扱いが容易であり、粉体状の安定化剤を製造するのにも好都合である。
第1リン酸塩と粉体状の硫酸バンドと粉体状のチオ尿素とを含有する安定化剤は、取扱いが容易であるとともに、ばいじん等への混合操作が容易で安定化作用を効率的に発揮させることができる。
【0025】
重金属含有物質は、ゴミ焼却施設や各種工場設備などから排出される焼却灰、ばいじん、廃液、汚染土壌、ヘドロなど、含有する重金属の安定化が必要とされる物質であれば、任意の物質に適用できる。本発明の安定化剤は、重金属含有物質としてばいじんに適用したときに特に優れた機能が発揮できる。ばいじんには、焼却ばいじんあるいは溶融ばいじんがあり、何れにも適用できるが、重金属を高濃度で含有する溶融ばいじんに対して優れた効果を発揮する。通常、溶融ばいじんからは鉛が数百〜数千ppm 以上も溶出することが知られている。
【0026】
最後に、現在廃棄物の最終処分場不足が深刻な社会問題となっており、再資源化が望まれている。従って本発明を適用して都市ごみ焼却灰中の重金属成分も硫化物化することにより、長期的に安定性能が高く、路盤材、土木資材、歩道ブロック等のリサイクルに貢献できる。再生路盤材の製造設備の場合は焼却灰と安定化剤の混練機、混練物の加圧成型機及び一定期間養生後に成型物を40mm以下に破砕すれば再生路盤材として有効利用が可能になる。一定期間養生後の重金属溶出値は再生利用の土壌汚染に係る環境基準値をクリアできる。この方法は、高温焼成、焼却灰溶融方法と比較し、極めて簡単であり、処理コストが低減でき実用化が容易である。また、溶融飛灰等の発生がない。
【0027】
本発明の重金属の安定化剤は、少なくともチオ基含有化合物を含むことができる。チオ基含有化合物は粉粒状であることが取り扱い上好ましい。特にチオ尿素であれば、安定化処理において有毒ガスの発生がなく重金属を硫化物化できる。各々の重金属含有物質により、共存物質、重金属の含有量、溶出量、溶出挙動のすべてに違いがある。よって、ポルトランドセメント、高炉セメント、硫酸バンドを、目的及び重金属含有物質別に応じて併用することにより、効率良く安定化できる。
【0028】
【作用】
(1) 第1成分の作用
第1成分は、緩衝作用によってpHを調整しながら不溶性の重金属化合物を生成させる。
ここに、不溶性の重金属化合物とは、例えば、重金属含有物質がpH10近辺になると析出する水酸化鉛等である。但し、水酸化鉛は雰囲気が再び強アルカリ性になると再溶解する。しかし、第1成分としてリン酸、第1リン酸塩等のリン酸系化合物を用いれば、水酸化鉛はリン酸鉛になり、再び溶解するおそれのない強固な不溶性化合物となる。その意味では、第1成分としてリン酸系化合物を用いることが好ましい。
【0029】
ここで、緩衝作用を有するとは、それ自体が緩衝作用を発揮する場合に限らず、他の薬剤と共働して緩衝作用を発揮する場合も含む。他の薬剤とは、第2成分あるいはそれ以外に安定化剤に添加された成分、さらには、ばいじん等の重金属含有物質中に存在する化合物等である。例えば、第1成分としてリン酸のみが用いられた場合、このものは単独では緩衝作用を発揮しないが、第2成分として用いられるケイ酸ソーダと共働して緩衝作用を発揮する。
【0030】
以下では、ばいじんを一例にとって、上述したことを具体的に説明する。
ばいじん中の酸化カルシウムは水と反応して水酸化カルシウムを生成し、ばいじん中の塩化鉛や酸化鉛等からは鉛イオンが溶出する。リン酸系化合物は、これとばいじんとの混合溶液のpHを例えば10近辺に低下させ、そのpHを維持しようとする緩衝作用を発揮する。pH10近辺では、前記水酸化カルシウムと鉛イオンが反応して水酸化鉛が生成する。
【0031】
そして、前記リン酸系化合物は、水酸化鉛をイオン化させた後に、水に不溶性の非常に安定なリン酸鉛を生成させる。
なお、弱酸に含まれる前記リン酸系化合物の代わりに塩酸等の強酸を使用すると、ばんじんに含まれるカルシウムが大量に溶出してくるために、大量の強酸を用いなければpH調整ができない。塩酸等には緩衝作用はない。これに対し、リン酸やその塩は弱酸性なのでカルシウムを溶出させることは少ない。また、溶けた水酸化カルシウムと反応して難溶性のリン酸カルシウムを生成することでアルカリを中和してしまう。したがって、pH調整に必要な使用量が少なくて済む。このことから、ばいじん等に含有される重金属の安定化には、リン酸やその塩の使用が好ましい。
【0032】
(2) 第2成分の作用
第2成分は、上記第1成分によっても不溶化せずに残存する重金属化合物や重金属イオンを吸着・捕捉することができる。
ここで、「吸着・捕捉」とは、物理的および化学的な吸着作用または捕捉作用を意味しており、吸着と捕捉の両方の作用があってもよい。
【0033】
かかる第2成分として、例えば、ケイ酸塩、アルギン酸塩は、リン酸の存在下でゲル化して立体的な網目構造を形成し水分子の移動を妨げることにより、重金属イオンの移動を妨げ、これを捕捉する。
また、アルミン酸塩はコロイド状の水酸化アルミニウムを生成させ、この水酸化アルミニウムは第1成分に未反応の重金属化合物や残存重金属イオンを吸着する。
【0034】
ケイソウ土も、未反応の重金属化合物や重金属イオンを吸着する。また、ケイソウ土は、水酸化カルシウムと反応してケイ酸カルシウムを生成し、その結晶粒子間に重金属化合物や重金属イオンを閉じ込め、捕捉する。
(3) なお、ばいじん中の酸化カルシウムと水が反応して水酸化カルシウムが生成するが、リン酸はこの水酸化カルシウムと反応してリン酸カルシウムを生成させ、このリン酸カルシウムの結晶粒子の間に未反応の重金属化合物や重金属イオンを封じ込め、捕捉することにより重金属の再溶出を妨げる。
【0035】
以上の説明は、重金属として鉛を例に挙げて説明したが、鉛以外の重金属についても同様の反応あるいは作用によって安定化が図られる。
【0036】
【発明の実施の形態】
(安定化剤の形態)
重金属安定化剤の形態としては、表1に例示するように粉体、液体があり、重金属安定化処理設備によって使い分けられる。
例えば、重金属安定化処理設備に貯溜槽や送液設備が備わっている場合は液体の重金属安定化剤を使用すれば作業性もよく労力も少なくて済むが、これらが備わっていない場合は粉体の重金属安定化剤が好ましい。粉体の重金属安定化剤は、嵩が低く重量も軽くなり、輸送保管その他の取扱いが容易である。粉体の重金属安定化剤が、内部に水分を含有するものであれば、ばいじん等に混合して安定化作用を発揮させる際に前記水分が機能する。
【0037】
(安定化剤の成分)
重金属安定化剤の成分について、第1成分であるリン酸としては取扱時の安全性が高いことや低温時に氷結しないこと等の点から75%水溶液の形態が好ましい。第1リン酸塩、第2リン酸塩、トリポリリン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、アルギン酸塩等の塩類は、コスト低下や取扱容易の点からそれぞれナトリウム塩が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0038】
(成分の配合割合)
重金属安定化剤を構成する成分の配合割合は、第1成分と第2成分との組み合わせ形態及び安定化剤が粉体か液体かによって決定される。
安定化剤が、第1成分としてリン酸と第1リン酸塩を用い、第2成分としてケイ酸塩を用いる場合について一例を挙げれば、第1成分と第2成分の合計を100重量%として、リン酸15〜40重量%、第1リン酸塩10〜30重量%、ケイ酸塩45〜65重量%で実施できる。
【0039】
安定化剤が、第1成分としてリン酸と第1リン酸塩を用い、第2成分としてケイ酸塩とアルミン酸塩を用いる場合について一例を挙げれば、第1成分と第2成分の合計を100重量%として、リン酸15〜40重量%、第1リン酸塩10〜30重量%、ケイ酸塩25〜45重量%、アルミン酸塩10〜30重量%で実施できる。
【0040】
安定化剤が、第1成分としてリン酸、第1リン酸塩及びトリポリリン酸塩を用い、第2成分としてケイ酸塩を用いる場合について一例を挙げれば、第1成分と第2成分の合計を100重量%として、リン酸10〜35重量%、第1リン酸塩10〜25重量%、トリポリリン酸塩10〜30重量%、ケイ酸塩35〜60重量%で実施できる。
【0041】
安定化剤が、第1成分としてリン酸と第1リン酸塩を用い、第2成分としてケイ酸塩、アルミン酸塩及びアルギン酸塩を用いる場合について一例を挙げれば、第1成分と第2成分の合計を100重量%として、リン酸15〜35重量%、第1リン酸塩10〜25重量%、ケイ酸塩35〜60重量%、アルミン酸塩5〜25重量%、アルギン酸塩2〜8重量%で実施できる。
【0042】
安定化剤が、第1成分としてリン酸を用い、第2成分としてケイ酸塩とケイソウ土を用いる場合について一例を挙げれば、リン酸15〜35重量%、ケイ酸塩20〜40重量%、ケイソウ土35〜55重量%で実施できる。
安定化剤が、第1成分として第2リン酸塩とトリポリリン酸塩を用い、第2成分としてケイ酸塩を用いる場合について一例を挙げれば、第1成分と第2成分の合計を100重量%として、第2リン酸塩5〜20重量%、トリポリリン酸塩5〜25重量%、ケイ酸塩65〜90重量%で実施できる。
【0043】
さらに好ましい配合として、第1成分としてリン酸または第1リン酸塩を用い、第2成分として、ケイソウ土、ホワイトカーボン、活性白土および合成ケイ酸アルミニウムからなる群から選ばれる何れか1種または複数種の材料を用い、さらに、チオ尿素と硫酸バンドを加えたものが挙げられる。この場合の好ましい配合割合として、第1成分20〜50重量%、第2成分10〜40重量%、チオ尿素10〜40重量%、硫酸バンド20〜50重量%が挙げられる。
【0044】
安定化剤が液体の場合も、固形成分を基準とする配合割合では以上の粉体の各安定化剤の成分配合割合と同様である。
(安定化剤の調製方法)
本発明の重金属安定化剤の調製方法の具体例について、その代表例を図1及び図2に示す。粉体の重金属安定化剤を調製する際には、原料間の混合比が大きく、しかも比重差も大きいため、一部の原料が部分的に偏らないように均一に混合することに留意する。以下、その調製方法を図1に基づいて説明する。
【0045】
配合量からすると、第1成分は第2成分よりも少量であるため、図1にみるように先ず第1成分だけを混合する。すなわち、先ず第1成分A1 と第1成分A2 とを混合精度の高い混合機で均一に混合する。次に、長さと幅の比が少なくとも1対5以上である所定の割合で横方向に長くしたリボンブレンダーに、その一方の端から、上記第1成分2種の混合物Aと第2成分B1 と第2成分B2 とを、上記混合物A、単品B1 、単品B2 の順序で供給して、バッチ式操作の場合は約3分間攪拌混合し、連続式操作の場合は平均滞留時間を約6分間として攪拌混合する。その後、上記リボンブレンダー内で攪拌混合された物(粉体の重金属安定化剤)を当該リボンブレンダーの底部の取出口からロータリーバルブを介して袋詰機又は輸送コンベアに送りだす。
【0046】
一方、液体の重金属安定化剤を調製する際には、発熱・飛散等の操作上の危険、原料の沈降や混合液のゲル化を防ぐために、原料の配合順序を正しく行うこと及び均一に混合することに留意する。以下、その調製方法を図2に基づいて説明する。
標準的調製方法としては、図2にみるように、混合槽Iに先ず所定量の水を投入し、次に攪拌しながら第1成分A1 を静かに投入し、その後、第1成分A2 を投入して約3分間攪拌する。これと同時に混合槽IIにも所定量の水を投入し、次に攪拌しながら第2成分B1 と第2成分B2 とを投入して約3分間攪拌する。次いで、上記混合槽Iの液と上記混合槽IIの液とを同時に混合槽IIIへ投入し約10分間攪拌混合する。その後、上記混合槽III内で得られた物(液体の重金属安定化剤)を取出ポンプによってドラム缶注入機又はタンクローリー車に送り込む。
【0047】
但し、第2成分として用いる成分B2 には、例えば、アルギン酸ソーダのように水量が少ないとゲル状になってしまい、上記混合槽IIにおけるB1 との攪拌混合を不十分にさせるものがあるので、B2 が上記のようなものである場合の液体の重金属安定化剤の調製方法は、上記の標準的調製方法と以下の点で相違する。
すなわち、混合槽IIにおいてB2 を投入せず、混合槽IIIにおいて混合槽Iの液と混合槽IIの液とを同時に投入した後に、この混合槽IIIに初めてB2 を投入し、約10分間攪拌混合する点である。
【0048】
(安定化剤の使用方法)
本発明にかかる重金属安定化剤は、ばいじん以外の重金属含有物質にも適用されるが、以下、ばいじんを例に挙げてその使用方法を具体的に説明する。
上記重金属安定化剤を使用する際には、ばいじん中の重金属安定化の処理コスト低下のためにも、ばいじん中からごく僅かに溶出する重金属を効率よく不溶性化合物に変えたり吸着・捕捉することが重要である。そのため、重金属安定化剤をばいじん中に均等に分配・浸透させて重金属安定化剤と重金属が接触する機会を最大にすることが要請される。
【0049】
上記要請に応えるためには、ばいじん中に重金属安定化剤を均一に練り込むことができるような、混練機の構造の選定と作業方法が重要となる。また、混練機の選定に当たっては、混練工程においてリン酸やケイ酸とカルシウム成分とが反応して固い結晶が生成し、これが機壁に付着してスケールとなって攪拌操作の障害となるため、混練の精度と混練機の保守性を考慮することが必要となる。
【0050】
そこで、推奨される混練機としては、混練効果を高めるためスクリュウ式又はこれに振動式を組み合わせ、スケールの付着を防止するためセルフクリーニング機能を有するものが挙げられる。
作業方法の具体例としては、重金属安定化剤が粉体の場合は、混練機に所定量の水を入れ、次に上記混練機の攪拌機を回しながら上記混練機に所定量の重金属安定化剤を約1分間かけて徐々に投入した後、約3分間攪拌することで充分に溶解又は分散させる。次に、上記混練機の攪拌機を回しながら上記混練機にばいじんを約1分間かけて徐々に投入した後、5分間混練する。その後、上記混練機から上記混練物を取り出す。
【0051】
重金属安定化剤が液体の場合は、混練機に所定量の水を入れ、次に上記混練機の攪拌機を回しながら上記混練機に所定量の重金属安定化剤を約30秒間かけて徐々に投入する。次に、上記混練機の攪拌機を回しながら上記混練機にばいじんを約1分間かけて徐々に投入した後、5分間混練する。その後、上記混練機から上記混練物を取り出す。
【0052】
なお、ばいじんに含まれる重金属の量は、ごみ焼却場の設備の方式等によって異なるので、ばいじんについて、予め、廃棄物の処理及び清掃に関する法律の環境庁告示13号による鉛の溶出試験で鉛の溶出量を測定し、本発明の重金属安定化剤の一定量に対してその測定値を示すばいじんの一定量を使用することが好ましい。
【0053】
(安定化方法)
本発明にかかる重金属の安定化方法では、第1成分により、緩衝作用でpHを安定化させた状態で重金属化合物を不溶化させ、それでも不溶化せずに残存する重金属化合物や重金属イオンは第2成分で吸着・捕捉される。但し、第1成分で不溶化させる前に第2成分に吸着・捕捉される重金属成分や、不溶化された状態で第2成分に吸着・捕捉される重金属成分もあり得る。
【0054】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は下記の実施例に限定されない。
(鉛の溶出量と法定基準値)
先ず、表1に示す組成の重金属安定化剤を調製した。組成(g)は、重金属含有物質100gに対する添加量で表す。
【0055】
【表1】
ここで、粉体状リン酸は、下記の材料と方法で製造されたものである。
【0056】
粉体状のケイソウ土をブレンダーに投入し攪拌しながら、液体状の75%リン酸をポンプで加圧し噴霧状にしてブレンダー内に吹き込み、リン酸を粉体に吸収させた。
次に、上記の重金属安定化剤に、環境庁告示13号による溶出試験で鉛の溶出量が32ppmであるばいじん各100gを加えて、乳鉢で5〜10分間、よく混練した。混練物を24時間放置した後、環境庁告示13号による溶出試験を行い、鉛の溶出量を原子吸光法を用いて測定した。その結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
表2に明らかなように、いずれの実施例においても、鉛の溶出量の測定値は法定基準値である0.3mg/l(ppm )以下であった。
【0058】
(鉛の溶出量を法定基準値以下にするために必要なコスト)
従来より広く使用されている高分子キレ−ト剤及び液体硫酸バンドを使用して、鉛の溶出量を法定基準値である0.3ppm以下にすることも可能である。その場合に必要なキレ−ト剤と液体硫酸バンドの量は、ばいじんの鉛の溶出量が32ppmの場合は、ばいじん100gに対してそれぞれ3〜5gと80gである。液体硫酸バンドは比較的安価であるがキレート剤は高価であり、全体としての材料コストはかなり高くなる。
【0059】
一方、前記の各々の実施例における重金属安定化剤(重金属安定化剤に含まれる有効成分総量)の必要量は、ばいじんの鉛の溶出量が32ppmの場合は、ばいじん100gに対してそれぞれ8.5〜23.5gとなり、前記従来の安定化剤に比べて明らかに少ない。しかも、各成分の単価は前記キレート剤よりも安価であるから、安定化剤全体のコストが低減される。
【0060】
(溶融飛灰の安定化)
表3に示す組成の重金属安定化剤を調製した。何れの配合成分も粉体材料を用い、粉体状の安定化剤を得た。
【0061】
【表3】
得られた重金属安定化剤30gを用いて、前記同様の溶出試験を行い、その結果を表4に示す。重金属含有物として用いたばいじんは、溶融飛灰であり、鉛を2100ppm 溶出する高濃度重金属含有物質である。
【0062】
【表4】
上記試験の結果、実施例14〜24の安定化剤は、高濃度重金属含有物質に対しても、優れた安定化効果を発揮することができた。
【0063】
なお、市販品の液体キレート剤を同量の30重量部添加混練して、同様の測定を行ったところ、鉛溶出量は400mg/lであった。
(重金属一般に対する適用)
本発明の安定化剤が、鉛以外の重金属に対しても安定化効果を有することを検証した。重金属含有物質として、前記実施例と同じ溶融飛灰を用いた。
【0064】
<安定化剤の配合:溶融飛灰100gに対する混合量>
実施例25:
第1リン酸ナトリウム 12.0g
活性白土 6.5g
硫酸バンド 8.0g
チオ尿素 3.5g
合計 30g
前記実施例と同様の溶出試験を行い、その結果を表5に示す。なお、処理の後、1日、7日および60日経過後の試料について試験を行った。
【0065】
【表5】
以上の結果、本発明の安定化剤は、鉛以外の重金属に対しても有効であることが確認された。また、上記実施例25では、1日後よりも7日後のほうが鉛の溶出量が減っており、60日後でも溶出量が増えることはなく、長期間にわたる安定化作用に優れていることが判る。
【0066】
(焼却灰の安定化)
表6に示す組成の重金属安定化剤を調製した。何れの配合成分も粉体材料を用い、粉体状の安定化剤を得た。なお、比較例としてポルトランドセメント単体からなる安定化剤を使用した。
【0067】
【表6】
重金属含有物質である焼却灰100重量部に、得られた重金属安定化剤10重量部を添加しパドルミキサーで5〜10分間混練後、混練物を金型に詰め込み、圧縮成型機にて成型した試験体を作製した。1日および30日経過後の試験体について環境庁告示第46号の溶出試験を行った。その結果を表7に示す。重金属含有物は焼却灰であり、処理前の鉛の溶出量は2.7ppm であった。
【0068】
【表7】
以上の結果、本発明の安定化剤は焼却灰に対しても有効であることが確認された。なお、一定期間養生後、再生利用の土壌汚染に係る環境基準値である0.01mg/lの条件もクリアしている。よって、長期的に安全性の優れた廃棄物のリサイクルが可能な最良の方法を提供できる。
【0069】
【発明の効果】
本発明の重金属安定化剤および重金属の安定化方法は、前記のように構成されているので、例えば、ばいじんからの鉛の溶出量を改正法定基準値である0.3ppm以下とすることができ、重金属の安定化の効果が高い。
また、第1成分が不溶化反応だけでなくpH調整の機能をも有するので、pH調整と不溶化反応とを同じ工程で同時に行うことができ、従来のようにpH調整だけで別途1工程を設ける必要がなくなり、重金属安定化処理作業が簡易化される。
【0070】
第1成分は緩衝作用を有するので、リン酸系化合物のような弱酸であっても、強アルカリ雰囲気下の飛灰などを弱アルカリ化することができる。pH調整剤として強酸を用いる必要がないので、作業の安全性が向上する。
さらに、本発明の重金属安定化剤は、従来の高分子キレート剤に比べて安価である。従って、重金属含有物質を安定化させるのに必要なコストが、従来の方法に比べて大幅に削減でき、重金属の安定化処理のコスト高を解消できる。また、本剤は取扱も容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を表す重金属安定化剤の調製方法の工程図
【図2】別の実施形態を表す重金属安定化剤の調製方法の工程図
Claims (2)
- 鉛を含む重金属を含有するばいじんや焼却灰に、重金属の安定化剤を添加し混練して、前記ばいじんや焼却灰中の重金属を安定化するに当り、
前記安定化剤として、
リン酸、第1リン酸塩のうちの少なくとも1種と、チオ尿素とを用い、更に活性白土を加えた粉体状の安定化剤を用いて、ばいじんや焼却灰中に含有された状態で少なくとも鉛を硫化物化する、重金属の安定化処理方法。 - 鉛を含む重金属を含有するばいじんや焼却灰に、添加し混練して、前記ばいじんや焼却灰中の重金属を安定化する安定化剤であって、
リン酸、第1リン酸塩のうちの少なくとも1種と、チオ尿素とを用い、更に活性白土を加えた粉体状の重金属の安定化剤。
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