上記した従来のCRT用電子銃200では、通常電子線212のビーム径を像点224において100μm程度に集束することを想定しているため、10μm以下の焦点寸法を要求しているマイクロフォーカスX線管にそのまま適用することはできない。この電子線212のビーム径が大きくなる原因は、主に上記の空間電荷効果とレンズの球面収差による。空間電荷効果は電子線212を構成する電子自身の電荷による互いの反発作用であるが、この反発作用はビーム径を小さく集束しようとすればするほど大きくなり、電子線212の集束は困難になる。また、この空間電荷効果は電子線212の電流が大きい程大きくなるものであり、マイクロフォーカスX線管に要求される二つの特性の微小焦点と大電流とは相反する特性である。
一方、レンズの球面収差は、電子線212を構成する電子の軌道がカソード202と4個のグリッド電極204、206、208、210から成る電子集束系の中心軸から離れている場合に発生するものであり、電子光学系により電子線212を集束する場合には避けられないものである。球面収差をできるだけ小さくするためには、電子線212がレンズ領域に入射する際のビーム径をできるだけ小さくし、それぞれの電子に電子光学系の中心軸からできるだけ離れない電子軌道を描かせるようにすればよいと考えられる。
以上のことを考慮して、本発明では、マイクロフォーカスX線管の相反する特性である微小焦点と大電流の問題を解決し、微小焦点、大電流を得る電子集束系を備えたマイクロフォーカスX線管とそれを用いたX線装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明のマイクロフォーカスX線管は、電子線を発生するカソードと、前記電子線を細いビームに集束するために前記電子線の経路に配置される複数個のグリッド電極から成る電子集束系と、前記電子線が衝突することによりX線を発生する陽極と、前記カソードと前記電子集束系と前記陽極を真空気密に封入する外囲器とを備え、前記電子集束系の複数個のグリッド電極はそれぞれ前記電子線を通過させるための開口を有し、それぞれのグリッド電極に前記カソードを基準にして電位を印加することにより前記電子線を集束するための電子レンズを形成するマイクロフォーカスX線管において、前記電子集束系は少なくとも3個のグリッド電極から成り、前記グリッド電極のうちの前記カソードに第2番目に近接するグリッド電極(以下、第2グリッド電極という)の開口径を、前記カソードに最も近接するグリッド電極(以下、第1グリッド電極という)の開口径より小さくしたものである(請求項1)。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に前記第2グリッド電極の開口径を、前記第1グリッド電極の開口径の1/2以下としたものである。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記第1グリッド電極に、前記カソードの電位に対し正の電位を印加している(請求項2)。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に前記第1グリッド電極に印加する電位(以下、第1グリッド電極電位という)と前記第2グリッド電極に印加する電位(以下、第2グリッド電極電位という)と前記カソードに第3番目に近接するグリッド電極(以下、第3グリッド電極という)に印加する電位(以下、第3グリッド電極電位という)を前記カソードの電位に対し、正の電位とするものである。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に前記電子集束系の複数個のグリッド電極のうち少なくとも第1グリッド電極と第2グリッド電極を融点2000℃以上の高融点金属材料またはその合金で構成したものである。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に前記高融点金属材料はモリブデン、タングステン、またはタンタルのうちの一つである。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に前記複数個のグリッド電極のうち少なくとも第1グリッド電極と第2グリッド電極の表面に放熱処理を施したものである。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に前記放熱処理は黒化処理または粗面化処理のうちの一つである。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に前記複数個のグリッド電極のうち少なくとも第1グリッド電極と第2グリッド電極に放熱フィンを取り付けたものである。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に前記複数個のグリッド電極のうち少なくとも第1グリッド電極と第2グリッド電極に表面の放熱処理及び放熱フィンの取りつけを行うものである。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に前記電子集束系において電子線を集束するための最終加速電圧として前記陽極に印加されるX線管電圧を利用するものである。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に前記陽極を回転陽極構造とするものである。
また、本発明のX線発生装置は、微小焦点を有する本発明に係るマイクロフォーカスX線管と、該マイクロフォーカスX線管に高電圧を供給する高電圧電源部と、前記マイクロフォーカスX線管の陰極の複数個のグリッド電極にグリッド電圧を供給するグリッド電源部と、前記マイクロフォーカスX線管の電極を絶縁支持する電極絶縁支持部と、前記マイクロフォーカスX線管と前記高電圧電源部と前記グリッド電源部と前記電極絶縁支持部を内包し支持する筺体と、前記筐体内に充填され、前記マイクロフォーカスX線管およびその他構成要素を浸漬して絶縁する絶縁油と、該絶縁油の膨張、収縮を緩衝するために前記筺体に取り付けられたベローズを含むものである。
また、本発明のX線発生装置では、更に、マイクロフォーカスX線管の陽極は回転陽極構造であり、前記筺体内に前記マイクロフォーカスX線管の陽極を回転駆動するためのステータと、該ステータに印加する電圧を供給するためのステータ電源が内包される。
また、本発明のX線装置は、X線を発生する本発明に係るX線発生装置と、前記X線発生装置から発生し、被検体を透過したX線を検出するX線検出装置と、前記X線検出装置から出力される検出X線量に対応する信号を入力して前記披検体のX線画像を作成する画像形成装置と、前記X線発生装置、前記X線検出装置および前記画像形成装置を制御する制御装置とを有する。
本発明のマイクロフォーカスX線管では、その陰極の電子集束系を構成する第2グリッド電極の開口径を第1グリッド電極の開口径より小さくしているので、カソードの電子放射面から放射された電子線のうち、中心軸から離れた外側の電子は、先ず第1グリッド電極の開口の近傍に衝突して除去され、次に第2グリッド電極の開口の近傍に衝突して除去されることになり、第2グリッド電極の開口を通過した電子線は、大部分が中心軸に近い軌道を走行する電子で構成されることになる。その結果、その後に形成されている電子レンズ(主レンズ)による集束において、球面収差が殆んどなく集束されるので、陽極のターゲット上に非常に小さい焦点を形成することができる(請求項1)。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、更に第2グリッド電極の開口径を第1グリッド電極の開口径の1/2以下としているので、第2グリッド電極による電子線のうちの外周部の電子の除去作用は、この範囲で効果的に働く。第2グリッド電極の開口径が第1グリッド電極の開口径の1/2より大きい範囲ではその開口の近傍部への電子線の衝突は少なく、第1グリッド電極の開口径の1/2より小さくなるにつれて電子線の衝突が急激に多くなり、電子線のうちの外周部の電子の除去作用は顕著に向上する。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、その陰極の第2グリッド電極の開口径を第1グリッド電極の開口径より小さくし、第1グリッド電極にカソードの電位に対し正の電位を印加しているので、第1グリッド電極の電位がカソードの電子放射面から放射された電子線を第1グリッド電極に向けて加速して、X線管電流を増加させるとともに、第1グリッド電極と第2グリッド電極がその開口の近傍で電子線の中心軸から離れた外側の軌道を走行する電子を効率良く除去して、焦点寸法の微小化をはかることができる(請求項2)。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、その陰極の電子集束系のグリッド電極への電圧印加において、第1グリッド電極電位と第2グリッド電極電位と第3グリッド電極電位をカソードの電位に対し、正の電位としているので、正電位の第1グリッド電極電位と第2グリッド電極電位によってX線管電流を大きくするとともに、正電位の第3グリッド電極電位によって第2グリッド電極と第3グリッド電極と陽極のターゲットで形成される主レンズによる電子線の過集束を防止することができる。すなわち、X線管では陽極電位が非常に高いため、第3グリッド電極電位を負にした場合には、主レンズによる電子線の集束が過集束となり、焦点寸法が大きくなってしまうので、第3グリッド電極電位も正の電位とすることにより、適正な主レンズが形成され、電子線が適正に集束される。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、その陰極の電子集束系の第1グリッド電極と第2グリッド電極を融点2000℃以上の高融点金属材料またはその合金で構成しているので、両グリッド電極の開口の近傍がカソードから放射された一部の電子線の衝突によって加熱されて温度上昇しても、熱変形や2次電子放出などが起らず、X線管の焦点寸法およびX線管電流などの特性は安定した動作を示すことができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、第1グリッド電極と第2グリッド電極を構成する高融点金属材料として、モリブデン、タングステン、またはタンタルのうちの一つを採用しているので、両グリッド電極の開口の近傍に電子線の一部が衝突しても熱変形や2次電子放出などを起こさず、安定した動作を維持することができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、複数個のグリッド電極のうち少なくとも第1グリッド電極と第2グリッド電極の表面に放熱処理を施しているので、両グリッド電極の放熱が十分行われることにより、温度上昇が抑制され、両グリッド電極に電子線の一部が衝突しても熱変形や2次電子放出などを起こさず、また両グリッド電極を支持する絶縁物の過熱も防止されるため、X線管は安定した動作を維持することができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、複数個のグリッド電極のうち少なくとも第1グリッド電極と第2グリッド電極の表面の放熱処理として黒化処理または租面化処理を行っているので、両グリッド電極の放熱が十分に行われることにより、温度上昇が抑制され、熱変形や2次電子放出などを起こさず、また両グリッド電極を支持する絶縁物の過熱も防止されるため、安定した動作を維持することができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、複数個のグリッド電極のうち少なくとも第1グリッド電極と第2グリッド電極に放熱フィンを取り付けているので、両グリッド電極の放熱が十分行われることにより、温度上昇は抑制され、両グリッド電極に電子線の一部が衝突しても熱変形や2次電子放出などを起こさず、また両グリッド電極を支持する絶縁物の過熱を防止するため、X線管は安定した動作を維持することができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、その陰極の電子集束系における電子線を集束するための最終加速電圧として、陽極に印加されるX線管電圧を利用しているので、電子集束系の主レンズの形成するために、特別に追加のグリッド電極を設けることも、またこれに印加するグリッド電圧の電源を設けることも不要となり、X線管およびX線発生装置の簡略化並びにコストの低減が図ることができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、陽極を回転陽極構造としているので、ターゲット上の電子線の衝突する焦点位置が回転移動するため、実効的な焦点面積は固定陽極構造のものに比べて格段に大きくなり、耐負荷性を大幅に向上することができる。
また、本発明のX線発生装置では、微小焦点を有する本発明に係るマイクロフォーカスX線管と共に、高電圧電源部やグリッド電源部などを一つの筺体内に収容して一体に纏められているので、低圧交流電圧供給用の電源コードを接続するのみで、マイクロフォーカスX線管を駆動させることができる。その結果、X線発生装置は非常にコンパクトに纏まり、その取り扱いは非常に簡便になっている。
また、本発明のX線発生装置では、マイクロフォーカスX線管の陽極が回転陽極構造であるので、X線管の実効的な焦点寸法を固定陽極構造のものに比べて格段に大きくすることができ、耐負荷性を大幅に向上することができる。
また、本発明のX線装置は、本発明に係るマイクロフォーカスX線管を内包するX線発生装置を用いているので、10μm以下の焦点寸法と実用的な値のX線管電流が得られ、このX線装置を用いて、微小焦点によるX線拡大撮影による精密診断や工業製品などの微細な内部構造の非破壊検査などを効果的に実施することができる。
以下、本発明の実施例について添付図面を参照しながら説明する。
先ず、図1〜図3を用いて、本発明に係るマイクロフォーカスX線管の第1の実施例の構造および動作について説明する。図1は本発明に係るマイクロフォーカスX線管の第1の実施例の全体構造図、図2は図1の要部である陰極部の拡大断面図、図3は図1の要部となる電子集束系の構成を説明するための図である。
図1において、本実施例のマイクロフォーカスX線管(以下、X線管と略称する)10は、電子線を発生する陰極12と、電子線が衝突してX線を発生する陽極14と、陰極12と陽極14を真空気密に内包し、絶縁支持する外囲器16とから構成される。本実施例のX線管10では、マイクロフォーカスを形成するための陰極12の構成に特徴があるので、その構成、動作については後で図2、図3を用いて詳しく説明する。それに先立って、図1により他の部分の構造を説明する。
図1において、陽極14は回転陽極形の構造を採用している。この陽極(以下、回転陽極とも呼ぶ)14はこれに限定されず、固定陽極形のものでもよい。しかし、本発明のX線管の特徴となる小焦点、大電流の特性を有効に活用するためには回転により実効的な焦点面積が大きくなる回転陽極形のものの方が格段に有利である。回転陽極14はX線発生源となるターゲット18と、ターゲット18を支持するロータ20と、ロータ20を支持する回転軸22と、回転軸22を回転自在に支持する軸受24と、軸受24を支持する固定部26などから構成される。この回転陽極14は全体としては、汎用の医療用回転陽極X線管の回転陽極とほぼ同じ構造をしている。ターゲット18は傘型で円盤状をしており、タングステンなどの高原子番号で、高融点の金属材料から成る。ターゲット18の傾斜面には、陰極12からビーム状の電子線が衝突し、焦点28を形成する。ロータ20はターゲット18を支持する細径部20aと、ロータ10の外周に配置されるステータとの組み合わせでモータを構成する大径部20bを有する。細径部20aはモリブデンなどの高融点で高強度の金属材料から成る。大径部20bは底付きの円筒形状をしていて、円筒部は主として銅などの高導電性の金属材料から成り、底部はモリブデンやステンレスなどの高強度材料から成る。大径部20bは、その底部において細径部20aと結合されている。回転軸22はロータ20の大径部20bの底部と結合する円板状の部分と、軸受24の内輪と結合する細径棒状の部分とを有し、高強度の鋼材などから成る。軸受24は内輪、ボール、外輪などから構成され、その材料は高強度の鋼材などから成る。軸受24は真空中で使用されるため、銀、鉛、二硫化モリブデンなどで潤滑されている。軸受24は2個使用されており、回転軸22を2箇所で支持している。固定部26は2個の軸受24の外輪を固定する円筒部26aと、外囲器16に結合され、陽極電位が付与される陽極端26bとから構成される。固定部26は主として銅などの熱伝導性の良い金属材料から成る。
次に、外囲器16は回転陽極14のターゲット18と陰極12の先端部を囲み、アース電位に保持される大径部30と、回転陽極14の固定部26と結合されて、これを絶縁支持する陽極絶縁部32と、陰極12を絶縁支持する陰極絶縁部34とから構成される。大径部30は大径の円板30aと大径肉厚の円筒30bとが結合されたものであり、円板30aと円筒30bは銅やステンレス鋼などの金属材料から成る。円板30aのターゲット18上の焦点28に近接する部分に設けた円形の開口にX線放射窓36が取り付けられている。X線放射窓36はX線透過性の良いベリリウムなどから成り、窓枠などを介して、溶接またはろう付けによって円板30aの開口に結合されている。円筒30bの肉厚部分にはX線管10を支持するために用いられる複数個(例えば、3乃至6個)の穴が中心軸方向に沿ってあけられている。円筒30bの開口側(円板30aと反対側)には、陽極絶縁部32が円筒30bと同軸に結合されている。陽極絶縁部32はロータ20の外径より少し太い円筒部32aと大径部30の円筒30bに結合するためにコーン状に広げられたフレア部32bと、回転陽極14の固定部26と結合するための陽極接続部32cとから構成される。陽極絶縁部32は大部分が耐熱性ガラスやセラミックなどの絶縁物から成り、両端の大径部30や回転陽極14の固定部26との接続部分には絶縁物となじみの良い金属材料が使用されている。大径部30の円筒30bの側面には、回転陽極14の中心軸とほぼ直交する方向に、陰極絶縁部34が結合されている。陰極絶縁部34は細い外径の円筒形状をしており、その一端の近傍において大径部30の円筒30bの側面に結合され、その他端において陰極12のステム48と結合されている。陰極絶縁部34は大部分が耐熱性ガラスやセラミックなどの絶縁物から成る。また、大径部30の円筒30bの側面の陰極絶縁部34と対向する部分に、X線管10の真空排気に用いられる排気管38が取り付けられている。
次に、図2、図3を用いて、本実施例のX線管10の要部である陰極12の構成と動作について説明する。先ず、図2より、X線管10の陰極12の構造について説明する。図2の中の図2(a)は陰極12全体の構造図で、図2(b)は電子集束系の拡大図である。図2において、陰極12は電子線を発生するカソード40と、電子線を集束する電子集束系42と、電子集束系42の電界を緩和するための電界緩和シールド43と、カソード40を支持するカソード支持体44と、電子集束系42を構成する3個のグリッド電極を絶縁支持する電子集束系絶縁体46と、カソード40や電子集束系42などを支持するステム48などで構成される。
カソード40は、酸化物また含浸形のカソードで、加熱用のヒータ41を備えており、1000K以上の高温で熱電子を放射する。カソード40は底付きの円筒形状をしており、円筒の内側に加熱用のヒータ41が絶縁して配設され、底の外表面(以下、電子放射面という)40aから熱電子が放射される。カソード40は耐熱性金属材料または絶縁材料から成るカソード支持体44に支持され、更に電子集束系42を介して電子集束系絶縁体46に支持される。電子集束系42は3個のグリッド電極、すなわち第1グリッド電極(以下、G1電極と略称する)50と、第2グリッド電極(以下、G2電極と略称する)52と、第3グリッド電極(以下、G3電極と略称する)54とから構成される。3個のグリッド電極50、52、54はそれぞれ中心部に電子線を通す開口50a、52a、54aを有し、カソード40と陽極14のターゲット18との間に、カソード40の側からG1電極50、G2電極52、G3電極54の順で、適当な間隔をとって同軸に配置される。G1電極50とG2電極52は板状体で、その中心部に小さな開口50a、52aが設けられており、全体としては取り付けなどを考慮してカップ状に形成されている。G3電極54は中心部に大きな開口54aが設けられており、全体としては円筒形に近い形状をしている。G1電極50、G2電極52、G3電極54の開口径やそれぞれの間の間隔は後述する如く、所望の焦点寸法やそれぞれのグリッド電極に印加する電圧と関係して決定される。グリッド電極50、52、54の材料としては耐熱性金属材料が使用される。
電子集束系42とターゲット18との間には、電子集束系42の電界を緩和するためにセラミックなどの絶縁物から成る電界緩和シールド43が配置される。この電界緩和シールド43は円板状をしており、その外周は外囲器16の陰極絶縁部34の一端に直接結合されている。この電界緩和シールド43と陰極絶縁部34との結合体は電子集束系42全体を覆うように配置されている。電界緩和シールド43の中心部にはG3電極54の開口54aよりも直径の大きな開口43aが設けられており、電界緩和シールド43はその開口43aが電子集束系42の中心軸と同軸で、G3電極54の開口54aに近接するように配置されている。
電子集束系42の3個のグリッド電極50,52,54は、その外側に配置された電子集束系絶縁体46によって絶縁して支持される。電子集束系絶縁体46は円筒、または複数個(例えば3乃至6個)の棒状体を環状に配列したもの(ここでは、棒状体を4個配列したものを示している)で、主としてガラスやセラミックなどの絶縁物から成る。グリッド電極50,52,54の支持はグリッド電極50,52,54の外周に結合された支持金具を電子集束系絶縁体46にろう付けしたり、埋め込んだり(加熱して溶着する)して結合することにより行われる。また、カソード支持体44はG1電極50に絶縁支持され、G1電極50を介して電子集束系絶縁体46に支持される。電子集束系絶縁体46のステム48側の端部には、ステム48に接続するための接続金具47が結合される。この接続金具47は円筒形状をした金具で、他のグリッド電極と同様に支持金具を介して電子集束系絶縁体46に結合されている。
ステム48は、円板状の支持板58と、この支持板58を貫通してX線管内に導かれる複数本の導入リード線60と、支持板58に結合された電子集束系支持体62とから構成される。支持板58はセラミックやガラスなどの絶縁物から成り、導入リード線60は支持板58と熱的になじみの良い金属線から成る。導入リード線60としてはカソード用として1本、ヒータ用として2本、グリッド電極用として3本、その他用(ゲッタ蒸飛用など)として1本以上となるので、兼用のものを考慮しても6本以上必要となる。導入リード線60は支持板58にろう付けまたは溶着により結合、支持される。また、本実施例では電子集束系絶縁体46を支持するために円筒状の電子集束系支持体62が設けられ、この端部に電子集束系絶縁体46の接続金具47が溶接などにより結合されている。陰極12を構成する電極と導入リード線60との接続は電子集束系支持体62または電子集束系絶縁体46の内側で行われる。ステム48は陰極絶縁部34に溶接、ろう付けまたは溶着により結合される。図示の例では、ステム48の支持体58の外周に金属リングをろう付けによって取り付け、陰極絶縁部34の端部にろう付けによって取り付けたリングと溶接によって結合されている。
次に、図3を用いて、図2を参照しながら、本実施例の電子集束系の構成の細部と動作について説明する。図3は本実施例の要部である電子集束系の構成を模式的に示したものである。図3において、カソード40の電子放射面40aとターゲット18との間に電子集束系42のG1電極50とG2電極52とG3電極54が同軸に順次配列されている。電子線64が通過するそれぞれのグリッド電極50、52、54の開口50a、52a、54aの中心は電子集束系42の中心軸に一致させている。図3から判るように、G2電極52の開口52aの直径はG1電極50の開口50aの直径より小さくしてある。G3電極54の開口54aの直径はG1電極50のものより格段に、例えば数倍以上に大きくしてある。G1電極50とG2電極52は厚さ0.2mm以上の薄板を使用しているのに対し、G3電極54の厚さ(電子集束系の中心軸方向の長さ)は数mmであり、G1電極50、G2電極52に比べ格段に厚くなっている。また、電子集束系42の電極間隔は、カソード40とG1電極50との間の間隔(以下、K−G1間隔と略称する)およびG1電極50とG2電極52との間の間隔(以下、G1−G2間隔と略称する)についてはG1電極50、G2電極52の板厚とほぼ同等の間隔(0.1〜0.5mm)であるのに対し、G2電極52とG3電極54の間の間隔(以下、G2−G3間隔と略称する)については1mm以上、G3電極54と陽極14のターゲット18との間の間隔(以下、G3−A間隔と略称する)については10mm以上であり、広い間隔をとっている。
また、電子集束系42の各電極に印加する電圧としては、G1電極50にはカソード40の電位(以下、カソード電位という)に対し数+V程度の正の電位(以下、G1電位という)が、G2電極52にはカソード電位に対し数百V程度の正の電位(以下、G2電位という)が、G3電極54にはカソード電位に対し数百V程度の正の電位(以下、G3電位という)が、それぞれ印加される。更に、ターゲット18にはX線管の動作電圧(本実施例では、カソード電位に対し+10〜+150kV程度、以下、X線管電圧という)が印加される。このようにグリッド電極50、52、54およびターゲット18に電圧を印加することにより、G1電極50の近くにカソードレンズ65が、G2電極52の近傍にプリフォーカスレンズ66が、G3電極54の近くに主レンズ67がそれぞれ形成され、電子線64の集束を行う。上記のグリッド電極50、52、54に印加する電圧の値は所望する焦点寸法や電子線の電流(以下、X線管電流ともいう)に応じて制御される。
本実施例のX線管10の電子集束系42では、微小焦点を得るために、(1)G2電極52の開口52aの開口径をG1電極50の開口50aの開口径より小さくしたこと、(2)G1電極50の電位、すなわちG1電位をカソード40の電位より高くしたこと、(3)G1電極50およびG2電極52を高融点金属で構成したこと、などに特徴がある。以下、その内容と効果について詳細に説明する。
図3において、カソード40をヒータ41で加熱して、その動作温度まで上昇させることにより、カソード40の電子放射面40aから熱電子が放射され、この熱電子はG1電極50の正電位により引き出され、かつ加速されて、電子線64を形成する。この電子線64の電流量は、カソード40が十分に加熱されて動作温度に達しておれば、カソード40の電子放射面40aの前面の電界強度の3/2乗に比例する。従って、より多くのX線管電流を得るためには、G1電極50に正電位を印加して、電子放射面40aの前面の電界強度をより高くすることは有効な手段となる。本実施例では上記の如く、カソード40に対し約数+V程度の正の電位をG1電極50に印加しているので、カソード40の電子放射面40aの前面には加速電界が形成され、X線管電流が増大する。これに対し、従来例で示したCRT用電子銃の例では、G1電極には負電位が印加されており、カソードの電子放射面における電子放射の有効放射面積を調整して、電子線の得られる電流量を制御している。
本実施例では、G1電極50の開口50aを加速されながら通過した電子線64は、G2電極52によって更に加速される。すなわち、G2電極52にはG1電極50の正電位より高い正電位が印加されているため、G2電極52によってもう一段の加速が行われることになる。また、G1電極50とG2電極52との間にはG2電極52とG1電極50との電位差により電子線64を集束するカソードレンズ65が形成される。このカソードレンズ65の電子集束作用によって、電子線64は集束される。この集束作用によって電子線64はG2電極54の開口54aに向かうとともに物点としてのクロスオーバー68を形成する。
このようにG1電極50とG2電極52に正電位を印加しているために、G1電極50とG2電極52の開口50a、52aの周辺にカソード40からの電子線64が衝突するのは避けられない。この電子線64の衝突によりG1電極50とG2電極52、特にそれらの開口50a、52aの周辺は温度上昇する。その結果、G1電極50とG2電極52の熱変形や電子レンズの集束作用の変化が起るので、これらを防止するため、本実施例では、G1電極50とG2電極52を高融点、例えば2000℃以上の融点で、高強度の金属材料で構成している。これらの金属材料としては、例えば、モリブデン、タングステン、タンタルなど、またはこれらの合金の中から選んで用いている。中でも、モリブデンは加工性がよく、入手も容易であるので、最も適している。
上記のG1電極50の温度上昇により、G1電極50の開口50a周辺の高温部からわずかではあるが熱電子が発生し、カソード40からの電子線64に付加される。このような副次的な迷走電子は、電子線64の電子軌道の半径方向の拡がりを大きくするため、焦点寸法を大きくしてしまうという悪影響を与えることになる。また、カソード40から正常に放射された電子線64においても、小さい焦点寸法を得るためには電子線64の電子軌道の半径方向の拡がりはできるだけ小さい方が好ましい。これらのことを考慮して、本発明では、G2電極52の開口径をG1電極50の開口径に比べて小さくしている。焦点寸法のみを考慮した場合には、G2電極52の開口径は小さければ小さい程よいが、X線管電流が十分得られなくなる問題があるので、実用的にはG2電極52の開口径はG1電極50の開口径の1/2以下から1/10程度が適当である。以下に示す図4の計算例では、G2電極52の開口径をG1電極50の開口径の1/5にしたもので、約5μmの焦点寸法が得られている。
G2電極52の開口径をG1電極50の開口径に比べて小さくすることにより、上記のG1電極50やG2電極52などから発生する迷走電子がG2電極52より先に進むのを防止することができる。これによって同時に、電子線64がG2電極52とG3電極54と陽極14のターゲット18とで形成されるプリフォーカスレンズ67に入射するときの電子軌道の半径方向の拡がりが小さくなるため、電子集束系42の球面収差を小さくすることができ、電子線64を小さい焦点に集束することができる。
また、G1電極50に正電位のG1電圧を印加して、電子線64を加速することにより、G2電極52の開口52aに向かう電子線64の入射方向が電子集束系42の中心軸に平行な方向により近くなり、かつ電子軌道の半径方向の拡がりが小さくなるので、主レンズ67による球面収差を小さくすることができる。
G2電極52の開口52aを通過した電子線64は電子集束系42で形成される主レンズ67によって所望の焦点寸法に集束される。ここで、主レンズ67はG2電極52とG3電極54と陽極14の電位差によって形成される。一例を上げると、陽極14に150kVを印加したとき、G1電極50に約30Vの正電位、G2電極52に約500Vの正電位、G3電極54に約300Vの正電位を印加すると、陽極14のターゲット18上に10μm以下の焦点を形成することができる。
電子集束系42を構成する3個のグリッド電極50、52、54に印加するG1電位、G2電位、G3電位については、焦点寸法とX線管電流と関連付けて検討しているが、焦点寸法を小さくするためにはG1電位、G2電位、G3電位ともカソード40の電位に対して正電位であることが有効である。G1電位を正電位にすることの有効性については前述したが、更にG2電位とG3電位も正電位にした方が電子集束系42が形成する電子レンズの集束作用は有効に働く。発明者の計算および実験による検討では、G2電位とG3電位のうちの少なくとも一方を負電位とした場合には、焦点寸法が大きくなってしまうという結果が得られている。これは、陽極14のターゲット18の電位が100kV以上の高い正電位であるため、G2電位またはG3電位とターゲット18の電位との間で電位差がつき過ぎて、過集束となり、焦点寸法がかえって大きくなってしまうものと判断される。
本実施例のX線管10の電子集束系42において、焦点寸法を10μm以下にするためには、G1電極50のG1電位を+30〜+150V程度、G2電極52のG2電位を+500〜+1500V程度、G3電極54のG3電位を0〜+3000V程度にするのが適当である。本実施例ではこれらのグリッド電位を適当に組み合わせることにより、10μm以下の焦点寸法が得られ、またG1電位を正電位に保持していることから、実用的なX線管電流も得られている。
図4、図5を用いて、本実施例のマイクロフォーカスX線管の電子集束系における電位分布と電子軌道の一例について説明する。図4は、本実施例のマイクロフォーカスX線管の電子集束系内の電位分布と電子軌道の計算例の中の一例を示したものである。図5は、図4のカソードからG2電極までの範囲の拡大図である。このX線管10の電子集束系42の構成としては、カソード40は含浸型カソード、G1電極50は板厚0.2〜0.3mm、開口径0.5mm、G2電極52は板厚0.2〜0.3mm、開口径0.1mm、G3電極54は厚さ(または全長)3mm、開口径4mmで、K−G1間隔とG1−G2間隔は0.2mm、G2−G3間隔は約1.5mm、G3−A間隔は約15mmである。また、各電極に印加する電位としては、カソード40の電位を基準にして、G1電位は+30V、G2電位は+525V、G3電位は+1900V、陽極電位は+150kVである。また、グリッド電極材料としては、G1電極50とG2電極52にはモリブデンを使用し、G3電極54にはステンレス鋼を使用している。
この計算例では、ターゲット18上の焦点寸法は5μm、X線管電流は0.4mAが得られている。図4において、電子線64はG2電極52の近傍でクロスオーバー68を形成し、G3電極54の開口52a内で最大のビーム径となり、その後主レンズ67で集束され、ターゲット18上で、最小ビーム径の像点として焦点28を形成している。また、図5の拡大図によれば、カソード40の電子放射面40aから放射された電子線64のうち外周部分から放射されたものは、G1電極50の開口50aの近傍部に衝突して除去され、更にG1電極50の開口50aを通過した電子線64はG1電極50とG2電極52の間でビーム径が急激に絞られていることが判る。これは、G1電極50に正電位を印加したことと、G1電極50とG2電極52の間に形成されるカソードレンズ65の集束作用の効果と考えられる。また、G1電極50の開口50aを通過した電子線64のうちの外周のわずかな量の電子線64がG2電極52の開口52aの近傍部に衝突して除去されている。クロスオーバー68は電子線64がG2電極52の開口52aを出て、G3電極54に向かって少し進んだ位置に形成されている。クロスオーバー68に到達した電子線64は、G1電極50およびG2電極52によって、その中心軸から離れた位置にある電子が2段階にわたって除去されているので、中心軸により近い電子のみで構成されることになる。その結果、G2電極52とG3電極54と陽極14のターゲット18とで形成する主レンズ67によって電子線64を集束する際に殆んど球面収差なく集束することができるので、所望の焦点寸法(ここでは、5μm)の焦点28をターゲット18上に形成することができる。本実施例では、電子集束系42を3個のグリッド電極で構成しているが、グリッド電極の個数はこれに限定されず、必要に応じ4個以上にしてもよいことは言うまでもない。
図5において、上記の如く、カソード40からの電子線64の一部分がG1電極50の開口50aの近傍部とG2電極52の開口52aの近傍部に衝突しているので、これらの部分は温度上昇が大きくなる。しかし、本実施例では、G1電極50およびG2電極52を高融点金属材料(ここでは、モリブデン)で構成しているので、熱変形や2次電子放出を抑制することができる。
次に、図6及び図7を用いて、本発明に係るマイクロフォーカスX線管の第2及び第3の実施例の構造について説明する。これらの実施例はいずれも陰極の電子集束系、特に第1グリッド電極と第2グリッド電極の放熱の改善を行い、温度上昇の抑制を図っている。先ず、図6により、本発明に係るマイクロフォーカスX線管の第2の実施例の構造を説明する。図6は、本実施例の陰極部の拡大図で、図6(a)は陰極全体の構造図、図6(b)は電子集束系の拡大図である。図6(a)は電子集束系42aを除いて前掲の図2(a)とほぼ同じ構造をしている。
本実施例では、図6(b)において、電子集束系42aの第1グリッド電極50、第2グリッド電極52、および第3グリッド電極54の表面に黒化処理55を施している。黒化処理55としては黒色クロムめっきなどが行われる。この黒化処理55により、各グリッド電極表面の熱輻射率はおよそ0.2から0.8にまで増加する。黒化処理55を行う範囲としては、図示では、各グリッド電極の外側表面(太い黒線で示す)としているが、これに限定されず、内側表面など他の表面に行ってもよい。まだ、本実施例では、全てのグリッド電極に対して黒化処理55を行っているが、この黒化処理55の範囲はカソード40からの電子線の入射量が多く、温度上昇の大きい第1グリッド電極50と第2グリッド電極52にのみ限定し、電子線の入射量が少なく、温度上昇の小さい第3グリッド電極54については除外してもよい。本実施例では、グリッド電極表面の熱輻射率の向上により、グリッド電極表面からの放熱作用が大幅に改善され、グリッド電極の温度上昇が抑制されている。
本発明のマイクロフォーカスX線管では、電子集束系のグリッド電極にモリブデンなどの耐熱性金属を用いて、グリッド電極に正電位を印加したことによる電子線の衝突の増加に耐え得る構造としているが、更なるX線出力向上を意図するためには、これらのグリッド電極を支持する絶縁物(電子集束系絶縁体46など)の耐熱限界を考慮する必要がある。この絶縁物の耐熱限界に至るほどの大量のX線管電流(電子線量)を得ようとする場合には、この絶縁物の過熱を防ぐために、グリッド電極の放熱効果を高めようというのが、本実施例のグリッド電極表面の黒化処理55の主な目的である。上記の黒化処理55の結果、グリッド電極表面の熱輻射率はおよそ0.2から0.8にまで上昇するので、グリッド電極表面からの放熱量も増加し、グリッド電極の温度上昇は抑制され、冷却効果が得られる。
上記のグリッド電極表面の黒化処理55によるグリッド電極の冷却効果としては概略下記のものが得られる。本実施例では、電子集束系42aは真空中にあり、伝熱要素のうちの熱伝導要素は電圧を印加する導入リード線60だけであり、これは細線であるため放熱効果は小さく、電子集束系42aから周囲の陰極絶縁部34や電界緩和シールド43への熱輻射要素が支配的となっている。熱輻射による2物体間の伝熱は数1で表される。
ここで、Qは伝熱量、σはステファンーボルツマンの定数、εは熱輻射率、T1はグリッド電極の温度、T2は周囲の物体の温度である。数1を用いて、黒化処理前後のグリッド電極の温度の差を概算してみることにする。黒化処理前のグリッド電極の温度をT10、熱輻射率をε10、黒化処理後のグリッド電極の温度をT11、熱輻射率をε11とする。周囲の物体は通常グリッド電極に比べて熱容量が大きいため、グリッド電極の黒化処理にかかわらず温度(T2)は変わらないと考え、簡単のため、T2=0とおく。グリッド電極の黒化処理の前後で入力熱量が同じで、かつ周囲の物体の温度(T2)が変わらないということから、グリッド電極からの放熱量(Q)も黒化処理の前後で等しい。従って、数1から数2が成り立つ。
黒化処理によりグリッド電極の熱輻射率εがε10=0.2からε11=0.8に向上するので、数2の変形により数3が得られる。
黒化処理をしないときのグリッド電極の温度は500℃前後であったので、数3を適用すると、グリッド電極の温度は約270℃前後まで低下することになり、大幅な冷却効果が得られる。グリッド電極を支持する絶縁物は、例えばガラスを用いた場合には、700℃付近で軟化が始まるが、本実施例によりグリッド電極の温度が大幅に低下するため、熱的問題は解消される。この結果、これまではグリッド電極の温度によって制限されていたX線管電流値を増大することが可能となる。
また、本実施例では、グリッド電極の表面に黒化処理を行って、放熱効果を高めているが、その他の放熱処理とし、グリッド電極の表面を粗面化処理を行うことによっても類似の放熱効果が得られる。粗面化処理としては、グリッド電極表面にサンドブラスト処理などが行われる。粗面化処理の範囲は上記の黒化処理の場合と同様である。放熱効果は黒化処理よりも若干劣るが、作業は簡単となる。
次に、図7により、本発明に係るマイクロフォーカスX線管の第3の実施例の構造を説明する。図7は、本実施例の陰極の電子集束系の拡大図である。本実施例は陰極の電子集束系42bを除いて本発明に係るマイクロフォーカスX線管の第1の実施例及び第2の実施例の構造と同じであるので、図7では、他の部分を省略している。本実施例では、図7において、電子集束系42bの第1グリッド電極50及び第2グリッド電極52の外周面に放熱フィン56が取り付けられている。この放熱フィン56は図示の如く板状体をT字形に加工したものやL字形に加工したものや板状体そのままなどから成り、複数個、例えば3個または6個の放熱フィン56が各グリッド電極の外周表面に間隔をとって取り付けられている。放熱フィン56の材料としては、高熱伝導率の金属材料が適当で、グリッド電極と同じ材料または銅や銅合金などが用いられる。放熱フィン56とグリッド電極との結合はろう付けまた溶接などによって行われる。本実施例の場合、放熱フィン56がグリッド電極の外周面から突出することになるため、電子集束系絶縁体46としては複数個の棒状体を環状に配列したものがよく、放熱フィン56はその棒状体の間に入るように配列される。
本実施例では、第1グリッド電極50と第2グリッド電極52の外周面に放熱フィン56を取り付けたことにより、両グリッド電極の放熱作用が改善され、第2の実施例と同様に両グリッド電極の温度が抑制される。その結果、電子集束系絶縁体46などの絶縁物の過熱を防止することができ、X線管電流を増加することが可能となる。
本実施例で、放射フィン56を第1グリッド電極50と第2グリッド電極52に取り付けているが、この放射フィン56は第3グリッド電極54に取り付けてもよい。この場合には、第3グリッド電極54でも放熱作用は向上し、温度上昇の抑制効果が得られる。また、本実施例において、第1グリッド電極50と第2グリッド電極52の外周面に放熱フィン56を取り付けるとともに、電極表面の黒化処理55を施してもよい。このとき、放熱フィン56の表面にも黒化処理55を施すとよい。この場合、グリッド電極の放熱作用は第2の実施例よりも向上するので、X線管電流を更に増加させたい場合に有効である。
次に、図8〜図11を用いて、本発明に係るX線装置の一実施例の構成について説明する。図8は、本発明に係るX線装置の一実施例の概略構成図である。図8において、本実施例のX線装置70は、X線を発生するX線発生装置72と、被検体74を透過したX線量を検出するX線検出装置76と、X線検出装置76からの出力信号に基づいて被検体74のX線画像を形成する画像形成装置78と、X線発生装置72、X線検出装置76、画像形成装置78の動作を制御する制御装置80などから構成される。ここで、X線発生装置72には本発明に係るマイクロフォーカスX線管10が含まれる。
X線発生装置72は、本発明に係るマイクロフォーカスX線管10の他に、高電圧電源やグリッド電源などを含むものであり、その詳細については図9〜図11を用いて後述する。X線検出装置76としては、ラインセンサーのようにX線検出素子を線状に配列したものや、イメージインテンシファイア(I.I.)などのようにX線検出素子を面状に配列したものなどが用いられる。X線検出装置76からは通常受光したX線量に応じた強度の電気信号が出力されるので、画像形成装置78では、X線検出装置76からの線状分布また面状分布の電気信号に基づいて、面状の画像であるX線画像を形成する。また、X線検出手段としてX線フィルムを用いる場合には、X線フィルムがX線検出装置76に対応し、フィルム現像装置などが画像形成装置78に対応することになる。制御装置80では、マイクロフォーカスX線管10を駆動するための条件の制御、X線検出装置76のX線検出動作の制御や画像形成装置78の画像作成動作の制御などを行う。また、制御装置80は、X線発生装置72をはじめとする他の装置への電源電圧の供給なども行う。
図9〜図11は、本発明に係るX線発生装置の一実施例の構成を示したもので、図9はX線発生装置をX線放射窓の方向から見たときの断面図、図10はX線発生装置をX線管の陽極および陰極の中心軸に沿って切断した断面図、図11は図9、図10と直交する方向から見た断面図である。図9において、X線発生装置72は1個の直方体の装置として纏められており、直方体のケース82の中にマイクロフォーカスX線管10、高電圧電源84、グリッド電源86、ステータ電源88などが絶縁油90に浸漬されて収納されている。ケース82は鋼板などの金属板から成り、溶接やねじ止めなどにより全体としてほぼ直方体の筺体に組み立てられている。このケース82には低圧電流を導入するための低圧電源プラグ92、X線を外部に取り出すためのX線窓94、絶縁油90を内部に注入するための注油口96などが設けられている。
図9〜図11において、X線管10は外囲器16の大径部30をケース82の上面内壁に、陽極14の固定部26を陽極支持体98に、それぞれ結合することにより支持されている。X線管10の陽極14のロータ20の外周には、このロータ20を回転駆動するためのステータ100が配設されている。図11においてX線管10の外囲器16の大径部30は、ケース82の上面内壁に設けられた複数本、例えば3本のねじ102によって、X線放射窓36の取り付けられた円板部30aがケース82の上面内壁に密着するように固定されている。このとき、大径部30の円板部30aとケース82との油密は0リング104などで行っている。また、X線管10のX線放射窓36とケース82のX線窓94との位置合わせも行われている。
また、X線管10の陽極14の大部分とステータ100を囲む位置に底付き円筒状のX線管シールド106が配設されている。X線管10の陽極14は、このX線管シールド106を介して、ケース82の側面内壁に支持されている。X線管シールド106は円筒部108と底板部110とから構成され、円筒部108は金属材料または絶縁物から成り、底板部110は高強度の金属材料から成る。円筒部108の内壁にはX線を遮蔽するために鉛板などから成るシールド板112が貼り付けられている。円筒部108の上端部はX線管10の外囲器16の陰極絶縁部34および大径部30の近くまで延在しており、下端部には陽極側の高電圧リード線(以下、陽極リード線という)149を導入するための陽極リード導入口116が取り付けられている。陽極リード導入口116はパイプ状をしており、エポキシ樹脂などの絶縁物から成る。この陽極リード導入口116は円筒部108の壁面を貫通して配設されている。底板部110はX線管10の陽極14を間接的に支持する底部110aと、X線シールド106全体をケース82の側面内壁に固定するための固定部110bとを有し、固定部110bはねじ111などによりケース82の側面内壁に固定されている。
X線管10の陽極14を支持する陽極支持体98は導電性のよい金属材料から成り、陽極絶縁支持体118に結合され、支持されている。更に、陽極絶縁支持体118はX線管シールド106の底板部110に結合され、支持されている。陽極支持体98は陽極14の固定部26と結合する小径の円筒形状部98aと、陽極絶縁支持体118に結合される円形フランジ部98bを有し、この円形フランジ部98bに陽極リード線149が接続されている。陽極絶縁支持体118は陽極支持体98の円形フランジ部98bと結合する円筒部118aと、X線管シールド106の底板部110と結合する厚肉の円形フランジ部118bを有し、充填剤入りのエポキシ樹脂などの高強度の絶縁材料から成る。陽極支持体98と陽極絶縁支持体118との結合は大径ねじにより陽極支持体98の円形フランジ部98bを締付け固定することによって行われている。モールド成型により陽極支持体98の円形フランジ部98bを陽極絶縁支持体118に埋め込む場合などもある。陽極絶縁支持体118とX線管シールド106の底板部110との結合は、ねじ固定や接着により行われている。
ステータ100とX線管10の外囲器16の陽極絶縁部32との間にはステータ絶縁筒120が配設されている。ステータ絶縁筒120は肉厚の薄い円筒部120aと、外側に広がったフランジ部120bを有し、エポキシ樹脂などの絶縁材料から成る。ステータ100は外周に配設されたステータ支持体122によって支持されている。また、このステータ支持体122は陽極絶縁支持体118に結合、支持されている。ステータ支持体122は、ステータ100をその外周で保持する円筒形のリング部122aと、リング部122aと陽極絶縁支持体118とを接続する絶縁支持部122bとを有する。リング部122aは金属材料または絶縁材料から成り、ステータ100との結合はねじなどで行われている。絶縁支持部122bは複数本、例えば3本の支柱と、これらの支柱をひとまとめにして支える支持部とを有し、支柱はその両端を上記のリング部122aと支持部にねじなどで結合され、支持部は陽極絶縁支持体118の円筒部118aの上部の内周にねじで締結されている。絶縁支持部122bの全体または大部分はエポキシ樹脂などの絶縁材料から成る。
図10において、ケース82の下面内壁には絶縁油90の熱による膨張および収縮を緩衝するためのベローズ124が取り付けられている。ベローズ124は全体として軸対称形の袋状をしており、その開口部には油密を保持するための0リング部124aが設けられている。ベローズ124は耐油性のゴムなどから成り、0リング部124aを除いた袋状部124bは薄肉に加工されており、絶縁油90の膨張、収縮に対応して変形する。ベローズ124はケース82の下面内壁に設けられたリング部126、押え板128、ねじ130などを用いて固定される。ケース82の下面内壁のベローズ124の固定された板面には空気抜け用の開口132が設けられる。
次に、図9及び図11により高電圧電源84について説明する。高電圧電源84は中性点接地方式のコッククロフト・ウォールトン回路で、陽極高電圧発生部140と陰極高電圧発生部142とを有する。それぞれの高電圧発生部140、142は変圧器144とコンデンサ146と抵抗147とから成り、低圧電源プラグ92から導入した低圧交流電圧を変圧器144で昇圧した後、複数段のコンデンサ146と抵抗147の組合せによって、更に直流の高電圧に昇圧される。高電圧発生部140、142のコンデンサ146と抵抗147の個数は高電圧電源84の出力電圧の値に対応して決められる。本実施例では、X線管10の定格電圧が150kVであるので、それぞれの高電圧発生部140、142では75kVずつ発生することになり、例えば5段ずつのコンデンサ146と抵抗147の組合せで昇圧する場合には、1個のコンデンサ146で15kVの電圧を分担することになる。高電圧電源84を構成する変圧器144、コンデンサ146、抵抗147などの素子は高電圧電源基板148の上に配列され、高電圧電源基板148はケース82の内壁に絶縁支持される。
高電圧電源84とX線管10との間の接続に関しては、先ず陽極高電圧発生部140の高電圧側端子から引き出した陽極リード線149は、X線管シールド106に配設した陽極リード導入口116を通して、陽極支持体98の円形フランジ部98bに導かれ、これをねじなどにより円形フランジ部98bに結合される。次に、陰極高電圧発生部142の高電圧側端子から引き出した陰極側の高電圧リード線(以下、陰極リード線という)150は、X線管10の陰極12のステム48に導かれ、ステム48の導入リード線60の中のカソードリード60aに接続される。
次に、図9及び図10によりグリッド電源86について説明する。グリッド電源86はX線管10の陰極12の3個のグリッド電極50、52、54に陰極12のカソード40の電位を基準とするグリッド電圧を印加するものである。陰極12のカソード40の電位が負の高電位にあるため、グリッド電源86から出力されるグリッド電圧も負の高電位にある。このためグリッド電源86は高電圧電源84と同様に絶縁物から成るグリッド電源基板152の上に配列される。グリッド電源86は通常絶縁変圧器154と整流素子156などからなり、低圧電源プラグ92から導入した低圧の交流電圧を入力して、絶縁変圧器154で昇圧し、これを整流素子156で整流して直流電圧とし、これを分圧器155で分圧して、G1電圧、G2電圧、G3電圧を生成する。また、グリッド電圧については、G1電圧、G2電圧、G3電圧を別々に独立して生成してもよい。この場合には絶縁変圧器154と整流素子156が3組必要となる。後者の場合、それぞれのグリッド電圧を別々に調整する必要があるときなどには有利である。カソード40を加熱するためのヒータ電圧もここでグリッド電源86の一部として生成される。ヒータ電圧は絶縁変圧器153を用いて、低圧交流電圧から生成される。
グリッド電源86とX線管10との間の接続では、グリッド電源86の全ての電圧はX線管10の陰極12に供給されるので、グリッド電源86からの全てのリード線157はX線管10の陰極12のステム48の導入リード線60に接続される。グリッド電源86の出力端子のうちの電位0Vの端子(カソード電位の端子)からのリード線157aがカソード40のリード60aに、G1電圧の端子からのリード線157bがG1電極50のリード60bに、G2電圧の端子からのリード線157cがG2電極52のリード60cに、G3電圧の端子からのリード線157dがG3電極54のリード60dに、それぞれ接続される。更に、ヒータ41を加熱するためのヒータ電圧の端子からのリード線157e、157fはヒータ41の2本のリード60e、60fに接続される。
次に、図9及び図10によりステータ電源88について説明する。ステータ電源88には低圧交流電圧が用いられる。ステータ100は通常単相コンデンサ・ラン方式のもの(3相方式のものもある)であり、主コイルと進相用の補助コイルとから構成されているため、ステータ100の駆動には商用周波数の交流電圧と、これをコンデンサで進相させた交流電圧が用いられる。本実施例では、この2相の交流電圧をケース82の内部で生成しているため、ステータ電源基板158上に進相用コンデンサ160が配設され、この進相用コンデンサ160に低圧電源プラグ92を経由して低圧交流電圧を供給している。この進相用コンデンサ160に低圧交流電圧を入力すると、進相交流電圧が出力されるので、入力電圧と出力電圧の両方の電圧がステータ100のコイル端子に接続される。上記の2相の交流電圧はケース82の外部で生成することも可能であり、その場合には、それらの電圧は低圧電源プラグ92からケース82内に導入され、ステータ100のコイル端子に接続される。この場合にはステータ電源基板158などは、ケース92内部ではなく、制御装置80内に設けられる。
上記実施例では、X線管10の陽極14が回転陽極形であるとしたが、本発明はこれに限定されず、X線管の陽極が固定陽極形である場合にも適用できる。この場合には、X線管の陽極の外周に配置したステータ100が不要となり、それに伴いステータ100を駆動するためのステータ電源88も不要となる。更に、X線管の陽極が固定陽極形になるのに伴い、X線管の形状が細い円柱状にすることができ、かつ簡略化されるため、X線発生装置全体としてコンパクト化される。