JP4338352B2 - X線管及びそれを用いたx線装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微小焦点(以下、マイクロフォーカスともいう)を有するX線管及びそれを内蔵したX線装置において、X線撮影時の幾何学的拡大率を大きくする技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常の医療用または工業用X線透視、撮影装置、或いはX線露光装置などのX線装置には、X線放射源として多くの場合X線管が搭載されている。それらのX線管の陰極―陽極間には、所望のX線エネルギーに応じて必要な電位差の高電圧が印加される。この高電圧の印加方法としては、通常のX線管では、陽極と陰極とにアース電位に対して正、負に振り分けた高電圧を印加するいわゆる中性点接地方式を採用している。このように中性点接地方式を採ることにより、X線装置の小型化を図っている。
【0003】
これに対し、透視対象が微細物又は極微細部分である場合には、X線管のX線発生源(焦点)の寸法として、数μmオーダーのものが要求される。このような数μmオーダーの微小焦点を有するX線管はマイクロフォーカスX線管と呼ばれている。このようなマイクロフォーカスを得るためには、X線管の陰極において、電子ビーム軌道を集束し、電子ビームの外径そのものを数μmオーダーの寸法のものに形成することが必要である。
【0004】
従来、マイクロフォーカスX線管では、陰極に複数のグリッド電極を配置し、これらのグリッド電極に与える電圧によって形成される電界分布によって静電レンズを作り、この静電レンズによって電子ビームの軌道を収束する方式を採っている。このとき、複数のグリッド電極にそれぞれ異なる電位差電圧を印加して、任意の焦点寸法を形成できるように制御している。このようなX線管の場合、グリッド電極に印加する電圧を制御する必要性から、通常のX線管で用いられているような中性点接地方式は採られず、主に陰極接地方式が用いられている。
【0005】
このようなマイクロフォーカスを有するX線管及びそれを内蔵したX線装置に関する技術としては、米国特許5,077,771号、米国特許4,646,338号、米国特許4,694,48号、特開平7−29532号などに記載された技術が知られている。
【0006】
米国特許5,077,771号、米国特許4,646,338号、米国特許4,694,480号には、X線管と、モールドされた高電圧電源及び制御回路とから構成された携帯用のX線装置が開示されている。
【0007】
これらのX線装置では、X線管への電圧の印加方法として、カソードアース、ターゲットアース、或いはフォーカス電圧を可変する方法が用いられている。しかし、いずれの方法も、マイクロフォーカスX線管を内蔵するX線装置としての重要な要件である微小焦点X線を発生制御する方法には適していなかった。
【0008】
また、各部の高電圧発生回路の電圧制御方式がパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)方式であり、制御パルスのパルス幅を変えて実効電圧を制御するようになっているため、高電圧(二次側コイル)側の追従性が悪く、X線出力のゆらぎが大きかった。
【0009】
また、特開平7−29532号には、上記の問題を解決するための技術が開示されている。すなわち、特開平7−29532号のX線装置では、先ず、カソード、ターゲット、アース電位のフォーカス電極及びアース電位の外囲器を備えたX線管と、ターゲットへの印加電圧の変化に連動させて、一定の比率でカソードへの印加電圧を変化させるように制御する制御回路とを備えており、この制御回路によって微小焦点を形成する電子ビームの外径を一定にし、X線出力の変動を抑制している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来のマイクロフォーカスX線管では、グリッド電極に印加する電圧の制御を容易に行うために、陰極全体の基準電位(電子ビームの加速電圧のうち陰極側が分担する電位)をアース電位もしくは所望のX線管電圧に比べてほぼアース電位とみなされる低電圧の電位としている。各々のグリッド電極には、この基準電位に基づいてバイアス電圧を与えている。このため、所望のX線エネルギーを得るためのX線管電圧のほとんど全てを陽極側で負担している。従って、アース電位となる外囲器と陽極との間の耐電圧特性を安全に保持するためには、両者の間隔を一定値以上に確保しなければならない。
【0011】
これに対し、マイクロフォーカスX線管では、撮影などの対象となる微細物などを拡大撮影するため、より高い幾何学的拡大率が要求される。X線管において、高拡大率を得るためには、X線管の焦点と外囲器(特に、X線放射窓の位置)との間の距離を縮めることが要求される。このため、陰極全体の基準電位をアース電位またはそれに近い低電圧とするタイプのX線管では、焦点と外囲器との間の距離を縮めることが困難となり、上記の高拡大率を得ることが困難となる。
【0012】
上記に鑑み、本発明では、高拡大率が得られ、かつ小型のマイクロフォーカスX線管及びそれを用いたX線装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のX線管は、電子ビームを放出するカソード電極と前記電子ビームの軌道及び電流量を制御する複数のグリッド電極とを有する陰極と、前記電子ビームの衝突によりX線を発生させるターゲットを有する陽極と、前記陰極と前記陽極とを真空気密に封入し、前記ターゲットで発生したX線を外部に放射するX線放射窓を有する外囲器とから構成され、前記グリッド電極に印加するグリッド電圧の制御により微小焦点を得るX線管において、前記外囲器をアース電位とし、X線管電圧をほぼ二等分し、その負の高電圧が前記陰極のカソード電極に、その正の高電圧が前記陽極に印加されるものである。
【0014】
この構成では、マイクロフォーカスX線管にて、外囲器をアース電位とし、陽極と陰極に正、負の高電圧を印加する中性点接地方式を採用しているので、従来の同じX線管電圧のマイクロフォーカスX線管に比べ、外囲器と陽極との間にかかる電圧が約1/2に低下するため、外囲器と陽極との間隔を狭くすることが可能となる。その結果、X線管の焦点とX線放射窓との距離を短くすることができるため、マイクロフォーカスによる拡大撮影時の幾何学的拡大率を大きくすることができ、微小被検体の精細な画像を得ることができる。
【0015】
また、本発明のX線管では、更に前記複数のグリッド電極にはそれぞれ前記カソード電極に印加される負の高電圧を基準電位とした独立のグリッド電圧が印加される。
【0016】
この構成では、複数のグリッド電極に印加されるグリッド電圧がそれぞれ独立しているので、これらの独立のグリッド電圧を複数のグリッド電極にカソード電極の電位を基準にして適当に印加することにより、カソード電極の前面に電子ビームを集束するための適正な静電レンズを容易に形成することができる。その結果、カソード電極からの電子ビームの集束が容易となり、マイクロフォーカスを得ることが容易となる。
【0017】
また、本発明のX線装置は、上記のX線管と、該X線管の陽極と陰極に印加するための正、負の高電圧を生成する高電圧発生回路と、前記X線管のグリッド電極に印加するための複数のグリッド電圧を生成するグリッド電圧発生回路と、前記高電圧発生回路と前記グリッド電圧発生回路の動作を制御する制御部と、該制御部への制御データの入力などを行うインターフェース部と、少なくとも前記X線管と前記高電圧発生回路と前記グリッド電圧発生回路を絶縁して収納する容器とを備えたものである。
【0018】
この構成のX線装置では、中性点接地方式のマイクロフォーカスX線管と、これを駆動、制御するための電源と制御部とを備えているので、被検体の拡大撮影検査時に従来のマイクロフォーカスX線装置に比べ、焦点と被検体との間の距離を小さくすることができ、幾何学的拡大率を大きくすることができる。その結果、被検体の微小対象物の精細な画像を得ることができる。
【0019】
また、本発明のX線装置では、更に前記グリッド電圧発生回路にてグリッド電圧の生成に用いる電圧を前記高電圧発生回路の負の高電圧発生部で発生した高電圧から分圧して使用している。
【0020】
この構成では、グリッド電圧の生成に高電圧発生回路の負の高電圧発生部で発生した高電圧を分圧して直接使用しているので、従来のX線装置の如く、グリッド電圧発生のための絶縁変圧器を使用せずに済むので、小型で電源一体型のX線装置を実現することができる。
【0021】
また、本発明のX線装置では、更に前記高電圧発生回路の負の高電圧発生部で発生する高電圧の電位差を、正の高電圧発生部で発生する高電圧の電位差よりも高くしている。
【0022】
この構成では、グリッド電圧の生成のために分圧して使用される高電圧発生回路の負の高電圧発生部で発生する電位差を、正の高電圧発生部で発生する電位差よりも高くしているので、負の高電圧発生部で発生する高電圧を使用するグリッド電圧としては、X線管の陰極側の基準電位となるカソード電極の電位より低い電位を生成することが可能となる。この結果、複数のグリッド電極に、陰極側の基準電位に対し正、負のグリッド電圧を印加することができるので、電子ビームに対し精度のよい静電レンズを形成するのが容易となる。
【0023】
また、本発明のX線装置では、更に前記高電圧発生回路をコッククロフト回路とし、そのコッククロフト回路の負の高電圧発生部では発生する高電圧が高くなるようにコンデンサとダイオードの組数を正の高電圧発生部のものより1組以上多くしたものである(以下、このコンデンサとダイオードの組数を多くした部分を付加部と略称する)。
【0024】
この構成では、高電圧発生回路がコッククロフト回路であるので、正と負の高電圧発生部を設けるのは容易であり、また正と負の高電圧発生部でコンデンサとダイオードの組数を変えて、両者で発生する電圧値を変えることも容易に行うことができる。また、負の高電圧発生部に付加部を設けたことにより、負の高電圧発生部の電位差は正の高電圧発生部の電位差よりも高くなっている。
【0025】
また、本発明のX線装置では、更に前記コッククロフト回路の負の高電圧発生部の付加部で発生する電圧を分圧して前記グリッド電圧発生回路のグリッド電圧の生成に使用するものである。
【0026】
この構成では、グリッド電圧発生回路の入力電圧としてコッククロフト回路の負の高電圧発生部の付加部で発生した電圧を利用しているので、グリッド電圧発生用に別電源を設ける必要がなくなり、グリッド電圧発生回路が簡素化され、X線装置の小型化に寄与する。
【0027】
また、本発明のX線装置では、更に前記グリッド電圧発生回路にて生成されるグリッド電圧が前記制御部から絶縁された光ケーブルを介して前記グリッド電圧発生回路に送付される光信号によって制御される。
【0028】
この構成では、グリッド電圧が制御部から光ケーブルを介して送付される光信号によって制御されるので、グリッド電圧発生回路と制御部との間は完全に絶縁される。この結果、従来の如くグリッド電圧の発生のために絶縁変圧器を用いる必要はなくなるので、X線装置の小型化に寄与する。
【0029】
また、本発明のX線装置では、更に前記グリッド電圧発生回路のグリッド電圧は、前記制御部においてパルス幅変調(PWM)制御方式によって制御された光信号によって制御されている。
【0030】
この構成では、グリッド電圧の電圧値が、周波数の変動が小さく、パルス幅の精度の高いPWM制御方式によって制御されるので、グリッド電圧値の精度は向上し、安定したものとなる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して説明する。図1に、本発明に係るX線装置の一実施例の概略構成を示す。図1を用いて、X線装置の全体構成について説明する。
【0032】
図1において、本発明に係るX線装置10は、マイクロフォーカスを備えたX線管20と、X線管20に高電圧を供給する高電圧発生回路22と、X線管20の陰極を構成するグリッド電極にグリッド電圧を供給するグリッド電圧発生回路24と、X線管20のカソードを加熱するためのカソード電源回路26と、X線管20の陽極を回転駆動するステータ28と、ステータ28を付勢するための陽極回転電源30と、これらの電源回路を制御し、X線管20の動作を制御する制御部32と、操作者が制御部32にデータインプットなどを行うインターフェース部34と、X線管20や各種電源などを収容する収納容器36などから構成される。
【0033】
ここで、制御部32は、高電圧発生回路22を制御する高電圧制御部(40)と、グリッド電圧発生回路24を制御するグリッド電圧制御部(42)と、カソード電源回路26を制御するカソード制御部(44)と、陽極回転電源30を制御する陽極回転制御部と、その他の制御を行うその他制御部などから構成される。これらの制御部のうち、陽極回転制御部以外は、高電圧が関係する。
【0034】
図2には、本実施例のX線装置における収納容器内の主要構成品の配置例を示す。図2において、収納容器36は金属の板状体から構成された直方体の筺体で、内面の必要な部分には防X線のための鉛板などが貼付されている。この筺体の形状は円筒体などの他の形状でもよい。収納容器36の中央部には、X線管20が主として絶縁物から成る固定用部材62によって陽極端を支持されて、収納容器36の下壁に固定されている。このとき、X線管20のX線放射窓136は、収納容器36の上壁面に近接して配置されるよう寸法調整されている。また、X線管20の陰極側の給電部118は収納容器36の左側壁面に向けて配置されている。
【0035】
また、収納容器36の右側壁面には高電圧発生回路22が絶縁支持され、左側壁面にはグリッド電圧発生回路24とカソード電源回路26が絶縁支持されている。X線管20の陽極側外周には回転陽極120を回転させるステータ28が配置されている。収納容器36の内部には各構成品相互間の絶縁をするために絶縁油60が充填されている。この絶縁には、絶縁油60以外にも、他の液状絶縁物や六弗化硫黄(SF)などの気状絶縁物を用いてもよい。
【0036】
図3には、本発明に係るX線管20の一実施例の構造図を、図4には陰極構造の拡大図を示す。図3において、マイクロフォーカスを備えたX線管20は、電子ビーム62を発生する陰極100と、電子ビーム62が衝突してX線を発生する回転陽極120と、陰極100と回転陽極120を絶縁して支持し、真空気密に封入する外囲器130とから成る。本実施例のX線管20は、中性点接地方式で使用されるもので、外囲器130はアース電位に保持され、回転陽極120には正の高電圧が、陰極100には負の高電圧がそれぞれ印加される。
【0037】
陰極100には、ヒータ電極102と、カソード電極104と、グリッド電極(以下、G1またはG1電極と略称する場合がある)106と、フォーカス電極(2種類の電極から成り、第1フォーカス電極と第2フォーカス電極とに区別する。以下、それぞれのフォーカス電極をG2、G3またはG2電極、G3電極と略称する場合がある)108、110と、陰極支持体112から構成されている。グリッド電極106とフォーカス電極108、110は機能的な差異から別名称としているが、いずれも電子ビーム62を集束するための電極であるので、以下の説明ではまとめてグリッド電極と総称し、G1、G2、G3で区別する場合もある。
【0038】
カソード電極104は熱電子放出源で、本実施例では含浸型カソードが用いられている。この含浸型カソードでは、多孔質タングステンに酸化バリウム(BaO)、酸化カルシウム(CaO)、アルミナ(AlO)を含浸させ、その電子放射面にオスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、オスミウム/ルテニウム合金(Os/Ru)などを被覆している。オスミウム(Os)などの被覆により、カソードの動作温度が被覆のないものに比べ100℃程度低下させることができるため、カソードがより長寿命となっている。
【0039】
カソード電極104の内部にはヒータ電極102が配設され、後述のヒータ電源から供給されたヒータ電圧によって一定温度まで加熱することにより、カソード電極104の電子放射面から熱電子が放出される。カソード電極104で発生した熱電子は、グリッド電極106及びフォーカス電極108、110によって集束され、細い電子ビーム(X線管電流)62となる。
【0040】
図3及び図4において、グリッド電極106とフォーカス電極108、110は、モリブデン(Mo)などの耐熱性及び放熱性の優れた金属材料から成り、図示の如くカソード電極104の前面に同心状に間隔をとって配置され、後述のグリッド電圧発生回路24から供給されるバイアス電位が印加されることにより、電子ビーム62を集束するための静電レンズを形成する。グリッド電極106とフォーカス電極108、110には、所望の微小焦点を形成するために、カソード電極104からの電子ビーム62を通す穴が設けられており、各々の電極の形状はバイアス電位の印加によって電子ビーム集束作用を持つように設計されている。
【0041】
ヒータ電極102、カソード電極104、グリッド電極106、フォーカス電極108、110は、陰極支持体112によって絶縁して支持されている。本実施例の陰極支持体112は絶縁支柱114とステム116とから成り、絶縁支柱114は図4に示す如く各電極の外周部を絶縁支持し、ステム116は図3に示す如く絶縁支柱114と各電極との組立体を支持する。絶縁支柱114は複数本(2〜4本)のマルチフォームガラスなどの絶縁体の支柱から構成されており、これらの支柱にグリッド電極106、フォーカス電極108、110の外周部が金具111を介して取り付けられている。
【0042】
また、ステム116は耐熱性ガラスなどの絶縁材料から成り、その中にグリッド電極106などへの給電のためのリードが封入されている。このステム116上にリードなどを介して絶縁支柱114と各電極との組立体が取り付けられて、各電極とリードとの配線が行われている。
【0043】
次に、図3において、X線管20の回転陽極120は、陰極100からの電子ビーム62が衝突してX線を発生するターゲット122と、ターゲット122を支持して回転する回転部124と、回転部124を回転自在に支持する固定部126とから構成される。ターゲット122はタングステン(W)やタンタル(Ta)などのX線発生効率のよい、高原子番号の高融点金属(または合金)材料から成る。その形状は円錐台状であり、X線放射方向Xに向けて傾斜角度θを設けた構成となっている。本実施例では、ターゲット122の傾斜角度θは、電子ビーム62の軌道に垂直な面に対し、約25度前後の角度としている。
【0044】
回転部124は、ターゲット122を支持するターゲット支持軸124aと、X線管20の外部に配設したステータ28から回転磁界を受けて回転するロータ124bと、ロータ124bの内部に配設された回転軸と、回転軸を回転自在に支持する軸受などから構成される。固定部126は、回転部124の軸受を支持し、高電圧発生回路22から給電される正の高電圧を受ける端子を備えた固定部本体と、固定部126を外囲器130に接続する固定部絶縁体などから構成される。
【0045】
外囲器130は、陰極100及び回転陽極120のターゲット122の部分を封入する胴体部132と、回転陽極120の回転部124と固定部126の部分を封入する陽極封止部134とから構成される。胴体部132は両端に円板状の底の付いた円筒状をしており、大部分がステンレスや銅などの金属材料から成る。胴体部132の円筒状部132aのほぼ中央部に陰極100の陰極支持体112がステム116を介して接続されている。胴体部132とステム116とは、ステム116を構成する絶縁物と熱膨張率を合わせた金属材料、例えばコバールなどを介在させて接続されると共に、胴体部132の金属部分とステム116に封入されるリードとの間の絶縁距離が十分とれるように配慮される。
【0046】
胴体部132の一方の円板状部132bの、ターゲット122のX線発生部(以下、焦点とも云う)123に近い部分にX線放射窓136が取り付けられている。X線放射窓136の材料としてはX線透過率の高いベリリウム(Be)などが用いられ、このベリリウムの薄板がステンレスなどの金属材料から成る窓枠にろう付けされて、胴体部132に溶接などにより接続される。
【0047】
胴体部132の他方の円板状部132cには開口132dが設けられており、その開口132dに円筒状の陽極封止部134の一端が接続される。陽極封止部134の円筒状の部分は、その大部分がガラスまたはセラミックなどの絶縁材料から成り、胴体部132との接続は、コバールなどの金属材料を介在させて行っている。陽極封止部134と回転陽極120の固定部126との間の接続も同様に行われる。
【0048】
次に、図1を参照して、X線管20への給電について説明する。先ず、X線管20の回転陽極120と陰極100に高電圧発生回路22から正、負の高電圧が印加される。回転陽極120への正の高電圧の印加は配線140を介して直接行われるが、陰極100への負の高電圧の印加は配線142を通して、グリッド電圧発生回路24を経由した上で、配線144を介してカソード電極104に行われる。陰極100のグリッド電極106とフォーカス電極108、110にはグリッド電圧発生回路24で生成された3つのグリッド電圧が配線145、146、147を介して印加される。また、陰極100のヒータ電極102にはヒータ電源からの電圧がグリッド電圧発生回路24を経由して、配線144、148を介して印加される。このとき、カソード電極104とヒータ電極102の一方の端子は同電位にしてあり、共通の配線144が用いられる。また、それぞれの高電圧回路の低電圧側及びステータ28への給電は、制御部32からそれぞれに行われる。
【0049】
図5に、本発明に係る高電圧発生回路の一実施例の概略構成を示す。図5には、高電圧発生回路に関係する高電圧制御部、X線管、グリッド電圧発生回路も一緒に示した。図5において、高電圧発生回路22にはコンデンサとダイオードとの組合せから成るコッククロフト・ウオルトン回路方式の倍電圧回路(以下、コッククロフト回路と略称する)を採用している。高電圧発生回路22で発生する高電圧の値としては種々の値がとられるが、本実施例の場合、X線管20に印加されるX線管電圧の最大値を150kVとして、陽極側に+75kV、陰極側に−75kVの電圧をそれぞれ印加する中性点接地方式をとっている。
【0050】
図示の例では、コッククロフト回路150は、陽極側コッククロフト回路151と陰極側コッククロフト回路152とから成り、前者は4個のコンデンサと4個のダイオードの組合せ、後者は5個のコンデンサと5個のダイオードの組合せから構成される。1組のコンデンサとダイオードで発生する電圧の最大値は約18.75kVとしている。陰極側コッククロフト回路152については、グリッド電圧発生回路24の入力電圧をこの回路から分圧して利用するためにコンデンサとダイオードを1組追加している。コッククロフト回路150におけるコンデンサとダイオードの組数は上記に限定されず、増減してもよいことは言うまでもない。
【0051】
コッククロフト回路150において、変圧器T154の二次側の出力電圧をVmとすると、コッククロフト回路150の陽極側コッククロフト回路151及び陰極側コッククロフト回路152の各節点における電圧値は順次Vm、2Vm、3Vm、…と増加して行く。ただし、陰極側コッククロフト回路152では負の符号である。ここで、最大電圧値は陽極側では4Vmであるのに対し、陰極側では5Vmである。
【0052】
陰極側コッククロフト回路152では、グリッド電極への電圧(グリッド電圧)を生成するために、第3節点156と第5節点158で発生している電圧を分圧することにしている。第4節点157の電圧−4Vmはカソード電極104に陰極側の基準電位として付与される。第3節点156の電圧−3Vmと第5節点158の電圧−5Vmはグリッド電圧に利用される。すなわち、2Vmの電圧がグリッド電圧発生回路24に入力され、そこでG1電圧、G2電圧、G3電圧が生成され、G1106、G2108、G3110、の各電極に印加される。このとき、G1電圧、G2電圧、G3電圧については、カソード電極104の基準電位との電位差が静電レンズの形成に利用される。
【0053】
図6に、図5の高電圧発生回路22を制御する高電圧制御部の概略構成を示す。図6には、相互の関係を解り易くするため、高電圧制御部40の他に、高電圧発生に関与する部分であるX線管20、高電圧発生回路22、インターフェース部34も示した。以下、図5、図6を用いて、高電圧発生の制御について説明する。
【0054】
図6において、高電圧発生回路22は陽極側高電圧発生部22aと陰極側高電圧発生部22bを備え、インターフェース部34は、操作者がX線管電圧の設定値を入力する管電圧設定部162を備えている。高電圧制御部40は、陽極側高電圧発生部22aにて発生する電圧を設定する陽極側電圧設定部164と、陰極側高電圧発生部22bにて発生する電圧を設定する陰極側電圧設定部166と、陽極側高電圧発生部22aにて発生した電圧を検知する陽極側電圧検知部168と、陰極側高電圧発生部22bにて発生した電圧を検知する陰極側電圧検知部170と、陽極側電圧検知部168の出力と陰極側電圧検知部170の出力を加算して実際に発生しているX線管電圧を判定する管電圧判定部172と、実測したX線管電圧と管電圧設定部162にて設定したX線管電圧を比較する比較部174などから構成される。
【0055】
図6において、高電圧発生回路22で高電圧のX線管電圧を発生させるに当っては、操作者は先ずインターフェース部34の管電圧設定部162からX線管電圧の設定値を入力する。すると、高電圧制御部40では、管電圧設定部162で設定されたX線管電圧値に基づいて、高電圧発生回路22の陽極側高電圧発生部22aと陰極側高電圧発生部22bを陽極側電圧設定部164と陰極側電圧設定部166を介して制御して、設定されたX線管電圧を発生させ、X線管20の回転陽極120と陰極100に印加する。例えば、X線管電圧150kVを発生する場合には、管電圧設定部162にてこのX線管電圧が設定され、これに基づき高電圧制御部40の陽極側電圧設定部164と陰極側電圧設定部166によって図5の変圧器T154の2次側出力が所定の電圧値18.75kV(Vm)となるように制御され、その結果、陽極側高電圧発生部22aの出力側には正の75kV(4Vm)が、陰極側高電圧発生部22bの出力側には負の75kV(−4Vm)がそれぞれ発生する。
【0056】
陽極側高電圧発生部22aと陰極側高電圧発生部22bの出力側に発生した電圧は陽極側電圧検知部168と陰極側電圧検知部170によって検知される。図5において、コッククロフト回路150の陽極側コッククロフト回路151(図6の陽極側高電圧発生部22aに相当)と陰極側コッククロフト回路152(図6の陰極側高電圧発生部22bに相当)の最終段である第4節点155、157にはそれぞれ抵抗分圧器(図示せず)が接続されている。図6の陽極側電圧検知部168と陰極側電圧検知部170は、前記の抵抗分圧器を用いて、陽極側コッククロフト回路151と陰極側コッククロフト回路152の第4の節点155、157で発生した電圧を分圧して測定して、それぞれの電圧の実測値として出力する。
【0057】
管電圧判定部172は、陽極側電圧検知部168と陰極側電圧検知部170から得られた陽極側電圧の実測値と陰極側電圧の実測値を加算回路にて加算して、X線管電圧の実測値を判定する。比較部174では、管電圧判定部172から得られたX線管電圧の実測値と、インターフェース部34の管電圧設定部162から入力されたX線管電圧の設定値とをコンパレータで比較する。比較部174で比較した結果、X線管電圧の実測値と設定値とが一致している場合には、高電圧発生回路22への制御はそのままとするが、両者が一致しない場合には、比較部174での比較差異に基づいて、両者が一致するように、管電圧判定部172から陽極側電圧設定部164と陰極側電圧設定部166を介して、図5の変圧器T154の一次側に印加する電圧が制御される。
【0058】
次に、図7を用いて、高電圧制御部40による高電圧発生回路22の制御について具体的に説明する。図7は、高電圧発生回路22への入力電圧を制御する回路を示したものである。図7において、高電圧発生回路22を構成するコッククロフト回路150に電圧を供給する変圧器T154の1次側には交流電源182と整流回路184とインバータ回路186とから成る電源部180が接続されており、このインバータ回路186を制御回路188によってパルス幅変調(PWM)制御(以下、PWM制御と略称する)している。以下、制御回路188については、PWM回路ともいう。
【0059】
インバータ回路186のPWM制御では、例えば25kHz程度のパルスが用いられる。変圧器T154の2次側電圧Vを上昇するときには、PWM回路188によってインバータ回路186のパルス幅を大きくして、変圧器T154の1次側コイルに流れる平均電流を増大させて、1次側電圧Vを上昇させる。反対に、2次側電圧Vを降下させるときにはPWM回路188によってインバータ回路186のパルス幅を小さくして、変圧器T154の1次側コイルに流れる平均電流を減少させて、1次側電圧Vを降下させる。
【0060】
変圧器T154の1次側と2次側の巻数比を例えば1:100とした場合、コッククロフト回路150から出力されるX線管電圧を150kVとしたとき2次側の電圧Vは前述の如く18.75kVとなるので、1次側の電圧Vとしては187.5Vだけ発生する必要がある。
【0061】
図8に、X線管の陰極の各電極に印加する電圧を発生する電源とそれを制御する制御部のブロック構成図の一例を示す。図8において、X線管20の陰極100の電源としては、前述の高電圧発生回路22と、グリッド電圧発生回路24と、カソード電源回路26が含まれる。高電圧発生回路22はカソード電極104に負の高電圧を供給し、グリッド電圧発生回路24は3種類のグリッド電圧、すなわちG1電極106にG1電圧、G2電極108にG2電圧、G3電極110にG3電圧を供給し、カソード電源回路26はヒータ電極102にヒータ加熱電圧を供給する。
【0062】
上記の陰極100の電源は制御部32とインターフェース部34によって制御される。高電圧発生回路22は前述の如く、制御部32の高電圧制御部40とインターフェース部34の管電圧設定部162によって制御され、グリッド電圧発生回路24の3個のグリッド電圧発生部、すなわちG1電圧発生部190、G2電圧発生部191、G3電圧発生部192は、制御部32のグリッド電圧制御部42のG1電圧制御部193、G2電圧制御部194、G3電圧制御部195とインターフェース部34のグリッド電圧設定部196によって制御され、カソード電源回路26は制御部32のカソード制御部44によって制御される。
【0063】
グリッド電圧は陰極100の基準電位となるカソード電極104と同様負の高電圧となるため、グリッド電圧発生回路24自体負の高電圧に保持され、その入力電圧は高電圧発生回路22の陰極側高電圧発生部22bから供給されている。このため、本実施例では、グリッド電圧発生回路24を制御するためにグリッド電圧制御部42から送付される制御信号は高電圧絶縁されたものになっている。具体的には、以下に詳述する如く光信号を用いている。
【0064】
図8において、グリッド電圧の発生にあたっては、先ず、インターフェース部34のグリッド電圧設定部196から操作者がG1電圧、G2電圧、G3電圧の目標値を設定し、その3種類のグリッド電圧の設定値に基づいて、グリッド電圧制御部42のG1電圧制御部193とG2電圧制御部194とG3電圧制御部195がG1電圧発生部190とG2電圧発生部191とG3電圧発生部192とを光信号にて制御し、それぞれのグリッド電圧発生部がG1電圧、G2電圧、G3電圧を発生し、G1電極106、G2電極108、G3電極110に印加する。
【0065】
次に、図8を用いて、カソード電源回路とその制御について説明する。X線管20のカソードは前述の如くカソード電極104とこれを加熱するヒータ電極102とから成るが、カソード電極104には高電圧発生回路22から負の高電圧(−4Vmの電圧)が印加され、ヒータ電極102にはカソード電源回路26からのヒータ加熱電圧が印加される。ヒータ電極102の一方の端子はカソード電極104と接続され、同電位となっている。
【0066】
カソード電源回路26は主として低電位の加熱回路198とヒータ加熱用絶縁変圧器Th200とから成る。加熱回路198はヒータ加熱電圧Ehを発生し、ヒータ加熱用絶縁変圧器Th200の1次側に入力し、その2次側には同じ電圧値の絶縁されたヒータ加熱電圧が出力される。ヒータ加熱電圧Ehとしては、例えば約6.3Vの交流電圧が用いられる。このヒータ加熱電圧Ehによってヒータ電極102が加熱され、カソード電極104が熱電子放射に必要な所望の温度まで加熱される。
【0067】
本実施例のX線管20では、通常のX線管と異なり、X線管電流の電流値の制御をグリッド電圧の制御で行っているため、本実施例のカソード制御部44では、X線管20の動作条件に従って、主として加熱回路198におけるヒータ加熱電圧のON−OFF制御を行う。
【0068】
次に、図8〜図14を用いて、グリッド電圧発生回路とその制御の詳細について説明する。図9は、図8のグリッド電圧発生回路24のうちのG1電圧発生部190の一例を、図10はグリッド電圧制御部42のうちのG1電圧制御部193の一例を、図11はグリッド電圧制御部42のうちの光制御信号送受部の一例を、図12と図13はグリッド電圧の昇圧と降圧の制御例を、図14はグリッド電圧値と光制御信号のデューティ(Duty)との関係を示す。
【0069】
図8に示した如く、グリッド電圧発生回路24はG1電圧発生部190とG2電圧発生部191とG3電圧発生部192とから構成され、それぞれのグリッド電圧発生部で生成されたG1電圧、G2電圧、G3電圧がX線管20のG1電極106、G2電極108、G3電極110に印加される。本実施例でのX線管20の陰極100への具体的なグリッド電圧の印加のしかたとしては、カソード電極104に陰極側の高電圧の基準電位を与え、それぞれのグリッド電極にはこのカソード電極104の基準電位に対し正、負の電圧を付加した電圧が印加される。G1電極106には正の電圧、例えば0Vから+100Vを付加したG1電圧が、G2電極108にはG1電圧より高い正の電圧、例えば0から+2,000Vを負荷したG2電圧が、G3電極110にはG2電圧より低い正または負の電圧、例えば−500Vから+500Vを付加したG3電圧がそれぞれ印加される。このようなグリッド電圧の印加により、カソード電極104の前面に静電レンズを形成し、カソード電極104から放出された熱電子を加速し、小さい外径の電子ビームに集束している。
【0070】
上記のグリッド電圧発生回路24の3個のグリッド電圧発生部はほぼ同じ構成をしているので、図9にはG1電圧発生部190を代表例として示した。図9において、G1電圧発生部190では高電圧発生回路22となるコッククロフト回路150の陰極側コッククロフト回路152から分圧した電圧Vhを入力電圧として、G1電圧VG1を生成する。ここで、入力電圧Vhは、X線管電圧と連動して変化するものであるので、X線管20の動作条件が変化するとこれに連動して変化する。このため、本実施例のG1電圧発生部190では、陰極側コッククロフト回路152から分圧した入力電圧Vhを更に抵抗R、R、Rで分圧してコンデンサCに充電しておき、この充電電圧Viをグリッド電圧制御部42のG1電圧制御部193からの光制御信号で制御してG1電圧VG1を生成している。光制御信号を受光するため、G1電圧発生部190の後段にはホトダイオードPDを配置し、G1電圧制御部193とホトダイオードPDとの間には光ケーブルを配設している。
【0071】
先ず、G1電圧発生部190への入力電圧Vhとしては、陰極側コッククロフト回路152の第3節点156と第5節点158との間のコンデンサCK5の出力電圧2Vmが節点Aと節点Bの間に付与される。このとき、節点Aの電位は−5Vmに、節点Bの電位は−3Vmとなる。この入力電圧Vhは抵抗R、R、Rによって分圧されて、コンデンサCに充電され、充電電圧Viが発生する。コンデンサCの充電電圧Viの電圧値は次式(1)で表わされる。
【数1】
Figure 0004338352
【0072】
また、G1電圧発生部190からの出力電圧VG1は節点Cと節点Dの間の電位差として出力され、節点Dの電位がG1電極106に付与される。節点Cの電位は第5節点158の電位と同じであり、−5Vmとなっている。G1電極106に付与すべき電圧はカソード電極104に対し0Vから+100Vであり、カソード電極104の電位が−4Vmであるので、G1電極106に付与すべき電位の範囲は−4Vmから−4Vm+100Vとなる。以上のことから、出力電圧VG1の電圧値はVmからVm+100Vの範囲で変化することになる。
【0073】
上記のことから、G1電圧発生部190においては、入力電圧Vh(=2Vm)を出力電圧VG1(=Vm~Vm+100V)に変換して出力するにあたり、抵抗R、R、Rによる分圧では約1/2の電圧に電圧降下させている。ここで、電圧VmがX線管20の動作条件によって変動するため、入力電圧Vhと必要とされるG1電圧VG1もX線管20の動作条件によって変動する。入力電圧Vhと必要とされるG1電圧VG1との変換比α(G1)(=VG1/Vh)を式で表わすと、次式(2)の如くなる。
【数2】
Figure 0004338352
式(2)において、α(G1)の最大値は0.5+100/Vmであるので、Vmが最も小さいとき、すなわちX線管電圧が最も低いときに生じる。このため、本実施例では、抵抗R、R、Rによる分圧の分圧比としてはX線管電圧の最低使用電圧値における必要とされるG1電圧VG1と入力電圧Vhとの比率の最大値を採ることにした。このようにα(G1)の最大値をとっておけば、α(G1)の低い領域の電圧に対しては入力電圧Vhについて余裕をとることができる。
【0074】
上記のことを、X線管電圧の使用範囲が40kVから150kVであるX線管20に適用してみると、X線管電圧が40kVの場合の入力電圧Vhと、必要とされるG1電圧VG1は10kVと5kV〜5.1kV、150kVの場合のそれらは37.5kVと18.75kV〜18.85kVとなる。G1電圧VG1と入力電圧Vhの比率α(G1)を求めると、40kVの場合0.5〜0.51、150kVの場合0.5〜0.5027となる。従って、抵抗R、R、Rによる分圧比としては40kVにおける最大値0.51を採用する。その結果、入力電圧Vhは、X線管電圧が40kVより高い領域及びG1電極106のバイアス電圧が低い領域において、G1電圧VG1に対し余裕をもつことになる。
【0075】
次に、コンデンサCの電圧Viは、G1電圧発生部190の後段で、G1電圧制御部193からの光制御信号を受けて制御される。以下、図10と図11を参照しながら、G1電圧発生部190の後段でのG1電圧の生成の手順について説明する。図10において、G1電圧制御部193は、主たる構成要素として、光制御信号を発生する発光ダイオード216と、光信号送受部218と、発光ダイオード216を発光させるための電流を流す電源部220と、この電源部220を制御するパルス幅変調(PWM)回路234などを含む。以下、PWM回路234を制御回路ともいう。電源部220は交流電源228と整流回路230とインバータ回路232から構成され、このインバータ回路232の出力電流のパルス幅をPWM回路234が制御する。
【0076】
図11は光信号送受部218の構造の詳細を示したもので、この光信号送受部218は発光ダイオード216が生成した光信号を集光して、光ケーブル224に送る光信号送信部222と、光信号を絶縁して送る光ケーブル224と、光信号を受信してホトダイオード210に照射する光信号受信部226と、光ケーブル224と光信号送信部222及び光信号受信部226とを接続するコネクタ236、238などから構成される。
【0077】
図9において、コンデンサCに電圧Viが充電された状態で、ホトダイオード(PD)210に図10、図11に示したG1電圧制御部193の発光ダイオード216からの光制御信号が与えられると、ホトダイオード210がON状態(導通)となり、トランジスタTのベースに電流が供給され、トランジスタTのコレクタ・エミッタ間がON状態となる。この動作により、Tのベース電位が低下してベース電流の供給が停止するため、トランジスタTのコレクタ・エミッタ間がOFF状態(不導通)となる。トランジスタTがOFF状態になることにより、トランジスタTのベース電位が上昇してベース電流が供給されるため、トランジスタTのコレクタ・エミッタ間がON状態となる。
【0078】
トランジスタTがON状態になることで、コンデンサCの充電電圧ViによってG1電圧発生用のコンデンサCの充電が行われ、G1電圧VG1が上昇する。このG1電圧VG1の上昇は、G1電圧制御部193の発光ダイオード216からの光制御信号がホトダイオード210に入力されている間継続し、G1電圧VG1の最大値はコンデンサCの電圧Viと同一値となる。
【0079】
一方、G1電圧制御部193の発光ダイオード216からホトダイオード210への光制御信号の伝送を停止すると、ホトダイオード210がOFF状態となるので、トランジスタTのコレクタ・エミッタ間がOFF状態となる。その結果、トランジスタTのベース電位が上昇してコレクタ・エミッタ間がON状態となるため、トランジスタTのコレクタ・エミッタ間がOFF状態となり、コンデンサCの電圧ViからのコンデンサCへの充電が停止し、逆にコンデンサCは抵抗R、R10、R11を通して放電を開始する。このコンデンサCの放電によりG1電圧VG1は降下する。
【0080】
しかし、トランジスタTのエミッタ側の電圧(抵抗Rにかかる電圧)は定電圧ダイオードD2の定格電圧によって決定されるので、トランジスタTのベース電圧が定電圧ダイオードD2の定格電圧になるまでトランジスタTはON動作が継続する。この定電圧ダイオードD2の定格電圧がG1電圧VG1の降下の最低値を規定する。
【0081】
以上説明した如く、G1電圧発生部190では、ホトダイオード210に光制御信号が供給されている間G1電圧VG1が上昇し、ホトダイオード210への光制御信号の供給が停止されるとG1電圧VG1が降下するように構成されているので、G1電圧制御部193において、そこから送信する光制御信号をON、OFF制御することによってG1電圧VG1の電圧値を制御することができる。
【0082】
本実施例では、G1電圧制御部193における光制御信号のON、OFF制御にPWM制御方式を採用している。図10のG1電圧制御部193において、光制御信号の発生源となる発光ダイオード216の電源部220は、高電圧発生回路22の電源部と同様に、交流電源228と整流回路230とインバータ回路232を有し、発光ダイオード216にはインバータ回路232の出力であるパルス電圧が印加されている。また、インバータ回路232の出力電圧のパルス幅はPWM回路234によってパルス幅の制御を受けている。
【0083】
次に、図12〜図14を用いて、G1電圧の光制御信号によるPWM制御について説明する。図12(a)と図13(a)はPWM制御を行った光制御信号の経時的変化例を、図12(b)と図13(b)はそのときのG1電圧の経時的変化を示したもので、それぞれ前者は光制御信号のデューティが大きい場合、後者は光制御信号のデューティが小さい場合である。また、図14はPWM制御を行った光制御信号のデューティとG1電圧の最終到達電圧値との関係を示したものである。
【0084】
図12(a)と図13(a)の縦軸は光の量、横軸は時間経過を示し、図12(b)と図13(b)の縦軸はグリッド電圧、横軸は時間経過を示している。図12は光制御信号のデューティが約0.72で、大きい場合である。このように、デューティが0.5より大きい場合にはG1電圧発生部190のホトダイオード210のON状態の時間がOFF状態の時間より長くなるため、図12(b)に示す如く、G1電圧は全体として上昇して行き、高いレベルに設定される。これに対し、図13は光制御信号のデューディが約0.22で、小さい場合である。このようにデューティが0.5より小さい場合にはホトダイオード210のOFF状態の時間がON状態の時間より長くなるため、図13(b)に示す如く、G1電圧は全体として降下して行き、低いレベルに設定される。更に、光制御信号のデューティが0.5の場合には、ホトダイオード210のON状態の時間とOFF状態の時間が等しくなるため、G1電圧は全体として変化がなく、同じレベルに設定される。
【0085】
上記におけるG1電圧の大きさと光制御信号のデューティとの関係をまとめたものが図14で、縦軸はG1電圧の値、横軸は光制御信号のデューティである。図示において、G1電圧は光制御信号のデューティと直線関係にあり、デューティが0.5のときには中央値Eに、デューティが1のときは最高値EHに、デューティが0のときには最低値ELとなる。
【0086】
図14において、デューティが1のときの最高値EHはコンデンサCの充電電圧Viとほぼ同じかそれより少し低い値となり、またデューティが0のときの最低値ELは定電圧ダイオードDによって規定されるG1電圧の降下の最低値とほぼ同じかそれより少し高い値となる。このため、必要なG1電圧の範囲を考慮して最高値EHと最低値ELを設定し、中央値Eについては、例えば必要なG1電圧のうちの使用頻度の高い電圧値にしておくとよい。
【0087】
上記においては、3種類のグリッド電圧のうち、G1電圧の発生のみについて説明したが、G2電圧及びG3電圧の発生についてもG1電圧の場合と同様に行われる。G2電圧とG3電圧はG1電圧に対し、電圧値及びその変動範囲が異なるので、それらに関係した部分、例えば図9の抵抗R、R、Rによる分圧比などが異なるものとなる。
【0088】
本実施例では、低電圧のG1電圧制御部193から高電圧のG1電圧発生部190に伝送される制御信号が光信号であり、その伝送に光ケーブル224が使用されているため、G1電圧制御部193とG1電圧発生部190との間は電気的に完全に絶縁される。この結果、コッククロフト回路150から分圧した高電圧を絶縁した状態で制御して、グリッド電圧を得ることができるので、従来のように絶縁変圧器などを使用せずに済むため、グリッド電圧発生回路24の小型化を図ることができる。
【0089】
次に、図1を参照してステータ28の駆動について説明する。本実施例では、X線管20の陽極として回転陽極120を採用し、この回転陽極120の外周に配置したステータ28を付勢して回転陽極120を回転させて、X線管20としての耐負荷性を向上させている。ステータ28は低電圧に保持されているので、ステータ28に回転駆動電力を供給する陽極回転電源30及び陽極回転制御部は制御部32に内包されている。陽極回転電源30としては100乃至200V程度の交流電源が用いられる。回転陽極120の回転は、従来の医用X線装置と同様に、X線管20に負荷を印加している時間のみ行うことにしている。このため、陽極回転制御部によるステータ28の駆動制御は、X線管20への負荷印加前にステータ28に回転起動電圧を印加し、負荷中に連続回転電圧を印加し、負荷終了後は駆動電圧をOFFするか、回転制動電圧を印加して回転停止した後に駆動電圧をOFFする。
【0090】
本実施例のX線管20は、図3に示す如く、中性点接地方式を採用し、外囲器130をアース電位とし、回転陽極120と陰極100に正と負の高電圧を印加している。この結果、従来の同程度のX線管電圧のマイクロフォーカスX線管と比べ回転陽極120と外囲器130との間の電位差を低減することができ、両者の間の間隙を狭くすることが可能となった。最高X線管電圧150kVのX線管で、陰極接地方式の場合と中性点接地方式の場合とを比較すると、外囲器と陽極間の電圧は前者では150kVであるのに対し、後者では75kVとなる。陽極と外囲器間の間隔d(mm)を変えて、その間に150kV及び75kVの電圧を印加した場合の電界強度E(kV/mm)の変化を計算した結果を示した図が図15で、図15(a)は150kVの場合、図15(b)は75kVの場合である。このとき、外囲器側は平板状であるが、陽極側はその外周部をR面加工し、R=2mmとしている。図15において、安全に使用できる限界電界強度を例えばE=20kV/mmとした場合、図15(a)の陰極接地方式ではdが約50mmであるのに対し、図15(b)の中性点接地方式ではdは約10mmとなり、大幅に短縮される。
【0091】
上記のことから、回転陽極120に形成される焦点123と外囲器130のX線放射窓136との間隔も従来のマイクロフォーカスX線管と比べて、大幅に短縮することができる。焦点123とX線放射窓136との間隔が短くなることにより、X線撮影時に焦点123と被検体との距離を近付けることができるので、以下に述べる如くX線撮影の幾何学的拡大率を従来に比べ大きくすることができる。
【0092】
本実施例のX線装置では、内装X線管としてマイクロフォーカスX線管を備えているので、非破壊検査に使用される場合、拡大撮影による微小被検体の検査に適している。図16に、本実施例のX線装置による拡大撮影における配置図の一例を示す。図16において、X線検査装置内に、X線管20と、被検体240と、X線検出器242が配置されている。被検体240はX線透過性のよい材料から成る支持板(図示せず)によって支持されている。X線管20のターゲット122上に形成される焦点123から放射されたX線64は被検体240を透過した後、X線検出器242の受光面244に受光される。この受光面244にて、X線64は画像信号に変換され、被検体240の拡大された撮影画像が得られる。
【0093】
X線管20の焦点123と被検体240までの距離をA、被検体240からX線検出器242の受光面244までの距離をBとした場合、被検体240の撮影画像の幾何学的拡大率Mは(A+B)/Aとなる。本発明では、前述の如く、X線管20を中性点接地方式としたことにより、従来の同じX線管電圧の陰極接地方式のX線管の場合に比べて、X線管20の焦点123と外囲器130とX線放射窓136との間の距離を大幅に短くすることができるため、焦点123と被検体240との間の距離Aを従来に比べ大幅に小さくすることが可能となった。その結果、撮影画像の幾何学的拡大率Mも従来に比べ大きくすることが可能となり、被検体の微細部分の精密な検査を行うことができるようになった。
【0094】
【発明の効果】
以上説明した如く、本発明によれば、マイクロフォーカスX線管を中性点接地方式とし、X線管電圧を回転陽極側と陰極側とで分担しているので、アース電位にある外囲器とX線源を持つ回転陽極との絶縁距離を従来品に比べ短くすることができた。その結果X線管の焦点と外囲器に設けられるX線放射窓との間の距離も短縮することが可能となり、被検体の画像撮影における幾何学的拡大率を大きくすることができた。
【0095】
また、本発明によれば、マイクロフォーカスX線管の陰極を構成するグリッド電極に供給するグリッド電圧の制御のために光信号を用いたことにより、グリッド電圧発生回路の絶縁に絶縁変圧器などを用いる必要がなくなった。その結果、グリッド電圧発生回路の小型化を図ることができ、小型の電源一体型マイクロフォーカスX線装置を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るX線装置の一実施例の概略構成。
【図2】本実施例のX線装置における収納容器内の主要構成品の配置例。
【図3】本発明に係るX線管の一実施例の構造図。
【図4】陰極構造の拡大図。
【図5】本発明に係る高電圧発生回路の一実施例の概略構成。
【図6】高電圧発生回路を制御する高電圧制御部の概略構成。
【図7】高電圧発生回路への入力電圧を制御する回路。
【図8】 X線管の陰極の各電極に印加する電圧を発生する電源とそれを制御する制御部のブロック構成図の一例。
【図9】グリッド電圧発生回路のうちのG1電圧発生部の一例。
【図10】グリッド電圧制御部のうちのG1電圧制御部の一例。
【図11】光信号送受部の構造の一例。
【図12】グリッド電圧の昇圧の制御例。
【図13】グリッド電圧の降圧の制御例。
【図14】グリッド電圧値と光制御信号のデューティとの関係。
【図15】陽極と外囲器間の間隔と電界強度との関係。
【図16】本実施例のX線装置による拡大撮影における配置図の一例。
【符号の説明】
10…X線装置
20…X線管
22…高電圧発生回路
24…グリッド電圧発生回路
26…カソード電源回路
28…ステータ
30…陽極回転電源
32…制御部
34…インターフェース部
36…収納容器
40…高電圧制御部
42…グリッド電圧制御部
44…カソード制御部
60…絶縁油
62…電子ビーム
64…X線
100…陰極
102…ヒータ電極
104…カソード電極
106…グリッド電極(G1)
108…フォーカス電極(G2)
110…フォーカス電極(G3)
111…金具
112…陰極支持体
114…絶縁支柱
116…ステム
118…陰極側給電部
120…回転陽極
122…ターゲット
123…X線発生部(焦点)
124…回転部
126…固定部
130…外囲器
132…胴体部
134…陽極封止部
136…X線放射窓
140、142、144、145、146、147、148、149…配線
150…コッククロフト回路
151…陽極側コッククロフト回路
152…陰極側コッククロフト回路
154…変圧器T
155、157…第4節点
156…第3節点
158…第5節点
162…管電圧設定部
164…陽極側電圧設定部
166…陰極側電圧設定部
168…陽極側電圧検知部
170…陰極側電圧検知部
172…管電圧判定部
174…比較部
180、220…電源部
182、228…交流電源
184、230…整流回路
186、232…インバータ回路
188、234…制御回路(パルス幅変調(PWM)回路)
190…G1電圧発生部
191…G2電圧発生部
192…G3電圧発生部
193…G1電圧制御部
194…G2電圧制御部
195…G3電圧制御部
196…グリッド電圧設定部
198…ヒータ加熱回路
200…ヒータ加熱用絶縁変圧器
210…ホトダイオード
216…発光ダイオード
218…光信号送受部
222…光信号送信部
224…光ケーブル
226…光信号受信部
236、238…コネクタ
240…被検体
242…X線検出器
244…受光面

Claims (2)

  1. 電子ビームを放出するカソード電極と前記電子ビームの軌道及び電流量を制御する複数のグリッド電極とを有する陰極と、前記電子ビームの衝突によりX線を発生させるターゲットを有する陽極と、前記陰極と前記陽極とを真空気密に封入し、前記ターゲットで発生したX線を外部に放射するX線放射窓を有する外囲器とから構成され、前記グリッド電極に印加するグリッド電圧の制御により微小焦点を得るX線管において、前記外囲器をアース電位とし、X線管電圧をほぼ二等分し、その負の高電圧が前記陰極のカソード電極に、その正の高電圧が前記陽極に印加されるとともに、前記複数のグリッド電極にはそれぞれ前記カソード電極に印加される負の高電圧を基準電位とした独立のグリッド電圧が印加されることを特徴とするX線管。
  2. 電子ビームを放出するカソード電極と前記電子ビームの軌道及び電流量を制御する複数のグリッド電極とを有する陰極と、前記電子ビームの衝突によりX線を発生させるターゲットを有する陽極と、前記陰極と前記陽極とを真空気密に封入し、前記ターゲットで発生したX線を外部に放射するX線放射窓を有する外囲器とから構成され、前記グリッド電極に印加するグリッド電圧の制御により微小焦点を得るX線管において、前記外囲器をアース電位とし、X線管電圧をほぼ二等分し、その負の高電圧が前記陰極のカソード電極に、その正の高電圧が前記陽極に印加されるX線管と、該X線管の陽極と陰極に印加するための正負の高電圧を生成する高電圧発生回路と、前記X線管のグリッド電極に印加するための複数のグリッド電圧を生成するグリッド電圧発生回路と、前記高電圧発生回路と前記グリッド電圧発生回路の動作を制御する制御部と、該制御部への制御データの入力などを行うインターフェース部と、少なくとも前記X線管、前記高電圧発生回路及び前記グリッド電圧発生回路を絶縁して収納する容器とを備え、前記グリッド電圧発生回路で生成されるグリッド電圧が前記制御部から絶縁された光ケーブルを介して前記グリッド電圧発生回路に送付される光信号によって制御されていることを特徴とするX線装置。
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