しかしながら、こうした手法(圧力制御方式)であっても、上記レール圧力、ひいては燃料噴射圧力を必ずしも高い精度で制御することができるとは限らない。例えば上記燃料供給システムの各要素を大量生産して大量販売しようとする場合には通常、例えばシステム(車両)間で、上記燃料ポンプや吸入調整弁、さらにはECU(電子制御ユニット)、バッテリ等を含めた各種の制御部品の特性について幾らかの個体差(機差)が生じることになる。特にコモンレール式燃料噴射システムのような高圧燃料の噴射を行う燃料噴射システムでは燃料リーク量が大きくなり、この燃料リーク量に関する個体差の影響が問題となり易い。
具体的には、上記特許文献1に記載されるシステムも含め、燃焼エンジンを対象とする一般的な燃料供給システムでは、密閉された燃料通路内の燃料を、燃料ポンプによる燃料圧送を通じて加圧することにより燃料の供給が行われる。しかしながら、こうしたシステムを構成する燃料ポンプやインジェクタ(燃料噴射弁)では、それなりに密閉されている(密閉度合がそれなりに高い)とはいえ、少なからず燃料のリークが生じている。例えばインジェクタ(燃料噴射弁)では動リークや静リークが、また燃料ポンプでは内部リークが生じている。特に高圧燃料を供給するシステムでは、これらのリークが大きくなるため、燃料の供給を行う際に、燃料リーク量に関する上記個体差の影響が大きくなる。
このような燃料リーク量がある場合、燃料ポンプにより燃料を加圧しても、燃料リーク量の分だけ圧力が低下する。そのため、上記レール圧力を目標値に精度よく制御するためには、予めその圧力低下を見越してその分だけ余計に加圧を行う必要がある。しかし上記個体差(機差)により燃料リーク量にばらつきがあると、予め燃料リーク量を知ることは困難となる。大量生産する場合にその全ての製品について、車両に搭載された状態で個体差も加味した制御マップや制御式(例えば上記「吸入調整弁の電流量」と「燃料ポンプの吐出量」とを関連付けるマップや数式)を作成することは、現行の生産システムで考えた場合、手間がかかり過ぎて実情に即したものとはいえない。このため、こうしたマップ等を用いた場合でも上記個体差による影響(ばらつき)を取り除くことは困難であり、例えば図13に示すように、上述したコモンレール内の圧力(レール圧力)を目標値にフィードバック制御しているシステムにおいて、制御目標値L50(実線)が変化した場合には、その目標値L50の変化に対するレール圧力の追従性(例えば目標値に対する収束性や目標値変化に対する応答速度等)が、製品によって異なったものとなる。すなわち、燃料リーク量の異なる製品A,B,C(製品A:リーク小、製品B:リーク中、製品C:リーク大)については、それぞれ同図13中に破線L51a,L51b,L51cで示すようなリーク特性となり、製品によっては、過大なオーバーシュートが生じたり(破線L51a)、十分な追従性(応答速度)が得られなかったり(破線L51c)する。そして、こうした圧力制御特性の異常は、時に対象エンジンの燃焼特性を悪化させ、燃焼音を大きくしたり排気浄化性を低下させたりする。
このように、予め適合値の書き込まれたマップや数式を用いた場合でも、上記個体差による影響(ばらつき)の全てが考慮された制御を行うことは困難であり、こうした個体差に起因して圧力制御特性に異常が生じた場合には、対象エンジンにおける燃焼特性の悪化なども懸念されるようになる。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、当該圧力制御に関わる各種装置の圧力特性に個体差(機差)がある場合であれ、対象システムごとの圧力特性を取得することのできる燃料噴射圧力制御装置及び燃料噴射圧力制御システムを提供することを主たる目的とするものである。
以下、上記課題を解決するための手段、及び、その作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明では、所定の態様で(例えばポンプの圧送により)加圧された燃料である加圧燃料を、所定の燃料噴射弁により、対象エンジンの燃料燃焼を行う部分であるシリンダ内又はその吸気通路又は排気通路へ噴射供給する燃料供給システムに適用され、所定の圧力パラメータ(例えば圧力自体、又は圧力に作用する他のパラメータ)の可変制御を通じて前記燃料噴射弁の燃料噴射圧力を目標値へフィードバック制御する燃料噴射圧力制御装置において、前記燃料噴射圧力の安定していることを示す所定の安定条件が成立している間に、前記加圧燃料に関する「燃料消費量=前記燃料噴射弁による燃料噴射量+燃料リーク量」なる関係式に基づいて燃料リーク量を算出し、該算出された燃料リーク量と、所定の燃料供給条件における燃料リーク量である基準リーク量との比率である機差ばらつき割合に基づいて、前記フィードバック制御での圧力パラメータの制御ゲインについて、その時の燃料リーク量に対応した補正係数を求める制御値導出手段を備えることを特徴とする。
対象エンジンへ加圧燃料を供給する際に、その燃料の圧力安定下で上記のようなフィードバック制御を行えば、その制御は、時々の燃料供給量と燃料消費量とが同量になるように行われる。そしてこれにより、該加圧燃料の圧力変動量(低下量)に相当する燃料消費量は補償されることになる。発明者はこうした事象に注目して、燃料噴射システムにおける圧力安定下では、加圧燃料に関して「燃料消費量=燃料噴射量+燃料リーク量」なる関係式が成立することを見出し、上記構成を発明した。すなわちこの構成では、その関係式に基づき、所定の制御パラメータ(制御量や制御ゲイン)について、その時の燃料リーク量に対応した補正値又は新値を求めることが可能になる。これにより、前述した燃料リーク量に関する個体差があった場合であれ、対象システムごとにその個体差も加味された制御マップや制御式等を作成することなくより簡易に、対象システムごとの圧力特性(制御量や制御ゲイン)を取得することができるようになり、ひいてはその圧力特性に適した態様で上記燃料噴射圧力を制御することができるようになる。
請求項2に記載の発明では、上記請求項1に記載の装置に関し、前記燃料噴射弁の駆動を制御するための指令信号に基づいて、同燃料噴射弁による前記加圧燃料の燃料噴射量を求める燃料噴射量導出手段と、前記フィードバック制御における圧力パラメータの制御量のうちの積分動作に係る部分である圧力制御量積分項に基づいて、前記加圧燃料の燃料消費量を求める燃料消費量導出手段と、を備え、前記制御値導出手段が、これら各手段により求められたその時の燃料噴射量及び燃料消費量に基づいて、その時の燃料リーク量に対応した補正値又は新値を求めるものであることを特徴とする。
燃料噴射圧力を安定状態に制御する場合には、例えば燃料ポンプの駆動等により、対象エンジンにおける燃焼や触媒活性等のための燃料噴射や燃料リークで消費した分(燃料消費量)だけ燃料を補う必要がある。この際、一般には、燃料噴射圧力(例えばコモンレール内の圧力)のフィードバック制御が、比例動作(P動作)、積分動作(I動作)、及び微分動作(D動作)によって行われる。しかし発明者は実験等により、上記圧力安定下では、実質的に、このうちの積分動作だけ(略積分動作だけ)で、上記圧力パラメータのフィードバック制御が行われることを見出した。すなわち前記加圧燃料の燃料消費量は、圧力フィードバック制御上で、上記圧力制御量積分項(同フィードバック制御による燃料補填量に相当)に基づいて求めることができる。一方、前記加圧燃料の燃料噴射量については、前記燃料噴射弁の駆動を制御するための指令信号(例えば燃料噴射弁の通電時間など)に基づいてこれを求める手法が、現状の車載エンジンにおいては一般的である。上記請求項2に記載の装置は、このような点に鑑みて発明されたものであり、こうした装置であれば、上記燃料リーク量に対応した補正値又は新値を、より容易且つ的確に求めることが可能になる。
請求項3に記載の発明では、上記請求項1又は2に記載の装置に関し、前記燃料噴射弁による燃料噴射で消費された燃料量だけ、前記燃料噴射圧力のフィードバック制御とは別に前記加圧燃料を補填する噴射燃料補填手段を備える構成とし、前記制御値導出手段についてはこれを、少なくとも該噴射燃料補填手段により前記燃料噴射による燃料消費量が補填されている間は、前記燃料リーク量に対応した補正値又は新値を「燃料リーク量=圧力制御量積分項」なる関係式に基づいて求めるものとすることを特徴とする。
燃料噴射で消費した燃料量(燃料噴射量)は、例えば燃料圧力センサや燃料流量センサ等に基づく実測、あるいは前記燃料噴射弁に対する指令信号等に基づく推定等により求めることができる。そこで、上記燃料の圧力安定下において、この燃料噴射量の分だけ、燃料噴射圧力のフィードバック制御とは別に補えば、先の関係式「燃料消費量=燃料噴射量+燃料リーク量」は、「燃料消費量=燃料リーク量(前述した燃料ポンプや燃料噴射弁等でのリーク)」となる。また上述のように、圧力安定下では、実質的に、このうちの積分動作だけ(略積分動作だけ)で、上記圧力パラメータのフィードバック制御が行われることから、この圧力フィードバック制御上では、「燃料リーク量=圧力制御量積分項」なる関係式が成り立つようになる。このような原理に基づく上記構成によれば、上記燃料リーク量に対応した補正値又は新値を、より容易且つ的確に求めることが可能になる。
請求項4に記載の発明では、上記請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置において、前記燃料供給システムが、所定燃料を圧送して前記加圧燃料とする燃料ポンプを備えて構成されるものであり、前記フィードバック制御に用いられる圧力パラメータの1つが、前記燃料ポンプの吐出量に係るパラメータであることを特徴とする。こうすることで、上記各装置をより容易且つ的確に実現することが可能になる。
請求項5に記載の発明では、上記請求項4に記載の装置において、前記燃料供給システムが、駆動量に応じて前記燃料ポンプに対する燃料吸入量を可変とする吸入調整弁を備え、前記燃料ポンプの吐出量に係るパラメータが、該吸入調整弁の駆動量に係るパラメータ(電流量又は電圧値等)であることを特徴とする。こうした構成であれば、燃料噴射圧力を制御する場合の制御性も高い。
前記制御値導出手段により制御値導出(制御量や制御ゲインの導出)を実行する際には、前記フィードバック制御を的確に行うため、前記燃料噴射弁の燃料噴射圧力と圧力パラメータとの相関を事前に確実なものとしておくことが有効である。したがって、例えば上記請求項4又は5に記載の装置のように、燃料ポンプの吐出量に係るパラメータ(吸入調整弁の駆動量等)を前記圧力パラメータとして用いる場合には、請求項6に記載の発明のように、前記制御値導出手段による制御値導出の実行に先立って、前記燃料ポンプの吐出特性(例えば吸入調整弁の駆動量と燃料吐出量との関係など)に関する補正を行う補正手段を備える構成とすることが有効である。
請求項7に記載の発明では、上記請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置において、前記制御値導出手段の求める制御パラメータは、前記燃料噴射圧力のフィードバック制御に関する積分動作の強さを示す制御ゲイン積分項、及び、同積分動作に係る制御量に係る補正値又は新値である制御量積分項の少なくとも一方であることを特徴とする。
上述のように、燃料噴射圧力の安定下では、実質的に積分動作だけで圧力フィードバック制御が行われるようになる。したがって、上記請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置は、制御ゲイン積分項や制御量積分項に関する制御パラメータ(各積分項の補正値や新値)を求める構成として特に有効である。
請求項8に記載の発明では、上記請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置において、前記制御値導出手段により求められた制御値を、その導出時期、及び、その時の燃料供給条件、の少なくとも一方に応じた所定の態様で、所定の記憶装置に格納する制御値格納手段を備えることを特徴とする。
こうした構成であれば、前記制御値導出手段により求められた制御値(補正値又は新値)を、その導出時期やその時の燃料供給条件に応じた状態で得ることが可能になり、ひいてはそれらのデータを上記記憶装置から読み出すことで、時々の圧力特性(特に上記制御量や制御ゲインから求められる特性)を把握することなどが可能になる。そしてこれにより、例えばデータ蓄積によるデータ解析、あるいは上記圧力特性(例えば制御量や制御ゲイン)の補正や燃料供給系の故障診断等についてもこれを、より容易且つ的確に行うことができるようになる。
なお、上記制御値の導出時期に応じた所定の態様としては、例えば古いデータを逐次新しいものに更新して最も新しいものだけを残す、あるいは導出時期に関連付けて保存するなどの態様を採用することが可能である。一方、上記燃料供給条件に応じた所定の態様としては、例えばその時のポンプの動作条件、燃料圧力、及び燃料温度等の値に関連付けて保存するなどの態様を採用することが可能である。
また前記記憶装置としては、データを不揮発に保持可能とするもの(例えばバックアップメモリや不揮発性メモリ等)を採用することが有効である。こうすることで、例えばエンジンが停止され、当該装置(燃料噴射圧力制御装置)に対する給電が遮断された後も、記憶装置内にデータが不揮発に保持されるようになり、次回エンジン始動時も、エンジン停止時のデータに基づいて上記圧力特性の補正等を行うことができるようになる。
一方、上記請求項1〜8に記載の発明に対し、手段1では、所定の態様で加圧された燃料である加圧燃料を、所定の燃料噴射弁により、対象エンジンの燃料燃焼を行う部分であるシリンダ内又はその吸気通路又は排気通路へ噴射供給する燃料供給システムに適用され、所定の圧力パラメータ(例えば圧力自体、又は圧力に作用する他のパラメータ)の可変制御を通じて前記燃料噴射弁の燃料噴射圧力を目標値へフィードバック制御する燃料噴射圧力制御装置において、前記燃料噴射圧力の安定していることを示す所定の安定条件が成立している間に、前記加圧燃料に関する「燃料消費量=前記燃料噴射弁による燃料噴射量+燃料リーク量」なる関係式に基づいて、その時の燃料リーク量を求めるリーク量導出手段を備えることを特徴とする。
こうした構成であれば、上記関係式に基づき、例えば上記燃料消費量(例えば燃料圧力の変化量として検出)と燃料噴射量(例えば前記燃料噴射弁に対する指令値として検出)との差分、あるいはその差分からオープン制御による燃料補填量を減算した値などに基づいて、上記燃料リーク量を求めることが可能になる。これにより、前述した燃料リーク量に関する個体差があった場合であれ、対象システムごとの圧力特性(燃料リーク量)を取得することができるようになる。
手段2では、上記手段1において、前記リーク量導出手段により求められた燃料リーク量に基づいて、前記フィードバック制御での圧力パラメータの制御量及び制御ゲインの少なくとも一方の値を設定する制御値設定手段を備えることを特徴とする。
こうした構成であれば、例えばマップや数式等を用いた演算に基づき、制御対象とするシステムの構成や特性等に合わせてその時の燃料リーク量に最適な制御値(制御量や制御ゲイン)を設定することができるようになり、ひいては燃料噴射圧力の制御に際してその制御性を高めることが可能になる。
手段3では、上記手段2において、前記制御値設定手段が、前記フィードバック制御での圧力パラメータの制御量及び制御ゲインの少なくとも一方についてその値を、前記リーク量導出手段により求められた燃料リーク量が大きくなるほどより大きな値に設定するものであることを特徴とする。
燃料リーク量が大きくなるほど、燃料噴射圧力の安定を維持するために補填すべき燃料量が大きくなる。このため、上記のように、燃料リーク量が大きくなるほど、前記フィードバック制御での圧力パラメータの制御量を大きくする構成が有効となる。またこの際、制御量が大きくなることに伴い、目標値変化に対する応答速度の低下が懸念されるようになる。したがってこの場合、前記フィードバック制御での圧力パラメータの制御ゲインについてもこれは、圧力制御における応答速度を上昇させるべく、燃料リーク量が大きくなるほど大きくすることが有効となる。
あるいは上記手段2において、前記制御値設定手段についてはこれを、手段4のように、少なくとも前記リーク量導出手段により求められた燃料リーク量が所定の基準値よりも大きい場合には、前記フィードバック制御での圧力パラメータの制御ゲインを、前記燃料リーク量が大きいほどより大きな値に設定するものとする構成も有効である。
上述の目標値変化に対する応答速度の低下は、燃料リーク量がある程度大きくなった時点で特に顕著になると考えられる。したがって、上記フィードバック制御について制御の簡素化や効率化等を図る上では、上記構成のように基準値を設け、その基準値よりも燃料リーク量が大きい場合に限定して、上記のように、燃料リーク量が大きくなるほど、前記フィードバック制御での圧力パラメータの制御ゲインを大きくする構成が有効となる。
手段5では、上記手段1〜4において、前記リーク量導出手段により求められた燃料リーク量を、その導出時期、及び、その時の燃料供給条件、の少なくとも一方に応じた所定の態様で、所定の記憶装置に格納する燃料リーク量格納手段を備えることを特徴とする。
こうした構成であれば、前記リーク量導出手段により求められた燃料リーク量を、その導出時期やその時の燃料供給条件に関連付けられた状態で得ることが可能になり、ひいてはそれらのデータを上記記憶装置から読み出すことで、時々の燃料圧力特性(特にリーク特性)を把握することなどが可能になる。これにより、例えばデータ蓄積によるデータ解析、あるいは上記圧力特性(例えば制御量や制御ゲイン)の補正や燃料供給系の故障診断等についてもこれを、より容易且つ的確に行うことができるようになる。
なお、上記燃料リーク量の導出時期に応じた所定の態様としては、例えば古いデータを逐次新しいものに更新して最も新しいものだけを残す、あるいは導出時期に関連付けて保存するなどの態様を採用することが可能である。一方、上記燃料供給条件に応じた所定の態様としては、例えばその時のポンプの動作条件、燃料圧力、及び燃料温度等の値に関連付けて保存するなどの態様を採用することが可能である。
また前記記憶装置としては、データを不揮発に保持可能とするもの(例えばバックアップメモリや不揮発性メモリ等)を採用することが有効である。こうすることで、例えばエンジンが停止され、当該装置(燃料噴射圧力制御装置)に対する給電が遮断された後も、記憶装置内にデータが不揮発に保持されるようになり、次回エンジン始動時も、エンジン停止時のデータに基づいて上記圧力特性の補正等を行うことができるようになる。
なお、上記手段1〜5についても、上記請求項2〜6に記載の発明に準ずる態様で、燃料噴射弁の指令信号に基づく燃料噴射量と圧力制御量積分項に基づく燃料消費量とから燃料リーク量を求める構成、燃料噴射消費量を補填してその間は「燃料リーク量=圧力制御量積分項」なる関係式に基づいて燃料リーク量を求める構成、前記リーク量導出手段によるリーク量導出の実行に先立って燃料ポンプの吐出量に関する補正を行う構成、等々の構成を併せて適用することがより有効である。
また一方、上記請求項1〜8に記載の発明及び手段1〜5に対し、手段6では、所定の態様で(例えばポンプの圧送により)加圧された燃料である加圧燃料を、所定の燃料噴射弁により、対象エンジンの燃料燃焼を行う部分であるシリンダ内又はその吸気通路又は排気通路へ噴射供給する燃料供給システムに適用され、所定の圧力パラメータ(例えば圧力自体、又は圧力に作用する他のパラメータ)の可変制御を通じて前記燃料噴射弁の燃料噴射圧力を目標値へフィードバック制御する燃料噴射圧力制御装置において、前記燃料噴射圧力の安定している時の燃料リーク量を、その時の前記フィードバック制御に係る圧力パラメータの制御量のうちの積分動作に係る部分に基づいて求めるリーク量導出手段を備えることを特徴とする。
上述のように発明者は、実験等により、上記圧力安定下では、実質的に積分動作だけ(略積分動作だけ)で、上記圧力パラメータのフィードバック制御が行われることを見出した。上記装置は、こうした事象に基づいて発明されたものであり、このような装置であれば、圧力安定時の圧力制御量積分項(上記圧力パラメータのフィードバック制御により補填される燃料量に相当)により燃料リーク量を求めることが可能になる。
なお、上記請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置及び手段1〜6において、前記安定条件としては、例えば請求項9に記載の発明のように、
・前記燃料噴射圧力、及び、前記フィードバック制御での圧力パラメータの制御量、及び、前記加圧燃料の温度、及び、前記加圧燃料とすべく所定燃料を圧送する燃料ポンプの駆動状態、の少なくとも1つを示す一乃至複数のパラメータについて、その変動度合が、所定の時間、継続的に十分小さいことを成立要件の1つとするもの。
あるいは請求項10に記載の発明のように、
・前記燃料噴射圧力の、その時の値と目標値との偏差が、所定の時間、継続的に十分小さいことを成立要件の1つとするもの。
といった条件、又は両者の組み合わせを採用することが有効である。なお、燃料ポンプの駆動状態を示すパラメータとしては、例えばエンジン出力により駆動される燃料ポンプであればエンジン回転速度、あるいは燃料温度等の燃料状態などを用いることができる。
また、上記請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置及び手段1〜6に関し、現状における実用性を考えた場合には、前記燃料供給システムが、燃料ポンプの燃料圧送量に応じた燃料圧力をコモンレールに蓄圧してその蓄圧された燃料を前記加圧燃料として前記燃料噴射弁により噴射するコモンレール式燃料噴射システムである構成とすることが有益である。そしてコモンレール式燃料噴射システムでは、特に燃料噴射圧力としてコモンレール内の圧力の管理が重要になるため、こうした装置の実用性をさらに高める上では、請求項11に記載の発明のように、前記フィードバック制御の対象となる燃料噴射圧力が、前記コモンレール内の圧力である構成としてより有効である。また前述したように、コモンレール式燃料噴射システムでは、一般に高圧燃料(例えば「1000気圧」以上の燃料)の噴射が行われるため、特に燃料リーク量が大きくなり易い。したがってこの意味でも、こうした構成に対して、上記請求項1〜10のいずれか一項に記載の発明及び手段1〜6を適用する意義は大きい。
ところで、業種や用途等によっては、上記燃料噴射制御装置の単位ではなく、より大きな単位で、例えば該燃料噴射制御装置だけでなく他の関連装置(例えばセンサやアクチュエータ等の制御に係る各種装置)により構築される燃料噴射制御システムとして扱われる場合がある。上記請求項1〜11のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置及び手段1〜6も、用途の1つとして、エンジン制御システムに組み込んで用いられることが想定される。請求項12に記載の発明は、そうした用途に対応するものであり、上記請求項1に記載の装置を燃料噴射制御システムに組み込んだ場合の構成である。すなわち燃料噴射制御システムとして、燃料タンク内の燃料を汲み上げて圧送する燃料ポンプと、前記燃料ポンプの圧送により加圧された加圧燃料を蓄圧するコモンレールと、前記コモンレールにより蓄圧された加圧燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁により噴射供給された燃料を燃焼させて生成したエネルギーを機械的な運動(例えば回転運動)へ変換するエンジンと、所定の圧力パラメータ(例えば圧力自体、又は圧力に作用する他のパラメータ)の可変制御を通じて前記コモンレール内の圧力を目標値へフィードバック制御するフィードバック制御手段と、前記コモンレール内の圧力の安定していることを示す所定の安定条件が成立している間に、前記コモンレール内の加圧燃料に関する「燃料消費量=前記燃料噴射弁による燃料噴射量+燃料リーク量」なる関係式に基づいて燃料リーク量を算出し、該算出された燃料リーク量と、所定の燃料供給条件における燃料リーク量である基準リーク量との比率である機差ばらつき割合に基づいて、前記フィードバック制御手段で用いられる圧力パラメータの制御ゲインについて、その時の燃料リーク量に対応した補正係数を求める制御値導出手段と、を備えることを特徴とする。他も同様、上記請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置及び手段1〜6は、燃料噴射制御システムに組み込んで用いて特に有益である。
以下、本発明に係る燃料噴射圧力制御装置を具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の装置は、例えば自動車用ディーゼルエンジンを制御対象にしたコモンレール式燃料噴射制御システム(高圧噴射燃料供給システム)に搭載されている。すなわちこの装置は、先の特許文献1に記載の装置と同様、ディーゼルエンジン(内燃機関)のシリンダ内の燃焼室(燃料燃焼を行う部分)に直接的に高圧燃料(例えば噴射圧力「1000気圧」以上の軽油)を噴射供給(直噴供給)する際に、その燃料噴射圧力を目標値に対してフィードバック制御(PID制御)するために用いられる、いわばディーゼルエンジン用の燃料噴射圧力制御装置である。
まず図1を参照して、本実施形態に係るコモンレール式燃料噴射制御システムの概略について説明する。なお、本実施形態のエンジンとしては、自動車用の多気筒(例えば直列4気筒)エンジンを想定している。このエンジンは、4ストロークのレシプロ式エンジンである。詳しくはこのエンジンでは、図示しない吸排気弁のカム軸に設けられた気筒判別センサ(電磁ピックアップ)にてその時の対象シリンダが逐次判別され、4つのシリンダ#1〜#4について、それぞれ吸入・圧縮・燃焼・排気の4行程による1燃焼サイクルが「720°CA」周期で、詳しくは例えば各シリンダ間で「180°CA」ずらしてシリンダ#1,#3,#4,#2の順に逐次実行される。図中のインジェクタ20は、燃料タンク10側から、それぞれシリンダ#1,#2,#3,#4用のインジェクタである。
同図1に示されるように、このシステムは、大きくは、ECU(電子制御ユニット)30が、各種センサからのセンサ出力(検出結果)を取り込み、それら各センサ出力に基づいて燃料供給系を構成する各装置の駆動を制御するように構成されている。ECU30は、吸入調整弁(詳しくは後述)に対する電流供給量を調整して燃料ポンプ14の燃料吐出量を所望の値に制御することで、コモンレール16内の燃料圧力(燃圧センサ22にて測定される時々の燃料圧力)を目標値(目標燃圧)にフィードバック制御(例えばPID制御)している。そして、その燃料圧力に基づいて、対象エンジンの所定シリンダに対する燃料噴射量、ひいては同エンジンの出力(出力軸の回転速度やトルク)を所望の大きさに制御している。
ここで、燃料供給装置を構成する諸々の装置は、燃料上流側から、燃料タンク10、燃料フィルタ12、燃料ポンプ14、コモンレール16、及びインジェクタ20(燃料噴射弁)の順に配設されている。そしてこのシステムでは、燃料タンク10内の燃料が燃料ポンプ14により圧送されることで、システム内の対象装置に対して燃料の供給が行われるようになっている。図2を参照して、燃料ポンプ14の詳細構造及びその動作態様について説明する。
同図2に示されるように、この燃料ポンプ14は、基本的には、フィードポンプ40によって上記燃料タンク10から汲み上げられた燃料を高圧ポンプ50にて加圧して吐出するように構成されている。そしてこの際、高圧ポンプ50に送られる燃料量は、同ポンプ14の燃料吸入側(詳しくは高圧ポンプ50による燃料圧送の前)に設けられた吸入調整弁60(SCV:Suction Control Valve)によって調量されるようになっている。
ここで、フィードポンプ40は、外側にアウタロータ、内側にインナロータを有し、それら各ロータによって作られるスペースを各ロータの回転に応じて増減させ、その増減に合わせて燃料の吸入及び吐出を行う、いわゆるトロコイド式のポンプである。このポンプ40は、上記燃料タンク10の燃料を入口42から吸引して高圧ポンプ50へ送る、いわゆる低圧供給ポンプとして機能するものであり、駆動軸41の回転により駆動されるようになっている。なお、駆動軸41は、クランク軸24(図1)と連動しており、エンジン出力による動力で駆動されるようになっている。すなわちこの駆動軸41は、クランク軸24の回転に伴い駆動(回転駆動)され、例えばクランク軸24の1回転に対して「1/1」又は「1/2」等の比率で回転する。
このフィードポンプ40により吸い上げられた燃料は、燃料フィルタ42aを通り、吸入調整弁60へ送られる。この際、フィードポンプ40の吐出圧(燃圧)は、レギュレータバルブ43により所定圧以下に制限(調節)される。レギュレータバルブ43は、フィードポンプ40の吐出圧が所定圧以上となる場合にフィードポンプ40の吐出側と供給側とを連通させるものである。また、吸入調整弁60へ送られる燃料の温度は、燃温センサ43aにより検出可能とされている。
吸入調整弁60は、例えば非通電時に開弁するノーマリオン型のリニアソレノイド式電磁弁を備えて構成され、高圧ポンプ50の吸入燃料量を調節するものである。ECU30(図1)によりこの吸入調整弁60に対する通電時間(供給電流量)を制御することで、フィードポンプ40から燃料通路44を通じて高圧ポンプ50へ吸入される燃料量を調節することができるようになっている。すなわち、フィードポンプ40により送られた燃料は、この吸入調整弁60によって必要吐出量(目標燃料圧送量)に調整され、吸入弁53(サクションバルブ)を通って高圧ポンプ50へ入ることになる。
高圧ポンプ50は、吸入調整弁60によって調量された燃料を加圧して外部へ吐出するプランジャポンプである。この高圧ポンプ50は、大きくは、駆動軸41によって往復駆動されるプランジャ51と、ハウジング52の内壁52bとプランジャ51の頂面との間に形成される加圧室52aとを備えて構成され、加圧室52a(プランジャ室)の体積(容積)は、プランジャ51の軸方向への往復動によって変化する。
プランジャ51は、偏心カム55(エキセントリックカム)の周囲に装着されたリングカム56にスプリング57によって押し付けられている。図示されていないが、詳しくは、直方体形状からなるリングカム56の中心には、駆動軸41を組み付けるための円柱状のシャフト孔が形成されている。また、駆動軸41には、そのシャフト孔の形状に対応した円柱状の偏心カム55が偏心するように取り付けられている。そうして、偏心カム55のシャフト孔を駆動軸41が貫通する態様で、ちょうど駆動軸41の偏心カム55上にリングカム56が組み付けられることによって、それら駆動軸41とリングカム56とが偏心カム55を介して連結されている。この高圧ポンプ50では、駆動軸41が回転すると偏心カム55が偏心して回転し、リングカム56がそれに追従して変位することにより上記プランジャ51を軸方向に押して(又は引いて)変位させる。こうして2本のプランジャ51が圧送上死点から圧送下死点までの間を往復動するようになっている。
上述のように、この高圧ポンプ50の吸入側には、加圧室52aと上記フィードポンプ40側とを連通又は遮断する吸入弁53が配設されている。これに対し、この高圧ポンプ50の吐出側にも同様に、同加圧室52aと上記コモンレール16側とを連通又は遮断する吐出弁54が設けられている。すなわち、プランジャ51の下降に伴い加圧室52aの体積が増大して加圧室52a内の圧力が低下すると、吐出弁54が閉弁するとともに吸入弁53が開弁する。そしてこれにより、吸入調整弁60を介してフィードポンプ40から加圧室52a内に燃料が供給される。また逆に、プランジャ51の上昇に伴い加圧室52aの体積が減少して加圧室52a内の圧力が上昇すると、今度は吸入弁53が閉弁する。そして、加圧室52a内の圧力が所定圧力に達すると吐出弁54が開弁して加圧室52a内で加圧された高圧燃料が上記コモンレール16へ向けて供給されることになる。本実施形態の燃料ポンプ14では、このようにして燃料の圧送供給を行っている。ただしこのポンプ14でも、こうしたポンピング動作(圧送動作)に際しては、前述した内部リークが生じることになる。詳しくは、燃料が高圧であることなどに起因して、プランジャ51の摺動部分(ハウジング52の内壁52bとプランジャ51との隙間)で微量な燃料の流出(リーク)が生じている。そしてこれが、燃料噴射圧力制御に関する機差(個体差)ばらつきを大きくしている。
以上、図2を参照して、燃料ポンプ14の詳細構造及びその動作態様について説明した。すなわち図1に示すように、燃料タンク10内の燃料は、このような燃料ポンプ14により、燃料フィルタ12を介して汲み上げられ、コモンレール16へ加圧供給(圧送)される。
コモンレール16は、上記燃料ポンプ14から圧送された燃料を高圧状態で蓄えてこれを、シリンダ#1〜#4の各々に設けられた配管(高圧燃料通路)18を通じて、各シリンダのインジェクタ20(燃料噴射弁)へそれぞれ供給するものである。このコモンレール16には、同コモンレール16内の燃圧(レール圧力)を検出するための燃圧センサ22が設けられており、これによりインジェクタ20の燃料噴射圧力に相関するレール圧力の検出や管理が可能とされている。
インジェクタ20は、各シリンダ#1〜#4内の各燃焼室に対してそれぞれ設けられており、上記コモンレール16に蓄圧・保持された高圧燃料を噴射する、いわば高圧燃料用の燃料噴射弁として構成されるものである。特に本実施形態のインジェクタ20は、燃焼用のエンジン燃料(燃料タンク10内の燃料)を利用した油圧駆動式の燃料噴射弁であり、燃料噴射に際しての駆動動力の伝達が油圧室(コマンド室)を介して行われる。図3に、このインジェクタ20の詳細構造を示す。
同図3に示されるように、このインジェクタ20は、内開弁タイプの燃料噴射弁であり、非通電時に閉弁状態となる、いわゆるノーマリクローズ型の燃料噴射弁として構成されている。すなわち、このインジェクタ20では、二方電磁弁を構成するソレノイド20aに対する通電状態(通電/非通電)に応じて、油圧室Cdの密閉度合、ひいては同油圧室Cdの圧力(ニードル20bの背圧に相当)が増減され、その圧力の増減により、スプリング20c(コイルばね)の伸張力に従って又は抗して、ニードル20bが弁筒内(ハウジング20d内)を往復動(上下)する。そしてこれにより、噴孔20e(必要な数だけ穿設)までの燃料供給通路が、その中途(詳しくは往復動に基づきニードル20bが着座する所定シート面)で開閉される。この際、ニードル20bの駆動制御は、いわゆるPWM(Pulse Width Modulation)制御を通じて行われる。すなわち、ニードル20bの駆動部(上記二方電磁弁)には、ECU30からパルス信号(通電信号)が送られる。そして、ニードル20bのリフト量(シート面からの離間度合)が、そのパルス幅(通電時間に相当)に基づいて可変制御され、その制御に際しては、通電時間が長いほどリフト量は大きくなり、リフト量が大きくなるほど噴射率(単位時間あたりに噴射される燃料量)が大きくなる。ちなみに、上記油圧室Cdの増圧処理は、コモンレール16からの燃料供給によって行われる。他方、油圧室Cdの減圧処理は、当該インジェクタ20と燃料タンク10とを接続する配管28を通じてその油圧室Cd内の燃料が上記燃料タンク10へ戻されることによって行われる。本実施形態のインジェクタ20は、このようにして燃料の噴射供給を行っている。ただしこのインジェクタ20でも、非動作時にはニードル20bの摺動部分での微量な燃料の流出(静リーク)が、また動作時には油圧室Cdの減圧処理に伴う燃料の流出(動リーク)が、それぞれ生じており、これが燃料噴射圧力制御に関する機差(個体差)ばらつきを大きくしている。
以上、本実施形態のコモンレール式燃料噴射システムにおける燃料供給系の各種装置について説明した。以下、図1を再び参照して、同システムの構成について、さらに説明を続ける。
すなわちこのシステムにおいて、図示しない車両には、車両制御のための各種のセンサやアクチュエータがさらに設けられている。例えば対象エンジンの出力軸であるクランク軸24の外周側には、所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)クランク角信号を出力するクランク角センサ24aが、同クランク軸24の回転角度位置や回転速度(エンジン回転速度)等を検出するために設けられている。また、アクセルペダル(運転操作部)には、同ペダルの状態(変位量)に応じた電気信号を出力するアクセルセンサ26が、運転者によるアクセルペダルの操作量(アクセル踏み込み量)を検出するために設けられている。
こうしたシステムの中で、本実施形態の燃料噴射圧力制御装置として機能するとともに、電子制御ユニットとして主体的にエンジン制御を行う部分がECU30である。このECU30は、周知のマイクロコンピュータ(図示略)を備えて構成され、上記各種センサの検出信号に基づいて対象エンジンの運転状態やユーザの要求を把握し、それに応じて上記燃料ポンプ14やインジェクタ20等の各種アクチュエータを操作することにより、その時々の状況に応じた最適な態様で上記エンジンに係る各種の制御を行っている。また、このECU30に搭載されるマイクロコンピュータは、基本的には、各種の演算を行うCPU(基本処理装置)、その演算途中のデータや演算結果等を一時的に記憶するメインメモリとしてのRAM(Random Access Memory)、プログラムメモリとしてのROM(読み出し専用記憶装置)、データ保存用メモリとしてのEEPROM(電気的に書換可能な不揮発性メモリ)やバックアップRAM(車載バッテリ等のバックアップ電源により常時給電されているバックアップメモリ)、さらにはA/D変換器やクロック発生回路等の信号処理装置、外部との間で信号を入出力するための入出力ポート等といった各種の演算装置、記憶装置、信号処理装置、及び通信装置等によって構成されている。そして、ROMには、当該燃料噴射圧力制御に係るプログラムを含めたエンジン制御に係る各種のプログラムや制御マップ等が、またデータ保存用メモリ(例えばEEPROM)には、対象エンジンの設計データをはじめとする各種の制御データ等が、それぞれ予め格納されている。
次に、本実施形態に係るコモンレール式燃料噴射制御システム、すなわち上記システム(図1)の動作について説明する。
前述したように、本実施形態では、ポンプ制御(燃料ポンプ14の制御)に基づいて燃料噴射圧力制御が行われる。はじめに図4を参照して、このポンプ制御の基本的な手順について説明する。なお、図4は、燃料噴射圧力制御の主要部分に相当するポンプ制御の処理手順を示すフローチャートであり、この図4に示す一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、所定処理間隔で(例えば所定クランク角ごとに又は所定時間周期などで)逐次実行される。また、この処理において用いられる各種パラメータの値は、例えば上記ECU30に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。
同図4に示されるように、この一連の処理においては、まずステップS101で、クランク角センサ24aの出力に基づいてエンジン回転速度(NE)を算出するとともに、アクセルセンサ26の出力に基づいてアクセルペダル操作量(アクセル開度)を算出する。
次に、ステップS102では、上記ステップS101で取得したエンジン回転速度及びアクセルペダル操作量に基づいて、目標コモンレール圧力PPを取得(算出)する。詳しくは、例えば予め実験等によりエンジン回転速度ごと及びアクセルペダル操作量ごとに目標コモンレール圧力PPの適合値(最適値)の書き込まれた所定のマップ(例えばROM等に記憶、数式でも可)を用いて取得する。
ステップS103では、燃圧センサ22の出力に基づいて現在コモンレール圧力NPを取得(算出)する。そして続くステップS104では、この現在コモンレール圧力NPと上記ステップS102で取得した目標コモンレール圧力PPとに基づいて、両者の差分としての圧力偏差DP(=PP−NP)を算出する。
次いで、ステップS105では、上記ステップS104で算出された圧力偏差DP及びその時のエンジン回転速度(NE)に基づいて、この図4の処理(ポンプ制御)を通じて行われる燃料噴射圧力のフィードバック制御に係るゲイン(PID定数)GP0,GI0,GD0を算出する。詳しくは、このゲインの算出は、例えばマップを参照しつつ行う。図5に、そのマップの一例を示す。
同図5に示されるように、本実施形態では、複数種のゲインG11〜G14を状況(圧力偏差DP及びエンジン回転速度)に応じて使い分けるようにしている。これらゲインG11〜G14は、いずれも圧力偏差DPが大きくなるほど圧力制御量をより大きくするものであるが、圧力偏差DPに対する感度(グラフの傾きに相当)は各ゲインで相違している。本実施形態では、こうした特性の違いにより、圧力偏差DPの大きさに応じて、詳しくは図5中の閾値TH1,TH2に基づき、使用ゲインを切り替えている。すなわち、例えば圧力偏差DPが大きい場合には圧力偏差DPに対する感度の大きなゲインG12(DP>TH1)又はゲインG13(DP<TH2)を用い、圧力偏差DPが小さい場合(TH2≦DP≦TH1)には圧力偏差DPに対する感度の小さなゲインG14を用いる。一方、エンジン低速回転域であるアイドル運転状態などでは、例えば同感度がさらに小さいゲインG11を用いるようにする。
続くステップS106では、別途学習処理(詳しくは後述)により更新されている補正係数K1(KP1,KI1,KD1)を、上記ECU30内のEEPROMから読み出すとともに、その読み出した補正係数K1に基づき、先のステップS105で算出されたゲインGP0,GI0,GD0を補正する(GP=GP0×KP1、GI=GI0×KI1、GD=GD0×KD1)。
続くステップS107では、上記ステップS106で算出された補正後ゲインGP,GI,GDに基づいて、圧力制御量(PID制御量)QP,QI,QDを算出するとともに、さらに続くステップS108では、それら圧力制御量の総圧力制御量QPIDを算出する。
具体的には、PID動作に係る周知の制御式に従って、制御量P項(比例項)は「QP=KP1×DP」、制御量I項(積分項)は「QI=KI1×∫(DP)dt」、制御量D項(微分項)は「QD=KD1×(DP(今回値)−DP(前回値))/Δt」のように算出され、総圧力制御量QPIDは「QPID=QP+QI+QD」のように算出される。
続くステップS109では、その時の燃料温度(燃温センサ43aにて検出)及び燃料圧力(燃圧センサ22にて検出)等に基づいて、体積弾性係数K2を算出する。ここで体積弾性係数は、所定の流体における圧力変化について、「ΔPFL=K2・ΔV/V」(K2:体積弾性係数、ΔPFL:流体の体積変化に伴う圧力変化量、V:体積、ΔV:体積Vからの体積変化量)なる関係式を満足させる係数であり、この係数の逆数は圧縮率に相当する。このパラメータ(係数K2)は、ポンプ制御において重要となる。特に高圧燃料を対象とする高圧ポンプの制御においては、高圧部分における燃料の体積弾性係数が重要になる。なお、体積弾性係数は、燃料性状、燃料温度、燃料圧力(ベース圧力)等によって影響を受ける。
続くステップS110では、上記ステップS109で算出された体積弾性係数K2に基づいて、燃料ポンプ14の必要吐出量PQを算出する。詳しくは、体積弾性係数K2と燃料高圧部(高圧ポンプ50よりも下流のコモンレール16やインジェクタ20等)の体積KV(設計データに基づく定数)との比率「K2/KV」を上記総圧力制御量QPIDに乗じて必要吐出量PQを算出する(PQ=QPID×K2/KV)。
続くステップS111では、同ポンプ14にその必要吐出量PQだけの燃料を吐出させるために必要な駆動量、すなわち吸入調整弁(SCV)60の駆動電流量PIを算出する。詳しくは、例えば図6中に実線Q0にて示すような制御マップ(I−Qマップ)、すなわち例えば予め実験等により必要吐出量PQごとに駆動電流量PIの適合値(相当値)の書き込まれた所定のマップ(例えばROM等に記憶、数式でも可)を用いて取得する。そして、さらに続くステップS112において、この駆動電流量PIに相当する電流を吸入調整弁60に対して供給することで、燃料ポンプ14の駆動量を、上記必要吐出量PQが満足されるように制御する。
本実施形態では、こうした図4の一連の処理が繰り返し実行されることで、コモンレール16内の圧力(燃料噴射圧力に相当)が、目標コモンレール圧力PPに逐次フィードバック制御(PID制御)されている。しかも本実施形態では、上記圧力偏差DPが大きくなるほど、該燃料噴射圧力のフィードバック制御に係るゲインに対し、より制御量を大きくする値を設定することで、その制御の収束性を高めている(図5)。
さらにこうしたポンプ制御とは別に、コモンレール16内の高圧燃料を対象エンジンの各シリンダ内に噴射供給するような噴射制御、すなわち上記インジェクタ20の駆動制御も行われている。ただし、この噴射制御に関するインジェクタ20の制御態様は周知の制御態様に準ずるため、ここでは説明を割愛する。
本実施形態では、この噴射制御に際して、上記インジェクタ20の駆動を制御するための指令信号に基づいて同インジェクタ20による燃料噴射で消費された燃料量(燃料噴射量)を求めるとともに、その求めた燃料噴射量だけ、上記コモンレール16内の高圧燃料を補填するようにしている。燃料の補填は、上記図4に示したフィードバック制御とは別に(別ルーチンで)、基本的には常時、燃料ポンプ14の駆動量(吸入調整弁60の駆動電流量PI)をオープン制御することによって行う。本実施形態では、上記インジェクタ20の指令信号に基づいて燃料噴射量を求めるプログラムが「燃料噴射量導出手段」に、またその求めた燃料噴射量だけ燃料を補填するプログラムが「噴射燃料補填手段」に、それぞれ相当する。
さらに本実施形態では、これらのポンプ制御に基づき、また、燃料噴射圧力の安定している間に「システム全体での燃料消費量=インジェクタ20による燃料噴射量+燃料供給系での燃料リーク量」なる関係式が成立することを利用して、前述した機差ばらつきのある燃料リーク量について、実機(本システム)のその時の燃料リーク量に対応した上記制御ゲインの補正値(図4のステップS106における補正係数K1)を求めるようにしている。以下、図7〜図12を併せ参照して、こうした燃料噴射圧力制御、すなわち上記図4に示したポンプ制御に用いられる制御パラメータ(制御ゲイン)の補正処理について詳述する。なお、これら各図の一連の処理も、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、所定処理間隔で逐次実行される。また、図7〜図9の処理において用いられる各種パラメータの値も、RAMやEEPROM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。
さて、この燃料噴射圧力制御における制御パラメータの補正処理は、大きくは、
・学習実行条件が成立しているか否かを判断する処理(学習実行条件の成否判断、図7及び図8)。この処理では、燃料ポンプの特性補正が完了しているか否か、及び、燃料噴射圧力が安定しているか否か、が判断され、両方が成立した場合に学習処理の実行が許可される。
・学習実行条件が成立している間に実行される補正係数K1の学習処理(図9)。この処理では、実機の燃料リーク量に応じた補正係数K1が学習される。
・学習値(補正係数K1)による制御ゲインの補正処理(図4のステップS106)。この処理については既に説明した。
の3種類の処理からなる。
図7及び図8は、それぞれ当該学習処理の実行条件(学習実行条件)の成否を判断する処理の処理手順を示すフローチャートである。
図7の処理では、まずステップS21で、燃料ポンプ14の「電流−吐出量」特性(図6に示すマップ)に係る学習処理がすでに完了しているか否かを判断する。そして、このステップS21で学習がまだ完了していない旨判断された場合には、続くステップS22で、燃料ポンプ14の特性補正が完了しているか否かを示すポンプ学習完了フラグにOFFを設定するとともに、さらに続くステップS23で、燃料ポンプ14の学習処理を実行する。以下、この学習処理について簡単に説明する。なお、この学習処理は、例えば先の図6に示すような態様で行われる。本実施形態では、主要なマップ誤差として、同図6中、実線Q0で示す正規のマップ適合値に対し、吸入調整弁60の駆動電流量PI(横軸)と燃料ポンプ14の必要吐出量PQ(縦軸)との関係がそのまま駆動電流量PIの方向(横軸)に平行にオフセットされ、破線Q1,Q2に示すような誤差が生じる場合を想定して、その誤差に対する学習を行うこととする。
この学習処理に際しては、例えば図6中の実線Q0と破線Q1(又は破線Q2)との駆動電流量PI(図4)のずれを算出し、これを学習値とする。具体的には、例えば図4に示したようなフィードバック制御(PID制御)により、実際の吐出量(例えばレール圧力から換算)を実線Q0で示す必要吐出量PQへ近づけるように、徐々に駆動電流量PIを変化させていき、変化させる前から吐出量が一致するまでの変化量(例えば積分値として算出)を、上記学習値とする。例えば吐出量を図中の吐出量PQ0にフィードバック制御する際、駆動電流量PIが図中の点P1,P2で示すような値になる場合には、図中の誤差ΔP1,ΔP2を上記学習値とする。こうして得られた学習値は、例えばEEPROMやバックアップRAM等に不揮発に保存する。こうすることで、エンジン停止時にECU30をいったん断電して再起動した場合にも、そこに記憶されたデータは消去されずに残るようになる。
図7の処理の説明に戻る。先のステップS23においてこうした学習処理が実行され、ステップS21で学習が完了している旨判断された場合には、続くステップS24で、ポンプ学習完了フラグに「ON」を設定する。
なお、上記燃料ポンプ14の吐出特性に関する学習処理は、所定の条件でポンプ学習完了フラグをOFFに設定することで、任意のタイミングで行うことが可能である。例えば定期的(例えばエンジン始動ごと)に、あるいはポンプ交換時に、上記ポンプ学習完了フラグをOFFに設定して再度、上記学習処理を実行する構成などが有効である。
一方、図8の処理では、ステップS31〜S37を通じて、
・目標コモンレール圧力PPと現在コモンレール圧力NPとの差が十分小さいこと(絶対値|PP−NP|<判定値(所定値)、ステップS31)。
・時間経過による圧力変化が十分小さいこと(絶対値|NP(今回値)−NP(前回値)|<判定値(所定値)、ステップS32)。
・燃料温度NTの時間変化が十分小さいこと(絶対値|NP(今回値)−NP(前回値)|<判定値(所定値)、ステップS33)。
・エンジン回転速度NEの時間変化が十分小さいこと(絶対値|NE(今回値)−NE(前回値)|<判定値(所定値)、ステップS34)。
・先の図4のステップS105〜S107の処理に準ずる態様で算出される圧力制御量I項(積分項)QI0の時間変化が十分小さいこと(絶対値|QI0(今回値)−QI0(前回値)|<判定値(所定値)、ステップS35,S36)。
・上記ステップS31,S32,S33,S34,S36の5つの条件が、所定の時間以上、継続的に成立していること(ステップS37)。
の各条件の成否を判断する。そして、これらステップS31〜S37で、上記全ての条件を同時に満足すると判断された場合には、燃料噴射圧力が安定しているとして、続くステップS381で、圧力安定フラグに「ON」を設定(圧力安定フラグ=ON)した後、この図8の一連の処理を終了する。他方、ステップS31〜S37において、上記条件のうち1つでも満たさない旨判断された場合には、燃料噴射圧力が安定していないとして、ステップS382にて、圧力安定フラグに「OFF」を設定(圧力安定フラグ=OFF)した後、この図8の一連の処理を終了する。
図9は、上記学習実行条件が成立している間に実行される補正係数K1(KP1,KI1,KD1)の学習処理について、その処理手順を示すフローチャートである。
同図9に示されるように、この一連の処理では、まずステップS41,S42で、学習実行条件の成否、すなわち上記ポンプ学習完了フラグ及び圧力安定フラグに「ON」が設定されているか否かを判断する。そして、これらステップS41,S42で両方のフラグに「ON」が設定されている旨判断された場合には、次のステップS43へ進むようになる。この一連の処理では、いずれかのフラグに「OFF」が設定され、上記ステップS41,S42のいずれかで実行条件が成立していない旨判断されている間は、最初のステップS41,S42において、所定の処理間隔で繰り返し上記学習実行条件の成否を判断している。
ステップS43では、所定の燃料供給条件(例えばエンジン回転速度、燃料温度、及びレール圧力等)に基づいて、インジェクタ20の静リーク量LK1及び動リーク量LK2を算出する。また、続くステップS44では、所定の燃料供給条件(例えばエンジン回転速度、燃料温度、及びレール圧力等)に基づいて、燃料ポンプ14の内部リーク量LK3を算出する。詳しくは、これらリーク量LK1〜LK3は、例えば図10に示されるようなマップ、すなわち予め実験等により作成され、所定の燃料供給条件(エンジン回転速度、燃料温度、及びレール圧力)ごとにそれらリーク量LK1〜LK3の推定値(実線L11にて示す基準リーク量)の書き込まれた所定のマップ(例えばROM等に記憶、数式でも可)を用いて取得する。なお、推定精度を高める上では、リークの種類(静リーク、動リーク、内部リーク)ごと別々にマップを用意することが有効である。
続くステップS45では、これらリーク量LK1〜LK3の総和からなる基準リーク量(=LK1+LK2+LK3)を基準にした場合における、実機の燃料リーク量(実機リーク量)のずれ度合(機差ばらつき割合)LKD1を算出する。
ここで実機リーク量は、例えば先の図10中に点P11として示されるものであり、図8のステップS35で算出された圧力制御量I項(積分項)QI0に基づいて高い精度で算出することができる。詳しくは、燃料圧力安定下(圧力安定フラグ=ON)において上記図4の処理により燃料供給量と燃料消費量とが同量になるような圧力フィードバック制御が行われると、レール圧力(燃圧センサ22にて検出)の圧力変動量(低下量)に相当する燃料消費量が補償されるようになる。したがって、この燃料圧力安定下では、「システム全体での燃料消費量=インジェクタ20による燃料噴射量+燃料供給系での燃料リーク量」なる関係式が成立する。また、前述したように本実施形態では、図4の圧力フィードバック制御とは別にコモンレール16内の高圧燃料を、上記インジェクタ20による燃料噴射で消費された分(同インジェクタ20に対する指令信号から検出)だけ逐次補填するようにしている(オープン制御によるポンプ制御)。しかも圧力安定下では、実質的に、積分動作だけ(略積分動作だけ)で、上記圧力フィードバック制御が行われる。このため、「実機リーク量=圧力制御量I項(積分項)QI0」なる関係式に基づいて、実機リーク量を精度よく算出することができる。この実機リーク量は、例えば算出時期(導出時期)や算出時の燃料供給条件(ポンプの動作条件、燃料圧力、及び燃料温度等)に関連付けて上記ECU30内のEEPROM(バックアップRAMでも可)に保存される。これらのデータは、データ解析等が可能なように、自動的には消去されず蓄積され、以降のステップでは、最も新しいものが使用されることになる。なお、不揮発保持可能な記憶装置(EEPROM)に格納されることで、ECU30断電後もそれらデータが消去されずに残ることは前述したとおりである。
ステップS45では、実機リーク量に相当する圧力制御量I項(積分項)QI0(図10中の点P11)と、基準リーク量(図10中の実線L11)との比率、すなわち機差ばらつき割合LKD1が、「LKD1=QI0/(LK1+LK2+LK3)」として算出される。
続くステップS46では、今回ステップS45で算出した機差ばらつき割合LKD1と、前回の割合LKD0(初期値は任意に設定)とのずれ(ここでは「差」を見て両者を比較するが、「比率」で両者を比較してもよい)、すなわちリーク量変化を算出する(リーク量変化=絶対値|LKD1−LKD0|)。そして、そのリーク量変化が所定の判定値よりも大きい(リーク量変化>判定値)か否かを判断する。
ここで、今回の処理が最初の学習であったり、あるいは以前の学習から経年変化等が生じていたりして、上記ステップS46でリーク量変化が大きい(リーク量変化>判定値)旨判断された場合には、補正係数K1を更新する必要があるとして、ステップS47以降の処理へ進む。他方、リーク量変化が大きくない(リーク量変化≦判定値)旨判断された場合には、補正係数K1を更新する必要はないとして、ステップS47以降の処理は実行せずそのまま処理を終了する。
ステップS47では、今回の割合LKD1によって、新たな補正係数K1を算出するために用いるパラメータ、すなわち上記割合LKD0(上記EEPROM等の不揮発保持可能な記憶装置に記憶)を更新する。詳しくは「LKD0=LKD1」なる演算によって、これを更新する。
ステップS48では、上記ステップS47で更新された機差ばらつき割合LKD0に基づいて、現在の燃料リーク量に対応した新たな補正係数K1(KP1,KI1,KD1)を算出する。詳しくは、この補正係数K1は、例えば予め実験等により作成され、機差ばらつき割合LKD0ごとに補正係数K1の適合値(最適値)の書き込まれた所定のマップ(例えばROM等に記憶、数式でも可)を用いて取得する。図11に、本実施形態でこの補正係数K1の算出に用いられるマップの一例を示す。
同図11に示されるように、このマップによれば、上記機差ばらつき割合LKD0(横軸)が大きいほど、すなわち実機リーク量が大きいほど、より大きな補正係数K1(縦軸)が設定される。すなわち、例えば図12に示されるように、実機リーク量が基準リーク量(実線L21)よりも大きくなる(破線L22a)ことに起因して収束遅れΔT(応答速度の低下)が生じた場合には、補正係数K1に対して「実機リーク量=基準リーク量(LKD0=1)」のときよりも大きな値が設定されることになる。そしてこれにより、先の図4のステップS106の処理を通じて制御ゲインがより大きな値に補正される(実線L22)とともに、このゲイン増大により上記収束遅れΔTが補償されるようになる。こうして、図11に示すマップを用いることで、図4に示した燃料噴射圧力制御において、目標値(目標コモンレール圧力PP)変化に対する高い応答速度が維持されるようになる。
また、同ステップS48では、上記態様で算出した補正係数K1を先の図4のステップS106で使用可能なように、上記ECU30内のEEPROM(バックアップRAMでも可)に格納する。具体的には、この補正係数K1の値は、例えば算出時期(導出時期)や算出時の燃料供給条件(ポンプの動作条件、燃料圧力、及び燃料温度等)に関連付けて保存される(ただし、これらの関連付けは必須ではない)。これらのデータは、データ解析等が可能なように、自動的には消去されず蓄積され、図4のステップS106では、最も新しいものが使用されることになる。なお、不揮発保持可能な記憶装置(EEPROM)に格納されることで、ECU30断電後もそれらデータが消去されずに残ることは前述したとおりである。そして、上記図9の一連の処理は、このステップS48をもって終了する。
このように、本実施形態では、上記図9に示した学習処理により、機差ばらつきや経時的な特性変化等に起因する時々の実機リーク量の機差ばらつき割合LKD0、ひいては補正係数K1を逐次学習(更新)することとした。そして、この学習値(補正係数K1)に基づいて上記図4に示した補正処理(ステップS106)を実行することにより、該燃料噴射圧力のフィードバック制御に係る制御ゲインを補正するようにした。こうすることで、その制御ゲインには、実機(本システム)のその時の燃料リーク量に対応した値が設定されるようになり、ひいてはその時の燃料リーク量に適した態様で上記インジェクタ20による燃料噴射圧力が的確に制御されるようになる。
以上説明したように、本実施形態に係る燃料噴射圧力制御装置及び燃料噴射圧力制御システムによれば、以下のような優れた効果が得られるようになる。
(1)燃料ポンプ14の圧送により加圧された燃料である加圧燃料(コモンレール16内の高圧燃料)を、所定の燃料噴射弁(インジェクタ20)により、対象エンジンの燃料燃焼を行う部分であるシリンダ内へ直接的に噴射供給する燃料供給システム(図1)に適用され、所定の圧力パラメータ(吸入調整弁60の駆動電流量PI)の可変制御を通じてインジェクタ20の燃料噴射圧力(レール圧力)を目標値へフィードバック制御する。こうした燃料噴射圧力制御装置(エンジン制御用ECU30)として、燃料噴射圧力の安定していることを示す所定の安定条件(図8)が成立している間(圧力安定フラグ=ON)に、上記加圧燃料に関する「燃料消費量=燃料噴射弁による燃料噴射量+燃料リーク量」なる関係式に基づいて、その時の燃料リーク量(実機リーク量)を求めるプログラム(リーク量導出手段、図9のステップS43〜S45)を備える構成とした。詳しくは、図9のステップS45において、燃料噴射圧力の安定している時(圧力安定フラグ=ON)の燃料リーク量(実機リーク量)を、その時の圧力制御量I項(積分項)QI0(圧力制御量のうちの積分動作に係る部分)に基づいて求めるようにした。さらに、その実機リーク量に基づいて、圧力フィードバック制御(レール圧力のフィードバック制御)での駆動電流量PIの制御ゲインについて、その時の燃料リーク量に対応した補正値(補正係数K1)を求めるプログラム(制御値導出手段、図9)と、その補正係数K1に基づいて制御ゲインを設定するプログラム(制御値設定手段、図4のステップS106)と、を備える構成とした。これにより、前述した燃料リーク量に関する個体差があった場合であれ、対象システムごとにその個体差も加味された制御マップや制御式等を作成することなくより簡易に、対象システムごとの圧力特性(制御量や制御ゲイン)を取得することができるようになり、ひいてはその圧力特性に適した態様で上記燃料噴射圧力を制御することができるようになる。
(2)インジェクタ20の駆動を制御するための指令信号に基づいて同インジェクタ20による燃料噴射量を求めるプログラム(燃料噴射量導出手段)と、圧力フィードバック制御における圧力パラメータ(駆動電流量PI)の制御量のうちの積分動作に係る部分である圧力制御量I項(積分項)QI0に基づいて燃料消費量を求めるプログラム(燃料消費量導出手段、図9のステップS45)と、を備える構成とした。そして、図9のステップS48では、それら燃料噴射量及び燃料消費量に基づいて、その時の燃料リーク量に対応した補正値(補正係数K1)を求めるようにした。詳しくは、上記オープン制御による燃料補填分も考慮して燃料リーク量、ひいては補正係数K1を求めるようにした。こうした構成であれば、燃料リーク量に対応した補正値(補正係数K1)を、より容易且つ的確に求めることが可能になる。
(3)コモンレール16内の高圧燃料を、上記インジェクタ20による燃料噴射で消費された燃料量(指令値に基づき検出)だけ、燃料噴射圧力のフィードバック制御とは別に補填するプログラム(噴射燃料補填手段)を備える構成とした。そして図9の処理においては、上記燃料消費量が補填されている間、「燃料リーク量=圧力制御量積分項」なる関係式に基づいて上記補正係数K1を求めるようにした。こうした構成であれば、燃料リーク量に対応した補正値(補正係数K1)を、より容易且つ的確に求めることが可能になる。
(4)燃料ポンプ14の吐出量に係るパラメータ、詳しくは吸入調整弁60の駆動電流量PIを用いて、上記レール圧力(コモンレール16内の燃圧)のフィードバック制御を行うようにした。こうした構成であれば、燃料噴射圧力を制御する場合の制御性が高い。
(5)補正係数K1の導出(学習実行)に先立って、燃料ポンプ14の吐出特性に関する補正を行うプログラム(補正手段、図7)を備える構成とした。こうすることで、燃料噴射圧力のフィードバック制御を的確に行うことが可能になる。
(6)図9の処理においては、燃料噴射圧力(レール圧力)のフィードバック制御に関する積分動作の強さを示す制御ゲイン積分項の補正値(補正係数K1)を求めるようにした。燃料噴射圧力の安定下では、実質的に積分動作だけで上記レール圧力のフィードバック制御が行われるようになるため、圧力制御をより容易且つ的確に行う上では、こうした構成が有効である。
(7)図9の処理を通じて求められた補正値(補正係数K1)を、その導出時期(算出時期)、及び、その時の燃料供給条件に応じた所定の態様で、詳しくは各データ(補正係数K1)を両者に関連付けて、所定の記憶装置(EEPROM)に格納するプログラム(制御値格納手段、図9のステップS48)を備える構成とした。こうした構成であれば、燃料供給条件ごとに時々の圧力特性(制御ゲイン)を把握することが可能になる。そしてこれにより、例えばデータ蓄積によるデータ解析、あるいは上記圧力特性(制御ゲイン)の補正や燃料供給系の故障診断等についてもこれを、より容易且つ的確に行うことができるようになる。
(8)図4のステップS106では、図9のステップS43〜S45を通じて求められた燃料リーク量(実機リーク量)が大きくなるほど補正係数K1を大きくする(図11、図12)ことに基づいて、実機リーク量が大きくなるほどゲインGP,GI,GDをより大きな値に設定するようにした。こうすることで、燃料噴射圧力制御における目標値(目標コモンレール圧力PP)変化に対する高い応答速度が維持されるようになる。
(9)図9のステップS43〜S45の処理を通じて求められた燃料リーク量(実機リーク量)を、その導出時期(算出時期)、及び、その時の燃料供給条件に応じた所定の態様で、詳しくは各データ(実機リーク量)を両者に関連付けて、所定の記憶装置(EEPROM)に格納するプログラム(燃料リーク量格納手段、図9のステップS45)を備える構成とした。こうした構成であれば、燃料供給条件ごとに時々の圧力特性(リーク特性)を把握することが可能になる。そしてこれにより、例えばデータ蓄積によるデータ解析、あるいは上記圧力特性(制御量や制御ゲイン)の補正や燃料供給系の故障診断等についてもこれを、より容易且つ的確に行うことができるようになる。
(10)燃料噴射圧力の安定していることを示す所定の安定条件の成立要件、すなわち圧力安定フラグ(図8)に「ON」が設定される条件として、燃料噴射圧力(図8のステップS32)、及び、圧力パラメータ(駆動電流量PI)の制御量(図8のステップS36)、及び、噴射燃料の温度(図8のステップS33)、及び、燃料ポンプ14の駆動状態、詳しくはエンジン回転速度(図8のステップS34)について、その変動度合が、所定の時間、継続的に十分小さいこと(図8のステップS37)、及び、前記燃料噴射圧力の、その時の値(現在コモンレール圧力NP)と目標値(目標コモンレール圧力PP)との偏差(図8のステップS31)が、所定の時間、継続的に十分小さいこと(図8のステップS37)、を含ませるようにした。こうした条件を採用することで、燃料噴射圧力(レール圧力)が安定している期間を的確に検出することができるようになる。
(11)当該燃料噴射圧力制御装置(ECU30)を、コモンレール式燃料噴射システムに適用した。一般にコモンレール式燃料噴射システムは、燃料の高圧化でディーゼルエンジン等の排気クリーン化(PMの低減等)を図る技術として知られている。そして、こうした高圧化技術を本実施形態の装置と組み合わせれば、上述のように、その高圧の噴射圧力についてもこれを、高い精度で制御することができるようになり、用途等に応じて排気クリーン化の効果をさらに高めることなどが可能になる。したがって、上記のように本実施形態の装置(ECU30)をコモンレール式燃料噴射システムに組み込んだ構成は、エミッション等の問題で未だ普及率の低い(特に日本国内での普及率が低い)ディーゼル車の普及を大きく前進させるものである。
(12)一方、燃料噴射制御システムとしては、燃料タンク10内の燃料を汲み上げて圧送する燃料ポンプ14と、この燃料ポンプ14の圧送により加圧された加圧燃料を蓄圧するコモンレール16と、このコモンレール16により蓄圧された加圧燃料を噴射するインジェクタ20(燃料噴射弁)と、このインジェクタ20により噴射供給された燃料を燃焼させて生成したエネルギーを機械的な運動(回転運動)へ変換するエンジン(図示略)と、上記エンジン制御用ECU30と、を備える構成とした。そして上述のように、ECU30の内部に、所定の圧力パラメータ(吸入調整弁60の駆動電流量PI)の可変制御を通じてコモンレール16内の圧力(インジェクタ20の燃料噴射圧力に相当)を目標値へフィードバック制御するプログラム(フィードバック制御手段、図4)と、所定の安定条件(図8)が成立している間に、コモンレール16内の噴射燃料(高圧燃料)に関する「燃料消費量=燃料噴射弁による燃料噴射量+燃料リーク量」なる関係式に基づいて、上記フィードバック制御に係る吸入調整弁60の駆動電流量PIの制御ゲインについて、その時の燃料リーク量に対応した補正値(補正係数K1)を求めるプログラム(制御値導出手段、図9)と、を備える構成とした。こうした燃料噴射制御システムによれば、より高い精度での高圧燃料の噴射制御を可能とする燃料供給系が実現されるようになる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記実施形態では、基本的に燃料リーク量(実機リーク量)が大きくなるほど補正係数K1を大きくするようにした(図11)。しかしこれに限られず、例えば図11に示したマップについて、その基準リーク量(基準値「LKD0=1」)よりも燃料リーク量が大きい場合にだけ、燃料リーク量が大きくなるほど、圧力フィードバック制御での制御ゲインを大きくする(例えばLKD0が「1」以下の領域では補正係数K1を「1」に固定する)ように変更してもよい。こうすることで、上記制御ゲインの算出を応答速度の低下が顕著な領域に限定して効率的に行うことができるようになる。
・上記オープン制御による燃料の補填は必須の構成ではない。こうした燃料の補填を割愛した場合でも、例えば燃料圧力センサや燃料流量センサ等に基づく実測、あるいは前記燃料噴射弁に対する指令信号等に基づく推定、等々の方法で燃料噴射量を求めたり、圧力制御量I項(積分項)QI0に基づいて燃料消費量を求めたりすることで、「燃料消費量=燃料噴射弁による燃料噴射量+燃料リーク量」なる関係式に基づいて、燃料リーク量や制御ゲインを求めることができる。また、燃料流量を測定することによっても、コモンレール16に対する燃料供給量(燃料ポンプ等による燃料補填量)を求めることは可能である。すなわち、例えば燃料流量を測定する燃料流量センサを燃料通路に設け、そのセンサ出力に基づいて燃料消費量を求めることも可能である。こうしたセンサ(燃料流量測定用センサ)は、現状においては実用化されていないものの、将来的には、燃料噴射制御の精度を高める等の目的で実用化される(市販の自動車等に搭載される)可能性がある。
・図9の処理を通じて取得した燃料リーク量や制御ゲインについてのデータの蓄積及び同データに対する燃料供給条件の関連付けは必須の構成ではない。用途等に応じてこれらの構成が必要なければ、適宜構成を変更することができる。例えば古いデータ(例えば最も新しいもの以外)を自動的に逐次消去したり、関連付けを行わずにその時の値だけを記憶装置に格納するようにしたりするようにしてもよい。
・図9の処理を通じて取得した燃料リーク量や制御ゲイン等は、燃料噴射圧力の制御には用いずに、例えばデータ蓄積によるデータ解析や、燃料供給系の故障診断等だけに用いるようにしてもよい。
・制御ゲインの補正値に代えて、制御量の補正値を求めるようにしてもよい。
・補正値に代えて、制御ゲインや制御量の新値を求め、この新値を逐次設定するようにしてもよい。
・上記実施形態では、燃料噴射圧力のフィードバック制御に係る圧力パラメータとして、吸入調整弁60の駆動電流量PIを用いるようにした。しかしこれに限られず、圧力(例えばレール圧力)自体、又は圧力に作用する他のパラメータ(例えば燃料ポンプの駆動量や、減圧弁の開度など)を用いるようにしてもよい。
・学習実行条件に係る所定の安定条件も、図8に示したものに限られず、燃料噴射圧力(例えばレール圧力)が安定していることを示すものであればよい。
・制御対象とするエンジンの種類やシステム構成も、用途等に応じて適宜に変更可能である。例えばコモンレール式燃料噴射システムではない燃料噴射システムに対しても、本発明は適用可能である。また、圧縮着火式のディーゼルエンジンに限られず火花点火式のガソリンエンジン等にも本発明は適用可能であり、さらにはレシプロエンジンに限られずロータリーエンジン等にも本発明は適用可能である。本発明に係る装置及びシステムは、シリンダ内に燃料を直接的に噴射する燃料噴射弁に限らず、エンジンの吸気通路又は排気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁についても、その燃料噴射圧力の制御のために用いることができる。
・上記実施形態及び変形例では、各種のソフトウェア(プログラム)を用いることを想定したが、専用回路等のハードウェアで同様の機能を実現するようにしてもよい。