JP4518746B2 - GaN基板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、結晶方位を正確に示す事ができるようにした単結晶GaN自立基板(ウエハ)に関する。単結晶ウエハはその上に様々の同等なデバイスチップを作製し劈開によってチップに切断し個々のチップにするので、その結晶方位は正確に与えられなければならない。特に自然劈開面を共振器として利用するレーザ素子の基板とするような場合は結晶方位を正確に指示できる手段がなければならない。
【0002】
【従来の技術】
ウエハの結晶方位を示すために一般に行われるのは円形ウエハのある弓形部分を折り取り自然劈開に沿った面を露出させるオリエンテーションフラット法である。劈開面に平行な線分がウエハの周辺に出現するので結晶方位がわかる。方位を示す短い線分をオリエンテーションフラット(OF)と呼ぶ。ウエハプロセスにおいてOFを基準にウエハの向きを定めて様々の工程を行うようになっている。
【0003】
ダイヤモンド構造をとるSiウエハの場合は表裏の区別がなくて劈開面が表面裏面に直交するので、その劈開面の一つに沿ってウエハを折り取りオリエンテーションフラットとする。つまりSiウエハの場合はオリエンテーションフラットが一つでよい。OFは劈開面を示す。
【0004】
閃亜鉛鉱構造をとるGaAsウエハの場合は表裏で結晶メサ形状が異なるので劈開面を示すOFと、それに直角に面の向きを示すためのIFを付ける。OFの方がIFよりも長くて時計廻りに見てOF、IFというように並んでいると、それは表面を見ているのである。Si、GaAsウエハの場合、ウエハの直径に応じ、それに付すべき、OF、IFの長さはSEMIの基準で決まっている。
【0005】
円形ウエハであれば、そのように一つ或いは二つの線分を周辺に付すことによって結晶方位あるいはそれと面の向きを示すようになっている。
本発明はGaN基板の場合に方位を示す手段を新たに与えようとするものである。GaNは高融点材料で2000℃近くでも融液にならない。だから融液に種結晶を漬けてから単結晶を引き上げるとか、融液を一方から固化して単結晶にするというようなことは設備上困難である。それでサファイヤ(α−Al2O3)の単結晶基板の上にGaN単結晶薄膜をヘテロエピタキシャル成長させたものが、GaN素子用(青色InGaN−LED、青色InGaN−LD)基板として現在でも用いられている。
【0006】
サファイヤの上にGaNを載せたものは夥しい転位密度があるが、それにも拘らず実績があり長寿命・高輝度の青色LEDを製造できる。しかしサファイヤ基板にGaNバッファ層を載せ、さらに、その上にInGaN活性層を成長させたものは劈開がないのでチップ分離が難しく共振器作製に手数がかかり歩留まりが低いという欠点がある。
【0007】
そこでInGaN素子の基板としてはサファイヤでなく、GaN自身を用いたいという要求が常に存在した。GaNは自然劈開が存在する。劈開面は{1−100}面である。だからチップ分離は自然劈開を利用できる。レーザとする場合の共振器面も劈開面にすることができ好都合である。
【0008】
GaN単結晶は気相から固相への反応によって作られる。それは転位密度が高くて良質で大口径のものは作りにくい。工夫を重ねて、現在では2インチ程度の直径のGaN単結晶ウエハを製造できるようになっている。
【0009】
次に関係のある従来技術を説明する。
特許文献1はOFやIFをウエハの周辺に付けると熱ストレスの集中、スリップの発生など問題があるのでSiウエハにレーザビームで1mmφの溶融穴を設けOFの代わりとしたSiウエハを提案している。
【0010】
特許文献2はOF、IFをウエハの周辺に形成すると荷重偏心によってスピンコートのときにウエハが外れることがあるので、ウエハの周辺に小さいノッチをつけOF、IFを省いたSiウエハを提案している。特許文献1、2は、SiウエハについてOFを用いない方位指示法を述べている。
【0011】
特許文献3は本出願人になるものでGaAs基板の上にELOマスクを付けてGaNをELO成長させる手法を提案している。
特許文献4は本出願人になるもので、GaN結晶のファセット成長法を初めて提案している。鏡面成長するのではなくファセットを維持したまま成長させファセットに転位を集中させ、残り部分を良質の単結晶とするものである。それによって初めて厚いGaN膜を作ることができるようになった。
【0012】
特許文献5は本出願人が創案したもので、ドットマスクを下地に形成しマスクによってファセット成長する部分を決定し、それ以外は良質の単結晶とし厚い自立膜を形成できるようにした。
【0013】
【特許文献1】
特開昭60−167426号(特願昭59−23448号)
【0014】
【特許文献2】
特開2000−331898(特願平11−141062号)
【0015】
【特許文献3】
国際特許公開WO99/23693
【0016】
【特許文献4】
特開2001−102307(特願平11−273882号)
【0017】
【特許文献5】
特願2002−230925(2002年8月8日出願)
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
GaNウエハの場合も円形の周辺部の一部を劈開に沿って切り取ってオリエンテーションフラットOFを形成すれば結晶方位を示すことができる。それはそうなのであるが、GaNはいまだに大きい直径のウエハが作りにくいので、これまでのSi、GaAsのように簡単ではない。
【0019】
オリエンテーションフラットOFを付す場合、結晶方位を測定して研削あるいは切削によってウエハのある方向に直線部分を機械的に形成するようにできる。あるいはピンセットでウエハの端を挟んでオリエンテーションフラットを折り取るということもある。それは自然劈開面が出れば正確にOFを縁に表すことができ正確であり好ましい。例えば50mmφのウエハとするために60mmφの円板を作り10mmの折り代を確保できるのであれば、失敗することなくピンセットで縁を折り自然劈開面を出すことができる。しかし成長の難しい結晶の場合そのような余裕がない。
【0020】
折り代を充分に取れないので、うまく折り取れない場合も多い。うまく折り取れない場合は再度ピンセットで挟み、力を掛けて折り取るということする。何度か試みると正確な劈開面を出すことができる。しかしGaNの場合大口径の単結晶を製造するのが難しいので折り取り代をあまり広く取ることができない。せいぜい1mm〜2mm程度の余裕しかない。そうするとウエハの側周をピンセットで挟んで折り取るという作業を何度も繰り返す事ができない。そのため誤差も大きくなる。
【0021】
研削による手法の場合はなかなか充分な精度が出ない。0.5度を越える誤差が出ることもある。しかしデバイスを作るのであるからウエハの方位の誤差は0.5度以下であって欲しいものである。
【0022】
ところがGaN円形ウエハの場合、オリエンテーションフラットの精度は低く、今なお誤差を要求される値(0.5度以下)に必ずしも全て抑制できるとは限らない。
GaN基板は青色のLED、LDの基板として製造されたものであるからオリエンテーションフラットの精度はその目的に合うものでなければならない。
【0023】
LED基板とする場合はオリエンテーションフラット(OF)の精度は厳しくない。面発光素子であるから発光効率とOFの誤差とは関係がない。チップ分離の場合に少し誤差が出る可能性がある。しかし、それはあまり差し支えない。
【0024】
問題は半導体レーザの基板とする場合である。その場合サファイヤ基板より優れた点は劈開を共振器ミラーとして利用できるということであった。レーザチップのストライプが共振面(劈開面)と垂直であることが理想であるが、レーザのストライプが劈開面からずれていると反射効率が減りレーザ発振の閾値が上がり輝度も悪いということになる。図1にレーザチップ2と長手方向に傾いた活性層3の関係を示す。レーザの活性層3は長手方向に延びる長細い部分でありストライプと呼ばれる。しかし本発明では後に他の概念について「ストライプ」という言葉を使うので、混同を避けるためにレーザの活性層は線状活性層3と呼ぶことにする。
【0025】
線状活性層3で上下方向に電流注入がなされ、それが光子を生成する。光子が線状活性層を往復運動して増幅され一方の端面からビームとして放出される。線状活性層の両端がミラー4、4である。平行なミラー4、4が対向しているので共振器という。線状活性層3の幅dは2〜3μm程度でごく細いものである。線状活性層3の長さはチップの長さLに等しい。線状活性層3の端面が線状活性層3の長手方向と完全に直角なら一端面で反射されたものは他の端面まで行くことができ多重反射を繰り返す。
【0026】
しかし端面がわずかに傾いている(傾斜角をΥとする)と繰り返し反射ができないということもある。1回の反射で2Υだけビームの傾斜が増えるので、線状活性層3の端を走るビームが端面で反射されて戻り、他端面で活性層内に残るためには、2ΥL<dでなければならない。線状活性層3の幅はd=2〜3μmであり、チップ長さはL=300μm〜600μm程度である。反射光が戻るための条件はΥ≦d/2Lとなるから、幅dが狭いほど、Lが長いほどΥに対する条件は厳しくなる。
【0027】
現在は最短長が300μm程度であるが、仮に、読取用デバイス用途等で技術的進歩によって将来200μmの長さのものができたとしても、d=3μm、L=200μmとしてΥ≦0.5゜となる。だからΥの許される最大の角度は将来の技術進歩を見込んでも0.5゜程度である。現在はLが500μm程度だから、d=3μmとして、Υ≦0.2゜となる。さらに良いのは、一度だけでなく何度も線状活性層を往復運動できるということである。線状活性層の端を走るビームがm回反射されても線状活性層に残っているという条件はΥ≦d/2mLであるが、d=3μm、L=500μm、m=6として、Υ≦0.03度である。
【0028】
端面の線状活性層3に対するズレの角度Υの制限は、反射の条件だけでなくチップ劈開歩留まりによっても与えられる。図2はウエハ5から多数のチップ2を切り出した時に劈開に直交する方位とチップ切り出し線が食い違っている有り様を示している。方位の食い違いΥがあると劈開面の鏡面状態が劣化し、劈開歩留まりを低下させる。
【0029】
図9は2インチGaNウエハでストライプコア(欠陥集合領域H)幅が50μm、ストライプコア間隔400μm、600μm×400μmチップサイズの場合の、線状活性層の傾き角と素子チップ取れ数の関係を示すグラフである。図7は同じ条件で線状活性層の傾き角Υと劈開歩留まりの関係を示すグラフである。劈開歩留まりが100%に近い結果が得られるのはΥが0.03度以内のときである。ウエハ面内のチップ取れ数に関しては次のようになる。端面のズレの角度が大きいと一枚のGaNウエハから取れるチップの割合が減少してくる。一方、ストライプコアと線状活性層との平行度ずれ(θ゜)によるチップ歩留まりを考えると、θ=0゜の場合を100%とすると、θが0〜0.2゜の場合で100%チップを取ることができる。しかしθが0.2度を越えるとチップ取れ数は76.2%に減る。ストライプコアの間隔は350μmであるが、線状活性層はちょうどその真中にあるのが良い。しかしθが有限なのでチップの端では線状活性層がストライプコアの中心(175μm)からずれてくる。中心からのずれが90μmを越えるとそれは不良品である。2インチウエハ(半径が25mm)であるから、中央で線状活性層がストライプコアの中心にあって周辺部では中心から90μmそれたとすると、その場合のずれの角度はtan−1(0.09/25)=0.2度となる。この角度を越えると左右の周辺部のチップが不良になるので良品の取れる率が76.2%に低下する。
【0030】
ズレの角度はレーザをGaNウエハの上に作製したときのレーザの特性にも関係する。特性といってもいろいろあるが、ここでは発振する電流閾値Ithで述べる。図8は線状活性層と結晶方位のズレの角度Υと発振電流閾値Ithとの関係を示す略図であるが、ズレ角Υが増加すると閾値電流が増大しレーザ特性が悪化するということがわかる。
【0031】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基板の上に平行マスクを付け、その上にファセット成長させたGaN単結晶にはマスクに沿って結晶方位が周囲とは異なる部分が平行直線状に存在するので結晶方位の異なる直線部分(ストライプ:欠陥集合領域H)が単結晶の(1−100)面([11−20]方向)方向とのなす角度αが0.5度以下であるようにし、周囲と結晶方位が異なる直線部分(欠陥集合領域H)を方位の標識として利用する。より好ましくは結晶方位が異なる直線部分(欠陥集合領域H)の(1−100)面方向とのなす角度αが0.2度以下であるようにし結晶方位の異なる直線部分(欠陥集合領域H)を方位方式として利用する。さらに望ましくは結晶方位相違直線部分(欠陥集合領域H)と(1−100)面方向のなす角度αが0.03度以下であるようにする。
【0032】
あるいはそれを90゜回転して、(11−20)面([−1100]方向)方位にストライプ(欠陥集合領域H)を取るようにし、それらのなす角度αを、0.5゜以下、0.2゜以下、或いは0.03゜以下というようにすることもできる。
【0033】
つまりOFに代えて本発明は、透明結晶に現れる結晶方位の異なる部分を(1−100)面方向、或いは(11−20)面の印として用いるということである。それは結晶方位の指示手段としては古今未曾有のものである。単結晶GaNの方位を精度良く指示することができると素子特性が向上するし、1枚のウエハから素子チップの取れる数も増大する。
【0034】
【発明の実施の形態】
GaN結晶は大型の種結晶が存在しないので他種類の単結晶基板の上に気相成長法で成長させる。他種類基板の上全面にGaNを成長させると強い不整合のため内部応力が強くて良い単結晶膜が得られない。そこで細かい窓を有するマスクを他種類基板に付け孤立した窓からGaN結晶成長が始まるようにしている。それをラテラル成長法(ELO;Epitaxial Lateral Overgrowth)と呼ぶ。特許文献3にGaNのELOが述べられている。GaNのELOは数μm程度の薄膜の成長法として開発された手法である。それだけでは転位が多すぎ内部応力も強く剥離して厚い膜を作ることはできない。
【0035】
本発明者は故意に成長面にファセット(成長面に対して傾斜した低指数面)を作り出しファセットが消えないように成長条件を維持しながら成長させるというファセット成長法を創案した。ファセット成長法は特許文献4に述べられている。GaNは六方晶系で、c面(0001)方向に成長させると条件によっては正六角錘あるいは正十二角錘のピット(凹部)が発生する。ファセットの面は上方に向かって開いているから成長するに連れ、転位がファセット境界面に集まり角錐軸(ピット軸)に収束して行く。ピット軸に103〜104本もの転位が集結するので、その他の部分は転位が少ない単結晶となる。ピットの部分だけは多数の欠陥が集結した欠陥集合領域Hとなるが、それはやむを得ないことである。
【0036】
それはしかしファセットの発生する場所は予め決まらないので不便である。ファセットが発生する場所を予め規定できる方が良い。それにはどうすれば良いのか本発明者は試行錯誤した。その問題を解決するために、予め下地基板の上にSiO2、SiNなどで円形、角型、線形などのマスク(被覆部)を形成しておいてファセットを維持できる条件でその上にGaNをファセット成長させると、マスク(被覆部)の上にファセットが生成し、それ以外の部分にはファセットができないようにすることができる、という事を見出した。それは特許文献5に述べられる。
【0037】
この場合ファセット成長位置を決めるマスクというのは先述のELOのマスクよりもずっと大きい周期をもつマスクである。そのマスクはELOと併用することができる。ELOは被覆部が広く窓が狭く窓が点在しており周期は十数μm程度で細かいマスクを使う。
【0038】
本発明者が創案したファセット成長のマスクは20μm〜200μm(好ましくは50μm)程度の大きさ(直径、幅)をもち露出部が広く被覆部が狭い。
混同を避け、2種類のマスクを区別するためELOのマスクをELOマスクと呼び、ファセット成長のファセットを指定するためのマスクをファセットマスクと仮に呼ぶことにする。
【0039】
ファセットマスクは被覆部を孤立した点の集合として与える(ドット型)こともできるし、被覆部を平行の直線として与える(ストライプ型)こともできる。何れの場合も被覆部の上にファセットが成長し、基板露呈部(非被覆部)の上に単結晶が成長する。それによってファセットの生成する位置を予め指定することができる。
【0040】
図3にファセットマスク法の工程を示し、それによって簡単にファセットマスク成長方法を説明する。図3(1)は下地基板である。GaN基板ではない。下地基板はここではGaAs基板6である。GaAs基板6の上にELO(十数μm程度)よりも寸法の大きいマスク7を形成する(図3(2))。マスク7はSiO2、SiN、AlNなどの誘電体膜である。マスク7の寸法は20μm〜100μm程度で孤立したドット状でもよいし、平行直線帯状であってもよい。
【0041】
その上にHVPE法、MOC法、MOCVD法、昇華法のいずれかによってGaNを気相成長させる。GaNの結晶核は下地露呈部分8には選択的に成長し、マスクの上には発生しない。それで結晶9が成長してゆくと下地露呈部8から盛り上がりマスクの上へとはい出して行く。しかしマスクの上では成長しにくく成長が遅れる(図3(3))。それでマスクの上では斜めの面が出る。それがファセット面Fである。それは比較的面指数の低い{−1−122}、{1−101}などである。
【0042】
さらにGaNの成長を続けると図3(4)のように結晶層がどんどん積まれて行くが、露呈部8の上には比較的速く結晶が堆積しマスクの上では遅く成長する。ファセット面が内向きに形成されるので転位がファセット面によって内側へ引き込まれる。そのために転位がマスクの上の成長する部分に集中する。転位が集合したマスク上の部分を欠陥集合領域Hという。それは本出願人が初めて見出したものであり特許文献4、5に記載がある。
【0043】
マスクが小さすぎると欠陥集合領域Hが途中で立ち消えてしまう。20μm〜200μm程度の大きいマスク7とすると途中で消える事はなく欠陥集合領域Hはマスクと同一位置に少し小さくなって連続して生成される。好ましいマスク幅は50μmである。
【0044】
欠陥集合領域Hは転位が高密度に存在するが残りの部分は転位が少なくなり低転位の単結晶となる。単結晶となるが2種類の部分が区別される。ファセットの直下の部分は電気伝導性が高く転位が少ない単結晶Z(単結晶低転位随伴領域)であり、ファセットとファセットの継ぎ目の平坦面(C面である)の直下の部分は電気伝導性が低くて転位が少ない単結晶Y(単結晶低転位余領域)である。だから図3(4)のように…HZYZHZYZHZYZH…というように並ぶ。
【0045】
充分の厚みになるまでGaNを成長させると、成長装置から取り外して、ファセット面の部分を研削して平坦に加工する。図3(5)のようになる。さらにGaAsの下地基板6を除去する。同時にマスク7も取れてしまう。さらに裏面も平坦に磨く。
【0046】
残ったものは図3(6)に示すような平坦平滑のGaN結晶となる。YとZは低転位単結晶であるが、Hは転位の多い欠陥集合領域である。それは多結晶、方位のずれた単結晶、方位が逆転した単結晶というように様々であるが、最も多いのは方位が逆転した単結晶である。
【0047】
いずれでもよいのであるが、透明GaN基板を見ると、Y+Zの部分とHの部分は明確に見分けることができる。Hはマスクの上に成長するのでマスクの形状、寸法を転写したような関係にある。マスクの形状、寸法、配置によって自在に任意の欠陥集合領域Hを設けることができる。
【0048】
ファセット成長のためのマスク7は、下地基板6の上にどのようにでも形成することができる。それ自体に成長すべきGaN結晶の方位を決める力はない。GaN結晶の方位を定めるのは下地基板の方位である。このような性質は自明のことではないが本発明者が繰り返しGaAs異種基板の上にELOとファセットマスク成長法によってGaNを成長させたときに見出したものである。
【0049】
下地基板の上にマスクを付けGaNを成長させると、下地基板は取り除く。だからGaNだけからなる膜になる。充分な厚さがあると自立膜となる。それは透明の膜である。透明なのであるが、よく見ると、ファセットマスクのあった部分とその他の部分を目視によって区別することができる。
【0050】
その他の部分は(0001)結晶方位をもつ単結晶であるが、マスクの上に成長した部分は方位が反転していることが多いということが分かった。つまりマスクの上に成長した部分は(000−1)となることが多い。その他にマスクの上の部分は多結晶になったり単結晶であるが方位が斜めになっていたりすることもある。いずれにしても、マスクの上の部分は欠陥が多いし、方位も違うので目視によってその他の部分と区別できるということがわかってきた。
【0051】
本発明はそのような光学的な差異を用いて結晶の方位を決めようとするものである。下地基板の方位によってその上に成長するGaN単結晶の方位が決まる。そこでGaNが成長したときに<1−100>方向になるような方向にファセットマスクを配置することとする。
【0052】
GaAsを下地基板とする場合は、GaAsは立方晶系であるから(111)面を持った単結晶ウエハを切り出してそれを基板とする。それは3回対称性をもつので、GaNの(0001)面の3回対称性と合致する。それに格子定数の近似性ということもあり、(111)GaAsを基板にする。GaAsを下地基板とする場合(111)Ga面と(111)As面が区別される。どちらの面を下地としてもGaNをファセット成長させることができる。
【0053】
その場合に、GaAs[11−2]方向と、[−110]方向というものが(111)面の上に互いに直交する方向として存在する。ここで[11−2]という角括弧をもつものは個別の方位の表現で、鍵括弧をもつ<11−2>というのが方位を示す包括表現である。GaAsの個別面(111)に含まれ互いに直交するのは、[11−2]、[−110]方向である。
【0054】
それはGaAsの方位であるが、その上にGaNを成長させると、GaNは(0001)面の単結晶が成長するのであるが、下地基板によって水平方向の方位が決まる。GaNは六方晶系だから面指数が4つ存在する(hkmn)。前3者の合計は常に0である(h+k+m=0)。
【0055】
図4に示すように、GaAsの[11−2]方向、[−110]方向が(111)面の上に存在する。その上にGaNを成長させると(0001)面をもつ結晶が成長する。GaAsの[11−2]方向にGaNの[−1100]方向が、GaAsの[−110]方向に、GaNの[11−20]方向が成長する。前の3つの面指数だけを見ると90゜回転したような関係にある。
【0056】
その関係は高精度であって、狂いは少ない。本発明はその性質を利用する。
GaNの劈開面は(−1100)面であり、それは[11−20]方向と平行である。GaNの[11−20]方向は、GaAs下地の[−110]方向に平行に生成されることが分かっている。
【0057】
だから本発明は、(111)GaAs下地の上に、[−110]方向に平行になるようにファセットマスク7を設ける。そのようなGaAsの上にファセット成長法によってGaNを成長させると図3のようにマスクを転写する形で平行線状の欠陥集合領域Hが上にのびる。平行線なのでここではストライプと呼ぶ。
【0058】
だからマスク7と同じ位置で同じ方向にのびるストライプ(欠陥集合領域)Hが形成される。図4において、マスク7とストライプ(欠陥集合領域)Hは重なっている。基板を除去するとマスクは消失するが、ストライプ(欠陥集合領域)Hは残り、肉眼でもストライプ(欠陥集合領域)Hと単結晶領域Y+Zとを区別できる。
【0059】
であるから初めにGaAsの[−110]方向に厳密に平行なマスク7を付けておけば、GaN自立結晶としたときに、劈開面(−1100)の延長方向Q([11−20])とストライプ(欠陥集合領域)Hのなす角度αは0゜のはずである。図5にその関係を示す。Qが劈開面延長方向[11−20]であり、平行に設けられたストライプ(欠陥集合領域)Hとαの角度をなす。GaAs下地基板の方位はX線回折で精度良く決めることができる。
【0060】
だからマスク延長方向と劈開面延長方向の角度αはGaAs基板へのマスクの生成の精度によって、容易に0.5゜以下にすることができる。また0.2゜以下にもできる。さらに0.03゜以下とすることができる。
【0061】
通常のOFは結晶の縁を折り取るから劈開面に平行と決まったものであるが、本発明の場合は結晶の縁を折り取らないので、方位を指示するのが劈開面と決める必要はない。上の説明は劈開面(−1100)の延長方向[11−20]に平行のストライプを設けているが、それに限らない。90゜回転して、劈開面(−1100)に直角の方向[−1100]に平行のストライプを設けてもよい。その場合は、下地のGaAs(111)の[11−2]に平行になるようにマスクを形成しておけば良いのである。劈開を使わないから表示すべき方位は劈開方向でも、それに直角の方向でもよい。
【0062】
【実施例】
従来のOF法によってGaNウエハの方位を示したものを14枚作製し、本発明のストライプファセット成長法の欠陥集合領域Hによって方位を示すウエハ14枚を作製して、[11−20]方向とのなす角度αを測定し、そのばらつきを調べた。
【0063】
OF法によるものは、自然劈開でなくX線で方位を定め研削加工によって短い弓形部分を削除しOFを形成した。それによるとαのばらつきは0.2゜〜1゜程度までばらついており平均値は0.5゜で標準偏差σはσ=0.4゜と大きかった。
【0064】
本発明によるものはαの最低値が0.00゜、最大値が0.1゜、平均値が0.03゜であり、そのうち4つは0.03゜以下であった。標準偏差はσ=0.04゜であった。本発明のウエハの方が方位をより精密に指定しているということがわかる。
【0065】
【発明の効果】
GaN単結晶はいまだ大きいものが得られず折り代を充分に取れないので機械研削や人手による劈開によるOFはどうしても[11−20]方向から1゜〜0.5゜ずれてしまうことが多かった。
【0066】
本発明は、GaN円形基板の縁を自然劈開したOFを方位の尺度とするのではなく透明ウエハの中に目視によっても区別できるファセットマスクの上に成長した欠陥集合領域Hの方向によってウエハの[11−20]方向を指示するようにしている。
【0067】
ウエハの縁を加工せずウエハの内部にファセットマスク法で成長したことによって発生する明度の僅かに違うストライプ(欠陥集合領域H)によって方位を示す。ストライプ(欠陥集合領域H)はファセットマスクに平行に生じ、ファセットマスクを下地基板の特定の方位を向くように精度良く付けることは可能であり、下地基板に対してGaN単結晶の成長する方位は決まっているので、ファセットマスク線は[11−20]方向を正確に指示するように形成することができる。
【0068】
それによってファセットマスク線と[11−20]方向の食い違いを0.5゜以下にすることができる。さらに進んで0.2゜以下にもすることができる。先述のように基準方向の狂いが0.2゜以下であればウエハからデバイスチップの取れ数が76.2%以上とすることができる。歩留まりを高めることができる。さらに0.03゜以下の誤差で方位を指示することができる。そうするとウエハのチップの取れ数はほぼ100%に近くなる。
【0069】
レーザチップをウエハの上に作製したときも特性(閾値電流Ithなど)のばらつきが少なく安定した品質のレーザ素子をより多く作ることができる。
OFやIFがないのでウエハの端から欠けが発生するということもない。スピンコートするときに偏心し飛び出すということもない。
【0070】
しかし表裏を示すためにOF、IFのようなものを付けるようにしてもよい。図6はそのようなウエハを示す。それは表裏を示すだけで方位はストライプ(欠陥集合領域H)によって示すのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 レーザチップの線状活性層とその両端のミラー面が角度Υだけ食い違っている場合のミラー面での反射光が線状活性層からずれてゆくことを説明するためのレーザ平面図。
【図2】 ウエハ上に多数形成したレーザ素子を個々のチップに切り出すときにおいて方位がΥずれていると取り出し数が減少することを説明するための図。
【図3】 下地基板の上にマスクを形成しておき、その上にGaNをファセットを維持しながら気相成長させた場合においてマスクに続いて転位の集合した欠陥集合領域Hが生成し、その他の部分には方位の定まった良質の単結晶(Z+Y)が成長してゆくことを説明するための断面図。(1)は下地基板、(2)は基板の上にマスクを設けたもの、(3)はGaNを成長させ始めたときの状態を示し、(4)はGaNの成長が持続しマスクに続いてストライプ(欠陥集合領域)Hができその上にはファセットが存在することを示す。(5)は結晶成長が終り上部のファセットの多い部分を研削して落としたもの、(6)は下地基板もマスクも除去しGaNの自立膜としたもの。
【図4】 GaAs(111)下地基板の上にGaNを成長させると、GaAs[−110]に平行にGaN[11−20]方向が生成するよう成長するので、GaAs[−110]に平行になるようマスクを付けておけば、できたGaNのストライプ(欠陥集合領域)Hと[11−20]が平行になるということを説明するための図。
【図5】 結晶成長したGaN自立膜においてストライプ(欠陥集合領域)Hの方向と、GaN[11−20]の方向のずれαの定義を示す図。
【図6】 本発明はストライプ(欠陥集合領域)Hを方位の指標に用いるが表裏を示すためにOF、IFを付けてもよいということを示すためのOF、IFをもつウエハの図。
【図7】 レーザチップにおいて線状活性層のズレの角度Υと素子劈開歩留まりの関係を示すグラフ。
【図8】 レーザチップにおいて線状活性層のズレの角度Υと、素子特性(レーザ発振閾値電流(Ith))の関係を示すグラフ。
【図9】レーザチップにおいて線状活性層の傾き角θと素子チップ取れ数の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
2 チップ
3 線状活性層
4 反射ミラー
5 GaNウエハ
6 下地基板(GaAs)
7 マスク
8 露呈部
9 GaN結晶
H 欠陥集合領域
Z 単結晶低転位随伴領域
Y 単結晶低転位余領域
F ファセット面
Claims (3)
- 円形であって、同一の結晶方位をもつ単結晶部分と、単結晶部分とは異なる結晶方位をもち平行線状に連続するストライプ部分を有し、単結晶部分の[11−20]方向あるいは[−1100]方向と、ストライプ部分の延長方向とのなす角度αが0.5度以下であり、オリエンテーションフラットに代えてストライプ部の平行線を結晶方位の標識とすることを特徴とするGaN基板。
- 円形であって、同一の結晶方位をもつ単結晶部分と、単結晶部分とは異なる結晶方位をもち平行線状に連続するストライプ部分を有し、単結晶部分の[11−20]方向あるいは[1−100]方向と、ストライプ部分の延長方向とのなす角度αが0.2度以下であり、オリエンテーションフラットに代えてストライプ部の平行線を結晶方位の標識とすることを特徴とするGaN基板。
- 円形であって、同一の結晶方位をもつ単結晶部分と、単結晶部分とは異なる結晶方位をもち平行線状に連続するストライプ部分を有し、単結晶部分の[11−20]方向あるいは[1−100]方向と、ストライプ部分の延長方向とのなす角度αが0.03度以下であり、オリエンテーションフラットに代えてストライプ部の平行線を結晶方位の標識とすることを特徴とするGaN基板。
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