しかし、上記従来の車両のレンジ切換え装置では、レンジ選択手段の故障又は誤操作については考慮されているものの、位置検出手段の故障については考慮されていない。そのため、このレンジ切換え装置では、運転者の意図に沿った変速レンジに切換えられるとはかぎらない。
本発明は係る従来の問題点に鑑みてなされたものであり、位置検出手段が故障した場合であっても、運転者の意図に沿った変速レンジに切換えられることができる車両のレンジ切換え装置を提供するものである。
上記の課題を解決するために、請求項1に係る車両のレンジ切換え装置の特徴は、パーキングレンジ、リバースレンジ、ニュートラルレンジ及びドライブレンジを選択可能なレンジ選択手段によって前記パーキングレンジが選択された場合はパーキング位置、前記リバースレンジが選択された場合はリバース位置、前記ニュートラルレンジが選択された場合はニュートラル位置及び前記ドライブレンジが選択された場合はドライブ位置に移動可能なスプールを有するレンジ切換え手段と、前記スプールが前記パーキング位置、前記リバース位置、前記ニュートラル位置又は前記ドライブ位置に位置することをそれぞれ検出する位置検出手段と、前記レンジ選択手段からの入力信号及び前記位置検出手段からの検出信号に基づいて制御信号を出力する制御手段と、前記制御信号に基づいて制御されるモータと、前記モータの回動を前記スプールに伝達するディテントレバーの切換え領域の両端に前記パーキングレンジと対応するパーキングレンジ溝及び前記ドライブレンジと対応するドライブレンジ溝が設けられたディテント機構を有し、前記スプールが前記パーキング位置又はドライブ位置まで移動すると前記モータの回動をそれぞれ規制する動力伝達手段と、車両の車速を検出し、車速信号を前記制御手段に送出する車速センサと、を備え、前記制御手段は、前記車両の車速が所定速度未満で前記位置検出手段の故障が検出されたときに、前記レンジ選択手段によって前記ドライブレンジ以外のレンジが選択されている場合は、前記スプールを前記パーキング位置に移動させる方向に、前記ドライブレンジが選択されている場合は、前記スプールを前記ドライブ位置に移動させる方向に、前記動力伝達手段により前記モータの回動が規制されるまで前記モータを回動させて、前記スプールを前記パーキング位置又は前記ドライブ位置に位置させることである。
請求項2に係る車両のレンジ切換え装置の特徴は、請求項1において、前記制御手段は、前記モータが駆動中であり、かつ前記車両の車速が所定速度未満で前記位置検出手段の故障が検出されたときに、前記レンジ選択手段によって前記ドライブレンジ以外のレンジが選択されている場合は、前記スプールを前記パーキング位置に移動させる方向に、前記ドライブレンジが選択されている場合は、前記スプールを前記ドライブ位置に移動させる方向に、前記動力伝達手段により前記モータの回動が規制されるまで前記モータを回動させて、前記スプールを前記パーキング位置又は前記ドライブ位置に位置させることである。
請求項3に係る車両のレンジ切換え装置の特徴は、請求項1において、前記制御手段は、前記モータが停止中であり、かつ前記車両の車速が所定速度未満で前記位置検出手段の故障が検出されたときに、前記レンジ選択手段によって前記ドライブレンジ以外のレンジが選択されている場合は、前記スプールを前記パーキング位置に移動させる方向に、前記ドライブレンジが選択されている場合は、前記スプールを前記ドライブ位置に移動させる方向に、前記動力伝達手段により前記モータの回動が規制されるまで前記モータを回動させて、前記スプールを前記パーキング位置又は前記ドライブ位置に位置させ、前記レンジ選択手段によって選択されている要求レンジが変更されず、又は該要求レンジと前記位置検出手段の故障が検出される前に前記位置検出手段によって検出されたスプールの位置に対応する実レンジとが同じである場合、前記スプールが前記実レンジに対応する位置に保持されることである。
請求項4に係る車両のレンジ切換え装置の特徴は、パーキングロッドがパーキングレンジに対応するパーキング位置に位置するとパーキングロックを行い、リバースレンジ、ニュートラルレンジ及びドライブレンジに対応するノットパーキング位置に位置するとロック解除を行うパーキング機構と、前記パーキングロッドがパーキング位置又は前記ノットパーキング位置に位置することをそれぞれ検出する位置検出手段と、前記位置検出手段からの検出信号に基づいて制御信号を出力する制御手段と、前記制御信号に基づいて制御されるモータと、前記モータの回動を前記パーキングロッドに伝達するディテントレバーの切換え領域に前記パーキングレンジと対応するパーキング溝及び前記パーキングレンジ以外のレンジと対応するノットパーキング溝のみが設けられ前記パーキングロッドが前記パーキング位置又はノットパーキング位置まで移動したときに前記モータの回動をそれぞれ規制する動力伝達手段と、車両の車速を検出し、車速信号を前記制御手段に送出する車速センサと、を備え、前記制御手段は、前記車両の車速が所定速度未満で前記位置検出手段の故障が検出されたときに、前記パーキングレンジが選択されている場合は、前記パーキングロッドを前記パーキング位置に移動させる方向に、前記パーキングレンジ以外のレンジが選択されている場合は、前記パーキングロッドを前記ノットパーキング位置に移動させる方向に、前記モータを前記ディテント機構により回動が規制されるまで回動させ、前記パーキングロッドを前記パーキング位置又はノットパーキング位置に位置させることである。
請求項5に係る車両のレンジ切換え装置の特徴は、請求項4において、前記制御手段は、前記モータが駆動中であり、かつ前記車両の車速が所定速度未満で前記位置検出手段の故障が検出されたときに、前記パーキングレンジ以外のレンジが選択されている場合は、前記パーキングロッドを前記パーキング位置に移動させる方向に、前記パーキングレンジ以外のレンジが選択されている場合は、前記パーキングロッドを前記ノットパーキング位置に移動させる方向に、前記動力伝達手段により前記モータの回動が規制されるまで前記モータを回動させて、前記パーキングロッドを前記パーキング位置又はノットパーキング位置に位置させることである。
請求項6に係る車両のレンジ切換え装置の特徴は、請求項4において、前記制御手段は、前記モータが停止中であり、かつ前記車両の車速が所定速度未満で前記位置検出手段の故障が検出されたときに、前記パーキングレンジ以外のレンジが選択されている場合は、前記パーキングロッドを前記パーキング位置に移動させる方向に、前記パーキングレンジ以外のレンジが選択されている場合は、前記パーキングロッドを前記ノットパーキング位置に移動させる方向に、前記動力伝達手段により前記モータの回動が規制されるまで前記モータを回動させて、前記パーキングロッドを前記パーキング位置又はノットパーキング位置に位置させ、選択されているレンジが変更されない場合、前記パーキングロッドを移動させないことである。
請求項7に係る車両のレンジ切換え装置の特徴は、請求項1乃至6において、前記制御手段は、前記モータのロック電流を検出することにより、前記モータが前記動力伝達手段によって回動を規制されたと判断することである。
請求項8に係る車両のレンジ切換え装置の特徴は、請求項1乃至6において、前記制御手段は、前記モータのロック電流を所定時間以上検出することにより、前記モータが前記動力伝達手段によって回動を規制されたと判断することである。
請求項9に係る車両のレンジ切換え装置の特徴は、請求項1乃至6において、前記制御手段は、前記モータを所定時間回転させることにより、前記モータが前記動力伝達手段によって回動を規制されたと判断することである。
請求項1に係る車両のレンジ切換え装置においては、選択された要求レンジがドライブレンジである場合は、動力伝達手段の一方の移動端で移動が規制されるまでモータを回転させることによりスプールをドライブ位置に移動させるので、その要求レンジを選択した運転者の意思に沿ってドライブレンジに切換えを行うことができる。また、選択された要求レンジがドライブレンジでない場合は、動力伝達手段の他方の移動端で移動が規制されるまでモータを回転させることによりスプールをパーキング位置に移動させるので、運転者がアクセルペダルを踏み込んだとしても車両の逆走や加速を防止することができる。したがって、この車両のレンジ切換え装置によれば、位置検出手段が故障した場合であっても、運転者の意図に沿った要求レンジに切換えられるので、車両が運転者の意図と相違する方向に駆動されることがない。
請求項2に係る車両のレンジ切換え装置においては、レンジ切換え中に位置検出手段の異常が発生したとき、運転者の意図に沿った要求レンジに切換えられるので、車両が運転者の意図と相違する方向に駆動されることがない。
請求項3に係る車両のレンジ切換え装置においては、前記レンジ選択手段によって選択されている要求レンジが変更されない場合、又は変更されても該要求レンジと前記位置検出手段の故障が検出される前に前記位置検出手段によって検出されたスプールの位置に対応する実レンジとが同じである場合、前記スプールが前記実レンジに対応する位置に保持されるので、運転者の意図に沿った要求レンジに保持される。
請求項4に係る車両のレンジ切換え装置においては、選択された要求レンジがパーキングレンジである場合は、動力伝達手段の一方の移動端で移動が規制されるまでモータを回転させることによりパーキングロッドをパーキング位置に移動させるので、その要求レンジを選択した運転者の意思に沿ってパーキングロックを行うことができる。また、選択された要求レンジがパーキングレンジでない場合は、動力伝達手段の他方の移動端で移動が規制されるまでモータを回転させることによりパーキングロッドをノットパーキング位置に移動させるので、その要求レンジを選択した運転者の意思に沿ってロック解除を行うことができる。
請求項5に係る車両のレンジ切換え装置においては、レンジ切換え中に位置検出手段の異常が発生したとき、運転者の意図に沿ってパーキング機構が作動されるので、車両が運転者の意図と相違する方向に駆動されることがない。
請求項6に係る車両のレンジ切換え装置においては、選択されているレンジが変更されない場合、前記パーキングロッドを移動させないので、異常が発生する前の要求レンジに対応してパーキング機構が作動する。
請求項7に係る車両のレンジ切換え装置においては、モータのロック電流が検出されれば、モータは動力伝達手段によって一方又は他方の回動が規制されたと判断することができる。
請求項8に係る車両のレンジ切換え装置においては、モータのロック電流が所定時間以上検出されれば、モータは動力伝達手段によって一方又は他方の回動が規制されたと判断することができる。
請求項9に係る車両のレンジ切換え装置においては、所定時間が経過すればモータは動力伝達手段によって一方又は他方の回動が規制されたと判断することができる。
本発明に係るシフトバイワイヤシステムのレンジ切換え装置を具体化した実施形態1、2を図面に基づいて以下に説明する。実施形態1のシフトバイワイヤシステムのレンジ切換え装置は、図1に示すように、レンジ選択手段としてのセレクタスイッチ1、車速センサ2、制御手段としてのコントロールユニット3、モータ4、動力伝達手段5、レンジ切換え手段としてのスプール6及び位置検出手段としての位置センサ8を備えている。
セレクタスイッチ1には、車両の駐車を要求するPレンジ(パーキングレンジ)、後退走行を要求するRレンジ(リバースレンジ)、停止を要求するNレンジ(ニュートラルレンジ)及び前進走行を要求するDレンジ(ドライブレンジ)を表わす文字(P、R、N、D)が表示されている。運転者がセレクタスイッチ1を操作することによって、1つの要求レンジが選択され、入力信号としてのシフト信号S1がコントロールユニット3に入力される。なお、本実施形態においては、レンジ選択手段としてセレクタスイッチ1を用いたが、運転者によって選択された要求レンジに対応するシフト信号S1を発生させることができるものであれば、例えば、シフトボタン、シフトレバー、音声入力装置等であっても採用することができる。
車速センサ2は車両の車速を検出し、検出された車速信号V1がコントロールユニット3に入力される。また、コントロールユニット3にはスプール6の位置を検出する位置センサ8からの位置信号P1が入力される。コントロールユニット3はシフト信号S1、車速信号V1及び位置信号P1に基づいて、モータ4の回転方向や回転開始・停止のタイミングを制御する制御信号C1をモータ4に出力する。
モータ4は、その出力軸をギヤボックス7内に挿入して、ギヤボックス7の外側に取付けられている。このモータ4には直流モータが用いられ、コントロールユニット3から出力される制御信号C1により制御される。
動力伝達手段5は、減速機構10、ボールナット12、アーム13、レンジ制御軸14及びディテント機構9を有している。減速機構10は、モータ4の出力軸に固定された小径の平歯車10aと、ボールネジ軸11に固定されるとともに、平歯車10aと噛合する大径の平歯車10bとからなり、モータ4の出力軸の回転速度を減速してボールネジ軸11に伝達する。さらに、ボールネジ軸11は、ボールネジ軸11の軸線方向に移動可能に支持されたボールナット12にモータ4の回動、すなわち回転運動をボールナット12の直線運動に変換して伝達する。そして、ボールナット12は、その一端側で二股に分かれているとともにボールナット12と揺動可能に支持されており、その他端側に形成された矩形の孔13bにレンジ制御軸14が嵌合されたアーム13にボールナット12の直線運動を揺動運動に変換してレンジ制御軸14に伝達する。このため、ボールネジ軸11が回転すると、ボールナット12がボールネジ軸11の軸線に沿って移動し、ボールナット12と揺動可能に連結されたアーム13がレンジ制御軸14を中心に揺動する。また、アーム13がレンジ制御軸14を中心に揺動すると、孔13bを介してレンジ制御軸14が回転するようになっている。これら平歯車10a、10b、ボールネジ軸11、ボールナット12及びアーム13はギヤボックス7内に収納されている。また、レンジ制御軸14は一端側がギヤボックス7内に収納され、他端側がギヤボックス7から突出している。ディテント機構9については後述する。なお、本実施形態においては、減速機構10として平歯車10a、10bを用い、ボールネジ軸11とボールナット12とにより、モータ4の回動を減速しているが、これらの代わりに、例えば、プラネタリギヤやウォームギヤなどを用いてもよい。
レンジ切換え手段としてのスプール6は、バルブボディ90内に配設され、軸方向(矢印A、B方向)に移動可能にされている。より詳細には、スプール6は、Pレンジに対応するP位置、Rレンジに対応するR位置、Nレンジに対応するN位置及びDレンジに対応するD位置に移動できるようになっており、このスプール6が軸方向に移動することにより、バルブボディ90内の油路を切換えて、所定の要求レンジを設定することができる。また、スプール6の基端側がL字型に屈曲されて後述するディテントレバーの一部に係合している。
位置センサ8はギヤボックス7に収納され、位置センサ8の中央にはレンジ制御軸14の一端が接続されている。この位置センサ8はレンジ切換え手段である切換え部材であるスプール6の位置を検出するものであり、例えばポテンショメータを用いれば、レンジ制御軸14の回転角度に対応した電圧を出力することができる。また、手動でレンジ切換えが可能なリリース棒15が、その一端をギヤボックス7から突出して設けられている。 ディテント機構9は、ディテントレバー20、ディテントスプリング21及びローラ22を有している。図2に示すように、ディテントレバー20は板状をなし、下部には矩形の孔23が形成されている。この孔23には、レンジ制御軸14の他端が嵌合されている。このため、ディテントレバー20は、レンジ制御軸14を揺動中心として、矢印C、D方向に揺動することになる。また、ディテントレバー20の右側下部には、アーム部26が形成され、アーム部26にはスプール6のフック部6aが係合される孔27が穿設されている。ディテントレバー20の上部には、4個の切換え領域として、図2中の右から順にレンジ溝a、c、e、gが設けられている。そして、これらレンジ溝a、c、e、gの間には凸部b、d、fが形成されている。また、各レンジ溝a、c、e、gの切換え位置a1、c1、e1、g1がスプール6のP位置、R位置、N位置、D位置に対応している。
ディテントスプリング21は、図1に示すように、長板状の部材によって形成されており、後端がバルブボディ90に固定されている。また、ディテントスプリング21の先端は二股に分かれており、ローラ22が回動自在に支持されている。ディテントスプリング21全体は板ばねとして作用し、ローラ22をディテントレバー20の傾斜面に押圧して、ディテントレバー20を精度よく位置決め保持するようになっている。
以上の構成をしたシフトバイワイヤシステムのレンジ切換え装置の動作について、図2により、PレンジからRレンジへの切換えを例に説明する。Pレンジにおいては、ディテントスプリング21のローラ22は、レンジ溝a内の切換え位置a1に配置されている。運転者によりセレクタスイッチ1がPレンジからRレンジに切換えられると、これに対応したシフト信号S1がコントロールユニット3に入力される。コントロールユニット3はシフト信号S1に基づいた制御信号C1をモータ4に出力する。これにより、モータ4の出力軸の回転運動が減速機構10、ボールネジ軸11、ボールナット12、アーム13、レンジ制御軸14へと減速、変換されつつ伝達される。レンジ制御軸14の回転により、ディテントレバー20が矢印C方向に回転するとともに、スプール6が矢印B方向に移動する。
そして、コントロールユニット3は、位置センサ8の出力電圧が凸部bに対応する値になったとき、モータ4の回転を停止する。モータ4の回転が停止されると、ディテントレバー20は、ディテントスプリング21の弾性力に基づくローラ22の付勢力により回転される。こうして、ローラ22は、レンジ溝c内の切換え位置c1に精度よく位置決め保持される。これにより、P位置にあったスプール6は、精度よくR位置に配置される。その他のレンジ切換え動作についても同様である。
次に、このシフトバイワイヤシステムのレンジ切換え装置における処理を図3〜図11に示すフローチャート等を用いて説明する。車両のイグニッションスイッチがONにされると、コントロールユニット3に電源が供給され、図3に示すレンジ切換えプログラムの実行が開始される。
レンジ切換えプログラムの実行が開始されると、ステップS10において位置センサ異常判定サブルーチン、ステップS11において目標レンジ位置判定サブルーチン、ステップS12において実レンジ位置設定サブルーチンが順次コールされ、初期化される。このレンジ切換えプログラムは、タイマ割り込み等により所定時間毎に実行される。
次に、各サブルーチンについて説明する。図4に示す位置センサ異常判定サブルーチンの実行が開始されると、ステップS20において位置センサ8から入力した位置信号P1が正常であるか否かをチェックする。位置信号P1が正常である場合(YES)、ステップS21に進み、位置信号P1が異常である場合(NO)、ステップS22に進む。ステップS21では異常判定フラグをクリア(0)し、位置センサ8が正常であると記憶して、ステップS23に進む。また、ステップS22では異常判定フラグをセット(1)し、位置センサ8が異常であると記憶して、ステップS23に進む。
ステップS23においては、車両が走行中であるか否かをチェックする。車速センサ2から入力した車速信号V1に基づいて求められた現在の車速が所定値以上である場合(YES)、車両は走行中であると判断してステップS24に進み、現在の車速が所定値より小さい場合(NO)、車両は走行中でないと判断してステップS25に進む。なお、所定値とは、5〜10km/hに相当する値である。ステップS24では走行状態フラグをセット(1)し、車両が走行中であると記憶して、ステップS26に進む。また、ステップS25では走行状態フラグをクリア(0)し、車両が走行中でないと記憶して、ステップS26に進む。
ステップS26においては、要求レンジの変更があるか否かをチェックする。セレクタスイッチ1から新たに入力したシフト信号S1が、前回位置センサ異常判定サブルーチンが実行されたときに記憶されたシフト信号S1と異なっている場合(YES)、要求レンジが変更されたと判断してステップS27に進み、新たに入力したシフト信号S1が、前回位置センサ異常判定サブルーチンが実行されたときに記憶されたシフト信号S1と同じ場合(NO)、要求レンジは変更されない判断してステップS28に進む。ステップS27ではレンジ変更フラグをセット(1)し、要求レンジが変更されたと記憶して、レンジ切換えプログラムに戻る。また、ステップS28ではレンジ変更フラグをクリア(0)し、要求レンジは変更されないと記憶して、レンジ切換えプログラムに戻る。
図5に示す目標レンジ位置判定サブルーチンの実行が開始されると、ステップS30において異常判定フラグが正常であるか否かをチェックする。異常判定フラグが正常(0)である場合(YES)、レンジ切換えプログラムに戻り、異常判定フラグが異常(1)である場合(NO)、ステップS31に進む。ステップS31においては、走行状態フラグが走行中であるか否かをチェックする。走行状態フラグが走行中(1)である場合(YES)、レンジ切換えプログラムに戻り、走行状態フラグが走行中でない(0)場合(NO)、ステップS32に進む。
ステップS32においては、モータ4が駆動中か否かをチェックする。コントロールユニット3からモータ4に出力される制御信号C1がONにされている場合(YES)、モータ4が駆動中であり、ステップS34に進む。また、制御信号C1がOFFにされている場合(NO)、モータ4は停止中であり、ステップS33に進む。
ステップS33においては、レンジ変更があるか否かをチェックする。レンジ変更がない(レンジ変更フラグ0)場合(YES)、ステップS38に進み、レンジ変更がある(レンジ変更フラグ1)場合(NO)、ステップS39に進む。ステップS39では、要求レンジと実レンジが同じであるか否かをチェックする。同じである場合(YES)、ステップS38に進み、異なる場合(NO)、ステップS34に進む。
ステップS34においては、要求レンジがDレンジか否かをチェックする。要求レンジがDレンジの場合(YES)、ステップS37に進み、要求レンジがDレンジでない場合(NO)、ステップS36に進む。
ステップS36においては、目標レンジ位置をP位置に設定して、レンジ切換えプログラムに戻る。これに該当する例としては、車両が走行中でない場合(車速が5〜10km/h以下)であって、セレクタスイッチ1がDレンジからPレンジに切換えられ、スプール6をD位置からP位置に切換え中に位置センサ8に異常が発生した場合がある。この場合は、後述する実レンジ位置設定サブルーチンにおいて、スプール6をP位置に切換える。これにより、レンジ切換え中に位置センサ8に異常が発生した場合、運転者の意図に沿ったレンジ切換えが行われるため、車両の逆走を防止できる。また、坂道等で異常が発生した場合であって、運転者が車両から離れた場合であっても、車両が動き出すことはない。さらに、例えば、セレクタスイッチ1がDレンジからPレンジに切換えられ、スプール6をD位置からP位置に切換え中に位置センサ8に異常が発生し、スプール6をP位置に切換える処理が終了した後、セレクタスイッチ1をDレンジに切換えた場合、後述する実レンジ位置設定サブルーチンにおいて、位置センサ8に異常が発生する前のDレンジにスプール6を切換える。これにより、位置センサ8に異常が発生して車両が停止した後であっても、車両を移動することが可能になる。
ステップS37においては、目標レンジ位置をD位置に設定して、レンジ切換えプログラムに戻る。これに該当する例としては、車両が走行中でない場合(車速が5〜10km/h以下)であって、セレクタスイッチ1がNレンジからDレンジに切換えられ、スプール6をN位置からD位置に切換え中に位置センサ8に異常が発生した場合がある。この場合は、後述する実レンジ位置設定サブルーチンにおいて、スプール6をD位置に切換える。これにより、レンジ切換え中に位置センサ8に異常が発生した場合、運転者の意図に沿ったレンジ切換えが行われるため、車両の逆走を防止できる。
ステップS38においては、目標レンジ位置を位置センサ8に異常が発生する前のレンジ位置に保持して、レンジ切換えプログラムに戻る。これに該当する例としては、セレクタスイッチ1がDレンジからRレンジに切換えられ、スプール6をD位置からR位置に切換えが終了してモータが駆動停止している状態で、例えば、運転者がRレンジ中にブレーキを踏み続けて車両を停止させていたり、クリープ力で車両を後退させている中で位置センサ8に異常が発生した場合は、後述する実レンジ位置設定サブルーチンにおいて、位置センサ8に異常が発生する前のRレンジにスプール6を保持する。これにより、位置センサ8に異常が発生してRレンジでブレーキを踏み続けて車両を停止させていたり、クリープ力で車両を後退させている状態であっても、Rレンジが継続されることになる為運転者の意図に沿ったレンジに保持される。図6に示す実レンジ位置設定サブルーチンの実行が開始されると、ステップS40において走行状態フラグが走行中であるか否かをチェックする。走行状態フラグが走行中(1)である場合(YES)、ステップS47に進む。この場合は、車両が所定速度(5〜10km/h)以上であり、レンジ変更の有無、位置センサ8の異常の有無にかかわらずレンジが切換えられることはない。また、走行状態フラグが走行中でない(0)場合(NO)、ステップS41に進む。
ステップS41においては、異常判定フラグが正常であるか否かをチェックする。異常判定フラグが正常(0)である場合(YES)、ステップS42に進み、異常判定フラグが異常(1)である場合(NO)、ステップS45に進む。
ステップS42においては、要求レンジに基づいてモータ4を駆動する。ステップS43においては、モータ4を停止するブレーキポイントを設定する。そして、ステップS44においては、位置センサ8から入力した位置信号P1によりブレーキポイントに到達するまで待ち、ブレーキポイントに到達した場合(YES)、ステップS47に進む。このステップS42からの処理が通常のレンジ切換え操作である。なお、ブレーキポイントはディテントレバー20の凸部b、d、fの位置に設定している。
ステップS45においては、目標レンジ位置に基づいてモータ4を駆動する。ステップS46においては、モータ4のロック電流が検出されるまで待ち、ロック電流が検出された場合(YES)、ステップS47に進む。このステップS45からの処理が位置センサ8の異常時にスプール6をP位置又はD位置にして、車両の安全を確保するフェールセーフ処理である。ここで、モータ4を制御する制御信号C1とモータ4のモータ電流との関係を図7に示す。図7(A)が制御信号C1のグラフであり、図7(B)がモータ電流のグラフである。コントロールユニット3から制御信号C1がONにされると、少し遅れてモータ4にモータ電流が流れる。モータ4が駆動されてモータ軸、すなわち、モータの出力軸が回転すると、ボールネジ軸11にモータの回動が伝達され、ボールナット12がボールネジ軸11の軸線に沿って移動する。これに伴って、ボールナット12に揺動可能に支持されたアーム13がレンジ制御軸14を中心に揺動し、アーム13の他端に支持されたレンジ制御軸14が回転する。レンジ制御軸14が回転すると、ディテントレバー20がレンジ制御軸14を揺動中心として揺動し、スプール6がP位置又はD位置に向かって移動する。そして、アーム13がボールネジ軸11の一端又は他端に達すると、アーム13の移動が規制されてモータ4は過負荷状態となり、モータ4にロック電流が流れる。この時には、ローラ22はディテントレバー20のレンジ溝a又はg内に位置している。コントロールユニット3が時刻t0においてモータ4のロック電流を検出すると、後述するステップS47において、コントロールユニット3から制御信号C1がOFFにされる。これに伴い、モータ4にモータ電流が流れなくなり、モータ4は停止する。なお、モータ電流はバッテリ電圧及び温度によって異なるため、ロック電流であるか否かは、モータ電流がバッテリ電圧及び温度からテーブル等を使用して求めた閾値を超えているか否かで判断している。
ここで、ステップS46の代わりに、図8に示すステップS50からステップS53までのステップを採用することができる。ステップS50ではモータ4のロック電流が検出されるまで待ち、ロック電流が検出された場合(YES)、ステップS51に進む。ステップS51ではタイマをクリアしてスタートさせてカウントを開始し、ステップS52ではタイマをインクリメント(+1)してカウントアップする。ステップS53では所定時間t1が経過するまでステップS52に戻ってタイマをインクリメント(+1)し、所定時間t1が経過した場合(YES)、ステップS47に進む。すなわち、この場合、モータ4のロック電流が検出されてから所定時間t1が経過した後、モータ4を停止している。モータ4を制御する制御信号C1とモータ4のモータ電流との関係を図9に示す。図9(A)が制御信号C1のグラフであり、図9(B)がモータ電流のグラフである。その他は図7と同様である。また、ロック電流であるか否かの判断はステップS46と同様である。
また、ステップS46の代わりに、図10に示すステップS55からステップS57までのステップを採用することもできる。ステップS55ではタイマをクリアしてスタートさせてカウントを開始し、ステップS56ではタイマをインクリメント(+1)してカウントアップする。ステップS57では所定時間t2が経過するまでステップS56に戻ってタイマをインクリメント(+1)し、所定時間t2が経過した場合(YES)、ステップS47に進む。すなわち、この場合、コントロールユニット3により制御信号C1がONにされてから所定時間t2が経過した後、モータ4を停止している。この時間t2は、レンジ切換え最大時間(DレンジとPレンジとの間の切換えにおけるモータ4の駆動時間)を基に決定される。モータ4を制御する制御信号C1とモータ4のモータ電流との関係を図11に示す。図11(A)が制御信号C1のグラフであり、図11(B)がモータ電流のグラフである。その他は図7と同様である。また、ロック電流であるか否かの判断はステップS46と同様である。
ステップS47においては、コントロールユニット3により制御信号C1がOFFにされ、モータ4を停止する。ステップS47の実行後、レンジ切換えプログラムに戻る。ここで、レンジが切換えられた場合は、前述のように、ディテント機構9によってローラ22がレンジ溝a、c、e、g内の切換え位置a1、c1、e1、g1に精度よく位置決め保持され、その結果、スプール6は精度よくP位置、R位置、N位置、D位置に配置される。
実施形態2のシフトバイワイヤシステムのレンジ切換え装置の機械的構成を図12に示す。図12において、図1と同様の機械的構成と同一の構成については同一の符号を用いることとし、その説明を省略する。
このレンジ切換え装置では、動力伝達手段5は、減速機構10、ボールナット12、アーム13、レンジ制御軸14及びディテント機構39を有している。ディテント機構39は、ディテントレバー30、ディテントスプリング21及びローラ22を有している。図13に示すように、ディテントレバー30は板状をなし、下部には矩形の孔31が形成されている。この孔31には、レンジ制御軸14の他端が嵌合されている。このため、ディテントレバー30は、レンジ制御軸14を揺動中心として、矢印C、D方向に揺動することになる。また、ディテントレバー30の左側上部には後述するパーキング機構40のパーキングロッド41が係合される孔32が穿設されている。ディテントレバー30の上部には、2個の切換え領域としてレンジ溝h、jが設けられている。そして、これらレンジ溝h、jの間には凸部iが形成されている。また、レンジ溝h、jの切換え位置h1、j1がパーキングロッド41のロック位置、解除位置に対応している。そして、Pレンジがロック位置に対応し、ノットPレンジ(Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)が解除位置に対応している。なお、レンジ溝h、jと切換え位置h1、j1との関係は、実施形態1における各レンジ溝a、c、e、gと切換え位置a1、c1、e1、g1との関係と同様である。
図12に示すように、レンジ切換え手段としてのパーキング機構40は、パーキングロッド41、ウェッジ43、圧縮バネ44、サポート45及びパーキングポール50を備えている。パーキングロッド41は基端側がL字型に屈曲されてディテントレバー30に係合され、円錐状のウェッジ43はパーキングロッド41の先端側に遊嵌されて移動可能にされている。圧縮バネ44はパーキングロッド41に固定された鍔部42とウェッジ43とに連結され、サポート45はパーキングロッド41の先端側の下方に配置されている。また、パーキングポール50は基端側の軸51を中心にほぼ上下方向に揺動自在に配設されており、上側には自動変速機の出力軸に固定されたパーキングギヤ52に対して係脱可能な爪53が突設されている。
以上の構成をしたシフトバイワイヤシステムのレンジ切換え装置の動作について、図13により、セレクタスイッチ1によりノットPレンジ(Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)からPレンジへの切換えを説明する。ノットPレンジにおいては、ディテントスプリング21のローラ22は、レンジ溝j内の切換え位置j1に配置されている。運転者によりセレクタスイッチ1がノットPレンジからPレンジに切換えられると、これに対応したシフト信号S1がコントロールユニット3に入力される。コントロールユニット3はシフト信号S1に基づいた制御信号C1をモータ4に出力する。これにより、モータ4の出力軸の回転運動が減速機構10、ボールネジ軸11、ボールナット12、アーム13、レンジ制御軸14へと減速、変換されつつ伝達される。レンジ制御軸14の回転により、ディテントレバー30が矢印C方向に回転するとともに、パーキングロッド41が矢印E方向に移動する。この際、パーキングロッド41に固定された鍔部42が圧縮バネ44を介してウェッジ43を矢印E方向に付勢する。これにより、ウェッジ43がサポート45とパーキングポール50との間に入り込んでパーキングポール50を押し上げ、爪53をパーキングギヤ52に噛合させて、パーキングロックを行うことができる。しかし、爪53がパーキングギヤ52の歯先に当たっているときは、爪53とパーキングギヤ52とは噛合されず、ウェッジ43は圧縮バネ44により付勢された状態で待機することになる。この状態で、車輪が少し動きパーキングギヤ52が回転すると、爪53がパーキングギヤ52の歯溝に入り込んで、パーキングロックを行うことができる。
セレクタスイッチ1によりPレンジからノットPレンジ(Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)へ切換えられた場合は、モータ4、減速機構10、ボールネジ軸11等により、ディテントレバー30が矢印D方向に回転するとともに、パーキングロッド41が矢印F方向に移動する。これにより、ウェッジ43がサポート45とパーキングポール50との間から引き抜かれ、パーキングポール50が下方に揺動して、爪53がパーキングギヤ52の歯溝から引き抜かれる。こうして、ロック解除が行われる。
次に、このシフトバイワイヤシステムのレンジ切換え装置における処理を図14、図15等に示すフローチャート等を用いて説明する。ただし、実施形態1のフローチャートと同じ処理のステップについては同一の符号を用いることとし、その説明を省略る。
車両のイグニッションスイッチがONにされると、コントロールユニット3に電源が供給され、図14に示すレンジ切換えプログラムの実行が開始される。レンジ切換えプログラムのステップS111では目標レンジ位置判定サブルーチンがコールされる。なお、ステップS10及びステップS12は図3と同様である。
図15に示す目標レンジ位置判定サブルーチンのステップS134においては、要求レンジがノットPレンジか否かをチェックする。要求レンジがノットPレンジの場合(YES)、ステップS137に進み、要求レンジがPレンジである場合(NO)、ステップS136に進む。
ステップS136においては、目標レンジ位置をロック位置に設定して、レンジ切換えプログラムに戻る。これに該当する例としては、車両が走行中でない場合(車速が5〜10km/h以下)であって、セレクタスイッチ1がDレンジからPレンジに切換えられ、パーキングロッド41を解除位置からロック位置に切換え中に位置センサ8に異常が発生した場合がある。この場合は、図6の実レンジ位置設定サブルーチンにおいて、パーキングロッド41をロック位置に切換える。これにより、レンジ切換え中に位置センサ8に異常が発生した場合、運転者の意図に沿ったレンジ切換えが行われるため、車両の逆走を防止できる。また、坂道等で異常が発生した場合であって、運転者が車両から離れた場合であっても、車両が動き出すことはない。
図15のステップS137においては、目標レンジ位置を解除位置に設定して、レンジ切換えプログラムに戻る。これに該当する例としては、車両が走行中でない場合(車速が5〜10km/h以下)であって、セレクタスイッチ1がPレンジからDレンジに切換えられ、パーキングロッド41をロック位置から解除位置に切換え中に位置センサ8に異常が発生した場合がある。この場合は、図6の実レンジ位置設定サブルーチンにおいて、パーキングロッド41を解除位置に切換える。これにより、レンジ切換え中に位置センサ8に異常が発生した場合、運転者の意図に沿ったレンジ切換えが行われるため、車両の逆走を防止できる。
図15のステップS138においては、目標レンジ位置を位置センサ8に異常が発生する前のロック位置又は解除位置に保持して、レンジ切換えプログラムに戻る。これに該当する例としては、セレクタスイッチ1がDレンジからPレンジに切換えられ、パーキングロッド41を解除位置からロック位置に切換え中に位置センサ8に異常が発生し、パーキングロッド41をロック位置に切換える処理が終了した後、セレクタスイッチ1をDレンジに切換えた場合がある。この場合は、図6の実レンジ位置設定サブルーチンにおいて、位置センサ8に異常が発生する前の解除位置にパーキングロッド41を切換える。これにより、位置センサ8に異常が発生して車両が停止した後であっても、車両を移動することが可能になる。
なお、本実施形態では、本発明のシフトバイワイヤシステムのレンジ切換え装置をロック位置と解除位置との2ポジションの切換えのみに使用している。そのため、Nレンジ、Dレンジ、Rレンジの切換えには別途の機構が必要である。
以上において、本発明のシフトバイワイヤシステムのレンジ切換え装置を実施形態1、2に即して説明したが、本発明はこれらに制限されるものではなく、本発明の技術的思想に反しない限り、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
1…レンジ選択手段(切換えスイッチ)、3…制御手段(コントロールユニット)、4…モータ、5、35…動力伝達手段、6、40…レンジ切換え手段(6…スプール、40…パーキング機構)、8…位置検出手段(位置センサ)。