以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は、本発明に係る画像形成装置の一実施形態を示すインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示すように、このインクジェット記録装置10は、黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の各インクに対応して設けられた複数のインクジェット記録ヘッド(以下、ヘッドという。)12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録媒体たる記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送するベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、記録済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、印字部12の各ヘッド12K,12C,12M,12Yをクリーニングするためのクリーニングユニット(クリーニング装置)27等を備えている。
インク貯蔵/装填部14は、各ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するインクタンクを有し、各タンクは所要の管路を介してヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
複数種類の記録媒体(メディア)を利用可能な構成にした場合、メディアの種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類(メディア種)を自動的に判別し、メディア種に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
デカール処理後、カットされた記録紙16は、ベルト搬送部22へと送られる。ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
ベルト搬送部22の構造は、特に限定されるものではなく、ベルト面に設けられた吸引孔より空気を吸引して負圧により記録紙16をベルト33に吸着させて搬送する真空吸着(吸引吸着)搬送でもよいし、静電吸着による方法でもよい。
ベルト33は、記録紙16幅よりも広い幅寸法を有しており、上に述べた真空吸着搬送の場合には、ベルト面には図示を省略した多数の吸引孔が形成されている。更に、ローラ31、32間のベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には図示を省略した吸着チャンバが設けられており、この吸着チャンバをファン(不図示)で吸引して負圧にすることによって記録紙16がベルト33上に吸着保持される。
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図1中不図示、図7において符号88として記載)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1において、反時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図1の右から左へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
印字部12の各ヘッド12K,12C,12M,12Yは、当該インクジェット記録装置10が対象とする記録紙16の最大紙幅に対応する長さを有し、そのノズル面には最大サイズの記録媒体の少なくとも一辺を超える長さ(描画可能範囲の全幅)にわたりインク吐出用のノズルが複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。
ヘッド12K,12C,12M,12Yは、記録紙16の送り方向に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色順に配置され、それぞれのヘッド12K,12C,12M,12Yが記録紙16の搬送方向と略直交する方向に沿って延在するように固定設置される。
ベルト搬送部22により記録紙16を搬送しつつ各ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ異色のインクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型のヘッド12K,12C,12M,12Yを色別に設ける構成によれば、紙送り方向(副走査方向)について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、記録ヘッドが紙搬送方向と直交する方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能である。また、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
図1に示した印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりや着弾位置ずれなどの吐出不良をチェックする手段として機能する。
本例の印字検出部24は、少なくとも各ヘッド12K,12C,12M,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列と、からなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が2次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
各色のヘッド12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターン又は実技画像が印字検出部24により読み取られ、各ヘッドの吐出判定が行われる。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
印字検出部24の後段には後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える不図示の選別手段が設けられている。
なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。このカッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
クリーニングユニット27は、印字部12の位置に対応するベルト33の下側に設けられており、図1には示さないが、各ヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面を拭き取り清掃するためのワイパー(ブレード部材)を有している。
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッドの構造について説明する。色別の各ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
図3(a) はヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b) はその一部の拡大図である。また、図3(c) はヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4は1つの液滴吐出素子(1つのノズル51に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図3(a) 中の4−4線に沿う断面図)である。
記録紙16上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図3(a),(b) に示したように、インク吐出口であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
記録紙16の送り方向と略直交する方向に記録紙16の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図3(a) の構成に代えて、図3(c) に示すように、複数のノズル51が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録紙16の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており(図3(a),(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル51への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)54が設けられている。なお、圧力室52の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
図4に示したように、各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。共通流路55はインク供給源たるインクタンク(図4中不図示、図6中符号60として記載)と連通しており、インクタンク60から供給されるインクは図4の共通流路55を介して各圧力室52に分配供給される。
圧力室52の一面(図4において天面)を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)56には個別電極57を備えたアクチュエータ58が接合されている。個別電極57と共通電極間に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形して圧力室52の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル51からインクが吐出される。なお、アクチュエータ58には、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウムなどの圧電体を用いた圧電素子が好適に用いられる。インク吐出後、アクチュエータ58の変位が元に戻る際に、共通流路55から供給口53を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
また、図示のとおり、ノズル面50Aには撥液層59が設けられている。ノズル面50Aに撥液性を付与する方法(撥液処理方法)は、特に限定されず、例えば、フッ素系の撥液材を塗布する方法や、フッ素系高分子粒子(PTFE)等の撥液材を真空中で蒸着し表面に薄層を形成する方法等がある。
上述した構造を有するインク室ユニット53を図5に示す如く主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向とに沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
すなわち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPN はd× cosθとなり、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPN で直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
なお、印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、用紙の幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
特に、図5に示すようなマトリクス状に配置されたノズル51を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。すなわち、ノズル51-11 、51-12 、51-13 、51-14 、51-15 、51-16 を1つのブロックとし(他にはノズル51-21 、…、51-26 を1つのブロック、ノズル51-31 、…、51-36 を1つのブロック、…として)、記録紙16の搬送速度に応じてノズル51-11 、51-12 、…、51-16 を順次駆動することで記録紙16の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
そして、上述の主走査によって記録される1ライン(或いは帯状領域の長手方向)の示す方向を主走査方向といい、上述の副走査を行う方向を副走査方向という。すなわち、本実施形態では、記録紙16の搬送方向が副走査方向であり、それに直交する方向が主走査方向ということになる。
本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ58の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
〔インク供給系の構成〕
図6は、インクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。インクタンク60はヘッド50にインクを供給するための基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。すなわち、図6のインクタンク60は、先に記載した図1のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
インクタンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、補充口(図示省略)からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を替える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じて吐出制御を行うことが好ましい。
図6に示したように、インクタンク60とヘッド50を繋ぐ管路の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズはヘッド
50のノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。なお、図6には示さないが、ヘッド50の近傍又はヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
また、インクジェット記録装置10には、ノズル面50Aの清掃手段としてのワイパー(ブレード部材に相当、図6中図示省略)を有するクリーニングユニット27と、ノズルの乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段及び吸引手段として兼用されるキャップ64とが設けられている。
これらクリーニングユニット27及びキャップ64を含んで構成されるメンテナンスユニットは、図示を省略した移動機構によってヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置からヘッド50下方のメンテナンス位置に移動されるようになっている。
クリーニングユニット27は、詳しくは後述するが、ヘッド50のインク吐出面(ノズル面50A)に摺動可能な、ゴムなどの弾性部材で構成されたワイパーを有しており、ノズル面50Aにインク液滴(インクミスト)又は異物が付着した場合、このワイパーをノズル面50Aに摺動させることでノズル面50Aを拭き取り、ノズル面50Aを清浄するようになっている。
キャップ64は、図示しない昇降機構によってヘッド50に対して相対的に昇降変位される。昇降機構は、電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、ヘッド50に密着させることにより、ノズル面50Aのノズル領域をキャップ64で覆うようになっている。
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、そのノズル51近傍のインク粘度が上昇した場合、粘度が上昇して劣化したインクを排出すべく、キャップ64(インク受けとして兼用)に向かって予備吐出が行われる。
ヘッド50は、ある時間以上吐出しない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してノズル近傍のインクの粘度が高くなってしまい、吐出駆動用のアクチュエータ58が動作してもノズル51からインクを吐出できなくなる。したがって、この様な状態になる手前で(アクチュエータ58の動作によってインク吐出が可能な粘度の範囲内で)、インク受けに向かってアクチュエータ58を動作させ、粘度上昇したノズル近傍のインクを吐出させる「予備吐出」が行われる。また、ノズル面50Aの清掃手段として設けられているワイパーによってノズル板表面の汚れを払拭清掃した後に、このワイパー摺擦動作によってノズル51内に異物が混入するのを防止するためにも予備吐出が行われる。なお、予備吐出は、「空吐出」、「パージ」、「唾吐き」などと呼ばれる場合もある。
その一方で、ノズル51や圧力室52に気泡が混入したり、ノズル51内のインクの粘度上昇があるレベルを超えたりすると、上記予備吐出ではインクを吐出できなくなる。このような場合、ヘッド50のノズル面50Aに吸引手段たるキャップ64を当接させて、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク又は増粘インク)を吸引する。かかる吸引動作によって吸引除去されたインクは回収タンク68へ送られる。回収タンク68に集められたインクは、再利用してもよいし、再利用不能な場合は廃棄してもよい。
上記の吸引動作は、圧力室52内のインク全体に対して行われるためインク消費量が大きいため、粘度上昇が少ない場合はなるべく予備吐出を行うことが好ましい。なお、上記の吸引動作は、ヘッド50へのインク初期装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも行われる。また、好ましくは、キャップ64の内側が仕切壁によってノズル列に対応した複数のエリアに分割されており、これら仕切られた各エリアをセレクタ等によって選択的に吸引できる構成とする。
〔制御系の説明〕
図7は、インクジェット記録装置10のシステム構成を示すブロック図である。同図に示したように、インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、ROM75、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。すなわち、システムコントローラ72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御し、ホストコンピュータ86との間の通信制御、画像メモリ74及びROM75の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
ROM75には、システムコントローラ72のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。ROM75は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。画像メモリ74は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示に従って搬送系のモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示に従って後乾燥部42等のヒータ89を駆動するドライバである。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データ(元画像のデータ) から印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図7において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、画像メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース70を介して外部から入力され、画像メモリ74に蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの画像データが画像メモリ74に記憶される。
インクジェット記録装置10では、インク(色材) による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、画像メモリ74に蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システムコントローラ72を介してプリント制御部80に送られ、該プリント制御部80においてディザ法や誤差拡散法などのハーフトーン化技術によってインク色ごとのドットデータに変換される。
すなわち、プリント制御部80は、入力されたRGB画像データをK,C,M,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。こうして、プリント制御部80で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ82に蓄えられる。
ヘッドドライバ84は、プリント制御部80から与えられる印字データ(すなわち、画像バッファメモリ82に記憶されたドットデータ)に基づき、ヘッド50の各ノズル51に対応するアクチュエータ58を駆動するための駆動信号を出力する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
ヘッドドライバ84から出力された駆動信号がヘッド50に加えられることによって、該当するノズル51からインクが吐出される。記録紙16の搬送速度に同期してヘッド50からのインク吐出を制御することにより、記録紙16上に画像が形成される。
上記のように、プリント制御部80における所要の信号処理を経て生成されたドットデータに基づき、ヘッドドライバ84を介して各ノズルからのインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
印字検出部24は、図1で説明したように、イメージセンサを含むブロックであり、記録媒体16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつき、光学濃度など)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。なお、この印字検出部24に代えて、又はこれと組み合わせて他の吐出検出手段(吐出異常検出手段に相当)を設けてもよい。
他の吐出検出手段としては、例えば、ヘッド50の各圧力室52内又はその近傍に圧力センサを設け、インク吐出時或いは圧力測定用のアクチュエータ駆動時などに、この圧力センサから得られる検出信号から吐出異常を検出する態様(内部検出方法)、或いは、レーザ発光素子などの光源と受光素子から成る光学検出系を用い、ノズルから吐出された液滴にレーザ光等の光を照射し、その透過光量(受光量)によって飛翔液滴を検出する態様(外部検出方法)などがあり得る。
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24或いは図示しない他の吐出検出手段から得られる情報に基づいてヘッド50に対する各種補正を行う。また、プリント制御部80は、印字検出部24或いは図示しない他の吐出検出手段から得られる情報に基づいて、クリーニングユニット27を制御し、印字検出部24等により吐出異常が検出された場合などには、予備吐出や吸引、ワイピング等のクリーニング動作(ノズル回復動作)を実施する制御を行う。このクリーニング動作については更に後述する。
〔クリーニングユニットの構成〕
図8はインクジェット記録装置10に組み込まれたクリーニングユニット27の概略構成図であり、図9はクリーニングユニット27の斜視図である。ただし、図8は図1との関係を理解し易いように簡略化された図であり、例えば図1におけるヘッド12K、12C、12M、12Yは、図8においてヘッド50で代表させて1つのみ表示しており、またベルト搬送部22も、実際には、例えば真空吸着の場合のチャンバや、静電吸着の場合の帯電手段、あるいは印字部12において記録紙16の平面性を保つためのプラテン等の部材が配置されるが、ここでは省略している。
また、例えば、真空吸着のためのチャンバが印字部12に対応するベルト33直下に配置されている場合には、クリーニングユニット27はチャンバ内に設置されていてもよいし、或いはクリーニング時にチャンバを他の位置に退避して、これに代えてクリーニングユニット27をヘッド50の下へ移動させるようにした構成でもよい。
図8において、ベルト33は矢印A1 で示すように、反時計回り方向へ回転し(図1と同様)、ベルト33上の記録紙16(図8において図示省略)は、図8の右から左へ移動する。
図示のように、クリーニングユニット27は、ワイパー(ブレード部材)90、ワイパートレー92、第1のインク吸収部材94、第2のインク吸収部材95等を有して構成されている。ワイパー90は、ワイパートレー92に取り付けられており、詳細な構造は後述するが、図の上下に移動可能である。ワイパートレー92は廃液回収手段としての機能を兼備した可動式のワイパー支持台であり、矢印A2 で示すように、図の左右方向にワイパー90とともに移動可能となっている。
ベルト33にはヘッドクリーニング用の開口部33aが形成されている。クリーニング時には、予めワイパー90とともにワイパートレー92をヘッド50の直下に移動させておく。そして、ベルト33の開口部33aがヘッド50の下に来たときに、開口部33aからワイパー90を上昇させ、ベルト33の移動に同期してワイパー90及びワイパートレー92を移動させることにより、ワイパー90でノズル面50Aを走査してクリーニングを行うようになっている。
ワイパー90がノズル面50Aの端までクリーニング動作を行ったら、ワイパー90をベルト33に当たらない位置まで下降させて、ワイパートレー92をワイパー90とともに元の位置(ホームポジション)まで移動させる。
ワイパー90によって拭き取られたノズル面50Aのインクはワイパー90を伝って下へ流れ落ち第1のインク吸収部材94に吸収される。また、開口部33aを介してワイパートレー92上に予備吐出(パージ)されたインクも第1のインク吸収部材94に吸収される。
ワイパートレー92がホームポジションに戻ると、第1のインク吸収部材94と第2のインク吸収部材95は、第2のインク吸収部材95の接続部95aに当接し、第1のインク吸収部材94に吸収されたインクは第2のインク吸収部材95に吸収され、第2のインク吸収部材95に貯留される。
図9は、図8のヘッド50とクリーニングユニット27を上方からみた斜視図である。なお、図9ではベルト33の図示を省略している。
図9に示すように、ワイパー90は、ヘッド50のノズル面50Aの長手方向に、小さなワイパー(分割ワイパー90a,90b)に分割され、一定の間隔でヘッド50の長手方向に2列に配列されている。前列の分割ワイパー90aと後列の分割ワイパー90bは、左右の端部がヘッド50の長手方向に沿ってそれぞれPだけオーバーラップするように配置されている。また、各分割ワイパー90a,90bはそれぞれ独立に昇降可能な機構(図11で後述)により支持されている。
これら2列に配列された分割ワイパー90a,90bは、図9のように、ヘッド50の長手方向の全領域(ノズル列の領域)をカバーするように配置され、各分割ワイパー90a,90bがヘッド50の短手方向(図9中に矢印A2 で示した方向)に移動し、かつ、長手方向に各分割ワイパー90a,90bがオーバーラップしている構成のため、拭き残しを生じることはない。
一方、ワイパー90を搭載したワイパートレー92にはガイドシャフト96が嵌通されており、ワイパートレー92は当該ガイドシャフト96に沿って滑らかに摺動可能に支持されている。ワイパートレー92の一方の端部92aはガイドシャフト96に沿って棒状に延び、その側面には歯車(ピニオン)98と噛合する直線状の歯部(ラック)92bが形成されている。
このラック92bに係合される歯車98は、走査用モータ(好ましくはステップモータ)99によって駆動され、当該歯車98の回転によってラック92b(すなわち、ワイパートレー92)を図中矢印A2 で示すように前後に移動可能である。かかるラック・ピニオン機構により、走査用モータ99の駆動を制御することで、ワイパートレー92をヘッド50の短手方向に高精度に位置制御することができる。
ワイパートレー92は、クリーニング時以外は図中の破線で示した退避位置(ホームポジション)に退避している。また、ワイパートレー92がホームポジションにあることを検出するホームポジションセンサ100が適宜の位置に設置されている。ホームポジションセンサ100には、フォトインタラプタが好適に用いられる。
図10に、ベルト33とワイパー90の位置関係を示す。ベルト33には開口部33aが設けられており、この開口部33aからワイパー90を上昇させてヘッド50のノズル面50Aを走査する(本例では、ノズル面50Aに対してワイパー90を平行移動させる)ことで、ノズル面50Aを摺擦清掃可能な構造になっている。図10において、矢印ことで、ノズル面50Aを摺擦清掃可能な構造になっている。図10において、矢印A1 で示す方向がベルト33の搬送方向であり、ワイパー90のクリーニング時にはこれと同方向又はこれと逆方向にクリーニング動作(走査)が行われる。なお、前述したように、前列の分割ワイパー90aと後列の分割ワイパー90bは、その左右両端(図10では上下両端)においてそれぞれPだけオーバーラップして配置されている。
図11に、ワイパー90(分割ワイパー90a,90b)の昇降機構の一例を示す。
同図に示すように、分割ワイパー90a(又は90b)はワイパーホルダ(ワイパー保持部材)101に保持されている。ワイパーホルダ101には、上下方向に沿って立設されたガイドシャフト103が嵌通されるとともに、当該ワイパーホルダ101の一方の端部(図11において左側)は、上下方向に沿って立設された樋状のガイドレール102に嵌合されており、ワイパーホルダ101はガイドシャフト103及びガイドレール102に沿って滑らかに摺動可能である。
また、ワイパーホルダ101の他方の端部(図11において右側)101aは棒状に延び、その側面には直線状の歯部(ラック)101bが形成されている。このラック101bに係合される歯車(ピニオン)104は、昇降用モータ(好ましくはステップモータ)105によって駆動することができ、当該歯車104の回転によってラック101b(すなわち、ワイパーホルダ101)を上下に移動させることができる。
更に、ワイパーホルダ101の棒状端部101aの先端部はホームポジションセンサ106の検出位置に進退する遮光板として機能する。このホームポジションセンサ106を基準にして、歯車104を昇降用モータ105で駆動することにより、ノズル面50Aに対して垂直な方向(上下方向)に、分割ワイパー90a(90b)の微細な位置制御(ストローク制御)が可能である。
図11に示した昇降機構は一例であり、昇降機構はこれに限定されるものではないが、このような昇降機構によって各分割ワイパー90a、90bはそれぞれ個別に独立に昇降が可能である。
各分割ワイパー90a(又は90b)は、例えばゴム等の柔軟材、弾性体で形成されており、繰り返し使用することにより次第に摩耗したり変形したりして劣化して行く。
ワイパー90が摩耗すると、クリーニングの際、ワイパー90を正常な場合と同じ位置に上昇させても、ワイパー90がノズル面に適切に当接できず、充分なクリーニング効果が得られない。
そのため、本実施形態では、ワイパーの磨耗量を特定し、ワイパーの摩耗量に応じてワイパーの上昇量を制御してワイパーを適切にノズル面に当接させる制御が行われる。
ワイパー90のクリーニング性能は、ワイパー90とノズル面のクリーニング時の密着性、摩擦特性に支配されており、パラメータとしては、主に「当接圧力」、「ワイパーの当接部形状」、「摩擦特性」がある。
「当接圧力」に関連するパラメータには、当接時のワイパーの撓み量(歪量)、ワイパーの自由長、ノズル面とワイパーの相対位置、ワイパー材質の縦弾性係数、ワイパーの厚みなどがある。「ワイパーの当接部形状」に関連するパラメータには、ワイパー先端エッジの弾性特性、エッジ部の表面粗さなどがある。「摩擦特性」に関連するパラメータには、動摩擦係数や走査速度などがある。動摩擦係数は、使用に伴う経時的な摩擦係数の変化の他、ウエット状態でワイピングを行うか、ドライ状態でワイピングを行うかというクリーニング状態(濡れ性)にも依存する。また、走査速度は、いわゆるスティックスリップ現象によるクリーニングムラの発生に影響するパラメータである。
すなわち、ワイパー部材は、摺動回数(ワイプ回数)の増加とともに当接圧低減、表面粗さの増大により、ノズル面への密着性が低下するとともに、ワイパー部材の硬化を招き、クリーニング性能が低下する。
かかる課題に対し、本発明の実施形態では、クリーニング特性の維持・回復のために、ワイパーの清掃能力特定手段(例えば、磨耗量推定手段、当接圧検出手段、振動検出手段の何れか、若しくはこれらの適宜の組み合わせ)によって現状の清掃能力を特定し、その特定結果(清掃能力特定手段により検出されたデータ)に基づき、清掃能力回復手段を制御してクリーニング性能を回復する手段を開示するとともに、その手段を活用してクリーニング機能を向上させる制御方法について提案する。以下、その具体的な手段について説明する。
〔(例1)ワイパー磨耗量を特定する手段を用いる態様〕
ワイパーの摩耗量を特定する方法として、例えば次のような方法が用いられる。
すなわち、予め図12に示すようなワイプ回数とワイパー摩耗量との相関データを保持しておき、クリーニングのたびにワイプ回数をカウントして、カウントしたワイプ回数から上記相関データを介してワイパー摩耗量を算出(推定)する。
実際の装置に適用する場合には、予め設定しておいた規定ワイプ回数毎に、上記相関データからワイパー摩耗量を算出し、やはり同様に予め設定されたワイパー摩耗量とワイパー上昇量との関係を示すデータに基づいて、図11に示したワイパー昇降機構におけるホームポジションセンサ106によるホームポジションからの送り量(ワイパー上昇量)を補正するようにする。
このようにして、ワイパー摩耗量に応じたワイパー上昇量(ストローク)を求めて、ワイパーを上昇させることによりクリーニングに適正な当接圧でワイパーをノズル面に当接させることができる。これにより、ワイパーが摩耗しても常に安定したワイパーとノズル面の密着性を保持してクリーニング性を確保することができる。
また、このとき、上記ワイプ回数と摩耗量の相関データは、ウエットワイプ、ドライワイプ、当接力可変による複数のデータを保持し、それぞれのワイプ回数に相当する摩耗量を算出するようにしてもよい。
なお、ノズル面50Aとワイパー90間にクリアランスを設けた状態とするには、ワイパー90を一旦上昇させ、規定の圧力(当接時の圧力)を検出した位置から下降方向に送り制御し、規定のクリアランス(定量送り)で停止するようにすればよい。
また、ワイパー90のホームポジションから上記規定圧力を検出した上昇位置を記憶しておき、その位置までの送り量を基準にしてワイパー90昇降の位置制御をするようにしてもよい。この場合、送り量の基準は規定のワイプ回数毎に更新するようにする。
或いはまた、このような当接圧と当接ストロークの関係をテーブル化して保持しておき、これに基づいてノズル面50Aに対し垂直方向の位置制御を行ってもよい。
図13は、上記の方法を実現する制御系の構成例を示す要部ブロック図である。図示のとおり、インクジェット記録装置10は、ワイプ回数とワイパー磨耗量の相関データを格納しておく記憶部(以下「相関データ記憶部」という。)110と、磨耗量に応じたワイパー上昇量の補正テーブルを格納しておく記憶部(以下「補正テーブル記憶部」という。)112と、ワイプ回数をカウントするカウンタ114と、走査用モータ99及び昇降用モータ105をそれぞれ駆動するためのドライバ(駆動回路)116、118とを備えている。なお、相関データ記憶部110及び補正テーブル記憶部112には、EEPROMなどの不揮発性記憶手段が好適に用いられ、図7で説明したROM75の領域を利用することもできる。
プリント制御部80は、図13に示したドライバ116,118を介して走査用モータ99及び昇降用モータ105の駆動を制御し、ワイパートレー92及びワイパーホルダ101の位置(つまり、ワイパー90の位置)を制御する。ワイパートレー92及びワイパーホルダ101のそれぞれのホームポジションは、図9及び図11で説明したとおりホームポジション(HP)センサ100、106によって検出され、その検出信号は図13のようにプリント制御部80に通知される。
プリント制御部80は、それぞれのホームポジションを基準に走査用モータ99及び昇降用モータ105の駆動量(ステップモータの場合のパルス数)を制御する。また、プリント制御部80は、ワイピング動作の実施時にカウンタ114の計数値の更新を行うとともに、適宜のタイミングでカウンタ114から計数値の読み出しを行う。
図示の構成により、ワイピング動作の実施毎にカウンタ114をカウントアップし、所定の規定ワイプ回数に達したら、相関データ記憶部110の相関データから当該ワイプ回数におけるワイパー摩耗量を求める。こうして特定されたワイパー磨耗量に対応するワイパー上昇量の補正値を補正テーブル記憶部112のデータから求め、ワイピング時のワイパー90の上昇位置を補正する。
なお、図13では、相関データと補正テーブルを保持する例を述べたが、これらを統合して、ワイプ回数とワイパー上昇量の補正値とを対応づけたテーブルを用いることも可能である。また、補正テーブル記憶部112に代えて、ワイパー磨耗量から適宜の演算式を用いてワイパー上昇量の補正値を算出する演算処理部を設ける態様も可能である。もちろん、かかる演算処理部は図7で説明したシステムコントローラ72の演算機能を利用して実現することもできる。
〔(例2)当接圧検出手段を利用する態様〕
ワイパー90の摩耗量を特定する他の方法としては、例えば図14に示すように、ワイパー90とワイパーホルダ101との間に圧電素子93などの圧力検出手段を挟入し、この圧力検出手段(圧電素子93)でワイパー90をノズル面50Aに当接したときの圧力(当接圧)を検出することによって摩耗量を特定する方法もある。
すなわち、図11で説明したワイパー昇降機構によりワイパー90(90a,90b)をホームポジションから上昇方向に送り制御しながら、ワイパーホルダ101内の圧電素子93(図14参照)によって圧力を検出して、予め設定した規定の圧力になったところで送りを停止するようにして、摩耗量に応じた上昇量となるようにする。これにより、いわばワイパー摩耗量を直接に測定して上昇量を決定していることとなる。
図15にその例を示す。同図において、横軸はホームポジションを基準(原点)とする昇降用モータ(ステップモータ)105のパルス数を表し、縦軸は圧電素子93で検出されるワイパー90の当接圧(単位:kPa)を表す。
ワイパー昇降機構(図11参照)でホームポジションから上昇方向へ昇降用モータ105を回転し、図15のように、当接圧が適正圧範囲に入るまでのホームポジションからのパルス数をカウントし、当該パルス数を上昇目標位置として設定し、記憶する。
図15では、当接圧が4.9kPa(≒50gf/cm2 )となるパルス数を設定する例を示しているが、目標の当接圧(規定の圧力)は、適宜設定可能である。ただし、好ましい適正圧範囲は0.49〜4.9kPa(5〜50gf/cm2 )である。
〔(例3)振動検出手段を利用する態様〕
図14で説明したように、ワイパー90の基端部に圧電素子93を配設した構成により、ワイピング動作時のワイパー90の振動を圧電素子93によって検出することができる。ただし、振動検出手段の形態は、図14の例に限定されず、図16(a) に示したように、ワイパー90の片側(又は両側)の側面に、シート状にパターニングした歪ゲージ130を貼り付ける構成なども可能である。この歪ケージ130によってワイパー90の曲がり量(歪量)を検出することができる。
例えば、図16(b) に示すように、ワイパー90の固定部の中心線から、曲げに伴うワイパー先端の変位量δを「歪量」として定義することができる。また、歪量δの時間変化が振動として検出される。
図17は、ワイパー90の走査速度とワイパー90の歪量(振幅)の関係を示したグラフである。横軸は走査速度(単位:mm/s)を表し、縦軸はワイパーの振幅(センサ出力の電圧変動)を表す。同図には、ドライ状態でワイピングした場合のグラフ[1] と、ウエット状態でワイピングした場合のグラフ[2] が示されている。
図17から明らかなように、ノズル面の濡れ状態によって走査速度とワイパーの振幅の関係は大きく異なり、ドライ状態はウエット状態と比較して振動(振幅)は大きくなる。また、当接圧を大きくすると振動は大きくなり、走査速度を大きくすると振動は大きくなる。
特に、ドライ状態において、走査速度がある限界(図17におけるVsp)を超えると、スティックスリップ現象が発生し、ノズル面に拭きむらが生じる。図18は、スティックスリップ現象が発生しているときのワイパーの動きを示したグラフである。横軸は時間、縦軸はワイパーの曲がり量(歪量)を表す。
スティックスリップ現象が発生すると、図示のように、ワイパーの振幅が大きくなり、かつ、ワイパーの歪量が急激に元に戻る不連続点を有する振動が繰り返えされる。このようなワイパー振動によって当接圧が変動し、安定したワイピング(拭き取り)ができなくなる。かかる現象はドライ状態で顕著に発生し、ウエット状態の場合は、摩擦係数が低いために、走査速度を上げてもスティックスリップは発生しにくい。
このような事情に鑑み、ワイパーによるノズル面走査時(ワイピング時)の振動が所定の適正振動範囲内に入るように、ノズル面とワイパーの相対速度(走査速度)、ノズル面に対するワイパーの相対位置(すなわち、当接圧)、ノズル面とワイパーとの間の濡れ性のうち少なくとも1つを制御する。
ノズル面とワイパーの相対速度の制御は、図9で説明した走査用モータ(ここでは、ステップモータ)99の駆動周波数を制御することによって行う。ノズル面に対するワイパーの相対位置の制御は、図11で説明した昇降用モータ105の制御(例えば、ホームポジションからのパルス数の設定)によって行う。ノズル面とワイパーとの間の濡れ性の制御は、ヘッドのノズルからワイパーの先端部に向けてインクを吐出するか否か、更にはその吐出インク量を制御することによって行う。
図19に、ワイパーの走査・昇降機構の他の構成例を示す。同図中、図9乃至図14で説明した構成例と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図9ではワイパートレー92の走査機構として、ラック101bと歯車(ピニオン)98を用いたが、図19の例では、スクリューシャフト(ねじ軸)を利用したボールネジ方式(或いはリードスクリュー方式)の走査機構が採用されている。
すなわち、走査用モータ99の回転軸は適宜のカップリング(図示省略)を介してスクリューシャフト140と連結されている。ワイパーホルダ101を搭載した支持台142(図9におけるワイパートレー92に相当)は、図19のようにスクリューシャフト14
0と螺合される。また、スクリューシャフト140と平行に走査ガイド144が配設されており、支持台142の端部に形成された係合用の凹部146は走査ガイド144に摺動自在に係合している。
走査用モータ99を駆動してスクリューシャフト140を回転させると、支持台142は走査ガイド144によって回転が規制されつつ、スクリューシャフト140の軸方向(図の矢印A2 方向)に滑らかに移動する。
支持台142の端部に突設された遮光板部142aをホームポジションセンサ100(例えば、フォトインタラプタ)で検出することにより、支持体142のホームポジションを把握することができる。
図20は、上記の振動検出手段を利用する場合の制御系の構成例を示す要部ブロック図である。図20において、図7乃至図19で説明した構成例と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図20に示したとおり、ワイパー90の振動を検出するために配設された圧電素子93(又は歪ゲージ130)により検出された検出信号はプリント制御部80へ送られる。プリント制御部80は、この検出信号を基にワイパー90によるノズル面走査時(ワイピング時)の振動が所定の適正振動範囲内に入るように、走査用モータ99の駆動周波数、昇降用モータ105の回転量(ステップ数)及びヘッド50からのインク吐出動作のうち少なくとも1つを制御する。
すなわち、図中のプリント制御部80は、相対速度制御手段、相対位置制御手段、濡れ性制御手段として機能する。圧電素子93からの検出結果を各種制御の制御値(補正値や制御目標値、設定値など)に対応付ける方法は、図13で説明した例と同様に、適宜の相関データや補正テーブルを利用する方法、或いは演算アルゴリズム等を利用する方法などがある。
なお、プリント制御部80の代わりに、図7で説明したシステムコントローラ72が相対速度制御手段、相対位置制御手段、濡れ性制御手段の役割を担ってもよいし、プリント制御部80とシステムコントローラ72とが協働してこれらの制御を行ってもよく、或いは、プリント制御部80とシステムコントローラ72とが制御対象を適宜分担してもよい(以下に述べる(例4)〜(例13)についてもこの点は同様である)。
〔(例4)摩擦力測定手段を利用する態様〕
清掃能力を特定する他の手段として、ワイパーとノズル面間の摩擦力を測定する手段を用い、適切な摩擦力範囲に入るように、ノズル面とワイパーの相対位置を可変する方法もある。
例えば、走査用モータ99にDCモータを用いた場合、ワイピング動作中(走査中)のモータの電流値を測定することにより、ワイパーとノズル面間の摩擦力(動摩擦力)を特定することができる。
図21はDCモータの電流値と摩擦力の関係を例示したグラフである。図示の数値は便宜的なものであり、実際に使用されるモータの種類や動力伝達系の構成、ワイパー材質や構造など条件によって変わるものである。
走査用モータ99の負荷は、ワイパー90とノズル面間の摩擦力の大きさに依存して変化し、例えば、図21のような相関を示すため、かかる相関データを保持しておき、走査用モータ99の電流値を測定することで、その電流値から摩擦力を特定(推定)できる。
図22に、これを実現する制御系の要部ブロック図を示す。図22において、図7乃至図20で説明した構成例と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。図22において、走査用モータ99にはDCモータが用いられ、これを駆動するためのドライバ116には、駆動電流を検出するための電流検出回路150が設けられている。
また、本例のインクジェット記録装置10には、図21で説明したような、電流値と摩擦力の相関データを格納した記憶部(図22中の符号154)と、摩擦力に応じたワイパー上昇量(ノズル面に対するワイパー90の相対位置)の補正テーブルを格納した記憶部156と、を備えている。
DCモータはステップモータと違ってパルス数による位置制御ができないので、ワイパートレー42(又は支持台142)の可動範囲(ワイパー走査範囲)を規制するために、ホームポジションセンサ100の他、可動範囲の終端位置にリミットセンサ158が設置される。このリミットセンサ158の検出信号はプリント制御部80へ送られる。
プリント制御部80は、ホームポジションを基準に走査用モータ99を駆動してワイパー90を移動させ、リミットセンサ158からの検出信号によって終端位置への到達が検出されたら、走査を停止させる。ワイパー90の走査方向を反転させる場合には、リミットセンサ158とホームポジションセンサ100の役割を切り換えることによって対応できる。
走査用モータ99の駆動中(すなわち、ワイパー走査時)に電流検出回路150によって電流値が測定され、得られた電流値の情報はプリント制御部80へ送られる。
プリント制御部80は、電流検出回路150から得た電流値の情報を基に、記憶部154の相関データから摩擦力を求める。そして、特定された摩擦力に対応するワイパー上昇量の補正値を記憶部156の補正テーブルから求め、ワイパー90の上昇位置を補正する。
なお、図22では、相関データと補正テーブルを保持する例を述べたが、これらを統合して、電流値とワイパー上昇量の補正値とを対応づけたテーブルを用いることも可能である点は、図13の例と同様である。
ワイパーとノズル面間の摩擦力を特定する他の方法として、ワイパーの歪量と摩擦力の相関を利用する態様もある。例えば、図16(a) で説明したように、ワイパー90に歪ゲージ130を貼付した構成によってワイパーの歪量δ(図16(b) 参照)を測定する。
図23はワイパーの歪量δと摩擦力の関係を例示したグラフである。図示の数値は便宜的なものであり、ワイパー材質や構造など条件によって変わるものである。
ワイパーの歪量δは、ワイパーとノズル面間の摩擦力の大きさに依存して変化し、例えば、図23のような相関を示すため、かかる相関データを保持しておき、歪量δを測定することで摩擦力を特定(推定)できる。
図24に、これを実現する制御系の要部ブロック図を示す。図24において、図7乃至図20で説明した構成例と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。図24において、ワイパー90に貼付された歪ゲージ130の検出信号はプリント制御部80へ送られる。本例のインクジェット記録装置10には、図23で説明したような、歪量と摩擦力の相関データを格納した記憶部(図24中の符号164)と、摩擦力に応じたワイパー上昇量(ノズル面に対するワイパー90の相対位置)の補正テーブルを格納した記憶部166と、を備えている。
ワイパー走査中に歪ゲージ130によって検出されたワイパー90の歪量の情報は、プリント制御部80に入力され、プリント制御部80は、この取得した歪量の情報を基に記憶部164の相関データから摩擦力を求める。そして、特定された摩擦力に対応するワイパー上昇量の補正値を記憶部166の補正テーブルから求め、ワイパー90の上昇位置を補正する。
なお、図24では、相関データと補正テーブルを保持する例を述べたが、これらを統合して、歪量とワイパー上昇量の補正値とを対応づけたテーブルを用いることも可能である点は、図13の例と同様である。
〔(例5)ワイパーの走査方向を反転させる手段を用いる態様〕
図12及び図13で説明した磨耗量特定手段、図14乃至図20で説明した当接圧検出手段或いは振動検出手段、更には図21乃至図24で説明した摩擦力特定手段など、何れかの手段又はこれらの適宜の組み合わせ(これらを総称して「清掃能力特定手段」という。)を用いて清掃能力を特定し、ワイパーブレードの寿命を検出した場合に、そのワイパーの走査方向を反転させることによって、清掃能力を回復させることができる。
図25にその模式図を示す。同図(a) に示すように、最初のうちはワイパー90を第1の走査方向I(図の左方向)に走査してワイピングを実施する。第1の走査方向Iのクリーニング走査を続けると、やがて、ワイパー90の先端エッジ部の片側(同図(a) において符号168で示した左側部分)が磨耗する。
この片側エッジの磨耗による清掃能力の低下を規定の条件から判断し、その判断結果に基づいて同図 (b)のように、ワイパー90の向きを変えずに、ワイパー90の走査方向を反転させる。第1の走査方向Iと逆方向の第2の走査方向IIにクリーニング走査を行う場合は、同図(b) に示したように、磨耗エッジ168と反対側のエッジ169(磨耗していない側のエッジ)でノズル面50Aを拭き取ることになるため、清掃能力が回復する。
走査方向を反転させるときの判断条件としては、例えば、予めワイプ回数と寿命(片側エッジの寿命)を対応付けておき、ワイプ回数のカウント結果に基づいて寿命と判断する態様がある。この態様は、図13で説明した構成例を応用することで実現できる。
また、ワイパー90の当接圧を検出し、当接圧が規定値以下(例えば、1.96kPa(≒20gf/cm 2 ) 以下) となった場合に走査方向を反転させる態様もある。或いはまた、ノズル面走査時のワイパーの振動を検出し、振幅や周波数などが規定の値以上の振動を検出した場合に走査方向を反転させる態様も可能である。当接圧検出手段又は振動検出手段としては、図14乃至図20で説明した構成例を用いることができる。
〔(例6)ワイパー先端の面状を回復する手段を用いる態様〕
上述した清掃能力特定手段を用いて清掃能力を特定し、ワイパーブレードの寿命を検出した場合に、ワイパー先端を研磨してその面状を回復させることにより、清掃能力を回復させることができる。
図26は、ワイパー先端の面状回復手段の一例を示す模式図である。同図(a) に示したように、ワイパー90によってヘッド50のノズル面50Aをクリーニング走査する動作
を繰り返すと、やがてワイパー90の磨耗等によって清掃能力が低下する。
この清掃能力の低下を規定の条件から判断し、ワイパーの寿命と判断した場合は、ワイパー90をクリーニング位置(同図(a) )から所定のワイパーメンテナンス位置(同図(b)) へ移動させる。ワイパーメンテナンス位置には、研磨ローラ170とワイパー90を抑える固定ユニット172とを有して構成される研磨ユニット174が不図示の昇降機構によって図の上下に移動可能に設置されている。
ワイパー90をワイパーメンテナンス位置に移動させた後、不図示の待機位置(退避位置)で待機していた研磨ユニット174を同図(b)のように下降させることにより、研磨ユニット174がワイパー90に被嵌される。こうして、固定ユニット172のワイパー挿入部173の内面によってワイパー90の先端部付近を両側面から抑えつつ、研磨ローラ170を不図示のモータ等によって回転させることでワイパー90先端部を研磨する。研磨終了後は、研磨ユニット174を図の上方向に移動させて不図示の待機位置へ退避させ、ワイパー90を所定の初期位置(ホームポジション等)へ戻す。
このように、ワイパー90の先端を研磨フォーミングすることにより面状が回復され、当該ワイパー90に清掃能力を回復できる。
〔(例7)ワイパー先端の面状を回復する他の手段を用いる態様〕
図27に、他の研磨手段の例を示す。図26で説明した研磨ユニット174に代えて、図27に示すように、平面研磨材180と固定ユニット182とを有して成る研磨ユニット184を用いることができる。この場合、ワイパー90を保持している保持部186の下面部に加振手段としての圧電素子188が設けられる。この圧電素子188は、図12で説明した圧電素子93(当接圧検出手段、或いは振動検出手段)で兼用可能である。
上記構成において、不図示の待機位置(退避位置)で待機していた研磨ユニット184を図27のように下降させ、ワイパー90の先端部に研磨ユニット18を被嵌する。こうして、ワイパー90の先端を平面研磨材180に当接させた状態で圧電素子188を駆動してワイパー90を加振し、ワイパー90先端部を微小振動させることで研磨する。なお、ワイパー90を受け入れる固定ユニット182のワイパー挿入部183は、その内周面とワイパー90との間に、加振に必要な所定量のクリアランスが確保されるようになっている。
研磨終了後は、研磨ユニット184を図の上方向に移動させて不図示の待機位置へ退避させ、ワイパー90を所定の初期位置(ホームポジション等)へ戻す点は図26の例と同様である。
図26及び図27では、研磨ユニット174,184を昇降させる例を述べたが、これに代えて、又はこれと組み合わせてワイパー90側を昇降させてもよい。また、他の研磨手段として、平面形状の研磨材にワイパー90を当接させて面上を走査させることによって研磨する態様も可能であり、更に、図27で説明した加振手段を併用し、研磨材の面上走査中にワイパー先端部を微振動させる態様も可能である。
〔(例8)複数のワイパーを用意し、使用するワイパーを切り換える手段を用いる態様〕
図28は、ワイパー切換手段の一例を示す模式図である。同図には、4個のワイパー90-i(ただし、i =1,2,3,4)を1つのワイパーホルダ190に保持し、ワイパーホルダ190を回転させることで、使用するワイパーを切り換える構造の例が示されている。もちろん、ワイパーの個数は特に限定されず、個数に応じて適宜の形状のワイパーホルダが用
いられる。
図28によれば、多面体型のワイパーホルダ190に4個のワイパー90-i(i =1,2,3,4)が取り付けられている。ワイパーホルダ190は、図中Eで示した中心点を通る紙面垂直な直線を対称軸とする90度の回転対称形を有し、図示しない支持機構によって回動自在に支持されるとともに、図示しないモータ等の駆動手段によって回転位置を制御できる構成になっている。
各ワイパー90-i(i =1,2,3,4)は、ワイピンング特性(清掃効果)の異なる異種ワイパー(例えば、自由長や剛性の異なるもの、先端形状が異なるもの、インク吸収特性が異なる吸収性ブレードなど) であり、ノズルの吐出異常の検出結果や、ノズル面の状態、或いはノズル面走査時のワイパーの動作状況などの検出結果に応じて適切なワイパー(ブレード)が選択される。かかる態様によれば、状況に適応した効果的なクリーニングを実施することが可能となり、クリーニング性能を向上させることができる。
また、図28の機構を応用し、略同一のワイピング特性を有する複数個の同種ワイパーをワイパーホルダ190に取り付けておき、これらを順次切り換えることにより、清掃能力を維持することができる。すなわち、清掃能力特定手段を用いて清掃能力を特定し、ワイパーブレードの寿命を検出した場合に、図28の機構でワイパーの切り換えを行うことにより、清掃能力を回復させることができる。
例えば、図28において、符号90-1で示したワイパーが現在選択されている(使用されている)ワイパーであるとすると、このワイパー90-1の清掃能力が規定の条件よりも低下した場合に、ワイパーホルダ190を回転させ、別のワイパー(例えば、符号90-2)を使用位置に移動させる。ワイパーを切り換えるときの判断条件としては、上記(例7)と同様に、ワイプ回数から寿命と判断する態様、ワイパーの当接圧が規定値以下(例えば、1.96kPa(≒20gf/cm 2 ) 以下) となった場合、振動検出手段により規定の値以上の振動を検出した場合、などがある。
〔(例9)ワイパーを加振する手段を用いて洗浄効果を高める態様〕
クリーニング走査中に、ワイパーとノズル面間を相対的に加振(好ましくは、超音波加振)することにより、拭き取り洗浄作用と加振洗浄作用とが相乗的に作用して洗浄効果が高まる。
図29は、ワイパーの走査と加振手段とを併用して清浄効果を高める例を示した模式図である。ワイパー90の加振手段となる圧電素子188は、図14で説明した圧電素子93(当接圧検出手段、振動検出手段)が兼ねている構成が好ましい。
クリーニング走査中に、この圧電素子188を数kHz〜100kHzで振動させ、ワイパー90に超音波振動を与える。好ましくは、ウエット状態にして(ノズルからワイパー先端へインクを吐出した後に)加振を行う。これにより、ワイパー90の摺動走査による拭き取り洗浄に超音波洗浄の効果が加わり、清掃能力が向上する。特に、ノズル面に付着した固着物を除去する洗浄効果が向上する。
上記の加振を伴うクリーニング走査をノズル面50Aの全体について実施してもよいし、振動検出手段(図14,図16(a) で説明済み)などを利用して、特定位置の固着物を検出し、その固着物付着近傍エリアについて選択的に上記の加振クリーニングを実施してもよい。
〔(例10)ワイパーの当接圧を可変して清掃能力を高める態様〕
図30は、ノズル面へのワイパーの当接圧を可変制御してクリーニングを行う制御の一例を示すフローチャートである。
まず、ステップS210において、吐出不良(異常)ノズルの検出を行う。検出方法は前述したように、印字検出部24その他の吐出検出手段を用いる。吐出検出の結果から異常ノズルの有無を判断し(ステップS212)、異常ノズルが検出されなかった場合には、特にクリーニングを行う必要はなく、処理を終了する。
その一方、吐出検出において、飛翔方向異常、吐出量異常、不吐出など等の何らかの吐出不良が発生した異常ノズルが検出された場合には、ステップS212でYES判定となり、次のステップS214に進む。
ステップS214では、ワイパー90の当接圧を所定の初期値(例えば、1.96kPa (≒20gf/cm 2 ))に設定してクリーニング走査を行う。この初期値は、ノズル面の撥液層(図4中符号59参照)の耐久性と清掃性とを考慮して比較的低い値に設定されることが望ましい。図30のように、クリーニング走査後、再度吐出検出を行い(ステップS216)、クリーニングによって吐出異常が回復したか否かを判断する(ステップS218)。ステップS218において異常ノズルが検出されなければ、処理を終了する。
また、ステップS218においてなお異常ノズルが検出された場合には、ステップS220へ進む。ステップS220では、現在の当接圧の設定値が所定の上限値(例えば、9.8 kPa(≒100gf/cm 2))未満であるか否かの確認が行われる。先のクリーニング時におけるワイパー90の当接圧が所定の上限値未満であれば、当接圧の設定値を所定量(例えば、0.98kPa(≒10gf/cm 2 ))だけ大きくし、この変更後の当接圧でクリーニング走査を実施する(ステップS224)。ステップS224によるクリーニング走査後は、ステップS216に戻る。
こうして、ステップS218で異常ノズルが検出されなくなるか、或いはステップS220において当接圧が所定の上限値に達するまで、ステップS216〜S224の処理が繰り返される。
当接圧を所定の上限値まで高めてクリーニングを実施しても吐出異常を回復できない場合、すなわち、ステップS218において吐出異常の回復が確認されないまま、ステップS220において当接圧が所定の上限値に到達した場合は、ワイピングによるクリーニングだけでは異常ノズルの回復が不可能であるため吸引等の別のメンテナンス動作を実施して(ステップS226)、処理を終了する。
上記制御例によれば、通常は、比較的小さい圧接力でクリーニングが行われるため、ノズル面の撥液層の寿命向上及びワイパー寿命の向上を図ることができる。その一方、必要に応じて圧接力を上げることにより、ノズル面上に付着した異物の除去も可能となり、清掃性能が向上する。
〔(例11)ノズル面の状態を検出し、適切なクリーニング動作を実施する態様〕
ワイパーのノズル面走査時にノズル面状態を検出する手段(ノズル面状態検出手段)としては、(例3)で説明した振動検出手段、或いは(例4)で説明した摩擦力特定手段を利用することができる。
図31は、振動検出手段を利用してノズル面状態を検出する場合の模式図である。同図(a)に示したように、ヘッド50のノズル面50Aに固着物195が付着している場合に、ワイパー90によってノズル面走査を実施すると、ワイパー90の振動検出手段(圧電素子93)から検出される信号は、同図(b) のように、固着物195の付着位置に対応する位置で振幅が大きく変化する。
この検出原理を利用して、ワイパー90の振動状態(振動の検出信号)からノズル面50Aにおける固着物195の有無やその付着位置(つまりを汚れのローカリティ)を特定することができる。
図31では振動検出手段について説明したが、図21乃至図24で説明した摩擦力特定手段を用いた場合も同様に、固着物195の付着位置で検出値(測定値)が大きく変化するため、摩擦力特定手段を利用することで汚れのローカリティを特定できる。
図32は上記のノズル面状態検出手段による検出結果に基づいてクリーニング動作を制御する例を示したフローチャートである。
図示のように、まず、プレクリーニング走査を行い(ステップS310)、この走査中に振動検出手段によってワイパー振動を検出するか、又は摩擦力特定手段によって摩擦力を検出するなどしてノズル面状態を検出する(ステップS312)。プレクリーニング走査は、ノズル面状態を検出するために特別に実施されるクリーニング動作(当接圧などのクリーニング条件が別途設定されるもの)であってもよいし、直前に行われた通常のクリーニング動作を「プレクリーニング走査」として取り扱うこともできる。
次に、ステップS312の検出結果に基づき、汚れのローカリティを判断する(ステップS314)。図31で説明したように、大きな振動が検出されると、図32のステップS314でYES判定となり、固着物が付着していると判断される(ステップS316)。この場合、通常のクリーニング走査時に設定される所定の当接圧よりも当接圧を大きくし、かつウエット状態でクリーニング走査を実施する(ステップS318)。これにより、固着物(異物)の除去性能が向上する。
その一方、ステップS314において汚れのローカリティが検出されなかった場合は、固着物が付着していないと判断される(ステップS320)。この場合、所定の当接圧に設定し、濡れ性の制御(インク吐出)は行わず、その状態でクリーニング走査(通常のクリーニング)を実施する(ステップS322)。
〔(例12)不吐出検出とノズル面状態検出とを組み合わせて、適切なクリーニング動作を実施する態様〕
図33は不吐出検出とノズル面状態検出とを組み合わせて、これらの検出結果に基づいてクリーニング動作を制御する例を示したフローチャートである。
まず、ステップS410において、吐出不良(異常)ノズルの検出を行う。検出方法は前述したように、印字検出部24その他の吐出検出手段を用いる。吐出検出の結果から不吐出ノズルの有無を判断し(ステップS412)、不吐出ノズルが検出されなかった場合には、処理を終了する。
その一方、ステップS412において不吐出ノズルが検出された場合は、プレクリーニング走査を行い(ステップS414)、この走査中に振動検出手段によってワイパー振動を検出するか、又は摩擦力特定手段によって摩擦力を検出するなどしてノズル面状態を検出する(ステップS416)。
次に、ステップS416の検出結果に基づき、汚れのローカリティを判断する(ステップS418)。図31で説明したように、大きな振動が検出されると、図33のステップS418においてYES判定となり、固着物が付着したことによる不吐出であると判断される(ステップS420)。この場合、通常のクリーニング走査時に設定される所定の当接圧よりも当接圧を大きくし、かつウエット状態でクリーニング走査を実施する(ステップS422)。これにより、固着物(異物)の除去性能が向上する。
その一方、ステップS418において汚れのローカリティが検出されなかった場合は、固着物の付着が原因の不吐出ではなく、インクの増粘による不吐出であると判断される(ステップS424)。この場合、予備吐出動作、又は吸引動作、或いはこれらの組み合わせなど、回復動作を実施する(ステップS426)。
このように、ノズル面状態及び不吐出の検出結果を組み合わせてメンテナンス動作を決定することにより、メンテナンス時間の短縮並びにインク消費量の削減が可能である。
〔(例13)ノズル面走査時の摩擦力を検出して、適切なクリーニング動作を実施する態様〕
図34はノズル面走査時の摩擦力の検出結果に基づいてクリーニング方法を選択する制御例を示したフローチャートである。
図示のように、まず、プレクリーニング走査を行い(ステップS510)、この走査中に摩擦力特定手段(上記の(例4)で説明済み)を用いてノズル面状態(ここでは特に摩擦力)を検出する検出する(ステップS512)。
次に、ステップS512の検出結果に基づき、ノズル面における摩擦力のローカリティを判断する(ステップS514)。固着物や液の付着状況(付着位置、付着量など分布)によってノズル面内で摩擦力のローカリティが検出され得る。例えば、予め所定の判定基準値を設定しておき、所定の判定基準値を超える摩擦力(摩擦力に対応するモータ電流値や歪量でもよい。)が検出されなければローカリティがないと判断される。
この場合、ステップS516に進み、所定の当接圧に設定し、濡れ性の制御(インク吐出)は行わず、その状態でクリーニング走査(通常のクリーニング)を実施する。
その一方、ステップS514において、所定の判定基準値を超える摩擦力が検出された場所が存在していた場合などは、摩擦力のローカリティがあると判断され、ステップS518に進む。
ステップS518では、所定の判定基準値よりも摩擦力が大きいエリアと、摩擦力が小さいエリアとを区別して各エリアの位置情報を記憶する。
その後、クリーニング走査を再開すべく、走査位置の情報を取得する(ステップS520)。そして、ステップS518で記憶した情報と現在の位置情報とを基に、クリーニング対象の位置が摩擦力の大きいエリアであるか否かを判断する(ステップS522)。
対象位置が摩擦力の大きいエリアの場合は、ノズルからインクを吐出してウエット状態にしてクリーニングを実施する(ステップS524)。また、対象位置が摩擦力の小さいエリアの場合は、ノズルからインクを吐出させず、その状態でクリーニングを実施する(ステップS526)。
次に、所定の走査範囲についてクリーニング走査が終了したか否かを判断する(ステップS528)。この判断は、図9等で説明した走査用モータ99のパルス数のカウント、或いは、図22で説明したリミットセンサ158からの信号に基づいて行われる。クリーニング走査が終了していない場合は、図34のステップS522に戻り、上記処理ステップS522〜528が繰り返される。
ステップS528で所定の走査範囲についてのクリーニング走査が終了したことが確認されたら、処理を終了する。
上記した各具体例(例1)〜(例13)は、適宜組み合わせることが可能であり、組み合わせの態様によって、多様なクリーニング方法を実現できる。
〔実施形態の変形例〕
上記説明では、分割ワイパー90a,90bの構成を述べたが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、分割されていない1つの長尺ワイパーを用いる構成についても同様に適用可能である。
また、上記の実施形態では、記録媒体の全幅に対応する長さのノズル列を有するフルライン型ヘッドを用いたインクジェット記録装置を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、短尺の記録ヘッドを往復移動させながら画像記録を行うシャトルヘッドを用いるインクジェット記録装置についても本発明を適用可能である。
更に、上述の説明では、画像形成装置の一例としてインクジェット記録装置を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。例えば、印画紙に非接触で現像液を塗布する写真画像形成装置等についても本発明の液体吐出装置を適用できる。また、本発明に係る液体吐出装置の適用範囲は画像形成装置に限定されず、液体吐出ヘッドを用いて処理液その他各種の液体を被吐出媒体に向けて噴射する各種の装置(塗装装置、塗布装置、配線描画装置など)についても本発明を適用することができる。
10…インクジェット記録装置、12…印字部、12K,12C,12M,12Y…ヘッド、14…インク貯蔵/装填部、16…記録紙、18…給紙部、22…ベルト搬送部、24…印字検出部、27…クリーニングユニット、33…ベルト、50…ヘッド、50A…ノズル面、51…ノズル、52…圧力室、58…アクチュエータ、59…撥液層、64…キャップ、67…吸引ポンプ、72…システムコントローラ、80…プリント制御部、84…ヘッドドライバ、86…ホストコンピュータ、90…ワイパー、90a,90b…分割ワイパー、92b…ラック、93…圧電素子、96…ガイドシャフト、98…歯車(ピニオン)、99…走査用モータ、101…ワイパーホルダ、101b…ラック、102…ガイドレール、103…ガイドシャフト、104…歯車(ピニオン)、105…昇降用モータ、106…ホームポジションセンサ、110…相関データ記憶部、112…補正テーブル記憶部、114…カウンタ、130…歪ゲージ、140…スクリューシャフト、142…支持台、150…電流検出回路、170…研磨ローラ、172…固定ユニット、174…研磨ユニット、180…平面研磨材、182…固定ユニット、184…研磨ユニット、188…圧電素子、190…ワイパーホルダ、195…固着物