JP4503194B2 - 気相堆積装置及び方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、気相堆積装置及び方法に関し、詳しくは、基体上に金属叉は金属を含む物質を物理的気相堆積法によって堆積させる気相堆積装置及び方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、メモリ素子、論理素子等の半導体装置を製造する際の配線形成方法としては、半導体ウェハ等の基体上に設けられた各素子間の導電経路となるトレンチ、コンタクトホール、スルーホール、ヴィアホール、等の凹部に、バリア層を成膜した後、例えばCu、Al等を含むの金属膜を形成する方法が広く用いられている。このような金属膜は、一般に、金属ターゲットを用いたスパッタ法等の物理的気相堆積(PVD)法、有機金属ソースを原料とする化学的気相堆積(CVD)法等によって形成される。これらの方法のうち、PVD法は、成膜された膜の純度に優れ、装置構成が簡略であること、半導体ウェハへの熱履歴等の観点から比較的有利である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年、超LSIといった半導体素子の更なる高集積化に伴い、電極配線層等の微細化及び多層化が益々進む傾向にある。このような素子が形成される基体においては、上記凹部のアスペクト比がこれまで以上に高くなり、また、多層化に伴って段差のない理想的な多層電極配線構造が要求されるようになってきた。これに対し、従来のPVD法により、アスペクト比の高い凹部に金属を堆積させる場合には、凹部の開口部にオーバーハングが生じ易い傾向にあり、その結果、凹部の底壁や特に内側壁のカバレッジが十分ではなくなり、所望の電気特性を有する素子が得られ難いことがあった。
【0004】
また、このような不都合を解消すべく、基体が収容されるチャンバ内の圧力を極力低下させ、更に金属ターゲットと基体との幾何学的な配置を工夫することにより、金属イオン等のスパッタリング粒子の直進性を高め、凹部の内空間に金属イオン等を導入し易くする方法が考えられる。しかし、凹部のアルペクト比や形状によっては、この方法でも十分なカバレッジが得られないおそれがある。
【0005】
さらに、金属膜の下地層として、バリア層上にCVD法によって同種金属の極薄膜から成るシード層を形成し、この上にPVD法によって金属膜を形成する方法も考えられる。ただし、この方法では、シード層により濡れ性が改善されて凹部の埋め込み性が向上され得るものの、工程が複雑となり、場合によってはシード層自体の膜特性を改善するために成膜後の熱処理工程等が更に必要となることがある。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、基体上に設けられた高アスペクト比を有する凹部に金属を堆積させる際に、工程数の増大や工程の複雑化を招くことなく、その凹部のカバレッジ及び埋め込み性を十分に改善できる気相堆積装置及び方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明による気相堆積装置は、(1)基体が収容されるチャンバと、(2)このチャンバ内に設けられ基体を保持する保持部と、(3)チャンバ内に保持部に対向して設けられ且つ金属叉はその金属を含む物質を含むターゲットとを備えており、基体上に金属をPVD法によって堆積させるものであって、(4)チャンバ内における保持部とターゲットとの間の空間に設けられた複数の電極を備えることを特徴とする。
【0008】
このように構成された気相堆積装置においては、PVD法によって基体上に金属膜叉は金属を含む膜が形成される。例えば、基体が収容されたチャンバ内が所定の真空度となるように排気した状態でプロセスガスを供給してその真空度を維持し、ターゲットに電圧を印加すると、チャンバ内にグロー放電が生じてプラズマが形成される。プロセスガスはこれにより解離してイオン種を生じ、このイオン種がターゲットに衝突してターゲットを構成する金属等がスパッタされる。スパッタリング粒子としての金属イオン種、金属原子等の活性種は、保持部上に載置された基体上に向かって移動し、基体上に達して堆積し、やがて金属膜が形成される。なお、本発明において「活性種」とは、イオン性活性種、ラジカル等の励起種、及び中性活性種を含むものを示す。
【0009】
このとき、保持部とターゲットとの間の空間に設けられた複数の電極に、例えば所定の極性及び電圧値の電圧が印加されると、電極間に電界が形成される。ターゲットから基体に向かって移動する活性種のうち、イオン等の電荷を有するものは、この電界中を通過する際に、電界強度とイオンの電荷及び運動量叉はエネルギーとに応じて、進路が偏向される。これにより、基体上にヴィアホール等の凹部が設けられている場合に、イオン性活性種等は、その凹部の深さ方向に真っ直ぐに入射せず、例えば斜め方向に入射し得る。よって、イオン性活性種が凹部の内側壁に十分に到達するように入射し易くなる。
【0010】
また、複数の電極に印加される電圧の極性叉は電圧値の大小が、所定の時間間隔叉は周期で交互に変化すれば、保持部とターゲットとの間に交番電界が発生し得る。こうすれば、ターゲットからのイオン性活性種が、一方向に偏進せずに、言わば蛇行するように基体に向かって移動する。よって、活性種の全体としての直進性を維持しつつ、イオン性活性種を凹部内へ斜め方向に入射させ易くなる。
【0011】
より具体的には、複数の電極に接続されており、これらの複数の電極のうち少なくともいずれか一つの電極に第1の電圧が印加されるように、且つ、他の電極にその第1の電圧と異なる第2の電圧が印加されるように、これらの複数の電極への電圧の印加を制御する制御部を更に備えると好ましい。
【0012】
このように構成すれば、制御部によって第1の電圧が印加された電極と、同第2の電圧が印加された電極との間に、両電圧値の差異(電位差)に応じた強度の電界が生起される。よって、これらの電圧値を適宜調節することにより、チャンバ内のターゲットと基体との位置関係、基体上に設けられた凹部の形状、他のプロセス条件等に応じて、ターゲットからのイオン性活性種の進行方向を所望に且つ簡易に偏向させ得る。このとき、第1及び第2の電圧の極性は同じでも異なっていてもよく、電極の数量及びそれらの形状、配置状態等は特に限定されない。また、制御部が、各電極への電圧の印加を独立に制御するものであるとより好ましい。
【0013】
さらに、制御部が、第1及び第2の電圧が複数の電極に対して周期的に変化するように、具体的には、第1の電圧及び第2の電圧の極性叉は電圧値の大小が、所定の時間間隔叉は所定周期で変化するように、それらの複数の電極への電圧の印加を制御するものであると好適である。
【0014】
例えば、複数の電極のうち一つ叉は一部の電極に第1の電圧を印加し、他の電極に第2の電圧を印加し、これらを交互に切り替えるようにすれば、保持部とターゲットとの間で且つ電極間つまり基体の上方に交番電界が生じ得る。これにより、上述したような、イオン性活性種が蛇行するように移動する進行状態が確実に発現され得る。
【0015】
或いは、まず、複数の電極を基体の周囲に並設してこれらの電極を略環状に配置し、ある一つの叉は一部の電極に第1の電圧を印加し、他の電極には第2の電圧を印加する。次いで、所定時間経過した後に、第1の電圧が印加されていた電極に第2の電圧を印加すると同時叉は略同時に、隣設された電極に第1の電圧を印加する。このような操作を、環状配置された複数の電極に対して順次繰り返すことにより、一定の周期で電場の方向が変化する電界が、保持部上の基体の上方に生じ得る。この場合には、ターゲットからのイオン性活性種が、略螺旋状に運動しながら基体上に供給される。
【0016】
またさらに、複数の電極は、これらの複数の電極間に最大強度が1〜10kV/mの範囲内の値となる電界が形成されるように設けられたものであると一層好ましい。この電界の最大強度が上記下限値未満であると、凹部の形状やプロセス条件等に依るものの、イオン性活性種の進路が十分に偏向され難い傾向にあり、基体上の凹部への入射性が改善され難くなる。一方、電界の最大強度が上記上限値を超えると、イオン性活性種が過度に偏向され、凹部への入射角が不都合な程に過大となる傾向にある。
【0017】
さらにまた、複数の電極は、パルス状の直流電圧が印加されるものであると更に好適である。こうすると、電極間に形成される電界が交番電界の場合、その電界の方向が瞬時に叉は俊敏に切り替わり、その結果、イオン性活性種の運動方向等を所望に制御し易くなる。また、電界方向が周期的に変化する動的な電界の場合にも、その電界方向の切り替わりが円滑且つ鋭敏となって、活性種の螺旋状運動が確実に達成され易い利点がある。
【0018】
また、本発明による気相堆積方法は、本発明の気相堆積装置を用いて有効に実施される方法であって、基体上に、金属を含むターゲットからその金属叉はその金属を含む物質の活性種を供給してその金属叉はその金属を含む物質を堆積せしめる方法であって、活性種を基体上へ供給する際に、基体とターゲットとの間に、そのターゲットからその基体へ向かう方向と交差する方向に電界を形成させることを特徴とする。なお、電界を形成させるのは、活性種を基体上へ供給している期間のうち、全期間叉は少なくとも一部の期間実施すればよく、一部の期間で実施するときは、活性種を基体上に供給する初期に実行すると好ましい。
【0019】
一般に、PVD法による堆積や成膜では、ターゲットと基体との間に電界が形成され、これにより、ターゲットから出射された金属イオン、金属原子等の活性種が、ターゲットから基体へ向かう方向、つまり両者を結ぶ仮想的な垂線方向に沿って直進する傾向にある。また、基体上の凹部の深さ方向は、この垂線方向と一致するようにされている場合が多い。よって、この方向と交差する方向に電界を形成させれば、先述したように、イオン性活性種の基体上への入射角を適宜偏向させることが可能となる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限られるものではない。
【0021】
図1は、本発明による気相堆積装置の好適な一実施形態を模式的に示す構成図(一部断面図)である。気相堆積装置1は、基体としての半導体ウェハWが収容されるチャンバ10内に、半導体ウェハWを保持するサセプタ15(保持部)と、このサセプタ15に対向する位置にスパッタターゲット13(ターゲット)が配置されたものである。このチャンバ10は、筐体11の上端部に、マグネット12に固定された上記のスパッタターゲット13がインシュレータ14を介して結合されて成るものである。また、スパッタターゲット13は、接地された直流電源Dに接続されている一方、サセプタ15は、上下駆動可能な支持機構15aを介して、接地されたバイアス用の高周波電源Rに接続されている。
【0022】
さらに、サセプタ15の周囲には、半導体ウェハWを固定するためのクランプ16が設置されており、更にその周囲にはシールド17が設けられている。このシールド17は、高周波電源R及び直流電源Dの接地電位と同電位に接地されている。これらのスパッタターゲット13、サセプタ15、シールド17等によりチャンバ10内部に反応室10aが画成されている。
【0023】
またさらに、サセプタ15にはヒーター2が内臓されており、これにより、サセプタ15上に載置された半導体ウェハWが加熱されるようになっている。このヒーター2は図示しない電源に接続されており、サセプタ15の内部には、半導体ウェハWの温度を測定する温度センサ(図示せず)が設けられている。さらにまた、チャンバ10には、配管51を介してプロセスガス供給系5が接続されており、配管61を介して真空ポンプ(図示せず)等を有する排気系6接続されている。この排気系6によりチャンバ10内が減圧されて、反応室10a内が所定の減圧雰囲気(真空度)とされ、プロセスガス供給系5からArガス等のプロセスガスがチャンバ10内に供給される。
【0024】
また、スパッタターゲット13とサセプタ15との間で且つクランプ16の上方には、電極対3を構成する平板状を成す二つの電極3a,3bが設けられている。ここで、図2は、図1におけるII−II線断面を示す断面図(一部省略)であり、半導体ウェハWと電極対3との配置関係を示す図である。図示の如く、電極3a,3bは略平行に対向設置されている。なお、電極3a,3bの構成材料は特に制限されるものではないが、スパッタターゲット13材と同じ材質のものを用いると好ましい。こうすれば、電極3a,3bがイオン性活性種との衝突によってスパッタされても、半導体ウェハWaが別種の物質で汚染されることを防止できる。
【0025】
さらに、図1に戻り、気相堆積装置1は、電極3a,3bが接続された電源制御部4(制御部)を有している。この電源制御部4は、パルス状の直流電圧を出力する直流電源41と、これに接続されており、直流電源41から出力される電圧の極性、出力値(パルス高)、パルス幅、パルス間隔、出力時刻、出力タイミング等を調節するコンピュータ装置42とを有している。また、コンピュータ装置42は、CPU、MPU等の演算部と、この演算部に接続された入力部を備えている(共に図示せず)。
【0026】
このように構成された気相堆積装置1を用いた本発明による気相堆積方法の一例について、図1〜図5を参照して以下に説明する。図3(A)〜(C)は、本発明による気相堆積方法の好適な一実施形態によって半導体ウェハWa(基体)上に金属配線層を形成している状態を示す工程図である。半導体ウェハWaは、基層100上に、トレンチやホール等の凹部Hが形成された単層叉は多層のSiO2等から成る絶縁層101が設けられ、更に凹部H及び絶縁層101上にバリア層102が形成されたものである。
【0027】
この基層100としては、ケイ素(Si)から成る層、叉は、多層配線の場合にはCu、Al、W等の金属膜から成る層、等が挙げられる。また、バリア層102としては、Ta/TaN、Ti/TiN、WN等から成る層が挙げられる。なお、半導体ウェハWaは、予め脱ガスが施され、且つ、オリエーションフラットの調整が行われ、更に表面に形成された自然酸化膜等の不要な膜が取り除かれたものにバリア層102が形成されたものである。また、本実施形態においては、スパッタターゲット13として、主としてCu、Al、W、叉は、それらの金属のうち一種を含む合金から成るものを使用する。
【0028】
まず、図2(A)に示す半導体ウェハWaを、図1に示すチャンバ10内のサセプタ15上の所定位置に載置し、クランプ16により固定する。次いで、排気系6を運転してチャンバ10内を排気して所定の圧力(真空度)とした後、プロセスガス供給系5から例えばArガスをチャンバ10内に供給する。また、ヒーター2を運転して半導体ウェハWaを所定の温度に加熱する。
【0029】
半導体ウェハWaの温度を温度センサーで監視し、所定の温度となった状態で、スパッタターゲット13に所定の直流電圧を印加して例えば正の所定電位とする。これにより、Arガスがグロー放電によって解離され、反応室10a内にプラズマが形成される。その結果、プラズマ中のArイオン、Ar原子等によってスパッタターゲット13を構成する金属叉は金属を含む物質がスパッタされる。このとき、半導体ウェハWa及びサセプタ15は、プラズマシースに対して負に帯電され、さらに、サセプタ15にバイアス用の高周波電力を印加することにより、スパッタリング粒子としての活性種が半導体ウェハWaに向かって移動する。
【0030】
このとき、電極3a,3bに対して電源制御部4から、それぞれ図4(A)及び(B)に示すパルス状の直流電圧を印加する。図4(A)及び(B)は、電源制御部4からそれぞれ電極3a,3bへ出力される電圧の状態を示すタイミングチャートである。図示の如く、電源制御部4からの出力電圧は、パルス状の直流電圧であり、略矩形のパルス波形を有するものである。図示の場合、電源制御部4から、任意の時刻t0において、電極3a,3bに、それぞれ所定の大きさの正電圧(第1の電圧)及び負電圧(第2の電圧)を印加し、次いで、時刻t1〜t10の各時刻において、電極3a,3bにそれぞれ印加する電圧の極性を順次交互に切り換える。
【0031】
すなわち、電源制御部4により、各電極3a,3bへのパルス状直流電圧を独立に印加し、且つ、両電極3a,3b間に、時間の経過と共に電場の方向が交互に切り換わる(換言すれば、所定の時間間隔叉は周期で電場が変化する)ような電界が生ずるように制御する。つまり、電極3a,3bは、交番電極として機能し、両者の最大電位差に応当する最大強度を有し、且つ、スパッタターゲットから半導体ウェハWaへ向かう方向と略直交する交番電界が、両電極3a,3b間に生起される。なお、図4(A)及び(B)においては、図示の都合上、時刻t10まで描画したが、このようなパルス状電圧の印加を適宜の時間継続する。
【0032】
ここで、図5は、チャンバ10内にプラズマを形成させながら電極3a,3bに上記のパルス状直流電圧を印加している状態における図2のV−V線断面を摸式的に示す平面図である。上述したように、スパッタターゲット13への直流電圧の印加により、その下方にはプラズマPが形成され、生じたスパッタリング粒子としての活性種が半導体ウェハWaに向かって移動する。この活性種のうちイオン性活性種等の電荷を有するものは、電極3a,3b間に生起された交番電界によって進路が周期的に偏向され、例えば、図示矢印E1として模式的に示す如く、蛇行するように運動方向を変化させながら半導体ウェハWa上に供給される。
【0033】
このように進むイオン性活性種を含むスパッタリング粒子は、バリア層102上に堆積していき、金属膜が成膜される。こうして、金属膜から成るシード層103が形成された半導体ウェハWbを得る(図3(B)参照)。この際、イオン性活性種の一部は、電極3a,3b間に生じる交番電界により、例えば図3(B)に矢印E1で示す方向に凹部Hの内部へ入射する。これにより、凹部の開口部近傍にオーバーハングを生ずることが十分に抑止されるとともに、凹部Hの内側壁が十分に金属膜で覆われる。
【0034】
なお、反応室10a内には、プラズマによるArガスの解離、及び、スパッタターゲット13のスパッタによって電子が生ずるが、この電子は、プラズマの維持に供されると共に、陽極等の正電位に帯電した部位に速やかに到達する。これにより、半導体ウェハWaがチャージアップするといった不都合が防止される。
【0035】
また、このシード層103を形成する工程における好適な成膜条件としては、例えば以下の条件が挙げられる。
〈シード層103の形成工程における成膜条件〉
・チャンバ内圧力:バリア層102上に堆積させる金属叉は金属を含む物質の種類等によって異なるものの、好ましくは数mTorr以下
・成膜温度:−50〜500℃
・プロセスガス:Ar、流量0〜300ml/分(sccm)
・スパッタターゲット13への印加電圧:−100〜−1000V
・シード層厚:20〜5000Å
・電極3a,3b間に生じる電界の最大強度:1〜10kV/m
【0036】
ここで、この電界の最大強度が、1kV/m未満であると、他の成膜条件、チャンバ10の形状等によって程度は異なるものの、イオン性活性種の進路が十分に偏向されない傾向にある。こうなると、金属イオン種等を凹部H内の特に内側壁に向けて入射させ難くなり、凹部Hをシード層103で十分に被覆することが困難となる。一方、電界の最大強度が10kV/mを超えると、イオン性活性種の進路が過度に偏向されてしまう傾向にある。こうなると、凹部Hへのイオン性活性種の凹部Hの深さ方向(一般に鉛直方向)からのずれが過大となってしまい、凹部Hの底部近傍の内側壁上にイオン性活性種が到達し難くなる。こうなると、場合によっては、オーバーハングが生じ易くなるおそれがある。
【0037】
次に、電源制御部4からの電極3a,3bへのパルス状直流電圧の印加を停止し、シード層103が形成された半導体ウェハWbへ更にターゲット金属をスパッタする。半導体ウェハWbに達した金属の活性種は、シード層103上に堆積するとともに、シード層103が同種の金属膜であるため濡れ性が高められ、凹部Hの開口部叉はその周辺部に堆積した金属がその内部に移動し易くなる。こうして、凹部Hが、金属で十分に埋め込まれて成る金属配線層104が形成された半導体ウェハWcを得る。
【0038】
ここで、金属配線層104を形成する工程における好適な成膜条件としては、例えば以下の条件が挙げられる。
〈金属配線層104の形成工程における成膜条件〉
・チャンバ内圧力:好ましくは数mTorr以下
・成膜温度:0〜700℃
・プロセスガス:Ar、流量0〜300ml/分(sccm)
・スパッタターゲット13への印加電圧:−100〜−1000V
【0039】
このように構成された気相堆積装置1及びそれを用いた本発明の気相堆積方法によれば、電極3a,3b間に電圧値の異なるパルス状の直流電圧を印加し、それらの極性及び電圧値を周期的に変化させることにより、スパッタターゲット13と半導体ウェハWaとの間で、且つ、電極3a,3b間に交番電界を生ぜしめる。これにより、スパッタターゲット13からスパッタされた金属のイオン性活性種等のスパッタリング粒子の進路を周期的に偏向させることができ、半導体ウェハWaに設けられた凹部Hの内部へイオン性活性種等が十分に到達する。
【0040】
よって、凹部Hの内部を金属膜から成るシード層103で十分に覆うことができるので、凹部Hのアスペクト比が高い場合でも、金属配線層104を形成する際に、オーバーハングの発生を十分に抑止でき、凹部Hのカバレッジ及び埋め込み性を十分に改善できる。しかも、CVD法等の他の方法等を組合わせる必要がないので、工程数の増大や工程の複雑化を防止できる。また、電界を交番電界とするので、イオン性活性種を、一方向に偏ることなく、言わば蛇行するように進ませることができる。よって、活性種の全体としての直進性を維持でき、半導体ウェハWa上へ活性種を十分に供給できる。
【0041】
さらに、電極3a,3b間の電界の最大強度を1〜10kV/mとするので、金属イオン種等の進路を凹部H内の特に内側壁に向けて確実に入射させ易くなり、オーバーハングの発生を一層抑制し、カバレッジ及び埋め込み性を更に向上できる。またさらに、電極3a,3bに印加する電圧の電位差、パルス幅、交番周期(図3に示す時刻t0〜t10の各時刻の間隔)等を調節するだけで、イオン性活性種の偏向度合を調整し得るので、凹部Hの形状及びアスペクト比、シード層103の成膜条件、チャンバ10の形状等の諸条件に応じて、凹部Hのカバレッジや埋め込み性を極めて平易に最適化することできる。
【0042】
またさらに、電極3a,3bに対して、パルス状の直流電圧を印加するので、電極3a,3b間に形成される交番電界の電場方向を瞬時に叉は俊敏に切り替えることができる。その結果、イオン性活性種の運動方向や運動量の制御を一層実施し易くなる。したがって、イオン性活性種の偏向度を所望の程度に調整することが平易となるので、半導体ウェハWa上の凹部への入射方向をより確実に制御でき、これにより、凹部Hのカバレッジ及び埋め込み性を更に一層改善できる。
【0043】
次に、図6は、本発明による気相堆積装置の他の実施形態の要部を示す平面図(一部断面図)である。本実施形態の気相堆積装置は、電極対3の代りに、4つの電極7a〜7dから構成される電極部7を有すること以外は、図1に示す気相堆積装置1と同様に構成されたものである。これらの各電極7a〜7dは、平板状を成しており、半導体ウェハWの周囲上方に環状に配置されている。すなわち、図示の如く、電極7a,7cが対向し、且つ、電極7b,7dが対向するように設けられている。また、各電極7a〜7dは、図1に示す電源制御部4にそれぞれ接続されている。
【0044】
このような電極部7を備える気相堆積装置を用いた本発明の気相堆積方法の一例について説明する。この場合にも、図3に示す半導体ウェハWaを用い、バリア層102上にシード層103を形成し、その上に金属配線層104を形成させる手順は前述したのと同様であり、シード層103を成膜する際の電極部7への電圧印加方法が前出の方法と異なる。図7(A)〜(D)は、電源制御部4からそれぞれ電極7a〜7dへ出力される電圧の状態を示すタイミングチャートである。
【0045】
図示の如く、電源制御部4からの出力電圧は、パルス状の直流電圧であり、略矩形のパルス波形を有するものである。まず、電源制御部4から、時刻t0において、電極7aに、所定の大きさの正電圧(第1の電圧)を印加し、他の電極7b〜7dに所定の負電圧(第2の電圧)を印加する。次いで、時刻t1において、電極7bに正電圧(第1の電圧)を、他の電極7a,7c,7dに負電圧(第2の電圧)を印加する。さらに、時刻t2以降、同様にして正電圧及び負電圧の印加を切り換え、言わば、正電位が時間の経過と共に半導体ウェハW,Waに対して周回するように制御する。
【0046】
これにより、半導体ウェハWaの上方には、スパッタターゲット13から半導体ウェハWaへ向かう方向と略直交し且つ一定周期で電場の方向が回転変化するような電界が生じる。ここで、図8は、電極部7の内方に生じたこのような電界中をイオン性活性種が進む状態を模式的に示す斜視図である。図示の如く、スパッタターゲット13(図1参照)から放出されたスパッタリング粒子としての活性種のうち電荷を有するイオン性活性種等は、その進路が略螺旋状となるように運動方向が変化する。よって、半導体ウェハWaに設けられた凹部H(図3参照)が、四方を内側壁で囲まれているような場合でも、各内側壁上にイオン性活性種を十分に到達させて堆積させ易くなる。したがって、このような凹部Hのアルペクト比が高いときにも、金属配線層104による凹部Hのカバレッジ及び埋め込み性を格段に向上できる。
【0047】
また、図6に示す本形態においても、電極部7の内方に生ずる電界の最大強度を1〜10kV/mとすれば、イオン性活性種の進路を凹部Hの内側壁に向けて確実に入射させ易くなり、凹部Hの開口部叉はその周辺部におけるオーバーハングの発生を一層抑制でき、凹部Hのカバレッジ及び埋め込み性を更に向上できる。さらに、電極7a〜7dへ印加する電圧がパルス状の直流電圧であるので、電場方向の切り替わえを円滑且つ鋭敏に行うことができる。よって、電場方向の回転を好適に実施でき、イオン性活性種の螺旋状運動を確実に発現させることが可能となる。
【0048】
さらに、電場方向の回転周期は、電極7a〜7dに印加する電圧の電位差、正電圧及び/叉は負電圧のパルス幅、正電圧間の時間間隔(例えば、図7に示す時刻t0とt4との時間幅)を調節することにより、簡易に制御可能である。よって、イオン性活性種の偏向の度合を平易に調整し得るので、凹部Hの形状及びアスペクト比、シード層103の成膜条件、チャンバ10の形状等の諸条件に応じて、凹部Hのカバレッジや埋め込み性を最適化することが極めて容易となる。
【0049】
なお、上述した各実施形態において、チャンバ10内の反応室10a内にコヒーレントプレート(Coherent Plate)を配置してもよい。また、電極対3及び電極部7への電圧印加は、シード層103の成膜中の全期間(時間)において必ずしも実施する必要はなく、その期間の一部で実施してもよく、少なくともその初期に行うと好ましい。さらに、電極対3及び電極部7をそれぞれ構成する各電極3a,3b,7a〜7dに印加する直流電圧はパルス状でなくてもよく、或いは、矩形波ではないパルス波形を有するものでもよく、更には交流電圧でも構わない。
【0050】
またさらに、電極7a〜7dへの電圧の印加は、図7に示すように電界が回転するような制御に限定されず、例えば、電極7a,7bに正電圧を印加し、この時に電極7c,7dに負電圧を印加し、これらを交互に切り換えてもよい。この場合には、交番電界が生起される。また、4つの電極のうち、対向する2つの電極を用いて交番電極としても構わない。
【0051】
さらに、まず、電極7aに第1の電圧を印加すると共に対向する電極7cに第2の電圧を印加し、次に、電極7a,7cへの電圧印加を止め、且つ、電極7aに隣接する電極7bに第1の電圧を印可すると共に対向する電極7dに第2の電圧を印加する。次いで、電極7b,7dへの電圧印加を止め、且つ、電極7bに隣接する電極7cに第1の電圧を印加すると共に対向する電極7aに第2の電圧を印加する。それから、電極7c,7aへの電圧印加を止め、且つ、電極7cに隣接する電極7dに第1の電圧を印加すると共に対向する電極7bに第2の電圧を印加する。このような操作を順次切り換えてもよい。これによっても、電場の方向が回転する電界が生成される。
【0052】
加えて、シード層103の形成時のみならず、金属配線層104の形成時に電極対3叉は電極部7に電圧を印加してもよい。また、電極3a,3b,7a〜7dに印加する電圧の極性は必ずしも変える必要はなく、電極間に電界が有意に生じ得る電位差が達成されればよい。例えば、図4及び図7に示すパルス状電圧の最低電圧(ベース電圧)を0(ゼロ)としてもよい。
【0053】
さらにまた、電極数、配置状態は、図示のものに限定されない。図9は、本発明における更に他の電極配置を例示する平面図(一部断面図)である。同図において、電極部8は、半導体ウェハW,Waの周囲上方に、環状に配置された板状の8つの電極8a〜8hから構成される。このような電極部8を用いれば、電場方向の回転をより円滑にできるとともに、回転周期の更なる微調整が可能となる。よって、電界中を進行するイオン性活性種の偏向を一層的確に制御し得る。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の気相堆積装置及び方法によれば、半導体ウェハ等の基体の保持部とスパッタターゲット等の金属を含むターゲットとの間に設けられた複数の電極に電圧を印加して電界を形成させることにより、スパッタリング粒子としての活性種の進路を所望に偏向させることができる。よって、基体上に設けられた高アスペクト比を有する凹部に金属を堆積させる際に、工程数の増大や工程の複雑化を招くことなく、その凹部のカバレッジ及び埋め込み性を十分に改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による気相堆積装置の好適な一実施形態を模式的に示す構成図(一部断面図)である。
【図2】図1におけるII−II線断面を示す断面図(一部省略)である。
【図3】図3(A)〜(C)は、本発明による気相堆積方法の好適な一実施形態によって半導体ウェハ上に金属配線層を形成している状態を示す工程図である。
【図4】図4(A)及び(B)は、電源制御部から電極へ出力される電圧の状態を示すタイミングチャートである。
【図5】チャンバ内にプラズマを形成させながら電極にパルス状の直流電圧を印加している状態における図2のV−V線断面を摸式的に示す平面図である。
【図6】本発明による気相堆積装置の他の実施形態の要部を示す平面図(一部断面図)である。
【図7】図7(A)〜(D)は、電源制御部から電極へ出力される電圧の状態を示すタイミングチャートである。
【図8】電極部の内方に生じた電界中をイオン性活性種が進む状態を模式的に示す斜視図である。
【図9】本発明における更に他の電極配置を例示する平面図(一部断面図)である。
【符号の説明】
1…気相堆積装置、3…電極対、4…電源制御部、3a,3b,7a〜7d,8a〜8h…電極、7,8…電極部、10…チャンバ、13…スパッタターゲット(ターゲット)、15…サセプタ(保持部)、100…基層、102…バリア層、103…シード層、104…金属配線層、H…凹部、W,Wa…半導体ウェハ(基体)。
Claims (4)
- 基体が収容されるチャンバと、
該チャンバ内に設けられ該基体を保持する保持部と、
該チャンバ内に該保持部に対向して設けられ且つ金属を含むターゲットと、
を備えており、該基体上に前記金属叉は前記金属を含む物質を物理的気相堆積法によって堆積させる気相堆積装置であって、
前記チャンバ内における前記保持部と前記ターゲットとの間の空間において前記基体の周囲上方に環状に配置された4つ以上の複数の電極と、
前記複数の電極に接続された制御部であって、第1の電圧が印加される電極を、前記複数の電極のうち第1の電圧が印加されている電極から隣接する電極へと、時間の経過と共に切り替えるよう選択し、選択した該電極に前記第1の電圧が印加され、該複数の電極のうち選択した該電極に対向する電極に前記第1の電圧と異なる第2の電圧が印加されるよう、該複数の電極に印加される電圧を制御する、該制御部と、
を備えることを特徴とする気相堆積装置。 - 前記複数の電極は、該複数の電極間に最大強度が1〜10kV/mの範囲内の値となる電界が形成されるように設けられたものである、ことを特徴とする請求項1に記載の気相堆積装置。
- 前記複数の電極は、パルス状の直流電圧が印加されるものである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の気相堆積装置。
- 基体上に、金属を含むターゲットから該金属叉は該金属を含む物質の活性種を供給して該金属叉は該金属を含む物質を堆積せしめる気相堆積方法であって、
前記活性種を前記基体上へ供給する際に、前記基体と前記ターゲットとの間の空間において前記基体の周囲上方に環状に配置された4つ以上の複数の電極に印加する電圧を制御することを含み、
第1の電圧が印加される電極を、前記複数の電極のうち第1の電圧が印加されている電極から隣接する電極へと、時間の経過と共に切り替えるよう選択し、選択した該電極に前記第1の電圧が印加され、該複数の電極のうち選択した該電極に対向する電極に前記第1の電圧と異なる第2の電圧が印加されるよう、前記複数の電極に印加する電圧を制御する、
ことを特徴とする気相堆積方法。
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