JP4496701B2 - 刃物の加工方法及びその加工装置及び電気かみそり用内刃 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、刃物の加工方法及びその加工装置及び電気かみそり用内刃に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、刃物の刃先加工において、刃先エッジ出し(刃付け)は一般的に研削加工によって行われているが、刃物の被加工面の研削加工を行なう際には、切込量に対応して塑性変形を伴う。このため刃先を鋭利化する場合においてはバリ(カエリ)などの加工変質層が生じやすくなるという問題があった。また加工時には加工工具に対する切削抵抗が増加するので加工時の消費電力の増加、加工工具の寿命の短縮をきたすうえに、後工程でのバリ取り作業が必要となる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来例の問題点に鑑みて発明したものであって、その目的とするところは、刃先のバリを抑制でき、バリ取り作業を省略できると共に製造コストの削減、加工工具寿命の延長及び加工品質の向上を図ることができる刃物の加工方法を提供することにあり、別の目的とするところは、バッチ的に大量生産が可能となり、しかも研削時にバリ発生が抑制でき、後のバリ取り工程を削減することが可能な刃物の加工装置を提供することにあり、別の目的とするところは、刃先にバリがなく、高品質でしかも低コストな電気かみそり用内刃を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係る刃物の加工方法は、刃物1の刃先加工において、少なくとも刃物1の被加工面1aを水素雰囲気H下で脆化処理して研削加工を行なうことを特徴としており、このように構成することで、刃物1を水素雰囲気Hにすることで大気雰囲気で延性であった性質が徐々に低下する、いわば水素脆化の性質を利用して加工を行なうことができる。刃物1を脆化させることにより、加工時の塑性変形などの加工変質層を極力小さくでき、塑性変形による刃先1bのバリの発生を抑制でき、バリ取り作業が不要となると共に、加工工具2の寿命を延長できる。
【0005】
また刃物1の片側を被加工面1aとし、背面側に断面凸状のリブ3を設けるのが好ましく、この場合、安全剃刀のように両面研削しなくても、片側研削だけで刃先1bを鋭利化することが可能となる。
【0006】
また刃物1をリアルタイムに脆化処理させて研削加工を行なうのが好ましく、この場合、リアルタイムに刃物1に脆化雰囲気をつくり、加工中は常に雰囲気状態が維持されるので、加工に伴う雰囲気変動が抑制され、加工品質が向上する。
【0007】
また刃物1が体心立方晶系材料からなるのが好ましく、この場合、加工工具2の寿命延長の効果が一層高まる。
【0008】
また刃物1がマルテンサイト系ステンレス鋼からなるのが好ましく、この場合、マルテンサイト系ステンレス鋼は、サビ、腐食に対する耐久性が高いため、刃物1の材質として好都合であると共に、磁性を有するため磁気吸引による固定が可能となる。
【0009】
また加工時に治具5にて刃物1を背面側から支持して研削加工を行なうのが好ましく、この場合、鋭利な形状の刃先1bを背面側から支持することで、加工工具2の加圧力によって弾性変形したり、割れや欠けを生じたりするのを防止できると共に、バリの成長も防止できる。
【0010】
また上記刃物1の被加工面1aを治具上面5bよりも上方に段差状に突出させて、治具上面5bが仕上面となるように研削加工を行なうのが好ましく、この場合、治具5上方に突出している被加工面1aは治具5との段差による切欠き効果による応力集中によって脆性破壊して一度に除去加工が可能となると共に、治具5で支持されている刃物1部分は破壊の影響を受けずに不要な部分だけが除去できる。
【0011】
また本発明に係る刃物の加工装置は、少なくとも刃物1の被加工面1aを脆化させる手段と、刃物1周辺を水素雰囲気にするための空間9と、脆化された刃物1を研削するための加工工具2とを備え、少なくとも刃物1の被加工面1aを脆化させて研削加工を行なうことが可能となっていることを特徴としており、このように構成することで、リアルタイムに脆化雰囲気にしながら研削加工を行なうことが可能となる。また空間9内に刃物1を複数個格納することでバッチ的に大量生産が可能となり、さらに刃物1の被加工面1aを脆化させて研削加工を行なうことで、研削時にバリ発生が抑制でき、後のバリ取り工程を削減することが可能となる。
【0012】
また本発明に係る電気かみそり用内刃は、上記刃物1が、刃穴を有する外刃11の内面を摺接する内刃12であって、少なくとも外刃11との摺接部である内刃縁12bを水素雰囲気下で脆化させて研削加工が施されていることを特徴としており、このように構成することで、研削時に刃先1bにバリの発生がなく、刃先1bの鋭利度が向上してひげの剃り味が良好となる高品質な内刃12が得られると共に、これまで必要としていたバリ除去工程が不要となり、低コスト化を図ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0014】
図1は、事前(又は同時)に脆化された刃物1(被加工物)の被加工面1aを研削工程する場合の一例を示しており、図2、図3は刃物1の一例として往復動電気かみそり用の内刃12を示している。図2、図3において、内刃12の構造は外刃に倣うように半円状の概略形状をした複数個の内刃片12aを整列させて往復駆動源と連通したべース部13に取り付けられている。内刃片12aは図2に示す半円板タイプと図3に示す薄肉円環タイプとに大別される。いずれの場合も内刃片12aの断面は図4に示すように、片側に平坦な内刃縁12b、片側角部に鋭角となる刃先1bを有し、背面側に断面凸状のリブ3を突設させた複雑な断面形状となっている。ここで、背面側にリブ3を設ける理由は、ヒゲ剃り時の音を共鳴増幅させて剃り味感を出させる官能的な効果がある。なお一般に、ナイフ、包丁、安全かみそりなどの平滑な板状刃物では両面を研削することでバリを抑制しながら刃先のエッジ出しを行なう手法が多いが、図4に示すような刃先形状においては、くさび形状のすくい面14側に砥石2aなどの加工工具2を用いることが困難で片側のみの研削により刃付けを行なうこととなる。この場合、加工時、刃物1の被加工面1a付近には負荷に応じた塑性変形を伴い、バリが発生してしまう。
【0015】
ここで、金属材料の刃先加工において、刃先1bのエッジ出し(刃付け)は一般的に研削加工によって行われる。一般的に、切削、研削、砥粒などの圧力切込加工においては文字どおり砥石2aを刃物1に強制的に負荷させて除去加工を行なうものである。従って、加工時、刃物1の被加工面1a付近には負荷に応じた塑性変形を伴う。例えば、文献(谷口紀男:ナノテクノロジーの基礎と応用、工業調査会、1988年)によれば材料表面に与えた圧痕aに対する塑性変形の広がりcの比(c/a)は、弾塑性論によって材料の硬度Hvに対する弾性係数Eの比(E/Hv)と相関関係がある。(c/a)は砥石2aの刃物1に対する切込み量と加工時の塑性変形量の関係と置き換えれば、加工に伴う塑性変形の挙動が説明できる。刃物加工の場合、刃先1bで塑性変形が生じれば、そのままバリ(カエリ)となって研削後の仕上品質が悪く、後工程でバリ除去が必要となる。
【0016】
本発明によれば、少なくとも刃物1の被加工面1aを研削工程の事前又は同時に脆化させるものである。刃物1を脆化させることで加工時の塑性変形などの加工変質層を極力小さくし、バリの発生を抑制させることができる。材料脆化の手段としては後述する低温脆化、水素脆化、焼入脆化、窒化脆化、粒子噴射脆化、脆性を有する膜付与などが挙げられる。これらはいずれの手段においても塑性変形による刃先1bのバリの発生を抑制することを狙ったものである。また被加工面1aにおいて塑性変形を抑制することは塑性変形に費やされるエネルギーが低減できることであり、砥石2aに対する切削抵抗が減少するので加工時の消費電力の低減、砥石2aの寿命の延長が図れると共に、後工程でのバリ取り作業が不要となる。
【0017】
また、図4に示す例では、刃物1の背面側に断面凸状のリブ3を突設させ、刃物1の被加工面1aを研削工程の事前又は同時に脆化させた上で被加工面1aのみを平面状に研削加工しており、これにより、片側研削だけで被加工面1aの角部に鋭角となる刃先1bを形成することができる。しかも、刃断面形状が背面側に凸状のリブ3を有する複雑形状の場合(平滑な板状刃物でない場合)は、上記のように加工時に刃物1の被加工面1aを脆化させることで加工時の塑性変形などの加工変質層を極力小さくし、バリの発生を抑制させることができる効果に加えて、安全剃刀のように両面研削しなくても片側研削で刃先1bの鋭利化が可能となる。
【0018】
以下、本発明の他例を説明する。先ず、図5〜図7は、被加工面1aをリアルタイムに脆化処理させて研削加工を行なう場合の一例を示している。図5は本実施形態のフローチャートを示しており、砥石2aの始点・終点の設定及び脆化雰囲気目標の設定後に、砥石2aを開始点に移動させ、脆化雰囲気を保ちながら研削加工を施す。これにより、常に刃物1周辺が脆化雰囲気となるようにリアルタイムに検知しながら、所望量の脆化処理を行ない、同時に研削加工を行なうことができる。なお、雰囲気とは例えば低温脆化であれば温度を対象とし、冷媒で刃物1の脆化温度域まで冷却し、その温度で研削加工を行なう。なお後述する水素脆化であれば水素濃度などを対象とする。またリアルタイムに脆化処理と研削加工を行なうためには、図6に示すように、被加工面1aに向かってノズル15から脆化雰囲気となる冷却媒体6aを噴射したり、図7に示すように、密閉容器やチャンバー内に刃物1と砥石2aを格納してチャンバーごと脆化雰囲気となる冷却媒体6aを封入させる方法も考えられる。これにより、リアルタイムに被加工面1a周辺に脆化雰囲気をつくることができ、加工中は常に雰囲気状態が維持されるので、加工に伴う雰囲気変動が抑制され、加工品質が向上するものである。
【0019】
図8、図9は、被加工面1aを事前に脆化処理させて研削加工を行なう場合の一例を示している。図8は脆化処理工程と研削工程に時間差を設ける場合のフローチャートを示している。本方法では、図9(a)に示すように、被加工面1aに向かってノズル15から脆化雰囲気となる冷却媒体6aを噴射して脆化処理を行なった後に、図9(b)に示すように、砥石2aによる研削加工を施す。なお、刃物1が脆性を維持できる手段として、後述の焼入れ、窒化、異種材料付加などの材料改質的な手段等であってもよい。本方法によれば脆化処理、研削加工が別々に行なうことが可能であるため従来の装置が利用できると共に、脆化処理、研削加工が別々に行なうことが可能となるので、装置の簡素化、製造コストの低減を図ることができる。
【0020】
図10は、材料脆化の参考例1として低温脆化を示している。本参考例1では、少なくとも刃物1の被加工面1aを低温雰囲気Rにして脆化させて研削加工を行なう方法である。一般に常温で金属材料を研削加工した場合、切込量に対応して塑性変形を伴う。従って刃先1bを鋭利化する場合においてはバリなどの加工変質層が生じやすくなる。そこで、図10に示すように、被加工面1aを低温雰囲気Rにすることで、常温で延性であった性質が徐々に低下する性質を利用して加工を行なうものである。なお衝撃試験における脆性破壊面の割合及び破壊に至るエネルギーと温度の関係で温度低下と共に脆性の割合は増加しエネルギーは減少する。これは温度が低下することで衝撃時の吸収エネルギーが低下し塑性変形に費やされなくなって脆性破壊に至る。本方法によれば塑性変形低減に伴う刃先1bのバリの発生が抑制できると共に、加工時のエネルギーも低減できるので切削抵抗が減少し、砥石2aの寿命も延長することができる。さらに、低温であるため従来のような熱変形、焼き付きなどの熱影響が極力抑制できるものである。
【0021】
図11、図12は、刃物1を低温雰囲気Rに冷却して研削加工を行なう参考例2を示している。本参考例2では刃物1自身を冷却することで被加工面1aを脆化状態とするものである。刃物1自身を冷却する方法としては、図11(a)→(b)に示すように、事前に刃物1を低温雰囲気Rで冷却する工程を経て研削する方法や、図12に示すように、研削加工と同時に刃物1を低温状態R’にある治具5からの熱伝導により冷却する方法などが考えられる。本方法によれば、刃物1自身の冷却であるため、脆化する上で信頼性が一層高められる。
【0022】
図13は、刃物1を冷凍して研削加工を行なう場合の参考例3を示している。本参考例3は被加土物を冷凍にする方法としては実用的には事前に刃物1を氷点下に冷凍する工程を経て研削加工を行なう方法が考えられる。特に、刃物1を水中で冷凍すれば、刃物1の周囲を氷4で形成する構成となり、低温脆化作用だけでなく、周囲の氷が治具5の役割を果たし、これにより研削時の刃先1bのバリ発生に対する抵抗となることが期待できる。
【0023】
また図14は、常温での刃物の寸法を予測して、低温雰囲気R下での加工量を常温時での加工量よりも多く設定する場合の参考例4を示している。本参考例4では低温雰囲気R下での加工量を常温での寸法を予測して予め多めに設定するものである。つまり加工時の温度と常温との温度差から生じる熱収縮に伴う寸法誤差を予め予測して、冷凍時はその予測量だけ余分に加工すればよい。一般に材料の線膨張係数α、温度差△T、対象物体の基準寸法L、温度変化に伴う寸法変化△Lとすれば、△L/L=α・△T(熱ひずみに相当)の関係が成立する。複雑な形状に対しては相似的に熱変形しないが、傾向としては上式から変形の挙動が定性的に予測できるとして、温度差△Tに対する寸法変化△Lは、△L=α・L・△Tで表され、加工予測量として設定する。本方法によれば、常温時の寸法に合わせて加工を行なうようになるので、熱膨張、収縮に伴う寸法誤差を極力低減できるものである。
【0024】
図15は、刃物1の砥石2aに接する被加工面1aを低温雰囲気に冷却して研削加工を行なう場合の参考例5を示している。本参考例5は、刃物1の砥石2aに接する被加工面1aを冷却して低温雰囲気とすることで被加工面1aを脆化状態として研削加工を行なうものであり、被加工面1aを冷却する方法としては、図15に示すように、研削加工の事前又は同時に冷却媒体6aを被加工面1aに対してノズル15からの冷却媒体6aで局部的に強制噴射する方法などが考えられる。本方法によれば冷却媒体6aを局部的に供給するので装置としては簡素化しやすくなる。その一方で、局部的に冷却する場合、周囲との熱容量の関係で低温化に時間がかかったり温度変化が起きやすくなるため、冷却は研削加工の事前から長時間連続に行っておく必要がある。
【0025】
図16、図17は、砥石2aを低温雰囲気に冷却して研削加工を行なう場合の参考例6、7を示している。本参考例6、7は砥石2aを冷却して低温雰囲気とすることで砥石2aと接する刃物1の被加工面1aの温度を上昇させずに研削加工を行なうものである。砥石2aを冷却する方法としては、例えば図16(参考例6)に示すように、砥石2a表面に冷却媒体6aをノズル15で強制噴射する方法があり、この場合、装置としては簡素化しやすい。また別の方法としては図17(参考例7)に示すように、砥石2a中央の回転軸20周辺に冷却媒体を封入して冷却し、砥石2a表面に向けて矢印ニ、ホで示す方向に温度低下を図る方法などが考えられる。図16に示す砥石2a表面の冷却方法或いは図17に示す砥石2a内部からの冷却伝達方法によれば、砥石2aの温度上昇がまず抑えられるので、砥石2aの破損を避けることができる。
【0026】
図18は、刃物1及び砥石2a全体を低温雰囲気Rに冷却して研削加工を行なう場合の参考例8を示している。本参考例8は刃物1、砥石2a及び刃物1と砥石2aが接する被加工面雰囲気で構成される領域全体を冷却して低温雰囲気Rとすることで研削加工を行なうものである。冷却する方法としては、チャンバーなどの密閉された空間9内部に刃物1及び砥石2aを格納した上で空間9内を同一の低温雰囲気Rに冷却する方法が考えられる。これらの方法によれば、刃物1、砥石2a及び被加工面雰囲気が同一の低温に制御維持しやすく、温度変化も起きにくい。従って加工温度を厳密に制御する必要がある場合は本方法が最も有力な手段と思われる。他の方法として、例えば前記図10、図11で示した刃物1を冷却する手段と、前記図15で示した被加工面雰囲気を冷却する手段と、前記図16、図17で示した砥石2aを冷却する手段とを組み合わせた方法であってもよい。
【0027】
図19、図20は、冷却媒体に気体6を用いる場合の参考例9、10を示している。本参考例9、10は刃物1、被加工面雰囲気、砥石2a又は構成要素全体に対して低温雰囲気に冷却させるための気体6を利用する。例えば、冷却空気、窒素などの不活性ガスが適用される。供給は被加工面雰囲気や砥石2aの冷却であれば、例えば図19(参考例9)に示すように、ノズル15を用いて冷却ガスを狙いに対して噴射する方法が考えられる。また図20(参考例10)に示すように、構成要素全体の冷却であればチャンバーなどの密閉された空間9内に冷却ガスを封入する方法が考えられる。これらの方法によれば、取り扱い、供給が容易であると共に不活性ガスなどは加工時に発生しやすい酸化に伴う加工変質層を抑制する効果がある。
【0028】
図21、図22は、冷却媒体に液体7を用いる場合の参考例11、12を示している。本参考例11、12は刃物1、被加工面雰囲気、砥石2a又は構成要素全体に対して、低温雰囲気に冷却させるための液体7を利用する。例えば、液体窒素、液化炭酸ガスが適用される。供給は図21(参考例11)に示すノズル15を用いて液体7を狙いに対して噴射する方法が考えられる。また図22(参考例12)に示す冷却源21から密閉された空間9に液体7を封入して構成要素全体を冷却する方法が考えられる。また砥石2aや刃物1の冷却であれば治具5内部に配管を連通して液体7を流すことで治具5を冷却する方法も考えられる。これらの方法によれば、液体7を扱うので、密閉容器、配管などの供給、漏れ止めに対する装置が大掛かりになるが、冷却効率という点においては気体6と比べてはるかに冷却効率が高く、加工品質向上を図ることが可能である。
【0029】
図23は、気体或いは液体等の冷却媒体6aを循環させて繰返し利用する場合の参考例13を示している。本参考例13は刃物1、被加工面雰囲気、砥石2a又は構成要素全体に対して低温雰囲気に冷却させる冷却媒体6aを循環させて繰返し利用する。冷却媒体6aは気体でも液体でもよい。ちなみにノズルなどを用いて冷却媒体6aを噴射する場合などの方法では、後方にダクトを設けて回収循環する方法が考えられる。また構成要素全体の冷却であれば、図23に示すように、チャンバーなどの密閉された空間9に冷却媒体6aの供給口23と排出口24とを設け、冷却源21からの冷却媒体6aを循環経路25内に循環する方法が考えられる。また砥石2a或いは刃物1の冷却であれば砥石2a内部或いは刃物1の治具5内部に配管を連通して冷却媒体6aを流しながら排出口から封入口へ循環するようにすればよい。これらの方法によれば、冷却媒体6aを無駄なく循環再利用できるので経済的である。またチャンバーや配管による循環方式であれば、冷却媒体6aが外部に漏れることがなく環境上問題が起きにくいものである。
【0030】
次に、刃物1の被加工面1aを低温雰囲気下で脆化処理する方法の参考例として、刃物1の材質を体心立方晶(bcc)系材料として低温雰囲気に冷却して研削加工を行なうようにしてもよい。本参考例では、刃物1の材質を体心立方晶系の材料を用いて刃物1を低温雰囲気にして脆化させて研削加工を行なう方法である。前記図10で示したように刃物1の被加工面1aを低温雰囲気にすることで常温で延性であった性質が徐々に低下してバリなどの加工変質層を抑制することを述べたが、さらに材質を体心立方晶の結晶構造を持つものとすることで、常温で延性であった性質がある温度を境に脆性に変化する、つまり低温脆化の効果によりバリの発生を抑制することができる。例えば、軟鋼(SM41B鋼)の衝撃試験における脆性破壊面の割合と温度の関係で+10℃から−20℃の範囲を境に急激に脆性の割合が増加する。この急激な変化は体心立方晶に特有の特徴であり、材質により異なる固有値(延性脆性遷移温度)を持っている。従って上記温度以下により温度制御することで脆性状態での加工が可能である。本方法によれば低温の効果に脆化しやすい材料の効果が重複されて、図10の参考例での効果がより大きくなり、バリ抑制、熱影響レスなどの高品位加工、砥石2aの寿命延長が期待できる。
【0031】
更に他例として、刃物1の材質にマルテンサイト系ステンレス鋼を用いて低温雰囲気下で脆化処理して研削加工を行なうようにしてもよい。本参考例は前記刃物1の材質を体心立方晶(bcc)系材料として低温雰囲気に冷却して研削加工を行なう場合の中で、刃物1の材質にマルテンサイト系ステンレス鋼を用いて刃物1を低温雰囲気にして脆化させて研削加工を行なう方法である。マルテンサイト系ステンレス鋼は体心立方晶であり、前記参考例で示した効果が得られるだけでなく、ステンレス鋼の本来の特徴であるサビ、腐食に対する耐久性が高いため、刃物1などの製品には好都合な材料である。さらにマルテンサイト系は磁性を有するため磁気吸引による固定が可能であり、加工時の固定にも好都合である。マルテンサイト系ステンレス鋼の主な化学成分Wt%を表1に示す。本方法に用いるマルテンサイト系ステンレス鋼は、サビ、腐食に対する耐久性が高いため刃物1などの製品には好都合な材料であり、また磁性を有するため磁気吸引による固定が可能であり加工時の固定にも好都合である。
【0032】
【表1】
【0033】
次に、刃物1の被加工面1aを研削加工の事前に又は同時に脆化処理して研削加工を行なう場合において、図24に示すように、加工時に治具5にて刃物1を背面側から支持して研削加工を行なうようにしてもよい。刃物1など刃物1を加工する場合、刃先1bは鋭利な形状であるために砥石2aの加圧力によって弾性変形したり、割れや欠けを生じたりする。また塑性変形により発生する刃先1bのバリが自由表面側に成長したりする。このような不具合を避けるために、図24に示すように、刃物1を背面から支持できる治具5を設けることで、刃物1の弾性変形、割れ、欠け及びバリの成長などを防止することができる。
【0034】
図25は、加工時に刃先1bを背面側から氷4で支持して研削加工を行なう場合の一例を示している。氷4で支持することで、図24の実施形態で示した効果が得られるだけでなく、刃物1を冷却する効果も得られたり、刃先1b近傍まで氷4で覆うようにして支持して刃物1と同時に氷4も削るような加工をすれば、刃先1bに発生しやすいバリの横方向への成長を抑制することができる。
【0035】
図26は、加工時に刃先1bを背面側からワックス8で支持して研削加工を行なう場合の一例を示している。ワックス8で支持することで、図24の実施形態で示した効果が得られるだけでなく、刃先1b近傍までワックス8で覆うようにして支持して刃物1と同時にワックス8も削るような加工をすれば、刃先1bに発生しやすいバリの横方向への成長を抑制することができる。また、ワックス8は刃物1に対して固定が容易であり、加工終了後も加熱により容易に除去することが可能である。
【0036】
図27は、加工時に刃先1bを背面側から金属治具5aで支持して研削加工を行なう場合の一例を示している。しかして加工時に刃物1を背面側から金属治具5aで支持することで、前記図24の実施形態で示した効果に加えて、加圧力に対する支持剛性が高く、弾性変形や塑性変形に対する変形抑制効果を高くすることができる。
【0037】
図28、図29は、刃物1の被加工面1aを治具上面5bよりも上方に段差状に突出させて、治具上面5bが仕上面となるように研削加工を行なう場合の一例を示している。本実施形態は、図28に示すように、治具上面5bが仕上面となるように加工前に刃物1に対して治具上面5bに段差Dを設けて、刃先1bが自由表面となるようにセッティングしておき、加工時には、砥石2aの切り込みを治具上面5bまで行なう。この場合、図29に示すように、自由表面にある被加工面1aは治具5との段差Dによる切欠き効果による応力集中によって脆性破壊して一度に除去加工が可能となる。またバリ発生を抑制できると共に刃先1bを鋭利化できる。さらに治具5で覆われている刃物1部分は治具5で支持されているために破壊の影響を受けずに不要な部分だけが除去できるものである。
【0038】
図30は、材料脆化の本発明の実施形態として水素脆化を示している。本実施形態は刃物1の被加工面1aを水素雰囲気Hにして脆化させて研削加工を行なう方法である。一般に大気中、常温で金属材料を研削加工した場合、切込量に対応して塑性変形を伴う。従って刃先1bを鋭利化する場合においてはバリなどの加工変質層が生じやすくなる。そこで、図30に示すように、被加工面1aを水素雰囲気Hにすることで大気雰囲気で延性であった性質が徐々に低下するいわば水素脆化の性質を利用して加工を行なうものである。ちなみに、水素を含んだ雰囲気中では被加工面1aにHが侵入してCu2Oやその他の酸化物を還元し、発生した水蒸気によって粒界に割れや空孔が生じるためにもろくなることが知られており、これを水素脆化という。この水素脆化を研削加工される刃物1の被加工面1aに施すことによって、塑性変形低減に伴う刃先1bのバリの発生が抑制できると共に加工時のエネルギーも低減でき、切削抵抗が減少し、砥石2aの寿命も延長するものである。
【0039】
図31は、脆化処理後に研削加工を行なう場合において、材料脆化の参考例14として焼入れにより事前に脆化処理する場合を示している。本参考例14は、図31(a)→(b)→(c)に示すように、少なくとも刃物1の被加工面1aを焼入れにより脆化させて研削加工を行なう方法である。一般に金属材料を研削加工した場合、切込量に対応して塑性変形を伴う。従って刃先1bを鋭利化する場合においてはバリなどの加工変質層が生じやすくなる。そこで、予め被加工面1aを事前に焼入れ処理を施して表面硬化することで延性であった性質が表面層1cによって脆性を有することとなる。方法としては、図31(a)に示す加熱炉Jの中で所定の温度まで加熱(鋼の場合:700℃〜900℃)した上で、所定の冷却速度で常温まで急冷(鋼の場合:約10秒程度以下)する。これにより、図31(b)に示す表面層1cは内部に比べて冷却速度は速く、表面層1cの硬度が最も増して、表面脆化が行われる。本方法によれば、塑性変形低減に伴う刃先1bのバリの発生が抑制できると共に加工時のエネルギーも低減でき、図31(c)に示す加工時に切削抵抗が減少し、砥石2aの寿命も延長するものである。また表面層1cのみ脆化が可能であるため内部の延性を維持でき、加工時にチッピングや欠けといった損傷の広がりを抑制することが可能である。
【0040】
図32は、レーザ焼入れにより事前に脆化処理する場合の参考例15を示している。ちなみに、焼入れは刃物1全体を炉内で加熱後、急冷を行なう方法が一般的であるが、この場合、加熱時或いは冷却時の温度変化や材料組織変態により、変形などの寸法変化を生じやすい。そこで、予め被加工面1a周辺のみレーザ照射装置15aからレーザ照射して局部加熱した後、瞬間冷却を行なう。刃物1の場合は、図32(a)に示すように、刃先1b周辺のみにレーザを照射して加熱後、急冷する(図32(b)の状態)。これにより、脆化を必要とする局部的な部位(脆化域イ)だけの熱処理が可能であり、その後、図32(c)に示す研削加工を施す。しかして図31の参考例の効果に加えて、反りや変形などの寸法変化や熱影響による変質層が極力低減できるものとなる。
【0041】
図33は、材料脆化の参考例16として窒化脆化を行ない、窒化により事前に脆化処理する場合を示している。本実施形態は、少なくとも刃物1の被加工面1aを窒化により脆化させて研削加工を行なう方法である。一般に常温で金属材料を研削加工した場合、切込量に対応して塑性変形を伴う。従って刃先1bを鋭利化する場合においてはバリなどの加工変質層が生じやすくなる。そこで、金属材料を対象にした場合に被加工面1aを予め窒化により刃物1表面を脆化することで研削加工時の加圧力に伴う塑性変形を抑制する。窒化の方法は例えば図33(a)に示すように、対象材料を密閉された空間9に格納後、アンモニアガスを封入して雰囲気温度を上昇(鋼の場合は500℃〜600℃)させて、加圧(7kPa〜10kPa)保持することで、アンモニアNH3は高温で不安定となり、NとHに分解され、窒化雰囲気Nが得られる。鋼の場合、分解されたNがFe或いはAl、Crなどの添加元素と化合して硬くて脆い窒化物を分散形成する。本方法によれば、窒化脆化後に図32(b)に示す窒化層1dの研削加工を施すことにより、塑性変形低減に伴う刃先1bのバリの発生が抑制できると共に研削加工時のエネルギーも低減でき、切削抵抗が減少し、砥石2aの寿命も延長するものである。また表面層のみ脆化が可能であるため内部の延性を維持でき、研削加工時にチッピングや欠けといった損傷の広がりを抑制することが可能である。
【0042】
図34は、材料脆化の参考例17として粒子噴射脆化を行ない、粒子噴射により事前に脆化処理する場合を示している。本参考例17は少なくとも刃物1の被加工面1aに粒子噴射して脆化させて研削加工を行なう方法である。一般に常温で金属材料を研削加工した場合、切込量に対応して塑性変形を伴う。従って刃先1bを鋭利化する場合においてはバリなどの加工変質層が生じやすくなる。そこで、図34(a)に示すように、予め被加工面1aに粒子を噴射して刃物1表面を局部的に変形させて加工硬化と同時に脆化させて研削加工時の加圧力に伴う塑性変形を抑制する。噴射の方法は大きさがμm〜mmオーダーの不定形或いは球状の金属又は非金属(セラミックス、ガラス、樹脂など)の粒子ニを、図34(a)に示すノズル15a等の手段で加速して刃物1表面に投射する。本方法によれば、刃物1の表面層に無数の凹みを生じさせて加工硬化、脆化させると同時に圧縮残留応力を表面層に帯びさせることができる。これにより、脆化を必要とする局部的な部位(脆化域イ)だけの脆化処理が可能であり、その後、図34(c)に示す研削加工を施す。これにより研削加工時、塑性変形低減に伴う刃先1bのバリの発生が抑制できると共に研削加工時のエネルギーも低減でき、切削抵抗が減少し、砥石2aの寿命も延長するものである。また表面層のみ脆化が可能であるため内部の延性を維持でき、研削加工時にチッピングや欠けといった損傷の広がりを抑制することが可能である。さらに表面に圧縮残留応力が存在することで疲労強度が向上し、商品の寿命が延長する。
【0043】
図35、図36は、材料脆化の参考例18、19として脆性を有する膜付与を示している。本参考例18、19では少なくとも刃物1の被加工面1aに異種材料を膜状に付加して脆化させて研削加工を行なう方法を示している。一般に常温で金属材料を研削加工した場合、切込量に対応して塑性変形を伴う。従って刃先1bを鋭利化する場合においてはバリなどの加工変質層が生じやすくなる。そこで、チャンバー等の空間9内において予め被加工面1aに異種材料を膜状に付加して刃物1表面を硬化させると同時に脆化させて、加工時の加圧力に伴う塑性変形を抑制する。異種材料としてはDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)、チタン合金、セラミックスなどが挙げられるが、スパッタ蒸着、或いは図35(参考例18)に示すイオン源50から蒸着物質ホを放出するイオンプレーティングなどの物理的付着加工法によって表面に純度な膜を形成することができる。本方法によれば刃物1の表面層1eが脆性材料で構成されるので、図36(参考例19)に示す加工時、塑性変形低減に伴う刃先1bのバリの発生が抑制できる。さらに、加工時のエネルギーも低減でき、切削抵抗が減少し、砥石2aの寿命も延長するものである。また表面層1eのみ脆化が可能であるため内部の延性を維持でき、加工時にチッピングや欠けといった損傷の広がりを抑制することが可能である。さらに表面に圧縮残留応力が存在することで疲労強度が向上し、商品の寿命が延長する。
【0044】
図37は、前記各加工方法を実施するための加工装置の一例を示している。本実施形態では、刃物1を格納するための密閉された空間9と、刃物1を脆化させる手段と、空間9を脆化雰囲気にして脆化された刃物1を研削するための加工工具2とを備えており、刃物1を脆化させて研削加工を行なうものである。空間9は内部の雰囲気が維持できるような剛体で構成されたいわゆるチャンバーなどの耐圧物体が望ましい。また空間9内に脆化雰囲気を導入するための手段として、例えば図37に示すように、低温脆化雰囲気とする場合は冷却源21と空間9とを配管60で連通して、冷却源21から空間9内に冷却媒体6aが導入できるように配置する。加工工具2は、刃物1を研削するための砥石2a、砥石2aを回転させるための砥石駆動装置(図示せず)、刃物1を固定するためのステージ16、該ステージ16を砥石2aに対して相対的に移動させるためのステージ駆動装置17などから構成されており、これらは空間9内部にすべて格納される。以上のような構成によって、リアルタイムに脆化雰囲気にしながら研削加工を行なうことが可能となる。手順は図38のフローチャートに示す。図39は研削工程の事前に冷却媒体6aにより脆化雰囲気にする場合の一例を示し、図40は後の研削工程を示す。この研削工程は、前記図5のフローチャートと同様の手順で行なう。本方法によれば、密閉された空間9内に刃物1を複数個格納することでバッチ的に大量生産が可能である。また本装置を使用することで研削時にバリ発生が抑制でき、これまで行われていたバリ取り工程を削減することが可能となる。
【0045】
図41〜図44は、前記刃物1の一例として往復型電気かみそりの内刃12を例示している。本例の内刃12は、図44に示すように、刃穴を有する外刃11と、その内面を摺接して矢印ハで示す方向に往復動する内刃12とを備えている。ここでは、少なくとも外刃11との摺接部である内刃縁12bを脆化させ、加工工具2にて研削加工が施された内刃12を示している。内刃12の製造工程は、例えば図41に示すように、ステンレス鋼のような金属板10をプレス加工によって略半円状に打抜いた内刃片12aを空間9内で熱処理後、合成樹脂と共に射出成形によってベース部13と一体化し、次に一体化した内刃12をその断面形状に成形した砥石2aにより研削を行なうことで所望の寸法に仕上げると共に内刃縁12bにエッジを形成する方法がある。別の製造工程としては、図42に示すように、ステンレス鋼のような金属板10をプレス加工によってスリット状に穴を打抜いて複数の桟12cを形成し、これを空間9内で熱処理後、表面を砥石2aにて平面研削により所望の寸法に仕上げると共に内刃縁12bにエッジを形成する。さらに残部を矢印ロで示す方向へ曲げ加工して略半円状(かまぼこ状)に成形した上で合成樹脂と共に射出成形によってベース部13と一体化する方法がある。従来では、いずれの場合も研削時には図43(b)に示すように、刃先1bのエッジ部分にバリ10が生じる。バリ10の存在は刃先1bの鋭利度を鈍らせるため電気かみそりにとってひげの剃り味を損なう原因となる。したがって、これまで研削後に回転ブラシやサンドブラスト、電解研磨、磁気研磨などによってバリ10の除去仕上げ加工を行っているのが実状である。これに対して本発明方法によれば、前述のように加工時に内刃12を事前又はリアルタイムに脆化させた上で研削加工を施すものであるから、図41に示す半円板タイプ、或いは図42に示す薄肉円環タイプのいずれの場合も、刃先断面は図43(a)に示すように、片側に平坦な内刃縁12b、片側角部に鋭角となる刃先1bを有し、背面側に断面凸状のリブ3を突設させた形状とする。これにより、研削時に刃先1bにバリがなく高品質な内刃12が得られると共に、これまで必要としていたバリ除去工程が不要となり、低コストな内刃12を提供することが可能となる。
【0046】
本発明の刃物の加工方法及びその加工装置は、往復式電気かみそり用内刃以外に、ヘアーカッター、電気バリカンの刃等でもよく、さらには一般の各種刃物類に広く適用可能である。
【0047】
【発明の効果】
上述のように請求項1記載の発明に係る刃物の加工方法にあっては、刃物の刃先加工において、少なくとも刃物の被加工面を水素雰囲気下で脆化処理して研削加工を行なうものであり、また請求項2記載の発明は、上記刃物の被加工面の研削加工を水素雰囲気下でリアルタイムに行なうので、刃物を水素雰囲気にすることで大気雰囲気で延性であった性質が徐々に低下する、いわば水素脆化の性質を利用して加工を行なうことができる。従って、塑性変形低減に伴う刃先のバリの発生が抑制できると共に加工時のエネルギーも低減できるものであり、しかも切削抵抗が減少し、加工工具寿命も延長するものである。さらに少なくとも被加工面に水素を照射するだけで脆化でき、装置を簡素化することができる。加工時の消費電力の低減、加工工具寿命の延長を図ることができる。
【0048】
また請求項3記載の発明は、請求項1記載の効果に加えて、刃物の片側を被加工面とし、背面側に断面凸状のリブを設けたので、安全剃刀のように両面研削しなくても、片側研削だけで刃先を鋭利化することが可能となる。また凸状のリブを突設させることで、ヒゲ剃り時の音を共鳴増幅させて剃り味感を出させる官能的な効果も得られる。
【0049】
また請求項4記載の発明は、請求項1記載の効果に加えて、刃物が体心立方晶系材料からなるので、バリの発生を抑制できると共に、加工工具の寿命延長の効果が一層高まる。
【0050】
また請求項5記載の発明は、請求項1記載の効果に加えて、刃物がマルテンサイト系ステンレス鋼からなるので、マルテンサイト系ステンレス鋼は、サビ、腐食に対する耐久性が高いため、刃物の材質として好都合であると共に、磁性を有するため磁気吸引による固定が可能であり、加工時の固定にも好都合である。
【0051】
また請求項6記載の発明は、請求項1記載の効果に加えて、加工時に刃先を背面側から治具で支持して研削加工を行なうことができる。
【0052】
また請求項7記載の発明は、請求項6記載の効果に加えて、刃物の被加工面を治具上面よりも上方に段差状に突出させて、治具上面が仕上面となるように研削加工を行なうのが好ましく、この場合、治具上方に突出している被加工面は治具との段差による切欠き効果による応力集中によって脆性破壊して一度に除去加工が可能となると共に、治具で支持されている刃物1部分は破壊の影響を受けずに不要な部分だけが除去できるものである。
【0053】
また請求項8記載の発明に係る刃物の加工装置は、少なくとも刃物の被加工面を脆化させる手段と、刃物周辺を水素雰囲気にするための空間と、脆化された刃物を研削するための加工工具とを備え、少なくとも刃物の被加工面を脆化させて研削加工を行なうことが可能となっているので、リアルタイムに刃物周辺を脆化雰囲気にしながら研削加工を行なうことが可能となる。また空間内に刃物を複数個格納することでバッチ的に大量生産が可能となり、さらに刃物の被加工面を脆化させて研削加工を行なうことで、研削時にバリ発生が抑制でき、後のバリ取り工程を削減することが可能な加工装置を提供できる。
【0054】
また請求項9記載の発明に係る電気かみそり用内刃は、刃物が、刃穴を有する外刃の内面を摺接する内刃であって、少なくとも外刃との摺接部である内刃縁を水素雰囲気下で脆化させて研削加工が施されているので、研削時に刃先にバリの発生がなく、刃先の鋭利度が向上してひげの剃り味が良好となる高品質な内刃が得られると共に、これまで必要としていたバリ除去工程が不要となり、低コストな内刃を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態の一例を示す模式図である。
【図2】 (a)は半円板タイプの内刃の斜視図、(b)は内刃片の斜視図である。
【図3】 (a)は薄肉円環タイプの内刃の斜視図、(b)は内刃片の斜視図である。
【図4】 図2(b)のA−A線断面図及び図3(b)のA’−A’線断面図である。
【図5】 同上の研削加工時のフローチャートである。
【図6】 他例の模式図である。
【図7】 更に他例の模式図である。
【図8】 同上の脆化処理と研削加工のフローチャートである。
【図9】 (a)は他例の脆化工程の模式図、(b)は研削加工工程の模式図である。
【図10】 本発明の参考例1の模式図である。
【図11】 (a)(b)は参考例2の模式図である。
【図12】 参考例2の他例の模式図である。
【図13】 参考例3の模式図である。
【図14】 (a)(b)は参考例4の模式図である。
【図15】 参考例5の模式図である。
【図16】 参考例6の模式図である。
【図17】 (a)(b)は参考例7の模式図である。
【図18】 参考例8の模式図である。
【図19】 参考例9の模式図である。
【図20】 参考例10の模式図である。
【図21】 参考例11の模式図である。
【図22】 参考例12の模式図である。
【図23】 参考例13の模式図である。
【図24】 本発明の更に他例の模式図である。
【図25】 更に他例の模式図である。
【図26】 更に他例の模式図である。
【図27】 更に他例の模式図である。
【図28】 更に他例の模式図である。
【図29】 更に他例の模式図である。
【図30】 本発明の実施形態の更に他例の模式図である。
【図31】 (a)〜(c)は参考例14の模式図である。
【図32】 (a)〜(c)は参考例15の模式図である。
【図33】 (a)〜(c)は参考例16の模式図である。
【図34】 (a)〜(c)は参考例17の模式図である。
【図35】 参考例18の模式図である。
【図36】 参考例19の模式図である。
【図37】 本発明の実施形態の加工装置の模式図である。
【図38】 同上のフローチャートである。
【図39】 更に他例の模式図である。
【図40】 更に他例の模式図である。
【図41】 半円板タイプの内刃の製造工程の説明図である。
【図42】 薄肉円環タイプの内刃の製造工程の説明図である。
【図43】 (a)は同上の刃先の断面図、(b)は刃先バリの説明図である。
【図44】 同上の電気かみそりの外刃と内刃の分解斜視図である。
【符号の説明】
1 刃物
1a 被加工面
1b 刃先
2 加工工具
3 リブ
8 ワックス
9 空間
10 治具
11 外刃
12 内刃
12b 内刃縁
Claims (9)
- 刃物の刃先加工において、少なくとも刃物の被加工面を水素雰囲気下で脆化処理して研削加工を行なうことを特徴とする刃物の加工方法。
- 刃物の被加工面の研削加工を水素雰囲気下でリアルタイムに行なうことを特徴とする請求項1記載の刃物の加工方法。
- 刃物の片側を被加工面とし、背面側に断面凸状のリブを設けたことを特徴とする請求項1記載の刃物の加工方法。
- 刃物が体心立方晶系材料からなることを特徴とする請求項1記載の刃物の加工方法。
- 刃物がマルテンサイト系ステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1記載の刃物の加工方法。
- 加工時に治具にて刃物を背面側から支持して研削加工を行なうことを特徴とする請求項1記載の刃物の加工方法。
- 上記刃物を背面側から支持する治具を備え、刃物の被加工面を治具上面よりも上方に段差状に突出させて、治具上面が仕上面となるように研削加工を行なうことを特徴とする請求項6記載の刃物の加工方法。
- 少なくとも刃物の被加工面を脆化させる手段と、刃物周辺を水素雰囲気にするための空間と、脆化された刃物を研削するための加工工具とを備え、少なくとも刃物の被加工面を脆化させて研削加工を行なうことを可能としたことを特徴とする刃物の加工装置。
- 刃物が、刃穴を有する外刃の内面を摺接する内刃であって、少なくとも外刃との摺接部である内刃縁を水素雰囲気下で脆化させて研削加工が施されたことを特徴とする電気かみそり用内刃。
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