JP2008138223A - 金型合金工具鋼の耐久性向上方法 - Google Patents

金型合金工具鋼の耐久性向上方法 Download PDF

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慶明 大地
Hisataka Satsuta
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Abstract

【課題】電子ビーム照射を用いた表面改質により金型合金工具鋼の表面強化法を提供する。
【解決手段】合金金型鋼表面に極短時間に電子ビームにより高エネルギを入射して表面層を溶融させる。電子ビーム照射後は自己放冷により溶融部は急冷され、成分分布が均一な微細樹枝状組織の再凝固層が現出する。その後、窒化処理や炭化物被覆処理などの表面処理を施すことで、再凝固層に微細で均一に分散した化合物を形成させて金型合金工具鋼を強化する。
【選択図】図3

Description

本発明は、一部を除き、炭素の含有量が比較的多い高硬度鋼系の金型用合金工具鋼の強化方法及び肉盛溶接が施された金型用合金工具鋼の強化法に関する。
従来、ダイキャスト鋳造における、成形と離型剤塗布という急激な加熱と冷却が反復されることによる過酷な操業状態を要求される金型には、前記加熱・冷却による膨張と圧縮により、熱サイクルに起因した低サイクル疲労現象として、金型表面に亀甲状の微細な表面割れ(ヒートチェック)や、独立した長い表面割れ(ヒートクラック)といった熱疲労によるき裂が発生し、金型の寿命を低下させている。
そこで、金型表面の強化の目的で様々な表面改質が用いられている。この改質は金型の上記き裂発生の防止、耐熱衝撃性および焼き付き性等の改善をも目的としている。これらの改質には、例えば、複数回の窒化処理を施すものがある。
一方、プレス成形においては、成形時に素材が金型上を非常に高い圧力のもとで滑り金型が著しく摩耗する。これを防止するために、ヴァナジウム(V)を含む溶融塩を用い鋼中の炭素(C)と反応させ、金型表面にVCなどの炭化物を形成させる炭化物被覆処理を施す。
上記従来方法の窒化処理および炭化物被覆処理では、いずれも鋼中の合金成分や炭素(C)を利用して、窒化物や炭化物を素地中に微細に分散させることにより金型を強化している。しかし合金工具鋼ではこれら合金成分と炭素(C)により炭化物を形成しているため、実際の化学成分より素地中の量は少なく反応に要する時間がかかり処理時間が長くなるといった問題がある。また選択的に元素が拡散しやすい結晶粒界に化合物が析出し、改質層が均一でなくかつ脆化する問題もあった。
そこで、直径58mm、厚み20mmの円盤状のSKD61鋼を、焼入れ、焼戻しにより硬さを45HRCに調整したものを試験片として、未処理試験片(*印)と、480℃×3hrのガス軟窒化試験片(■印)と、500℃×2hrのラジカル窒化処理試験片(▲印)とにつき熱疲労試験を行なった。
熱疲労試験は、各試験片の試験面(円盤面)全面を570℃に加熱したブロックに押しつけ、所定時間(160秒)保持後、100℃の湯に15秒浸漬し冷却を行なうようにし、加熱冷却サイクルは1000回とした。
試験後、各試験片の断面において、20mmの幅に発生したヒートクラックの深さ(横軸 μm)と発生数(縦軸 数/1mm)を調べ(図11)、窒化による表面処理が熱疲労特性に及ぼす影響を調べた。
図11から明らかなように、ガス軟窒化及びラジカル窒化により、未処理のSKD61試験片に生じた40μm以上の深いヒートクラックの発生が抑制された。また、40μm以下のクラックはガス軟窒化では未処理材より少ない。一方ラジカル窒化では、全般に未処理材よりクラック数は少ないものの、7〜8μmは逆に多くなっている。しかし、何れの窒化処理も折角表面改質の処理をしたにしては、改質、改善の程度が低いことが判った。
他方、炭素含有量がそれ程多くない、所謂軟鋼系合金の表面熱処理に関しては、例えば、特性の制限や後加工を要することなく、部品の表面の硬度、耐疲労強度、耐摩耗性、耐食性を向上させて靭性も併せ持たせる鉄合金製機構部品の表面改質法として、該鉄合金製機構部品をオーステナイト領域の温度に急速に加熱した後、オーステナイト領域以下の温度まで急速冷却する加熱・冷却工程を少なくとも3回以上繰り返す熱処理を施して焼入れをし、この熱処理により、平均結晶粒径を1〜10μmに調整すること、そしてこのための熱処理として高周波焼入れ、レーザ焼入れ、火炎焼入れ、電解焼入れ、電子ビーム焼入れを何れか、または2種以上を組合わせ用いて、必要回数繰り返し熱処理を行なうようにすることも知られている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、この特許文献1のものは、熱処理加熱温度が融点よりも低く、また、例えば、段落番号[0016]には、前述のように、異種の熱処理方法を組合わせて繰り返す手法を記載しただけに止まり、具体的な実施の例示もなく、また段落番号[0018]の欄には、「・・・・、本発明の表面改質法を施した・・・・部品に浸炭、窒化などの表面硬化処理を行なえば、用途によってはより良い結果が得られる。」との言及もあるが、その可能性及び効果の程は不明のものである。しかしながら、この特許文献1のものには、表面の必要な箇所だけを融点以上の温度にまで急速に昇温して融解した後、急速に冷却する表面改質についての記載がある文献についての言及もある(例えば、非特許文献1参照。)。
そこで検討するに、この表面の必要な箇所の極く薄い表層部分だけを、融点以上の温度にまで急速に加熱して融解した後、急速に冷却再凝固させて表面を改質する方法として、電子ビーム照射による方法が知られている(例えば、特許文献2−3参照。)。
特開2006−083417号公報 特開2003−111778号公報 特開2006−187799号公報 精密工学会 表面改質に関する調査研究分科会編 表面改質技術 1988年 ページ147 日刊工業新聞社
図12は前述電子ビーム照射による表面改質を行なう従来例の装置の一例の概略全体構成図で、1はハウジング、6は環状アノード電極、8はカソード、Sは電子銃内加速空間、5は励磁ソレノイド、14はターゲットとして被照射体12を設置するテーブルである。一点破線部1−1以下の函体部分1Bには図示しないテーブル移動機構などが設けられる。電子銃1Aを含むハウジング1内の電離ガスの調整システムとしてスクロールポンプ2、ターボ分子ポンプ3が、流量調整弁2A、3Aを介して連結され、さらに図示しない圧力センサとともに作動する。室内は一旦真空状態とした後ボンベ15からバルブ4を介して希ガス、例えばArを充填し0.05Pa程度の所定低気体圧状態に保たれる。
改質装置には最初に作動して電子銃室1A内にソレノイド5により磁場を作る励磁電源16、次に作動して環状陽極6付近にアノードプラズマ7を生成させるコンデンサ充放電回路を含むパルス電源17、そしてアノードプラズマ7を通過する電子ビーム11を放射して改質作用を実行するビーム加速電源であって、コンデンサ充放回路で構成されるパルス電源18が備えられている。それぞれの電源は独立しており、絶縁物6A、8Aによりハウジング1から絶縁されている。
電子ビームの照射条件は、エネルギ密度、パルス幅および照射回数である。これらの条件の組み合わせは、用途に応じて最適な条件を選択して行う。
エネルギ密度が大きいほど一回の照射による素材の融点以上に温度が上昇する領域は深くなるものの、表層の一部が蒸発するため溶融層の厚みは増加しなくなる。またパルス幅が長くなると、溶融層厚みは増大するものの入熱量が大きくなり被照射材の温度が上昇し、照射終了後の自己放冷による急冷ができず、微細な凝固組織が得られない。また照射回数が増えると面の平滑化は促進されるが、処理時間短縮の点から適正な回数が求まる。
一例として、照射電子ビームパルスの照射エネルギ密度:1〜10J/cm、パルス幅:2〜4μs、照射回数:数回以上40回が適正範囲である。
前述した照射エネルギ、およびパルス幅から求まる単位時間・単位面積あたりのエネルギを処理対象に照射する電子ビーム装置であれば、前述図示説明した比較的広い面積に照射するものに限定されず、ビームを集束するものいずれを用いても構わない。
ハウジング1内に被照射体12を設置して、真空排気したのち、アルゴンガスを注入し真空度を0.05Pa程度に維持する。その後、ソレノイド5にパルス電流を流し、磁場印加によりハウジング内の偶存電子によりプラズマを発生・維持する。
アノードおよびカソードに印加する電流・電圧のタイミングをずらし、最終的にカソードから放出された電子がアノードの被照射体へと衝突し、薄い表面層を瞬時に溶融し、次いで急速に冷却させる照射処理を数回以上繰り返させると、表層に白層が形成されるようになり、サブミクロサイズの超微細で、成分分布が均一な樹枝状晶の凝固組織の表層を形成する。
そこで本発明は、前述したように、金型合金工具鋼に対する窒化処理や炭化物被覆処理が、殆んど有効でないところからこれを改善すべく提案されるもので、本発明の目的は、各種合金金型鋼表面に微細結晶組織を形成させ、その後に行なう表面改質により微細組織の化合物を均一に分散形成させ、強化された金型鋼を提供することにある。
前述の本発明の目的は、(1)電子ビームを金属部材に照射して微細表層部分を瞬間的に溶融し、冷却再凝固させることにより微細かつ成分分布が均一な樹枝状晶の凝固組織の表層を形成させた後、該表面に表面改質を施し表層に均一な改質層を形成する金型合金工具鋼の耐久性向上方法とすることにより達成される。
また、前述の本発明の目的は、(2)前記電子ビームが、低圧気体中における磁場中でのアノード電極と被照射体間電圧印加によりアノードプラズマを発生させた状態とし、カソード電極と被照射体間に高電圧のパルスを印加することによって得られる低エネルギ、高電流で、照射径の大きい電子ビームのパルスである前記(1)に記載の金型合金工具鋼の耐久性向上方法とすることにより達成される。
また、前述の本発明の目的は、(3)前記電子ビームが、高真空中で電子を加速し、集束手段によって被照射体上に集束、衝突させた状態での走査が連続的に制御可能な電子線である前記(1)に記載の金型合金工具鋼の耐久性向上方法とすることにより達成される。
また、前述の本発明の目的は、(4)前記後工程で行なわれる表面改質が、窒化処理であって、窒化層または窒素拡散層を形成させる前記(2)または(3)に記載の金型合金工具鋼の耐久性向上方法とすることにより達成される。
又、前述の本発明の目的は、(5)前記後工程で行なわれる表面改質が、炭化物被覆処理であって、炭化物層を形成させる前記(2)又は(3)に記載の金型合金工具鋼の耐久性向上方法とすることにより達成される。
又、前述の本発明の目的は、(6)前記金属部材が金型合金工具鋼であって、前記表面改質領域に肉盛溶接が施された領域を有する前記(2)または(3)に記載の金型合金工具鋼の耐久性向上方法とすることにより達成される。
本発明によれば、表面改質をすべき領域に対する前処理として、予め当該部分に微細組織の化合物を生成することによって、熱間工具鋼においては金型表面での摩耗損失や熱疲労によるき裂の生成を抑止し、寿命の顕著な向上をもたらすことができる。また、冷間工具鋼において切れ刃の欠けや摩耗防止を図ることができる。高速度工具鋼においては欠けや摩耗の防止を図り寿命が向上する。
次に、本発明の実施形態につき以下説明する。
本発明の金型用合金工具鋼の強化方法の全体構成は、被処理材である金型用合金工具鋼に対し、電子ビームを照射して極く微小な表層部分のみを、瞬間的に溶融させて、後急冷することにより該被処理材の表面近傍に微細凝固組織を生成する工程と、
次いで、窒化処理もしくは炭化物被覆処理により、表層下方に化合物を析出する表面改質工程と、
により構成されるものである。
本発明の方法により処理対象とされものはダイカスト等に使用される熱間金型用合金工具鋼、プレス成形に使用される冷間金型用合金工具鋼、切削等に使用される高速度工具鋼、プラスチック成形に用いられるプラスチック金型用鋼である。
以上のようにして、電子ビームのパルスを照射することにより、サブミクロンサイズの超微細で、成分分布が均一な樹枝状晶の再凝固組織を表層に備えた被照射体は、その後、窒化処理もしくは炭化物被覆処理等の表面改質処理により、表面下方に窒化物もしくは炭化物を形成し、表面層の強化を図る。
一例としてこのような窒化は、従来より周知のプラズマ窒化、ガス窒化、ガス軟窒化および浸硫窒化処理などがある。また炭化物被覆処理の一例としては、TD処理がある。
以下、本発明に関連して行った試験例について説明する。
1.電子ビーム照射試験
本試験では、熱間金型用合金であるSKD61鋼を素材として焼入れ・焼戻しを施し硬さを45HRCに調整した試験片に対し、前述図12で説明した比較的広い面積を一度に改質可能な電子ビーム装置を使用して照射を行った。照射条件は、エネルギ密度:6.0J/cm、1回の照射時間:2〜4μs、照射周期:0.2Hz、照射回数:少なくとも5回以上20回である。
図1に電子ビームを照射した試験片の光学顕微鏡による断面組織写真を示す。最表面の白層は溶融層でおよそ5μmの厚みで均一に形成されている。図2は溶融層を拡大撮影したSEM写真である。白層は、全体的に成分分布が均一で幅が0.2μm程度の非常に微細な樹枝状晶の再凝固組織が形成されている。
2.ヒートクラック発生状態の確認試験
試験片は、前述図11における従来例の母材試験片及窒化処理試験片と寸法、形状が同一のSKD61鋼(硬度:45HRC)製の試験片を使用して、ヒートクラックの発生状態確認試験を行った。このヒートクラックの発生は状態確認試験には、次の(1)−(5)試験片を用いた。
(1)母材試験片 *印
(2)ガス軟窒化試験片 ■印
(3)ラジカル窒化試験片 ▲印
(4)電子ビーム照射試験片 ●印
(5)電子ビーム照射+ガス軟窒化 ◆印
番号(1)の試験片は、全ての試験に共通するもので、ここでは前述のように熱間金型用合金であるSKD61鋼で、直径58mm、厚さ20mmのものであり、外周を旋削により、円盤面の疲労試験面は研削して仕上げてある。
番号(2)の軟窒化は、(1)の試験片をN2ガス又はN含有ガス中で、「480℃×3hr」の条件で窒化処理したものであり、又番号(3)のラジカル窒化は(1)の試験片をN2ガス又はN含有ガス中のラジカル反応生起の「500℃×2hr」の条件で処理したものである。
次の番号(4)の電子ビーム照射処理は、(1)の試験片に対して、前述図示説明した電子ビーム照射改質処理装置により、前記した[0029]記載の照射条件で処理したものであり、そして番号(5)の試験片は、前述(4)の電子ビーム照射の前処理の次に引き続いて番号(2)のガス軟窒化の改質処理をしたものである。
そして、この番号(1)−(5)の各試験片に対する熱疲労特性に及ぼす影響についての特性は、前記番号(1)−(3)の各試験片に対する段落[0007]に記載の熱疲労試験の手法、態様と同一の手法条件で行ない、その結果を前述図11の従来技術による場合のヒートクラックの発生状況特性図中に、前記番号(4)の試験片に●印を付して、又番号(5)の試験片に◆印を付して記入し、図3のヒートクラックの発生分布状況の特性図として示した。
そして、この図3によれば、番号(4)の電子ビーム照射による試験片は、番号(1)−(3)の図11に示した何れの試験片よりも、例えば、ヒートクラックの深さは深くても約10μm、そして1mm当たりのクラック発生数が多くても0.2個程度で、格段に大幅な改善が為されており、前述約0.2μm幅と超微細で、成分分布が全体に均一な樹枝状晶の再凝固組織層の形成が有効なことが判った。
この電子ビーム照射片(4)が有効な理由としては、次のことが考えられる。図3に示したように白層は微細な樹枝状組織となっている。すなわち、マトリックス中に存在していた炭化物は多数回の電子ビームパルスの照射により、その主たる構成元素であるCrは固溶し、白層中のCr濃度は上昇している。Cr濃度の上昇は耐酸化性に寄与する。ヒートトラックは酸化反応が先導して生じると言われており、白層の耐酸化性向上が熱疲労特性向上につながったと推察される。また急冷凝固により、凝固時の元素移動が抑制され、偏折が少ないことも熱疲労特性の向上に寄与したと考えられる。
そして、なお、上述の番号(4)の電子ビーム照射により処理したものが、多くはないとは言えなお、約10μmと言う大きな深さのヒートクラックの発生を防止し得ないでいるところから、前述番号(5)の前述番号(4)の電子ビーム照射による合金表面改質の後に、番号(2)のガス軟窒化による表面改質を組合せ行なった所、1mm当たりのヒートクラックの発生個数は、前記番号(4)のものよりも多い傾向にあったものの、発生するヒートクラックの深さが大きくても5〜6μm程度とダメージとなるクラックの発生が無く有効なことが判った。
この電子ビーム照射による合金表面の改質後に、窒化や炭化物被覆処理をすると言う本発明の手法は、その処理の順序を逆にすると、窒化処理や炭化物被覆処理により、単体や化合物として分散含侵された窒素や炭素が電子ビーム照射による融解により分解、ガス化等して白層を荒して飛散等することにより目的を達し得なくなることから合目的のものである。
次に、本発明の対象素材である合金工具鋼SKD61の肉盛溶部を表面改質処理をした部分の熱疲労特性について説明する。
溶接は、TIG溶接により手動で溶接棒を供給して、平板試験片に対してビード幅のハーフピッチで、3パスビードを形成する肉盛溶接を行なった。溶接電流は150Aとした。溶接棒はSKD61の組成にほぼ相当する特殊電極製T−SD−1を用いた。下記に溶接棒の組成を示す。この溶接棒は表面に厚み約5μmのNiメッキが施されており、約1mass%のニッケルが含まれている。
溶接棒の化学組成:mass%
C:0.37 Mn:0.44 Cr:5.78 V:0.9 Si:1.06 Ni:1.02 Mo:1.12
溶接時には、溶接前後の予熱もしくは後熱さらに焼戻は行わなかった。これらの熱処理を行わないと、溶接金属中には硬度分布が生じたり、溶接後の残留応力のために、熱疲労特性は悪くなると予想される。逆に表面処理の影響が顕著に現れるとも期待できるため、熱処理は省略した。
溶接作業にあたっては、溶接時の入熱により試験片温度がMs点(高温安定相を冷却した時にマルテンサイト変態が開始する温度)以上に保持されることを防止するため、冷却時間を設けて溶接した。具体的には、溶接パス開始直前の試験片表面温度を100℃以下とした。
以上のようにして溶接した肉盛溶接部の特徴は以下の通りである。
図4に溶接部の断面マクロ組織及び硬さ分布を示すが、溶接金属においてマクロ組織にはエッチングによる濃淡が見られる。また硬さも分布が生じる。予熱を行わないため、次の溶接パスの熱により、溶接金属が熱影響を受けたためと考えられる。溶接開始前の試験片温度を100℃以下、すなわちMs点(約300℃)以下としているため、溶接金属は凝固後オーステナイトを経てマルテンサイトとなる。次の溶接パスの入熱により、場所により再焼入れや焼戻しが行われ組織が変化し、エッチングによる濃淡や硬さの分布が生じたと考えられる。母材熱影響部の母材側には最軟化域が生じる。溶接時の熱により焼戻し温度以上に昇温されたために軟化したと考えられる。
溶接部の熱疲労特性を評価した。SKD61平板試験片に3パスのビードを溶接した。ワイヤ放電加工により円盤状に切り出した後、研削により肉盛部を平滑にして表面処理に供した。熱疲労試験は先に段落[0007]で述べた素材における条件と同一である。
図5には、溶接のみの試験片のヒートクラック断面写真を示す。母材軟化域に生じたヒートクラックは、溶接金属に生じたヒートクラックより深く大きく開口している。また、溶接金属では、粒界もしくは研削痕が起点になりヒートクラックが発生する。
図6−図10には溶接金属、熱影響部、母材それぞれの位置に生じたヒートクラックの発生状況をまとめたものである。各各の幅が異なるため、発生個数は図3または図11と同じように1mmあたりの数とした。熱影響部、母材のヒートクラック発生状況は、1パス側と3パス側では異なるため、ヒートクラック発生数が多い側を載せた。熱影響部と母材の境界は、断面の硬度分布から母材硬度一定となった位置とした。
図6は溶接のみの場合の試験結果である。溶接金属に生じたヒートクラックの発生状況は、図3または図11に示される未処理のSKD61素材の場合と大きな差は見られない。しかし熱影響部および母材においては、溶接金属および未処理素材より熱疲労特性に劣ることが分かる。熱影響部に生じた深さ120μmを越えるものは、図5に示す軟化域に生じたものである。
図7には、ガス軟窒化処理材の結果を示す。ヒートクラック深さは浅くなるが、クラック数は増えている。熱影響軟化域に生じたヒートクラック深さは、未処理の溶接試験片に比べ半分以下に抑制されている。
図8には、ラジカル窒化処理材の結果を示す。個々の深さのクラック発生数は減るものの、溶接金属には40μm以上の比較的深いクラックが発生している。
図9には、電子ビーム照射材の結果を示す。溶接のみおよび窒化処理試験片に比べ、溶接金属と母材の熱疲労特性はさらに改善されている。しかし熱影響部軟化域の深いヒートクラックを防止できるところまでには至っていない。
図10は電子ビーム照射後ガス軟窒化を行った結果である。この組み合わせは最も熱疲労特性に優れる。特に母材においては明瞭なヒートクラックは認められなかった。また熱影響部軟化域に生じる深いクラックは防止できている。
以上SKD61の肉盛溶接部に対する表面処理効果についてまとめると、ガス軟窒化したものは、溶接金属、熱影響部、母材のいずれかにおいてもヒートクラックの深さは浅くなっている。一方、ラジカル窒化したものは、発生数は減り、熱影響部に生じる深いクラックは抑制されるものの、溶接金属のヒートクラックは深いものが生じている。また電子ビーム照射したものは熱疲労特性に優れ、特にガス軟窒化処理を併用したものは、熱影響部軟化域に生じる深いクラックの発生が抑えられている。
そうして、こうした表面層のみに限定した表面改質処理は、現在なお調査中ながら電子ビーム照射による処理を前処理として行なう他のラジカル窒化処理に適用して有効であるばかりでなく、炭化物被覆処理と組み合わせて実施した場合にも有用なデータが得られつつあるので、前述窒化処理との組み合わせに限定されないものであることを指摘しておくものである。さらに本発明は、前述熱間金型工具鋼に限らず冷間金型工具鋼の表面改質処理として有効なこと当然である。
図1は、合金工具鋼の表面改質について説明するための表層断面部分を説明するための光学顕微鏡写真図。 図2は、図1の部分を拡大して示すSEM写真図。 本発明による合金に於けるヒートクラックの発生状態を従来例と合わせて示した特性図。 他の実施例の説明に用いる溶接部の断面マクロ組織の写真図と硬さ分布図。 同じく肉盛り溶接部に生じたヒートクラックの断面写真図。 溶接金属に生じたヒートクラック発生状況特性図。 ガス軟窒化処理材に生じたヒートクラック発生状況特性図。 ラジカル窒化処理材に生じたヒートクラック発生状況特性図。 電子ビーム照射処理材に生じたヒートクラック発生状況特性図。 本発明実施例(電子ビーム照射後ガス軟窒化処理)のヒートクラック発生状況特性図。 従来例についてのヒートクラックの発生状況の特性図。 本発明の実施例の表面改質に用いた、従来公知の電子ビームパルス照射表面改質装置の一例を示す構成説明図。
符号の説明
1、ハウジング
2、スクロールポンプ
3、ターボ分子ポンプ
4、バルブ
5、励磁ソレノイド
6、アノード電極
7、アノードプラズマ
8、カソード
9、カソードプラズマ
11、電子ビーム
12、被照射体
14、ターゲット
15、ボンベ
16、ソレノイド電源
17、アノードプラズマ電源
18、電子ビーム照射電源

Claims (6)

  1. 電子ビームを金属部材に照射して微細表層部分を瞬間的に溶融し、冷却再凝固させることにより成分分布が均一で、微細な樹枝状晶の凝固組織の表層を形成させた後、該表面に表面改質を施し表層に均一な改質層を形成することを特徴とする金型合金工具鋼の耐久性向上方法。
  2. 前記電子ビームが、低圧気体中における磁場中でのアノード電極と被照射体間電圧印加によりアノードプラズマを発生させた状態とし、カソード電極と被照射体間に高電圧のパルスを印加することによって得られる低エネルギ、高電流で、照射径の大きい電子ビームのパルスであることを特徴とする請求項1に記載の金型合金工具鋼の耐久性向上方法。
  3. 前記電子ビームが、高真空中で電子を加速し、集束手段によって被照射体上に集束、衝突させた状態での走査が連続的に制御可能な電子線であることを特徴とする請求項1に記載の金型合金工具鋼の耐久性向上方法。
  4. 前記後工程で行なわれる表面改質が、窒化処理であって、窒化層または窒素拡散層を形成させることを特徴とする請求項2または3に記載の金型合金工具鋼の耐久性向上方法。
  5. 前記後工程で行なわれる表面改質が、炭化物被覆処理であって、炭化物層を形成させることを特徴とする請求項2または3に記載の金型合金工具鋼の耐久性向上方法。
  6. 前記金属部材が金型合金工具鋼であって、前記表面改質領域に肉盛溶接が施された領域を有することを特徴とする請求項2または3に記載の金型合金工具鋼の耐久性向上方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2013086401A (ja) * 2011-10-20 2013-05-13 Sodick Co Ltd 電子ビーム照射により表面改質した成形機、成形機用のスクリュ及び成形機用のプランジャ
JP2014065939A (ja) * 2012-09-25 2014-04-17 Okayama Prefecture 成形品及びその製造方法
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