本発明を適用した水処理プロセス運転支援装置の一実施形態について説明する。本実施形態は、水処理プロセスとしての浄水処理プロセスを実施する浄水場のプラントの運転を支援する例である。
図1は、本実施形態の水処理プロセス運転支援装置10の構成が浄水プラント12と共に示された図である。浄水プラント12は、例えば、河川などの漂流水(以下、原水という)に対し、浄水処理プロセスとしての凝集沈殿プロセスを施すことにより、例えば水道水を得る。凝集沈殿プロセスは、いわゆる「凝集沈殿―急速ろ過法」であり、濁質粒子を含む原水に凝集剤を添加して攪拌する混和工程と、混和工程から流出する原水中の濁質粒子の凝集物を沈殿する分離工程とを有する。なお、濁質粒子は、原水中の不純物のうち、濁り、ウイルス、細菌、天然の着色成分、藻類などを含み、例えば1×10−6m〜1×10−9の寸法の微細粒子である。
ここで、本発明に係る水処理プロセス運転支援装置10は、浄水プラント12の運転を支援するものであり、原水の条件と混和工程の処理条件に基づき、混和工程の濁質粒子と凝集物の粒径分布を演算する粒径分布演算手段11と、その粒径分布と分離工程の処理条件に基づき、分離工程の流出水の濁度を演算する濁度演算手段13とを備えている。ここでの原水の条件は、例えば、原水の水量、水質、水温、降雨量である。混和工程の処理条件は、例えば、凝集剤の濃度、凝集剤の注入量、攪拌力である。分離工程の条件は、例えば、原水の滞留時間、原水の有効水深である。
より具体的に、水処理プロセス運転支援装置10と浄水プラント12について説明する。図1に示すように、浄水プラント12は、濁質粒子を含む原水を貯留して原水の水位と水量を調整する着水井14と、着水井14からの流出水に凝集剤を添加して急速攪拌することにより濁質粒子の凝集物としてマイクロフロックが形成される急速混和池16と、急速混和池16からの流出水を緩速攪拌してマイクロフロックを衝突合一させることによりフロックが形成されるフロック形成池18と、フロック形成池18から流出される水に含まれるフロックを沈殿分離する沈殿池20と、沈殿池20から流出される水がろ過されるろ過池22とを備えている。
着水井14は、原水の流入側に設けられた流量計24と、原水の水質や水温を計測する計測センサ26とが配設されている。計測センサ26により計測される水質とは、例えば、濁度、pH値、アルカリ度、有機物や金属イオンの含有度などである。
急速混和池16は、原水を攪拌する羽根を備えた攪拌装置28と、攪拌装置28の攪拌力(例えば、回転数や攪拌速度)を制御する攪拌操作装置30と、原水に凝集剤を注入する凝集剤操作装置32と、凝集剤操作装置32に凝集剤を供給する凝集剤貯蔵設備34とが配設されている。凝集剤貯蔵設備34は、凝集剤としてPAC(ポリ塩化アルミニウム)、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄のいずれかを貯蔵している。貯蔵する凝集剤は、浄水場の実情に応じて決めればよい。凝集剤操作装置32は、事前に設定した凝集剤の注入量、流量計24の計測値、計測センサ26の計測値から演算した凝集剤の注入量などに基づいて、凝集剤貯蔵設備34から凝集剤を急速混和池16に注入する。攪拌操作装置30は、事前に設定した回転数、流量計24の計測値、凝集剤操作装置32の操作値から演算された回転数などに基づいて、攪拌装置28を制御する。
フロック形成池18は、複数段(例えば、3段)に分割されており、各段のそれぞれに配設された攪拌装置36と、攪拌装置36の攪拌力を制御する攪拌操作装置38とが配設されている。攪拌操作装置38は、攪拌装置36の回転速度や回転数を下流方向に向って段単位で段階的に小さくする指令を生成する。
ろ過池22は、流出口の下流側に計測センサ40が配設されている。計測センサ40は、ろ過池22の流出水の水質を計測する。ここで計測される水質とは、例えば、濁度、色度、または有機物、窒素、リン、金属イオンの含有度などである。
一方、水処理プロセス運転支援装置10は、浄水プラント12から出力される計測値やプラント機器の操作値などのデータが入力されるプラントデータ入力手段42と、プラントデータ入力手段42からデータが入力されると共に条件データが入力される条件入力手段44と、条件入力手段44から入力されるデータに基づいて、急速混和池16やフロック形成池18の濁質粒子及び凝集物の粒径分布と沈殿池20の流出水の濁度を演算するモデル演算手段46と、モデル演算手段46から出力される粒径分布及び濁度が表示される表示画面を有する表示手段48などから構成されている。
プラントデータ入力手段42は、例えば、流量計24や計測センサ26の計測値、凝集剤操作装置32の操作量、攪拌操作装置30、38の操作量などのデータが入力され、入力データを条件入力手段44に送信される。入力データは、プラントの24時間実測データでもよいし、日平均値と24時間変動パターンで作成した24時間予測データでもよいし、24時間を通して一定値とした予測データでもよい。
条件入力手段44は、原水条件入力手段50と、土木構造入力手段52と、凝集剤入力手段54と、攪拌量入力手段56とを有している。ここでの条件入力手段44は、シミュレーション計算に必要なデータを入力するためのキーボードやマウスなどを有している。キーボードやマウスなどを介して条件データを入力してもよいし、プラントデータ入力手段42から送信される計測値や操作値を入力してもよい。
原水条件入力手段50は、流量計24や計測センサ26の計測値に従って、原水の水量、水質、水温などの原水条件が入力される。土木構造入力手段52は、プラント機器の寸法データなどの構造条件が入力される。寸法データは、例えば、着水井14、急速混和池16、フロック形成池18、沈殿池20、ろ過池22の各有効幅、有効長さ、有効水深と、フロック形成池18の攪拌処理の分割段数および分割状況である。凝集剤入力手段54は、凝集剤操作装置32の操作量に従って、凝集剤の種類、塩基度、濃度、凝集条件、注入量などの注入条件が入力される。ここでの凝集条件は、例えば、凝集剤が有効に作用するpH、アルカリ度の範囲などである。攪拌量入力手段56は、プラントデータ入力手段42から送信された攪拌操作装置30、38の操作量に従って、攪拌速度、回転数、回転翼の面積、回転翼の半径などの攪拌条件が入力される。
モデル演算手段46は、条件入力手段44から送信される原水条件データと混和処理条件データに基づき、急速混和池16やフロック形成池18における濁質粒子と凝集物の粒径分布を演算する粒径分布演算手段11と、粒径分布演算手段11により演算された粒径分布と条件入力手段44から送信される分離処理条件データに基づき、沈殿池20から流出される水の濁度を演算する濁度演算手段13を有する。なお、濁度演算手段13は、沈殿池20の流出水の濁度のほかに、急速混和池16やフロック形成池18の流出水の濁度を求めてもよい。
このように構成される水処理プロセス運転支援装置10の基本動作について浄水プラント12の凝集沈殿プロセスに続いて説明する。まず、貯水池や河川から原水が、着水井14に供給される。供給された原水は、着水井14で水位と水量が調整される。着水井14から流出された原水は、急速混和池16で凝集剤が注入された後、攪拌装置28により急速攪拌される。この攪拌により、凝集剤が原水全体に亘って一様になる。急速混和池16内の原水に含まれる濁質粒子は、表面の電荷が凝集剤により中和されることにより、電気的な反発力が失われる。その濁質粒子が攪拌作用で互いに接触することにより、マイクロフロックが形成される。マイクロフロックを含む原水は、フロック形成池18で攪拌装置36により緩速攪拌される。この攪拌に起因する水流運度により、マイクロフロックが互いに衝突合一することにより、フロックが形成される。形成されるフロックは、フロック形成池18の各段で攪拌されにつれて大きくなり、重力沈降可能なフロックとして成長する。原水に含まれるフロックは、沈殿池20で重力沈降する。沈殿池20で沈まないフロックは、処理水の濁質になる。この沈殿池20のフロックの沈降速度は、フロックの大きさ、密度、形状、水温などで決まるため、フロック形成池18の流出水に含まれるフロックを適切な大きさ、密度に形成する必要がある。沈殿池20から流出される処理水は、ろ過池22によりフロックが除去された後、消毒池や給排水システムを経由して水道水になる。
このような凝集沈殿プロセスにおいて、浄水プラント12の計測値や操作値などのデータは、プラントデータ入力手段42を介し、条件入力手段44に出力される。条件入力手段44からモデル演算手段46に、原水の条件、混和工程の処理条件、分離工程の処理条件が入力される。モデル演算手段46では、各入力条件に基づいて、粒径分布が粒径分布演算手段11により演算される。演算される粒径分布は、例えば、急速混和池16やフロック形成池18の濁質粒子及び凝集物の粒径分布である。このような粒径分布に基づき、沈殿池20の流出水の濁度が濁度演算手段13により演算される。モデル演算手段46から出力された粒径分布や濁度は、表示手段48の表示画面に表示される。
本実施形態の水処理プロセス運転支援装置10によれば、急速混和池16やフロック形成池18の濁質粒子および凝集物の粒径分布と、沈殿池20の流出水の濁度を求めることができる。これにより、演算された粒径分布は、急速混和池16やフロック形成池18の混和工程の処理状態等を定量的に示す指標になる。したがって、混和工程の処理状態等から凝集沈殿プロセスの処理過程を客観的に把握でき、沈殿池20の流出水の濁度の予測精度が向上する。そのため、沈殿池20の流出水の濁度に対応づけて粒径分布を参照することにより、凝集沈殿プロセスの運転条件の決定を容易に行うことができる。
換言すれば、粒径分布は、凝集沈殿プロセスの運転条件を決定するのに役立つ客観的な判断指標となるので、例えば工程ごとに運転条件を迅速かつ的確に決めることができる。
また、本実施形態での粒径分布演算手段11は、濁質粒子、マイクロフロックフロックについての粒子数又は粒子体積を複数の粒径毎に演算する機能を有する。これにより、凝集沈殿プロセスの運転状態を各工程単位で定量的に把握できる。したがって、例えば工程ごとに運転条件をより迅速かつ的確に決めることができる。
ここで詳細に、本実施形態の水処理プロセス運転支援装置10のモデル演算手段46について図2乃至図10を参照して説明する。なお、粒径分布演算や濁度演算に用いるモデルの説明は一例であり、異なる演算方法も適用できる。
図2は、粒径分布演算手段11により演算された粒径分布の表示例を示す。図2の横軸は粒径クラスを示し、縦軸は各粒径クラスに対する粒子数を示している。例えば、数1式を用いて粒径クラスを予め設定する。より具体的には、粒径クラスとして、0.393×10-6m〜1909×10-6mの範囲を92グループに分ける。分けられた各グループの粒径は、平均粒径である。この場合、図2の横軸の粒径クラスは1、2、…92となる。粒径クラス1、2、3と、92に対応する平均粒径は0.393×10-6m、0.432×10-6m、0.475×10-6m、1909×10-6mである。数1式のdiは、粒径クラスiの平均粒径(m)を示す。iは、粒径クラス(i=1,2,…n)のインデックス番号を示す。
(数1式)
d(i+1)=di+di×0.1
また、数1式の平均粒径に基づいて、粒径クラスを定義する例を数2式、数3式、数4式に示す。なお、粒径クラス1は、数2式によって定義されている。粒径クラス2〜(n−1)は、数3式によって定義されている。粒径クラスnは、数4式によって定義されている。数2式〜数4式のLiは、粒径クラスiを示す。diは、粒径クラスiの平均粒径(m)を示す。iは、粒径クラス(i=1,2,…n)のインデックス番号を示す。なお、本実施形態では、図2のように粒径分布として粒径クラスと粒子数の関係を示すが、粒径クラスと粒子体積の関係としても良い。
(数2式)
L1<(d1+d2)/2
(数3式)
(d(i-1)+di)/2<Li<(di+d(i+1))/2
(数4式)
(d(n-1)+dn)/2<Ln
図3は、粒径分布演算手段11の粒径分布の演算手順をステップS1〜S4として示すフロー図である。ステップS1は、ジャーテストなどにより事前に計測された基準粒径分布と、原水条件入力手段50により入力された原水条件とを用いて、原水に含まれる濁質粒子の粒径分布が演算される。ステップS2は、条件入力手段44により入力されたデータとステップS1の粒径分布とを用いて、急速混和池16における濁質粒子とマイクロフロックの粒径分布が演算される。ステップS3は、条件入力手段44により入力されたデータとステップS2の粒径分布とを用いて、フロック形成池18における濁質粒子とマイクロフロックとフロックの粒径分布とが演算される。ステップS4は、ステップS3の粒径分布を用いて、沈殿池20の粒径分布が演算される。
図4は、図3のステップS1により原水の粒径分布を演算する手順をステップS10、S11として示すフロー図である。ステップS10は、原水条件入力手段50により入力された原水濁度に基づき、基準粒径分布記憶手段60から該当する基準粒径分布を読み出す。基準粒径分布記憶手段60は、粒径分布演算手段11に実装され、ジャーテストなどにより事前に計測された基準粒径分布を記憶する。基準粒径分布は、原水の濁度の代表的な濁度における濁質粒子の粒径分布である。例えば、低、中、高濁度の3つレベルに分けてそれぞれの代表的な濁度の粒径分布としてもよい。また、季節毎に、代表的な濁度の粒径分布としてもよい。また、降雨量に応じた濁度の粒径分布としてもよい。要するに、ステップ10は、基準粒径分布記憶手段60から粒径分布を読出し、読み出した粒径分布と原水の条件(濁度、水温、降雨量など)に基づいて、次ステップ以降の演算に用いる基準粒径分布を決定する。
ステップS11は、ステップS10で決定した基準粒径分布と原水条件入力手段50により入力された原水濁度を用いて、原水の濁質粒子の粒子数を演算する。この演算の一例を数5式に示す。Nrwは、原水の濁質粒子の粒子数(個/L)を示す。NSは、基準の粒子数(個/L)を示す。tuは、原水の濁度(mg/L)を示す。tuSは、基準粒径分布の濁度(mg/L)を示す。このようなステップS11を繰り返すことにより、全ての粒径クラスに対し、原水の濁質粒子の粒子数を演算して原水の粒径分布を得ることができる。
(数5式)
Nrw=NS×tu/tuS
図5は、図3のステップS2により急速混和池16における粒径分布を演算する手順をステップS20〜S25として示したフロー図である。ステップS20は、原水条件入力手段50で入力された原水条件(例えば、pH値、アルカリ度、水温など)と、凝集剤入力手段54で入力した凝集剤注入量と、攪拌量入力手段56で入力した攪拌装置28の攪拌力とを用いて、凝集効率を演算する。凝集効率とは、原水の濁質粒子がマイクロフロックに形成する割合である。例えば、凝集効率の範囲を0.0〜1.0とした場合、凝集効率0.0は、濁質粒子が全く凝集しないことを意味し、凝集効率1.0は、濁質粒子が全て凝集することを意味する。凝集効率を演算する一例を数6式に示す。数6式は、攪拌による濁質粒子運動強度と、凝集剤注入による濁質粒子の電荷中和や架橋作用とにより、凝集効率を算出するものである。αは、凝集効率(α=0〜1)を示す。F(X)は、ロジスティック曲線(F(X)=0〜1、X=D,ALT、AP)を示し、数8式のように表される。a、bは、係数である。Dは、攪拌による濁質粒子運動強度の指標を示す。ALTは、電荷中和強度の指標であり、濁質粒子の表面の負電荷に対し正電荷の多寡を示す。APは、架橋作用強度の指標であり、濁質粒子に対し金属水和物の多寡を示す。
(数6式)
α=F(D)×F(ALT)×F(AP)
(数7式)
F(X)=1/(1+exp(−a・X+b))
数6式のおける濁質粒子運動強度の指標Dは、数8式のように表される。電荷中和強度の指標ALTは、数9式のように表される。架橋作用強度指標APは、数10式のように表される。数8式〜数9式のtuは、原水の濁度(mg/L)を示す。tempは、水温(℃)を示す。Alkは、原水のアルカリ度(mg/L)を示す。pHは、原水のpH値を示す。CRは、凝集剤注入率(mg/L)を示す。pH0は、凝集剤最適pH値を示す。Kは、ボルツマン係数(J/K)を示す。μは、水の粘性係数(Pa・s)を示す。Gは、攪拌強度指標G値(S−1)を示し、攪拌力を表す指標である。drwは、原水の濁質粒子の粒径(m)を示す。a、b、cは、係数を示す。
(数8式)
D=K(temp×237.15)/(6・π・μ・drw)×G
(数9式)
ALT=CR/tu
(数10式)
AP=a・Alk/CR×[1−(pH0−b・pH)/14]2−c・tu
数8式のG(攪拌強度指標G値)を求める演算式は、例えば数11式のように表される。数11式に示すように、Gは、攪拌量入力手段56により入力された回転数、回転翼の面積と半径に基づき演算される。数11式のAは、回転翼の面積(m2)を示す。Dは、回転翼の直径(m)を示す。Rは、回転数(rpm)を示す。Cpは、パドル係数を示す。Vは、池の容積(m3)を示す。ρは、粒子の密度(kg/m3)を示す。πは、円周率を示す。μは、水の粘性係数(Pa・s)を示す。ここでの数11式のGに、攪拌強度指標G値のほか、例えば攪拌速度や、攪拌により生じる水流の速度勾配を代入してもよい。
ステップS21は、ステップS20により得られた凝集効率αを用いて、原水に含まれる濁質粒子が2つのグループに分けられる。分けられるグループの一方は、凝集しない濁質粒子であり、他方は、凝集する濁質粒子である。各グループの濁質粒子の粒子数が演算される。凝集しない濁質粒子の粒子数は、例えば数12式により演算される。凝集する濁質粒子の粒子数は、例えば数13式により演算される。数12や数13式のNucは、凝集しない濁質粒子の粒子数(個/L)を示す。Ncは、凝集する濁質粒子の粒子数(個/L)を示す。Nrwは、原水の濁質粒子の粒子数(個/L)を示す。αは、凝集効率を示す。
(数12式)
Nuc=Nrw×(1−α)
(数13式)
Nc=Nrw×α
ステップS22は、凝集する濁質粒子が生成するマイクロフロックの粒径を演算する。そのマイクロフロックの粒径は、例えば数14式により演算される。数14式のdrmは、マイクロフロックの粒径(m)を示す。drm’は、マイクロフロックの平均粒径(m)を示す。drm’’は、マイクロフロックの最大粒径(m)を示す。drwは、原水の濁質粒子の粒径(m)を示す。drw’は、原水の濁質粒子の平均粒径(m)を示す。drw”は、 原水の濁質粒子の最大粒径(m)を示す。ここでのdrm’、 drm”は、凝集剤種類、凝集剤注入量、原水の濁度に起因して異なるものであり、ジャーテストなどの計測値を代入すればよい。
(数14式)
drm=drm’+(drm”−drm’)/(drw”−drw’)×(drw−drw’)
ステップS23は、マイクロフロックの密度を演算する。マイクロフロックが大きくなるにつれてフロックの間隙に含まれる水の割合が増えるため、マイクロフロックの密度が徐々に小さくなる。マイクロフロックの密度は、例えば数15式により演算される。数15式のρrmは、マイクロフロックの密度(kg/m3)を示す。ρrwは、原水の濁質粒子の密度(kg/m3)を示す。ρwは、水の密度(kg/m3)を示す。drwは、原水の濁質粒子の粒径(m)を示す。drmは、マイクロフロックの粒径(m)を示す。KPは、係数である。また、マイクロフロックの密度は、数15式に基づき演算するほか、公知の値を参照してもよいし、実験で得られた実測値でもよい。
(数15式)
ρrm=ρw+(drw/drm)KP×(ρrw−ρw)
ステップS24は、数16式に示す質量保存則を用いて、凝集する濁質粒子が形成するマイクロフロックの粒子数を演算する。数16式のNrmは、マイクロフロックの粒子数(個/L)を示す。Ncは、凝集する濁質粒子の粒子数(個/L)を示す。ρrmは、マイクロフロックの密度(kg/m)を示す。ρrwは、原水の濁質粒子の密度(kg/m)を示す。drmは、マイクロフロックの粒径(m)を示す。drwは、原水の濁質粒子の粒径(m)を示す。
(数16式)
Nrm=Nc×drw 3×ρrw/(drm 3×ρrm)
このようなステップS20、S21、S22、S23、S24の手順を繰り返すことにより、全ての粒径クラスに対し、凝集しない濁質粒子の粒子数と、マイクロフロックの粒子数、粒径、密度が演算される。
ステップS25は、ステップS21により演算された凝集しない濁質粒子の粒子数と、ステップS24により演算されたマイクロフロックの粒子数とを粒径クラス別に合計して急速混和池16の粒径分布を演算する。
要するに、図5に示すフローは、S20により求められた凝集効率αに基づき、S21により濁質粒子の粒子数Ncを演算する。次に、S22、S23、S24によりマイクロフロックの粒径、密度、粒子数が演算される。
図6は、図5に示すステップS2の演算結果の表示例である。図6に示すように、表示画面は、3つの表示エリア111〜113が区画されている。各表示エリア111〜113のそれぞれに粒径分布が表示されている。表示エリア111は、ステップS21の繰り返し演算により求められた凝集しない濁質粒子の粒径分布である。表示エリア112は、ステップS21、S22,S23、S24の繰り返し演算により求められたマイクロフロックの粒径分布が表示されている。表示エリア113は、表示エリア111と表示エリア112に示す粒径分布を合計した粒径分布であり、急速混和池16の粒径分布が表示されている。このような表示態様により、急速混和池16における凝集しない濁質粒子の割合を定量的に把握できる。図6では、粒径分布グラフを表示したが、分布の平均、分散、標準偏差などの統計演算値を表示してもよい。また、粒径分布グラフの横軸を対数表示としてもよい。
図7は、図3のステップS3によりフロック形成池18における粒径分布を演算する手順をステップS30〜S34として示したフロー図である。フロック形成池18では、粒子が互いに衝突合一することによりフロックの粒子径が大きくなり、粒子の総数が減少する。このような現象に基づき、ステップS30では、フロックの粒子数が例えば数17式により演算される。数17式によれば、粒子間の衝突合一の所要時間Tと滞留時間tを用いて、衝突合一後の粒子数Nf’が演算される。ここでの衝突合一の所要時間Tは、例えば数18式により演算される。また、粒子衝突機構Aは、粒子のブラウン運動や、攪拌による粒子間の衝突頻度を表わしたものであり、例えば数19式により演算される。数19式における攪拌強度指標G値は、数11式により演算される。数17式のNfoは、衝突合一後のフロックの粒子数(個/L)を示す。Nfは、衝突合一前のフロックの粒子数(個/L)を示す。Tは、衝突合一の所要時間(S/個)を示す。tは、滞留時間(S)を示す。Aは、粒子の衝突機構(S−1・m3)を示す。Gは、攪拌強度指標G値(S−1)を示す。dfは、衝突合一前のフロックの粒径(m)を示す。また、本演算例のほかに、例えば、粒子の衝突確率、衝突合一の凝集速度などを用いて、衝突後の粒子数を演算してもよい。粒子の衝突確率や凝集速度については、公知の値を参照してもよいし、実験で得られた実測値を用いてもよい。
(数17式)
Nfo=Nf/(1+t/T)
(数18式)
T=1/(A×Nf)
(数19式)
A=32/3・G・df 3
ステップS31は、ステップS30の衝突合一前のフロックの粒子数および粒径と、衝突合一後のフロックの粒子数とを数20式に代入し、衝突合一後のフロックの粒径を演算する。数20式のdfoは、衝突合一後のフロックの粒径(m)を示す。dfは、衝突合一前のフロックの粒径(m)を示す。Nfoは、衝突合一後のフロックの粒子数(個/L)を示す。Nfは、衝突合一前のフロックの粒子数(個/L)を示す。
(数20式)
dfo=(Nf×df 3×/Nfo)1/3
ステップS32は、例えば数21式を用いて、衝突合一後のフロックの密度を演算する。数21式のρfoは、衝突合一後のフロックの密度(kg/m3)を示す。ρfは、衝突合一前のフロックの密度(kg/m3)を示す。ρwは、水の密度(kg/m3)を示す。dfoは、衝突合一後のフロックの粒径(m)を示す。dfは、衝突合一後のフロックの粒径(m)を示す。KPは、係数である。
(数21式)
ρfo=ρw+(df/dfo)KP×(ρf−ρw)
ステップS33は、攪拌によるフロックの破壊を演算する。例えば、粒径が所定サイズを超えたフロックが破壊されるように演算する。なお、前記の所定サイズは攪拌強度を変数とした関数で表す。例えば、攪拌が強いほど所定サイズが小さくなるように演算する。あるいは、破壊されたフロックを所定サイズ以下になるように演算する。前記の所定サイズのほか、例えば、各粒径クラスのフロックが一定割合で破壊されるように演算してもよい。前記の一定割合は例えば、各粒径クラスことに攪拌強度に従い定義してもよいし、各粒径クラスことに重みをかけるように定義してもよい。
このようなステップS30,S31,S32、S33の手順を繰り返すことにより、全ての粒径クラスに対し、衝突合一後のフロックの粒子数、粒径、密度が演算される。
ステップS34は、ステップS30,S31,S32、S33の繰り返し演算によって得られた衝突合一後のフロックの粒子数を粒径クラス別に合計し、フロック形成池18の粒径分布とする。なお、フロック形成池が複数段(図1には3段の実施例を示す)から構成される場合、図7に示すフローをフロック形成池18の各段に順次に適用することにより、フロック形成池18の各段の粒径分布を演算できる。
図8は、図3のステップS4により沈殿池20における粒径分布を演算する手順をステップS40〜S42として示すフロー図である。ステップS40は、フロックの沈降速度が例えば数22式により計算される。数22式のVffは、沈殿池流入フロックの沈降速度(m/s)を示す。ρffは、沈殿池流入フロックの密度(kg/m3)を示す。ρwは、水の密度(kg/m3)を示す。dffは、沈殿池流入フロックの粒径(m)を示す。gは、重力加速度を示す。また、本実施形態の演算例に限らず、粒子間の干渉に関する補正係数を数22式に加えてもよい。補正係数は文献値を参照してもよいし、実験で得られた実測値でもよい。
(数22式)
Vff=1/18・g・(ρff−ρw)/μ・dff 2
ステップS41は、ステップS40により求められた沈降速度と、沈殿池20の滞留時間tと、沈殿池20の水深Hとを用いて、沈殿池20で沈みきれないフロックの粒子数を例えば数23式により演算する。数23式のNffoは、沈殿池流出フロックの粒子数(個/L)を示す。Nffは、沈殿池流入フロックの粒子数(個/L)を示す。Vffは、沈殿池流入フロックの沈降速度(m/s)を示す。tは、沈殿池滞留時間(s)を示す。Hは、沈殿池水深(m)を示す。
(数23式)
Nffo=Nff×(1−Vff・t)/H
このようなステップS40,S41の手順を繰り返すことにより、全ての粒径クラスに対し、沈殿池流出粒子数が演算される。ステップS42は、全ての粒径クラスに対し、沈殿池流出フロックの粒子数を粒径クラス別に合計し、沈殿池20の粒径分布を演算する。
図9は、粒径分布演算手段11の演算結果が表示手段48の表示画面に表示された例である。図9に示すように、表示画面は、例えば8つの表示エリア120〜127が区画されている。各表示エリア120〜127のそれぞれに粒径分布が表示されている。表示エリア120は、ステップS11により演算された原水の粒径分布が表示されている。表示エリア121は、ステップS25により演算された急速混和池16の粒径分布が表示されている。表示エリア122は、ステップS34により演算されたフロック形成池18の粒径分布が表示されている。表示エリア123は、ステップS42により演算された沈殿池の粒径分布が表示されている。また、表示エリア124は、表示エリア120の粒径分布に基づき、数24式を用いて、全粒子に対して各粒径クラスの粒子体積が占める割合を演算した結果である。同様に、表示エリア125〜127は、表示エリア121〜123のそれぞれに対応させて、全粒子に対して各粒径クラスの粒子体積が占める割合を演算した結果である。数24式のVpiは、粒径クラスiの粒子が占める体積の割合(%)を示す。Niは、粒径クラスiのフロック粒子数(個/L)を示す。diは、粒径クラスiのフロック粒径(m)を示す。ρiは、粒径クラスiのフロック密度(kg/m3)を示す。iは、粒径クラス(i=1,2…、n)を示す。
要するに、図9に示すように、表示手段48は、混和工程の濁質粒子と凝集物の粒径分布が表示画面に表示されるものであり、混和工程の濁質粒子の粒子数、濁質粒子の粒子体積、凝集物の粒子数、凝集物の粒径、凝集物の密度がグラフ表示される。これにより、混和工程の濁質粒子と凝集物の粒径分布(例えば、粒径クラスに対する粒子数または粒子体積)を定量的に把握できる。したがって、粒径分布を参照することにより、例えば工程ごとに運転条件を迅速かつ的確に決めることができる。
次に、沈殿池20の流出水の濁度の演算および表示について説明する。濁度演算手段13は、粒径分布演算手段11により演算された粒径分布に基づき、少なくとも沈殿池20の濁度を例えば数25式に従って演算する。数25式に示すように、濁度は、沈殿池20の流出水に含まれる粒子の濃度から換算される。数25式のtu_Oは、沈殿池流出水濁度(mg/L)を示す。fは、濁度変換係数を示す。Cは、沈殿池流出水に含まれる粒子の濃度(mg/L)を示す。ここで、数25式は、沈殿池流出水の濁度を演算する例であるが、急速混和池16、フロック形成池18にも同様な方法で濁度を演算できる。また、濁度変換係数fは、急速混和池16、フロック形成池18、沈殿池20によって異なるし、浄水場によっても異なる。また、本実施形態のような濁度演算に限らず、例えば、粒径分布曲線の積分値、偏差値、分散値などの特性データを濁度指標としてもよい。
(数25式)
tu_O=f×C
図10は、濁度演算手段13の演算結果を表示手段48の表示画面に表示した例である。本例では、原水入力手段31により入力した原水の濁度も表示されている。図10に示すように、表示画面は、例えば2つの表示エリア128、129が区画されている。表示エリア128は、原水入力手段31により入力した原水の濁度の24時間時系列データが表示されている。表示エリア129は、濁度演算手段13により演算された沈殿池流出水濁度の24時間時系列データが表示されている。
要するに、図10に示すように、表示手段48は、分離工程から流出される水の濁度が表示画面にグラフ表示される。これにより、沈殿池20の流出水の濁度を予測できる。また、本例のように、沈殿池20の流出水の濁度と共に原水の濁度を併せて表示することにより、沈殿池20の流出水の濁度を予測するだけではなく、凝集沈殿プロセスの時間遅れつまりタイムラグも把握できる。
上述したとおり、本実施形態の水処理プロセス運転支援装置10によれば、急速混和池16のマイクロフロックや、フロック形成池18のフロックや、沈殿池20における沈降分離を定量的に把握できるため、適切な運転条件の決定を支援できる。
以上、本実施形態に基づいて本発明を説明したがこれに限られるものではない。例えば、浄水場の運転支援装置に適用した例を説明したが、これらの機能をコンピュータに実現させるプログラムからなるソフトウエア又はこのソフトウエアを格納した記録媒体(例えばCD−ROM等)を使用することにより、コンピュータを運転支援装置とすることができる。例えば、水処理プロセス運転支援プログラムは、濁質粒子を含む原水の条件を入力させる指令と、原水に凝集剤を添加して攪拌する混和工程の処理条件を入力させる指令と、混和工程から流出する原水中の濁質粒子の凝集物を沈殿する分離工程の処理条件を入力させる指令と、原水の条件と混和工程の処理条件に基づき混和工程の濁質粒子又は凝集物の粒径分布を演算する指令と、混和工程の粒径分布と分離工程の処理条件に基づき分離工程の濁質粒子又は凝集物の粒径分布を演算する指令と、混和工程の濁質粒子と凝集物の粒径分布又は分離工程の流出水の濁度を表示画面に表示させる指令が記述されることにより実現される。このようなプログラムを利用することにより、職員や専門技術者の少ない事業体でも水処理プロセスの適切な運転と、業務の円滑化や効率化が期待できる。
また、本実施形態では、浄水場に本発明を適用した例を説明したが、排水処理や、産業プラントにおける化学処理や生物処理にも適用できる。
なお、凝集沈殿プロセスの基本原理を補足説明する。浄水プラントでは、原水に含まれる不純物のうち、例えば1×10-6mから1×10-9mの寸法の濁質粒子を除去する必要がある。この濁質粒子は、通常、表面が負の電荷を帯びている。そのため、濁質粒子は、互いに接近しても反発するので、原水中に安定に分散して存在する。このような事情から、濁質粒子と反対の電荷すなわち正の電荷をもつ凝集剤が原水中に添加される。添加された原水が急速混和池で急速攪拌されることにより、原水と凝集剤が均一にされる。
このように凝集剤を加えると、濁質粒子の表面の電荷が中和されるため、濁質粒子の電気的な反発力を失う。このとき、濁質粒子にファン・デル・ワールス力(van der Waal’s force)と言われる分子間引力が働いている。したがって、電気的な反発力を失った濁質粒子は、ブラウン運動や水流によって互いに接近して結合することにより、小さな塊の微粒子が形成する。この微粒子は通常、マイクロフロックと呼ばれる。マイクロフロックの大きさが沈殿池で除去できるほどでないとき、その粒子を大きくするために、さらに緩やかな攪拌が行われる。この攪拌により、マイクロフロックを衝突結合させる。これにより、マイクロフロックからフロックと呼ばれる凝集塊が形成される。
フロック成長過程において、前述したファン・デル・ワールス力だけでは結合力が不十分であり、粒子間の結合を補強する(架橋作用)ための物質が必要である。凝集剤は、電荷中和と同時にこの架橋作用も備えている。フロック形成池で成長したフロックは沈殿池にて重力により沈降分離する。以上の凝集沈殿工程により原水の濁質粒子が除去される。
このような凝集沈殿プロセスによる濁質粒子除去機能は、原水の水質と水量、凝集剤や撹拌条件で大きく異なる。沈殿池から流出する濁質粒子あるいは濁度を目標範囲内に維持するには、凝集沈殿プロセスの工程を適切に管理する必要がある。例えば、各池における濁質粒子、マイクロフロック、フロックの粒径、粒子数、密度などを把握し、原水水質に適合した凝集剤注入操作や攪拌力操作に反映させる運転が重要である。しかし、水質が自然界の影響(例えば、降雨)を受けて大きく変動することや、原水の粒径分布を連続計測できる計測器がないという実情がある。さらに、急速混和池から沈殿池の流出口までの滞留時間は、例えば3〜4時間と比較的長い。したがって、沈殿池の流出水の濁質粒子や濁度を計測することにより凝集剤の注入量や攪拌力を制御しても、その流出水の濁度を即座に改善することが困難という実情がある。
このような実情に対し、種々の方法が提案されている。例えば、ジャーテストによる実験的な方法(水道施維持管理指針)がある。ジャーテスト法とは、原水をビーカに採水して、複数の凝集剤注入量や攪拌力により凝集沈殿を実験的に実施する。この実験結果に基づき、沈殿池出口濁度の予測ならびに適切な運転操作を決定する。しかし、ジャーテスト法は、時間と労力を要するため、連続的な実施に不向きである。この点、本実施形態の水処理プロセス運転支援装置10によれば、粒径分布を参照することにより、濁度を定量的に予測できる。
他の方法として、濁質粒子あるいは濁度をセンサで計測する方法(例えば、特開2004−141782号公報)が提案されている。この方法では、沈殿池から流出する濁質粒子は把握できるが、凝集沈殿プロセスの反応過程が分からない。そのため、例えば、沈殿池から濁質粒子が多量に流出した場合、いずれの器具類を操作すれば良いのかを判断できない。また、急速混和池から沈殿池出口までの無駄時間が長く、水質が急激に変動しても運転に反映できないという実情がある。この点、本実施形態によれば、粒径分布を参照することにより、混和工程の処理状態を定量的に把握できるため、工程ごとに操作機器又は操作内容を特定するのが容易になる。その結果、運転条件を迅速かつ的確に決めることができるため、凝集沈殿プロセスへの反映時間が短縮される。
他の方法として、急速混和池の電荷を計測する方法(例えば、特開2002−205076号公報)が提案されている。この方法は、凝集剤を加えた急速混和池の処理水の電荷量を計測し、目標値になるように凝集剤注入量を制御する。しかし、電荷量で表されるのはファン・デル・ワールス力による結合のみである。換言すれば、凝集反応の要素である架橋作用やブラウン運動などは考慮されておらず、粒径分布の状態を把握できない。また、フロック形成池や沈殿池における現象については何ら記載されておらず、沈殿池出口の水質を把握することは困難であるという実情がある。この点、本実施形態によれば、フロック形成池18や沈殿池20の濁質粒子、マイクロフロック、フロックの粒径分布を定量的に把握できる。
他の方法として、フロックの形成状態を評価する方法(例えば、特開2002−5814号公報)が提案されている。この方法は、光学計測手段を用いて、急速混和池のフロックの形成状態を評価し、形成不良なフロックの割合によって凝集剤注入量を制御する。しかし、急速混和池の粒径分布を評価できるが、フロック形成池や沈殿池における現象については適度の攪拌を講じることができないという実情がある。この点、本実施形態によれば、フロック形成池18や沈殿池20の処理状態等を加味して、急速混和池16やフロック形成池18の攪拌力を制御できる。
他の方法として、濁度を予測する方法(例えば、特開2002−119956号公報)が提案されている。この方法は、履歴データおよび事例から沈殿池流出水の濁度を予測し、凝集剤注入率を制御する。しかし、様々な原水水質と量、凝集剤注入量、攪拌力の組み合わせに対応できる履歴データや事例が蓄積されるまでは、濁度の予測精度が大幅低下する。また、事例に無い条件の場合は予測できない事態が発生するという実情がある。さらに、凝集沈殿プロセスの反応過程をブラックボックスとして扱っているため、例えば、沈殿池から濁質粒子が多量に流出した場合に何を操作すれば良いのかは判断できない。この点、本実施形態によれば、演算される粒径分布は、混和工程の処理状態を定量的に把握するのに役立つ客観的指標であるから、その粒径分布を参照することにより、分離工程の流出水の濁度の予測精度が向上する。
このように本実施形態によれば、凝集沈殿プロセスにおける急速混和池16のマイクロフロック、フロック形成池18のフロック、沈殿池20における沈降分離の状況を把握できる。換言すれば、常に変動している原水水質に適合した凝集剤と急速攪拌、フロック形成池18での緩速攪拌、沈殿池20での沈降分離の複雑な過程を各工程単位で把握できるため、水処理プロセスの運転条件をより適切かつ容易に決定できる。