本発明は、車両用ステアリングシステムに関し、詳しくは、車両衝突時における運転者のステアリング操作部材への二次衝突に対処するための機構に特徴を有するステアリングシステムに関する。
一般的な車両用ステアリングシステムは、車両衝突に依拠するステアリング操作部材(例えば、ステアリングホイール等)への運転者の二次衝突に対処するための各種機構を備えている。多くのステアリングシステムでは、それらの機構の1つとして、車体の一部(例えば、インストゥルメントパネルのリインフォースメント)に固定支持されたステアリングコラム(以下、単に「コラム」という場合がある)が、その車体の一部から離脱することを許容する機構を備える。このコラムの離脱許容機構に関して、下記特許文献に記載されたような技術が存在する。
下記特許文献の技術を簡単に説明すれば、特許文献1に記載の技術は、二次衝突における離脱後のコラムの移動の安定性に考慮して、車両衝突を検知した後に離脱荷重を0にする技術であり、また、特許文献2に記載の技術は、車両衝突後にコラムを車両前方に退避移動させること(以下、「引込」という場合がある)を前提として、その引込のタイミングを制御するという技術である。
特開2002−302047号公報
特開平5−162646号公報
コラムを車体の一部から離脱させるために要する離脱荷重は、二次衝突の衝撃エネルギの効果的な吸収を常に阻害するものではない。例えば、一般にステアリング操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)にはエアバッグ装置が設けられており、エアバッグによる効果的な衝撃吸収という観点からは、展開したエアバッグを背面から支持するための荷重として、ある程度の離脱荷重が存在することが望ましい場合がある。また、例えば、離脱荷重自体も衝撃エネルギ吸収荷重となり得るという観点からも、ある程度の離脱荷重が存在することが望ましい場合がある。上記特許文献1および特許文献2に記載の技術は、離脱荷重を0とすることを前提とした技術であり、上記観点、つまり、離脱荷重の有効的な利用という観点からの配慮がなされておらず、実用性を高めるための改善の余地を残すものとなっている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いステアリングシステムを提供することを課題とする。
本発明のステアリングシステムは、上記課題を解決すべく、操作部材に加わる衝撃に対しての離脱を許容する機構を備えてコラムを車体の一部に固定支持させるコラム支持装置を備えたステアリングシステムにおいて、離脱荷重を比較的大きな第1離脱荷重から比較的小さな第2離脱荷重に低減させるように構成し、その第2離脱荷重を、ステアリング操作部材に設けられてエアバッグを展開させるエアバッグ装置に設定されているエアバッグ支持荷重以上の大きさの荷重としたことを特徴とする。
本発明のステアリングシステムは、コラムの車体の一部からの離脱に要する荷重を切り換え可能とするものの、離脱荷重が低減された状態においても、エアバッグを背面から支持することのできる荷重が存在することから、エアバッグによる効果的な衝撃吸収が可能である。したがって、本発明のステアリングシステムによれば、実用性の高いステアリングシステムが実現する。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。本願発明を含む概念である。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項と(6)項と(8)項とを合わせたものが請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、それぞれ相当する。
(1)ステアリング操作部材を一端部において操作可能に保持するステアリングコラムと、
前記ステアリング操作部材に加わる衝撃に対する前記ステアリングコラムの車体の一部からの設定された離脱方向への離脱を許容する離脱許容機構を備えて、そのステアリングコラムを車体の一部に固定支持させるコラム支持装置と、
前記離脱許容機構の離脱荷重を、比較的大きな第1離脱荷重から比較的小さな第2離脱荷重に低減させる離脱荷重低減機構と
を含んで構成された車両用ステアリングシステム。
本項に記載のステアリングシステムは、コラム支持装置が有する離脱許容機構によってコラムが離脱する際の離脱荷重を変更可能とする態様であり、詳しく言えば、その離脱荷重を低減する離脱荷重低減機構が、比較的高い離脱荷重から、0でない比較的低い荷重に低減させるように構成された態様のステアリングシステムである。本項の態様のステアリングシステムは、離脱荷重を切換え可能とするものの、低い離脱荷重の状態においてもその離脱荷重が0とはならないため、離脱荷重を有効的に利用可能であり、効果的な衝撃吸収が可能となる。したがって、本項に記載のステアリングシステムによれば、実用性の高いステアリングシステムが実現する。
本項の態様における「ステアリング操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)」は、ステアリングホイールがその代表的なものであるが、ステアリングホイールに限定されるものではなく、いわゆるハンドルと呼ばれるような種々の形状のものが含まれる。本項における「ステアリングコラム」も、操作部材を操作可能に保持するとともに車体の一部に支持されるものであればよく、その形状,構造が限定されるものではない。具体的には、一端部に操作部材が固定して取り付けられたステアリングシャフト(以下、単に「シャフト」という場合がある)と、そのシャフトを回転可能に保持するステアリングチューブ(以下、単に「チューブ」という場合がある)とを含んで構成されるものを採用することが可能である。
本項にいう「コラム支持装置」は、通常のステアリング操作に支障をきたさないようにコラムを車体の一部に支持させるものとされることが望ましい。先に述べたシャフトとチューブとを含んで構成されるコラムの場合、具体的には、コラムに設けられたブラケットと、インストゥルメントパネル(以下、「インパネ」という場合がある)のリインフォースメント(以下、「インパネR/F」という場合がある)に設けられた支持部と、それらブラケットと支持部とを連結,締結等する部材を含む構成のものとすることが可能である。
本項にいう「離脱許容機構」は、コラムの車体の一部からの離脱を許容するものであるが、コラムの全体の離脱を許容するものに限定されない。例えば、後に説明するように、コラムが伸縮等可能なものとされており、コラムの一部のみの車体の一部からの離脱を許容するような構成のものであってもよい。つまり、本項の記載における「コラムの車体の一部からの離脱」とは、コラムの一部の離脱をも含む概念であり、同様に、本明細書におけるコラムの移動とは、コラムの一部分の移動をも含む概念である。また、「離脱許容機構」は、操作部材に加わる衝撃によってコラムを離脱可能とする機構である。「離脱方向」は特に限定されるものではなく、例えば、一般的な離脱方向であるコラムの自身の軸線方向への離脱を許容するような構造のものであってもよい。
上記「離脱許容機構」は、コラムにある程度の荷重が作用した場合に、コラムの車体の一部からの離脱が許容される機構であり、言い方を換えれば、衝撃によってコラムに作用する荷重が設定された離脱荷重を超えた場合に、コラムの離脱を許容する機構である。ここでいう「離脱荷重」とは、離脱許容機構において離脱に要する荷重であるが、本項においては、離脱方向にある大きさの荷重が作用してコラムが離脱する場合におけるその大きさの荷重をもって定義される荷重である。例えば、衝撃の加わる方向によりコラムの離脱が阻害される場合もあり、その場合においては、衝撃力の離脱方向の成分が離脱荷重を超える場合であってもコラムが離脱しない場合もあり得るのである。
本項にいう「離脱荷重低減機構」は、上記定義される離脱荷重の大きさを小さくするような機構である。本項における「第1離脱荷重」は離脱荷重低減機構によって低減されない状態での離脱荷重であり、通常状態における離脱と考えることができる。「第2離脱荷重」は、離脱荷重低減機構によって低減された状態での離脱荷重であり、本項に記載の態様では、その荷重の値が0とはならない。離脱荷重低減機構は、駆動源となる何らかのアクチュエータによって駆動されるものであってもよく、また、例えば、操作部材に加わる衝撃力の一部、あるいは、操作部材以外の車体の構成部分に運転者が衝突することによってその部分に加わる衝撃力の一部を伝達する機構を採用し、それら衝撃力の一部によって駆動されるものであってもよい。
(2)前記第2離脱荷重が、1kN以上とされた(1)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、離脱荷重低減機構によって離脱荷重が低減された状態における下限の荷重を規定した態様である。本項に記載の態様によれば、低減された状態においても離脱荷重を有効的に利用して衝撃エネルギを吸収させることが可能である。後に説明するように、エアバッグによる衝撃エネルギの吸収を考えた場合、展開したエアバッグを背面から支持する荷重が存在することが望ましい。本項に記載の態様は、エアバッグによる衝撃エネルギの吸収という観点においても、有効な態様となる。
(3)前記第2離脱荷重が、2kN以下とされた(1)項または(2)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、離脱荷重低減機構によって離脱荷重が低減された状態における上限の荷重を規定した態様である。離脱荷重を低減させる目的の1つは、二次衝突の衝撃が比較的小さい場合、つまり、操作部材に加わる衝撃が比較的小さい場合において、運転者が受ける衝撃をできるだけ小さくすることにある。本項に記載の態様は、そのような目的において有効な態様であり、操作部材に加わる衝撃が小さい場合に、運転者の受ける衝撃を効果的に緩和することが可能である。
(4)前記第1離脱荷重が、2.5kN以上とされた(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、離脱荷重が低減されていない状態における下限の荷重を規定した態様である。一般的に、二次衝突の衝撃が比較的大きい場合、つまり、操作部材に加わる衝撃が比較的大きい場合において、効果的な衝撃吸収の観点から、比較的大きな離脱荷重によって衝撃エネルギ吸収量を多くしたいという要求がある。本項に記載の態様によれば、そのような要求を満足することができ、効果的な衝撃吸収が可能となる。
(5)前記第1離脱荷重が、5kN以下とされた(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、離脱荷重が低減されていない状態における上限の荷重を規定した態様である。通常の状態においては、安定したステアリング操作の観点から、コラムが車体の一部にできるだけしっかりと固定支持されることが望ましい。そのためには、離脱荷重をできるだけ高くすることが望ましい。しかし、離脱荷重が高すぎる場合には、コラムが離脱する際に運転者が受ける衝撃が比較的大きくなる。離脱荷重の上限を規定する本項に記載の態様によれば、運転者の受ける衝撃を効果的に制限することができる。
(6)当該ステアリングシステムが、前記ステアリング操作部材に設けられてエアバッグを展開させるエアバッグ装置を含んで構成された(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様によれば、エアバッグ装置による衝撃エネルギの吸収も行われることから、より効果的な衝撃吸収が可能なステアリングシステムが実現する。
(7)前記第2離脱荷重が、展開された前記エアバッグによる効果的な衝撃吸収が可能な大きさの荷重とされた(6)項に記載の車両用ステアリングシステム。
展開したエアバッグによる衝撃エネルギの吸収を考えた場合、例えば、そのエアバックを背面から支持するための荷重が存在することが望ましい。本項に記載の態様は、離脱荷重が低減された状態においても、適切な大きさの離脱荷重が存在することから、エアバッグによる衝撃エネルギの吸収を効果的に行い得る態様となる。具体的な第2離脱荷重の大きさは、先に述べたように、1kN以上とすることが望ましい。
(8)前記第2離脱荷重が、前記エアバッグ装置に設定されているエアバッグ支持荷重以上の大きさの荷重とされた(6)項または(7)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、離脱荷重が低減された場合においても、エアバッグ装置において望ましいとされているところの荷重であって少なくともエアバッグを背面から支持することのできる荷重を残存させる態様である。本項の態様によれば、エアバッグ支持荷重の存在により、離脱荷重が低減された場合であっても、エアバッグによる効果的な衝撃吸収が可能となる。具体的な第2離脱荷重の大きさは、先に述べたように、1kN以上とすることが望ましい。
(9)前記コラム支持装置が、それぞれが前記ステアリングコラムと車体の一部との各々に設けられて互いに締結される2つの被締結部材と、それら2つの被締結部材が設定された締結力によって締結される状態でそれら2つの被締結部材を締結する締結手段とを備え、少なくともその締結力によって生じる摩擦力に依拠して離脱荷重が決定されるとともにその離脱荷重を上回る荷重が作用する場合に2つの被締結部材の相対移動が許容される構造によって前記離脱許容機構が構成されており、
前記離脱荷重低減機構が、前記締結力を減少させることで離脱荷重を低減させる構造とされた(1)項ないし(8)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、簡単に言えば、コラム支持装置が、摩擦力によってコラムを固定保持するものとされ、その摩擦力によって定まる離脱荷重を超える荷重が作用した場合にコラムの離脱を許容する構造とされており、離脱許容機構がその摩擦力を減少させて離脱荷重を低減する構造とされた態様である。本項の態様は、コラム支持装置および離脱荷重低減機構の構造が簡便であるという利点を有する。本項に記載のコラム支持装置には、例えば、2つの被締結部材の各々に、互いに向かい合う面を設け、それらの面が接する状態であるいはそれらの間に何らかの介装部材を介装させた状態で、それら2つの被締結部材を、ボルト・ナット等の締結手段によって締結させる態様が含まれる。
(10)前記離脱荷重低減機構が、前記締結手段による締結を緩めることによって前記締結力を減少させるものである(9)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、締結手段の作動させる等して締結手段の状態を変化させることで締結力を減少させる態様である。例えば、締結手段にボルト・ナットを採用する場合において、それらボルト・ナットを緩めるように構成された態様が含まれる。
(11)前記コラム支持装置が、前記2つの被締結部材の間に介装させられた介装部材を備え、前記離脱荷重低減機構が、前記介装部材の少なくとも一部を抜き出すことによって前記締結力を減少させるものである(9)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、締結手段の状態を変化させることなく締結力を減少可能な態様の一態様である。具体的には、例えば、ボルト・ナット等の締結手段によって締結される2つの被締結部材の間にスペーサを介在させ、そのスペーサを抜き出すように構成された態様が含まれる。
(12)前記コラム支持装置が、第1介装部材である前記介装部材の他に、その第1介装部材の少なくとも一部を抜き出した状態においても前記2つの被締結部材に対して弾性変形させられた状態となる介装部材である第2介装部材を備えた(11)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、前述の介装部材を抜き出す態様にさらに限定を加えた態様である。本項の態様では、第2介装部材の存在により、第1介装部材を抜き出した場合でも、摩擦力に依拠する離脱荷重を残存させることができ、簡便な構成によって、第1離脱荷重から第2離脱荷重への低減が可能となる。
(13)前記コラム支持装置が、前記ステアリングコラムと車体の一部との両者と係合する状態においてそのステアリングコラムの車体の一部からの離脱時に破断する破断部材を備え、少なくともその破断部材の破断に要する破断力に依拠して離脱荷重が決定されるとともにその離脱荷重を上回る荷重が作用する場合に前記ステアリングコラムの離脱が許容される構造によって前記離脱許容機構が構成されており、
前記離脱荷重低減機構が、前記ステアリングコラムと車体の一部との少なくとも一方と前記破断部材との係合を解除することで離脱荷重を低減させる構造とされた(1)項ないし(8)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、簡単に言えば、コラム支持装置が、コラムを固定支持する部材が破断されることで離脱を許容する機構を備えるように構成された態様であり、離脱荷重低減機構が、その部材を機能させないようにすることで、具体的には、例えば、その部材による支持を衝撃力以外の何らかの力によって解除等することで、離脱荷重を低減させるように構成された態様が含まれる。
(14)前記コラム支持装置が、第1破断部材である前記破断部材の他に、前記ステアリングコラムと車体の一部との両者との係合が解除されない破断部材である第2破断部材を備えた(13)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、前述の破断部材を利用した態様にさらに限定を加えた態様である。本項の態様では、第1破断部材を機能させなくした場合でも、第2破断部材に依拠する離脱荷重を残存させることができ、簡便な構成によって、第1離脱荷重から第2離脱荷重への低減が可能となる。
(15)前記離脱荷重低減機構が、設定された作動条件を充足する場合に作動するものとされ、当該ステアリングシステムが、作動条件を充足する状態を検知するための作動条件充足状態検知器を含んで構成された(1)項ないし(14)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、上記離脱荷重低減機構の作動の有無が決定される際に利用可能な検知器を含んで構成されたステアリングシステムである。本項に記載の態様によれば、作動条件の充足による離脱荷重変更機構の作動を効率的に行うことができる。なお、本項における「作動条件充足状態検知器」は、後に説明するような制御装置を含んで構成されるシステムにおいてのみ有効に機能するというものではない。つまり、上記検知器は、電気的な信号を発するものに限定されるものではなく、機械的なトリガとして機能するようなものも含まれる。例えば、トリガとしての検知器の動作に連動して離脱荷重低減機構が作動するように構成された態様も、具体的に言えば、検知器の検知動作が機械的に伝達されて離脱荷重低減機構が作動するように構成された態様も、本項に記載の態様に含まれるのである。
(16)前記作動条件充足状態検知器が、
前記作動条件が充足されるために必要な状態として、運転者がシートベルトを着用している状態を検知するシートベルト着用検知器を備えた(15)項に記載の車両用ステアリングシステム。
車両衝突時に運転者が操作部材に二次衝突する際の衝撃の大きさは、運転車のシートベルトの着用の有無によって異なる。運転者がシートベルトを着用している場合は、シートベルトによって運転者の有する運動エネルギがある程度吸収されるため、二次衝突の際の衝撃、つまり操作部材に加わる衝撃は比較的小さいものとなる。逆に、シートベルトを着用していない場合は、その衝撃は比較的大きいものとなる。二次衝突の衝撃エネルギを効果的に吸収する場合、その衝撃の大きさに応じて離脱荷重を変更することが望ましい。詳しく言えば、離脱荷重も二次衝突の衝撃エネルギを吸収するための荷重となり得ることから、運転者に与える衝撃を比較的小さいものとするためには、操作部材に加わる衝撃が小さい場合は、大きい場合に比較して、離脱荷重を低減させることが望ましいのである。
本項に記載の態様は、シートベルト着用検知器を備える態様であり、本項の態様によれば、車両の衝突時に、その検知器によってシートベルトを着用していることを検知した場合に、上記離脱荷重低減機構を作動させ、離脱荷重を低減させることが可能となる。したがって、本項の態様は、シートベルトの着用の有無に応じて、効果的な衝撃吸収が可能な態様となる。
本項に記載の「シートベルト着用検知器」は、その構造が特に限定されるものではないが、例えば、シーベルトのバックルの部分に着用・非着用に応じて作動するスイッチを含んで構成されるもの、シートベルトが引き出されている量により着用・非着用を判断するもの等、種々の態様のものを採用することが可能である。なお、シートベルト着用検知器と車両衝突検知器とを含んで作動条件充足状態検知器を構成し、車両が衝突したことと、シートベルトを着用していることとの両方の条件が充足した場合に作動条件が充足されたものとして、離脱荷重低減機構を作動させるような態様で実施することも可能である。
(17)当該ステアリングシステムが、前記作動条件充足状態検知器からの情報に基づいて前記離脱荷重低減機構の作動を制御する制御装置を含んで構成された(15)項または(16)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様には、簡単に言えば、電気的,電子的な制御によって、上記離脱荷重低減機構を作動させるような態様が含まれる。本項に記載の「制御装置」は、リレー等によって構成されるものであってもよく、また、コンピュータを主体として構成されるものであってもよい。
(18)当該ステアリングシステムが、車体の一部から離脱した前記ステアリングコラムの移動に伴う衝撃エネルギ吸収荷重を発生させて、前記ステアリング操作部材に加わる衝撃のエネルギを吸収する衝撃エネルギ吸収装置を含んで構成された(1)項ないし(17)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、上記衝撃吸収エネルギ吸収装置を含んで構成されたシステムであり、その装置による衝撃エネルギの吸収も行われることから、本項に記載の態様によれば、より効果的な衝撃吸収が可能なステアリングシステムが実現する。なお、本項に記載の「衝撃エネルギ吸収装置」は、具体的な構成が特に限定されるものではない。例えば、コラムと車体の一部との一方と係合する状態におけるコラムの移動に伴って、設定された一部分が、コラムと車体の一部との他方の一部分によって変形が強いられる変形部材を備え、その変形部材の変形抵抗に依拠する衝撃エネルギ吸収荷重(以下、「EA荷重」という場合がある)を発生させる構造のものとすることができる。例えば、いわゆる衝撃エネルギ吸収プレート(以下、「EAプレート」という場合がある)を変形部材として採用するような構造のものである。また、コラムが伸縮可能なものとされている場合、その伸縮部において摩擦力が発生するように構成し、その摩擦力がEA荷重とされる構造のものとすることもできる。
以下、離脱荷重低減の概念を説明した後、本発明のいくつかの実施例およびその変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
<離脱荷重低減の概念>
運転者が操作部材に二次衝突した場合、その直後において、車体の一部に支持されたコラムが離脱許容機構によって離脱を許容されるが、その際に要する荷重として、離脱荷重が発生する。図1に、一般的な車両において運転者が操作部材に二次衝突した場合の離脱荷重発生の様子を、概念的に示す。なお、図における横軸は、運転者の車両前方への移動距離(二次衝突後はコラムの移動距離と同じとなる)であり、縦軸は荷重の大きさを表している。また、図は、衝撃エネルギ吸収装置を備えたステアリングシステムに関し、離脱荷重の発生に続き(図に示す離脱荷重域A)、離脱したコラムの車両前方への移動に伴うEA荷重の発生をも表している(図に示すEA荷重域B)。図から解るように、通常時の操舵操作の安定性に鑑みてコラムは支持装置によって車体の一部にしっかりと支持されているため、離脱荷重は、比較的大きな荷重とされている。
二次衝突の衝撃は、同じ衝撃の車両衝突においても、運転者のシートベルトの着用の有無等により、その大きさが異なるものとなる。二次衝突の衝撃が大きい場合は、上記比較的大きな離脱荷重は、二次衝突の衝撃エネルギを効率的に吸収可能な荷重となる。ところが、二次衝突の衝撃エネルギが小さい場合は、運転者に与える衝撃に鑑みれば、その衝撃に応じて低減させることが望ましい。一方、多くのステアリングシステムでは、操作部材にエアバッグ装置が装備されており、二次衝突の初期には、展開したエアバッグによる衝撃吸収が行われる。エアバッグによる効果的な衝撃吸収を行うためには、そのエアバッグの背面から支持するための荷重を存在させることが望ましく、離脱荷重をエアバッグ支持荷重として利用することが望まれる。
以上のことに鑑み、以下の実施例では、離脱荷重を、図における実線で示す第1荷重、つまり、二次衝突の衝撃が大きい場合に対応可能な比較的高い荷重から、図における二点鎖線で示す第2荷重、つまり、0ではない荷重、さらに詳しく言えば、エアバッグ支持荷重として設定された荷重を超える大きさの荷重に低減するように構成されているのである。ちなみに、離脱荷重の大きさに関して具体的な数値を上げれば、第1荷重は2.5kN以上5kN以下とするのが望ましく、第2荷重は、1kN以上2kN以下とすることが望ましい。なお、図では、EA荷重をも低減させているが、以下の実施例において、EA荷重を変更することが必須とされるわけではない。
<第1実施例>
図2に、本実施例のステアリングシステムの全体構成を示す。本ステアリングシステムは、ステアリングコラム10を主体として構成されるものであり、そのコラム10は、インパネR/F12に設けられた1対のコラム取付ブラケット(以下、「取付ブラケット」と略す場合がある)14において、車体の一部に固定支持される。コラム10は、支持された状態では、図に示すように、車両前方側が下方に位置するように傾斜した姿勢で配置されることになる。コラム10は、主として、コラム本体20と、コラム本体20の軸線方向における中間部に設けられたブレークアウェイブラケット(以下、「B.A.BKT」と略す場合がある)22と、前方部に設けられた前方ブラケット24とを含んで構成されており、後に詳しく説明するが、B.A.BKT22と前方ブラケット24との各々が、取付ブラケット14に取付られることで、コラム10は、2箇所において支持されるのである。
コラム10は、後方に位置する部分がインパネ30から車両後方に突出する状態で支持されており、その突出する後端部には、ステアリング操作部材であるステアリングホイール32が取り付けられており、コラム10はステアリングホイール32を操作可能に保持するものとなっている。ちなみに、ステアリングホイール32にはエアバッグ装置34が設けられている。コラム10のインパネ30から突出する部分は、コラムカバー36によって覆われ、また、下部は、インパネロアカバー38によってカバーされている。コラム10の前端部は、図示を省略するインタミディエイトシャフトを介し、車室外に存在する転舵装置に接続される。
図3に、コラム10の側面図を、図4に平面図を、図5に側面断面図を、図6に、B.A.BKT22の部分の斜視図を、それぞれ示す。図3から図5において、右側の端部が車両後方側(ステアリングホイール32側)、左側が車両前方側である。図2に示したように、コラム10は、傾斜した状態で車両に取付けられるため、実際は、図3〜図5における右側の端部は車両後方斜め上方に位置し、左側の端部は車両前方斜め下方に位置する。本実施例では、説明を簡略化するため、特に断りのない限り、それら図における右側を「車両後方側」あるいは単に「後方側」と、左側を「車両前方側」あるいは単に「前方側」と呼び、右側に向かう方向を「車両後方」あるいは単に「後方」、左側に向かう方向を「車両前方」あるいは「前方」と呼んで、説明を行う。
コラム本体20は、シャフト部と、そのシャフト部を挿通させた状態で支持するチューブ部とを含んで構成されている。シャフト部は、車両後方側に位置させられる後部シャフト50と車両前方側に位置させられる前部シャフト52とを含んで構成されている。後部シャフト50はパイプ状に、前部シャフト52はロッド状に形成され、後部シャフト50の前方部に前部シャフト52の後方部が挿入されている。後部シャフト50の前部内周面,前部シャフト52の後部外周面には、それぞれ互いに噛合するスプラインが形成され、後部シャフト50と前部シャフト52は、軸方向に相対移動が可能かつ相対回転が不能な状態で接続されている。また、チューブ部は、車両後方側に位置させられる後部チューブ54と、車両前方側に位置させられる前部チューブ56とを含んで構成されている。後部チューブ54および前部チューブ56は、ともにパイプ状のものであり、後部チューブ54の前方部に前部チューブ56の後方部が挿入されている。後部チューブ54の前方部内面には、パイプ状をなすライナ58が設けられており、このライナ58を介することによって、前部チューブ56は後部チューブ54にがたつきなく挿入される。前部チューブ56の外周面と接触するライナ58の内周面は減摩処理が施されており、後部チューブ54と前部チューブ56との軸方向の相対移動を容易ならしめている。また、後部チューブ54の後端部および前部チューブ56の前端部には、それぞれラジアルベアリング60,62が設けられ、後部チューブ54および前部チューブ56は、それぞれ、ラジアルベアリング60,62を介して、後部シャフト50および前部シャフト52の各々を、それらの中間部において回転可能に支持している。このような構造とされていることで、コラム本体20は、伸縮可能とされているのである。
コラム本体20は、後部チューブ54,前部チューブ56のそれぞれにおいて、車体の一部に取り付けられる。前部チューブ56の前方端部には、先に説明した前方ブラケット24が固定的に設けられており、この前方ブラケット24には、軸挿通穴66が設けられている。インパネR/F12に設けられた1対の取付ブラケット14の各々には、軸穴68が穿設された軸受部材70がそれぞれ固定されており、前方ブラケット24の軸挿通穴66とそれら軸受部材70の軸穴68とに、支持軸72が挿通されることで、コラム本体20は、その支持軸を中心に揺動可能に支持される(図2参照)。一方、後部チューブ54は、B.A.BKT22に保持され、そのB.A.BKT22が1対の取付ブラケット14に取り付けられることで、車体の一部に支持される。詳しく言えば、後部チューブ54には、被保持部材80が固定的に設けられており、この被保持部材80が、B.A.BKT22の構成部分であるチャンネル形状(コの字形状)をなす保持部材82によって保持されるとともに、B.A.BKT22のもう1つの構成部材である被支持プレート84が1対の取付ブラケット14に組み付けられることで、後部チューブ54が車体の一部に支持される。B.A.BKT22の取付ブラケット14に対する取付構造は、後に詳しく説明するため、ここでの説明はひとまず留保する。ちなみに、B.A.BKT22は、取り付けられた状態において、運転者のステアリングホイール32への二次衝突の衝撃の作用により、その取付状態が解除されて、車両前方方向、詳しくは、コラム10の軸線方向に離脱するような構造となっている。
コラム10は、チルト機構90およびテレスコピック機構92を有しており、詳しくは、B.A.BKT22によるコラム本体20を保持する構造が、チルト機構90,テレスコピック機構92を構成するものとされている。B.A.BKT22の保持部材82およびコラム本体20に固定された被保持部材80は、ぞれぞれが、互いに交差する長穴94,96を有しており、それらの長穴94,96に軸部材98が挿入されている。それにより、コラム本体20は、保持部材82に設けられた長穴94の分だけ前記支持軸を中心として揺動可能とされ、また、被保持部材80に設けられた長穴96の分だけ、伸縮可能とされているのである。図3および図4には、チルト機構90およびテレスコピック機構92のロックレバー100が示されており、このロックレバー100を押し上げることにより(図3における実線の位置)、被保持部材80が保持部材82によって強く挟持され、コラム本体20の揺動位置,伸縮位置が固定されるようになっている。位置の調整は、ロックレバー100を押し下げる(図3における2点鎖線の位置)ことによって、固定を解除して行われる。なお、図2〜図5には、チルト機構90によってコラム本体20の車両後方端部が最も上方に位置させられ、テレスコピック機構92により、コラム本体20の車両後方側の部分が最も前方に位置させられた状態が示されている。
運転者が二次衝突する等によって、ステアリングホイール32に衝撃が加わった場合、B.A.BKT22がインパネR/F12に設けられた取付ブラケット14から離脱し、それによって、コラム10の車両後方部分、詳しくは、後部シャフト50,後方チューブ54を含んで構成されるコラム本体20の後方部分およびB.A.BKT22(以下、「コラム移動部」という場合がある)が、車体の一部から、コラム10の軸線方向である離脱方向(図2の白抜矢印の方向)に離脱する。コラム10の離脱する部分は、コラム本体20の収縮を伴って、離脱方向と略同じ方向である移動方向(図2〜図5の太い矢印の方向)に移動する。なお、コラム移動部の移動範囲の終点は、前部シャフト52の上端が後部シャフト50の内径が小さくなっている内面の部分に当接することによって規定される。
本ステアリングシステムは、取付ブラケット14から離脱したコラム移動部の移動に伴って、二次衝突の衝撃のエネルギを吸収する2つの衝撃エネルギ吸収装置を備えている。2つの衝撃エネルギ吸収装置は、いずれも、コラム移動部の移動に伴って、その移動を阻止する方向の抗力、すなわち衝撃エネルギ吸収荷重(EA荷重)を発生させる構造とされており、そのEA荷重の存在下でのコラム移動部の移動を許容することで、衝撃エネルギを吸収するものとされている。図6には、2つの衝撃エネルギ吸収装置の1つである第1EA装置110の要部の斜視が示されている。この図を補足するものとして、図7に、図6における第1EA装置110の要部が示されている部分を拡大して示す。
第1EA装置は、変形部材としての、衝撃エネルギ吸収プレート(EAプレート)112と、そのEAプレート112の変形を強要する変形強要部材としての押付ローラ114とを含んで構成されている。EAプレート112は、衝撃エネルギ吸収荷重を発生させる衝撃エネルギ吸収部材として機能するものであり、B.A.BKT22の車幅方向の略中央の部位に装着されている。押付ローラ114は、肉厚管状の樹脂製のものであり、B.A.BKT22の前端部に設けられた1対の軸支持部材116によって支持されたローラ軸118によって、回転可能に支持されている。
EAプレート112は、帯状の金属材料からなり、概ねU字状に曲げらて形成されている。EAプレート112は、湾曲部120の内側に押付ローラ114の外周面が接する状態とされ、湾曲部120に繋がる上側プレート部122は、B.A.BKT22を構成する被支持プレート84の上面に支持される状態で、車両の前後方向に延在しており、また、湾曲部120に繋がる下側プレート部124は、B.A.BKT22を構成する保持部材82の上板部の下方において、それに略平行な状態で車両の前後方向に延在している。B.A.BKT22には、角穴126が設けられ、この角穴126の両側の各々には、コの字状に屈曲して形成された1対の保持片128が、EAプレート112を挟んで互いに向かい合うように立設されており、この保持片128によって、EAプレート112が位置決めされるとともに、EAプレート112の適正な変形が担保される。
また、上側プレート部122の後端部は、上方に略直角に曲げ起こされるとともに概してT字状に形成された係合部130とされている。コラム10がインパネR/F12に設けられた1対の取付ブラケット14に支持された状態において、係合部130は、取付ブラケット14の各々に両端部が固定された係止バー132の凹所134と係合し、コラム移動部が離脱した際に、係止バー132によって係止されることになる(図8参照)。なお、被支持プレート84の上面には、上側プレート部122の後端部を係止する2つのストッパ136が設けられており、それらストッパ136によって、EAプレートの車両後方側への移動が禁止されている。
運転者の二次衝突によって、離脱したコラム移動部がコラム軸線方向前方(図7の太い矢印の方向)に移動する場合、EAプレート112は、係止バー132によって係合部130が係止された状態で、湾曲部120が押付ローラ114によって前方に押されることになる。それに伴って、湾曲部120の形状を概ね維持したまま、湾曲部120のEAプレート112における位置が遷り動くように変形する。この変形に要する力つまり変形抵抗がEA荷重とされ、コラム移動部がこのEA荷重の存在下で移動することにより、二次衝突の衝撃エネルギが吸収されるのである。
もう1つの衝撃エネルギ吸収装置である第2EA装置150は、チューブ部の伸縮部に設けられている。詳しく言えば、前部チューブ56の外周面には、後部チューブ54の前方端部より前方に、軸線方向に延びる3つの凸条152が形成されている。3つの凸条152は、周方向において3等配の位置に形成されており、それぞれが、後部チューブ54の内周面より僅かに突出する高さに形成されている。そのため、離脱したコラム移動部が移動する際、後部チューブ54の前方端部がそれら3つの凸条152を押し潰しながら、コラム本体20が収縮することになる。この3つの凸条152の変形に要する力が、EA荷重として機能し、コラム移動部は、そのEA荷重の存在下で移動し、衝撃エネルギが吸収されるのである。
次に、先の説明において留保しているところのB.A.BKT22の取付ブラケット14に対する取付構造について、図8〜図10をも参照しつつ説明する。図8は、コラム10が取付ブラケット14に取り付けられた状態を示す車両前方側からの斜視を、図9は、その状態における断面を、図10は、取付構造を分解した斜視を、それぞれ示している。
B.A.BKT22の被支持プレート84には、車幅方向の両端部の各々に、孔とスリットが複合したスリット孔160が設けられている。また、1対の取付ブラケット14の各々には、下面壁を構成する下鍔部162に、取付孔164が設けられている。被支持プレート84と取付ブラケット14の下鍔部162とが、それぞれ被締結部材として機能し、それらが、スリット孔160(詳しくは、それの前端部に形成された孔部161),取付孔164を利用して、締結手段としてのボルト166およびナット168によって締結されることにより、B.A.BKT22が取付ブラケット14に取付られている。
被支持プレート84の上面と、取付ブラケット14の下鍔部162の下面との間には、第1介装部材としての比較的薄い金属製の板を概してL字状に曲げられて形成された薄板スペーサ170と、第2介装部材としての樹脂によって形成された樹脂スペーサ172とが介装される。薄板スペーサ170には、ボルト166の外径より幅の広いスリット174が設けられ、このスリット174にボルト166が挿通している。樹脂スペーサ172は、上面側の四隅の各々に突起176が設けられており、また、下面側にはボルト挿通孔178の周囲から下方に延びだすような円環状のボス180が設けられている。また、被支持プレート84の下面側からフランジ付のカラー182が嵌められており、ボルト166およびナット168は、取付ブラケット14の下鍔部162,薄板スペーサ170,樹脂スペーサ172,被支持プレート84,フランジ付のカラー182を挟持して締結している。なお、樹脂スペーサ172のボス180の外径は、被支持プレート84のスリット孔160の孔部161の内径より僅かに小さく、内径は、フランジ付カラー182の外径より僅かに大きくされている。また、フランジ付のカラー182の先端部は下鍔部162の下面に当接し、締め代が制限されている。
ボルト166およびナット168によって締結された状態において、樹脂スペーサ172の各突起176は押し潰されて弾性変形させられており、被支持プレート84と取付ブラケット14の下鍔部162は、その弾性力に依拠する締結力によって締結された状態となっており、その締結力によって生じる摩擦力によって、被支持プレート84と取付ブラケット14の下鍔部162との相対移動が制限されているのである。ちなみに、被支持プレート84に設けられたスリット孔160のスリット部184は、車両前後方向に延びて車両後方側に開口しており、その幅は、フランジ付のカラー182の外径より大きくされ、かつ、樹脂スペーサ172のボス180の外径よりも小さくされている。そのため、車両前方方向であって、かつ、被支持プレート84の上面および取付ブラケット14の下鍔部162の下面に平行な方向(コラムの軸線方向である)に、上記摩擦力を超える荷重が、被支持プレート84に作用した場合に、被支持プレート84の取付ブラケット14に対する移動が許容されることになる。なお、その移動の際に樹脂スペーサ172のボス180の破断を伴うが、その破断に要する力は無視できるほど小さいものとされている。
このような構造から、本実施例のステアリングシステムでは、上記取付構造を構成する構成要素である取付ブラケット14の下鍔部162,被支持プレート84,薄板スペーサ170,樹脂スペーサ172,フランジ付のカラー182,ボルト166およびナット168等を含んで、コラム10を車体の一部に固定保持するコラム支持装置200が構成されている。なお、本実施例では、上記取付構造は、2箇所において設けられており、その2箇所の取付構造により、コラム支持装置200が構成されているのである。また、そのコラム支持装置200においては、上記摩擦力に依拠して離脱荷重が決定される構造となっており、そのコラム支持装置200は、その離脱荷重を上回る荷重が作用する場合、設定された離脱方向であるコラム軸線方向へのコラム10(詳しくはコラム移動部)の離脱が許容される機構、つまり、離脱許容機構202を備えるものとされているのである。
上記コラム支持装置200を構成する取付構造においては、上記離脱荷重を低減することが可能とされている。各取付構造を構成する第1介装部材である薄板スペーサ170には、上述したようなスリット174が設けられており、そのスリット174は、車両前方側に開口するものとされている。そのため、薄板スペーサ170は、車両後方に向かって抜き出すことが可能とされている。薄板スペーサ170が抜き出された場合には、樹脂スペーサ172の突起176の変形量が小さくなり、その分だけ上記弾性力が減少し、被締結部材である取付ブラケット14の下鍔部162,被支持プレート84を締結する力も減少し、両者の相対移動を制限する摩擦力も減少することになる。その摩擦力の減少により、離脱荷重が低減されるのである。本実施例のステアリングシステムでは、後に詳しく説明するように、薄板スペーサ170は、それの全体が抜き出されるようになっているが、抜き出された状態においても、樹脂スペーサ172の突起176は弾性変形させられた状態にあるため、ある程度の摩擦力が残存し、離脱荷重は0とはならない。したがって、本実施例では、離脱荷重は、薄板スペーサ170が抜き出されていない状態での比較的大きな離脱荷重である第1離脱荷重から、薄板スペーサ170が抜き出された状態での比較的小さな離脱荷重である第2離脱荷重に低減させられることになる。なお、そのような態様に代えて、薄板スペーサ170が抜き出された状態において、樹脂スペーサ172の突起176が弾性変形していない状態とすることで、離脱荷重を0とすることも可能である。また、薄板スペーサ170の全体を抜き出すのではなく、一部分だけを抜き出して離脱荷重を上記第2荷重より高くかつ第1荷重より低い荷重とすることも可能である。具体的には、樹脂スペーサ172の四隅に設けられた突起176のうち、車両後方側の2つの突起176とだけによって挟まれる状態とする態様である。
薄板スペーサ170は、1対の取付ブラケット14に設けられたスペーサ抜出機構によって抜き出される。薄板スペーサ170は、L字状に曲げられたものであり、上下方向に立設する部分が、取付ブラケット14の下鍔部162に設けられた切欠230から上方に延び出すようにされている。2つの薄板スペーサ170の各々の立設する部分は、その各々を両端部において固着する連結バー232によって連結されている。一方、取付ブラケット14の各々の下鍔部162の車両後方側の端部の上面には、その各々に両端部が固定された状態で支持バー234が渡されている。この支持バー234の上面には、固定部材236によって、シリンダ装置240が、車両前後方向に延びる姿勢で固定されている。シリンダ装置240は、シリンダ242と、シリンダ242内に移動可能に設けられたピストン244と、一端部がピストン244に連結されて他端部がシリンダ242から車両前方側に向かって延びるピストンロッド246とを含んで構成されるものであり、ピストンロッド246の車両前方側の端部が上記連結バー232に連結されている。
シリンダ242の内部、詳しくは、ピストン244の車両前方側の空間には、固体薬剤である火薬248が充填されている。この火薬248は、図示を省略するスパーク電極によって着火させられ、高圧気体を発生する。高圧気体は、火薬248が充填されているシリンダ242の空間内に充満させられ、その圧力によって、ピストン244が車両後方側に移動させられる。それに伴って、上記連結バー232が車両後方に向かって移動させられ、上記2つの薄板スペーサ170の各々は、取付ブラケット14の下鍔部162と被支持プレート84との間から抜き出される。ピストン244は、連結バー232がシリンダ242の車両前方側端部に当接するまで移動させられ、薄板スペーサ170の各々は、全体が抜き出されることになる。なお、その状態において、ピストン244はシリンダ242から抜け出て、ピストン244がシリンダ242の車両後方側の端部に引っ掛かるようにされており、ピストン244の車両前方側への移動は阻止される構造となっている。また、シリンダ242の内部に充満させられている高圧気体は、シリンダ242に設けられたガス抜きスリット250から、シリンダ242の外部へ放出される。
以上のような構造から、スペーサ抜出機構は、シリンダ装置240,連結バー232を含んで構成され、そのスペーサ抜出機構、および、薄板スペーサ170とそれが抜出可能とされた構造等を含んで、離脱荷重を低減させる離脱荷重低減機構260(離脱担保機構の一種である)が構成されているのである。なお、シリンダ装置240は、その離脱荷重低減機構260を駆動するアクチュエータ、すなわち、離脱荷重低減機構260の駆動源として機能するものとなっている。
また、連結バー232の上部には、ロの字状に形成された環状部材270が付設されている。環状部材270は、係止バー132の上方において、前記EAプレート112の係合部130を取り囲む状態で配置されている。環状部材270は、連結バー232の移動に伴って車両後方側に移動させられ、その移動途中、EAプレート112の係合部130の上端部と係合する。EAプレート112は、ストッパ136により後方への移動が禁止されているため、環状部材270の移動に伴って、上端部が後方側に引き倒される状態で傾斜させられることになる。係合部130が後方側に傾けられた状態においては、コラム移動部が離脱して車両前方側に移動しても、係合部130は、係止バー132によって係止されず、係止バー132の下を通過することになる。そのため、その状態では、EAプレート112はコラム移動部の移動に伴うEA荷重を発生させず、第1EA装置110による衝撃エネルギの吸収が行われないことになる。
以上のような構造から、シリンダ装置240,連結バー232,環状部材270と、EAプレート112の係合部130と車体の一部に支持された係止バー132との係合の有無を切り換える構造等を含んで、衝撃エネルギ吸収荷重を変更する衝撃エネルギ吸収荷重変更機構(EA荷重変更機構)280が構成されているのである。なお、シリンダ装置240は、EA荷重変更機構280を駆動するアクチュエータとしても機能するものであることから、離脱荷重低減機構260とEA荷重変更機構280との両者に共用の駆動源として機能するものとなっているのである。
本実施例のステアリングシステムでは、離脱荷重低減機構260およびEA荷重変更機構280は、制御装置であるステアリング電子制御ユニット(ECU)300によって作動させられる(図2参照)。車両には、各種のセンサが設けられており、ECU300は、それらのセンサからの信号に基づいて設定された作動条件を充足しているか否かを判断し、作動条件を充足する場合に離脱荷重低減機構260およびEA荷重変更機構280を作動させる。センサは、具体的にいえば、車両の衝突を検知する車両衝突検知器としての車両衝突センサ(C.S)302、運転者がシートベルトを着用している状態を検知するシートベルト着用検知器としてのシートベルトセンサ(S.S)304等である(図2参照)。ちなみに、上記各センサ302,304は、いずれも作動条件充足状態検知器として機能する。
車両衝突時に運転者がステアリングホイール32に二次衝突する際の衝撃の大きさは、運転者のシートベルトの着用の有無によって異なる。運転者がシートベルトを着用している場合は、シートベルトによって運転者の有する運動エネルギがある程度吸収されるため、二次衝突の際の衝撃、つまりステアリングホイール32に加わる衝撃は比較的小さいものとなる。逆に、シートベルトを着用していない場合は、その衝撃は比較的大きいものとなる。運転者に与える衝撃を比較的小さいものとするためには、ステアリングホイール32に加わる衝撃が小さい場合に、大きい場合に比較して、離脱荷重,EA荷重ともに低減させることが望ましい。そのような理由から、本実施例のステアリングシステムでは、ECU300は、車両衝突センサ302が衝突を検知しかつシートベルトセンサ304がシートベルトの着用を検知した場合に、シリンダ装置240に充填された火薬248に着火電流を供給し、離脱荷重低減機構260およびEA荷重変更機構280を作動させるような制御を行うものとされている。
<第2実施例>
図11,12に第2実施例のステアリングシステムにおけるステアリングコラムの取付ブラケットへの取付状態を示す。図11は、2箇所に存在する取付構造の一方をコラムの軸線直角な面で切断した断面図であり、図12はその一方の取付構造を分解した状態を示す斜視図である。なお、本実施例のステアリングシステムは、コラム支持装置,離脱許容機構,離脱荷重低減機構を除き、第1実施例のシステムと略同様の構成であるため、本実施例の説明においては、第1実施例のシステムと同じ構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
取付ブラケット14の下鍔部162の下面側には、嵌合部材330が配設されており、、その嵌合部材330は、自身に設けられた取付穴332と鍔部162に設けられた取付孔164とを利用して、ボルト166およびナット168によって締結されている。また、B.A.BKT22の被支持プレート334には、車幅方向の両端部の各々に、スリット336が設けられており、そのスリット336が嵌合部材330の側面に設けられた溝に嵌め合わされることで、被支持プレート334は取付ブラケットに支持されている。嵌合部材330と被支持プレート334との各々には、1対の貫通穴338,340が、ボルト166を挟む位置に穿設されており、嵌合部材330に被支持プレート334が嵌合された状態において、それらの貫通穴338,340の位置が合わされた状態となっている。貫通穴338,340には、円環状の樹脂カラー342が嵌入され、さらに、その樹脂カラー342には、ワイヤ344(図では、太さが誇張されている)が嵌入されている。
被支持プレート334は、樹脂カラー342とワイヤ344とによって取付ブラケット14との相対移動が制限されているが、被支持プレート334に設けられたスリット336が車両前後方向に延びて車両後方側に開口しているため、ある程度の荷重が、車両前方方向であって、かつ、被支持プレート334の上面および取付ブラケット14の下鍔部162の下面に平行な方向(コラムの軸線方向である)に作用した場合、被支持プレート334は、移動が許容されることになる。詳しく言えば、樹脂カラー342とワイヤ344との両者の破断に要する力である破断力を超える荷重が、被支持プレート334に作用した場合に、被支持プレート334の取付ブラケット14に対する移動が許容されることになるのである。
このような構造から、本実施例のステアリングシステムでは、上記取付構造を構成する構成要素である取付ブラケット14の下鍔部162,被支持プレート334,嵌合部材330,樹脂カラー342,ワイヤ344,ボルト166およびナット168等を含んで、コラム10を車体の一部に固定保持するコラム支持装置320が構成されている。なお、本実施例では、上記取付構造は、2箇所において設けられており、その2箇所の取付構造により、コラム支持装置320が構成されているのである。また、そのコラム支持装置32においては、上記破断力に依拠して離脱荷重が決定される構造となっており、そのコラム支持装置320は、その離脱荷重を上回る荷重が作用する場合に、設定された離脱方向であるコラム軸線方向へのコラム10(詳しくはコラム移動部)の離脱を許容する機構、つまり、離脱許容機構350を備えるものとされているのである。
上記コラム支持装置320を構成する取付構造においては、上記離脱荷重を低減することが可能とされている。各取付構造を構成する破断部材であるワイヤ344は、下方に向かって抜き出すことが可能とされており、ワイヤ344が抜き出された場合には、両者の相対移動を制限する力が、樹脂カラー342とワイヤ344との両者の破断力から、樹脂カラー342の破断力に減少することになる。その破断力の減少により、離脱荷重が低減されるのである。本実施例のステアリングシステムでは、第1破断部材としてのワイヤ344が抜き出されるようになっているが、抜き出された状態においても、第2破断部材としての樹脂カラー342が係合させられた状態にあるため、破断力が残存し、離脱荷重は0とはならない。したがって、本実施例では、離脱荷重は、ワイヤ344が抜き出されていない状態での比較的大きな離脱荷重である第1離脱荷重から、ワイヤ344が抜き出された状態での比較的小さな離脱荷重である第2離脱荷重に低減させられることになる。なお、そのような態様に代えて、1種の破断部材によって嵌合部材330と被支持プレート334を支持し、その破断部材を抜き出すことで、離脱荷重を0とすることも可能である。具体的にいえば、樹脂カラー342とワイヤ344との一方のみを配設し、その一方を抜き出すことにより、離脱荷重を0とするように構成することも可能なのである。
上記ワイヤ344は、被支持プレート334に設けられたワイヤ抜出機構によって抜き出される。2本のワイヤ344の各々は下方に延び出すようにされており、その延び出す部分が、コラム支持装置320の被支持プレート334の下面側を覆うように設けられたカバープレート360の2つの挿通穴362を挿通させられている。カバープレート360の下面側には、内部に固体薬剤である火薬364が充填されたパイロ366が、一対、設けられている。パイロ366は、小型のシリンダ装置であり、カバープレート360に固定された段付状の支持部材368(ピストンとして機能する)に、有底円筒状のハウジング370(シリンダとして機能する)が嵌められた構造をなしている。ワイヤ344は、その下端部が概ね円環状に形成された取付部とされており、各々のワイヤ344は、その取付部において、ハウジング370に固定されたナット372にボルト374を利用して締結されることで、1対のパイロ366の各々に取付けられている。
上記パイロ366は、図示を省略するスパーク電極によって火薬364が着火させられることによって作動する。着火によって火薬364は高圧気体を発生させ、高圧気体がハウジング370の空間内に充満させられる。その圧力によって、ハウジング370が支持部材368から下方側に離脱させられ、それに伴って、ワイヤ344は、樹脂カラー342から抜き出される。なお、ワイヤ344は、自身に鍔状に形成されたストッパ376が、カバープレート360に当接するまで抜き出される。
以上のような構造から、ワイヤ抜出機構は、シリンダ装置であるパイロ366を含んで構成され、そのワイヤ抜出機構、および、ワイヤ344とそれが抜出可能とされた構造等を含んで、離脱荷重を低減させる離脱荷重低減機構380(離脱担保機構の一種である)が構成されているのである。なお、パイロ366は、その離脱荷重低減機構380を駆動するアクチュエータ、すなわち、離脱荷重低減機構380の駆動源として機能するものとなっている。
また、本実施例のステアリングシステムでも、第1実施例の場合と同様、離脱荷重低減機構380は、制御装置であるECU300によって作動させられる。具体的には、車両衝突センサ302が衝突を検知しかつシートベルトセンサ304がシートベルトの着用を検知した場合に、上記パイロ366の火薬364が着火され、離脱荷重低減機構380が作動させられるのである。
なお、上記離脱荷重低減機構380に代えて、図13に示す変形例としての離脱荷重低減機構を採用することが可能である。図に示す離脱荷重低減機構390は、アクチュエータとして、1対のパイロ366に代えて、電磁式ソレノイド392を採用した機構である。電磁ソレノイド392は、カバープレート360の下面に付設されており、電磁ソレノイドが励磁されることによってプランジャピン394が下方に突出する構造とされている。2つワイヤ344の取付部は、連結ロッド396によって連結されており、プランジャピン394の先端が、その連結ロッド396の中間部に当接させられている。本離脱荷重低減機構390では、電磁ソレノイド392を励磁させることで、2本のワイヤ344が樹脂カラー342から抜き出される。
<第3実施例>
図14,15に、第3実施例のステアリングシステムにおけるステアリングコラムの取付ブラケットへの取付構造を示す。図14は、2つの取付ブラケットの内側を示す側面図(一部断面図とされている)であり、図15は、平面図である。なお、本実施例のステアリングシステムは、コラム支持装置,離脱許容機構,離脱荷重低減機構を除き、第1実施例のシステムと略同様の構成であるため、本実施例の説明においては、第1実施例のシステムと同じ構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
本実施例のステアリングシステムにおいては、コラム支持装置400および離脱許容機構402については、第1実施例のものと略同様であるが、1対の薄板スペーサ170は採用されていない。また、1対のボルト166の頭部406はギヤとされている。1対の取付ブラケット14の下鍔部162の上面には、それぞれがその1対のギヤ406の各々と噛合する1対のラック408が配設されており、それらラック408は、連結バー410によって連結されている。連結バー410の中間部には、後に説明するシリンダ装置412が有するピストンロッド414の先端部が固着されている。
シリンダ装置412は、ハウジングとして機能するシリンダ416と、シリンダ416の内部に挿入されたピストン418と、ピストン418と一体化された上述のピストンロッド414とを含んで構成されている。ピストン418は、シリンダ416内部の車両前方側の端部との間に比較的狭い空間を挟んで位置させられ、その空間には、固体薬剤である火薬420が充填されている。また、シリンダ装置412は、1対の取付ブラケット14に渡された支持バー422の上面に固定部材424によって固定支持されている。
上記シリンダ装置412は、図示を省略するスパーク電極によって火薬420が着火させられることによって作動する。着火によって火薬420は高圧気体を発生させ、その圧力によってピストン418が車両後方側に向かって移動する。ピストン418の移動により、ピストンロッド414に連結されているラック408も車両後方に移動し、頭部406がラック408に噛合させられているボルト166が回転させられることになる。一対のボルト166は互いに逆ねじが螺設され、また、図では省略するがナット168は被支持プレート84に対して回転が禁止される構造とされており、上記ギヤ406の回転によって、締結手段としてのボルト166およびナット168による締結が緩められ、被締結部材である被支持プレート84と取付ブラケット14の下鍔部162との締結力が減少させられる。なお、ラック408は、連結バー410がシリンダ416の車両前方側の端部に当接するまで移動するが、その移動量は、ボルト166およびナット168が完全に緩められない程度、つまり、ボルト166およびナット168による締結力が残存するように設定されている。したがって、シリンダ装置412の作動によって、離脱許容機構における離脱荷重は、比較的大きな第1荷重から、0ではない比較的小さな第2荷重へと低減させられることになる。つまり、本実施例のステアリングシステムでは、シリンダ装置412,連結バー410,ラック408,ボルト166,ナット168と、ボルト166およびナット168の締結を緩める構造等を含んで、離脱荷重を低減させる離脱荷重低減機構430(離脱担保機構の一種である)が構成されているのである。なお、シリンダ装置412は、その離脱荷重低減機構430を駆動するアクチュエータ、すなわち、離脱荷重低減機構430の駆動源として機能するものとなっている。
また、本実施例のステアリングシステムでも、第1実施例の場合と同様、離脱荷重低減機構430は、制御装置であるECU300によって作動させられる。具体的には、車両衝突センサ302が衝突を検知しかつシートベルトセンサ304がシートベルトの着用を検知した場合に、上記シリンダ装置412に備えられた火薬364が着火され、離脱荷重低減機構430が作動させられるのである。
<第4実施例>
図16,17に第4実施例のステアリングシステムにおけるステアリングコラムの取付ブラケットへの取付構造を示す。図16は、側断面図であり、図16は下面図である。本実施例のステアリングシステムは、第3実施例と同様に、締結手段による締結を緩めることによって締結力を減少させるものであり、本実施例のステアリングシステムは、離脱荷重低減機構を除き、第3実施例のシステムと略同様の構成であるあるため、本実施例の説明においては、第3実施例のシステムと同じ構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
本実施例のステアリングシステムにおいては、第3実施例のものと同様のコラム支持装置400および離脱許容機構402を備えており、ボルト166およびナット168によって、取付ブラケット14の下鍔部162,被支持プレート84,樹脂スペーサ172,フランジ付のカラー182が挟持されて締結された構造となっている。
ナット168には、レバープレート450が、被支持プレート84と平行に位置する状態で離脱不能に嵌められている。レバープレート450のレバー部452は、車両前方側に延びるように位置させられている。一方、被支持プレート84の下面側には、内部に固体薬剤である火薬454が充填されたパイロ456が設けられている。パイロ456は、小型のシリンダ装置であり、被支持プレート84に固定された段付状の支持部材458(ピストンとして機能する)に、有底円筒状のハウジング460(シリンダとして機能する)が嵌められた構造をなしており、ハウジング460の底部が、レバープレート450のレバー部452に当接するようにして係合させられている。
上記パイロ456は、図示を省略するスパーク電極によって火薬454が着火させられることによって作動する。着火によって火薬454は高圧気体を発生させ、ハウジング456内に充満させれた高圧気体の圧力によって、ハウジング460が支持部材458から離脱させられる。それによって、レバープレート450が、ボルト166を中心に回転させられ、ナット168が回転させられる。ボルト166は、取付ブラケット14の下鍔部162に回転不能に固定されており、ナットの回転168によって、締結手段としてのボルト166およびナット168による締結が緩められ、被締結部材である被支持プレート84と取付ブラケット14の下鍔部162との締結力が減少させられる。レバープレート450は、取付ブラケット14の下鍔部162の下面側に付設されたストッパ462に当接する位置まで回転させられるようにされており、レバープレート450がその位置まで回転した状態においても、そのボルト166およびナット168が完全に緩められない状態、つまり、ボルト166およびナット168による締結力が残存するように設定されている。したがって、パイロ456の作動によって、離脱許容機構402における離脱荷重は、比較的大きな第1荷重から、0ではない比較的小さな第2荷重へと低減させられることになる。以上のような構造から、本実施例のステアリングシステムでは、パイロ456,レバープレート450,ボルト166およびナット168の締結を緩める構造等を含んで、離脱荷重を低減させる離脱荷重低減機構470(離脱担保機構の一種である)が構成されているのである。なお、パイロ456は、その離脱荷重低減機構470を駆動するアクチュエータ、すなわち、離脱荷重低減機構470の駆動源として機能するものとなっている。
図16,図17では、1対の取付構造のうちの一方(車幅方向における左方)しか示していないが、他方の構造は、図16,図17に示す構造を左右対称とした構造であるため、説明は省略する。また、上記離脱荷重低減機構470の作動の制御は、第3実施例の場合と同様であるため、それについての説明も省略する。
運転者が操作部材に二次衝突した場合の運転者の受ける荷重の大きさを示す図である。
第1実施例のステアリングシステムの全体構成を示す図である。
第1実施例のステアリングシステムを構成するステアリングコラムの側面図である。
図3に示すステアリングコラムの平面図である。
図3に示すステアリングコラムも側面断面図である。
図3に示すステアリングコラムのブレークアウェイブラケットの部分を示す斜視図である。
図6における第1EA装置の要部を拡大して示す図である。
ステアリングコラムが取付ブラケットに取り付けられた状態を車両前方側から示す斜視図である。
ステアリングコラムが取付ブラケットに取り付けられた状態を示す断面図である。
ステアリングコラムの取付構造を分解した状態を示す斜視図である。
第2実施例のステアリングシステムにおけるステアリングコラムの取付ブラケットへの取付状態を示す断面図である。
第2実施例のステアリングシステムにおけるステアリングコラムの取付構造を分解した状態を示す斜視図である。
第2実施例の変形例としてのステアリングシステムにおけるステアリングコラムの取付ブラケットへの取付状態を示す断面図である。
第3実施例のステアリングシステムにおけるステアリングコラムの取付ブラケットへの取付構造を示す側面一部断面図である。
第3実施例のステアリングシステムにおけるステアリングコラムの取付ブラケットへの取付構造を示す平面図である。
第4実施例のステアリングシステムにおけるステアリングコラムの取付ブラケットへの取付構造を示す側断面図である。
第4実施例のステアリングシステムにおけるステアリングコラムの取付ブラケットへの取付構造を示す下面図である。
符号の説明
10:ステアリングコラム 12:インパネリインフォースメント 14:コラム取付ブラケット(車体の一部) 20:コラム本体 22:ブレイクアウェイブラケット 32:ステアリングホイール(ステアリング操作部材) 34:エアバッグ装置 84:被支持プレート(被締結部材)90:チルト機構 92:テレスコピック機構 110:第1EA装置(衝撃エネルギ吸収装置) 112:衝撃エネルギ吸収プレート(変形部材) 130:係合部 132:係止バー 150:第2EA装置(衝撃エネルギ吸収装置) 162:下鍔部(被締結部材) 166:ボルト(締結手段) 168:ナット(締結手段) 170:薄板スペーサ(介装部材,第1介装部材) 172:樹脂スペーサ(第2介装部材) 200:コラム支持装置 202:離脱許容機構 240:シリンダ装置(アクチュエータ) 242:シリンダ 244:ピストン 248:火薬(固体薬剤) 260:離脱荷重低減機構 280:衝撃エネルギ吸収荷重変更機構 300:ステアリング電子制御ユニット(制御装置) 302:車両衝突センサ(作動条件充足状態検知器) 304:シートベルトセンサ(シートベルト着用検知器,作動条件充足状態検知器) 320:コラム支持装置 334:被支持プレート(被締結部材) 342:樹脂カラー(破断部材,第2破断部材) 344:ワイヤ(破断部材,第1破断部材) 350離脱許容機構 364:火薬(固体薬剤) 366:パイロ(アクチュエータ) 368:支持部材(ピストン) 370:ハウジング(シリンダ) 380:離脱許容機構 390:離脱荷重低減機構 392:電磁ソレノイド(アクチュエータ) 400:コラム支持装置 402:離脱許容機構 412:シリンダ装置(アクチュエータ) 416:シリンダ 418:ピストン 420:火薬(固体薬剤) 430:離脱荷重低減機構 454:火薬(固体薬剤) 456:パイロ(アクチュエータ) 458:支持部材(ピストン) 460:ハウジング(シリンダ) 470:離脱荷重低減機構