本発明は、車両用ステアリングシステムに関し、詳しくは、車両衝突時における運転者のステアリング操作部材への二次衝突に対処するための装置に特徴を有するステアリングシステムに関する。
一般的な車両用ステアリングシステムは、車両衝突に依拠するステアリング操作部材(例えば、ステアリングホイール等)への運転者の二次衝突に対処するために、各種の装置を備えている。多くのステアリングシステムでは、それらの装置の1つとして、ステアリングコラム(以下、単に「コラム」という場合がある)の移動に伴うエネルギ吸収荷重を発生させて衝撃のエネルギを吸収する衝撃エネルギ吸収装置を備える。この衝撃エネルギ吸収装置に関して、下記特許文献に記載された技術が存在する。効果的な衝撃緩和の観点からすれば、衝撃エネルギ吸収装置による衝撃エネルギの吸収量は二次衝突の衝撃の大きさに対応するものであることが望ましく、そのことを考慮して、下記特許文献に記載された技術では、エネルギ吸収荷重の大きさを変更可能とされている。
特開2002−114159号公報
特開2003−276544号公報
上記特許文献に記載の技術は、エネルギ吸収荷重(以下、「EA荷重」という場合がある)の大きさを変更可能とされてはいるものの、二次衝突の衝撃が大きい場合を考慮して、その大きな衝撃に対応する衝撃エネルギ吸収量を確保するために、EA荷重が大きく設定されている。つまり、上記のような場合、二次衝突の際に運転者が受ける衝撃が大きくなってしまうのであり、実用性という観点において、改善の余地を残すものとなっている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いステアリングシステムを提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明のステアリングシステムは、互いに相対移動可能なコラム前方部とコラム後方部とを有してコラム前方部がコラム前方部支持装置によって車体の一部に支持された伸縮可能型コラムと、衝撃のエネルギをコラム後方部の車両前方方向への移動に伴って吸収する衝撃エネルギ吸収装置とを備えたステアリングシステムにおいて、コラム前方部支持装置が、アクチュエータによってコラム前方部を車両前方方向へ移動させることでコラム後方部の移動量を大きくするコラム後方部移動量増大機構を備えたことを特徴とする。
本発明のステアリングシステムは、コラム後方部の移動量を大きくするコラム後方部移動量増大機構を備えることから、衝撃エネルギ吸収装置の衝撃吸収ストロークを拡大することが可能である。つまり、二次衝突の衝撃が大きな場合であっても、衝撃吸収ストロークを拡大することで比較的小さなEA荷重で衝撃吸収することが可能であり、運転者が受ける衝撃も小さなものとなる。したがって、本発明のステアリングシステムによれば、実用性の高いステアリングシステムが実現する。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項を特定の技術的特徴を有するものに限定した態様が請求項1に相当し、(2)項ないし(4)項の各々が請求項2ないし請求項4の各々に相当し、(5)項および(6)項を組み合わせたものが請求項5に相当する。
(1)互いに相対移動可能とされたコラム前方部とコラム後方部とを有し、それらコラム前方部とコラム後方部とが相対移動することによって伸縮可能な構造とされ、ステアリング操作部材を車両後方側の端部において操作可能に保持するステアリングコラムと、
前記コラム前方部を車体の一部に固定支持させるコラム前方部支持装置と、
前記コラム後方部と車体の一部との間に設けられて、前記ステアリング操作部材に加わる衝撃のエネルギを前記コラム後方部の車両前方方向への移動に伴って吸収する衝撃エネルギ吸収装置と
を含んで構成された車両用ステアリングシステムであって、
前記コラム前方部支持装置が、(a)前記コラム前方部を車両前方方向へ移動させることと(b)前記コラム前方部の車両前方方向への移動を許容することとの一方を行うことで前記コラム後方部の車両前方方向への移動量を大きくするコラム後方部移動量増大機構を備えたことを特徴とする車両用ステアリングシステム。
衝撃エネルギ吸収装置による衝撃エネルギの吸収量は、EA荷重の大きさと、衝撃エネルギを吸収可能な状態でコラムが移動する距離である衝撃吸収ストローク(以下、「EAストローク」という場合がある)とによって定まるものである。本項に記載の態様は、それらのうちのEAストロークを変更可能とした態様であり、そのEAストロークの変更によって衝撃エネルギ吸収量を二次衝突の衝撃の大きさに対応させるものである。本項の態様によれば、EAストロークが小さい状態からそれが大きい状態とすることが可能であり、二次衝突が大きな場合であっても、EAストロークを拡大して比較的小さなEA荷重で衝撃吸収できるため、運転者が受ける衝撃も小さなものとなる。したがって、本項に記載のステアリングシステムによれば、効果的な衝撃緩和が可能なシステムが実現することになる。
本項の態様における「ステアリングコラム」は、伸縮可能型のコラムである。伸縮可能型コラムは、例えば、ステアリングチューブ(以下、「チューブ」という場合がある)が車両前方側と車両後方側との各々に位置する2つのチューブ部材を含んで構成されるとともに、ステアリングシャフト(以下、「シャフト」という場合がある)がそれぞれのチューブ部材に回転可能に保持された2つのシャフト部材を含んで構成され、チューブの伸縮に伴ってシャフトも伸縮するような構造のものとすることが可能である。この場合、車両前方側に位置するチューブ部材とシャフト部材とを含んでコラム前方部が構成され、車両後方側に位置するチューブ部材とシャフト部材とを含んでコラム後方部が構成されることになる。また、シャフトが車両後方側に位置するチューブ部材とは相対移動不能とされているが、車両前方側に位置するチューブ部材と相対移動可能とされることで、チューブの伸縮に伴ってシャフトが車両前後方向への移動を許容されるような構造のものであってもよい。この場合、車両前方側に位置するチューブ部材を含んでコラム前方部が構成され、車両後方側に位置するチューブ部材とシャフトとを含んでコラム後方部が構成されることになる。
一般的に、伸縮可能型のコラムは、コラム前方部とコラム後方部との収縮方向の相対移動が制限される構造、換言すれば、収縮量が制限される構造のものが多い。具体的には、2つのチューブ部材を備える場合には、それら車両前方側および車両後方側の各々に位置するチューブ部材の一方が、それらの他方の一部に当接することによって相対移動が制限される構造や、2つのシャフト部材を備える場合には、それらが当接することによって相対移動が制限される構造とされている。そのような伸縮可能型コラムを備えたシステムは、EA装置が、例えば、コラム後方部の車両前方側への移動に伴って衝撃を吸収するような構成とされた場合には、EAストロークが制約を受けてしまうことになる。しかし、本項の態様によれば、コラム前方部が車両前方へ移動するためEAストロークを拡大することが可能であり、上記のような制限があるコラムに、特に有効なステアリングシステムが実現するのである。
本項における「ステアリング操作部材(以下、「操作部材」という場合がある)」は、ステアリングホイールがその代表的なものであるが、ステアリングホイールに限定されるものではなく、いわゆるハンドル,レバー等、種々の形状のものを採用することが可能である。
本項の態様における「コラム前方部支持装置」は、具体的な構成が特に限定されるものではなく、通常のステアリング操作に支障をきたさないように、コラム前方部を、車体の一部、例えば、インストゥルメントパネル(以下、「インパネ」という場合がある)のリインフォースメント(以下、「インパネR/F」という場合がある)に設けられた支持部等に支持させるものとされることが望ましい。具体的には、例えば、コラム前方部に設けられたブラケットと、そのブラケットと上記支持部とを連結,締結等する部材とを含むような構成のものとすることができる。
本項の態様における「衝撃エネルギ吸収装置(以下、「EA装置」という場合がある)」は、衝撃のエネルギをコラム後方部の車両前方方向への移動に伴って吸収するものであればよく、具体的な構成が特に限定されるものではない。例えば、後に説明する変形部材の変形に要する力をEA荷重として発生させるような構成のものでもよく、また、コラム後方部と車体の一部との間において摩擦力が発生するように構成し、その摩擦力をEA荷重として発生させるような構成のものでもよい。
上記衝撃エネルギ吸収装置のEAストロークを変更するために、本項に記載の態様は、前記コラム前方部支持装置が、コラム前方部を車両前方側に移動させることあるいはその移動を許容することでコラム後方部の移動量を大きくする「コラム後方部移動量増大機構(以下、「移動量増大機構」という場合がある)」を備えている。その移動量増大機構は、その具体的な構成が特に限定されるものではないが、例えば、駆動源となる何らかのアクチュエータによりコラム前方部を移動させるあるいはその移動を許容するような構成のものを採用すれば、比較的簡単な構造のステアリングシステムが実現する。そのアクチュエータは、例えば、電動モータ、高圧気体,高圧液体等を利用したシリンダ装置等、種々の構成のものを採用することができる。
さらに詳しく言えば、上記移動量増大機構において、上記コラム前方部の移動を許容する態様とは、コラム前方部を車両前方方向へ実質的に移動させずに移動が容易な状態とする態様である。具体的には、例えば、A)車体の一部とコラム前方部とをボルト・ナットのような締結手段によって締結してその締結手段の締結力を緩めることでコラム前方部の移動を許容するような態様、B)コラム前方部の車両前方側への移動を車体の一部とコラム前方部との両者に係合する破断部材によって規制してその破断部材を破断させることでコラム前方部の移動を許容するような態様の、種々の態様を採用することができる。これらのような態様を備えるシステムは、コラム前方部が、ステアリングコラムの自重によって移動するような構成であってもよく、また、コラム後方部の移動に伴って移動するような構成であってもよい。
(2)前記コラム後方部移動量増大機構が、
シリンダと、そのシリンダ内部に充満する高圧気体の圧力によってそのシリンダと相対移動するピストンと、前記シリンダ内部に収容されて高圧気体を発生させる固体薬剤とを有し、それらシリンダとピストンとの相対移動によって前記コラム前方部を車両前方方向へ移動させるシリンダ装置を備えた(1)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の移動量増大機構は、アクチュエータとして高圧気体によって作動するシリンダ装置を備えた態様である。そのようなシリンダ装置を備えた移動量増大機構は、構造が比較的単純であり、迅速な動作を行い得るものとなる。また、本項に記載の態様は、固体薬剤を高圧気体の発生源とするものであり、例えば、いわゆる火薬を急激に燃焼させることにより高圧気体を発生させるような態様が含まれる。本項の態様によれば、シリンダ装置とは別体となる駆動源を必要としないことから、移動量増大機構の小型化、ひいては、システム全体の構成の簡素化,単純化が図れることになる。
(3)当該ステアリングシステムが、設定された条件の充足を判断してその条件が充足されたと判断した場合に前記コラム後方部移動量増大機構を作動させる作動制御装置を備えた(1)項または(2)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様には、簡単に言えば、電気的,電子的な制御によって、移動量増大機構を作動させるような態様が含まれる。本項における「作動制御装置」は、例えば、コンピュータを主体とするような構成のものとすることが可能である。そのような作動制御装置を採用すれば、移動量増大機構の作動の有無,作動のタイミング等を、設定された条件に応じて、任意に変更可能な移動量増大機構が容易に実現する。本項にいう「設定された条件」は、例えば、車両衝突の衝撃の程度、運転者の体格,運転者の姿勢,シートベルトの着用の有無等の運転者の状態など、種々の諸要因に応じて設定することが可能であり、本項に記載の態様によれば、汎用性に富み,動作特性が適正化された移動量増大機構が容易に実現することになる。
例えば、車両衝突時に運転者が操作部材に二次衝突する際の衝撃の大きさは、運転車のシートベルトの着用の有無によって異なる。運転者がシートベルトを着用している場合、シートベルトによって運動エネルギが相当量吸収され、二次衝突の衝撃エネルギは比較的小さいものとなり、逆に、シートベルトを着用していない場合は、その衝撃エネルギは比較的大きいものとなる。先に述べたように、衝撃エネルギが大きい場合には、EAストロークを拡大させることが望ましい。そのような観点に着目すれば、本項の態様は、「設定された条件」を、運転者がシートベルトを着用していないこととし、車両が衝突した場合に、移動量増大機構を作動させることが可能である。また、例えば、衝突時の車両の速度が速い場合には、二次衝突の衝撃エネルギが大きくなる。そのような観点に着目すれば、本項の態様は、「設定された条件」を、車両の速度が、設定された速度以上であることとし、設定速度以上で車両が衝突した場合に、移動量増大機構を作動させることが可能である。
(4)前記衝撃エネルギ吸収装置が、
前記コラム後方部と車体の一部との一方に配設されて、前記コラム後方部の車両前方方向への移動に伴って前記コラム後方部と前記車体の一部との他方に設けられた変形強要部によって変形させられる変形部材を備え、その変形部材の変形に要する荷重をエネルギ吸収荷重として発生させて前記ステアリング操作部材に加わる衝撃のエネルギを吸収する構造とされた(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、衝撃エネルギ吸収装置の構造を具体的な一構造に限定した態様であり、本項の態様には、いわゆる衝撃エネルギ吸収プレート(以下、「EAプレート」という場合がある)と呼ばれるようなものを変形部材として採用するような構造のものが含まれる。本項の態様は、簡便な構造の衝撃エネルギ吸収装置が実現するという利点を有する。なお、上記のEAプレートを採用する態様では、EAストロークの拡大に、EAプレートの長さを長くすること等の容易な手段によって対応することが可能である。
(5)当該ステアリングシステムが、前記コラム後方部を前記ステアリング操作部材に加わる衝撃に起因して自身に作用する荷重が設定荷重を超える場合に車両前方方向への離脱を許容しつつ車体の一部に支持させるコラム後方部支持装置を含んで構成された(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、コラム後方部が、車両前方方向への離脱が可能な状態で車体の一部に支持された態様である。本項にいう「自身に作用する荷重」とは、コラム後方部支持装置が受ける荷重であり、ひいては、コラム後方部が受ける荷重、つまり、コラム後方部を離脱させようとする荷重である。また、「設定荷重」とは、上記衝撃に対してコラム後方部を支持可能な限界の荷重であって、言い換えれば、コラム後方部を離脱させるのに要する荷重である。本項に記載の態様によれば、コラムがコラム前方部とコラム後方部との両者において車体の一部に支持されることから、コラムをしっかりと保持することが可能であり、また、コラム後方部の車体の一部からの離脱に要する荷重をも、二次衝突の衝撃エネルギを吸収する荷重として利用することが可能となる。
(6)当該ステアリングシステムが、前記ステアリング操作部材への衝突の際に運転者が前記設定荷重に起因して受けるコラム離脱時の衝撃を減少させるコラム離脱時衝撃減少装置を含んで構成された(5)項に記載の車両用ステアリングシステム。
上記のコラム後方部支持装置は、操舵操作の安定性に鑑みて、コラムを車体の一部にしっかりと支持させるものとすることが望ましく、設定荷重は比較的大きな荷重とすることが望ましい。その比較的大きな設定荷重、つまり、離脱に要する大きな荷重は、二次衝突の衝撃エネルギが大きい場合、二次衝突の衝撃エネルギを効率的に吸収可能な荷重となる。しかし、その大きな荷重は、運転者に与える衝撃となる。一般的には、運転者が受ける衝撃は、できるだけ小さいことが望ましく、特に、二次衝突の衝撃エネルギが小さい場合には、運転者が受ける衝撃を小さくすることが望まれる。本項に記載の態様は、「コラム離脱時衝撃減少装置」を備えており、運転者が受けるコラム後方部の離脱時の衝撃を減少させることが可能とされている。つまり、本項に記載の態様によれば、上記のコラム後方部支持装置を備えた態様であっても、効果的な衝撃緩和が可能なシステムとなる。
上記「コラム離脱時衝撃減少装置」は、具体的な構成が特に限定されるものではないが、例えば、設定荷重の大きさを小さくするように構成することで、運転者が受ける衝撃を減少させることが可能である。なお、そのような構成の場合、設定荷重を0にまで減少するような構成のものも含まれる。具体的に例示すれば、コラム後方部支持装置が、摩擦力によってコラム後方部を固定保持するものとされ、その摩擦力によって定まる設定荷重を超える荷重が作用した場合にコラム後方部の離脱を許容する構造とされている場合には、コラム離脱時衝撃減少装置をその摩擦力を減少させることで設定荷重を減少させる構造とすることができる。また、例えば、強制離脱、つまり、強制的にコラム後方部を車両前方へ移動させることで、結果的に設定荷重を0とするように構成することも可能である。ただし、そのような構成の場合、EAストロークをできるだけ大きくする等の観点からすれば、可及的に移動量を小さくすることが望ましい。
上記コラム離脱時衝撃減少装置を備えるシステムの場合には、その作動の有無と前記移動量増大機構の作動の有無とが、必ずしも関係付けられることを要しない。例えば、移動量増大機構の作動の有無に関わらず常にコラム離脱時衝撃減少装置を作動させるようにすることも可能であり、移動量増大機構を作動させない場合にのみコラム離脱時衝撃減少装置を作動させることも可能である。また、例えば、移動量増大機構とともにコラム離脱時衝撃減少装置をも作動させることも可能であり、そのような場合には、両者のアクチュエータを共用のものとすることができ、システムの構成を簡素化することが可能である。なお、コラム離脱時衝撃減少装置が上述したコラム後方部を強制離脱させる構成とされてある程度のEAストロークが減少する場合には、その減少分以上のEAストロークを得ることを目的として、コラム離脱時衝撃減少装置とともに前記移動量増大機構をも作動させるようにしてもよい。
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
図1に、本実施例のステアリングシステムの全体構成を示す。本ステアリングシステムは、ステアリングコラム10を主体として構成されるものであり、そのコラム10は、インパネR/F12に設けられた1対のコラム取付ブラケット(以下、「取付ブラケット」と略す場合がある)14において、車体の一部に固定支持される。コラム10は、支持された状態では、図に示すように、車両前方側が下方に位置するように傾斜した姿勢で配置されることになる。コラム10は、主として、コラム本体20と、コラム本体20の軸線方向における中間部に設けられたブレークアウェイブラケット(以下、「B.A.BKT」と略す場合がある)22と、前方部に設けられた前方ブラケット24とを含んで構成されており、後に詳しく説明するが、B.A.BKT22と前方ブラケット24との各々が、取付ブラケット14に取付られることで、コラム10は、2箇所において支持されるのである。
コラム10は、後方に位置する部分がインパネ30から車両後方に突出する状態で支持されて、その突出する後端部に、ステアリング操作部材であるステアリングホイール32が取り付けられており、コラム10はステアリングホイール32を操作可能に保持するものとなっている。コラム10のインパネ30から突出する部分は、コラムカバー36によって覆われ、また、下部は、インパネロアカバー38によってカバーされている。コラム10の前端部は、後述するインタミディエイトシャフトを介し、車室外に存在する図示を省略する転舵装置に接続される。
図2に、コラム10の側面図を、図3に平面図を、図4に側面断面図を、図5に、B.A.BKT22の部分の斜視図を、それぞれ示す。図2から図4において、右側の端部が車両後方側(ステアリングホイール32側)、左側が車両前方側である。図1に示したように、コラム10は、傾斜した状態で車両に取付けられるため、実際は、図2〜図4における右側の端部は車両後方斜め上方に位置し、左側の端部は車両前方斜め下方に位置する。本実施例では、説明を簡略化するため、特に断りのない限り、それら図における右側を「車両後方側」あるいは単に「後方側」と、左側を「車両前方側」あるいは単に「前方側」と呼び、右側に向かう方向を「車両後方」あるいは単に「後方」、左側に向かう方向を「車両前方」あるいは「前方」と呼んで、説明を行う。
コラム本体20は、シャフト部と、そのシャフト部を挿通させた状態で支持するチューブ部とを含んで構成されている。シャフト部は、車両後方側に位置させられる後部シャフト50と車両前方側に位置させられる前部シャフト52とを含んで構成されている。後部シャフト50はパイプ状に、前部シャフト52はロッド状に形成され、後部シャフト50の前方部に前部シャフト52の後方部が挿入されている。後部シャフト50の前部内周面,前部シャフト52の後部外周面には、それぞれ互いに噛合するスプラインが形成され、後部シャフト50と前部シャフト52は、軸方向に相対移動が可能かつ相対回転が不能な状態で接続されている。また、チューブ部は、車両後方側に位置させられる後部チューブ54と、車両前方側に位置させられる前部チューブ56とを含んで構成されている。後部チューブ54および前部チューブ56は、ともにパイプ状のものであり、後部チューブ54の前方部に前部チューブ56の後方部が挿入されている。後部チューブ54の前方部内面には、パイプ状をなすライナ58が設けられており、このライナ58を介することによって、前部チューブ56は後部チューブ54にがたつきなく挿入される。前部チューブ56の外周面と接触するライナ58の内周面は減摩処理が施されており、後部チューブ54と前部チューブ56との軸方向の相対移動を容易ならしめている。また、後部チューブ54の後端部および前部チューブ56の前端部には、それぞれラジアルベアリング60,62が設けられ、後部チューブ54および前部チューブ56は、それぞれ、ラジアルベアリング60,62を介して、後部シャフト50および前部シャフト52の各々を、それらの中間部において回転可能に支持している。このような構造とされていることで、コラム本体20は、伸縮可能とされているのである。
コラム本体20は、前部チューブ56,後部チューブ54のそれぞれにおいて、車体の一部に取り付けられる。前部チューブ56の前方端部には、先に説明した前方ブラケット24が固定的に設けられており、その前方ブラケット24が1対の取付ブラケット14に固定された支持プレート66に取り付けられることで、前部チューブ56が支持される。前方ブラケット24の支持プレート66に対する取付構造は、後に詳しく説明するため、ここでの説明はひとまず留保する。ちなみに、前方ブラケット24は、軸挿通穴67が設けられて前部チューブ56に固定された被固定部材68と、コの字状に形成されたの2つの側面の各々に軸穴69が穿設された軸受部材70とを含んで構成されており、被固定部材68の軸挿通穴67と軸受部材70の軸穴69とに、支持軸72が挿通されることで、コラム本体20は、その支持軸72を中心に揺動可能とされている(図1参照)。一方、後部チューブ54は、B.A.BKT22に保持され、そのB.A.BKT22が1対の取付ブラケット14に取り付けられて支持される。詳しく言えば、後部チューブ54には、被保持部材80が固定的に設けられており、この被保持部材80が、B.A.BKT22の構成部分であるチャンネル形状(コの字形状)をなす保持部材82によって保持されるとともに、B.A.BKT22のもう1つの構成部材である被支持プレート84が1対の取付ブラケット14に組み付けられることで、後部チューブ54が支持される。B.A.BKT22の取付ブラケット14に対する取付構造についても、ここでの説明はひとまず留保し、後に詳しく説明する。ちなみに、B.A.BKT22は、取り付けられた状態において、運転者のステアリングホイール32への二次衝突の衝撃の作用により、その取付状態が解除されて、車両前方方向、詳しくは、コラム10の軸線方向に離脱するものとされている。
コラム10は、チルト機構90およびテレスコピック機構92を有しており、詳しくは、B.A.BKT22によるコラム本体20を保持する構造が、チルト機構90,テレスコピック機構92を構成するものとされている。B.A.BKT22の保持部材82およびコラム本体20に固定された被保持部材80は、ぞれぞれが、互いに交差する長穴94,96を有しており、それらの長穴94,96に軸部材98が挿入されている。それにより、コラム本体20は、保持部材82に設けられた長穴94の分だけ前記支持軸を中心として揺動可能とされ、また、被保持部材80に設けられた長穴96の分だけ、伸縮可能とされているのである。図2および図3には、チルト機構90およびテレスコピック機構92のロックレバー100が示されており、このロックレバー100を押し上げることにより(図2における実線の位置)、被保持部材80が保持部材82によって強く挟持され、コラム本体20の揺動位置,伸縮位置が固定されるようになっている。位置の調整は、ロックレバー100を押し下げる(図2における2点鎖線の位置)ことによって、固定を解除して行われる。なお、図1〜図4には、チルト機構90によってコラム本体20の車両後方端部が最も上方に位置させられ、テレスコピック機構92により、コラム本体20の車両後方側の部分が最も前方に位置させられた状態が示されている。
以上のような構造から、ステアリングコラム10においては、前部シャフト52,前部チューブ56,前方ブラケット24等を含んでコラム前方部104が構成され、後部シャフト50,後部チューブ54,B.A.BKT22等を含んでコラム後方部106が構成されており、コラム10は、それらコラム前方部104とコラム後方部106とが相対移動することによって伸縮可能な構造とされているのである。なお、運転者が二次衝突する等によって、ステアリングホイール32に衝撃が加わった場合、B.A.BKT22がインパネR/F12に設けられた取付ブラケット14から離脱する。つまり、コラム後方部106が、車体の一部からコラム10の軸線方向である離脱方向(図1の白抜矢印の方向)に離脱し、離脱方向と略同じ方向である移動方向(図1〜図4の太い矢印の方向)に移動するのである。ちなみに、コラム後方部106の移動は、後部チューブ54の前端部が前部チューブ56の外径が大きくなっている大径部108に当接することによって制限される。
本ステアリングシステムは、取付ブラケット14から離脱したコラム後方部106の移動に伴って、二次衝突の衝撃のエネルギを吸収する衝撃エネルギ吸収装置110(以下、「EA装置110」という場合がある)を備えている。EA装置110は、コラム後方部106の移動に伴って、その移動を阻止する方向の抗力、すなわちエネルギ吸収荷重(EA荷重)を発生させる構造とされており、そのEA荷重の存在下でのコラム後方部106の移動を許容することで、衝撃エネルギを吸収するものとされている。
図5に、EA装置110の要部の斜視を示し、この図を補足するものとして、図6に、図5におけるEA装置110の要部が示されている部分の断面を拡大して示す。EA装置110は、変形部材としての衝撃エネルギ吸収プレート(EAプレート)112と、そのEAプレート112の変形を強要するガイドブロック114とを含んで構成されている。EAプレート112は、EA荷重を発生させる衝撃エネルギ吸収部材として機能するものであり、B.A.BKT22の車幅方向の略中央の部位に装着されている。ガイドブロック114は、樹脂製の部材であり、B.A.BKT22の車幅方向の略中央の前端部に固定されている。
EAプレート112は、帯状の金属材料からなり、概ねU字状に曲げられて形成されている。EAプレート112は、湾曲部120の内側に、ガイドブロック114の前方側に形成された湾曲面が接する状態とされ、湾曲部120に繋がる上側プレート部122は、B.A.BKT22を構成する被支持プレート84の上面に支持される状態で、車両の前後方向に延在しており、また、湾曲部120に繋がる下側プレート部124は、B.A.BKT22を構成する保持部材82の上板部の下方において、それに略平行な状態で車両の前後方向に延在している。B.A.BKT22には、角穴126が設けられ、この角穴126の両側の各々には、コの字状に屈曲して形成された1対の保持片128が、EAプレート112を挟んで互いに向かい合うように立設されており、この保持片128によって、EAプレート112が位置決めされるとともに、EAプレート112の適正な変形が担保される。
また、上側プレート部122の後端部は、上方に略直角に曲げ起こされるとともに概してT字状に形成された係合部130とされている。コラム10がインパネR/F12に設けられた1対の取付ブラケット14に支持された状態において、係合部130は、取付ブラケット14の各々に両端部が固定された係止バー132の凹所134と係合し、コラム後方部106が離脱した際に、係止バー132によって係止されることになる(図7参照)。
運転者の二次衝突によって、離脱したコラム後方部106がコラム軸線方向前方(図6の太い矢印の方向)に移動する場合、EAプレート112は、係止バー132によって係合部130が係止された状態で、湾曲部120がガイドブロック114によって前方に押されることになる。それに伴って、湾曲部120の形状を概ね維持したまま、湾曲部120のEAプレート112における位置が遷り動くように変形する。この変形に要する力つまり変形抵抗がEA荷重とされ、コラム後方部106がこのEA荷重の存在下で移動することにより、二次衝突の衝撃エネルギが吸収されるのである。
次に、先の説明において留保しているところのB.A.BKT22の取付ブラケット14に対する取付構造について、図7〜9,11をも参照しつつ説明する。図7は、コラム10が取付ブラケット14に取り付けられた状態を示す平面を、図8は、コラム後方部106が取付ブラケット14に取り付けられた状態を示す車両後方側からの斜視を、図9は、その状態における断面を、図11は、コラム後方部106の取付構造を分解した斜視を、それぞれ示している。
B.A.BKT22の被支持プレート84には、車幅方向の両端部の各々に、孔とスロットが複合したスロット孔160が設けられている。また、1対の取付ブラケット14の各々には、下面壁を構成する下鍔部162に、取付孔164が設けられている。被支持プレート84と取付ブラケット14の下鍔部162とが、スロット孔160(詳しくは、それの前端部に形成された孔部161),取付孔164を利用して、ボルト166およびナット168によって締結されることにより、B.A.BKT22が取付ブラケット14に取り付けられている。
被支持プレート84の上面と、取付ブラケット14の下鍔部162の下面との間には、樹脂によって形成された樹脂スペーサ172が介装される。樹脂スペーサ172は、上面側の四隅の各々に突起176が設けられており、また、下面側にはボルト挿通孔178の周囲から下方に延び出る円環状のボス180が設けられている。また、被支持プレート84の下面側からフランジ付のカラー182が嵌められており、ボルト166およびナット168は、取付ブラケット14の下鍔部162,樹脂スペーサ172,被支持プレート84,フランジ付のカラー182を挟持して締結している。なお、樹脂スペーサ172のボス180の外径は、被支持プレート84のスロット孔160の孔部161の内径より僅かに小さく、内径は、フランジ付カラー182の外径より僅かに大きくされている。また、フランジ付のカラー182の先端部は下鍔部162の下面に当接し、そのことによって締め代が制限されている。
ボルト166およびナット168によって締結された状態において、樹脂スペーサ172の各突起176は押し潰されて弾性変形させられており、被支持プレート84と取付ブラケット14の下鍔部162は、その弾性力に依拠する締結力によって締結された状態となっており、その締結力によって生じる摩擦力によって、被支持プレート84と取付ブラケット14の下鍔部162との相対移動が制限されているのである。ちなみに、被支持プレート84に設けられたスロット孔160のスロット部184は、車両前後方向に延びて車両後方側に開口しており、その幅は、フランジ付のカラー182の外径より大きくされ、かつ、樹脂スペーサ172のボス180の外径よりも小さくされている。そのため、車両前方方向であって、かつ、被支持プレート84の上面および取付ブラケット14の下鍔部162の下面に平行な方向(コラムの軸線方向である)に、上記摩擦力を超える荷重が、被支持プレート84に作用した場合に、被支持プレート84の取付ブラケット14に対する移動が許容されることになる。なお、その移動の際に樹脂スペーサ172のボス180の破断を伴うが、その破断に要する力は無視できるほど小さいものとされている。
このような構造から、本実施例のステアリングシステムでは、上記取付構造を構成する構成要素である被支持プレート84,樹脂スペーサ172,フランジ付のカラー182,ボルト166およびナット168等を含んで、コラム後方部106を取付ブラケット14に固定保持するコラム後方部支持装置200が構成されている。なお、本実施例では、上記取付構造は、2箇所において設けられており、その2箇所の取付構造により、コラム後方部支持装置200が構成されているのである。また、そのコラム後方部支持装置200においては、上記摩擦力に依拠してコラム後方部を離脱させるのに要する荷重である設定荷重が決定される構造となっており、そのコラム後方部支持装置200は、その設定荷重を上回る荷重が作用する場合、コラム軸線方向へのコラム後方部106の離脱が許容されるのである。
上記コラム後方部支持装置200を構成する取付構造においては、コラム後方部106をしっかりと支持するため、上記設定荷重、つまり、離脱に要する荷重は、比較的大きな荷重とされており、二次衝突の衝撃エネルギを吸収する荷重として利用することが可能である。しかし、二次衝突の衝撃が小さい場合には、その大きな荷重は、コラム後方部106の離脱時に運転者に大きな衝撃を与えることになる。そこで、本ステアリングシステムは、その運転者の受ける衝撃を減少させるため、その設定荷重を減少させることが可能とされている。
取付ブラケット14の各々の下鍔部162の車両後方側の端部の下面には、その各々に両端部が固定された状態で支持バー220が渡されている。この支持バー220の下面には、固定部材222によって、第1シリンダ装置224が、車両前後方向に延びる姿勢で固定されている。その第1シリンダ装置224は、シリンダ226と、シリンダ226と相対移動可能に設けられたピストン228と、一端部がピストン228に固定されて他端部がシリンダ226より車両前方側に突出するピストンロッド230と、ピストンロッド230の他端部に固定的に取り付けられたプランジャヘッド232とを含んで構成されている。ピストン228は、シリンダ226内部の車両後方側の端部との間に比較的狭い空間を挟んで位置させられ、その空間には、固体薬剤である火薬234が充填されている。プランジャヘッド232の車両前方側の端部である先端部は、B.A.BKT22の保持部材82および被支持プレート84の車幅方向の中央であって車両後方側の端部に当接させられている。
上記第1シリンダ装置224は、図示を省略するスパーク電極によって火薬234が着火させられることによって作動する。着火によって火薬234は高圧気体を発生させ、図10に示すように、その圧力によってピストン228が車両前方側に向かって移動する。ピストン228の移動により、プランジャヘッド232においてB.A.BKT22を設定荷重を超える力で押し、B.A.BKT22、つまり、コラム後方部106を取付ブラケット14から車両前方に向かって強制的に離脱させて、離脱に要する荷重を0とすることが可能である。なお、シリンダ228の内部に充満させられている高圧気体は、シリンダ228に設けられたガス抜き穴236から、シリンダ228の外部へ放出される。
以上のような構造から、第1シリンダ装置224を含んで、コラム後方部106の離脱時に運転者が受ける衝撃を減少させるコラム離脱時衝撃減少装置240が構成されている。なお、本実施例は、第1シリンダ装置224がコラム離脱時衝撃減少装置240を駆動するアクチュエータであり、そのコラム離脱時衝撃減少装置240がアクチュエータそのものによって構成されているため、単純な構造のステアリングシステムとなっている。
次に、先の説明において留保しているところの前方ブラケット24の取付ブラケット14に対する取付構造について、図12,14をも参照しつつ説明する。図12は、コラム前方部104が取付ブラケット14に取り付けられた状態における側面断面を、図14は、図12におけるA−A断面を、それぞれ示している。
前方ブラケット24を構成する軸受部材70の上面には取付孔250が設けられている。また、取付ブラケット14の下鍔部162の車両前方側の端部の下面に固定された支持プレート66には、その車幅方向の中央に車両前後方向に延びる長孔252が設けられている。その長孔252は、その長孔252の車両後方側の端部に設けられた円孔部254と、その円孔部254から車両前方に延びるスロット部256とを有し、円孔部254の径がスロット部256の幅より大きくされている。軸受部材70と支持プレート66とは、支持プレート66の上面側から、長孔252の円孔部254と取付孔250とを挿通してフランジ付のカラー258が嵌められて、ボルト260およびナット262によって締結されている。そのような構造によって、前方ブラケット24が取付ブラケット14に取り付けられている。
取付ブラケット14の各々の下鍔部162の中間部の下面には、その各々に両端部が固定された状態で支持バー270が渡されている。この支持バー270の下面には、固定部材272によって、第2シリンダ装置274が、車両前後方向に延びる姿勢で固定されている。その第2シリンダ装置274は、先に述べた第1シリンダ装置224と同様の構成であり、シリンダ276,ピストン278,ピストンロッド280,プランジャヘッド282とを含んで構成されている。ピストン278は、シリンダ276内部の車両後方側の端部との間に比較的狭い空間を挟んで位置させられ、その空間には、固体薬剤である火薬284が充填されている。プランジャヘッド282の車両前方側の端部である先端部は、前方ブラケット24の軸受部材70の車両後方側の端部に当接させられている。
上記第2シリンダ装置274は、図示を省略するスパーク電極によって火薬284が着火させられることによって作動する。着火によって火薬284は高圧気体を発生させ、図13に示すように、その圧力によってピストン278およびプランジャヘッド282が車両前方側に向かって移動させられる。そのプランジャヘッド282の移動により、軸受部材70が車両前方方向へ押され、軸受部材70に固定されたボルト260が支持プレート66の長孔252のスロット部256に沿って移動させられて、軸受部材70は車両前方に移動させられるのである。つまり、コラム前方部104が車両前方に移動させられるのである。そのコラム前方部104が車両前方方向へ移動させられた状態においては、コラム後方部106は、先に述べたようにコラム前方部104の大径部108に当接するまで移動させられるため、コラム後方部104の移動量が大きくされたことになるのである。なお、コラム前方部104を移動させる際に、カラー258が破断するように構成されているが、コラム後方部106の移動によってそれがコラム前方部104に当接した場合であっても、カラー258は破断せず、コラム前方部104は、移動しないようにしっかりと保持されている。つまり、コラム前方部104は、主に第2シリンダ装置274の作動によってのみ移動させられるようになっている。
以上のような構造から、支持プレート66,軸受部材70,ボルト260およびナット262等を含んで、コラム後方部104を取付ブラケット14に固定保持するコラム前方部支持装置290が構成されており、また、そのコラム前方部支持装置290は、コラム前方部104を車両前方方向へ移動させることでコラム後方部106の車両前方方向への移動量を大きくするコラム後方部移動量増大機構292(以下、「移動量増大機構292」という場合がある)を備えるものとされているのである。本実施例では、第2シリンダ装置274はその移動量増大機構292を駆動するアクチュエータであり、移動量増大機構292は駆動源としてのアクチュエータそのものによって構成されている。
なお、本実施例のステアリングシステムは、移動量増大機構292が、コラム前方部104を強制的に移動させるように構成されていたが、コラム前方部104の移動を許容することで、コラム後方部106の移動量を大きくするような構成であってもよい。具体的には、例えば、コラム前方部支持装置が、車体の一部とコラム前方部104とをボルト・ナットのような締結手段によって締結してその締結力によって生じる摩擦力によってコラム前方部104を保持する構造とし、移動量増大機構を、ボルト・ナットの締結力を緩めて摩擦力を減少させることでコラム前方部104の移動を許容するような構成とすることが可能である。また、例えば、コラム前方部支持装置を、支持プレート66と軸受部材70との両者に係合する係合部材によってコラム前方部104の車両前方への移動を規制する構造とし、移動量増大機構を、その係合部材を破断させる、あるいは、引き抜いて、支持プレート66と軸受部材70との少なくとも一方との係合を解除することでコラム前方部104の移動を許容するような構成とすることも可能である。なお、それらコラム前方部104の移動を許容する構成の移動量増大機構を備えるシステムは、車両前方へ移動するコラム後方部106がコラム前方部104に当接し、コラム後方部106の移動に伴ってコラム前方部104が移動することでEAストロークが拡大されるような構成とすることが可能である。
図15に、コラム10が車両に取り付けられた状態を車両の左方からの視点において示す。コラム前方部104を構成する前部シャフト52の前端部は、車体の一部に固定されるとともに車室外に延びて転舵装置に連結されるエクステンションシャフト300に、インタミディエイトシャフト302によって繋がれている。詳しくは、インタミディエイトシャフト302の上端部が、ユニバーサルジョイント304を介して前部シャフト52の前端部に接続され、また、下端部が、ユニバーサルジョイント306を介して、エクステンションシャフト300の一端部に接続されている。インタミディエイトシャフト302は、コラム側部材308と転舵装置側部材310の2部材で構成され、コラム側部材308はロッド状に、転舵装置側部材310はパイプ状に形成され、コラム側部材308の下方部が転舵装置側部材310の上方部に挿入されている。コラム側部材308の下方部外周面,転舵装置側部材310の上方部内周面には、それぞれ互いに噛合するスプラインが形成され、コラム側部材308と転舵装置側部材310とは、相対回転が不能かつ軸方向に相対移動が可能(伸縮可能)な状態で接続されている。そのような構造により、車両の衝突等によりコラム前方部104が車両前方方向へ移動させられた場合には、インタミディエイトシャフト302が収縮するようになっている。
本実施例のステアリングシステムでは、コラム離脱時衝撃減少装置240および移動量増大機構292は、作動制御装置であるステアリング電子制御ユニット(ECU)320によって作動させられる(図1参照)。ECU320は、CPU,ROM,RAM,バス,I/O(入出力インタフェース)等を含んで構成されるコンピュータを主体とするものであり、そのコンピュータのI/Oには、車両に設けられた各種センサが接続されている。ECU320は、それらからの各種情報を入手可能とされており、それら入手した情報に基づいて設定された条件を充足しているか否かを判断し、その設定された条件が充足されたと判断した場合に第1シリンダ装置224,第2シリンダ装置274を作動させる。センサは、具体的にいえば、車両の衝突を検知する車両衝突センサ(C.S)322、運転者のシートベルトの着用の有無を検知するシートベルトセンサ(Sb.S)324、車両の走行速度を検出する車速センサ(Sp.S)326等である。
ECU320によるコラム離脱時衝撃減少装置240と移動量増大機構292との作動の制御、つまり、第1シリンダ装置224と第2シリンダ装置274との作動の制御は、図16にフローチャートを示すエネルギ吸収量変更制御プログラムが実行されることによって行われる。その制御プログラムは、ECU320が有するコンピュータのROMに格納されており、車両のイグニッションスイッチがON状態とされた後、短い時間間隔(例えば、十〜数十msec)をおいて繰り返し実行される。以下、図16のフローチャートに従って、本ステアリングシステムにおける制御の内容を、順次説明する。なお、図17は、設定された条件とその条件が充足されたと判断された場合にECU320によって作動させられる装置との関係を示す表である。
エネルギ吸収量変更制御では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す、他のステップも同様である)において、車両衝突センサ322により車両が衝突した旨の信号が発せられているか否かが判定される。衝突した旨の信号が送られてきていない場合には、コラム離脱時衝撃減少装置240および移動量増大機構292を作動させる必要はないため、S2以下はスキップされる。S1において、衝突した旨の信号が送られてきている場合には、S2において、シートベルトセンサ324の検知情報に基づいて運転者がシートベルトを着用しているか否かが判定される。運転者がシートベルトを着用していないと判定された場合には、ステアリングホイール32への衝突の衝撃が比較的大きくなる。この場合には、エネルギ吸収量を大きくするため、S5において、移動量増大機構292が作動させられるのである。詳しくは、ECU320が、第2シリンダ装置274に充填された火薬284への着火電流の供給を指示し、コラム前方部104を車両前方に移動させてEAストロークが拡大されるのである。
ただし、シートベルトを着用していない場合であっても、比較的遅い走行速度であれば、EAストロークが拡大されたEA装置110のみで衝撃のエネルギを吸収可能であり、比較的大きく設定されたコラム後方部106の離脱に要する荷重は、運転者が受ける衝撃を大きくしてしまうことになる。したがって、本プログラムでは、S5を実行する前に、S3において、車速センサ326に基づいて車両が設定された速度v1以下で、比較的遅い速度で走行しているか否かが判定され、v1以下で走行していると判定された場合には、S4において、コラム離脱時衝撃減少装置240が作動させられるのである。詳しくは、ECU320が、第1シリンダ装置224に充填された火薬234への着火電流の供給を指示し、コラム後方部106が強制的に離脱させられるのである。
一方、運転者がシートベルトをしていると判定された場合には、比較的遅い走行速度で衝突したのであれば、シートベルトによって運転者の運動エネルギは相当量吸収され、二次衝突の衝撃エネルギは比較的小さいものとなる。なお、その運転者がシートベルトを着用している状態で車両が衝突した場合であっても、運転者がステアリング操作部材に二次衝突しない場合もある。例えば、車両が低速で走行している状態で衝突した場合には、シートベルトのみで運転者の運動エネルギを吸収可能となる。離脱時衝撃減少装置240および移動量増大機構292は、衝突することを前提として設計されるものであり、一旦作動させた場合には、コラム10を元の支持状態に復帰させる必要がある。その処置のことを考えれば、二次衝突しない場合は、第1シリンダ装置224および第2シリンダ装置274を作動させないことが望ましい。したがって、本プログラムでは、S2において、シートベルトを着用していると判定された場合には、S6において、車速センサ326に基づいて車両が設定された速度v2以下である低速走行をしているか否かが判定され、v2以下で走行していると判定された場合には、S7以下がスキップされ、第1シリンダ装置224および第2シリンダ装置274は作動させられない。
また、運転者がシートベルトをしていると判定された場合には、先に述べたように、二次衝突の衝撃エネルギは比較的小さいものとなる。しかし、例えば、車両が高速道路等において高速で走行している状態で衝突した場合には、シートベルトだけでは衝撃エネルギを十分に吸収できず、二次衝突の衝撃エネルギは大きなものとなる。したがって、本プログラムでは、S6において、低速走行していないと判定された場合には、S7において、車速センサ326に基づいて車両が設定された速度v3以上である高速走行をしているか否かが判定され、v3以上で走行していると判定された場合には、エネルギ吸収量を大きくするため、つまり、コラム後方部106の離脱に要する荷重をEA荷重として利用するとともにEAストロークを拡大するため、S5において、第2シリンダ装置274のみが作動させられる。
S7において、高速で走行していないと判定された場合、つまり、運転者がシートベルトを着用した状態で車両がv2より速く、かつ、v3より遅い速度で走行中に衝突した場合には、本プログラムでは、EAストロークが拡大されたEA装置110のみで衝撃のエネルギが吸収される。そのため、この場合には、S4において,第1シリンダ装置224が作動させられるとともに、S5において、第2シリンダ装置274が作動させられる。
図18に、本実施例において運転者が操作部材に二次衝突した場合のエネルギ吸収荷重発生の様子を、概念的に示す。なお、図における横軸は、運転者の車両前方への移動距離(二次衝突後はコラム後方部106の移動距離と同じとなる)であり、縦軸はコラムに作用する荷重の大きさを表している。図18(a)は、第1シリンダ装置224および第2シリンダ装置274を作動させていない通常状態のものである。運転者が二次衝突した場合、その直後において、コラム後方部106がコラム後方部支持装置200によって離脱を許容されるが、その際に要する荷重として、離脱荷重が発生する(図に示す離脱荷重域A)。その離脱荷重の発生に続き、離脱したコラムが車両前方に移動するのに伴って、衝撃エネルギ吸収装置110によるEA荷重が発生させられる(図に示すEA荷重域B)。なお、このEA荷重が発生させられるコラム移動距離がEAストロークであり、また、それら2つの荷重に抗ってコラムが車両前方へ移動して衝撃エネルギが吸収されるため、斜線で示す面積が衝撃エネルギ吸収量となる。なお、図18(b)は、第2シリンダ装置274のみを作動させてEAストロークを拡大させた状態のものであり、図18(c)は、第1シリンダ装置224および第2シリンダ装置274の両者を作動させた状態のものである。これらの図から解るように、移動量増大機構292の作動によって、EAストロークが拡大され、EA装置110によるエネルギ吸収量が増加されるのである。また、コラム離脱時衝撃減少装置240の作動によって、コラム後方部106の離脱に要する大きな荷重が0とされ、運転者が受ける衝撃が減少されるのである。
本発明の実施例であるステアリングシステムの全体構成を示す図である。
本発明の実施例であるステアリングシステムを構成するステアリングコラムの側面図である。
図2に示すステアリングコラムの平面図である。
図2に示すステアリングコラムの側面断面図である。
図2に示すステアリングコラムのブレークアウェイブラケットの部分を示す斜視図である。
図5におけるEA装置の要部を拡大して示す図である。
ステアリングコラムが取付ブラケットに取り付けられた状態を示す平面図である。
コラム後方部が取付ブラケットに取り付けられた状態を車両後方側から示す斜視図である。
コラム後方部が取付ブラケットに取り付けられた状態を示す側面断面図である。
図9におけるコラム離脱時衝撃減少装置を作動させた状態を示す図である。
コラム後方部の取付構造を分解した状態を示す斜視図である。
コラム前方部が取付ブラケットに取り付けられた状態を示す側面断面図である。
図12におけるコラム後方部移動量増大機構を作動させた状態を示す側面断面図である。
図12におけるA−A断面図である。
図2に示すステアリングコラムが車両に取り付けられた状態を車両の左方からの視点において示す図である。
図1に示すステアリング電子制御ユニットによって実行されるエネルギ吸収量変更制御プログラムを表すフローチャートである。
設定された条件とその条件が充足されたと判断された場合に作動させられる装置との関係を示す表である。
運転者が操作部材に二次衝突した場合のエネルギ吸収荷重発生の様子を示す概念図である。
符号の説明
10:ステアリングコラム 12:インパネリインフォースメント 14:コラム取付ブラケット(車体の一部) 20:コラム本体 22:ブレイクアウェイブラケット 24:前方ブラケット 32:ステアリングホイール(ステアリング操作部材) 50:後部シャフト 52:前部シャフト 54:後部チューブ 56:前部チューブ 66:支持プレート 70:軸受部材 84:被支持プレート 104:コラム前方部 106:コラム後方部 110:衝撃エネルギ吸収装置(EA装置) 112:衝撃エネルギ吸収プレート(変形部材) 114:ガイドブロック(変形強要部) 166:ボルト 168:ナット 172:樹脂スペーサ 200:コラム後方部支持装置 224:第1シリンダ装置 226:シリンダ 228:ピストン 234:火薬(固体薬剤) 240:コラム離脱時衝撃減少装置 252:長孔 258:カラー 260:ボルト 262:ナット 274:第2シリンダ装置 276:シリンダ 278:ピストン 284:火薬(固体薬剤) 290:コラム前方部支持装置 292:コラム後方部移動量増大機構 302:インタミディエイトシャフト 320:ステアリング電子制御ユニット(作動制御装置)