JP4487371B2 - 誘電体組成物およびこれを用いたセラミックコンデンサ - Google Patents

誘電体組成物およびこれを用いたセラミックコンデンサ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体組成物およびこれを用いたセラミックコンデンサに関し、さらに詳しくは、焼成時の耐還元性に優れ、焼成後には比較的高い比誘電率(例えば500以上)を示すとともに、容量温度特性に優れ(例えばJIS規格のSL特性を満足)、低温焼結可能な誘電体組成物、並びに高絶縁抵抗および比較的高い容量(例えば比誘電率が500以上)を示すとともに、容量温度特性が平坦(例えばJIS規格のSL特性を満足)であり、しかも内部電極にニッケルやニッケル合金などの卑金属を用いることができるセラミックコンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
セラミックコンデンサなどに用いられる誘電体組成物としては、チタン酸バリウム(BaTiO)などの高誘電率系が知られている。この種の組成物では、比誘電率εrを高くできるが、容量温度変化率が大きい。
【0003】
また、誘電体組成物としては、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、ジルコン酸ストロンチウムカルシウム(CaSrZrO)などの温度補償用も知られている。この主の組成物は、容量温度変化率が非常に小さく、カップリング回路、音響回路または画像処理回路などに用いることができる。
【0004】
しかしながら、常誘電体であるが故に、比誘電率εrが30〜200と低く、高容量のコンデンサを得ることが困難である。
【0005】
そこで、誘電率が300以上で容量温度係数が小さい温度補償用磁器誘電体組成物として、チタン酸カルシウム(CaTiO)−チタン酸バリウム(BaTiO)−チタン酸ストロンチウム(SrTiO)系の組成物が提案されている(たとえば、特開昭54−96800号公報参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、セラミックコンデンサの内部電極には、従来から、白金(Pt)、金(Au)または銀(Ag)などの貴金属が用いられているが、コストの点からはニッケル(Ni)などの卑金属を用いることが望ましい。
【0007】
特開昭54−96800号公報記載の誘電体組成物は、耐還元性に劣るため、その焼成を酸化雰囲気で行う必要が生じる。
【0008】
しかしながら、酸化雰囲気で焼成すると、内部電極にNiなどの低コストの卑金属を用いた場合に、Niが酸化されてしまい、結局は、内部電極にPt、AuまたはAgなどの貴金属を用いざるを得なかった。
【0009】
これに対して、耐還元性を有し、内部電極として卑金属を使用可能な誘電体組成物として、チタン酸カルシウム(CaTiO)−ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)−酸化珪素(SiO)−酸化マンガン(MnO)系の組成物(たとえば、特開昭62−180905号公報参照)や、(SrCa)TiO系の組成物(たとえば、特開平8−295560号公報参照)が提案されている。
【0010】
しかしながら、これらの公報記載の組成物では、何れも比誘電率εrが130〜230程度と低く、十分な容量(電気特性)を確保することが困難であった。
【0011】
本発明の第1の目的は、こうした従来技術の問題点を解決し、焼成時の耐還元性に優れ、焼成後には比較的高い誘電率を示すとともに、容量温度特性に優れた誘電体組成物を提供することにある。
【0012】
本発明の第2の目的は、高絶縁抵抗および比較的高い誘電率を示すとともに、容量温度特性が平坦であり、しかも内部電極に卑金属を用いることができるセラミックコンデンサを提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
1.上記目的を達成するために、第1の観点の本発明に係る誘電体組成物は、少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する誘電体組成物であって、
これら2つの組成モル比について、
チタン酸バリウムの組成モル比(X)が0.3<X<0.5であり、
チタン酸カルシウムの組成モル比(Y)が1−Xであることを特徴とする。
【0014】
焼成の前後においては、チタン酸バリウムとチタン酸カルシウムとの組成モル比は変化しないと考えられるので、本明細書における誘電体組成物なる用語は、焼成前後の両方を含む意味である。
【0015】
本発明によれば、常誘電体であるチタン酸カルシウムに、強誘電体であるチタン酸バリウムを特定の割合で添加することで、常誘電相および強誘電相のバランスを図り、焼成時には耐還元性に優れ、焼成後には比較的高い誘電率(たとえば、比誘電率εrが、好ましくは500以上)を示すとともに、容量温度特性にも優れた(たとえば、好ましくはJIS規格のSL特性を満足する)誘電体組成物を提供することができる。なお、本発明において、JIS規格のSL特性を満たすとは、温度に対する静電容量変化率(△C)が、少なくとも20〜85℃の温度範囲内において、−1000〜350ppm/℃(ただし、静電容量Cの基準温度は20℃)である場合である。
【0016】
2.第1の観点の本発明に係る誘電体組成物には、添加物を含んでいてもよい。
【0017】
焼結助剤
この種の添加物としては、たとえば、SiO、Alの他、(Ba,Ca)SiO2+x 、B、LiO、NaO、KO、BaO、CaO、SrOなどの焼結助剤を挙げることができる。中でも、以下に示す何れかの組み合わせを採用することが好ましい。
【0018】
第1に、SiO、Alおよび(Ba,Ca)SiO2+x からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。複合酸化物である(Ba,Ca)SiO2+x は融点が低いため、少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する基本成分に対して反応性が良好なので、本発明ではBaOおよび/またはCaOを上記複合酸化物としても添加することがより好ましい。
【0019】
(Ba,Ca)SiO2+x におけるxは、好ましくは0.8〜1.2であり、より好ましくは0.9〜1.1である。xが小さすぎると、すなわちSiOが多すぎると、チタン酸バリウムと反応して誘電体特性を悪化させてしまう。一方、xが大きすぎると、融点が高くなって焼結性を悪化させるため、好ましくない。なお、BaとCaとの比率は任意であり、一方だけを含有するものであってもよい。
【0020】
第2に、M1(ただし、M1は、SiOおよびAlの少なくとも1種)、M2(ただし、M2は、BaO、CaOおよびSrOから選ばれる少なくとも1種)およびM3(ただし、M3は、LiO、NaO、KOおよびBから選ばれる何れか1種)を少なくとも含むことが好ましい。
【0021】
焼結温度を高くすれば、緻密な焼結体が得られるが、内部電極の異常焼結による電極の途切れや、内部電極材質の拡散により容量温度特性が悪化する傾向がある。一方、焼結温度を低くすれば、こうした不都合は生じないが、緻密な焼結体を得ることができなくなる。そこで、内部電極の途切れや容量温度特性の悪化を防ぎながら、緻密な焼結体を得ることが望まれる。上述した第1〜2の焼結助剤を添加することで、内部電極の途切れや容量温度特性の悪化を防止しつつ、緻密な焼結体を好適に得ることができる。
【0022】
この種の焼結助剤は、焼結温度を低下させる作用を有する。また、容量温度特性にはあまり影響を与えない。ただし、添加量が余りに多すぎると、焼結性が悪くなり、絶縁抵抗(IR)が低下する傾向があり、添加量が余りに少なすぎると、焼結性がさらに低下し、絶縁抵抗(IR)が悪化する傾向にある。したがって、これら焼結助剤の添加量は、少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する基本成分100モル%に対して、0.2〜6モル%の範囲が好ましい。
【0023】
第1の焼結助剤を用いた場合には、1200℃という低温でも焼結可能であり、第2の焼結助剤を用いた場合には、1200℃よりも低温で焼結が可能である。添加量が余りに多すぎても少なすぎても、1100℃程度の低温での焼結性が悪く、緻密な焼結体が得られない傾向がある。
【0024】
3.上記目的を達成するために、特に好ましい態様は、以下の第2〜3の観点に係る誘電体組成物である。
【0025】
第2の観点の本発明に係る誘電体組成物は、
チタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを少なくとも含む基本成分と、
SiO、Alおよび(Ba,Ca)SiO2+x (ただし、x=0.8〜1.2)から選ばれる少なくとも1種の添加成分とを有する誘電体組成物であって、
前記基本成分の組成モル比について、
チタン酸バリウムの組成モル比(X)が、0.3<X<0.5、
チタン酸カルシウムの組成モル比(Y)が、1−Xであり、かつ、
前記基本成分100モル%に対する前記添加成分の添加量が、0.2〜6モル%であることを特徴とする。
【0026】
第3の観点の本発明に係る誘電体組成物は、
チタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを少なくとも含む基本成分と、
M1(ただし、M1は、SiOおよびAlの少なくとも1種)、M2(ただし、M2は、BaO、CaOおよびSrOから選ばれる少なくとも1種)およびM3(ただし、M3は、LiO、NaO、KOおよびBから選ばれる何れか1種)からなる添加成分とを有する誘電体組成物であって、
前記基本成分の組成モル比について、
チタン酸バリウムの組成モル比(X)が、0.3<X<0.5、
チタン酸カルシウムの組成モル比(Y)が、1−Xであり、
前記添加成分の組成モル比を三角図(M1,M2,M3)で表したとき、前記添加成分の組成モル比が下記点a〜fで囲まれた領域内であり(図6の外側斜線部分。ただし、境界線上は含まない)、かつ、
前記基本成分100モル%に対する前記添加成分の添加量が、0.2〜6モル%であることを特徴とする。
a:(0.1,0 ,0.9)
b:(0.5,0 ,0.5)
c:(0.7,0.2,0.1)
d:(0.2,0.7,0.1)
e:(0 ,0.5,0.5)
f:(0 ,0.1,0.9)
【0027】
好ましくは、第3の観点の誘電体組成物における前記添加成分の組成モル比は、三角図(M1,M2,M3)で表したとき、前記添加成分の組成モル比が下記点k,b,c,lおよびmで囲まれた領域内である(図6の内側斜線部分である。ただし、境界線上は含まない)。
k:(0.2 ,0 ,0.8)
b:(0.5 ,0 ,0.5)
c:(0.7 ,0.2 ,0.1)
l:(0.35,0.55,0.1)
m:(0 ,0.2 ,0.8)
【0028】
焼結温度を高くすれば、緻密な焼結体が得られるが、内部電極の異常焼結による電極の途切れや、内部電極材質の拡散により容量温度特性が悪化する傾向がある。一方、焼結温度を低くすれば、こうした不都合は生じないが、緻密な焼結体を得ることができなくなる。そこで、内部電極の途切れや容量温度特性の悪化を防ぎながら、緻密な焼結体を得ることが望まれる。上述した観点に係る誘電体組成物では、特定組成のガラス成分を添加することで、1200℃程度の低温で焼成した場合でも、緻密な焼結体を好適に得ることができる。
【0029】
特に、第3の観点の誘電体組成物における添加成分は、焼結温度をさらに低下させる作用を有する。ガラス成分の添加量は、前記チタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する基本成分100モル%に対して、0.2〜6モル%の範囲が好ましい。添加量が余りに多すぎても少なすぎても、1100℃程度の低温での焼結性が悪く、緻密な焼結体が得られない傾向がある。
【0030】
以上のような第3の観点に係る誘電体組成物によれば、1100℃程度の低温で焼成できるため、焼結時の粒成長を抑制でき、素地の膨れなどの異常膨張を効果的に防ぐことができる。
【0031】
4.上述したように、第1〜3の観点の誘電体組成物では、チタン酸バリウムとチタン酸カルシウムとの組成モル比は、チタン酸バリウムの組成モル比(X)が0.3<X<0.5であり、チタン酸カルシウムの組成モル比(Y)が1−Xであることを特徴とするものである。しかしながら、チタン酸バリウムの組成モル比(X)が増加すると、誘電率は増加するものの、容量温度特性がSL特性を満足しなくなる傾向がある。
【0032】
これに対し、チタン酸カルシウムの組成モル比(Y)が増加すると、容量温度特性を満足しなくなり、誘電率が減少する傾向がある。
【0033】
したがって、誘電率および容量温度特性のバランスをよりとるためには、チタン酸バリウムの組成モル比(X)が0.35以上0.48以下であり、チタン酸カルシウムの組成モル比(Y)が1−Xであることが好ましく、特に好ましくは、Xが0.35以上0.4以下であり、Yが1−Xである。
【0034】
5.第1〜3の観点の本発明に係る誘電体組成物は、少なくとも2種の結晶構造を有し、この結晶構造の少なくとも一種が、チタン酸バリウムを含む正方晶(tetragonal)であり、他の一種が、チタン酸カルシウムを含む立方晶(cubic )、斜方晶(orthorhombic)または正方晶(tetragonal)であることが好ましい。焼成後の組成物において、少なくとも2種の結晶構造を有するのが好ましいのは、チタン酸バリウムとチタン酸カルシウムとの固溶が進行して一つの結晶構造のみを持つようになると、比誘電率(εr)が低下し、高温での誘電損失(tanδ)が悪化する傾向があるからである。
【0035】
6.第1〜3の観点の本発明に係る誘電体組成物は、X線回折解析(CuのKα線)において、ブラッグ角(θ)の2倍値(2θ)が44〜46deg.の範囲内に、チタン酸バリウムを主成分とする(002)結晶面のピークと(200)結晶面のピークとを含む擬立方晶ピークを有することが好ましい。
ここでいう擬立方晶ピークとは、チタン酸バリウムを主成分とする(002)結晶面のピークと、(200)結晶面のピークとの格子定数の差がなくなり、X線回折解析では分離困難になったピークを意味する。この擬立方晶ピークを有する構造とすることにより、容量温度特性を改善できることが見出された。
【0036】
7.第1〜3の観点の本発明に係る誘電体組成物は、
X線回折解析(CuのKα線)において、ブラッグ角(θ)の2倍値(2θ)が44〜48deg.の範囲内に、チタン酸カルシウムを主成分とする(040)結晶面の斜方晶ピークを有することが好ましい。
【0037】
8.第1〜3の観点の本発明に係る誘電体組成物において、
前記チタン酸バリウムが、
実質的にチタン酸バリウムからなるコア部の周囲に、
カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト、ケイ素、バリウムおよびチタン酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種がチタン酸バリウムに固溶された層、または実質的にチタン酸カルシウム、からなるシェル部で囲まれた、
コア−シェル構造を有することが好ましい。
【0038】
本発明でいう「実質的にチタン酸バリウムからなる」とは、完全にチタン酸バリウムから構成されているものの他、本発明の作用効果を奏することができる程度にまで不純物を含有しているものをも含む趣旨であり、「実質的にチタン酸カルシウムからなる」とは、完全にチタン酸カルシウムから構成されているものの他、本発明の作用効果を奏することができる程度にまで不純物を含有しているものをも含む趣旨である。以下、同様である。
こうした構造のチタン酸バリウムを有することで、誘電体組成物の容量温度特性をより平坦にすることができる。
【0039】
9.第1〜3の観点の本発明に係る誘電体組成物において、
前記チタン酸カルシウムが、
実質的にチタン酸カルシウムからなるコア部の周囲に、
カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト、ケイ素、バリウムおよびチタン酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種がチタン酸カルシウムに固溶された層、または実質的にチタン酸バリウム、からなるシェル部で囲まれた、
コア−シェル構造を有することが好ましい。
【0040】
こうした構造のチタン酸カルシウムを有することで、誘電体組成物の容量温度特性をより平坦にすることができる。
【0041】
中でも、上述した本発明の誘電体組成物において、前記チタン酸バリウムが、前記コア−シェル構造を有し、かつ、前記チタン酸カルシウムも前記コア−シェル構造を有することが特に好ましい。こうした構造のチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを有することで、誘電体組成物の容量温度特性をより一層平坦にすることができる。
【0042】
10.上述した第1〜3の観点に係る誘電体組成物には、焼結助剤以外(第1の観点の組成物に限る)にも種々の添加物を含んでいてもよい。
【0043】
耐還元性助剤
この種の添加物としては、たとえば、Mg、Mn、Cr、Co、ZnおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化物(たとえばMgOやMnO)、ならびに/または、焼成によりMgおよび/もしくはMnの酸化物になる化合物(たとえばMnCOやMgCO)、炭酸塩などの耐還元性助剤を挙げることができる。
【0044】
中でも、以下に示す(1)および(2)の何れかを採用することが好ましく、(1)および(2)を併用することがより好ましい。
【0045】
(1)Mnの酸化物および/または焼成によりMnの酸化物になる化合物が好ましく、MnOがより好ましい。この種の耐還元性助剤は、主として、焼結を促進する効果と絶縁抵抗(IR)を改善する効果を有するが、添加量が余りに多すぎると、絶縁抵抗(IR)が低下し、誘電損失(tanδ)が増大する傾向にあるので、その添加量は、少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する基本成分100モル%に対して、0.1〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0046】
(2)Mgの酸化物および/または焼成によりMgの酸化物になる化合物も好ましく、MgOがより好ましい。この種の耐還元性助剤は、主として容量温度特性を平坦化させる効果を有するが、添加量が余りに多すぎると、焼結性が悪くなり、比誘電率(εr)が低下する傾向にあるので、その添加量は、少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する基本成分100モル%に対して、4モル%以下が好ましい。
【0047】
他の添加物
さらに、他の添加物としては、V、MoO、WOおよびCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を挙げることができる。中でも、Vが好ましい。この種の酸化物は、焼結温度を低下させる効果を有するが、添加量が余りに多すぎると、絶縁抵抗(IR)および誘電損失(tanδ)が著しく悪化する傾向があるので、その添加量は、少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する基本成分100モル%に対して、0.01〜0.5モル%の範囲であることが好ましい。
【0048】
11.上述した第1〜3の観点の本発明に係る誘電体組成物は、内部電極と誘電体層とを有するセラミックコンデンサの前記誘電体層の材料として好ましく用いることができる。
【0049】
この場合、前記内部電極が、ニッケル(Ni)またはNi合金で構成されていることがより好ましい。本発明に係る誘電体組成物は、焼成時の耐還元性に優れているので、還元雰囲気中での焼結が可能となり、内部電極としてNiまたはNi合金を用いることができ、コストダウンを図ることができる。
【0050】
なお、このセラミックコンデンサの構造などは特に限定されず、積層型コンデンサの他、単板型コンデンサも含む趣旨である。
【0051】
こうしたコンデンサは、上述した本発明の誘電体組成物と、卑金属(例えば、Cu、Cu合金、Ni又はNi合金等)で構成される内部電極材料とを積層して、同時焼成することにより製造することができる。
【0052】
積層方法は、特に限定されず、印刷法又はシート法が挙げられる。注入法によっても製造することができる。
【0053】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0054】
図1は本発明の積層型セラミックコンデンサの実施形態を示す一部破断斜視図、
図2は本発明の実施例(試料3)における誘電体組成物の微細構造をSEMにより観察した写真、
図3は図2の写真を模式的に表した図、
図4は本発明の実施例(試料3)および比較例(試料8,試料0)の容量温度特性(SL特性)を示すグラフ、
図5は本発明の実施例(試料3)および比較例(試料0)における誘電体組成物のX線回折の測定結果を示すグラフ(ただし、横軸はブラッグ角θの2倍値(2θ、単位はdeg.)、縦軸は強度(I、単位はcps)を表す)、
図6は第3の観点の本発明に係る誘電体組成物におけるガラス成分の三元組成図である。
【0055】
本実施形態では、まず、積層型セラミックコンデンサの構成を説明した後に、この積層型セラミックコンデンサの製造方法を説明する。
【0056】
セラミックコンデンサ
図1に示されるように、本実施形態の積層型セラミックコンデンサ1は、内部電極11と誘電体層12とが交互に積層され、各内部電極に接続している一対の外部電極13を有する。
【0057】
本実施形態では、内部電極11は、NiまたはNi合金から形成され、特に限定はされないが、Ni合金としては、95重量%以上のNiと、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)等の一種以上の合金であることが好ましい。また、NiまたはNi合金中には微量成分として0.1重量%以下のリン(P)等が含有されていても良い。
【0058】
内部電極11の厚み等の諸条件は、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、通常、厚みは1〜5μm、好ましくは2〜3μmである。
【0059】
誘電体層12の材質は、少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する誘電体組成物から構成される。これら2つの組成モル比については、前述のとおりである。前記誘電体組成物には、耐還元性助剤および焼結助剤が添加されていることが好ましい。
【0060】
なお、外部電極13には、通常、銅(Cu)やCu合金、NiやNi合金等が用いられるが、金(Au)や銀(Ag)とパラジウム(Pd)の合金等も使用することができる。外部電極13の厚みは任意であり、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、通常10〜50μmである。
【0061】
また、このような積層型セラミックコンデンサ1の形状やサイズは目的や用途に応じて適宜決定すればよい。たとえば、直方体状の場合は、通常1〜1.6mm×0.5〜0.8mm×0.3〜0.6mm程度である。
【0062】
セラミックコンデンサの製造方法
次に、上記積層型セラミックコンデンサ1の製造方法について説明する。
まず、誘電体層用ペースト、内部電極用ペースト、外部電極用ペーストをそれぞれ製造する。
【0063】
誘電体層用ペーストは、上述した誘電体組成物の組成に応じた誘電体原料と有機ビヒクルとを混練するか、または水溶系塗料として製造される。誘電体原料には、上述した複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることができる。誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上述した誘電体層の組成となるように決定すればよい。誘電体原料は、通常、平均粒子径0.1〜3.0μm程度の粉末として用いられる。
【0064】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものであり、有機ビヒクルに用いられるバインダは、特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、このとき用いられる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法等利用する方法に応じてテルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0065】
また、水溶系塗料とは、水に水溶性バインダ、分散剤等を溶解させたものであり、水溶系バインダは、特に限定されず、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂、エマルジョン等から適宜選択すればよい。
【0066】
内部電極用ペーストは、上述した各種導電性金属や合金からなる導電材料あるいは焼成後に上述した導電材料となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上述した有機ビヒクルとを混練して調製される。また、外部電極用ペーストも、この内部電極用ペーストと同様にして調製される。
【0067】
上述した各ペーストの有機ビヒクルの含有量は、特に限定されず、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されても良い。
【0068】
印刷法を用いる場合は、誘電体ペーストおよび内部電極用ペーストをポリエチレンテレフタレート等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断したのち基板から剥離することでグリーンチップとする。これに対して、シート法を用いる場合は、誘電体ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極ペーストを印刷したのちこれらを積層してグリーンチップとする。
【0069】
次に、このグリーンチップを脱バインダ処理および焼成する。脱バインダ処理は焼成前に行われ、通常の条件で行えばよいが、特に内部電極層の導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合には、空気雰囲気において、昇温速度を5〜300℃/時間、より好ましくは10〜100℃/時間、保持温度を180〜400℃、より好ましくは200〜300℃、温度保持時間を0.5〜24時間、より好ましくは5〜20時間とする。
【0070】
グリーンチップの焼成雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定すればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合には、焼成雰囲気の酸素分圧を好ましくは10−10 〜10−3Paとする。酸素分圧が低すぎると内部電極の導電材が異常焼結を起こして途切れてしまい、酸素分圧が高すぎると内部電極が酸化されてしまうからである。また、焼成の保持温度は、好ましくは1100〜1400℃、より好ましくは1200〜1380℃である。保持温度が低すぎると緻密化が不充分となり、保持温度が高すぎると内部電極の異常焼結による電極の途切れまたは内部電極材質の拡散により容量温度特性が悪化するからである。ただし、上述した第2〜3の観点に係る誘電体組成物を用いれば、1100℃程度の低温でも、内部電極の途切れや容量温度特性の悪化を防止しつつも緻密な焼結体が得られる。
【0071】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とし、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが望ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、窒素ガスと水素ガスとの混合ガスを加湿して用いることが望ましい。
【0072】
還元性雰囲気で焼成した場合は、コンデンサチップの焼結体にアニールを施すことが望ましい。アニールは誘電体層を再酸化するための処理であり、これにより絶縁抵抗を増加させることができる。アニール雰囲気の酸素分圧は、好ましくは10−4Pa以上、より好ましくは10−4〜10Paである。酸素分圧が低すぎると誘電体層の再酸化が困難となり、酸素分圧が高すぎると内部電極が酸化されるおそれがある。アニールの際の保持温度は、1100℃以下、より好ましくは500〜1100℃である。保持温度が低すぎると誘電体層の再酸化が不充分となって絶縁抵抗が悪化し、その加速寿命も短くなる。また、保持温度が高すぎると内部電極が酸化されて容量が低下するだけでなく、誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性、絶縁抵抗およびその加速寿命が悪化する。なお、アニールは昇温行程および降温行程のみから構成することもできる。この場合には、温度保持時間はゼロであり、保持温度は最高温度と同義である。
【0073】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を0〜20時間、より好ましくは6〜10時間、冷却速度を50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とし、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、窒素ガスを加湿して用いることが望ましい。
【0074】
ちなみに、上述した脱バインダ処理、焼成およびアニール工程において、窒素ガスや混合ガスを加湿するためには、たとえば、ウェッター等を用いることができる。この場合の水温は5〜75℃とすることが望ましい。
【0075】
また、これら脱バインダ処理、焼成およびアニールは連続して行っても互いに独立して行っても良い。これらを連続して行う場合には、脱バインダ処理ののち冷却することなく雰囲気を変更し、続いて焼成の際の保持温度まで昇温して焼成を行い、続いて冷却してアニールの保持温度に達したら雰囲気を変更してアニール処理を行うことがより好ましい。
【0076】
これに対して、これらを独立して行う場合には、焼成に関しては脱バインダ処理時の保持温度まで窒素ガスあるいは加湿した窒素ガス雰囲気下で昇温したのち、雰囲気を変更してさらに昇温を続けることが好ましく、アニールの保持温度まで冷却したのちは、再び窒素ガスまたは加湿した窒素ガス雰囲気に変更して冷却を続けることが好ましい。また、アニールに関しては窒素ガス雰囲気下で保持温度まで昇温したのち雰囲気を変更しても良く、アニールの全工程を加湿した窒素ガス雰囲気としても良い。
【0077】
以上のようにして得られたコンデンサ焼成体に、たとえば、バレル研磨やサンドブラストにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極を形成する。外部電極用ペーストの焼成条件は、たとえば、加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス中で600〜800℃にて10分〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じて外部電極の表面にメッキ等により被覆層を形成する。
【0078】
このようにして製造された本実施形態のセラミックコンデンサ1は、はんだ付け等によってプリント基板上に実装され、各種電子機器に用いられる。
【0079】
【実施例】
次に、本発明の実施の形態をより具体化した実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0080】
以下では、本発明に係る誘電体組成物そのものの特性と、これを誘電体層とする積層型セラミックコンデンサの特性とを評価した。
【0081】
誘電体組成物の作製
平均粒径0.1〜1μmのBaTiO(以下、BTともいう)、CaTiO(以下、CTともいう)、MnCO、MgCO、(BaCa)SiO、SiO、(Si,Ti)O、B、BaO、CaO、SrO、Al、LiOおよびV(いずれも工業用原料粉末)を、表1〜5の試料0〜49の欄に示す配合比になるように秤量した後、これらをそれぞれボールミルにより、約16時間、湿式混合し、これを乾燥することによって誘電体組成物を得た。
【0082】
ちなみに、母材となるBTおよびCTは、BaCO、CaCOおよびTiOをそれぞれ秤量し、ボールミルを用いて約16時間湿式混合し、これを乾燥したのち、約1150℃の温度で空気中にて焼成したものをボールミルにより約50時間湿式粉砕して作製したものを用いても同様の特性が得られた。また、母材となるBTおよびCTは、水熱合成粉、蓚酸塩法などによって作製されたものを用いても同様の特性が得られた。
【0083】
次いで、得られた誘電体組成物に対して、バインダとしてのポリビニルアルコールを0.05重量%となるように添加して、顆粒状になるようにバインダと誘電体組成物とを混合した。そして、この顆粒状の誘電体組成物を0.3g秤量して、1.3トン/cmの圧力で加圧して、直径12mm、厚さ0.7mmの円盤状成形体を得た。
【0084】
次いで、この円盤状成形体を、脱バインダ処理、焼成およびアニールを行って、直径約10mm、厚さ約0.5mmの円盤状焼成体を得た。
【0085】
この脱バインダ処理は、昇温速度300℃/時間、保持温度800℃、保持時間2時間、空気および加湿した窒素ガス雰囲気(1Pa)の条件で行った。また、焼成は、昇温速度200℃/時間、保持温度1200〜1300℃(ただし、試料13〜17は1200℃、試料22〜49は1100℃)、保持時間2時間、冷却速度300℃/時間、加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気(10−4Pa)の条件で行った。アニールは、保持温度900℃、保持時間9時間、冷却速度300℃/時間、加湿した窒素ガス雰囲気(1Pa)の条件で行った。なお、それぞれの雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用い、水温は35℃とした。
【0086】
こうして得られた円盤状焼成体の両面に、In−Ga合金を塗布することで、φ6mmの電極を形成し、試料(以下、円盤状試料ともいう)を作製した。
【0087】
この円盤状試料を用いて、磁器特性、比誘電率(εr)、誘電損失(tanδ)、絶縁抵抗(IR)、容量温度特性を測定した。磁器特性の評価を除いた結果を表1〜5に示す。
【0088】
誘電体組成物の構造など
試料3(実施例)における誘電体組成物の微細構造をSEM(Scanning Electron Microscope)により観察した写真を図2に、これを模式的に表したものを図3に示す。
【0089】
これを見ると、本実施例における誘電体組成物において、強誘電体であるBTは、実質的にチタン酸バリウムからなるコア部2の周囲に、カルシウムおよびマグネシウムがチタン酸バリウムに固溶された層からなるシェル部22で囲まれたコア−シェル構造を有していることが確認された。また、常誘電体であるCTは、実質的にチタン酸カルシウムからなるコア部3の周囲に、マグネシウムおよびバリウムがチタン酸カルシウムに固溶された層からなるシェル部32で囲まれたコア−シェル構造を有していることが確認された。すなわち、強誘電体であるBTおよび常誘電体であるCTともに、コア−シェル構造を有していることが確認された。
輝度が組成によって異なるため、BTを主成分とする粒子は白く、CTを主成分とする粒子は黒く観察される。
【0090】
また、試料3(実施例)と、試料0(比較例)における誘電体組成物の結晶構造を、マックサイエンス社製の製品番号MXP3を用いてX線回折を測定した。照射源には40kVおよび40mAで操作される高強度CuターゲットX線管を用いた。その結果を図5に示す。なお、図5中、縦軸は強度のスケールを表している。
【0091】
これを見ると、試料3(実施例)における誘電体組成物の場合、BTについては、(002)結晶面のブラッグ角(θBT)の2倍値(2θBT)が45.2deg.のときに、最大強度IBTが617cpsを示し、(200)結晶面のブラッグ角(θBT)の2倍値(2θBT)が45.38deg.のときに、最大強度IBTが708cpsを示した。また、CTについては、(040)結晶面のブラッグ角(θCT)の2倍値(2θCT)が47.52deg.のときに、最大強度ICTが720cpsを示した。すなわち、2種類の結晶構造を有することが分かる。
【0092】
これに対し、試料0(比較例)では、BTおよびCTの固溶体のブラッグ角(θBTCT)2倍値(2θBTCT)が47.4deg.のときに、最大強度IBTCTが1716cpsを示した。すなわち、一つの結晶構造しか有していないことが分かる。
【0093】
積層型セラミックコンデンサの作製
表1〜5の試料0〜49について、積層型セラミックコンデンサも作製した。
【0094】
まず、誘電体層用ペーストについては、各誘電体組成物100重量%と、アクリル樹脂4.8重量%、塩化メチレン40重量%、酢酸エチル20重量%、ミネラルスピリット6重量%およびアセトン4重量%とをボールミルにて混合し、ペースト化した。
【0095】
内部電極用ペーストについては、平均粒径0.2〜0.8μmのNi粒子100重量%と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8重量%をブチルカルビトール92重量%に溶解したもの)40重量%と、ブチルカルビトール10重量%とを3本ロールにより混練しペースト化した。
【0096】
外部電極用ペーストについては、平均粒径0.5μmのCu粒子100重量%と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8重量%をブチルカルビトール92重量%に溶解したもの)35重量%と、ブチルカルビトール7重量%とを混練しペースト化した。
【0097】
次に、上述した誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上に厚さ4.5μmおよび15μmのグリーンシートを形成し、この上に内部電極用ペーストを印刷したのち、PETフィルムからグリーンシートを剥離した。次いで、こうして得られた複数枚のグリーンシートを積層し、加圧圧着することでグリーンチップを作製した。内部電極を有するグリーンシートの積層数は4層とした。
【0098】
次いで、グリーンチップを所定サイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニールを行って、積層セラミック焼成体を得た。
【0099】
この脱バインダ処理は、昇温時間15℃/時間、保持温度280℃、保持時間8時間、空気雰囲気の条件で行った。また、焼成は、昇温速度200℃/時間、保持温度1200〜1380℃(ただし、試料13〜17は1200℃、試料22〜49は1100℃)、保持時間2時間、冷却速度300℃/時間、加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気(10−6Pa)の条件で行った。アニールは、保持温度900℃、保持時間9時間、冷却速度300℃/時間、加湿した窒素ガス雰囲気(10−1Pa)の条件で行った。なお、それぞれの雰囲気ガスの加湿にはウェッターを用い、水温は35℃とした。
【0100】
次いで、この積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨したのち、外部電極用ペーストを端面に転写し、加湿した窒素ガスおよび水素ガス雰囲気中において、800℃にて10分間焼成して外部電極を形成し、積層セラミックコンデンサの試料を得た(以下、「コンデンサ試料」ともいう)。各試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、誘電体層の厚みは10μmおよび3μm、内部電極の厚みは2μmであった。
【0101】
こうして得られたコンデンサ試料について、容量温度特性を測定した。結果を表1〜5に示す。
【0102】
評価項目および評価方法
磁器特性は、円盤状試料の寸法と質量とから、焼成時の縮率および磁器密度を算出し、この結果から焼結性の評価を行ったが、何れの試料についても何ら問題はなかった。
【0103】
円盤状試料について、25℃において、LCRメータにより1kHz、1Vrmsの条件下における静電容量、誘電損失(tanδ)を測定した。得られた静電容量と、電極寸法および試料の厚みから比誘電率(εr)を算出した。
【0104】
絶縁抵抗(IR)は、25℃においてDC50Vを、円盤状試料に60秒間印加した後の比抵抗ρを測定し、この測定値と、試料の電極面積および厚みから計算で求めた(単位は「Ωcm」)。
【0105】
容量温度特性については、円盤状試料およびコンデンサ試料をLCRメータを用いて、1Vの電圧での静電容量を測定し、JIS規格のSL特性(基準温度を20℃としたとき、20〜85℃の温度範囲内で容量変化率が−1000〜350ppm/℃)を満足するかどうかを調べた。満足する場合を「○」、満足しない場合を「×」として表1〜5に示すとともに、SL特性につき、+85℃における容量変化率(△C85)の値(単位は%)も併記した。また、SL特性を満足した試料3、これを満足しない試料8,試料0につき、−50〜+150℃の容量変化率ΔC/Cを、図4にグラフ化した。同図には、20℃における容量を基準とした変化率を表している。同図からも明らかなように、試料3のみが良好な温度特性を示すことが理解できる。
【0106】
以上の結果を表1〜5に示す。なお、表1〜5中、絶縁抵抗(IR)の数値において、「mE+n」は「m×10+n」を意味する。
【0107】
【表1】
Figure 0004487371
【0108】
表1の結果から、BTおよびCTの組成モル比につき、以下のことが理解される。試料3〜5の何れも、比誘電率および容量温度特性(SL特性)のバランスがよい。中でも、試料3〜4のバランスが特によい。これに対して、試料0は、比誘電率が低い傾向にあり、しかも容量温度特性(SL特性)が悪化している。試料1〜2は、容量温度特性(SL特性)については良好であるが、比誘電率が低い傾向にある。試料6〜7−1は、比誘電率については良好であるが、容量温度特性(SL特性)が悪化している。
ちなみに、試料3〜5は、本発明の実施例を示しており、試料0〜2,6〜7−10は、本発明の比較例を示している。
【0109】
【表2】
Figure 0004487371
【0110】
表2の結果から、耐還元性助剤の添加量につき、以下のことが理解される。試料8,9の対比から、MnCOをまったく添加しないと、容量温度特性が悪化する傾向にある。試料11,12の対比から、MnCOの添加量が1モル%を超えると、容量温度特性(SL特性)が悪化する傾向にある。ちなみに、MnCOに代えてMnOを添加し、上記と同様の条件でそれぞれ評価したが、何れも同じ結果が得られた。
ちなみに、試料9〜11は、本発明の実施例を示しており、試料8,12は、本発明の参考例を示している。
【0111】
【表3】
Figure 0004487371
【0112】
表3の結果から、焼結助剤の添加量につき、以下のことが理解される。試料13,14の対比から、(BaCa)SiOをまったく添加しないと、焼成温度を高くしないと、緻密化しにくくなる傾向にある。試料16,17の対比から、(BaCa)SiOの添加量が6モル%を超えると、誘電率が低下する傾向にある。
ちなみに、試料14〜16は、本発明の実施例を示しており、試料13,17は、本発明の参考例を示している。
【0113】
【表4】
Figure 0004487371
【0114】
表4の結果から、耐還元性助剤の添加量につき、以下のことが理解される。試料20,21の対比から、MgCOの添加量が4モル%を超えると、焼成温度を高くしないと、緻密化しにくくなる傾向にある。MgCOに代えてMgOを添加し、上記と同様の条件でそれぞれ評価したが、何れも同じ結果が得られた。 ちなみに、試料18〜20は、本発明の実施例を示しており、試料21は、本発明の参考例を示している。
【0115】
【表5】
Figure 0004487371
【0116】
表5の結果から、ガラス成分の組成につき、以下のことが理解される。
【0117】
試料28,43の対比から、M1成分が0.8モルであると、比誘電率が低下し、tanδが増加し、IRが悪化する傾向がある。試料42のようにガラス成分の添加量が多くても、M1成分が0.05モルであったり、M2成分が0モルである場合、試料45のようにM2成分が0.8モルである場合、試料44のようにM3成分が0.05モルである場合も同様である。
ちなみに、試料22〜41,47,48は、本発明の実施例を示しており、試料42〜46,49は、本発明の参考例を示している。
【0118】
なお、上述した表5の結果から、ガラス成分の添加量につき、以下のことも理解できる。試料46,47の対比から、ガラス成分をまったく添加しないと、焼成温度1100℃では緻密な焼結体が得られない傾向にある。試料48,49の対比から、ガラス成分の添加量が7モル%だと、誘電率が低下する傾向にある。
【0119】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明してきたが、本発明はこうした実施形態および実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0120】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、焼成時の耐還元性に優れ、焼成後には比較的高い誘電率を示すとともに、容量温度特性に優れた誘電体組成物を提供することができる。
【0121】
また、本発明によれば、高絶縁抵抗および比較的高い誘電率を示すとともに、容量温度特性が平坦であり、しかも内部電極に卑金属を用いることができるセラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は本発明の積層型コンデンサの実施形態を示す一部破断斜視図である。
【図2】 図2は本発明の実施例(試料3)における誘電体組成物の微細構造をSEMにより観察した写真である。
【図3】 図3は図2の写真を模式的に表した図である。
【図4】 図4は本発明の実施例(試料3)および比較例(試料8,試料0)の容量温度特性(SL特性)を示すグラフである。
【図5】 図5は本発明の実施例(試料3)および比較例(試料0)における誘電体組成物のX線回折の測定結果を示すグラフ(ただし、横軸はブラッグ角θの2倍値(2θ、単位はdeg.)、縦軸は強度(I、単位はcps)を表す)である。
【図6】 図6は第3の観点の本発明に係る誘電体組成物におけるガラス成分の三元組成図である。
【符号の説明】
1… 積層型セラミックコンデンサ
11… 内部電極
12… 誘電体層
13… 外部電極
2… 実質的にチタン酸バリウムからなるコア部
22… 固溶層からなるシェル部
3… 実質的にチタン酸カルシウムからなるコア部
32… 固溶層からなるシェル部

Claims (12)

  1. 少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する誘電体組成物であって、
    これら2つの組成モル比について、
    チタン酸バリウムの組成モル比(X)が、0.3<X<0.5であり、
    チタン酸カルシウムの組成モル比(Y)が、1−Xであり、
    前記チタン酸バリウムが、
    実質的にチタン酸バリウムからなるコア部の周囲に、
    カルシウムとマグネシウムがチタン酸バリウムに固溶された層からなるシェル部で囲まれた、
    コア−シェル構造を有し、
    少なくとも2種の結晶構造を有し、
    この結晶構造の少なくとも一種が、チタン酸バリウムを含む正方晶であり、
    他の一種が、チタン酸カルシウムを含む立方晶、斜方晶または正方晶であり、
    X線回折解析(CuのKα線)において、ブラッグ角(θ)の2倍値(2θ)が44〜46deg.の範囲内に、チタン酸バリウムを主成分とする(002)結晶面のピークと(200)結晶面のピークとを含む擬立方晶ピークを有し、
    X線回折解析(CuのKα線)において、ブラッグ角(θ)の2倍値(2θ)が44〜48deg.の範囲内に、チタン酸カルシウムを主成分とする(040)結晶面の斜方晶ピークを有する誘電体組成物。
  2. 少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する誘電体組成物であって、
    これら2つの組成モル比について、
    チタン酸バリウムの組成モル比(X)が、0.3<X<0.5であり、
    チタン酸カルシウムの組成モル比(Y)が、1−Xであり、
    前記チタン酸カルシウムが、
    実質的にチタン酸カルシウムからなるコア部の周囲に、
    カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト、ケイ素、バリウムおよびチタン酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種がチタン酸カルシウムに固溶された層、または実質的にチタン酸バリウム、からなるシェル部で囲まれた、
    コア−シェル構造を有し、
    少なくとも2種の結晶構造を有し、
    この結晶構造の少なくとも一種が、チタン酸バリウムを含む正方晶であり、
    他の一種が、チタン酸カルシウムを含む立方晶、斜方晶または正方晶であり、
    X線回折解析(CuのKα線)において、ブラッグ角(θ)の2倍値(2θ)が44〜46deg.の範囲内に、チタン酸バリウムを主成分とする(002)結晶面のピークと(200)結晶面のピークとを含む擬立方晶ピークを有し、
    X線回折解析(CuのKα線)において、ブラッグ角(θ)の2倍値(2θ)が44〜48deg.の範囲内に、チタン酸カルシウムを主成分とする(040)結晶面の斜方晶ピークを有する誘電体組成物。
  3. 少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する誘電体組成物であって、
    これら2つの組成モル比について、
    チタン酸バリウムの組成モル比(X)が、0.3<X<0.5であり、
    チタン酸カルシウムの組成モル比(Y)が、1−Xであり、
    前記チタン酸バリウムが、
    実質的にチタン酸バリウムからなるコア部の周囲に、
    カルシウムとマグネシウムがチタン酸バリウムに固溶された層からなるシェル部で囲まれた、
    コア−シェル構造を有し、
    前記チタン酸カルシウムが、
    実質的にチタン酸カルシウムからなるコア部の周囲に、
    カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト、ケイ素、バリウムおよびチタン酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種がチタン酸カルシウムに固溶された層、または実質的にチタン酸バリウム、からなるシェル部で囲まれた、
    コア−シェル構造を有し、
    少なくとも2種の結晶構造を有し、
    この結晶構造の少なくとも一種が、チタン酸バリウムを含む正方晶であり、
    他の一種が、チタン酸カルシウムを含む立方晶、斜方晶または正方晶であり、
    X線回折解析(CuのKα線)において、ブラッグ角(θ)の2倍値(2θ)が44〜46deg.の範囲内に、チタン酸バリウムを主成分とする(002)結晶面のピークと(200)結晶面のピークとを含む擬立方晶ピークを有し、
    X線回折解析(CuのKα線)において、ブラッグ角(θ)の2倍値(2θ)が44〜48deg.の範囲内に、チタン酸カルシウムを主成分とする(040)結晶面の斜方晶ピークを有する誘電体組成物。
  4. 前記チタン酸カルシウムが、
    実質的にチタン酸カルシウムからなるコア部の周囲に、
    マグネシウムとバリウムがチタン酸カルシウムに固溶された層からなるシェル部で囲まれた、
    コア−シェル構造を有する請求項2または3の何れかに記載の誘電体組成物。
  5. SiO、Alおよび(Ba,Ca)SiO2+x (ただし、x=0.8〜1.2)から選ばれる少なくとも1種の添加成分とを有する誘電体組成物であって、
    チタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを少なくとも含む基本成分100モル%に対する前記添加成分の添加量が、0.2〜6モル%である請求項1〜4の何れかに記載の誘電体組成物。
  6. M1(ただし、M1は、SiOおよびAlの少なくとも1種)、M2(ただし、M2は、BaO、CaOおよびSrOから選ばれる少なくとも1種)およびM3(ただし、M3は、LiO、NaO、KOおよびBから選ばれる何れか1種)からなる添加成分とを有する誘電体組成物であって、
    前記添加成分の組成モル比を三角図(M1,M2,M3)で表したとき、前記添加成分の組成モル比が下記点a〜fで囲まれた領域内(ただし、境界線上は含まない)であり、かつ、
    チタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを少なくとも含む基本成分100モル%に対する前記添加成分の添加量が、0.2〜6モル%である請求項1〜4の何れかに記載の誘電体組成物。
    a:(0.1,0 ,0.9)
    b:(0.5,0 ,0.5)
    c:(0.7,0.2,0.1)
    d:(0.2,0.7,0.1)
    e:(0 ,0.5,0.5)
    f:(0 ,0.1,0.9)
  7. Mnの酸化物および/または焼成によりMnの酸化物になる化合物
    前記少なくともチタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する基本成分100モル%に対して、0.1〜1モル%の範囲で添加されている請求項1〜6の何れかに記載の誘電体組成物。
  8. Mgの酸化物および/または焼成によりMgの酸化物になる化合物
    前記チタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する基本成分100モル%に対して、1〜4モル%の範囲で添加されている請求項1〜7の何れかに記載の誘電体組成物。
  9. 、MoO、WOおよびCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を、前記チタン酸バリウムおよびチタン酸カルシウムを含有する基本成分100モル%に対して、0.01〜0.5モル%の範囲で、さらに含有する請求項1〜の何れかに記載の誘電体組成物。
  10. 温度に対する静電容量変化率(△C)が、少なくとも20〜85℃の温度範囲内において、−1000〜350ppm/℃(ただし、静電容量Cの基準温度は20℃)であることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の誘電体組成物。
  11. 内部電極と、請求項1〜10の何れかに記載の誘電体組成物からなる誘電体層とを有するセラミックコンデンサ。
  12. 前記内部電極が、ニッケルまたはニッケル合金で構成されている請求項11記載のセラミックコンデンサ。
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