JP4482407B2 - 耐ヒートクラック性に優れた高Cr鋳鉄製品および高Cr鋳鉄材の熱処理方法 - Google Patents
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Description
先ず、本発明の高Cr鋳鉄材あるいは高Cr鋳鉄製品の化学成分組成(単位:質量%)について、各元素の限定理由を含めて、以下に説明する。
Cは、Cr、Mo、あるいは不純物であるFeなどと、高硬度の炭化物(MC型、M7 C3 型、M23C6 型、M3 C型など) を形成するとともに、基地中に固溶し、鋳鉄材の焼入れ処理(空冷処理)によって、オーステナイトから硬さの高いマルテンサイトへの変態を支配する (マルテンサイト組織を得る) ための元素であり、必要硬度確保のための重要な元素である。
Siは、鋳鉄鋳造時の溶湯の流動性を確保し、また、溶解・精錬時の脱酸に有効な元素であり、こうした効果を発揮させるためには、0.2 %以上の含有量が必要である。一方、Siはフェライト生成元素であり、Si含有量が1.0%を超えると、フェライト変態を促進して、基地硬さの低下を招来するばかりか、靭性低下をもたらす。したがって、Si含有量は0.2〜1.0%の範囲、好ましくは0.3〜0.8%の範囲とする。
Mnは、高Cr鋳鉄材の焼入れ性を改善し、特に基地中に固溶して、オーステナイトが硬さの低いベイナイトに変態するのを抑制する効果を有し、基地をマルテンサイト組織とするために必須である。Mn含有量が0.6%未満ではその効果が発揮されないため下限は0.6%とする。一方、Mnはオーステナイト安定化元素であり、過剰に含有すると基地中の残留オーステナイトが多量になり、硬さが低下するため、Mn含有量の上限は2.0%とする。従って、Mn含有量は0.6〜2.0%の範囲、好ましくは0.8〜1.5%の範囲とする。
Crは、Cと同様に、耐摩耗性の高い各種炭化物を形成するとともに、基地中に固溶して、オーステナイトが硬さの低いフェライトに変態するのを抑制する効果を果たす必須の元素である。従って、必要な硬さが得られるに十分な炭化物量を形成させるとともに、フェライト変態防止に有効な量のCrを基地中に固溶させる必要がある。Cr含有量が11%未満の場合は、基地中に固溶するCr量が不足して、基地のフェライト変態が生じ、基地硬さが低下するだけでなく、晶出および析出する炭化物も少なくなり、硬さ不足を招来し、必要な耐摩耗性が得られない。
但し、本発明では、前記した通り、高Cr鋳鉄材の焼入れ時の冷却速度を5℃/sec以下と遅くしても、高Cr鋳鉄製品表面組織中の残留γを平均体積率で30%以下に規制するとともに、必要な硬度を確保するために、更に、CrとCの含有量の比Cr/Cを4.5〜6.5の範囲に限定する。
Moは、Crと同様に、耐摩耗性の高い各種炭化物を形成するとともに、基地中に固溶してオーステナイトが硬さの低いパーライトに変態するのを抑制する効果を有している必須元素である。従って、必要な硬さが得られるに十分な炭化物量を形成させるとともに、パーライト変態防止に有効な量を基地中に固溶させる必要がある。Mo含有量が1.0%未満の場合は、基地中に固溶するMo量が不足するため、基地中のパーライト変態が生じ基地硬さが低下するだけでなく、晶出および析出する炭化物も少なくなり、硬さ不足を招来し、必要な耐摩耗性が得られない。一方、Mo含有量が3.0%を超えると、基地中に固溶するC量が減少して基地硬さが低下するとともに、残留γ量も増大するので、やはり硬さ不足を招来して必要な耐摩耗性が得られなくなる。従って、Mo量は1.0〜3.0%の範囲、好ましくは1.5〜3.0%の範囲とする。
但し、本発明では、前記した通り、高Cr鋳鉄材の焼入れ時の冷却速度を5℃/sec以下と遅くしても、高Cr鋳鉄製品表面組織中の残留γを平均体積率で30%以下に規制するとともに、必要な硬度を確保するために、MnとMoの含有量の積Mn*Moを1.8〜2.5の範囲により限定する。
Nは、衝撃値を低くする晶出物、析出物を生成させることなく、鋳鉄製品の耐摩耗性を高める効果がある。この効果を発揮させるためには、Nを0.01%以上含有させる必要がある。一方、N含有量が0.15%を超えると、窒化物などを形成して靱性が低下する。したがって、Nは0.01〜0.15%の範囲で含有させる。
その他の元素は基本的には不純物であり、含有量は少ない方が好ましい。ただ、スクラップなどの溶解原料から混入する場合もあり、含有量を規制することは溶解、鋳造のコストとの兼ね合いとなる。
不純物の内、Ti、V、Zr、Nbなどは、硬度や靱性を向上する効果も有する。Ti、V、Zr、Nbは、鋳鉄の凝固時に、球状の主としてMC型炭化物を優先的に形成させ、上記平板状あるいはフィルム状のM7 C3 型炭化物の生成を抑制しつつ、炭化物の球状化を促進させる効果がある。MC型炭化物の硬度は、他の型の炭化物よりも硬度が高く、硬さ、耐磨耗性を向上させる。また、この炭化物の球状化によって、硬度レベルを低下させずに、靱性を向上させる。このため、Ti、V、Zr、Nbの含有を、これらの合計の含有量が10%以下となる範囲で許容する。
本発明では、鋳鉄製品組織の耐ヒートクラック性に寄与する鋳鉄製品表面部位の組織中の残留γを平均体積率で30%以下に規制することによって、前記鋼材搬送用のローラなど、衝撃を伴うヒートサイクルを受ける耐摩耗部材の耐ヒートクラック性を飛躍的に高める。表面から深さ5〜10mmの表面部位の残留γが平均体積率で30%を超えた場合、耐ヒートクラック性が低下して、前記鋼材搬送用のローラなど、衝撃を伴うヒートサイクルを受ける耐摩耗部材として使用できない。なお、鋳鉄製品表面部位の組織中の残留γを平均体積率で30%以下とすれば、より内部の組織の残留γは必然的に少なくなり、耐ヒートクラック性にとって良好な方に向かう。表面から深さ5〜10mmの表面部位の、残留γの平均体積率とは、例えば、この深さ範囲(5mm範囲深さ)を1mm間隔毎に6箇所計測した各残留γの体積率を平均化したものを言う。
本発明高Cr鋳鉄製品は、常法により製造可能である。即ち、前記規定した化学成分組成となるように原料を溶解、鋳造したのち、例えば、800〜1100℃の温度範囲で0.5〜10時間加熱保持して溶体化処理(均質化処理)する。溶体化処理は、鋳造時に生成した炭化物をオーステナイト中へある程度溶解させることで靱性低下を防止するとともに、マトリックス(マルテンサイト)中のC濃度を増すことにより、耐摩耗性を高める。
以上の実施例の結果から、本発明各要件の臨界的な意義が分かる。
Claims (5)
- 質量%で、C:2.5〜3.5%、Si:0.2〜1.0%、Mn:0.6〜2.0%、Cr:11〜22%、Mo:1.0〜3.0%、N:0.01〜0.15%、を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる高Cr鋳鉄製品であって、前記CrとCの含有量の比Cr/Cが4.5〜6.5の範囲であるとともに、前記MnとMoの含有量の積Mn*Moが1.8〜2.5の範囲であり、鋳鉄製品表面から深さ5〜10mmの表面部位組織中の残留γが平均体積率で30%以下であることを特徴とする耐ヒートクラック性に優れた高Cr鋳鉄製品。
- 前記高Cr鋳鉄製品が高温の熱サイクルに曝される耐摩耗部材用である請求項1に記載の耐ヒートクラック性に優れた高Cr鋳鉄製品。
- 前記耐摩耗部材が高温の鋼材搬送用のローラまたはリフターである請求項2に記載の耐ヒートクラック性に優れた高Cr鋳鉄製品。
- 前記耐摩耗部材が高温硬質物が通過する場所に設置されるライナーである請求項2に記載の耐ヒートクラック性に優れた高Cr鋳鉄製品。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の高Cr鋳鉄製品を得るための、高Cr鋳鉄材の熱処理方法であって、高Cr鋳鉄材を焼入れするに際し、焼入れ時の高Cr鋳鉄材表面の冷却速度を5℃/sec以下とする耐ヒートクラック性に優れた高Cr鋳鉄材の熱処理方法。
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