JP2020070474A - オーステナイト鋼材及びその製造方法、並びに耐摩耗性部品 - Google Patents

オーステナイト鋼材及びその製造方法、並びに耐摩耗性部品 Download PDF

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Abstract

【課題】耐摩耗性と曲げ加工性とを両立させたオーステナイト鋼材を提供する。【解決手段】C:0.7〜1.6質量%と、Si:0.8質量%以下と、Mn:8〜16質量%と、P:0.025質量%以下と、S:0.025質量%以下と、Al:0.025質量%以下と、Nb:0.5〜3.0質量%、Ti:0.3〜1.5質量%及びV:0.5〜3.0質量%から選択される1種以上とを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、金属組織がオーステナイト及び硬質炭化物を含むオーステナイト鋼材である。【選択図】なし

Description

本発明は、オーステナイト鋼材及びその製造方法、並びに耐摩耗性部品に関する。
機械部品、建築用部材、輸送機器用部品、電気・電子機器用部品などに使用される鋼材の耐摩耗性は、高強度化することによって向上することが知られている。そのため、例えば、土、砂、鋼球などによる摩耗を受ける部材には、焼入れ焼戻しなどの熱処理を施して高強度化した鋼材が使用されてきた。
一方、様々な形状の部材への適用や溶接箇所の低減のため、鋼材に対して曲げ加工性が要求されることが多くなってきた。
しかしながら、鋼材の曲げ加工性は、鋼材を高強度化することによって低下することが知られている。すなわち、鋼材の「耐摩耗性」と「曲げ加工性」とはトレードオフの関係にある。
また、鋼材の耐摩耗性を向上させる他の技術として、オーステナイト鋼材のMn含有量を高めることが知られている。例えば、特許文献1には、10〜35質量%のMnを含むオーステナイト鋼材が提案されている。また、特許文献2には、18〜32質量%のMnを含むオーステナイト鋼材が提案されている。
特開平10−008210号公報 特開昭62−139855号公報
しかしながら、特許文献1及び2のオーステナイト鋼材は、耐摩耗性が良好であるものの、曲げ加工性については検討されていない。実際、Mn含有量が高いオーステナイト鋼材であっても、曲げ加工性が十分でないことも多いため、耐摩耗性と曲げ加工性とを両立させたオーステナイト鋼材の開発が望まれていた。
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、耐摩耗性と曲げ加工性とを両立させたオーステナイト鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、曲げ加工によって製造することが可能な耐摩耗性に優れた耐摩耗性部品を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、オーステナイト鋼材の組成及び金属組織が、耐摩耗性及び曲げ加工性に大きな影響を与えるという知見に基づき、特定の組成及び金属組織に制御することにより、耐摩耗性と曲げ加工性とを両立させたオーステナイト鋼材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、C:0.7〜1.6質量%と、Si:0.8質量%以下と、Mn:8〜16質量%と、P:0.025質量%以下と、S:0.025質量%以下と、Al:0.025質量%以下と、Nb:0.5〜3.0質量%、Ti:0.3〜1.5質量%及びV:0.5〜3.0質量%から選択される1種以上とを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、金属組織がオーステナイト及び硬質炭化物を含むオーステナイト鋼材である。
また、本発明は、C:0.7〜1.6質量%と、Si:0.8質量%以下と、Mn:8〜16質量%と、P:0.025質量%以下と、S:0.025質量%以下と、Al:0.025質量%以下と、Nb:0.5〜3.0質量%、Ti:0.3〜1.5質量%及びV:0.5〜3.0質量%から選択される1種以上とを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋳片を780〜900℃の仕上温度で熱延して300〜450℃の巻取温度で巻取る熱延工程と、
前記熱延工程で得られた熱延板を加熱して900〜1100℃の温度に保持した後、500℃以下の温度まで10℃/秒の冷却速度で冷却する水靭処理工程と
を含む、オーステナイト鋼材の製造方法である。
さらに、本発明は、前記オーステナイト鋼材から形成される耐摩耗性部品である。
本発明によれば、耐摩耗性と曲げ加工性とを両立させたオーステナイト鋼材及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、曲げ加工によって製造することが可能な耐摩耗性に優れた耐摩耗性部品を提供することができる。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材は、C:0.7〜1.6質量%と、Si:0.8質量%以下と、Mn:8〜16質量%と、P:0.025質量%以下と、S:0.025質量%以下と、Al:0.025質量%以下と、Nb:0.5〜3.0質量%、Ti:0.3〜1.5質量%及びV:0.5〜3.0質量%から選択される1種以上とを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、金属組織がオーステナイト及び硬質炭化物を含む。
ここで、本明細書において「不可避的不純物」とは、O、Nなどの除去することが難しい成分のことを意味する。不可避的不純物は、原料を溶製する段階で不可避的に混入する。
Cは、オーステナイトの安定化及び強度の向上に有効な元素である。C含有量が0.7質量%未満である場合、オーステナイトが不安定となる。そのため、C含有量は0.7質量%以上、好ましくは0.75質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上とする。一方、C含有量が1.6質量%を超える場合、高温で溶体化した後に冷却すると結晶粒界に炭化物が析出し易くなり、曲げ加工性が低下する。そのため、C含有量は1.6質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.2質量%以下とする。
Siは、溶鋼の脱酸に有効な元素である。ただし、Si含有量が0.8質量%を超えると、結晶粒界における炭化物の析出が促進される。そのため、Si含有量は0.8質量%以下、好ましくは0.7質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下とする。一方、C含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.5質量%である。
Mnは、オーステナイト形成元素であり、オーステナイトの安定化にも有効である。Mn含有量が8質量%未満である場合、オーステナイトが不安定となる結果、結晶粒界に炭化物が析出し易くなり、曲げ加工性が低下する。そのため、Mn含有量は8質量%以上、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは11質量%以上とする。一方、Mn含有量が16質量%を超える場合、熱間加工性が低下し、鋼板の製造が困難になるなどの問題が生じる。そのため、Mn含有量は16質量%以下、好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは14質量%以下とする。
P及びSは、曲げ加工性に影響を与える元素であり、これらの含有量は少ない方が望ましい。曲げ加工性に大きな影響を与えないP含有量及びS含有量はいずれも、0.025質量%以下、好ましくは0.023質量%以下、より好ましくは0.020質量%以下である。
Alは、溶鋼の脱酸に有効な元素であるが、曲げ加工性に影響を与える元素であるため、Al含有量は少ない方が望ましい。曲げ加工性に大きな影響を与えないAl含有量は0.025質量%以下、好ましくは0.020質量%以下、より好ましくは0.010質量%以下である。
Nb、Ti及びVは、耐摩耗性の向上に寄与する硬質炭化物を析出させる元素である。そのため、Nb、Ti及びVの1種以上を含有させる必要がある。
ここで、硬質炭化物とは、Nb、Ti及びVから選択される1種以上を含む炭化物である。硬質炭化物の例としては、NbC、TiC、VC、(Nb,Ti)C、(Nb,V)C、(Ti,V)C、(Nb,Ti,V)Cが挙げられる。具体的には、本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材がTi及びVを含まない場合、硬質炭化物はNbCを主体とする炭化物となる。また、本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材がVを含まない場合、硬質炭化物は、(Nb,Ti)Cを主体とする炭化物となる。
なお、硬質炭化物の析出の有無は、EDX(エネルギー分散型蛍光X線分析法)などの分析手法を用いて確認することができる。
Nbによる上記効果を十分に確保するためには、Nb含有量を0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%、より好ましくは1.0質量%以上とする。一方、Nb含有量が高すぎると、硬質炭化物が粗大化し、曲げ加工時に硬質炭化物を起点として割れが生じる。そのため、Nb含有量を3.0質量%以下、好ましくは2.8質量%以下、より好ましくは2.7質量%以下とする。
Tiによる上記効果を確保するためには、Ti含有量を0.3質量%以上、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上とする。一方、Ti含有量が高すぎると、硬質炭化物が粗大化し、曲げ加工時に硬質炭化物を起点として割れが生じる。そのため、Ti含有量を1.5質量%以下、好ましくは1.45質量%以下とする。
Vによる上記効果を確保するためには、V含有量を0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%、より好ましくは1.0質量%以上とする。一方、V含有量が高すぎると、硬質炭化物が粗大化し、曲げ加工時に硬質炭化物を起点として割れが生じる。そのため、V含有量を3.0質量%以下、好ましくは2.8質量%以下、より好ましくは2.7質量%以下とする。
本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材は、上記成分に加えて、Cr:0.20質量%以下、Ni:0.25質量%以下及びMo:0.01質量%以下から選択される1種以上をさらに含んでもよい。
Crは、オーステナイトの安定化及び強度の向上に有効な元素である。Cr含有量が0.20質量%を超える場合、熱間加工性が低下し、鋼板の製造が困難になるなどの問題が生じることがある。そのため、Cr含有量は0.20質量%以下、好ましくは0.18質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下とする。一方、Cr含有量の下限は、特に限定されないが、Crによる上記効果を十分に確保する観点からは、好ましくは0.1質量%とする。
Niは、オーステナイトの安定化及び靭性の向上に有効な元素である。ただし、Niは高価であるため、Ni含有量を高くすると製造コストの増大につながる。そのため、Ni含有量は0.25質量%以下、好ましくは0.23質量%以下、より好ましくは0.20質量%以下とする。一方、Ni含有量の下限は、特に限定されないが、Niによる上記効果を十分に確保する観点からは、好ましくは0.1質量%以上とする。
Moは、熱処理時の脆化抑制に有効な元素であり、少量でも当該効果が得られる。ただし、Moは高価であるため、Mo含有量を高くすると製造コストの増大につながる。そのため、Mo含有量は0.01質量%以下、好ましくは0.009質量%以下、より好ましくは0.008質量%以下とする。一方、Mo含有量の下限は、特に限定されないが、Moによる上記効果を十分に確保する観点からは、好ましくは0.001質量%以上とする。
本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材は、オーステナイト及び硬質炭化物を含む金属組織を有する。硬質炭化物はオーステナイト中に分散しており、オーステナイト鋼材の耐摩耗性及び曲げ加工性に影響を与える。オーステナイト鋼材の耐摩耗性を向上させる観点からは、断面における全て硬質炭化物の面積率(全ての大きさの硬質炭化物)を、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.55%以上、さらに好ましくは0.6%以上に制御する。一方、オーステナイト中に分散した硬質炭化物が多すぎると、加工割れの起点となることがある。そのため、オーステナイト鋼材の曲げ加工性を確保する観点からは、断面における全ての硬質炭化物の面積率を、好ましくは3%以下、より好ましくは2.9%以下、さらに好ましくは2.8%以下に制御する。
断面における全ての硬質炭化物の面積率は、次のようにして求めることができる。まず、オーステナイト鋼材の断面を研磨した後、エッチングした観察面を共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製LEXT OLS3000)によって観察する。ここで、硬質炭化物の面積率を測定する断面は、オーステナイト鋼材が鋼板である場合、圧延方向及び板厚方向に平行な断面(L断面)であることが好ましい。次に、観察画像上で、全ての硬質炭化物の面積(mm2)を測定し、下記の算出式によって面積率を求める。
全ての硬質炭化物の面積率(%)=全ての硬質炭化物の面積(mm2)/観察総面積(mm2)×100
なお、観察面積は、128μm×128μm×42視野とする。硬質炭化物の面積は観察画像を画像処理ソフトウェアで処理することにより測定することができる。
また、オーステナイト鋼材の耐摩耗性及び加工性は、硬質硬化物が大きいほど影響を受け易い傾向にある。具体的には、オーステナイト鋼材の断面における硬質炭化物の円相当径が0.5μm以上であると、オーステナイト鋼材の耐摩耗性及び加工性に与える影響が大きくなる。そのため、オーステナイト鋼材の耐摩耗性を向上させる観点からは、断面における円相当径0.5μm以上の硬質炭化物の面積率を、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.55%以上、さらに好ましくは0.6%以上に制御する。一方、オーステナイト鋼材の曲げ加工性を向上させる観点からは、断面における円相当径0.5μm以上の硬質炭化物の面積率を、好ましくは2.7%以下、より好ましくは2.6%以下、さらに好ましくは2.5%に制御する。
断面における円相当径0.5μm以上の硬質炭化物の面積率は、上記と同様にして共焦点レーザー顕微鏡による観察を行い、下記の算出式によって求めることができる。
円相当径0.5μm以上の硬質炭化物の面積率(%)=円相当径0.5μm以上である硬質炭化物の面積(mm2)/観察総面積(mm2)×100
なお、ある硬質炭化物の円相当径は、観察画像上における当該硬質炭化物の面積と等しい円の直径である。
本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材は、断面のビッカース硬さが好ましくは300HV以下、より好ましくは280HV以下、さらに好ましくは260HV以下である。ビッカース硬さが上記の範囲であると、曲げ加工性を十分に確保することができる。一方、断面のビッカース硬さの下限は、特に限定されないが、耐摩耗性を十分に確保する観点からは、好ましくは200HV、より好ましくは210HV、さらに好ましくは220HVである。
ここで、本明細書において「ビッカース硬さ」とは、JIS Z2244:2009に準拠し、ビッカース硬さ試験機を用いて測定されるものを意味する。
本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材は、鋼板、鋳造品などの様々な形態とすることができるが、好ましくは鋼板である。また、鋼板の厚さは、用途に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、典型的には3.5〜12mmである。
上記のような特徴を有する本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材は、上記組成の鋼を溶製すること以外は、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。例えば、本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材が鋼板である場合には、鋳造して得られた上記組成を有する鋳片を熱延した後、水靭処理を行うことによって製造すればよい。具体的には、本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材は、上記の組成を有する鋳片を780〜900℃の仕上温度で熱延して300〜450℃の巻取温度で巻取る熱延工程と、熱延工程で得られた熱延板を加熱して900〜1100℃の温度に保持した後、500℃以下の温度まで10℃/秒の冷却速度で冷却する水靭処理工程とを含む方法によって製造することができる。
本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材は、耐摩耗性及び曲げ加工性に優れているため、機械部品、建築用部材、輸送機器用部品、電気・電子機器用部品などに用いることができる。特に、本発明の実施形態に係るオーステナイト鋼材は、土、砂、鋼球などが衝突した際に、加工誘起マルテンサイト変態が生じ、十分な耐摩耗性を発揮する。そのため、このオーステナイト鋼材は、耐摩耗性部品の素材として用いるのに適している。また、このオーステナイト鋼材は、曲げ加工性に優れているため、曲げ加工によって製造される耐摩耗性部品の素材として用いるのに適している。耐摩耗性部品としては、特に限定されないが、土木用建設機械の部品、コンクリート製品の振動成形に用いられる型枠、ショットピーニング機の内張り材(ライナー)などが挙げられる。
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
表1に示す鋼種A〜Kの組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製し、鋳造して得られた鋳片を830℃の仕上温度で熱延して板厚3.5mmの熱延板とし、430℃の巻取温度で巻き取った。次に、熱延板を加熱して1000℃の温度に保持した後、室温まで50℃/秒の冷却速度で冷却する水靭処理を行うことによってオーステナイト鋼板を得た。
また、表1に示す鋼種Lの組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製し、鋳造して得られた鋳片を850℃の仕上温度で熱延して板厚3.5mmの熱延板とし、590℃の巻取温度で巻き取った。次に、熱延板を840℃に加熱して20分保持し、60℃の油浴に焼入れた後、300℃又は400℃で60分の焼戻しすることによって焼戻しマルテンサイト組織の鋼板を得た。
Figure 2020070474
上記で得られた各鋼板について以下の評価を行った。
[金属組織の評価]
上記で得られた各鋼板の圧延方向及び板厚方向に平行な断面(L断面)を研磨した後、エッチングした観察面を共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製LEXT OLS3000)によって観察し、上記した方法に従って、円相当径0.5μm以上の硬質炭化物の面積率(%)、全ての硬質炭化物の面積率(%)を求めた。
[断面のビッカース硬さ]
JIS Z2244:2009に準拠し、ビッカース硬さ試験機を用いて、各鋼板の圧延方向及び板厚方向に平行な断面(L断面)の中心部のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さは、試験荷重を196Nとし、5箇所の測定値の平均を結果とした。
[曲げ加工性]
上記で得られた各鋼板から、圧延方向長さ25mm×幅方向長さ60mm×板厚3.5mmの試験片を切り出した。切断面をベルトグラインダー(#320)で研磨して整えた後、JIS Z2248:2006に準拠し、万能試験機を用いて、Vブロック法にて150°曲げ試験を行った。曲げ試験は、曲げ半径を3.5mm、試験力を300kNとし、曲げ試験後の試験片の表面を目視にて観察した。観察の結果、割れがなかったものを〇、割れがあったものを×と表す。
[土砂摩耗試験]
上記で得られた各鋼板から圧延方向長さ48mm×幅方向長さ55mm×板厚3.5mmの試験片を切り出し、特開2012−210665号公報に記載の土砂摩耗試験機を用いて摩耗試験を行った。試験片は、回転軸(支柱)に水平アームを介して取り付けられた試験ホルダーに、水平面から30°傾斜するようにして固定した。このとき、回転軸と試験片との距離は140mmとした。摩耗相手材には玉砂利(直径20mm以下)又は川砂(直径1.5mm以下)を用い、乾式雰囲気下、回転軸の回転速度を100rpmとして、摩耗試験を行った。玉砂利の場合の試験時間は24時間、川砂の場合の試験時間は100時間とした。試験前後の試験片の重量差から摩耗によって減少した試験片の重量(摩耗減量)を求めた。そして、以下の式によって摩耗減量率を算出した。
摩耗減量率(%)=摩耗減量/摩耗試験前の試験片の重量×100
[連続式摩擦摩耗試験]
上記で得られた各鋼板から圧延方向長さ50mm×幅方向長さ25mm×板厚3.5mmの試験片を切り出し、特開2018−48993号公報に記載の連続式摩擦摩耗試験機を用いて摩耗試験を行った。具体的には、粒度が#600(平均粒径30μm)又は#2000(平均粒径9μm)、硬さが1850HVのWA(アルミナ)砥粒を表面に付着させた帯状の摩擦材を試験片の表面(幅方向断面)に35.4Nの荷重F(面圧0.2N/mm2)で押し付けて接触させ、帯状の摩擦材を一方向に移動させることで摩耗試験を行った。このとき、摩擦材の移動速度(摩擦速度)を5m/秒、移動距離(摩擦距離L)を45mに設定した。試験前後の試料片の厚みの差から摩耗によって消失した材料の体積を算出し、これを摩耗減量W(mm3)とした。そして、下記の式によって比摩耗量を求めた。
比摩耗量(mm3/Nm)=摩耗減量W/(荷重F×摩擦距離L)
上記の各評価結果を表2に示す。
Figure 2020070474
表2に示されるように、試験No.2〜4及び7〜9(本発明例)のオーステナイト鋼板は、曲げ加工性が良好であり、土砂摩耗試験及び連続式摩擦摩耗試験のいずれにおいても摩耗量が少なかった。
これに対して試験No.1及び6(比較例)のオーステナイト鋼板は、Nb含有量又はTi含有量が少なすぎたため、土砂摩耗試験及び連続式摩擦摩耗試験のいずれにおいても摩耗量が多くなった。
また、試験No.5及び10(比較例)のオーステナイト鋼板は、Nb含有量又はTi含有量が多すぎたため、曲げ加工性が十分でなかった。これは、析出した硬質炭化物(NbC又はTiC)が粗大化し、この硬質硬化物を起点として割れが生じたためであると考えられる。
また、試験No.11(比較例)のオーステナイト鋼板は、硬質炭化物を析出させる元素(Nb、Ti又はV)を含んでいないため、土砂摩耗試験及び連続式摩擦摩耗試験のいずれにおいても摩耗量が多くなった。
さらに、試験No.12及び13(比較例)の鋼板は、焼入れ焼戻しによって高強度化させたため、曲げ加工性が十分でなく、摩耗量も本発明例に比べて多くなった。
以上の結果からわかるように、本発明によれば、耐摩耗性と曲げ加工性とを両立させたオーステナイト鋼材及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、曲げ加工によって製造することが可能な耐摩耗性に優れた耐摩耗性部品を提供することができる。

Claims (9)

  1. C:0.7〜1.6質量%と、Si:0.8質量%以下と、Mn:8〜16質量%と、P:0.025質量%以下と、S:0.025質量%以下と、Al:0.025質量%以下と、Nb:0.5〜3.0質量%、Ti:0.3〜1.5質量%及びV:0.5〜3.0質量%から選択される1種以上とを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、金属組織がオーステナイト及び硬質炭化物を含むオーステナイト鋼材。
  2. Cr:0.20質量%以下、Ni:0.25質量%以下及びMo:0.01質量%以下から選択される1種以上をさらに含む、請求項1に記載のオーステナイト鋼材。
  3. 前記硬質炭化物が、Nb、Ti及びVから選択される1種以上を含む炭化物である、請求項1又は2に記載のオーステナイト鋼材。
  4. 断面における円相当径0.5μm以上の前記硬質炭化物の面積率が0.5〜2.7%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のオーステナイト鋼材。
  5. 断面のビッカース硬さが300HV以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のオーステナイト鋼材。
  6. 厚さが3.5〜12mmの鋼板である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のオーステナイト鋼材。
  7. C:0.7〜1.6質量%と、Si:0.8質量%以下と、Mn:8〜16質量%と、P:0.025質量%以下と、S:0.025質量%以下と、Al:0.025質量%以下と、Nb:0.5〜3.0質量%、Ti:0.3〜1.5質量%及びV:0.5〜3.0質量%から選択される1種以上とを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋳片を780〜900℃の仕上温度で熱延して300〜450℃の巻取温度で巻取る熱延工程と、
    前記熱延工程で得られた熱延板を加熱して900〜1100℃の温度に保持した後、500℃以下の温度まで10℃/秒の冷却速度で冷却する水靭処理工程と
    を含む、オーステナイト鋼材の製造方法。
  8. 前記鋳片が、Cr:0.20質量%以下、Ni:0.25質量%以下及びMo:0.01質量%以下から選択される1種以上をさらに含む、請求項7に記載のオーステナイト鋼材の製造方法。
  9. 請求項1〜6のいずれか一項に記載のオーステナイト鋼材から形成される耐摩耗性部品。
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