JP4479046B2 - 極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、変圧器や発電機の鉄芯に利用される方向性電磁鋼板に関し、特に鉄損が極めて低い、絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Siを含有し、かつ結晶方位が(110)[001]方位や(100)[001]方位に配向した方向性電磁鋼板は優れた軟磁気特性を有することから商用周波数域での各種鉄芯材料として広く用いられている。この時、電磁鋼板に要求される特性としては、一般に50Hzの周波数で1.7Tに磁化させた場合の損失であるW17/50(W/kg)で表わされるところの鉄損が低いことが重要である。この鉄損は内訳として、 渦電流損Weと履歴損(ヒステリシス損)Whに分離され、W17/50=We+Whである。
【0003】
鉄損を低減するためには渦電流損を低下させるため有効なSiを含有させ電気抵抗を高める方法、鋼板板厚を低減する方法、さらに結晶粒径を低減する方法があり、ヒステリシス損を低下させるために有効な結晶方位を揃える方法がある。
【0004】
このうちSiを過度に含有させると飽和磁束密度の低下を招き鉄芯のサイズ拡大の原因になるので限界があり、鋼板板厚を低減する方法も極端な製造コストの増大をもたらすので限界があった。
また、結晶方位を揃える方法は、磁束密度B8にして1.96Tや1.97Tの値の製品が得られており、これ以上の改善の余地は少なくなっている。
【0005】
さらに、近年、プラズマジェットやレーザー光を照射して鋼板表面に局所的に歪を導入したり、鋼板表面に溝を形成する等の方法によって人工的に磁区幅を細分化し鉄損を低減する技術が開発され、大幅な鉄損低減効果を得た。しかし、この技術による鉄損低減効果には限度があった。
【0006】
しかしながら、これらとは別に特公昭52−24499号公報に開示されているように鋼板金属表面と非金属被膜との界面の粗度を低減したり、特公平5−87597号公報、および特公平6−37694号公報に開示されているように、金属表面に特定の結晶方位の結晶を特に残存させるところの結晶方位強調処理を施して鉄損を低減する手法が提案され、材料の鉄損が大幅に低減することが報告された。しかし、これらの技術によって鉄損を低減するためには、鋼板に対し強い張力を与えることが不可欠であり、そのためには鋼板表面に張力被膜を存在させることが必要であった。すなわち、張力被膜が存在しない場合には、鋼板表面が平滑なため逆に磁区幅の拡大が促進される結果となり、鉄損が大幅に劣化する。
【0007】
これを解決する手段として、前述の特公昭52−24499号公報には、鋼板表面を化学研磨や電解研磨によって鏡面化し、さらに鋼板表面に金属簿めっきを施し鋼板表面の酸化や、さらに絶縁被膜を塗布焼き付けた際の鋼板表面の劣化による磁性不良を抑制する方法を提案しているが、金属めっきが張力を有する場合には絶縁被膜は焼き付け処理によって剥落しやすく、幸運にも剥落を免れた場合であっても、鋼板使用前の歪取り焼鈍によってメッキ層が鋼板内に拡散して効果を失う欠点があった。
【0008】
さらに、金属めっきが張力効果を有しない場合には、鉄損低減効果は極わずかであり、この場合、ちなみに絶縁被膜をリン酸塩系の張力被膜とした場合には、被膜の密着性は全く得られないので、磁気特性の向上効果が全くない。したがって、この技術は工業化されることはなかった。
【0009】
さらに、特開昭62−103374号公報には、研磨により平滑に仕上げた鋼板表面に各種酸化物、ほう化物、珪化物、リン化物、硫化物と地鉄との混合極薄層とその上に絶縁性塗布焼き付け層を具備する方法が開示されているが、この方法においては、鋼板と絶縁層との密着性にすぐれているが、鋼板の鏡面平滑化効果が地鉄との混合極薄層の存在によって消去され磁気特性の所望の効果が得られず、やはり、工業化されるに至らなかった。
【0010】
さらに、特公昭56−4150号公報には、鋼板表面を化学研磨や電解研磨によって平均粗さRa;0.4μm以下の平滑面とし、さらにその上にセラミックス薄膜を施す方法が開示されているが、密着性のよいセラミックス薄膜の形成方法としては、化学蒸着、真空蒸着であり、設備的に多量生産が困難であり、成膜速度も遅く、工業生産に適合せず、工業化されるに至っていない。
【0011】
また、特開平3−47957、特許294465、294466、294467、294468、294469、294470号公報には、平滑化した地鉄表面にもしくはその金属めっき面に低圧プラズマ溶射法によって酸化物や珪化物被膜を形成する方法が開示されているが、この方法によっては工業的な成膜速度は確保できるものの、液滴の付着による成膜であり緻密な膜は成形不能で、成膜された表面も粗く摩擦により容易に剥落し、鋼板またはめっき面とプラズマ溶射酸化物、珪化物被膜との密着性が十分ではなく所望の磁気特性が得られず、また大規模な減圧設備が必要とされるために工業化されるに至らなかった。
【0012】
一方、特開平2−243770号公報には、ゾルゲル法によってセラミックス被膜を被成する方法が開示されているが、有効な張力を与えられる膜厚を一度に塗布すると被膜の割れや剥離につながることから複数回の塗布処理が必要であり、工業的には実施されていない。さらに、特開平3−130376号公報にはゾルゲル法によりゲル薄膜を被成したのちに絶縁被膜を被成する方法が開示されているが、ゾルゲル膜上には均一な被膜が被成できず、部分的な絶縁不良を生じる問題点があった。また、 特開平5−226134号公報には同じくゾルゲル法の改良特許が示されているが、剥離に関する問題点は根本的には解決されていない。さらに、特開平4−323382号公報にはフォルステライト上にアルコキシシランとセラミックスの混合物を塗布焼き付けして張力被膜を被成する技術が開示されているが、フォルステライトを持たない珪素鋼板上に適用した場合には全面剥離となり、用いることは出来ない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、最近の方向性電磁鋼板の鉄損低減技術の動向は鋼板表面を仕上げ焼鈍工程中やその後の処理で平滑化したり、結晶方位強調処理を施した後、鋼板表面に張力被膜を被成することが必要不可欠であるが、張力被膜は鋼板面に強い張力を及ぼすため鋼板面と張力被膜との界面に強い剪断応力が作用し必然的に被膜を剥落させる結果、結果的に張力付与も達成できず、磁気特性も劣化する。これに対し、張力被膜の密着性確保のための種々の工夫がなされてきたが、密着性が良好な場合には、鋼板表面の磁気的な平滑効果が消失し、やはり磁気特性の劣化をもたらす結果となり、いまだ、このような技術のなかで工業的に製品化されたものはない。
【0014】
鋼板表面に結晶方位強調処理を施す場合には張力被膜の密着性は平滑化処理の場合より、この矛盾は多少緩和されるが、それでも本来あるべき密着性には程遠く、張力作用が鋼板に十分には伝達しないため鉄損の低減量として十分なものが得られない。
また、上記ゾルゲル法による成膜では被膜の厚みは一回の処理ではたかだか0.5μm程度しか得られないために、張力値も限られたものに留まっており、充分な鉄損低減効果が得られなかった。
また、一般にフォルステライトの発達しない鋼板上では被膜膜質の均一性は低く、絶縁特性に難点が多かった。
【0015】
この発明は、フォルステライトの生成を抑止した、またはフォルステライトを除去した一方向性電磁鋼に、必要に応じて酸洗、平滑化処理、結晶方位強調処理を施し、さらに張力被膜によって鋼板に張力を付与し、鉄損を大幅に低減する上述の技術においても、張力被膜の密着性を損なうことなく、鋼板に十分な張力を作用させ、高い絶縁性を与えることのできる方向性電磁鋼板の製造方法を提案するとともに、このような優れた鉄損の極めて低い絶縁性に優れた一方向性電磁鋼板を工業的に提供することを目的とするものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
以下、この発明の開発経緯について説明する。
発明者らは、上記特開平3−130376号公報の技術を詳細に検討した結果、金属のアルコキシドを単体で用いた場合には鋼板である珪素鋼に良好な付着ができるにも拘わらず、上層の張力被膜のゲル被膜上への塗布性と密着性に問題があり、部分的な剥離や薄膜化につながることを知見した。上記知見に鑑みて鋭意研究の結果、以下の発明が得られた。
【0017】
すなわち本発明方法は、
フォルステライトの生成を抑止した、またはフォルステライトを除去した一方向性電磁鋼に、ゲル被膜に替わるバインダー層として、親水基もしくは有機結合基を持ち、さらに金属結合基を持つ有機金属化合物を、鋼板上に塗布した後、乾燥または焼き付け処理して、その上に、焼成後に張力被膜となる物質を含む水スラリーもしくは水溶液を鋼板に塗布して焼き付けて、張力被膜を形成することを特徴とする極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
ここで、
前記張力被膜の形成を不活性ガスまたは還元性雰囲気で行う製造方法、
前記金属結合基がアルコキシル基とその加水分解基、アセトキシ基、メトキシカルボニル基、ハロゲン基のうちの一つ以上である製造方法、
前記金属結合基が、メトキシ基、エトキシ基の単独あるいは複合、またはそれらが加水分解されたシラノール基であるシランカップリング剤もしくはこのオリゴマーである製造方法、
前記親水基がアミノ基、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、スルホ基のうちの一つ以上であり、有機結合基がビニル基、エポキシ基、メタクリル基、メタクリロキシ基、メルカプト基、ウレイド基、グリシドキシ基、クロル基のうちの一つ以上である製造方法、が好ましい。
また、
前記有機金属化合物が、アミノ基を有する製造方法、
前記焼成後に張力被膜となる物質が、 リン酸塩とクロム酸とコロイダルシリカを主成分とする製造方法、
前記焼成後に張力被膜となる物質が、 ほう酸と酸化アルミニウムを主成分とする製造方法、が好ましい。
【0018】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明方法は、 親水基もしくは有機結合基を持ち、さらに金属結合基を持つ有機金属化合物をバインダー層として鋼板と張力被膜との間に設けることを1つの特徴とする。
ここで、金属結合基は鋼板と化学的に結合して被膜の密着に寄与するものと思われる。また、有機結合基や親水基は同じく化学的に張力被膜と作用して密着に寄与するものと思われる。
【0019】
本発明に用いる有機金属化合物に含まれる金属結合基としては、メトキシ基、エトキシ基などの、加水分解によってM−O−Fe型の金属結合を生じるアルコシキル基やその加水分解基に加えて、アセトキシ基等のアシル基、メトキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基やクロル基などのハロゲン基を用いることが出来る。なお、上記Mは有機金属化合物中の金属でありAl,Fe,Si、Ti,Zrなどの金属の単体か、あるいは二つ以上を選ぶことができるが、後述のように安定した結合のためにはSiがより好ましい。さらにこれらの有機Si化合物は、商品としてシランカップリング剤として知られるもの、またはそのオリゴマーを用いることもできる。
【0020】
また、親水基としてはアミノ基、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、スルホ基などを使用することができる。
【0021】
次に、有機結合基としてはビニル基、エポキシ基、メタクリル基、メタクリロキシ基、メルカプト基、ウレイド基、グリシドキシ基など、単純なアルキル基以外の有機基やクロル基等のハロゲン基が効果的に適合する。
【0022】
なお、メトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基のように金属結合基が親水性を併せ持つ場合では単独で相当の効果を得ることができる。一方、金属結合基が有機結合基としての性格を併せ持つ場合の単一金属結合基では本発明の効果は明確には得られないが、この理由はいまのところ明らかとなっていない。
【0023】
有機金属化合物は、上述の必須の構成基の他に、アルキル基、アルキレン基等を有していても良い。
【0024】
本発明に用いられる有機金属化合物は、 上述の官能基を有するものであれば、 特に限定されないが、 クロル基とビニル基とを有する、ビニルトリクロルシラン、アルコキシル基とアミノ基とを有するアミノアルキルトリアルコキシシラン、アルコキシル基とメタクリロキシ基とを持つγ- メタクリロキシアルキルアルコキシシラン、グリシドキシ基とアルコキシル基とを持つグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン、メルカプト基とアルコキシル基とを持つメルカプトアルキルトリアルコキシシラン、これらに相当する基を持つチタネートカップリング剤、水酸基とアミノ基とを持つトリアルコールアミンチタネート等が挙げられる。
【0025】
前述の有機金属化合物の塗布量は、特に限定されないが、 好ましくは、乾燥または焼付け後の質量で、鋼板片面当たり0.1〜5g/m 2とする。
【0026】
張力被膜を形成するための原料は、 従来公知の原料をそれぞれの特性を生かして用いる。以下に例示する原料を、 そのまま、 または原材料の溶液、分散液として鋼板上に塗布し焼鈍して、 張力被膜を得る。
金属酸化物、 金属酸化物の水和物、 金属水酸化物、シュウ酸塩、 炭酸塩、 硝酸塩、 硫酸塩、 あるいはこれらの複合体など、焼付け後にセラミックスとなる粒子を原材料とする。セラミックスの材質は限定されないが、酸化アルミニウム、酸化珪素、 酸化チタン、コーディエライト、ムライト、スピネル、ジルコン等が好適に用いられる。これらは、無機溶液、 有機溶液、 無機有機複合溶液として用いられることが多い。
具体的には、 リン酸−クロム酸−コロイダルシリカを主成分とする液、無水クロム酸−リン酸アルミニウムを主成分とする液、無水クロム酸−リン酸マグネシウムを主成分とする液、無水クロム酸−リン酸アルミニウム−コロイダルシリカを主成分とする液、無水クロム酸−リン酸マグネシウム−コロイダルシリカを主成分とする液、酸化アルミニウム−酸化ほう素系複合被膜またはほう酸アルミニウム質被膜が得られるアルミナゾルとほう酸とを含む微粒子分散液等があげられる。リン酸−クロム酸−コロイダルシリカまたは酸化アルミニウとほう酸を含む原材料が好ましく、 特に、張力が高く磁気特性を改善できるので酸化アルミニウムとほう酸が好ましい。
【0027】
本発明で使用される電磁鋼板については公知の任意の鋼板を用いることが出来るが、推奨される出発成分組成について例示すると以下の通りである。
まず、鋼板の成分としては、Siを1.5〜7.0質量%含有させることが望ましい。すなわち、Siは製品の電気抵抗を高め鉄損を低減するのに有効な成分であるが、Siは7.0質量%を超えると硬度が高くなり製造や加工が困難になりがちである。また、1.5質量%未満であると二次再結晶焼鈍中に変態を生じて安定した二次再結晶組織が得られないので下限を1.5質量%とする。
【0028】
また、インヒビター元素としてAlを初期鋼中に0.006質量%以上含有することにより結晶配向性をよりいっそう向上することもできる。上限は0.06質量%程度でこれを超えると再び結晶配向性の劣化が生じる。窒素も同様の作用があり、上限はふくれ欠陥の発生から100ppmに定める。下限は特に規定しないが20ppm程度未満に工業的に低下させるのは経済的に困難であり、20ppmとする。また、一次再結晶焼鈍後に増窒素処理を行う工程も有利に適合する。増窒素処理を行わない場合には初期鋼中にSe+Sの和で0.01質量%以上0.06質量%以下を含有することが必須であり、加えてMn化合物として析出させるために0.02−0.2質量%のMnを含有させることが必要である。それぞれ少なすぎると二次再結晶を生じるための析出物が過少となり、また多すぎると熱延前の固溶が困難となるのでそれぞれ下限上限を定める。増窒素処理を行わない場合にはMnは必ずしも必要ではないが、鋼の延性改善等の目的で適宜添加が可能である。鋼中には、上記の元素の他に方向性電磁鋼板の製造に適する添加成分元素であるB、Bi、Sb、Mo、Te、Sn、P、Ge、As、Nb、Ni、Cr、Ti、Cu、Pb、ZnおよびInから選ばれる元素を単独、または複合で0.0005−2.0質量%程度含有させることが好ましい。これ以下では効果がほとんどなく、多すぎる場合には磁束密度の低下を生じる。また、初期鋼中には熱延中の再結晶を促進して磁気特性を向上させる目的で0.005−0.08質量%程度のCを添加することもできる。
【0029】
C、S、Se、Nなどの元素はいずれも、磁気特性上有害な作用があり、特に鉄損を劣化させるので、それぞれ製品板においてはC:0.003質量%以下、S、Se:0.002質量%以下、N:0.002質量%以下に低減することが好ましい。
【0030】
フォルステライトの生成を抑止した一方向性電磁鋼板は、焼鈍分離剤にアルミナを主剤とする分離剤やMgOに塩化物を配合したものなど公知の方法で作成できるが、可能な限り表面は平滑な性状が好ましい。また、出発素材として、地鉄が一部に露出していればフォルステライトが少量残存するものや、残存したフォルステライトを酸洗や研磨等によって除去したものも用いることができる。この段階までに鋼板に溝を形成する手法などで磁区細分化処理を施すことは低鉄損化のために推奨される。また、溝形成によらず、歪や微細粒形成など任意の磁区細分化手段が併用可能である。板厚は必ずしも限定するものではないが、二次再結晶の容易さや本処理による鉄損低減の効果を最大限に享受するためには0.15から0.30mm程度の板厚が適当である。
【0031】
引き続き、酸洗、化学研磨、電解研磨などにより平滑化処理して鉄損低減を行うことや、ハロゲン化合物の水溶液中で電解を行う結晶方位強調処理により磁気特性の向上を行うことも可能である。
【0032】
次いで、本発明の主眼であるバインダー層となる有機金属化合物を鋼板上に塗布する。塗布方法はスプレー法やロール法など公知の手法が適用できる。有機金属化合物はアルコール、酢酸エチルやトルエンなどの適当な溶媒や水溶液で希釈して塗布性、均一性を向上させることができるが、塗布量は乾燥または焼き付け後に5.0g/m2 以下に調整することが重要である。下限は、均一な単分子層が確保出来る程度必要であるが、特に規定しない。上限は、バインダー層の損壊と焼き付け性の観点から定められる。有機金属化合物の金属結合基としては、メトキシ基ないしはエトキシ基がより好ましく、さらに、M−O−Fe型の金属結合のMに相当する有機金属化合物中の金属元素としてはSiが安定して密着を保持するとともに熱的に安定でありより好ましい。市販のシランカップリング剤やこれを希釈してプライマーとして入手できるもののうち、上記条件を満足するものは、本目的に有効に使用可能である。得られる電磁鋼板の鉄損が低いので、親水性基はアミノ基が好ましい。これらは有機溶媒や水溶液に混合して適用しても良い。さらに溶解を助けるために酢酸等での調製も可能である。
【0033】
乾燥焼き付けの温度上限は500℃であり、これ以上では有機金属化合物の官能基の分解が顕著に生じ、密着性が低下する。乾燥焼き付けを窒素等の不活性ガスや水素混合による弱還元性雰囲気で行うことは、有機物の燃焼を防ぐとともに、左記の官能基の酸化分解を抑制する効果を持つので推奨される。下限は特に定めないが、50℃を下回ると乾燥に必要以上の長時間がかかるので、処理設備の容量等に応じて適宜定めるべきである。より好ましくは、100〜300℃とする。
さらに、上記バインダーの塗布乾燥後に焼成後に張力被膜となる物質を含む水スラリーもしくは水溶液を鋼板上に塗布し、400℃以上900℃以下の温度で焼き付けて張力被膜を被成する。これ以下の温度ではバインダー層との良好な密着が得られないし、これ以上の温度では密着部の酸化による劣化が生じる。より好ましくは、600〜850℃とする。
有機金属化合物の乾燥焼き付けの際と同じ理由で窒素などの不活性ガスや水素混合による弱還元性雰囲気を用いることがより好ましい。
【0034】
張力被膜の厚みはバインダー層を含めて、0.5μm未満では有効に張力を与えて低鉄損化をする効果が限定的であるので0.5μm以上が好ましい。より好ましくは、0.5〜2μmとする。
【0035】
【実施例】
1. 磁区細分化のために微細粒を形成させながらMgOを主とする分離剤を用いて2次再結晶させた板厚0.22mmの方向性電磁鋼板のフォルステライト被膜を酸洗により除去し、さらに硫酸とクロム酸混液により鋼板表面の平均粗度が0.10μm程度となるまで平滑化処理を施した。
【0036】
この鋼板に金属結合基としてクロル基、有機結合基としてビニル基を有するビニルトリクロルシランをコーター塗布して大気中150℃で30秒乾燥し、鋼板片面あたり0.1g/m2 (乾燥質量、以下同じ)の塗布量に調整した後、ほう酸アルミの微粒子を水スラリーとしたものをさらにコーター塗布して820℃の窒素雰囲気中で焼き付け、片面当たりの被膜厚みを1.2μmとした。得られた成品の磁気特性はB8=1.911T,鉄損W17/50=0.58W/kgであった。
また、絶縁特性は層間抵抗値;25mΩ・m2 であった。
【0037】
2. 焼鈍分離剤としてMgOに対してPbCl2 と水酸化バリウムを0.3質量%ずつ含む分離剤を用いてフォルステライト被膜の形成を抑止しつつ、磁区細分化のために鋼板に溝形成を行ったのち2次再結晶させた板厚0.20mmの方向性電磁鋼板を作成した。この鋼板に金属結合基としてエトキシ基、親水基としてアミノ基を有するアミノプロピルトリエトキシシランを有するバインダーを酢酸エチルとトルエンの等量混合溶液に5倍希釈して鋼板にスプレー塗布したのち窒素中300℃乾燥焼き付けし、鋼板片面あたり1.2g/m2 の塗布量に調整した後、燐酸マグネシウムとコロイダルシリカおよびクロム酸からなる水溶液をコーター塗布して860℃の窒素水素混合雰囲気中で、焼き付け、片面あたりの被膜厚みを1.8μmとした。
【0038】
得られた成品の磁気特性はB8=1.913T,鉄損W17/50=0.50W/kgであった。
また、絶縁特性は層間抵抗値;無限大であった。
【0039】
(比較例)
1. 磁区細分化のために微細粒を形成させながらMgOを主とする分離剤を用いて2次再結晶させた板厚0.22mmの方向性電磁鋼板のフォルステライト被膜を酸洗により除去し、さらに硫酸とクロム酸混液により鋼板表面の平均粗度が0.10μm程度となるまで平滑化処理を施した。
【0040】
この鋼板に金属結合基としてのエトキシ基のみを持つテトラエトキシシランをコーター塗布して大気中150℃で30秒乾燥し、鋼板片面あたり0.1g/m2 の塗布量に調整した後、ほう酸アルミの微粒子を水スラリーとしたものをさらにコーター塗布して820℃の窒素雰囲気中で焼き付け、片面あたりの被膜厚みを1.2μmとした。得られた成品の磁気特性はB8=1.907T,鉄損W17/50=0.72W/kgであった。
また、絶縁特性は層間抵抗値;1.2mΩ・m2 であった。
【0041】
(実施例、比較例)
別に、鋼板は通常の二次再結晶焼鈍を終了した一方向性電磁鋼板(B8=1.895T,W17/50=0.727W/kg)を用い、表面のフォルステライトを酸洗除去後、弗酸中で化学研磨した材料に表1に示す各種の有機金属化合物をトルエンと酢酸エチルからなる有機溶媒に希釈後、塗布乾燥(片面当たり、1.3g/m2 )してからリン酸塩系の張力被膜(リン酸塩+コロイダルシリカ+クロム酸)を塗布して磁気特性と絶縁特性を評価した。
本発明の測定は以下の条件で行った。
1)張力被膜厚み:成膜の電子顕微鏡観察により測定した。
2)鉄損:50Hzの周波数で1.7Tに磁化させた場合の損失[W17/50(W/kg)]を測定した。
3)層間抵抗:JIS第2法に準拠して層間抵抗値を測定した。
【0042】
【表1】
【0043】
【発明の効果】
この発明は、フォルステライトの生成を抑止した、またはフォルステライトを除去した一方向性電磁鋼に、必要に応じて酸洗、平滑化処理、結晶方位強調処理を施し、さらに張力被膜によって鋼板に張力を付与し、鉄損を大幅に低減する技術においても、張力被膜の密着性を損なうことなく、鋼板に十分な張力を作用させ、高い絶縁性を与えることのできる方向性電磁鋼板の製造方法を提案するとともに、このような優れた鉄損の極めて低い絶縁性に優れた一方向性電磁鋼板を工業的に提供することを目的とするものである。
Claims (9)
- フォルステライトの生成を抑止した、またはフォルステライトを除去した一方向性電磁鋼に、親水基もしくは有機結合基を持ち、さらに金属結合基を持つ有機金属化合物を、鋼板上に塗布した後、乾燥または焼き付け処理して、その上に、焼成後に張力被膜となる物質を含む水スラリーもしくは水溶液を鋼板に塗布して400℃以上900℃以下の温度で焼き付けて、張力被膜を形成することを特徴とする極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記張力被膜の形成を不活性ガスまたは還元性雰囲気で行うことを特徴とする請求項1に記載の極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記金属結合基がアルコキシル基とその加水分解基、アセトキシ基、メトキシカルボニル基、ハロゲン基のうちの一つ以上である請求項1または2に記載の極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記金属結合基が、メトキシ基、エトキシ基の単独あるいは複合、またはそれらが加水分解されたシラノール基であるシランカップリング剤もしくはこのオリゴマーであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記親水基がアミノ基、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、スルホ基のうちの一つ以上であり、有機結合基がビニル基、エポキシ基、メタクリル基、メタクリロキシ基、メルカプト基、ウレイド基、グリシドキシ基、クロル基のうちの一つ以上である請求項1ないし4のいずれかに記載の極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記有機金属化合物が、アミノ基を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記焼成後に張力被膜となる物質が、 リン酸塩とクロム酸とコロイダルシリカを主成分とすることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記焼成後に張力被膜となる物質が、 ほう酸と酸化アルミニウムを主成分とすることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
- フォルステライトの生成を抑止した、またはフォルステライトを除去した一方向性電磁鋼上に、親水基もしくは有機結合基を持ち、さらに金属結合基を持つ有機金属化合物を、塗布、乾燥または焼き付け処理したバインダー層を有し、その上に、焼成後に張力被膜となる物質を含む水スラリーもしくは水溶液を鋼板に塗布して400℃以上900℃以下の温度で焼き付けた張力被膜を有することを特徴とする極めて低い鉄損を有し、絶縁特性に優れた一方向性電磁鋼板。
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