JP4473512B2 - セラミックス焼結体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はセラミックス焼結体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、コーディエライト中に特定量のムライトを分散させることにより、低熱膨張であり、且つヤング率を密度で除した値(以下、「比剛性」と言う)が大きいセラミックス焼結体及びその製造方法に関する。
本発明は、半導体製造装置用セラミックス部品、精密制御機械用セラミックス部品、光学機器用セラミックス部品及び触媒担体等に利用される。
【0002】
【従来の技術】
従来、低熱膨張セラミックス焼結体として、チタン酸アルミニウム、ユークリプタイト、β−スポジューメン、ペタライト等のリチウムアルミノシリケート系セラミックス及びコーディエライト等のマグネシウムアルミノシリケート系セラミックスが知られている。
このチタン酸アルミニウムやリチウムアルミノシリケート系セラミックスの熱膨張係数は小さいが、ヤング率が小さいために外力や自重に対して変形しやすい。従って、寸法変化や形状変化を嫌う精密機械部品や光学機器部品への応用は限られている。
一方、コーディエライトは低熱膨張セラミックス焼結体として従来からフィルタ、ハニカム及び耐火物等に応用されている。しかし、これらは多孔質体であり、そのヤング率は70〜90GPa程度と小さい。また、熱膨張係数は0.5ppm/K程度と十分に小さいとはいえない。
これまで緻密で熱膨張係数が小さいコーディエライトを得るために、ペタライト相やβ−スポジューメン相を共存させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この方法では、十分に熱膨張係数が小さいコーディエライト焼結体は得られていない。また、気孔率が小さく、熱膨張係数が小さいコーディエライト焼結体を得るために希土類元素を添加する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この場合においても、熱膨張係数は十分小さいとはいえない。
【0003】
【特許文献1】
特開平10−53460号公報
【特許文献2】
特開平11−209171号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点を解決するものであり、低熱膨張であり、且つ高比剛性のセラミックス焼結体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明のセラミックス焼結体は、結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなるセラミック焼結体であって、コーディエライト及びムライトの含有量の合計を100体積%とした場合に、コーディエライト92〜99.5体積%とムライト0.5〜8体積%とからなり、且つ密度が2.48g/cm3以上であり、上記コーディエライトの平均粒径が2μm以下であり、20〜25℃で測定した熱膨張係数が−0.2〜0.2ppm/Kであり、且つ比剛性が54.3GPa/g/cm 3 以上であることを特徴とする。
また、参考発明のセラミックス焼結体は、X線回折測定により検出される結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなるセラミック焼結体であって、コーディエライトとムライトとからなり、X線回析法により測定されるコーディエライトの結晶の(110)面のピーク強度値Bとムライト結晶の(110)面のピーク強度値Aとの比[前記の算出式(1)によって求められるC(以下、これを「ピーク強度比」という)]が0.5〜16であり、且つ密度が2.48g/cm3以上であることを特徴とする。
参考発明では、コーディエライトの平均粒径が2μm以下であるセラミックス焼結体とすることができる。
また、このセラミックス焼結体は、半導体製造装置用の部材、真空チャック用の部材及び静電チャック用の部材とすることができる。
【0006】
本発明のセラミックス焼結体の製造方法は、(1)Mg酸化物粉末及び加熱されてMg酸化物になるMg化合物粉末のうちの少なくとも1種と、Al酸化物粉末及び加熱されてAl酸化物になるAl化合物粉末のうちの少なくとも1種と、Si酸化物粉末及び加熱されてSi酸化物になるSi化合物粉末のうちの少なくとも1種とを混合して、又は、(2)Mg、Al、Siの複合酸化物粉末の2種以上を混合して、或いは、(3)上記各金属酸化物粉末及び上記各金属化合物粉末のうちの少なくとも1種と上記金属複合酸化物粉末のうちの少なくとも1種とを混合して、結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなり、且つコーディエライト及びムライトの含有量の合計を100体積%とした場合に、コーディエライト92〜99.5体積%及びムライト0.5〜8体積%となり、且つ密度が2.48g/cm3以上で、上記コーディエライトの平均粒径が2μm以下であり、20〜25℃で測定した熱膨張係数が−0.2〜0.2ppm/Kであり、且つ比剛性が54.3GPa/g/cm 3 以上となるように焼成することを特徴とする。
尚、本発明において、熱膨張係数が0ppm/K未満である場合は、焼結体が熱収縮することを意味する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する.
本発明のセラミックス焼結体は、コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)及びムライト(3Al2O3・2SiO2)の含有量の合計を100体積%とした場合に、コーディエライト92〜99.5体積%とムライト0.5〜8体積%とからなる。コーディエライト含有量は92〜99.5体積%、より好ましくは95〜99.3体積%、更に好ましくは95〜99.2体積%である。この含有量が90体積%未満であると比剛性は大きくなるものの、熱膨張係数も大きくなるので好ましくない。また、この含有量が99.8体積%を超えると熱膨張係数の大きなスピネル相やガラス相、ヤング率の小さいクリストバライト相等が析出するため、熱膨張係数は大きくなり、更に比剛性が小さくなるので好ましくない。
ここで、「体積%」は、原料粉末が焼成中に反応して生成するコーディエライトとムライトの体積の合計を100体積%したときに各々が占める体積%を示す。
【0008】
上記ムライトの含有量は、0.5〜8体積%であり、より好ましくは0.7〜5体積%、更に好ましくは0.8〜5体積%である。この含有量が0.2体積%未満であると、熱膨張係数の大きなスピネル相やガラス相、ヤング率の小さいクリストバライト相等が析出するため、熱膨張係数は大きくなり、更に比剛性が小さくなるので好ましくない。また、この含有量が10体積%を超えると、比剛性は大きくなるものの、熱膨張係数も大きくなるので好ましくない。また、この焼結体は、X線回析測定により検出される結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなっている。
尚、上記のコーディエライト及びムライト以外に、密度、熱膨張係数及び比剛性に影響を及ぼさない限りにおいて、微量な他の成分(製造上の不可避的不純物)を含むこともできる。
【0009】
参考発明のセラミックス焼結体は、コーディエライトとムライトとからなり、ピーク強度比は0.5〜16であり、より好ましくは0.7〜10、更に好ましくは0.8〜10である。このピーク強度比が0.2未満であると、熱膨張係数の大きなスピネル相やガラス相、ヤング率の小さいクリストバライト相等が析出するため、熱膨張係数は大きくなり、更に比剛性が小さくなるので好ましくない。また、このピーク強度比が20を超えると、比剛性は大きくなるものの、熱膨張係数も大きくなるので好ましくない。また、この焼結体は、X線回析測定により検出される結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなっている。
尚、上記のコーディエライト及びムライト以外に、密度、熱膨張係数及び比剛性に影響を及ぼさない限りにおいて、微量な他の成分(製造上の不可避的不純物)を含むこともできる。
【0010】
上記両発明のセラミックス焼結体の密度は、2.48g/cm3以上であり、好ましくは2.49/cm3以上、より好ましくは2.50/cm3以上である。この密度が2.48g/cm3未満であると、大きいヤング率が得られず、比剛性が小さくなるので好ましくない。また気孔も多くなるため表面を研磨した際に表面平滑性が得られにくい。
【0011】
上記セラミックス焼結体に含有されるコーディエライト結晶の平均粒径は、2μm以下であり、より好ましくは1.9μm以下、更に好ましくは1.8μm以下である。コーディエライト結晶はa軸とc軸との熱膨張係数が異なるため、2μmを超えると、この熱膨張差から焼成工程中に焼結体においてマイクロクラックが生じ、得られるセラミックスの比剛性が小さくなるので好ましくない。
【0012】
上記セラミックス焼結体は、20〜25℃で測定した熱膨張係数が−0.2〜0.2ppm/Kであり、より好ましくは−0.16〜0.16ppm/K、更に好ましくは−0.11〜0.11ppm/K、特に好ましくは−0.08〜0.08ppm/Kである。また、比剛性は54.3GPa/g/cm3以上であり、より好ましくは54.6GPa/g/cm3以上、更に好ましくは54.8GPa/g/cm3以上、特に好ましくは54.9GPa/g/cm3以上である。熱膨張係数が−0.2〜0.2ppm/Kで且つ比剛性が54.3GPa/g/cm3以上であり、より好ましくは熱膨張係数が−0.16〜0.16ppm/Kで且つ比剛性が54.6GPa/g/cm3以上、更に好ましくは熱膨張係数が−0.11〜0.11ppm/Kで且つ比剛性が54.8GPa/g/cm3以上、特に好ましくは熱膨張係数が−0.08〜0.08ppm/Kで且つ比剛性が54.9GPa/g/cm3以上である。
【0013】
また、ムライトの含有量により、図1に示すように、熱膨張係数及び比剛性は以下の(1)〜(4)が好ましい。
(1)ムライトが0.2〜10体積%の場合は、熱膨張係数が−0.03〜0.20ppm/Kで且つ比剛性が54.4〜56.6GPa/g/cm3
(2)ムライトが0.5〜8体積%の場合は、熱膨張係数が−0.03〜0.16ppm/Kで且つ比剛性が54.7〜56.5GPa/g/cm3
(3)ムライトが0.7〜5体積%の場合は、熱膨張係数が−0.03〜0.08ppm/Kで且つ比剛性が54.9〜56.0GPa/g/cm3
(4)ムライトが0.8〜5体積%の場合は、熱膨張係数が−0.03〜0.08ppm/Kで且つ比剛性が55.0〜56.0GPa/g/cm3
【0014】
本発明のセラミックス焼結体の製造方法を以下に説明する。
本発明の製造方法においては、原料粉末として、Mg酸化物粉末及び加熱されてMg酸化物になるMg化合物粉末のうちの少なくとも1種と、Al酸化物粉末及び加熱されてAl酸化物になるAl化合物粉末のうちの少なくとも1種と、Si酸化物粉末及び加熱されてSi酸化物になるSi化合物粉末のうちの少なくとも1種とを混合して使用する。これら各化合物は、加熱されて酸化物になる化合物であればよく、例えば、各金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物及び硝酸塩等が挙げられる。また、上記各金属酸化物粉末や各金属化合物粉末の他に、上記金属(Mg、Al、Si)の複合酸化物粉末のうちの2種以上を混合して使用することができる。この複合酸化物粉末としては、例えば、コーディエライト、ムライト及び他のアルミノシリケート等の粉末が挙げられる。更に、上記各金属酸化物粉末及び各金属化合物粉末のうちの少なくとも1種と上記金属複合酸化物粉末のうちの少なくとも1種とを混合して使用することができる。例えば、コーディエライト、ムライト及び他のアルミノシリケート等のうちの1種以上の粉末と、マグネシア、炭酸マグネシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカ等のうちの1種以上の粉末とを使用することができる。また、上記原料粉末として仮焼粉末を使用することができる。
【0015】
上記各粉末の平均粒径は、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.9μm以下、更に好ましくは1.8μm以下である。2.0μmを超えると大きいヤング率の焼結体が得られず、比剛性が小さくなるので好ましくない。上記金属酸化物粉末等は、これらの粉末が焼成中に反応してコーディエライト相92〜99.5体積%とムライト相0.5〜8体積%からなる焼結体になるように秤量し混合する。この焼結体は、X線回析測定により検出される結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなっている。尚、密度、熱膨張係数及び比剛性に影響を及ぼさない限りにおいて、上記のコーディエライト相及びムライト相以外を構成することとなる微量な他の原料(製造上の不可避的不純物)を混合することもできる。
その後、通常、この混合物を用いて成形する。上記において成形体の形状、大きさ等は特に限定されず、また、その成形方法も特に限定されない。
次いで、この成形体を焼成することにより、セラミックス焼結体が得られる。焼成は所定雰囲気において、通常、1300〜1450℃で1〜5時間行う。また、その焼成雰囲気は限定されず、通常、大気雰囲気であるが、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や真空中、窒素ガス等の非酸化性雰囲気での焼成も可能である。また、この焼結体は、通常、常圧焼成で得られるが、より緻密な焼結体を得るために常圧焼結後、HIP処理をすることも可能である。更に、HP(ホットプレス)等の加圧焼結も可能である。
この製造方法により製造されたセラミックス焼結体には、前記した熱膨張係数及び比剛性を適用できる。
【0016】
本発明及び参考発明のセラミックス焼結体は、半導体製造装置用の部材、真空チャック用の部材及び静電チャック用の部材として有用である。
このセラミックス焼結体を、例えば、半導体ウェハの製造に用いられる半導体製造装置用の部材として採用することにより、熱による装置の変形を抑制することができ、寸法精度に優れた半導体ウェハを得ることができる。また、例えば、半導体ウェハの製造に用いられる真空チャック用の部材として採用することにより、熱による部材の変形を抑制でき、寸法精度に優れた半導体ウェハを得ることができる。更に、このセラミックス焼結体は、例えば、クーロン力によってウェハを保持する場合などに用いられる静電チャック用の部材として使用することもできる。
【0017】
【実施例】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
(1)セラミックス焼結体の作製
市販のコーディエライト粉末に表1に示した組成になるようマグネシア粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末及びムライト粉末の所定量を秤りとり、高純度アルミナ球石(純度99.9%以上)を用いて水を溶媒として湿式粉砕を行った。粉砕後の粉末の平均粒径は1.7μmであった。その後、バインダーを添加し、噴霧乾燥を行った。次いで、所定の形状に成形を行い焼成した。このとき焼成はすべての試料において大気中、常圧で行い、焼成温度1300〜1450℃、保持時間は2時間として、実施例1〜6、比較例1〜3の各試料を得た。
尚、上記の平均粒径は、レーザー散乱法により粒度分布を測定した場合の50%径である。
表1に、各々の原料粉末の配合量及び焼成温度を示す。
【0018】
【表1】
【0019】
(2)物性等の評価方法
表1に示した実施例及び比較例のセラミックス焼結体について以下の方法により評価した。
(a)コーディエライトとムライトの含有量;焼結体をX線回折測定し、ムライト結晶(110)面のピーク強度とコーディエライト結晶(110)面のピーク強度から予め作成した検量線よりムライト量を算出した。検量線はコーディエライトにムライトを0、5、10体積%添加した焼結体を作製し、これら焼結体をX線回折測定し、ムライト結晶(110)面のピーク強度とコーディエライト結晶(110)面とのピーク強度の比から求めた。
(b)焼結体密度;JIS R 1634で定めるアルキメデス法により評価を行い、数値はJIS Z 8401によって小数点以下2桁にまるめた。
(c)ピーク強度比;焼結体をX線回折測定し、得られたコーディエライト結晶(110)面及びムライト結晶(110)面のピーク強度から前記の算出式(1)によって求めた(図2の実施例3のセラミックス焼結体のX線回折のチャート参照)。
(d)ヤング率はJIS R 1602で定める超音波パルス法により室温で測定を行った。
(e)焼結体中のコーディエライト粒子の平均粒径;焼結体を鏡面研磨し、サーマルエッチングを行ったのちにSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、SEM写真からインターセプト法によって算出した。表1における実施例及び比較例の各試料のコーディエライト粒子の平均粒径はいずれも1.8μmであった。
(f)比剛性;ヤング率の値を密度で除して算出した。
(g)熱膨張係数;JIS R 3251で定めるレーザー干渉法を用いて評価を行い、20〜25℃の平均熱膨張係数として算出した。
表2に、実施例及び比較例の各セラミックス焼結体に含有されるコーディエライト及びムライトの量、並びに焼結体の密度、ピーク強度比、ヤング率、比剛性及び熱膨張係数を示す。
尚、表2中の「体積%」は、原料粉末が反応して生成するコーディエライトとムライトの体積の合計を100体積%としたときに各々が占める体積%を示す。
また、図1に実施例1〜6と比較例1〜2のムライト量と、熱膨張係数及び比剛性との関係を示す。
【0020】
【表2】
【0021】
(3)実施例の効果
図1及び表1に示すように、比較例1(ムライトを含有しないコーディエライトのみからなるセラミックス焼結体)及び比較例2(コーディエライト87体積%とムライト13体積%とからなるもの)は、熱膨張係数が各々0.22ppm/K、0.48ppm/Kといずれも大きい。特に、比較例2は、熱膨張係数が非常に大きい。また、比剛性は各々54.2GPa/g/cm3、56.6GPa/g/cm3となり、特に比較例1は比剛性が小さいことが判る。更に、表1によれば、比較例3(コーディエライト97体積%とムライト3体積%とからなり、密度が2.37g/cm3と小さいもの)は、熱膨張係数は0.06ppm/Kと小さいものの、比剛性が50.6GPa/g/cm3と非常に小さい。
【0022】
これに対して、図1及び表1に示すように、実施例1〜6は、熱膨張係数が−0.03〜0.16ppm/Kであり、いずれも小さく、このうち、特に実施例1〜5は−0.03〜0.10ppm/Kと小さく比較例1に比べて、約1/10〜1/3と非常に小さい。特に、実施例1及び3は比較例1に比べて、熱膨張係数は約1/10と極めて小さい。即ち、コーディエライトにそれぞれ1体積%又は3体積%と少量のムライトが含有された実施例1及び実施例3では、熱膨張係数は比較例1の0.22ppm/Kから0.02ppm/Kへと急激に小さくなる。
また、実施例1〜6は、比剛性が55.2G〜56.5GPa/g/cm3と比較例1に比べて大きい。
以上のことから、実施例1〜6は、優れた熱膨張係数と比剛性とを有し、極めて両者のバランスに優れることが判る。また、熱膨張係数は、図1の如く下に凸の略曲線状となり、予期しない意外な挙動を示している。
【0023】
上記各実施例では、従来から知られているコーディエライトに比べて熱膨張係数が小さく、且つ比剛性は大きく、従来技術からは予測できない効果を有する。この効果は、以下の理由により得られると考えられる。即ち、コーディエライト生成領域は非常に狭く、わずかな組成ずれによって第2相が析出することとなる。従って、コーディエライト焼結体の組成を若干ムライト生成側にずらすことにより、ヤング率が小さく熱膨張係数の大きな相が析出することが抑制され、熱膨張係数が小さく、ヤング率の大きい焼結体を安定して製造することが可能となる。尚、コーディエライト単相としようとしてもガラス相等が生成してしまい、安定にコーディエライト単相とすることができず、熱膨張係数が大きくなってしまう。
【0024】
(4)実施例のセラミックス焼結体への適用例
本発明及び参考発明のセラミックス焼結体は、熱膨張係数が小さいコーディエライトを主成分としているので、セラミックス焼結体全体の熱膨張係数が極めて小さく、温度変化に伴う寸法変化や形状変化が少ない。しかも、上述したセラミックス焼結体を構成するための材料を焼成することにより、高い密度とすることができ、高比剛性を併せ持つセラミックス焼成体を得ることができる。
従って、上述したセラミックス焼結体を用いることにより、温度変化に伴う寸法変化や形状変化が少なく、且つ高い剛性を有するセラミック部品、例えば、半導体製造装置、精密制御機械、光学機器、触媒担体等に好適に用いることができるセラミック部品を得ることができる。
【0025】
以下、上述したセラミックス焼結体からなるセラミック部材の用途について説明する。
(a)まず、前記実施例の構成を有するセラミックス焼結体を用いた真空チャックと、その真空チャックを用いた半導体製造装置について説明する。
図3に示すように、真空チャック1は、減圧による吸引力によって、半導体ウェハ3を吸着して保持する円盤状の吸着プレートである。この真空チャック1は、円盤状の基板11と、基板11を板厚方向に貫く(減圧のための)吸着孔111と、基板11の吸着面K側(半導体ウェハ3側)に突出する多数の突起部112と、突起部112の周囲を囲むように立設された環状のシール部113とを備えている。
【0026】
上述した真空チャック1は、図示しないが、半導体製造装置の一部を構成する周知のポリッシングマシンに装着して用いられる。このポリッシングマシンは、半導体ウェハ3を化学的機械的研磨(CMP)するCMP装置であり、主として回転可能に配置されたプラテンと、その上方に配置され、半導体ウェハ3を真空吸引して固定することができる研磨ヘッドとから構成されている。そして、このポリッシングマシンでは、研磨ヘッドに真空チャック1を取り付け、真空ポンプを作動させて研磨ヘッド内の空間を減圧状態とし、これにより、真空チャック1の、突起部112が形成された面と、シール部113と、半導体ウェハ3と、により形成される空間を吸着孔111を通じて減圧状態とし、真空チャック1の吸着面K側に半導体ウェハ3を吸着させて固定する。
次いで、プラテンに装着された研磨パッドと真空チャック1との間に半導体ウェハ3を配置した状態で、研磨パッドの表面にCMP用のスラリーを供給し、プラテン及び研磨ヘッドを回転させて半導体ウェハ3の表面の研磨を行う。
この真空チャック1は、上述した性質を有するセラミックス焼結体からなり、低熱膨張性及び高い剛性を有しており、しかも温度変化に対する寸法変化や形状変化が少ないので、寸法精度の高い半導体ウェハ3を製造することができる。
【0027】
(b)次に、他の適用例として、前記実施例の構成を有するセラミックス焼結体を用いた静電チャックについて説明する。
図4に示すように、静電チャック21は、上述したセラミックス焼結体からなる円盤状の部材を基体211としており、静電チャック21の一方の面(同図下方の裏面)には、接合層4を介して金属製の円盤状のベース板22が接合されている。尚、静電チャック21にベース板22が接合されたものを静電チャック装置2と称する。
【0028】
この静電チャック21の内部(従って基体211の内部)には、一対の内部電極2111、2112が埋設されており、静電チャック21の他方の面(同図上方の表面)は、例えば、半導体ウェハ3を吸着固定する吸着面(チャック面)2113とされている。
尚、静電チャック21及びベース板22を図4の上下方向に貫いて、貫通孔(図示せず)を設け、この貫通孔を介して吸着面2113側に冷却用のHeガス等を供給してもよい。
この静電チャック21では、使用時、チャックに±1000V程度の直流の電圧を印加して半導体ウェハ3を吸着するクーロン力を発生させ、この吸着力により半導体ウェハ3を吸着して固定する。
この静電チャック21は、上述した性質を有するセラミックス焼結体からなり、温度変化に対する寸法変化や形状変化が少ないので、寸法精度の高い半導体ウェハ3を製造することができる。
【0029】
【発明の効果】
本発明のセラミックス焼結体は、熱膨張係数が従来のコーディエライト系セラミックスに比較して小さく、且つ比剛性は大きく両者の性能バランスに優れる。従って、特に低熱膨張性と高比剛性が必要な精密機械部品や光学機器部品又は高い熱衝撃抵抗が要求される部品などに好適に利用することができる。
また、本発明の製造方法によれば、熱膨張係数が小さく且つ比剛性の大きいセラミックス焼結体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】含有されるムライトの量と、熱膨張係数及び比剛性値との関係を示すグラフである。
【図2】実施例3のセラミックス焼結体のX線回折のチャートである。
【図3】半導体ウェハとセラミックス焼結体からなる真空チャックとを一部破断して示す斜視図である。
【図4】静電チャックとベース板とからなる静電チャック装置を一部破断して示す斜視図である。
【符号の説明】
1;真空チャック、3;半導体ウェハ、11;基板、111;吸着孔、K;吸着面、112;突起部、113;シール部、21;静電チャック、211;基体、4;接合層、22;ベース板、2;静電チャック装置、2111、2112;一対の内部電極、2113;吸着面。
Claims (5)
- 結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなるセラミックス焼結体であって、
コーディエライト及びムライトの含有量の合計を100体積%とした場合に、コーディエライト92〜99.5体積%とムライト0.5〜8体積%とからなり、且つ密度が2.48g/cm3以上であり、上記コーディエライトの平均粒径が2μm以下であり、
20〜25℃で測定した熱膨張係数が−0.2〜0.2ppm/Kであり、且つ比剛性が54.3GPa/g/cm 3 以上であることを特徴とするセラミックス焼結体。 - (1)Mg酸化物粉末及び加熱されてMg酸化物になるMg化合物粉末のうちの少なくとも1種と、Al酸化物粉末及び加熱されてAl酸化物になるAl化合物粉末のうちの少なくとも1種と、Si酸化物粉末及び加熱されてSi酸化物になるSi化合物粉末のうちの少なくとも1種とを混合して、又は、(2)Mg、Al、Siの複合酸化物粉末の2種以上を混合して、或いは、(3)上記各金属酸化物粉末及び上記各金属化合物粉末のうちの少なくとも1種と上記金属複合酸化物粉末のうちの少なくとも1種とを混合して、結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなり、且つコーディエライト及びムライトの含有量の合計を100体積%とした場合に、コーディエライト92〜99.5体積%及びムライト0.5〜8体積%となり、且つ密度が2.48g/cm3以上で、上記コーディエライトの平均粒径が2μm以下であり、20〜25℃で測定した熱膨張係数が−0.2〜0.2ppm/Kであり、且つ比剛性が54.3GPa/g/cm 3 以上となるように焼成することを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法。
- 結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなるセラミックス焼結体であって、
コーディエライト及びムライトの含有量の合計を100体積%とした場合に、コーディエライト92〜99.5体積%とムライト0.5〜8体積%とからなり、且つ密度が2.48g/cm3以上であり、上記コーディエライトの平均粒径が2μm以下であり、
20〜25℃で測定した熱膨張係数が−0.2〜0.2ppm/Kであり、且つ比剛性が54.3GPa/g/cm 3 以上であることを特徴とする半導体製造装置用の部材であるセラミックス焼結体。 - 結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなるセラミックス焼結体であって、
コーディエライト及びムライトの含有量の合計を100体積%とした場合に、コーディエライト92〜99.5体積%とムライト0.5〜8体積%とからなり、且つ密度が2.48g/cm3以上であり、上記コーディエライトの平均粒径が2μm以下であり、
20〜25℃で測定した熱膨張係数が−0.2〜0.2ppm/Kであり、且つ比剛性が54.3GPa/g/cm 3 以上であることを特徴とする真空チャック用の部材であるセラミックス焼結体。 - 結晶相がコーディエライト相とムライト相のみからなるセラミックス焼結体であって、
コーディエライト及びムライトの含有量の合計を100体積%とした場合に、コーディエライト92〜99.5体積%とムライト0.5〜8体積%とからなり、且つ密度が2.48g/cm3以上であり、上記コーディエライトの平均粒径が2μm以下であり、
20〜25℃で測定した熱膨張係数が−0.2〜0.2ppm/Kであり、且つ比剛性が54.3GPa/g/cm 3 以上であることを特徴とする静電チャック用の部材であるセラミックス焼結体。
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