JP4471431B2 - 綿状高融点金属材料の製造方法およびその材料を用いた陰極 - Google Patents

綿状高融点金属材料の製造方法およびその材料を用いた陰極 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、タングステンやモリブデンなどの高融点金属の超微粒子が綿状に繋がった粉末、薄膜などの綿状高融点金属材料およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、酸化物陰極、含浸型陰極、焼結型陰極、電界放出型陰極などの陰極材料に還元材として混入する高融点金属粉末、または陰極の表面に被覆される高融点金属膜、さらには固体触媒の基材など、高温に耐えながら表面積の大きい材料が必要とされる電子部品に用いられるのに適した綿状高融点金属材料およびその製造方法ならびにその材料を用いた電子部品およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高電流密度陰極では、電子放出材料を還元してBaやCaなどとするため、電子放出材料に還元材としての粉末が混入される。たとえば酸化物陰極では、電子放出材料としてBa、Ca、Srなどのアルカリ土類金属の酸化物、またはこれらの酸化物の固溶体が使用され、還元材としてMg、Ni、W、Al、Scなどが用いられ、たとえば図20(a)に示されるように、Niなどからなる基体金属201に還元材203としてのMgを添加したり、図20(b)に示されるように、電子放出材料202であるBaOに数十μmオーダーのMg粉末202を混合して用いられている。そして、BaO+Mg→Ba+MgOとして遊離Baを析出させている。また、含浸型陰極では、電子放出材料として、アルミン酸バリウムカルシウムまたはガリウム酸バリウムカルシウムまたはホウ素酸バリウムカルシウムが使用され、還元材として、W、Mo、Al23などの数十μmオーダーの粉末が同様に電子放出材料に混合して使用されている。
【0003】
また、焼結型陰極は、粒径が1〜数μmのWまたはMoの粉末を電子放出材料である酸化物と機械的に混合して焼結することにより製造される。この場合、均一な焼結体を得るため、仮焼結をした後、その焼結体を粉砕混合し、さらに本焼結する工程を採る場合もある。
【0004】
一方、陰極からの電子放出特性Iは、リチャードソン・ダッシュマンの式により以下のように説明される。
I=A(1−γ)T2exp(−eφ/kT)[A/cm2](実際の電流密度)
ここで、陰極表面の粗度率がδであれば、見かけの電子放出特性I1は、
1=δ・I
=δ・A(1−γ)T2exp(−eφ/kT)
=A12exp(−eφ/kT) [A/cm2](見かけの電流密度)
と表すことができる。ただし、Tは絶対温度、eは電荷、φは仕事関数、kはボルツマン定数、Aはダッシュマン定数=120[A/cm2・deg2]、γは反射率、δは粗度率をそれぞれ示す。
【0005】
従って、上式より仕事関数φが小さいほど、また、粗度率が大きいほど、すなわち定数A1が大きいほど高電流密度が得られる。この観点から、これまで、陰極表面の仕事関数φを下げることに重点がおかれ、含浸型陰極、M陰極、スカンデート陰極などの開発がなされている。すなわち、含浸型陰極はアルミン酸バリウムカルシウムを多孔質タングステンまたは多孔質モリブデンに含浸させることにより、電子放出面に(バリウム−酸素)双極子が形成され、酸化物陰極の仕事関数に比べてさらに仕事関数が下がる。これにより10A/cm2程度の高電流密度が得られる。また、M陰極は、上記含浸型陰極上にOs、Ir、Ruのいずれかを数十〜数百nmの厚さにスパッタすることにより、含浸型陰極の仕事関数に比べてさらに仕事関数が下がり、20A/cm2程度の高電流密度の陰極が得られる。
【0006】
さらに、スカンデート陰極は、焼結型陰極または含浸型陰極上に、酸化スカンジウム(酸化イットリウム)をスパッタにより、もしくはリアクティブスパッタにより数〜数十nmの厚さコーティングし、または陰極材料中に分散させることにより得られるもので、100A/cm2程度の高電流密度の陰極となる。分散型は、酸化物陰極材と基体金属の間で生成される抵抗層(中間層)の分解に有効といわれる。この分散型タイプの電子放出量は、通常の1.5倍程度である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、高電流密度の陰極を得るためには、電子放出材料を還元材としての高融点金属粉末と混合したり、基体金属に添加したり、陰極の表面に薄層として高融点金属薄膜を設ける必要がある。これらの高融点金属材料は、電子放出材料との反応などが目的であるため、できるだけ電子放出材料と接触するように表面積の大きい形状であることが好ましい。しかし、従来は前述のように数μmから数十μm程度の粉末が用いられており、粉末の内部は全然反応に寄与せず、限られた陰極面積の中で充分に還元材として機能していないという問題がある。
【0008】
また、前述のように、陰極からの電子放出特性Iは、リチャードソン・ダッシュマンの式により説明されるが、従来はこの式のうち陰極表面の仕事関数を下げることのみに主眼がおかれ、粗度率δを向上させる対策は余り施されていない。しかし、粗度率を向上させることができれば、より一層の高電流密度の陰極が得られる。
【0009】
一方、たとえば特公平7−65085号公報には、サブミクロンオーダの超微粒子の高融点金属粉末を得る方法が開示されている。すなわち、1.8×102〜3×103Paの酸素と2.5×103〜2.7×104Paのヘリウムあるいは9×102〜1.4×104Paのアルゴン中において加熱蒸発させることにより、高融点金属酸化物の超微粒子を生成することができ、その酸化物を還元することにより、高融点金属の超微粒子が得られることが開示されている。しかし、このような超微粒子では、集めると殆ど隙間なくくっついて、スパッタ法などにより金属膜を成膜するのと同様に緻密な層になってしまう。また、電子放出材料などと混合する場合でも、粒子が小さすぎるため、均一に混合せず、高融点金属微粒子が偏って分布したり、均一に分布したとしても、電子放出材料の粉末が大きい(たとえば10〜20μm程度)ため、電子放出材料粉末の間に混ざる高融点金属微粒子の数が限定されてしまい充分にその接触面積を大きくすることができない(高融点金属微粒子が凝集して大きな塊となり、微粒子自身が電子放出材料の粉末をとり囲むこむことができず、高融点金属微粒子の量を多くすると、電子放出材料の粉末の間にまとまってしまうことになり、結局大きな高融点金属粉末を入れたのと同様になる)。
【0010】
また、前述のように、OsやIrなどの仕事関数を下げる材料を陰極の表面に付着させる場合でも、表面が平坦な陰極では、その平坦な面に均一に付着するため、陰極の最表面のみにしか付着させることができず、その表面積が限られて、充分な仕事関数の低下に寄与することができない。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、還元材として電子放出材料と混合する場合でも、または陰極の表面に付着させる場合でも、できるだけ大きな表面積を有し、広い範囲で電子放出材料と接触し得る、綿状の高融点金属材料またはその酸化物およびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の他の目的は、綿状高融点金属を用い、電流密度の大きい酸化物陰極、含浸型陰極、焼結型陰極などの陰極およびその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、この綿状高融点金属を陰極に用いることにより表面積を大きくして電子放出能力の高い電界放射型陰極を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、通常の金属の成膜方法として知られている、真空蒸着法(高融点金属は融点が高いため真空蒸着法では成膜することもできない)、スパッタ法、CVD法、MOCVD法などでは非常に緻密な膜しか得られないため、空孔率が大きく表面積を大きくすることができる金属膜を得ることができず、高融点金属の微粒子が空隙部を介して繋がり(連結し)、大きな空孔率で表面積の大きい高融点金属材料を得るため鋭意検討を重ねた。
【0020】
その結果、高融点金属材料を酸化させると、昇華温度が低くなって蒸発し、そのときの雰囲気の全圧力、酸素の分圧、高融点金属原料の加熱温度などを制御することにより、蒸発する微粒子間で対流する速度が変化し、最初に蒸発してゆっくり上昇する酸化物微粒子が、後から蒸発して早く上昇する微粒子に追いつかれて微粒子同士がくっついたりするウイスカー状態が発生し、鎖状に空隙部を介しながら吸着して基台上に堆積し、酸化物微粒子が綿状に空隙部を介して堆積することを見出した。そして、その綿状の高融点金属酸化物を還元することにより、酸素が除去されて綿状の高融点金属層が得られることを見出した。
【0022】
ここに微粒子とは、大部分の粒子が0.1μm程度以下の粒子であることを意味し、綿状とは、微粒子が空隙部を介して繋がることにより、その空隙率(空孔率)が50%程度以上のものを意味する。以下の記載においても、「綿状」をこの意味で用いる。なお、高融点金属としては、たとえばタングステンやモリブデンなどが含まれる。このような綿状高融点金属材料は、層状に形成されてもよいし、0.1μm〜数μm程度の粉末に形成されてもよい。
【0023】
このような綿状の高融点金属材料が形成されることにより、その表面積が平坦面と比べて10倍以上と非常に大きくなり、陰極の電子放出材料と混合(電子放出材料粉末の周囲に付着)したり、陰極表面に被膜したり、固体触媒の基体としたり、他の材料との反応などのため、表面積を多く必要とする場合に非常に有効に利用することができる。
【0025】
請求項に記載のウイスカー状の綿状高融点金属材料の製造方法は、(a)不活性ガス中に酸素を含む混合ガスを反応装置内に導入し、(b)該装置内で高融点金属原料を加熱すると共に、該高融点金属原料と対向して鉛直方向上方に基台を配設し、(c)前記高融点金属の酸化物の微粒子を上昇させ、空隙を介して繋がったウイスカー状に成長しながら前記基台上に堆積させた綿状高融点金属酸化物を、還元雰囲気下で還元させて高融点金属とすることにより、ウイスカー状の高融点金属微粒子が空隙を介して繋がる綿状構造とすることを特徴とする。
【0028】
前記装置内の全圧力、前記酸素を含む混合ガスの成分分圧、および前記高融点金属材料の加熱温度のうち、少なくとも1つを制御することにより、前記空隙の割合を調節することができ、所望の空孔率の綿状高融点金属層が得られる。
【0029】
前記全圧力、混合ガスの成分分圧、および前記高融点金属原料の加熱温度のうち、少なくとも1つを連続的または断続的に変化させることにより空隙の大きさを変化させ、空隙率が連続的または断続的に異なる層を堆積することができ、たとえば底部は密度が大きく、表面側のみの空孔率を大きくするなど、目的に応じた綿状高融点金属層を得ることができる。
【0030】
前記装置内の全圧力を4×104Pa以上の範囲に設定すると、対流が生じやすく、ウイスカー状に堆積しやすいため好ましい。
【0031】
前記高融点金属原料の加熱を600〜1800℃の範囲で加熱することが、綿状高融点金属層を形成するのに好ましい。
【0032】
前記酸素を含む混合ガスの組成の1つとして、水蒸気を含んでいると、微粒子の形成核となるため好ましい。
【0033】
前記混合ガスの成分分圧のうち、酸素分圧が20〜30%、前記水蒸気の分圧が0.1〜10%であることが、綿状高融点金属層を形成するのに好ましい。
【0034】
請求項に記載の陰極は、陰極の電子放出材料に、ウイスカー状の高融点金属微粒子が空隙部を介して繋がる綿状構造の高融点金属材料が添加されている。ここで、電子放出材料としては、酸化物陰極用として、アルカリ土類金属の酸化物またはこれらの固溶体が、含浸形陰極用として、アルミン酸バリウムカルシウム、ガリウム酸バリウムカルシウム、またはホウ素酸バリウムカルシウムなどが用いられる。この構造にすることにより、酸化物陰極や含浸型陰極で、電子放出材料を還元するための高融点金属が、非常に表面積の大きい状態で電子放出材料と接触しているため、非常に電子放出効果が向上する。
【0036】
請求項に記載の陰極は、前記綿状高融点金属材料が層状に堆積された電子放出面に、さらに白金族の元素またはレニウムがコーティングされている。ここに白金族の元素とは、オスミウム、イリジウム、ルテニウムなどを意味する。
【0037】
この構成にすることにより、綿状の高融点金属被膜が陰極表面に形成されているため、表面積が増大して前述のリチャードソン・ダッシュマンの式の粗度率が大きくなり電子放出特性が向上する。しかも、超微粒子になると融点が下がり、高い場合には1050℃b(輝度温度)程度となる陰極表面の動作温度に耐えられなくなるが、その表面に白金族元素などがコーティングされているため、綿状となった微細構造が陰極の表面に設けられても、加熱に対して強くなり微細構造を維持し、電子放射特性が向上する。さらに、白金族元素などが設けられることにより仕事関数が下がり、より一層電子放射特性が向上する。
【0038】
請求項に記載の陰極は、前記白金族の元素またはレニウムがコーティングされた綿状の高融点金属被膜の表面に、さらに酸化スカンジウムまたは酸化イットリウムがコーティングされている。この構成にすることにより、従来のスカンデート陰極の特性を有すると共に、綿状高融点金属による陰極表面の面積増大とにより、格段の高電流密度が得られる。
【0039】
請求項に記載の陰極は、前記白金族の元素またはレニウムが、前記綿状の高融点金属の炭化物またはホウ化物を介してコーティングされている。この構成にすることにより、綿状高融点金属材料が安定化するため、長寿命化が図れる。
【0055】
【発明の実施の形態】
つぎに、図面を参照しながら本発明の綿状高融点金属材料およびその製造方法ならびに綿状高融点金属材料を用いた応用例について説明をする。
【0056】
本発明の綿状高融点金属材料は、その一実施形態の顕微鏡写真が図2に示されるように、高融点金属微粒子(写真で白く見える部分)が空隙部(写真で黒く見える部分)を介して連結した粉末、または高融点金属微粒子が空隙部を介して層状に堆積された高融点金属層からなっている。微粒子は0.01〜0.1μm程度の大きさで、いわゆるサブミクロン程度の大きさであり、金属層の厚さは自由に設定することができるが、通常は1〜100μm程度の成膜をすることができる。高融点金属としては、タングステンやモリブデンなどを用いることができる。
【0057】
つぎに、この高融点金属層を成膜する方法について、図1を参照しながら説明をする。図1には、本発明の高融点金属層を成膜する装置の一例が概略図で示されている。図1において、ガラスベルジャー2と共に内部を真空にし得るように排気装置を備え、ガスの流入口を有する台1上にガラスベルジャー2が被せられ、その内部の台1上に高融点金属原料である、たとえばタングステン線3が電極31、32の間に数本並列に接続され、通電加熱をできるように設定されている。そして、そのタングステン線3の鉛直上方に、綿状高融点金属層を成膜する基台(基板)4が回転試料台41に固定されている。
【0058】
回転試料台41は、図1に示されるように、ロッド42により固定され、ロッド42は図示しないモータにより回転できるようになっており、図1(b)に高融点金属原料と回転試料台41部分の斜視説明図が示されるように、基台4を平面内で移動できるようになっている。これは、後述するタングステン酸化物の微粒子の蒸発量が、酸素の供給状態により対流部分の中心部と外側とで異なるため、基台4上に均一に成膜するようにするためである。排気系は、メインブル部11を介して、拡散ポンプ12が接続されると共に、粗引バルブ13を介してロータリーポンプ14に接続されている。また、15はアルゴンボンベ、16は酸素ボンベで、それぞれマスフローメータ17を介して、ガス混入器18で混入され、ガス導入バルブ19を介してベルジャー2内に導入されるようになっている。なお、33は、タングステン線3を加熱するためのDC電源である。
【0059】
この装置で、まずタングステン線3および基台4を装置内にセッティングし、ガラスベルジャー2を閉じる。その後、粗引バルブ13を開き、ロータリーポンプ14によりチャンバー(ガラスベルジャー2)内を真空引きする。ある程度真空引きした後、粗引バルブ13を閉じ、メインバルブ11を開き、拡散ポンプ12によりさらに真空引きする。充分に真空引きした後、ガス導入バルブ19を開き、ガラスベルジャー2内に酸素とアルゴンガスの混合ガスを導入する。
【0060】
このとき、酸素ガスとアルゴンガスのガラスベルジャー2内におけるガスの分圧比が、酸素ガス3:アルゴンガス7となるように、それぞれのボンベ15、16につながるマスフローメータ17を調整する。マスフローメータ17を通過した酸素ガスおよびアルゴンガスは、ガス混合器18を通過して、混合ガスとしてガラスベルジャー2内に導入される。混合ガスが、ガラスベルジャー2内に充分置換したところで、メインバルブ11の開閉を調節して、ガラスベルジャー2内の圧力を4×104Paとする。
【0061】
ガス流量、圧力などが安定したところで、タングステン線3に電流を流し、1200℃程度に加熱する。タングステン線3の温度は、放射温度計で測定し、通電する電流値を調節し、コントロールする。加熱されたタングステン線3は、近傍の酸素と反応して酸化物を形成する。生成した酸化物は1000℃程度で昇華するので、酸化するとすぐに、タングステン線3から解離し、加熱されたタングステン線3によって作られた上昇気流に乗って、上方に搬送される。上昇気流のスピードは、タングステン線3の近傍において速く、上方にいくに従い遅くなる。また、酸化物微粒子の形成温度によってもそのスピードが異なり、後から昇華した微粒子が先に昇華した微粒子に追いつき、ウイスカー状に成長しながら基台4に達する。したがって、タングステン線3から昇華した瞬時における酸化タングステンは微粒子であるが、上昇するにつれて微粒子が間隙を介して繋がったウイスカー状に成長しながら基台4上に堆積する。その結果、微粒子間に空隙部を多く有し、表面積が大きく、膜密度が小さい綿状の膜となって成膜される。なお、この膜は、X線回折法により調べた結果、三酸化一タングステン(WO3)と同定された。
【0062】
この後、還元装置内に綿状の酸化タングステン層が成膜された基台4を入れ、酸化タングステン膜を500〜1100℃程度で加熱し、乾燥水素雰囲気中に晒し、または水素プラズマと接触させることにより還元する。その結果、酸化タングステン層の酸素が除去され、綿状のタングステン層が得られる。なお、前述の温度に設定するのは、500℃より低いと酸化タングステン層に酸化物が残留してしまい、また、1100℃を超えると、急速にタングステンが凝集し、酸化タングステン形成時の層形状、たとえば綿状あるいはウィスカー状の形状が消失してしまうからである。
【0063】
本発明者らは、前述の酸化タングステン層を成膜する際のガラスベルジャー2内の全圧を種々変化させたときの影響を調べた結果、全圧を低くすればするほど微粒子間の間隙が小さくなってスパッタや真空蒸着などによる成膜と同様に緻密な膜となり、表1に示されるように、4×104Pa未満では、綿状の層が得られず、微粒子間の間隙が大きく綿状で、ウィスカー状の膜にするには、4×104Pa以上の圧力にする必要があること見出した。
【0064】
【表1】
Figure 0004471431
【0065】
さらに、全圧が4×104Pa以上でも、その圧力を大きくするほど微粒子間の間隙が大きくなり、空孔率が大きくなる。そのため、成膜しながら、この全圧を連続的に、または断続的に変化させることにより、表面状態をフラクタル構造にすることができることを見出した。このような構造にすることにより、基台側は密度を大きくして安定な状態で成膜することができ、均一な膜状酸化物を堆積させたもの以上に表面積を大きくすることができるという利点がある。
【0066】
本発明者らは、さらに酸素分圧を種々変化させたときの影響を調べた結果、酸素の分圧比(全圧に対する酸素の分圧の割合)により、三酸化一タングステン(WO3)、二酸化一タングステン(WO2)、一酸化一タングステン(WO1)と生成する酸化物が異なり、より表面積の大きい綿状高融点金属膜にするには、WO3を形成するのが好ましく、そのためには酸素の分圧比を20〜30%にする必要があり、20%未満にすると、WO2またはWO1になることが判明した。酸素の分圧比と生成される酸化物との関係を表2に示す。
【0067】
【表2】
Figure 0004471431
【0068】
この酸素の分圧比と前述のガラスベルジャー内の全圧との関係をあわせて図示すると、図3に示されるようになる。すなわち、4×104〜1×105Paで、酸素分圧比が20〜30%のとき、ウィスカー状の膜が形成されるが、酸素の分圧比が20〜30%でも、全圧が102〜4×104Paでは、WO3の単結晶微粒子となり、綿状にならない。また、全圧が4×104〜1×105Paでも、酸素の分圧比が20%を切ると、WO2とWO3の混合物となり、酸素の分圧比が20〜30%でも、全圧が1×102Pa以下の圧力では同様となる。
【0069】
本発明者らは、さらにタングステン線3の加熱温度を種々変化させてその影響を調べた。その結果、酸素の分圧比を一定にしておいても、温度によりその形状の異なる酸化タングステンが得られることを見出した。そして、1000℃以上にすることにより、前述のような綿状の高融点金属層が得られ、1800℃を超えると、成長速度が速すぎて凝集しやすく、制御性に欠け好ましくなかった。また、1000℃より低いと、膜の成長速度が遅く、必要な膜厚を得ることができなかった。その結果、高融点金属原料の加熱温度は、1000〜1800℃にして行う必要があることが判明した。
【0070】
前述の例では、高融点金属原料としてタングステン線を用いたが、線に限らず板状のものでも加熱することができればよく、線に限定されるものではない。また、タングステンに限らず、モリブデンなどの他の高融点金属を用いることもできる。モリブデンの場合、前述の例のタングステン線の代りにモリブデン線を用い、その加熱温度を600〜1200℃とすれば、後は前述の例と同様に行うことができる。なお、酸化物の還元も前述の例と同様に行うことができる。さらに、不活性ガスとして、アルゴンガスを用いたが、アルゴンガスの代りに、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンなどの他の不活性ガスを使用することもできる。さらに、酸化源として酸素を用いたが、その一部として、水蒸気を含ませると、微粒子の生成核となり好ましい。
【0071】
また、前述の方法で得られる綿状の高融点金属表面に、炭化処理、ホウ化処理を施し、または白金金属、タンタル、チタン、アルミニウム、マグネシウム、などをスパッタリングにより被膜すると、綿状膜の表面積が大きいことを利用して、基本金属であるタングステンまたはモリブデン以外の性質をもたせることができ、たとえば陰極や触媒などの特性を向上されることができるという利点がある。
【0072】
つぎに、この綿状の高融点金属材料を酸化物陰極や含浸型陰極に応用する例について説明をする。図4(a)〜(b)は、それぞれ酸化物陰極および含浸型陰極の説明図である。図4(a)において、51はニッケルなどからなる円筒状の陰極基体で、その内部にヒータ52が設けられ、外周に電子放射性材料53が塗布されている。この電子放射性材料53は同図の右側に拡大図が示されるように、粉末が結合しており、その粉末53の周囲に前述の綿状の高融点金属粉末54が付着している。
【0073】
酸化物陰極用の電子放出材料は、Ba、Ca、Srなどのアルカリ土類金属の酸化物またはこれらの固溶体が用いられ、10μm程度の大きさの粉末になっている。この電子放出材料に綿状高融点金属を付着させるには、たとえば前述の高融点金属酸化物を成膜するのと同様の方法で、前述の基台のところに粉末状の電子放射性材料の原料であるアルカリ土類炭酸塩の粉末を準備し、チャンバー内で電子放射性材料を撹拌させながら、高融点金属酸化物を加熱昇華させることにより、電子放射性材料の炭酸塩粉末の周囲に大きさが0.5μm程度の粉末状の綿状高融点金属酸化物が付着する。その後、還元することにより電子放射性材料の炭酸塩粉末の周囲に綿状高融点金属材料を付着させることができる。この場合、電子放射性材料が撹拌されるため、綿状高融点金属材料は、膜状にはならず、短く途切れて粉末状となって付着するが、前述のように、高融点金属材料が酸化して昇華する際は超微粒子となって昇華し、付着するころには超微粒子が間隙を有して連結しウィスカー状になっているため、綿状の高融点金属粉末となる。
【0074】
なお、電子放射性材料粉末に付着させ、または混合した高融点金属酸化物を還元する場合、還元を完全に行うと共に電子放射性材料を還元させないように行わなければならない。たとえば、前述のWO3を付着した場合、乾燥水素雰囲気下、400℃で15分の還元を行うと、WO3はWO2に還元されるが、完全なWにまでは還元されず不充分である。また、600℃で15分間還元処理を行うと、WO2も完全にWに還元されるが、電子放射材料のBaCO3もBaOに分解するため好ましくない。そして、水素雰囲気下500℃で15分間還元処理を行うと、WO3は完全に還元され、電子放射材料の熱分解は起こらず所期の目的を達成することができる。すなわち、温度と処理時間を最適に制御しなければならない。
【0075】
この電子放射材料の原料である炭酸塩粉末の周囲に綿状高融点金属粉末を付着させたものを陰極基体51に塗り込み、電子管にした後炭酸塩を還元して酸化物にすることにより、酸化物粉末53の周囲に綿状高融点金属粉末54を付着させた電子放射材料になる。
【0076】
電子放射材料への綿状高融点金属の付着または混合は、前述の例によらなくても、たとえば電子放射性材料と粉末状の綿状高融点金属酸化物をアルコールなどの液体中で超音波撹拌することにより添加することができる。なお、添加する高融点金属酸化物の割合は、1%以下程度で充分である。また、高融点金属酸化物は綿状であるため、その大きさが大きすぎると撹拌中に分断されて、大きさが0.5μm程度の適当な大きさの粉末になって電子放射性材料と混合される。この場合、高融点金属酸化物の代りに還元された綿状の高融点金属材料の粉末を用いることもでき、後から還元する必要がなくなる。しかし、還元させると、凝集しやすくなるため、酸化物を用いた方が安定した作業をすることができる。
【0077】
また、含浸型陰極の場合、図4(b)に一部の断面説明図が示されるように、多孔質タングステンなどからなる多孔質陰極基体55の孔の中に電子放射性材料56が含浸されている。この場合の電子放射性材料56は、アルミン酸バリウムカルシウム、ガリウム酸バリウムカルシウム、またはホウ素酸バリウムカルシウムなどが用いられる。また、陰極基体55に設けられる孔の大きさは、たとえば10〜100μm程度である。この電子放射性材料56は、たとえば1000℃の水素雰囲気下で還元しながら、溶融させて陰極基体55の孔の中に含浸されるが、その含浸剤と綿状タングステン酸化物粉末とを混ぜ合せてから含浸させることにより、含浸の際に還元されて電子放射性材料の中に綿状タングステン54を含ませることができ、電子放射性材料とタングステンとの接触面積が非常に増え、陰極表面に形成されるバリウム−酸素単原子層のBa供給量を増やすことができる。
【0078】
このような電子放射性材料の中に綿状の高融点金属材料を添加した陰極を使用すると、綿状高融点金属材料は、サブミクロン程度の超微粒子が間隙を介して連結している空孔率の大きな材料であるため、電子放射性材料との接触面積が非常に大きくなる。その結果、電子放射材料の還元剤として充分に寄与し、Baなどの電子放射に寄与する原子を陰極表面に十分に供給することができ、非常に高電流密度の陰極とすることができる。
【0079】
なお、前述の含浸型陰極で、ガリウム酸バリウムカルシウムを電子放射性材料として使用すると、低温での電子放出特性が向上するため、陰極の動作温度を低くすることができる。さらに、この綿状タングステン金属を還元剤として含有させると、従来の電子放出特性をより改善することができ、電子管用陰極として使用した場合、電子管の寿命を大幅に延長することができる。しかも、動作温度を下げることができるため、陰極基体の材料をタングステンに代えて、ニッケルを使用することができ、より安価な多孔質ニッケルを用いることが可能となり、コスト面で非常に有利になる。
【0080】
また、含浸型陰極の電子放射性材料として、ホウ素酸バリウムカルシウムを使用することもでき、この材料を使用することにより、陰極の動作温度が高い、綿状のタングステン金属を還元剤として有する電子放射性材料が得られる。その結果、動作温度が高くなるアークランプ用の陰極など、耐熱性が必要な陰極として便利に用いられる。
【0081】
綿状タングステンを電子放射性材料に添加する他の方法として、たとえば綿状のタングステン粉末を結着剤として使用したタングステンエトキシドW(OC256のようなタングステンアルコキシドとして用いても、形成することができる。すなわちアルコールやセロソルブなどに綿状タングステンエトキシドを溶かし、電子放射性材料と混合し、加水分解することにより、綿状W粉末が電子放射性材料に被覆付着される。この綿状Wが付着した電子放射材料を従来と同様にNi基体金属に塗布することにより陰極を形成する。このような方法によっても、綿状タングステンを電子放射性材料の粉末の周囲に付着させるこができ、接触面積を大きくすることができる。この場合、液状で塗布するため、電子放射性材料粉末がどのような形状でも均等に被覆することができると共に、被覆量も液の濃度を調整することにより自由に設定することができる。
【0082】
図5に示される例は、前述の綿状高融点金属材料を含浸型陰極や焼結型陰極の表面に被膜することにより、電子放出面の面積を大きくし、前述のリチャードソン・ダッシュマンの式の粗度率を大幅に向上させる例である。すなわち、図5(a)は、電子銃用含浸型陰極、(b)は放電管用含浸型陰極の例であるが、(c)に陰極表面部の拡大説明図が示されるように、含浸型の陰極基体55の電子放出面に、たとえばオスミウムもしくはイリジウムなどの白金族元素62またはレニウムがコーティングされた綿状のタングステン61もしくはモリブデンなどの高融点金属被膜が設けられている(図では綿状タングステン61の隙間全部にイリジウム62などが埋まっている図になっているが、イリジウムはタングステンの表面のみに付着して電子放出材料が染み出す空隙部は充分にある)。なお、図5において、57はタンタル製スリーブで、58はモリブデンリードを示す。その他の図4と同じ部品には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0083】
この綿状の高融点金属を陰極の表面に被膜する方法は、たとえば陰極の表面に前述の方法により綿状の高融点金属酸化物被膜(たとえばWO3)を5μm以下の厚さに設けることにより行う。膜厚が5μmを超えると、表面積が増大してもBaの供給距離が遠くなり、内部総表面積が増大するため最表面にBaが有効に供給されなくなり、電子放出の増加が得られなくなるからである。つぎに、前述のように、500〜1100℃程度に加熱し、乾燥水素雰囲気中に晒し、または水素プラズマと接触させることにより還元する。この温度が500℃以下では還元が不十分なWOなどの酸化物が残留し、1100℃以上では急速に綿状微細構造が凝集消失するからである。
【0084】
さらにその表面に白金族の元素などをスパッタにより被膜することにより、綿状高融点金属の超微粒子の間隙部にも白金族の元素が被膜され、綿状の高融点金属の表面が白金族元素などにより被覆される。この白金族元素などの被膜の厚さは、0.1〜0.3μm程度の厚さに設けられる。これより薄いと陰極の動作時の高温(1050℃b)で微細構造を維持できなくなり、厚すぎると綿状高融点金属の空隙部が埋まって微細構造が潰れるからである。
【0085】
このような白金族元素などにより被膜されることにより、超微細構造の綿状高融点金属被膜が陰極の表面に設けられても、陰極の動作温度にも充分に耐え得る機械的強度の優れた陰極となる。すなわち、一般的に、超微粒子構造になると、その融点は1/3程度に低下することが知られており、タングステンなどの高融点金属といえども、綿状の微粒子構造になると、1100℃以上では急速に凝集し、高いものでは動作時に1050℃b程度になる高電流密度の陰極では、その寿命が短くなる。そのため、含浸型陰極などの表面に綿状の高融点金属材料を被膜することによりその表面積を大きくすることができないが、本発明によれば、その表面が白金族などにより被覆されているため、微細構造が熱的にも安定し、高温で綿状の状態を維持することができる。その結果、高電流密度の陰極の寿命を長くすることができる。
【0086】
前述の例では、綿状の高融点金属酸化物を還元して生成された綿状高融点金属の表面に直接白金金属などをコーティングしたが、綿状の金属の状態で、CVD法などにより、炭化処理やホウ化処理などの化合物化処理を施した後に白金族元素などをコーティングすることにより、白金族との合金を形成し、バルクの性質が生じるため、綿状構造の安定性をさらに向上させることができる。
【0087】
また、前述の例では、白金族元素などのコーティングをスパッタ法により行ったが、スパッタ法に代えて、アルコキシド溶液を綿状高融点金属膜に液相塗布し、このアルコキシドを分解することによりコーティングしてもよい。これは、アルコキシドとして入手しやすいイリジウムの場合にとくに有効である。この方法を用いることにより、極めて薄い膜のコーティングも溶液濃度を制御することにより得られること、綿状高融点金属表面の全面に均一にコーティングすることができること、などの利点がある。
【0088】
前述の白金族元素などをコーティングした表面に、さらに酸化スカンジウムや酸化イットリウムをスパッタまたはリアクティブスパッタによりコーティングした後に、熱処理を加えることにより、容易にスカンデート陰極やイットレート陰極を形成することができる。イットリウムはアルコキシドがあるため、これを用いることも可能である。
【0089】
図6は、前述の綿状高融点金属を形成する方法を焼結型陰極の製造に利用する方法の説明図である。すなわち、焼結型陰極は、スカンジウム、イットリウム、トリウムなどの酸化物粉末と粒径が10〜数十μmのタングステン粉末またはモリブデン粉末を機械的に混合して焼結することにより従来製造されている。スカンジウムなどは、主にこのタングステン粉末などの表面を拡散し電子放射に寄与している。そのため、タングステン粉末などの高融点金属の粒子が大きいと、その拡散が間に合わず、電子放射に寄与しなくなる。したがって、高融点金属の粒径が大きいと電子放射に寄与しない金属表面の割合が増え、大電流を取り出すのが困難となる。そのため、高融点金属粒子は細かい方が大電流用の陰極としては好ましい。この原理に基づいて、本発明の綿状の高融点金属をスカンジウムなどの酸化物粉末の周囲にコーティングするものである。
【0090】
図6において、高融点金属酸化物を霧状に発生させる部分は、前述の図1に示される部分と同じで、同じ符号を付してその説明を省略する。この例では、高融点金属酸化物を基板状に堆積させるのではなく、図6に示されるように、昇華した高融点金属酸化物の対流をベルジャー2の上部からパイプ21を介して取り出し、たとえば酸化スカンジウム粉末の入った容器22に導き、容器22内に入れられた酸化スカンジウム粉末63に吹き付けられるようになっている。この際、容器22を振動させられるようになっており、振動により酸化スカンジウム粉末63が撹拌され、その粉末の周囲に綿状の酸化タングステンなどの高融点金属が付着しコーティングされる。すなわち、WO3が煙状になってパイプ21を経て進み、振動によりバラバラになって踊るSc23粉末63に煙のススのようになって付着し、高融点金属が凝集することなくコーティングされる。
【0091】
その後、前述と同様に綿状の酸化タングステンが付着した酸化スカンジウム粉末63を還元することにより、綿状のタングステンがコーティングされた酸化スカンジウム粉末が得られる。この粉末を従来と同様に焼結することにより、酸化スカンジウムなどの粉末の周囲に高融点金属がコーティングされた焼結型陰極が得られる。
【0092】
この焼結型陰極によれば、従来の酸化スカンジウムなどの粉末とタングステンなどの高融点金属粉末とを混合したものと異なり、非常に小さなサブミクロンオーダの微粒子が、鎖状に間隙を介して連結した状態で酸化物粉末の周囲に付着するため、酸化物粉末と高融点金属とが非常に近い状態で接触し合っており、電流への寄与率が大幅に向上し、高電流密度の陰極となる。
【0093】
このように、スカンジウム酸化物粉末などに綿状高融点金属をコーティングするという観点に立てば、前述の綿状高融点金属の製造方法を用いなくても、綿状高融点金属のアルコキシドをスカンジウム酸化物粉末などに付着させる方法によっても綿状高融点金属をコーティングすることができる。すなわち、綿状酸化タングステンアルコキシドまたは綿状酸化モリブデンアルコキシドをアルコールに溶かし、さらに酸化スカンジウム粉末を混合する。そして、プレッシャークッカーにより加水分解する。この工程により、酸化スカンジウム粉末表面に綿状タングステン酸化物または綿状モリブデン酸化物が形成される。この綿状高融点金属酸化物の膜厚は、アルコールに溶かすアルコキシドの濃度を制御することにより、再現性よくコントロールしてコーティングすることができた。
【0094】
こうして綿状高融点金属酸化物がコーティングされた酸化スカンジウム粉末を、水素ガス雰囲気中で600℃程度に加熱することにより、綿状高融点金属酸化物が還元されて綿状高融点金属がコーティングされた酸化スカンジウム粉末が得られる。この粉末を従来と同様にプレス成形してから焼結することにより、前述の例と同様に高電流密度の得られる焼結型のスカンデート陰極が得られた。なお、還元条件は、前述の条件で行えば、酸化スカンジウムは還元されず、酸化タングステンのみが還元されるが、条件によっては、綿状酸化タングステンの還元が充分でなかったり、酸化スカンジウムが還元されてしまうので、酸化物陰極の電子放射性材料と綿状高融点金属との混合物を生成する場合と同様に、還元条件を注意する必要がある。
【0095】
綿状高融点金属を酸化物粉末の周囲にコーティングする他の方法として、帯電方法によりコーティングすることができる。すなわち、片方の酸化物粉末を帯電させておき、帯電させてない他方の綿状高融点金属酸化物を混合することにより、帯電した粒子同士は静電力により分散した状態で、他方の帯電していない粒子のみに帯電した粒子を付着させることができることを見出した。具体的には、図7(a)に示されるように、ガラス容器65に電極66を配置し、電解質溶液67としてエチレングリコールと硝酸イットリウム混合液を入れる。その後、スカンジウム、イットリウムまたはトリウムの酸化物粉末63を入れて混合する。スターラまたは超音波振動機を併用しても良い。撹拌中電極66に電圧を印加することにより、酸化物は帯電し、粒子同士が分散状態を維持する。
【0096】
別の容器にエチレングリコールと綿状酸化タングステン(WOと略記する)粉末を入れて撹拌しておき、上記のガラス容器65に混合する。混合する前に前述の印加した電圧を0に戻す。このようにすると、図7(b)に示されるように、酸化スカンジウム粉末の周囲に綿状WO被膜が形成され、前述と同様の働きをする。これを還元することにより、綿状高融点金属がコーティングされた酸化スカンジウム粉末が得られ、これをプレス成形して焼結することにより、前述と同様のスカンデート陰極が得られる。
【0097】
この表面に高融点金属がコーティングされたSc、Y、Thなどの酸化物粉末が焼結された焼結型陰極は、高融点金属の偏りが少なく、電気伝導度がよく安定性の優れた陰極となる。
【0098】
図8および図9に示される例は、それぞれ前述の綿状高融点金属を電界放出型陰極に応用した例を説明するための、電界放出型陰極の製造工程を示す断面説明図である。すなわち、電界放出型陰極は、図8(c)に示されるように、先端が先鋭化された陰極72と、その陰極からの電子を放射させる放射孔74aが設けられ、電子を引き出すための引出電極74が設けられた構造になっている。なお、陽極は図示されていないが、薄型表示装置では蛍光面が陽極になる。このような構造で、引出電極74と陰極72との間に強い電界が印加されることにより、電位障壁を薄くし、量子力学的トンネル効果により、金属内の電子が障壁を通り抜けて金属外に放射させる構成となっている。この種の陰極は、高電圧による衝撃の影響で、高温に耐える必要があり、高融点金属が用いられている。そして、高融点金属は、仕事関数が低いため、一層高電圧で動作をさせなければならない。しかし、本発明の綿状高融点金属により形成することにより、表面積が10倍以上に大きくなるため、低い電圧でも充分に電子放射を行うことができる。図8〜9を参照しながら、この電界放出型陰極の製造方法を説明する。
【0099】
まず、図8(a)に示されるように、SiまたはMoなどの金属からなる導電性の基板71上に、SiO2などの絶縁膜73をCVD法またはスパッタ法により形成する。つぎに、絶縁膜73上に引出電極74を構成するTa、Mo、Niなどの金属膜を真空蒸着法またはスパッタ法により積層形成する。この金属膜を通常のホトレジストをマスクとして使用し、陰極の先端部を露出する放射孔74aの形成予定領域が開口するようにパターニングする。
【0100】
つぎに、パターニングされた引出電極74をマスクとして絶縁膜73をエッチングし、基板71を露出させる。ホトレジストを除去した後、金属膜上に、犠牲層77として、選択的に除去可能な、たとえばAlを基板71の表面に対して、所定の角度となるように斜め回転させながら蒸着する。所定の角度を設定することによって、金属膜の開口部の側壁部にもAlが堆積し、図8(a)に示されるように、放射孔74aが狭窄される。なお、ここまでの工程は従来と同じである。
【0101】
つぎに、前述の綿状酸化タングステンを堆積する方法により、全面に綿状酸化タングステン層を堆積する。その結果、図8(b)に示されるように、基板71および犠牲層77上に酸化タングステン層79が堆積する。この際、酸化タングステン層79は、通常の真空蒸着法で金属を蒸着形成した場合と同様に、自己狭窄によって、図8(b)に示されるように、先端部が先鋭な構造となる。
【0102】
その後、図8(c)に示されるように、Alからなる犠牲層77をリン酸、硝酸、酢酸、水の混合液によって溶解除去し、引出電極74上の酸化タングステン層79を除去することにより、基板71上の先端が先鋭化した酸化タングステン層79のみが残る。その後、酸化タングステン層79を乾燥水素雰囲気中での加熱あるいは、水素プラズマとの接触によって還元することで、綿状のタングステンとなり、陰極72とすることができる。なお、還元の条件は前述と同様に500〜1100℃程度で行う必要がある。この陰極72を綿状の凹凸を有するタングステン層とすることにより、炭素が飽和しやすい微少凸構造が多数形成されるため、次工程でのダイヤモンドの核発生が得られやすくなる。
【0103】
つぎに、図8(d)に示されるように、バイアスCVD法によって、綿状タングステン層からなる陰極72上にダイヤモンド80を析出させる。バイアスCVD法では、デポジット開始時に、一時的にバイアスが印加される。図8(c)に示される構造の陰極72では、陰極72先端部に電界が集中し、先端部または先端部近傍に、選択的にダイヤモンドの核を発生させることができる。核発生後は、バイアスの印加を停止し、デポジットを行うことで、核が発生している陰極72先端部のみにダイヤモンド結晶を形成することができる。また、バイアスCVD法では、条件を選択することで(111)面のダイヤモンドを含むダイヤモンド結晶を析出させることができる。
【0104】
この(111)面が露出するように成長させることにより、図10にダイヤモンドの結晶および陰極72上に成長した模式図が示されるように、陰極72の頂部に4角錐状に成長するため、その先端に効果的に電圧を印加することができ一層好ましい。そのため、(111)面の結晶方位を有する結晶を成長するように、選択的に成長することが望ましい。なお、図10(c)は複数の(111)面リッチなダイヤモンドの例である。
【0105】
つぎに、綿状高融点金属からなる陰極の先鋭部にダイヤモンド層80を設ける場合の他の例について図9を参照しながら説明をする。この例は、前述の綿状高融点金属により、先端が先鋭化した陰極72を形成するところ(図8(c))までは同じで、その後の工程について説明をする。
【0106】
まず、図9(e)に示されるように、スパッタ法により、酸化アルミニウムからなる犠牲層81で全面を被覆する。つぎに、CVD法または真空蒸着法によりSiO2層82を積層する。
【0107】
つぎに、全面に厚いホトレジスト膜83を塗布し、平坦化する。そして、等方性のエッチングを行うことにより、先端部が先鋭の陰極先端のSiO2層82を露出させる。露出したSiO2層82をフッ酸により除去し、酸化アルミニウムからなる犠牲層81を露出させる。なお、SiO2層82のエッチング時に、先に形成した絶縁膜73が露出する可能性がある場合には、絶縁膜73を酸化アルミニウムなどで形成しておく必要がある。露出した犠牲層81を熱リン酸でエッチング除去し、陰極72の先端を露出させる。
【0108】
ホトレジストを除去し、SiO2層82をエッチング除去する。つぎに、先に説明したバイアスCVD法によって、ダイヤモンド層80を析出形成する。ダイヤモンド層80は陰極72の先端部のみに析出し、電界を先端に集中させることができる。
【0109】
図9に示される陰極構造を有する電界放出型陰極は、陰極先端部以外が絶縁されているため、電界が陰極先端に集中し、電流特性の向上を図ることができる。
【0110】
綿状高融点金属を陰極として用いた電界放出型陰極は、その表面積が10倍以上と大きくなるため、電子放出能力が大きくなり、低い電圧で動作させることができる。さらに、その先端部にダイヤモンドを被覆させることにより、ダイヤモンドは負の電子親和力をもつため(金属は一般に電子親和力が正)、さらに陰極の電子放出能力が増大する。この場合、ダイヤモンドが充分に電子放出を行うためには、基板より充分電子供給を受けることが前提となり、同一サイズの陰極先端を形成した場合、より表面積の大きい綿状高融点金属は、ダイヤモンドへ電子供給を充分に行うことができる。その結果、非常に電子放出能力の優れた電界放出型陰極が得られる。
【0111】
また、綿状高融点金属が陰極として用いられることにより、融点が低くなり高温に対して弱くなるが、前述のように、面積の増大化およびダイヤモンドの被覆により動作電圧を低下させることができ、発熱も非常に下がり、実用上問題は生じない。
【0112】
前述の綿状高融点金属の成膜に当たり、前述のように、ベルジャー内の全圧を変化させるなどの成膜条件を順次変化させ、下層の空孔率を小さくし、上層にいくにしたがって空孔率を大きくすれば、または先端部の1〜10μm程度のみ空孔率を大きくすれば、安定した構造で電子供給能力の大きい陰極となる。
【0113】
図11は、前述の綿状高融点金属膜を用いて、ダイヤモンド膜を形成する方法の工程図を示す図である。すなわち、ダイヤモンド膜は、通常シリコン、銅、モリブデン、タングステンなどの金属板を成長基板として用い、バイアスCVD法などを用い、成長基板に対応したダイヤモンド膜を成長し、その後に基板を除去することにより形成されている。しかし、ダイヤモンドの線膨張係数は、1×10-6/Kであるのに対し、Siは2.5×10-6/K、Cuは16.7×10-6/K、Moは5×10-6/K、Wは4.5×10-6/Kと、それぞれ相当異なっており、基板を除去した後、ダイヤモンド薄膜が反ったり、歪みが生じるという問題がある。これは、ダイヤモンド膜の成長時に700℃程度に昇温しているのが、成長後室温に下がることにより、その接合界面にストレスがかかるためと考えられる。図11に示される例は、この問題を解決するために、その界面に前述の綿状高融点金属層を介在させることにより、クッション材の役割をさせてストレスを吸収し、反りなどの生じないダイヤモンド膜を製造するものである。
【0114】
まず、図11(a)に示されるように、たとえばカーボンなどからなるダイヤモンド膜の必要とされる所望の形状に形成された成長用基板83上に、前述の図1に示される方法により、たとえば綿状の酸化タングステン(WO3)膜を10〜100μm程度成膜する。そして、前述のように還元することにより、綿状のタングステン膜84を形成する。この綿状タングステン膜84は、後述するように基板81とこの上に成長するダイヤモンド膜85との間の線膨張係数の差に基づく応力を吸収するためのもので、ダイヤモンド膜85の厚さや、その形状などにより応力を吸収し得る厚さが異なるが、一般的には前述の範囲程度の厚さに形成される。
【0115】
ついで、図11(b)に示されるように、バイアスCVD法によってダイヤモンド膜85を10〜1000μm程度成長する。バイアスCVD法は、基板83と対向電極との間に200V程度の電圧を印加しながらCVD法により成長するもので、マイクロ波プラズマCVD法、熱電子プラズマ法、プラズマ溶射法などを利用することができる。このバイアスCVD法を用いることにより、所望の結晶面で成長することができる。
【0116】
つぎに、図11(c)に示されるように、綿状タングステン膜84を水酸化カリウム水溶液またはフェリシアン化カリウム水溶液を使用して、エッチングにより除去する。その結果、ダイヤモンド膜85が基板83から分離して得られる。
【0117】
この方法により得られるダイヤモンド膜85は、綿状タングステン膜84がクッション材として作用し、CVD法による700℃程度のダイヤモンド膜の成長温度から室温に下がっても、基板との熱膨張係数の差に伴う応力が綿状タングステン膜84により吸収され、ダイヤモンド膜85にはストレスが残存しない。その結果、基板83から分離されて非常に薄い膜になっても、反りや歪みのないダイヤモンド膜85が得られる。なお、ダイヤモンド膜85の成長の際、その下地は綿状タングステン膜84であるため、凹凸があり、ダイヤモンド膜85の成長初期においては、その空隙内にもダイヤモンドが成長して、平坦度を得にくいが、10μm程度も成長すると、平坦なダイヤモンド膜が得られる。
【0118】
前述のバッファ層とする綿状高融点金属膜は、一定の密度(空隙率)で形成する必要はなく、たとえば基板側で空隙を大きく(密度を小さく)し、ダイヤモンド膜側では空隙を小さく(密度を大きく)成長することができる。そのようにすれば、前述の平坦性の問題もなくなる。この密度を変化させる方法は、前述のように、綿状高融点金属酸化物を成膜する際のチャンバー内の圧力や温度などの制御により行うことができる。
【0119】
さらに、ダイヤモンド膜表面の平坦性を確保するためには、綿状タングステン膜の表面にスパッタ法などにより、ダイヤモンドが析出可能な金属、たとえばW、Mo、Pt族元素、またはCu族元素などを積層し、平坦化した後にダイヤモンド膜を成長することもできる。なお、前述の各例では綿状高融点金属としてWを用いたが、Moでも同様である。
【0120】
このダイヤモンド膜の製造方法によれば、基板と同一の形状で、反りや歪みのないダイヤモンド薄膜が得られるため、ミリ波用電子管の窓材、放熱基板、X線露光用マスクの支持台、フリップチップボンダーの先端等に利用することができる。
【0121】
図12〜13は、前述の綿状高融点金属をセラミック基板用の金属配線に用いる例である。すなわち、従来セラミック基板用金属配線としては、ペースト状にした金属粉末をスクリーン印刷して焼成することにより形成されており、金属粉末としては焼成時の安定性、その後の経時変化の影響などを考慮して、WやMoなどの数十nm〜数μmの粒子を数μm程度の粒径のガラス粉末と適当な割合で混合して有機溶剤に分散させたものが用いられている。しかし、ガラスの軟化温度は600℃程度のものが使用され、この程度の温度では導電成分の粒子は焼結されず、ガラス粒子間で相互に圧着された状態になっているだけで、安定性に欠けるという問題がある。
【0122】
また、ガラス粉末を混合しないで、導電体を溶剤のみに分散したペーストが用いられる場合もあるが、1500〜1800℃程度の高温で焼成しなければならない。しかし、前述の綿状高融点金属は、物質の体積に対する表面積の割合が大きくなり、表面エネルギーが大きくなって活性となり、融点が1/3程度に低くなる。そのため、綿状高融点金属を用いることにより、低い温度で焼成しながら、完全に焼結することができる。
【0123】
図12に示される例は、前述の綿状酸化タングステンを有機溶剤からなるバインダー(イソプロピルアルコールまたはプレキシグラスを溶解したアセトン)に分散させて印刷用ペーストとした例である。なお、綿状酸化タングステンは、アルコールに混合して超音波洗浄をかけることにより、細かくちぎれて粒子が繋がった鎖状の形で、0.1〜1μm程度の長さでアルコール中に分散する。
【0124】
まず、図12(a)に示されるように、所定のコンタクト用のスルーホール88aが形成された焼成済みセラミック基板88の裏面より、前述の印刷用ペースト89をそのスルーホール88a部分に塗布し、ペースト89の溶媒を揮発させる。また、所定の配線パターン(図示せず)もスクリーン印刷により、印刷塗布し、同じくペーストの溶媒を揮発させる。その後、図12(b)に示されるように、基板88裏面の余分のペーストを除去し、水素雰囲気中で500℃程度、30分程度の熱処理を行うことにより、印刷ペースト中の酸化タングステンがタングステンに還元されると共に、セラミック基板88のスルーホール88a内および図示しない所望の配線形成場所に、密着焼成されたタングステン配線層90が形成される。
【0125】
これは、綿状タングステンの特性、とくに綿状金属の場合の融点が通常の結晶サイズの場合における融点の約1/3の1100℃程度になる性質を利用して、比較的低温の焼成が可能になる特性を利用したものである。なお、前述の例では、酸化タングステンをバインダーに分散させたが、綿状のタングステンまたは綿状の酸化モリブデンもしくはモリブデンを用いることもできる。
【0126】
図13に示される例は、ペーストを形成しないで、直接基板上に綿状酸化タングステン層を堆積させて配線を形成する例の説明図である。まず、図13(a)に示されるように、セラミック基板88上にホトレジストを塗布乾燥し、所定のパターンがセラミック基板88上に露出するように、露光技術によりパターニングをしてホトレジスト膜91を形成する。ついで、80℃でホトレジスト膜91の溶媒を蒸発除去し、セラミック基板88上の全面に綿状酸化タングステン膜92を堆積する。この堆積は、前述の図1に示される方法により行う。
【0127】
つぎに、反応装置から基板88を採りだし、ホトレジスト膜91を有機溶剤により剥離除去すると、ホトレジスト膜91状の綿状酸化タングステン膜92も除去される。その後、乾燥水素雰囲気中で、500〜1100℃の温度で加熱還元することにより、緻密なタングステン配線層93が得られる。500℃より低いと、酸化タングステンに酸化物が残留してしまい、1100℃を超えると急速にタングステンの凝集が生じ好ましくない。実際には、比較的低温での加熱処理を行うという観点から、500〜600℃の範囲が好ましい。この例でも、綿状酸化タングステンに代えて、酸化モリブデンなどを用いて金属配線を形成することもできる。
【0128】
なお、大電流を必要とする場合などで、厚膜の金属配線を必要とする場合には、図13(c)に示されるように、前述の各例により形成される高融点金属配線層93を一方の電極として、電気メッキによりNiおよびAuなどを厚付けすることにより、厚膜の金属配線94を形成することができる。
【0129】
また、前述のホトレジスト膜91を形成した後で綿状酸化タングステン膜を堆積する前に、Ti、W、またはCrのいずれか1種もしくは2種以上を真空蒸着またはスパッタ法により被膜し、その上に前述の綿状タングステンを堆積すると、密着性を増すことができる。
【0130】
このセラミック基板への金属配線に、綿状高融点金属の焼結膜を使用することにより、低い焼成温度で完全に焼結しながら、高温に耐え得る高融点金属の緻密な配線を形成することができる。その結果、ますます微細化する電子部品に用いられるセラミック基板の金属配線を容易に高融点金属により形成することができる。
【0131】
図14は、半導体基板などの熱処理用保持台および容器(熱処理用治具)の表面に前述の綿状高融点金属の炭化物またはホウ化物を設けた例である。従来、半導体基板やエピタキシャル成長薄膜の熱処理、とくに赤外線ランプなどランプアニールを使用する急速加熱処理(RTA)をするための保持台または容器として、たとえば特開平6−234899号公報に、本出願人により開示されているように、チッ化ガリウム、チッ化アルミニウム、チッ化ホウ素などのいずれかを使用することにより、半導体の構成元素で気化温度の低いものの蒸発を防止することができることが開示されており、さらに特開平8−213337号公報には、タングステンカーバイドやモリブデンカーバイドなどをコーティングすることにより、赤外線の吸収効率が向上することが、やはり本出願人により開示されている。しかし、赤外線を吸収するためには、表面積が大きいほど優れており、前述の綿状高融点金属の表面を炭化処理またはホウ化処理することによりその赤外線吸収効率をさらに向上させるものである。
【0132】
チッ化アルミニウム焼結体からなる保持台を綿状のタングステンカーバイドによりコーティングする例について説明をする。
【0133】
保持台または容器などの治具97(97a、97b…)は、図14(a)に示されるように、半導体基板96の両面に設けられる平板状構造の保持台97aと保護板97hにより密着させる構造や、図14(b)に示されるように、容器97b状のものに保護板97hを設けるものや、図14(c)に示されるように、半導体基板96の側面部を覆うように対向する位置に凸部が形成された半容器タイプ97cのものを上下から被せる構造のものや、図14(d)に示されるように、容器状97d、97eのものを上下両方から重なるように被せる構造のものや、図14(e)に示されるように、半導体基板96に合せた形状のリング97gなどが、半導体基板96の側面部に対置するように設けられ、上下両方から保持台97fと保護板97hにより挟まれる構造など種々の構造のものが用いられる。しかし、いずれの構造のものでも、その容器または保持台97の表面に前述の綿状高融点金属炭化物98またはホウ化物またはダイヤモンドが被覆されたものが設けられている。
【0134】
この容器または保持台97に表面が炭化処理またはホウ化処理がなされた綿状の高融点金属膜で被覆するには、容器または保持台97に、前述の図1に示される方法により、たとえば酸化タングステンを被膜する。この場合、ガラスベルジャー2内の圧力を4×104Pa以上にすると、圧力が高いほど表面積が大きく、膜密度が小さい綿状で、ウィスカー状の粒子が堆積した膜が得られるため好ましい。その後、700℃程度の乾燥水素雰囲気で30分間焼結する。その結果、保持台または容器97の表面に綿状のタングステン粒子の膜が被膜され、この膜は黒色であるため、良好な赤外線吸収体となる。しかし、酸化タングステンを還元して形成したタングステン粒子の表面は化学的に活性であるので、カーボンで形成したボックスに入れ、水素炉で1100℃程度、30分程度の熱処理を施す。その結果、保持台または容器の表面のタングステンは、炭化し、安定な炭化タングステン膜で覆われることになる。
【0135】
この例では、タングステンの炭化処理により、タングステン表面の安定化を図ったが、炭化の代りにダイヤモンドにより被覆してもよい。ダイヤモンドにより被覆するには、前述の酸化タングステンを還元してタングステン粒子により被覆された保持台97を得た後、通常のバイアスCVD法でダイヤモンド膜を形成することにより得られる。このダイヤモンド膜の形成は、どのような結晶方位でもよく、通常のCVD法、熱フィラメント法のいずれで行ってもよい。なお、このダイヤモンドの被膜は、前述の炭化処理が施された表面、または後述するホウ化処理が施された表面に設けられてもよい。
【0136】
前述の例では、保持台または容器97の表面に直接酸化タングステンを被膜したが、酸化タングステン粒子を準備し、それをアセトン、エタノールなどの有機溶剤に懸濁させ、その懸濁液に浸漬したり、スプレーまたはスピンコートなどにより塗布することにより、容器または保持台97の表面に付着させて、溶媒を蒸発乾燥させる。その後、700℃程度の乾燥水素雰囲気で30分程度の焼結をすることにより、5〜100μm程度の厚さで、タングステン粒子の被膜を形成することもできる。この場合、エタノールを用いた懸濁液に含まれる酸化タングステン粒子の濃度が、0.1重量%の場合で、形成される酸化タングステンの膜厚は、50μmとなる。厚い酸化タングステン膜を形成する必要のあるときは、酸化タングステン粒子の濃度を濃くすればよい。この後の炭化処理またはダイヤモンド膜の形成は、前述と同様に行うことができる。
【0137】
前述の例は、還元したタングステン膜を炭化処理するか、その表面にダイヤモンド膜を被膜したが、ホウ化処理をしてホウ化物を表面に形成してもよい。すなわち、ボロン粉末と綿状タングステンとをアセトン、エタノールなどの有機溶剤に懸濁させ、この懸濁液にチッ化アルミニウム焼結体からなる保持台97を1分間浸漬させる。この場合も浸漬の代りにスプレー法またはスピンコートにより表面に塗布してもよい。懸濁液から保持台97を採りだした後、溶媒を蒸発乾燥させ、700℃程度の乾燥水素雰囲気で30分間焼結することにより、タングステンのホウ化物を保持台97の表面にコーティングすることができる。
【0138】
このように、チッ化アルミニウムなどからなる保持台または容器は、バインダーの種類によっては赤外線を吸収しにくいものもあるが、この表面に被覆されたタングステン膜は、黒色を呈し、赤外線ランプから放射される赤外線を効率よく吸収する。しかも、還元により活性化されたタングステン膜の表面には、タングステンの炭化物またはホウ化物またはダイヤモンドが被覆されることにより安定化しており、また、チッ化アルミニウムなどは熱伝導性が高いため、短時間で保持台または容器全体が均一に温度上昇する。その結果、黒色のタングステンから温度に応じた赤外線が一様に放射され、半導体基板が加熱される。このため、半導体基板面内の温度分布が均一となり、熱によるストレスが生じにくくなる。
【0139】
このような構造の保持台または容器を用いて、半導体基板、具体的にはGaAs基板およびSi基板を使用して、イオン注入後の熱処理を施した結果、短時間でシート抵抗を下げることができた。また、Asの蒸発による表面の平坦性の劣化や、マイクロスリップなど直線的な欠陥の形成も観察されず、良好な結果を得ることができた。また、とくに熱処理が施される半導体基板が、化合物半導体の場合、保持台などの材料が半導体基板表面から蒸発する元素を吸収することがないので、イオン注入法により注入された不純物の活性化アニールにおいて、高活性化率で、安定な再現性を実現できる。この発明によれば、とくに急熱急冷が要求されるランプアニール法に用いられる高赤外線吸収率を有する保持台または容器を簡便に形成することができる。とくにスパッタ法などの従来の製造方法と比較して、簡単に得られるという効果がある。
【0140】
以上の説明では、チッ化アルミニウムからなる保持台または容器の場合であったが、チッ化アルミニウムに限らず、チッ化ガリウム、チッ化ホウ素焼結体でも同様である。また、タングステンをコーティングした場合に限らず、綿状モリブデン膜を直接コーティングしたもの、またはその酸化物をコーティングして還元したものでもよい。
【0141】
なお、前述の例では、保持台および保護板または容器の全て全面に高融点金属膜が設けられているが、赤外線が照射される面のみ、または赤外線が照射される面とその対向面の一方もしくは両面、または半導体基板の不純物が注入された面に接する面およびその対向する面の一方もしくは両面に設けられておればよい。また、保護板は必ずしも設けられる必要はないが、均一加熱の効果を高めるためには、保持台と同一材料からなる保護板が設けられることが好ましい。
【0142】
図15は、前述の綿状高融点金属を固体触媒に用いた例の説明図である。すなわち、一般に触媒作用の効率を向上させるためには、その触媒の表面積を増やすことが必要である。しかし、従来の固体触媒は、緻密な面に設けられ、その固体触媒が設けられる見かけ上の面積と殆ど同じ面積にしかならず、狭いスペースで効率よく触媒を作用させることができない。
【0143】
たとえばn形半導体である酸化チタン(TiO2)は、白金対極と閉回路を作り、光を照射すると水が分解され、その残留物として、重水素を回収することができる。一般に酸化チタンの成膜は、たとえばチタンテトライソプロポキシドの有機溶剤溶液を超音波発振器で霧化し、そのミストを予め加熱した電気炉中に空気で気相輸送し、基板上で熱分解反応させる方法が採られている。このような方法で形成された酸化チタンは、その膜構造が緻密であり、膜の表面積は基板面積とほぼ等しい値にしかならない。しかし、綿状構造の高融点金属やその酸化物などを使用すれば、その表面積が非常に大きくなり、その表面に付着する触媒材料の表面積も非常に大きくなる。
【0144】
たとえば図15(a)に示されるように、タングステンからなる基板101上に、固体触媒としての酸化チタン103を設ける例について説明をする。まず、基板101上に、前述の図1に示される方法で綿状タングステン膜102を形成する。この綿状タングステン膜102は、前述のように、空隙部(空孔)が大きく、その空隙部が表面にも露出する。つぎに、チタンアルコキシドTi(OR)nをスプレー法またはスピンコート法によって綿状タングステンの空隙内部に含浸させる。ここで、R=CH3、C25、nは1以上の自然数である。
【0145】
その後、チタンアルコキシドを加水分解することにより、酸化チタンを得、それを600〜700℃程度の温度で焼結することにより、図15(a)に示されるように、綿状タングステン膜102の表面に保持された酸化チタン層103が形成される。とくに、チタンアルコキシドとして、テトラエトキシチタンTi(OC254を使用し、タングステン基体に固定した場合、良好な結果が得られた。
【0146】
このように形成された触媒構造体を使用して、光(波長が400nm以下の紫外線)を当てながら水を水素と酸素に分解することができた。
【0147】
前述の例は、タングステン基板101上に直接綿状酸化タングステン膜を形成して還元したが、図15(b)に示されるように、酸化タングステン膜を形成する初期段階で、成膜時のベルジャー内の全圧を低くしたり、酸素分圧を変えることにより空隙が少なく密度の大きい、蒸着膜と類似した酸化タングステン膜102aを形成し、その後、前述と同様の空隙の大きい酸化タングステン膜102を成膜することにより、基板101との密着性を向上させることができる。その後の還元および触媒材料の含浸方法は前述と同様に行うことができる。
【0148】
前述の各例では、綿状タングステンの空孔部に触媒材を含浸させたが、タングステンのみに限定されず、綿状構造のモリブデンでも同様に基板上にその酸化膜を被膜することができ、前述と同様に、綿状酸化モリブデンを形成した後、還元して触媒材料を付着させることにより、同様な構造の固体触媒を形成することができる。また、還元して綿状のタングステンやモリブデンにしなくても、綿状の酸化タングステンや酸化モリブデンなどに直接触媒材を含浸させてもよく、また、還元した綿状のタングステンやモリブデンの表面を炭化処理したり、ホウ化処理することにより、表面を安定化させて触媒材を含浸させることもできる。さらに還元された綿状のタングステンやモリブデンの表面に、または前述の炭化処理などが施された表面に白金族の元素をコーティングすることにより、表面積の増大した構造体により、触媒の能力が増大する。
【0149】
以上のように、綿状高融点金属またはこれらの炭化処理などが施された綿状構造の基体に触媒材料を付着させることにより、触媒材料の表面積が非常に大きく(基板表面の10倍以上)なり、基板上に設ける触媒でも非常に触媒効率の高い固体触媒が得られる。従って、光触媒のように、光の当る部分のみが触媒として作用する場合に、とくに効果が大きい。また、綿状体が基板と同種の材料により成膜されているため、基板との接着性もよく、さらに下層を空孔率の小さい層により形成することにより、より一層基板との接着性が向上する。
【0150】
前述の例は、光触媒などに適した基板表面に触媒材料を設ける構造であったが、アンモニアガスなどの気体と接触させることにより働く触媒材料の場合にも同様に表面に綿状高融点金属などの綿状構造が用いられ、その綿状体内に固体触媒を付着させることにより、触媒効率の高い固体触媒が得られる。すなわち、たとえばアンモニアを分解する作用のある金、白金、イリジウムなどの触媒は、従来これらの粒子をアルミナ粒子と共に成形、焼結し、その焼結体を加熱昇温することにより、アンモニアを分解する構造になっている。そのため、触媒作用を強くするには、金などの粒子を増やすことになるが、金などの粒子を増やすと焼結体の強度が落ち、その含有量に限界があり、触媒面積を増やすことができない。しかし、前述の綿状の高融点金属などの粒子により、図16に示されるような構造に、焼結体を作ることにより、表面積の大きな焼結体となり、その表面に金などの触媒材料を付着させることにより、触媒効率の優れた固体触媒が得られる。
【0151】
まず、前述の綿状酸化タングステンを、図1に示される方法で、収集基板上に堆積させる。収集基板上に堆積した酸化タングステンを基板から剥がすことにより、綿状に繋がった酸化タングステン粒子が粉末状に得られる。この得られた粉末状の綿状酸化タングステンを500〜1100℃に加熱して、還元することにより、綿状のタングステン粉末(微細粒子が空隙を介して数個繋がったもの)が得られる。この還元温度が500℃より低いと、前述のように酸化物が残留するので好ましくない。また、温度が高すぎると、急速にタングステンが凝集し、空隙がなくなるため好ましくない。
【0152】
つぎに、綿状のタングステン粉末を硝化綿と酢酸ブチルからなるバインダーに適宜混合し、たとえば図16(a)〜(b)に示されるような形状の型(小さいためガラスなどからなる基板に凹部などを設けることにより形成される)に流し込み、乾燥させる。その後、水素ガス雰囲気で、700℃程度、30分程度の焼結をすることにより、綿状タングステンが連結して、型形状による貫通孔105aが設けられた基体105が綿状タングステンにより形成される。なお、バインダーは焼結により分解して殆ど残らない。また、図16(a)に示される構造は、基体に円筒状の貫通孔が形成されたもので、図16(b)は蜂の巣状に6角柱の貫通孔が形成されたハニカム構造のものである。この綿状タングステンは、非常に空隙部が大きいため、貫通孔を設けない構造でも気体を流通させると共に、後述する触媒材料を内面に塗布することができる。また、焼結に当っては、バインダーにより混合しなくても、粉末状にした酸化タングステンのまま成形型に入れて焼結することもできる。
【0153】
つぎに、綿状タングステンの空孔内に触媒金属を含浸させる。触媒金属が金である場合、塩化金酸(AuCl3・HCl・4H2O)を含浸させた後加水分解し、金を析出させる。その結果、焼結体の表面を金で被覆することができる。
【0154】
同様に、触媒金属が白金である場合は、塩化白金酸(PtCl4・5H2O)を焼結体に含浸させ、また、触媒金属がイリジウムの場合は、塩化イリジウムの水溶液あるいはエタノール溶液を上記焼結体に含浸させ、水素ガス中で加熱処理をすることにより、イリジウムを析出させることができる。なお、この例でも、タングステンに限らず、モリブデンを用いることも可能である。また、高融点金属表面が炭化処理やホウ化処理などにより炭化物などが設けられることにより、高温での安定性が向上し、また、酸化物のままでも製造工程が容易であるという利点がある。
【0155】
この構造にすることにより、焼結体の強度を落すことなく、触媒面積を増やした固体触媒が得られる。このような形状の固体触媒は、図16に示されるように、通電加熱用電源106を付加することにより、焼結体を直接加熱昇温することができる。このような加熱を行うと、上昇気流が発生し、トイレ内の空気が循環するので、脱臭装置として効果が大きい。
【0156】
図17〜19に示される例は、電波吸収構造体に前述の綿状高融点金属を用いる例である。たとえばマイクロ波集積回路用の無反射終端器として、誘電体基板上に高抵抗金属膜をスパッタまたは蒸着により被着させて用いられている。その他に、カーボンパウダー、フェライトなどの粉末を塗料に混合した電波吸収材を回路基板上に形成したマイクロストリップ線路上に塗布する場合もある。しかし、これらのいずれの場合でも、マイクロ波では表皮効果によりその表面を電波が進むため、抵抗損により充分に減衰させるためには、そのサイズが大きくなる。一方、前述の綿状高融点金属を用いることにより、電波の照射する部分の表面積が大きくなり、電波吸収効率が向上し、小形化することができるし、電波吸収用の高誘電率材を空孔内に含浸させることもできる。
【0157】
前述のように、図1に示される装置で、基板上に綿状の酸化タングステンを堆積させ、還元することにより、空孔の多い綿状のタングステン層が形成される。この綿状タングステン層に、高誘電率で、高透磁率であるBaTiOxなどの酸化物粉末を、アルコールに分散させた懸濁液にして、スピンコートなどの方法でコーティングした後、大気中で600℃程度で焼結させると図17に平面図が模式的に示されるような、タングステン粒子108の間にBaTiOx酸化物109が含浸された電波吸収体を得ることができる。
【0158】
前述の綿状タングステンの空孔内に含浸させる誘電体は、たとえばエポキシ系樹脂と、カーボンパウダーなどの高誘電率材または高透磁率材とを有機溶剤に溶解して混合したものを、スピンコートなどの方法により、前述の還元した綿状タングステン層にコーティングしても形成することができる。
【0159】
別の方法として、金属アルコキシドを用い誘電体を含浸させる場合、まず、図18(a)に示されるように、たとえばテトラエトキシチタン111を前述の水素還元した綿状タングステン層110に、500rpm、20秒、の条件下で、スピンコートなどにより含浸させる。ついで、図18(b)に示されるように、水112を入れたプレッシャークッカー(圧力釜)113の中で、2×105Pa(2気圧)、110℃の状態に約300秒間保持して加水分解反応を起こさせる。その後、図18(c)に示されるように、アニール炉114内の大気雰囲気中で、600〜700℃にて約20分焼成することにより、酸化チタンとタングステンとの複合材を得ることができる。
【0160】
以上のように形成される電波吸収構造体の層を、たとえば図19に示されるような回路基板115上に形成したマイクロ波線路116にパターニングして電波吸収体117として形成すれば、容易に電磁波のミリ波帯のマイクロストリップに無反射終端や減衰器を構成することができる。
【0161】
前述の例では、綿状の酸化タングステン層を還元して綿状のタングステン層を形成し、その空隙部に高誘電率、高透磁率の誘電体を含浸させたが、酸化モリブデンにより綿状の構造を形成し、それを還元しても同様に高効率の電波吸収体を形成することができる。
【0162】
また、ストリップ線路が設けられた回路基板に直接綿状の高融点金属層を設けてパターニングし、高誘電率または高透磁率の誘電体などを含浸させることもできる。そうすることにより、誘電体損失角tanδ、比誘電率εをコントロールすることができること、減衰量を増大することができること、というメリットがある。
【0163】
以上のように、水素還元をした綿状の高融点金属層は、多くの空孔を有し、空孔度が高いため、入射した電磁波は空孔内で反射を繰り返し、吸収される。そのため、反射が非常に小さくなり、電磁波に対して黒く見えるようになる。しかも、入射角度に依存せず、どの方向に対しても、反射係数が非常に小さくなる。いわば金属黒の性質を有する堆積層を、タングステンなどの高融点金属により実現している。この金属黒の性質は、マイクロ波(電磁波)のいわゆるミリ波に対しても適用可能である。
【0164】
さらに、空孔内に誘電体を含浸させることにより、電磁波の波長に対する反射係数を変化させることができると共に、誘電体損により電磁波の減衰の割合を大きくすることができる。このような理由から、前述のように、高誘電率、高透磁率の誘電体を綿状の高融点金属の空孔内に含浸させることにより、非常に高効率の電波吸収体となる。しかも、高価な製造装置を必要とせず、比較的簡単な装置で、綿状の高融点金属堆積層を得ることができ、経時変化の少ない信頼性の高い電波吸収構造体を得ることができる。また、光に対して、どの方向からも反射係数が小さいため、ホトリフレクタ用の無反射部パターン部や、回転角などの測定に使われるロータリーエンコーダ用の無反射パターン部を構成することもできる。
【0165】
【発明の効果】
本発明の綿状高融点金属材料によれば、微粒子間に大きな間隙部を有しているため、その表面積が非常に大きくなり、従来高融点金属材料では得られなかった表面積の大きい材料が得られる。その結果、陰極の還元材や、陰極表面、触媒の基体金属など表面積を大きくする必要のある電子部品に、非常に有効に利用することができる。
【0166】
さらに、空隙の多い高融点金属であるため、その表面に炭化処理やホウ化処理、白金族やその他の金属をスパッタなどにより被覆することにより、僅かの量で大きな表面積を有する材料が得られる。
【0167】
また、電子放射性材料に綿状高融点金属材料を添加した酸化物陰極や含浸型陰極によれば、電子放射性材料と還元剤である高融点金属との接触面積が非常に大きくなるため、高電流密度の陰極を得ることができる。
【0168】
また、白金族元素などをコーティングした綿状高融点金属を電子放出面に設けた陰極によれば、熱的に安定な状態で電子放出面の表面積を増大させることができ、従来の陰極に比べて非常に高電流密度の陰極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の綿状高融点金属材料を生成する装置の一例の説明図である。
【図2】本発明による綿状タングステンの金属組織の顕微鏡写真である。
【図3】本発明による綿状タングステンを得るためのチャンバー内圧力と酸素分圧との関係を示す図である。
【図4】本発明による綿状高融点金属を陰極に応用した場合の説明図である。
【図5】本発明による綿状高融点金属を陰極に応用した場合の説明図である。
【図6】本発明による綿状高融点金属を電子放射材料酸化物の周囲に付着させる例の説明図である。
【図7】本発明による綿状高融点金属を電子放射材料酸化物の周囲に付着させる例の説明図である。
【図8】本発明による綿状高融点金属を電界放出型陰極に応用する例の説明図である。
【図9】本発明による綿状高融点金属を電界放出型陰極に応用する例の説明図である。
【図10】電界放出形陰極の表面にダイヤモンドを被膜する例のダイヤモンドの結晶面を説明する図である。
【図11】本発明の綿状高融点金属を用いてダイヤモンド膜を成膜する説明図である。
【図12】本発明の綿状高融点金属を用いて金属配線を形成する例の説明図である。
【図13】本発明の綿状高融点金属を用いて金属配線を形成する例の説明図である。
【図14】本発明の綿状高融点金属を熱処理用治具に用いる例の説明図である。
【図15】本発明の綿状高融点金属を用いて固体触媒を形成する例の説明図である。
【図16】本発明の綿状高融点金属を用いて固体触媒を形成する例の説明図である。
【図17】本発明の綿状高融点金属を用いて電波吸収体を形成する例の説明図である。
【図18】本発明の綿状高融点金属を用いて電波吸収体を形成する例の説明図である。
【図19】本発明の綿状高融点金属を用いて電波吸収体を形成する例の説明図である。
【図20】従来の酸化物陰極の電子放射性材料と還元材との関係を示す図である。
【符号の説明】
2 ガラスベルジャー
3 タングステン線
4 基台
15 アルゴンボンベ
16 酸素ボンベ

Claims (7)

  1. (a)不活性ガス中に酸素を含む混合ガスを反応装置内に導入し、(b)該装置内で高融点金属原料を加熱すると共に、該高融点金属原料と対向して鉛直方向上方に基台を配設し、(c)前記高融点金属原料の酸化物の微粒子を上昇させ、空隙を介して繋がったウイスカー状に成長しながら前記基台上に堆積させた綿状高融点金属酸化物を、還元雰囲気下で還元させて高融点金属とすることにより、ウイスカー状の高融点金属微粒子が空隙を介して繋がる綿状構造とする綿状高融点金属材料の製造方法。
  2. 前記装置内の全圧力、前記酸素を含む混合ガスの成分分圧、および前記高融点金属原料の加熱温度のうち、少なくとも1つを制御することにより、前記空隙の割合を調節する請求項記載の綿状高融点金属材料の製造方法。
  3. 前記全圧力、混合ガスの成分分圧、および前記高融点金属原料の加熱温度のうち、少なくとも1つを連続的または断続的に変化させることにより前記空隙の大きさを変化させ、空孔率が連続的または断続的に異なる層を堆積する請求項記載の高融点金属材料の製造方法。
  4. 陰極の電子放出材料に、ウイスカー状の高融点金属微粒子が空隙部を介して繋がる綿状構造の綿状高融点金属材料が添加されている陰極。
  5. 前記綿状高融点金属材料が層状に堆積された電子放出面に、白金族の元素またはレニウムがコーティングされている請求項記載の陰極。
  6. 前記白金族の元素またはレニウムがコーティングされた綿状高融点金属材料の表面に、さらに酸化スカンジウムまたは酸化イットリウムがコーティングされている請求項記載の陰極。
  7. 前記白金族の元素またはレニウムが、前記高融点金属の炭化物またはホウ化物を介してコーティングされている請求項または記載の陰極。
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