JP2006196186A - 電子放出材料およびその製造方法とそれを用いた電界放出素子および画像描画素子 - Google Patents

電子放出材料およびその製造方法とそれを用いた電界放出素子および画像描画素子 Download PDF

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Abstract

【課題】炭素材料の優れた電気伝導度、熱伝導度、耐食性を有し、かつ、仕事関数が小さい大面積の表示装置用電子放出材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】電子放出領域として、表面から所定の領域に炭素以外のイオンを打ち込んだグラファイトシート101が基板102上に接着層103で固定され、前記グラファイトシートと絶縁層105と介して導電性ゲート層106が設けられ、グラファイトシート101に対向して蛍光体層109を配置した。この構成により、炭素材料の優れた特性を有し、仕事関数が小さい電子放出材料が得られ、高効率の電界放出素子が実現できる。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ディスプレイ、陰極線管、エミッター、ランプ、電子銃等として機能する電界放出素子材料およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ディスプレイ装置の薄型化、大面積化、低消費電力化が求められており、電子源に熱損失の少ない冷陰極電子源を使用することが検討されている。
【0003】
1991年に直径数十nm、 長さ数μmの円筒形の炭素素材であるカーボンナノチューブが発見されるまでは、スピント型(例えば、非特許文献1参照)と呼ばれる円錐形状の金属で形成された冷陰極を用いたディスプレイが数多く報告されていたが、カーボンナノチューブは炭素材料の優れた電気伝導度、熱伝導度、耐食性を有するだけでなく曲率半径が非常に小さいので、高効率、堅牢、かつ低真空でも安定な電界放出素子として動作することが期待されており、研究開発対象の主流は、カーボンナノチューブに移り始めている。(例えば、非特許文献2参照)
一方、特許文献1によれば、高分子シートを2段階焼成することにより人造のグラファイトシートが得られることが報告されている。このグラファイトシートは、炭素材料の優れた電気伝導度、熱伝導度、耐食性の他に、柔軟性に優れ、さらに、高分子シートを原料としているので、容易に大面積シートを形成できるという特徴を有する。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−178016号公報
【非特許文献1】
Journal of Applied Physics、 Vol. 39、 No. 7、 P3504 (1968)
【非特許文献2】
Applied Physics Letters, Vol. 78, No. 4, P 539 (2001)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
カーボンナノチューブは曲率半径が非常に小さいため、電界放出素子として動作することが期待されているが、単一構造のカーボンナノチューブを大量かつ安価に作製する方法および、大面積で均一かつ経時変化に優れた電界放出部の形成工程はまだ確立されていない。
【0006】
一方、グラファイトシートは、炭素材料の優れた電気伝導度、熱伝導度、耐食性を有し、均一な厚さの大面積シートが形成できるので、大面積表示装置などの電子放出部形成に適した物質であるが、表面上にカーボンナノチューブほどの曲率半径の小さな構造は存在しないので、電界放出開始電圧が大きいという課題がある。
【0007】
仕事関数は、電界放出開始電圧の大きさと並んで電界放出特性を評価する上で重要な値であり、仕事関数が小さいと、小さい電圧変化で電流量を大きく制御することが可能となる。しかしながら、仕事関数の大きさは、電界放出に寄与する物質の電子状態で決定されるので、たとえグラファイトを主成分とする炭素材料でカーボンナノチューブと同等の曲率半径の構造を形成しても、カーボンナノチューブを凌駕する性能を得ることはできない。
【0008】
本発明は、炭素材料の優れた電気伝導度、熱伝導度、耐食性を有し、かつ、電界放出開始電圧と仕事関数が小さい大面積の表示装置用電子放出材料、およびその製造方法とそれを用いた電界放出素子および画像描画素子を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決するための本発明は、グラファイト構造を主成分とする炭素材料から成る電子放出材料であって、前記炭素材料表面から所定の領域に、所定の濃度で炭素原子以外の元素が分布していることを特徴とする電子放出材料である。これにより、炭素材料の優れた電気伝導度、熱伝導度、耐食性を有し、かつ、電界放出開始電圧または仕事関数が小さい大面積表示装置用の電子放出材料が得られる。
【0010】
本発明の請求項1に記載の発明は、グラファイト構造を主成分とする炭素材料から成る電子放出材料であって、前記炭素材料表面から所定の領域に、所定の濃度で炭素原子以外の元素が分布していることを特徴とする電子放出材料である。
【0011】
グラファイト表面近傍における炭素原子以外の元素の濃度が数%である場合、グラファイト層間化合物が形成される原子濃度には達していないが、炭素原子以外の元素がグラファイトの層間または表面に化学または物理吸着するために、グラファイトの表面近傍の電子状態が変化して仕事関数の値が減少するという作用を有している。炭素原子以外の元素の濃度が少なくなると、仕事関数の値の減少量は小さくなり、グラファイト本来の値に限りなく近くなる。
【0012】
また、表面近傍に少量の炭素原子以外の元素が存在しているだけなので、グラファイト本来の機械および熱的な性質は失われず、その優れた電気伝導度、熱伝導度により、大電流を流した場合に置いてもジュール熱による発熱が小さく、かつ、熱拡散が早く、さらに、正イオンに対する耐スパッタ性に優れ、低真空でも性能が低下しない電界放出素子が得られる。
【0013】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電子放出材料において、前記炭素材料表面近傍に分布している元素が、アルカリ金属のLi、Na、K、Cs、Rb、アルカリ土類金属のCa、Sr、Baのうちの少なくとも1つ以上であることを特徴とする電子放出材料であり、本発明の請求項1に記載の発明が有する作用に加え、アルカリ金属およびアルカリ土類金属原子がグラファイトの層間または表面に化学または物理吸着することにより、仕事関数が小さくなり、低電圧で電子放出が開始するという作用を有している。
【0014】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の電子放出材料において、前記炭素材料表面近傍に分布している元素が、窒素または酸素のうちの少なくとも1つ以上であることを特徴とする電子放出材料であり、本発明の請求項1に記載の発明が有する作用に加え、窒素、酸素は、グラファイトの層間または表面に化学または物理吸着するだけでなく、炭素原子と置換や結合することで電子状態が変化させるという作用を有している。
【0015】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の電子放出材料において、前記炭素材料表面近傍に分布している元素が、希ガス元素のNe、Ar、Kr、Xeのうちの少なくとも1つ以上であることを特徴とする電子放出材料である。希ガス元素の場合には炭素原子と反応しないが、グラファイトの層間または層中に存在することにより、グラファイトの電子状態を変化させるという作用を有する。
【0016】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項2から4に記載の炭素原子以外の元素が、少なくとも2つ以上含まれていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出材料である。本発明の請求項2から4に記載の発明が有する作用に加え、近接した異種原子間に形成される双極子分極により、グラファイトの電子状態が変化して仕事関数が小さくなり、低電圧で電子放出が開始するという作用を有している。
【0017】
本発明の請求項6に記載の発明は、イオン化した原子、分子またはそれらのクラスターをグラファイト構造を主成分とする炭素材料に打ち込むことを特徴とする請求項1〜5に記載の電子放出材料の製造方法であり、本発明の請求項1〜5に記載の発明が有する作用に加え、グラファイト構造を主成分とする炭素材料表面にイオン化した原子、分子またはそれらのクラスターを衝突および侵入させることで、表面に凸凹構造を形成するという作用を有する。イオン照射で生じた凸凹構造中には、曲率半径が小さい突起状構造が高密度で存在するので、イオンが照射されたグラファイト表面には、低印加電圧で電子放出可能となる電界放出部が形成される。
【0018】
さらに、イオン打ち込みでは、原子種、加速電圧、打ち込み量を変化させることにより、表面形状および物質中での濃度分布を設計できるという特徴を有している。
【0019】
本発明の請求項7に記載の発明は、ラジカル化した原子、分子またはそれらのクラスターをグラファイト構造を主成分とする炭素材料に照射することを特徴とする請求項1〜5に記載の電子放出材料の製造方法である。本発明の請求項1〜5に記載の発明が有する作用に加え、ラジカルは、イオンと比較して衝突による原子位置変化は少ないが、化学反応活性に優れており、グラファイト構造を主成分とする炭素材料にラジカル化した原子、分子またはそれらのクラスターを照射することで、原子、分子またはそれらのクラスターがグラファイトの層間または表面に化学または物理吸着したり、グラファイトを構成している炭素原子との反応生成物が昇華または凝集することで、凹凸構造が形成される。
【0020】
ラジカル照射で生じた凸凹構造には、電界集中が容易に起こる曲率半径が小さい突起状構造が高密度で存在するので、ラジカルが照射されたグラファイト表面には、低印加電圧で電子放出可能となる電界放出部が形成されることとなる。
【0021】
本発明の請求項8に記載の発明は、電気的に中性の原子、分子またはそれらのクラスターをグラファイト構造を主成分とする炭素材料に到達させることを特徴とする請求項1〜5に記載の電子放出材料の製造方法であり、本発明の請求項1〜5に記載の発明が有する作用に加え、グラファイト構造を主成分とする炭素材料に電気的に中性の原子、分子またはそれらのクラスターを到達させることで、グラファイト表面に堆積した原子、分子またはそれらのクラスターによって、曲率半径の小さい電界放出部が存在する凸凹構造を形成するという作用を有する。
【0022】
また、グラファイト表面に到達した原子、分子またはそれらのクラスターがグラファイトの層間または表面に化学または物理吸着したり、グラファイトを構成している炭素原子と反応して、凹凸構造や炭素化合物が形成される。凸凹構造には曲率半径の小さい電界放出部が存在し、表面吸着物やグラファイト中に進入した原子やクラスター、炭素化合物が存在することによって表面近傍の電子状態が変化する。
【0023】
本発明の請求項9に記載の発明は、請求項6〜8に記載の製造工程後に、所定の温度で熱処理を行うことを特徴とする電子放出材料の製造方法であり、請求項6〜8に記載の発明が有する作用に加え、表面近傍に存在している炭素以外の元素とグラファイトとの化学反応の促進や、凸凹構造や化合物の平面内での均一化、原子、分子またはそれらのクラスターの深さ方向濃度分布の均一化や制御を行うことができるという作用を有する。
【0024】
本発明の請求項10に記載の発明は、請求項6〜8に記載の製造工程を少なくとも2つ以上を行うことを特徴とする電子放出材料の製造方法である。第2の製造工程においては、第1の製造工程で凹凸構造が既に形成されているので、グラファイトの層間または表面への化学または物理吸着・脱離、および、グラファイトを構成している炭素原子との反応が容易に進行するという作用を有する。
【0025】
本発明の請求項11に記載の発明は、前記グラファイト構造を主成分とする炭素材料がシート状であることを特徴とする請求項1に記載の電子放出材料であり、本発明の請求項1に記載の発明が有する作用に加え、十分な機械強度を持つ均一な電子放出材料を大面積に形成できるという作用を有する。
【0026】
本発明の請求項12に記載の発明は、請求項1に記載の電子放出材料において、前記炭素材料が粉末状であることを特徴とする電子放出材料であり、本発明の請求項1に記載の発明が有する作用に加え、粉末表面には原子層ステップに起因する突起や粒径よりも小さい曲率半径を有する電界放出部を無数に存在しているので、電界集中が起きやすいという作用を有する。
【0027】
本発明の請求項13に記載の発明は、グラファイト構造を主成分とする炭素材料の作製が、ポリイミドシートを不活性ガス中で第1の出発温度から第1の昇温速度で昇温して上限温度1000℃以上まで焼成する第1の熱処理工程と、前記第1の熱処理工程後更に不活性ガス中で第2の出発温度から第2の昇温速度で上限温度2500℃以上まで焼成する第2の熱処理工程とからなることを特徴とする請求項11または12に記載の電子放出材料の製造方法であり、本発明の請求項11または12に記載の発明が有する作用に加え、このような熱処理工程によって、グラファイトシートに不要な成分原子を熱分解させガス化させて除去して、大面積かつ均一な物性を有するグラファイトシートを安価かつ確実に形成するという作用を有する。
【0028】
より詳細には、芳香族系ポリイミド高分子シートを不活性ガス中で、その高分子が熱分解を始め、炭素前駆体を経て、ほぼ100%の炭素化物となる1000℃以上の温度まで室温から昇温して熱処理(予備焼成)し、その後グラファイト化が終了する2500℃以上の温度まで室温から昇温して熱処理(本焼成)を行う2段階の熱処理工程を行えば、作製されるグラファイトシートは、このような熱処理工程を行わないものに比較して、確実に発泡状態が形成される。なお、グラファイトシートの膜厚、密度、表面状態等によって、予備焼成および本焼成の最高温度・昇温速度などには最適条件がある。
【0029】
このポリイミドシートは、熱焼成によりグラファイト構造を有するものとして知られている芳香族縮合高分子を用いたものの中で、最も良質のグラファイト構造が得られるものとして知られているものである。
【0030】
本発明の請求項14に記載の発明は、電子放出領域として、請求項1〜5および11〜12のいずれかに記載の電子放出材料を配置し、前記電子放出領域と絶縁層を介して導電性ゲート電極が設けられていることを特徴とする電界放出素子である。請求項1〜5および11〜12のいずれかに記載の発明が有する作用に加え、電子放出領域と導電性ゲート電極間に電圧を印加することで、電子放出領域から低電圧で電流を取り出すことができる。
この構成によれば、グラファイトで電子放出部が構成されているので、その優れた電気伝導度、熱伝導度により、ジュール熱による発熱が小さく、かつ、熱拡散が早く、さらに、正イオンに対する耐スパッタ性に優れ、低真空でも性能が低下しない電界放出素子が得られる。
【0031】
本明の請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の電界放出素子を複数個配列すると共に、前記電界放出素子に対向して電子の照射により発光する蛍光体層が配置され、個々の電界放出素子からの電子放射量によって蛍光体発光量を制御することを特徴とする画像描画素子であり、請求項14に記載の発明が有する作用に加え、電子放出領域から取り出されゲート電極付近に到達した電子が、蛍光体層とゲート電極間に印加された電圧によって加速されて蛍光体層に照射されることによって、蛍光体層が発光する。発光の輝度は、ゲート電極に印加する電圧によって制御が可能であるので、個々の電界放出素子のゲート電極電圧を制御することにより、大面積に画像や文字を表示できる画像描画装置が実現できる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図5を用いて説明する。
【0033】
(実施の形態1)
本実施の形態では、ポリイミドシートとして膜厚75μmのもの(商品名カプトン(登録商標):東レ・デュポン社製)を代表的に用い、予備焼成は、不活性ガス雰囲気中で、常温から昇温速度4℃/minで昇温し、炭素化領域にある1100℃で2時間保持した。本焼成は、不活性ガス雰囲気中で、常温から昇温速度20℃/minで昇温し、グラファイト化領域である2700℃で1時間保持した。本焼成終了後に圧延を行い作成したグラファイトシート101の厚みは、ポリイミドシートより厚い約100μm であった(図1(a))。
【0034】
このグラファイトシート101は柔軟性に富むため、その後の素子作製工程において取り扱いを容易にし、また、電界放出素子として安定に動作させるために、平坦な基板に有機または無機系の接着剤によって固定することが望ましく、本実施の形態では、グラファイトシート101を平坦性が高く安価なガラス製の絶縁基板102上に、アルミナを主成分とする接着層103(アレコム社製:セラマボンド503)を用いて固定した。
【0035】
次に、深さ0.4μmを中心に0.6μmの範囲に分布する条件でLiイオンを200℃でグラファイトシートに打ち込んだ。打ち込みは3回に分けて行い、加速電圧45、25、10kVの順序で、それぞれ1平方cmあたり1.5×1016、1.2×1016、1.0×1016個打ち込んだ。表面近傍の構造を走査電子顕微鏡で観察した結果、イオン打ち込みにより凸凹構造104が形成されていた(図1(b))。また、二次イオン質量分析法(SIMS)によりLi原子の深さ方向の分布を測定した結果、ほぼ条件通りにLi原子が分布しており、X線測定では、グラファイトC軸方向の面間隔には変化が認められず、層間化合物が形成されていなかった。
【0036】
次に、アルミナ粉末とバインダーの混合物である絶縁層105をスクリーン印刷により作製した後、銀の微粒子とバインダーの混合物である導電性ゲート層106を同じくスクリーン印刷によって形成した(図1(c))。グラファイトシート101と導電性ゲート層106間、および、隣り合う導電性ゲート106間の距離は350μmおよび500μmとした。
【0037】
グラファイトシート101および導電性ゲート層106にそれぞれ電源の正極および負極を接続して電圧を印加したところ、1.2kVから電界放出が開始し、電界放出電流の変動も小さく、場所依存性も少ない良好な電界放出特性を示した。図2は、印加電圧に対する電界放出電流を測定した結果である。横軸は、印加電圧(単位はkV)、縦軸は、電流値(単位はmA)、SGは、イオン照射を行っていないスーパーグラファイト(SG)を電子放出部にした測定結果、Li照射高濃度は、本実施例での測定結果をそれぞれ示している。
【0038】
イオンを打ち込んでいないグラファイトシートを電子放出材料に用いた同構成の電界放出素子では、電界放出開始電圧は約1.7kV程度であり、電界放出開始電圧が0.5kV程度小さくなっている。この値は、電子放出材料にカーボンナノチューブを用いた場合の値とほぼ同程度であり、微量であるがLiイオンを照射した効果は非常に大きく、高性能の電界放出素子が形成することができた。
【0039】
図3は、図2の測定結果をFN(Fowler-Nordheim)プロットした結果を示している。横軸は印加電圧とギャップ長から算出した電界強度の逆数であり、縦軸は測定電流を電界強度の2乗で割ったものである。グラフの傾きは見かけの仕事関数の大きさを示しており、傾きが小さいほど電子が取り出し易い材料であること示している。また、縦軸の大きさは電流量に比例しており、電子放出に寄与する構造の密度に比例している。図3に示すように、Liイオンを照射した場合の仕事関数の大きさは、イオンを打ち込んでいないグラファイトシート(図3中、「SG」で表記)よりも2割ほど小さい。この仕事関数の減少は、イオン照射により形成された凹凸構造とリチウム原子注入よる表面電子状態の変化が考えられる。
【0040】
図2および図3の中に、Li照射高濃度の場合よりもイオンの打ち込み量を10分の1にした場合の結果を示した(Li照射低濃度)。Li照射高濃度の場合に比べて、電界放出開始電圧はさらに下がるが、仕事関数の値は大きくなり、イオンを打ち込んでいないスーパーグラファイトシートの値と同程度である。これらの結果は、イオン照射による表面形状変化によって、電界放射開始電圧が低下するが、表面近傍に存在するLiが少ないことから仕事関数はほとんど変化しなかったと考えられる。Liイオン照射量をさらに10分の1に減少させた場合、電界放射開始電圧も仕事関数もグラファイトシートとほぼ変わらないので、Liイオンを用いてグラファイトシートの仕事関数を変化させるためには、下限値があることが分かる。なお、Li照射高濃度の場合、グラファイト中に存在するLi原子の濃度は、0.06%程度であり、照射量の下限値は、0.001%程度であると考えられる。なお、照射量の上限値は3%程度であると考えられる。
【0041】
電子放出材料の基材であるグラファイトシートは、大面積で均一な特性のものが得られるので、本実施の形態1の素子作製工程に制約を受けることなく、大面積化で均一な電界放出素子の作製が容易である。なお、各素子を個別に動作させるためには、図1(d)に示すように、隣り合う導電性ゲート間を絶縁すればよい。さらに、電子放射素子に対向してガラス基板107に形成した透明電極108上に電子の照射により発光する蛍光体層109を配置した蛍光体発光装置を作製した。蛍光体層に用いられる蛍光体材料としては、加速される放射電子が持つエネルギー値に対応したZnO:ZnやZnS系蛍光体等を所望の発光色に併せて選択すれば良く、本実施の形態では、加速電極である透明導電膜(ITO)上に蛍光体層としてZnS系蛍光体を塗布した。
【0042】
以上の様にして作製した蛍光体発光装置を真空槽内に設置し、ゲート層106と電子放出材料であるグラファイトシート101と間に電圧を印加して電子を取り出し、加速電極として機能する透明電極108と電界放出素子のゲート電極間に3kVの加速電圧を印加し、蛍光体発光輝度を測定すると、300〜400cd/m2の発光輝度が得られた。発光強度は、蛍光体に照射される電流量をゲート電極−電子放出材料間電圧によって調整するか、蛍光体に照射される電子のエネルギーを加速電極−ゲート電極間電圧によって調整することができた。さらに、この蛍光体発光装置を二次元的に複数個配置し、個々の蛍光体発光量を制御することで任意形状/任意輝度の画像を表示する画像描画装置を作製することができた。
【0043】
なお、本実施の形態1では、Liイオンを打ち込む前にグラファイトシート101を基板102に接着したが、グラファイトシート101に直接イオンを打ち込んだ後に基板102に接着しても同様の効果が得られ、また、絶縁層105と導電性ゲート層106を作成した後にLiイオンを打ち込んでも同様の効果が得られた。
【0044】
また、本実施の形態1では、Liを打ち込んだが、アルカリ金属のLi、Na、K、Cs、Rb、アルカリ土類金属のCa、Sr、Baの少なくともいずれか1つを打ち込むことによっても同様の効果が得られた。また、窒素、酸素の場合には、凸凹構造も形成されるが、グラファイトの層間に進入したり、炭素原子と置換や結合することで電子状態が変化して、仕事関数が若干であるが小さくなった。また、例えば、希ガスのHe、Ne、Ar、Kr、Xeなどを打ち込んだ場合では、凸凹構造は形成されることにより、低電圧から電界放出は開始したが、仕事関数が小さくなる効果はアルカリ金属やアルカリ土類金属を打ち込んだ場合よりは小さかった。
【0045】
さらに、打ち込むイオンは原子、分子に限らずそれらのクラスターでも同様の効果があり、イオンの価数を変えても同様の効果が得られた。また、イオンを打ち込む時の基板の温度は、1000℃以下であれば、同様の効果が得られた。また、イオン打ち込み後に1000℃以下の温度で熱処理を行うことで、表面近傍に存在している炭素以外の元素とグラファイトとの化学反応の促進や、凸凹構造や化合物の平面内での均一化、原子、分子またはそれらのクラスターの濃度分布の均一化や制御を行うことができた。
【0046】
また、グラファイトシート101をガラス製の絶縁基板102上に接着したが、機械的強度が十分であれば材質および導電性の有無に関わらず用いることができた。
【0047】
また、本実施の形態1では、グラファイトシート102と絶縁基板105の接着にアルミナを主成分とする接着剤を用いたが、十分な接着力があれば、導電性の有無、材質に関係なく使用することができた。
【0048】
本実施の形態1では、予備焼成時の温度は、ポリイミドシートが十分に炭化される1000℃を超えていれば必要十分であり、本焼成の最高温度は、グラファイト構造が十分発達する2500℃以上であることが好ましい。
【0049】
また、昇温速度および保持時間は、予備焼成および本焼成の最高温度組み合わせなどによって最適条件が存在するので、本実施の形態の組み合わせに限定されるものではない。
【0050】
出発原料のポリイミドフィルムの膜厚は、75μmに限定されるものではなく、商品化されている25〜300μmの範囲内のものについて確認したところ、同様の結果が得られ、さらに、焼成後のグラファイトシートの厚さが10μm以上であれば、同様の結果が得られた。
【0051】
グラファイト化可能なフィルムとしては、ポリフェニレンオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドから適宜選択され得る。
【0052】
昇温速度および保持時間を変えて焼成した場合には、原材料の形を反映したシート状ではなく粒径1mmより小さい粉末状のグラファイトが形成されるが、この粉末にイオンを照射して電界放出特性を計測したところグラファイトシートの場合と同様の結果が得られた。さらに、イオン照射済みの粉末を無機および有機系のバインダーに混合して塗布し、所定の熱処理を行った領域からの電子放出特性にバインダーや熱処理の影響はなかった。また、炭素以外の元素の有無に関わらずグラファイトシートを裁断または粉砕することによって作製した粉末状グラファイトを用いても同様の結果が得られた。
【0053】
(実施の形態2)
本実施の形態では、Liイオンを打ち込む工程に変えて、ラジカル化した窒素をグラファイトシートに照射する工程を行うこと以外は、実施の形態1と同じ工程で電界放出素子を作製し、同様の方法で電界放出特性を評価した。
【0054】
窒素ガスを満たした窒化硼素製の円筒に200Wのマイクロ波を照射することにより、反応性の高い窒素ラジカルを生成し、円筒の1端に開けられた穴から差圧を利用して真空反応容器に窒素ラジカルを導入した。反応容器内のグラファイトシートの温度を950℃に設定し、窒素ラジカルをグラファイト表面に1平方cmあたり1022個照射した。
【0055】
X線測定では、層間化合物が形成されておらず、表面分析では、窒素原子、および、炭素と窒素の化合物が表面近傍に存在していることが確認された。また、窒素原子の深さ方向の分布を測定した結果、深さ1μmまでの範囲に最大1立方cmあたり1019個の密度で分布していた。
【0056】
実施の形態1と同様に電界放出特性を測定したところ、1.2kVから電界放出が開始し、電界放出電流の変動も小さく、場所依存性も少ない良好な電界放出特性を示した。窒素がグラファイト中に進入または炭素と窒素の化合物を形成することにより、仕事関数が下がり電子は放出されやすくなり、低電圧で電界放出が開始されたと考えられる。
【0057】
なお、本実施の形態では、グラファイトシートに照射するラジカル源として窒素を用いたが、アルカリ金属のLi、Na、K、Cs、Rb、アルカリ土類金属のCa、Sr、Ba、希ガス元素のNe、Ar、Kr、Xeのうちの少なくとも1つを含めば同様の効果が得られた。また、照射ラジカル種は原子または分子に限らずそれらのクラスターでも同様の効果が得られた。また、ラジカルを照射する時の基板の温度は、1000℃以下であれば、同様の効果が得られた。また、ラジカル照射後に1000℃以下の温度で熱処理を行うことで、表面近傍に存在している炭素以外の元素とグラファイトとの化学反応の促進や、化合物の平面内での均一化、原子、分子またはそれらのクラスターの深さ方向濃度分布の均一化や制御を行うことができた。
【0058】
また、酸素ラジカルを照射した場合には、基板温度を酸化物の昇華温度以上に設定することで、表面の炭素原子は酸素と反応して1酸化炭素、2酸化炭素として表面から脱離する。これらの反応は、グラファイト表面に存在する表面欠陥から優先的に進行するので、鋭い凸凹構造が高密度の形成される。従って、電界放出開始電圧は窒素ラジカルを照射した場合に比較して小さくなった。
【0059】
粒径1mmより小さい粉末状のグラファイトにラジカルを照射して電界放出特性を計測したところ同様の結果が得られた。さらに、この粉末を無機および有機系のバインダーに混合して塗布し、所定の熱処理を行った領域からの電子放出特性も同様であった。また、炭素以外の元素の有無に関わらずグラファイトシートを裁断または粉砕することによって作製した粉末状グラファイトを用いても同様の結果が得られた。
【0060】
(実施の形態3)
本実施の形態では、Liイオンを打ち込む工程に変えて、電気的に中性なCs金属をグラファイトシートに照射する工程を行うこと以外は、実施の形態1と同じ工程で電界放出素子を作製し、同様の方法で電界放出特性を評価した。
【0061】
図4(a)に示すように、Cs金属をグラファイトシートに含浸させる工程を行う前のグラファイトシート401上は、微細な表面欠陥402を除けば、ほぼ平面である。本実施の形態で用いた高分子シートを焼結することにより作製したグラファイトシート401は、層間隔は非常に均一であるが、面内でのドメインサイズは、高配向グラファイト(HOPG)に比較して小さいため、表面には原子がグラファイト内に侵入する入り口となる各種の表面欠陥が高密度で存在する。
【0062】
次に、真空中でCs金属を入れたルツボにグラファイトシート401を対向させ、それぞれの温度を194℃および350℃に設定した。ルツボから蒸発したCs原子は、グラファイト表面に1平方cmあたり1016個到達し、表面欠陥402からグラファイトの層間を押し広げて含浸し、Cs含浸領域403が形成された(図4(b))。
【0063】
X線測定では、明確に層間化合物が形成されておらず、表面分析では、Cs原子が表面近傍に存在していることが確認された。また、Cs原子の深さ方向の分布を測定した結果、深さ2μmまでの範囲に最大1立方cmあたり1022個の密度で分布していた。
【0064】
実施の形態1と同様に電界放出特性を測定したところ、0.7kVから電界放出が開始し、電界放出電流の変動も小さく、場所依存性も少ない良好な電界放出特性を示した。凸凹構造はCs原子照射前後でほぼ変わらないので、Csがグラファイトに含浸や吸着することにより、仕事関数が下がり電子は放出されやすくなり、低電圧で電界放出が開始されたと考えられる。
【0065】
なお、本実施の形態では、グラファイトシートに照射する中性元素としてCs原子を用いたが、窒素、酸素、アルカリ金属のLi、Na、K、Cs、Rb、アルカリ土類金属のCa、Sr、Baうちの少なくとも1つを含めば同様の効果が得られた。また、照射するのは原子、分子に限らずそれらのクラスターでも同様の効果が得られた。また、中性元素を照射する時の基板の温度は、1000℃以下であれば、同様の効果が得られた。また、中性元素照射後に1000℃以下の温度で熱処理を行うことで、表面近傍に存在している炭素以外の元素とグラファイトとの化学反応の促進や、凸凹構造や化合物の平面内での均一化、原子、分子またはそれらのクラスターの深さ方向濃度分布の均一化や制御を行うことができた。
【0066】
また、粒径1mmより小さい粉末状のグラファイトに中性元素を照射して電界放出特性を計測したところ同様の結果が得られた。さらに、この粉末を無機および有機系のバインダーに混合して塗布し、所定の熱処理を行った領域からの電子放出特性にバインダーや熱処理の影響はなかった。また、炭素以外の元素の有無に関わらずグラファイトシートを裁断または粉砕することによって作製した粉末状グラファイトを用いても同様の結果が得られた。
【0067】
(実施の形態4)
本実施の形態では、電気的に中性なCs金属をグラファイトシートに照射する工程より前にアルゴンイオンを照射する以外は、実施の形態3と同じ工程で電界放出素子を作製し、同様の方法で電界放出特性を評価した。
【0068】
実施の形態1と同様に、ガラス基板に固定したグラファイトシートに、1平方cmあたり4.5×1016個のアルゴンイオンを加速電圧180kVで室温でグラファイトシートに打ち込んだ。次に、イオン照射したグラファイトシートに実施の形態3と同じ方法・条件でCs金属を含浸させた。
【0069】
X線測定では、明確には層間化合物が形成されておらず、表面分析では、Cs原子とアルゴン原子が表面近傍に存在していることが確認された。また、Cs原子の深さ方向の分布を測定した結果、深さ2μmまでの範囲に最大1立方cmあたり1022個の密度で分布しており、アルゴン原子は深さ0.25μmを中心に0.2μmの範囲に分布していた。
【0070】
実施の形態1と同様に電界放出特性を測定したところ、0.4kVから電界放出が開始し、電界放出電流の変動も小さく、場所依存性も少ない良好な電界放出特性を示した。アルゴンイオン照射工程、Csイオン照射工程、実施の形態3に記載のCs原子含浸工程を単独で行った場合の電界放出開始電圧は、それぞれ1.0、0.6、0.7kVであり、アルゴンイオン照射工程後にCs原子含浸工程を行うことにより、さらに電界放出開始電圧を低下することができた。表面近傍に存在するCs原子の濃度はほぼ同じであり、また、イオン照射工程において、イオン種を変えてもイオンの運動エネルギーと照射量をほぼ同じにすれば同様の結果が得られることから、イオン照射工程で作製された凹凸構造のためにグラファイトの層間にCs原子がグラファイト中に入り易くなっていると考えられる。
【0071】
なお、本実施の形態では、グラファイトシートに照射する中性元素としてCs原子を用いたが、アルカリ金属のLi、Na、K、Cs、Rb、アルカリ土類金属のCa、Sr、Baうちの少なくとも1つを含めば同様の効果が得られた。また、照射するのは原子、分子に限らず、それらのクラスターでも同様の効果が得られた。また、中性元素を照射する時の基板の温度は、1000℃以下であれば、同様の効果が得られた。また、中性元素照射後に1000℃以下の温度で熱処理を行うことで、表面近傍に存在している炭素以外の元素とグラファイトとの化学反応の促進や、凸凹構造や化合物の平面内での均一化、原子、分子またはそれらのクラスターの深さ方向濃度分布の均一化や制御を行うことができた。
【0072】
また、粒径1mmより小さい粉末状のグラファイトに中性元素を照射して電界放出特性を計測したところ同様の結果が得られた。さらに、この粉末を無機および有機系のバインダーに混合して塗布し、所定の熱処理を行った領域からの電子放出特性にバインダーや熱処理の影響はなかった。また、炭素以外の元素の有無に関わらずグラファイトシートを裁断または粉砕することによって作製した粉末状グラファイトを用いても同様の結果が得られた。
【0073】
(実施の形態5)
本実施の形態では、アルゴンイオン照射工程前に電気的に中性なMo金属をグラファイトシートに照射する工程を行うこと以外は、実施の形態4と同じ工程で電界放出素子を作製し、同様の方法で電界放出特性を評価した。
【0074】
実施の形態1と同様に準備したガラス基板に固定したグラファイトシート501に、真空中でMo金属を入れたルツボにグラファイトシートを対向させ、グラファイトシートの温度を500℃に設定した。ルツボから蒸発したMo原子は、表面を拡散しながら凝集し30nmのMo金属微粒子502がグラファイト表面に均一に形成された(図5(a))。次に、実施の形態4同様の条件でアルゴンイオン照射(図5(b))とCs金属含浸工程(図5(c))を行った。アルゴンイオン照射工程においては、Mo金属微粒子502がマスクとなり、Mo金属微粒子502が存在しない領域が選択的にエッチングされ(図5(b))、円柱状凸構造503が形成された。一方、Cs金属含浸工程では、Cs原子は、円柱状凸構造503の側面から優先的グラファイトシートに含浸し、Cs含浸領域504が形成された。
【0075】
X線測定では、明確には層間化合物が形成されておらず、表面分析では、Mo原子、Cs原子とアルゴン原子が表面近傍に存在していることが確認された。また、Cs原子の深さ方向の分布を測定した結果、深さ2μmまでの範囲に最大1立方cmあたり1022個の密度で分布しており、アルゴン原子は深さ0.25μmを中心に0.2μmの範囲に分布していた。
【0076】
電界放出特性を測定したところ、実施の形態4と同じく0.4kVから電界放出が開始したが、電界放出電流の変動幅と、場所依存性が実施の形態4と比較して大きく向上した。
【0077】
また、アルゴンイオン照射工程、Cs金属含浸工程を行う前のグラファイトシート501からの電界放出特性は、Cs金属を含浸した場合に及ばないが、ナノメートルサイズの構造が表面に高密度で形成しているため、微粒子がない場合に比べて、電界放出特性が向上した。なお、Mo金属微粒子502はCs含浸領域504とは分子間力で付着しているので、例えば超音波による洗浄を行うことにより容易に除去が可能であった(図5(d))。この時の電界放出特性は、Moの仕事関数の影響を受けないので、図5(c)の場合よりも電界放出特性が向上した。
【0078】
また、微粒子の径と密度は基板温度と単位時間あたりに基板に到達するMo原子の量(フラックス密度)によって容易に制御可能である。また、本実施の形態では、Moの微粒子を用いているが、イオン照射工程(b)においてのエッチング速度が、グラファイトのエッチング速度より遅ければ、金属の種類を限定するものではない。もし、グラファイトのエッチング速度より早い場合でも、典型的には高さ30nm以上の円柱形凸構造が形成可能な微粒子であることが望ましい。なお、本実施の形態では、金属を蒸着によって基板表面に供給しているが、所定の金属を含有する有機化合物を供給して、基板上で加熱分解することによっても微粒子は供給可能であった。
【0079】
また、イオン照射工程(b)においては、加速電圧180kVで、1平方cmあたり4.5×1016個のアルゴンイオンを室温で照射しているが、イオン種を変えてもイオンの運動エネルギーと照射量をほぼ同じにすれば同様の結果が得られ、また、照射量は高さ30nm以上の円柱形凸構造が形成可能であることが望ましい。
【0080】
なお、本実施の形態では、グラファイトシート501に照射する中性元素としてCs原子を用いたが、アルカリ金属のLi、Na、K、Cs、Rb、アルカリ土類金属のCa、Sr、Baうちの少なくとも1つを含めば同様の効果が得られた。また、照射するのは原子、分子に限らず、それらのクラスターでも同様の効果が得られた。また、中性元素を照射する時の基板の温度は、1000℃以下であれば、同様の効果が得られた。また、中性元素照射後に1000℃以下の温度で熱処理を行うことで、表面近傍に存在している炭素以外の元素とグラファイトとの化学反応の促進や、凸凹構造や化合物の平面内での均一化、原子、分子またはそれらのクラスターの深さ方向濃度分布の均一化や制御を行うことができた。
【0081】
粒径1mmより小さい粉末状のグラファイトに中性元素を照射して電界放出特性を計測したところ同様の結果が得られた。さらに、この粉末を無機および有機系のバインダーに混合して塗布し、所定の熱処理を行った領域からの電子放出特性にバインダーや熱処理の影響はなかった。また、炭素以外の元素の有無に関わらずグラファイトシートを裁断または粉砕することによって作製した粉末状グラファイトを用いても同様の結果が得られた。
【0082】
(実施の形態6)
本実施の形態では、Cs金属含浸蒸着工程の前に酸素ラジカルを照射すること以外は、実施の形態3と同じ工程で電界放出素子を作製し、同様の方法で電界放出特性を評価した。
【0083】
実施の形態3と同様に準備したガラス基板に固定したグラファイトシートに、酸素ガスを満たした窒化硼素製の円筒に400Wのマイクロ波を照射することにより、酸素ラジカルを生成し、円筒の1端に開けられた穴から差圧を利用して真空反応容器に酸素ラジカルを導入した。反応容器内のグラファイトシートの温度を酸化物が昇華しない温度以下に設定し、酸素ラジカルを1平方cmあたり1022個照射した。次に、実施の形態3同様の条件でCs金属含浸工程を行った。X線測定では、層間化合物が形成されておらず、表面分析では、酸素原子および炭素の酸化物が表面近傍に存在していることが確認された。
【0084】
実施の形態3と同様に電界放出特性を測定したところ、0.3kVから電界放出が開始し、電界放出電流の変動も小さく、場所依存性も少なく、実施の形態3、および、酸素ラジカルをだけを同じ条件で照射した場合よりも良好な電界放出特性を示した。この結果は、酸素がグラファイト中に進入または炭素と窒素の化合物を形成するだけでなく、電子親和力の小さい酸素と正にイオン化しやすいCs原子との間で電子の移動が起こることで形成される双極子モーメントにより、仕事関数が効果的に低下したためであると考えられる。
【0085】
なお、本実施の形態では、グラファイトシートに照射するラジカル源として酸素を用いたが、窒素、アルカリ金属のLi、Na、K、Rb、アルカリ土類金属のCa、Sr、Ba、希ガス元素のNe、Ar、Kr、Xeのうちの少なくとも1つを含めば同様の効果が得られたが、表面近傍に存在する元素の電気陰性度の差が大きい方が望ましい。また、照射ラジカル種は原子または分子に限らずそれらのクラスターでも同様の効果が得られた。また、ラジカルを照射する時の基板の温度は、1000℃以下であれば、同様の効果が得られた。また、ラジカル照射後に1000℃以下の温度で熱処理を行うことで、表面近傍に存在している炭素以外の元素とグラファイトとの化学反応の促進や、化合物の平面内での均一化、原子、分子またはそれらのクラスターの深さ方向濃度分布の均一化や制御を行うことができた。
【0086】
なお、本実施の形態では、グラファイトシートに照射する中性元素としてCs原子を用いたが、アルカリ金属のLi、Na、K、Cs、Rb、アルカリ土類金属のCa、Sr、Baうちの少なくとも1つを含めば同様の効果が得られた。また、照射するのは原子、分子に限らず、それらのクラスターでも同様の効果が得られた。また、中性元素を照射する時の基板の温度は、1000℃以下であれば、同様の効果が得られた。また、中性元素照射後に1000℃以下の温度で熱処理を行うことで、表面近傍に存在している炭素以外の元素とグラファイトとの化学反応の促進や、凸凹構造や化合物の平面内での均一化、原子、分子またはそれらのクラスターの深さ方向濃度分布の均一化や制御を行うことができた。
【0087】
また、粒径1mmより小さい粉末状のグラファイトに中性元素を照射して電界放出特性を計測したところ同様の結果が得られた。さらに、この粉末を無機および有機系のバインダーに混合して塗布し、所定の熱処理を行った領域からの電子放出特性にバインダーや熱処理の影響はなかった。また、炭素以外の元素の有無に関わらずグラファイトシートを裁断または粉砕することによって作製した粉末状グラファイトを用いても同様の結果が得られた。
【0088】
【発明の効果】
本発明によれば、グラファイト表面から所定の領域に、炭素原子以外の元素を所定の濃度で分布させることで、炭素材料の優れた電気伝導度、熱伝導度、耐食性を有し、かつ、電界放出開始電圧または仕事関数が小さい電子放出材料が得られ、それらを用いて、高効率の電界放出素子、大面積表示装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】同図(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明の実施の形態1の電子放出材料およびその製造方法とそれを用いた電界放出素子の工程断面図
【図2】本発明の実施の形態1の電界放出素子の印加電圧に対する電界放出電流の測定結果を示す図
【図3】図2に表示した結果をFowler-Nordheimプロットした図
【図4】同図(a)、(b)は、本発明の実施の形態3の電子放出材料およびその製造方法における電界放出領域の工程断面図
【図5】同図(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明の実施の形態5の電子放出材料およびその製造方法における電界放出領域の工程断面図
【符号の説明】
101 グラファイトシート
102 絶縁基板
103 接着層
104 凸凹構造
105 絶縁層
106 導電性ゲート層
107 ガラス基板
108 透明電極
109 蛍光体層
401 グラファイトシート
402 表面欠陥
403 Cs含浸領域
501 グラファイトシート
502 Mo金属微粒子
503 Cs含浸領域
504 Cs含浸領域

Claims (15)

  1. グラファイト構造を主成分とする炭素材料から成る電子放出材料であって、前記炭素材料表面から所定の領域に所定の濃度で炭素原子以外の元素が分布していることを特徴とする電子放出材料。
  2. 請求項1に記載の電子放出材料において、前記炭素材料表面近傍に分布している元素が、アルカリ金属のLi、Na、K、Cs、Rb、アルカリ土類金属のCa、Sr、Baのうちの少なくとも1つ以上であることを特徴とする電子放出材料。
  3. 請求項1に記載の電子放出材料において、前記炭素材料表面近傍に分布している元素が、窒素または酸素のうちの少なくとも1つ以上であることを特徴とする電子放出材料。
  4. 請求項1に記載の電子放出材料において、前記炭素材料表面近傍に分布している元素が、希ガス元素のNe、Ar、Kr、Xeのうちの少なくとも1つ以上であることを特徴とする電子放出材料。
  5. 請求項2から4に記載の炭素原子以外の元素が、少なくとも2つ以上含まれていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出材料。
  6. イオン化した原子、分子またはそれらのクラスターをグラファイト構造を主成分とする炭素材料に打ち込むことを特徴とする請求項1〜5に記載の電子放出材料の製造方法。
  7. ラジカル化した原子、分子またはそれらのクラスターをグラファイト構造を主成分とする炭素材料に照射することを特徴とする請求項1〜5に記載の電子放出材料の製造方法。
  8. 電気的に中性の原子、分子またはそれらのクラスターをグラファイト構造を主成分とする炭素材料に到達させることを特徴とする請求項1〜5に記載の電子放出材料の製造方法。
  9. 請求項6〜8に記載の製造工程後に、所定の温度で熱処理を行うことを特徴とする電子放出材料の製造方法。
  10. 請求項6〜8に記載の製造工程を少なくとも2つ以上を行うことを特徴とする電子放出材料の製造方法。
  11. 前記グラファイト構造を主成分とする炭素材料がシート状であることを特徴とする請求項1に記載の電子放出材料。
  12. 請求項1に記載の電子放出材料において、前記炭素材料が粉末状であることを特徴とする電子放出材料。
  13. グラファイト構造を主成分とする炭素材料の作製が、ポリイミドシートを不活性ガス中で第1の出発温度から第1の昇温速度で昇温して上限温度1000℃以上まで焼成する第1の熱処理工程と、前記第1の熱処理工程後更に不活性ガス中で第2の出発温度から第2の昇温速度で上限温度2500℃以上まで焼成する第2の熱処理工程とからなることを特徴とする請求項11または12に記載の電子放出材料の製造方法。
  14. 電子放出領域として、請求項1〜5および11〜12のいずれかに記載の電子放出材料を配置し、前記電子放出領域と絶縁層を介して導電性ゲート電極が設けられていることを特徴とする電界放出素子。
  15. 請求項14に記載の電界放出素子を複数個配列すると共に、前記電界放出素子に対向して電子の照射により発光する蛍光体層が配置され、個々の電界放出素子からの電子放射量によって蛍光体発光量を制御することを特徴とする画像描画素子。
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