JP4467435B2 - 非天然型チロシン誘導体組み込みタンパク質の発現方法 - Google Patents

非天然型チロシン誘導体組み込みタンパク質の発現方法 Download PDF

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Description

本発明は、タンパク質中の所望の部位に、非天然型アミノ酸を取りこませて、非天然型アミノ酸組み込みタンパク質を発現させる方法、並びに上記タンパク質を発現させるために用いるDNA、発現ベクター、及び動物細胞に関する。
タンパク質中の所望の位置のアミノ酸残基を、通常のタンパク質合成に関わる20種類以外のアミノ酸(以下、非天然型アミノ酸という)で置換した、非天然型アミノ酸組み込みタンパク質(以下、アロタンパク質ともいう)は、タンパク質の機能・構造解析の有効な手段となり得る。
アミノアシルtRNA合成酵素(以下、aaRSという)はアミノ酸とtRNAとを特異的に結合させる酵素であり、生物種ごとに、一部の例外を除き天然に存在する20種類のアミノ酸それぞれに対応して20種類存在する。細胞内にはこのようなaaRSが基本的にアミノ酸ごとに存在することで、遺伝暗号に割り当てられるアミノ酸の種類が決まっている。例えば、aaRSの一つであるTyrRS(以下、TyrRSという)は、チロシンtRNA(以下、tRNATyrという)を他のアミノ酸のtRNAから識別してこれにチロシンにしか結合させず、他のアミノ酸とは結合させない。
アロタンパク質を生産するための手法としては、従来より、大腸菌内で生産する方法[コイデ(Koide)ら、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proceedings of the National Academy of Sciences)、USA、第85巻、1988年、p.6237−41(文献1)]、及び無細胞翻訳系で生産する方法[ノーレン(Noren)ら、サイエンス(Science)、第244巻、1989年、p.182−8(文献2)]が知られていた。
非天然アミノ酸を含む21種類のアミノ酸を含んだタンパク質をさらに大量に調製するためには、非天然型アミノ酸を結合するtRNAが、翻訳反応を行なう系の中で専用のaaRSによってアミノアシル化される人工遺伝暗号系を構築することが必要である。
このような人工遺伝暗号系の構築のためには、以下の条件を満たす、aaRS・tRNAの組を見出すことが必要である:
(1)aaRSは、通常の20種類のアミノ酸のいずれかではなく、所望の非天然型アミノ酸と特異的に反応するaaRS変異体であること;
(2)tRNAは、通常の20種類のアミノ酸に割り当てられたコドンではないコドン(例えば、ナンセンスコドンまたは4塩基コドンなど)に割り当てられ、かつ、上記非天然型アミノ酸特異的なaaRS変異体にのみ認識され、宿主の通常のaaRSには認識されない(orthogonal tRNA)ものであること。
このような条件を満たす、人工遺伝暗号系として、非天然型アミノ酸を結合してメッセンジャーRNA上のナンセンス・コドンまで運搬する分子(サプレッサーtRNA分子)と、サプレッサーtRNA分子に非天然型アミノ酸を結合させる酵素(aaRS)を用いることができる。このメカニズムについては、[ワング(Wang)ら、サイエンス(Science)、第292巻、2001年、p.498−500(文献3)]及び[ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(Journal of American Chemical Society)、第124巻、2002年、p.1836−1837(文献4)]に記載されている。
そして、このメカニズムによる、具体的な人工遺伝暗号系が、大腸菌内の系、及び小麦胚芽抽出液を利用した無細胞タンパク質合成系で確立されている。
すなわち、大腸菌において、任意の指定する部位に非天然型アミノ酸を含有するタンパク質を生産するシステムとしては、O−メチルチロシンを特異的にアミノアシル化するように改変したメタノコッカスジャナシイ(Methanococcus jannaschii)由来のTyrRS変異体と、同生物由来のチロシンtRNAを改変したアンバーサプレッサーtRNAを発現させ、O−メチルチロシンがアンバーコドンに対応して特異的に導入されることが報告されている(文献3)。
また、任意の部位に非天然型アミノ酸を含有するタンパク質を小麦胚芽抽出液中で生産するためのaaRSが開発されている[キガ(Kiga)ら、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proceedings of the National Academy of Sciences)、USA、第99巻、2002年7月23日、p.9715−9723(文献5)]。
このように、大腸菌や無細胞タンパク質合成系では、アロタンパク質生産系が開発されてきたが、これらをそのまま動物細胞内に用いることはできない。すなわち、大腸菌用に開発されたこれらの分子は、いずれもそれらの分子の性質そのものによって動物細胞内では使用することはできない。動物細胞内で任意の指定する部位に非天然型アミノ酸を含有したタンパク質を合成するためには、別途、適当なサプレッサーtRNAと、このサプレッサーtRNA分子と非天然型アミノ酸の両方に特異的なaaRSを開発し、かつ、動物細胞内においてそれら分子の発現が実現されなければならない。
また、上記小麦胚芽抽出液中での無細胞タンパク合成系で用いられたaaRSは、その基質特異性から考えて動物細胞内で使用可能であると予想された。しかし、使用するためには、組み合わせるべきサプレッサーtRNAとその発現系の開発が必要であった。
本発明は、動物細胞内における、非天然アミノ酸組み込みタンパク質の発現方法、並びに上記タンパク質を発現させるために用いるDNA、発現ベクター、及び動物細胞を提供することを目的とする。
本発明は、下記の発現方法を提供する。
(1) (A)大腸菌由来のTyrRSの変異体であって、チロシンに対する特異性に比べて非天然型のチロシン誘導体に対する特異性が高められた変異TyrRS(以下、変異TyrRSという)と、
(B)上記変異TyrRSの存在下で上記チロシン誘導体と結合可能な、バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌由来のサプレッサーtRNAと、
(C)所望の位置にナンセンス変異を受けた所望のタンパク質遺伝子
とを動物細胞中で発現させて、上記タンパク質のナンセンス変異の位置に上記チロシン誘導体を取りこませることを特徴とする、非天然型チロシン誘導体組み込みタンパク質の発現方法。
(2)上記チロシン誘導体が、3位置換チロシンまたは4位置換チロシンである(1)項に記載の発現方法。
(3)(B)サプレッサーtRNAがバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来のサプレツサーtRNATyrである(1)又は(2)項に記載の発現方法。
(4)(A)変異TyrRSが、TyrRSの37位チロシン及び195位グルタミンに相当する位置に改変を受けた変異TyrRSである(1)〜(3)のいずれか一項に記載の発現方法。
(5)(A)変異TyrRSが、TyrRSの37位チロシン(Y)に相当する位置が、バリン(V)またはアラニン(A)により置換され、かつTyrRSの195位グルタミン(Q)に相当する位置がアラニン(A)、システイン(C)またはアスパラギン(N)で置換された変異TyrRSである(4)項に記載の発現方法。
(6)動物細胞が哺乳類細胞である(1)〜(5)項のいずれか一項に記載の発現方法。
また、本発明は下記のタンパク質製造方法も提供する。
(7)(1)〜(6)のいずれか一項に記載の方法にしたがって発現させたタンパク質を回収し、精製することを特徴とする、非天然型チロシン誘導体が取りこまれたタンパク質の製造方法。
また、本発明は下記の動物細胞も提供する。
(8)(A)大腸菌由来のTyrRSの変異体であって、チロシンに対する特異性に比べて非天然型のチロシン誘導体に対する特異性が高められた変異TyrRSを動物細胞内で発現させる発現ベクターと、
(B)上記変異TyrRSの存在下で上記チロシン誘導体と結合可能な、バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌由来のサプレッサーtRNAを、上記動物細胞内で発現させる発現ベクターと、
(C)所望の位置にナンセンス変異を受けた所望のタンパク質遺伝子を上記動物細胞内で発現させる発現ベクターと、
とを含有し、上記タンパク質のナンセンス変異の位置に上記チロシン誘導体を取りこませることができる動物細胞。
(9)上記チロシン誘導体が、3位置換チロシンまたは4位置換チロシンである(8)項に記載の動物細胞。
(10)(B)サプレッサーtRNAがバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来のサプレッサーtRNATyrである(8)又は(9)項に記載の動物細胞。
(11)(A)変異TyrRSが、TyrRSの37位チロシン及び195位グルタミンに相当する位置に改変を受けた変異TyrRSである(8)〜(10)項のいずれか一項に記載の動物細胞。
(12)(A)変異TyrRSが、TyrRSの37位チロシン(Y)に相当する位置が、バリン(V)またはアラニン(A)により置換され、かつTyrRSの195位グルタミン(Q)に相当する位置が、アラニン(A)、システイン(C)またはアスパラギン(N)で置換された変異TyrRSである(11)項に記載の動物細胞。
(13)哺乳類細胞である(8)〜(12)項のいずれか一項に記載の動物細胞。
また本発明は、下記のDNA及び発現ベクターも提供する。
(14)配列番号1、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32からなる群から選ばれる一の配列を有するDNA。
(15)動物細胞内で認識される制御配列から発現可能に、配列番号1、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32からなる群から選ばれる一の配列を含有してなる発現ベクター。
(16)配列番号1の配列を有するDNAが同方向に9個配列されてクローン化された、(15)記載の発現ベクター。
本発明の発現方法は、
(A)原核生物由来のTyrRSの変異体であって、チロシンに対する特異性に比べて非天然型のチロシン誘導体に対する特異性が高められた変異TyrRSと、
(B)上記変異TyrRSの存在下で上記チロシン誘導体と結合可能な、バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌由来のサプレッサーtRNAと、
(C)所望の位置にナンセンス変異を受けた所望のタンパク質遺伝子
とを動物細胞中で発現させて、上記タンパク質のナンセンス変異の位置にチロシン誘導体を取りこませることを特徴とする、非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の発現方法である。
次に、本発明の発現方法で用いられる、変異TyrRS、サプレッサーtRNAについて詳述する。
(1)変異TyrRS
本発明において、チロシンよりも所望のチロシン誘導体に対する基質親和性が高められたとは、目的のチロシン誘導体に対する活性値(反応速度Kcatをミカエリス定数Kで割った値)が、チロシンに対する活性値よりも大きいものをいう。活性値はインビトロのアッセイによって測定できるが、遺伝学的なデータから活性値の相対的な大きさを判定することもできる。
本発明で用いられる変異TyrRSは、アミノ酸として、チロシン誘導体を特異的に認識し、かつtRNAとして、併用するサプレッサーtRNAを特異的に認識して、チロシン誘導体が結合したサプレッサーtRNAを生成させることができる大腸菌由来TyrRSの変異体である。大腸菌としては、K12株、B株を挙げることができる。
大腸菌由来のTyrRS(野生型)は、真核生物のtRNATyrと反応せず、大腸菌由来のtRNATyrは真核生物のTyrRSと反応しない。
上記チロシン誘導体としては、チロシンのフェニル基の3位または4位に置換基を有する3位置換チロシン、4位置換チロシンが挙げられる。
3位置換チロシンとしては、3−ヨードチロシン、3−ブロモチロシンなどの、3−ハロゲン化チロシンが挙げられる。また4位置換チロシンとしては、4−アセチル−L−フェニルアラニン、4−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、4−アジド−L−フェニルアラニン、O−メチル−L−チロシン、4−ヨード−L−フェニルアラニンなどが挙げられる。
これらのアミノ酸は、公知の方法で作製することができ、あるいは市販のものを利用することができる。例えば、4−アセチル−L−フェニルアラニンは、バイオケミストリー(Biochemistry)、42巻、6735−6746頁、2003年に記載の方法に従って作製することができる。また、4−ベンゾイル−L−フェニルアラニンと4−アジド−L−フェニルアラニンはBachem社(ドイツ)より、O−メチル−L−チロシンと4−ヨード−L−フェニルアラニンはSigma社(米国)より市販されているものを用いることができる。
これらはそれ自体で生理活性を有する非天然型アミノ酸であり、タンパク質の部位特異的ラベルの標的ともなるので、例えば、3−ハロゲン化チロシンを組み込んだタンパク質は、タンパク質機能・構造解析の材料として有用であり、また創薬のターゲットともなる可能性がある。
大腸菌のTyrRS(野生型)のアミノ酸配列(配列番号29)を1文字表記で図8に示す。
本発明に用いられる変異TyrRSは、例えば、すでに知られている他のTyrRSとチロシルAMPの複合体との3−D構造データ(例えば、Brickら、J.Mol.Bio.、第208巻(1988)p.83に記載されている3−D構造データ)から得られるチロシルAMPを認識する位置を参照した上で、図8の配列の中で、チロシン誘導体を認識する変異を導入すべき位置を推定して、後述する周知の部位特異的に変異を導入する方法により、得ることができる。
そして、好ましくは、本発明に用いられる変異TyrRSとしては、この配列の中で、少なくとも、37位のチロシン(Y)と195位のグルタミン(Q)に相当する位置を他のアミノ酸で部位特異的に置換して、3−ハロゲン化チロシンへの特異性を付与した変異体が挙げられる(文献5参照)。
さらに好ましくは、37位チロシン(Y)に相当する位置が、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)またはアラニン(A)により置換され、かつ195位グルタミン(Q)に相当する位置がアラニン(A)、システイン(C)、セリン(S)、またはアスパラギン(N)で置換されたものを用いることができる。これらの変異により3−ヨード−L−チロシンへの特異性が高められることを検証した結果を、表1に示す。表1は、アミノアシル化反応の反応産物の1つであるピロリン酸をピロホスファターゼで分解して生産される無機リン酸を定量するロイドらの方法(Lloydら、Nucleic Acids Research vol23(1995)pp2886−2892)を簡略化し、無機リンをBiomol green(フナコシ)を使用して検出することで、アミノアシル化反応の測定を行なったものである。
Figure 0004467435
中でも、表1の結果から、37位がバリンで195位がシステイン(V37C195と称する)の変異体、37位がバリンで195位がアスパラギン(V37N195と称する)の変異体、37位がバリンで195位がアラニン(V37A195と称する)の変異体、37位がアラニンで195位がシステイン(A37C195と称する)の変異体が特に好ましい。
次に、これらの変異体を製造する方法としては、公知の遺伝子操作技術により行なうのが好ましい。例えば、目的のアミノ酸の位置をコードする塩基配列を改変すべきアミノ酸をコードする塩基配列に置換したプライマーを用いて、改変すべきアミノ酸をコードする塩基配列に置換したDNAを増幅させて、増幅させたDNA断片を結合させて、全長のaaRSの変異体をコードするDNAを得て、これを大腸菌などの宿主細胞を用いて発現させることにより簡便に製造することができる。この方法において使用するプライマーとしては20〜70塩基、好ましくは20〜50塩基程度である。このプライマーは改変前の元の塩基配列とは1〜3塩基がミスマッチとなるので、比較的長いもの、例えば20塩基以上のものを使用するのが好ましい。
より具体的に示すと、文献5に記載された方法にしたがって、大腸菌ゲノムDNAを鋳型とし、次のプライマー(1)、(2)を用いたPCRによって増幅した断片を、NdeI及びHindIIIで切断した後に、pET26bのNdeI−HindIII部位に組み込むことで、TyrRSの発現ベクターpRT−YRSを作製する。大腸菌ゲノムDNAを鋳型にするとは、0.1mL程度の大腸菌培養液から回収した大腸菌を95℃で10分間加熱したものをPCR反応液に加えることである。
Figure 0004467435
次に37位及び195位のアミノ酸を部位特異的に改変する方法の一例を説明する。
まず、37位または195位の1箇所のみのアミノ酸の置換体を作製する。37位及び195位それぞれの1個のアミノ酸の置換体をコードするDNA配列を作製するために使用するプライマー(3)から(8)は以下の通りである。
Figure 0004467435
MはCまたはAを示し、NはAまたはCまたはGまたはTを示す。
Figure 0004467435
次に、37位及び195位の両方のアミノ酸が改変された二アミノ酸置換体を作製する。
上記の工程で作製した37位および195位それぞれの一アミノ酸置換体をコードするプラスミドから、プライマーを用いたオーバーラップ・エクステンション法で二アミノ酸置換体をコードするDNA配列を作製し、pET−YRSのNdeI−BamHI部位に導入する。オーバーラップ・エクステンション法はプライマー(1)と(10)の組、プライマー(9)と(11)の組をそれぞれ用いて増幅した2つの断片を精製し、これらとプライマー(1)と(9)を用いたPCRで増幅することによって行なうことができる。
Figure 0004467435
上記工程で得られた完全な変異DNAフラグメントの各々を、プラスミドpET−YRS内のテンプレートフラグメントのもとの位置に挿入し、変異TyrRS遺伝子を含むプラスミドで、ハナハンの方法(Hanahan,D(J.Mio.Bio.,166,557−580))に準じた形質転換法により、各々大腸菌BLR(DE3)に導入する。各々のプラスミドを有する形質転換体を単離し培養することにより、変異TyrRSを大腸菌内で発現させることができる。
さらに、変異TyrRSを製造する方法としては、上記方法に限定されるものではなく、公知のポイントミューテーション技術や、制限酵素により改変断片を導入する方法等、種々の遺伝子操作技術を使用することができる。
(2)サプレッサーtRNA
上記変異TyrRSと組み合わせて使用される、サプレッサーtRNAは、通常の20種類のアミノ酸に割り当てられたコドンではないナンセンスコドンに割り当てられ、かつ、上記非天然型アミノ酸特異的なTyrRS変異体にのみ認識され、宿主の通常のaaRSには認識されない(orthogonal tRNA)という要件を備え、かつ真核細胞中で発現しなければならない。
ここで、ナンセンスコドンとしては、UAG(アンバー)、UAA(オーカー)、UGA(オパール)が挙げられるが、UAG(アンバー)コドンを用いることが好ましい。
本発明者らは、まず、上記大腸菌由来の変異TyrRSと組み合わせるサプレッサーtRNAとしては、同じ大腸菌由来のものが適していると考え、この大腸菌由来のサプレッサーtRNATyrを、真核細胞内で発現させることを考えた。大腸菌tRNATyr由来のサプレッサーtRNATyrの配列及び構造は、すでに知られている(M.Sprinzlら、Nucleic Acids Research 17,1−172(1989))。これを図2に示す。
一般に、真核細胞でのtRNAの発現は、tRNAコーディング配列内の2つの内部プロモーターを必要とし、そのコンセンサス配列は、ボックスA、ボックスBとして知られている。ボックスAのコンセンサス配列(TRGCNNAGYNGG;配列番号13)は、8位〜16位のTRGCNNAGYと18位〜19位のGGであり、ボックスBのコンセンサス配列は52位〜62位のGGTTCGANTCC(配列番号14)であり、図2において○で囲んだ配列である。またボックスBのコンセンサス配列は、AGTTCGANTCT(配列番号20)でもよい。
図2に示すように、大腸菌サプレッサーtRNATyrは、配列内にボックスBコンセンサス配列は有しているが、ボックスAコンセンサス配列は含まない。よって、この大腸菌サプレッサーtRNATyrを真核細胞内で発現させるために、U9とC10をAとGで各々置換し、ボックスAのコンセンサス配列を作製し(図2)、これに伴い生じるミスマッチ塩基対、G10−G25は、G25C置換で修正した。すると、後述の比較例で示すように、上記変異大腸菌由来TyrRSと組み合わせても、サプレッション活性を示さないことがわかった。
これに対し、Bacillus stearothermophilusのサプレッサーtRNATyrでは、原核生物由来であるが、そのサプレッサーtRNATyr配列内にボックスBとボックスAを内部に有している(M.Sprinzlら、Nucleic Acids Research 17,1−172(1989))(図2参照)ことに着目し、なんら改変を加えなくても真核生物内で発現させることができると考えた。
そして実際に、Bacillus stearothermophilus由来のサプレッサーtRNATyrを改変せずに動物細胞で導入するためのベクターにクローン化して動物細胞に導入したところ、動物細胞中での発現が確認された(後述の実施例参照)。そして、上記大腸菌のTyrRSと組み合わせて、サプレッション活性を示すことを確認した(後述の実施例参照)。
すなわち、ボックスA配列とボックスB配列を有した形で、サプレッサー活性を保持できる原核生物のサプレッサーtRNAは、上記大腸菌由来の変異TyrRSと組み合わせて、真核生物内でサプレッサー活性を有することができることを見出した。
したがって、本発明の発現方法に用いられるサプレッサーtRNAは、上記変異TyrRSの存在下でチロシン誘導体と結合可能な、バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌由来のサプレッサーtRNAである。これらのtRNAの配列については、http://medlib.med.utah.edu/RNAmods/trnabase/またはhttp://www.staff.uni−bayreuth.de/〜btc914/search/に記載されている。
これらは、原核生物中で機能するサプレッサーtRNAの配列を有し、かつ内部に真核生物において認識される2つの内部プロモーターコンセンサス配列を有し、上記変異TyrRSの存在下でチロシン誘導体と結合可能なサプレッサーtRNAである。ここで、「原核生物中で機能するサプレッサーtRNAの配列を有」するとは、原核生物由来のサプレッサーtRNAであって、サプレッサーtRNAとして機能するための、ナンセンスコドン(通常アンバーコドン(UAG))に相補的なアンチコドン及び立体構造(L型構造部分)を保持していることを意味する。また、「内部に真核生物において認識される2つの内部プロモーター配列を有」するとは、上記ボックスAのコンセンサス配列(配列番号13)とボックスBのコンセンサス配列(配列番号14または配列番号20)を内部に含むことを意味する。また、「上記変異TyrRSの存在下でチロシン誘導体と結合可能」とは、変異TyrRSにより特異的に認識されてチロシン誘導体と結合することができるサプレッサーtRNAであり、通常チロシンと結合するtRNATyr由来のサプレッサー変異体で、チロシン誘導体、好ましくは3位置換チロシンと結合可能なものが用いられる。
バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌tRNATyr由来のサプレッサーtRNAの例としては、Bacillus stearothermophilusのtRNATyr由来のサプレッサーtRNA、Bacillus subtilisのtRNATyr由来のサプレッサーtRNA(http://medlib.med.utah.edu/RNAmods/trnabase/、登録番号DY1540;E.F.Wawrousekら、(1984)J.Biol.Chem.259,3694−3702参照)、Mycoplasma capricolumのtRNATyr由来のサプレッサーtRNA(http://medlib.med.utah.edu/RNAmods/trnabase/、登録番号DY1140;Y.Andachiら、(1987)Proc.Natl.Acd.Sci.USA 84,7398−7402参照)、Staphylococus aureusのtRNATyr由来のサプレッサーtRNA(http://medlib.med.utah.edu/RNAmods/trnabase/、登録番号DY1480;C.Green、(1993)J.Bacteriol.175,5091−5096参照)が挙げられ、好ましくはBacillus stearothermophilusのtRNATyr由来のサプレッサーtRNAが用いられる。
(3)変異TyrRS、サプレッサーtRNAの動物細胞中での発現
変異TyrRSを動物細胞中で発現させるためには、いかなる公知の発現系でも用いることができ、例えば市販のpCDNA3.1(Invitrogen社製)、pAGE107(Cytotechnology,33,(1990))、pAGE103[J.Biochem.101,1307(1987)]などを用いることができる。また、サプレッサーtRNAはいかなる公知の大腸菌クローニング用ベクターを用いても動物細胞内で発現させることができる。例えば、pBR322(Sutcliffe,J.G.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.75,3737−3741(1978))などを用いることができる。
変異TyrRSについては、必要に応じて、誘導発現可能なベクターを用いることができ、たとえば、Clontech社、Invitrogen社などから市販されている、テトラサイクリン応答プロモーターを用いることができる。
細胞へのベクターの導入方法としては、例えば、電気穿孔法(Chu,Nucl.Acids Res.15,1311−1326(1987))、リン酸カルシウム法(Chen,Mol.Cell Biol.7,2745−2752(1987))、リポフェクション法(Derijard,Cell 7,1025−1037(1994);Lamb,Nature Genetics 5,22−30(1993))などが挙げられる。
(4)非天然型アミノ酸を組み込ませるためのタンパク質
本発明で非天然型アミノ酸を組み込ませるタンパク質の種類は、限定されるものではなく、発現可能ないかなるタンパク質でもよく、異種の組換えタンパク質でもよい。
本発明において非天然型アミノ酸を組み込ませる位置にナンセンスコドン(サプレッサーtRNAがアンバーサプレッサーのときはアンバーコドン)を導入することが必要であり、これによりこのナンセンスコドン(アンバーコドン)部位に特異的に非天然型アミノ酸を組み込むことができる。
タンパク質に部位特異的に変異を導入する方法としては、周知の方法を用いることができ、特に限定されないが、Hashimoto−Gotoh,Gene 152,271−275(1995)、Zoller,Methods Enzymol.100,468−500(1983)、Kramer,Nucleic Acids Res.12,9441−9456(1984),Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,488−492(1985)、「細胞工学別冊「新細胞工学実験プロトコール」、秀潤社、241−248頁(1993)」に記載の方法、または「QuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit」(Stratagene社製)を利用する方法などに準じて、適宜実施することができる。
本発明は動物細胞内で発現させることができるので、これまで、大腸菌や無細胞タンパク質系では、発現しない、あるいは発現量が低い、または活性型となるための翻訳後の修飾を受けることができないようなタンパク質へ、非天然型アミノ酸を取りこませることができる。このようなタンパク質としては、当業者には種々のものが知られているが、例えば、ヒト上皮成長因子受容体細胞外ドメイン(H.Ogisoら、Cell,110,775−787(2002))、ヒトGroucho/TLE1タンパク質(L.Pickelesら、Structure 10,751−761(2002))、ラット筋肉特異的キナーゼ(J.Tillら、Structure 10,1187−1196(2002))などについて、非天然型アミノ酸を取りこんだアロタンパク質を合成することができるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明の方法においては、動物細胞内でアロタンパク質を発現させるので、糖鎖と結合した糖タンパク質に非天然型アミノ酸を取りこませることもできる。特に、無細胞タンパク質系における糖鎖付加のパターンが、本来のパターンと異なるようなタイプの糖タンパク質の場合には、本発明の動物細胞内での系は、目的の(本来の)パターンの糖鎖が付加されたアロタンパク質を得るための有効な手段と考えられる。
(5)宿主
本発明の別の態様は、本発明の発現方法に用いることのできる、組換え動物細胞であって、上記aaRS、サプレッサーtRNA及び非天然型アミノ酸を取りこませたい位置にアンバー変異を導入した所望のタンパク質遺伝子を導入した動物細胞である。
本発明に用いられる、宿主の動物細胞としては、遺伝子組換え系が確立されている、哺乳類細胞が好ましい。有用な哺乳動物宿主細胞系の実例は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)とCOS細胞を含む。より特有な例は、SV40によって形質転換したサル腎臓CV1系(COS−7,ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓系(293又は懸濁培養での増殖用にサブクローンした293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.,36:59(1977));チャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO、UrlaubとChasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216(1980));マウスセルトーリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.,23:243−251(1980));ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2,HB 8065);及びマウス乳癌(MMT 060562,ATCC CCL51)を含む。これらの宿主は、各々発現系が確立されており、適切な宿主細胞の選択は、当業者の技術範囲内である。
これらは、例えば、Molecular Cloning第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)などに記載された方法に準じて行なうことができる。
次に、上記この本発明の発現方法によって、非天然型アミノ酸取りこみタンパク質が発現する様子を、図1に従って説明する。図1の枠は、動物細胞(例えばChinese hamster ovary細胞(以下、CHO細胞))の細胞膜を表している。細胞内(枠の内側)では、サプレッサーtRNATyr(“B.s.tRNATyr”と表示)とaaRS(“E.coli変異体TyrRS”と表示)がそれぞれの発現系から発現している。非天然型アミノ酸である3−ヨード−L−チロシンは培地(枠の外側)中に加えられる。
培地中の3−ヨード−L−チロシンは細胞自身の働きで細胞内に取り込まれ、大腸菌変異体TyrRSの働きによってB.s.tRNATyrに結合する。その後、3−ヨード−L−チロシンは、B.s.tRNATyrによってリボソーム上に運ばれて、ナンセンス・コドン(ここでは,UAGコドン)の翻訳に用いられる。望みの任意の位置に3−ヨード−L−チロシンを含有するタンパク質を生産するためには、タンパク質の遺伝子の該当位置のコドンをUAGに置換した後に、この遺伝子を細胞内で発現させる。
こうして、本発明の発現方法によれば、動物細胞内において、目的の位置にチロシン誘導体が組み込まれた目的のタンパク質を発現させることができる。
すなわち、(A)大腸菌由来のTyrRSの変異体であって、チロシンに対する特異性に比べて非天然型のチロシン誘導体に対する特異性が高められた変異TyrRSを動物細胞内で発現させる発現ベクターと、
(B)上記変異TyrRSの存在下で上記チロシン誘導体と結合可能な、バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌由来のサプレッサーtRNAを、上記動物細胞内で発現させる発現ベクターと、
(C)所望の位置にナンセンス変異を受けた所望のタンパク質遺伝子
とを有する動物細胞を、その動物細胞の増殖に適した培地(例えば、CHO細胞の場合、Opti−MEM I(Gibco BRL社)など)に目的のチロシン誘導体を添加した培地で、適当な条件でインキュベートする。例えば、CHO細胞の場合は、37℃程度の温度で、24時間程度、インキュベートする。培地内のチロシン誘導体の添加量は、0.1−3mM程度、好ましくは0.3mM程度とする。
本発明の別の態様は、上記の発現方法にしたがって発現させたタンパク質を回収し、精製する、非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法である。
発現したアロタンパク質は、培地又は宿主細胞溶解物から回収し得る。もし膜に結合しているならば、それは適当な洗剤溶液(例えばTriton−X100)を用いて又は酵素的な切断によってその膜から離すことができる。細胞は、凍結−融解サイクル、音波処理、機械的粉砕、又は細胞溶解剤のような各種の物理的化学的手段によって破砕することができる。
さらに、細胞内に不溶体を形成した場合には、不溶体をタンパク質変性剤で可溶化後、タンパク質変性剤を含まない、またはタンパク質変性剤の濃度がタンパク質が変性しない程度希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、タンパク質の立体構造を形成させることができる。
タンパク質の単離・精製としては、生産したタンパク質特有の性質に基づき、溶媒抽出、有機溶媒による分別沈澱、塩析、透析、遠心分離、限外ろ過、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、結晶化、電気泳動などの分離操作を単独あるいは組み合わせて行なうことができる。
本発明の別の態様は、下記の配列番号1の配列を有するDNAである。
Figure 0004467435
この配列番号1の配列は、ヒトのtRNA遺伝子のリーダー配列(配列番号1の塩基1〜55)と、Bacillus stearothermophilusのtRNATyr遺伝子のアンチコドン部分をCUAに置換した上で、末端のCCA配列を削った塩基配列(下線部;配列番号1の塩基56〜137)、および転写ターミネーター(配列番号1の塩基138〜167)をこの順番に連結した人工的な塩基配列である。
配列番号1の配列を有するDNAは、クローニングのため(そのDNAの増幅)又は発現のために複製可能ベクターに挿入し得る。各種のベクターが利用可能である。該ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス粒子、又はファージの形態とし得る。その適切な核酸配列は、各種の手法によって該ベクター内に挿入し得る。一般に、DNAは、当該分野で周知の技術を用いて適当な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入される。ベクター構成要素は、一般に、制限されることなしに、1以上のシグナル配列、複製の起点、マーカー遺伝子などを含む。これらの1以上の構成要素を含む適当なベクターの構築は、当業者に周知の技術である。
この発現ベクターを動物細胞中に導入することにより、サプレッサーtRNAを動物細胞中で発現させることができる。すなわち、配列番号1の配列を含むベクターは、動物細胞内で認識される制御配列として、ボックスA、B及び5’側のリーダー配列を有しているので、ひとたびベクターが動物細胞内に導入されれば、これらの制御配列から、当該サプレッサーtRNAが動物細胞中で発現させることができる。
したがって、この発現ベクターは、上記非天然型アミノ酸取りこみタンパク質の発現方法に用いることが可能であるばかりでなく、動物細胞中のナンセンス変異のサプレッションを可能にするので、ナンセンス変異に関連する疾患などの遺伝子治療に用いられる可能性がある。
クローニングベクターは、選択した宿主細胞の1以上の中でそのベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。また、発現ベクターはそのような配列を含んでもよい。そのような配列は、各種の細菌、酵母、及びウイルスについて良く知られている。各種のウイルス起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV、又はBPV)は、哺乳動物細胞中のクローニングベクターに有用である。
発現及びクローニングベクターは、典型的に選択可能マーカを含む。典型的な選択遺伝子は、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、DHFR遺伝子又はチミジンキナーゼ遺伝子などである。野生型DHFRが用いられる場合に適当な宿主細胞は、Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216(1980)によって記載されるように製造され且つ増殖された、DHFR活性が不足したCHO細胞系である。
組換え脊椎動物細胞培養における合成への適合のために好適な更に他の方法、ベクター、及び宿主細胞は、Gethingら、Nature,293:620−625(1981);Manteiら、Nature,281:40−46(1979)などに記載されている。
遺伝子増幅/発現は、直接試料で、例えば、ここに提供した配列に基づいて、適切に標識したプローブを用いて、通常のサザンブロット法、mRNAの転写を定量するためのノーザンブロット法[Thomas,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:5201−5205(1980)]、ドットブロッティング(DNA分析)、又はin situハイブリダイゼーションで測定し得る。あるいは、抗体は、DNA二本鎖、RNA二本鎖、及びDNA−RNAハイブリッド二本鎖又はDNA−タンパク質二本鎖を含む特異的二本鎖を認識できるそれを利用し得る。その結果抗体は、標識されて良く、且つ該アッセイは、その二本鎖がその表面上に二本鎖の形成において、該二本鎖に結合した抗体の存在が検出できるように表面に結合される場合、実行し得る。
あるいは遺伝子発現は、細胞の免疫組織学的染色又は組織切片のような免疫学的方法及び遺伝子生成物の発現を直接定量するため、細胞培養又は体液のアッセイによって測定し得る。流体試料の免疫組織学的染色のために有用な抗体は、モノクローナル又はポリクローナルのいずれかとして良く、また何れの哺乳動物においても作製し得る。
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、引用した文献は、その全体が参照としてここに取り込まれるものとする。
実施例1:3−ヨードチロシン組み込みタンパク質の発現
本実施例では、32番目のコドンをUAGに置換したRasタンパク質遺伝子をCHO細胞内で発現させて、該当部位に3−ヨードチロシンを含有したRasタンパク質を生産した。
本実施例では、サプレッサーtRNAを恒常的に発現させる一方で、これに非天然型アミノ酸を結合させる変異TyrRSについては、テトラサイクリンを培養液に加えることで発現誘導を行なった。
(1)サプレッサーtRNA
サプレッサーtRNAとして用いたB.s.tRNATyrの遺伝子(167残基)の塩基配列は以下の通りである。
Figure 0004467435
この配列は、ヒトのtRNA遺伝子のリーダー配列(H.van Tolら、EMBO J.6,35−31(1987))と、Bacillus stearothermophilusのtRNATyr遺伝子のアンチコドン部分をCUAに置換した上で、末端のCCA配列を削った塩基配列(下線部)、および転写ターミネーター(H.van Tolら、EMBO J.6,35−31(1987))をこの順番に連結した人工的な塩基配列である。
この配列番号1の配列を有する一本鎖DNAは、PCRプライマーなどの一本鎖DNAの合成を行なう、広く利用されている商業的サービス(シグマ・ジェノシス・ジャパン株式会社)によって化学合成品として得た。このDNAを鋳型にして、次の(1)(2)の2つのプライマーを用いたPCRによって増幅したDNA断片を、EcoRI及びHindIIIで切断した後に、pBR322のEcoRI−HindIII部位に組み込むことでクローン化を行なった。
Figure 0004467435
そして、B.stearothermophilusのサプレッサーtRNATyr遺伝子が同じ方向に9つコピーした遺伝子クラスターを以下の2つのステップにより構築した(図3)。
まず、3つの異なるプライマーセット1〜3のプライマー(1)(2)をそれぞれ用いて、以下の通りのPCRを、GeneAmp PCR system 9700(Applied Biosystems)を用いて行なった。
第1の反応は、
第1セットのプライマー(1):
Figure 0004467435
第1セットのプライマー(2):
Figure 0004467435
を用いて、通常の反応条件にてPCRを行ない、配列番号1の配列を有するDNAの上流に、プライマー結合部位pbs1(配列番号15)を、このDNAの下流に、BstXI−1部位(CCAGCAGACTGG:配列番号17)を有する断片を作製した。
第2の反応は、
第2セットのプライマー(1):
Figure 0004467435
第2セットのプライマー(2):
Figure 0004467435
を用いて通常のPCRに用いられる反応条件にてPCRを行ない、配列番号1の配列を有するDNAの上流に、BstXI−1部位(配列番号17)を、このDNAの下流に、他のBstXI部位、CCAGCTTCCTGG(BstXI−2;配列番号18)を有する断片を作製した。
第3の反応は、
第3セットのプライマー(1):
Figure 0004467435
第3セットのプライマー(2):
Figure 0004467435
を用いて通常のPCRに用いられる反応条件にてPCRを行ない、配列番号1の配列を有するDNAの上流に、BstXI−2部位(配列番号18)、下流に他のプライマー結合部位pbs2(配列番号16)を有する断片を作製した。
これら3つのPCR産物は、公知の技術によって、リガーゼを用いて互いに連結して、tRNA遺伝子の3つのコピーからなるサブクラスターを作製した。
このサブクラスターを、pbs1(配列番号15)の配列にEcoRI制限部位を生成するための配列が付加されたプライマーと、pbs2(配列番号16)の配列にHindIII制限部位を生成するための配列が付加されたプライマーを用いて、両端部に、各々、EcoRIとHindII1部位が付加されたサブクラスターの断片として、増幅した。
さらに、同様にして、両端に各々HindIIIとEcoRI部位が付加された断片、両端に各々EcoRIとBamHI部位が付加されたサブクラスターの断片を、作製した。こうして、最終的に、制限部位の異なる組み合わせを有する3つのタイプのサブクラスターを作製した。これらのサブクラスター1〜3を、リガーゼによって互いに連結し、さらにpBR322(宝酒造株式会社)のEcoRIとBamHI部位の中にクローン化して、9コピーのBacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyr遺伝子を有するプラスミドpBstRNAを作製した。
得られたクローン化断片の構造を図3に示す。
図3において、pbs1、pbs2、BstX−1、およびBstX−2の塩基配列は次の通りである。
Figure 0004467435
プラスミドpBstRNAは、9コピーのBacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyr遺伝子を有するので、動物細胞内でのBacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyr遺伝子の発現量を高めることができ、動物細胞内で非天然型タンパク質を発現させるために有用である。
(2)変異TyrRS
大腸菌変異体TyrRS(以下、TyrRS(V37C195)という)の遺伝子の塩基配列は、文献5に記載されている。
上述の方法で、37位または195位のそれぞれのアミノ酸の1個が置換された一アミノ酸置換体をコードするDNA配列を、上記プライマー(3)から(8)を用いて作製した。プライマー(3)及び(4)は、37位の改変のためのものである。またプライマー(5)から(8)は195位の改変のためのものである。
ついで、37位および195位それぞれの一アミノ酸置換体をコードするプラスミドから、プライマー(1)と(10)の組、プライマー(9)と(11)の組をそれぞれ用いて増幅した2つの断片を精製し、これらのプライマー(1)と(9)を用いたPCRで増幅することによって、2つの断片を連結した。
PCR増幅物を、ベクターpcDNA4/TO(Invitrogen社)のマルチプルクローニング部位に挿入してプラスミドpEYSM1を作製した。
(3)哺乳類細胞でのアンバーサプレッション
LipofectAMINE 2000(Gibco BRL)の方法に従って、35mmプレート当たり、各プラスミドについて0.5−2μgのDNAを用いてトランスフェクションを行なった。Opti−MEM 1(Gibco BRL)を、培地として用いた。細胞抽出物を、トランスフェクションの24時間後に調製し、SDS−PAGEに供し、その後、抗−FLAGM2抗体(Sigma)と、ECL+免疫検出システム(Amersham Pharmacia Biotech)を用いてウェスタンブロッティングを行なった。バンドの強度をイメージアナライザー、LAS−1000plus(富士フィルム)を用いて測定した。ras(Am)産物及び比較のための野生型ras産物(各0.5μg)を、抗−FLAG M2抗体アフィニティゲル(Sigma)を用いて、1から5の培養プレート(100mm径)で各々精製した。液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレー質量分析(LC−MS)とタンデム質量分析シークエンシングを行なった。
(4)CHO−Y細胞
TyrRS(V37C195)を安定に保持するCHO−Y細胞を創るため、テトラサイクリンリプレッサータンパク質を構成的に生産するT−REX−CHO細胞(Invitrogen)を、プラスミドpEYSM1でトランスフェクトした。トランスフェクタントは、25μg/mlのゼオシン(Invitrogen)を含む培地で選択し、1μg/mlの存在下で、選択した細胞の、TyrRS(V37C195)の発現を調べて、CHO−Y細胞を得た。アロタンパク質の合成のために、CHO−Y細胞は、ras(Am)とBacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyr遺伝子を含むプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、テトラサイクリン(1μg/ml)と3−ヨード−L−チロシン(0.3mM)を培地に添加し、さらに24時間後に細胞抽出物を調製した。
(5)アンバーコドンに対する、3−ヨード−L−チロシン取りこみ
3−ヨード−L−チロシンのタンパク質中への取りこみのために、以下の2つの点を考慮した。第1に、哺乳類細胞は、周囲の環境から、本来のアミノ酸と、それらの種々のアナログを取りこむ、輸送機構を有している。第2に、真核生物と原核生物からの野生型のTyrRSはいずれも、基質として3−ヨード−L−チロシンを認識しない。したがって、3−ヨード−L−チロシンは、おそらく、チロシンの位置に誤った取り込みによる毒性を有していないが、3−ヨード−チロシンを認識できる変異のTyrRSは、そのサプレッサーtRNAへの付着に必要である。
我々は、3−ヨード−L−チロシンを効率的に認識し(アミノ酸活性化のためのKcat/K値は、3.3×10/M/s)、チロシンを十倍低い効率で認識する(Kcat/K値は、3.2×10/M/s)ことが報告されている、大腸菌TyrRS(V37C195)を用いた。さらに、TyrRS(V37C195)は、野生型酵素についてのKcat/K値(2.3×10/M/s)と比べて、L−チロシンを10000倍低い効率で活性化する。
図5A及び図5Bは、アンバーサプレッションの検出のためのウェスタンブロットの写真である。図5Aは、3−ヨード−L−チロシン非存在下、図5Bは3−ヨード−L−チロシン存在下である。すべてのレーンで、ras(Am)遺伝子が導入された。野生型の大腸菌TyrRS(AとBのレーン1)またはTyrRS(V37C195)(AとBのレーン2)は、Bacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyrとともに、CHO細胞内で発現した。3−ヨード−L−チロシン(IY)の存在または非存在、及び発現したTyrRSのタイプはwt(TyrRS野生型)、mut(TyrRS(V37C195))で表示した。
図5A及び図5Bに示すように、野生型のTyrRSとTyrRS(V37C195)は、各々、Bacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyrと、ras(Am)遺伝子とともにCHO細胞で発現した。これらの酵素は、同様のレベルで発現した。3−ヨード−L−チロシン(図5A)の非存在下で、両方の酵素についてアンバーサプレッションが観察されたが、TyrRS(V37C195)のras(Am)産物の収率は、野生型酵素の40%に過ぎなかった。このことは、競合する3−ヨード−L−チロシンの非存在下でも、TyrRS(V37C195)は、やはりL−チロシンを認識し、アンバー位置にそれを取りこむことを示す。ついで、3−ヨード−L−チロシンを最終濃度0.3mMになるように培地に添加した(L−チロシンはそれの2倍の濃度で含んでいた(図5B))。3−ヨード−L−チロシンのこの濃度は、細胞増殖に、ほとんど影響を与えなかった。
3−ヨード−L−チロシンの存在下で、TyrRS(V37C195)のサプレッション効率は、野生型酵素に匹敵するレベルまで改善され、3−ヨード−L−チロシンが細胞により効率的に取りこまれ、TyrRS(V37C195)による認識を介してタンパク質中に組み込まれたことを示唆した。
(6)Ras産物の確認
3−ヨード−L−チロシン取りこみを確認し、それがアンバー位置(32位)を占めることを確認するために、AchromobacterプロテアーゼI(Lys−C)によって分解し、その分解産物であるペプチド混合物を液体クロマトグラフィー質量分析機(LC−MS)によって解析した。ついで、32位に取りこまれたアミノ酸をマスクロマトグラフィーで、特異的平均質量と、液体クロマトグラフィーにおける溶出時間について解析した(各々、Ser17からLys42までの領域に相当し、ヨードチロシンとチロシンを32位に含む2つの断片(各々、IYとY断片と称する))。
図6A、図6B、及び図6Cは、ras及びras(Am)産物のLC−MS分析の結果を示すグラフである。
図6Aは、ras(Am)断片(チャートa)及びras産物(チャートB)について、UVスペクトルで検出した液体クロマトグラフィーの結果である。
図6Bは、ras(Am)産物(チャートa及びb)及びras産物(チャートc及びd)からの、IY断片について(チャートa及びc)及びY断片(チャートb及びd)の質量スペクトルの結果である。Y断片はRasタンパク質の残基17−42(SALTIQLIQNHFVDEDPTIEDSYRK)からなり、IY断片は下線のYが3−ヨード−L−チロシンに置換されたものである。
図6Cは、IY断片のタンデム質量スペクトルの結果である。N末端からC末端方向の部分配列は、Val、Asp,Glu、ヨードチロシン及びAspである。
ras(Am)産物の分析において、IY断片は強く観察され(図6B、チャートA)、3−ヨード−L−チロシンの効率的取りこみを示した。タンデム質量スペクトルによって決定されたこのIY断片の部分配列は、ヨードチロシンが32位に実際に取りこまれたことを確認した(図6C)。他方、Y断片は検出されず(図6B、チャートb)、3−ヨード−L−チロシンが、32位でのL−チロシンの取りこみを阻害したことを示した。LC−MSデータのさらなる分析は、他の正規のアミノ酸がこの位置に取りこまれなかったことを示した。ヨードチロシンが32位を示すことは、こうして、LC−MS分析により評価された。これに対して、3−ヨード−L−チロシンの存在下で合成されたras(WT)産物については、Y断片は観察された(チャートd)が、IY断片は観察されなかった(図6、チャートc)。このことは、いずれの誤認識も、チロシンの位置に3−ヨード−L−チロシンを取りこむであろうから、CHO細胞中の内因性のTyrRSは、3−ヨード−L−チロシンを認識せず、TyrRS(V37C195)は内因性のtRNATyrを認識しないことを示している。
図6Bに示すように、3−ヨード−L−チロシンを含有するペプチドのピークが検出された(図6B(a))。他方、もしUAGコドンが3−ヨード−L−チロシン以外のアミノ酸に翻訳されているとするとチロシンに翻訳される可能性が最も高いが、チロシンを含むペプチドは検出されなかった(図6B(b))。同様に、UAGコドンが他のアミノ酸に翻訳されると生じるはずのペプチドは一切検出されなかった。
この解析結果は、生産されたRasタンパク質のほぼ100%が、UAGコドンによって指定された位置に3−ヨード−L−チロシンを含有していることを示しており、本発明が期待通りの効果を与えることが示された。
(7)変異体TyrRSの誘導可能な発現により制御される3−ヨード−L−チロシンの条件取りこみ
大腸菌GlnRSは、テトラサイクリン制御プロモーターから哺乳類で発現し、誘導サプレッションをおこす。我々は、他のタイプのテトラサイクリン制御プロモーターから発現する、TyrRS(V37C195)遺伝子を安定に保持するCHOセルライン(CHO−YS細胞と称する)を創出した。ras(Am)遺伝子とBacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyr遺伝子をついで、CHO−YS細胞中に一時的に導入した。
図7は、Rasタンパク質の3−ヨード−L−チロシンの取りこみについて、誘導可能なアンバーサプレッションのウェスタンブロットの写真である。ras(Am)遺伝子は、CHO−Y細胞に導入された。ras(Am)遺伝子は、Bacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyrともに(レーン1−3)CHO−Y細胞に導入された。レーン1は、テトラサイクリンと3−ヨード−L−チロシン添加、レーン2はテトラサイクリンを添加し、3−ヨード−L−チロシン無添加、レーン3はテトラサイクリンも3−ヨード−L−チロシンも添加していないことを、それぞれ示す。
図7に示すように、TyrRS(V37C195)は、テトラサイクリンが培地に存在するときに発現した(図7、レーン1及び2)が、インデューサーなしでは発現しなかった(レーン3)。発現レベルは、一時的に細胞中に導入したプラスミドから発現したTyrRS(V37C195)のレベルの2倍であった。3−ヨード−L−チロシンとテトラサイクリンの両方の存在下で、サプレッション効率30%でras(Am)産物を検出した(レーン1)。ras(Am)産物の品質は、CHO−Y細胞中に同様に生産されるras(WT)の品質とともに、LC−MSにより分析し、プラスミドからのTyrRS(V37C195)下の品質と同一であることが示された。95%を上回るras(Am)産物が、アンバー位置に3−ヨード−L−チロシンを含み、3−ヨード−L−チロシンは、ras(WT)産物中で検出されなかった。
他方、3−ヨード−L−チロシン非存在下で(レーン2)、ras(Am)産物は、ほとんど検出されず、インデューサー非存在下では(レーン3)検出されなかった。これらの観察は、テトラサイクリンが、TyrRS(V37C195)発現の誘導を介して、ras(Am)産物内への3−ヨード−L−チロシン取りこみを有効に条件づけることを示した。図7と図5Aとの比較は、3−ヨード−L−チロシンの非存在下でL−チロシン取りこみが、プラスミドからTyrRS(V37C195)が発現した場合に比べて、著しく低いことを示す。この予想外の結果は、3回以上の独立した実験で観察された。この現象がいかなる機構に基づくものかについては、さらなる研究の課題である。
実施例2:
(1)サプレッサーtRNAの誘導発現系
真核生物のtRNAは、遺伝子内部に転写プロモーター配列(ボックスA、B)を持つ転写複合体がtRNA遺伝子上に形成されるが、このときtRNA遺伝子の直前の配列に結合するタンパク質因子があるとき、この因子は転写複合体の形成を妨げてtRNAの発現を阻害する。これまでに、酵母、及び粘菌において、テトラサイクリン結合性抑制因子の結合配列の1つであるtetOを、tRNA遺伝子の直前に組み込んで、tRNAの発現抑制に成功していた(T.ディンガーマン他、エンボ・ジャーナル、11巻、1487−1492頁、1992年;T.ディンガーマン他、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー、12巻、4038−4045頁、1992年)。このとき培養液に添加するテトラサイクリンの濃度は15〜30μg/mLであった。
本実施例では、細胞毒性の低減化を意図してより低いテトラサイクリンの濃度で発現誘導を行なうことを試みた。そのためにtetOでなく、抑制因子をより強く結合する配列tetOをサプレッサーtRNA遺伝子の直前、10塩基上流、または20塩基上流に組み込んで誘導発現系を3通り作製した(TetBst0(配列1;配列番号30)、TetBst1(配列2;配列番号31)、TetBst2(配列3;配列番号32)。
Figure 0004467435
初めの下線部はtetO配列、次の下線部はサプレッサーtRNA遺伝子である。
Figure 0004467435
初めの下線部はtetO配列、次の下線部はサプレッサーtRNA遺伝子である。
Figure 0004467435
初めの下線部はtetO配列、次の下線部はサプレッサーtRNA遺伝子である。
これらのサプレッション効率を比較し、TetBst0、TetBst1については、それぞれ3コピーの配列を並べたものも作製して比較した。
上記TetBst0、TetBst1、TetBst2を、それぞれプラスミドpBR322のEcoRI−HindIII部位にクローニングした。配列の1,2をそれぞれ3つ並べた配列も同様である(図9)。プラスミドの培養細胞への導入方法と、サプレッション産物の検出は、実施例1(5)と同様に行なった。
1μg/mLのテトラサイクリン添加でサプレッサーtRNAの発現が誘導され、テトラサイクリン濃度を減らすことができた。これは細胞毒性を低減化するために有用である。
TetBst2は、TetBst1よりもサプレッション効率は低かったので(データ示さず)、TstBst0及びTetBst1について、3コピー並べたもの(3×TetBst0、3×TetBst1)も含めて、サプレッション効率を詳細に解析した。同時に、実施例1(1)で作製したアンバーサプレッサーtRNA遺伝子(BYR(CUA))を9個並べた遺伝子との比較も行なった。結果を図10A及び図10Bに示す。
図10Aには、Rasタンパク質、図10BにはEGF受容体(EGFR)のそれぞれのアンバー変異体の生産量を、ウェスタンブロットのバンド強度から測定し、それをサプレッション効率としてグラフ化した。それぞれ3回の実験データに基づいて、グラフを作成した。レーン1はアンバーコドンを有しない野生型Rasタンパク質、野生型EGFRの生産量を示しており、この値を100として他のサプレッション効率を数値化した。しかし、野生型タンパク質のバンド強度は、測定限界値を超えていて、実際には100を超える値であると推測されるので、ここでは9×BYR(CUA)のサプレッション効率と、TetBstの効率の比較だけを議論する。他の実験から、9×BYR(CUA)によるRas変異体、EGFR変異体のサプレッション効率は、それぞれ24%、及び20%とわかっている(サカモトら、ヌクレイック・アシッド・リサーチ、30巻、4692−4699、2002年)。
1μg/mlのテトラサイクリンの添加で、サプレッションが誘導されることがわかる。一方、添加しないときにも、サプレッションはある程度観察される。TesBst0よりもTetBst1の方が、遺伝子コピー数が1つよりも3つの方が、サプレッション効率がより高い傾向が見られ、テトラサイクリン非添加時のサプレッションも同じ傾向を示す。3×TetBst1の効率の方が、9×BYR(CUA)よりも有意に高く、非天然型アミノ酸含有タンパク質の生産に有利である。テトラサイクリン非添加時にサプレッションがほとんど起きないのは、TetBst0×1を用いた場合であり、TetBst0×1を用いることが細胞毒性の回避には最も有利であると考えられる。
一般に、動物細胞に対して、アンバー・サプレッションは細胞毒性を示す。このために恒常的に発現するサプレッサーtRNAを用いてサプレッションを行なうと、死細胞の数が増大する可能性がある。
実施例1では、サプレッサーtRNAを恒常的に発現させる一方で、これに非天然型アミノ酸を結合させるTyrRSについては、テトラサイクリンを培養液に加えることで発現誘導を行なった。すなわち、tRNAはアミノ酸を結合しないとサプレッションを引き起こさないので、非天然型アミノ酸を含有するタンパク質の生産に必要な時間だけTyrRSを発現させることで、細胞毒性を軽減することを意図したものである。しかし、Bacillus stearothemophilusサプレッサーtRNA(Tyr)が細胞内のTyrRSなどのaaRSから全く認識されないという保証はないので、本実施例のごとく、サプレッサーtRNAも併せて発現誘導を行なうことがより好ましい。
[参考例]
TyrRS遺伝子とレポーター遺伝子の構築
変異TyrRS(V37C195)遺伝子、ras遺伝子及び上皮成長因子受容体レポーター遺伝子のC末端に、適当なPCRプライマーでこれらの遺伝子を増幅することにより、FLAGタグ(DYKDDDDK)を付加した。PCR産物は、各々、哺乳類細胞での発現のために、ベクターpcDNA3.1/Zeo(+)(Invitrogen)にクローン化した。TyrRS(V37C195)について、PCR産物も、ベクターpcDNA4/TO(Invitrogen)にクローン化して、テトラサイクリン制御発現のためのプラスミドpRYSM1を作製した。ras遺伝子の部位特異的変異を、変異誘発性プライマーを用いたPCRで行なった。同様に、上皮成長因子受容体の1068位のチロシンコドンを、アンバーコドンに変異した。緑色蛍光タンパク質(シアノ蛍光変異)(Clontech)の第1のメチオニン残基を、
Figure 0004467435
にコードされている短いペプチドに置換し、さらにFLAGタグを、C末端に付加した。得られた遺伝子を、ベクターpcDNA3.1/Zeo(+)にクローン化した。構築された遺伝子の配列を、ABI Prism 377 DNAシークエンサー(Applied Biosystems)を用いて確認した。
LipofectAMINE 2000(Gibco BRL)の方法に従って、35mmプレート当たり、各レポーター遺伝子発現ベクター、および各サプレッサーtRNA発現ベクター、大腸菌TyrRS発現ベクターのそれぞれについて、0.5−2μgのDNAを用いてトランスフェクションを行なった。Opti−MEM 1(Gibco BRL)を、培地として用いた。細胞抽出物を、トランスフェクションの24時間後に調製し、SDS−PAGEに供し、その後、抗−FLAGM2抗体(Sigma)と、ECL+免疫検出システム(Amersham Pharmacia Biotech)を用いてウェスタンブロッティングを行なった。バンドの強度をイメージアナライザー、LAS−1000plus(富士フィルム)を用いて測定した(図4A及び図4B)。
図4A及び図4Bは、CHO細胞中のアンバー変異を検出するための、抗FLAG抗体を用いたウェスタンブロットのゲルの写真である。
図4Aにおいて、野生型ras遺伝子(レーン1)またはras(Am)遺伝子(レーン2−8)は、それぞれFLAGタグが付加されて、CHO細胞内に導入されたものである。ヒトサプレッサーtRNATyr(レーン3)または大腸菌TyrRSと大腸菌サプレッサーtRNATyr(レーン4)はCHO細胞内で発現した。この酵素は、FLAGタグも有している。Bacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyrは、大腸菌TyrRSとともに(レーン5及び8)、または酵素なしで(レーン7)、CHO細胞内で発現し、大腸菌TyrRS単独でもCHO細胞内で発現した(レーン6)。Bacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyrは、1コピーの遺伝子を有するプラスミド(レーン5及び7)から、9コピーの遺伝子を有するプラスミド(レーン8)から、発現した。レーン1は、2.5μgの細胞抽出物をのせたものであり、レーン2−8はその4倍量の細胞抽出物をのせたものである。
図4Bにおいて、各々FLAGタグが付加された、1068位にアンバーコドンを含む(レーン1−3)、及び野生型EGFR遺伝子(レーン2)、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子をCHO細胞に導入した。Bacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyrと大腸菌TyrRSペアは細胞中で発現した(レーン3)。レーン1と2で大腸菌TyrRSのレベルで移った弱いバンドは、抗FLAG抗体に反応した内因性タンパク質由来である。
図4Aに示すように、Bacillus stearothermophilusサプレッサーtRNAと大腸菌TyrRSの共発現が、15%の効率でras(Am)中のアンバー変異のサプレッションをおこすことを見出した(図4A、レーン5)。このサプレッションは、このtRNA(レーン6)または酵素(レーン7)のいずれかの非存在下では起こらなかった。サプレッションのための大腸菌TyrRSの必要性は、BacillusサプレッサーtRNATyrが、細胞中の内因性のaaRSによってアミノアシル化されないことを示す。他方で、一時的にトランスフェクトされたプラスミドからの、大腸菌TyrRSの発現は、それ自体、CHO細胞の成長速度に殆ど影響を与えない。
この異種の系での、tRNATyr・TyrRSのペアのサプレッション効率は、ヒトサプレッサーtRNATyrの効率または、哺乳類細胞で働く(20−40%)他のサプレッサーtRNAsの効率よりも、著しく低かった。サプレッション効率は、サプレッサーtRNA遺伝子を増加させる事により改善できるため、9コピーのBacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyr遺伝子を有するプラスミドを構築し、CHO細胞に、大腸菌TyrRS遺伝子を有するプラスミドとともに導入した。こうして24%までサプレッション効率を改善した(図4A、レーン8)。この値は、ヒトサプレッサーtRNATyrに匹敵するものである。この後、Bacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyrの発現のためにこのプラスミドを用いた。
Bacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyrと大腸菌TyrRSとのペアは、ヒト胚性腎293細胞アンバー変異を、CHO細胞中での効率と同様にサプレッションをおこした。さらに、上皮成長因子受容体遺伝子のアンバー変異は、効率20%でサプレッションを受けた(図4B)が、Aequorea victoria緑蛍光タンパク質遺伝子中のアンバー変異は、同じ効率でサプレッションを受けた。
これらの遺伝子とras(Am)遺伝子は、アンバーコドンの周囲に、異なるコドンを有している。
[比較例]
哺乳類細胞中のアンバーサプレッションに対する、原核生物のtRNATyr・TyrRSペアの発現の必要性
真核細胞でのtRNAの発現は、RNAコーディング配列内の2つの内部プロモーター(ボックスAとB)を必要とする。大腸菌tRNATyr配列は、ボックスBしか含まないため、U9とC10をAとGで各々置換し、ボックスAを作製した(図2)。その結果得られたミスマッチ塩基対、G10−G25は、G25をCに置換して修正した(以下、tRNATyr(A9G10C25)という)。大腸菌tRNATyrの9位、10位、25位は、3次元の相互作用に関与しており、L型構造を支えている。
CUAアンチコドンを有するtRNATyr(A9G10C25)の配列を、ヒトtRNATyr遺伝子の5’フランキング配列に結合した。ヒトサプレッサーtRNATyr遺伝子は、アンバーサプレションのコントロールと同様に構築した。アンバーサプレッションを解析するため、野生型c−Ha−Rasについてトランケートした、合成ras遺伝子中の32位のチロシンコドンをアンバーコドンに変異した。発現を検出するため、FLAGペプチドタグを、ras遺伝子、ras(WT)、そのアンバー変異体ras(Am)のC末端と、大腸菌TyrRSのC末端に添加した。
これらのras遺伝子を、CHO細胞に導入し、それらの産物を、抗FLAG抗体を用いた、細胞抽出物のウェスタンブロットにより検出した(図4A)。サプレッサーtRNAの非存在下で、ras(WT)遺伝子の発現が検出されたが(レーン1)、ras(Am)の発現は検出されなかった(レーン2)。これは、細胞内部の固有のサプレッサー活性の欠如を示している。ヒトサプレッサーtRNATyrは、バンドの強度(レーン3)で検出されるように、ras(Am)中のアンバー変異を、26%の効率で、サプレッションをおこした。他方で、CUAアンチコドンを有する大腸菌tRNATyr(A9G10C25)は、大腸菌からの野生型のTyrRSとともに、サプレッションを起さなかった(レーン4)。ついで、我々は、ボックスA(G9G10C25)を生成することができる他のヌクレオチドのセットを用いて、他の大腸菌サプレッサーtRNATyr変異体を調べた。このtRNAもサプレッションをおこすことができなかった。このように、大腸菌サプレッサーtRNATyr変異体のボックスAの生成は、サプレッション活性を損ねた。これは、おそらく3次構造が維持できずに、tRNAの成熟またはアミノアシル化の阻害をおこしたためであると考えられた。
本発明の発現方法によれば、大腸菌由来の上記変異TyrRSと、バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌由来の上記サプレッサーtRNAとを発現させた動物細胞において、さらにナンセンス・コドンを人為的に導入した遺伝子を発現させることで、培地中から細胞内に取り込まれた非天然型アミノ酸をナンセンス・コドンの部位に含有したタンパク質を生産することができる。
従来は、生物が培地から取り込んだ非天然型アミノ酸を任意の指定された部位に含有したタンパク質を生産する有効なシステムとしては、大腸菌を用いたシステムしか存在しなかったが、本発明によれば、非天然型アミノ酸を特定の部位に含有したタンパク質を動物細胞で調製することが容易である。ヒトを含めた動物のタンパク質を発現させるには、大腸菌よりも動物細胞が適しており、大腸菌では調製が難しいタンパク質で、非天然型アミノ酸を含有したタンパク質を生産することが可能である。
非天然型アミノ酸をタンパク質に導入する効用は様々であるが、3−ヨードチロシンや4−ヨード−L−フェニルアラニンを導入すると、タンパク質のエックス線結晶解析のための重原子置換の導入や、放射活性のあるヨード原子でタンパク質をラベルすることが可能である。特に、ヨウ素原子は、NMRによる構造解析において、特徴的なシグナルを発するので、ヨウ素原子を所望の場所に取りこませたタンパク質は、タンパク質の機能及び構造解析の効率化を可能とする。
O−メチル−L−チロシンについても、メチル基に同位体炭素原子を導入しておけば、タンパク質の指定の位置を同位体原子によって標識することができ、NMRによるタンパク質の解析に役立つと考えられる。
また、アセチル基は反応性の高い官能基であることから、4−アセチル−L−フェニルアラニンなどの、アセチル基を含有する非天然型アミノ酸を導入すると、所望の分子構造を持つ化合物を、この官能基を介してタンパク質の所望の位置に共有結合することができ、さらに多様な修飾が可能となる。
また、4−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、4−アジド−L−フェニルアラニンなどは、特定の波長の光を照射することで、近くに存在する分子と共有結合を生じるという性質を有していることが知られている(例えば、J.チンら、ケムバイオケム(Chem Bio Chem)、第11巻、2002年、p.1135−1137参照)。したがって、これらの非天然型アミノ酸をタンパク質の所定の位置に導入すれば、そのタンパク質と相互作用している細胞内の未知の物質の検出が可能となると考えられる。
さらに、これらの非天然型アミノ酸取りこみタンパク質は、それ自体で、新たな生理活性を有する物質となり得るので、新薬またはドラックデリバリーシステムの開発にも有用であると考えられる。
さらに、次の2つの理由によって、ヨードチロシン組み込みタンパク質は、細胞情報伝達系の解析に役立つ可能性がある。
第1に、タンパク質中のチロシン残基をリン酸化する酵素(チロシン・リン酸化酵素)は、ヨードチロシン残基をリン酸化できないか、リン酸化できるかのいずれかである。リン酸化できない酵素は、立体構造に基づいた改変を行なうことでリン酸化できるようになる可能性がある。一方、リン酸化できる酵素は、立体構造に基づいた改変を行なうことで、リン酸化できなくなる可能性がある。調べたい部位のチロシン残基をヨードチロシンに置換し、これらの酵素改変体を細胞内で発現させたときに、リン酸化が起きるかどうかを観察することで、当該チロシン残基のリン酸化にこの酵素がかかわっているか否かを判定できる可能性がある。
第2に、タンパク質のチロシン残基から、リン酸基を除去する酵素(脱リン酸化酵素)は、リン酸化酵素と協同してタンパク質の活性制御を行なっているが、リン酸化されたヨードチロシンは脱リン酸化されにくいため、リン酸化によって活性化されたタンパク質の活性を長く持続させる可能性がある。この結果として生起する細胞内現象を観察することで、当該タンパク質のリン酸化が細胞機能において果たす役割を解析することができる。
また、本発明のサプレッサーtRNA発現ベクターは、動物細胞中のナンセンス変異のサプレッションを可能にするので、ナンセンス変異に関連する疾患などの遺伝子治療に用いられる可能性がある。
図1は、アンバーコドンに相当する、3−ヨード−L−チロシンのタンパク質への取りこみのための、哺乳類細胞系を示す説明図である。3−ヨード−L−チロシン(IY)は、培地中に、L−チロシン(Y)とともにあるが、細胞中に取りこまれた後、特異的な大腸菌変異TyrRSにより、B.s.tRNATyr(Bacillus stearothermophilusのtRNATyr)に結合する。 図2は、大腸菌tRNATyr由来のサプレッサーtRNATyrと、Bacillus stearothermophilusのtRNATyr由来のサプレッサーtRNATyrの配列及び構造を示す。図2において、sUは4−チオウリジン、Gmは2’−O−メチルグアノシン、msAは2−メチルチオ−N−イソペンテニルアデノシン、Tは5−メチルウリジン、Ψはシュードウリジン、mAは1−メチルアデノシンを示す。 図3は、直列に9コピーのBacillus stearothermophilusサプレッサーtRNATyrを有するプラスミドの構成を示した図である。 図4Aと図4Bは、CHO細胞中のアンバー変異を検出するための、抗FLAG抗体を用いたウェスタンブロットのゲルの写真である。 図5Aと図5Bは、アンバーサプレッションの検出のためのウェスタンブロットの写真である。 図6A、図6B、及び図6Cは、ras及びras(Am)産物のLC−MS分析の結果を示すグラフである。 図7は、Rasタンパク質の3−ヨード−L−チロシンの取りこみについて、誘導可能なアンバーサプレッションのウェスタンブロットの写真である。 図8は、大腸菌のTyrRS(野生型)のアミノ酸配列(1文字表記)を示す図である。 図9は、TetBst0、TetBst1、及びTetBst2の概略図である。 図10Aと図10Bは、本発明の実施例において、サプレッション効率を比較した結果を示す図である。

Claims (16)

  1. (A)大腸菌由来のチロシルtRNA合成酵素の変異体であって、チロシンに対する特異性に比べて非天然型のチロシン誘導体に対する特異性が高められた変異チロシルtRNA合成酵素と、
    (B)上記変異チロシルtRNA合成酵素の存在下で上記チロシン誘導体と結合可能な、バチルス(Bacillus)属、マイコプラズマ(Mycoplasma)属、又はスタフィロコッカス(Staphylococus)属真性細菌由来のサプレッサーtRNAと、
    (C)所望の位置にナンセンス変異を受けた所望のタンパク質遺伝子
    とを動物細胞中で発現させて、上記タンパク質のナンセンス変異の位置に上記チロシン誘導体を取りこませることを特徴とする、非天然型チロシン誘導体組み込みタンパク質の発現方法。
  2. 上記チロシン誘導体が、3位置換チロシンまたは4位置換チロシンである、請求の範囲第1項記載の発現方法。
  3. 上記(B)サプレッサーtRNAがバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来のサプレッサーチロシンtRNAである請求の範囲第1項または第2項に記載の発現方法。
  4. (A)変異チロシルtRNA合成酵素が、チロシルtRNA合成酵素の37位チロシン及び195位グルタミンに相当する位置に改変を受けた変異TyrRSである請求の範囲第1項乃至第3項のいずれか一項に記載の発現方法。
  5. (A)変異チロシルtRNA合成酵素が、チロシルtRNA合成酵素の37位チロシン(Y)に相当する位置が、バリン(V)またはアラニン(A)により置換され、かつチロシルtRNA合成酵素の195位グルタミン(Q)に相当する位置が、アラニン(A)、システイン(C)またはアスパラギン(N)で置換された変異TyrRSである請求の範囲第4項に記載の発現方法。
  6. 上記動物細胞が、哺乳類細胞である請求の範囲第1項乃至第5項のいずれか一項に記載の発現方法。
  7. 請求の範囲第1項乃至第6項のいずれか一項に記載の方法にしたがって発現させたタンパク質を回収し、精製することを特徴とする、非天然型チロシン誘導体組み込みタンパク質の製造方法。
  8. (A)大腸菌由来のチロシルtRNA合成酵素の変異体であって、チロシンに対する特異性に比べて非天然型のチロシン誘導体に対する特異性が高められた変異チロシルtRNA合成酵素を動物細胞内で発現させる発現ベクターと、
    (B)上記変異チロシルtRNA合成酵素の存在下で上記チロシン誘導体と結合可能な、バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌由来のサプレッサーtRNAを、上記動物細胞内で発現させる発現ベクターと、
    (C)所望の位置にナンセンス変異を受けた所望のタンパク質遺伝子を上記動物細胞内で発現させる発現ベクター
    とを含有し、上記タンパク質のナンセンス変異の位置に上記チロシン誘導体を取りこませることができる動物細胞。
  9. 上記チロシン誘導体が、3位置換チロシンまたは4位置換チロシンである、請求の範囲第8項に記載の動物細胞。
  10. 上記(B)サプレッサーtRNAがバチルス・ステアロサーモフィラス由来のサプレッサーチロシンtRNAである請求の範囲第8項または第9項に記載の動物細胞。
  11. 上記(A)変異チロシルtRNA合成酵素が、チロシルtRNA合成酵素の37位チロシン及び195位グルタミンに相当する位置に改変を受けた変異チロシルtRNA合成酵素である請求の範囲第8項乃至第10項のいずれか一項に記載の動物細胞。
  12. 上記(A)変異チロシルtRNA合成酵素が、チロシルtRNA合成酵素の37位チロシン(Y)に相当する位置が、バリン(V)またはアラニン(A)により置換され、かつチロシルtRNA合成酵素の195位グルタミン(Q)に相当する位置が、アラニン(A)、システイン(C)またはアスパラギン(N)で置換された変異TyrRSである請求の範囲第11項に記載の動物細胞。
  13. 哺乳類細胞である請求の範囲第8項乃至第12項のいずれか一項に記載の動物細胞。
  14. 配列番号1、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32からなる群から選ばれる一の配列を有するDNA。
  15. 動物細胞内で認識される制御配列から発現可能に、配列番号1、配列番号30、配列番号31、及び配列番号32からなる群から選ばれる一の配列を含有してなる発現ベクター。
  16. 配列番号1の配列を有するDNAが同方向に9個配列されてクローン化された、請求の範囲第15項に記載の発現ベクター。
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