JP2008035702A - 蛋白質間相互作用の検出方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 動物細胞内での相互作用をクロスリンク法を用いて検出する手段の提供。
【解決手段】 クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸に特異的な原核生物由来のTyrRS変異体と、前記TyrRS変異体の存在下で前記非天然型アミノ酸と結合可能な原核生物由来のサプレッサーtRNAと、所望の位置にナンセンス変異を受けた所望の蛋白質遺伝子と、を動物細胞中で発現させ、前記蛋白質のナンセンス変異の位置に前記非天然型アミノ酸を取り込ませて非天然型アミノ酸組み込み蛋白質を発現させる第1工程、前記動物細胞に特定波長の光を照射する第2工程、蛋白質間相互作用の有無を検出する第3工程、を有することを特徴とする蛋白質間相互作用の検出方法である。
【選択図】 なし
【解決手段】 クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸に特異的な原核生物由来のTyrRS変異体と、前記TyrRS変異体の存在下で前記非天然型アミノ酸と結合可能な原核生物由来のサプレッサーtRNAと、所望の位置にナンセンス変異を受けた所望の蛋白質遺伝子と、を動物細胞中で発現させ、前記蛋白質のナンセンス変異の位置に前記非天然型アミノ酸を取り込ませて非天然型アミノ酸組み込み蛋白質を発現させる第1工程、前記動物細胞に特定波長の光を照射する第2工程、蛋白質間相互作用の有無を検出する第3工程、を有することを特徴とする蛋白質間相互作用の検出方法である。
【選択図】 なし
Description
本発明は、クロスリンク法を用いた動物細胞内の蛋白質間相互作用の検出方法に関する。
蛋白質中の所望の位置のアミノ酸残基を、通常の蛋白質合成に関わる20種類以外のアミノ酸(非天然型アミノ酸)で置換した、非天然型アミノ酸組み込み蛋白質(以下、「アロ蛋白質」という)は、蛋白質の機能・構造解析のための有効な手段となり得る。
本発明者らは、近年、大腸菌や無細胞蛋白質合成系で開発されてきたアロ蛋白質の生産を、動物細胞内で可能にすることに成功した(特許文献1)。すなわち、本発明者らは、ナンセンスコドンに割り当てられ、非天然型アミノ酸に特異的なアミノアシルtRNA合成酵素(以下、「aaRS」という)変異体にのみ認識され、宿主の動物細胞内のaaRSには認識されない(orthogonal tRNA)サプレッサーtRNAを開発し、かかるサプレッサーtRNAと非天然型チロシン誘導体に特異的な変異チロシルtRNA合成酵素と所望の位置にナンセンス変異を受けた所望の蛋白質遺伝子を動物細胞中で発現させることによって、非天然型アミノ酸組み込み蛋白質の生産を、動物細胞内で可能にすることに成功した。
ところで、蛋白質−蛋白質相互作用の存在を検出する手段としては、従来免疫沈澱法が用いられてきた。しかしながら、免疫沈澱法には、以下のような問題点があった。(1)蛋白質間相互作用が弱い結合力に基づくものである場合、いずれかの蛋白質に対して抗体を作用させた場合、蛋白質間の相互作用が切れて解離してしまう場合がある。(2)細胞内での蛋白質間の相互作用を免疫沈澱法により検出する場合、まず細胞から蛋白質を抽出する必要がある。蛋白質が細胞内の異なったコンパートメント内に存在していて、相互作用が実際には生じていない場合であっても、抽出操作をすることによって細胞外で初めて相互作用をする場合がある。したがって、免疫沈澱法では細胞内で相互作用していない場合についても検出してしまう可能性がある。このため、蛋白質間相互作用を免疫沈澱法を用いて検出する場合の精度は、必ずしも高いものではなかった。
蛋白質間相互作用を検出するために免疫沈澱法を用いる問題点を解消するために、クロスリンク法がある。クロスリンク法は、細胞内で相互作用をしている蛋白質とクロスリンク剤とを、細胞に紫外線を照射することによって共有結合させる方法である。したがって、蛋白質間相互作用が弱い結合力に基づくものであっても、共有結合という強い結合力で蛋白質を結合させるため、いずれかの蛋白質に対して抗体を作用させたときに蛋白質が解離してしまうことがない。また、細胞内で共有結合させるため、細胞からの抽出操作を行った後でも、細胞内で相互作用をしている蛋白質のみを検出することができる。
Schultzらは、p−ベンゾイル−L−フェニルアラニン(以下、「pBpa」)を特異的に認識するメタノコッカス ヤナシー(Methanococcus jannaschii)のチロシルtRNA合成酵素(以下、「TyrRS」という)の変異体を、メタノコッカス ヤナシー由来のサプレッサーチロシルtRNAとともに、大腸菌内で発現させた。このTyrRS変異体はこのtRNAのみをアミノアシル化し、このtRNAは内因性aaRSによっては認識されない。このように、pBpaは大腸菌のアンバーコドンに割り当てられ、培地中にpBpaを加え、該大腸菌を365nmの光に30分間晒すことにより、pBpaがクロスリンク剤として共有結合したグルタチオンSトランスフェラーゼ(以下、「GST」という)2量体が生成した(非特許文献1)。このように、非天然型アミノ酸であるpBpaを原核生物である大腸菌に組み込み、クロスリンク法によってその蛋白質の相互作用を検出することができ、クロスリンク法は免疫沈殿法に代わる手段として利用することが可能となった。
国際公開2004/039989号パンフレット
Chin, J.W., Martin, A.B., King, D.S., Wang, L., & Schultz, P.G. Addition of a photocrosslinking amino acid to the genetic code of Escherichia coli. Proc Natl Acad Sci USA 99, 11020-11024 (2002)
ところで、動物細胞にクロスリンク法を適用できれば、たとえば上皮成長因子(以下、「EGF」という)の受容体(以下、「EGFR」という)の相互作用等のシグナル伝達系等の解析が可能となり、その有用性は高い。
しかしながら、動物細胞は、原核生物と比べて細胞内がきわめて複雑であり、免疫沈澱法等の既存の手法では、上記(2)等の問題点が強く現れてしまう。さらに、非特許文献1に記述されているSchultzらの方法は、原核生物に用いられる方法であり、動物細胞にそのまま適用することはできない。
しかしながら、動物細胞は、原核生物と比べて細胞内がきわめて複雑であり、免疫沈澱法等の既存の手法では、上記(2)等の問題点が強く現れてしまう。さらに、非特許文献1に記述されているSchultzらの方法は、原核生物に用いられる方法であり、動物細胞にそのまま適用することはできない。
したがって、本発明は、動物細胞内での相互作用をクロスリンク法を用いて検出する手段を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明は、
クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸に特異的な原核生物由来のTyrRS変異体と、前記TyrRS変異体の存在下で前記非天然型アミノ酸と結合可能な原核生物由来のサプレッサーtRNAと、所望の位置にナンセンス変異を受けた所望の蛋白質遺伝子と、を動物細胞中で発現させ、前記蛋白質のナンセンス変異の位置に前記非天然型アミノ酸を取り込ませて非天然型アミノ酸組み込み蛋白質を発現させる第1工程、
前記動物細胞に特定波長の光を照射する第2工程、
蛋白質間相互作用の有無を検出する第3工程、
を有することを特徴とする蛋白質間相互作用の検出方法である。
クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸が、ベンゾフェノン骨格を有するものであることが好ましい。
クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸が、pBpaであることが好ましい。
蛋白質間相互作用が、チロシンキナーゼ型レセプターの相互作用であることが好ましい。
蛋白質間相互作用が、EGFRの相互作用であることが好ましい。
チロシルtRNA合成酵素変異体が由来する原核細胞が大腸菌であることが好ましい。
サプレッサーtRNAが由来する原核細胞が、バチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)であることが好ましい。
クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸に特異的な原核生物由来のTyrRS変異体と、前記TyrRS変異体の存在下で前記非天然型アミノ酸と結合可能な原核生物由来のサプレッサーtRNAと、所望の位置にナンセンス変異を受けた所望の蛋白質遺伝子と、を動物細胞中で発現させ、前記蛋白質のナンセンス変異の位置に前記非天然型アミノ酸を取り込ませて非天然型アミノ酸組み込み蛋白質を発現させる第1工程、
前記動物細胞に特定波長の光を照射する第2工程、
蛋白質間相互作用の有無を検出する第3工程、
を有することを特徴とする蛋白質間相互作用の検出方法である。
クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸が、ベンゾフェノン骨格を有するものであることが好ましい。
クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸が、pBpaであることが好ましい。
蛋白質間相互作用が、チロシンキナーゼ型レセプターの相互作用であることが好ましい。
蛋白質間相互作用が、EGFRの相互作用であることが好ましい。
チロシルtRNA合成酵素変異体が由来する原核細胞が大腸菌であることが好ましい。
サプレッサーtRNAが由来する原核細胞が、バチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)であることが好ましい。
本発明により、動物細胞内での蛋白質間相互作用を、容易かつ確実に検出することが可能となった。
まず、第1工程について説明する。
(非天然型アミノ酸)
本発明の方法に用いられる非天然型アミノ酸は、クロスリンク剤となり得るものであり、具体的には、ベンゾフェノン骨格を有するアミノ酸であることが好ましく、pBpaであることが特に好ましい。クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸はそれ自体で生理活性を有する非天然型アミノ酸であり、蛋白質の部位特異的ラベルの標的部位ともなるので、クロスリンク剤となり得るアロ蛋白質は、蛋白質機能・構造解析の材料として有用であり、また創薬のターゲットともなる可能性がある。
(非天然型アミノ酸)
本発明の方法に用いられる非天然型アミノ酸は、クロスリンク剤となり得るものであり、具体的には、ベンゾフェノン骨格を有するアミノ酸であることが好ましく、pBpaであることが特に好ましい。クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸はそれ自体で生理活性を有する非天然型アミノ酸であり、蛋白質の部位特異的ラベルの標的部位ともなるので、クロスリンク剤となり得るアロ蛋白質は、蛋白質機能・構造解析の材料として有用であり、また創薬のターゲットともなる可能性がある。
(TyrRS変異体)
本発明で用いられるTyrRS変異体は、アミノ酸として、クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸を特異的に認識し、かつtRNAとして、併用するサプレッサーtRNAを特異的に認識して、該非天然型アミノ酸が結合したサプレッサーtRNAを生成させることができる原核生物由来のTyrRSの変異体である。原核生物としては、大腸菌等を挙げることができ、そのなかでもK12株、B株が好ましい。
大腸菌等の原核生物由来のTyrRS(野生型)は、動物細胞のチロシンtRNAと反応せず、同様に、原核生物由来のチロシンtRNAは動物細胞のTyrRSと反応しない。
本発明で用いられるTyrRS変異体は、アミノ酸として、クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸を特異的に認識し、かつtRNAとして、併用するサプレッサーtRNAを特異的に認識して、該非天然型アミノ酸が結合したサプレッサーtRNAを生成させることができる原核生物由来のTyrRSの変異体である。原核生物としては、大腸菌等を挙げることができ、そのなかでもK12株、B株が好ましい。
大腸菌等の原核生物由来のTyrRS(野生型)は、動物細胞のチロシンtRNAと反応せず、同様に、原核生物由来のチロシンtRNAは動物細胞のTyrRSと反応しない。
大腸菌のTyrRS(野生型)のアミノ酸配列を配列番号1に示す。
本発明に用いられるTyrRS変異体は、例えば、すでに知られている他のTyrRSとチロシルAMPの複合体との3−D構造データ(例えば、Brickら、J.Mol.Biol.、第208巻(1988)p.83に記載されている3−D構造データ)から得られるチロシルAMPを認識する位置を参照した上で、配列番号1の配列の中で、クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸を認識する変異を導入すべき位置を推定して、周知の部位特異的に変異を導入する方法により、得ることができる。
そして、クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸がpBpaである場合には、TyrRS変異体としては、この配列の中で、少なくとも、37位のチロシン、182位のアスパラギン酸、183位のフェニルアラニンと186位のロイシンを他のアミノ酸で部位特異的に置換して、pBpaへの特異性を付与した変異体が挙げられる。
本発明に用いられるTyrRS変異体は、例えば、すでに知られている他のTyrRSとチロシルAMPの複合体との3−D構造データ(例えば、Brickら、J.Mol.Biol.、第208巻(1988)p.83に記載されている3−D構造データ)から得られるチロシルAMPを認識する位置を参照した上で、配列番号1の配列の中で、クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸を認識する変異を導入すべき位置を推定して、周知の部位特異的に変異を導入する方法により、得ることができる。
そして、クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸がpBpaである場合には、TyrRS変異体としては、この配列の中で、少なくとも、37位のチロシン、182位のアスパラギン酸、183位のフェニルアラニンと186位のロイシンを他のアミノ酸で部位特異的に置換して、pBpaへの特異性を付与した変異体が挙げられる。
さらに好ましくは、37位のチロシン及び182位のアスパラギン酸がグリシンに置換され、かつ183位のフェニルアラニンがチロシンに置換されているか又は186位のロイシンがアラニンもしくはメチオニンに置換されたものを用いることができる。これらの変異によりpBpaへの特異性が高められる。
次に、これらの変異体を製造する方法としては、公知の遺伝子操作技術により行なうのが好ましい。例えば、目的のアミノ酸の位置をコードする塩基配列を改変すべきアミノ酸をコードする塩基配列に置換したプライマーを用いて、改変すべきアミノ酸をコードする塩基配列に置換したDNAを増幅させて、増幅させたDNA断片を結合させて、全長のaaRS変異体をコードするDNAを得て、これを大腸菌などの宿主細胞を用いて発現させることにより簡便に製造することができる。この方法において使用するプライマーとしては20〜70塩基、好ましくは20〜50塩基程度である。このプライマーは改変前の元の塩基配列とは1〜3塩基がミスマッチとなるので、比較的長いもの、例えば20塩基以上のものを使用するのが好ましい。
(サプレッサーtRNA)
上記TyrRS変異体と組み合わせて使用される、サプレッサーtRNAは、通常の20種類のアミノ酸に割り当てられたコドンではないナンセンスコドンに割り当てられ、かつ、上記非天然型アミノ酸に特異的なTyrRS変異体にのみ認識され、宿主の通常のaaRSには認識されない(orthogonal tRNA)という要件を備え、かつ動物細胞中で発現しなければならない。
ここで、ナンセンスコドンとしては、UAG(アンバー)、UAA(オーカー)、UGA(オパール)が挙げられるが、UAG(アンバー)コドンを用いることが好ましい。
上記TyrRS変異体と組み合わせて使用される、サプレッサーtRNAは、通常の20種類のアミノ酸に割り当てられたコドンではないナンセンスコドンに割り当てられ、かつ、上記非天然型アミノ酸に特異的なTyrRS変異体にのみ認識され、宿主の通常のaaRSには認識されない(orthogonal tRNA)という要件を備え、かつ動物細胞中で発現しなければならない。
ここで、ナンセンスコドンとしては、UAG(アンバー)、UAA(オーカー)、UGA(オパール)が挙げられるが、UAG(アンバー)コドンを用いることが好ましい。
一般に、真核細胞でのtRNAの発現は、tRNAコーディング配列内の2つの内部プロモーターを必要とし、そのコンセンサス配列は、ボックスA、ボックスBとして知られている。
バチルス ステアロサーモフィラスのサプレッサーチロシンtRNAは、原核生物由来であるが、そのサプレッサーチロシンtRNA配列内にボックスBとボックスAを内部に有しており(M.Sprinzlら、Nucleic Acids Research 17, 1-172(1989))、なんら改変を加えなくても動物細胞内で発現させることができると考えた。
バチルス ステアロサーモフィラスのサプレッサーチロシンtRNAは、原核生物由来であるが、そのサプレッサーチロシンtRNA配列内にボックスBとボックスAを内部に有しており(M.Sprinzlら、Nucleic Acids Research 17, 1-172(1989))、なんら改変を加えなくても動物細胞内で発現させることができると考えた。
そして実際に、バチルス ステアロサーモフィラス由来のサプレッサーチロシンtRNAを改変せずに動物細胞で導入するためのベクターにクローン化して動物細胞に導入したところ、動物細胞中での発現が確認された。そして、上記大腸菌のTyrRS変異体と組み合わせて、サプレッション活性を示すことを確認した。
すなわち、ボックスA配列とボックスB配列を有した形で、サプレッサー活性を保持できる原核生物のサプレッサーtRNAは、上記大腸菌由来のTyrRS変異体と組み合わせて、動物細胞内でサプレッサー活性を有することができることを見出した。
すなわち、ボックスA配列とボックスB配列を有した形で、サプレッサー活性を保持できる原核生物のサプレッサーtRNAは、上記大腸菌由来のTyrRS変異体と組み合わせて、動物細胞内でサプレッサー活性を有することができることを見出した。
本発明に用いられるサプレッサーtRNAは、上記チロシルtRNA合成酵素変異体の存在下で非天然型アミノ酸と結合可能なバチルス属由来のサプレッサーtRNAだけでなく、マイコプラズマ属又はスタフィロコッカス属真性細菌由来のサプレッサーtRNAも挙げられる。これらのtRNAの配列については、http://medlib.med.utah.edu/RNAmods/trnabase/またはhttp://www.staff.uni-bayreuth.de/~btc914/search/に記載されている。
これらは、原核生物中で機能するサプレッサーtRNAの配列を有し、かつ内部に動物細胞において認識される2つの内部プロモーターコンセンサス配列を有し、上記TyrRS変異体の存在下でクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸と結合可能なサプレッサーtRNAである。ここで、「原核生物中で機能するサプレッサーtRNAの配列を有する」とは、原核生物由来のサプレッサーtRNAであって、サプレッサーtRNAとして機能するための、ナンセンスコドン(通常アンバーコドン(UAG))に相補的なアンチコドン及び立体構造(L型構造部分)を保持していることを意味する。また、「内部に動物細胞において認識される2つの内部プロモーター配列を有する」とは、ボックスAのコンセンサス配列とボックスBのコンセンサス配列を内部に含むことを意味する。また、「上記TyrRS変異体の存在下でクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸と結合可能」とは、TyrRS変異体により特異的に認識されてクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸と結合することができるサプレッサーtRNAであり、通常チロシンと結合するチロシンtRNA由来のサプレッサー変異体である。
これらは、原核生物中で機能するサプレッサーtRNAの配列を有し、かつ内部に動物細胞において認識される2つの内部プロモーターコンセンサス配列を有し、上記TyrRS変異体の存在下でクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸と結合可能なサプレッサーtRNAである。ここで、「原核生物中で機能するサプレッサーtRNAの配列を有する」とは、原核生物由来のサプレッサーtRNAであって、サプレッサーtRNAとして機能するための、ナンセンスコドン(通常アンバーコドン(UAG))に相補的なアンチコドン及び立体構造(L型構造部分)を保持していることを意味する。また、「内部に動物細胞において認識される2つの内部プロモーター配列を有する」とは、ボックスAのコンセンサス配列とボックスBのコンセンサス配列を内部に含むことを意味する。また、「上記TyrRS変異体の存在下でクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸と結合可能」とは、TyrRS変異体により特異的に認識されてクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸と結合することができるサプレッサーtRNAであり、通常チロシンと結合するチロシンtRNA由来のサプレッサー変異体である。
バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌チロシンtRNA由来のサプレッサーtRNAの例としては、バチルス ステアロサーモフィラスのチロシンtRNA由来のサプレッサーtRNA、バチルス ズブチリス(Bacillus subtilis)のチロシンtRNA由来のサプレッサーtRNA(http://medlib.med.utah.edu/RNAmods/trnabase/、登録番号DY1540;E.F.Wawrousekら、(1984)J.Biol.Chem. 259,3694-3702参照)、マイコプラズマ カプリコラム(Mycoplasma capricolum)のチロシンtRNA由来のサプレッサーtRNA(http://medlib.med.utah.edu/RNAmods/trnabase/、登録番号DY1140;Y.Andachiら、(1987) Proc. Natl. Acd. Sci. USA 84, 7398-7402参照)、スタフィロコッカス アウレウス(Staphylococus aureus)のチロシンtRNA由来のサプレッサーtRNA(http://medlib.med.utah.edu/RNAmods/trnabase/、登録番号DY1480;C.Green、(1993)J.Bacteriol. 175, 5091-5096参照)が挙げられ、好ましくはバチルス ステアロサーモフィラスのチロシンtRNA由来のサプレッサーtRNAが用いられる。
(TyrRS変異体、サプレッサーtRNAの動物細胞中での発現)
TyrRS変異体を動物細胞中で発現させるためには、いかなる公知の発現系でも用いることができ、例えば市販のpcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pAGE107(Cytotechnology,3,133(1990))、pAGE103[J.Biochem.101,1307(1987)]などを用いることができる。また、サプレッサーtRNAはいかなる公知の大腸菌クローニング用ベクターを用いても動物細胞内で発現させることができる。例えば、pBR322(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 75,3737-3741(1978))などを用いることができる。
TyrRS変異体を動物細胞中で発現させるためには、いかなる公知の発現系でも用いることができ、例えば市販のpcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pAGE107(Cytotechnology,3,133(1990))、pAGE103[J.Biochem.101,1307(1987)]などを用いることができる。また、サプレッサーtRNAはいかなる公知の大腸菌クローニング用ベクターを用いても動物細胞内で発現させることができる。例えば、pBR322(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 75,3737-3741(1978))などを用いることができる。
TyrRS変異体については、必要に応じて、誘導発現可能なベクターを用いることができ、たとえば、クロンテック社、インビトロジェン社などから市販されている、テトラサイクリン応答プロモーターを用いることができる。
細胞へのベクターの導入方法としては、例えば、電気穿孔法(Nucleic,Acids Res.15,1311-1326(1987))、リン酸カルシウム法(Mol.Cell Biol. 7,2745-2752(1987))、リポフェクション法(Cell 7,1025-1037(1994);Lamb,Nature Genetics 5,22-30(1993))などが挙げられる。
細胞へのベクターの導入方法としては、例えば、電気穿孔法(Nucleic,Acids Res.15,1311-1326(1987))、リン酸カルシウム法(Mol.Cell Biol. 7,2745-2752(1987))、リポフェクション法(Cell 7,1025-1037(1994);Lamb,Nature Genetics 5,22-30(1993))などが挙げられる。
(非天然型アミノ酸を組み込ませるための蛋白質)
本発明で非天然型アミノ酸を組み込ませる蛋白質の種類は、限定されるものではなく、発現可能ないかなる蛋白質でもよく、異種の組換え蛋白質でもよい。例えば、タンパク質の種類として、いわゆるシグナル伝達関連タンパク質、受容体、増殖因子、細胞周期関連因子、転写因子、翻訳因子、輸送関連タンパク質、分泌タンパク質、細胞骨格関連タンパク質、酵素、シャペロン又は癌、糖尿病若しくは遺伝病等を含む疾患関連タンパク質などが挙げられる。これらタンパク質は相互作用によってその機能を果たすものであり、本発明に用いることができる。
本発明で非天然型アミノ酸を組み込ませる蛋白質の種類は、限定されるものではなく、発現可能ないかなる蛋白質でもよく、異種の組換え蛋白質でもよい。例えば、タンパク質の種類として、いわゆるシグナル伝達関連タンパク質、受容体、増殖因子、細胞周期関連因子、転写因子、翻訳因子、輸送関連タンパク質、分泌タンパク質、細胞骨格関連タンパク質、酵素、シャペロン又は癌、糖尿病若しくは遺伝病等を含む疾患関連タンパク質などが挙げられる。これらタンパク質は相互作用によってその機能を果たすものであり、本発明に用いることができる。
本発明において非天然型アミノ酸を組み込ませる位置にナンセンスコドン(サプレッサーtRNAがアンバーサプレッサーのときはアンバーコドン)を導入することが必要であり、これによりこのナンセンスコドン(アンバーコドン)部位に特異的に非天然型アミノ酸を組み込むことができる。
蛋白質に部位特異的に変異を導入する方法としては、周知の方法を用いることができ、特に限定されないが、Gene 152,271-275(1995)、Methods Enzymol.100,468-500(1983)、Nucleic Acids Res.12,9441-9456(1984)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82, 488-492(1985)、「細胞工学別冊「新細胞工学実験プロトコール」、秀潤社、241−248頁(1993)」に記載の方法、または「QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit」(ストラタジーン社製)を利用する方法などに準じて、適宜実施することができる。
本発明は動物細胞内で発現させることができるので、これまで、大腸菌や無細胞蛋白質系では、発現しない、あるいは発現量が低い、または活性型となるための翻訳後の修飾を受けることができないような蛋白質へ、非天然型アミノ酸を取りこませることができる。このような蛋白質としては、当業者には種々のものが知られているが、例えば、ヒトEGFR等のチロシンキナーゼ型レセプターの細胞外ドメイン(Cell,110,775-787(2002))、ヒトGroucho/TLE1蛋白質(Structure 10,751-761(2002))、ラット筋肉特異的キナーゼ(Structure 10.1187-1196(2002))などについて、アロ蛋白質を合成することができるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明の方法においては、動物細胞内でアロ蛋白質を発現させるので、糖鎖と結合した糖蛋白質に非天然型アミノ酸を組みこませることもできる。特に、無細胞蛋白質系における糖鎖付加のパターンが、本来のパターンと異なるようなタイプの糖蛋白質の場合には、本発明の動物細胞内での系は、目的の(本来の)パターンの糖鎖が付加されたアロ蛋白質を得るための有効な手段と考えられる。
また、本発明の方法においては、動物細胞内でアロ蛋白質を発現させるので、糖鎖と結合した糖蛋白質に非天然型アミノ酸を組みこませることもできる。特に、無細胞蛋白質系における糖鎖付加のパターンが、本来のパターンと異なるようなタイプの糖蛋白質の場合には、本発明の動物細胞内での系は、目的の(本来の)パターンの糖鎖が付加されたアロ蛋白質を得るための有効な手段と考えられる。
(宿主)
本発明に用いられる、宿主の動物細胞としては、遺伝子組換え系が確立されている、哺乳類細胞が好ましい。有用な哺乳動物宿主細胞系の実例は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)とCOS細胞を含む。より特有な例は、SV40によって形質転換したサル腎臓CV1系(COS-7,ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓系(293又は懸濁培養での増殖用にサブクローンした293細胞、J.Gen Virol.,36:59(1977));チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216(1980));マウスセルトーリ細胞(TM4,Biol.Reprod.,23:243-251(1980));ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2, HB 8065);及びマウス乳癌(MMT 060562, ATCC CCL51)を含む。これらの宿主は、各々発現系が確立されており、適切な宿主細胞の選択は、当業者の技術範囲内である。
これらは、例えば、Molecular Cloning 第3版、 Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)などに記載された方法に準じて行なうことができる。
本発明に用いられる、宿主の動物細胞としては、遺伝子組換え系が確立されている、哺乳類細胞が好ましい。有用な哺乳動物宿主細胞系の実例は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)とCOS細胞を含む。より特有な例は、SV40によって形質転換したサル腎臓CV1系(COS-7,ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓系(293又は懸濁培養での増殖用にサブクローンした293細胞、J.Gen Virol.,36:59(1977));チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216(1980));マウスセルトーリ細胞(TM4,Biol.Reprod.,23:243-251(1980));ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2, HB 8065);及びマウス乳癌(MMT 060562, ATCC CCL51)を含む。これらの宿主は、各々発現系が確立されており、適切な宿主細胞の選択は、当業者の技術範囲内である。
これらは、例えば、Molecular Cloning 第3版、 Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)などに記載された方法に準じて行なうことができる。
次に、アロ蛋白質が発現する様子を、図1に従って説明する。図1の枠は、動物細胞(例えばCHO細胞)の細胞膜を表している。細胞内(枠の内側)では、原核生物型サプレッサーtRNAとTyrRS変異体がそれぞれの発現系から発現している。クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸(たとえばpBpa)は培地(枠の外側)中に加えられる。
培地中のクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸は、細胞自身の働きで細胞内に取り込まれ、TyrRS変異体の働きによってサプレッサーtRNAに結合する。その後、クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸は、サプレッサーtRNAによってリボソーム上に運ばれて、ナンセンス・コドン(ここでは,UAGコドン)の翻訳に用いられる。所望の位置にクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸を含有する蛋白質を生産するためには、蛋白質の遺伝子の該当位置のコドンをUAGに置換した後に、この遺伝子を細胞内で発現させる。
培地中のクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸は、細胞自身の働きで細胞内に取り込まれ、TyrRS変異体の働きによってサプレッサーtRNAに結合する。その後、クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸は、サプレッサーtRNAによってリボソーム上に運ばれて、ナンセンス・コドン(ここでは,UAGコドン)の翻訳に用いられる。所望の位置にクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸を含有する蛋白質を生産するためには、蛋白質の遺伝子の該当位置のコドンをUAGに置換した後に、この遺伝子を細胞内で発現させる。
こうして、動物細胞内において、目的の位置にクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸が組み込まれた目的のアロ蛋白質を発現させることができる。
すなわち、(A)TyrRS変異体であって、クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸に対する特異性が高められたTyrRS変異体を動物細胞内で発現させる発現ベクターと、(B)上記TyrRS変異体の存在下で上記クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸と結合可能な、バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌由来のサプレッサーtRNAを、上記動物細胞内で発現させる発現ベクターと、(C)所望の位置にナンセンス変異を受けた所望の蛋白質遺伝子とを有する動物細胞を、その動物細胞の増殖に適した培地(例えば、CHO細胞の場合、Opti-MEM I (Gibco BRL社)など)に目的のクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸を添加した培地で、適当な条件でインキュベートする。例えば、CHO細胞の場合は、37℃程度の温度で、24時間程度、インキュベートする。培地内のクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸の添加量は、0.1−3mM程度、好ましくは0.3mM程度とする。
すなわち、(A)TyrRS変異体であって、クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸に対する特異性が高められたTyrRS変異体を動物細胞内で発現させる発現ベクターと、(B)上記TyrRS変異体の存在下で上記クロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸と結合可能な、バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌由来のサプレッサーtRNAを、上記動物細胞内で発現させる発現ベクターと、(C)所望の位置にナンセンス変異を受けた所望の蛋白質遺伝子とを有する動物細胞を、その動物細胞の増殖に適した培地(例えば、CHO細胞の場合、Opti-MEM I (Gibco BRL社)など)に目的のクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸を添加した培地で、適当な条件でインキュベートする。例えば、CHO細胞の場合は、37℃程度の温度で、24時間程度、インキュベートする。培地内のクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸の添加量は、0.1−3mM程度、好ましくは0.3mM程度とする。
次に第2工程について説明する。
上記により動物細胞内で発現したアロ蛋白質が、その動物細胞内で他の蛋白質と相互作用をしている場合、その動物細胞に特定波長の光を照射することにより、該アロ蛋白質に取り込まれたクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸が、該他の蛋白質と共有結合を形成する。例えば、クロスリンク剤がベンゾフェノン骨格を有する場合、特定波長の光の照射により、ベンゾフェノン中のカルボニル結合が開裂して、カルボニル結合を構成する炭素原子が、相互作用する他の蛋白質と共有結合する。このように、クロスリンク法を用いることにより、アロ蛋白質と該他の蛋白質とが強固な共有結合を形成するため、細胞抽出操作を行った後も、両タンパク質が解離することがなく、両蛋白質間の相互作用を容易に検出することができる。このため、原核生物と比べてきわめて複雑な細胞構造を有する動物細胞において、動物細胞に特有な、例えばチロシンキナーゼ型レセプターの相互作用、より具体的にはEGFRの相互作用等の検出を容易に行うことができる。
上記により動物細胞内で発現したアロ蛋白質が、その動物細胞内で他の蛋白質と相互作用をしている場合、その動物細胞に特定波長の光を照射することにより、該アロ蛋白質に取り込まれたクロスリンク剤となり得る非天然型アミノ酸が、該他の蛋白質と共有結合を形成する。例えば、クロスリンク剤がベンゾフェノン骨格を有する場合、特定波長の光の照射により、ベンゾフェノン中のカルボニル結合が開裂して、カルボニル結合を構成する炭素原子が、相互作用する他の蛋白質と共有結合する。このように、クロスリンク法を用いることにより、アロ蛋白質と該他の蛋白質とが強固な共有結合を形成するため、細胞抽出操作を行った後も、両タンパク質が解離することがなく、両蛋白質間の相互作用を容易に検出することができる。このため、原核生物と比べてきわめて複雑な細胞構造を有する動物細胞において、動物細胞に特有な、例えばチロシンキナーゼ型レセプターの相互作用、より具体的にはEGFRの相互作用等の検出を容易に行うことができる。
照射する光の波長は、クロスリンク剤によって異なるが、紫外領域の波長であることが好ましく、クロスリンク剤がベンゾフェノン骨格を有するものである場合、350〜380nmであることがより好ましく、さらにクロスリンク剤がpBpaである場合、360〜370nmであることが特に好ましい。照射時間に特に制限はないが、たとえば30秒〜1時間が好ましい。照射は、たとえば、細胞を適当な緩衝液で洗浄した後、氷浴上で行うことが好ましい。
第3工程は、蛋白質間相互作用の有無を検出する工程であり、ウェスタンブロット法等公知の検出方法を用いることができる。例えば、細胞を緩衝液で溶解した後、SDS−PAGEを行い、PVDF膜等に移した後、適当な一次抗体、二次抗体を用いて検出することができる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(EGFによるシグナル伝達機構中のEGFRとGrb2の相互作用の検出)
増殖に関わる細胞内シグナル伝達は、EGFの投与によって引き起こすことができる。EGFは、細胞膜に局在するEGFRに特異的に結合する。EGFが結合した受容体は、自身のチロシンを活性化(自己リン酸化)する。この状態は、細胞にとっていわゆる興奮状態であり、細胞の増殖へとつながる信号が一気にリレーされていく。通常、EGFRから増殖までのリレーは、1段階ではなく、代表的には、EGF→EGFR→Grb2→SOS→Ras→MEK→MAPK→細胞増殖、という段階を経る。
本実施例では、EGFRとGrb2の相互作用の検出を行った。
増殖に関わる細胞内シグナル伝達は、EGFの投与によって引き起こすことができる。EGFは、細胞膜に局在するEGFRに特異的に結合する。EGFが結合した受容体は、自身のチロシンを活性化(自己リン酸化)する。この状態は、細胞にとっていわゆる興奮状態であり、細胞の増殖へとつながる信号が一気にリレーされていく。通常、EGFRから増殖までのリレーは、1段階ではなく、代表的には、EGF→EGFR→Grb2→SOS→Ras→MEK→MAPK→細胞増殖、という段階を経る。
本実施例では、EGFRとGrb2の相互作用の検出を行った。
(方法)
材料
pBpaはBachem AGから、抗FLAG M2抗体はシグマ社から、抗HA抗体はロシュ・ダイアグノスティクス社から、抗EGFR抗体はサンタクルズバイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)社から、EGFR1068位のリン酸化チロシンに対する抗体はセルシグナリングテクノロジー(cell signaling technology)社から購入した。また、二次抗体として、HRP(Horseradish Peroxidase)標識抗マウス抗体及び抗ウサギIgG抗体を、アマシャム バイオサイエンス社から購入した。
材料
pBpaはBachem AGから、抗FLAG M2抗体はシグマ社から、抗HA抗体はロシュ・ダイアグノスティクス社から、抗EGFR抗体はサンタクルズバイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)社から、EGFR1068位のリン酸化チロシンに対する抗体はセルシグナリングテクノロジー(cell signaling technology)社から購入した。また、二次抗体として、HRP(Horseradish Peroxidase)標識抗マウス抗体及び抗ウサギIgG抗体を、アマシャム バイオサイエンス社から購入した。
部位特異的変異導入とプラスミド構築
pBpaを特異的に認識する大腸菌TyrRS変異体(EcpBpaRS)の遺伝子は、大腸菌由来の野生型TyrRSの部位特異的変異によって構築し、変異プライマーを使ったPCR法で増幅した。Grb2のSH2ドメインとリガンドペプチドの結合構造に基づいて、pBpaの導入位置として、リガンド結合部位に近接し、かつ結合を阻害しないと予想される位置(Leu111)を選択し、アンバーコドンに置換した。より具体的には、ヒトのgrb2の111位のロイシンコドンを、Quick Change site-directed mutagenesis kit(ストラタジーン社)を用いて、アンバーコドンに変換した(grb2(Am111))。HAタグ(YPYDVPDYA)を野生型大腸菌TyrRS及びEcpBpaRSのC末端に付加した。一方、野生型grb2及びgrb2(Am111)遺伝子のC末端にはFLAG配列(DYKDDDDK)を付加した。野生型、変異型のgrb2、TyrRS遺伝子、及びEGFR遺伝子は、細胞中で発現させるため、それぞれpcDNA4/TOベクター(インビトロジェン社)でクローンされた。サプレッサーtRNAのプラスミドは既知の方法により調製した(特許文献1)。
pBpaを特異的に認識する大腸菌TyrRS変異体(EcpBpaRS)の遺伝子は、大腸菌由来の野生型TyrRSの部位特異的変異によって構築し、変異プライマーを使ったPCR法で増幅した。Grb2のSH2ドメインとリガンドペプチドの結合構造に基づいて、pBpaの導入位置として、リガンド結合部位に近接し、かつ結合を阻害しないと予想される位置(Leu111)を選択し、アンバーコドンに置換した。より具体的には、ヒトのgrb2の111位のロイシンコドンを、Quick Change site-directed mutagenesis kit(ストラタジーン社)を用いて、アンバーコドンに変換した(grb2(Am111))。HAタグ(YPYDVPDYA)を野生型大腸菌TyrRS及びEcpBpaRSのC末端に付加した。一方、野生型grb2及びgrb2(Am111)遺伝子のC末端にはFLAG配列(DYKDDDDK)を付加した。野生型、変異型のgrb2、TyrRS遺伝子、及びEGFR遺伝子は、細胞中で発現させるため、それぞれpcDNA4/TOベクター(インビトロジェン社)でクローンされた。サプレッサーtRNAのプラスミドは既知の方法により調製した(特許文献1)。
トランスフェクション
テトラサイクリンリプレッサーを構造的に生産するT−REX−CHO(インビトロジェン社)は、90mmディッシュ中で90%コンフルエンスに増殖し、pcDNA4/TOプラスミドとサプレッサーtRNA発現プラスミドを、Gibco Opti−MEMI培地(インビトロジェン社)中LipofectAMINE2000試薬を用いて、トランスフェクトした。トランスフェクションから4時間後に、20mMHEPES−NaOH(pH7.2)と1μg/mlテトラサイクリンを含むセーラムフリーのGibco D−MEM/F−12培地に培地交換した。pBpaは、1mMの濃度で培地に加えた。さらに12時間インキュベーションした後、細胞を100ng/mlのEGFで37℃で5分間処理した。
テトラサイクリンリプレッサーを構造的に生産するT−REX−CHO(インビトロジェン社)は、90mmディッシュ中で90%コンフルエンスに増殖し、pcDNA4/TOプラスミドとサプレッサーtRNA発現プラスミドを、Gibco Opti−MEMI培地(インビトロジェン社)中LipofectAMINE2000試薬を用いて、トランスフェクトした。トランスフェクションから4時間後に、20mMHEPES−NaOH(pH7.2)と1μg/mlテトラサイクリンを含むセーラムフリーのGibco D−MEM/F−12培地に培地交換した。pBpaは、1mMの濃度で培地に加えた。さらに12時間インキュベーションした後、細胞を100ng/mlのEGFで37℃で5分間処理した。
ウェスタンブロット
ウェスタンブロットは、以下の手順で行った。細胞を、緩衝液A(30mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)、10%グリセロール、1%トリトンX−100、5mMEDTA、0.05%デオキシコレートナトリウム、プロテアーゼインヒビターカクテル100倍希釈(ナカライテスク))中で溶解し、SDS−PAGEを行い、PVDF膜に移した。蛋白質を、抗体でプロービングした後、ECL plus immunodetection system(アマシャム バイオサイエンス社)で検出した。膜を2種類の抗体で検出する場合には、2%のSDS及び0.7%の2−メルカプトエタノールを含む62.5mMのトリス塩酸緩衝液(pH6.8)で、30分間55℃で処理して最初の抗体をはがした後、もう一方の抗体を作用させて検出した。バンド強度は、イメージアナライザーLAS−1000プラス(富士写真フイルム社)を用いて測定した。
ウェスタンブロットは、以下の手順で行った。細胞を、緩衝液A(30mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)、10%グリセロール、1%トリトンX−100、5mMEDTA、0.05%デオキシコレートナトリウム、プロテアーゼインヒビターカクテル100倍希釈(ナカライテスク))中で溶解し、SDS−PAGEを行い、PVDF膜に移した。蛋白質を、抗体でプロービングした後、ECL plus immunodetection system(アマシャム バイオサイエンス社)で検出した。膜を2種類の抗体で検出する場合には、2%のSDS及び0.7%の2−メルカプトエタノールを含む62.5mMのトリス塩酸緩衝液(pH6.8)で、30分間55℃で処理して最初の抗体をはがした後、もう一方の抗体を作用させて検出した。バンド強度は、イメージアナライザーLAS−1000プラス(富士写真フイルム社)を用いて測定した。
免疫沈殿とクロスリンク
免疫沈澱では、細胞を、EGF処理後、pH7.2のphosphate-buffered saline(PBS)で2回洗浄し、1mMのオルトバナデートを含む緩衝液Aに溶解させた。得られた抽出物を、抗FLAG M2抗体(シグマ社)にリンクしたアフィニティゲルとともに4℃で2時間インキュベートし、ゲル上でトラップされた蛋白質を、FLAGペプチド(シグマ社)によって溶出させた。光クロスリンクでは、PBS中のこれらの細胞を培養皿を氷上に置き、ハンディ型の8W−ランプ、UVP(アップランド社)を用いて2.5cmの距離から、365nmの光を照射した。照射後すぐに、細胞溶解物を緩衝液Aに懸濁し、PTP1Bフォスファターゼ(カルビオケム社、EMD Bioscience)で、30℃30分間処理した。
免疫沈澱では、細胞を、EGF処理後、pH7.2のphosphate-buffered saline(PBS)で2回洗浄し、1mMのオルトバナデートを含む緩衝液Aに溶解させた。得られた抽出物を、抗FLAG M2抗体(シグマ社)にリンクしたアフィニティゲルとともに4℃で2時間インキュベートし、ゲル上でトラップされた蛋白質を、FLAGペプチド(シグマ社)によって溶出させた。光クロスリンクでは、PBS中のこれらの細胞を培養皿を氷上に置き、ハンディ型の8W−ランプ、UVP(アップランド社)を用いて2.5cmの距離から、365nmの光を照射した。照射後すぐに、細胞溶解物を緩衝液Aに懸濁し、PTP1Bフォスファターゼ(カルビオケム社、EMD Bioscience)で、30℃30分間処理した。
(結果)
Grb2へのpBpaの部位特異的結合
Grb2はアダプター蛋白質であり、EGFRに結合し、Ras蛋白質に細胞外シグナルを仲介する。レセプターとこのGrb2との相互作用には、Grb2のSH2領域が関係し、この領域はEGF刺激でリン酸化されるレセプターY1068に直接結合する。Grb2のSH2領域の3次構造は、リガンドペプチドと複合体を形成しており、X線結晶解析及びNMRで決定されている。pBpaにより置換されるアミノ酸残基は、結合リガンドの近くにあるが、結合を阻害しない残基である。結晶構造に基づいて、我々は置換位置としてロイシン111位を選択した。
CHO細胞におけるGrb2へのpBpaの部位特異的結合の結果を図2に示す。Grb2(Am111)の発現は抗FLAG抗体、TyrRSの発現は抗HA抗体で行った。野生型TyrRS、サプレッサーtRNA及びgrb2(Am111)を導入したレーン2ではGrb2(Am111)が生成されたが、その発現量は野生型Grb2(レーン1)に比べ低いものであった。また、このアンバーサプレッションは、TyrRSとサプレッサーtRNAの発現に依存していた(レーン2、3)。pBpaの培地中への添加とともに、野生型TyrRSにかえてEcpBpaRSを細胞で発現させたときには、Grb2(Am111)の発現が確認された(レーン7)。なお、レーン4、5、6より、Grb2(Am111)の発現は、EcpBpaRSとサプレッサーtRNAに加えて、培地中へのpBpaの供給にも依存することが確認された。これらの知見から、pBpaがGrb2(Am111)のアンバーの位置に導入されたことが示された。
Grb2へのpBpaの部位特異的結合
Grb2はアダプター蛋白質であり、EGFRに結合し、Ras蛋白質に細胞外シグナルを仲介する。レセプターとこのGrb2との相互作用には、Grb2のSH2領域が関係し、この領域はEGF刺激でリン酸化されるレセプターY1068に直接結合する。Grb2のSH2領域の3次構造は、リガンドペプチドと複合体を形成しており、X線結晶解析及びNMRで決定されている。pBpaにより置換されるアミノ酸残基は、結合リガンドの近くにあるが、結合を阻害しない残基である。結晶構造に基づいて、我々は置換位置としてロイシン111位を選択した。
CHO細胞におけるGrb2へのpBpaの部位特異的結合の結果を図2に示す。Grb2(Am111)の発現は抗FLAG抗体、TyrRSの発現は抗HA抗体で行った。野生型TyrRS、サプレッサーtRNA及びgrb2(Am111)を導入したレーン2ではGrb2(Am111)が生成されたが、その発現量は野生型Grb2(レーン1)に比べ低いものであった。また、このアンバーサプレッションは、TyrRSとサプレッサーtRNAの発現に依存していた(レーン2、3)。pBpaの培地中への添加とともに、野生型TyrRSにかえてEcpBpaRSを細胞で発現させたときには、Grb2(Am111)の発現が確認された(レーン7)。なお、レーン4、5、6より、Grb2(Am111)の発現は、EcpBpaRSとサプレッサーtRNAに加えて、培地中へのpBpaの供給にも依存することが確認された。これらの知見から、pBpaがGrb2(Am111)のアンバーの位置に導入されたことが示された。
(EGFRに結合するGrb2)
共沈澱法によるGrb2とEGFRとの結合の解析結果を図3に示す。まず、得られた細胞抽出液をウエスタンブロットで検出した(図3a)。なお、一次抗体は抗EGFR抗体を使用した。図3aより、150kDa、170kDaの2つの異なる分子量をもつバンドが検出されたが(図3a、レーン1〜4)、150kDaの分子量のバンドは、CHO細胞内で過剰発現されることに由来する副産物である。また、この抽出液を免疫沈澱した後、ウエスタンブロットで検出した結果を図3b、c、dに示す。EGF処理によって170kDaのEGFRとGrb2の共沈澱が促進され、共沈澱産物においてEGFRのTyr1068がリン酸化されていることが確認された。一方、150kDaの副産物は、FLAGタグで免疫沈澱され、Tyr1068がリン酸化されるものの、EGFの処理とは無関係に生じている(図3b、c、レーン1、2)。Grb2(pBpa111)を発現させたときも、Grb2と同様に、Grb2(pBpa111)とEGFRの共沈澱及びEGFRのTyr1068のリン酸化が確認された(図3b、c、レーン3、4)。以上から、Grb2(pBpa111)は、EGFR上のリン酸化Tyr1068との結合能力を保持し得ることが確認された。
共沈澱法によるGrb2とEGFRとの結合の解析結果を図3に示す。まず、得られた細胞抽出液をウエスタンブロットで検出した(図3a)。なお、一次抗体は抗EGFR抗体を使用した。図3aより、150kDa、170kDaの2つの異なる分子量をもつバンドが検出されたが(図3a、レーン1〜4)、150kDaの分子量のバンドは、CHO細胞内で過剰発現されることに由来する副産物である。また、この抽出液を免疫沈澱した後、ウエスタンブロットで検出した結果を図3b、c、dに示す。EGF処理によって170kDaのEGFRとGrb2の共沈澱が促進され、共沈澱産物においてEGFRのTyr1068がリン酸化されていることが確認された。一方、150kDaの副産物は、FLAGタグで免疫沈澱され、Tyr1068がリン酸化されるものの、EGFの処理とは無関係に生じている(図3b、c、レーン1、2)。Grb2(pBpa111)を発現させたときも、Grb2と同様に、Grb2(pBpa111)とEGFRの共沈澱及びEGFRのTyr1068のリン酸化が確認された(図3b、c、レーン3、4)。以上から、Grb2(pBpa111)は、EGFR上のリン酸化Tyr1068との結合能力を保持し得ることが確認された。
(Grb2(pBpa111)とEGFRとのクロスリンク)
Grb2とEGFRとのクロスリンクの解析結果を図4に示す。Grb2(pBpa111)を発現させた細胞では約200kDaの位置に単一のバンドが検出されたが(図4a、b、レーン8、9)、野生型のGrb2を発現させた細胞ではバンドは検出されなかった(図4a、b、レーン1〜5)。このバンドは、次の理由から、Grb2(pBpa111)とEGFRのクロスリンク複合体であると結論された。第1に、分子質量がEGFR(170kDa)とGrb2(25kDa)の質量の合計に相当する。第2に、このバンドの検出が光照射とpBpaの存在に依存している。第3に、この産物は抗FLAG抗体のみならず、抗EGFR抗体によっても検出された。
副産物である150kDaEGFRは、Grb2(pBpa111)とクロスリンクしなかった。この副産物は細胞表面で適切に発現せず、たとえEGF独立性のY1068がリン酸化されていてもGrb2と結合することはできなかったと考えられる。そして、この副産物とGrb2との共免疫沈澱は、細胞抽出物の調製又は抗体とのインキュベーションの間に起きた非生理的結合によるものであったと考えられる。したがって、本方法は、細胞環境で形成された天然複合体を特異的に検出するのに有用である。EGFRとGrb2との相互作用は、EGF依存的である。すなわち、EGFRとGrb2は、最初から構造体を形成しているのではなく、EGFの刺激に対してEGFRの特定部位がリン酸化され、これにGrb2が結合する。EGF刺激がないときにはクロスリンクは生じず、細胞内の一連のシグナル伝達があって初めてクロスリンクが生じるのである。このことから、クロスリンクが細胞内の正しい現象をよく反映していることがわかる。
Grb2とEGFRとのクロスリンクの解析結果を図4に示す。Grb2(pBpa111)を発現させた細胞では約200kDaの位置に単一のバンドが検出されたが(図4a、b、レーン8、9)、野生型のGrb2を発現させた細胞ではバンドは検出されなかった(図4a、b、レーン1〜5)。このバンドは、次の理由から、Grb2(pBpa111)とEGFRのクロスリンク複合体であると結論された。第1に、分子質量がEGFR(170kDa)とGrb2(25kDa)の質量の合計に相当する。第2に、このバンドの検出が光照射とpBpaの存在に依存している。第3に、この産物は抗FLAG抗体のみならず、抗EGFR抗体によっても検出された。
副産物である150kDaEGFRは、Grb2(pBpa111)とクロスリンクしなかった。この副産物は細胞表面で適切に発現せず、たとえEGF独立性のY1068がリン酸化されていてもGrb2と結合することはできなかったと考えられる。そして、この副産物とGrb2との共免疫沈澱は、細胞抽出物の調製又は抗体とのインキュベーションの間に起きた非生理的結合によるものであったと考えられる。したがって、本方法は、細胞環境で形成された天然複合体を特異的に検出するのに有用である。EGFRとGrb2との相互作用は、EGF依存的である。すなわち、EGFRとGrb2は、最初から構造体を形成しているのではなく、EGFの刺激に対してEGFRの特定部位がリン酸化され、これにGrb2が結合する。EGF刺激がないときにはクロスリンクは生じず、細胞内の一連のシグナル伝達があって初めてクロスリンクが生じるのである。このことから、クロスリンクが細胞内の正しい現象をよく反映していることがわかる。
サプレッサーtRNAと加工されたアミノ酸特異性を有するaaRS変異体のペアは、大腸菌細胞、酵母、哺乳動物細胞中で発現し、蛋白質に結合するアミノ酸のレパートリーが広がった。この技術は、pBpaを含むGST分子の間を大腸菌中で光クロスリンクするためにすでに用いられている。本実施例の結果は、チロシンリン酸化に依存して互いに相互作用する細胞シグナル蛋白質に関係し、そして遺伝コード拡張に伴う生体内クロスリンクが哺乳動物細胞内のいろいろな蛋白質−蛋白質相互作用に適用し得るということを示唆している。
クロスリンク蛋白質複合体は共有結合のため安定であり、細胞抽出中の解離はありえない。この利点により、共免疫沈澱によっては検出されないような、蛋白質間の一瞬の又は弱い相互作用によって形成された複合体を分離することができる。さらに、共有結合は光に晒した細胞中で形成されるため、細胞抽出中又は抗体とインキュベーション中に起こる間違った相互作用が排除できる(例えば150kDaのEGFR副産物)。これらの利点は、細胞シグナル伝達経路を研究する上で有用である。
蛋白質クロスリンクは、巨大分子複合体内である蛋白質の位置を他の蛋白質の位置に対して決定するのに利用されてきている。2つの蛋白質のクロスリンクの形は、介在的要因なしで、複合体中のこれらの蛋白質間の直接的な接触を示す。クロスリンク剤となるアミノ酸の部位特異的結合は、相互作用する蛋白質の近くにある蛋白質のその部位を正確に特定することができる。2量体の境界から離れているGSTのある位置にpBpaが結合していると、クロスリンクは起こらないという報告がされてきた。本実施例によれば、リガンドペプチドを持つGrb2の結晶構造に基づいてpBpaが結合するためのGrb2の位置を選択した。Grb2とEGFRとの間のクロスリンクは、Grb2の111位の残基がレセプターと相互作用する境界に位置することを確証した。
クロスリンク蛋白質複合体は共有結合のため安定であり、細胞抽出中の解離はありえない。この利点により、共免疫沈澱によっては検出されないような、蛋白質間の一瞬の又は弱い相互作用によって形成された複合体を分離することができる。さらに、共有結合は光に晒した細胞中で形成されるため、細胞抽出中又は抗体とインキュベーション中に起こる間違った相互作用が排除できる(例えば150kDaのEGFR副産物)。これらの利点は、細胞シグナル伝達経路を研究する上で有用である。
蛋白質クロスリンクは、巨大分子複合体内である蛋白質の位置を他の蛋白質の位置に対して決定するのに利用されてきている。2つの蛋白質のクロスリンクの形は、介在的要因なしで、複合体中のこれらの蛋白質間の直接的な接触を示す。クロスリンク剤となるアミノ酸の部位特異的結合は、相互作用する蛋白質の近くにある蛋白質のその部位を正確に特定することができる。2量体の境界から離れているGSTのある位置にpBpaが結合していると、クロスリンクは起こらないという報告がされてきた。本実施例によれば、リガンドペプチドを持つGrb2の結晶構造に基づいてpBpaが結合するためのGrb2の位置を選択した。Grb2とEGFRとの間のクロスリンクは、Grb2の111位の残基がレセプターと相互作用する境界に位置することを確証した。
本発明の検出方法は、免疫沈殿法が有する問題点を解消し、動物細胞内での蛋白質間相互作用の検出を高精度で行うことができる。例えば、シグナル伝達系の相互作用やガン遺伝子産物に対する相互作用等動物細胞特有の相互作用の検出に有用である。
Claims (7)
- クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸に特異的な原核生物由来のチロシルtRNA合成酵素変異体と、前記チロシルtRNA合成酵素変異体の存在下で前記非天然型アミノ酸と結合可能な原核生物由来のサプレッサーtRNAと、所望の位置にナンセンス変異を受けた所望の蛋白質遺伝子と、を動物細胞中で発現させ、前記蛋白質のナンセンス変異の位置に前記非天然型アミノ酸を取り込ませて非天然型アミノ酸組み込み蛋白質を発現させる第1工程、
前記動物細胞に特定波長の光を照射する第2工程、
蛋白質間相互作用の有無を検出する第3工程、
を有することを特徴とする蛋白質間相互作用の検出方法。 - クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸が、ベンゾフェノン骨格を有するものである請求項1に記載の蛋白質間相互作用の検出方法。
- クロスリンク剤となりうる非天然型アミノ酸が、p−ベンゾイル−L−フェニルアラニンである請求項1又は2に記載の蛋白質間相互作用の検出方法。
- 蛋白質間相互作用が、チロシンキナーゼ型レセプターの相互作用である請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛋白質間相互作用の検出方法。
- 蛋白質間相互作用が、上皮成長因子受容体の相互作用である請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛋白質間相互作用の検出方法。
- チロシルtRNA合成酵素変異体が由来する原核生物が大腸菌である請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛋白質間相互作用の検出方法。
- サプレッサーtRNAが由来する原核生物が、バチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)である請求項1〜6のいずれか1項に記載の蛋白質間相互作用の検出方法。
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2005
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WO2006057391A1 (ja) | 2006-06-01 |
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