JP4465810B2 - ポリエステル組成物およびフィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル組成物およびフィルムに関するものであり、特に、オリゴマー析出抑制性に優れ、粗大突起・欠点が少ないポリエステル組成物およびフィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレート(以下PETという)フィルムは優れた機械的特性、熱的特性、電気的特性により産業用途に広く使用され、需要量も増大している。しかしながら、用途および需要拡大に伴い、ポリエステルに要求される特性および生産性も、それぞれの用途分野においてますます厳しくなってきており、工業用、磁気材料用等多岐に渡って生産されている一方、解決すべき課題も数多くある。
【0003】
磁気記録媒体としてポリエステルフィルムを用いる場合、高記録密度の観点から表面の粗大突起や欠点は出来る限り少なくしなくてはならないが、ポリエステルフィルムには、宿命的に抱える問題として、オリゴマーの問題がある。ポリエステルは、その重合時にオリゴマーを副生し、PETの場合は、エチレンテレフタレート環状三量体を主成分としたオリゴマーを1〜3重量%程度も含有するため、フィルムとした場合は経時とともに表面にこれらオリゴマーが析出し、これが粗大突起を形成する。特に磁気材料フィルムとして用いる場合には、このような表面析出オリゴマーに基づく粗大突起は磁性層のデータ抜けの原因となるため、表面析出オリゴマーをいかに抑制するかが一つの課題である。
【0004】
こうした課題の解決策としては、特開昭58−145418号公報に開示されているように、脂肪族モノカルボン酸のエステルを添加して、製膜時のドラム上にオリゴマーなどの低分子量物が堆積することを抑える技術があったが、当該添加物中に含まれる異物に基づくフィルム表面の粗大突起の発生が問題であり、また、製膜後のオリゴマー析出抑制効果としても不十分であった。また、特開平11−188825号公報に記載されているように、有機スルホン酸アルカリ金属塩などの添加物を加えると、フィルム表面へのオリゴマー析出が押さえられるが、この方法では、フィルム表面に凹み状の欠点を生じ、また、製膜性も低下してしまう問題があった。これら技術では、特に平滑表面の形成という観点から見た場合、磁気記録媒体としての使用には耐えないものであった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の課題は、粗大突起・欠点が少なく、表面性に優れ、オリゴマー析出抑制性、生産性に優れたポリエステルフィルムを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記した本発明の課題は、炭素数10〜30の高級脂肪酸成分、炭素数10〜30の高級脂肪族アルコール成分、もしくはこれらのエステル化合物を合計で0.1〜5重量%含有し、かつGPCによる分子量多分散度の測定値が、下記の(1)、(2)式を同時に満足することを特徴とするポリエステル組成物により解決できる。
【0007】
Mw/Mn>4.40 (1)
Mz/Mw>2.00 (2)
(ただし、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量、MzはZ平均分子量)
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明における炭素数10〜30の高級脂肪酸成分とは、炭素数9〜29の直鎖または側鎖構造の飽和または不飽和炭化水素化合物のモノカルボン酸成分を指す。例えば具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸などをあげることができる。炭素数は、好ましくは12〜25、より好ましくは13〜23であり、その点からミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸が好ましい。炭素数が10未満であると、重合時添加を行った場合などに飛散しやすい。一方、炭素数が30を越えると、ポリエステルへの相容性が低下する。
【0009】
炭素数10〜30の高級脂肪族アルコール成分とは、炭素数10〜30の直鎖または側鎖構造の飽和または不飽和炭素化合物のアルコール成分を指す。例えば具体的には、モノアルコールとしては、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、ヘキサデカノール、ステアリルアルコール、オレインアルコールなどがあげられる。炭素数は、好ましくは12〜25、より好ましくは13〜23であり、その点からミリスチルアルコール、ヘキサデカノール、ステアリルアルコールなどが好ましい。炭素数が10未満であると、重合時添加を行った場合などに飛散しやすい。一方、炭素数が30を越えると、ポリエステルへの相容性が低下する。
【0010】
これらのエステル化合物とは、上記の高級脂肪酸と高級脂肪族アルコールの組み合わせによる、炭素数20〜60の高級脂肪族エステル化合物であり、中でも、ミリスチルステアレート、パルミチルパルミテート、ステアリルステアレートなどが好ましい。このエステル化合物は、単一の高級脂肪酸と高級アルコールのエステル化合物であっても良いし、複数の組み合わせの混合物であっても構わない。
【0011】
これら炭素数10〜30の高級脂肪酸成分、炭素数10〜30の高級脂肪族アルコール成分、もしくはこれらのエステル化合物のポリエステル組成物に対する含有量は、合計で0.1〜10重量%であり、好ましくは0.5〜8重量%、さらに好ましくは1〜5重量%である。含有総量が0.1重量%未満であると、十分なオリゴマー析出抑制能が得られない。10重量%を越えると、重合時に添加する場合には重合反応性の低下、混練機などによる添加の場合には押し出し不良などのトラブルを引き起こすばかりか、ポリマーの耐熱性も低下する。
【0012】
本発明のポリエステル組成物のGPCによる分子量多分散度の測定値は下記の(1)、(2)式を同時に満足するものである。
【0013】
Mw/Mn>4.40 (1)
Mz/Mw>2.00 (2)
(ただし、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量、MzはZ平均分子量)また、下記の(3)、(4)式を同時に満足することがより好ましい。
【0014】
Mw/Mn>4.50 (3)
Mz/Mw>2.00 (4)
このMw、Mn、Mzは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にLALLS(低角度レーザー光散乱光度計)、RI(示差屈折率計)を組み合わせた装置により測定した値である。
【0015】
(1)、(2)式の下限を下回ると、このポリエステルを溶融製膜する際に、口金から分解物が飛散したりしやすく、口金やキャスティングドラムを汚すため、生産性を低下させ、また、オリゴマー析出抑制能も低下する。(1)式および(2)式を満たすための本発明のポリエステルの製造法については、後に述べる。なお、Mw/MnおよびMz/Mwの値が、あまりに大きいと、フィルム延伸時に破れが多発したり、フィルムの機械的特性が低下するので、好ましくはMw/Mn<6.00、Mz/Mw<2.2である。
【0016】
高級脂肪酸成分と高級脂肪族アルコール成分もしくはこれらのエステル化合物をポリエステル組成物に含有させる方法は、特に限定されるものではないが、高級脂肪酸と高級脂肪族アルコールのエステル化合物として添加されることが好ましい。こうした化合物としては、先に挙げたステアリルステアレート、ミリスチルステアレート、パルミチルステアレートなどの他、カルナウバワックス、インセクトワックスなどの、いわゆる天然ワックス化合物などがあげられる。こうした方法を採る場合、高級脂肪酸と高級アルコールをそれぞれ独立に添加する方法に比べて、工程的に簡便であるばかりでなく、工程中の系外への飛散が抑えられ、残存率の低減を防ぐことが出来る。
【0017】
本発明においてポリエステル組成物は、エチレンテレフタレート成分を主な構成成分とすることが耐熱性、機械特性の点で好ましいが、その他共重合成分として各種ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールを共重合して、耐熱性、高剛性、制電性等さらなる特性を付与することもできる。
【0018】
共重合し得るジカルボン酸成分としては、例えばイソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸もしくはこれらのエステル形成性誘導体等を挙げることができる。その他、共重合し得る脂環族ジカルボン酸成分として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を挙げることができる。また、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、その他のジカルボン酸も共重合成分として用いることができる。
【0019】
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等の脂肪族、脂環族、芳香族ジオール等を挙げることができる。これらの成分は1種のみ用いてもよく、また2種以上併用してもよい。
【0020】
また、エステル化およびエステル交換反応には、従来公知の触媒を用いることが出来る。例としては、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸リチウムなどの酢酸塩が挙げられる。
【0021】
重合触媒としては、触媒の還元などにより、金属の異物となり易いものは出来るだけ少ないか、もしくは用いないことが好ましい。具体的には、従来公知の3酸化2アンチモン、あるいはチタン系の化合物は反応中に還元されて金属異物を生成し易いため、好ましくは本発明のポリエステル組成物はゲルマニウム化合物を用いて重合されたものであり、酸化ゲルマニウムを用いて重合されたものである。酸化ゲルマニウムは、反応中に還元されて金属異物となることが無く好適である。酸化ゲルマニウム化合物には、結晶性のものと非晶性のものがあるが、結晶性のものは、あらかじめアミン化合物などのアルカリ性化合物と主にグリコールに溶液化して添加することが好ましく、また、非晶性のものは、あらかじめグリコールに100〜150℃程度の温度で溶液化して添加することが好ましい。
【0022】
本発明のポリエステル組成物は、従来公知のポリエステルの製造方法に従って製造することができる。
【0023】
すなわち、酸成分としてジアルキルエステルを用い、これとジオール成分とでエステル交換反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して、余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造することができる。また、酸成分としてジカルボン酸を用いて、従来公知の直接重合法により製造することもできる。
【0024】
また、こうして得られたポリエステルは、固相重合を施すことにより、環状三量体を始めとするオリゴマーを低減させ、さらに重合度を上げることもできる。固相重合は、窒素流通下もしくは66.5Pa以下の減圧下において、180℃〜融点の範囲内の温度で5〜50時間加熱することにより行われる。
【0025】
高級脂肪酸と高級脂肪族アルコール、もしくはこれらのエステル化合物を添加する時期および方法は、特に限定されるものではなく、重縮合反応工程前の低重合体に総量として0.1〜10重量%添加、撹拌混合する方法、もしくは重縮合反応終了前に添加、混練を行い、ポリエステル組成物を得る方法、また、二軸混練押出機等を用いて、ポリエステルチップに混練する方法などがあげられるが、重合反応終了前に添加するのが、工程的簡便性および品質の安定性の上から好ましい。Mw/MnおよびMz/Mwを(1)式および(2)式の範囲とするためには、重合時添加およびチップに混練する方法いずれの場合においても、混練時間をなるべく長くとることが必要である。具体的には、例えば、重合反応終了前に添加する場合には、その後再度系内を真空に戻し、30分以上、好ましくは60分以上、より好ましくは90分以上の混練・再重合反応を行う。また、添加前のポリエステルの[η]は、0.75以下が好ましく、より好ましくは0.72以下である。添加前の[η]が0.75を越えると、高級脂肪族化合物とポリエステルの粘度差が大きいため、分散性が低下し、Mw/MnおよびMz/Mwも低下する。これらの方法をとることにより、Mw/MnおよびMz/Mwをより大きな値とすることができる。
【0026】
高級脂肪酸と高級脂肪族アルコールのエステル化合物は、必要であれば、目開き2μm以下のフィルターで濾過された上で添加されることが好ましく、目開き1.5μm以下のフィルターで濾過されることがより好ましい。具体的には、カートリッジフィルターを用いての濾過が好ましい。フィルターの目開きは出来る限り細かいことが好ましいが、あまりに目が小さいと、ワックスの粘度の高さによる濾過速度が低下するため、生産性も考慮すれば、目開き0.1μm以上が好ましい。特に、天然ワックス化合物の場合は、天然物由来の粗大な異物を多く含んでおり、そのまま添加した場合には、フィルムとした場合などに異物が表面の粗大突起を形成するため、磁気記録媒体など、微細な表面設計が必要となる用途では、こうした濾過作業は非常に重要となる。好ましくは、原料からの異物管理が可能なことから、天然ワックスよりも、先に挙げたような、高級脂肪酸と高級脂肪族アルコールのエステル化反応により得られる、合成ワックスがより好ましく用いられる。また、この場合、濾過時の濾圧が低いことも、生産性の面では重要な要素であり、この点からも、ワックスを構成する総炭素数の上限は60以下であることが好ましいのである。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムは、このようにして得られたポリエステル組成物を含有するものであり、その含有量は好ましくは1〜100重量%、より好ましくは5〜100重量%である。含有率は、他のポリエステルとあらかじめドライブレンドなどをした上で押出機に供給することにより、適宜変更できるが、本発明のポリエステル組成物を含む量が1重量%未満である場合は、均一にブレンドすることが困難であり好ましくない。本発明のポリエステル組成物の含有量を変更することにより、高級脂肪酸成分と高級脂肪族アルコール成分もしくはこれらのエステル化合物のフィルム中の含有量を変更することが出来る。この際、得られたフィルム中の高級脂肪酸成分、高級脂肪族アルコール成分、もしくはこれらのエステル化合物の総量が0.1重量%〜2重量%となるようにブレンドすることが好ましい。0.1重量%未満であると、充分なオリゴマー析出抑制性を得られない。2重量%を越えると、高級脂肪酸成分、高級脂肪族アルコール成分、もしくはこれらのエステル化合物そのものが、製膜工程中に口金を汚したり、製膜後のフィルム表面にブリードアウトするなどの問題となる可能性がある。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムは、本発明のポリエステル組成物を、必要に応じて他のポリエステル組成物とドライブレンドした後に乾燥後、常法にしたがって、口金より溶融押出して未延伸シートとし、続いて2軸延伸、熱処理することにより、製造することができる。
【0029】
また、積層フィルムとする場合には、矩形積層部を備えた2層またはそれ以上の合流ブロックにて、各層が目的の厚み比および構成となって積層するように、各ポリエステル組成物をフィードし、口金から押し出すこと以外は、上記単膜の場合と同様に製造できる。積層構成とすることにより、例えば、実際磁気テープのベースフィルムとして用いた場合の、磁性層およびバックコート層との親和性、平滑性などを考慮した表面設計を行うことが出来るようになる。具体的には、磁性層側とバックコート層側を区別した表面設計が可能な2層以上の構成であることが好ましい。2層以上の構成とすることにより、各層への供給ポリマーのバリエーションにより、様々な用途への展開が可能となる。このような本発明の積層ポリエステルフィルムの具体例としては、本発明のポリエステル組成物を含有するA層と、本発明のポリエステル組成物を含有しないB層とからなる2層構成の積層ポリエステルフィルムや、さらにB層側に磁性体に対する易接着成分等のコーティング層を形成したもの、あるいは、ポリエステル組成物からなる3層以上の積層体であり、両外層は本発明のポリエステル組成物を含まず、内層が本発明のポリエステル組成物を含有する構成としたもの等が挙げられる。こうした構成はこれらに限定されるものではなく、積層構成および各層のポリエステル組成物含有率をコントロールすることによって様々な品種に展開が可能である。
【0030】
また、フィルムに易滑性を与えるために、無機もしくは有機粒子を適宜配合しても良い。
【0031】
無機粒子としては、特に限定されるものではなく、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、ケイ酸アルミニウム等の化合物が挙げられる。また、有機粒子としては架橋ポリマー粒子等を挙げることが出来る。
【0032】
これら粒子は、ポリエステル重合工程中に粒子を添加した粒子含有マスターポリマーを用いることで含有させてもよいし、ポリエステルに二軸押出機等で粒子を添加・混練することで含有させてもよい。また、粒子を含有した溶液を、製膜工程中のフィルムにインラインコーティングするか、もしくはオフラインコーティングし、乾燥することにより粒子層を形成してもよい。
【0033】
2軸延伸は縦、横逐次延伸あるいは2軸同時延伸のいずれでもよく、延伸倍率は特に限定されるものではないが、通常は縦、横それぞれ2.0〜5.0倍が適当である。あるいは縦、横延伸後、縦、横方向のいずれかに再延伸してもよい。また、易接着層、粒子層等を形成する場合は、延伸前、または縦延伸と横延伸の間でコーティング成分をインラインで塗布してもよいし、延伸後オフラインコーティングしてもよい。
【0034】
また、こうして得られたフィルムは、熱処理指数が60以下であるのが好ましく、更に好ましくは50以下である。この熱処理指数が60を越えるフィルムは、フィルム保管の長期化に伴ってオリゴマーが表面に析出しやすいため、例えば磁気記録媒体に用いた場合には、これが記録欠陥を引き起こしたり磁気記録ヘッドの目詰まりを起こす場合もある。
【0035】
また、磁気テープとして本発明のフィルムを用いる場合は、最長径2μm以上の粗大突起が20個/mm2以下であることが好ましく、より好ましくは15個/mm2以下である。粗大突起数が20個/mm2を越えると、磁気記録媒体などの用途においては、磁気記録および読み出しヘッドとの接触性が不安定となり、データ抜けなどのトラブルを引き起こしやすくなる。
【0036】
本発明のポリエステル組成物は、特にフィルムとした場合、粗大突起・欠点が少なく、オリゴマー析出抑制性、生産性に優れたものであり、特に磁気記録媒体用のフィルムとして好適である。また、生産時のオリゴマー汚れも低下し、フィルムの保管期間が長くなってもフィルム表面にオリゴマー起因の汚れが出ないので、光学材料、包装材料、電気絶縁材料などの用途にも有用である。
【0037】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、実施例中の各特性は、次の方法により測定した。
【0038】
A.ポリマーの固有粘度([η]):
o−クロロフェノールを溶媒として、25℃で測定した。
【0039】
B.ポリエステル組成物の絶対分子量(Mw、Mn、Mz)
GPC装置として、ウォーターズ社製244型ゲル浸透クロマトグラフ、カラムは昭和電工社製ShodexHFIP806Mを用い、LALLS装置としてChromatix社KMX−6型低角度レーザー光散乱光度計を用い、測定溶媒ヘキサフルオロイソプロパノール、測定温度23℃で測定した。
【0040】
C.製膜性
製膜時に特に問題がなければ○、口金から白煙が出たり、キャスティングドラムを汚す場合は×とした。
【0041】
D.熱処理指数
熱処理指数を求めるフィルム(b)に対して、高級脂肪酸成分、高級脂肪族アルコール成分、もしくはこれらのエステル化合物のいずれも含有しない他はフィルム厚み、積層構成、積層厚など構成が全く等しいフィルム(a)を準備する。
【0042】
150℃で30分、オーブン中に放置し、オリゴマーなどの低分子量体を強制的にフィルム表面に析出させ、表面をアルミニウム蒸着して微分干渉顕微鏡で総合倍率400倍で10視野観察する。各視野でのオリゴマーなどの低分子量体の個数を数え、その総数を表面オリゴマー析出個数(個/mm2)に換算し、フィルムa、bそれぞれの析出個数をA、Bとしたとき、熱処理指数は下記式で算出される。
熱処理指数=B/A ×100。
【0043】
E.フィルム表面の粗大突起
フィルム表面をアルミニウム蒸着して微分干渉顕微鏡で総合倍率400倍で10視野観察する。各視野での、最長径2μm相当の粗大突起の個数を数え、その総数を単位面積あたりの個数(個/mm2)に換算した。
【0044】
参考例1
ポリエチレンテレフタレートポリマー(PL)の製造:
ジメチルテレフタレート100重量%、エチレングリコール60重量%の混合物に、ジメチルテレフタレート量に対して酢酸マグネシウム0.04重量%を添加して、常法により加熱昇温してエステル交換反応を行なった。次いで、該エステル交換反応生成物に、ジメチルテレフタレート量に対して、リン酸トリメチル0.02重量%を添加、さらに酸化ゲルマニウムを0.02重量%添加した後、重縮合反応層に移行した。次いで、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して66.5Pa以下の減圧下、290℃で常法により重合し、固有粘度[η]=0.61のポリエチレンテレフタレートを得た。因みに、Mw/Mn=4.08、Mz/Mw=1.89であった。
【0045】
参考例2
粒子含有ポリエステルチップ(PS)の製造:
重縮合反応層に移行する前に、粒子径0.05μmのシリカ粒子の5重量%エチレングリコールスラリーをジメチルテレフタレート量に対して粒子量として1重量%添加する以外は、PETと同様の方法により、[η]=0.60の粒子含有ポリエステルのチップを得た。因みに、Mw/Mn=4.15、Mz/Mw=1.95であった。
【0046】
実施例1
ジメチルテレフタレート100重量%、エチレングリコール60重量%の混合物に、ジメチルテレフタレート量に対して酢酸マグネシウム0.04重量%を添加して、常法により加熱昇温してエステル交換反応を行なった。次いで、該エステル交換反応生成物に、ジメチルテレフタレート量に対して、リン酸トリメチル0.02重量%を添加、さらに酸化ゲルマニウムを0.02重量%添加した後、重縮合反応層に移行した。次いで、加熱昇温・攪拌しながら反応系を徐々に減圧して66.5Pa以下の減圧下、285℃で常法により重合し、固有粘度[η]=0.68相当まで攪拌トルクが上がった時点で、反応系内を一旦常圧に戻し、目開き2μmのカートリッジフィルターによって濾過したステアリルステアレート2. 0重量%を添加した。その後再度系内を30分かけて66.5Pa以下まで減圧し、90分間混練後、系内を窒素でリークして吐出、[η]=0.54のポリエステル組成物を得た。このポリエステルのMw/Mn=4.90、Mz/Mw=2.06であった(このポリエステル組成物を、J1と呼ぶ)。結果を表1に示した。
【0047】
実施例2〜7
添加物、添加量、添加前[η]、減圧下の混練時間を表中の値とする他は、実施例と同様の方法で重合を行い、ポリエステル組成物J2〜J7を得た。結果を表1に示す。
【0048】
実施例8
添加物として、カルナウバワックスを用いた。添加前に実施例1同様濾過を行ったが、非常に濾圧が高く、また、天然物起因の異物がステアリルステアレートなど合成ワックスに比べて多いためか、フィルターがすぐに閉塞し、必要量を得るまでに3回のフィルター交換を必要とした。重合反応およびポリエステルの物性に関しては、合格レベルであった。結果を表1に示す。
【0049】
実施例9
添加物として、ステアリルアルコールとステアリン酸を用いる他は、実施例1と同様にポリエステル組成物を得た。添加後に重合缶内を再度減圧する過程で、飛散量が多かったためと思われるが、添加成分としては同量でも、実施例1に比べて分子量多分散度は若干低めであった。
【0050】
実施例10
目開き2.0μmのフィルターで濾過して得られたステアリルステアレートを、液体ニーダー付きホッパーAに80℃で溶融した状態で仕込み、ホッパーBに参考例1で得たポリエステル(PL)を仕込み、ポリエステルに対してステアリルステアレートが2.0重量%となるようにホッパーA、Bからステアリルステアレート、ポリエステルを、ベント式2軸押出機に供給し、ベント口を1.3KPaの真空度に保持し、温度280℃、滞留時間40分となるように混練してポリエステルを得た。分子量多分散度の値は合格レベルではあるが、重合時添加に比べると低い値であった。
比較実施例1
ステアリルステアレートの添加量を15重量%とするほかは、実施例1と同様に重合を試みた。系内を再度真空に戻す際、激しい突沸が見られた。また、再重合90分で攪拌トルクが全く上がらず、重合度が落ちたまま復帰しないようであった。吐出を試みたが、粘度が低く、ポリマーチップが得られなかった。
【0051】
比較実施例2
ステアリルステアレートを添加後、再度系内を真空に戻してすぐ吐出する他は、実施例1と同様にポリエステル(H1)を得た。得られたポリエステルは、分子量多分散度、[η]ともに低い値であった。
【0052】
比較実施例3
添加前[η]を0.77と高くする他は、実施例1と同様にポリエステル組成物を得た。分子量多分散度は低い値を示した。
【0053】
比較実施例4
滞留時間が20分となるようにスクリューアラインメント・供給量および回転数を変更する他は、実施例10と同様にポリエステルを得た。滞留(混練)時間が短いためか、分子量多分散度は小さい値を示した。
【0054】
実施例11,12
添加物の濾過を行わない他は、実施例1,8と同様にポリエステルを得た。分子量多分散度は合格レベルであった。
【0055】
実施例13
PLとPSとJ1を、その重量比が50:30:20となるようにドライブレンドし、160℃で3時間乾燥後、押出機に供給し、キャスティングドラム上に溶融押出して、キャストドラム上に制電印可をかけながら融着させて急冷固化し、未延伸フィルムとした後、これを90℃で縦に3.5倍、105℃で横に3.5倍ずつ延伸し、厚み8μmのポリエステルフィルムを得た。製膜性に特に問題もなく、こうして得られたフィルムは、表2に示すように粗大突起が少なく、熱処理指数も低く良好なオリゴマー析出抑制性を示した。結果を表2に示す。
【0056】
実施例14〜22
J1の替わりに、J2〜J10を表中に示した重量分率でドライブレンドして用いる他は、実施例13と同様にポリエステルフィルムを得た。表面の粗大突起、オリゴマー析出抑制性いずれも合格レベルであった。結果を表2に示す。
【0057】
実施例23,24
J1の替わりに、J11、J12を表中に示した重量分率でドライブレンドして用いる他は、実施例13と同様にポリエステルフィルムを得た。オリゴマー析出抑制性では合格レベルであった。ただし、表面の粗大突起が多いため、磁気材料など微細な表面の形成が要求される用途には適さないようであった。結果を表2に示す。
【0058】
実施例25
溶融押し出し口金を、1層から、A/B/A三層のものに取り替え、原料供給ホッパーもA、Bの二つを押出機に取り付けた。A層に、PLとPSを重量比70:30となるようにドライブレンド後乾燥したチップを供給し、B層にはPLとJ1を乾燥・ドライブレンド後、重量比80:20となるように供給し、A/B/Aの厚み比が1/6/1となるように押し出す他は、実施例13と同様に製膜して、厚み8μmのポリエステルフィルムを得た。内層に本発明のポリエステル組成物を含む場合でも、良好なオリゴマー析出抑制性を示した。結果を表2に示す。
【0059】
比較実施例5
ポリマーとしてPLとPSのみを使用するほかは、実施例13と同様にポリエステルフィルムを得た。オリゴマー析出抑制性が全くないフィルムであった。
【0060】
比較実施例6〜8
J1の替わりに、H1〜H3を表中に示した重量分率でドライブレンドして用いる他は、実施例13と同様にポリエステルフィルムを得た。いずれも製膜時に押し出し口金から白煙を生じた。得られたフィルムのオリゴマー析出抑制性は、いずれも合格レベルには達しなかった。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【発明の効果】
本発明のポリエステル組成物およびフィルムは、オリゴマー析出抑制性、生産性に優れたポリエステルフィルムであり、例えば磁気記録媒体用フィルムとして用いた場合、長期間使用してもデータ抜け等の欠点が生じず、非常に好適である。
Claims (7)
- 炭素数10〜30の高級脂肪酸成分、炭素数10〜30の高級脂肪族アルコール成分、もしくはこれらのエステル化合物を合計で0.1〜10重量%とゲルマニウム化合物を含有し、かつGPCによる分子量多分散度の測定値が、下記の(1)、(2)式を同時に満足することを特徴とするポリエステル組成物。
Mw/Mn>4.40 (1)
Mz/Mw>2.00 (2)
(ただし、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量、MzはZ平均分子量) - 高級脂肪酸成分と高級脂肪族アルコール成分もしくはこれらのエステル化合物が、高級脂肪酸と高級脂肪族アルコールのエステル化合物として添加されたものである請求項1記載のポリエステル組成物。
- 高級脂肪酸と高級脂肪族アルコールのエステル化合物が目開き2μm以下のフィルターで濾過されたものである請求項2に記載のポリエステル組成物。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル組成物を含有してなるポリエステルフィルム。
- 以下に規定する熱処理指数が60以下である請求項4記載のポリエステルフィルム。
フィルムb:測定対象フィルム
フィルムa:高級脂肪酸成分、高級脂肪族アルコール成分、もしくはこれらのエステル化合物のいずれも含有しない他はフィルム厚み、積層構成、積層厚など構成がフィルムbと全く等しいフィルムとしたとき、フィルムを150℃で30分、オーブン中に放置後、表面をアルミニウム蒸着して微分干渉顕微鏡で総合倍率400倍で10視野観察し、各視野での表面オリゴマー析出個数(個/mm 2 )に換算し、フィルムa、bそれぞれの析出個数をA、Bとしたとき算出される以下の数値を熱処理指数とする。
熱処理指数=B/A×100 - 最長径2μm以上の粗大突起が20個/mm2以下である請求項4または5に記載のポリエステルフィルム。
- 2層以上からなる積層フィルムであって、そのうちの少なくとも1層が請求項4〜6のいずれかに記載のポリエステルフィルムである積層ポリエステルフィルム。
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