JP4076446B2 - ポリアルキレンナフタレート組成物及びそれからなるフィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリアルキレンナフタレート組成物及びそれからなるフィルムに関する。さらに詳しくは、溶融安定性に優れ、表面平坦性および厚み均一性に優れた、特に磁気記録媒体のベースフィルムに好適なポリアルキレンナフタレート組成物及びそれからなるフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリアルキレンナフタレートは、優れた物理的および化学的性質を有することから、繊維、フィルム、樹脂等に利用されている。中でもポリエチレンナフタレートは、強度、耐熱性、耐薬品性等の諸特性と生産コストとを両立し得るポリマーとして、多く利用されており、例えば写真用フィルムや磁気テープ用フィルムに好適に使用されている。
【0003】
ポリエチレンナフタレートフィルムは、通常ポリエチレンナフタレートを口金より溶融押出し、押出したフィルム状溶融物を回転冷却ドラム表面で急冷して未延伸フィルムとし、続いて該未延伸フィルムを縦方向(フィルムの製膜方向)および横方向(フィルムの製膜方向および厚み方向に直交する方向で、フィルムの幅方向と称することもある。)に延伸して製造される。なお、回転冷却ドラム表面で冷却する際、フィルムの表面欠点を無くし厚みの均一性を高める為に、フィルム状溶融物と回転冷却ドラムの表面との密着性を高めることが好ましい。そして、該密着性を高める方法としては、口金から押出されたフィルム状溶融物が回転冷却ドラムの表面に接する点またはその近傍で、かつ、フィルム状溶融物のドラム側とは異なる側の空間に、フィルム状溶融物の幅方向に沿って、ワイヤー状の金属電極(以下、静電ワイヤーという)を設け、該電極に電圧を印加してフィルム状溶融物の表面に静電荷を印加させる方法(以下、静電キャスト法という)が知られている。
【0004】
ところで、フィルムの製膜において、生産性を高めて製造コストを低減することは、フィルム品質の向上とともに重要な課題であるが、製膜を長時間継続すると経時でフィルム表面に筋状欠点が発生してくる。そして、このような筋状欠点(以下、ダイ筋と略す)が発生するとフィルム製品化が困難になるとともに、口金部分の清掃作業が必要となり大幅な生産性悪化を惹起する。ダイ筋の大きな原因は、口金部分及びその周辺に発生する異物であり、主な異物因は、ポリエステルの熱劣化物、ポリエステル中の金属成分の経時に伴う蓄積物またはこれらの複合である。したがって、フィルムの生産性向上や製造コスト低減といった点から、ポリエステルの熱劣化物やポリエステル中金属成分の蓄積物発生を抑制することが求められてきている。
【0005】
この問題に対しては、例えば特開平7−292087号公報において、マグネシウム、カルシウム触媒の併用が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。これらを用いたフィルムでは、触媒金属化合物に起因する突起物やダイ筋を減らす事は出来るものの、要求品質を完全に満たすには至っていない。
【0006】
また、製膜工程での生産性をさらに高めるために、回転冷却ドラムの周速を速くして製膜速度を向上させることも求められてきている。しかし、前記の静電キャスト法において回転冷却ドラムの周速を速めていくと、フィルム状溶融物の表面における単位面積当りの静電荷量が少なくなり、回転冷却ドラムとの密着性が低下する。回転冷却ドラムの周速度を速めた状態で密着性を維持するには、まず前記電極に印加する電圧を高めてフィルム状溶融物上に析出させる静電荷量を多くすることが考えられる。しかし、印加電圧を高めすぎると、電極と回転冷却ドラムの間にアーク放電が生じて冷却ドラム面上のフィルム状溶融物が破壊されたり、ひどい場合は冷却ドラム表面に損傷を与えることもある。したがって、印加電圧の調整だけで製膜速度の高速化を図ることは、実質上不可能である。
【0007】
そこで、このような静電キャスト法の限界を克服し、製膜速度を向上させる方法として、溶融ポリマーの比抵抗または交流体積抵抗率を下げる方法が提案されている。
【0008】
具体的には、特公平7−5765号公報において、ポリマーの重合鎖体中に酸成分に対し0.1〜45mmol%のエステル形成性官能基を有するスルホン酸4級ホスホニウム塩を含有させて、溶融ポリマーの交流体積抵抗率の値を6.5×108Ωcm以下にする方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
また、ビデオ用蒸着テープに代表されるような高密度磁気記録媒体に用いるフィルムは、通常の磁気記録媒体では許容されるレベルの微小突起でもエラー(ドロップアウト)を発生することがあり、より表面の平坦性及び厚みの均一性高められたフィルムが求められてきている。通常、ポリエステルの製造反応は触媒の存在下で行われ、それら触媒の中でもアンチモン化合物は、重縮合反応速度が速く、得られるポリエステルに高い熱安定性、少ない末端カルボキシル基量、高い軟化点、などの優れた諸特性を付与しやすいことから広く用いられてきている。しかし、アンチモン化合物など多くの触媒は、ポリマー及びフィルムの製造過程で析出することが多く、口金部分の異物因となったり、また析出粒子がフィルム表面に小さい突起を形成し、表面欠点のトラブルを惹起することが、特開平8−53541号公報などで提起されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0010】
【特許文献1】
特開平7−292087号公報
【0011】
【特許文献2】
特公平7−5765号公報
【0012】
【特許文献3】
特開平8−53541号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、ポリアルキレンナフタレート組成物の溶融時における固有粘度の低下、およびポリマーに起因する熱劣化物や金属成分に由来する蓄積物を抑制し、またフィルムにしたときに熱劣化物や金属成分の析出に起因した表面平坦性の悪化も抑制した、特に磁気記録媒体のベースフィルムに好適な、ポリアルキレンナフタレート組成物およびそれからなるフィルムを提供することにある。
【0014】
また、本発明の第2の目的は、第1の課題に加えて、フィルムの製膜工程におけるフィルムと冷却ドラムとの密着性をさらに高め、生産性を高めることにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記第1の目的を達成しようと鋭意研究した結果、触媒残渣の析出が少ないチタン化合物と特定割合のリン化合物とを併用し、かつ、ポリアルキレンナフタレート組成物1トン中に含まれるメトキシ末端数を7当量以下とするとき、溶融時の固有粘度の低下が少なく、ポリエステルに起因する劣化物の発生が少ない優れた耐熱性と、フィルムにおける極めて凹凸の少ない表面が得られる平坦性とを具備するポリアルキレンナフタレート組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0016】
かくして本発明によれば、本発明の第1および第2の目的は、チタン化合物を主たる触媒として製造されたポリアルキレンナフタレートからなる樹脂組成物であって、該組成物1トン中に含まれるメトキシ末端基数が7当量以下で、かつ、組成物に含有されるリン化合物とチタン化合物の量が、以下の一般式
【0017】
【数6】
2≦Ti≦15 ・・・(1)
【0018】
【数7】
(式中、Ti、Pは、ポリアルキレンナフタレートの全酸成分のモル数を基準としたときの、それぞれチタン元素およびリン元素の割合(単位:mmol%)を示す。)
を同時に満足し、
【0019】
ポリアルキレンナフタレ−ト組成物がスルホン酸4級ホスホニウム塩化合物を含有し、かつ、その含有量が、以下の一般式
【0020】
【数8】
0.01<S≦10 ・・・(3)
(式中、Sは、ポリアルキレンナフタレートの全酸成分のモル数を基準としたときの、スルホン酸4級ホスホニウム塩化合物の割合(単位:mmol%)を示す)を満足するポリアルキレンナフタレ−ト組成物によって達成される。
【0021】
さらにまた、本発明によれば、本発明のポリアルキレンナフタレート組成物の好ましい態様として、差動走査熱量計を用いて昇温時および降温時に検出される結晶化温度の差および降温結晶化温度に起因するピーク熱量(Ecd)が以下の一般式
【0022】
【数9】
5≦|Tci−Tcd|≦25 ・・・(4)
【0023】
【数10】
1≦Ecd≦10 ・・・(5)
(式中、TciおよびTcdは、差動走査熱量計を用いて測定されたポリアルキレンナフタレートの昇温時および降温時にそれぞれ観測される結晶化温度(単位:℃)を、EcdはTcdピークの発熱量(単位:J/g)をそれぞれ示す。)のいずれかを満足する事が好ましい。
【0024】
さらにまた、本発明によれば、少なくとも一方の表面がこれらの本発明のポリアルキレンナフタレ−ト組成物からなる二軸配向フィルム、また該二軸配向フィルムが磁気記録媒体用である二軸配向フィルムも提供される。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のポリアルキレンナフタレート組成物について説明する。
本発明のポリアルキレンナフタレート組成物を構成するポリアルキレンナフタレートは、ナフタレンジカルボン酸を主たる酸成分とし、脂肪族グリコールを主たるグリコール成分とする、実質的に線状でフィルム形成性、特に溶融成形に対するフィルム形成性を有するポリエステルである。なお、ここでいう、主たるとは、それぞれ70mol%以上、好ましくは80mol%以上がナフタレンジカルボン酸成分または脂肪族グリコール成分であることを意味する。
【0026】
前述のポリアルキレンナフタレートを構成する具体的な酸成分は、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分および2,7−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましく例示でき、特に優れた機械的および化学的特性が得られる2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましい。なお、エステル交換法によってポリアルキレンナフタレートを製造する場合は、これらのジカルボン酸のエステル形成性誘導体(例えば、低級アルキルエステル)を原料として用いればよい。このエステル形成性誘導体としては、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジエチル、2,7−ナフタレンジカルボン酸ジメチル等を挙げることができ、中でも工業的に容易に入手できることから、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルが好ましい。
【0027】
また、前述のポリアルキレンナフタレートを構成する具体的なグリコール成分は、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの炭素数2〜10のポリメチレングリコール、あるいは1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオールを例示することができ、中でも優れた機械的および化学的特性が得られることからエチレングリコールが好ましい。
【0028】
本発明におけるポリアルキレンナフタレートは、表面平坦性や耐熱劣化性などの物性を損なわない範囲で、少量の共重合成分(第三成分)を共重合したコポリマーでもよい。好ましい第三成分としては、グリコール成分がエチレングリコールを主成分とする場合、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを、酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸を主成分とする場合、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などを例示できる。これらのコポリマーの中では、テレフタル酸またはイソフタル酸成分を、全酸成分のモル数を基準として、20mol%以下、さらには10mol%以下の範囲で共重合したものが好ましい。また、これらの第3成分以外に、ヒドロキシ安息香酸の如き芳香族オキシ酸、ω−ヒドロキシカプロン酸の如き脂肪族オキシ酸など、オキシカルボン酸に由来する成分も、表面平坦性や耐熱劣化性などの物性を損なわない限り、含んでいてもかまわない。もちろん、本発明におけるポリアルキレンナフタレートは、表面平坦性や耐熱劣化性などの物性を損なわない限り、光安定剤、酸化防止剤、遮光剤などの機能性を付与するための各種添加剤を含有させてもよい。
【0029】
本発明におけるポリアルキレンナフタレートは、o−クロロフェノール中の溶液として、35℃で測定した固有粘度が、0.5〜0.9dl/gの範囲にあるものが、優れた機械的および化学的特性を有するフィルムを得られることから好ましい。なお、特に断らない限り、本発明における固有粘度は、o−クロロフェノール中の溶液として35℃で測定した値を意味する。
【0030】
本発明におけるポリアルキレンナフタレートは、それ自体公知であるポリエステルの製造方法で製造できる。例えば、ナフタレンジカルボン酸エステルとグリコールとをエステル交換反応させた後、重縮合反応を行う方法、または、ナフタレンジカルボン酸とグリコールとを脱水反応、いわゆる直接エステル化反応させた後、重縮合反応を行う方法を採用すればよい。本発明において好ましいのは前者の製造方法であり、特にナフタレンジカルボン酸のエステル形成性誘導体と脂肪族グリコールとをエステル交換触媒の存在下で加熱してエステル交換反応を行い、次いで重縮合反応触媒の存在下で重縮合反応を行う方法である。
【0031】
ところで、本発明のポリアルキレンナフタレ−ト組成物の最大の特徴は、組成物を構成するポリアルキレンナフタレートがチタン化合物を主たる触媒として製造されたもので、該組成物1トン中に含まれるメトキシ末端基数が7当量以下で、かつ、該組成物中のチタン化合物およびリン化合物の含有量が、それぞれ以下の一般式
【0032】
【数11】
2≦Ti≦15 ・・・(1)
【0033】
【数12】
0.1≦(P/Ti)<1 ・・・(2)
(式中、TiおよびPは、ポリアルキレンナフタレートの全酸成分のモル数を基準としたときの、それぞれチタン元素およびリン元素の割合(単位:mmol%)を示す。)を同時に満足することにある。
【0034】
本発明におけるポリアルキレンナフタレ−ト組成物中に含まれるメトキシ末端基数は、該組成物1トン中に高々7当量、好ましくは6当量以下、特に好ましくは5当量以下である。該メトキシ末端基数が7当量を超えると、該組成物を高温で保持した際の劣化物の生成が多くなり、ダイ筋などが発生する。他方、該メトキシ末端基数の下限は、少ないほど好ましく、特に制限はされない。すなわち、該メトキシ末端基数が7等量未満の場合は、エステル交換反応が十分に進行しているため、続く重縮合反応が容易に進み、重合時の副反応物生成が抑制され、P/Tiが1未満であってもこれら副反応物や未反応メトキシ基に起因する高温保持下での劣化物抑制が達成される。
【0035】
該組成物中のメトキシ末端基数を7当量以下にする方法は、該組成物中のチタン化合物およびリン化合物の量を、前述の一般式(1)および一般式(2)で表される範囲にする事で可能となる。
【0036】
本発明において、チタン化合物を主たる触媒とするとは、エステル交換反応や重縮合反応に用いた全触媒中の金属元素のモル数を基準として、触媒として用いたチタン化合物中のチタン元素のモル数が、50モル%以上であることを意味する。すなわち、本発明は、エステル交換反応や重縮合反応に用いる全触媒の50モル%以上(金属元素量換算)を、析出を抑制しやすいチタン化合物とすることで、フィルムにしたときに触媒の析出による表面の平坦性悪化を抑制したものである。そのため、エステル交換反応や重縮合反応に用いる全触媒の50モル%以上(金属元素量換算)がチタン化合物以外の触媒である場合は、フィルムにしたときに、触媒の析出による表面の平坦性悪化を抑制する効果がほとんど発現されない。全触媒におけるチタン化合物の割合は、好ましくは、上述の金属元素量換算で70モル%以上、特に90モル%以上である。
【0037】
本発明におけるポリアルキレンナフタレ−ト組成物が含有するチタン化合物量は、ポリアルキレンナフタレートの全酸成分のモル数を基準として、チタン元素量(Ti)で2〜15mmol%、好ましくは2〜12mmol%、特に好ましくは2〜9mmol%である。該チタン元素量が上限を超えると、ポリアルキレンナフタレートの合成時に副生するジエチレングリコール量が増加したり、ポリマーを溶融した時の固有粘度が著しく低下するといった問題を生じる。他方、チタン元素量が下限未満だと、チタン化合物の触媒としての効果がほとんど発現されず、所望の重合度のポリアルキレンナフタレートを効率的に製造できない。
【0038】
本発明におけるポリアルキレンナフタレート組成物は、重合終了時の吐出や製膜の際の溶融によるポリマー分解や固有粘度の低下を抑制する目的でリン化合物を含有する。
【0039】
本発明におけるポリアルキレンナフタレ−ト組成物が含有するリン化合物の量は、チタン化合物との比で、特定の範囲にあることが必要である。具体的には、ポリアルキレンナフタレートの全酸成分のモル数を基準として、樹脂組成物中に含有されるリン元素量(P)をチタン元素量(Ti)で割ったモル比(P/Ti)が、0.1以上1未満、好ましくは0.2〜0.9、特に好ましくは0.3〜0.8の範囲である。該モル比が上限を超えると、触媒の失活が大きく所望の重合度のポリアルキレンナフタレートを効率的に製造できない。一方、該モル比が下限に満たない場合は、ポリマー溶融時の固有粘度の低下が大きくなったり、ポリマー中に含まれるメトキシ末端基数が多くなり劣化物を生成しやすい等の問題が生じる。
【0040】
本発明におけるチタン化合物としては、チタニウムテトラブトキサイド,チタンイソプロポキサイド,トリメリット酸チタン,テトラエトキシチタン,硫酸チタン,塩化チタンなどが好ましく挙げられる。
【0041】
また、本発明におけるリン化合物としては、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、酸性リン酸メチルエステル、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、メチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、メチルホスホン酸メチルエステル、フェニルホスホン酸エチルエステル、ベンジルホスホン酸フェニルエステル、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェートなどが好ましく挙げられる。
【0042】
なお、これらのチタン化合物およびリン化合物は、グリコールに可溶なものが好ましく、それぞれ2種類以上併用してもよい。
【0043】
本発明におけるチタン化合物の添加時期は、製造するポリマーの固有粘度が0.2cm3/gに到達するまでの間であり、エステル交換反応を経由して重縮合反応を行なうエステル交換法では、エステル交換反応の開始前に、エステル交換反応触媒として添加してもよい。また、エステル交換反応触媒としてチタン化合物を添加する場合は、反応を加圧下で行うことが、チタン化合物の添加量を少なくできる点から好ましい。なお、チタン化合物は、一括でも何段階かに分割して添加してもよい。
【0044】
本発明におけるリン化合物の添加時期は、エステル交換反応またはエステル化反応が実質的に終了した後であればいつでもよく、例えば、重縮合反応を開始する以前の大気圧下でも、重縮合反応を開始した後の減圧下でも、重縮合反応の末期でもまた、重縮合反応の終了後、すなわちポリマーを得た後に添加してもよい。なお、リン化合物は重縮合反応触媒の重合活性を失活させることから、重縮合反応に必要な時間を短縮させる場合には、リン化合物の添加時期を遅らせることが好ましい。また、リン化合物は、一括でも何段階に分割して添加してもよい。
【0045】
つぎに、本発明の組成物の好ましい態様について、詳述する。
本発明のポリアルキレンナフタレート組成物は、回転冷却ドラムとの密着性を高められることから、スルホン酸4級ホスホニウム塩化合物を含有し、その含有量が、以下の一般式
【0046】
【数13】
0.01<S≦10 ・・・(3)
(式中、Sは、ポリアルキレンナフタレートの全酸成分のモル数を基準としたときの、スルホン酸4級ホスホニウム塩化合物の割合(単位:mmol%)を示す)
を満足することが好ましい。
【0047】
ポリアルキレンナフタレート組成物が含有するスルホン酸4級ホスホニウム塩化合物の含有量が上限を超える場合、製膜工程における静電ワイヤー部分での汚れがひどく、頻繁に清掃を行う必要があり生産上好ましくなく、他方、下限未満の場合、フィルム状溶融物の回転冷却ドラム面への静電密着性の向上効果が乏しいものとなる。本発明におけるポリアルキレンナフタレート組成物が含有するスルホン酸4級ホスホニウム塩化合物の含有量(S)は、より好ましくは0.2〜8mmol%の範囲、特に好ましくは0.5〜5mmol%の範囲である。また、本発明におけるスルホン酸4級ホスホニウム塩化合物は、ポリアルキレンナフタレートと化学的結合を有する、すなわち、共重合したものでも、ポリアルキレンナフタレートに化学的結合を介さずに混合されたものでもよい。なお、ポリアルキレンナフタレートと共重合させるスルホン酸4級ホスホニウム塩化合物としては、エステル形成性官能基を有するものが好ましく、例えば下記の一般式(I)で表わされる化合物が好ましく挙げられる。
【0048】
【化1】
ここで、上記一般式(I)中の、Aは炭素数6〜18の芳香環を含む基であり、具体的にはベンゼン骨格、ナフタレン骨格あるいはビフェニル骨格を含む基を好ましく挙げることができる。なお、該芳香環は、Y1、Y2及びスルホン酸4級ホスホニウム塩基のほかに、例えば炭素数1〜12のアルキル基などで芳香核水素が置換されたものであってもよい。
また、上記一般式中の、Y1及びY2はそれぞれ水素原子またはエステル形成性官能基を示すが、同時に水素原子であることはない。具体的なエステル形成性官能基としては、−COOH、−COOR5、−OCOR5、−(CH2)mOH、−(OCH2)mOHなど(ここで、R5はメチル、エチル、プロピルまたはブチルを、また、mは1〜6の整数を示す。)を挙げることができる。
さらにまた、上記一般式中の、nは1または2の整数で、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ炭素数1〜18のアルキル基、ベンジル基または炭素数6〜12のアリール基を表し、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ドデシル、ステアリル、フェニル、ナフチル、ビフェニルなどを好ましく挙げることができる。なお、R1、R2、R3およびR4は同一でも互いに異なるものでもよい。
【0049】
本発明におけるスルホン酸4級ホスホニウム塩の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、4−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ビスフェノールA−3,3−ジ(スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩)、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩などを挙げることができる。なお、これらのスルホン酸4級ホスホニウム塩は、二種以上を併用してもよい。
【0050】
本発明において、上述のスルホン酸4級ホスホニウム塩を含有させたポリアルキレンナフタレート組成物は、溶融時の交流体積抵抗率が2.0×108Ω・cm以下であることが好ましい。溶融時の交流体積抵抗率が2.0×108Ω・cm以下であると、比較的速く回転する冷却ドラム上にも密着するに十分な電荷量を溶融状態のフィルム状物に付与することができ、本発明の目的の1つである製膜速度の向上を達成することができる。好ましい溶融時の交流体積抵抗率の値は6.0×106〜2.0×108Ω・cmの範囲である。なお、溶融時の交流体積抵抗率を2.0×108Ω・cm以下にするには、ポリアルキレンナフタレートに添加する上述のスルホン酸4級ホスホニウム塩の種類および添加量を適宜選択すればよい。
【0051】
また、スルホン酸4級ホスホニウム塩をポリアルキレンナフタレートに含有させる方法としては、効率良く含有させる方法であればどのようなものでも採用できる。中でも、スルホン酸4級ホスホニウム塩を均一に分散できることから、ポリアルキレンナフタレートの合成が終了する迄の任意の段階で添加する方法が好ましく、特にポリアルキレンナフタレートの重縮合反応開始前に添加するのが好ましい。
もちろん、スルホン酸4級ホスホニウム塩を高濃度で含有するポリアルキレンナフタレートとスルホン酸4級ホスホニウム塩成分を含有しないポリアルキレンナフタレートとをブレンドした後に、溶融押出してフィルムなどに成形してもよく、またスルホン酸4級ホスホニウム塩を低濃度で含有するかもしくは含有しないポリアルキレンナフタレートに、溶融押出直前にスルホン酸4級ホスホニウム塩をドライブレンドして所定の含有量とした後に、溶融押出してフィルムなどに成形する方法であってもよい。
【0052】
本発明のポリアルキレンナフタレート組成物は、主たる触媒としてチタン化合物を採用していることから、フィルムとしたときに表面の平坦なものが得られるが、磁気記録媒体のベースフィルムとする場合は、より平坦な表面が求められることから、差動走査熱量計を用いて昇温時および降温時に検出される結晶化温度の差および降温結晶化温度に起因するピーク熱量(Ecd)が以下の一般式
【0053】
【数14】
5≦|Tci−Tcd|≦25 ・・・(4)
【0054】
【数15】
1≦Ecd≦10 ・・・(5)
(式中TciおよびTcdは、差動走査熱量計を用いて測定されたポリアルキレンナフタレートの昇温時および降温時にそれぞれ観測される結晶化温度(単位:℃)を、EcdはTcdピークの発熱量(単位:J/g)をそれぞれ示す。)
のいずれかを満たすことが好ましい。
【0055】
本発明のポリアルキレンナフタレート組成物に、上記の式で表される結晶化温度の差や降温結晶化に要する熱量を具備させる事で、フィルム製膜における熱固定の際の表面平坦安定性を向上でき、超平坦な表面のフィルムを製造することができる。昇温時および降温時の結晶化温度の差が上限以上であると、結晶化速度が速い為、製膜過程でポリアルキレンナフタレートの結晶化が進行し、均一な厚みを有するフィルムが得られない。他方、下限未満であると逆に結晶化速度が遅く十分な強度を有するフィルムが得られない。同様に、降温結晶化温度に起因するピーク熱量(Ecd)が上限を超えると、結晶性が高く、製膜過程でポリアルキレンナフタレートの結晶化が進行するため、均一な厚みを有するフィルムが得られない。他方、下限未満であると、結晶性が低く十分な強度を有するフィルムが得られない。このような降温結晶化に要する熱量を、本発明におけるポリアルキレンナフタレート組成物に具備させるには、結晶核となる微細な粒子、例えば、触媒起因の析出粒子、原料から混入する不純物粒子を取り除けばよい。
【0056】
本発明のポリアルキレンナフタレート組成物は、含有するオリゴマー量が0.6重量%以下であることが好ましく、特に0.5重量%以下であることが好ましい。ポリアルキレンナフタレート組成物中のオリゴマー量が0.6重量%を超えると、フィルム製膜時の熱固定工程などで、フィルム表面にオリゴマーが多量にブリードアウトする場合がある。ポリアルキレンナフタレート組成物中のオリゴマー量を減らす方法としては、重縮合反応によって得られたポリアルキレンナフタレートのペレットを、固相重合した後水処理する方法が好ましく挙げられ、該方法によると溶融時に再生するオリゴマー量を抑制することができる。
【0057】
次いで、ポリアルキレンナフタレート組成物を製造する方法について、エステル交換反応を経由する方法を一例に挙げて、以下に詳述する。
本発明におけるポリアルキレンナフタレート組成物は、原料として用いる酸成分の70mol%以上が2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルである、エステル交換反応を経由する製造方法によって得られ、製造方法としては特に制限はなく、従来公知の技術を用いる事が出来る。
【0058】
ポリエチレンナフタレート組成物の製造方法の一例を挙げると、まず、エステル交換反応開始前に2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルを全ジカルボン酸成分の70mol%以上含むナフタレン酸ジアルキルエステル、グリコール成分とともにエステル交換反応触媒を添加して徐々に昇温し、発生するアルコールを除去させながらエステル交換反応を実施し、エステル交換反応の終了時点でエステル交換反応失活剤であるリン化合物を添加して実質的にエステル交換反応を完了させる。なお、エステル交換反応触媒としてチタン化合物を用いた場合は、加圧下で反応を実施することが好ましい。
その後、スルホン酸4級ホスホニウム塩化合物を添加した後、反応生成物を減圧装置が設けられた重合反応器に移し変え、高真空下での重縮合反応を行う。得られたポリエチレンナフタレート組成物は、通常溶融状態で押出しながら、冷却後、粒状(チップ状)のものとする。この際、得られたポリエチレンナフタレート組成物の固有粘度は、0.50〜0.90dl/gであることが望ましい。
【0059】
つぎに、本発明のポリアルキレンナフタレートフィルムについて、詳述する。本発明のポリアルキレンナフタレートフィルムは、前述のポリアルキレンナフタレート組成物からなる層を少なくとも一方の表面に有するものである。具体的には、前述のポリアルキレンナフタレート組成物からなる単層のフィルム、一方の表面が前述のポリアルキレンナフタレート組成物からなるように、該組成物とは異なる他の熱可塑性樹脂組成物を積層した2層以上の積層フィルム、または、両方の表面が前述のポリアルキレンナフタレート組成物からなるように、該組成物とは異なる他の熱可塑性樹脂組成物からなる層を積層した3層以上の積層フィルなどが挙げられる。
【0060】
本発明のポリアルキレンナフタレートフィルムは、前述の触媒に起因するポリマーに不溶な析出物が無いか、その量が極めて少ない組成物で少なくとも一方の表面が形成されていることから、少なくとも片面は表面が極めて平坦であることが特徴である。また、該ポリアルキレンナフタレート組成物は、高温で保持した際のポリマー起因による劣化物が発生しにくいという特性を有することから、生産性よくフィルムに製膜することができ、製膜中にダイ筋などのフィルム表面の平坦性を乱す工程不良も抑制されたものである。
【0061】
したがって本発明のポリアルキレンナフタレートフィルムは、ベースフィルムに特に平坦な表面を要求する磁気記録媒体に好適に使用でき、かつ、そのような要求に答えるフィルムを高い生産性で製造することができる。しかも、本発明のポリアルキレンナフタレート組成物にスルホン酸4級ホスホニウム塩化合物を含有させることで、さらにフィルムの生産性を高めることができ、また、特定の結晶化温度差あるいは降温結晶化特性を本発明のポリアルキレンナフタレート組成物に具備させることで、より平坦な表面が要求される高密度磁気記録媒体のベースフィルムとして好適に使用することができる。
【0062】
本発明のポリアルキレンナフタレートフィルムの製造方法は特に制限されないが、例えば、以下の方法で製造できる。まず、乾燥したポリアルキレンナフタレートを、(Tm)〜(Tm+65)℃(Tmはポリアルキレンナフタレートの融点を示す)の温度範囲でシート状に回転冷却ドラム上に溶融押出し、急冷固化して未延伸フィルム(シート)を得る。次いで、該未延伸フィルムを縦方向(フィルムの製膜方向)に延伸した後、横方向(フィルムの製膜方向および厚み方向に直交する方向で、フィルムの巾方向と称することもある。)に延伸する、いわゆる、縦・横逐次二軸延伸法(縦方向と横方向の延伸の順序は逆でもよく、また、さらに縦方向または横方向に再度延伸するものでもよい。)、または、縦方向と横方向に同時に延伸する、いわゆる、同時二軸延伸法で延伸する。この際の延伸温度は70〜180℃の範囲が好ましく、また、延伸倍率は面積延伸倍率で9〜35倍の範囲が好ましい。
【0063】
本発明のポリアルキレンナフタレートフィルムは、既述の通り、単層フィルムでも、2層以上の積層フィルムでもよいが、磁気記録媒体としたときの、磁性層が形成される側の面と磁性層が形成されない側、すなわち走行する側の面との表面の凹凸を調整しやすいことから、好ましくは2層以上の積層フィルムである。この場合、本発明のポリアルキレンナフタレート組成物を用いたフィルム層が、積層フィルムの片面、すなわち、最外層の少なくとも一方を構成することが、平坦な表面を有するフィルムを得るために必要であり、特に平坦な表面が要求される磁性層を設ける側のフィルム層(以下、磁性層側と略す)に用いることが好ましい。本発明のポリアルキレンナフタレートフィルムの(総)厚みは、単層フィルムでも積層フィルムでも3〜25μm、更には4〜20μmの範囲が好ましい。
【0064】
本発明のポリアルキレンナフタレートフィルムを磁気記録媒体のベースフィルムとする場合、磁性層側の中心線平均粗さ(RaA)は、10nm以下、更に3nm以下であることが好ましく、該RaAの下限は、小さいほど好ましいことから、特に制限はされない。また、磁性層側の表面に存在する、長径が10μm以上の大きさで、高さが100nm以上の微小突起数は、10個/cm2以下であることが好ましく、他方、該突起数の下限は、少ないほど好ましいことから、特に制限はされない。ここで長径とは、フィルム表面の平坦な面に沿って粗大突起の断面を特定し、断面部における粒径の最大値を指す。
一方、走行面側の中心線平均粗さ(RaB)は、30nm以下、更に10nm以下であることが、フィルムの耐ブロッキング性及び巻き取り性の観点から好ましく、それらの中心線平均粗さの比(中心線平均粗さ(RaA)/中心線平均粗さ(RaB))は0.05〜0.8の範囲にあることが好ましい。もちろん、本発明のポリアルキレンナフタレートフィルムは、その表面にオリゴマー析出抑制や走行耐久性向上のため、所望により、本発明の目的を妨げない範囲で、従来からそれ自体公知の易滑処理(プライマー層の塗設等)を行なってもよい。
【0065】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における種々の物性および特性の測定方法、定義は以下の通りであり、また、「部」は重量部を、「%」は重量%を意味する。
【0066】
(1)溶融ポリマーの劣化評価
樹脂組成物のサンプルを、180℃で3時間、熱風乾燥機内で予備乾燥する。予備乾燥したサンプルを約40g採取して精秤した後、ガラス製フラスコに入れる。サンプルはガラスフラスコごと、300℃のソルトバスに20分間浸漬し完全に溶融させた後、窒素雰囲気下、100Pa以下の高真空下で20分間攪拌保持し、得られたサンプルをフラスコから取り出し、0.18mg精秤後、溶解液(オルトクロロフェノール)中、35℃の測定条件で、固有粘度を測定する。得られた値と予備乾燥直後の固有粘度差から劣化の度合いを算出し、下記の基準で評価する。
○:劣化の度合いが0.08dl/g以下の場合
△:劣化の度合いが0.08dl/gを超え、0.12dl/g以下の場合
×:劣化の度合いが0.12dl/gを超える場合
【0067】
(2)ポリマー中のメトキシ末端基数
ポリアルキレンナフタレート組成物のサンプル1gを粉砕し、ヒドラジン10mlを加え、260℃で4時間、10MPaの加圧下で加熱処理する。日立製作所(株)製、ガスクロマトグラフィー(263−50型)を用いて、メタノール発生量を測定し、その発生量からメトキシ末端基数を算出する。
【0068】
(3)ポリマーの昇温、降温結晶化温度及び降温結晶化に要する熱量
ポリアルキレンナフタレート組成物のサンプル10mgを採取し、TA社製、Thermal Analyst2200型にて、昇温速度5℃/minで310℃まで昇温し、310℃で2分間保持した後、降温速度10℃/minで降温する。昇温、降温の際の結晶化ピークより、昇温時および降温時の結晶化温度および降温結晶化に要する熱量を求める。
【0069】
(4)フィルムの微小突起数
ポリアルキレンナフタレート組成物を170℃で3時間乾燥した後、押出機ホッパーに供給し、溶融温度290℃で1mmのスリット状ダイを通して厚み200μmのフィルム状溶融物として溶融押出し、線状電極(印加電圧5000V)を用いて表面仕上げ0.3s程度、表面温度40℃の回転冷却ドラム上に密着固化させた。続いて、この未延伸フイルムを75℃の予熱ロールにて予熱し、低速、高速のロール間で15mm上方より900℃の表面温度のIRヒータ1本にて加熱して縦方向に3.8倍に延伸し、次いでステンターに供給した後、105℃にて横方向に4.0倍に延伸し、熱固定する。この際、熱固定の温度を240℃から220℃まで10℃/30分の速度で降温する。そして、得られた二軸延伸フィルムの一方の表面(好ましくは磁性層側のフィルム表面)にアルミニウムを0.5μmの厚みで蒸着し、株式会社ニコン(NIKON CORP.)製の光学顕微鏡(商品名、OPTIPHOT)を用いて、微分干渉法により倍率200倍にて1cm×5cmの範囲を観察し、長径が10μm以上の大きさの突起をマーキングする。マーキングした突起をWYKO株式会社製の非接触三次元粗さ計、商品名「TOPO−3D」を用いて、測定倍率40倍、測定面積242μm×239μm(0.058mm2)の条件にて測定を行い、表面粗さのプロフィル(オリジナルデータ)を得る。同粗さ計内蔵ソフトによる表面解析により、ベースラインからの最高高さの値をもって突起高さとし、高さ100nm以上の突起を単位1cm2当たりの個数より、下記の基準で評価する。
○:高さ100nm以上の突起が5個/cm2以下で、極めて平坦な表面である。
△:高さ100nm以上の突起が5個/cm2を超え10個/cm2以下で、やや荒れた表面である。
×:高さ100nm以上の突起が10個/cm2を超え、荒れた表面である。
【0070】
(5)静電密着性
ポリアルキレンナフタレート組成物を180℃で乾燥した後、305℃で溶融押出し、1mmのスリット状ダイを通して、厚み200μmのフィルム状溶融物として溶融押出し、線状電極(印加電圧5000V)を用いて表面仕上げ0.3s程度、表面温度40℃に保持した回転冷却ドラム上で急冷固化させて未延伸フィルムを巻き取る際、静電ピニング法にて、フィルム厚みむらが小さく、安定して未延伸フィルムを巻き取れる速度の上限を観察し、下記の基準で静電密着性を評価する。
○:安定な巻取り速度の上限が60m/分以上
△:安定な巻取り速度の上限が30m/分以上から60m/分未満
×:安定な巻取り速度の上限が30m/分未満
【0071】
(6)製膜時の安定性評価
評価方法(4)と同じ方法で得られた二軸延伸フィルムの磁性層側フィルム表面に、アルミニウムを0.5μm厚みで蒸着した後、光学顕微鏡で目視評価し、下記の基準で製膜安定性を評価する。
○:表面に粗れが全く見られない。
△:表面に微小な粗れが発生する。
×:表面に粗れ及びうねりが発生する。
【0072】
(7)巻取り性
スリット時の巻き取り条件を最適化したのち、幅650mm×長さ12000mのサイズで、30ロールを速度75m/分でスリットし、スリット後のフィルム表面に、ブツ状、突起やシワのないロールを良品として、以下の基準にて巻き取り性を評価する。
○:良品ロールの本数28本以上
△:良品ロールの本数25〜27本
×:良品ロールの本数24本以下
【0073】
(8)ポリアルキレンナフタレート組成物中の、チタン、リン、硫黄およびマンガン元素の測定
ポリアルキレンナフタレート組成物5gをホットプレート上で310℃にまで加熱して融解し、平板状のディスクを作成する。そして、該ディスクを、理学電気(株)製の蛍光X線3270E型を用いて測定し、該ディスクに含有される各元素量を測定した。なお、スルホン酸4級ホスホニウム塩は、硫黄元素の量から測定した。
【0074】
(9)ポリアルキレンナフタレート組成物中のマグネシウム含有量:
ポリアルキレンナフタレート組成物をオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z−6100形偏光ゼーマン原子吸光光度計を用いてマグネシウムの定量を行った。
【0075】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル100部、エチレングリコール60部およびチタン化合物(トリメリット酸チタンを表1に示す元素量となるように添加)を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込み、0.05MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、第1のリン化合物(トリメチルホスフェートを表1に元素量となるように添加)を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0076】
次に、スルホン酸4級ホスホニウム塩化合物(3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩)を表1に示す量となるように添加した後、反応混合物を重合反応器に移し、295℃まで昇温し、30Pa以下の高真空下にて重縮合反応させ、固有粘度0.6dl/gのポリエチレンナフタレートを得た。なお、トリメチルホスフェート添加から重縮合での減圧開始までの時間は20分間で、この間の温度は240℃〜265℃で行った。
得られたポリアルキレンナフタレート組成物の特性を表1に示す。
【0077】
[実施例3〜4および比較例1〜7]
実施例1において、触媒化合物、リン化合物、スルホン酸4級ホスホニウム塩を表1記載の種類ならびに含有量となるよう添加する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリアルキレンナフタレート組成物の特性を表1に示す。
【0078】
[実施例5]
実施例1で作成したポリエチレン−2,6−ナフタレート組成物のペレットを170℃で3時間乾燥した後、押出機ホッパーに供給し、溶融温度290℃で1mmのスリット状ダイを通して厚み200μmのフィルム状溶融物として溶融押出し、線状電極(印加電圧5000V)を用いて表面仕上げ0.3s程度、表面温度20℃の回転冷却ドラム上に密着固化させた。このとき、密着不良因に基因するフイルムの表面欠点を生じることなく、かつ安定にキャスティングできる回転冷却ドラムの最高速度(周速)は70m/分であった。続いて、この未延伸フイルムを75℃の予熱ロールにて予熱し、低速、高速のロール間で15mm上方より900℃の表面温度のIRヒータ1本にて加熱して3.6倍に延伸し、急冷して縦延伸フィルムを得た。次いで縦延伸フィルムの走行面側に下記に示す組成(固形分換算)の水性塗液(全固形分濃度1.0%)をキスコート法により乾燥後の塗布層の厚みが5nmとなるように塗布した。
【0079】
塗液の固形分組成
バインダー:アクリル変性ポリエステル(高松油脂株式会社製、IN−170−6)67%
不活性粒子:アクリルフィラー(平均粒径30nm、体積形状係数0.40、日本触媒株式会社製、商品名「エポスター」)6%
界面活性剤:(日本油脂株式会社製、ノニオンNS−208.5)1%
界面活性剤:(日本油脂株式会社製、ノニオンNS−240)26%
次いで、塗布された縦延伸フィルムをステンターに供給し、105℃にて横方向に3.9倍に延伸した後、230℃で5秒間熱固定処理し、厚み14μmの熱固定二軸延伸ポリエチレン−2,6−ナフタレートフイルムを得た。このフイルムの磁性層側の表面粗さは0.5nm、走行面側の表面粗さは1.2nmであった。
得られたポリアルキレンナフタレートフィルムの特性を表2に示す。
【0080】
[実施例7〜8、比較例4〜6,8]
それぞれ、実施例3〜4および比較例1〜3、7で作成したポリエチレン−2,6−ナフタレート組成物のペレットを用いたこと以外は、実施例5と同様な操作を繰り返した。得られたポリアルキレンナフタレートフィルムの特性を表2に示す。
【0081】
[実施例9]
実施例1で得られた組成物と、後述の走行面側用樹脂組成物とをそれぞれ170℃で3時間乾燥後、2台の押出し機ホッパーに供給し、溶融温度290℃にて溶融しマルチマニホールド型共押出しダイを用いて、実施例1で得られたポリマーの片面に走行面側用樹脂組成物が積層されるように、1mmのスリット状ダイを通して、厚み200μmのフィルム状溶融物を溶融押出し、線状電極(印加電圧5000V)を用いて表面仕上げ0.3s程度、表面温度20sの回転冷却ドラム上に密着固化させた。続いて、この未延伸フイルムを75℃の予熱ロールにて予熱し、低速、高速のロール間で15mm上方より900℃の表面温度のIRヒータ1本にて加熱して3.6倍に延伸し、得られた縦延伸フィルムをステンターに供給し、105℃にて横方向に3.9倍に延伸した後、230℃で5秒間熱固定処理し、厚み14μmの熱固定二軸延伸ポリエチレン−2,6−ナフタレートフイルムを得た。なお、このフィルムの厚みについては2台の押出機の吐出量により調整し、磁性層側の層と走行面側の層との厚みは、それぞれ2μmと12μmであった。
【0082】
得られたフイルムは、磁性層側の表面粗さが0.5nm、走行面側の表面粗さが4.5nmであり、特性を表2に示す。
【0083】
走行面側用樹脂組成物の作製
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル100部とエチレングリコール60部及びエステル交換反応触媒として酢酸マンガン4水塩を0.03部加え、140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、三酸化アンチモン0.035部と酢酸ナトリウム3水塩0.005部とトリメチルホスフェート0.023部を添加し、実質的にエステル交換反応を終了させた。その後、さらに滑剤として平均粒径0.6μmのシリコーン粒子および平均粒径0.2μmのθ型アルミナを、ポリマー中にそれぞれ0.02%および0.2%添加した後、反応混合物を重合反応器に移し、295℃まで昇温して26.7Pa以下の高真空下にて重縮合反応させ、走行面側用樹脂組成物として固有粘度0.61dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレートを得た。得られた走行面側用樹脂組成物であるポリエチレンナフタレートは、ジエチレングリコール量が1.0重量%、290℃における交流体積抵抗率の値が4.0×107Ωcmであった。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
表1からも明らかなとおり、触媒残渣の析出が少ないチタン化合物と特定割合のリン化合物とを併用し、かつ、ポリアルキレンナフタレート組成物1トン中に含まれるメトキシ末端数を7当量以下とすることで、溶融保持下の固有粘度の低下が少ないポリエチレンナフタレート組成物が得られ、該組成物を用いて製膜されたポリアルキレンナフタレートフィルムは、極めて凹凸の少ない表面を有していた。さらに、スルホン酸4級ホスホニウム塩化合物を特定の割合で有することで、回転冷却ドラムの表面との静電密着性が高まり、さらに良好なロールの巻取り性や製膜時の安定性に優れるフィルムが得られた。また、作動走査熱量計を用いて昇温時および降温時に検出される結晶化温度の差および降温結晶化温度に起因するピーク熱量を特定範囲内にすることで、さらに良好なロールの巻取り性や製膜時の安定性に優れるフィルムが得られた。
【0087】
一方、P/Tiが1より大きく、かつ、ポリアルキレンナフタレート組成物1トン中に含まれるメトキシ末端数が7当量より多い場合、溶融保持による固有粘度の低下が好ましい範囲でなかった。しかしながら、フィルムに製膜した時の微小突起数は、P/Tiが1未満で、かつ組成物1トン中に含まれるメトキシ末端数が7当量未満と同様に抑制されており、表面平坦性自体は満足のいくものであった。また、チタン化合物のかわりに、触媒として酢酸マンガンおよび酢酸マグネシウムを用いた場合、溶融保持による固有粘度の低下はなかったものの、フィルムにおける微小突起数が増加し、また結晶化温度に関する特性が本発明の範囲外となった結果、ロールの巻取り性や製膜時の安定性も不十分であった。
【0088】
【発明の効果】
本発明によれば、触媒残渣の析出が少ないチタン化合物と特定割合のリン化合物とを併用し、かつ、ポリアルキレンナフタレート組成物1トン中に含まれるメトキシ末端数を7当量以下とすることで、溶融時の固有粘度の低下が少なく、ポリエステルに起因する劣化物の発生が少ない優れた耐熱性と、フィルムにおける極めて凹凸の少ない表面が得られる平坦性とを具備するポリアルキレンナフタレート組成物、およびポリアルキレンナフタレートフィルムを提供することができる。また、特定量のスルホン酸4級ホスホニウム塩化合物を含有させることで、フィルムの製膜工程におけるフィルムと冷却ドラムとの密着性がさらに高まり、生産性を高めることができる。
Claims (4)
- チタン化合物を主たる触媒として製造されたポリアルキレンナフタレートからなる樹脂組成物であって、該組成物1トン中に含まれるメトキシ末端基数が7当量以下で、かつ、該組成物に含有されるリン化合物とチタン化合物の量が、以下の一般式
を同時に具備し、ポリアルキレンナフタレ−ト組成物が、スルホン酸4級ホスホニウム塩化合物を含有し、その含有量が、以下の一般式
を満足することを特徴とするポリアルキレンナフタレ−ト組成物。 - 少なくとも一方の表面が、請求項1または2のいずれかに記載のポリアルキレンナフタレート組成物からなることを特徴とする二軸配向フィルム。
- 磁気記録媒体用である請求項3に記載の二軸配向フィルム。
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