JP4463382B2 - 残留塩素測定装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は残留塩素測定装置に関し、さらに詳しくは、残留塩素濃度に占める遊離残留塩素と結合残留塩素の濃度を各々得ることができると共に、結合残留塩素の内、モノクロラミンとジクロラミンの濃度とを各々得ることができる残留塩素測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
残留塩素とは、塩素処理の結果水中に残留した消毒作用のある有効塩素のことで、次亜塩素酸などの遊離残留塩素と、クロラミンのような結合残留塩素に区分される。いずれも酸化による殺菌力を有している。
【0003】
この内、遊離残留塩素は主として塩素剤が水と反応して生成する次亜塩素酸(HClO)と、これが解離した次亜塩素酸イオン(ClO−)と、分子状塩素(Cl2)の3種類の形態をとる。三種類の形態の比率はpHに依存する。たとえば、pH2以下では主として分子状塩素が存在し、pH4〜pH7の範囲では主として次亜塩素酸の形態をとり、pH7.4で次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンがほぼ等しい濃度となる。すなわち、上水等の通常のpHにおいては、ほとんどの遊離残留塩素が次亜塩素酸又は次亜塩素酸イオンとして存在する。
【0004】
一方、結合残留塩素は、水中のアンモニア、アミン類、アミノ酸類と遊離残留塩素が反応して生成するもので、モノクロラミン(NH2Cl)、ジクロラミン(NHCl2)、トリクロラミン(NCl3)の三種類の形態をとる。これらの比率もまたpHに依存し、モノクロラミンの比率はpH6.5〜pH8.5の範囲で最大となる。また、ジクロラミンの比率はpH5.0〜pH6.5の範囲で大きくなるとされている。そして、上水等の通常のpHにおいては、ほとんどの結合残留塩素が、モノクロラミン又はジクロラミンとして存在する。モノクロラミンとジクロラミンは、遊離残留塩素に比較すると圧倒的に弱いものの殺菌力を有している。
【0005】
我が国の水道法施行規則では、充分な殺菌力を確保する観点で、給水栓における水が、遊離残留塩素であれば0.1mg/L以上、結合残留塩素であれば0.4mg/L以上の残留塩素を保持すべきことを定めている。このように、殺菌力の違いを考慮して、保持すべき残留塩素の濃度も遊離残留塩素の場合と結合残留塩素の場合とで異なる。したがって、浄水場等においては、全残留塩素濃度だけでなく、遊離残留塩素濃度と結合残留塩素濃度とを区別して把握することが必要である。
【0006】
また、塩素処理においては、充分な殺菌力を確保しつつ残留塩素濃度が過剰とならないように、塩素剤注入量の調整をしなければならない。下記に説明するように、この塩素剤の注入量を適切に調整するためにも遊離残留塩素濃度と結合残留塩素濃度とを区別して把握することが必要である。
【0007】
残留塩素濃度は、塩素剤の注入量に応じて、典型的には図7のように変化する。まず、塩素剤を注入していく初期の段階では、残留塩素濃度はほぼゼロのまま推移する。これは、塩素によってきわめて分解しやすい無機物質や有機物質によって、注入した塩素剤が直ちに消費されるからである。塩素剤注入をさらに続けると、残留塩素濃度はクロラミン(主としてモノクロラミン)の生成と共に徐々に増加するが、ある点をすぎると減少に転じる。これは、生成したクロラミンが、クロラミンの生成に必要な塩素量よりも余分の塩素剤によって、最終的に窒素と塩酸にまで分解されるからである。このクロラミンの生成と分解が終了した時点(不連続点)以降は、その後の塩素剤注入量に応じて残留塩素濃度が増加していく。なお、不連続点以降は、アンモニア性窒素等の酸化がほぼ完全に終了しているので、主として遊離残留塩素濃度が増加する。
【0008】
このように、塩素剤注入に伴う残留塩素濃度変化は、水中のアンモニア性窒素の濃度等に応じて複雑な動きをするので、残留塩素濃度を最適化するためには、全残留塩素濃度だけでなく、遊離残留塩素濃度と結合残留塩素濃度もそれぞれ把握し、これらの濃度に応じて、塩素剤投入量を調整する必要がある。
【0009】
残留塩素濃度は、従来から種々の方法で測定されていた。また、o−トリジン比色法(OT法)では試薬添加から測定するまでの時間を変えることにより、ジエチル−p−フェニレンジアミン比色法(DPD法)、ポーラログラフ法では、添加する試薬を代えることにより、全残留塩素濃度と遊離残留塩素濃度とを区別して測定することも可能であった。
【0010】
たとえば、ポーラログラフ法では、試料液にヨウ化カリウム溶液を加えると全残留塩素濃度に応じてヨウ素が遊離する。この遊離したヨウ素が電解還元されてヨウ素イオンとなるときに、検知極と対極との間に流れる酸化還元電流(拡散電流)を測定することにより全残留塩素濃度が得られる。なお、ヨウ化カリウムを反応させるときのpHは、約pH3である。
【0011】
また、ヨウ化カリウムに代えて臭化カリウム溶液を加えると、遊離残留塩素濃度に応じて臭素が遊離する。この遊離した臭素が電解還元されて臭素イオンとなるときに、検知極と対極との間に流れる酸化還元電流(拡散電流)を測定することにより遊離残留塩素濃度が得られる。なお、臭化カリウムを反応させるときのpHは、約pH4である。
そして、全残留塩素濃度と遊離残留塩素濃度との差から結合残留塩素濃度が得られる。
【0012】
このように、従来から全残留塩素濃度と遊離残留塩素濃度とをある程度選択的に測定することが可能であり、この測定結果に基づき塩素剤の注入量の調整が行われいていた。そして、種々の測定法の中でも、ポーラログラフ法は連続測定や自動化にも適しており、浄水場等の残留塩素濃度制御に広く用いられていた。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、ポーラログラフ法による残留塩素測定装置等では、試薬を変えて選択性を持たせていた。しかし、試料液に臭化カリウム試薬を反応させた場合、実際には遊離残留塩素だけでなく、結合残留塩素による臭素の遊離もあり、結合残留塩素の影響による大きなプラス誤差があった。そのため、必要な測定精度が得られなかった。
【0014】
また、測定した全残留塩素濃度や遊離残留塩素濃度に基づき塩素剤を注入すると、残留塩素濃度を適正に調整したつもりでも、時間の経過と共に残留塩素濃度が上昇し、最終的に高濃度となりすぎる場合があった。これは、ジクロラミンが時間の経過と共に(1)式のように分解して、遊離残留塩素を生成するためであることが知られている。これは、特に冬季の水温低下時に良く見られる現象である。なお、同じ結合残留塩素でもモノクロラミンが分解しても遊離残留塩素は生成されない。
2NHCl2+OH−→N2+2H++3Cl−+HOCl ……(1)
【0015】
そのため、単に全残留塩素濃度と遊離残留塩素濃度を区別して測定するだけでなく、結合残留塩素の内、特にジクロラミン濃度を把握することが望まれていた。なお、ジクロラミン濃度を測定する方法としては、米国のStandard Methodsが知られている。しかし、この方法では試薬を粉末のまま試料液に添加しなければならず、連続測定が可能な自動測定装置への適用は困難であった。そのため、ジクロラミンの分解を考慮して塩素剤の注入量を調整することは事実上不可能であった。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、残留塩素濃度に占める遊離残留塩素と結合残留塩素の濃度を各々精度良く測定できると共に、結合残留塩素の内、モノクロラミンとジクロラミンの濃度とを区別して測定することができる残留塩素測定装置を提供することを課題とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を検討した結果、ポーラログラフ法であっても、特定の条件を選択すれば、残留塩素の種類に応じて異なるポーラログラム(印加電圧と測定電流との関係)が得られることを見いだし、以下の発明をなしたものである。なお、印加電圧とは、対極を基準として検知極に印加する電圧である。
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明として、試料液にハロゲンイオンを含む試薬を添加する試薬添加機構と、金製の検知極と、白金製の対極と、検知極と対極との間に、第1、第2及び第3の印加電圧を与える加電圧機構とを具備し、試薬を添加した試料液を検知極表面に対して相対的に流動させつつ、検知極と対極との間に流れる酸化還元電流を測定する残留塩素測定装置であって、第1の印加電圧が−0.2〜−0.4Vの範囲から、第2の印加電圧が−0.4〜−0.6Vの範囲から、第3の印加電圧が−0.7〜−1.0Vの範囲から、各々選択される一定電圧であることを特徴とする残留塩素測定装置を提供する。
【0019】
本発明において測定される酸化還元電流は、被還元物質が一定の厚さの拡散層と呼ばれる層の中において、濃度勾配による自然拡散によってのみ検知極表面に運ばれ、その表面で還元されるときに流れる拡散電流である。
被還元物質の濃度に応じた酸化還元電流(拡散電流)を得るためには、拡散層が常に新しくなるようにすることが必要である。拡散層が常に新しくされていれば、試料液液中の被還元物質はその濃度に応じて検知極に供給される。拡散層は検知極に接する試料液を検知極表面に対して相対的に流動させることにより常に新しくすることができる。
【0020】
検知極に接する試料液を検知極表面に対して相対的に流動させるためには、静止した試料液に対して検知極を回転又は振動させて動かすか、検知極は静止したままで試料液を流すようにする。あるいは、検知極を動かしつつ試料液も流すようにしてもよい。
【0021】
試料液の流れのみから相対的な流動を得る場合、検出器を動かす機構が不要となるため、簡易な装置を構成する上で適している。しかし、正確な測定を安定して長期間連続するためには、検知極を回転又は振動させることが望ましい。なぜなら、検知極は静止したままで試料液の流れを利用して測定する場合、試料液流速によってポーラログラムが変化してしまうからである。
【0022】
回転させて使用する検知極を回転電極、振動させて使用する電極を振動電極と称するが、これらは、試料液の通常の流速よりはるかに大きい線速度で回転、振動する。このため、試料液流速と無関係に安定な拡散層を形成することができ、試料液流速の変動による測定値への影響を受けにくい。また、回転や振動を洗浄ビーズの中で行うことにより、検知極への汚れの付着を容易に防止することができる。
【0023】
回転電極では、回転する検知極からリード線を切断せずに引き出すために、水銀接点を使用する方式、回転方向を交互に切り替えてリード線のねじれを防ぐ方式等があるが、実公平7−4566号公報に示すように、検知極の支持体を回転させずにすりこぎ状に動かすことによって検知極を円運動させる方式が望ましい。振動電極については、外部のバイブレータで検知極を振動させる方式(実公昭62−41240号公報参照)のものや、内蔵した電磁石を利用して振動させる方式(実公平6−765号公報)等種々の方式のものが知られており、本発明の装置における検知極としては、何れのものを採用してもよい。
【0024】
本発明の装置では、試料液にハロゲンイオンを含む試薬を添加するので、被還元物質となるのは、試料液中の残留塩素または、残留塩素とハロゲンイオンを含む試薬とが反応することにより得られる物質である。
本発明の装置では、残留塩素が、遊離残留塩素、モノクロラミン、ジクロラミンの何れであるかによって、異なるポーラログラムが得られる。これは、残留塩素の種類毎に、本装置の条件下で被還元物質となる物質が異なっているためと考えられる。
【0025】
具体的には、−0.2〜−0.4Vの第1の印加電圧で得られる電流は、概ね遊離残留塩素濃度の関数となる。また、−0.4〜−0.6Vの第2の印加電圧で得られる電流は、概ね遊離残留塩素濃度とモノクロラミン濃度の関数となる。また、−0.7〜−1.0Vの第3の印加電圧で得られる電流は、遊離残留塩素濃度、モノクロラミン濃度、及びジクロラミン濃度の関数となる。
このように、残留塩素の種類によって、異なるポーラログラムが得られるので、三種類の異なる印加電圧における酸化還元電流値から、各々の濃度を演算が可能となるものである。
【0026】
また、請求項2に記載の如く、第1の印加電圧を、−0.2〜−0.4Vの範囲から、第2の印加電圧が、−0.4〜−0.5Vの範囲から、第3の印加電圧が−0.7〜−0.9Vの範囲から各々選択される一定電圧であるようにした場合、上記の関数関係は、より鮮明に得られる。
【0027】
本発明者らは、本発明の装置における被還元物質が具体的にどのような化学種であるかの検証を未だ行ってはいないが、次のように推定される。まず、残留塩素が遊離残留塩素である場合、ハロゲンイオンと直ちに反応してハロゲン分子を遊離するので、遊離残留塩素に由来する被還元物質のほとんどがハロゲン分子であると考えられる。一方、残留塩素がモノクロラミン、ジクロラミン等の結合残留塩素の場合には、遊離残留塩素と比較してハロゲンイオンとの反応が進行しにくい。そのため、モノクロラミンやジクロラミンのほとんどは、そのまま被還元物質となっているのではないかと考えられる。
【0028】
本発明の装置では、結合残留塩素に由来して遊離したハロゲン分子が少ない程、上記関数関係がより鮮明に得られる。つまり、結合残留塩素とハロゲンイオンとの反応はできるだけ進行しない条件が望ましい。ただし、本発明の装置の条件は、結合残留塩素に由来するハロゲン分子が全く生じない条件に限定されるわけではない。なお、その場合は第1から第3の印加電圧において得られる電流と、各々の残留塩素との関数関係が複雑になり、各残留塩素の濃度の演算が複雑になると共に、誤差も大きくなると考えられる。この場合、少しでも再現性のある測定結果を得るためには、測定条件をより厳密に固定することが必要である。
したがって、請求項3から請求項5に記載の如く、結合残留塩素とハロゲンイオンとの反応ができるだけ進行しない条件を選択することが望ましい。
【0029】
まず、請求項3に記載の如く、試薬に含まれるハロゲンイオンを臭化物イオンとすることが望ましい。ハロゲンイオンとして、ヨウ化物イオンを選択することも可能であるが、臭化物イオンの方が結合残留塩素との反応が遅いからである。
【0030】
また、請求項4に記載の如く、試薬が、試薬添加後における試料液のpHをpH4〜pH5の範囲に調整するpH調整剤を含むことが望ましい。pHを比較的高く調整することにより、臭化物イオン等のハロゲンイオンと結合残留塩素との反応がより遅くできるからである。
【0031】
また、請求項5に記載の如く、試薬添加後、3分以内に酸化還元電流の測定を行うことが望ましい。反応時間が長くなりすぎると、臭化物イオン等のハロゲンイオンと結合残留塩素との反応が進行してしまうからである。なお、添加から測定までの時間の下限値に特に限定はないが、試料液と試薬とが混合する時間は確保する必要がある。
【0032】
また、請求項6に係る発明として、第1、第2及び第3の印加電圧における酸化還元電流値から、ジクロラミンの濃度を演算する演算機構を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の残留塩素測定装置を提供する。これにより、従来最も困難であったジクロラミン濃度を得ることができる。しかも、それを自動で行うことができる。
【0033】
また、請求項7に係る発明として、第2及び第3の印加電圧における酸化還元電流値から、ジクロラミンの濃度を演算する演算機構を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の残留塩素測定装置を提供する。
ジクロラミンが存在する条件下では、通常遊離残留塩素がほとんど存在しないことが経験上明らかなので、かかる事実を踏まえれば、2つの異なる印加電圧における電流値だけで、近似的にジクロラミン濃度が求められるものである。
【0034】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の残留塩素測定装置によって得られた測定値に基づき、殺菌対象水への塩素剤注入量を調整する残留塩素濃度の制御を行えば、そのときに存在する残留塩素濃度を種類別に正確に測定できるので、水道法施行規則で規定される必要な残留塩素濃度が確保されるように的確に制御できる。また、結合残留塩素、特にジクロラミンの濃度を測定できるので、塩素剤注入後の残留塩素濃度変化についても予測可能となり、注入量の最適化ができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の1実施形態である残留塩素測定装置を示すもので、試料液は、試料液流入路1に介装されたポンプ2により、試薬は、試薬流入路3に介装されたポンプ4により、各々流入して、混合コイル5が介装された合流路6に流入するようになっている。そして、合流路6で混合された試料液と試薬とは、検出部7に導入された後、排出路8から排出されるようになっている。また、9は、検出部7を制御すると共に、測定値の演算を行う演算制御装置である。
【0036】
試薬は、臭化カリウム、ヨウ化カリウム等のハロゲン化物と、pH調整剤を含んでいる。上水等の試料液への添加を容易にするため、粉末ではなく、溶液として供給されるようになっている。試料液と試薬は、合流後数秒から数10秒で検出部7に導入されるようになっている。
【0037】
図2は、上記検出部7の構成を示すもので、11はフローセル、12はフローセル11に導入された試薬混合後の試料液、13は下部が試料液12に浸漬された円柱形の検知極支持体、14は検知極支持体13の先端面に取り付けられた検知極、15は下部が試料液12に浸漬された円柱形の対極支持体、16は対極支持体15の外周面に取り付けられた対極、17は検知極回転用モータ、18は可変の加電圧回路、19は電流計を示す。なお、試料液12中には検知極洗浄用のガラスビーズ(図示せず)が投入されている。
【0038】
検知極14は、前述の実公平7−4566号公報に記載の方式で円運動するようになっている。すなわち、検知極支持体13は傾斜状態に配置されており、その長さ方向中間部所定箇所が軸受け23によって保持されている。また、検知極支持体13の基端部24とモータ17の回転軸25は偏心して係合しており、モータ17の回転軸25を回転させることにより基端部24が軸受け23による保持箇所を支点として円運動するようになっている。そして、この基端部24の円運動に伴って、検知極支持体13の先端部に取り付けられた検知極14も円運動するようになっている。また、検知極14と電流計19との間を接続するリード線26は、検知極支持体3内を通って軸受け23による保持箇所近傍から、検知極4を円運動させても、ねじれたりせずに引き出せるようになっている。
【0039】
本実施形態の検知極14は金製であり、対極16は白金製である。また、加電圧回路18は、演算制御装置9の制御を受けて、第1の印加電圧(−0.2〜−0.4Vの範囲から選択される電圧)と、第2の印加電圧(−0.4〜−0.6V、望ましくは−0.4〜−0.5Vの範囲から選択される電圧)と、第3の印加電圧(−0.7〜−1.0V、望ましくは−0.7〜−0.9Vの範囲から選択される電圧)とを1秒程度の間隔で切り替えられるようになっている。
【0040】
本実施形態の残留塩素測定装置を用いて試料液の残留塩素濃度を測定する場合、試料液と試薬は、合流路6で混合された後に検出部7に導入される。試料液中の遊離残留塩素は試薬中のハロゲンイオンと瞬時に反応するので、検出部に試料液が導入される時点で、ほぼ完全にハロゲン分子に置き換わっている。一方、結合残留塩素は、ほとんどハロゲンイオンと反応せずに、あるいは、一部のみ反応した状態で検出部7に導入される。
【0041】
検出部7では、モータ17の作動によって検知極支持体13を軸受け23を支点として円運動させ、これにより検知極14を円運動させる。そして、加電圧回路18によって検知極14と対極16との間に測定電圧を印加し、このとき検知極14と対極16との間に流れる測定電流を電流計19で検出する。
【0042】
このとき、加電圧回路18による印加電圧は、時系列的に第1から第3の印加電圧に切り替えられる。そして、各々の印加電圧における電流値が電流計19によって測定され、それらの値を用いて、演算制御装置9によって、遊離残留塩素、モノクロラミン、ジクロラミンの濃度が演算される。
【0043】
本実施形態では、試薬の添加機構として、検出部に導入する前に合流させる方式としたので、検出部7における試料液の置き換わりが良く、残留塩素という不安定な成分を正確に測定することができる。なお、検出部7に試薬液を直接添加しても差し支えないが、この場合、混合に必要な時間が経過したと判断される時間以降に電流の測定値を取り込むことが必要である。
【0044】
なお、本実施形態では、一つの加電圧回路を時系列的に切り替えて3種類の印加電圧を得るようにしたが、各々単一の印加電圧を与える複数の加電圧回路に、複数組の検知極と対極とを各々接続して、三種類の印加電圧における電流値を同時に得られるようにしてもよい。また、検知極を回転電極としたが、振動電極や静止電極(試料液の流速を利用する電極)としてもよい。
【0045】
【実施例】
図3は、図1の残留塩素測定装置を用いて残留塩素の種類別に、測定電圧(対極を基準として検知極に印加する電圧)と測定電流との関係を示すポーラログラムを調べたものである。ただし、加電圧回路18としては、電圧を連続的に変化させられるものを用い、掃引速度は100mV/分で電圧を掃印した。検知極としては、直径2mmの金電極を用い、線速度で30〜50cm/sが得られる程度の回転を与えた。対極は、上述のように白金電極である。
【0046】
試料液としては、残留塩素のほとんどが遊離残留塩素である試料αと、残留塩素のほとんどがモノクロラミンである試料βと、残留塩素のほとんどがジクロラミンである試料γと、残留塩素をほとんど含まない試料δを用意した。
試薬としては、臭化カリウム30gと、pH調整剤としての酢酸ナトリウム10g及び酢酸10mLとを純水で1Lとしたものを使用した。試料液の流量は50mL/min、試薬の流量は約1.1mL/minとし、合流後約30秒で検出部7に導入されるようにした。
【0047】
各々の試料液における各成分の濃度の参照値は、米国のStandard Methodsに準じて、以下に示す手分析法で求めた。
まず、DPD(ジエチル−p−フェニレンジアミン)溶液試薬1mL及び緩衝液(0.2mol/L KH2PO4 300mLと、0.2mol/L NaOH 106mLとを混合し、1,2シクロヘキサンジアミン4酢酸0.39gを溶解したもの)1mLを25mL共栓付比色管に入れた。そして、ここに試料液20mLを加えて552nmの吸光度を測定した。この値から、遊離残留塩素濃度を得た。
【0048】
次に、遊離残留塩素測定後の試料液に、0.1%ヨウ化カリウム溶液を0.1mL加え、直ちに552nmの吸光度を測定した。この値から、遊離残留塩素濃度とモノクロラミン濃度との合計を求めた。
さらに、遊離残留塩素濃度とモノクロラミン濃度の合計値測定後の試料に、ヨウ化カリウムの結晶0.2gを加え、溶解した後5分放置してから552nmの吸光度を測定した。この値から、遊離残留塩素、モノクロラミン、ジクロラミンの各濃度の合計を求めた。
その結果、試料液α、β、γ、δの各々について、表1に示す手分析値が得られた。
【0049】
【表1】
Figure 0004463382
【0050】
図3に示すように、試料液α、β、γ、δの各々について、異なるポーラログラムが得られた。まず、ほとんどが遊離残留塩素である試料αでは、−0.2〜−1.0Vにおいて、プラトー流域(印加電圧が若干ずれても、電流がほとんど変化しない領域)が得られた。また、ほとんどがモノクロラミンである試料βでは、−0.4〜−0.6V(特に−0.4〜−0.5V)、及び−0.7〜−1.0V(特に−0.7〜−0.9V)において、プラトー領域が得られた。また、ほとんどがジクロラミンである試料γでは、−0.7〜−1.0Vにおいて、プラトー領域が得られた。また、残留塩素をほとんど含まない試料δでは、−1.0V以下の電流が無視できる程度だった。
【0051】
なお、各々のポーラログラムは、印加電圧を掃印して得ているため、印加電圧を固定した場合よりも電流の立ち上がりが若干早くなっている。したがって、−0.2〜−0.4Vにおける試料βの電流値、−0.4〜−0.6Vにおける試料γの電流値、−0.9〜−1.0Vにおける試料δの電流値は、掃印せずに固定した印加電圧を与えた場合には、より小さくなり、測定上ほとんど問題とならないものである。
【0052】
以上のことから、第1の領域(−0.2〜−0.4V)の領域電流は、概ね遊離残留塩素濃度の関数となる。また、第2の印加電圧(−0.4〜−0.6V望ましくは−0.4〜−0.5V)で得られる電流は、概ね遊離残留塩素濃度とモノクロラミン濃度の関数となる。また、第3の印加電圧(−0.7〜−1.0V望ましくは−0.7〜−0.9V)で得られる電流は、遊離残留塩素濃度、モノクロラミン濃度、及びジクロラミン濃度の関数となる。
【0053】
したがって、三種類の異なる印加電圧における酸化還元電流値から、遊離残留塩素濃度、モノクロラミン濃度、及びジクロラミンの濃度各々演算することが可能となるものである。
なお、結合残留塩素が存在する条件では、通常遊離残留塩素はほとんど存在しないので、モノクロラミンの濃度は、近似的に第2の印加電圧における電流だけから得ることができる。また、ジクロラミンの濃度は、近似的に第2の印加電圧における電流と第3の印加電圧における電流とだけから得ることができる。
【0054】
図4から図6は、第1、第2、第3の印加電圧をとびとびにとるように、約1分毎に印加電圧を切り替えた他は、図3と同一の条件で種々の試料液を測定した結果である。なお、第1の印加電圧としては−0.3V、第2の印加電圧としては−0.6V、第3の印加電圧としては−0.8Vを各々選択した。各々横軸は、上述の米国のStandard Methodsに準じた手分析値、縦軸は、電極出力として得られた酸化還元電流値である。
【0055】
この内、図4は、遊離残留塩素濃度と、第1の印加電圧(−0.3V)における電極出力との関係を示すグラフである。y=0.492x−0.0188,R2=0.9747という非常に良い相関関係が得られた。また、図5は、モノクロラミン濃度と、第2の印加電圧(−0.6V)における電極出力との関係を示すグラフである。y=0.3692x+0.251,R2=0.9337という非常に良い相関関係が得られた。また、図6は、ジクロラミン濃度と、第3の印加電圧(−0.8V)における電極出力から第2の印加電圧(−0.6V)における電極出力を差し引いた値との関係を示すグラフである。y=0.3368x+0.3421,R2=0.9211という非常に良い相関関係が得られた。
【0056】
図4から図6の結果より、三種類の残留塩素が三種類の印加電圧における酸化還元電流値から正確に求められるばかりでなく、遊離残留塩素は第1の印加電圧における電流値から、モノクロラミンは第2の印加電圧における電流値から、ジクロラミンは第3における電流値と第2の印加電圧における電流値との差から、各々簡便に演算できることも確認された。
【0057】
【発明の効果】
本発明の残留塩素測定装置によれば、残留塩素濃度に占める遊離残留塩素と結合残留塩素の濃度を各々精度良く測定できると共に、結合残留塩素の内、モノクロラミンとジクロラミンの濃度とを区別して測定することができる。また、各々の濃度は近似的に簡便な演算で求められる。
また、本発明の残留塩素測定装置を用いれば、上水の塩素処理等において、残留塩素濃度を適切に制御することができ、充分な殺菌力を確保しつつ、過剰な塩素剤の投入を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態を示す構成図である。
【図2】 図1の検出部7を示す構成図である。
【図3】 本発明の一実施例における測定電圧と測定電流との関係を示すポーラログラムである。
【図4】 本発明の他の実施例における遊離残留塩素濃度と電極出力との関係を示すグラフである。
【図5】 本発明の他の実施例におけるモノクロラミン濃度と電極出力との関係を示すグラフである。
【図6】 本発明の他の実施例におけるジクロラミン濃度と電極出力との関係を示すグラフである。
【図7】 注入塩素量と全残留塩素濃度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 試料流入路
2,4 ポンプ
3 試薬流入路
5 混合コイル
6 合流路
7 検出部
8 排出路
9 演算制御装置
14 検知極
16 対極
18 加電圧回路
19 電流計

Claims (7)

  1. 試料液にハロゲンイオンを含む試薬を添加する試薬添加機構と、金製の検知極と、白金製の対極と、検知極と対極との間に、第1、第2及び第3の印加電圧を与える加電圧機構とを具備し、試薬を添加した試料液を検知極表面に対して相対的に流動させつつ、検知極と対極との間に流れる酸化還元電流を測定する残留塩素測定装置であって、第1の印加電圧が−0.2〜−0.4Vの範囲から、第2の印加電圧が−0.4〜−0.6Vの範囲から、第3の印加電圧が−0.7〜−1.0Vの範囲から、各々選択される一定電圧であることを特徴とする残留塩素測定装置。
  2. 試料液にハロゲンイオンを含む試薬を添加する試薬添加機構と、金製の検知極と、白金製の対極と、検知極と対極との間に、第1、第2及び第3の印加電圧を与える加電圧機構とを具備し、試薬を添加した試料液を検知極表面に対して相対的に流動させつつ、検知極と対極との間に流れる酸化還元電流を測定する残留塩素測定装置であって、第1の印加電圧が−0.2〜−0.4Vの範囲から、第2の印加電圧が−0.4〜−0.5Vの範囲から、第3の印加電圧が−0.7〜−0.9Vの範囲から、各々選択される一定電圧であることを特徴とする残留塩素測定装置。
  3. 試薬に含まれるハロゲンイオンが、臭化物イオンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の残留塩素測定装置。
  4. 試薬が、試薬添加後における試料液のpHをpH4〜pH5の範囲に調整するpH調整剤を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の残留塩素測定装置。
  5. 試薬添加後、3分以内に酸化還元電流の測定を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の残留塩素測定装置。
  6. 第1、第2及び第3の印加電圧における酸化還元電流値から、ジクロラミンの濃度を演算する演算機構を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の残留塩素測定装置。
  7. 第2及び第3の印加電圧における酸化還元電流値から、ジクロラミンの濃度を演算する演算機構を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の残留塩素測定装置。
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