JP4460754B2 - 防護布帛 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軽くて柔軟で、しかも耐切創性に優れた防護布帛に関し、特に精密な作業などに用いられる軍手などの手袋として好適に用いられる防護布帛に関する。
【0002】
【従来の技術】
軽くて、柔軟な布帛は、使用する繊維の素材や目付を選択することによって得られるが、耐切創性も兼ね備えた布帛は、簡単に得ることができなかった。耐切創性に優れた布帛を得るには、樹脂の中にコロイダルシリカなどの粒子を混入し、布帛に樹脂加工するか、または他の耐切創性がすぐれた繊維を編織して使用するなどの手段がとられており、かかる耐切創性の優れた繊維としては、アラミド繊維、全方香族ポリエステル繊維などに代表される引っ張り強度が高く、特にヤング率の高い繊維が使用されていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
耐切創性の優れた布帛を得るため、従来の木綿繊維やナイロン繊維、ポリエステル繊維などの布帛に、コロイダルシリカなどの樹脂を加工したものがあるが、かかる布帛では、樹脂加工によつて、繊維が剛直になるために、柔軟性が阻害され、軽くて柔軟なものは得られなかった。また、一方で耐切創性の優れた繊維をそのまま編織した布帛においては、これらの繊維は剛直で比重が高いため、精密作業に必要とされる柔軟性の点において不満足なものであった。また、最近アラミド繊維や全芳香族ポリエステル繊維を用いてなる布帛や、この布帛からなる手袋などの提案がなされているが、これらはいずれも繊維の比重が非常に大きいために、やはり軽くて柔軟性のある布帛や手袋は得ることができなかつた。
【0004】
本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、従来にない軽くて柔軟で、しかも耐切創性に優れた手袋用の防護布帛を提供せんとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題を解決するために、次の手段を採用するものである。すなわち、本発明の手袋用の防護布帛は、比重が1.0よりも小さく、引っ張り強度が15cN/dtexより大きい繊維からなる、伸縮伸長率が6%以上の嵩高加工糸であって、該嵩高加工糸にウーリー加工糸を用いて構成され、該編織物が、ASTM法の耐切創試験方法(F-1790−97)に基づいて測定される切創抵抗値をJIS L1096の曲げ反発性で除した値(耐切創性/柔軟性)が0.05Nより大きいことを特徴とするものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記課題、つまり従来にない軽くて柔軟で、しかも耐切創性に優れた手袋用の防護布帛について、鋭意検討し、特定な繊維を採用し、かつ、これを嵩高加工して、得られた嵩高加工糸を用いて布帛をつくってみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0007】
本発明において比重が1.0よりも小さく、引っ張り強度が15cN/dtexより大きい繊維として、単糸繊度が1.2dtex程度で、引っ張り強度が22cN/dtex以上である、すなわち、ポリエチレン繊維を紡糸時に高い分子配向させたものが好ましく使用される。分子配向の小さい通常のポリエチレン繊維は、比重が1.0よりも小さくて軽いが、引っ張り強度が低く、また、単糸繊度が大きいものは、高強度になりにくく、柔軟性が劣るという問題があった。これに対して、高分子配向したポリエチレン繊維は、引っ張り強度が高く、耐切創性も、パラ系アラミド繊維や全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維とほぼ同等程度に高く優れているという特徴を有しており、さらに、また、かかるポリエチレン繊維は、吸湿性が無く、繊維の内部に水分を含まないという特徴があり、しかも非常に滑りやすいために、該繊維にほこりやゴミが付着しにくい特徴を有し、さらに耐薬品に優れるという特徴を有するので、本発明にはうってつけの繊維である。
【0008】
また、引っ張り強度が22cN/dtex以上で、かつ、伸縮伸長率が6%以上のものを得るには、該ポリエチレン繊維を、さらに嵩高加工する必要がある。かかる嵩高加工としては、仮ヨリを与えた状態で熱処理し、更に解ネンして嵩高加工するウーリー加工が、伸縮伸長率を大きくすることができるので、本発明には好ましく採用される。かかるウーリー加工には、フリクション式、スピンドル式が好ましく使用されるが、ポリエチレン繊維は、繊維自身が非常に摩擦係数が低く、滑りやすいため、フリクション式では、仮ヨリ挿入は困難であり、スピンドル式の方が好ましく採用される。
【0009】
かかる仮ヨリ加工に用いるポリエチレン繊維の原糸繊度は、小さいほど高い伸長伸縮率が得られるが、6%以上の伸長伸縮率を得るには、好ましくは330dtex以下、さらに好ましくは20〜70dtexのものが使用される。かかる仮ヨリ加工時の温度は、130〜150℃で、仮ヨリ数は、1200〜2000回/m程度の条件が好ましく採用される。このようにして得た伸長伸縮率が6%以上の嵩高加工糸は、丸編、ラッセル編などの編み物や、通常の織物として使用することができる。
【0010】
この編み物や織物は、軽くて強く、しかも伸縮性に富んでいるのみならず、耐切創を曲げ反発性で除した値、すなわち柔軟性一定時の耐切創性が0.05Nより大きいという特徴を有する。
【0011】
かかる耐切創性は、ASTM法の耐切創性試験方法(F1790−97)によって測定することができ、数値が大きいほど刃物によって切られにくいことを表しており、柔軟性は、JIS L1096ー6.20のガーレ式曲げ反発性で求めることができる。曲げ反発性が小さいことは、すなわち柔軟であることを表す。従って耐切創性を曲げ反発性(柔軟性)で割返した値が大きいほど、柔軟で耐切創性が優れていることを示す。
【0012】
耐切創性の高い繊維は、刃物や鉄板、ガラスなどを扱う作業に不可欠であり、一般に軽くて柔軟で、強度の強い性能が同時に求められ、高配高ポリエチレン繊維は耐切創性も高くすぐれており、嵩高加工しても耐切創性はほとんど低下しない。
【0013】
嵩高加工糸は、使用する用途によって、該嵩高加工糸のまま、または、該嵩高加工糸を数本引き揃えた状態などで編織することができるが、該嵩高加工糸以外の他の繊維、たとえばパラ系アラミド繊維や、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維などと併用または混用して用いることができる。
【0014】
この場合、他の繊維としては、フィラメント糸、ステープル糸、または同様にウーリー加工された嵩高加工糸であっても良い。その構成は、例えば他の繊維と該嵩高加工糸とを引き揃えた状態で編織したり、他の繊維とヨリ合わせたり、他の繊維を芯糸にして、該嵩高加工糸を鞘糸としてカバーリングした後、編織しても良い。どの繊維との組み合わせにするか、さらには交編、交織するかについては、それぞれの用途毎の必要性能により決めることができ、該嵩高加工繊維と他の繊維1種類以上とを必要により、併用または混用し、適宜交編、交織すればよい。
【0015】
例えば大きな伸度の必要な用途では、該嵩高加工糸とポリウレタン繊維とを、また、より高強度および高耐切創性の必要な場合には、パラ系アラミド繊維や全芳香族ポリエステル繊維、またはポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などと交編、交織すればよい。また、従来のポリエステル繊維やポリアミド繊維、または、これらの嵩高加工糸と交編、交織すれば、風合いのすぐれた衣料用途として使用することができるものも提供することができる。また、例えばパラ系アラミドから成る伸長伸縮率が6%以上の嵩高加工糸と交編した場合は、適度な伸縮性、高い耐切創性、高強度等の特性の布帛を提供することができる。
【0016】
しかし、いずれの場合も、本発明に使用する嵩高加工糸、つまり比重が1.0よりも小さく、引っ張り強度が15cN/dtexより大きい繊維からなる、伸縮伸長率が6%以上の嵩高加工糸が、他の繊維との交編、交織後の重量において、布帛重量の50重量%以上含まれていることが好ましい。他の繊維の重量が布帛全体の重量の50重量%を越えて含まれている場合には、比重が大きくなり、重くて、耐切創性にも劣るものとなる。
【0017】
本発明の該嵩高加工糸からなる編織物は、薬品に犯されにくいという優れた利点を有するが、さらに耐水性、保温性などを必要とする場合には、さらに樹脂加工することができ、たとえばウレタン、ポリアミド、アクリルなどの樹脂や天然、合成ゴムで加工することができる。かかる加工方法は、ディップ法やコーターナイフによるコーティング法、または、樹脂膜をラミネートしたものでも良く、樹脂加工後に樹脂膜の強度を高めたり、接着性を高めるためにキュアーしても良い。かかる樹脂の付着率は、目的によって異なるが、該編織物の10重量%以下が好ましい。これより樹脂の付着率が多くなると重くなり、しかも剛性が高くなり、特に手袋としては、作業性が悪くなる傾向がある。また、かかる樹脂加工をする場合は、該嵩高加工糸のみの編織物よりも、他の繊維と交偏織したものの方が接着強度が高くなる傾向があるので好ましい。
【0018】
本発明の嵩高加工糸を用いた編織物は、刃物や金属を取り扱う精密作業用の手袋として用いると、軽くて、しかも耐切創性が高く、強度も高いため、耐久性に優れる。かかる手袋としては、通常の手袋編み機で作られる編物でも、また、織物を裁断して縫製したものでも良い。また、編み物による手袋の場合、リバーシブル組織にして、例えば表面に嵩高加工糸を用い、手に接する内側に他の繊維を配列させても良い。
【0019】
【実施例】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
実施例中、繊維の引っ張り強度はJIS L1034に基づき、(株)島津製作所の引っ張り試験機オートグラフを用い、試長200mm、引っ張り速度200mm/分で測定した。伸長伸縮率は、JIS L1090−5.7に準じて測定し、耐切創性試験はASTM法に基づき、デュポン(社)製の耐切創試験機を用いて試験した。
【0021】
また、手袋の目付は、(株)島津製作所の電子天秤で測定した。また、柔軟性は、(株)東洋精機製作所製のガーレー式剛軟度試験機を用い、手袋の指先から6.35cm(2.5インチ)部分を切り取り、切り端から1.27cm(0.5インチ)部分をチャックに挟んで、試長5.08cm(2インチ)で試験した。数値が小さい方が曲げ抵抗が小さく、柔軟であることを示すものである。
【0022】
また、手袋の伸び易さは、手袋の指部分を切り取り、(株)島津製作所の引っ張り試験機オートグラフを用いて、試長30mm、引っ張り速度50mmで引っ張り試験し、試料が10mm伸びた時点の応力をチャートから読みとったものであり、応力が低い方が伸びやすいことを示すものである。
実施例1
単糸繊度1.2dtexで原糸の繊度55dtexの高強度ポリエチレン糸(東洋紡(株)製”ダイニーマ”)を加工時の温度147℃、加工速度50m/分、仮ヨリ数1700T/m、加工フィード率ー23.5%、スピナー巻き数1回、加撚方向S方向でスピンドル式で仮ヨリ加工して嵩高加工糸を得た。本嵩高加工糸の引っ張り強度は24.7cN/dtexで、伸長伸縮率は7.5%であった。本嵩高加工糸を60本引き揃えて、(株)島精機製作所の手袋編み機で7ゲージで手袋を編成した。
実施例2
実施例1で使用した嵩高加工糸を33本と、他の繊維としてデュポン(社)製のパラ系アラミド繊維”ケブラー”の20番手(295dtex)のステープル糸5本を引き揃えて実施例1と同じ条件で編成して手袋を得た。
実施例3
実施例1で得た嵩高加工糸を36本と、他の繊維としてデュポン(社)製のパラ系アラミド繊維”ケブラー”220dtexのフィラメント糸を高圧スチーム処理法によりウーリー加工した伸長伸縮率8.0%の加工糸6本を引き揃えて実施例1と同じ条件で編成して手袋を得た。
実施例4
大日本インキ工業(株)製の水溶性のウレタン樹脂”VONDIC”1230−NSの20重量%溶液に、エポキシ系架橋剤5重量%を加え、この溶液中に実施例3で得た手袋を浸し、加工後手袋を立てて手首方向に樹脂液をたらしながら風乾し、さらに風乾後120℃で3分間乾燥して樹脂加工手袋を得た。この手袋の樹脂付着量は7重量%であつた。
比較例1
単糸繊度1.2dtexで原糸の繊度55dtexの高強度ポリエチレン糸(東洋紡(株)製”ダイニーマ”)をウーリー加工せずに原糸のまま60本引き揃えて実施例1と同じ条件で手袋を編成した。
比較例2
比較例1で使用したウーリー加工しない高強度ポリエチレン糸を20本引き揃えて実施例1と同じ条件で手袋を編成した。
比較例3
比較例1で使用したウーリー加工しない高強度ポリエチレン糸を36本と、他の繊維としてデュポン(社)製のパラ系アラミド繊維”ケブラー”220dtexのウーリー加工しない原糸を6本引き揃えて実施例1と同じ条件で手袋を編成した。
【0023】
それぞれの手袋の特性を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
表1の結果から、実施例1〜4のものは、耐切創性に優れ、比較例1〜3のものに比べ、特に編み地の伸び易さが優れていることが判る。比較例1は高強度ポリエチレン繊維を嵩高加工していないものであり、目付は小さくて軽く、耐切創性も優れるが、ウーリー加工していないために糸が硬く、編み地に編成した後でも編み地が硬く伸びにくい。したがって手袋を装着する際に、硬くて装着しにくく、さらに装着後における指が曲がりにくいため作業性が劣る。比較例2はさらに軽くて柔軟にする目的で嵩高加工しない高強度ポリエチレン繊維を少ない糸本数用いて目付を小さくしたものであるが、柔軟性は優れるものの、耐切創性が低く、また嵩高加工していないため、伸びやすさの数値が大きく伸びにくいことが判る。
【0026】
比較例3は交編する他の繊維にケブラーフィラメント糸を選んだため、耐切創性は優れるが、柔軟性、伸び易さが特に実施例のものより悪い。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、刃物や金属、ガラスなどによっても切られにくく、軽くて柔軟で、さらに吸水しにくく、汚れも付着しにくく耐薬品性にも優れる手袋用の防護布帛を提供することができ、手袋用途では、指先を曲げやすい、作業性の優れ、特に精密作業などに用いることができるものを提供することができる。
Claims (8)
- 比重が1.0よりも小さく、引っ張り強度が15cN/dtexより大きい繊維からなる、伸縮伸長率が6%以上の嵩高加工糸であって、該嵩高加工糸にウーリー加工糸を用いてなる編織物で構成され、該編織物が、ASTM法の耐切創試験方法(F-1790−97)に基づいて測定される切創抵抗値をJIS L1096の曲げ反発性で除した値(耐切創性/柔軟性)が0.05Nより大きいことを特徴とする手袋用の防護布帛。
- 編織物が、該嵩高加工糸と他の繊維との併用または混用されて構成されているものであることを特徴とする請求項1記載の手袋用の防護布帛。
- 該編織物が、該嵩高加工糸と他の繊維との交編、もしくは交織した組織で構成されているものであることを特徴とする請求項2に記載の手袋用の防護布帛。
- 該嵩高加工糸および他の繊維が、パラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ボリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維およびポリウレタン繊維から選ばれた少なくとも2種を組み合わせてなるものである請求項2または3に記載の手袋用の防護布帛。
- 該嵩高加工糸が、嵩高加工前の引っ張り強度が22cN/dtex以上の高強度ポリエチレン繊維で構成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の手袋用の防護布帛。
- 該編織物が、比重が1.0よりも小さく、引っ張り強度が15cN/dtexより大きい該嵩高加工糸を50重量%以上含むものであることを特徴とする請求項3記載の手袋用の防護布帛。
- 該他の繊維が、伸縮伸長率が6%以上である嵩高加工糸であることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の手袋用の防護布帛。
- 該編織物が、樹脂加工品であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の手袋用の防護布帛。
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