JP4454800B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
電動パワーステアリング装置は、ステアリング入力軸に接続されたピニオン軸のピニオンをラック軸のラックに噛合いさせるとともに、電動モータに結合された駆動軸にウォームギヤを設け、該ウォームギヤに噛合うウォームホイールをピニオン軸に接続し、モータのトルクをラック軸に伝えることで操舵アシストする。
【0003】
然るに、ウォームギヤとウォームホイールの歯面同士は加工上、作動上の必要から適度なバックラッシュが設定されている。ところが、電動パワーステアリング装置では、ステアリングホイールの操作或いは路面から入力される振動等により、動力の伝達方向が反転することがある。このような反転駆動時には、ウォームギヤ又はウォームホイールの今まで当接していた歯面の裏側の歯面が、バックラッシュ分だけ急に移動して相手の歯面に衝突し、叩き音を生ずる虞がある。
【0004】
また、電動パワーステアリング装置では、操舵中にタイヤが縁石に乗り上げる等により、ラック軸のストロークが急停止せしめられたとき、電動モータはたとえ給電を停止しても慣性により回転し続けようとするため、電動モータの慣性力により減速機構を介するトルク伝達経路に損傷を招く虞もある。
【0005】
従来技術では、特開平11-171027号公報に記載の如く、上述の叩き音を低減するため、ウォームギヤを設けた駆動軸を電動モータの出力軸に対し軸方向移動可能にセレーション結合するとともに、該駆動軸をハウジングに支持する軸受にブッシュを設け、かつ該駆動軸と軸受の間に緩衝部材を介装することにより、ウォームギヤの駆動軸を軸方向に移動して緩衝部材を圧縮可能とし、ウォームギヤの歯面に生ずる衝撃力を緩衝部材の撓み変形により吸収して緩和させることとしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
然しながら、従来技術では、ウォームギヤを設けた駆動軸が電動モータの出力軸にセレーション結合し、セレーションの軸方向移動部分でトルクも伝達している。セレーションはトルクの伝達と摺動によって磨耗してがたを生じ易く、このがたが、電動モータのトルク伝達性を損なうばかりか、駆動軸及びウォームギヤの軸方向移動の円滑を損なうものとなり、ひいては駆動軸又はウォームギヤに生じた過大推力によって駆動軸及びウォームギヤを軸方向に円滑に移動して緩衝部材を適度に撓み変形させることを困難にする。
【0007】
また、従来技術では、電動モータのトルク伝達経路に生ずる衝撃力を、ウォームギヤの軸方向移動によって吸収するものであり、ウォームギヤの相対回転移動によって吸収するところがない。従来技術において、ウォームギヤの軸方向移動だけでなく、弾発的な回転方向移動も許容してそれらの両方向で衝撃力を吸収するには、構成が複雑化する。
【0008】
本発明の課題は、電動モータに結合される駆動軸に設けた駆動ギヤの軸方向変位と回転方向変位を許容して衝撃吸収可能とする電動パワーステアリング装置において、電動モータに結合される駆動軸の結合状態を向上するとともに、駆動ギヤの軸方向移動による衝撃吸収性と回転方向移動による衝撃吸収性を簡素な構成により向上することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、ステアリング入力軸に接続されたピニオン軸のピニオンをラック軸のラックに噛合いさせ、電動モータに結合された駆動軸を軸受を介してハウジングに支持し、該駆動軸に駆動ギヤを設け、該駆動ギヤに噛合う中間ギヤを上記ピニオン軸に接続し、前記電動モータの出力を前記ギヤ列を介して前記ラック軸に伝え、該ラック軸に連動する車輪を転舵し、操舵力をアシストする電動パワーステアリング装置において、前記ハウジングに前記駆動ギヤを回転かつ軸方向移動可能に支持するに際し、前記駆動軸は前記ハウジングに軸方向には相対移動することなく回転可能に軸受支持され、前記駆動ギヤに、前記駆動軸に同軸をなして軸方向に摺動する摺動部と、前記駆動軸と回転方向で係合する係合部とを設け、前記駆動軸に対する駆動ギヤの軸方向の一方への変位を吸収する緩衝部材と、他方への変位を吸収する緩衝部材と、回転方向の変位を吸収する緩衝部材を備え、前記駆動ギヤを前記駆動軸に軸方向と回転方向の両方で弾性連結してなるようにしたものである。
【0011】
請求項の発明は、請求項の発明において更に、前記ハウジングに軸受を介して支軸を支持し、前記駆動ギヤの他端に上記支軸に同軸をなして軸方向に摺動する摺動部を設け、前記駆動ギヤの一端と前記駆動軸又は該駆動軸のための前記軸受との間に前記軸方向の一方への変位と回転方向の変位を吸収するための緩衝部材を介装し、前記駆動ギヤの他端と前記支軸又は該支軸のための前記軸受との間に前記軸方向の他方への変位を吸収するための緩衝部材を介装するようにしたものである。
【0012】
請求項の発明は、請求項の発明において更に、前記駆動ギヤの他端を前記ハウジングに設けた軸受に軸方向へ摺動可能に支持し、前記駆動ギヤの一端と前記駆動軸又は該駆動軸のための前記軸受との間に前記軸方向の一方への変位と回転方向の変位を吸収するための緩衝部材を介装し、前記駆動ギヤの他端と該駆動ギヤのための前記軸受との間に前記軸方向の他方への変位を吸収するための緩衝部材を介装するようにしたものである。
【0013】
請求項の発明は、請求項の発明において更に、前記駆動ギヤの他端を前記ハウジングに対し軸方向へ摺動可能に支持し、前記駆動ギヤの一端と前記駆動軸又は該駆動軸のための前記軸受との間に前記軸方向の一方と他方への変位と、回転方向の変位を吸収するための緩衝部材を介装するようにしたものである。
【0014】
【作用】
請求項1〜の発明によれば下記(a)〜(d)の作用がある。
(a)駆動ギヤを駆動軸に軸方向と回転方向の両方で弾性連結したから、電動パワーステアリング装置の反転駆動時や、タイヤの縁石乗り上げ時等に、駆動ギヤに過大推力や過大回転力が作用すると、駆動ギヤは駆動軸に対し軸方向と回転方向に移動する。これにより、駆動ギヤの歯面に生ずる衝撃力を緩衝部材等の弾性変位によって吸収することにより緩和して歯面同士の叩き音を低減し、或いは駆動ギヤの慣性推力と慣性回転力を緩衝部材等の弾性変位によって合わせて吸収することによりトルク伝達経路の損傷を回避する。
【0015】
(b)駆動ギヤは駆動軸と軸方向と回転方向の両方で弾性連結されて軸方向と回転方向へ相対移動可能に接続されている。このとき、駆動軸は電動モータの出力軸に軸方向に相対移動することなくトルク伝達だけ可能に強固に結合されており、その結合部にがたを生じにくい。即ち、電動モータに結合される駆動軸の結合状態を向上できる。
【0016】
(c)動ギヤを駆動軸に軸方向と回転方向の両方で弾性連結したから、駆動ギヤの軸方向移動による衝撃吸収性と回転方向移動による衝撃吸収性を簡素な構成により向上でき、トルク伝達経路からの不要な振動回転変動の伝達を抑制できる。
【0017】
(d)駆動ギヤは駆動軸との接続部分を、駆動軸と軸方向に移動する摺動部と、駆動軸と回転方向に係合する係合部とに分けられることにより、駆動軸との間で伝えられるトルクを全て係合部の部分で負担して摺動部には及ばないようにし、摺動部がトルクの伝達によって磨耗してがたを生ずることを排除できるから、駆動ギヤは駆動軸に対しこの摺動部を介することによって常に円滑に軸方向に移動できる。従って、駆動ギヤは前述(a)の過大推力や過大回転力によって円滑に軸方向に移動して緩衝部材を適度に撓み変形させることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
図1は電動パワーステアリング装置を一部破断して示す正面図、図2は図1のII−II 線に沿う断面図、図3は図2のIII−III 線に沿う断面図、図4は図3の要部拡大断面図、図5は図4のV−V線に沿う断面図、図6は緩衝部材を取り出して示す斜視図、図7は第2実施形態を示す断面図、図8は第3実施形態を示す断面図、図9は第4実施形態を示す断面図、図10は図9の緩衝部材の断面を示し、(A)はA−A線に沿う断面図、(B)はB−B線に沿う断面図である。
【0019】
(第1実施形態)(図1〜図6)
電動パワーステアリング装置10は、図1、図2に示す如く、不図示のブラケットにより車体フレーム等に固定されるハウジング11(第1〜第3のハウジング11A〜11C)を有する。そして、ステアリングホイールが結合されるステアリング入力軸12にトーションバー13を介してピニオン軸14を連結し、このピニオン軸14にピニオン14Aを設け、このピニオン14Aに噛合うラック16Aを備えたラック軸16を第1ハウジング11Aに左右動可能に支持している。ステアリング入力軸12とピニオン軸14の間には、操舵トルク検出装置17を設けてある。尚、ステアリング入力軸12とピニオン軸14は軸受12A、15A、15Bを介してハウジング11に支持される。
【0020】
操舵トルク検出装置17は、図2に示す如く、ステアリング入力軸12、ピニオン軸14に係合している円筒状のコア17Cを囲む2個の検出コイル17A、17Bを第3ハウジング11Cに設けている。コア17Cは、ピニオン軸14のガイドピン17Dに係合する縦溝17Eを備えて軸方向にのみ移動可能とされるとともに、ステアリング入力軸12のスライダピン17Fに係合するスパイラル溝17Gを備える。これにより、ステアリングホイールに加えた操舵トルクがステアリング入力軸12に付与され、トーションバー13の弾性ねじり変形により、ステアリング入力軸12とピニオン軸14の間に回転方向の相対変位を生ずると、ステアリング入力軸12とピニオン軸14の回転方向の変位がコア17Cを軸方向に変位させるものとなり、このコア17Cの変位による検出コイル17A、17Bの周辺の磁気的変化に起因する検出コイル17A、17Bのインダクタンスが変化する。即ち、コア17Cがステアリング入力軸12側へ移動すると、コア17Cが近づく方の検出コイル17Aのインダクタンスが減少し、コア17Cが遠ざかる方の検出コイル17Bのインダクタンスが増加し、このインダクタンスの変化により操舵トルクを検出できる。
【0021】
第1ハウジング11A内でラック軸16の一端を挟んでピニオン軸14と相対する部分に設けられているシリンダ部18には、図2に示す如く、ラックガイド19が内蔵され、ラックガイド19(ブッシュ19A)はシリンダ部18に被着されるキャップ20により背面支持されるばね21によりラック軸16の側に弾発され、ラック軸16のラック16Aをピニオン14Aに押し付けるとともに、ラック軸16の一端を摺動自在に支持する。尚、ラック軸16の他端側は軸受22により支持される。また、ラック軸16の中間部には連結ボルト22A、22Bにより左右のタイロッド23A、23Bが連結される。
【0022】
第2ハウジング11Bは、図3に示す如く、電動モータ30を支持する。電動モータ30の出力軸31には駆動軸32がスプライン部33でスプライン結合され、駆動軸32は軸受34を介してハウジング11Bに回転可能に支持されている。そして、駆動軸32には後述する如くにウォームギヤ(駆動ギヤ)37が接続され、ウォームギヤ37に噛合うウォームホィール(中間ギヤ)38をピニオン軸14の中間部に固定してある。電動モータ30の出力トルクは、上記ギヤ列(ウォームギヤ37とウォームホィール38の噛合い、ピニオン14Aとラック16Aの噛合い)を介してラック軸16に伝えられ、ラック軸16に連動する車輪を転舵し、運転者がステアリング入力軸12に付与する操舵力をアシストする。
【0023】
然るに、電動パワーステアリング装置10にあっては、ウォームギヤ37を下記(1)〜(5)により、ハウジング11B内で回転かつ軸方向移動可能に支持する(図4〜図6)。
(1)電動モータ30の出力軸31に駆動軸32を軸方向に相対移動することなくトルク伝達だけ可能にスプライン部33でスプライン結合し、駆動軸32の中間部を軸受34でハウジング11Bに支持する。軸受34の内輪は駆動軸32のフランジ32Aと該駆動軸32に係着したストッパリング35の間に固定され、軸受34の外輪はハウジング11Bの段差部と該ハウジング11Bに螺着したロックナット36の間に固定される。駆動軸32は、一端にスプライン部33を、中間部にフランジ32Aを備える他、他端に摺動支持部41を備え、摺動支持部41とフランジ32Aの間に該フランジ32Aの端面から立ち上がる十字状の係合突片42を備える。
【0024】
(2)ハウジング11Bにおいて、駆動軸32、軸受34と相対する位置に軸受43の外輪が固定的に装填され、軸受43の内輪に支軸44が固定的に嵌入保持されている。支軸44は、軸受43の内輪端面に接するフランジ44Aと、フランジ44Aから突出する摺動支持部45を備える。
【0025】
(3)ウォームギヤ37の一端の先端側とその奥側の2位置のそれぞれに、駆動軸32の係合突片42と後述する緩衝部材51の回転方向緩衝部51Bを介して回転方向で係合する十字状の係合突片46と、駆動軸32と同軸をなして駆動軸32の摺動支持部41を軸方向に摺動可能とするブッシュ47Aを圧入等して備えた摺動部47とを設ける。他方、ウォームギヤ37の他端に、支軸44と同軸をなして支軸44の摺動支持部45を軸方向に摺動可能とするブッシュ48Aを圧入等して備えた摺動部48を設ける。
【0026】
(4)ハウジング11Bに軸受43を介して支持した支軸44の摺動支持部45に、ウォームギヤ37の摺動部48を嵌合する。このとき、支軸44のフランジ44Aとウォームギヤ37の端面との間に孔あき円板状のゴム等からなる緩衝部材52を一定の予圧縮を付与して組込む。緩衝部材52は、支軸44のフランジ44Aに焼付、接着等により固定化されても良い。他方、ハウジング11Bに軸受34を介して支持される駆動軸32の摺動支持部41をウォームギヤ37の摺動部47に嵌合し、駆動軸32の係合突片42をウォームギヤ37の係合突片46に係入する。このとき、駆動軸32とウォームギヤ37の周方向4位置のそれぞれにそれらの周方向にて4分割されたゴム樹脂等からなる緩衝部材(トルクダンパ)51を介装し、緩衝部材51の軸方向緩衝部51Aを駆動軸32のフランジ32Aとウォームギヤ37の係合突片46の端面との間に一定の予圧縮を付与して組込み、かつ緩衝部材51の軸方向緩衝部51Aから立ち上がる2条の回転方向緩衝部51Bを駆動軸32の係合突片42とウォームギヤ37の係合突片46との間に一定の予圧縮を付与して組込む。緩衝部材51は、駆動軸32のフランジ32A上で該フランジ32Aの端面と相隣る係合突片42の側面に焼付、接着等により固定化されても良い。また、緩衝部材51は分割形成することなく一体形成されても良い。緩衝部材51の軸方向緩衝部51Aはウォームギヤ37の軸方向の一方(駆動軸32に近づく方向)への変位を弾性撓みによって吸収し、緩衝部材52はウォームギヤ37の軸方向の他方(駆動軸32から遠ざかる方向)への変位を弾性撓みによって吸収する。また、緩衝部材51の回転方向緩衝部51Bはウォームギヤ37の回転方向の変位を弾性撓みによって吸収する。
【0027】
尚、緩衝部材51の軸方向緩衝部51A、緩衝部材52に付与する予圧縮量は、ウォームギヤ37からウォームホイール38に最大操舵アシスト力が伝達されたときに、一方の緩衝部材51の軸方向緩衝部51A(又は緩衝部材52)が撓んでウォームギヤ37が一方向に最大限移動しても、他方の緩衝部材52(又は緩衝部材51の軸方向緩衝部51A)の撓みが残存するように設定される。
【0028】
(5)前述(1)、(4)により、ウォームギヤ37は駆動軸32に軸方向と回転方向の両方で弾性連結される。
【0029】
以下、電動パワーステアリング装置10の動作について説明する。
(1)操舵トルク検出装置17が検出した操舵トルクが所定値より低いとき、操舵アシスト力は不要であり、電動モータ30は駆動されない。
【0030】
(2)操舵トルク検出装置17が検出した操舵トルクが所定値を越えるとき、操舵アシスト力を必要とするから、電動モータ30が駆動される。電動モータ30の発生トルクが、駆動軸32を回転させ、ウォームギヤ37とウォームホイール38の噛合い、ピニオン14Aとラック16Aの噛合いを介してラック軸16に付与される。
【0031】
(2-1)通常作動時には、ウォームギヤ37とウォームホイール38との間に反力が生ずるが、緩衝部材51の軸方向緩衝部51A、回転方向緩衝部51B、緩衝部材52がウォームギヤ37に付与している予圧力がその反力より大きく設定されているから、ウォームギヤ37は駆動軸32に対しほとんど軸方向にも回転方向にも相対移動しない。従って、電動モータ30の発生トルクはそのままウォームホイール38に伝えられる。
【0032】
(2-2)ステアリングホイールの操舵或いは路面から入力される振動により、動力の伝達方向が反転する反転駆動時に、ウォームギヤ37とウォームホイール38がそれらのバックラッシュの存在によってそれらの歯面同士を当接せしめるときには、ウォームギヤ37とウォームホイール38との間に上述(2-1) より大きな反力Fが生ずる。この場合には、緩衝部材51の軸方向緩衝部51A、回転方向緩衝部51B、緩衝部材52がウォームギヤ37に付与している予圧力よりもその反力の方が大きくなり、緩衝部材51の軸方向緩衝部51Aと緩衝部材52の一方、及び緩衝部材51の回転方向緩衝部51Bが圧縮変形し、ウォームギヤ37が軸方向と回転方向に移動する。これにより、ウォームギヤ37の歯面に生ずる衝撃力を緩衝部材51、52の弾性変形により緩和し、歯面同士の叩き音を低減する。
【0033】
(2-3)上述(2-1) の操舵中にタイヤが縁石に乗り上げる等により、ラック軸16のストロークが急停止せしめられると、電動モータ30がたとえ給電を停止されても慣性により回転し続けようとし、電動モータ30に結合されている駆動軸32を介してウォームギヤ37に慣性推力と慣性回転力が作用する。このとき、慣性推力と慣性回転力は緩衝部材51の軸方向緩衝部51A、回転方向緩衝部51B、緩衝部材52がウォームギヤ37に付与している予圧力を上回り、緩衝部材51の軸方向緩衝部51Aと緩衝部材52の一方、及び緩衝部材51の回転方向緩衝部51Bが圧縮変形し、ウォームギヤ37が駆動軸32に対して軸方向と回転方向に移動する。これにより、ウォームギヤ37に作用する慣性推力と慣性回転力を緩衝部材51、52の弾性変形によって吸収し、トルク伝達経路の損傷を回避する。
【0034】
従って、本実施形態によれば以下の作用がある。
▲1▼ウォームギヤ37を駆動軸32に軸方向と回転方向の両方で弾性連結したから、電動パワーステアリング装置10の反転駆動時や、タイヤの縁石乗り上げ時等に、ウォームギヤ37に過大推力や過大回転力が作用すると、ウォームギヤ37は駆動軸32に対し軸方向と回転方向に移動する。これにより、ウォームギヤ37の歯面に生ずる衝撃力を緩衝部材51、52の弾性変位によって吸収することにより緩和して歯面同士の叩き音を低減し、或いはウォームギヤ37の慣性推力と慣性回転力を緩衝部材51、52の弾性変位によって吸収することによりトルク伝達経路の損傷を回避する。
【0035】
▲2▼ウォームギヤ37は駆動軸32と軸方向と回転方向の両方で弾性連結されて軸方向と回転方向へ相対移動可能に接続されている。このとき、駆動軸32は電動モータ30の出力軸31に軸方向に相対移動することなくトルク伝達だけ可能に強固に結合でき、その結合部にがたを生じにくい。即ち、電動モータ30に結合される駆動軸32の結合状態を向上できる。
【0036】
▲3▼ウォームギヤ37を単一の緩衝部材51により駆動軸32に軸方向と回転方向の両方で弾性連結したから、ウォームギヤ37の軸方向移動による衝撃吸収性と回転方向移動による衝撃吸収性を簡素な構成により向上できる。
▲4▼ウォームギヤ37は駆動軸32との接続部分を、駆動軸32と軸方向に移動する摺動部47と、駆動軸32と回転方向に係合する係合突片46とに分けられることにより、駆動軸32との間で伝えられるトルクを全て係合突片46の部分で負担して摺動部47には及ばないようにし、摺動部47がトルクの伝達によって磨耗してがたを生ずることを排除できるから、ウォームギヤ37は駆動軸32に対しこの摺動部47を介することによって常に円滑に軸方向に移動できる。従って、ウォームギヤ37は前述▲1▼の過大推力や過大回転力によって円滑に軸方向に移動して緩衝部材51、52を適度に撓み変形させることができる。
【0037】
(第2実施形態)(図7)
第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、ウォームギヤ37の駆動軸32と反対側の端部を、ハウジング11Bに設けた軸受43に直接的に支持したことにある。即ち、ウォームギヤ37の駆動軸32と反対側の端部で下記(1)、(2)の如くにした。
【0038】
(1)ウォームギヤ37の駆動軸32と反対側の端部に支軸61を一体形成した。そして、ウォームギヤ37の支軸61をハウジング11Bに設けた軸受43の内輪に軸方向へ摺動可能に支持した。軸受43の内輪は、支軸61の摺動性を向上するためのL字断面状ブッシュ62を備えることができる。
【0039】
(2)ウォームギヤ37における支軸61が設けられている部分の近傍にフランジ61Aを設け、このフランジ61Aに緩衝部材63を保持し、フランジ61Aと軸受43の内輪端面との間に緩衝部材63を介装した。緩衝部材63は、電動パワーステアリング装置10の緩衝部材52に相当する。また、この場合、支軸61と軸受43の内輪とを一体的に連結し、軸受43の外輪をハウジング11Bに対し軸方向へ摺動可能に支持し、この外輪端面とハウジング11Bとの間に緩衝部材63を挟持しても良い。
【0040】
第2実施形態にあっても、ウォームギヤ37に作用する過大推力と過大回転力を緩衝部材51、63により吸収するものとなり、第1実施形態におけると同一の作用を奏する。
【0041】
(第3実施形態)(図8)
第3実施形態が第1実施形態と異なる点は、ウォームギヤ37を下記(1)〜(6)により、ハウジング11B内で回転かつ軸方向移動可能に支持したことにある。
(1)電動モータ30の出力軸31に駆動軸32を軸方向に相対移動することなく、トルク伝達だけ可能にスプライン部33でスプライン結合し、駆動軸32の中間部を軸受34でハウジング11Bに支持する。駆動軸32は、一端にスプライン部33を、中間部にフランジ32Aを備える他、他端に摺動支持部41を備える。
【0042】
(2)ハウジング11Bにおいて、駆動軸32、軸受34と相対する位置に軸受43の外輪が固定的に装填される。
【0043】
(3)ウォームギヤ37の一端に、駆動軸32と同軸をなして摺動支持部41を軸方向に相対移動可能とするブッシュ47Aを圧入等して備えた摺動部47を設ける。他方、ウォームギヤ37の他端に摺動部48を設ける。
【0044】
(4)ウォームギヤ37の摺動部48をハウジング11Bに設けた軸受43の内輪に軸方向へ摺動可能に嵌合する。軸受43の内輪は、摺動部48の摺動性を向上するためのブッシュ(不図示)を備えても良い。
【0045】
(5)ハウジング11Bに軸受34を介して支持される駆動軸32の摺動支持部41をウォームギヤ37の摺動部47に嵌合する。そして、駆動軸32のフランジ32Aと、ウォームギヤ37の一端面のそれぞれに、コイルばねからなる緩衝部材71(トルクダンパ)の両端部のそれぞれを溶接等により一体に固定する。緩衝部材71は、ウォームギヤ37の軸方向の一方と他方への変位と、回転方向の変位を吸収する。
【0046】
(6)前述(1)、(5)により、ウォームギヤ37は駆動軸32に軸方向と回転方向の両方で弾性連結される。
【0047】
第3実施形態にあっても、ウォームギヤ37を駆動軸32に軸方向と回転方向の両方で弾性連結したから、第1実施形態におけると同一の作用を奏する。
【0048】
(第4実施形態)(図9、図10)
第4実施形態が第1実施形態と異なる点は、ウォームギヤ37を下記(1)〜(4)により、ハウジング11B内で回転かつ軸方向移動可能に支持したことにある。
(1)電動モータ30の出力軸31に駆動軸32を軸方向に相対移動することなく、トルク伝達だけ可能にスプライン部33でスプライン結合し、駆動軸32の中間部を軸受34でハウジング11Bに支持する。
【0049】
(2)ハウジング11Bにおいて、駆動軸32、軸受34と相対する位置に軸受43の外輪が固定的に装填される。
【0050】
(3)駆動軸32は弾性連結部(トルクダンパ)81によりウォームギヤ37の一端を軸方向と回転方向の両方で弾性連結する。そして、ウォームギヤ37の他端に設けた摺動部84を軸受43の内輪に軸方向へ移動可能に嵌合する。軸受43の内輪は、摺動部84の摺動性を向上するためのブッシュ(不図示)を備えても良い。
【0051】
弾性連結部81は、駆動軸32の軸受34の内輪の端面に接する一端からウォームギヤ37に至るまでの軸方向複数位置のそれぞれに、図10(A)、(B)に示す如くのスリット82、83・・・を付与され、相隣るスリット82、83の基部82A、83Aを弾性連結部81の中心軸回りで互いに一定角度ずつずらしている。これにより、弾性連結部81は、ウォームギヤ37の軸方向の一方と他方への変位、回転方向の変位を吸収する。
【0052】
尚、弾性連結部81は、駆動軸32とウォームギヤ37の一方又は両方と一体の材料により形成され、或いは駆動軸32及び/又はウォームギヤ37に溶接等により接合されて一体化されるものであっても良い。
【0053】
(4)前述(1)、(3)により、ウォームギヤ37は駆動軸32に軸方向と回転方向の両方で弾性連結される。
【0054】
第4実施形態にあっても、ウォームギヤ37を駆動軸32に軸方向と回転方向の両方で弾性連結したから、第1実施形態におけると同一の作用を奏する。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、本発明の実施において、緩衝部材はゴム、ばね、スプリングワッシャ等を採用できる。
【0056】
また、本発明の電動パワーステアリング装置は、ステアリングホイールに連結されて該ステアリングホイールの操舵力をラック軸に伝えるピニオン軸を電動モータによりアシストするものに限らず、ステアリングホイールには連結されずに電動モータの回転力をラック軸に伝えるアシスト専用のピニオン軸を、ステアリングホイールが連結されている上記ピニオン軸と別に併設してなるものであっても良い。
【0057】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、電動モータに結合される駆動軸に設けた駆動ギヤの軸方向移動と回転方向移動を許容して衝撃吸収可能とする電動パワーステアリング装置において、電動モータに結合される駆動軸の結合状態を向上するとともに、駆動ギヤの軸方向移動による衝撃吸収性と回転方向移動による衝撃吸収性を簡素な構成により向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は電動パワーステアリング装置を一部破断して示す正面図である。
【図2】図2は図1のII−II 線に沿う断面図である。
【図3】図3は図2のIII−III 線に沿う断面図である。
【図4】図4は図3の要部拡大断面図である。
【図5】図5は図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】図6は緩衝部材を取り出して示す斜視図である。
【図7】図7は第2実施形態を示す断面図である。
【図8】図8は第3実施形態を示す断面図である。
【図9】図9は第4実施形態を示す断面図である。
【図10】図10は図9の緩衝部材の断面を示し、(A)はA−A線に沿う断面図、(B)はB−B線に沿う断面図である。
【符号の説明】
10 電動パワーステアリング装置
11B ハウジング
12 ステアリング入力軸
14 ピニオン軸
16 ラック軸
30 電動モータ
32 駆動軸
34 軸受
37 ウォームギヤ(駆動ギヤ)
38 ウォームホイール(中間ギヤ)
44 支軸
46 係合凸片(係合部)
47、48 摺動部
51、52 緩衝部材
61 支軸
63 緩衝部材
71 緩衝部材
81 弾性連結部
84 摺動部

Claims (4)

  1. ステアリング入力軸に接続されたピニオン軸のピニオンをラック軸のラックに噛合いさせ、
    電動モータに結合された駆動軸を軸受を介してハウジングに支持し、該駆動軸に駆動ギヤを設け、該駆動ギヤに噛合う中間ギヤを上記ピニオン軸に接続し、
    前記電動モータの出力を前記ギヤ列を介して前記ラック軸に伝え、該ラック軸に連動する車輪を転舵し、操舵力をアシストする電動パワーステアリング装置において、
    前記ハウジングに前記駆動ギヤを回転かつ軸方向移動可能に支持するに際し、
    前記駆動軸は前記ハウジングに軸方向には相対移動することなく回転可能に軸受支持され、
    前記駆動ギヤに、前記駆動軸に同軸をなして軸方向に摺動する摺動部と、前記駆動軸と回転方向で係合する係合部とを設け、
    前記駆動軸に対する駆動ギヤの軸方向の一方への変位を吸収する緩衝部材と、他方への変位を吸収する緩衝部材と、回転方向の変位を吸収する緩衝部材を備え、前記駆動ギヤを前記駆動軸に軸方向と回転方向の両方で弾性連結してなることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
  2. 前記ハウジングに軸受を介して支軸を支持し、前記駆動ギヤの他端に上記支軸に同軸をなして軸方向に摺動する摺動部を設け、
    前記駆動ギヤの一端と前記駆動軸又は該駆動軸のための前記軸受との間に前記軸方向の一方への変位と回転方向の変位を吸収するための緩衝部材を介装し、前記駆動ギヤの他端と前記支軸又は該支軸のための前記軸受との間に前記軸方向の他方への変位を吸収するための緩衝部材を介装した請求項記載の電動パワーステアリング装置。
  3. 前記駆動ギヤの他端を前記ハウジングに設けた軸受に軸方向へ摺動可能に支持し、
    前記駆動ギヤの一端と前記駆動軸又は該駆動軸のための前記軸受との間に前記軸方向の一方への変位と回転方向の変位を吸収するための緩衝部材を介装し、前記駆動ギヤの他端と該駆動ギヤのための前記軸受との間に前記軸方向の他方への変位を吸収するための緩衝部材を介装した請求項記載の電動パワーステアリング装置。
  4. 前記駆動ギヤの他端を前記ハウジングに対し軸方向へ摺動可能に支持し、
    前記駆動ギヤの一端と前記駆動軸又は該駆動軸のための前記軸受との間に前記軸方向の一方と他方への変位と、回転方向の変位を吸収するための緩衝部材を介装した請求項記載の電動パワーステアリング装置。
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