しかしながら、従来のシリンダブロックにおいては、次のような問題点があった。
シリンダブロックをダイカストで一体成形する場合、ウォータジャケットは、金型あるいは中子の鋳抜きによって成形される。そして、金型や中子がウォータジャケット成形時の鋳造圧力に耐えるには、ある程度の厚さを有する金型や中子を用いる必要があった。つまり、金型や中子の寿命や強度の制約によって、その厚さを薄くするには限界があった。したがって、ウォータジャケットについても、その幅を小さくするのには限界があった。言い換えれば、ウォータジャケットの流路断面積を小さくするのには限界があり、ウォータジャケットが必要以上に大きく形成されてしまう場合があった。このため、ウォータジャケットが必要以上に大きい分だけ、冷却水を循環させるためのポンプの容量を余分に大きくしなければならないという問題点があった。
加えて、ウォータジャケットの流路断面積を小さくするのには限界があったため、シリンダの下部、つまり、クランクケース側の部分が、上部のシリンダヘッド側の部分と比べて過度に冷却されてしまっていた。その結果、シリンダの下部でオイル粘性が大きくなり、フリクションロスが大きくなるという問題点があった。
また、エンジンが高出力になるほど、燃焼圧力が増加し、その際、シリンダが径方向に拡張する。しかし、そのような高い燃焼圧力がかかる部分をシールするガスケット、具体的には、シリンダヘッドとの間に介装されるガスケットの耐久性を確保するには、上述のようなシリンダの拡張量を抑制する必要があった。シリンダの拡張を抑制するには、その肉厚を大きくすることが考えられる。一方、上述のように、高い燃焼圧力がかかるのは、シリンダのうち、上部のシリンダヘッド側(燃焼室側)の部分だけである。したがって、シリンダの拡張を抑制するには、シリンダの上部だけを厚肉にすれば十分である。
ところが、シリンダブロックをダイカストで成形する場合、金型の鋳抜き方向に制約があり、シリンダの軸方向に鋳抜けるような金型を用いていたため、シリンダにいわゆるアンダーカット形状の部分を形成することはできなかった。このため、上部だけを厚肉にしたようなシリンダを成形することはできかった。したがって、上部から下部にかけて全面的に厚肉となったシリンダしか成形することができず、その結果、必要のない部分をも厚肉化してしまい、駄肉の増加を招来するという問題点があった。
さらに、多気筒のシリンダブロックの場合、隣り合うシリンダ間の部分は、受ける熱量が多くなるので、他の部分よりも効率的に冷却を行って、シリンダ周方向の温度差を抑制する必要がある。これには、シリンダ間付近のウォータジャケットの幅を他の部分よりも小さくして、つまり、ウォータジャケットの流路断面積を小さくして、シリンダ間付近の冷却水の流速を大きくすることが考えられる。
しかし、上述したように、シリンダブロックをダイカストで成形する場合、金型や中子の寿命や強度の制約によって、ウォータジャケットの幅を小さくするのには限界があった。このため、シリンダ間付近のウォータジャケットの幅を成形可能な最小幅としたとしても、シリンダ周方向の温度差を抑制するには、その他の部分のウォータジャケットの幅を大きくしなければならなかった。その結果、シリンダブロックが大型化してしまうという問題点があった。
特許文献1記載のシリンダブロックでは、シリンダ部が押し出しまたは鍛造で成形されるため、シリンダ部の内部に形成されるウォータジャケットの幅をシリンダの上下方向で異ならせるということは困難であった。また、シリンダの肉厚をシリンダの上下方向で異ならせるということも困難であった。さらに、シリンダ間付近のウォータジャケットの幅を小さくするのにも限界があった。
本発明は、上述した従来技術の問題点を鑑みてなされたものであって、ウォータジャケットの幅が調整可能であり、シリンダの軸方向や周方向の温度差を抑制することができるようなシリンダブロックを提供することを目的とする。
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、シリンダ周囲に形成されるウォータジャケットのシリンダ側の周壁を構成するシリンダライナ部と、ウォータジャケットを囲む外壁を構成するシリンダ外壁部およびその下部に配設されるクランクケース部が一体に形成されたシリンダブロック本体とが分割形成され、オープンデッキ型に構成されたシリンダブロックであって、シリンダライナ部の下部の周辺には、互いに逆方向からボルトを螺合するネジ孔が形成されたネジ部が配設されており、ネジ部には、一方側からシリンダヘッドを当該シリンダブロックに固定するヘッドボルトが締結されるとともに、その逆側からクランクキャップを当該シリンダブロックに固定するクランクキャップボルトが締結され、これら両ボルトのネジ部への締結によりシリンダライナ部とシリンダブロック本体とが連結固定され、この連結固定状態でシリンダライナ部の外周面とシリンダブロック本体のシリンダ外壁部の内周面とによってウォータジャケットが形成されていることを特徴としている。
上記構成によれば、シリンダブロック本体とシリンダライナ部とが連結されることにより、シリンダライナ部の外周面とシリンダブロック本体のシリンダ外壁部の内周面とによってウォータジャケットが形成される。このように、ウォータジャケットを、金型や中子の鋳抜きによらずに形成することができる。したがって、ウォータジャケットの幅を、金型や中子の強度の制約を受けることなく任意に調整することが可能となる。ここで、ウォータジャケットの幅とは、シリンダの軸方向に直交する平面内におけるシリンダライナ部の外周面とシリンダブロック本体のシリンダ外壁部の内周面との距離を言う。
そして、従来では、金型や中子の強度の制約によって、ウォータジャケットの幅を小さくするには限界があったのに対し、上記構成によれば、ウォータジャケットの幅を従来の限界よりも小さくすることができる。これにより、ウォータジャケットが必要以上に大きくなることがなくなり、その結果、シリンダブロックの大型化を回避できるとともに、ウォータジャケット内に冷却水を循環させるためのポンプの容量を大きくする必要がなくなる。
ここで、前記ネジ部を、シリンダライナ部と一体に形成することができる。これにより、部品点数の削減、構成の簡略化を図ることができる。また、ヘッドボルトとクランクキャップボルトとを同軸上に配置することができる。
また、本発明のシリンダブロックにおいて、前記シリンダ外壁部の内周面は、下側の部分がそれよりも上側の部分に比べてシリンダライナ部の外周面に近接するように形成されていることを特徴とする。なお、シリンダライナ部の外周面を、下側の部分がそれよりも上側の部分に比べてシリンダ外壁部の内周面に近接するように形成してもよい。このように、シリンダライナ部の外周面、および、シリンダ外壁部の内周面の少なくとも一方の形状を工夫することによって、ウォータジャケット幅を調整するようにしている。
上記構成によれば、ウォータジャケットの幅が、下側の部分がそれよりも上側の部分に比べて小さくなる。これにより、ウォータジャケットの上部、つまり、エンジンの燃焼室に近い部分には、冷却水を多量に供給することができ、シリンダ上部の冷却効率を向上させることができる。一方、ウォータジャケットの下部、つまり、エンジンの燃焼室から遠い部分には、冷却水をあまり供給しないようにすることができ、シリンダ下部の過度の冷却を防止することができ、その結果、シリンダ下部でのオイル粘性を適度に保つことができ、フリクションロスを低減することができる。
このように、冷却水を多く必要とする部分については、ウォータジャケットの幅を大きくすることによって、冷却水の流れがスムーズになり、冷却水を多量に供給することができる。逆に、冷却水をあまり必要としない部分については、ウォータジャケットの幅を小さくすることによって、冷却水の流れが抵抗が大きくなるためよどみ、冷却水をあまり供給しないようにすることができる。つまり、ウォータジャケットの幅を調整することによって、必要な量の冷却水を必要なだけ過不足なく供給することができる。その結果、シリンダの軸方向に沿う方向におけるシリンダの温度差を抑制することができる。
さらに、本発明のシリンダブロックにおいて、前記シリンダライナ部の上部の肉厚がそれよりも下側の部分に比べて大きく形成されていることを特徴とする。
上記構成によれば、シリンダライナ部の上部、つまり、高い燃焼圧力がかかる燃焼室側の部分の肉厚が大きくなっているので、シリンダの径方向への拡張を抑制することができる。これにより、シリンダヘッドとの間に介装されるガスケットの耐久性を確保することができ、そのシール信頼性を確保することができる。
そして、従来では、シリンダブロックをダイカストで成形する場合、金型の鋳抜き方向に制約があり、シリンダの軸方向に鋳抜けるような金型を用いていたため、シリンダにアンダーカット形状の部分を形成することはできなかった。これに対し、上記構成によれば、シリンダブロックがシリンダブロック本体とシリンダライナ部とで分割形成される構成であるため、シリンダライナ部をダイカストで成形する際、各シリンダの軸心を含む面(シリンダ配列方向に沿う面)を型割り面として型割りを行うことができるようになる。これにより、シリンダの燃焼室側の部分のように、厚肉化が必要な部分だけを厚肉にしても、ダイカストにおいてアンダーカットとなる部分をなくすことができる。その結果、駄肉の増加を防止することができ、シリンダブロックの軽量化を図ることができる。
また、本発明のシリンダブロックにおいて、前記ネジ部は、ウォータジャケット内に配設されており、シリンダライナ部の外周囲で、ネジ部が設けられている部分では、ウォータジャケットの幅が、ネジ部が設けられていない部分に比べて小さくなっていることを特徴とする。なお、ネジ部のシリンダヘッド側の端部は、シリンダ外壁部の上面まで達していることが好ましい。
上記構成によれば、ネジ部が設けられている部分では、ウォータジャケットの冷却水の流速が、ネジ部が設けられていない部分に比べて大きくなる。したがって、ネジ部が設けられている部分近傍の冷却を効率的に行うことができる。
そして、ネジ部の外周形状を調整することによって、ネジ部が設けられている部分のウォータジャケットの幅を任意に調整することが可能となる。従来では、金型や中子の強度の制約によって、ウォータジャケットの幅を小さくするには限界があったのに対し、上記構成によれば、ウォータジャケットの幅を従来の限界よりも小さくすることができる。これにより、シリンダの周方向の温度差を抑制するために、ウォータジャケットが必要以上に大きくなることがなくなり、その結果、シリンダブロックの大型化を回避できるとともに、ウォータジャケット内に冷却水を循環させるためのポンプの容量を大きくする必要がなくなる。
また、本発明のシリンダブロックは、多気筒内燃機関に用いられるシリンダブロックであって、シリンダライナ部には、複数のシリンダが備えられており、ネジ部は、隣り合うシリンダ間の近傍に設けられていることを特徴とする。
上記構成によれば、ネジ部が設けられているシリンダ間近傍では、ウォータジャケットの冷却水の流速が、シリンダ外周の他の部分に比べて大きくなる。したがって、シリンダ間では、シリンダの他の部分よりも受ける熱量が多くなるが、そのシリンダ間の冷却を効率的に行うことができる。その結果、シリンダの周方向における温度差を抑制することができるようになり、したがって、シリンダの変形を抑制することができ、フリクションロスを低減することができる。
本発明によれば、シリンダブロック本体とシリンダライナ部とが連結されることにより、シリンダライナ部の外周面とシリンダブロック本体のシリンダ外壁部の内周面とによってウォータジャケットが形成される。このように、ウォータジャケットを、金型や中子の鋳抜きによらずに形成することができる。したがって、ウォータジャケットの幅を、金型や中子の強度の制約を受けることなく任意に調整することが可能となる。そして、従来では、金型や中子の強度の制約によって、ウォータジャケットの幅を小さくするには限界があったのに対し、本発明では、ウォータジャケットの幅を従来の限界よりも小さくすることができる。これにより、ウォータジャケットが必要以上に大きくなることがなくなり、その結果、シリンダブロックの大型化を回避できるとともに、ウォータジャケット内に冷却水を循環させるためのポンプの容量を大きくする必要がなくなる。
本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。
以下では、エンジンに用いられるシリンダブロックとして、3気筒のシリンダブロックを例にとって説明するが、これに限定されず、2つ以下または4つ以上の気筒を有するシリンダブロックであってもよい。また、多気筒のシリンダブロックの場合、直列型エンジンに用いられるものであっても、V型エンジンに用いられるものであっても、水平対向型エンジンに用いられるものであってもよい。
まず、第1の実施形態について、図1〜図5を用いて説明する。図1は、第1の実施形態に係る、シリンダライナ部20およびその周辺部を示すシリンダブロック1の平面図である(シリンダヘッド2を取り外した状態を示しており、シリンダブロック1の外縁形状については省略している)。図2は、図1におけるA−A線に沿った断面図、図3は、図1におけるB−B線に沿った断面図、図4は、図3における各構成部材を分解して示す図、図5は、シリンダライナ部20を示す斜視図である。なお、便宜上、図2に示すように、シリンダブロック1に対し、シリンダヘッド2が配置される側を上方とし、クランクキャップ3が配置される側を下方として説明する。つまり、シリンダの軸方向に沿う方向を上下方向としている。
シリンダブロック1は、多気筒(図1では、3気筒)のエンジンの構成部材であり、その上面には、ガスケット6を介してシリンダヘッド2が設けられ、その下面には、クランクシャフトを軸支するためのクランクキャップ3が設けられている。なお、シリンダヘッド2の上方にはヘッドカバーが、クランクキャップ3の下方にはオイルパンがそれぞれ配設されるようになっている。
シリンダヘッド2には、上下方向に貫通するボルト挿通孔2aが形成されている。ボルト挿通孔2aは、後述するシリンダライナ部20のネジ部22の上部ネジ孔22aと対応する位置に設けられている。ボルト挿通孔2aには、第1のスルーボルトとしてのヘッドボルト4が上方から挿通される。なお、ガスケット6にも同様にボルト挿通孔6aが形成されている。
一方、クランクキャップ3には、上下方向に貫通するボルト挿通孔3aが形成されている。ボルト挿通孔3aは、後述するシリンダライナ部20のネジ部22の下部ネジ孔22bと対応する位置に設けられている。ボルト挿通孔3aには、第2のスルーボルトとしてのクランクキャップボルト5が下方から挿通される。そして、ヘッドボルト4によりシリンダヘッド2がシリンダブロック1に対して締結されるとともに、クランクキャップボルト5によりクランクキャップ3がシリンダブロック1に対して締結されている。
シリンダブロック1は、シリンダブロック本体10とシリンダライナ部20とが連結されて構成されている。つまり、シリンダブロック1は、シリンダブロック本体10とシリンダライナ部20との別体構造となっている。シリンダブロック1には、シリンダライナ部20の外周囲にウォータジャケット30が設けられており、ウォータジャケット30は、後述するように、シリンダブロック本体10とシリンダライナ部20とによって形成されている。
シリンダブロック本体10は、シリンダライナ部20の外周を囲むシリンダ外壁部11と、その下部に配設されるクランクケース部12とが一体的に形成されている。シリンダブロック本体10は、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金等からなり、ダイカストにより一体的に鋳造されている。
シリンダ外壁部11は、シリンダライナ部20の外周面20fと対向するように形成された内周面11fを有している。このようなシリンダ外壁部11の内周面11fは、ウォータジャケット30の外側の壁面を構成する。そして、シリンダ外壁部11の内周面11fには、上下略中央に段差11bが形成されており、段差11bを境に、上側に大径部分11c、下側に小径部分11dが形成されている。ただし、後述するように、シリンダ外壁部11の内部にはシリンダライナ部20が挿入されるため、シリンダ外壁部11の内周面11fの、シリンダライナ部20のネジ部22が挿入される部分は、そのネジ部22と干渉しないようなネジ部22に対応した形状となっている。そして、シリンダライナ部20のネジ部22が挿入される部分の内周面11fには、段差11b、大径部分11c、小径部分11dは形成されておらず、上部から下部までストレート(シリンダライナ21の軸方向に平行)になっている。一方、シリンダ外壁部11の上部には、フランジ部11aが形成されており、フランジ部11aの上面は、シリンダヘッド2を載置する載置面となっている。
クランクケース部12は、シリンダブロック1のスカート部分として設けられており、その下方に取り付けられるクランクキャップ3、オイルパンとともに、クランクシャフトを収容するクランクケースを形成する。クランクケース部12には、上下方向に貫通するボルト挿通孔12aが形成されている。ボルト挿通孔12aは、後述するシリンダライナ部20のネジ部22の下部ネジ孔22bと対応する位置に設けられている。ボルト挿通孔12aには、上述したクランクキャップボルト5が下方から挿通される。
また、クランクケース部12の上部のシリンダ外壁部11と繋がる部分12bよりも内側には、突出部12cが形成されている。突出部12cの上面は、後述するシリンダライナ部20との当接面となっている。
シリンダライナ部20は、各気筒のシリンダライナ21(単に、シリンダとも言う)となる3つの円筒体を連続して直列に繋げた形状に形成されている。このシリンダライナ部20の外周面20fは、ウォータジャケット30のシリンダ側の壁面(内側の壁面)を構成する。シリンダライナ部20は、上述のシリンダブロック本体10と同様、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金からなり、ダイカストにより一体的に鋳造されている。シリンダライナ部20の各シリンダライナ21は、その肉厚が下部から上部にかけて略均一になっている。そして、各シリンダライナ21の下部の外周には、ネジ部22が形成されている。このように、ネジ部22がシリンダライナ部20と一体に形成されている。これにより、部品点数の削減、構成の簡略化を図ることができる。
ネジ部22は、シリンダライナ21の外周の所定位置に設けられている。具体的には、ネジ部22は、シリンダライナ部20の各シリンダライナ21の軸心を含む平面に関して対称な位置に設けられており、さらに、その平面に直交し、シリンダライナ21の軸心を通る平面に関しても対称な位置に設けられている。
この例では、ネジ部22は、シリンダライナ21の外周の4箇所、具体的には、シリンダライナ21の軸心から見て、シリンダライナ部20の各シリンダライナ21の軸心を通る線を基準に、45度の位置、135度の位置、225度の位置、315度の位置にそれぞれ配設されている。なお、隣り合うシリンダライナ21,21の境に設けられる2つのネジ部22,22は、ウォータジャケット30に面して設けられており、両方のシリンダライナ21,21に共通のものとなっている。つまり、この例では、シリンダライナ部20には、計8つのネジ部22,22・・・が設けられている。
ネジ部22には、上部ネジ孔22aと下部ネジ孔22bとが形成されている。上部ネジ孔22aは、ネジ部22の上部に形成されており、上部ネジ孔22aには、上方からボルトを螺合することが可能となっている。具体的には、上部ネジ孔22aには、ヘッドボルト4が螺合される。下部ネジ孔22bは、ネジ部22の下部に形成されており、下部ネジ孔22bには、下方からボルトを螺合することが可能となっている。具体的には、下部ネジ孔22bには、クランクキャップボルト5が螺合される。この例では、ネジ部22において、上部ネジ孔22aと下部ネジ孔22bとが同軸上に形成されている。したがって、ネジ部22に締結されるヘッドボルト4とクランクキャップボルト5とは同軸上に配置されるようになる。このように、シリンダライナ部20の周辺には、互いに逆方向からボルト4,5が螺合されるネジ孔22a,22bが形成されたネジ部22が配設されている。
シリンダライナ部20は、シリンダブロック本体10のシリンダ外壁部11の内部に挿入され、シリンダブロック本体10と連結されている。このとき、シリンダライナ部20の下面がシリンダブロック本体10のクランクケース部12の突出部12cの上面(受け面)に当接されている。そして、シリンダライナ部20の外周面20fとシリンダ外壁部11の内周面11fとの間に空間が形成されており、この空間がウォータジャケット30となっている。ウォータジャケット30は、シリンダライナ部20の全周囲を囲むように設けられている。また、ウォータジャケット30は、シリンダブロック1の上面側に向けて開放されている。つまり、シリンダブロック1は、いわゆるオープンデッキ型に構成されている。ウォータジャケット30には、ラジエータからの冷却水が導入される。そして、冷却水がウォータジャケット30内をシリンダライナ部20の外周に沿って循環することによって、シリンダブロック1が冷却される。
ウォータジャケット30内には、冷却水が導入されるため、シリンダライナ部20の下面と、シリンダブロック本体10のクランクケース部12の突出部12cの上面との間には、ウォータジャケット30の下部を閉塞させるためのシール部材が介装されている。ここで、シール部材として、シールリングを用いることができるが、シールリングの代わりに、次のような硬化型液状ガスケットを用いることができる。硬化型液状ガスケットは、例えば、シリコーン樹脂からなる。この硬化型液状ガスケットは、シリンダブロック本体10とシリンダライナ部20との連結に先立ち、シリンダライナ部20の下面、または、クランクケース部12の突出部12cの上面に塗布される。そして、塗布された液体状態の硬化型液状ガスケットが、連結に際してシリンダライナ部20の下面と、シリンダブロック本体10のクランクケース部12の突出部12cの上面との間に挟み込まれることで、それらのクリアランス形状に合わせて変形する。その後、長時間放置したりすることによって、液体状態の硬化型液状ガスケットが硬化して固体となる。これにより、クリアランス形状に合致した形状のガスケットが、シリンダライナ部20の下面とシリンダブロック本体10のクランクケース部12の突出部12cの上面との当接面間に形成される。
ここで、シリンダブロック1におけるシリンダブロック本体10とシリンダライナ部20との連結について説明する。
シリンダブロック本体10とシリンダライナ部20とは、ボルト締結によって一体的に連結されている。具体的には、シリンダライナ部20がシリンダブロック本体10のシリンダ外壁部11の内部に挿入され、シリンダライナ部20のネジ部22にヘッドボルト4とクランクキャップボルト5とが互いに逆方向から締結されることによって、シリンダブロック本体10とシリンダライナ部20とが連結される。
より詳細には、ヘッドボルト4がシリンダヘッド2のボルト挿通孔2aに上方から挿通され、シリンダライナ部20のネジ部22の上部ネジ孔22aに螺合される。これにより、シリンダヘッド2がシリンダブロック1の上側に装着される。また、クランクキャップボルト5がクランクキャップ3のボルト挿通孔3aとシリンダブロック本体10のクランクケース部12のボルト挿通孔12aに下方から挿通され、シリンダライナ部20のネジ部22の下部ネジ孔22bに螺合される。これにより、クランクキャップ3がシリンダブロック本体10のクランクケース部12の下側に装着される。
そして、このように、シリンダライナ部20のネジ部22に、上方側からヘッドボルト4が締結されるとともに、下方側からクランクキャップボルト5が締結されることによって、シリンダブロック本体10がシリンダライナ部20とクランクキャップ3との間に挟み込まれ、上下から締付力を受ける。これにより、シリンダブロック本体10とシリンダライナ部20とが連結固定される。なお、ヘッドボルト4の中間部は、ウォータジャケット30内に位置しており、冷却水にさらされるため、その部分には防錆材を塗布しておく。
また、上述のように、シリンダブロック本体10とシリンダライナ部20とが連結されることにより、シリンダライナ部20の外周面20fと、シリンダブロック本体10のシリンダ外壁部11の内周面11fとによって、ウォータジャケット30が形成される。このように、ウォータジャケット30を、金型や中子の鋳抜きによらずに形成することができる。したがって、ウォータジャケット30の幅、言い換えれば、ウォータジャケット30の流路断面積を、金型や中子の強度の制約を受けることなく任意に調整することが可能となる。なお、ウォータジャケット30の幅とは、シリンダライナ21の軸方向に直交する平面内におけるシリンダライナ部20の外周面20fとシリンダブロック本体10のシリンダ外壁部11の内周面11fとの距離(間隔)を言う。
そして、従来では、金型や中子の強度の制約によって、ウォータジャケットの幅を小さくするには限界があったのに対し、この例では、ウォータジャケット30の幅を従来の限界よりも小さくすることができる。これにより、ウォータジャケット30が必要以上に大きくなることがなくなり、その結果、シリンダブロック1の大型化を回避できるとともに、ウォータジャケット30内に冷却水を循環させるためのポンプの容量を大きくする必要がなくなる。
ウォータジャケット30の幅は、シリンダライナ部20の外周面20fと、シリンダブロック本体10のシリンダ外壁部11の内周面11fとの相対的な位置関係によって決定されるため、シリンダライナ部20の外周面20fの形状、および、シリンダ外壁部11の内周面11fの形状の少なくとも一方の形状を工夫することによって、ウォータジャケット30の幅を調整することができる。これにより、冷却水を多く必要とする部分については、ウォータジャケット30の幅を大きくすることによって、冷却水の流れがスムーズになり、冷却水を多量に供給することができる。逆に、冷却水をあまり必要としない部分については、ウォータジャケット30の幅を小さくすることによって、冷却水の流れが抵抗が大きくなるためよどみ、冷却水をあまり供給しないようにすることができる。このように、ウォータジャケット30の幅を調整することによって、必要な量の冷却水を必要なだけ過不足なく供給することができる。その結果、シリンダライナ21の上下方向における温度差を抑制することができる。
この例では、シリンダ外壁部11の内周面11fの形状を次のように工夫している。上述したように、シリンダ外壁部11の内周面11fには、段差11bを介して、上側に大径部分11c、下側に小径部分11dが形成されている。つまり、シリンダ外壁部11の内周面11fは、下側の部分がそれよりも上側の部分に比べてシリンダライナ部20の外周面20fに近接するように形成されている。したがって、ウォータジャケット30の幅が、段差11bを境に、上側では大きく、下側では小さくなっている。これにより、ウォータジャケット30の上部、つまり、エンジンの燃焼室に近い部分には、冷却水を多量に供給することができ、シリンダライナ21上部の冷却効率を向上させることができる。一方、ウォータジャケット30の下部、つまり、エンジンの燃焼室から遠い部分には、冷却水をあまり供給しないようにすることができ、シリンダライナ21下部の過度の冷却を防止することができ、その結果、シリンダライナ21下部でのオイル粘性を適度に保つことができ、フリクションロスを低減することができる。
なお、シリンダ外壁部11の内周面11fの形状を次のように工夫してもよい。上述では、シリンダ外壁部11の内周面11fの形状を、段差11bを設けた形状としたが、段差を設けずに、下部から上部に向かうにつれて次第に拡径されるような傾斜を有する形状(テーパ形状)とすることができる。そうすると、ウォータジャケット30の幅を下部から上部に向かうにつれて次第に大きくすることができる。さらに、そのような傾斜をシリンダ外壁部11の内周面11fの一部だけに設けるようにしてもよい。
また、シリンダ外壁部11の内周面11fに段差を設けた場合、段差よりも上側の部分を、段差から上側に向かうにつれて次第に拡径されるような傾斜を有する形状とすることができる。同様に、段差よりも下側の部分を、段差から下側に向かうにつれて次第に縮径されるような傾斜を有する形状とすることができる。これら場合にも、そのような傾斜をシリンダ外壁部11の内周面11fの一部だけに設けるようにしてもよい。
また、上述では、シリンダ外壁部11の内周面11fに段差を1つだけ設けたが、複数の段差を設けるようにしてもよい。例えば、2つの段差を設け、下部から上部に向かうにつれて、それぞれの段差を境に、小径の部分、中間径の部分、大径の部分を形成するようにしてもよい。
次に、第2の実施形態について、図6〜図9を用いて説明する。図6は、第2の実施形態に係る、シリンダライナ部120およびその周辺部を示すシリンダブロック101の平面図である(シリンダヘッド102を取り外した状態を示しており、シリンダブロック101の外縁形状については省略している)。図7は、図6におけるC−C線に沿った断面図、図8は、図6におけるD−D線に沿った断面図、図9は、シリンダライナ部120を示す斜視図である。なお、便宜上、図7に示すように、シリンダブロック101に対し、シリンダヘッド102が配置される側を上方とし、クランクキャップ103が配置される側を下方として説明する。つまり、シリンダの軸方向に沿う方向を上下方向としている。
第2の実施形態に係るシリンダブロック101は、上記第1の実施形態に係るシリンダブロック1と略同様の構成となっている。したがって、上記第1の実施形態に係るシリンダブロック1と同じ構成の部分については詳細な説明を省略し、異なる構成の部分について詳しく説明する。具体的には、シリンダブロック本体110のシリンダ外壁部111の内周面111fの形状、シリンダライナ部120のシリンダライナ121の上部の形状が主に異なっている。
シリンダブロック101は、シリンダブロック本体110とシリンダライナ部120とが連結されて構成されている。シリンダブロック本体110とシリンダライナ部120とは、上記第1の実施形態に係るシリンダブロック1の場合と同様にして連結されている。具体的には、シリンダライナ部120がシリンダブロック本体110のシリンダ外壁部111の内部に挿入され、シリンダライナ部120のネジ部122にヘッドボルト104とクランクキャップボルト105とが互いに逆方向から締結されることによって、シリンダブロック本体110とシリンダライナ部120とが連結されている。そして、このように、シリンダブロック本体110とシリンダライナ部120とが連結されることにより、シリンダライナ部120の外周面120fと、シリンダブロック本体110のシリンダ外壁部111の内周面111fとによって、ウォータジャケット130が形成されている。ウォータジャケット130は、シリンダライナ部120の全周囲を囲むように設けられている。
シリンダブロック本体110は、シリンダライナ部120の外周を囲むシリンダ外壁部111と、その下部に配設されるクランクケース部112とが一体的に形成されている。シリンダ外壁部111は、シリンダライナ部120の外周面120fと対向するように形成された内周面111fを有している。このようなシリンダ外壁部111の内周面111fは、ウォータジャケット130の外側の壁面を構成する。
そして、上記第1の実施形態に係るシリンダブロック1では、シリンダ外壁部11の内周面11fには、上下略中央に段差11bが形成され、段差11bの上側に大径部分11c、下側に小径部分11dが形成されているが、第2の実施形態に係るシリンダブロック101では、シリンダ外壁部111の内周面111fに、段差は形成されていない。シリンダ外壁部111の内周面111fは、下部から上部に向かうにつれて次第に拡径されるような傾斜を有する形状(テーパ形状)となっている。ただし、シリンダ外壁部111の内部にはシリンダライナ部120が挿入されるため、シリンダ外壁部111の内周面111fの、シリンダライナ部120のネジ部122が挿入される部分は、そのネジ部122と干渉しないようなネジ部122に対応した形状となっている。そして、シリンダライナ部120のネジ部122が挿入される部分の内周面111fは、傾いて形成されておらず、上部から下部までストレート(シリンダライナ121の軸方向に平行)になっている。
シリンダライナ部120は、各気筒のシリンダライナ121となる3つの円筒体を連続して直列に繋げた形状に形成されている。このシリンダライナ部120の外周面120fは、ウォータジャケット130の内側の壁面を構成する。シリンダライナ部120の各シリンダライナ121の下部の外周には、ネジ部122が形成されている。ネジ部122は、シリンダライナ121の外周の所定位置に設けられている。この例では、ネジ部122は、シリンダライナ121の外周の4箇所、具体的には、シリンダライナ121の軸心から見て、シリンダライナ部120の各シリンダライナ121の軸心を通る線を基準に、45度の位置、135度の位置、225度の位置、315度の位置にそれぞれ配設されている。なお、隣り合うシリンダライナ121,121の境に設けられる2つのネジ部122,122は、ウォータジャケット130に面して設けられており、両方のシリンダライナ121,121に共通のものとなっている。つまり、この例では、シリンダライナ部120には、計8つのネジ部122,122・・・が設けられている。
そして、上記第1の実施形態に係るシリンダブロック1では、シリンダライナ部20のシリンダライナ21の肉厚が下部から上部にかけて略均一になっているが、第2の実施形態に係るシリンダブロック101では、シリンダライナ部120の各シリンダライナ121は、その上部に外側へ向けて突出する厚肉部121aが形成されている。シリンダライナ121の厚肉部121aよりも下側の部分の肉厚は略均一になっている。このように、シリンダライナ121の上部の肉厚がそれよりも下側の部分に比べて大きくなっている。
ウォータジャケット130は、上述したように、シリンダブロック本体110とシリンダライナ部120とが連結されることにより、シリンダライナ部120の外周面120fと、シリンダブロック本体110のシリンダ外壁部111の内周面111fとによって形成される。つまり、ウォータジャケット130は、金型や中子の鋳抜きによって成形されているのではない。したがって、第2の実施形態に係るシリンダブロック101においても、上記第1の実施形態に係るシリンダブロック1の場合と同様の作用効果が得られる。
なお、シリンダライナ121の上部に厚肉部121aが設けられている分、ウォータジャケット130の上部の幅が小さくなるが、シリンダ外壁部111の内周面111fの形状を、例えば、シリンダ外壁部111の内周面111fの上部寄りの部分に段差を設け、その段差よりも上側が大径部分、下側が小径部分となるように工夫することによって、ウォータジャケット130の上部の幅が小さくならないようにすることができる。これにより、ウォータジャケット130の上部、つまり、シリンダライナ121の厚肉部121aの周囲にも冷却水を多量に供給することができるようになる。
また、この例では、上述したように、シリンダライナ部120のシリンダライナ121の上部に厚肉部121aが形成されており、シリンダライナ121の上部の肉厚がそれよりも下側の部分に比べて大きくなっている。そして、このように、シリンダライナ121の高い燃焼圧力がかかる燃焼室側の部分の肉厚が大きくなっているので、シリンダライナ121の径方向への拡張を抑制することができる。これにより、シリンダヘッド102との間に介装されるガスケット106の耐久性を確保することができ、そのシール信頼性を確保することができる。
従来では、シリンダブロックをダイカストで成形する場合、金型の鋳抜き方向に制約があり、シリンダライナの軸方向に鋳抜けるような金型を用いていたため、シリンダライナにアンダーカット形状の部分を形成することはできなかった。これに対し、この例では、シリンダブロック101がシリンダブロック本体110とシリンダライナ部120とで分割形成される構成であるため、シリンダライナ部120をダイカストで成形する際、各シリンダライナ121の軸心を含む面(シリンダ配列方向に沿う面)を型割り面Fとして型割りを行うことができるようになる。これにより、シリンダライナ121の燃焼室側の部分のように、厚肉化が必要な部分だけを厚肉にしても、ダイカストにおいてアンダーカットとなる部分をなくすことができる。その結果、駄肉の増加を防止することができ、シリンダブロック101の軽量化を図ることができる。なお、図9に示す型割り面Fは、シリンダライナ部120の各シリンダライナ121の軸心を含む平面となっている。
次に、第3の実施形態について、図10〜図12を用いて説明する。図10は、第3の実施形態に係る、シリンダライナ部220およびその周辺部を示すシリンダブロック201の平面図である(シリンダヘッド202を取り外した状態を示しており、シリンダブロック201の外縁形状については省略している)。図11は、図10におけるE−E線に沿った断面図、図12は、シリンダライナ部220を示す斜視図である。なお、便宜上、図11に示すように、シリンダブロック201に対し、シリンダヘッド202が配置される側を上方とし、クランクキャップ203が配置される側を下方として説明する。つまり、シリンダの軸方向に沿う方向を上下方向としている。
第3の実施形態に係るシリンダブロック201は、上記第1の実施形態に係るシリンダブロック1と略同様の構成となっている。したがって、上記第1の実施形態に係るシリンダブロック1と同じ構成の部分については詳細な説明を省略し、異なる構成の部分について詳しく説明する。具体的には、シリンダライナ部220の周辺に配設されるネジ部材222がシリンダライナ部220とは別体となっている点が主に異なっている。
シリンダブロック201は、シリンダブロック本体210とシリンダライナ部220とネジ部材222とが連結されて構成されている。シリンダブロック201には、シリンダライナ部220の外周囲にウォータジャケット230が設けられている。
シリンダブロック本体210は、シリンダライナ部220の外周を囲むシリンダ外壁部211と、その下部に配設されるクランクケース部212とが一体的に形成されている。シリンダ外壁部211は、シリンダライナ部220の外周面220fと対向するように形成された内周面211fを有している。このようなシリンダ外壁部211の内周面211fは、ウォータジャケット230の外側の壁面を構成する。シリンダ外壁部211の内部にはシリンダライナ部220が挿入されるため、シリンダ外壁部211の内周面211fの、シリンダライナ部220の突出部220a(詳細は後述)が挿入される部分は、その突出部220aと干渉しないような突出部220aに対応した形状となっている。そして、シリンダライナ部220の突出部220aが挿入される部分の内周面211fは、上部から下部までストレート(シリンダライナ221の軸方向に平行)に形成されている。
なお、シリンダライナ部220の突出部220aが挿入される部分以外の内周面211fを、上記第1の実施形態に係るシリンダブロック1のシリンダ外壁部11の内周面11fと同様に、段差が形成された形状とすることで、上記第1の実施形態に係るシリンダブロック1の場合と同様の作用効果が得られる。また、シリンダライナ部220の突出部220aが挿入される部分以外の内周面211fを、上記第2の実施形態に係るシリンダブロック101のシリンダ外壁部111の内周面111fと同様の傾いて形成された形状としてもよい。
シリンダライナ部220は、各気筒のシリンダライナ221となる3つの円筒体を連続して直列に繋げた形状に形成されている。このシリンダライナ部220の外周面220fは、ウォータジャケット230の内側の壁面を構成する。シリンダライナ部220の各シリンダライナ221の下部の外周には、外側に向けて突出する突出部220aが形成されている。突出部220aには、上下方向に貫通するボルト挿通孔220bが形成されている。ボルト挿通孔220bには、クランクキャップボルト205が下方から挿通される。なお、上記第2の実施形態に係るシリンダブロック101のシリンダライナ121と同様に、シリンダライナ221の上部の肉厚をそれよりも下側の部分に比べて大きく形成することで、上記第2の実施形態に係るシリンダブロック101の場合と同様の作用効果が得られる。
突出部220aは、シリンダライナ221の外周の所定位置に設けられている。具体的には、突出部220aは、シリンダライナ部220の各シリンダライナ221の軸心を含む平面に関して対称な位置に設けられており、さらに、その平面に直交し、シリンダライナ221の軸心を通る平面に関しても対称な位置に設けられている。この例では、突出部220aは、シリンダライナ221の外周の4箇所、具体的には、シリンダライナ221の軸心から見て、シリンダライナ部220の各シリンダライナ221の軸心を通る線を基準に、45度の位置、135度の位置、225度の位置、315度の位置にそれぞれ配設されている。なお、隣り合うシリンダライナ221,221の境に設けられる2つの突出部220a,220aは、両方のシリンダライナ221,221に共通のものとなっており、シリンダライナ部220には、計8つの突出部220a,220a・・・が設けられている。
シリンダライナ部220の突出部220a上には、ネジ部材222が配設されている。ネジ部材222の上下の長さは、シリンダライナ部220の突出部220aの上面と、シリンダ外壁部211のフランジ部211aの上面との間の長さと同じになっている。このネジ部材222は、ウォータジャケット230内に配設されている。なお、ネジ部材222を、その外周面220fの一部がシリンダブロック本体210のシリンダ外壁部211の内周面211fに接するようにして設けてもよい。
ネジ部材222には、上部ネジ孔222aと下部ネジ孔222bとが形成されている。上部ネジ孔222aは、ネジ部材222の上部に形成されており、上部ネジ孔222aには、上方からボルトを螺合することが可能となっている。具体的には、上部ネジ孔222aには、ヘッドボルト204が螺合される。下部ネジ孔222bは、ネジ部材222の下部に形成されており、下部ネジ孔222bには、下方からボルトを螺合することが可能となっている。具体的には、下部ネジ孔222bには、クランクキャップボルト205が螺合される。この例では、ネジ部材222において、上部ネジ孔222aと下部ネジ孔222bとが同軸上に形成されている。したがって、ネジ部材222に締結されるヘッドボルト204とクランクキャップボルト205とは同軸上に配置されるようになる。このように、シリンダライナ部220の周辺には、互いに逆方向からボルト204,205が螺合されるネジ孔222a,222bが形成されたネジ部材222が配設されている。
シリンダライナ部220は、シリンダブロック本体210のシリンダ外壁部211の内部に挿入され、シリンダブロック本体210と連結されている。ここで、シリンダブロック201におけるシリンダブロック本体210とシリンダライナ部220との連結について説明する。
シリンダライナ部220の周辺に設けられたネジ部材222にヘッドボルト204とクランクキャップボルト205とが互いに逆方向から締結されることによって、シリンダブロック本体210とシリンダライナ部220とが連結される。
詳細には、シリンダライナ部220がシリンダブロック本体210のシリンダ外壁部211の内部に挿入され、シリンダライナ部220の突出部220a上にネジ部材222が挿入される。そして、ヘッドボルト204がシリンダヘッド202のボルト挿通孔202aに上方から挿通され、ネジ部材222の上部ネジ孔222aに螺合される。これにより、シリンダヘッド202がシリンダブロック201の上側に装着される。また、クランクキャップボルト205がクランクキャップ203のボルト挿通孔203aと、シリンダブロック本体210のクランクケース部212のボルト挿通孔212aと、シリンダライナ部220の突出部220aのボルト挿通孔220bとに下方から挿通され、ネジ部材222の下部ネジ孔222bに螺合される。これにより、クランクキャップ203がシリンダブロック本体210のクランクケース部212の下側に装着される。
そして、このように、ネジ部材222に、上方側からヘッドボルト204が締結されるとともに、下方側からクランクキャップボルト205が締結されることによって、シリンダライナ部220とシリンダブロック本体210とがシリンダヘッド202とクランクキャップ203との間に挟み込まれ、上下から締付力を受ける。これにより、シリンダブロック本体210とシリンダライナ部220とが連結固定される。
また、上述のように、シリンダブロック本体210とシリンダライナ部220とが連結されることにより、シリンダライナ部220の外周面220fと、シリンダブロック本体210のシリンダ外壁部211の内周面211fとによって、ウォータジャケット230が形成されている。なお、シリンダライナ部220の下面と、シリンダブロック本体210のクランクケース部212の突出部212cの上面との間には、ウォータジャケット230の下部を閉塞させるためのシール部材が介装されている。このシール部材として、シールリングを用いることができるが、シールリングの代わりに、次のような硬化型液状ガスケットを用いることができる。
ウォータジャケット230は、シリンダライナ部220の全周囲を囲むように設けられている。上述したように、ウォータジャケット230内には、ネジ部材222が配設されている。そして、シリンダライナ部220の外周囲で、ネジ部材222が設けられている部分では、ネジ部材222が設けられていない部分に比べて、ウォータジャケット230の幅が小さくなっている。この例では、上述したように、隣り合うシリンダライナ221,221間には、2つの突出部220a,220aが設けられている。つまり、シリンダライナ221,221間に、2つのネジ部材222,222が設けられている。このため、シリンダライナ221,221間近傍では、ウォータジャケット230の幅が、ネジ部材222が設けられていないシリンダライナ221,221間近傍以外のシリンダライナ221外周の他の部分のウォータジャケット230の幅よりも小さくなっている。
これにより、ウォータジャケット230の冷却水の流速が、シリンダライナ221,221間近傍では、シリンダライナ221外周の他の部分に比べて大きくなっている。したがって、シリンダライナ221,221間では、シリンダライナ221の他の部分よりも受ける熱量が多くなるが、そのシリンダライナ221,221間の冷却を効率的に行うことができる。その結果、シリンダライナ221の周方向における温度差を抑制することができるようになり、したがって、シリンダライナ221の変形を抑制することができ、フリクションロスを低減することができる。
ここで、ネジ部材222の外径を調整することによって、つまり、ネジ部材222の外周形状によって、シリンダライナ221,221間近傍のウォータジャケット230の幅を任意に調整することが可能となる。従来では、金型や中子の強度の制約によって、ウォータジャケットの幅を小さくするには限界があったのに対し、この例では、シリンダライナ221,221間近傍のウォータジャケット230の幅を従来の限界よりも小さくすることができる。これにより、シリンダライナ221の周方向の温度差を抑制するために、ウォータジャケット230が必要以上に大きくなることがなくなり、その結果、シリンダブロック201の大型化を回避できるとともに、ウォータジャケット230内に冷却水を循環させるためのポンプの容量を大きくする必要がなくなる。