JP4446575B2 - 芳香族ポリカーボネートの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、芳香族ポリカーボネートの製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、芳香族ポリカーボネートは、耐熱性、耐衝撃性、透明性などに優れたエンジニアリングプラスチックスとして、多くの分野において幅広く用いられている。しかしながら、従来用いられてきたホスゲン法で製造されたポリカーボネートは、その製造時に毒性のホスゲンを使用することや、ポリカーボネートの熱安定性や成形時の金型腐食等に影響を及ぼす残留塩化メチレンを含有する等の問題を有しており、近年は、エステル交換法ポリカーボネートが見直されてきている。
【0003】
エステル交換法ポリカーボネートは一般にカラーが悪いため、着色を改善することが以前から求められている。しかし、ポリカーボネート製造時のカラーが良いだけでは、成型材料としての品質を満足しているとは言えず、ポリカーボネートの中でも芳香族ポリカーボネートは成形流動性が劣るために、良好な成形外観が要求される射出成形用成形材料としての用途、又高い透明性を要求される成形品の成形材料としての用途においては、一般に通常の樹脂よりも高い温度で成形されており、近年、特に高度な転写性を求められる精密成形品成形材料としての用途が拡大しており、高温で成形しても着色の少ない芳香族ポリカーボネートが強く望まれてきている。成形のハイサイクル性が要求される光ディスク用途では、特に高温での成形が実施されるため、金型清掃等の成形中断時に樹脂が着色したり、分子量低下を起こす等の問題を有していた。
すなわち、380℃以上の高温でも着色が少なく分子量低下も小さい芳香族ポリカーボネートが強く求められていた。
エステル交換法で芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートから、溶融状態で重合して芳香族ポリカーボネートを製造する際、製品の着色改善の観点から、特定の化合物の原料中の存在量を規定した出願が数多くなされている。
【0004】
例えば、特開平5−262872号公報では、炭酸ジエステルに含まれる不純物としてクロロフォーメートに基づく塩素含有量が30ppm以下であること、特開平6−179744号公報では、炭酸ジエステルとしてサリチル酸フェニル、o−フェノキシ安息香酸及びo−フェノキシ安息香酸フェニルを実質的に含有しないこと、特開平7−33866号公報では、ベンゾフェノン誘導体が100ppm以下である炭酸ジアリールエステルを用いること、特開平7−62074号公報では、エステル誘導体が100ppm以下である炭酸ジアリールエステルを用いること、特開平8−59815号公報では、o-メトキシ安息香酸フェニル及びキサントンを実質上含有しないジフェニルカーボネートを用いること、EP−0677545A1号公報では、サリチル酸誘導体、スズイオン、メチルフェニルカーボネートのいずれかを含まない炭酸ジエステルを用いること等、ジアリールカーボネート中の特定の化合物の存在量を規定している。また、特開平8−104747号公報では、特定構造の芳香族ジヒドロキシ化合物の存在量が10重量ppm以上3重量%以下であること、特開平8−104748号公報では、特定のビスフェノールA誘導体、ビスフェノールA異性体、クロマン系有機化合物、トリスフェノールIの総含有量が100ppm以上1000ppm以下であるビスフェノールAを用いること、特開平11−310630号公報では、クロマン系有機化合物の含有量が200ppm以下、かつ鉄分の含有量が0.1ppm以下であるビスフェノールAを用いること等、芳香族ジヒドロキシ化合物中の特定の化合物の存在量を規定している。
【0005】
しかしながら、これらの発明は、カラーを改善する上で必ずしも充分でなく、さらに380℃以上の高温でも着色が少なく、分子量低下も小さい芳香族ポリカーボネートを提供することはできなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、溶融重縮合法により芳香族ポリカーボネートを製造するに際し、カラーが良好で、かつ380℃以上の高温でも着色が少なく、分子量低下も小さい高品質な芳香族ポリカーボネートの工業的に好ましい製造法を提供する事である。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を進めた結果、芳香族ポリカーボネートを製造する際に、ジアリールカーボネート中の特定の成分含有量を特定の範囲にコントロールする事によりその目的を達成できる事を見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとから、溶融状態で重合する芳香族ポリカーボネートの製造法において、該ジアリールカーボネートが、(a)水分含量が200重量ppm以下であり、(b)銅含量が1重量ppm以下であり、(c)o,o’−ビフェニレンカーボネート含量が3重量ppm以下であり、ステンレス製の容器で窒素雰囲気下に80〜190℃の温度で溶融状態で貯蔵されたジアリールカーボネートであることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造法、
(2)ステンレス製の容器が、内壁面の接液部がフェノールで洗浄処理を施された容器であることを特徴とする(1)記載の芳香族ポリカーボネートの製造法、
である。
【0009】
溶融重合法で芳香族ポリカーボネートを製造する際、通常、原料のジアリールカーボネートは完全な100%純度ではなく、ジアリールカーボネートの製造法に由来したり、製造したジアリールカーボネートの保管方法に由来する種々の化合物を含有している。ジアリールカーボネートは、製造後ただちに用いられることは少なく、輸送や貯蔵の後に用いられるので、保管中に混入したり生成したりする化合物の影響を明らかにすることは、工業的に芳香族ポリカーボネートを製造する上で特に重要である。
本発明者らが鋭意検討した結果、吸湿により混入する水分、ジアリールカーボネートを製造する時に用いられる触媒成分である銅、及びジアリールカーボネートを溶融状態で貯蔵する際に生成するo,o’−ビフェニレンカーボネートの含有量を全て特定値以下にすることにより、驚くべき事に製品である芳香族ポリカーボネートのカラーが良好となる上、380℃以上の高温下での着色及び分子量低下に対する安定性が著しく改善されることが明らかになったのである。
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明において、芳香族ジヒドロキシ化合物とは、HO−Ar−OH(式中、Arは2価の芳香族基を表す。)で示される化合物である。
【0011】
芳香族基Arは、好ましくは例えば、−Ar1 −Y−Ar2 −(式中、Ar1 及びAr2 は、各々独立にそれぞれ炭素数5〜70の2価の炭素環式又は複素環式芳香族基を表し、Yは炭素数1〜30の2価の置換又は非置換のアルカン基を表す。)で示される2価の芳香族基である。
2価の芳香族基Ar1 、Ar2 において、一つ以上の水素原子が、反応に悪影響を及ぼさない他の置換基、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基などによって置換されたものであっても良い。
複素環式芳香族基の好ましい具体例としては、1ないし複数の環構成窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を有する芳香族基を挙げる事ができる。
【0012】
また、2価の芳香族基Ar1 、Ar2 は、例えば、置換又は非置換のフェニレン、置換又は非置換のビフェニレン、置換または非置換のピリジレンなどの基を表す。ここでの置換基は前述のとおりである。
2価のアルカン基Yは、例えば、下記化1に示される有機基である。
【0013】
【化1】
(式中、R1 、R2 、R3 、R4 は、各々独立に水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基、環構成炭素数5〜10の炭素環式芳香族基、炭素数6〜10の炭素環式アラルキル基を表す。kは3〜11の整数を表し、R5 及びR6 は、各Xについて個々に選択され、お互いに独立に、水素または炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは炭素を表す。また、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、R6 において、一つ以上の水素原子が反応に悪影響を及ぼさない範囲で他の置換基、例えばハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等によって置換されたものであっても良い。)
このような2価の芳香族基Arとしては、例えば、下記化2に示されるものが挙げられる。
【0014】
【化2】
(式中、R7 、R8 は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基またはフェニル基であって、mおよびnは1〜4の整数で、mが2〜4の場合には各R7 はそれぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2〜4の場合には各R8 はそれぞれ同一でも異なるものであってもよい。)
さらに、2価の芳香族基Arは、−Ar1 −Z−Ar2 −(式中、Ar1 、Ar2 は前述の通りで、Zは単結合又は−O−、−CO−、−S−、−SO2 −、−SO−、−COO−、−CON(R1)−などの2価の基を表す。ただし、R1は前述のとおりである。)で示されるものであっても良い。
このような2価の芳香族基Arとしては、例えば、下記化3に示されるものが挙げられる。
【0015】
【化3】
(式中、R7 、R8 、mおよびnは、前述のとおりである。)
さらに、2価の芳香族基Arの具体例としては、置換または非置換のフェニレン、置換または非置換のナフチレン、置換または非置換のピリジレン等が挙げられる。
本発明で用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物は、単一種類でも2種類以上でもかまわない。芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的な例としてはビスフェノールAが挙げられる。
本発明で用いられるジアリールカーボネートは、下記化4に表される。
【0016】
【化4】
(式中、Ar3 、Ar4 はそれぞれ1価の芳香族基を表す。)
Ar3及びAr4は、1価の炭素環式又は複素環式芳香族基を表すが、このAr3、Ar4 において、一つ以上の水素原子が、反応に悪影響を及ぼさない他の置換基、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基などによって置換されたものであっても良い。Ar3とAr4は同じものであっても良いし、異なるものであっても良い。
1価の芳香族基Ar3及びAr4の代表例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ピリジル基を挙げる事ができる。これらは、上述の1種以上の置換基で置換されたものでも良い。
好ましいAr3及びAr4としては、それぞれ例えば、下記化5に示されるものなどが挙げられる。
【0017】
【化5】
ジアリールカーボネートの代表的な例としては、下記化6に示される置換または非置換のジフェニルカーボネート類を挙げる事ができる。
【0018】
【化6】
(式中、R9及びR10 は、各々独立に水素原子、炭素数1〜10を有するアルキル基、炭素数1〜10を有するアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基又はフェニル基を示し、p及びqは1〜5の整数で、pが2以上の場合には、各R9はそれぞれ異なるものであっても良いし、qが2以上の場合には、各R10 は、それぞれ異なるものであっても良い。)
このジフェニルカーボネート類の中でも、非置換のジフェニルカーボネートや、ジトリルカーボネート、ジ−t−ブチルフェニルカーボネートのような低級アルキル置換ジフェニルカーボネートなどの対称型ジアリールカーボネートが好ましいが、特にもっとも簡単な構造のジアリールカーボネートである非置換のジフェニルカーボネートが好適である。
【0019】
これらのジアリールカーボネート類は単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明において、該ジアリールカーボネート中の水分は200重量ppm以下である。水分が200重量ppmより多い場合は、製品芳香族ポリカーボネートのカラーが悪化し、かつ380℃以上の高温下で着色しやすくなり、分子量低下も大きくなる。この理由については明らかではないが、水分の存在によるジアリールカーボネートの分解とジアリールカーボネートの異性化反応等の組み合わせにより芳香族ポリカーボネートの高温下での安定性に悪影響を及ぼすものと推定している。該ジアリールカーボネート中の水分は好ましくは100重量ppm以下、更に好ましくは50重量ppm以下である。また水分量の下限について特に限定はなく、0.01重量ppmより水分量が少なくてもかまわないが、0.01重量ppmより少なくしても芳香族ポリカーボネートの高温下での着色や分子量低下を改善させる効果は少ない。
ジアリールカーボネート中の水分量を上記範囲にコントロールする方法としては、輸送や貯蔵中の吸湿を避ける方法や、吸湿して上記上限の200重量ppmより高い水分量となった場合は、蒸留等による脱水操作を行った後に、芳香族ポリカーボネートの重合に使用する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明において、該ジアリールカーボネート中の銅含量は1重量ppm以下である。銅含量が1重量ppmより多い場合は、製品芳香族ポリカーボネートのカラーが悪化し、かつ380℃以上の高温下で着色しやすくなり、分子量低下も大きくなる。
この理由については明らかではないが、銅の存在が芳香族ポリカーボネートの高温下での着色反応や分子量低下反応に触媒的に作用するものと推定される。該ジアリールカーボネート中の銅含量は好ましくは0.5重量ppm以下、更に好ましくは0.1重量ppm以下である。また銅含量の下限について特に限定はなく、0.001重量ppmより銅含量が少なくてもかまわないないが、0.001重量ppmより銅含量を少なくしても芳香族ポリカーボネートの高温下での着色や分子量低下を改善させる効果は少ない。
銅含量を上記範囲にコントロールする方法としては、ジアリールカーボネートを製造する際、銅触媒を全く使用しないか、銅触媒を用いてジアリールカーボネートを製造した後、蒸留操作や洗浄操作等によって銅含量を減少させる方法等が挙げられる。ただし、銅触媒を全く使用しないでジアリールカーボネートを製造する場合は、製品ポリカーボネートの品質を悪化させる様な他の触媒成分がジアリールカーボネート中に含有されないことが好ましい。
【0021】
本発明において、該ジアリールカーボネート中のo,o’−ビフェニレンカーボネート含量は3重量ppm以下である。o,o’−ビフェニレンカーボネート含量が3重量ppmより多い場合は、製品芳香族ポリカーボネートのカラーが悪化し、かつ380℃以上の高温下で着色しやすくなる。
この理由についても明らかではないが、o,o’−ビフェニレンカーボネート自身、またはo,o’−ビフェニレンカーボネートと芳香族ポリカーボネートとの反応物が高温で着色しやすいものと推定している。該ジアリールカーボネート中のo,o’−ビフェニレンカーボネート含量は好ましくは1重量ppm以下、更に好ましくは0.3重量ppm以下である。またo,o’−ビフェニレンカーボネート含量の下限について特に限定はなく、0.01重量ppmよりo,o’−ビフェニレンカーボネート含量が少なくてもかまわないないが、0.01重量ppmよりo,o’−ビフェニレンカーボネート含量を少なくしても芳香族ポリカーボネートの高温下での着色を改善させる効果は少ない。
【0022】
芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートから芳香族ポリカーボネートを製造する際、工業的に好ましくハンドリングするために、通常、ジアリールカーボネートは溶融状態で貯蔵された後に用いられる。本発明においては、該ジアリールカーボネートが、ステンレス製の容器で窒素雰囲気下に80〜190℃の温度で溶融状態で貯蔵されたものであることが好ましい。貯蔵する容器がカーボンスチール製の場合には、o,o’−ビフェニレンカーボネートの生成量が多くなる場合がある。ステンレスとは、ステンレス鋼便覧第13〜21頁(日刊工業新聞社発行、第5版)に定義、分類されるような通常クロムを10〜30重量%含む、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、フェライト・オーステナイト系等のステンレス鋼や、上記ステンレス鋼便覧547頁の表に示されるようなFe基超合金等があげられる。具体例としては、SUS201、SUS202、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L、SUS347、SUS405、SUS430、SUS403、SUS410、SUS431、SUS440C、SUS630、インコロイ800、インコロイ801、インコロイ802、インコロイ807、インコロイ901、LCN155、W545、V57、W545、D979、CG27、S590等があげられる。好ましい具体例としてはSUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L等があげられ、特に好ましくはSUS304があげられる。
【0023】
該ステンレス製の容器の内壁面の接液部は、フェノールで洗浄処理を施されたものであることが好ましい。フェノールで洗浄処理を施されたステンレス製の容器を用いた場合、特にo,o’−ビフェニレンカーボネートの生成量を少なくすることができる。この理由については明らかではないが、ステンレス表面の吸着酸素をフェノールで除去することにより、o,o’−ビフェニレンカーボネートの生成を妨げているものと推定される。
また、貯蔵は窒素雰囲気下とすることが好ましく、貯蔵容器に空気が混入するとo,o’−ビフェニレンカーボネートの生成量が多くなる。貯蔵温度は80〜190℃の範囲であることが好ましく、190℃より高い場合は、o,o’−ビフェニレンカーボネートの生成量が多くなりやすい。80℃より低い場合、ジアリールカーボネートの種類によっては固化してしまうので好ましくない。より好ましい貯蔵温度範囲は85〜160℃であり、更に好ましくは90〜140℃である。
【0024】
本発明において芳香族ポリカーボネートを製造する際、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの使用割合(仕込比率)は、用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートの種類や、重合温度その他の重合条件によって異なるが、ジアリールカーボネートは芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、通常0.9〜2.5モル、好ましくは0.95〜2.0モル、より好ましくは0.98〜1.5モルの割合で用いられる。
本発明の方法で得られる芳香族ポリカーボネートの数平均分子量は、通常5000〜100000の範囲であり、好ましくは5000〜30000の範囲である。
本発明の芳香族ポリカーボネートの製造法は、上記のような芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとから、触媒の存在もしくは不存在下で、減圧下および/または不活性ガスフロー下で加熱しながら溶融状態でエステル交換反応にて重縮合する方法であり、その重合器には特に制限はない。例えば、攪拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、ワイヤーに沿わせて落下させながら重合するワイヤー付き多孔板型反応器等を用い、これらを単独もしくは組み合わせた重合器が用いられる。重合は、バッチ方式、連続方式のいずれも可能である。また、重合後、芳香族ポリカーボネートが溶融状態にある間に安定剤、添加剤等を添加するための装置として、押出機やポリマーミキサー等を重合器と組み合わせて用いることも好ましい方法である。これらの重合器の材質について特に制限はなく、通常ステンレススチールやニッケル、グラスライニング等から選ばれる。
【0025】
本発明において、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとを反応させて芳香族ポリカーボネートを製造するに当たり、反応の温度は、通常50〜350℃、好ましくは100〜300℃の温度の範囲で選ばれる。
反応の進行にともなって、芳香族モノヒドロキシ化合物が生成してくるが、これを反応系外へ除去する事によって反応速度が高められる。従って、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素や低級炭化水素ガスなど反応に悪影響を及ぼさない不活性なガスを導入して、生成してくる該芳香族モノヒドロキシ化合物をこれらのガスに同伴させて除去する方法や、減圧下に反応を行う方法などが好ましく用いられる。好ましい反応圧力は、分子量によっても異なり、重合初期には10mmHg〜常圧の範囲が好ましく、重合後期には、20mmHg以下、特に10mmHg以下が好ましく、2mmHg以下とすることが更に好ましい。
【0026】
溶融重縮合反応は、触媒を加えずに実施する事ができるが、重合速度を高めるため、必要に応じて触媒の存在下で行われる。重合触媒としては、この分野で用いられているものであれば特に制限はないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物類;水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウムなどのホウ素の水素化物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第四級アンモニウム塩類;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化合物類;リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カルシウムメトキシドなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシド類;リチウムフェノキシド、ナトリウムフェノキシド、マグネシウムフェノキシド、LiO−Ar−OLi、NaO−Ar−ONa(Arはアリール基)などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアリーロキシド類;酢酸リチウム、酢酸カルシウム、安息香酸ナトリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の有機酸塩類;酸化亜鉛、酢酸亜鉛、亜鉛フェノキシドなどの亜鉛化合物類;酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリフェニル、(R1 R2 R3 R4 )NB(R1 R2 R3 R4 )で表されるアンモニウムボレート類、(R1 R2 R3 R4 )PB(R1 R2 R3 R4 )で表されるホスホニウムボレート類(R1 、R2 、R3、R4 は前記化1の説明通りである。)などのホウ素の化合物類;酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、テトラアルキルケイ素、テトラアリールケイ素、ジフェニル−エチル−エトキシケイ素などのケイ素の化合物類;酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、ゲルマニウムエトキシド、ゲルマニウムフェノキシドなどのゲルマニウムの化合物類;酸化スズ、ジアルキルスズオキシド、ジアルキルスズカルボキシレート、酢酸スズ、エチルスズトリブトキシドなどのアルコキシ基またはアリーロキシ基と結合したスズ化合物、有機スズ化合物などのスズの化合物類;酸化鉛、酢酸鉛、炭酸鉛、塩基性炭酸塩、鉛及び有機鉛のアルコキシドまたはアリーロキシドなどの鉛の化合物;第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級アルソニウム塩などのオニウム化合物類;酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモンの化合物類;酢酸マンガン、炭酸マンガン、ホウ酸マンガンなどのマンガンの化合物類;酢酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ジルコニウムのアルコキシド又はアリーロキシド、ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウムの化合物類などの触媒を挙げる事ができる。
【0027】
触媒を用いる場合、これらの触媒は1種だけで用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、これらの触媒の使用量は、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物100重量部に対して、通常10-8〜1重量部、好ましくは10-7〜10-1重量部の範囲で選ばれる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態により、本発明をさらに詳細に説明する。
・水分:カールフィッシャー法により分析した。
・銅含量:ICP(高周波誘導結合型プラズマ発光分析計;セイコー電子工業(株)製JY38PII)を用いて分析した。
・o,o’−ビフェニレンカーボネート含量:ガスクロマトグラフ法により分析した。
・着色:試料1gを塩化メチレン7mlに溶かした溶液を光路長1cmのセルに入れ、分光光度計により400nmの吸光度を測定し、着色の指標とした。
・高温での着色のしやすさ:芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱し、加熱による上記400nmの吸光度の増大量で評価した。
・数平均分子量(Mn):テトラヒドロフランを溶媒として用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC){カラム:TSK−GEL,東ソー(株)製}法で測定し、標準単分散ポリスチレンを用いて得た下式による換算分子量較正曲線を用いて求めた。
MPC=0.3591MPS 1.0388
(式中、MPCは芳香族ポリカーボネートの分子量、MPSはポリスチレンの分子量を示す。)
・高温での分子量低下のしやすさ:芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱し、加熱による数平均分子量の減少量で評価した。
【0029】
【実施例1】
ジフェニルカーボネートをジメチルカーボネートとフェノールからジフェノキシ銅を触媒として製造した後、圧力1596Pa、蒸留段数5、還流比3.0の条件で、塔頂から2段目の気相でサイドカットして蒸留精製し、SUS304製の容器で、窒素雰囲気下、100℃、100時間貯蔵した。貯蔵後のジフェニルカーボネート中の水分含量0.1重量ppm、銅含量0.4重量ppm、o,o’−ビフェニレンカーボネート含量0.1重量ppmであった。該ジフェニルカーボネートを用いて、図1に示すようなプロセスで芳香族ポリカーボネートを製造した。
撹拌槽型重合器3はバッチ的に運転し、貯槽10以降は連続的に運転した。撹拌槽型重合器3(容量200リットル)、17(容量50リットル)、26(容量50リットル)は、いずれも攪拌翼を備えている。横型二軸攪拌型重合器35(容量30リットル)は、L/D=6で回転直径140mmの二軸の攪拌羽根を有している。ワイヤ付多孔板型重合器42は、孔径5mmの孔、50個有する多孔板43を備えており、孔の中心から鉛直に1mm径のSUS316L製ワイヤ44を重合器下部の液溜まで垂らしてあり、落下する高さは8mである。
【0030】
撹拌槽型第1重合器3は、反応温度180℃、反応圧力常圧、シール窒素ガス流量1リットル/hrの条件である。撹拌槽第1重合器3に、充分に脱気したビスフェノールAと上記ジフェニルカーボネート(対ビスフェノールAモル比1.10)を80kgと、水酸化ナトリウム7mgを仕込み5Hr溶融混合し、溶融した数平均分子量350の溶融ポリマーを全量圧送により、移送配管7から貯槽10に移送した。
貯槽10は、常圧、180℃に保たれている。貯槽10に移送された溶融ポリマーは、プランジャーポンプ14により10kg/hrで連続に攪拌槽型第2重合器17に供給した。攪拌槽型第1重合器3では、貯槽10の溶融ポリマーがなくなる前に上記と同様の方法で、数平均分子量350の溶融ポリマーを製造し、再び貯槽10に移送する。この後、同様にして撹拌槽型第1重合器3でバッチ的に数平均分子量350の溶融ポリマーを製造し、貯槽10に供給し続けた。攪拌槽型第2重合器17は、反応温度235℃、反応圧力100mmHgの条件であり、溶融ポリマーの液容量が20リットルに達したら、液容量20リットルを一定に保つように攪拌槽型第3重合器26に数平均分子量850の溶融ポリマーをギアポンプにより連続に供給した。攪拌槽型第3重合器26は、反応温度245℃、反応圧力6mmHgの条件であり、溶融ポリマーの液容量が20リットルに達したら、液容量20リットルを一定に保つように横型二軸攪拌型重合器35に数平均分子量2300の溶融ポリマーをギアポンプにより連続に供給した。横型二軸攪拌型重合器35では、反応温度270℃、反応圧力67Paの条件であり、溶融ポリマーの液容量が10リットルに達したら、液容量10リットルを一定に保つようにワイヤ付多孔板型重合器42に数平均分子量6100の溶融ポリマーをギアポンプにより供給した。ワイヤ付多孔板型重合器42では、反応温度260℃、反応圧力53Paの条件であり、重合器下部の溶融ポリマーの液容量が20リットルに達したら、液容量20リットルを保つように、移送配管50を経て抜き出し口51より数平均分子量10000、400nmの吸光度0.0028のカラー良好な芳香族ポリカーボネートを抜き出した。
【0031】
得られた芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱した後の吸光度の増大量は0.0005、数平均分子量の低下量は300であり、高温でも着色しにくく、分子量低下も起こしにくかった。
【0032】
【実施例2】
貯蔵条件を140℃、300時間とする他は実施例1と同様に製造、精製、貯蔵した、水分含量0.1重量ppm、銅含量0.4重量ppm、o,o’−ビフェニレンカーボネート含量0.4重量ppmのジフェニルカーボネートを用いて、実施例1と同様に芳香族ポリカーボネートを製造し、数平均分子量10000、400nmの吸光度0.0029のカラー良好な芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱した後の吸光度の増大量は0.0005、数平均分子量の低下量は300であり、高温でも着色しにくく、分子量低下も起こしにくかった。
【0033】
【実施例3】
貯蔵条件を160℃、800時間とする他は実施例1と同様に製造、精製、貯蔵した、水分含量0.1重量ppm、銅含量0.4重量ppm、o,o’−ビフェニレンカーボネート含量1.2重量ppmのジフェニルカーボネートを用いて、実施例1と同様に芳香族ポリカーボネートを製造し、数平均分子量10000、400nmの吸光度0.0034のカラー良好な芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱した後の吸光度の増大量は0.0007、数平均分子量の低下量は500であり、高温でも着色しにくく、分子量低下も起こしにくかった。
【0034】
【実施例4】
内壁面をフェノール洗浄処理したSUS304製の容器に貯蔵する他は実施例3と同様に製造、精製、貯蔵した、水分含量0.1重量ppm、銅含量0.4重量ppm、o,o’−ビフェニレンカーボネート含量0.6重量ppmのジフェニルカーボネートを用いて、実施例1と同様に芳香族ポリカーボネートを製造し、数平均分子量10000、400nmの吸光度0.0029のカラー良好な芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱した後の吸光度の増大量は0.0005、数平均分子量の低下量は300であり、高温でも着色しにくく、分子量低下も起こしにくかった。
【0035】
【実施例5】
蒸留段数を3、還流比を0.8とする他は実施例1と同様に製造、精製、貯蔵した、水分含量20重量ppm、銅含量0.7重量ppm、o,o’−ビフェニレンカーボネート含量0.1重量ppmのジフェニルカーボネートを用いて、実施例1と同様に芳香族ポリカーボネートを製造し、数平均分子量10000、400nmの吸光度0.0033のカラー良好な芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱した後の吸光度の増大量は0.0009、数平均分子量の低下量は700であり、高温でも着色しにくく、分子量低下も起こしにくかった。
【0036】
【実施例6】
蒸留段数を3、還流比を0.1とする他は実施例1と同様に製造、精製、貯蔵した、水分含量150重量ppm、銅含量0.9重量ppm、o,o’−ビフェニレンカーボネート含量0.1重量ppmのジフェニルカーボネートを用いて、実施例1と同様に芳香族ポリカーボネートを製造し、数平均分子量10000、400nmの吸光度0.0037のカラー良好な芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱した後の吸光度の増大量は0.0012、数平均分子量の低下量は900であり、高温でも着色しにくく、分子量低下も起こしにくかった。
【0037】
【実施例7】
酸素0.5容量%、窒素99.5容量%の雰囲気下で貯蔵する他は、実施例1と同様に製造、精製、貯蔵した、水分含量0.1重量ppm、銅含量0.4重量ppm、o,o’−ビフェニレンカーボネート含量2.8重量ppmのジフェニルカーボネートを用いて、実施例1と同様に芳香族ポリカーボネートを製造し、数平均分子量10000、400nmの吸光度0.0039のわずかに着色した芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱した後の吸光度の増大量は0.0019、数平均分子量の低下量は900であり、高温で着色しにくく、分子量低下も起こしにくかった。
【0038】
【比較例1】
蒸留精製しない他は実施例1と同様に製造、貯蔵した、水分250重量ppm、銅含量1.5重量ppm、o,o’−ビフェニレンカーボネート含量0.3重量ppmのジフェニルカーボネートを用いて、実施例1と同様に芳香族ポリカーボネートを製造し、数平均分子量10000、400nmの吸光度0.0048の着色した芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱した後の吸光度の増大量は0.0035、数平均分子量の低下量は1500であり、高温で着色しやすく、分子量低下も大きかった。
【0039】
【比較例2】
酸素2容量%、窒素98容量%の雰囲気下で貯蔵する他は、実施例1と同様に製造、精製、貯蔵した、水分含量0.1重量ppm、銅含量0.4重量ppm、o,o’−ビフェニレンカーボネート含量3.5重量ppmのジフェニルカーボネートを用いて、実施例1と同様に芳香族ポリカーボネートを製造し、数平均分子量10000、400nmの吸光度0.0057の着色した芳香族ポリカーボネートを得た。得られた芳香族ポリカーボネートを窒素雰囲気下380℃で30分間加熱した後の吸光度の増大量は0.0042、数平均分子量の低下量は1400であり、高温で着色し易く、分子量低下も大きかった。
【0040】
【発明の効果】
カラーが良好で、かつ380℃以上の高温でも着色が少なく、分子量低下も小さい高品質な芳香族ポリカーボネートを工業的に好ましい方法で製造する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の芳香族ポリカーボネートの製造プロセスの一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
1:原料供給口
2、9、19、28、36、46:ベント口
3:攪拌槽型第1重合器
4、18、27、39:攪拌軸
5、11、20、29、47:溶融ポリマー
6、12、21、30、37、48:排出口
7、13、15、24、33、40、50:移送配管
8、16、25、34、41:供給口
10:貯槽
14、23、32、38、49:移送ポンプ
17:攪拌槽型第2重合器
22、31、45:ガス供給口
26:攪拌槽型第3重合器
35:横型二軸攪拌型重合器
42:ワイヤ付多孔板型重合器
43:多孔板
44:ワイヤ
51:製品排出口
Claims (2)
- 芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとから、溶融状態で重合する芳香族ポリカーボネートの製造法において、該ジアリールカーボネートが、(a)水分含量が200重量ppm以下であり、(b)銅含量が1重量ppm以下であり、(c)o,o’−ビフェニレンカーボネート含量が3重量ppm以下であり、ステンレス製の容器で窒素雰囲気下に80〜190℃の温度で溶融状態で貯蔵されたジアリールカーボネートであることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造法。
- ステンレス製の容器が、内壁面の接液部がフェノールで洗浄処理を施された容器であることを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリカーボネートの製造法。
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